説明

単層ブロー成形機の押出しスクリュー

【課題】単層ブロー成形機を用いたポリエチレンをベース材としたナイロンブレンド材による成形において、安定してナイロンを層状分散させ、燃料バリア性の高い製品を成形するためのスクリュー形状により、耐燃料透過性とコストを共に満足させ得る単層ブロー成形機の押出しスクリューを提供する。
【解決手段】それぞれ一定ピッチで配設された所定数のフライトを有して、軸の基端側に供給部が設けられ軸の先端側に計量部が設けられると共に、供給部と計量部の間に圧縮部が設けられて、ポリエチレンをベース材としたナイロンブレンド材を成形する単層ブロー成形機の押出しスクリューにおいて、供給部の軸を径小で計量部の軸を径大に形成し圧縮部の軸をテーパー状に形成すると共に、フライト数が、供給部54〜59%、圧縮部14%、計量部27〜32%に設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンをベース材としたナイロンブレンド材を使用して単層ブロー成形される小型燃料タンク等の成形品において、ナイロンを層状に安定分散させて耐燃料透過性を高めることが可能な単層ブロー成形機の押出しスクリューに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船外機やオートバイ等の燃料タンクとして使用される小型燃料タンクは、ポリエチレン材のみを単層ブロー成形機を用いてブロー成形することにより成形され、単層ブロー成形機の押出し機には、原料を押出すための押出しスクリューが設けられている。この押出しスクリューは、図7に示すように、軸15aの基端側に供給部17が設けられ軸15aの先端側に計量部19が設けられると共に、供給部17と計量部19との間に圧縮部18が設けられている。なお、ブロー成形に使用される押出しスクリューとしては、例えば特許文献1が開示されている。
【特許文献1】特開2005−262824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、図7に示す押出しスクリュー15にあっては、供給部17、圧縮部18、計量部19に同一ピッチPで配設された各フライト15bの数の割合が、79.5%、2.5%、18%で、圧縮部18の割合が他の供給部17及び計量部19に対して極めて小さく設定されている。そのため、この押出しスクリュー15を備えた単層ブロー成形機を用いて、例えば図6(b)の成形品の断面に示すように、高密度ポリエチレン層16cの間にナイロンによるバリア材16aを有する小型燃料タンク等の成形品16を単層ブロー成形すると、成形品16の燃料透過量(矢印イ、ロの如くタンク内側からタンク外側への燃料の透過量)が多くなり(すなわち耐燃料透過性が劣り)、例えば米国の安全規格(CARB、EPA)を安定してクリアすることが困難である。
【0004】
そこで、図6(b)に示す単層構造に換えて、多層ブロー成形機を使用して成形するこにより多層構造として耐燃料透過性を高める方法も考えられるが、この場合は、多層ブロー成形機自体が極めて高価であるため、コスト的に安価な船外機やオートバイの小型燃料タンク等の成形品16には容易に適用することができない。しかし、図6(a)に示すように、単層ブロー成形機を使用してバリア層16bを層状分散させ、成形品16の耐燃料透過性を高める方法がある。この場合、単層ブロー成形機の押出し機の押出しスクリュー15として図7に示すものを使用すると、層状のバリア層16bを安定して分散させることができず成形品16の歩留まりが悪化し、結果として、成形品16の耐燃料透過性とコストを共に満足させることが困難である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、単層ブロー成形機を用いてポリエチレンをベース材としたナイロンブレンド成形品のバリア層が安定して層状分散された成形品を容易に成形でき、耐燃料透過性とコストを共に満足させ得る単層ブロー成形機の押出しスクリューを提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明の請求項1に記載の発明は、それぞれ一定ピッチで配設された所定数のフライトを有して、軸の基端側に供給部が設けられ軸の先端側に計量部が設けられると共に、前記供給部と計量部の間に圧縮部が設けられて、ポリエチレンをベース材としたナイロンブレンド材を成形する単層ブロー成形機の押出しスクリューにおいて、前記供給部の軸を径小で計量部の軸を径大に形成し前記圧縮部の軸をテーパー状に形成すると共に、前記フライト数が、供給部54〜59%、圧縮部14%、計量部27〜32%に設定されていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記フライトの全フライト数が22で、前記供給部のフライト数が13〜12、前記圧縮部のフライト数が3、前記計量部のフライト数が6〜7に設定されていることを特徴とする。さらに、請求項3に記載の発明は、前記ナイロンブレンド材が、高密度ポリエチレン60〜85%、相溶化材10〜20%、ナイロン5〜20%の比率に設定されると共に、前記高密度ポリエチレンの成形温度が180度前後で前記ナイロンの成形温度が250〜280度に設定されている原料を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、押出しスクリューの供給部の軸を径小で計量部の軸を径大に形成し圧縮部の軸をテーパー状に形成すると共に、各部のフライト数が所定に設定されているため、フライト数が14%の圧縮部により、ナイロンブレンド材の供給部から計量部にかけての急激な圧縮を避けて剪断発熱を安定させることができると共に、フライト数が27〜32%の計量部により、ナイロンの未溶融や完全溶融を防止して層状分散を安定させることができ、耐燃料透過性とコストの両方を満足し得る成形品を容易に得ることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、全フライト数が22で、供給部のフライト数が13〜12、圧縮部のフライト数が3、計量部のフライト数が6〜7に設定されているため、各部の最適数のフライトにより層状分散を安定させることができると共に、コスト的に有利な押出しスクリューを得ることができる。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、ナイロンブレンド材の比率が、高密度ポリエチレン60〜85%、相溶化材10〜20%、ナイロン5〜20%に設定されると共に、高密度ポリエチレンの成形温度は180度前後でナイロンの成形温度が250〜280で溶融するグレードの原料を使用しているため、成形品の成形温度をナイロンの成形温度より低めに設定し、混練性改善となる前記スクリューを使用することにより層状分散をより一層安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図5は、本発明に係わる単層ブロー成形機の押出しスクリューの一実施形態を示し、図1が押出し機の概略構成図、図2がその押出しスクリュー部分の概略断面図、図3が具体的な押出しスクリューの正面図、図4が実験結果の説明図、図5が燃料透過量を示すグラフである。
【0012】
図1に示すように、図示しない単層ブロー成形機に設けられる押出し機1は、単層ブロー成形機架台の上部に水平状態で配設されたシリンダー2を有し、このシリンダー2の基端部には、材料供給用のホッパー3が配設されると共に駆動源としてのモータ4が配設されている。また、シリンダー2の内部には、押出しスクリュー5が前記モータにより回転可能に配設されると共に、シリンダー2の外周部には、例えば3つのヒータ6が後述する供給部7、圧縮部8及び計量部9にそれぞれ対応した状態で配設されている。
【0013】
そして、前記押出しスクリュー5は、図2及び図3に示すように、軸5aと多数(図では22個)のフライト5bを有して、軸5aの長手方向に沿って、基端側から供給部7、圧縮部8及び計量部9が順に設けられている。前記供給部7はその軸5aが径小に形成され、前記計量部9はその軸5aが径大に形成されており、供給部7と計量部9間の圧縮部8は、その軸5aが供給部7の軸5aの端部から計量部9の軸5aの端部に正面視で直線状に連続したテーパー状に形成されている。
【0014】
また、押出しスクリュー5の全フライト数は22に設定され、これらが一定ピッチPで軸5aの外周面に固定されると共に、供給部7のフライト数が13〜12(54〜59%)、圧縮部8のフライト数が3(14%)、計量部9のフライト数が6〜7(27〜32%)に設定されている。なお、押出しスクリュー5の外径dは、例えば65mmに設定されている。
【0015】
次に、このように構成された押出し機1を備えた単層ブロー成形機を用いて、船外機の燃料タンクを成形した実験結果を、図4及び図5等に基づいて説明する。先ず、材料として、高密度ポリエチレンと相溶化材(例えば商品名:アドマー(登録商標)、アドテックス(登録商標))及びナイロン(例えばナイロ6、66)をブレンドしたナイロンブレンド材を使用し、これらのブレンド比率を、高密度ポリエチレン60〜85%、相溶化材10〜20%、ナイロン5〜20%に設定し、かつ、高密度ポリエチレンの成形温度を180度前後でナイロンの成形温度を250〜280度で溶融するグレードに設定した。また、押出しスクリュー5の計量部9先端でのナイロンブレンド材の樹脂圧力が10〜15Mpaとなるように、押出しスクリュー5の回転数を調整した。
【0016】
そして、単層ブロー成形機を用いて、図4に示すように、前記押出しスクリュー5の計量部9、圧縮部8及び供給部7のフライト数の比率を変化させ、小型燃料タンクを成形した。その結果、図4の実施例1と実施例2の成形品の燃料透過量は、図5に示すように、燃料透過量に関する米国のEPAの透過性規格S(1.5g/m−day)を満足し、比較例1と比較例2はEPAの透過性規格Sをオーバーして該規格Sを満足しないことが判明した。また、参考に図7に示す従来の押出しスクリュー15でポリエチレン単体で成形した比較例3は、燃料透過量が比較例1や比較例2に対して極めて高い値を示しており前記EPAの透過性規格Sを満足しないことも判明した。
【0017】
また、実施例1について、複数個(10個)成形品を成形して、その各燃料透過量について確認したところ、全ての製品において前記EPAの透過性規格Sを満足して不良品の発生はないことも確認されている。つまり、単層ブロー成形機の押出し機1に、前記供給部7、圧縮部8及び計量部9のフライト数が実施例1及び実施例2に示すように設定された押出しスクリュー5を使用することにより、図6(a)に示す成形品16のバリア層16bの層状分散が安定して、該成形品16の燃料透過量が前記EPAの透過性規格Sを安定してクリアできることになる。
【0018】
この理由としては、次のような点が考えられる。すなわち、圧縮部8のフライト数の比率を14%と、比較例3(従来例)の比率2.5%に対して大きく設定することで、ナイロンブレンド材の供給部7から計量部9にかけての急激な圧縮を避けることができると共に、軸5aの外径をテーパー状とすることで、スムーズな圧縮が可能となり、剪断発熱が安定する。また、計量部9のフライト数の比率を27〜32%と、比較例の18%に対して大きく設定することで、ナイロンの未溶融や完全溶融を防止することができ、層状分散が一層安定する。これらにより、耐燃料透過性に優れかつコスト的にも有利な層状分散された成形品16(小型燃料タンク等)が容易に得られることになる。
【0019】
このように、上記実施形態の押出しスクリュー5によれば、押出しスクリュー5の供給部7の軸5aを径小で計量部9の軸5aを径大に形成し圧縮部8の軸5aをテーパー状に形成すると共に、供給部7、圧縮部8及び計量部9のフライト5bの数が、供給部54〜59%、圧縮部14%、計量部27〜32%に設定されているため、フライト数が14%の圧縮部8により、ナイロンブレンド材の供給部7から計量部9にかけての急激な圧縮を避けて剪断発熱を安定させることができる。
【0020】
また、フライト5bの数が27〜32%の計量部9により、ナイロンの未溶融や完全溶融を防止して層状分散を安定させることができ、これらにより、EPAの透過性規格Sをクリア可能な耐燃料透過性を有する例えば船外機の小型燃料タンクを成形することができる。特に、押出しスクリュー5の全フライト数が22で、供給部7のフライト数を13〜12、圧縮部8のフライト数を3、計量部9のフライト数を6〜7に設定することにより、押出しスクリュー5の全体や各部7〜9のフライトを最適数に設定して、成形品16の層状分散を一層安定させることが可能になると共に、押出しスクリュー5自体を安価に形成することができる。
【0021】
また、材料としてのナイロンブレンド材の比率が、高密度ポリエチレン60〜85%、相溶化材10〜20%、ナイロン5〜20%に設定されると共に、高密度ポリエチレンの成形温度が180度前後でナイロンの成形温度が250〜280度の原料を使用し、かつ、計量部9先端での樹脂圧力が10〜15Mpaとなるように押出しスクリュー5の回転数を調整しているため、成形品16の層状分散を一層安定させることができる。また、押出し機1のシリンダー2の外側に配設されるヒータ6が、供給部7、圧縮部8、計量部9に略対応して3つ配設されているため、図7に示す従来のようにヒータ6を2つ配設した場合に比較して、押出しスクリュー5の各部7〜8に対応した部分の温度を高精度に制御することができて、実験結果に示すように層状分散が安定した成形品16を安定して成形することか可能となる。
【0022】
また、各部7〜9のフライト数の比率設定により、層状分散を安定させることができるため、成形品16の不良発生を抑制して歩留まりを高めることができ、成形品16の成形コストを低減させることができると共に、押出しスクリュー5の交換により対応できるため、ブロー成形機として、従来から使用していた例えば小型の単層ブロー成形機を使用することができて、設備投資額を極めて少なく抑えることができる。また、材料としてリターン材を使用することができるため、材料コストを一層低減することができ、これらにより、小型燃料タンクを安価に形成できて、多層ブロー成形機で得られる耐燃料透過性と同等の性能を有し、かつコスト的に有利な小型燃料タンクの提供が可能となる。
【0023】
なお、前記実施形態における押し出しスクリュー5は、全フライト数を22に設定したが、本発明はこの構成に限定されず、例えば全フライト数が22未満や22を超える押出しスクリューにも適用することができる。また、前記実施形態の押出しスクリュー5の供給部7、圧縮部8、計量部9の各フライト数の比率(54〜59%、14%、27〜32%)も、当該特定比率に限定されるものでもなく、同様の効果が得られる範囲の比率まで包含し得ることは言うまでもない。さらに、前記実施形態における、押出しスクリュー5の軸5aの外径や形状、フライト5bの角度や形状等も一例であって、本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、船外機やオートバイの小型燃料タンクへの利用に限らず、コスト安価で所定の耐燃料透過性等が要求される各種ブロー成形品にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係わる押出しスクリューを使用した押出し機の概略断面図
【図2】同押出しスクリュー部分の概略構成図
【図3】同押出しスクリューの具体例を示す正面図
【図4】同実験結果の説明図
【図5】同その燃料透過量を示すグラフ
【図6】成形品のバリア層の説明図
【図7】従来の押出しスクリューの概略構成図
【符号の説明】
【0026】
1・・・・・・・・・押出し機
2・・・・・・・・・シリンダー
3・・・・・・・・・ホッパー
4・・・・・・・・・モータ
5、15・・・・・・押出しスクリュー
5a、15a・・・・軸
5b、15b・・・・フライト
6・・・・・・・・・ヒータ
7、17・・・・・・供給部
8、18・・・・・・圧縮部
9、19・・・・・・計量部
16・・・・・・・・成形品
16b・・・・・・・バリア層
S・・・・・・・・・EPAの透過性規格
P・・・・・・・・・ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ一定ピッチで配設された所定数のフライトを有して、軸の基端側に供給部が設けられ軸の先端側に計量部が設けられると共に、前記供給部と計量部の間に圧縮部が設けられて、ポリエチレンをベース材としたナイロンブレンド材を成形する単層ブロー成形機の押出しスクリューにおいて、
前記供給部の軸を径小で計量部の軸を径大に形成し前記圧縮部の軸をテーパー状に形成すると共に、前記フライト数が、供給部54〜59%、圧縮部14%、計量部27〜32%に設定されていることを特徴とする単層ブロー成形機の押出しスクリュー。
【請求項2】
前記フライトの全フライト数が22で、前記供給部のフライト数が13〜12、前記圧縮部のフライト数が3、前記計量部のフライト数が6〜7に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の単層ブロー成形機の押出しスクリュー。
【請求項3】
前記ナイロンブレンド材は、高密度ポリエチレン60〜85%、相溶化材10〜20%、ナイロン5〜20%の比率に設定されると共に、前記高密度ポリエチレンの成形温度が180度前後で前記ナイロンの成形温度が250〜280度に設定されている原料を使用することを特徴とする請求項1または2に記載の単層ブロー成形機の押出しスクリュー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−125729(P2010−125729A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303789(P2008−303789)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(592218816)羽立化工株式会社 (3)
【Fターム(参考)】