説明

単相/三相直接変換装置の制御方法

【課題】非線形キャパシタ回路を用いつつも平均的な直流電圧Vcの脈動を低減できる単相/三相直接変換装置の制御方法を提供する。
【解決手段】第1乃至第3の期間trec,tc,tzの和で表される一定の所定期間tsの各々において、第1期間trecに単相ダイオード整流器3に電流を流し、第3期間tzにインバータ5に電圧ベクトルとして零電圧ベクトルを採用した動作を行わせ、所定期間の各々において、単相交流電圧の絶対値が所定値よりも低いときには第2期間tcにおいてコンデンサC41,C42を互いに並列接続し、単相交流電圧の絶対値が所定値よりも高いときには第2期間tcにおいて互いに直列接続されたコンデンサC41,C42に電流を流し、単相交流電圧の絶対値が所定値よりも高いときの第2期間tcの最大値は単相交流電圧の絶対値が所定値よりも低いときの第2期間tcの最大値よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単相/三相直接変換装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には単相/三相直接変換装置の一例が示されている。かかる単相/三相直接変換装置では単相ダイオード整流器とインバータとを繋ぐ2本の直流電源線(直流リンク)にスナバ回路が設けられている。このスナバ回路は互いに直列接続されたダイオード及びコンデンサと、ダイオードと並列接続されたスイッチ素子とを有している。ダイオードはそのアノードを直流リンクの高電位側に、そのカソードを低電位側に向けて配置される。
【0003】
非特許文献1では、かかるスイッチ素子とインバータとを制御することにより、単相ダイオード整流器による直流リンクの電力脈動を解消する技術が示されている。
【0004】
なお、本願に関連する技術として、特許文献1乃至4及び非特許文献2が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4049189号
【特許文献2】特許第4238935号
【特許文献3】特許第4135026号
【特許文献4】米国特許第6995992号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大沼喜也、伊東淳一、「新しい単相三相電力変換器によるコンデンサ容量の低減法とその基礎検証」、電気学会半導体電力変換研資,SPC-08-162(2008)
【非特許文献2】山下陽太 他、「単相/三相マトリックスコンバータの鉄道車両への適用の検討」、平成20年電気学会産業応用部門大会、1-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1では直流リンクにスイッチ素子を有するスナバ回路を採用している。そして、スイッチ素子が導通してコンデンサが放電するときにはコンデンサの両端電圧がインバータの入力側に印加される。このとき、コンデンサの両端電圧に応じたスイッチング損がインバータに発生する。
【0008】
そこでスイッチング損失を低減すべく、スナバ回路の代わりに非線形キャパシタ回路を採用することが考えられる。非線形キャパシタ回路は複数のコンデンサとスイッチ素子とを有し、高電位側の直流電源線から低電位側の直流電源線へと電流を互いに直列状態で複数のコンデンサに流し、スイッチ素子の導通によって低電位側の直流電源線から高電位側の直流電源線へと電流を互いに並列状態で複数のコンデンサに流す。
【0009】
かかる非線形キャパシタ回路を採用することにより、コンデンサが並列状態でインバータと接続されるときにはインバータに印加される電圧を低減できるので、インバータで生じるスイッチング損失を低減できる。
【0010】
かかる構成の単相/三相直接変換装置に対して、非特許文献1で示された制御を実行する場合を考察する。しかしながら非線形キャパシタ回路は放電時と充電時とで、その両端電圧が大きく変動する。そのため、非特許文献1で示された制御を単純に適用して実行すると、直流リンク間の電圧の、電源周期についての平均は、一定ではなく脈動する。かかる脈動は好ましくなく、脈動による直流電圧の平均の変動、中でも当該平均の低下を抑制することが望まれていた。
【0011】
そこで本発明は、非線形キャパシタ回路を直流リンクに設けつつも、脈動による直流電圧の平均の低下を抑制できる単相/三相直接変換装置の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第1の態様は、単相交流電圧が入力される単相ダイオード整流器(3)と、前記単相ダイオード整流器の出力側に接続された第1の電源線(LH)と、記単相ダイオード整流器の出力側に接続され、前記第1の電源線よりも低い電位が印加される第2の電源線(LL)と、前記第1及び前記第2の電源線の間に設けられたN(Nは2以上の自然数)個のコンデンサ(C41〜C43)を有し、前記第1の電源線から前記第2の電源線へと前記N個のコンデンサを流れる電流は互いに直列接続された前記N個のコンデンサを流れ、前記第2の電源線から前記第1の電源線へと流れる電流は互いに並列接続された前記N個のコンデンサを流れる非線形キャパシタ回路(4)と、前記第1及び前記第2の電源線の間の電圧が入力され、電圧ベクトルに基づいて動作するインバータ(5)とを備える単相/三相直接変換装置を制御する方法であって、第1乃至第3の期間(trec,tc,tz)の和で表される一定の所定期間(ts)の各々において、前記第1期間に前記単相ダイオード整流器に電流を流し、前記第3期間に前記インバータに前記電圧ベクトルとして零電圧ベクトルを採用した動作を行わせ、前記所定期間の各々において、前記単相交流電圧の絶対値が所定値よりも低いときには前記第2期間において前記N個のコンデンサを互いに並列接続し、前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも高いときには前記第2期間において互いに直列接続された前記N個のコンデンサに電流を流し、前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも低いときの前記第2期間の最大値は前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも高いときの前記第2期間の最大値よりも大きい。
【0013】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第2の態様は、第1の態様にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法であって、前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも低いときの前記第2期間(tc)の最大値は前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも高いときの前記第2期間の最大値の(2N−1)倍よりも小さい。
【0014】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第3の態様は、第1の態様にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法であって、前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも低いときの前記第2期間(tc)の最大値は前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも高いときの前記第2期間の最大値のN倍である。
【0015】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第4の態様は、第1乃至第3の何れか一つの態様にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法であって、前記N個のコンデンサ(C41〜C43)の各々の両端電圧が前記所定値以上となるように予め前記N個のコンデンサを充電する。
【0016】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第5の態様は、第1乃至第4の何れか一つの態様にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法であって、前記非線形キャパシタ回路(4)は、前記N個のコンデンサ(C41〜C43)の相互間に設けられ、アノードを前記第1の電源線(LH)にカソードを前記第2の電源線(LL)にそれぞれ向けて前記第Nのコンデンサと共に互いに直列接続される第1乃至第(N−1)の充電用ダイオード(D41,D44)と、前記第1乃至第(N−1)の充電用ダイオードの各々のアノードと前記アノードと隣り合って設けられる前記コンデンサとの間と、前記第2の電源線との間に設けられ、アノードを前記第2の電源線側にカソードを前記第1の電源線側にそれぞれ向けて配置される(N−1)個の第1の放電用ダイオード(D43,D46)と、前記第1乃至第(N−1)の充電用ダイオードの各々のカソードと前記カソードと隣り合って設けられる前記コンデンサとの間と、前記第1の電源線との間に設けられ、アノードを前記第2の電源線側にカソードを前記第1の電源線側にそれぞれ向けて配置される(N−1)個の第2の放電用ダイオード(D42,D45)と、前記(N−1)個の第1の放電用ダイオードと前記(N−1)個の第2の放電用ダイオードとそれぞれ直接接続される2(N−1)個のスイッチ(S41〜S44)とを備える。
【0017】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第6の態様は、第1乃至第4の何れか一つの態様にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法であって、前記非線形キャパシタ回路(4)は、アノードを前記第1の電源線(LH)にカソードを前記第2の電源線(LL)にそれぞれ向けて前記N個のコンデンサの相互間にそれぞれ設けられる第1乃至第(N−1)の充電用ダイオード(D41)と、前記第1乃至第(N−1)の充電用ダイオードの各々のアノードと前記アノードと隣り合って設けられる前記コンデンサとの間と、前記第2の電源線との間に設けられ、アノードを前記第2の電源線側にカソードを前記第1の電源線側にそれぞれ向けて配置される(N−1)個の第1の放電用ダイオード(D43)と、前記第2乃至第Nの充電用ダイオードの各々のカソードと前記カソードと隣り合って設けられる前記コンデンサとの間と、前記第1の電源線の間に設けられ、アノードを前記第2の電源線側にカソードを前記第1の電源線側にそれぞれ向けて配置される(N−1)個の第2の放電用ダイオード(D42)と、前記(N−1)個の第1の放電用ダイオードのアノードと前記第2の電源線との間又は前記(N−1)個の第2の放電用ダイオードのカソードと前記第1の電源線との間に設けられるスイッチ素子(S47)と、アノードを前記第1の電源線にカソードを前記第2の電源線にそれぞれ向けて前記スイッチ素子と並列に接続される第Nの充電用ダイオード(D47)とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第1の態様によれば、単相交流電圧の絶対値が所定値より高いときの第2期間では第1及び第2の電源線の間の電圧はN個のコンデンサの両端電圧の和と一致する。単相交流電圧の絶対値が所定値よりも低いときの第2期間では第2の電源線から第1の電源線へと互いに並列接続されたN個のコンデンサに電流が流れれば、第1及び第2の電源線の間の電圧はN個のコンデンサの両端電圧の各々と一致する。
【0019】
また単相交流電圧の絶対値が所定値より高いときの第2期間の最大値は単相交流電圧の絶対値が所定値より低いときの第2期間の最大値よりも大きい。これにより、単相交流電圧の絶対値が低いときのN個のコンデンサによる第1及び第2の電源線の間の電圧の平均を、単相交流電圧の絶対値が高いときのN個のコンデンサによる第1及び第2の電源線の間の電圧の平均へと近づけることができる。
【0020】
よって、非線形キャパシタ回路を用いたことによる、第1及び第2の電源線の電圧の低下を抑制することができる。
【0021】
しかも単相交流電圧の絶対値が低いときの第2期間の最大値を高めているので、このときの第3期間を低めることができる。第3期間ではインバータが前記電圧ベクトルとして零電圧ベクトルを採用した動作を行うところ、かかる第3期間を低減できるので、平均的な直流電圧に対するインバータが平均的に出力する電圧の割合(電圧利用率)を高めることができる。
【0022】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第2の態様によれば、非線形キャパシタ回路を用いたことによる、第1及び第2の電源線の電圧の増大を抑制することができる。
【0023】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第3の態様によれば、非線形キャパシタ回路を用いたことによる、第1及び第2の電源線の電圧の脈動を最も抑制することができる。
【0024】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第4の態様によれば、単相交流電圧の絶対値が所定値よりも低いときに、コンデンサの両端電圧が単相交流電圧以上となるので、単相交流電圧の絶対値が所定値よりも低いときに、第2の電源線から第1の電源線へと互いに並列接続されたN個のコンデンサにより確実に電流を流すことができる。
【0025】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第5の態様によれば、請求項1乃至4に記載の単相/三相直接変換装置の実現に寄与する。
【0026】
本発明にかかる単相/三相直接変換装置の制御方法の第6の態様によれば、一つのスイッチ素子で非線形キャパシタ回路の機能を実現できるので、複数のスイッチ素子が設けられる場合に比べて製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】単相/三相直接変換回路の概念的な構成の一例を示す図である。
【図2】単相/三相直接変換回路の等価回路を示す図である。
【図3】電流分配率の一例を示すグラフである。
【図4】等価回路におけるタイミングチャートの一例を示す図である。
【図5】電圧ベクトルを示す図である。
【図6】インバータのタイミングチャートの一例を示す図である。
【図7】直流電圧の平均の一例を示すグラフである。
【図8】直流電圧と、入力線電流と、出力線電流と、出力線間電圧と、出力線間電圧の平均とを示す図である。
【図9】制御部の概念的な構成の一例を示す図である。
【図10】等価回路及びインバータのタイミングチャートの一例を示すグラフである。
【図11】電流分配率の一例を示すグラフである。
【図12】直流電圧の平均の一例を示すグラフである。
【図13】直流電圧と、入力線電流と、出力線電流と、出力線間電圧と、出力線間電圧の平均とを示す図である。
【図14】直流電圧の平均の一例を示すグラフである。
【図15】単相/三相直接変換装置の概念的な構成の一例を示す図である。
【図16】非線形キャパシタ回路の概念的な構成の一例を示す図である。
【図17】非線形キャパシタ回路の概念的な構成の一例を示す図である。
【図18】電流分配率の一例を示すグラフである。
【図19】直流電圧の平均の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
第1の実施の形態.
<単相/三相直接変換装置の構成>
図1に示すように、単相/三相直接変換装置は、単相ダイオード整流器3と、非線形キャパシタ回路4と、インバータ5とを備えている。
【0029】
単相ダイオード整流器3は例えばフィルタ2を介して単相交流電源1と接続されている。フィルタ2はリアクトルL2とコンデンサC2とを備えている。リアクトルL2は単相交流電源1の2つの出力端のうちの一つと単相ダイオード整流器3との間に設けられている。コンデンサC2は単相交流電源1の2つの出力端の間に設けられている。フィルタ2は電流の高周波成分を除去する。
【0030】
単相ダイオード整流器3はダイオードD31〜D34を備えている。ダイオードD31〜D34はブリッジ回路を構成し、単相交流電源1から入力される単相交流電圧を整流して直流電圧に変換し、これを直流電源線LH,LLの間に出力する。直流電源線LHには直流電源線LLよりも高い電位が印加される。
【0031】
非線形キャパシタ回路4は直流電源線LH,LLの間に設けられたN(Nは2以上の自然数)個のコンデンサを有し、直流電源線LHから直流電源線LLへとN個のコンデンサを流れる電流は互いに直列接続されたN個のコンデンサを流れ、直流電源線LLから直流電源線LHへと流れる電流は互いに並列接続されたN個のコンデンサを流れる。図1の例示では、非線形キャパシタ回路4は2つのコンデンサC41,C42とダイオードD41〜D43とスイッチング素子S41,S42とを備えている。
【0032】
ダイオードD41はそのアノードを直流電源線LH側にそのカソードを直流電源線LL側にそれぞれ向けて、直流電源線LH,LLの間に設けられる。コンデンサC41,C42はダイオードD41に対してそれぞれ直流電源線LH,LL側に設けられ、ダイオードD41とともに相互に直列に接続される。
【0033】
スイッチング素子S41とダイオードD42とは、ダイオードD41のカソードとコンデンサC42との間の点と、直流電源線LHとの間で互いに直列に設けられる。スイッチング素子S42とダイオードD43とは、ダイオードD41のアノードとコンデンサC41との間の点と、直流電源線LLとの間で互いに直列に設けられる。ダイオードD42,D43はそのアノードを直流電源線LL側に、そのカソードを直流電源線LH側にそれぞれ向けて配置される。スイッチング素子S41,S42は例えばトランジスタであって、そのエミッタ端子を直流電源線LH側に、そのコレクタ端子を直流電源線LL側にそれぞれ向けて配置される。
【0034】
かかる非線形キャパシタ回路4によれば、直流電源線LHからコンデンサC41,C42及びダイオードD41を経由して直流電源線LL側へと電流が流れることにより、コンデンサC41,C42は互いに直列状態で電流が流れる。またスイッチング素子S41,S42の導通により、コンデンサC41,C42は互いに並列状態で直流電源線LLから直流電源線LH側へと電流が流れる。
【0035】
インバータ5は直流電源線LH,LLの間の直流電圧を交流電圧に変換して出力端Pu,Pv,Pwに出力する。インバータ5は6つのスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを含む。スイッチング素子Sup,Svp,Swpはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Sun,Svn,Swnはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LLとの間に接続される。インバータ5はいわゆる電圧形インバータを構成し、6つのダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnを含む。
【0036】
ダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDupは、出力端Puと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Supと並列に接続される。同様にして、ダイオードDvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnは、それぞれスイッチング素子Svp,Swp,Sun,Svn,Swnと並列に接続される。
【0037】
例えばスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,SwnにはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、以下、単にIGBTと呼ぶ)が採用される。
【0038】
誘導性負荷6は例えば回転機であり、誘導性負荷であることを示す等価回路で図示されている。具体的には、リアクトルLuと抵抗Ruとが相互に直列され、この直列体の一端が出力端Puに接続される。リアクトルLv,Lwと抵抗Ru,Rwについても同様である。またこれらの直列体の他端同士が相互に接続される。
【0039】
<単相/三相直接変換装置の制御方法>
本単相/三相直接変換装置においては、単相交流電源1と単相ダイオード整流器3とを用いている。よって、直流電源線LH,LLに供給される電力は、非線形キャパシタ回路4を含めた後段の要素を無視すれば、単相交流電圧の周波数の2倍の周波数を有して脈動する。ここでは、かかる電力の脈動を低減する制御方法について説明する。
【0040】
図1に示された回路の等価回路(図2)によれば、インバータに入力される電流Idcは、コンデンサC41,C42を流れる電流Icと、単相ダイオード整流器3を流れる電流Irecと、インバータ5が零電圧ベクトルで動作する期間に流れる電流Izとに振り分けられる。当該等価回路によれば、電流Ic,Irec,IzはそれぞれスイッチSc,Srec,Szの導通により流れる。各スイッチSrec,Sc,Szは常に何れか一つのみが導通するように制御される。なお、詳細は後述するものの、スイッチSrec,Scが導通する期間においてもインバータ5は零電圧ベクトルで動作する期間が存在する。ここでいう電流Izとは、スイッチSrec,Scが導通する期間においてインバータ5が零電圧ベクトルで動作する期間を除く。
【0041】
各電流Irec,Ic,Izについての電流分配率をそれぞれdrec,dc,dzとすると次式が導かれる。なお各電流分配率drec,dc,dzは、それぞれ所定期間に対するスイッチSrec,Sc,Szの導通期間の割合とも把握できる。
【0042】
【数1】

【0043】
電流の連続性から各電流Irec,Ic,Izの和が電流Idcと等しいので、次式が成立する。
【0044】
【数2】

【0045】
まず入力電流を正弦波とするという条件の下に電流分配率drecについて考慮する。入力電流を正弦波とするには、電流Irecが次式を満たせばよい。
【0046】
【数3】

【0047】
ここで、Imは単相ダイオード整流器3に入力される入力電流の振幅を示す。ωtは単相ダイオード整流器3に入力される単相交流電圧の位相を示す。式(1)と式(3)とにより、電流分配率drecは次式で表される。
【0048】
【数4】

【0049】
更に、電力脈動を低減するという条件の下に電流分配率dcについて考慮する。単相ダイオード整流器3が出力する電力P1は次式で表される。
【0050】
【数5】

【0051】
ここで、Vmは単相交流電圧の振幅を示す。式(5)において右辺の第2項目が電力脈動を示す。かかる電力脈動を打ち消すためには非線形キャパシタ回路4が第2項目と同じ値であって極性の異なる電力P2を出力すればよい。かかる電力P2は次式で表される。
【0052】
【数6】

【0053】
式(6)より非線形キャパシタ回路4が出力する電力P2は正負の値を採りえる。具体的には、単相交流電圧の位相ωtが0以上π/4以下、3π/4以上5π/4以下又は7π/4以上2π以下であるときに正の値を採り、これ以外のときに負の値を採る。
【0054】
単相交流電圧はVm・sin(ωt)で表されることから、上記範囲を換言して、単相交流電圧の絶対値がその振幅Vmの1/√2倍の値よりも低いときには非線形キャパシタ回路4は正の電力を出力し、振幅Vmの1/√2倍の値よりも高いときには負の電力を出力する、とも把握できる。
【0055】
かかる正負の電力を出力するには、非線形キャパシタ回路4に流れる電流Icの方向を変化させればよい。具体的に、電流Icの方向を変化させるには例えば次の制御を行えばよい。即ち、コンデンサC41,C42の両端電圧の各々が単相交流電圧の絶対値よりも高ければ、スイッチング素子S41,S42を導通させることでコンデンサC41,C42には正の電流Icが流れる。換言すれば、コンデンサC41,C42は放電する。またインバータ5のスイッチング制御により後述する逆電圧ベクトルを出力し、これによりインバータ5側から非線形キャパシタ回路4へと回生電流を流すことで、コンデンサC41,C42には負の電流Icが流れる。換言すれば、コンデンサC41,C42は充電される。よってコンデンサC41,C42のそれぞれの充電電圧を予めVm/√2以上に設定しておけば、上述の正負の電力を出力できることとなる。
【0056】
コンデンサC41,C42は互いに並列状態で放電する。よって放電時(即ち、0≦ωt≦π/4、3π/4≦ωt≦5π/4、7π/4≦ωt≦2πのとき、換言すれば単相交流電圧の絶対値がVm/√2より小さいとき)において、非線形キャパシタ回路4はコンデンサC41,C42の各両端電圧の和たる電圧Vcの半値を出力する。
【0057】
コンデンサC41,C42は互いに直列状態で充電される。よって、充電時(即ち、π/4≦ωt≦3π/4、5π/4≦ωt≦7π/4のとき、換言すれば単相交流電圧の絶対値がVm/√2より大きいとき)において、非線形キャパシタ回路4はコンデンサC41,C42の書く両端電圧の和たる電圧Vcを出力する。
【0058】
したがって非線形キャパシタ回路4が出力する電力P2は充電時における電力P2と放電時における電力P2とに分けてそれぞれ次式のように表現される。
【0059】
【数7】

【0060】
【数8】

【0061】
式(6)と式(7)とを用いて変形し、式(6)と式(8)とを用いて変形すると、充電時においてコンデンサC41,C42に流れる電流Icと、放電時においてコンデンサC41,C42に流れる電流Icについてそれぞれ次式が導かれる。
【0062】
【数9】

【0063】
【数10】

【0064】
上述のように電流Icの向きを制御することができるので電流分配率dcは正の値で考慮することができる。よって、式(1)と式(9)及び式(1)と式(10)により、充電時におけるコンデンサC41,C42についての電流分配率dcと放電時におけるコンデンサC41,C42についての電流分配率dcとがそれぞれ次式で表される。
【0065】
【数11】

【0066】
【数12】

【0067】
さて、式(4)、式(11)、式(12)から理解できるように、各電流分配率drec,dcは、それぞれ単相電源電圧の周波数と同じ周波数、2倍の周波数を有する正弦波の絶対値と同じ形状を有しており、その振幅のみが決定していない。
【0068】
更に、電圧利用率を最大にするという条件の下でパラメータIm/Idcについて考慮する。ここでいう電圧利用率とは、例えば直流電源線LH,LLの間の直流電圧に対するインバータ5が出力する電圧の割合である。インバータ5が零電圧ベクトルを出力する期間ではインバータ5は電圧を出力しないので、電圧利用率の向上のためにはかかる期間は短いほうが望ましい。ただし、式(2)と式(4)、式(11)、式(12)から理解できるように常に電流分配率dzをゼロにすることはできない。また電流分配率drec,dc,dzはいずれもが正の数である。よって、電流分配率dzの最小値を0とすれば全体的な電圧利用率を最も高めることができる。換言すれば電流分配率drec,dcの和が最大となるとき、即ちωt=π/2のときにdz=0とすればよい。
【0069】
例えばωt=π/2,dz=0をそれぞれ式(2)、式(4)、式(11)に代入すると次式が導かれる。
【0070】
【数13】

【0071】
また例えばωt=π/2,dz=0をそれぞれ式(2)、式(4)、式(12)に代入すると次式が導かれる。
【0072】
【数14】

【0073】
式(13)を式(4)、式(11)に代入すると充電時における電流分配率drec,dcは次式で表される。
【0074】
【数15】

【0075】
【数16】

【0076】
式(14)を式(4)、(12)に代入すると放電時における電流分配率drec,dcは次式で表される。
【0077】
【数17】

【0078】
【数18】

【0079】
図3はかかる電流分配率drec,dc,dzの一例を示している。図3では振幅Vmと電圧Vcとを等しい値としている。かかる電流分配率drec,dc,dzはいずれも電圧位相角で180度周期を有している。電流分配率drecは電圧位相角180度を半周期とする正の正弦波に沿う形状を有している。但し、充電時の電流分配率drecが沿う正弦波の振幅は、放電時の電流分配率drecが沿う正弦波の振幅よりも大きい。また、充電時の電流分配率drecと放電時の電流分配率drecとの不連続を解消すべく、例えば所定の傾斜を有する直線でこれらを適宜に繋いでいる。不連続があれば、入力電流の波形にゆがみが生じるからである。電流分配率dcは電圧位相角90度を半周期とする正の正弦波に沿う形状を有している。但し、放電時の電流分配率dcが沿う正弦波の振幅は、充電時の電流分配率dcが沿う正弦波の振幅よりも大きい。
【0080】
このような電流分配率drec,dc,dzを指令値として、所定のキャリヤと比較することにより、一定の所定期間tsにおいてスイッチSrec,Sc,Szをそれぞれ導通させる期間trec,tc,tzを得ることができる。なお、所定期間tsは単相交流電圧の周期に対して十分に短い期間である。
【0081】
かかる期間trec,tc,tzは例えば図4に示すように電流分配率drecと、電流分配率drec,dzの和(=1−dc)と、キャリヤCとの比較によって求めることができる。キャリヤCは最小値0、最大値1を取る周期性の波形を有し、例えば三角形波であって図4では二等辺三角形波が例示されている。
【0082】
スイッチSrecはキャリヤCが電流分配率drec以下となる期間trecにおいて導通する。スイッチScはキャリヤCが電流分配率drec,dzの和以上となる期間tcにおいて導通する。スイッチSzはキャリヤCが電流分配率drec以上かつ電流分配率の和drec+dz以下となる期間tzにおいて導通する。これによって所定期間tsに対する期間trec,tc,tzの割合を、それぞれ電流分配率drec,dc,dzと一致させることができる。なお、キャリヤCが二等辺三角形波であることと、電流分配率drec及び電流分配率の和drec+dzのいずれもキャリヤCの最小値または最大値を取らないことから、期間tzは所定期間tsにおいて二等分され、二つの期間tz/2として現れている。
【0083】
なお図1に示す単相/三相直接変換装置に、スイッチSrec,Sc,Szが実際に設けられているわけではない。図2に示す等価回路上のスイッチSrec,Sc,Szは非線形キャパシタ回路4及びインバータ5のスイッチングによって等価的に制御される。スイッチSrec,Sc,Szを等価的に制御する方法を説明するために、まずインバータの一般的な制御について説明する。
【0084】
一対のスイッチング素子Sup,Sun、一対のスイッチング素子Svp,Svn及び一対のスイッチング素子Swp,Swnはそれぞれ相互に排他的に制御される。よって、各スイッチング素子のスイッチパターンとしては次の8つのパターンが存在する。ここで上側スイッチング素子が導通し、下側スイッチング素子が非導通であるスイッチ状態を「1」で表現し、上側スイッチング素子が非導通であって下側スイッチング素子が導通するスイッチ状態を「0」で表現する。各相についてのスイッチ状態をこの順で並べると、スイッチパターンとしては、(0,0,0)(0,0,1)(0,1,0)(0,1,1)(1,0,0)(1,0,1)(1,1,0)(1,1,1)の8つのパターンが存在する。
【0085】
上述した各スイッチパターンをインバータが実現することにより、出力端Pu,Pv,Pwにはスイッチングパターンに応じた電圧ベクトルが出力される。各スイッチパターンにより出力される電圧ベクトルを、スイッチパターンの上記3つの数字を10進数で表した数字を採用して、それぞれ電圧ベクトルV0〜V7と表現する。例えばスイッチパターン(1,0,0)により電圧ベクトルV4が出力される。
【0086】
図5には電圧ベクトル図が示されている。各電圧ベクトルV1〜V6はこれらの始点を中心点に一致させそれらの終点を放射状に外側に向けて配置される。各電圧ベクトルV1〜V6の終点同士を結ぶと正六角形を構成する。電圧ベクトルV0,V7では出力端Pu,Pv,Pwが短絡されるので、電圧ベクトルV0,V7は大きさを有さない。よって電圧ベクトルV0,V7は中心点に配置される。かかる電圧ベクトルV0,V7を零電圧ベクトルと称している。なお、各電圧ベクトルV1〜V6のうちの隣り合う2つと、各電圧ベクトルV0,V7とにより構成される正三角形の領域をそれぞれS1〜S6と呼ぶ。
【0087】
例えば二相変調方式に則れば、電圧指令ベクトルV*が位置する領域S1〜S6に応じて、当該領域S1〜S6を構成する2つの電圧ベクトルVi,Vj(i,j=1〜6,i≠j)と電圧ベクトルV0(或いは電圧ベクトルV7)とが出力される。かかる電圧ベクトルVi,Vjと電圧ベクトルV0(或いは電圧ベクトルV7)とは、これらの合成電圧ベクトルが電圧指令ベクトルV*に一致するように出力される。以下、零電圧ベクトルとして電圧ベクトルV0を出力する場合の一例について説明する。
【0088】
例えば電圧指令ベクトルV*が領域S1に位置する場合、所定期間tsにおいて例えば電圧ベクトルV0,V4,V6がそれぞれ期間t0,t4,t6(ts=t0+t4+t6)において出力される。
【0089】
所定期間tsにおける合成電圧ベクトルは、t0/ts・V0+t4/ts・V4+t6/ts・V6で表されるところ、この合成電圧ベクトルが電圧指令ベクトルV*と一致するように、電圧ベクトルV0,V4,V6が出力される。換言すれば、合成電圧ベクトルが電圧指令ベクトルV*と一致するように期間t0,t4,t6が求められ、期間t0,t4,t6においてそれぞれ電圧ベクトルV0,V4,V6が出力される。
【0090】
なお電圧ベクトルV0に代えて電圧ベクトルV7が出力されても良い。
【0091】
以上のようにして、各領域S1〜S6にて各電圧ベクトルVi,Vj,V0(V7)が出力されて、インバータ5は交流電圧を出力する。
【0092】
さて、図2に示す等価回路上のスイッチSrec,Sc,Szは非線形キャパシタ回路4及びインバータ5のスイッチングによって等価的に以下のように制御される。
【0093】
スイッチSzが導通する期間tzは、インバータ5が零電圧ベクトルを出力している期間である。よって、期間tzにおいてスイッチング素子Sup,Svp,Swpのいずれも導通させ、或いはスイッチング素子Sun,Svn,Swnのいずれも導通させることによってスイッチSzは等価的に制御される。
【0094】
スイッチScが導通する期間tcは放電時にはスイッチング素子S41,S42が導通し、且つインバータ5が所望の電圧ベクトルを出力する期間である。即ち、放電時にはスイッチング素子S41,S42を導通させ且つインバータ5に所望の電圧ベクトルを出力させることによって、放電時のスイッチScは等価的に制御される。但し、期間tcにおいてインバータ5に所望の電圧ベクトルを出力させていることから、期間tcにおいても零電圧ベクトルは出力されうる。かかる零電圧ベクトルの期間においては実際にはコンデンサC41,C42には電流が流れない。しかしながら、ここでは期間tcにおいて零電圧ベクトルが出力される期間も電流Icが流れるものと仮定して扱っている。かかる仮定に起因する誤差を低減するために、インバータ5が出力する交流電圧の振幅(電圧ベクトルVの大きさ)を大きくするとよい。これにより、期間tcにおいて零電圧ベクトルが出力される期間を短くできるからである。
【0095】
またスイッチScが導通する期間tcは充電時にはインバータ5が所望の電圧ベクトルとはその方向が反対の逆電圧ベクトルを出力する期間である。例えば所望の電圧ベクトルV0,V4,V6,V4,V0を出力した後に逆電圧ベクトルV1,V3,V7,V3,V1を出力する。
【0096】
電圧ベクトルV4ではスイッチング素子Sup,Svn,Swnが導通して正のu相電流と負のv相電流、w相電流が流れる。ここでいう、u相電流、v相電流、w相電流とは出力端Pu,Pv,Pwに流れる電流であり、インバータ5から誘導性負荷6へと流れる電流を正としている。次にスイッチング素子Sunを導通して電圧ベクトルV0を出力すると、ダイオードDunが導通して正のu相電流と負のv相電流、w相電流が維持される。次にスイッチング素子Swpを導通して電圧ベクトルV1を出力すると、ダイオードDwpが導通して正のu相電流と負のv相電流、w相電流が維持される。このときダイオードDwpを経由してコンデンサC41,C42へと回生電流が流れる。なお、充電時において期間trecにおいて電圧ベクトルを出力する際には、単相交流電圧が大きく、誘導性負荷2に蓄えられる誘導エネルギーが大きい。よって、期間tcにおいて回生電流が流れる。
【0097】
以上のように、インバータ5に逆電圧ベクトルを出力させることによって、充電時のスイッチScは等価的に制御される。同じく、期間tcにおいてインバータ5が零電圧ベクトルを出力する期間についても電流Icが流れるものとしてスイッチScを等価的に制御している。なお、充電時においてはスイッチング素子S41,42の導通/非導通は不問である。充電時の期間tcにおいて回生電流が流れるために、スイッチング素子S41,S42の導通/非導通に拘わらずコンデンサC41,C42は放電しないからである。
【0098】
スイッチSrecが導通する期間trecは、スイッチSz,Scが制御されることで必然的に決定される。かかる期間trecにおいて、インバータ5は所望の電圧ベクトルを出力する。これにより、スイッチSrecが等価的に制御される。同じく、期間trecにおいても零電圧ベクトルが出力されるところ、期間trecにおいてインバータ5が零電圧ベクトルを出力する期間においても電流Irecが流れるものとしてスイッチSrecを等価的に制御している。
【0099】
なお、インバータ5は所定期間tsにおいて各電圧ベクトルV0(V7),Vi,Vjを出力するところ、各出力期間を期間trec,tcに等しい割合で分配することが望ましい。換言すれば放電時において、期間trecに対する各電圧ベクトルV0(V7),Vi,Vjの各出力期間の割合と、期間tcに対する各電圧ベクトルV0(V7),Vi,Vjの各出力期間の割合とは等しいことが望ましい。同様に充電時において、期間trecに対する各電圧ベクトルV0(V7),Vi,Vjの出力期間の割合と、期間tcに対する各電圧ベクトルV0(V7),Vi’,Vj’(Vi’,Vj’はそれぞれVi,Vjの逆電圧ベクトル)の出力期間の割合とは等しいことが望ましい。これにより、単相ダイオード整流器3に入力される入力電流の波形のゆがみを低減できる。
【0100】
以下、充電時におけるインバータ5側のタイミングチャートについて図6の例示を参照して説明する。なお図6においては、それぞれスイッチング素子Sup,Svp,Swpと排他的に制御されるスイッチング素子Sun,Svn,Swnの導通/非導通については図示を省略している。
【0101】
インバータ5が有する各スイッチング素子の導通期間も、スイッチSrec,Sc,Szの導通期間trec,tc,tzを導くために用いたキャリヤと同じキャリヤCを用いて求めることができる。
【0102】
期間trec,tcの2つの各々において、相電圧指令値Vu*を期間trec,tcの比で内分して得られる2つ指令値と、キャリヤCとの大小をそれぞれ比較し、同じく相電圧指令値Vv*,Vw*を期間trec、tcの比でそれぞれ内分して得られる4つの指令値とキャリヤCの大小をそれぞれ比較する。但し、期間tcにおいては逆電圧ベクトルを出力すべく、相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を1から減じた指令値Vu**,Vv**,Vw**を用いている。以下では相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*がこの順で大きくなる場合を例示し、特にVw*=1となる場合を例に採って説明する。
【0103】
期間trecにおいては、キャリヤCがdrec・(1−Vu*)以下のときにスイッチング素子Supを導通させ、キャリヤCがdrec・(1−Vv*)以下のときにスイッチング素子Svpを導通させ、キャリヤCがdrec・(1−Vw*)以下のときにスイッチング素子Swpを導通させる。
【0104】
これにより、期間trecにおいては例えば電圧ベクトルV0,V4,V6,V4,V0がこの順で出力される。なお期間tcではキャリヤCが最大値を採る三角形状を呈するところ、期間trecではキャリヤCが上下反転して最小値を採る逆三角形状を呈している。よって、期間trecではかかる逆三角形状に合わせて相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれ1から減じている。
【0105】
期間tcにおいては逆電圧ベクトルを出力すべく、相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれ1から減じた相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を用いる。なお、期間tcにおいても相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれ1から減じるところ、期間tcではキャリヤCは三角形状を呈している。よって、以下のように、期間tcでは逆電圧ベクトルが出力される。
【0106】
期間tcにおいてはキャリヤCがdrec+dz+dc・Vu**以上のときにスイッチング素子Supを導通させ、キャリヤCがdrec+dz+dc・Vv**以上のときにスイッチング素子Tuvを導通させ、キャリヤCがdrec+dz+dc・Vw**以上のときにスイッチング素子Tuwを導通させる。
【0107】
これにより、期間tcにおいては例えば電圧ベクトルV1,V3,V7,V3,V1が出力される。図5を参照して、電圧ベクトルV1,V3はそれぞれ電圧ベクトルV6,V4に対する逆電圧ベクトルである。かかる期間tcにおいては誘導性負荷6に蓄えられた誘導エネルギーが直流電源線LH,LLへと回生するため、コンデンサC41,C42には負の電流Icが流れる。
【0108】
また上述した期間trec,tcにおける各スイッチング素子の制御により、期間trec,tcで挟まれた期間tzにおいては、スイッチSup,Svp,Swpが非導通となる。これにより、期間tzにおいて零電圧ベクトルとして電圧ベクトルV0が出力される。
【0109】
放電時におけるインバータ5のタイミングチャートについては図示を省略するものの、図6を参照して説明できる。即ち、期間tcにおいて指令値Vu**,Vv**,Vw**の代わりに相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を用い、期間tcにおいてスイッチング素子S41,S42を導通させればよい。これにより、期間tcにおいてインバータ5は所望の電圧ベクトルを出力し、期間tcにおいてコンデンサC41,C42には正の電流Icが流れる。
【0110】
なおスイッチング素子S41,S42の導通/非導通の切り替えは、インバータ5が零電圧ベクトルを出力する期間で行うことが望ましい。このときスイッチング素子S41,S42には電流が流れていないのでスイッチング損失を発生しないからである。よってスイッチング素子S41,S42を、期間tcと期間tzにおいて導通させ、期間trec,tzの境界にてスイッチングを切り替えて期間trecにおいて非導通にするとよい。なぜなら上記の例では期間trecの端において出力される電圧ベクトルが零電圧ベクトル(電圧ベクトルV0)だからであり、期間trec,tzの境界で零電圧ベクトルが出力されるからである。
【0111】
また、充電時においては期間tcにおいてスイッチング素子S41,S42は非導通であってもよいものの、充電時と放電時との区別により、期間tcのスイッチング素子S41,S42のスイッチ状態を切り替えることは制御を複雑にする。他方、充電時においてはスイッチング素子S41,S42は導通しても充電動作を妨げない。よって、充電時と放電時との区別に拘わらず、期間tcにおいてスイッチング素子S41,S42を導通させることが好ましい。換言すれば図6の例示において、スイッチング素子S41,S42を、キャリヤCが電流分配率drec以上となる期間で導通させることが望ましい。
【0112】
上述した制御によって、インバータ5に入力される直流電圧Vdcは、単相ダイオード整流器3による直流電圧Vrecと、非線形キャパシタ回路4による電圧Vc1とを交互に採用する。電圧Vrec,Vc1は次式で表される。
【0113】
【数19】

【0114】
【数20】

【0115】
但し、充電期間では電流が回生されるため電圧Vc1は負として考慮される。そして直流電圧Vdcの平均は電圧Vrec,Vc1の和として考慮される。かかる電圧Vrec,Vc1及びインバータ5へと入力される直流電圧Vdcの平均が例えば図7に示されている。
【0116】
比較のために、図1の単相/三相直接変換回路において非特許文献1の制御を実行する場合を考慮する。図18は、単相ダイオード整流器を流れる電流についての比率(以下、電流分配率とも呼ぶ)drec1と、コンデンサに流れる電流の電流分配率dc1と、インバータが零電圧ベクトルを出力することによりインバータに流れる電流の電流分配率dz1とが示されている。
【0117】
図19は、かかる電流分配率drec1,dc1,dz1を用いて制御を行った場合の、直流リンクの瞬時的に採り得る電圧と、これらの平均とを示している。図19に示すように直流電圧の平均は一定ではなく脈動している。かかる脈動は好ましくなく、脈動による直流電圧の平均の低下を抑制することが望まれていた。
【0118】
図7に示すように、直流電圧Vdcの平均は変動するものの、図19との比較より、直流電圧Vdcの平均の低下分を抑制することができることが分かる。具体的には、図19では、放電時の直流電圧Vdcの平均の最小は、充電時の直流電圧Vdcの平均の0.5倍であり、図7では放電時の直流電圧Vdcの平均値の最小は放電時の直流電圧Vdcの平均の0.84倍である。
【0119】
なお、このように直流電圧Vdcの平均の低下分を抑制できるポイントは、放電時のコンデンサC41,C42による直流電圧Vdcが電圧Vcの半値となるところ、放電時の電流分配率dcの最大値が充電時の電流分配率dcの最大値よりも大きいからである。
【0120】
また本第1の実施の形態にかかる制御方法では、直流電圧Vdcの平均値の低下分は抑制することができるものの、依然として脈動は残っている。したがって、かかる脈動をインバータ5側で補正することが望ましい。具体的には補正係数を相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に乗じるとよい。かかる補正係数は例えば図7に示す直流電圧Vdcの平均の逆数で表される。
【0121】
また放電時の電流分配率dcの最大を充電時の電流分配率dcの最大よりも高めているので、放電時の電流分配率dzを低めることができる(例えば図3と図18との比較)。電流分配率dzは零電圧ベクトルが出力される比率であるところ、かかる比率が低まるので、電圧利用率を高めることができる。即ちより効率的に誘導性負荷6を制御することができる。
【0122】
このような単相/三相直接変換装置の制御によるシミュレーション結果が例えば図8に示されている。シミュレーション条件として、単相交流電圧の振幅Vm=√2×200V、単相交流電圧の周波数50Hz、コンデンサC41,C42の両端電圧の和Vc=600V、補正係数を乗じた後の出力電圧の振幅変調率(直流電圧Vdcの平均の最大を1としたときの出力電圧の比)0.84、周波数150Hz、誘導性負荷6の抵抗値2.25Ω、リアクタンス1.16mH、力率=0.9、キャリヤCの周波数10kHzを採用した。図8に示すように、放電時における直流電圧Vdcの最大は電圧Vcの半値であって、充電時における直流電圧Vdcの最大は電圧Vcである。また図8に示すように入力電流を正弦波にすることができ、出力端Pu,Pv,Pwの出力線電流を三相交流で出力できる。また、図8には、たとえば出力端Pu,Pvの間に出力される出力線間電圧が示されている。放電時の出力線間電圧の最大は充電時の出力線間の最大の半値であって、また充電時では逆電圧ベクトルが出力されている。かかる出力線間電圧の平均は交流電圧となっている。
【0123】
インバータ5の各スイッチング素子に生じるスイッチング損失は、各スイッチング素子に印加される電圧が大きいほど大きい。図8に示すように、放電時における直流電圧Vdcが放電時に比べて低いので、放電時においてインバータ5に生じるスイッチング損失を低下できる。
【0124】
<制御部の構成>
次に、単相/三相直接変換装置を制御する制御部10の構成について図9を参照して説明する。制御部10は電流分配率生成部11と、変調率補正部21と、極性反転部22と、キャリヤ生成部23と、出力電圧指令値生成部31と、補正部32,33と、比較器12,34,35と、論理和/論理積部36とを備えている。
【0125】
電流分配率生成部11には、単相交流電圧の振幅Vmと、単相交流電圧の角速度ωと、コンデンサC41,C42の各両端電圧の和Vcとが入力される。振幅Vmと角速度ωは単相交流電圧が図示せぬ検知部によって検出されて電流分配率生成部11に入力される。和Vcは設定値として例えば外部のCPUによって入力される。電流分配率生成部11は例えば式(2)、式(15)〜式(18)に基づいて電流分配率drec,dc,dzを生成する。
【0126】
比較器12は電流分配率drecとキャリヤ生成部23からのキャリヤCとを比較してスイッチ信号SSをスイッチング素子S41,S42へと与える。比較器12は例えば図6を参照してキャリヤCが電流分配率drec以上となる期間で活性化したスイッチ信号SSを出力する。これにより期間tc,tzにおいてスイッチング素子S41,S42が導通する。
【0127】
変調率補正部21は直流電圧Vdcの平均の脈動を補正する補正係数を生成して、これを出力電圧指令値生成部31へと出力する。例えば電流分配率drec,dcと振幅Vmと和Vcと角速度ωから直流電圧Vdcの平均値の逆数を算出し、これを補正係数として出力する。
【0128】
出力電圧指令値生成部31には、例えば外部のCPUから例えば出力電圧についての振幅及び角速度についての指令値が入力される。出力電圧指令値生成部31は例えばかかる振幅及び角速度から相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出し、これに補正係数を乗じて相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成し、これを補正部32,33に出力する。
【0129】
極性反転部22は充電時か放電時かを判定して補正部32に出力する。例えば極性反転部22は電流分配率生成部11から角速度ωを受け取って、充電時か放電時かを補正部32に通知する。
【0130】
補正部32は充電時であれば相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれ1から減じて相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を生成し、これに電流分配率dcを乗じた上で、電流分配率drec,dzを加算した値を比較器34へと出力する。補正部32は放電時であれば相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に電流分配率dcを乗じた上で、電流分配率drec,dzを加算した値を比較器34へと出力する。
【0131】
補正部33は相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を1から減じた上で、それぞれ電流分配率drecを乗じた値を比較器35へと出力する。
【0132】
比較器34,35は、それぞれ入力された値とキャリヤCとの比較結果を論理和/論理積部36に出力する。比較器34,35は例えば入力された値がキャリヤC以上となる期間で活性化した信号を出力する。
【0133】
論理和/論理積部36は比較結果を適宜に論理和演算及び論理積演算して図6で説明したようにスイッチング素子Sup,Svp,Swpを導通させるべく、スイッチ信号SuSp,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。以下、代表的にスイッチ信号SSup,SSunについて説明する。比較器34はキャリヤCが値drec+dz+dc・Vu**よりも低いときに活性化した信号SS1を出力し、比較器35はキャリヤCが値drec・(1−Vu*)よりも低いときに活性化した信号SS2を出力する。図6を参照して、スイッチング素子Supのスイッチング信号SSupは信号SS1を反転した上で信号SS2との論理和を算出することで得られる。スイッチング素子Sunのスイッチング信号SSunは信号SS2を反転した上で信号SS1との論理積を算出することで得られる。
【0134】
<キャリヤの変形例>
図10に示すように、キャリヤとして鋸歯状のキャリヤC1を用いても良い。なお図10の例示では三相変調方式に則ってインバータ5が制御されている。キャリヤの相違、変調方式の相違があるものの、上述した制御と同じ制御を行えばよい。即ち、期間trecにおいては、キャリヤCがdrec・(1−Vu*)以下のときにスイッチング素子Supを導通させ、キャリヤCがdrec・(1−Vv*)以下のときにスイッチング素子Svpを導通させ、キャリヤCがdrec・(1−Vw*)以下のときにスイッチング素子Swpを導通させる。また期間tcにおいては逆電圧ベクトルを出力すべく、相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれ1から減じた相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を用いる。なお、期間tcにおいても相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれ1から減じるところ、期間tcではキャリヤCは最大値を採る三角形状を呈している。よって期間tcでは逆電圧ベクトルが出力される。期間tcにおいてコンデンサC41,C42に負の電流Icが流れる。
【0135】
充電時におけるインバータ5のタイミングチャートについては図示を省略するものの、図10を参照して説明できる。即ち、期間tcにおいて指令値Vu**,Vv**,Vw**の代わりに相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を用い、期間tcにおいてスイッチング素子S41,S42を導通させればよい。これにより、期間tcにおいてインバータ5は所望の電圧ベクトルを出力し、期間tcにおいてコンデンサC41,C42には正の電流Icが流れる。
【0136】
第2の実施の形態.
第2の実施の形態における電流分配率drec,dc,dzは第1の実施の形態における電流分配率drec,dc,dzと相違する。
【0137】
式(13)を式(12)に代入すると、放電時における電流分配率dcは次式で表される。
【0138】
【数21】

【0139】
第3の実施の形態では、充電時における電流分配率drec,dcとしてそれぞれ式(15)と式(16)とを採用し、放電時における電流分配率drec,dcとしてそれぞれ式(15)と式(21)とを採用する。なお電流分配率dzについては式(2)より算出される。
【0140】
かかる電流分配率drec,dc,dzが図11に示されている。電流分配率drec,dc,dzはいずれも、電圧位相角で180度周期を有している。電流分配率drecは電圧位相角180度を半周期とする正の正弦波に沿う形状を有している。第1の実施の形態と相違して、充電時の電流分配率drecが沿う正弦波と、放電時の電流分配率drecが沿う正弦波とは同じである。電流分配率dcは電圧位相角90度を半周期とする正の正弦波に沿う形状を有している。但し、放電時の電流分配率dcが沿う正弦波の振幅は、充電時の電流分配率dcが沿う正弦波の振幅の2倍である。
【0141】
かかる電流分配率drec,dc,dzを用いて第1の実施の形態と同様に非線形キャパシタ回路4及びインバータ5を制御することで、直流電圧Vdcの平均は図12に示すように一定となる。以上のように、直流電圧Vdcの平均の脈動を最も低減できる。
【0142】
しかも直流電圧Vdcの平均を一定にできるため、インバータ5側において補正を行わなくても良い。例えば図9において変調率補正部21を不要にできる。従って、制御をより簡易とすることができる。
【0143】
変調率補正部21による補正を行わずに第1の実施の形態と同様に単相/三相直接変換装置を制御したシミュレーション結果が図13に示されている。図13で示した結果のシミュレーション条件は図8で示した結果のシミュレーション条件と同じである。ただし、補正は行ってないので出力電圧の振幅変調率0.84である。
【0144】
第3の実施の形態.
第2の実施の形態では、放電時の電圧分配率dcの最大値を充電時の電流圧分配率dcの最大値の2倍に設定して直流電圧Vdcの平均の脈動(変動)を最も低減している。しかるに、直流電圧Vdcの平均の変動を図19に示す直流電圧Vdcよりも低減するという観点に鑑みれば、放電時の電圧分配率dcの最大値は充電時の電流圧分配率dcの最大値の2倍を超えても良い。ここでは、図19に示す直流電圧Vdcの平均の変動よりも低減するための、放電時の電流分配率dcの最大値の上限について規定する。
【0145】
第2の実施の形態では放電時の電流分配率dcの最大値を充電時の電流分配率dcの最大値の3倍よりも低く設定する。より具体的には、放電時の電流分配率dcは次式よりも低く設定される。
【0146】
【数22】

【0147】
以下では、まず放電時の電流分配率dcとして式(22)を採用した場合に、直流電圧Vdcの平均の変動幅(脈動の振幅とも言う)が図19で示される変動幅と一致することを示す。図14には放電時の電流分配率dcとして式(22)を採用したときの直流電圧Vdcの平均Vdc1が示されている。
【0148】
さて、第1の実施の形態で説明したように直流電圧Vdcの平均Vdc1は電圧Vrec,Vc1の和で表される。充電時の電流分配率drec,dcとして式(15)と式(16)とを採用し、放電時の電流分配率drec,dcとして式(15)と式(22)とを採用し、また式(20)において放電時の電圧Vdcはその半値であることに注意すると、充電時の平均Vdc1及び放電時の平均Vdc1はそれぞれ次式で表される。
【0149】
【数23】

【0150】
【数24】

【0151】
式(23)から、充電時の平均Vdc1は一定である。式(24)から放電時の平均Vdc1は、放電時の期間(例えばωtが3/4π以上且つ5/4π以下)の両端(ωt=3/4π、5/4π)が最小値を採って充電時の平均Vdcと一致し、その期間の中央(例えばωt=π)が最大値を採る形状を有する(図14参照)。そして、放電時における平均Vdc1が最大値を採るとき、即ち例えばωt=πのとき、放電時における平均Vdc1と充電時における平均Vdc1との差たる変動幅ΔVは最大を採る。よって式(23)と式(24)とを減算してωt=πを代入すると変動幅ΔVの最大値ΔVmaxが導かれる。
【0152】
【数25】

【0153】
図19で示した直流電圧Vdcの平均Vdc1の、放電時と充電時との差Vdc1についても同様にして考慮する。図18では、電流分配率drec,dcとして充電時及び放電時の区別に関係なく、式(15)と式(16)とがそれぞれ採用される。充電時の平均Vdc1は式(23)で表され、放電時の平均Vdc1は次式で表される。
【0154】
【数26】

【0155】
式(26)及び図8から、放電時の平均Vdc1は、放電時の期間(例えばωtが3/4π以上且つ5/4π以下)の両端(ωt=3/4π、5/4π)が最大値を採って充電時の平均Vdcと一致し、その中央(例えばωt=π)が最小値を採る形状を有する(図19参照)。そして、放電時における平均Vdc1が最小値を採るとき、即ち例えばωt=πのとき、放電時における平均Vdc1と充電時における平均Vdc1の変動幅ΔVは最大を採る。よって式(23)と式(26)とを減算してωt=πを代入すると変動幅ΔVの最大値ΔVmaxが導かれる。
【0156】
【数27】

【0157】
式(25)と式(27)との比較から理解できるように、放電時の電流分配率dcとして式(22)を用いた場合の最大値ΔVmaxと、従来の電流分配率dcを用いた場合の最大値ΔVmaxとが一致する。
【0158】
また第2の実施の形態で説明したように放電時の電流分配率dcの最大値が充電時の電流分配率dcの最大値の2倍を超えるときに、平均Vdc1の変動幅をより効率的に低減できる。そして、この2倍を超える範囲では、平均Vdc1の変動幅は放電時の電流分配率dcの最大値が増大するほど増大する。よって、放電時の電流分配率dcの最大値を充電時の電流分配率dcの最大値の3倍よりも低く設定することで、平均Vdc1の変動幅ΔVの最大値ΔVmaxを従来の制御に比して抑制することができる。
【0159】
第4の実施の形態.
第4の実施の形態では、初期的にコンデンサC41,C42を充電する方法について説明する。
【0160】
第1の実施の形態で説明したように、単相交流電圧の絶対値がその振幅Vmの1/√2倍よりも低いとき(充電時)には、期間tcにおいてスイッチング素子S41,S42を導通させてコンデンサC41,C42を放電させる。しかるに、コンデンサC41,C42の両端電圧が振幅Vmの1/√2倍よりも低ければ、放電時の期間tcにおいて単相交流電圧がコンデンサC41,C42の両端電圧を超える期間が存在し、この期間においてはコンデンサC41,C42は放電できない。
【0161】
例えば図1の単相/三相直接変換回路では、非線形キャパシタ回路4及びインバータ5のスイッチングを制御するに先立って、コンデンサC41,C42の各々には単相交流電圧の振幅Vmの半値が充電される。よって、非線形キャパシタ回路4及びインバータ5のスイッチングの制御を開始したときに、最初に放電時が現れるとコンデンサC41,C42が放電できない期間が存在していた。
【0162】
そこで、本第4の実施の形態では、非線形キャパシタ回路4及びインバータ5のスイッチング制御に先立って、コンデンサC41,C42の両端電圧の各々が振幅Vmの1/√2倍以上となるように予めコンデンサC41,C42を充電する。
【0163】
例えば図15に示すように、本単相/三相直接変換装置は、第1乃至第3の実施の形態の単相/三相直接変換装置に比べて初期充電用のスイッチS7を更に備えている。スイッチS7の一端はダイオードD31,D32の間又はダイオードD33,D34の間と接続される。他端はコンデンサC41,C42の間と接続される。図15の例示ではスイッチS7はその一端がダイオードD33,D34の間と、その他端がダイオードD41とコンデンサC42との間と接続されて設けられている。
【0164】
かかる三相/単相直接変換装置において、非線形キャパシタ回路4及びインバータ5のスイッチングに先立ってスイッチS7を導通させる。スイッチS7の導通によってダイオードD31,D34とコンデンサC41,C42は倍電圧整流回路を構成する。よってスイッチS7の導通により、コンデンサC41,C42の両端電圧の各々が振幅VmとなるようにコンデンサC41,C42は充電される。
【0165】
したがって、非線形キャパシタ回路4及びインバータ5のスイッチングの制御を開始したときに、最初に放電時が来たとしてもコンデンサC41,C42を確実に放電させることができる。
【0166】
第5の実施の形態.
第1乃至第4の実施の形態では、非線形キャパシタ回路4が2つのコンデンサC41,C42を有する態様について説明した。図16に例示されるように、第5の実施の形態にかかる非線形キャパシタ回路4は3つのコンデンサC41〜C43を有している。なお3つに限らず4つ以上のコンデンサを有していても良い。非線形キャパシタ回路4においては、直流電源線LHから直流電源線LLへとコンデンサC41〜C43を流れる電流は互いに直列接続されたコンデンサC41〜C43を流れ、直流電源線LLから直流電源線LHへと流れる電流は互いに並列接続されたコンデンサC41〜C43を流れる。
【0167】
図16の例示では、非線形キャパシタ回路4は、ダイオードD41〜D46と、スイッチング素子S41〜S44を備えている。2個のダイオードD41,D44は3個のコンデンサC41〜C43の相互間に設けられている。ダイオードD41,D44のいずれもが、そのアノードを直流電源線LHに、そのカソードを直流電源線LLにそれぞれ向けてコンデンサC41〜C43と共に互いに直列接続されている。
【0168】
スイッチング素子S44とダイオードD46とは、ダイオードD41のアノードと当該アノードと隣り合って設けられるコンデンサC41との間と、直流電源線LLとの間で、互いに直列接続されている。スイッチング素子S42とダイオードD43とは、ダイオードD44のアノードと当該アノードと隣り合って設けられるコンデンサC42との間と、直流電源線LLとの間に設けられている。
【0169】
スイッチング素子S43とダイオードD45とは、ダイオードD44のカソードと当該カソードと隣り合って設けられるコンデンサC43との間と、直流電源線LHとの間で、互いに直列接続されている。スイッチング素子S41とダイオードD42とは、ダイオードD41のカソードと当該カソードと隣り合って設けられるコンデンサC42との間と、直流電源線LHとの間に設けられている。
【0170】
ダイオードD42,D43,D45,D46のいずれもがそのアノードを直流電源線LL側にカソードを直流電源線LH側にそれぞれ向けて配置される。
【0171】
かかる非線形キャパシタ回路4によれば、直流電源線LHからコンデンサC41〜C43及びダイオードD41,D44を経由して直流電源線LL側へと電流が流れることにより、コンデンサC41〜C43は互いに直列状態で電流が流れる。またスイッチング素子S41〜S44の導通により、コンデンサC41〜C43は互いに並列状態で電流が流れる。
【0172】
したがって、かかる非線形キャパシタ回路4によれば、放電時のコンデンサC41〜C43による直流電圧Vdcは、充電時のコンデンサC41〜C43による直流電圧Vdcの3分の1である。
【0173】
本第5の実施の形態においても第1の実施の形態と同様に、放電時における電流分配率dcの最大値を充電時の電流分配率dcの最大値より高くすることで、直流電圧Vdcの低下分を抑制することができる。
【0174】
また第2の実施の形態と同様に、放電時の電流分配率dcの最大値を充電時の電流分配率dcの最大値の3(=コンデンサの数)倍とすることで、脈動による直流電圧Vdcの変動の振幅を更に抑制することができる。より具体的には、放電時の電流分配率dcとして式(22)を採用することが望ましい。
【0175】
また第3の実施の形態と同様に、放電時の電流分配率dcの最大値を充電時の電流分配率dcの最大値の5(=2×コンデンサの数−1)倍よりも低く設定することで、直流電圧Vdcの平均の脈動を低減することができる。
【0176】
第6の実施の形態.
第1乃至第5の実施の形態では、複数のスイッチング素子を有した非線形キャパシタ回路4を例示した。第6の実施の形態では、図17に例示されるように、非線形キャパシタ回路4は一つのスイッチング素子S47を備えている。図17の例示では非線形キャパシタ回路4は2つのコンデンサC41,C42とダイオードD41〜D43を有している。
【0177】
ダイオードD41はそのアノードを直流電源線LH側にそのカソードを直流電源線LL側にそれぞれ向けて、直流電源線LH,LLの間に設けられる。コンデンサC41,C42はダイオードD41に対してそれぞれ直流電源線LH,LL側に設けられ、ダイオードD41とともに相互に直列に接続される。
【0178】
ダイオードD42は、ダイオードD41のカソードとコンデンサC42との間の点と、直流電源線LHとの間に設けられる。ダイオードD43は、ダイオードD41のアノードとコンデンサC41との間の点と、直流電源線LLとの間に設けられる。ダイオードD42,D43はそのアノードを直流電源線LL側に、そのカソードを直流電源線LH側にそれぞれ向けて配置される。
【0179】
スイッチング素子S47はダイオードD42のカソードと直流電源線LHとの間に設けられている。より具体的には、スイッチング素子S47はその一端がダイオードD42のカソード及びコンデンサC41と共通して接続され、その他端が直流電源線LHに接続されている。
【0180】
ダイオードD47は、そのアノードを直流電源線LH側にそのカソードを直流電源線LL側にそれぞれ向けて、スイッチング素子S47と並列接続される。
【0181】
かかる非線形キャパシタ回路4によれば、直流電源線LHからコンデンサC41,C42及びダイオードD41,D47を経由して直流電源線LL側へと電流が流れることにより、コンデンサC41,C42には互いに直列状態で電流が流れる。またスイッチング素子S47の導通により、コンデンサC41,C42は互いに並列状態で電流が流れる。しかも、第1乃至第5の実施の形態に比べて一つのスイッチング素子S47のみで非線形キャパシタ回路4の選択機能を実現できるため、製造コストを低減することができる。
【0182】
なお、スイッチング素子S47はダイオードD43のアノードと直流電源線LLとの間に設けられていてもよい。より具体的には、スイッチング素子S47の一端がダイオードD43のアノードとコンデンサC42とに共通して接続され、その他端が直流電源線LLに接続されてもよい。このとき、ダイオードD42のカソードは直流電源線LHに接続される。
【0183】
また非線形キャパシタ回路4が有するコンデンサの個数に限らずスイッチング素子は一つでよい。例えば図16においてスイッチング素子S41〜S44の代わりに、一つのスイッチング素子の一端がダイオードD42,D45のカソードとコンデンサC41とに接続され、その他端が直流電源線LHに接続されていれば良い。また一つのスイッチング素子の一端がダイオードD43,D46のカソードとコンデンサC43とに共通して接続され、その他端が直流電源線LLに接続されていても良い。
【0184】
また第4の実施の形態と同様にスイッチS7を、ダイオードD31,D32の間又はダイオードD33,D34の間と、コンデンサC41,C42との間に設ければ、初期的にコンデンサC41,C42の両端電圧が振幅Vmとなるように充電できる。
【符号の説明】
【0185】
3 単相ダイオード整流器
4 非線形キャパシタ回路
5 インバータ
C41〜C43 コンデンサ
D41〜D47 ダイオード
LH,LL 直流電源線
S41〜S44,S47 スイッチング素子
ts,trec,tc,tz 期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相交流電圧が入力される単相ダイオード整流器(3)と、
前記単相ダイオード整流器の出力側に接続された第1の電源線(LH)と、
記単相ダイオード整流器の出力側に接続され、前記第1の電源線よりも低い電位が印加される第2の電源線(LL)と、
前記第1及び前記第2の電源線の間に設けられたN(Nは2以上の自然数)個のコンデンサ(C41〜C43)を有し、前記第1の電源線から前記第2の電源線へと前記N個のコンデンサを流れる電流は互いに直列接続された前記N個のコンデンサを流れ、前記第2の電源線から前記第1の電源線へと流れる電流は互いに並列接続された前記N個のコンデンサを流れる非線形キャパシタ回路(4)と、
前記第1及び前記第2の電源線の間の電圧が入力され、電圧ベクトルに基づいて動作するインバータ(5)と
を備える単相/三相直接変換装置を制御する方法であって、
第1乃至第3の期間(trec,tc,tz)の和で表される一定の所定期間(ts)の各々において、前記第1期間に前記単相ダイオード整流器に電流を流し、前記第3期間に前記インバータに前記電圧ベクトルとして零電圧ベクトルを採用した動作を行わせ、
前記所定期間の各々において、前記単相交流電圧の絶対値が所定値よりも低いときには前記第2期間において前記N個のコンデンサを互いに並列接続し、前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも高いときには前記第2期間において互いに直列接続された前記N個のコンデンサに電流を流し、
前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも低いときの前記第2期間の最大値は前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも高いときの前記第2期間の最大値よりも大きい、単相/三相直接変換装置の制御方法。
【請求項2】
前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも低いときの前記第2期間(tc)の最大値は前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも高いときの前記第2期間の最大値の(2N−1)倍よりも小さい、請求項1に記載の単相/三相直接変換装置の制御方法。
【請求項3】
前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも低いときの前記第2期間(tc)の最大値は前記単相交流電圧の絶対値が前記所定値よりも高いときの前記第2期間の最大値のN倍である、請求項1に記載の単相/三相直接変換装置の制御方法。
【請求項4】
前記N個のコンデンサ(C41〜C43)の各々の両端電圧が前記所定値以上となるように予め前記N個のコンデンサを充電する、請求項1乃至3の何れか一つに記載の単相/三相直接変換装置の制御方法。
【請求項5】
前記非線形キャパシタ回路(4)は、
前記N個のコンデンサ(C41〜C43)の相互間に設けられ、アノードを前記第1の電源線(LH)にカソードを前記第2の電源線(LL)にそれぞれ向けて前記第Nのコンデンサと共に互いに直列接続される第1乃至第(N−1)の充電用ダイオード(D41,D44)と、
前記第1乃至第(N−1)の充電用ダイオードの各々のアノードと前記アノードと隣り合って設けられる前記コンデンサとの間と、前記第2の電源線との間に設けられ、アノードを前記第2の電源線側にカソードを前記第1の電源線側にそれぞれ向けて配置される(N−1)個の第1の放電用ダイオード(D43,D46)と、
前記第1乃至第(N−1)の充電用ダイオードの各々のカソードと前記カソードと隣り合って設けられる前記コンデンサとの間と、前記第1の電源線との間に設けられ、アノードを前記第2の電源線側にカソードを前記第1の電源線側にそれぞれ向けて配置される(N−1)個の第2の放電用ダイオード(D42,D45)と、
前記(N−1)個の第1の放電用ダイオードと前記(N−1)個の第2の放電用ダイオードとそれぞれ直接接続される2(N−1)個のスイッチ(S41〜S44)と
を備える、請求項1乃至4の何れか一つに記載の単相/三相直接変換装置の制御方法。
【請求項6】
前記非線形キャパシタ回路(4)は、
アノードを前記第1の電源線(LH)にカソードを前記第2の電源線(LL)にそれぞれ向けて前記N個のコンデンサの相互間にそれぞれ設けられる第1乃至第(N−1)の充電用ダイオード(D41)と、
前記第1乃至第(N−1)の充電用ダイオードの各々のアノードと前記アノードと隣り合って設けられる前記コンデンサとの間と、前記第2の電源線との間に設けられ、アノードを前記第2の電源線側にカソードを前記第1の電源線側にそれぞれ向けて配置される(N−1)個の第1の放電用ダイオード(D43)と、
前記第2乃至第Nの充電用ダイオードの各々のカソードと前記カソードと隣り合って設けられる前記コンデンサとの間と、前記第1の電源線の間に設けられ、アノードを前記第2の電源線側にカソードを前記第1の電源線側にそれぞれ向けて配置される(N−1)個の第2の放電用ダイオード(D42)と、
前記(N−1)個の第1の放電用ダイオードのアノードと前記第2の電源線との間又は前記(N−1)個の第2の放電用ダイオードのカソードと前記第1の電源線との間に設けられるスイッチ素子(S47)と、
アノードを前記第1の電源線にカソードを前記第2の電源線にそれぞれ向けて前記スイッチ素子と並列に接続される第Nの充電用ダイオード(D47)と
を備える、請求項1乃至4の何れか一つに記載の単相/三相直接変換装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図8】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−50159(P2011−50159A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195768(P2009−195768)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】