説明

単結晶シリコンの製造方法

【課題】特に多量のドーパントを添加した場合にあっても、結晶成長中のセル成長を未然に回避して低抵抗の単結晶シリコンを製造し得る手法について提案する。
【解決手段】チョクラルスキー法により単結晶シリコンを製造するに当たり、単結晶シリコンを引き上げ時における固液界面の高さを制御することによって、低抵抗率の単結晶シリコンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法による単結晶シリコンの製造方法、特に抵抗率の低い単結晶シリコンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの製品性能の改善のために、単結晶シリコンの低抵抗化が要望されている。シリコンウェーハにおける抵抗率は、主にドーパントの添加量に応じて決定される。
例えば、N型単結晶シリコンでは、微量のリン(P)、アンチモン(Sb)、砒素(As)およびゲルマニウム(Ge)等のドーパントがシリコン原料融液に添加され、抵抗率が制御されている。
【0003】
ここで、単結晶シリコンの低抵抗化について、特許文献1には、ドーパントに砒素を用い、砒素に対するシリコンのモル比を45%から50%の範囲内となるようにドープすることにより、2.0mΩ・cm程度の抵抗率を有する単結晶シリコンを製造することが、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許公開2005−314213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、携帯電話機等の小型機器が広く普及するようになった。こうした小型機器では、長時間携行して使用可能なことが強く求められており、小型機器に内蔵するバッテリーの大容量化や、小型機器自体の消費電力を低減する取り組みがなされている。小型機器自体の消費電力を低減させるには、小型機器の内部に搭載される半導体デバイスの消費電力を低減させることが必要である。
例えば、小型機器の電力用デバイスとして使用される低耐圧パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)は、ON(導通)となったときにその内部にある一定の抵抗を有するため、低耐圧パワーMOSFETに流れる電流に応じてそれ自身が電力を消費する。したがって、低耐圧パワーMOSFETがONとなったときの内部抵抗を小さくすることができれば、小型機器の消費電力を低減させることが可能となる。そのような背景から、低耐圧パワーMOSFETがONとなったときの抵抗を小さくするために、低抵抗率のn型単結晶が強く求められている。
【0006】
ここで、更なる低抵抗化を実現するには、より多量のドーパントをシリコン原料融液に添加する必要があるが、かようにドーパントを多量に添加して、単結晶シリコンをチョクラルスキー法により製造する場合、結晶の引き上げ中に、いわゆるセル成長が発生し、単結晶化が阻害されることが問題であった。
ここで、セル成長とは、結晶成長中において、組成的過冷却によって起こる現象であり、結晶成長方向の温度勾配と成長速度との比の低下によって起こり、単結晶化を阻害する要因となる。
【0007】
そこで、本発明は、特に多量のドーパントを添加した場合にあっても、結晶成長中のセル成長を未然に回避して低抵抗の単結晶シリコンを製造し得る手法について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、特に不純物(ドーパント)をドープした結晶において顕著に現れるストリエーション(成長縞)に着目し、このストリエーションとセル成長の発生との相関について鋭意究明したところ、該ストリエーションが結晶の成長方向に凸となる形状を示している場合に、セル成長が全く発生していないこと、従って無転位で結晶が成長していることが判明した。
そこで、さらに製造後のインゴットにおけるストリエーションの形状と転位の有無とを詳細に検討したところ、1つのストリエーションにおいて、インゴットの径方向端からの結晶成長方向への変位をストリエーション高さとしたとき、この高さとセル成長の発生との間に極めて強い相関があることを見出した。このストリエーションは、結晶成長中の固液界面を示しているものであり、従って、結晶成長中の固液界面の高さを制御することによって、多量のドーパントを添加した場合にあっても無転位の下での結晶成長が可能であることを、ここに新規に見出すに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
1.チョクラルスキー法により単結晶シリコンを製造するに当たり、単結晶シリコンを引き上げ時における固液界面の高さを制御することによって、低抵抗率の単結晶シリコンを製造することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。
【0010】
2.PおよびGeを添加したシリコン融液から8インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(1)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(1.235×1013)x−(1.310×1015)x+(4.356×1018)x+2.715×1020
…(1)
【0011】
3.PおよびGeを添加したシリコン融液から6インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(2)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(2.042×1014)x−(4.674×1014)x+(4.242×1018)x+3.107×1020
…(2)
【0012】
4.Pを添加したシリコン融液から8インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(3)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(1.235×1013)x−(1.310×1015)x+(4.356×1018)x+2.715×1020
…(3)
【0013】
5.Pを添加したシリコン融液から6インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(4)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(2.042×1014)x−(4.674×1014)x+(4.242×1018)x+3.107×1020
…(4)
【0014】
6.Asを添加したシリコン融液から8インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(5)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(4.273×1012)x−(1.978×1014)x+(8.134×1017)x+5.008×1019
…(5)
【0015】
7.Asを添加したシリコン融液から6インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(6)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(4.009×1013)x−(8.890×1012)x+(7.934×1017)x+5.740×1019
…(6)
【0016】
8.前記界面高さを、引き上げ時の結晶の回転速度、坩堝の回転速度およびシリコン融液へ印加する磁場強度のいずれか1または2以上を調節して制御することを特徴とする前記1から8のいずれかに記載の単結晶シリコンの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特に多量のドーパントを添加した場合にあっても、セル成長を未然に回避して無転位での結晶成長を実現できるから、極めて低い抵抗率の単結晶シリコンを確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】単結晶シリコンにおけるストリエーションの観察手法を示す説明図である。
【図2】ストリエーションの一例を示す図である。
【図3】単結晶シリコンにおける抵抗率とストリエーション高さとの関係を示す図である。
【図4】単結晶シリコンにおける抵抗率とストリエーション高さとの関係を示す図である。
【図5】単結晶シリコンにおける抵抗率とストリエーション高さとの関係を示す図である。
【図6】界面高さと単結晶シリコンの回転速度との関係を示す図である。
【図7】界面高さと坩堝の回転速度との関係を示す図である。
【図8】界面高さとシリコン融液に印加する磁場強度との関係を示す図である。
【図9】本発明による単結晶シリコンの製造制御システムの概略図である。
【図10】本発明による単結晶シリコンの製造制御システムにて単結晶シリコンを製造するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述のとおり、本発明は、特に不純物をドープした結晶において顕著に現れるストリエーションに着目し、このストリエーションとセル成長の発生有無との相関について鋭意究明した結果に基づいて導かれたものであり、以下に、本発明を導くに至った実験結果について詳しく説明する。
まず、種々の製造条件にて得られたインゴットにおけるストリエーションについて調査した。すなわち、図1(a)に示すように、単結晶シリコンインゴットから、所定の部位、例えば図示のA−A’およびB−B’での切り出しを行い、切断ブロックSを得る。次に、図1(b)に示すように、切断ブロックSについてインゴットの軸上O−O’にて縦割りを行って、縦割り部を採り出す。
【0020】
次に、図1(c)に示すように、採取した縦割り部についてエッチング処理を施して縦割り部採取までの加工歪を除去する。その後、図1(d)に示すように、加工歪みを取り除いた縦割り部につきX線観察を行って、ストリエーションを調査した。このX線観察によるストリエーションの一例を図2に示す。このように、多数のストリエーションを観察することができる。
【0021】
この多数のストリエーションのうち、図1(d)に示すように、1つのストリエーションに着目して、採取した縦割り部の両側縁(インゴット径方向端)におけるストリエーションエッジを原点(0点)としたとき、単結晶シリコンの成長軸O−O’におけるストリエーションの交点とエッジとの、軸O−O’上の間隔を「ストリエーション高さ」として規定する。ここで、図1に例示するストリエーションは略M字状に現れているが、軸上O−O’にて上凸状(以降、ストリエーション高さとして“+”表記する)から下凸状(以降、ストリエーション高さとして“−”表記する)まで多様な形状で現れる。
【0022】
次に、ドーパントの添加量を変えて種々の抵抗率の結晶シリコンを種々の製造条件の下で作製し、得られたシリコンインゴットについて、セル成長の有無並びにストリエーション高さを調査した。なお、セル成長の有無は、上記のようにX線による観察を実施し調査した。
【0023】
その結果を、図3に示すように、ストリエーション高さによってセル成長が発生する場合としない場合があることが、新たに判明した。上述したように、このストリエーションは、結晶成長中の固液界面を示しているものであり、ストリエーション高さは結晶成長中の固液界面の高さ(以下、単に界面高さという)と考えることができるから、この界面高さを制御することによってセル成長を招くことなしに所望の低抵抗率の単結晶シリコンが製造可能であることが、新たに判明した。なお、以降は、ストリエーション高さと界面高さとを同義として扱う。
【0024】
すなわち、多量のドーパントを添加し低い抵抗率の単結晶シリコンを製造する際に、従来はセル成長が発生して単結晶化が阻害されていたところ、本発明に従って、結晶引き上げ中の界面高さを適切に制御することによって、セル成長のない無転位での結晶成長が実現され、低抵抗率の単結晶シリコンを確実に製造することができる。
【0025】
ここで、セル成長のない結晶成長を実現するための界面高さは、ドーパント種、ドーパント添加量(抵抗率)およびインゴット径の条件によって変化する。従って、これらの条件に応じた、セル成長の発生しない界面高さを求めておき、所望の抵抗率に応じた適正界面高さに制御して単結晶シリコンの引き上げを行えばよい。
【0026】
そこで、抵抗率に応じたセル成長を回避するために必要な界面高さに関し、ドーパント種毎に、上述と同様の実験によって具体的に求めた。その結果を、図4および5に示す。
(i)ドーパント:P及びP+Ge
ドーパントとして、P+Geを種々の量で添加し、抵抗率の異なる結晶シリコンを引き上げるに際し、界面高さを様々に変えて結晶シリコンを製造した。かくして得られたシリコンインゴットについて、界面高さとして前記ストリエーション高さを求めると共に、セル成長の有無を調査した。その結果を、インゴット径が8インチおよび6インチの場合に分けて、図4(a)および(b)にそれぞれ示す。
【0027】
なお、シリコン融液中のGe濃度[Ge]Lは、次式(A)に従ってP濃度に換算(シリコン融液中のゲルマニウム濃度をリン濃度に換算した換算濃度[Ge→P]L)されるから、シリコン融液中のドーパント濃度[y]は、次式(B)とすることができ、この濃度換算を介して、ドーパントとしてPを用いる場合と同P+Geを用いる場合とを、同等のドーパント濃度として扱うことができる。従って、ここでは、P+Geをドーパントとした場合について実験を行い、Pをドーパントとした場合の実験を省略する。ちなみに、以上の換算式は、特開2008−297166号公報の記載内容に従うものである。
[Ge→P]L=(0.3151×[Ge]+3.806×1018)/k・・・(A)
但し、[Ge]:Geの固体濃度
k:偏析係数
[y]=[P]L+[Ge→P]L/1.5 ・・・(B)
但し、[P]L:シリコン融液中のP濃度
【0028】
図4(a)および(b)に示すように、ドーパント濃度yおよび界面高さをxとしたとき、
8インチでは
y=(1.235×1013)x−(1.310×1015)x+(4.356×1018)x+2.715×1020
6インチでは
y=(2.042×1014)x−(4.674×1014)x+(4.242×1018)x+3.107×1020
を境として、セル成長の有無が分かれることがわかる。従って、ドーパントがPおよびP+Geの場合は、8インチでは
y≦(1.235×1013)x−(1.310×1015)x+(4.356×1018)x+2.715×1020
6インチでは
y≦(2.042×1014)x−(4.674×1014)x+(4.242×1018)x+3.107×1020
の範囲を満足する界面高さxに制御することによって、セル成長が回避されて無転位での結晶成長が達成される。
【0029】
同様に、ドーパントにAsを用いる場合についても、適切な界面高さを求めたところ、図5に示す結果が得られた。
(ii)ドーパント:As
図5(a)および(b)に示すように、ドーパントにAsを用いる場合、8インチでは
y=(4.273×1012)x−(1.978×1014)x+(8.134×1017)x+5.008×1019
6インチでは
y=(4.009×1013)x−(8.890×1012)x+(7.934×1017)x+5.740×1019
を境として、セル成長の有無が分かれることがわかる。従って、ドーパントがPの場合は、8インチでは
y≦(4.273×1012)x−(1.978×1014)x+(8.134×1017)x+5.008×1019
6インチでは
y≦(4.009×1013)x−(8.890×1012)x+(7.934×1017)x+5.740×1019
の範囲を満足する界面高さxに制御することによって、セル成長が回避されて無転位での結晶成長が達成される。
【0030】
ここで、界面高さの制御は、結晶引き上げ時の諸条件の少なくともいずれかを調節することによって達成できる。具体的には、引き上げ時の結晶の回転速度、坩堝の回転速度およびシリコン融液へ印加する磁場強度のいずれか1または2以上を調節して、界面高さを制御することが好ましい。
すなわち、図6に引き上げ時の結晶の回転速度と界面高さとの関係、図7に引き上げ時の坩堝の回転速度と界面高さとの関係および、図8に引き上げ時の磁場強度と界面高さとの関係、をそれぞれ示すように、いずれの条件も界面高さとの関係が明確であり、これらデータに基づいて所望の界面高さが得られる条件を設定することは容易である。
【0031】
なお、図6〜8に示した事例は、6〜8インチの径の単結晶シリコンを引き上げる際に、対象となる条件以外の条件は一定にして当該条件のみを可変にし、界面高さ(ストリエーション高さ)を測定したものである。
【0032】
次に、以上の本発明に従う製造方法を適用する、単結晶シリコンの引き上げ装置について、図面を参照して詳細に説明する。図9は、本発明に適合する単結晶シリコンの製造設備の概略図である。典型例として、磁場チョクラルスキー結晶成長システムについて説明するが、本発明は、磁場制御を有しないチョクラルスキー結晶成長システムにも適用可能である。
【0033】
図9に示すように、この単結晶シリコンの製造設備は、結晶引上装置1と、引上・回転制御装置2と、ヒータ電力制御装置3と、坩堝回転制御装置4と、水平磁場制御装置5と、データ入力装置6と、制御コンピュータ7と、データ記憶装置8とを備える。
【0034】
結晶引上装置1は、単結晶シリコンの引き上げを行う装置であり、プルチャンバ15とメインチャンバ16からなるチャンバ内は、例えばアルゴンガス等の不活性ガスを供給又は排気して、所定の気密状態が保持される(図示せず)。
【0035】
メインチャンバ16内には、坩堝17(例えば、外側を黒鉛坩堝、内側を石英坩堝で構成する)が回転軸22を中心に回転可能に設置される。回転軸22は、モータ(M)23により所望の回転速度で回転される。モータ(M)23は、坩堝回転制御装置4に接続される。坩堝回転制御装置4は、制御コンピュータ7に接続され、制御コンピュータ7からの制御信号により坩堝17の回転速度を調整することができる。尚、坩堝回転制御装置4は、坩堝17の回転速度の調整に加え、坩堝17の上下方向の移動を制御することもできる。
【0036】
坩堝17を囲繞するように、坩堝17内の原料融液となるシリコン原料溶液(F)を溶融するためのヒータ18が設けられる。ヒータ18は、ヒータ用電極端子21を介してヒータ電力制御装置3に接続される。ヒータ電力制御装置3は、制御コンピュータ7に接続され、制御コンピュータ7からの制御信号によりヒータ18の熱量を調整するための供給電力を制御することができる。
【0037】
プルチャンバ15内の最上部には、単結晶シリコンSを引上げるための単結晶シリコン引上器11が設けられている。単結晶シリコン引上器11は、単結晶シリコンSを所定の引き上げ速度及び回転速度で引き上げ可能にする器具であり、例えば多軸のモータ(M)で構成することができる。単結晶シリコン引上器11は、引上・回転制御装置2に接続される。引上・回転制御装置2は、制御コンピュータ7に接続され、制御コンピュータ7からの制御信号により単結晶シリコン引上器11による単結晶シリコンSの引上げ速度及び回転速度を調整することができる。
【0038】
メインチャンバ16の周囲には、単結晶シリコンの引上げ方向(図示における上下方向)に対して垂直な水平面方向に、透磁性断熱材19を介してシリコン原料溶液(F)に対して水平磁場を発生させるコイル20が設けられる。また、リン(P)、アンチモン(Sb)、砒素(As)、ゲルマニウム(Ge)等のドーパントがシリコン原料融液(F)に添加される。コイル20は、水平磁場制御装置5に接続される。水平磁場制御装置5は、制御コンピュータ7に接続され、制御コンピュータ7からの制御信号によりコイル20の磁場を調整することができる。
【0039】
プルチャンバ15内にて、単結晶シリコン引上器11からワイヤ12が上下回転自在なように垂下される。ワイヤ12の先端には種結晶ホルダ13が取付けられ、種結晶ホルダ13は種結晶14を把持するためのものである。
【0040】
従って、この種結晶14をシリコン原料溶液(F)に浸漬し、続いてワイヤ12を回転させながら徐々に引上げることによって、単結晶シリコンSを成長させつつ引上げることができる。
【0041】
ここで、制御コンピュータ7には、データ入力装置6とデータ記憶装置8が接続され、データ記憶装置8は、単結晶シリコン成長条件データ(上述した単結晶シリコンSの引上げ速度及び回転速度、ヒータ電力、坩堝回転速度及び上下移動位置、水平磁場強度等のパラメータ)を格納している。また、データ入力装置6は、所望のウェーハサイズの値、ドーパントの種別、及び単結晶シリコンの抵抗率の範囲等の情報を制御コンピュータ7に設定する機能を有する。制御コンピュータ7は、所望のウェーハサイズの値、ドーパントの種別、及び単結晶シリコンの抵抗率の値から、データ記憶装置8に格納されている単結晶シリコン成長条件データを読み出して、所望の単結晶シリコンを得るためのパラメータの値を決定し、各パラメータに対応する制御信号を引上・回転制御装置2、ヒータ電力制御装置3、坩堝回転制御装置4、及び水平磁場制御装置5に送出することができる。
【0042】
このようにして、図9に示す磁場チョクラルスキー結晶成長システムは、単結晶シリコンの仕様及び目的に応じて、所望の抵抗率の下での成長条件を設定することによって、界面高さを制御して単結晶シリコンを成長させることができる。
【0043】
ここで、所望の抵抗率が極めて低い抵抗率(例えば、0.5〜1.4mΩ・cm)である場合や所定の抵抗率の範囲内で単結晶の形成が要求される場合に、低抵抗の単結晶シリコンをセル成長なしに製造するために、上述の図4〜6に示したデータを「抵抗率制御データ」としてデータ記憶装置8に格納しておく。この制御コンピュータ7は、「抵抗率制御データ」を基準とする単結晶シリコン成長条件データの各パラメータを読み出して、所望の単結晶シリコンを得るためのパラメータの値を決定し、各パラメータに対応する制御信号を引上・回転制御装置2、ヒータ電力制御装置3、坩堝回転制御装置4、及び水平磁場制御装置5に送出する。
【0044】
図10は、本発明に従う単結晶シリコンの製造装置にて単結晶シリコンを製造する手順を示すフローチャートである。
「抵抗率制御データ」は、図4および5に示したデータであり、これを、予めデータ記憶装置8に格納しておくことができる。
【0045】
すなわち、単結晶シリコン成長条件データ(上述した単結晶シリコンSの引上げ速度及び回転速度、ヒータ電力、坩堝回転速度及び上下移動位置、水平磁場速度等のパラメータ)とドーパントの種別のほかに、「単結晶シリコンにおける抵抗率と界面高さの関係」を表すデータを予め取得することで、容易に低抵抗率の単結晶シリコンの製造をセル成長なしに実現できるようになる。更に、低抵抗率の単結晶シリコンの製造方法に限らず、所望される任意の抵抗率の単結晶シリコンの健全な成長の実現のために、この「単結晶シリコンにおける抵抗率と界面高さの関係」を表すデータを利用することが可能である。
【0046】
図10を参照して、低抵抗の単結晶シリコンをセル成長抑制の下に製造する手順を説明する。ここで、シリコン多結晶の原料を坩堝17内に充填して溶融したシリコン原料溶液(F)に、リン、ゲルマニウム、又は砒素などのドーパントを添加し、ドーパントが溶解したシリコン原料融液に、単結晶シリコンからなる種結晶を接触させて、単結晶シリコンを成長させる段階において、以下のステップを踏むこととする。
【0047】
ステップS1にて、制御コンピュータ7には、データ入力装置6を介して、所望の抵抗率が設定される。
【0048】
ステップS2にて、制御コンピュータ7は、入力された所望の抵抗率に対応する界面高さを、データ記憶装置8に格納されている「単結晶シリコンにおける抵抗率と界面高さの関係」を表すデータ(図4および5)を参照して決定する。
【0049】
ステップS3にて、制御コンピュータ7は、決定した界面高さを満たす単結晶シリコンの成長条件を、データ記憶装置8に格納されている単結晶シリコン成長条件データ(上述した単結晶シリコンSの引上げ速度及び回転速度、ヒータ電力、坩堝回転速度、水平磁場速度等のパラメータ)を参照して所望の単結晶シリコンを得るためのパラメータの値として決定する。
【0050】
尚、「界面高さ」によって単結晶シリコン成長条件データの各パラメータを決定するデータ(例えば、図6〜8に示したデータ)を個別に生成してデータ記憶装置8に格納しておく。
【0051】
ステップS4にて、制御コンピュータ7は、決定した各パラメータに対応する制御信号を引上・回転制御装置2、ヒータ電力制御装置3、坩堝回転制御装置4、及び水平磁場制御装置5に送出して、単結晶シリコンの引上げ動作を実行する。
【0052】
ここで、上述したパワーデバイスに供する単結晶シリコンには、例えば1.4mΩ・cm以下の抵抗率を具備することが望まれており、例えばPをドーパントとする場合、抵抗率が1.4mΩ・cm以下となるPのドーパント濃度は1.82×1020atoms/cm以上であるため、図4に示すところに従って、界面高さが−20mm以上となるように単結晶シリコン成長時の界面高さを制御することにて、この低抵抗率の単結晶シリコンが得られる。尚、界面高さが25mm以上となるときは、ほぼ抵抗率も平衡状態になることから特に好適な界面高さの上限値を規定する必要はないが、パラメータの制御に必要となる場合には、例えば界面高さが−20mm以上、+25mm以下となるように規定することができる。
【0053】
更に、本発明の一態様として、制御コンピュータ7は、汎用のコンピュータで実現することができ、図10に示す各ステップを実行するためのプログラムは、当該汎用のコンピュータの内部又は外部に記憶する記憶装置(上述したデータ記憶装置8とすることもできる)に格納することができる。また、コンピュータに備えられる制御部は、中央演算処理装置(CPU)などの制御で実現することができる。即ち、CPUが、各処理内容を実行するための処理内容が記述されたプログラムを、適宜、当該記憶装置から読み込んで、図10に示す各ステップを実行することができる。ここで、各ステップをハードウェアの一部で実現してもよい。
【0054】
また、この処理内容を記述したプログラムを、例えばDVD又はCD−ROMなどの可搬型記録媒体の販売、譲渡、貸与等により流通させることができるほか、そのようなプログラムを、例えばネットワーク上にあるサーバの記憶部に記憶しておき、ネットワークを介してサーバから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、流通させることができる。
【0055】
また、そのようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラム又はサーバから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶部に記憶することができる。また、このプログラムの別の実施態様として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、更に、このコンピュータにサーバからプログラムが転送される度に、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。
【0056】
以上、具体例を挙げて本発明の実施例を詳細に説明したが、本発明の特許請求の範囲から逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能であることは当業者に明らかである。例えば、磁場チョクラルスキー結晶成長システムについて説明したが、水平磁場を用いないチョクラルスキー結晶成長システムに適用することもできる。更に、特定のウェーハサイズやドーパント等に限定されることなく、本発明を適用することができる。従って、本発明は上記の実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、適切な界面高さの下に単結晶シリコンを成長させ、低抵抗の単結晶シリコンが製造できるため、所望の抵抗率の単結晶シリコンを製造することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 結晶引上装置
2 引上・回転制御装置
3 ヒータ電力制御装置
4 坩堝回転制御装置
5 水平磁場制御装置
6 データ入力装置
7 制御コンピュータ
8 データ記憶装置
11 単結晶シリコン引上器
12 ワイヤ
13 種結晶ホルダ
14 種結晶
15 プルチャンバ
16 メインチャンバ
17 坩堝
18 ヒータ
19 透磁性断熱材
20 コイル
21 ヒータ用電極端子
22 回転軸
23 モータ(M

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により単結晶シリコンを製造するに当たり、単結晶シリコンを引き上げ時における固液界面の高さを制御することによって、低抵抗率の単結晶シリコンを製造することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
PおよびGeを添加したシリコン融液から8インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(1)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(1.235×1013)x−(1.310×1015)x+(4.356×1018)x+2.715×1020
…(1)
【請求項3】
PおよびGeを添加したシリコン融液から6インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(2)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(2.042×1014)x−(4.674×1014)x+(4.242×1018)x+3.107×1020
…(2)
【請求項4】
Pを添加したシリコン融液から8インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(3)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(1.235×1013)x−(1.310×1015)x+(4.356×1018)x+2.715×1020
…(3)
【請求項5】
Pを添加したシリコン融液から6インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(4)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(2.042×1014)x−(4.674×1014)x+(4.242×1018)x+3.107×1020
…(4)
【請求項6】
Asを添加したシリコン融液から8インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(5)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(4.273×1012)x−(1.978×1014)x+(8.134×1017)x+5.008×1019
…(5)
【請求項7】
Asを添加したシリコン融液から6インチ径の単結晶シリコンを引き上げるに際し、固液界面の高さxを、該単結晶シリコンの抵抗率yに関する下記式(6)を満足する範囲に制御することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。

y≦(4.009×1013)x−(8.890×1012)x+(7.934×1017)x+5.740×1019
…(6)
【請求項8】
前記界面高さを、引き上げ時の結晶の回転速度、坩堝の回転速度およびシリコン融液へ印加する磁場強度のいずれか1または2以上を調節して制御することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の単結晶シリコンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−57476(P2011−57476A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206441(P2009−206441)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000184713)SUMCO TECHXIV株式会社 (265)
【Fターム(参考)】