説明

単結晶引上方法

【課題】ルツボ内の溶融液面において、育成中結晶の外周近傍から外側に向けて流れる離心流(外向流)を形成し、結晶の有転位化を抑制する。
【解決手段】単結晶Cを引き上げる際、前記単結晶とルツボ3とを互いに逆方向に回転させ、前記単結晶の回転速度を、該単結晶と溶融液との固液界面における結晶外周の周方向線速度が150mm/s以上となるように制御し、前記ルツボの回転速度を、0〜5rpmの間で制御することによって、前記溶融液の液面にルツボ中央側から外側に向けて流れる離心流を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によって単結晶を育成しながら引き上げる単結晶引上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法が広く用いられている。この方法は、図7に示すように、炉体55内においてヒータ52の熱によりルツボ50内にシリコン溶融液Mを形成し、その表面に種結晶Pを接触させ、ルツボ50を回転させるとともに、この種結晶Pをルツボ50と反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶Pの下端に単結晶Cを形成していくものである。
【0003】
このCZ法を実施する単結晶引上装置においては、特許文献1に開示されるように、単結晶Cの引上領域を囲むように、ルツボの上方に輻射シールド51が設けられる。輻射シールド51は、育成する単結晶Cの外周面への輻射熱を効果的に遮断するものであって、これにより引き上げ中の単結晶Cの凝固を促進し、単結晶Cを速やかに冷却することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−87996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、単結晶Cの引き上げ過程にあっては、固化率(重量換算で、原料シリコン100%に対し育成した単結晶の割合)の増加に伴い、輻射シールド51内に占める単結晶Cの割合が大きくなり、シールド内温度およびシールド外側の表面温度が次第に低下する。そのため、図8に示すように溶融液面M1から蒸発されたSiO、或いはSiOとヒータ等のカーボン材との反応により生じた炭化珪素等の異物Fが輻射シールド51の外側表面に付着しやすくなる。
また、単結晶Cの引き上げに伴い溶融液Mが減少するが、ルツボ50を上昇制御することにより、炉体55に対し位置固定された輻射シールド51の下端と溶融液面M1との距離は略一定に維持される。ここで、単結晶Cの引き上げが更に進行し、ルツボ50が上昇されると、石英ルツボ50の内壁面と輻射シールド51の外側表面とがより接近し、ルツボ50の熱により輻射シールド51が加熱され、その外側表面の温度は上昇に転じる。一方、輻射シールド51とルツボ50内壁面との間の距離が狭くなるため、輻射シールド51の外側表面を流れるガスの速度が高速化される。
【0006】
このように輻射シールド51の外側表面の温度が上昇し、前記のように輻射シールド51の外側表面を流れるガスの速度が高速化すると、輻射シールド51の外側表面に付着した異物Fがガス流によって剥離され、溶融液面M1に落下して結晶の有転位化を誘発するという課題があった。具体的に説明すると、石英ルツボ50内の溶融液Mにおいて、ルツボ近傍は高温となり、単結晶Cの近くは相対的に低温となっている。このため、ルツボ50内の溶融液Mには、溶融液面M1においてルツボ中央の単結晶Cに向かって流れる向心流が形成されている。そのため、溶融液面M1に前記した異物Fが落下すると、前記向心流によって異物Fが育成中の単結晶Cや固液界面近傍に付着し、それが結晶の有転位化を誘発するという課題があった。
【0007】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上方法であって、前記ルツボ内の溶融液面において、育成中の単結晶の外周近傍から外側に向けて流れる離心流(外向流)を形成し、結晶の有転位化を抑制することのできる単結晶引上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上方法は、ヒータの加熱によりルツボ内にシリコン溶融液を形成し、前記ルツボからチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、前記単結晶を引き上げる際、前記単結晶と前記ルツボとを互いに逆方向に回転させ、前記単結晶の回転速度を、該単結晶と溶融液との固液界面における結晶外周の周方向線速度が150mm/s以上となるように制御し、かつ、前記ルツボの回転速度を、0〜5rpmの間で制御することによって、前記溶融液の液面にルツボ中央側から外側に向けて流れる離心流を形成することに特徴を有する。
【0009】
このような方法によれば、溶融液面において遠心力を強く働かせることができ、ルツボ中央から外側に向かう離心流(外向流)を形成することができる。
したがって、輻射シールドから溶融液面に異物が落下したとしても、液面上の異物を単結晶から前記離心流によって引き離すことができ、結晶の有転位化を防止することができる。
【0010】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上方法は、ヒータの加熱によりルツボ内にシリコン溶融液を形成し、前記ルツボの周囲に配置された上下一対の電磁コイルにより、ルツボ内の溶融液に対しカスプ磁場を印加すると共に、前記ルツボからチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、前記カスプ磁場の中立面を、そのルツボ中央側の高さ位置が、シリコン溶融液面よりも上方であって、且つルツボ内壁側よりも前記溶融液面から離れた位置となるよう山なりに形成し、前記単結晶を引き上げる際、前記単結晶と前記ルツボとを互いに逆方向に回転させ、前記単結晶の回転速度を、該単結晶と溶融液との固液界面における結晶外周の周方向線速度が100mm/s以上となるように制御し、かつ、前記ルツボの回転速度を、0〜5rpmの間で制御することによって、前記溶融液の液面にルツボ中央側から外側に向けて流れる離心流を形成することに特徴を有する。
【0011】
このような方法によれば、溶融液面において遠心力を働かせることができ、且つ、中立面の位置が制御されたカスプ磁場により、ルツボ中央から外側に向かう離心流(外向流)を形成することができる。
したがって、輻射シールドから溶融液面に異物が落下したとしても、液面上の異物を単結晶から前記離心流によって引き離すことができ、結晶の有転位化を防止することができる。
【0012】
尚、前記ルツボ内の溶融液に対しカスプ磁場を印加する際、前記ルツボの中心軸上におけるカスプ磁場の中立面の高さ位置と溶融液面との距離寸法をMP(mm)とし、育成中の結晶直径をΦ(mm)とし、前記ルツボの内径をΦ(mm)とすると、前記距離寸法MPは、下記式(1)により規定されることが望ましい。
[数1]
MP=(0.01〜0.15)×Φ×(Φ/Φ) ・・・(1)
また、前記離心流を形成する際、前記ルツボの内壁面またはその延長面と、カスプ磁場の中立面とが交差する円周上の磁束密度をB(Gauss)とし、ルツボ内径をΦ(mm)とし、前記ルツボの側方に配された前記ヒータの発熱部の高さ寸法をL(mm)とすると、前記磁束密度Bは、下記式(2)により規定されることが望ましい。
[数2]
=(100〜1000)×(Φ/L) ・・・(2)
また、前記離心流を形成する際、前記溶融液に印加される磁場強度が、ルツボ中央側よりもルツボ内壁側において強い状態となるよう前記上下一対の電磁コイルが前記ルツボに対して配置されていることが望ましい。
或いは、前記離心流を形成する際、前記溶融液に印加される磁場強度が、ルツボ中央側よりもルツボ内壁側において強い状態となるよう前記上下一対の電磁コイルにそれぞれ流す電流値を制御してもよい。その場合、前記上下一対の電磁コイルの総電流比率C/Cは、下記式(3)により規定されることが望ましい。
[数3]
10/90≦C/C≦49/51 ・・・(3)
【0013】
このように溶融液に印加するカスプ磁場を制御することにより、単結晶の外周近傍よりもルツボ内壁側において強い磁場を印加することができ、結晶外周近傍に強制対流を生じさせ、離心流(外心流)をより発達させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上方法であって、前記ルツボ内の溶融液面において、育成中の単結晶の外周近傍から外側に向けて流れる離心流(外向流)を形成し、結晶の有転位化を抑制することのできる単結晶引上方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係る単結晶引上方法が実施される単結晶引上装置の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、図1の単結晶引上装置の一部拡大断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る単結晶引上方法の流れを示すフローである。
【図4】図4は、本発明に係る実施例の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明に係る実施例におけるルツボ内の溶融液の対流パターンを示すグラフである。
【図6】図6は、比較例におけるルツボ内の溶融液の対流パターンを示すグラフである。
【図7】図7は、従来の単結晶引上方法を説明するための断面図である。
【図8】図8は、従来の単結晶引上方法における課題を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る単結晶引上方法の実施の形態について図面に基づき説明する。図1は本発明に係る単結晶引上方法が実施される単結晶引上装置の全体構成を示すブロック図である。また、図2は、図1の単結晶引上装置の一部拡大断面図である。
この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ2aの上にプルチャンバ2bを重ねて形成された炉体2と、炉体2内に設けられたルツボ3と、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を溶融して溶融液Mとする抵抗加熱ヒータ4(以下、単にヒータと呼ぶ)と、育成される単結晶Cを引上げる引上げ機構5とを有している。
【0017】
前記ヒータ4には、ルツボ3を囲むように円筒状のスリット部4aが発熱部として設けられている。
また、ルツボ3は二重構造であり、内側が石英ガラスルツボ3a、外側が黒鉛ルツボ3bで構成されている。
また、引上げ機構5は、モータ駆動される巻取り機構5aと、この巻取り機構5aに巻き上げられる引上げワイヤ5bを有し、このワイヤ5bの先端に種結晶Pが取り付けられている。
【0018】
また、メインチャンバ2a内において、ルツボ3の上方且つ近傍には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド6が配置されている。この輻射シールド6は、上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cにヒータ4等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
尚、輻射シールド6は、炉体2内において位置固定されるが、輻射シールド6下端と溶融液面M1との間の距離寸法(ギャップ)は、単結晶Cの育成に伴いルツボ3を上昇させることにより、所定の距離を維持するよう制御される。
【0019】
また、図1に示すようにメインチャンバ2aの外側には、その周囲を囲むように上下一対のカスプ磁場印加用電磁コイル13、14が設置され、これによりルツボ3の溶融液M内にカスプ磁場を印加して単結晶を育成するMCZ法(Magnetic field applied CZ法)が実施される。本実施の形態においては、このMCZ法を用い、溶融液Mに対し所定の磁場を形成することにより、シリコン溶融液の対流を制御し、単結晶化の安定を図るようになされる。
【0020】
また、図1に示すように単結晶引上装置1は、溶融液Mの温度を制御するヒータ4の供給電力量を制御するヒータ制御部9と、ルツボ3を引上げ軸周りに回転させるモータ10と、モータ10の回転数を制御するモータ制御部10aとを備えている。また、ルツボ3の高さを制御する昇降装置11と、昇降装置11を制御する昇降装置制御部11aと、成長結晶の引上げ速度と回転数を制御するワイヤリール回転装置制御部12とを備えている。さらには、磁場印加用電磁コイル13,14の動作制御を行う電磁コイル制御部15を備えている。これら各制御部9、10a、11a、12、15はコンピュータ8の演算制御装置8bに接続されている。
【0021】
このように構成された単結晶引上装置1においては、最初に石英ガラスルツボ3aに原料ポリシリコンを装填し、コンピュータ8の記憶装置8aに記憶されたプログラムに基づき、図3のフローに沿って結晶育成工程が開始される。
先ず、炉体2内が所定の雰囲気(主にアルゴンガス雰囲気)となされ、ルツボ3内に装填された原料ポリシリコンが、ヒータ4による加熱によって溶融され、溶融液Mとされる(図3のステップS1)。
さらに、演算制御装置8bの指令によりモータ制御部10aと昇降装置制御部11aとが作動し、ルツボ3が所定の高さ位置において所定の回転速度(rpm)で回転動作される。
【0022】
次いで、演算制御装置8bの指令により電磁コイル制御部15が作動し、磁場印加用電磁コイル13,14にそれぞれ所定の電流が流される。これにより溶融液M内に所定強度のカスプ磁場が印加開始される(図3のステップS2)。
また、演算制御装置8bの指令により、引上機構制御部12が作動し巻取り機構5aが作動してワイヤ5bが降ろされる。そして、ワイヤ5bに取付けられた種結晶Pが溶融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解するネッキングが行われてネック部P1が形成開始される(図3のステップS3)。
【0023】
ネック部P1が形成されると、演算制御装置8bの指令によりヒータ4への供給電力や、引上げ速度(通常、毎分数ミリの速度)、磁場印加強度などをパラメータとして引上げ条件が調整され、ルツボ3の回転方向とは逆方向に所定の回転速度SR(rpm)で種結晶Pが回転開始される(図3のステップS4)。
そして、クラウン工程(図3のステップS5)が開始されて結晶径が拡径され、製品部分となる直胴部を形成する直胴工程(図3のステップS6)に移行する。
【0024】
この直胴工程において、引上げ機構5によって引き上げられる単結晶Cの回転速度SR(rpm)は、単結晶Cと溶融液Mとの固液界面における結晶外周の周方向線速度Vθが、150mm/s以上となるように制御される。また、単結晶Cの回転方向とは逆方向に回転されるルツボ3の回転速度CRは、0〜5rpmの間で制御される。
これにより、溶融液面M1には、ルツボ中央から外側に向けて遠心力が強く働き、溶融液Mにおいて、結晶外周近傍から外側に向けて流れる離心流(外向流)が形成される。
即ち、溶融液Mにおいて、従来、単結晶C側とルツボ3側との熱密度差異により生じていた自然対流(向心流)が、前記遠心力により抑制され、更には、向心流とは逆方向の離心流が形成される。
【0025】
ところで、この直胴工程にあっては、単結晶Cの育成が進み固化率が増加すると、輻射シールド6内に占める単結晶Cの割合が大きくなるため、シールド内温度およびシールド外側の表面温度が次第に低下する。そのため、輻射シールド6の外側表面には、図2に示すように融液自由表面から蒸発されたSiO、或いはSiOとヒータ等のカーボン材との反応により生じた炭化珪素等の異物Fが付着する。
【0026】
また、単結晶Cの引き上げが更に進行し、ルツボ3が上昇されると、ルツボ3内壁面と輻射シールド6の外側表面とが接近するため、ルツボ3の熱により輻射シールド6が加熱され、その外側表面の温度が上昇に転じる。また、輻射シールド6の外側表面とルツボ内壁面との距離が狭くなるため、輻射シールド6の外側表面を流れるガスの速度が高速化される。このように輻射シールド6の外側表面の温度が高温となり、しかも、ガス流が高速化することにより、前記輻射シールド6の外側表面に付着した異物Fはガス流によって剥離され易く、剥離された異物Fは溶融液面M1に落下することとなる。
しかしながら、溶融液面M1においては、前記のように離心流(外向流)が形成されているため、溶融液面M1に浮上する異物Fは前記離心流によって単結晶Cから引き離される。
【0027】
また、本実施形態にあっては、溶融液面M1における離心流をより発達させるため、図2に示すように、カスプ磁場の中立面NPは、そのルツボ中央側の高さ位置が溶融液面M1よりも上方であって、且つ、ルツボ内壁側よりも溶融液面M1から離れた位置となるよう山なりに形成される。
そのような中立面NPを形成するため、具体的には、ルツボ3(結晶C)の中心軸上におけるカスプ磁場の中立面NPの高さ位置と溶融液面M1との距離寸法MPが、式(1)を満足するように制御される。尚、式(1)において、Φは育成中の結晶直径、Φはルツボ内径である。
[数4]
MP=(0.01〜0.15)×Φ×(Φ/Φ) ・・・(1)
【0028】
このようにカスプ磁場の中立面NPの位置が制御されるのは、ルツボ3内壁側における磁場強度を、単結晶C近傍(ルツボ中央側)よりも強い状態とするためである。即ち、そのように磁場形成がなされると、結晶Cの外周近傍の強制対流を発達させ、離心流がより形成され易い状態とすることができる。
【0029】
また、前記式(1)に規定する距離寸法MP(中立面NPの高さ位置と溶融液面M1との距離寸法)は、中立面NPの高さ位置によって制御可能である。本実施形態では、上下の電磁コイル13、14に流す電流値をそれぞれ制御することにより、前記中立面NPの位置が決定される。具体的には、上方の電磁コイル13に流れる電流値よりも、下方の電磁コイル14に流れる電流値が高くなるよう電磁コイル制御部15が制御される。
【0030】
さらに詳しくは、上下一対の電磁コイル13、14の総電流比率C13/C14は、下記式(2)を満たすように制御される。より好ましくは、式(3)を満たすように制御される。
[数5]
10/90≦C13/C14≦49/51 ・・・(2)
30/70≦C13/C14≦47/53 ・・・(3)
【0031】
前記式(2)(好ましくは式(3))を満足させるため、上下一対の電磁コイル13、14の電流値をそれぞれ独立して設定可能な場合には、電磁コイル制御部15により各コイル13,14の電流値が直接制御される。或いは、前記電磁コイル13,14が同じコイル巻数とされることによって前式(2)(好ましくは式(3))を満足させてもよい。
【0032】
また、上下一対の電磁コイル13、14の電流比率を設定できない場合には、ルツボ3に対する電磁コイル13,14の位置を調整することによって、前記式(1)を満足させてもよい。
【0033】
また、溶融液Mにおいて、単結晶C側よりもルツボ3内壁側の磁場強度が高くなるように、ルツボ3の内壁面(或いは、その延長面)と、カスプ磁場の中立面NPとが交差する円周上の磁束密度Bが、下記式(4)を満足するように制御される。尚、式(4)において、Φはルツボ内径、Lはルツボ側方に配されたヒータ4のスリット部4a(発熱部)の高さ寸法である。
[数6]
[Gauss]=(100〜1000)×(Φ/L) ・・・(4)
【0034】
直胴工程において、このように溶融液Mに対するカスプ磁場の印加が制御されることにより、ルツボ3内壁側における磁場が結晶C近傍よりも強い状態となり、結晶Cの外周近傍の強制対流が発達する。このため、離心流(外向流)がより形成され易い状態となされる。
このような制御の下に直胴工程が終了すると、縮径部を形成するテール工程(図3のステップS7)が行われ、単結晶Cの形成が終了する。
【0035】
以上のように、本実施の形態によれば、直胴工程において、単結晶Cの回転方向とルツボ3の回転方向とは逆方向となされ、引き上げられる単結晶Cの回転速度SR(rpm)は、単結晶Cと溶融液Mとの固液界面における結晶外周の周方向線速度Vθが、150mm/s以上となるように制御される。また、ルツボ3の回転速度CRは、0〜5rpmの間で制御される。
これにより溶融液面M1において遠心力を強く働かせることができ、ルツボ中央から外側に向かう離心流(外心流)を形成することができる。
したがって、輻射シールド6から溶融液面M1に異物Fが落下したとしても、液面上の異物Fを単結晶Cから前記離心流によって引き離すことができ、結晶の有転位化を防止することができる。
【0036】
また、本実施の形態によれば、ルツボ3内の溶融液Mに対しカスプ磁場が印加され、カスプ磁場の中立面NPは、そのルツボ中央側の高さ位置が溶融液面M1よりも上方であって、且つ、ルツボ内壁側よりも溶融液面M1から離れた位置となるように山なりに形成される。更に、ルツボ3の内壁面(或いは、その延長面)と、カスプ磁場の中立面NPとが交差する円周上の磁束密度Bが規定される。
これにより、ルツボ3内の溶融液Mに印加される磁場強度は、単結晶Cの外周近傍よりもルツボ内壁側において強い状態となり、結晶外周近傍における強制対流が発達する。その結果、離心流(外心流)をより発達させることができる。
【0037】
尚、前記実施の形態においては、ルツボ3内の溶融液Mに対しカスプ磁場を印加し、その印加方法を制御することにより、溶融液面M1において離心流(外向流)が発達しやすい状態としたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
即ち、前記実施の形態に記載したように、カスプ磁場を印加しなくても、単結晶Cと溶融液Mとの固液界面における結晶外周の周方向線速度Vθが150mm/s以上となるよう単結晶Cの回転速度SRを制御し、単結晶Cの回転方向とルツボ3の回転方向とを逆方向とし、ルツボ3の回転速度CRを、0〜5rpmの間で制御することによって、溶融液面M1において離心流を形成することができる。
【0038】
また、前記実施の形態のように、カスプ磁場を印加する場合には、単結晶Cと溶融液Mとの固液界面における結晶外周の周方向線速度Vθを150mm/s以上としなくても、100mm/s以上となるよう制御すれば、溶融液面M1に離心流を形成し、本発明の効果を十分に得ることができる。
即ち、前記実施の形態に記載したように、カスプ磁場を印加する場合には、その中立面NPの位置を制御することにより、離心流の形成を促進することができる。
したがって、より低速の周方向線速度Vθで(具体的には100mm/s以上)あっても、印加されたカスプ磁場の効果と併せて溶融液面M1に、充分な離心流を形成することができる。
【実施例】
【0039】
本発明に係る単結晶引上方法について、実施例に基づきさらに説明する。
[実験1]
図2に示す前記実施の形態に基づき、先ず、カスプ磁場印加用電磁コイルを駆動せずに(即ち、カスプ磁場の印加なしに)、表1に示す条件で単結晶引き上げを行った。
尚、全ての条件において、直径300mmのシリコン単結晶を100本育成し、単結晶の回転方向とルツボの回転方向とは互いに逆方向とした。ルツボ内径は、788mmであり、ルツボ側方に配されたヒータ発熱部の高さは450mmである。
【0040】
【表1】

【0041】
また、図4に、実施例1の条件において単結晶Cを育成した場合の輻射シールド外側における表面温度の変化をグラフで示す。
図4のグラフにおいて、横軸は単結晶の固化率(%)、縦軸は輻射シールド外側表面の温度(℃)である。尚、輻射シールドの外側表面における温度測定位置は、シールド下端から30%の高さ位置、50%の高さ位置、70%の高さ位置とし、それぞれについて温度測定を行った。
【0042】
図4に示すように、いずれの測定位置も固化率が70%を越えると、温度が上昇傾向となるが、特に、底部から30%の高さ位置、即ち溶融液面に近い位置において、固化率50%付近までは温度が低下し、その後、大きく温度上昇することが認められた。
即ち、この結果により、輻射シールド外側表面の温度低下によって輻射シールドに異物が付着し、その後の温度上昇によって異物が剥離され、溶融液に落下する虞が大きいことが示された。
【0043】
また、図5に、実施例1の条件における固化率70%時点での溶融液中の対流パターン(溶融液断面)のシミュレーション結果を示す。図5においては、ルツボ平面上にX軸と、それに直交するY軸とを設定し、図5(a)にX軸に沿った対流パターン(溶融液断面)を示し、図5(b)にY軸に沿った対流パターン(溶融液断面)を示す。
また、図6に、比較例1の条件における固化率70%時点での溶融液中の対流パターン(溶融液断面)のシミュレーション結果を示す。図6において、図6(a)にX軸に沿った対流パターン(溶融液断面)を示し、図6(b)にY軸に沿った対流パターン(溶融液断面)を示す。
尚、図5,図6のグラフにおいて、横軸はルツボ径、縦軸はルツボ高さ(溶融液深さ)であり、グラフ中、2度間隔の等温線を示している。
図5(a),(b)の等温線に基づく対流パターンから、実施例1の条件では、溶融液面において離心流が形成されていることが確認された。
一方、比較例1では、図6(a),(b)の等温線に基づく対流パターンから、溶融液面において向心流が形成されていることが確認された。
【0044】
表2に、表1に示した各条件における有転位化率(%)および結晶収率(%)を示す。
【表2】

【0045】
実施例1、2のように、線速度Vθが特に150mm/s以上であって、ルツボ回転速度CRが単結晶の回転方向とは逆方向に5.0rpmの場合に、低い有転位化率および高い結晶収率を得ることができた。
一方、比較例1のように線速度Vθが100mm/sよりも低い場合、或いは比較例2のようにルツボ回転速度CRが5.0rpmよりも高い場合には、有転位化率が高く、結晶収率が低い結果となった。
【0046】
これら実施例1、2の結果は、輻射シールドから剥離して溶融液面に落下した異物が、図5に示したように溶融液面に形成された離心流によって単結晶から引き離された効果によるものと考えられる。
一方、比較例1、2の結果は、輻射シールドから剥離して溶融液面に落下した異物が、図6に示したように溶融液面に形成された向心流によって育成中結晶や固液界面近傍に付着し、それが結晶の有転位化を誘発したものと考えられる。
【0047】
[実験2]
続いて、図2の前記実施の形態に基づき、カスプ磁場印加用電磁コイルを駆動し、カスプ磁場を印加して、表3に示す条件で単結晶の引き上げを行った(実験1の実施例2,3の条件にカスプ磁場印加の条件を加えた)。
また、表4に実験結果(有転位化率(%)、結晶収率(%))を示す。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
実施例2−1のように、線速度Vθを150mm/s、ルツボ回転速度CRを単結晶の回転方向とは逆方向に5.0rpmとし、さらに前記実施形態に基づきカスプ磁場を印加した場合、より低い有転位化率(3%)、および高い結晶収率(98.8%)を得ることができた。
また、実施例3−1は、線速度Vθが100mm/sであるが、カスプ磁場を印加しない場合(実験1の実施例3)よりも低い有転位化率(7%)となり、また、より高い結晶収率(91.1%)を得ることができた。
即ち、カスプ磁場の中立面NPにおいて、そのルツボ中央における高さ位置が溶融液面M1よりも上方になるようにカスプ磁場を印加することによって、溶融液面において離心流がより形成されやすくなり、その結果、結晶収率が向上し、有転位化率が抑制されることが確認された。
【0051】
一方、実施例2−2のように線速度Vθを150mm/sとし、ルツボ回転速度CRを単結晶の回転方向とは逆方向に5.0rpmとしても、カスプ磁場中立面NPのルツボ中央における高さが溶融液面M1よりも下方に位置する場合には、有転位化率が非常に高く、また、結晶収率が大幅に低い結果となった。
【0052】
[実験3]
続いて、図2の前記実施の形態に基づき、カスプ磁場印加用電磁コイルを駆動し、カスプ磁場を印加して、表5に示す条件で単結晶の引き上げを行った(実験1の実施例2の条件にカスプ磁場印加の条件を加えた)。また、表6に実験結果(有転位化率(%)、結晶収率(%))を示す。
【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

【0055】
実験3の結果、距離寸法MPが+21〜+310の場合(実施例2−4、2−5)において有転位化率が低く、良好な結晶収率を得ることができた。
尚、ルツボ内に占める単結晶の直径Φの大きさが大きいほど、距離寸法MPが小さくても充分な離心流を形成可能であるため、距離寸法MPに対し単結晶の直径Φは反比例する(ルツボ内径Φに対する単結晶の直径の比(Φ/Φ)に比例する)。
また、ルツボ内径Φが大きいほど、距離寸法MPを大きくする必要があるため、ルツボ内径Φは距離寸法MPに比例する。
このため、距離寸法MPは、下記の式(5)により定義可能である(aは係数)。
[数7]
MP=a×Φ×(Φ/Φ) ・・・(5)
ここで、単結晶の直径は300mm、ルツボ内径は、788mmであるため、前記実験結果に基づき距離寸法MPは、下記の式(1)で規定する値が好ましいと考えられる。
[数8]
MP=(0.01〜0.15)×Φ×(Φ/Φ) ・・・(1)
【0056】
[実験4]
続いて、図2の前記実施の形態に基づき、カスプ磁場印加用電磁コイルを駆動し、カスプ磁場を印加して、表7に示す条件で単結晶の引き上げを行った(実験1の実施例2の条件にカスプ磁場印加の条件を加えた)。また、表8に実験結果(有転位化率(%)、結晶収率(%))を示す。
【0057】
【表7】

【0058】
【表8】

【0059】
実験4の結果、磁束密度Bが175〜1750Gaussの場合(実施例2−8、2−9)において有転位化率が低く、良好な結晶収率を得ることができた。
尚、ルツボ内径Φ2が大きいほど、ルツボの内壁面(或いは、その延長面)と、カスプ磁場の中立面とが交差する円周上の磁束密度Bは大きくなり、ルツボ側方に配されたヒータ発熱部の高さLが大きいほど、磁束密度Bは小さくなるため、磁束密度Bは(Φ2/L)に比例する。
このため、磁束密度Bは、下記の式(6)により定義可能である(bは係数)。
[数9]
[Gauss]=b×(Φ/L) ・・・(6)
ここで、ルツボ内径は、788mmであるため、前記実験結果に基づき磁束密度Bは、下記の式(7)で規定する値が好ましいと考えられる。
[数10]
[Gauss]=(100〜1000)×(Φ/L) ・・・(7)
【0060】
尚、カスプ磁場を印加した実験2乃至実験4の結果と、図5,図6に示したシミュレーション結果とに基づき、上下一対の電磁コイルの総電流比率C/Cは、下記式(2)を満たすことが望ましいと考えられる。より好ましくは、式(3)を満たすことが望ましいと考えられる。
[数11]
10/90≦C/C≦49/51 ・・・(2)
30/70≦C/C≦47/53 ・・・(3)
【0061】
以上の実施例の結果より、本発明に係る単結晶引上方法によれば、ルツボ内の溶融液の自由表面において、育成中結晶の外周近傍から外側に向けて流れる離心流を形成し、結晶の有転位化を抑制できることを確認した。
【符号の説明】
【0062】
1 単結晶引上装置
2 炉体
3 ルツボ
4 ヒータ
4a 発熱部
5 引上機構
6 輻射シールド
C 単結晶
M シリコン溶融液
P 種結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータの加熱によりルツボ内にシリコン溶融液を形成し、前記ルツボからチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
前記単結晶を引き上げる際、前記単結晶と前記ルツボとを互いに逆方向に回転させ、
前記単結晶の回転速度を、該単結晶と溶融液との固液界面における結晶外周の周方向線速度が150mm/s以上となるように制御し、
かつ、前記ルツボの回転速度を、0〜5rpmの間で制御することによって、
前記溶融液の液面にルツボ中央側から外側に向けて流れる離心流を形成することを特徴とする単結晶引上方法。
【請求項2】
ヒータの加熱によりルツボ内にシリコン溶融液を形成し、前記ルツボの周囲に配置された上下一対の電磁コイルにより、ルツボ内の溶融液に対しカスプ磁場を印加すると共に、前記ルツボからチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
前記カスプ磁場の中立面を、そのルツボ中央側の高さ位置が、シリコン溶融液面よりも上方であって、且つルツボ内壁側よりも前記溶融液面から離れた位置となるよう山なりに形成し、
前記単結晶を引き上げる際、前記単結晶と前記ルツボとを互いに逆方向に回転させ、
前記単結晶の回転速度を、該単結晶と溶融液との固液界面における結晶外周の周方向線速度が100mm/s以上となるように制御し、
かつ、前記ルツボの回転速度を、0〜5rpmの間で制御することによって、
前記溶融液の液面にルツボ中央側から外側に向けて流れる離心流を形成することを特徴とする単結晶引上方法。
【請求項3】
前記ルツボ内の溶融液に対しカスプ磁場を印加する際、
前記ルツボの中心軸上におけるカスプ磁場の中立面の高さ位置と溶融液面との距離寸法をMPとし、育成中の結晶直径をΦとし、前記ルツボの内径をΦとすると、前記距離寸法MPは、下記式(1)により規定されることを特徴とする請求項2に記載された単結晶引上方法。
[数1]
MP=(0.01〜0.15)×Φ×(Φ/Φ) ・・・(1)
【請求項4】
前記離心流を形成する際、
前記ルツボの内壁面またはその延長面と、カスプ磁場の中立面とが交差する円周上の磁束密度をB(Gauss)とし、ルツボ内径をΦ(mm)とし、前記ルツボの側方に配された前記ヒータの発熱部の高さ寸法をL(mm)とすると、前記磁束密度Bは、下記式(2)により規定されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載された単結晶引上方法。
[数2]
=(100〜1000)×(Φ/L) ・・・(2)
【請求項5】
前記離心流を形成する際、
前記溶融液に印加される磁場強度が、ルツボ中央側よりもルツボ内壁側において強い状態となるよう前記上下一対の電磁コイルが前記ルツボに対して配置されていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載された単結晶引上方法。
【請求項6】
前記離心流を形成する際、
前記溶融液に印加される磁場強度が、ルツボ中央側よりもルツボ内壁側において強い状態となるよう前記上下一対の電磁コイルにそれぞれ流す電流値が制御されることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれかに記載された単結晶引上方法。
【請求項7】
前記上下一対の電磁コイルの総電流比率C/Cは、下記式(3)により規定されることを特徴とする請求項6に記載された単結晶引上方法。
10/90≦C/C≦49/51 ・・・(3)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28476(P2013−28476A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164609(P2011−164609)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】