説明

単結晶引上装置及び単結晶引き上げ方法

【課題】ネック部に拡径部と縮径部とを交互に形成して、品質の安定した単結晶を引き上げ可能とし、且つ、種結晶から直胴部への転位化を防止することのできる単結晶引上装置及び単結晶引上げ方法を提供する。
【解決手段】育成されるネック部の径を測定するネック径測定手段と、前記ネック径測定手段から得られたネック部の測定値と、記憶手段に予め記憶したネック部径の狙い値との差分に基づき、種結晶の補正された第一の引上速度を出力する第一の引上速度補正手段21,22と、前記第一の引上速度の上限を第一の制限値に制限した、第二の引上速度を出力する第二の引上速度補正手段23と、少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、ルツボの回転数を低下させるルツボ回転数補正手段24,25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によって単結晶を育成しながら引き上げる単結晶引上装置及び単結晶引き上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法が広く用いられている。この方法は、ルツボ内に収容されたシリコンの溶融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶の下端に単結晶を形成していくものである。
【0003】
図10に示すように、従来のCZ法を用いた引上げ法は、石英ガラスルツボ51aと黒鉛ルツボ51bの二重構造からなるルツボ51に原料ポリシリコンを装填し、ヒータ52により加熱してシリコン溶融液Mとする。しかる後、引上げ用のワイヤ50に取り付けられた種結晶Pをシリコン溶融液Mに接触させてシリコン単結晶Cを引上げる。
【0004】
一般に、引上げ開始に先立ち、シリコン溶融液Mの温度が安定した後、種結晶Pをシリコン溶融液Mに接触させて種結晶Pの先端部を溶解するネッキングを行う。ネッキングとは、種結晶Pとシリコン溶融液Mとの接触で発生するサーマルショックによりシリコン単結晶に生じる転位を除去するための不可欠の工程である。このネッキングにより、図11に示すようにネック部P1が形成される。
【0005】
尚、ネック部P1の下に形成される単結晶Cの無転位化のためには、このネック部P1は、通常、最小直径が3〜4mmで、その長さが15mm程度必要とされている。
また、引上げ開始後の工程としては、ネッキング終了後、直胴部直径にまで結晶を拡径するクラウン工程、肩部C1の形成後、定径部C2を育成する直胴工程、直胴工程後の単結晶直径を徐々に小さくするテール工程が行われる。
【0006】
ところで、近年においては、育成する単結晶の大口径化が進み、引上げる単結晶重量が増加している。このため、引上げ時におけるネック部P1の破損防止が大きな課題のひとつとなっている。
このような課題に対し特許文献1には、ネック部の強度向上のために、図12に示すように拡径部P1aと縮径部P1bとを交互に形成してこぶ状のネック部P1とする方法が開示されている。この方法によれば、ネック部P1の強度が向上し、単に細いネック部P1を形成するよりもその破断の虞を大幅に低減することができる。
【0007】
尚、そのような、こぶ状ネック部P1の形成は、従来、種結晶Pの引き上げ速度と、シリコン溶融液Mの温度を制御することにより行われるが、シリコン溶融液Mの温度変更は応答特性が悪いため、主に種結晶Pの引き上げ速度の制御に依存している。
具体的には、ネック部P1を細くしたい場合は種結晶Pの引き上げ速度を上げ、ネック部P1を太くしたい場合は種結晶Pの引き上げ速度を下げる制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−189524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、種結晶Pの引き上げ速度が所定速度以下(例えば2.5mm/min以下)の場合は、図13(a)に示すようにネック部P1の下端とシリコン溶融液Mとの界面M1が凹形状となり、引き上げ速度が前記所定速度よりも大きくなると、図13(b)に示すように界面M1が凸形状となることが知見されている。
しかしながら、ネック部P1を細くする縮径部P1bを形成するために、引き上げ速度を上昇させると、図13(b)に示すように界面M1が凸形状となり、そのように界面M1が凸形状になると、転位化が生じ易いという課題があった。
【0010】
前記課題に対し、本願出願人は、前記界面M1が凸形状とならないように種結晶Pの引き上げ速度の上限を制限しても、ルツボ回転数を低下させれば、細いネック部P1(縮径部P1b)を形成可能であることを知見するに至った。
そのため、種結晶Pの引上速度を制限し、上限値が制限された際のルツボ回転数を低下させる制御を人的作業により行ってもよいが、経験ある作業者を必要とし、コストが嵩張る上、品質が安定しないという課題があった。
【0011】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置において、ネック部に拡径部と縮径部とを交互に形成して、品質の安定した単結晶を引き上げ可能とし、且つ、種結晶から直胴部への転位化を防止することのできる単結晶引上装置及び単結晶引上げ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記した課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置は、種結晶をルツボ内のシリコン溶融液に接触させ、拡径部と縮径部とが交互に形成されるネック部を育成してチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置であって、前記育成されるネック部の径を測定するネック径測定手段と、前記ネック径測定手段から得られたネック部の測定値と、記憶手段に予め記憶したネック部径の狙い値との差分に基づき、前記種結晶の補正された第一の引上速度を出力する第一の引上速度補正手段と、前記第一の引上速度の上限を第一の制限値に制限した、第二の引上速度を出力する第二の引上速度補正手段と、少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるルツボ回転数補正手段とを備えることに特徴を有する。
尚、前記ルツボ回転数補正手段は、予め記憶した種結晶の引上速度の狙い値と、前記第二の引上速度補正手段から出力された第二の引上速度との差分に基づき、前記第一の引上速度の上限が前記第一の制限値に制限される期間を検出し、前記期間において前記差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行うことが望ましい。
【0013】
このような構成によれば、ネック部の形成工程において、種結晶の引上速度を制御することにより拡径部と縮径部とが交互に形成され、縮径部の形成時にあっては、引上速度の上限値が制限される一方、ルツボ回転速度(ルツボ回転数)を低下させる制御がなされる。これにより種結晶の引上速度に起因する転位化の危険性を回避することができ、且つ、拡径部と縮径部とからなるネック部の径を狙い値に沿ったものとし、品質の安定した単結晶を育成することができる。
【0014】
或いは、前記ルツボ回転数補正手段は、前記種結晶の補正された第一の引上速度と、前記第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値とを比較し、前記第一の引上速度が前記第二の制限値より大きい場合に、その差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行ってもよい。
この構成によれば、補正された第一の引上速度が、第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値を越えると、ルツボ回転数の低下制御が開始される。
即ち、引上速度が、第一の制限値に達する前に、ルツボ回転数の低下制御を開始するため、ルツボ回転数を変更した際の、ルツボ回転動作の応答時間の遅れに対応することができる。
【0015】
或いは、前記ルツボ回転数補正手段は、前記種結晶の補正された第一の引上速度と、前記第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値とを比較し、前記第一の引上速度が前記第二の制限値より小さい場合は、記憶手段に予め記憶したルツボ回転数の狙い値を出力し、前記第一の引上速度が前記第二の制限値より大きい場合は、その差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行ってもよい。
このような構成により、引上速度が第二の制限値を越えた場合だけでなく、下回る状態に変化した場合にも、迅速にルツボ回転数の値を変化させることができる。
【0016】
また、前記した課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引き上げ方法は、種結晶をルツボ内のシリコン溶融液に接触させ、拡径部と縮径部とが交互に形成されるネック部を育成してチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引き上げ方法であって、前記育成されるネック部の径を測定するステップと、前記ネック部の測定値と、記憶手段に予め記憶したネック部径の狙い値との差分に基づき、前記種結晶の補正された第一の引上速度を出力するステップと、前記第一の引上速度の上限を第一の制限値に制限した、第二の引上速度を出力するステップと、少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるステップとを含むことに特徴を有する。
尚、少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるステップにおいて、予め記憶した種結晶の引上速度の狙い値と、前記第二の引上速度補正手段から出力された第二の引上速度との差分に基づき、前記第一の引上速度の上限が前記第一の制限値に制限される期間を検出し、前記期間において前記差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行うことが望ましい。
【0017】
このようなステップを踏むことにより、ネック部の形成工程において、種結晶の引上速度を制御することにより拡径部と縮径部とが交互に形成され、縮径部の形成時にあっては、引上速度の上限値が制限される一方、ルツボ回転速度(ルツボ回転数)を低下させる制御がなされる。これにより種結晶の引上速度に起因する転位化の危険性を回避することができ、且つ、拡径部と縮径部とからなるネック部の径を狙い値に沿ったものとし、品質の安定した単結晶を育成することができる。
【0018】
或いは、少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるステップにおいて、前記種結晶の補正された第一の引上速度と、前記第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値とを比較し、前記第一の引上速度が前記第二の制限値より大きい場合に、その差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行ってもよい。
この方法によれば、補正された第一の引上速度が、第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値を越えると、ルツボ回転数の低下制御が開始される。
即ち、引上速度が、第一の制限値に達する前に、ルツボ回転数の低下制御を開始するため、ルツボ回転数を変更した際の、ルツボ回転動作の応答時間の遅れに対応することができる。
【0019】
或いは、少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるステップにおいて、前記種結晶の補正された第一の引上速度と、前記第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値とを比較し、前記第一の引上速度が前記第二の制限値より小さい場合は、記憶手段に予め記憶したルツボ回転数の狙い値を出力し、前記第一の引上速度が前記第二の制限値より大きい場合は、その差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行ってもよい。
このような方法によれば、引上速度が第二の制限値を越えた場合だけでなく、下回る状態に変化した場合にも、迅速にルツボ回転数の値を変化させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置において、ネック部に拡径部と縮径部とを交互に形成して、品質の安定した単結晶を引き上げ可能とし、且つ、種結晶から直胴部への転位化を防止することのできる単結晶引上装置及び単結晶引上げ方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る単結晶引上装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1の単結晶引上装置が具備するネック部形成制御回路の第一の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、図2のネック部形成制御回路を具備する単結晶引上装置による単結晶引上工程の流れを示すフローである。
【図4】図4は、図2のネック部形成制御回路において使用される各信号のタイミング図である。
【図5】図5は、図1の単結晶引上装置が具備するネック部形成制御回路の第二の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、図5のネック部形成制御回路を具備する単結晶引上装置によるネック部形成工程の流れを示すフローである。
【図7】図7は、図5のネック部形成制御回路において使用される各信号のタイミング図である。
【図8】図8は、図1の単結晶引上装置が具備するネック部形成制御回路の第三の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、図8のネック部形成制御回路において使用される各信号のタイミング図である。
【図10】図10は、従来の単結晶引上装置の概略構成を示すブロック図である。
【図11】図11は、育成される単結晶の各部を説明するための図10の一部拡大正面図である。
【図12】図12は、ネック部に拡径部と縮径部とを交互に形成した状態を示す単結晶の一部拡大正面図である。
【図13】図13は、種結晶とシリコン溶融液との界面の状態を説明するための種結晶の一部拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る単結晶引上装置及び単結晶引上方法の第一の実施形態について図面に基づき説明する。図1は本発明に係る単結晶引上装置1の全体構成を示すブロック図である。
この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ2aの上にプルチャンバ2bを重ねて形成された炉体2と、炉体2内に設けられたルツボ3と、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)Mを溶融するヒータ4と、育成される単結晶Cを引上げる引上げ機構5とを有している。尚、ルツボ3は、二重構造であり、内側が石英ガラスルツボ、外側が黒鉛ルツボで構成されている。
また、引上げ機構5は、モータ駆動される巻取り機構5aと、この巻取り機構5aに巻き上げられる引上げワイヤ5bを有し、このワイヤ5bの先端に種結晶Pが取り付けられている。
【0023】
また、プルチャンバ2bの上部には、炉体2内に所定のガス(例えばArガス)を導入するためのガス導入口18が設けられ、メインチャンバ2bの底部には炉体2内に導入されたガスを排出するガス排出口19が設けられている。このため、炉体2内には、上方から下方に向けて所定流量のガス流が形成されている。
【0024】
また、メインチャンバ2a内において、ルツボ3の上方且つ近傍には、炉内のガス流を整流するための輻射シールド6が設けられている。この輻射シールド6は、単結晶Cの周囲を包囲するよう上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cにヒータ4等からの余計な輻射熱を遮蔽する。尚、輻射シールド6下端と溶融液面との間の距離寸法(ギャップ)は、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を維持するよう制御される。
【0025】
また、炉体2の外側には、シリコン融液Mの液面M1付近で育成されるネック部P1の径寸法の検出を行うネック径検出装置14(ネック径測定手段)が設けられている。
このネック径検出装置14は、メインチャンバ2bの上部に設けられ透光性の耐熱ガラスからなるカメラポート15と、このカメラポート15を介して融面上の所定領域を撮像するCCDカメラ16と、CCDカメラ16により撮像された画像信号を演算処理する画像処理装置17とを有する。
【0026】
CCDカメラ16の光軸は、カメラポート15を介し、融液面上の所定スポットに向けられており、CCDカメラ16は、この所定スポットの画像を撮像し、撮像した画像を画像処理装置17に出力するようになされている。
また、画像処理装置17は、CCDカメラ16から入力された画像信号を処理し、シリコン融液液面から引上げられる結晶のネック径寸法を検出して、コンピュータ8の演算制御装置8bに出力するようになされている。
【0027】
また、図1に示すように単結晶引上装置1は、シリコン溶融液Mの温度を制御するヒータ4の供給電力量を制御するヒータ制御部9と、ルツボ3を回転させるモータ10と、モータ10の回転数を制御するモータ制御部10aとを備えている。また、ルツボ3の高さを制御する昇降装置11と、昇降装置11を制御する昇降装置制御部11aと、成長結晶の引上げ速度と回転数を制御するワイヤリール回転装置制御部12とを備えている。これら各制御部9、10a、11a、12はコンピュータ8の演算制御装置8bに接続されている。
【0028】
また、コンピュータ8の記憶装置8a(記憶手段)には、単結晶育成の各工程を実行させるための単結晶育成プログラムが記憶され、演算制御装置8bには、ネック部形成時の種結晶Pの引上速度、及びルツボ回転数の値を制御するためのネック部形成制御回路が設けられている。
【0029】
図2に、演算制御回路8bが具備するネック部形成制御回路20の構成を示す。
図2のネック部形成制御回路20は、比較器21を備え、この比較器21には、例えば記憶装置8aに予め配列データとして記憶されたネック径の狙い値(Dia−Tag)と、画像処理装置17が検出したネック径の測定値(Dia)とが入力され、その差分を出力するよう機能する。
【0030】
また、比較器21からの出力に基づき、比例制御(P制御:現在の偏差に基づく補正)、積分制御(I制御:過去の誤差量に基づく補正)、微分制御(D制御:差分の傾きから予測して補正)を行い、引上速度の補正値(差分)を出力するPID制御回路22(第一の引上速度補正手段)を備える。尚、PID制御回路22から出力された補正値は、引上速度の現在値(SL0)に加算され、補正された第一の引上速度SL1として出力される。
【0031】
また、ネック部形成制御回路20は、第一の引上速度SL1を上限値(第一の制限値SL−high1とする)に制限し、最終的に補正された第二の引上速度SLを出力するリミッタ回路23(第二の引上速度補正手段)を備える。リミッタ回路23の出力は、種結晶Pの引上速度として用いられる。
【0032】
更に、ネック部形成制御回路20は、ルツボ回転数補正手段として、比較器24と、CR制御回路25とを備える。
比較器24には、リミッタ回路23の出力(第二の引上速度SL)と、例えば記憶装置8aに予め配列データとして記憶された引上速度の狙い値(SL−Tag)とが入力され、狙い値SL−Tagが引上速度SLより大きい場合に、その差分が出力される。
CR制御回路25は、狙い値SL−Tagが引上速度SLより大きい場合に、ルツボ回転数を低減するよう制御する。具体的には、比較器24から差分入力があると、PID制御(比較制御、微分制御、及び積分制御)を行い、差分値に基づきルツボ回転数の補正値(差分)を出力し、その補正値をルツボ回転数の基準値(CR0)から減算して出力する。CR制御回路25からの出力値は、モータ制御部10aの制御するルツボ回転数CRとして使用される。
【0033】
このように構成された単結晶引上装置1においては、前記単結晶育成プログラムが実行され、ネック部形成制御回路20が作動することによって、次のように単結晶育成が行われる。
先ず、炉体2内には、ガス導入口18からガス排出口19に向けて、即ち上方から下方に向かうArガスのガス流が形成され、所定の雰囲気が形成される。
【0034】
そして、演算制御装置8bの指令によりヒータ制御部9を作動させてヒータ4を加熱し、ルツボ3内において原料ポリシリコンMが溶融される(図3のステップS1)。
さらに、演算制御装置8bの指令によりモータ制御部10aと昇降装置制御部11aとが作動し、ルツボ3が所定の高さ位置において所定の回転数(基準値CR0)で回転動作される。
【0035】
また、演算制御装置8bの指令により、ネック径検出装置14が作動し、CCDカメラ16が融液面上の所定スポット、具体的には結晶引上げスポットの撮像を開始する(図3のステップS2)。そして、CCDカメラ16により撮像された画像信号は、画像処理装置17に供給される。
【0036】
次いで、演算制御装置8bの指令により、ワイヤリール回転装置制御部12が作動し、巻取り機構5aが作動してワイヤ5bが降ろされる。そして、ワイヤ5bに取付けられた種結晶Pがシリコン溶融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解するネッキングが行われてネック部P1の形成が開始される(図3のステップS3)。
【0037】
ネック部P1の形成においては、ネック径検出装置14により検出されたネック部P1の径寸法Dia(測定値)がネック部形成制御回路20に入力され、その出力に基づき、引上げ制御が行われる。
具体的には、CCDカメラ16により、育成中のネック部P1が撮像されると、画像処理部17においてネック径が検出され、その測定値Diaが演算制御装置8bのネック部形成制御回路20に供給される(図3のステップS4)。
【0038】
ネック部形成制御回路20では、比較器21において、ネック部径の狙い値Dia−Tag(図4(a)参照)と測定値Dia(図4(b)参照)とが比較され、その差分がPID制御回路22に出力される(図3のステップS5)。
PID制御回路22では、入力された差分値に基づき、PID制御(比例制御、微分制御、及び積分制御)を行い、ネック部径が狙い値Dia−Tagに等しくなるために必要な引上速度の補正値を出力する。出力された補正値は、引上速度の現在値SL0に対し加算され、補正された第一の引上速度SL1(図4(c)参照)が出力される(図3のステップS6)。
【0039】
ここで、前記補正された第一の引上速度SL1に基づき種結晶Pの引上制御を行うと、引上速度が所定速度以上(例えば2.5mm/min以上)の場合には、図13(b)に示したように界面M1が凸形状になり、転位化が生じる虞がある。そのため、引上速度SL1は、リミッタ回路23により上限値が第一の制限値SL−high1に制限され、界面M1が凸形状とならない範囲の第二の引上速度SL(図4(d)参照)に変換されて出力される(図3のステップS7)。
【0040】
一方、前記出力された引上速度SLを用い、ルツボ回転数を一定に制御した場合、引上速度SLは引上速度SL1に対して上限値を制限したものであるから、引上速度SLが上限値の間は、ネック径は狙い値Dia−Tagと大きく異なる虞がある。
そのため、ネック部形成制御回路20では、比較器24において、引上速度SLと引上速度の狙い値SL−Tag(図4(e)参照)とを比較し、狙い値SL−Tagが引上速度SLよりも大きい場合に、その差分をCR制御回路25に出力する(図3のステップS8)。
【0041】
CR制御回路25に引上速度の差分値が入力されると、PID制御(比例制御、微分制御、及び積分制御)により、ネック部径が狙い値Dia−Tagに等しくなるために必要なルツボ回転数CRの補正値が出力される(図3のステップS10)。尚、この補正値は、差分値に比例した大きさである。
そして、得られたルツボ回転数CRの補正値は、ルツボ回転数の基準値CR0から減算され、低減補正されたルツボ回転数CR(図4(f)参照)が出力される。
このように引上速度の狙い値SL−Tagが引上速度SLよりも大きい場合、即ち、引上速度SLの上限値が第一の制限値に制限される期間に、ルツボ回転数CRが低下するように制御され、縮径部形成時における種結晶Pの引上速度の不足が補われる。
【0042】
一方、図3のステップS8において、狙い値SL−Tagが引上速度SLよりも小さい場合には、ルツボ回転数基準値CR0が維持される(図3のステップS9)。
このように、ネック部P1の形成工程においては、ネック部形成制御回路20により出力された引上速度SL及びルツボ回転数CRに基づいて種結晶Pの引き上げ制御が行われ、ネック部長さが所定長となるまで拡径部及び縮径部が交互に形成される(図3のステップS12)。
【0043】
また、ネック部P1が所定長さまで育成されると、演算制御装置8bの指令によりヒータ4への供給電力や、引上げ速度(通常、毎分数ミリの速度)などをパラメータとして引上げ条件がさらに調整され、製品部分となる単結晶Cの育成が行われる。
即ち、クラウン部の形成工程(図3のステップS13)、直胴工程(図3のステップS14)、テール工程(図2のステップS15)が順に行われ、育成された単結晶Cは最後に炉体2内の上部まで引上げられる。
【0044】
以上のように本発明に係る第一の実施の形態によれば、ネック部P1の形成工程において、種結晶Pの引上速度を制御することにより拡径部と縮径部とが交互に形成され、縮径部の形成時にあっては、引上速度SLの上限値が制限される一方、ルツボ回転速度(ルツボ回転数CR)を低下させる制御がなされる。
これにより種結晶Pの引上速度に起因する転位化の危険性を回避することができ、且つ、拡径部と縮径部とからなるネック部P1の径を狙い値に沿ったものとし、品質の安定した単結晶を育成することができる。
【0045】
続いて、本発明に係る単結晶引上装置及び単結晶引上方法の第二の実施形態について説明する。
この第二の実施形態にあっては、前記第一の実施形態に示した構成のうち、ネック部形成制御回路20の構成が異なり、具体的には、ルツボ回転数CRを出力するための回路構成が異なる。
第二の実施形態におけるネック部形成制御回路の構成を図5に示す。尚、図5において、先に図2を用いて説明した第一の実施形態における構成と同一、若しくは同一と見なしてもよい構成要素については同じ符号で示している。
【0046】
図5のネック部形成制御回路20にあっては、比較器24に対し、補正された第一の引上速度SL1と、引上速度の第二の制限値(SL−high2とする)とが入力され、引上速度SL1が第二の制限値SL−high2より大きい場合に、その差分が出力される。尚、第二の制限値SL−high2は、前記第一の制限値SL−high1よりも低く設定された所定値である。
また、比較器24から出力された差分値は、CR制御回路26に入力される。このCR制御回路26では、入力された差分値に基づきルツボ回転数CRを制御する。尚、この第二の実施の形態においては、比較器24とCR制御回路26とによりルツボ回転数補正手段が構成される。
【0047】
このように構成されたネック部形成制御回路20の制御によるネック部P1の形成工程は、図6のフローに沿って行われる。
即ち、ネック部P1の形成工程が開始されると(図6のステップSt1)、CCDカメラ16により撮像された育成中のネック部P1の画像に対し、画像処理部17において形状認識がなされ、ネック部径の測定値Diaが検出結果として演算制御装置8bに送られる(図6のステップSt2)。
【0048】
演算制御装置8bでは、ネック部形成制御回路20の比較器21において、ネック部径の狙い値Dia−Tag(図7(a)参照)と測定値Dia(図7(b)参照)とが比較され、その差分がPID制御回路22に出力される(図6のステップSt3)。
PID制御回路22では、PID制御(比較制御、微分制御、及び積分制御)により、ネック部径が狙い値Dia−Tagに等しくなるために必要な引上速度の補正値を出力する。出力された補正値は、引上速度の現在値SL0に対し加算され、補正された第一の引上速度SL1(図7(c)参照)が出力される(図6のステップSt4)。
【0049】
ここで、前記引上速度SL1の値をそのまま用いて種結晶Pの引上制御を行うと、引上速度が速すぎる場合があるため、引上速度SL1は、リミッタ回路23により上限値が第一の制限値SL−high1に制限され、界面M1が凸形状とならない範囲の速度SL(図7(d)参照)として出力される(図6のステップSt5)。
【0050】
また、比較器24において、前記引上速度SL1と、第二の制限値SL−high2とが比較され、その比較結果がCR制御回路26に入力される(図6のステップSt6)。
ここで、引上速度SL1が第二の制限値SL−high2よりも大きい場合(図7(e)参照)、CR制御回路26では、PID制御により、差分の大きさに比例して補正値を出力し(図6のステップSt7)、ルツボ回転数の現在値CR0から補正値を減算することによりルツボ回転数CRを低下させる(図6のステップSt9)。
【0051】
一方、引上速度SL1が第二の制限値SL−high2よりも小さい場合(図7(e)参照)、CR制御回路26では、ルツボ回転数CRを基準値に維持させる制御を行う(図6のステップSt8)。
即ち、図7(f)に示すように、引上速度SL1が第二の制限値SL−high2よりも高い場合に、ルツボ回転数CRが低下するように制御され、それにより、種結晶Pの引上速度SLの不足が補われる(図6のステップSt9)。
また、このような引上速度SLとルツボ回転数CRの制御は、ネック部P1が所定の長さとなるまで行われる(図6のステップSt10)。
【0052】
以上のように本発明に係る第二の実施の形態によれば、補正された第一の引上速度SL1が、第一の制限値SL−high1よりも小さい値に設定された第二の制限値SL−high2を越えると、ルツボ回転数CRの低下制御が開始される。
即ち、引上速度SLが、第一の制限値SL−high1に達する前に、ルツボ回転数CRの低下制御を開始するため、ルツボ回転数の設定変更の際、実際のルツボ回転動作における回転数の切り換えを遅延することなく(素早く)行うことができる。
【0053】
続いて、本発明に係る単結晶引上装置及び単結晶引上方法の第三の実施形態について説明する。
この第三の実施形態にあっては、前記した第二の実施形態におけるネック部形成制御回路20の構成において、図8に示すようにCR制御回路26に代えて、CR制御回路27が設けられ、そこに、例えば記憶装置8aに予め配列データとして記憶されたルツボ回転数の狙い値CR−Tag(図9(f)参照)が更に入力される。
【0054】
このように構成されたネック部形成制御回路20にあっては、CR制御回路27において、引上速度SL1が第二の制限値SL−high2よりも小さい場合(図9(e)参照)、前記ルツボ回転数の狙い値CR−Tag(図9(f)参照)がルツボ回転数CRとして出力される(図6のステップSt8での動作に相当)。
【0055】
このような制御を行うことによって、引上速度SL0が第二の制限値SL−high2を越えた場合だけでなく、下回る状態に変化した場合にも、迅速にルツボ回転数CRの値を変化させることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 単結晶引上装置
3 ルツボ
14 ネック径検出装置(ネック径測定手段)
21 比較器(第一の引上速度補正手段)
22 PID制御回路(第一の引上速度補正手段)
23 リミッタ回路(第二の引上速度補正手段)
24 比較器(ルツボ回転数補正手段)
25 CR制御回路(ルツボ回転数補正手段)
C 単結晶
M シリコン溶融液
P 種結晶
P1 ネック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶をルツボ内のシリコン溶融液に接触させ、拡径部と縮径部とが交互に形成されるネック部を育成してチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置であって、
前記育成されるネック部の径を測定するネック径測定手段と、
前記ネック径測定手段から得られたネック部の測定値と、記憶手段に予め記憶したネック部径の狙い値との差分に基づき、前記種結晶の補正された第一の引上速度を出力する第一の引上速度補正手段と、
前記第一の引上速度の上限を第一の制限値に制限した、第二の引上速度を出力する第二の引上速度補正手段と、
少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるルツボ回転数補正手段とを備えることを特徴とする単結晶引上装置。
【請求項2】
前記ルツボ回転数補正手段は、
予め記憶した種結晶の引上速度の狙い値と、前記第二の引上速度補正手段から出力された第二の引上速度との差分に基づき、前記第一の引上速度の上限が前記第一の制限値に制限される期間を検出し、前記期間において前記差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置。
【請求項3】
前記ルツボ回転数補正手段は、
前記種結晶の補正された第一の引上速度と、前記第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値とを比較し、前記第一の引上速度が前記第二の制限値より大きい場合に、その差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置。
【請求項4】
前記ルツボ回転数補正手段は、
前記種結晶の補正された第一の引上速度と、前記第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値とを比較し、
前記第一の引上速度が前記第二の制限値より小さい場合は、記憶手段に予め記憶したルツボ回転数の狙い値を出力し、
前記第一の引上速度が前記第二の制限値より大きい場合は、その差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置。
【請求項5】
種結晶をルツボ内のシリコン溶融液に接触させ、拡径部と縮径部とが交互に形成されるネック部を育成してチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引き上げ方法であって、
前記育成されるネック部の径を測定するステップと、
前記ネック部の測定値と、記憶手段に予め記憶したネック部径の狙い値との差分に基づき、前記種結晶の補正された第一の引上速度を出力するステップと、
前記第一の引上速度の上限を第一の制限値に制限した、第二の引上速度を出力するステップと、
少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるステップとを含むことを特徴とする単結晶引き上げ方法。
【請求項6】
少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるステップにおいて、
予め記憶した種結晶の引上速度の狙い値と、前記第二の引上速度補正手段から出力された第二の引上速度との差分に基づき、前記第一の引上速度の上限が前記第一の制限値に制限される期間を検出し、
前記期間において前記差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行うことを特徴とする請求項5に記載された単結晶引き上げ方法。
【請求項7】
少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるステップにおいて、
前記種結晶の補正された第一の引上速度と、前記第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値とを比較し、
前記第一の引上速度が前記第二の制限値より大きい場合に、その差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行うことを特徴とする請求項5に記載された単結晶引き上げ方法。
【請求項8】
少なくとも前記引上速度の上限が前記第一の制限値に制限されている間、前記ルツボの回転数を低下させるステップにおいて、
前記種結晶の補正された第一の引上速度と、前記第一の制限値よりも小さい値に設定された第二の制限値とを比較し、
前記第一の引上速度が前記第二の制限値より小さい場合は、記憶手段に予め記憶したルツボ回転数の狙い値を出力し、
前記第一の引上速度が前記第二の制限値より大きい場合は、その差分の大きさに比例して前記ルツボの回転数を低下させる制御を行うことを特徴とする請求項5に記載された単結晶引き上げ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−62216(P2012−62216A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207558(P2010−207558)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】