説明

単結晶SiC、その製造方法及びその製造装置

【課題】高品質な単結晶SiCを安定してエピタキシャルに連続成長させることが可能な単結晶SiC製造方法及びその製造装置並びにその結果得られる高品質な単結晶SiCを提供する。
【解決手段】SiC種結晶4’が固定されたサセプタ5’及び不活性ガス供給管6’を坩堝2’内に配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした坩堝2’内に単結晶SiC製造用原料7’を不活性ガスAと共にSiC種結晶4’上に供給して単結晶SiC8’を成長させる成長工程を含み、単結晶SiC製造用原料7’がSiC粒子である単結晶SiCの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス用材料やLED用材料として利用される単結晶SiC、その製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶SiC(炭化ケイ素)は結晶の結合エネルギーが大きく、絶縁破壊電界が大きく、また熱伝導率も大きいため、耐苛酷環境用デバイスやパワーデバイス用の材料として有用である。またその格子定数がGaNの格子定数と近いため、GaN−LED用の基板材料としても有用である。
【0003】
従来、この単結晶SiCの製造には、黒鉛坩堝内でSiC粉末を昇華させ、黒鉛坩堝内壁に単結晶SiCを再結晶化させるレーリー法や、このレーリー法をベースに原料配置や温度分布を最適化し、再結晶化させる部分にSiC種単結晶を配置してエピタキシャルに再結晶成長させる改良レーリー法、キャリアガスによってガスソースを加熱されたSiC種単結晶上に輸送し結晶表面で化学反応させながらエピタキシャル成長させるCVD法、密閉された黒鉛坩堝内でSiC粉末とSiC種単結晶を近接させた状態でSiC粉末をSiC種単結晶上にエピタキシャルに再結晶成長させる昇華近接法などがある(非特許文献1第4章参照)。
【0004】
ところで現状では、これらの各単結晶SiC製造方法にはいずれも問題があるとされている。レーリー法では、結晶性の良好な単結晶SiCが製造できるものの、自然発生的な核形成をもとに結晶成長するため、形状制御や結晶面制御が困難であり、且つ大口径ウエハが得られないという問題がある。改良レーリー法では、SiC固体原料を昇華再結晶させる方法であり、数100μm/h程度の高速で大口径の単結晶SiCインゴットを得ることができるものの、単結晶SiCが螺旋状にエピタキシャル成長するため、結晶内に多数のマイクロパイプが発生するという問題がある。さらにバッチ育成方式であるため、連続して長尺の単結晶SiCインゴットを製造することには限界がある。CVD法では、高純度で低欠陥密度の良質な単結晶SiCが製造できるものの、希薄なガスソースを用いてエピタキシャル成長させるため、結晶の成長速度が〜10μm/h程度と遅く、長尺の単結晶SiCインゴットを得られないという問題がある。昇華近接法では、比較的簡単な構成で高純度のSiCエピタキシャル成長が実現できるが、構成上の制約から長尺の単結晶SiCインゴットを得ることは不可能という問題がある。
【0005】
また最近、加熱保持されたSiC種単結晶上に、二酸化ケイ素超微粒子と炭素超微粒子とを不活性キャリアガスで供給し、SiC種単結晶上で二酸化ケイ素を炭素で還元することにより、式(1)の反応により単結晶SiCをSiC種単結晶上にエピタキシャルに高速成長させる方法が報告された(特許文献1参照)。
SiO2 + 3C → SiC + 2CO↑ ・・・ (1)
【0006】
【特許文献1】特許第3505597号公報
【非特許文献1】松波弘之編著、「半導体SiC技術と応用」、日刊工業新聞社(2003年3月初版発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に開示された単結晶SiCの製造方法では、微粒子状の固体原料を供給するため原料濃度を高く保つことができ、マイクロパイプ等の欠陥発生を抑制することができる。しかしながら、特許文献1に開示された方法は、SiC種結晶表面において二酸化ケイ素を炭素により還元して単結晶SiCを得る化学反応を利用して、SiC単結晶をSiC種結晶上に成長させる方法である。そのために、化学反応にともなう体積変化や温度変化、さらに供給されながら単結晶SiC成長に寄与しなかった原料の析出による流れの変化や分圧濃度のばらつき等、さまざまな不安定要素を抱えている。その結果、安定して高品位の単結晶SiCを成長させることが難しい。
【0008】
以上の通り、いずれの製法においてもそれぞれ長所があるものの、同時に様々な問題も抱えており、決定的な製法ではない。よって、それぞれの良い点を参考にしながらも、様々な問題を解決できる、全く新しい別の製法を発明する必要がある。
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、高品質な単結晶SiCを安定してエピタキシャルに連続成長させることが可能な単結晶SiC製造方法及びその製造装置並びにその結果得られる高品質な単結晶SiCを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、以下の<1>、<6>又は<7>に記載の手段によって解決された。好ましい実施態様である<2>〜<5>と共に以下に記載する。
<1> SiC種結晶が固定されたサセプタ及び不活性ガス供給管を坩堝内に配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした該坩堝内に単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共にSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、前記単結晶SiC製造用原料がSiC粒子であることを特徴とする単結晶SiCの製造方法、
<2> 前記不活性ガスがArガスである、<1>に記載の単結晶SiCの製造方法、
<3> 前記SiC粒子が3C−SiC粒子である、<1>又は<2>に記載の単結晶SiCの製造方法、
<4> 成長工程において、前記SiC種結晶又はSiC成長層の表面近傍に、前記SiC粒子の流動層を形成する、<1>〜<3>いずれか1つに記載の単結晶SiCの製造方法、
<5> 前記高温雰囲気とした坩堝の温度が1,600℃以上2,400℃以下である、<1>〜<4>いずれか1つに記載の単結晶SiCの製造方法、
<6> <1>〜<5>いずれか1つに記載の製造方法により製造された単結晶SiC、
<7> 加熱手段を備えたチャンバ内に配設された坩堝、坩堝内に挿入可能に配置され、SiC種結晶を固定したサセプタ、坩堝外から坩堝内に不活性ガスを供給可能に配設された不活性ガス供給管、坩堝内で前記不活性ガス供給管に接続された流動層形成筒、及び、SiC単結晶製造用原料としてのSiC粒子を供給するための手段を備えたことを特徴とするSiC単結晶製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高品質な単結晶SiCを安定してエピタキシャルに連続成長させることが可能な単結晶SiC製造方法及びその製造装置並びに高品質な単結晶SiCを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の単結晶SiCの製造方法は、SiC種結晶が固定されたサセプタ及び不活性ガス供給管(以下、「不活性ガス供給管」を単に「ガス供給管」ともいう。)を坩堝内に配置する配置工程、並びに、高温雰囲気とした該坩堝内に単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共にSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、前記単結晶SiC製造用原料がSiC粒子であることを特徴とする。
【0013】
本発明の製造方法によれば、固体原料であるSiC粒子を直接供給するため原料濃度を高く保つことができ、マイクロパイプ等の欠陥を抑制することができる。しかも、SiC粒子は改良レーリー法と同等の原料であり、化学反応を伴わずに単結晶SiCを成長させることができる。そのため化学変化に起因する体積変化や温度変化による不安定性がなくなり、製造安定性が向上し、極めて高品質な単結晶SiCを製造することが可能となる。なお、本発明の製造方法は、開放系空間内での単結晶成長である点で、閉鎖空間内で昇華再結晶する改良レーリー法とは異なっている。
更に、製造用原料として供給されるSiC粒子は、化学反応を伴わない直接原料であるため、単結晶SiCの成長に寄与しない原料の比率を低く抑えることができ、特許文献1の製造方法と比較して、不純物等の余分な析出も抑制することができた。さらに改良レーリー法と異なり、原料を外部から供給することも可能であるため、バッチ式製造時に問題となる長尺化できない課題を解消することができた。本発明の製造方法により安定して高品位の単結晶SiCを長時間にわたって連続成長させることが可能となった。
このようにして、発明者等は、従来技術に存在した様々な問題を生じることのない全く新しい単結晶SiCの製造方法の発明を完成させた。
【0014】
本発明の製造方法において原料SiC粒子としては、いかなる結晶多形のSiC結晶も使用でき、3C(立方晶)−SiC、4H(六方晶)−SiC、及び6H(菱面体)−SiCが含まれる。これらの中でも市販の3C多形のものが好適に利用できる。また上記SiC粒子は、必要に応じて前処理を施してもよい。尚、本発明において、立方晶炭化ケイ素粒子を3C−SiCとも記載することとする。市販の3C−SiC粒子は、微粒子で高純度であり、入手が容易であるので好ましい。
前記SiC粒子の粒子径は400nm以下の微粒子が好ましく、100nm以下の微粒子がより好ましく、10〜100nmの超微粒子が更に好ましく、10〜85nmの超微粒子が特に好ましい。SiC粒子の粒子径が上記範囲内であると、流動層の形成が容易であり、流動層の安定維持や雰囲気濃度を制御可能な大きさであるので好ましい。尚、SiC粒子の粒子径とは、一次粒子の重量平均粒子径を意味する。
また、原料として使用するSiCの粒子形状は特に限定されない。好ましい粒子形状としては凝集体形状が例示できる。
【0015】
本発明の単結晶SiCの製造方法は、最初に、SiC種結晶が固定されたサセプタ及び不活性ガス供給管を坩堝内に配置する配置工程を有する。
【0016】
本発明で使用する坩堝の形状は、外形については特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状に合わせ適宜選択できる。尚、当該坩堝の材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
【0017】
SiC種結晶を保持するサセプタの形状は特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状に合わせ適宜選択できる。但し当該サセプタの材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
尚、サセプタ上端のSiC種結晶を保持する表面の法線方向は、特に限定されず自由に設定することができ、該サセプタの鉛直方向と略平行から最大45°までの傾斜とすることが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法で使用するSiC種結晶は、好ましくはSiC種単結晶であり、さらに好ましくはSiC種単結晶ウエハであり、その種類、サイズ、形状は特に限定されず、目的とする単結晶SiCの種類、サイズ、形状によって適宜選択できる。例えば改良レーリー法によって得られたSiC単結晶を必要に応じて前処理したSiC種単結晶ウエハが好適に利用できる。種結晶は、ジャスト基板でもよく、また、オフ角基板でもよい。SiC種単結晶として、ジャスト面のSi面基板や数度のオフ角を有する(0001)Si面基板が例示できる。
【0019】
不活性ガス供給管(ガス供給管)をその先端が坩堝内にまで届くように配置する。この不活性ガスは、単結晶SiC製造用原料であるSiC粒子をSiC種結晶に供給するためのキャリアである。不活性ガスが中を通るガス供給管の形状は特に限定されず、製造する単結晶SiCのサイズや形状に合わせた不活性ガスを供給するための内径を適宜選択できる。当該ガス供給管は、不活性ガスの貯蔵タンクから適宜流量調節弁を介して坩堝内にまで延長されている。坩堝近辺の不活性ガス供給管の材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
不活性ガス供給管の先端は、炭化ケイ素種単結晶を固定したサセプタに坩堝中で対向させてもよく、直角又は斜めに配置してもよい。
また、(1)不活性ガスに原料SiC粒子を同伴して輸送するか、(2)予め坩堝内に原料SiC粒子を仕込んでおき、不活性ガスのみを供給するか、又は、(3)この両態様を併用するかは適宜選択できる。
【0020】
坩堝内において、不活性ガス供給管の先端とサセプタとの間に、流動層形成筒を設けてもよい。後に詳しく説明する、図2及び図3は、このような流動層形成筒を有する態様であり、図1はこのような流動層形成筒を有しない態様である。
流動層形成筒は、不活性ガス供給管の先端に接続されており、供給管よりも大きな内径を有し、好ましくは、サセプタの外径に近い内径を有する。流動層形成筒の材質は使用温度範囲を考慮してグラファイト製であることが好ましい。
流動層形成筒は、その下部に不活性ガスの供給孔を有し、その本体は円筒形状を有する。完全な円筒形状の他に、開口部が少し狭くなったチューリップ形状でも、開口部を星形の異型形状としてもよく、適宜その形状を修正することができる。流動層形成筒は、不活性ガス通過孔を有するガス分散板を有していてもよい。
流動層形成筒を設けた場合には、原料SiC粒子はこの流動層形成筒内で上向きに流れる不活性ガスにより流動化され、SiC種結晶又はSiC成長層の表面に再結晶成長すると考えられる。
【0021】
本発明の単結晶SiCの製造方法は、上記の配置工程に引き続いて単結晶SiCの成長工程を含む。
成長工程は、高温雰囲気とした該坩堝内に単結晶SiC製造用原料であるSiC粒子を不活性ガスと共にSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる工程である。
坩堝を高温雰囲気とするには、ヒーターとして、例えば、高周波誘導加熱炉を使用することができる。坩堝は、好ましくは、水冷されたチャンバ内に配置され、チャンバ外側に配置された高周波誘導加熱コイルにより加熱することができる。
【0022】
本発明において、SiC粒子又は昇華したSiCは、不活性ガスと共にSiC種結晶上に供給される。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス等が例示でき、アルゴンガスが好ましい。アルゴンガスは入手しやすく、取扱いが平易で、しかもヘリウムガスに比べ比熱が大きく保温性があるので好ましい。また、アルゴンガスを使用すると、SiC粒子を安定してSiC種結晶上に供給することができ、又、ヘリウムガスに比べ重い元素のため流動層を形成しやすいので好ましい。
また、当該ガス供給管及び単結晶SiC製造装置内部は酸素混入を防止するため、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスにより、好ましくはアルゴンガスにより、置換されたハーメチック構造にしておくことが好ましい。
【0023】
単結晶SiC製造用原料であるSiC粒子を不活性ガスと共にSiC種結晶上に供給する方法は特に限定されない。SiC粒子をSiC種結晶上に、途切れることなく連続して供給できる方法が好ましい。その具体的な方法としては、坩堝内に設けた上記の流動層形成筒の有無、及び、原料SiC粒子を坩堝内に予め仕込むか、坩堝外から供給するか、等の組合せによりいくつかの態様があり、以下に挙げる具体的態様が含まれる。
(1)SiC粒子供給を坩堝外の原料貯蔵槽からパウダフィーダで行い、流動層形成筒のない場合、
(2)同じくSiC粒子供給を坩堝外の原料貯蔵槽からパウダフィーダで行うが、流動層形成筒がある場合、
(3)SiC粒子を、予め坩堝内の流動層形成筒に充填しておき、不活性ガスを坩堝内に供給する場合。
上記の3態様を以下に図面を参照しながら本発明の製造方法を製造装置と共に説明する。
【0024】
図1は単結晶SiC製造装置の一例の構成を模式的に示す断面図である。単結晶SiC製造装置は高周波誘導加熱方式を採用しており、坩堝の加熱には、高周波誘導加熱炉9が用いられている。水冷されたチャンバ1内にカーボン製の円筒坩堝2(直径100mm、高さ150mm)が配置され、前記水冷されたチャンバ1の外側に高周波誘導加熱コイル3を配置した構造となっている。また前記円筒坩堝2内の上部には、SiC種結晶4を保持するためのサセプタ5が貫通挿入されている。さらに前記サセプタ5は円筒坩堝2の外側まで伸びており、図示しない回転機構により該サセプタの中心軸を回転軸として回転可能である。
また、前記高周波誘導加熱炉9の外部に配管により接続された不活性ガス供給管6はサセプタ5と反対側の円筒坩堝2の下面から円筒坩堝2内に伸びており、サセプタ5と対向配置されている。不活性ガス供給管6には、前記単結晶SiC製造用の原料(SiC粒子)7を供給する原料貯蔵槽10が配置されている。不活性ガス供給管6を通してアルゴンガスと共に供給されたSiC粒子は、SiC種結晶4表面又はその上に成長する単結晶SiCの成長層8表面に供給される。尚、SiC粒子は調節弁11を介して原料貯蔵槽10から不活性ガス供給管6に供給され、SiC粒子は、不活性キャリアガス供給源(図示せず)から供給された不活性キャリアガスAにより不活性ガス供給管6を通して円筒坩堝2内に供給される。原料(SiC粒子)供給量は、調節弁11による流量調節機構により制御することができる。供給された不活性キャリアガスAは、チャンバ1に設けられたダクト(図示せず)から排出される。
【0025】
図2は本発明の単結晶SiCを製造する他の製造装置の一例を示す概念的断面図である。
坩堝の加熱には高周波誘導加熱炉9’を用いている。水冷されたチャンバ1’内にカーボン製の円筒坩堝2’(直径100mm、高さ150mm)が配置され、前記水冷されたチャンバ1’の外側に高周波誘導加熱コイル3’を配置してある。
前記円筒坩堝2’内の上部には、SiC種結晶4’(SiC種単結晶ウエハ4’)を保持するためのサセプタ5’が貫通挿入されている。このサセプタ5’は円筒坩堝の内部まで伸びており、図示しない回転機構により該サセプタの中心軸を回転軸として回転可能である。
また、このサセプタの図示されない上端には、制御可能な熱交換機能が付与されており、該サセプタ鉛直方向(長手方向)に熱流を発生することができる。また前記熱流量の調整が可能な構成となっている。
上述したように、サセプタ下端のSiC種結晶を保持する表面の法線方向は、該サセプタの鉛直方向と略平行から最大45°までの傾斜に、自由に設定することができる。SiC種結晶4’の上にSiC単結晶の成長層8’を成長させる。
【0026】
前記円筒坩堝2’内の下部には、不活性ガスを供給するための不活性ガス供給管6’が貫通挿入されている。このガス供給管6’は前記円筒坩堝2’内でカップ型に膨らんだ流動層形成筒12’に接続されており、その筒部の底に単結晶SiC製造用原料7’が充填されている。更に前記不活性ガス供給管6’は、前記高周波誘導加熱炉の外側に延設されていて、流量調節可能な不活性キャリアガスAの供給源(図示せず)に連結している。
【0027】
図3は、本発明の単結晶SiC製造装置の他の一例を示す概念的断面図である。
本発明の製造方法で使用する単結晶SiC製造用原料は、図3に例示されるように前記坩堝外部の加熱されていない場所に配設した原料貯蔵槽10”内に充填して、そこから不活性キャリアガスAによって坩堝内に供給してもよい。
また、図2に示す態様において、図3に示すように原料貯蔵槽を別途設け、消費された原料を坩堝外から補充することも可能である。
【0028】
また、既に図3で説明したように、不活性ガスを供給する不活性ガス供給管の配管の途中にSiC粒子を充填した原料貯蔵槽を設けて、その下流から供給されるキャリアガス(不活性ガス)と同伴させてSiC粒子を輸送し、坩堝内の流動層形成筒内にSiC粒子と不活性ガスの固気流動層を形成することもできる。
流動層を形成する場合、少なくともSiC種結晶の近傍にまで流動層が形成されていることが好ましい。この流動層の形成により、SiC種結晶上又はこの上に成長したSiC成長層への原料SiC粒子の供給を連続的に行うことができるので好ましい。
本発明において、SiC種結晶又はこの上に成長したSiC成長層の表面近傍にSiC粒子/キャリアガスの固気流動層を形成することにより、SiC単結晶成長のための原料濃度(昇華した状態のSiCを含む。)を高く保持することができ、高い品質を維持しながら速い成長速度を得ることができるので好ましい。さらに、本発明において、長尺の単結晶SiCを製造するために、消費されたSiC粒子を、坩堝外から補給することも好ましい。
【0029】
また単結晶SiC中にドーピングをおこなう場合は、適当なドーパントを併用することができる。p型のSiC結晶にするのであればSiC粒子と例えばAl23粒子とを高濃度(0.1〜0.2wt%)に混合して供給することが簡便である。また、ガスソースとしてAl(CH33、B26等を併用することにより、p型単結晶SiCを製造できるし、雰囲気中に窒素ガスを導入すればn型単結晶SiCが簡単に製造できる。
【0030】
単結晶SiC製造温度は特に限定されず、目的とする単結晶SiCのサイズや形状、種類等に応じて適宜設定できるが、好ましい製造温度は1,600〜2,400℃の範囲であり、より好ましくは1,950〜2,350℃の範囲であり、この温度は例えば坩堝外側の温度として測定できる。
【0031】
本発明の好ましいSiC単結晶製造装置は、加熱手段を備えたチャンバ内に配設された坩堝、坩堝内に挿入可能に配置され、SiC種結晶を固定したサセプタ、坩堝外から坩堝内に不活性ガスを供給可能に配設された不活性ガス供給管、坩堝内で前記ガス供給管に接続された流動層形成筒、及び、SiC単結晶製造用原料としてのSiC粒子を供給するための手段を備えたことを特徴とする。
【0032】
SiC粒子を供給するための手段としては、前記円筒坩堝外で前記ガス供給管に接続された原料貯蔵槽、前記ガス供給管に前記円筒坩堝内で接続されておりSiC粒子を充填可能な流動層形成筒(ガス拡散板を備えていてもよい。)、及びこれらの組合せが例示できる。
【0033】
本発明の単結晶SiC製造装置のその他の具体的構成は、特に限定されない。すなわち種結晶サイズ、坩堝加熱方法、坩堝材質、原料粒子供給方法、雰囲気調整方法、成長圧力、温度制御方法などは、目的とする単結晶SiCのサイズや形状、種類、SiC粒子の種類や量等に応じて適宜選択できる。例えば、温度測定と温度制御にはPID温度制御技術を使用することができる。成長圧力は、380〜988Torrであることが好ましい。
【0034】
高周波誘導加熱炉は、図示しない真空排気系及び圧力調節系により圧力制御が可能としてもよく、また図示しない不活性ガス置換機構を備えていてもよい。尚、図1の実施例では供給管を坩堝の下側に、サセプタを坩堝の上側に配したが、本発明の作用が変わらない範囲内で、上下逆に配置することも可能であるし、ガス供給管及び流動層形成筒をサセプタに対し斜めや横向きに配置することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下に実施例をもとに更に説明する。
前記高周波誘導加熱炉を用いて、以下の条件にて単結晶SiCを製造した。
図2を参照して説明する。SiC製造用原料として、(株)エネテック総研製3C−SiC粒子(商品名SiC NanoPowder、平均粒径が45〜82nmの範囲内にある3種類の粒子)を使用した。具体的には平均一次粒径が45nm、55nm又は82nmである3種類の前記SiC粒子を円筒坩堝2’内にある不活性ガスガス供給管6’の先端に形成された流動層形成筒12’に充填した。
前記サセプタ5’下端にSiC種結晶4’(SiC種単結晶ウエハ4’)を固定した。ここでSiC種単結晶ウエハとしては、改良レーリー法で製造された2インチ単結晶SiC基板を使用した。高周波誘導加熱炉9’内部を真空引きした後、不活性ガス(高純度アルゴン)で該高周波誘導加熱炉9’内部を置換した。次いで前記高周波誘導加熱コイル3’により、前記カーボン製の円筒坩堝2’を加熱し、前記SiC種単結晶ウエハ表面温度が1,600〜2,400℃の範囲となるように調整した。
次いでSiC種単結晶ウエハ4’が固定された前記サセプタ5’を0〜20rpmの回転速度で回転させた。この状態で不活性キャリアガスAとして高純度アルゴンを流速0.05〜5L/minの範囲に調整して流し、図示しないカーボン製多孔質バッフルを通して前記3C−SiC粒子を吹き上げた。ここで当該粒子は、前記キャリアガスAにより流動層を形成するように調整した。この流動層を前記SiC種単結晶ウエハ表面近傍に滞留させることで、前記SiC単結晶ウエハ表面に原料を連続して供給し、単結晶SiCを成長させた。
【0036】
製造した単結晶SiCを評価した結果、成長速度が100μm/hで、厚み500μmの単結晶SiCであった。さらに結晶品質を溶融KOHエッチングにより欠陥を反射型光学顕微鏡でカウントできる状態に拡大して詳細に評価したところ、マイクロパイプの発生は見られなかった。これはSiC製造用原料としてSiC粒子を供給した効果と推定される。
【0037】
続いて別の条件にて再び単結晶SiCの製造をおこなった。
図3を参照して説明する。原料である(株)エネテック総研製3C−SiC粒子(商品名SiC NanoPowder、平均粒径が45〜82nmの範囲内にある3種類の粒子)を使用した。具体的には平均一次粒径が45nm、55nm又は82nmである3種類の前記SiC粒子を、高周波誘導加熱炉9”の外部の不活性ガス供給管6”に接続された原料貯蔵槽10”に充填した。
前記サセプタ下端にSiC種結晶4”(SiC種単結晶ウエハ4”)を固定した。ここで使用したSiC種単結晶ウエハは、改良レーリー法で製造された2インチ単結晶SiC基板を使用した。高周波誘導加熱炉内部を真空引きした後、不活性ガス(高純度アルゴン)で該高周波誘導加熱炉内部を置換した。次いで前記高周波誘導加熱コイル3”により、前記カーボン製の円筒坩堝2”を加熱し、前記SiC種単結晶ウエハ表面温度が1,600〜2,400℃の範囲となるように調整した。
次いでSiC種単結晶ウエハ4”が固定された前記サセプタ5”を0〜20rpmの回転速度で回転させた。この状態で前記不活性キャリアガスAとして高純度アルゴンを流速0.05〜5L/minの範囲に調整して流し、図示しない原料供給量調節系を用いて前記原料貯蔵槽10”内に充填した3C−SiC粒子を不活性ガス供給管6”に連続的に導入した。当該粒子は、前記キャリアガスAにより不活性ガス供給管6”内を輸送され、前記円筒坩堝2”内にある流動層形成筒12”内で対流させて流動層を形成するように調整した。この流動層が前記SiC種単結晶ウエハ表面近傍に滞留することにより、前記SiC単結晶ウエハ表面又は前記成長層8”に原料が連続して供給され、単結晶SiCが製造された。
【0038】
製造した単結晶SiCを評価した結果、成長速度が100μm/hで、厚み1mmの単結晶SiCであった。これについても結晶品質を詳細に評価したところ、マイクロパイプの発生は見られなかった。これは前記同様固体高濃度原料による製造効果と推定される。本構成の場合には、高周波誘導加熱炉9”の外部に配置された原料貯蔵槽10”から次々に原料を連続供給するため、従来の改良レーリー法のようなバッチ式とは異なり、連続して厚膜育成が可能であった。
【0039】
以上の結果から、従来の改良レーリー法の優れた点と、特許文献1に開示された固体原料供給法の優れた点を参考にしながらも、従来の製造方法に存在した問題点を解決可能な、全く新しい単結晶SiC製造方法を開発し、しかもマイクロパイプ発生のない高品質の単結晶SiCを連続して厚く製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の単結晶SiCを製造するための装置の一例を示す概念的断面図である。
【図2】本発明の単結晶SiCを製造するための装置の別の一例を示す概念的断面図である。
【図3】本発明の単結晶SiCを製造するための装置のさらに別の一例を示す概念的断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1、1’、1” チャンバ
2、2’、2” 円筒坩堝
3、3’、3” 高周波誘導加熱コイル
4、4’、4” SiC種結晶
5、5’、5” サセプタ
6、6’、6” 不活性ガス供給管
7、7’、7” 原料
8、8’、8” 成長層
9、9’、9” 高周波誘導加熱炉
10、10” 原料貯蔵槽
11 調節弁
12’、12” 流動層形成筒
A 不活性キャリアガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC種結晶が固定されたサセプタ及び不活性ガス供給管を坩堝内に配置する配置工程、並びに、
高温雰囲気とした該坩堝内に単結晶SiC製造用原料を不活性ガスと共にSiC種結晶上に供給して単結晶SiCを成長させる成長工程を含み、
前記単結晶SiC製造用原料がSiC粒子であることを特徴とする
単結晶SiCの製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスがArガスである、請求項1に記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項3】
前記SiC粒子が3C−SiC粒子である、請求項1又は2に記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項4】
成長工程において、前記SiC種結晶又はSiC成長層の表面近傍に、前記SiC粒子の流動層を形成する、請求項1〜3いずれか1つに記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項5】
前記高温雰囲気とした坩堝の温度が1,600℃以上2,400℃以下である、請求項1〜4いずれか1つに記載の単結晶SiCの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1つに記載の製造方法により製造された単結晶SiC。
【請求項7】
加熱手段を備えたチャンバ内に配設された坩堝、
坩堝内に挿入可能に配置され、SiC種結晶を固定したサセプタ、
坩堝外から坩堝内に不活性ガスを供給可能に配設された不活性ガス供給管、
坩堝内で前記不活性ガス供給管に接続された流動層形成筒、及び、
SiC単結晶製造用原料としてのSiC粒子を供給するための手段を備えたことを特徴とする
SiC単結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−308369(P2008−308369A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158464(P2007−158464)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】