説明

単色X線源及びこのようなX線源を用いたX線顕微鏡

この単色X線源は、ある元素を有する放出原子を含む材料からなるターゲットを特に含み、前記原子は、電子線照射によって必須的に前記原子のK層に位置する電子が励起される。前記材料は、通常固体状態であり、前記放出原子に束縛される、1つまたは複数の元素を表す構造化原子を用いて結合され、前記構造化原子は、前記放出原子によって放出される前記X線において2.3μm−1以下の吸収係数を有する。前記構造化原子の原子番号は、前記放出原子の原子番号より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、“軟X線源”と呼ばれるX線源に係り、特に、X線顕微鏡画像を形成するために使用されるX線源に関する。X線顕微鏡は、特に生物学的解析または研究の分野での画像化に使用される。その理由は、X線顕微鏡が、短い放射波長のために可視光または紫外光で形成される画像より良好な空間分解能を有する画像を形成するのに役立つからである。
【背景技術】
【0002】
実質的に300から2000eVのエネルギーを有する“軟X線源”または長波長のX線源の使用方法が知られている。従って、文献WO−01/46962には、ウォータージェットが電子線照射に晒される装置が記載されており、水中に存在する酸素のK層の電子がそれらの脱励起中に“軟”X線光子を放出する。
【0003】
この技術は、特に“ウォーターウィンドー”の“軟”X線を放出するのに役立つ。ここで、そのX線のエネルギーは、284eVにおける炭素のK閾値と543eVにおける酸素のK閾値との間であり、4.4nmから2.3nmの間の波長に相当する。実際、このエネルギー範囲は、生物学的解析において好ましい範囲を構成する。その理由は、有機材料は、炭素が支配的な元素であるが、水より10から20倍吸収性があり、それがしばしば解析される試料の主要部分を構成するからである。それによって、有機材料の非常にコントラストのある画像を観察することができる。
【0004】
しかしながら、このようなウォータージェットX線源は、ターゲットの液体の性質のために明らかに使用するのが困難であり、安定性に欠け、従って再現性に欠ける。さらに何よりも、高画像解像度における必要な輝度を得るために、非常に低い圧力下でのウォータージェットの沸点が、電子線の出力を非常に低いレベルまで制限するという事実によってその用途が限定される。従って、その出力が0.6Wまでの、電子線に付けられるこのようなソースを用いて3.8eVのバンド幅を有するラインで放射することによって、約5×10光子/s・μm・srの輝度まで達することが辛うじて可能である。
【0005】
実際、高画像解像度において必要な輝度は、約300から500の波幅に対する中心波長の比(λ/Δλ)(すなわち、1から1.8eVのバンド幅)を有する比較的限定されたスペクトルバンドで正確に言えば約5×1010光子/s・μm・srである。その結果、必要なスペクトルの輝度は、約2×1010光子/s・μm・sr・0.1%BW(“バンド幅”)である。
【0006】
実際、十分な解像度とコントラストを有する画像を得るために、例えば100万画素からなるセンサは、約1000光子/画素を受け取らなければならず、従って、これは画像あたり検出される10億の光子を必要とする。実際、以下の事項を考慮すると、必要な光子の数は、10/(70%×10%×10%×10%)=1.4×1012になる。
(1)レンズの効率が10%、
(2)対象物へのX線伝達が10%、
(3)検出器の量子収量(光子から電荷への変換)が70%、
(4)キャパシタ効率が10%。
【0007】
実際、露出が約10秒間続いた場合であって対象物が7.8×10−3sr(例えば直径が20μmの対象物上の開口f/10)の立体角で観察される場合、必要な輝度は、1.4×1012/(10×20×7.8×10−3)=5×1010光子/s・μm・srである。
【0008】
同様に、X線を放出するための放電プラズマの使用は、十分な輝度を提供できない。その理由は、ソースの寸法が大き過ぎるからである。
【0009】
さらに、このような輝度は、“シンクロトロン”と呼ばれる放射中心で得られる。しかしながら、これらの中心は、研究のためのものであり、X線電子顕微鏡による生物学的試料の急速且つ頻繁な解析を行うには相応しくない。さらに、この設備は、それらが必要とするかなりのシールドのために極端にコストが掛かり、大型である。その結果、それらは実験室解析に相応しくない。
【0010】
線形加速器は、非常に高いエネルギー(約10MeV)の電子線を用いて薄い金属シート(チタンまたはバナジウムからなる)の照射に起因するチェレンコフ効果照射によって必要な輝度とバンド幅を得るために役立つが、同様の理由(サイズ、コスト、危険性)で使用できない。
【0011】
このような輝度を得るための他の解決手段は、窒素または炭素を含むターゲット上に焦点を合わせられた非常に短いパルスのレーザー光線によって発生するプラズマの使用に属する。従って、照射された原子は、イオン化され、それらの電子による層の遷移は、“ウォーターウィンドー”のX線光子の放出をもたらす。適切な動作パラメータ(100Hzから1kHzの周波数で100mJのエネルギーのレーザー)を使用することによって、極端に狭いバンド幅の光線(λ/Δλ=300から1000)を用いて必要な輝度を提供する放出を得ることができる。しかしながら、他の光線が同時に放出されるので、従って選択フィルタリングが必要になる。さらに、その対象物は、分解するかも知れず、従って、これらの破片に対するX線処理光学素子の保護を必要とし、また光学素子のシールドの頻繁な交換を必要とする。したがって、この放出方法は、非常にコストが掛かり、現実的ではないことが分かる。
【特許文献1】国際公開第01/46962号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、出力、輝度、バンド幅において非常に良好な性能を有し、低コストで、使用が容易で、如何なる破片も生成しないX線源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は、あるタイプの元素(周期律表に属する)からなる放出原子を含む材料からなるターゲットを特に含み、前記原子は、電子線照射によって必須的に前記元素のK層に位置する電子が励起される単色X線源に関する。
【0014】
本発明によれば、前記材料は、通常固体状態であり、前記放出原子に束縛される構造化原子によって結合される。さらに、本発明によれば、前記構造化原子は、所定の閾値以下の光子エネルギー吸収係数を有する。
【0015】
この閾値は、前記電子線が到達する最も深い放出原子(前記ターゲット表面から約1μmの位置にある)によって放出される外向的な放射線の少なくとも実質的に10%の伝達が見られるように定義される。
【0016】
従って、本発明は、前記ターゲットが、少なくとも2つの元素の原子、すなわち、前記放出原子と前記構造化原子とを含む固体状態の材料を含み、前記構造化原子が、前記放出原子によって放出されるX線を過度にフィルターすることができないX線源に属する。
【0017】
有利には、予め定義される前記吸収容量の閾値は、10%以下である。このように、放出されるX線の少なくとも10%がターゲットを離れ、使用することができる。関連する物理法則、特にランベルト−ビア(Lambert-Beer)のために、これは、その吸収係数が2.3μm−1以下の構造化原子を使用するのに等しい。実際、この法則に従う伝達は式T=e−μ・lに従い、ここで、μは、吸収係数を示し、lはターゲットの深さを示す。
【0018】
従って、透過で得られるμ=2.3μm−1の値は、l=1μmで10%以上である。
【0019】
特に有利な実施形態によれば、構造化原子の原子番号は、放出原子の原子番号より小さい。このように、構造化原子は、放出原子によって放出されたX線をほんの僅かだけフィルタリングする。
【0020】
有利には、特に生物学的解析において、前記放出原子は、酸素原子であり、前記材料は、全体的又は部分的に酸化物形態である。
【0021】
実際、前記構造化原子は、ベリリウム原子であり、酸化物形態、特には酸化ベリリウム(BeO)である。この場合、ベリリウム構造化原子によって吸収されるX線の割合は低い。
【0022】
あるいは、前記放出原子は、窒素原子であり、従って、前記ターゲット材料は、全体的又は部分的に窒化物形態である。
【0023】
実際、前記構造化原子は、ホウ素原子であり、窒化ホウ素(BN)によって定義される窒化物形態のターゲットを形成する。
【0024】
同時に、放出元素より重い元素が存在し、そのL層の電子は、前記放出元素によって放出されるX線のエネルギーより若干大きいエネルギーを有する。したがって、これらの元素は、構造化元素として相応しい前記元素における放出元素によって放出されるX線の十分に低い吸収を有する。
【0025】
実際、前記放出原子は、酸素原子であり、前記構造化原子は、マグネシウム原子及びアルミニウム原子であり、アルミン酸マグネシウム(MgAl)またはクロム及びマンガンの原子によって定義される酸化物形態のターゲットを形成する。
【0026】
本発明の有利な実施形態では、前記ターゲットの電子線照射中に発生する熱の放射による除去を可能にするために、前記ターゲットは、全体的又は部分的に高放射係数材料で被覆される。
【0027】
好ましくは、前記高放射係数材料の放射係数は、1から10μmの波長を有する放射線の放射において0.7以上である。
【0028】
実際、本発明の実施形態では、使用される前記高放射係数材料は黒ニッケルである。
【0029】
有利には、前記ターゲットは、全体的又は部分的に伝導体に対向して位置され、前記伝導体は、前記ターゲットに起因する前記放射線を収集するために、全体的又は部分的に高放射係数材料で被覆される。さらに、流体は、還流によって前記伝導体を冷却するために前記伝導体の内部に流れる。
【0030】
本発明の他の実施形態では、前記電子線照射光線は、前記ターゲットのその衝撃点の法線に対して焦点が合わされて傾いている。
【0031】
本発明の実施形態において、好ましくは、前記ターゲットのその衝撃点の法線に対する前記電子線照射光線の傾斜の角度の値は、40°から70°である。
【0032】
有利には、前記光線に対して露出されることができる前記ターゲットの一部は、耐熱性の材料からなり、導電性であり、前記放出されたX線または前記照射電子の低い吸収を有する表面層で被覆される。
【0033】
好ましくは、前記耐熱性材料は、2.3μm−1以下の放出されたX線エネルギー吸収係数を有する。
【0034】
実際、前記耐熱性の材料は、クロム、ニッケル、コバルト、または、それらの酸化物、特に式Crを有する酸化クロム(III)からなる群から選択される。
【0035】
有利には、前記X線源は、前記ターゲットに付けられた前記耐熱性材料と同じ化学組成を有する蓄積部をさらに含み、前記ターゲットを構成する前記耐熱性材料の一部の昇華を引き起こすために、前記蓄積部は、前記電子線照射光線に露出されることができ、それによって前記表面層を再構成する。
【0036】
本発明の他の有利な実施形態によれば、前記ターゲットは、回転対称を有し、前記電子線放射光線に対してその回転軸で回転される。
【0037】
本発明の実施の側面によれば、前記ターゲットの厚さは、その回転軸からの距離が増加するに伴って通常減少する。
【0038】
実際、前記ターゲットは、前記ターゲット材料に近い膨張係数とポアソン比とを有する材料にろう付けによって組み付けられる。
【0039】
また、本発明は、以上に定義された少なくとも1つのX線源を備える電子顕微鏡に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、ここに添付した図面を参照して以下の特定の実施形態の説明に基づいて、より明らかになるであろう。しかしながら、本発明の対象は、これらの特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の他の実施形態も考えられる。
【0041】
図1は、本発明の特定の第1実施形態によるX線源のアノードの概略図である。図2は、本発明の特定の他の実施形態によるX線源のアノードの概略図である。
【0042】
図1は、構造化原子(structuring atoms)に束縛される(bound to)放出原子を含むX線源を示し、そのターゲット(1)は、特に固体状態の材料(3)を含む。以下に記載された例では、構造化原子は、周期律表の単一の元素を表し、前記の放出される原子より低い原子番号を有する。この場合には、ターゲット(1)の材料(3)は、酸化ベリリウム(BeO)から調製されるセラミックであり、この発明においては酸素原子が放出原子を構成し、ベリリウム原子が構造原子の役割をする。
【0043】
しかしながら、材料(3)は、ベリリウムとベリリウム酸化物の複合セラミック(Be−BeO)からなることもでき、また酸化ホウ素(B)を含むこともできる。ここで、酸素原子は、放出原子を構成し、ホウ素原子は構造化原子を構成する。
【0044】
本発明のターゲット(1)を構成するために相応しい他の材料には、ホウ酸リチウム(LiB)、窒化ホウ素(BN)、酸化マグネシウム(MnO)、酸化クロム(Cr)、アルミン酸マグネシウム(MgAl)などを挙げることができる。これらの材料を単独または並置された材料の形態で互いに組み合わせて使用することが適している。
【0045】
ターゲット(1)は、X線源のアノードを構成する。図1から明らかなように、ターゲット(1)には、電子線(2)が照射される。照射線(2)のエネルギーは、ターゲット(1)の材料の放出原子のK層にある電子を励起するのに十分なものである。したがって、放出電子は、電子線(2)が到達した領域に主に位置する。
【0046】
X線源のカソード(不図示)の電流及び電圧は、例えば、それぞれ3から50kV及び10から50mAでありえる。
【0047】
しかしながら、特に照射電子線のX線への変換を最適化するために異なる加速電圧及び/又はカソード電流が実現可能であり、その場合、ターゲット(1)の材料による吸収が低くなるだろう。
【0048】
ここで、酸化ベリリウム(ベリリウムモノオキサイド)の選択が賢明であることに気づくべきである。なぜなら、酸素のK線に相当するエネルギー、つまり525eVで放出するX線のその吸収は、比較的低く(μ=0.7μm−1)、電子線(2)のターゲット(1)への衝突中に放出することができるベリリウムのK線で放出するX線の吸収は、相当に高い(μ=7μm−1)からである。高い加速電圧が電子線(2)の貫通を増加し、それによってターゲット(1)内の容積への照射中に発生する熱のより大きな分散を許容することは留意すべきことである。
【0049】
実際、放出されたX線の吸収が、構造化原子を構成するために選択される元素の原子番号の増加に伴って一般的に増加することが実験的に示されている。しかしながら、構造化元素の電子層の結合エネルギーが放出する原子によって放出されるX線のエネルギーの値を超える場合、かなりの不連続がこの増加で生じる。これは、本発明を実施するために様々な元素が相応しい理由であり、前記の元素は、それらの電子の結合エネルギーのレベルによって第1に特徴付けられる。
【0050】
本発明によるX線源は、ターゲット(1)が特に酸化ベリリウム(3)のセラミックを含む場合、525eVのエネルギーと1.2eVの幅(すなわち、λ/Δλ=452となるスペクトルフィットネス)を有する酸素のK線のX線を放出するということが見られ、これは、酸化ベリリウム(BeO)の結晶中の酸素のK線の自然幅に相当する。さらに、ウォータージェットソースにおいて0.6Wであるが、許容できる電子線の出力は、本発明によるX線源においては300Wであり、酸化ベリリウム(3)を用いて得られる輝度は、5×1010フォトン/s・μm・srであり、つまり、ウォータージェットソースを用いて到達できる輝度(5×10フォトン/s・μm・sr)の約100倍である。すなわち、1010フォトン/s・μm・sr・0.1%BWである。
【0051】
他の場所で既に述べたように、電子線(2)の照射は、特に衝突領域(5)のターゲット(1)の加熱をもたらす。ターゲットを適切な動作状況に維持するために、ターゲット(1)は、それを製造する材料の融点を超えて加熱されることを避けなければならない。これは、回転対称を有するターゲット(1)がその回転軸(6)における矢印Rに沿って回転される理由であり、それはX線源において頻繁に用いられ、それによって“回転アノード”源として認定される。従って、衝突領域(5)は、常に更新され、電子線(2)に対する2つの連続する露出部の間で冷却されるので、衝突領域(5)が融点に達することはない。
【0052】
回転の最小速度は、上述の限界温度条件を満足するために実験的に又は計算によって決定される。例えば、放射線損失を無視し、酸化ベリリウム(3)(1000Kにおける熱伝導度=50W/m・K)のターゲット(1)の約20μm×40μmの領域上に焦点を合わせられた100Wのエネルギーの電子線(2)において、電子線(2)への露出時間は、約1500Kの温度を超えないように100nsより短くなければならない。これは、200m/sのターゲットの周速度と、例えば、150mmの直径において400回転/秒の回転速度である回転アノードの直径を関数とする回転速度の決定をもたらす。
【0053】
さらに、回転アノードの過熱を防止するために、動作中に発生する熱を除去することが行われてもよい。この目的のために、ターゲット(1)は、記載された例では、0.7より高い高放射係数、この場合では0.9の係数εを有する黒ニッケルからなる放出性材料層(7a)でその表面の大部分にわたって被覆される。
【0054】
この放出性材料層は、放出性材料の結合を保証するために、ターゲット(1)に直接接触されてもよいし、他の材料の層を介して間接的に接触されてもよい。セラミック(3)の温度が上がると、その熱は部分(3)に全体的に伝達される。それは、その部分(3)が良好な熱伝導材料(800KにおけるBeOの熱伝導度=70W/m・K)で形成されるからである。次いで、その熱は、放出性材料層(7a)に伝達され、それは部分(3)の外部に放射線(原則的には赤外線)を放出し、それによってその冷却に寄与する。
【0055】
図1に示されるように、部分(3)からの熱の除去は、放出性材料層(7b、7c)で被覆され、良好な熱伝導度を有する熱交換器(8、9)に対向してその周囲に配置することによって改善することができる。これらの熱交換器の最適な幾何学的配置及び位置合わせは、実験的に又は計算によって当業者なら決定することができる。これらの熱交換器(8、9)の幾何学的配置及び位置合わせを定義する1つの基準は、ターゲット(1)の可能なだけ多くの点の放射が、2πsrに近い立体角で熱交換器によって収集されるようにすることである。これは、対向する表面間の放射による熱交換を最適化するのに役立ち、それによって、高い熱エネルギーを除去する。
【0056】
最後に、熱除去は、前記熱交換器(8、9)の内部に設けられる特定のライン(10、11)に流れる2つの熱伝導流体(12、13)によって、好ましくは固定的な状態にある熱交換器を冷却することによってもさらに完全にすることができる。熱伝導流体(12、13)は、還流によって熱交換器(8、9)を冷却し、それによってその冷却に寄与し、従ってターゲット(1)の構造的な安定性に寄与する。
【0057】
図2は、この目的、つまり、酸化ベリリウム(103)の低温ターゲット(101)を回転するために設けられる容器(108)内に流れる熱伝導流体(112)を用いた還流による冷却用の実現可能な他の構造を示す。この例で使用される流体(112)は、液体窒素であり、それは、ターゲット(101)の中央容器(108)まで軸方向チューブ(109)を通って重力によって移動する。この液体窒素(112)は、アルミニウムのような高い熱容量材料からなるターゲットコア(116)に対してそこに蓄積し、次いでターゲット(101)の回転中に軸方向チューブ(109)の外壁に沿って流れる。動作中に、ターゲット(1)と軸方向チューブ(109)からなる組み合わせ体の平衡温度は、77Kに達するかもしれない。
【0058】
実際、後者が高温熱伝導性より大幅に大きい低温における高い熱伝導性を有する場合、このようなターゲット(101)の冷却は、特に利点がある。従って、80Kから200Kの温度において、酸化ベリリウムの熱伝導度は、800W/m・Kを超える。したがって、このような構成は、ターゲット(101)の電子線照射のために放散された熱を散失するのにより役立つ。
【0059】
その結果、あまり冷却されていないターゲットを用いた場合に比べてターゲット(101)の回転速度を制限することができ、それによって、酸化ベリリウムのセラミック(103)上での回転中に発生する機械的なストレスを減少させることができる。
【0060】
回転源を備えたターゲットの代わりに、固定された低温ターゲットを有する、極低温(77K)まで冷却された本発明によるソースが考えられる。しかしながら、直径20から30μmの領域において100Wから300Wの間の熱容量を散失することは、ターゲットが、それが壊れやすくなってしまう数ミクロンの厚さを有することを要求するだろう。
【0061】
さらに、当分野で周知のように、ターゲット(1;101)とそれを囲う部材は、照射電子(2;102)と続いて放出されるX線(14;114)との伝播を防止するために真空下で配置される。
【0062】
さらに、電子線(2;102)を傾けることが可能であってもよく、それは、直径10から30μmのスポット上に、ターゲット(1、101)上のこの衝突点(5;105)の法線に対して40°から70°の角αで焦点を合わせられる。従って、衝突領域(5;105)に加えられる熱ストレスは、より分散される(通常の発生と比べて1.5から3倍)。得られる光線(14;114)の適切な使用のために、収集器は、その光線(14、114)に対して対照的に傾斜しなければならないだろう。
【0063】
X線源が電子線(2;102)の衝突領域(5;105)のレベルに電子電流を含むことも知られている。したがって、これらの電流を除去することが必要である。これは、本発明によるX線源が、これらの電流を除去するために衝突領域(5;105)において耐熱及び導電材料の層で被覆される理由である。したがって、この層は、少なくとも40μmの幅を有し、ターゲット(1,101)の周囲まで完全に延びるストリップ形態である。
【0064】
この層の厚さと吸収係数(原子番号に比例する)は、放出されるX線を過度に吸収することを防止するために十分に低くなければならない。図の例では、クロム層は、20から40nmの厚さを有する。それは、525eVのエネルギーで酸素によって放出されるX線の約10%を吸収するだけである。なぜなら、クロムのL層のエネルギー閾値は、574eVに位置し、したがって、それは、図に示されるX線源によって酸素のK線で放出される光子のような、より低いエネルギーの光子によって励起できないからである。他の材料、すなわち、クロム、ニッケル、コバルト、またはそれらの酸化物の1つ、特に良好な電気伝導性が知られている式Crを有する酸化クロム(III)などの材料は、この層を構成するのに相応しい。
【0065】
導電体である複合材料(Be−BeO)、この材料から形成されるターゲットは、クロム層の添加を必要としないことは留意すべきことである。この複合材も良好な熱伝導体であるが、その最大動作温度は、酸化ベリリウムが2200Kであるのに対して約1200Kである。さらに、放出する原子(この場合、酸素原子)の量は、酸化ベリリウムのそれより少ない。
【0066】
さらに、この電子電流の除去を完全にするために、ターゲット(1)の表面のほとんどを被覆する放出性材料(7a)も導電体であり、回転軸(15)を通してアースに電荷を放出する。
【0067】
電気伝導材料かなるこの薄膜が、動作中に生じる熱の作用の下で局所蒸発によって損傷するかもしれないことは留意すべきである。実際、その主要な機能を遂行するために、この熱除去ストリップの層において連続にすることは重要である。これは、本発明の1つの有利な特徴によれば、この材料の蓄積部(リザーブ)(17;117)が、衝突点(5;105)の付近のターゲット(1)に加えられ、そこで、電子線(2、102)がターゲット(1)に照射する理由である。この蓄積部(17;117)は、それによって、電子線(2;102)に十分に長く露出された場合に昇華され、それは、一連の導電材料の層を回復するのに役立つ。回復処理のパラメータは、当業者の一般的知識の一部であるので、ここに詳細に与えられない。
【0068】
さらに、ターゲット(1)または回転アノードが回転される場合、それは高い機械的ストレスを受ける。例えば、150mmの直径のディスクにおいて、達成される回転速度は約400回転/秒であり、上記に示されたように200m/sの周速度に相当する。これは、ターゲット(1)がこのような回転速度に関連する機械的なストレスに耐えることができ、必要であればそれらを最小化ことができることを保証することが必要な理由である。
【0069】
第1に、この基準は、ターゲット(1)の材料の選択を導く。実際、複合材(Be−BeO)のような酸化ベリリウムは、非常に良好な機械的特性を有し、ターゲット(1)の回転に関連するこれらのストレスに耐えることを可能にする。従って、酸化ベリリウムの破壊強度は、500Kの温度において100MPaであり、従って、本発明によるターゲットは、実質的に100kW/mmを超える電子線出力密度に耐える。
【0070】
以前に示したように、他の材料は、本発明によるターゲットを用意するのに相応しいかもしれない。これは、窒化ホウ素(BN)の場合であり、392eVのエネルギーで窒素のK線で放出し、それは、良好な熱特性(使用最高温度:2500K、伝導度:30W/m・K)と良好な機械特性(破壊強度:500Kの温度で100MPa)を有する。
【0071】
これは、酸化マグネシウム(MgO)のケースであり、1254eVのエネルギーを用いてマグネシウムのK線で放出する。さらに、他の材料は、回転アノードへの適用に相応しくない熱特性及び/又は機械的特性を有するにも関わらず、本発明によるX線源を用意するために使用することができる。例えば、式Bを有する酸化ホウ素(III)、式LiOを有する酸化リチウム(I)、または、一般式LiBを有するホウ酸リチウムが使用することができる。
【0072】
その後、ターゲット(1;101)は、回転によるストレスを減少させるように設計される形状に従って製造される。従って、ターゲット(1;101)の慣性モーメントを減少させ、それによってこれらのストレスを減少させるために、ターゲットは、放射面(radial plane)でターゲット(1;101)の断面に沿って測定される、ターゲット(1;101)の回転軸からの距離が増加するに従って一般に減少するように変化する厚さを有する。
【0073】
このターゲットの厚さの変化は、図1から明らかなように線形であってもよく、二次的であってもよく、他の数学関数によって定義されるものでもよい。この変化は、ターゲット(1;101)の回転軸(6;106)からの距離が増加するに伴って一般的に減少する状態である限り、すなわち、ターゲット(1;101)を形成するリングまたはディスクの周囲で測定される厚さが、その軸(6;106)に近接して測定される厚さよりも薄い限り、連続的でも不連続的でもよい。
【0074】
最後に、以前に検討された機械的及び熱的特性に耐えるのに適している限りにおいて、ターゲット(1)は、異なる材料かなる複数の部品内に設けられてもよい。従って、適切な熱的及び機械的特性を有する材料からなるセラミック(3)の軸及び支持体(16)を提供することが望ましい。実際、実験によって、一方がその軸に“接近する”とターゲット(1)の温度が減少することが示されている。支持体(16)の材料は、高い機械的及び熱的ストレス、従ってこれらのストレスの良好な伝達の下でさえ、その組立体の良好な結合を保証するためにセラミック(3)に近いポアソン比と膨張係数を有するように選択される。チタン及びその合金の幾つかは、支持体(16)を形成するのに相応しい。なぜなら、それらは、考えられる温度において酸化ベリリウム(ν≒0.30;k≒8μm/m・K)と同様のポアソン比及び熱膨張係数(ν≒0.32;k≒9μm/m・K)に加えて、所望の熱的及び機械的特性を有するからである。
【0075】
チタン支持体(16)に対する酸化ベリリウムの組立体(3)は、ろう付けによって用意される。すなわち、組み立てられる材料の溶融なしに用意される。さらに、回転軸(15)は、その熱抵抗を増加するために中空で提供され、それによって、放射による熱の除去に有利に働き、回転移動を行う部品(不図示)に対する熱ストレスの伝達を防止する。明らかに、ターゲット(1)は、注意深く製造されなければならず、次いで、内部ストレス、従って幾何学的な凹凸に関連する振動をできるだけ防止するためにダイナミックに平衡にされなければならない。同様の理由で、回転駆動は、非常に正確に調整されなければならない。
【0076】
図2の例では、支持体(116)は、その熱的及び機械的特性、特に、考えられる温度において酸化ベリリウム(ν≒0.30;k≒8μm/m・K)と同様のポアソン比と膨張係数(ν≒0.32;k≒9μm/m・K)を考慮して選択される合金から製造される。
【0077】
さらに、フェロ流体シール(ferro-fluid seal)(118)は、それ自体が周知であるが、一方では、その中に十分な真空を維持するためにターゲット(101)の包囲の密閉性を保証するように設計され、提供され、他方では、望まれない電子電流を導くために設計され、提供される。
【0078】
さらに、構造化原子(この場合、ベリリウム)は、それ自身のK線のX線を放出する傾向にある。しかしながら、放出原子によって放出される光線より低いエネルギーを有するこれらの光線は、例えば、ターゲット(1)と解析される対象物(不図示)との間のX線の通路に位置するコリメータ(4)内に取り付けられる周知の装置によってフィルタリングされることができる。このように、これらの“望まれない”光線によって、対象物の画像の品質が低下されることはなく、及び/又は、必要以上に高い投与量のイオン放射にそれが晒されることもない。
【0079】
ターゲットと同様にこの使用における酸化ベリリウムのさらなる利点は、それが、特にその構成要素の低い原子番号のためにほとんど制動放射X線(Bremsstrahlung X-rays)を放出することがないという事実にある。実際、制動放射への電子エネルギーの変換は、原子番号と加速電圧とに比例する収率を有し、ターゲットの形状の関数である。したがって、制動放射の放出は、衝突元素の原子番号が低い場合により少ない。
【0080】
周知の様式において、放出原子のK層の電子の脱励起は、X線光子の放出によって達成される。従って、ターゲット(1)によって放出されるX線は、“ウォーターウィンドー”内に含まれる。それらは、284eVにおける炭素のK閾値と543eVにおける酸素のK閾値との間のエネルギー、すなわち、4.4nmから2.3nmの間の波長を有する。このエネルギー範囲は、生物学的解析における完全に適切な範囲を構成する。なぜなら、それは、炭素の光線と水の光線との吸収の大きな差(10から20倍)によって有機材料の良好なコントラスト画像を形成するのに役立ち、炭素の光線と水の光線は、それぞれ有機材料の主要部と調査される試料とを構成する。
【0081】
さらに、酸化ベリリウムが非常に有毒なので、それが適切な安全測定で取り扱われなければならないことは留意すべきことである。そうは言うものの、ここで検討された用途においては、露出の危険性、従って中毒の危険性はターゲット(1)の調整段階に限られる。実際、この材料は、真空化において安定で隔離されたセラミックの形態であり、それによって中毒の危険性を減少させている。
【0082】
纏めとして、ここに開発された例は、ウォーターウィンドー内に含まれるエネルギーレベルにおけるX線放出源に関する。しかしながら、本発明の主題は、例えば請求項1から明らかなように、他のエネルギーレベルで放出するX線源にも関連する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の特定の第1実施形態によるX線源のアノードの概略図である。
【図2】本発明の特定の他の実施形態によるX線源のアノードの概略図である。
【符号の説明】
【0084】
1 ターゲット
2 電子線
4 コリメータ
5 衝突領域
6 回転軸
7a、7b、7c 放出性材料層
8、9 熱交換器
10、11 ライン
12、13 熱伝導流体
14 X線
15 回転軸
16 支持体
17 蓄積部
101 ターゲット
102 電子線
104 コリメータ
105 衝突領域
106 回転軸
107a 高放射係数材料
108 容器
109 軸方向チューブ
112 熱伝導流体
114 X線
116 ターゲットコア
117 リザーブ
118 フェロ流体シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある元素を有する放出原子を含む材料からなるターゲット(1;101)を特に含み、前記原子は、電子線照射によって必須的に前記原子のK層に位置する電子が励起される単色X線源であって、
前記材料は、通常固体状態であり、前記放出原子に束縛される、1つまたは複数の元素を表す構造化原子を用いて結合されており、前記構造化原子は、前記放出原子によって放出される前記X線において2.3μm−1以下の吸収係数を有することを特徴とする単色X線源。
【請求項2】
前記構造化原子の原子番号は、前記放出原子の原子番号より小さいことを特徴とする請求項1に記載の単色X線源。
【請求項3】
前記放出原子は、酸素原子であり、前記材料は、全体的又は部分的に酸化物形態であることを特徴とする請求項1または2に記載の単色X線源。
【請求項4】
前記構造化原子は、ベリリウム原子であり、前記酸化物形態は、酸化ベリリウム(BeO)であることを特徴とする請求項3に記載の単色X線源。
【請求項5】
前記放出原子は、窒素原子であり、前記材料は、全体的又は部分的に窒化物形態であることを特徴とする請求項1または2に記載の単色X線源。
【請求項6】
前記構造化原子は、炭素原子であり、前記窒化物形態は、窒化ホウ素(BN)であることを特徴とする請求項5に記載の単色X線源。
【請求項7】
前記放出原子は、酸素原子であり、前記構造化原子は、マグネシウム原子及びアルミニウム原子であり、前記酸化物形態は、アルミン酸マグネシウム(MgAl)であることを特徴とする請求項1に記載の単色X線源。
【請求項8】
前記放出原子は、酸素原子であり、前記構造化原子は、クロム及びマンガンから選択されることを特徴とする請求項1に記載の単色X線源。
【請求項9】
前記ターゲットの電子線照射中に発生する熱の放射による除去を可能にするために、前記ターゲット(1;101)は、全体的又は部分的に高放射係数材料(7a;107a)で被覆されることを特徴とする請求項1から8の何れか一項に記載の単色X線源。
【請求項10】
前記高放射係数材料(7a;107a)の放射係数は、1から10μmの波長を有する放射線の放射において0.7以上であることを特徴とする請求項9に記載の単色X線源。
【請求項11】
前記高放射係数材料(7a;107a)は、黒ニッケルからなることを特徴とする請求項9または10に記載の単色X線源。
【請求項12】
前記ターゲットは、全体的又は部分的に熱交換器(8、9)に対向して位置され、前記伝導体は、全体的又は部分的に高放射係数材料(7b、7c)で被覆され、前記ターゲット(1)に起因する前記放射線を収集するために、流体が還流によって前記伝導体を冷却するように前記伝導体の内部に流れることを特徴とする請求項9から11の何れか一項に記載の単色X線源。
【請求項13】
前記高放射係数材料(7b;7c)の放射係数は、1から10μmの波長を有する放射線の放出において0.7以上であることを特徴とする請求項12に記載の単色X線源。
【請求項14】
前記電子線照射光線(2;102)は、前記ターゲットのその衝撃点の法線に対して焦点が合わされて傾いていることを特徴とする請求項1から13に記載の単色X線源。
【請求項15】
前記ターゲットのその衝撃点の法線に対する前記電子線照射光線(2;102)の傾斜の角度αの値は、40°から70°であることを特徴とする請求項14に記載の単色X線源。
【請求項16】
前記光線に対して露出されることができる前記ターゲット(1)の一部は、耐熱性の材料からなり、導電性であり、前記放射されたX線または前記照射電子の低い吸収を有する表面層で被覆されることを特徴とする請求項1から15に記載の単色X線源。
【請求項17】
前記耐熱性の材料は、クロム、ニッケル、コバルト、または、それらの酸化物、特に式Crを有する酸化クロム(III)からなる群から選択されることを特徴とする請求項16に記載の単色X線源。
【請求項18】
前記ターゲット(1;101)に付けられた前記耐熱性材料と同じ化学組成を有する蓄積部(17;117)をさらに含み、前記耐熱性材料の一部の昇華を引き起こすために、前記蓄積部(17;117)は、前記電子線照射光線(2;102)に露出されることができ、それによって前記表面層を再構成することを特徴とする請求項16または17に記載の単色X線源。
【請求項19】
前記ターゲット(1;101)は、回転対称を有し、前記電子線放射光線(2;102)に対してその回転軸(6;106)で回転されることを特徴とする請求項1から18の何れか一項に記載の単色X線源。
【請求項20】
前記ターゲット(1;101)の厚さは、その回転軸(6;106)からの距離が増加するに伴って通常減少することを特徴とする請求項19に記載の単色X線源。
【請求項21】
前記ターゲット(1;101)は、前記ターゲット材料に近い膨張係数とポアソン比とを有する材料にろう付けによって組み付けられることを特徴とする請求項1から20の何れか一項に記載の単色X線源。
【請求項22】
請求項1から21の何れか一項に記載の少なくとも1つのX線源を含むことを特徴とするX線電子顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−536255(P2008−536255A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557548(P2007−557548)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050136
【国際公開番号】WO2006/092518
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【出願人】(507296643)
【Fターム(参考)】