説明

印刷制御装置および印刷制御プログラム

【課題】印刷結果に問題があっても、ユーザーはどのような処置を採れば問題が解決するかが判らない。
【解決手段】印刷媒体の指定を受け付ける受付工程と、第一テストパターンの印刷結果に応じた印刷装置の調整を実行する調整工程と、上記指定された印刷媒体のための色変換テーブルを生成する色変換テーブル生成工程と、第二テストパターンを表したデータを色変換テーブルにより色変換して印刷装置に印刷させ、第二テストパターンの測色値に基づいて印刷装置のデバイスプロファイルを生成するプロファイル生成工程とを実行可能であり、デバイスプロファイルによる色変換によって印刷装置に実行させた上記指定された印刷媒体への印刷に対する低評価を受け付けた場合、評価の内容に応じて調整工程と色変換テーブル生成工程とプロファイル生成工程とのうちいずれか一以上の工程を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色変換テーブルやデバイスプロファイルの作成に関する。
【背景技術】
【0002】
色変換テーブルは、入力表色系と出力表色系との対応関係を示す情報である。色変換テーブルの入力表色系の座標値は、入力表色系の色空間内の点の位置を表しており、出力表色系の座標値は出力表色系の色空間内の点の位置を表している。なお、本明細書において、任意の色空間内の点を「色点」または「格子点」とも呼ぶ。また、色変換テーブルに登録されている入力値で表される色点および出力値で表される色点を、それぞれ「入力格子点」および「出力格子点」とも呼ぶ。
色変換テーブルの入力格子点や出力格子点の配置を平滑なものにする技術として、例えば本願の出願人により開示された特許文献1に記載されたものがある。この平滑化では、Lab表色系の格子点を移動させた後、目的関数を用いた最適化処理を利用して、移動後のL***格子点を再現する最適なインク量を決定している。この最適なインク量は、目的関数を最小とするようなインク量として決定される。
また、入力画像データから印刷データへ変換する際の基準となる変換テーブルがそれぞれ既知である複数種類の媒体のうち、ある媒体に対応する変換テーブルを、種類が未知の媒体に対応する変換テーブルとして設定する変換テーブル設定方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006‐197080号公報
【特許文献2】特開2009‐220356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、印刷媒体の種類ごとに同一のインク量に対する発色特性(色彩値特性)が異なるとともに、単位面積あたりに付着可能なインク量(デューティー制限値)も異なるため、複数の印刷媒体について色変換テーブルを作成するためには印刷媒体の種類ごとに目的関数を準備しておく必要があるという問題があった。また、目的関数には、各インク量のインクを印刷媒体に付着した場合に再現される色の色彩値に基づいて画質を評価する項が含まれるため、インク量に基づいて色彩値を予測するための色予測モデル等も印刷媒体の種類ごとに準備しておかなければならないという問題があった。しかしながら、あらゆる種類の印刷媒体毎に色予測モデル等を予め用意しておくには多くの手間とリソースを要するし、そもそも未知の印刷媒体について色予測モデル等を準備しておくのは不可能である。従ってこれまでは、特に一般のユーザーが、自宅や職場において任意に選択した印刷媒体について、その印刷媒体において良好な色再現を実現させるインク量を規定した色変換テーブルを作成しようとしても、上記のような制約(任意に選択した印刷媒体に対応した色予測モデル等を準備できないという制約)があることから最適な色変換テーブルを作成することは困難であった。なお上記文献2は、変換テーブルがそれぞれ既知である複数種類の媒体のうちある媒体に対応する変換テーブルを、種類が未知の媒体に対応する変換テーブルとして流用するものであるため、ユーザーが任意に選択した印刷媒体にとって最適な色変換テーブルを作成するというものではない。
【0005】
さらには、ユーザーが作成した色変換テーブルやデバイスプロファイルについて、それらを用いて印刷処理を行なった際に、ユーザーが印刷結果(画質)に満足できないこともある。そのような場合、ユーザーは満足の行く印刷結果を得るための何かしらの処理を行なおうとするが、印刷処理に不慣れな多くのユーザーはどのような印刷結果であるときにどのような処理をすべきかが判らない。
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、ユーザーが任意に指定した印刷媒体にとって最適な色変換テーブルやプロファイルを生成することができ、また、印刷結果に対するユーザーの評価が低い場合に最適な処理を実現する印刷制御装置および印刷制御プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様の一つは、印刷制御装置であって、印刷媒体の指定を受け付ける受付工程と、少なくとも印刷装置に当該印刷装置における印刷環境の設定の良否を判定するための第一テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第一テストパターンの印刷結果に応じた上記設定の調整を実行する調整工程と、上記調整工程後において、上記指定された印刷媒体とは異なる基本印刷媒体にインクを付着させたときの画質を評価する目的関数を用いたインク量の最適化によって、機器非依存表色系の格子点が示す色彩値を再現するインク量を決定し、当該決定したインク量を基本印刷媒体におけるインクの発色特性と上記指定された印刷媒体におけるインクの発色特性とに基づく変換関係によって変換したインク量と、所定の入力表色系の格子点との対応関係を規定することにより、上記指定された印刷媒体のための色変換テーブルを生成する色変換テーブル生成工程と、第二テストパターンを表したデータを上記生成された色変換テーブルにより色変換し、当該色変換後のデータに基づいて、上記印刷装置に第二テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第二テストパターンの測色値に基づいて上記印刷装置の特性を規定したデバイスプロファイルを生成するプロファイル生成工程と、を実行可能であり、上記生成されたデバイスプロファイルによる色変換を含む印刷制御処理によって上記印刷装置に実行させた上記指定された印刷媒体への印刷に対する所定の低評価を受け付けた場合には、当該評価の内容に応じて上記調整工程と色変換テーブル生成工程とプロファイル生成工程とのうちいずれか一以上の工程を実行する。
【0008】
本発明によれば、ユーザーが任意に指定した印刷媒体にとって最適な色変換テーブルおよび当該テーブルに基づくデバイスプロファイルを生成することができる。また、デバイスプロファイルを用いたその後の印刷における印刷結果が、ユーザーの評価が低いものである場合には、その評価内容に応じて調整工程と色変換テーブル生成工程とプロファイル生成工程とのうちいずれか一以上の工程をさらに実行するため、ユーザーは最適な色変換テーブルおよびデバイスプロファイルを得ることができる。
【0009】
上記色変換テーブル生成工程では、上記印刷装置に第三テストパターンを上記選択された印刷媒体に印刷させ、第三テストパターンの印刷結果に基づいて、上記指定された印刷媒体に付着可能なインク量の制限値および上記指定された印刷媒体における上記発色特性を取得し、上記最適化によってインク量を決定する際のインク量の範囲を当該制限値に基づいて制限するとしてもよい。
当該構成によれば、上記調整工程が行われて印刷装置の印刷環境が最適化された上で第三テストパターンが印刷されるため、指定された印刷媒体についてのインク量の制限値および発色特性を正確に得ることができる。
【0010】
ユーザーによる低評価の内容と、それに応じて実行すべき処理との組合せは様々である。一例として、印刷制御装置は、印刷結果における色味、粒状性および階調性のいずれかに対する低評価を受け付けた場合には、上記プロファイル生成工程を実行し、当該プロファイル生成工程ではデバイスプロファイルの変換特性に影響を与える所定のパラメーターの調整を実行する
当該構成によれば、上記パラメーターを調整しつつデバイスプロファイルを生成しなおすことで、最適なデバイスプロファイルをユーザーに提供することができる。
【0011】
また印刷制御装置は、色味、粒状性および階調性のいずれかに対する低評価を受け付けた場合に、第四テストパターンを表したデータを上記色変換テーブルにより色変換し、当該色変換後のデータに基づいて、上記印刷装置に第四テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第四テストパターンの測色値と所定の基準値とを比較し、当該比較結果に基づいて上記色変換テーブルが規定するインク量を補正するキャリブレーションを実行した上でプロファイル生成工程を実行するとしてもよい。つまり、キャリブレーションにより印刷装置の経時変化による出力変化を補償するように色変換テーブルを補正した上で、デバイスプロファイルを作成するとしてもよい。
【0012】
また印刷制御装置は、印刷結果に色むらが存在する旨の低評価を受け付けた場合には、上記調整工程を実行し、当該調整工程では、印刷装置が印刷媒体を搬送する際の送り量の設定の良否を判定するための第一テストパターンを印刷させ第一テストパターンの印刷結果に応じて当該送り量を調整する処理、及び又は、印刷装置が備える印刷ヘッドと上記搬送される印刷媒体が載るプラテンとのギャップの設定の良否を判定するための第一テストパターンを印刷させ第一テストパターンの印刷結果に応じて当該ギャップを調整する処理を実行するとしてもよい。
当該構成によれば、色むらの解消に有効な印刷装置における送り量の調整やプラテンギャップの調整を行うことで、的確に印刷結果を向上させることができる。
【0013】
また印刷制御装置は、印刷結果に、にじみ及びかすれ、のいずれかが存在する旨の低評価を受け付けた場合には、上記調整工程を実行し、当該調整工程では、印刷画像の乾燥に関する設定の良否を判定するための第一テストパターンを印刷させ第一テストパターンの印刷結果に応じて当該乾燥に関する設定を調整するとしてもよい。当該構成によれば、にじみ、かすれの解消に有効な、印刷画像の乾燥に関する設定の調整を行うことで、的確に印刷結果を向上させることができる。
【0014】
また印刷制御装置は、色むらや、にじみ、かすれ等の発生に応じて実行した調整工程における調整量が所定以上大きい場合には、更に上記プロファイル生成工程を実行するか、或いは上記色変換テーブル生成工程およびプロファイル生成工程を実行するとしてもよい。当該構成によれば、上記送り量やプラテンギャップや乾燥に関する設定といった各種印刷環境の調整をしたことでその後の印刷結果が大きく変わると予測されるときは、色変換テーブルやデバイスプロファイルを生成し直すため、ユーザーはこれら生成し直された色変換テーブルやデバイスプロファイルを用いることで以後、最適な印刷結果を得られるようになる。
【0015】
本発明の技術的思想は、印刷制御装置以外によっても実現可能である。例えば、当該印刷制御装置が実行する工程を備えた方法の発明や、当該印刷制御装置が実行する工程をコンピューターに実現させ印刷装置を制御するプログラムの発明も把握することができる。また、さらには上記のように作成された色変換テーブルやプロファイルを組み込み、画像データの色変換処理に当該プロファイル等を使用する印刷装置(プロファイルを参照して色変換を行なうことにより得られたインク量のインクを印刷媒体に付着させる印刷装置)や、かかる印刷装置に対応する方法、プログラム、さらにはかかる印刷装置の製造方法の発明も把握可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例における印刷制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施例の全体処理手順を示すフローチャートである。
【図3】重み指定用UI画像を示す図である。
【図4】メディアテーブルMTBの一例を示す図である。
【図5】設定テーブルSTBの一例を示す図である。
【図6】実施例におけるプリンターの構成を示すブロック図である。
【図7】プリンターにおける印刷ヘッド近傍の構成を簡略的に例示する図である。
【図8】プリンターのソフトウェア構成を示すブロック図である。
【図9】ベースLUT生成処理に含まれる準備処理を示すフローチャートである。
【図10】ベースLUT生成処理における本処理を示すフローチャートである。
【図11】図10のステップS100〜S300によってベース3D−LUTを作成する場合の処理内容を示す説明図である。
【図12】入力表色系であるRGB表色系の色彩値とLab表色系の色彩値との対応関係を示す説明図である。
【図13】図10のステップS100〜S300によってベース4D−LUTを作成する場合の処理内容を示す説明図である。
【図14】スムージング処理に利用される力学モデルを示す説明図である。
【図15】グレー軸格子点に対応する格子点がグレーターゲットに拘束される様子を示す図である。
【図16】スムージング処理の典型的な処理手順を示すフローチャートである。
【図17】図16のステップT100の詳細手順を示すフローチャートである。
【図18】図16のステップT120〜T150の処理内容を示す説明図である。
【図19】最適化処理(図16のステップT130)の詳細手順を示すフローチャートである。
【図20】プリンター調整処理(印刷環境の設定調整)の詳細を示すフローチャートである。
【図21】プリンター調整処理において印刷するテストパターンの一例を示す図である。
【図22】メディア特性指定UI画像を例示する図である。
【図23】非線形変換関数を設定する様子を示すグラフである。
【図24】転用メディア色味と被転用メディア色味をa**平面にプロットしたグラフである。
【図25】転用メディアのLUTを作成する場合のグレーターゲットを示す図である。
【図26】デバイスプロファイル生成処理の詳細を示すフローチャートである。
【図27】デバイスプロファイルを用いた確認用印刷のための変換処理を説明する図である。
【図28】再処理制御モジュールが実行する処理を示すフローチャートである。
【図29】評価受付用UI画面を例示する図である。
【図30】変形例のメディア特性指定UI画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
1.装置構成と全体処理手順:
2.基本メディアのベースLUT生成:
2−1.基本的手順:
2−2.力学モデル:
2−3.スムージング処理(平滑化および最適化処理):
2−4.最適化処理の内容:
3.プリンター調整:
4.転用メディアのベースLUT生成:
5.デバイスプロファイル生成:
6.低評価を受けての再処理:
7:変形例:
【0018】
1.装置構成と全体処理手順:
図1は、本発明の一実施例における印刷制御装置の構成を示すブロック図である。印刷制御装置は、プリンターに対する制御装置であり、当該装置の主要部は実体的にはコンピューター10により実現される。具体的には、コンピューター10が備えるCPU12が、ハードディスクドライブ(HDD)400等に記憶されたプログラム(印刷制御プログラム等)を読み込み、プログラムをRAM13に展開しながらプログラムに従った演算を実行することにより、ベースLUT生成モジュール100、デバイスプロファイル生成モジュール200、プリンター調整モジュール500、再処理制御モジュール600等の各機能を実現する。コンピューター10には図示しない表示装置(例えば、液晶ディスプレイ)が接続されており、各処理に必要なUI(ユーザーインターフェイス)の表示が表示装置において行われる。さらに、コンピューター10には図示しない入力装置(例えば、キーボードやマウス。)が接続されており、各処理に必要な情報が入力装置を介して入力される。また、コンピューター10にはプリンター20(図3)と図示しない測色機が接続されている。また、コンピューター10は、フォワードモデルコンバーター300、画質評価指数コンバーター136を備える。フォワードモデルコンバーター300は、さらに分光プリンティングモデルコンバーター310と色算出部320とを備える。フォワードモデルコンバーター300は、色予測モデルに該当する。これらの各モジュールや各部の機能については後述する。本明細書において「LUT」は、ルックアップテーブルの略語である。
【0019】
HDD400にはメディアテーブルMTBと設定テーブルSTBとが格納される。これらテーブルについては後述する。HDD400は、インバースモデル初期LUT410や、ベース3D−LUT510,ベース4D−LUT520,デバイス3D−プロファイル610,デバイス4D−プロファイル620などを格納するための記憶装置でもある。ただし、ベース3D−LUT510,ベース4D−LUT520は、ベースLUT生成モジュール100によって作成され、デバイス3D−プロファイル610,デバイス4D−プロファイル620はデバイスプロファイル生成モジュール200によって作成される。ベース3D−LUT510は、RGB表色系を入力とし、インク量を出力とする色変換LUTである。ベース4D−LUT520は、CMYK表色系を入力とし、インク量を出力とする色変換LUTである。「3D」や「4D」は、入力値の数を意味している。これらのベースLUT510,520の入力表色系であるRGB表色系やCMYK表色系は、いわゆる機器依存表色系では無く、特定のデバイスとは無関係に設定された仮想の表色系(あるいは抽象的な表色系)である。これらのベースLUT510,520は、例えばデバイスプロファイル610,620を作成する際に使用される。「ベースLUT」という名前は、デバイスプロファイルを作成する基礎として用いられるからである。また「ベースLUT」は本発明によって作成される「色変換テーブル」に相当する。デバイスプロファイル610,620は、プリンター20の特性を規定したプリンタープロファイルである。インバースモデル初期LUT410については後述する。本実施例では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4種類のインクを利用可能なプリンターを想定する。本実施例では、説明の簡略化のために4種類のインクを想定するが、他のインクについてのLUTやプロファイルを作成する場合にも本発明を適用することができる。
【0020】
図2は、コンピューター10が印刷制御プログラムに従って実行する、デバイスプロファイルを生成するまでの全体処理手順を示すフローチャートである。
ステップS01では、ベースLUT生成モジュール100が、表示装置および入力装置を介して処理対象となるメディアの指定を受け付ける。ベースLUT生成モジュール100は、各メディアの一覧(リスト)の中から所望の基本メディアをユーザーに選択させるメディア選択UI画像を表示装置に表示させる。ユーザーは、例えば、基本メディアとして基本光沢紙,基本マット紙,基本普通紙,基本プルーフ紙等を選択することができる。「基本メディア」とは、一般的なメディアの系統毎の代表的な印刷媒体を意味し、特に本発明においてはフォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)と画質評価指数コンバーター136とが予め準備されている印刷媒体を意味する。基本メディアの特性は既知であり、各基本メディアにインクを付着させた場合の発色特性やデューティー制限値を特定するデータが予めメディアテーブルMTBに格納されている。基本光沢紙,基本マット紙,基本普通紙,基本プルーフ紙は、それぞれ光沢紙系,マット紙系,普通紙系,プルーフ系の各系統に属する。
【0021】
一方、前記メディア選択UI画像においては、ユーザーは、基本メディア以外の印刷媒体(転用メディアと呼ぶ。)を任意に選択することができる。転用メディアとしては、光沢紙系用紙,マット紙系用紙,普通紙系用紙,プルーフ系用紙,未分類用紙等を選択することができる。「転用メディア」とは、基本メディアのいずれとも同一でない印刷媒体を意味し、特に本発明においてはフォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)と画質評価指数コンバーター136とが予め準備されていない印刷媒体を意味する。ユーザーは、ベースLUT等を作成しようとするメディアが基本メディアか転用メディアか判別できない場合は転用メディアを選択すればよい。このときベースLUT等を作成しようとするメディアの系統を認知している場合には、該系統の転用メディアを選択することができる。メディアの系統が不明もしくは分類が困難である場合には、ユーザーは未分類用紙を選択することができる。なお、メディアをユーザーが指定するのではなく、コンピューター10は、メディアを測色することにより得られた色相等に基づいてメディアの系統を自動判別(自動指定)するようにしてもよい。ステップS01では、対象のメディアが指定されると、当該メディアを特定する情報を設定テーブルSTBに登録する。以下では、ステップS01で指定されたメディアを「指定メディア」と呼ぶ。ステップS01は、本発明の受付工程に該当する。
【0022】
ステップS02では、後述するインク量の最適化を実行するために用いる目的関数Eを構成する各項の重みw L*,w a*…を設定テーブルSTBに登録する。
この場合、ベースLUT生成モジュール100は、まず、指定メディアの系統に対応するデフォルト重みw L*,w a*…をHDD400に格納されたメディアテーブルMTBを参照することにより取得する。メディアの系統は、光沢紙系,マット紙系,普通紙系,プルーフ系,未分類系であり、各系統についてデフォルト重みw L*,w a*…がメディアテーブルMTBに格納されている。次に、ベースLUT生成モジュール100は、重み指定用UI画像を表示装置に表示させ、入力装置により重みw L*,w a*…の指定を受け付ける。
【0023】
図3は重み指定用UI画像を示し、図4はメディアテーブルMTBの一例を示している。重み指定用UI画像においては、目的関数Eを構成する各項の重みw L*,w a*…(0〜100%)の指定を受け付ける。同図に示すように、粒状性と色恒常性とランニングコストとガマットと階調性の各設定項目についてスライダーバーが設けられており、個々のポインターを右側にスライドさせるほど個々の項目についての重みが増す設定がなされる。また、スライダーバーの中央の位置が、重みw L*,w a*…の中央値(50%)に対応する。重み指定用UI画像における粒状性のポインターを右側にスライドさせるほど、重みwGIの値が大きく設定される。色恒常性のポインターを右側にスライドさせるほど、重みw CII(A)・・w CII(F12)の値が大きく設定される。本実施例では、重みw CII(A)・・w CII(F12)の値は互いに等しくする。むろん、光源の重要度に応じて重みw CII(A)・・w CII(F12)の値を異ならせてもよい。ランニングコストのポインターを右側にスライドさせるほど、重みwTIの値が大きく設定される。ガマットのポインターを右側にスライドさせるほど、重みwGMIの値が大きく設定される。階調性のポインターを右側にスライドさせるほど、重みw L*,w a*,w b*が大きく設定される。本実施例では、重みw L*,w a*,w b*の値は互いに等しくする。なお、明度L*・彩度a*,b*別に異なる重みw L*,w a*,w b*が設定できるようにしてもよい。ポインターのスライダーバーにおける位置と各重みw L*,w a*…の値の関係は、単調増加の関係にあればよく、線形関数や2次関数等の各種関数で規定することができる。
【0024】
重み指定用UI画像にてスライダーバーを最初に表示させる際の各ポインターの初期位置は、メディアテーブルMTBから取得したデフォルト重みw L*,w a*…に対応する位置とする。デフォルト重みw L*,w a*…は、メディアテーブルMTBにおいてメディアの各系統について好ましい値が予め設定されている。図4に示すように、普通紙系についてはランニングコストのデフォルト重みwTIが中央値よりも大きく、ガマットのデフォルト重みwGMIが中央値よりも小さくされており、それ以外は中央値とされている。マット紙系と未分類系については、すべての項のデフォルト重みw L*,w a*…が中央値とされている。光沢紙系については、粒状性と階調性とガマットの重みwGI,w L*,w a*,w b*,wGMIが中央値よりも大きくされており、それ以外は中央値とされている。プルーフ紙系は、ガマットの重みwGMIのみが中央値よりも大きくされており、それ以外は中央値とされている。ポインターの初期位置をユーザーが変更することなく重み指定用UI画像内の決定ボタンをクリックすると、メディアテーブルMTBから取得したデフォルト重みw L*,w a*…がそのまま設定されることとなる。
【0025】
デフォルト重みw L*,w a*…は、各系統のメディアの使用目的等を考慮して好適な値に設定されているため、基本的には変更しなくてもよい。ユーザーが特に意図する場合には、初期位置からポインターを所望の位置にスライドさせることにより、所望の重みw L*,w a*…を設定することができる。なお、各重みw L*,w a*…は、相対的な大きさの差が意味をなし、全体的に一様に大小させることの意義は小さい。従って、ある項目のポインターを移動させたことにより、他の項目のポインターが逆方向に一様に移動するようにしてもよい。ベースLUT生成モジュール100は、重み指定用UI画像内の決定ボタンがクリックされたときの各ポインターの位置に対応する重みw L*,w a*…を設定テーブルSTBに登録する。
【0026】
ステップS03では、ベースLUT生成モジュール100は、指定メディアが基本メディアであるか否か判定し、基本メディアである場合には、ステップS04へ進み、メディアテーブルMTBを参照して該基本メディアについてのデューティー制限値を取得する。一方、指定メディアが転用メディアである場合には、ステップS05へ進む。
本実施例では、CMYKの4種類のインクを自然数の下付文字j(j=1〜4)によって区別し、メディアに付着させるインク量を個々のインクのインク量I1〜I4をベクトルI=(I1,I2,I3,I4)によって表すこととする。なお、インク量Ij(後述するI j(R,G,B),ΔIj,Ijr,hjも含む。)を下付文字jを付すことなく示す場合は、各インクのインク量Ijを各行要素として有する行列(ベクトル)を意味することとする。さらに、下付文字j(j=5〜7)によってCMYの3種類のインクを2種類ずつ混色したときの2次色のインク量を示すこととする。すなわち、I5=I1+I2,I6=I1+I3,I7=I2+I3とする。2次色のインク量I5〜I7は、それぞれブルー(B)、レッド(R)、グリーン(G)の色相に対応する色をメディア上で再現させる。さらに、下付文字j(j=8)によってCMYKの4種類のインクをすべて混色したときのインク量を示すこととする。すなわち、I8=I1+I2+I3+I4とする。
【0027】
本実施例では、各インクのインク量Ijは8ビットで表現する。図4に示すように、デューティー制限値DIjは、各インク単独(1次色)と、2次色のインクの合計と、全インクの合計について記憶されている。デューティー制限値DIjは、各基本メディアに対して単位面積あたりに最大限付着させることができるインク量を意味し、例えばインクにじみが生じる下限値が設定される。インク滴のメディア上における物理的性質は、インクとメディアの組み合わせごとに異なっており、これらの組み合わせごとに異なるデューティー制限値DIjが設定されている。また、複数インクを混色する場合にも、単一インクとは異なる物理的性質を示すため、本実施例では1次色だけでなく、2次色(2インク混色)と全インク合計についてもデューティー制限値DIj(j=1〜8)が設定されている。基本メディアについてデューティー制限値DIjが取得できると、ベースLUT生成モジュール100は、該取得したデューティー制限値DIjを設定テーブルSTBに登録する(ステップS04)。ベースLUT生成モジュール100は、ステップS04の後は、ステップS06(正確にはステップS06の途中)へ進む。
本明細書において、単にインク量Ijと表記した場合には下付文字jの範囲はj=1〜4であり、デューティー制限値DIjと表記した場合には下付文字jの範囲はj=1〜8であるとする。
【0028】
図5は、設定テーブルSTBの一例を示している。指定メディアが基本メディアである場合には、設定テーブルSTBに、上述した指定された基本メディアの種類と、重みw L*,w a*…と、デューティー制限値DIjと、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)が記憶される。基本メディアの場合、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)=(0,0)とされる。
【0029】
ステップS05において、プリンター調整モジュール500は、少なくともプリンター20に印刷環境の設定の良否を判定するためのテストパターンを指定メディアに印刷させ、当該テストパターンの印刷結果に応じた印刷環境の設定調整を実行する(調整工程)。ここでいう印刷環境とは、プリンター20による印刷結果に影響を与える各種条件(主に機械的条件)を言い、例えば、プリンター20における紙送り量や、プラテンギャップや、プリンター20が備える乾燥手段による温度や風力や、プラテンにおけるメディアの吸引力や、印刷ヘッドの移動速度や、メディアにかかるテンション(搬送ローラーにおよる引っ張り力)等を言う。当該ステップS05を行うことで、プリンター20による印刷結果に、色むらや、にじみや、かすれ等の不具合を生じさせないような、良好な印刷環境を構築する。ステップS05の詳細については後述する。
【0030】
ステップS06では、ベースLUT生成モジュール100は、指定メディアにおいて最適な色彩値を再現するインク量を、目的関数Eを用いた最適化により決定し、この決定したインク量を出力値として規定したベースLUTを生成する。ただし、指定メディアが転用メディアである場合は、指定メディアとは異なる基本メディアにインクを付着させたときの画質を評価する目的関数Eを用いたインク量の最適化によって、機器非依存表色系の格子点が示す色彩値を再現するインク量を決定する。そして、当該決定したインク量を基本メディアにおけるインクの発色特性と指定メディアにおけるインクの発色特性とに基づく変換関係によって変換したインク量と、所定の入力表色系の格子点との対応関係を規定することにより、指定メディアのためのベースLUTを生成する(色変換テーブル生成工程)。ステップS06の詳細についても後述する。
【0031】
ステップS07では、デバイスプロファイル生成モジュール200は、ステップS06で生成されたベースLUTに基づいてデバイスプロファイルを生成する。つまり、所定のプロファイル生成用のテストパターンを表したデータをベースLUTにより色変換し、当該色変換後のデータに基づいて、プリンター20に、指定メディアにテストパターンを印刷させ、当該テストパターンの測色値に基づいてプリンター20の特性を規定したデバイスプロファイルを生成する(プロファイル生成工程)。このようにベースLUTおよびデバイスプロファイルが生成された後は、ユーザーは、これらベースLUTおよびデバイスプロファイルを用いることにより、任意の画像データを色変換してプリンター20において指定メディアに印刷させることができる。ステップS07の詳細についても後述する。
【0032】
図6は、プリンター20の構成を示している。同図において、プリンター20はCPU50とRAM52とROM51とメモリーカードスロット53とバス54とASIC55を備えている。ROM51に記憶されたプログラムデータ15aをRAM52に展開しつつCPU50がプログラムデータ15aにしたがった演算を行うことによりプリンター20を制御するためのファームウェアFWが実行される。ファームウェアFWは、取得した(たとえば、メモリーカードスロット53に装着されたメモリーカードMCに記憶された)印刷データPDに基づいて、駆動データを生成可能である。ASIC55は駆動データを取得し、紙送り機構(紙送りモーター等)57やキャリッジモーター58や印刷ヘッド59の駆動信号を生成する。ROM51においては、コンピューター10から送信された色補正LUT700が記憶されている。色補正LUT700には対応するメディア種類の情報も記録されている。色補正LUT700は、標準的な機器依存表色系、例えばsRGB表色系をプリンター20のインク量(CMYK)に変換するためのLUTであったり、JAPAN COLOR表色系をプリンター20のインク量(CMYK)に変換するためのLUTであったりする。色補正LUT700は後述するように、ベースLUTやデバイスプロファイルに基づいて生成されたLUTである。プリンター20はキャリッジ60を備えており、キャリッジ60は複数のインクカートリッジ61を取り付け可能なカートリッジホルダー61aを備える。キャリッジ60は、各インクカートリッジ61から供給されるCMYKの各色インク滴を多数のノズルから吐出する印刷ヘッド59を備える。
【0033】
図7は、プリンター20における印刷ヘッド59近傍の構成を簡略的に例示している。キャリッジ60に搭載された印刷ヘッド59は、キャリッジモーター58により図7の紙面に対して垂直な方向(主走査方向)に往復移動可能である。印刷ヘッド59下方にはプラテン62が設けられている。メディアMaは、紙送り機構57によって駆動される図示しない紙送りローラーによって、主走査方向に垂直な方向(副走査方向あるいは紙送り方向と呼ぶ。)へ送られることにより、プラテン62上を移動する。プリンター20においては、例えば、パス(印刷ヘッド59の1回の主走査方向への移動)毎のインク吐出と、パスとパスとの合間における一定距離の紙送りとを繰り返すことで、メディアMa上に印刷画像を形成する。また、印刷ヘッド59よりも紙送り方向の下流側(メディアMaが排出される側)には、印刷画像を乾燥させるための乾燥機65(乾燥手段)が設けられることもある。なお、プリンター20は、ラインヘッド型のプリンターであってもよい。また、本実施例におけるプリンター20はインクジェット方式を採用しているが、インクジェット方式以外にも種々のプリンターに対して本発明を適用可能である。
【0034】
図8は、ファームウェアFWのソフトウェア構成を示している。ファームウェアFWは、画像データ取得部FW1とレンダリング部FW2と色変換部FW3とハーフトーン部FW4とラスタライズ部FW5とから構成されている。画像データ取得部FW1は、ユーザーが任意に選択した印刷対象としての印刷データPDを、例えば、メモリーカードMCに記憶された印刷データPDの中から取得する。印刷データPDは、文書データやグラッフィックデータであってもよいし、写真画像データであってもよい。レンダリング部FW2は、印刷データPDに基づいて印刷に使用する入力画像データIDを生成する。入力画像データIDは、印刷解像度(例えば2880×2880dpi)に対応した画素数(印刷解像度×印刷実サイズ)の画素で構成されており、各画素8ビット(0〜255)の例えばsRGB表色系に準拠したRGB値で表現されている。
【0035】
色変換部FW3は、入力画像データIDを取得し、該入力画像データIDを色変換する。具体的には、色変換部FW3は、印刷に使用するものとして指定されたメディア種類および入力画像データIDの表色系に対応する色補正LUT700を参照しつつ補間演算を実行することにより、画素毎のデータ(たとえばRGB値)を各インクのインク量(CMYK)に変換する。ハーフトーン部FW4は、色変換部FW3が出力した各インクのインク量に基づくハーフトーン処理を実行する。ラスタライズ部FW5は、ハーフトーン処理後のハーフトーンデータの各画素(吐出可否)を印刷ヘッド59の各主走査および各インクノズルに割り当て、駆動データを生成する。駆動データはASIC55に出力され、ASIC55が紙送り機構57やキャリッジモーター58や印刷ヘッド59の駆動信号を生成する。本実施例では、プリンター20上のファームウェアFWによって色変換処理が行われることとしたが、プリンター20が接続されたコンピューター上で色変換処理が行われてもよい。すなわち、色補正LUT700はプリンター20だけでなくプリンター20を制御するコンピューター(印刷制御装置)に組み込まれてもよい。
【0036】
2.基本メディアのベースLUT生成:
2−1.基本的手順:
上述したように、指定メディアが転用メディアである場合はステップS05〜が実行されるが、以下ではまず、基本メディアが指定された場合について実行されるステップS04の後の処理(ステップS06の途中からの処理)、すなわち基本メディアについてベースLUTを作成する処理を一通り説明する。
図9および図10は、ステップS06の詳細を示すフローチャートであり、ステップS05の後は、ステップS06の内容として図9(ベースLUT生成の準備処理)が実行され、その次に図10(ベースLUT生成の本処理)が実行される。ただし、指定メディアが基本メディアである場合のステップS06においては(つまりステップS04からステップS06に移った場合は)図10の処理が実行される。
【0037】
図11(A)〜(C)は、図10のステップS100〜S300によってベース3D−LUTを作成する場合の処理内容を示す説明図である。ステップS100では、設定テーブルSTBに記憶された情報に基づいて、フォワードモデルコンバーター300とインバースモデル初期LUT410と画質評価指数コンバーター136とが準備(起動)される。上述したように、基本メディアについては、該基本メディアのための分光プリンティングモデルコンバーター310と画質評価指数コンバーター136とが準備されているため、これらを起動して使用可能とする。ここで「フォワードモデル」とは、インク量Ijを機器非依存表色系の色彩値に変換する(インク量から測色値を予測する)変換モデルを意味し、「インバースモデル」とは、逆に、機器非依存表色系の色彩値をインク量に変換する変換モデルを意味している。実施例では、機器非依存表色系としてCIE−Lab表色系を使用する。なお、以下では、CIE−Lab表色系の色彩値を、単に「L***値」または「Lab値」とも呼ぶ。
【0038】
図11(A)に示すように、フォワードモデルコンバーター300の前段を構成する分光プリンティングモデルコンバーター310は、複数種類のインクのインク量Ijを、対応する基本メディアに付着させて形成したカラーパッチの分光反射率R(λ)に変換する。なお、本明細書において「カラーパッチ」という用語は、有彩色のパッチに限らず、無彩色のパッチも含む広い意味で使用される。また「印刷する」とは、メディアにインク量に応じてインクを付着させることを指す。分光プリンティングモデルコンバーター310は、上述した4種類のインクのインク量Ijを入力としている。色算出部320は、分光反射率R(λ)からLab表色系の色彩値を算出する。この色彩値の算出には、予め選択された光源(例えば標準の光D50)がカラーパッチの観察条件として使用される。なお、分光プリンティングモデルコンバーター310を作成する方法としては、例えば特表2007−511175号公報に記載された方法を採用することが可能である。
【0039】
インバースモデル初期LUT410は、L***値を入力とし、インク量Ijを出力とするルックアップテーブルである。当該初期LUT410は、例えば、L***空間を複数の小セルに区分し、各小セル毎に最適なインク量Ijを選択して登録したものである。この選択は、例えば、そのインク量Ijで基本メディアに印刷されるカラーパッチの画質を考慮して行われる。一般に、ある1つのL***値を再現するインク量Ijの組み合わせは多数存在する。そこで、初期LUT410では、ほぼ同じL***値を再現する多数のインク量Ijの組み合わせの中から、画質等の所望の観点から最適なインク量を選択したものが登録されている。この初期LUT410の入力値であるL***値は各小セルの代表値である。一方、出力値であるインク量Ijはそのセル内のいずれかのL***値を再現するものである。従って、この初期LUT410では、入力値であるL***値と出力値であるインク量Ijとが厳密に対応したものとなっておらず、出力値のインク量をフォワードモデルコンバーター300でL***値に変換すると、初期LUT410の入力値とは多少異なる値が得られる。ただし、初期LUT410として、入力値と出力値とが完全に対応するものを利用してもよい。また、初期LUT410を用いずにベースLUTを作成することも可能である。なお、小セル毎に最適なインク量を選択して初期LUT410を作成する方法としては、例えば前記特表2007−511175号公報に記載された方法を採用することが可能である。前記特表2007−511175号公報の方法では、対象の印刷媒体にカラーパッチを形成することにより、分光プリンティングモデルコンバーター310とインバースモデル初期LUT410とが作成される。すなわち、基本メディアのベースLUTを作成するためには、基本メディアにカラーパッチを形成することにより作成された分光プリンティングモデルコンバーター310とインバースモデル初期LUT410とを準備することとなる。
【0040】
図10のステップS200では、ベースLUT作成のための初期入力値がユーザーによって設定される。図11(B)は、ベース3D−LUT510の構成とその初期入力値設定の例を示している。ベース3D−LUT510の入力値としては、RGBの各値として予め定められたほぼ等間隔の値が設定される。1組のRGB値はRGB色空間内の点を表していると考えられるので、1組のRGB値を「入力格子点」とも呼ぶ。ステップS200においては、複数の入力格子点のうちから予め選択された、いくつかの少数の入力格子点に対するインク量Ijの初期値がユーザーによって入力される。本実施例では、RGBの各値を8ビットで表現した場合に、(R,G,B)=(16n1−1,16n2−1,16n3−1)を満足するすべて(173個)の入力格子点を選択する。n1〜n3は、それぞれ0〜16の整数であり、R,G,B=−1のときはR,G,B=0とする。この初期入力値が設定される入力格子点には、RGB色空間における3次元色立体の頂点に相当する入力格子点が含まれる。この3次元色立体の頂点では、RGBの各値がその定義範囲の最小値または最大値を取る。具体的には、(R,G,B)=(0,0,0)、(0,0,255)、(0,255,0)、(255,0,0)、(0,255,255)、(255,0,255)、(255,255,0)、(255,255,255)である8つの入力格子点に関してインク量Ijの初期入力値が設定される。また、n1=n2=n3となる17個の入力格子点(以下、グレー格子点と表記する。)は、RGB色空間上のグレー軸上に存在することとなる。なお、(R,G,B)=(255,255,255)の入力格子点に対するインク量Ijは、すべて0に設定される。他の入力格子点に対するインク量Ijの初期入力値は任意であり、例えば0に設定される。図7(B)の例では、(R,G,B)=(0,0,32)の入力格子点に対するインク量が0以外の値になっているが、これはこのLUT510が完成したときの値である。
【0041】
図10のステップS300では、ベースLUT生成モジュール100(図1)が、ステップS200で設定された初期入力値に基づいてスムージング処理(平滑化および最適化処理)を実行する。図11(C)は、ステップS300の処理内容を示している。図11(C)の左側には、スムージング処理前の状態における複数の色彩値の分布が2重丸と白丸とで示されている。これらの色彩値は、L***空間における3次元色立体CSを構成している。各色彩値のL***座標値は、ベース3D−LUT510の複数の入力格子点におけるインク量Ijを、フォワードモデルコンバーター300(図11(A))を用いてL***値に変換した値である。上述したように、ステップS200では一部の少数の入力格子点についてのみインク量Ijの初期入力値が設定される。そこで、他の入力格子点に対するインク量の初期値は、初期入力値からベースLUT生成モジュール100によって設定される。この初期値設定方法については後述する。
【0042】
Lab表色系の3次元色立体CSは、以下の8つの頂点(図11(C)の2重丸の点)を有している。
・点PK:(R,G,B)=(0,0,0)に対応する紙黒点。
・点PW:(R,G,B)=(255,255,255)に対応する紙白点。
・点PC:(R,G,B)=(0,255,255)に対応するシアン点。
・点PM:(R,G,B)=(255,0,255)に対応するマゼンタ点。
・点PY:(R,G,B)=(255,255,0)に対応するイエロー点。
・点PR:(R,G,B)=(255,0,0)に対応するレッド点。
・点PG:(R,G,B)=(0,255,0)に対応するグリーン点。
・点PB:(R,G,B)=(0,0,255)に対応するブルー点。
【0043】
図11(C)の右側は、スムージング処理後の格子点(色彩値)の分布を示している。スムージング処理は、L***空間における複数の格子点を移動させて、それらの格子点の分布を等間隔に近い平滑なものにする処理である。スムージング処理では、さらに、移動後の各格子点のL***値を再現するために最適なインク量Ijも決定される。この最適なインク量がベースLUT510の出力値として登録されると、ベースLUT510が完成する。
【0044】
図12(A)〜(C)は、入力表色系の格子点(すなわち入力格子点)とLab表色系の格子点との対応関係を示している。Lab表色系の3次元色立体CSの頂点は、ベースLUT510の入力表色系の3次元色立体の頂点と一対一に対応している。また、各頂点を結ぶ辺(稜線)も、両方の色立体で互いに対応しているものと考えることができる。スムージング処理前のLab表色系の各格子点の色彩値は、ベースLUT510の入力格子点にそれぞれ対応付けられており、従って、スムージング処理後のLab表色系の各格子点の色彩値もベースLUT510の入力格子点にそれぞれ対応付けられる。なお、ベースLUT510の入力格子点はスムージング処理によって変化しない。スムージング処理後のLab表色系の3次元色立体CSは、ベースLUT510の出力表色系を構成するインクセットで再現可能な色域(ガマット)の全体に対応している。従って、ベースLUT510の入力表色系は、このインクセットで再現可能な色域の全体を表す表色系としての意義を有している。
【0045】
ベースLUT510を作成する際に、L***空間においてスムージング処理を行う理由は以下の通りである。ベースLUT510では、なるべく大きな色域を再現できるように出力表色系のインク量Ijを設定したいという要望がある。一方で、特定のインクセットでメディア上に再現可能な色域は、メディア特有のデューティー制限値DIj等に依存することとなる。そこで、スムージング処理の際にデューティー制限値DIj等の制限条件を考慮してL***空間内の色彩値の取り得る範囲を決定すれば、特定のインクセットで再現可能な色域を決定することが可能となる。なお、格子点の移動を行うアルゴリズムとしては、例えば、後述する力学モデルを使用したものが利用される。
【0046】
図10のステップS400では、スムージング処理の結果を用いて、ベースLUT生成モジュール100がベースLUTを作成する。すなわち、ベースLUT生成モジュール100は、各入力格子点に対応付けられたLab表色系の格子点の色彩値を再現するための最適なインク量IjをベースLUT510の出力値として登録する。このように生成されたベースLUTは、指定メディアと対応付けられてHDD400に格納される。なお、スムージング処理では、その計算負荷を軽減するために、ベースLUT510の入力格子点の一部のみに対応する格子点の色彩値のみを処理対象として選択することも可能である。例えば、ベースLUT510の入力格子点におけるRGB値の間隔が16である場合に、スムージング処理の対象となる入力格子点におけるRGB値の間隔を32に設定すれば、スムージング処理の負荷を半減することができる。この場合には、ベースLUT生成モジュール100は、スムージング処理結果を補間することによってベースLUT510のすべての入力格子点に対するインク量Ijを決定して登録する。
【0047】
図13(A)〜(C)は、図10のステップS100〜S300によってベース4D−LUT520を作成する場合の処理内容を示す説明図である。図13(A)は、図11(A)と同じである。図13(B)に示すベース4D−LUT520は、入力がCMYK表色系である点が図11(B)に示したベース3D−LUT510と異なっている。このベース4D−LUT520の初期入力値としては、(C,M,Y,K)=(0,0,0,0),(0,0,255,0),(0,255,0,0),(0,255,255,0),(255,0,0,0),(255,0,255,0),(255,255,0,0),(255,255,255,0),(0,0,0,255),(0,0,255,255),(0,255,0,255),(0,255,255,255),(255,0,0,255),(255,0,255,255),(255,255,0,255),(255,255,255,255)である16個の入力格子点に関してインク量の初期値が設定される。他の入力格子点に対するインク量の初期入力値は任意であり、例えば0に設定される。本実施例では、ベース4D−LUT520を作成する場合においても、C=M=Yとなるグレー軸上のグレー格子点が入力格子点として17個含まれることとする。
【0048】
図13(C)は、スムージング処理の様子を示している。なお、L***空間においてベース4D−LUT520に対応する色立体としては、図13(C)の右端に示すように、入力値のうちのK値のそれぞれの値に対して1つの3次元色立体CSが存在する。この例では、K=0の色立体とK=32の色立体とを含む複数の色立体CSが図示されている。本明細書では、これらの個々の色立体CSを「Kレイヤ」とも呼ぶ。この理由は、各色立体CSが、CMYK値のうちのK値が一定でC,M,Y値が可変である入力層に対応するものと考えることができるからである。複数の色立体CSは、K値が大きいほど暗い色域を表現するものとなっている。これらの複数の色立体CSは、入力表色系のK値が大きいほどブラックインクKのインク量I4が多くなるようにブラックインクKのインク量を決定することによって実現できる。上述したように、再現可能な色域はデューティー制限値DIj等によって制限される。このデューティー制限値DIjは、指定されたメディアの種類に依存する。一方、暗い色を再現する方法としては、ブラックインクKなどの無彩色インクを用いる方法と、コンポジットブラックを用いる方法とがある。しかし、コンポジットブラックは合計インク量が多くなるので、ブラックインクKに比べてデューティー制限値に抵触する可能性が高く、暗い色を再現するのには不利である。従って、入力表色系のK値が大きくブラックインクKのインク量I4が多い色立体の方が、入力表色系のK値が小さく濃ブラックインクKのインク量I4が少ない色立体に比べてより暗い色を再現することが可能となる。
以下では、実施例のスムージング処理(平滑化および最適化処理)に利用される力学モデルについて簡単に説明した後に、スムージング処理の処理手順、および、最適化処理の内容について順次説明する。
【0049】
2−2.力学モデル:
図14は、本実施例のスムージング処理(平滑化および最適化処理)に利用される力学モデルを示す説明図である。ここでは、L***色空間内に上述した入力格子点に対応する格子点(白丸および2重丸)が配列されている様子を示している。ただし、ここでは説明の便宜上、格子点の配置を2次元的に描いている。この力学モデルでは、着目格子点gに対して次式の仮想的な力Fpgが係るものと仮定する。
【数1】


ここで、Fgは着目格子点gが隣接格子点gn(nは1〜N)から受ける引力の合計値、Vgは着目格子点gの速度ベクトル、−kvgは速度に応じた抵抗力、Xgは着目格子点gの位置ベクトル、Xgnは隣接格子点gnの位置ベクトル、kp,kvは係数である。係数kp,kvは予め一定の値に設定される。なお、文中では、ベクトルを示す矢印は省略される。
【0050】
このモデルは、バネで互いに結ばれた質点の減衰振動モデルである。すなわち、着目格子点gに係る仮想合力Fpgは、着目格子点gと隣接格子点gnとの距離が大きいほど大きくなるバネ力Fgと、着目格子点gの速度が大きいほど大きくなる抵抗力−kvgとの合計値である。この力学モデルでは、各色点について、位置ベクトルXgと速度ベクトルVgの初期値を設定した後に、微小時間dt経過後の速度ベクトルVgと位置ベクトルXgとを順次算出して更新してゆく。なお、複数の色点の速度ベクトルVgの初期値は、例えば0に設定される。このような力学モデルを用いた計算(シミュレーション)を利用すれば、L***色空間内における各色点を徐々に移動させて、平滑な色点分布を得ることが可能である。
【0051】
なお、各色彩値に係る力としては、バネ力Fgと抵抗力−kvg以外の力を用いても良い。例えば、本出願人により開示された特開2006−197080号公報で説明されている他の種々の力をこの力学モデルで利用してもよい。また、力学モデルを適用して各色彩値を移動させる際に、特定の色彩値は、力学モデルによって移動しない拘束点として取り扱うことも可能である。本実施例では、上述した17個のグレー軸格子点に対応する格子点の色彩値が、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)が示す色相方向にずれるように拘束する。基本メディアの場合には、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)=(0,0)としていされているため、グレー軸格子点に対応する格子点の色彩値は、L***色空間のL*軸上の位置を示すように拘束される。
【0052】
図15は、グレー軸格子点に対応する格子点の位置(色彩値)がグレーターゲットに拘束される様子を示している。同図に示すように、グレー軸格子点に対応する格子点(白丸)が、L***色空間のL*軸上の紙黒点と紙白点とを結ぶ線分(グレーターゲット)を16等分する位置を示すように拘束されている。なお、特開2006−217150公報に開示された手法によって、特定の格子点をL***色空間の特定の位置に拘束することができる。このように、L***色空間のL*軸上において均等に格子点を拘束することにより、スムージング処理後のベースLUT510,520を用いて色補正LUT610,620を作成する際に行われるグレー軸まわりの補間演算の精度を向上させることができる。従って、グレー軸まわりの色再現性や階調性に優れた色補正LUT610,620を作成することができる。
【0053】
2−3.スムージング処理(平滑化および最適化処理):
図16は、スムージング処理(図10のステップS300)の典型的な処理手順を示すフローチャートである。ステップT100では、ベースLUT生成モジュール100は、スムージング処理の対象とする複数の格子点を初期設定する。
【0054】
図17は、ステップT100の詳細手順を示すフローチャートである。ステップT102では、インク量の初期入力値(図11(B),図13(B))から、スムージング処理の対象となる各格子点の仮インク量が決定される。例えば、3D−LUT用のスムージング処理では、次の(2)式、(3)式に従って、各入力格子点に対する仮インク量I(R,G,B)が決定される。
【数2】


【数3】


ここで、I(R,G,B)は、入力格子点のRGB値に対するインクセット(複数のインクのインク量の組合せ)全体のインク量Ij(図11の例では4種類のインクのインク量Ij)を表している。RGB値が0または255を取る入力格子点に対するインク量(仮インク量)は、図10のステップS200においてユーザーによって予め入力された初期入力値である。前記(2)式および(3)式によれば、任意のRGB値における仮インク量I(R,G,B)を求めることが可能である。
【0055】
4D−LUT用のスムージング処理では、次の(4)式、(5)式に従って、各入力格子点に対する仮インク量I(C,M,Y,K)が決定される。
【数4】


【数5】

【0056】
なお、(4)式からも理解できるように、4D−LUT用のインク量の初期入力値は16個存在するので、初期入力値の設定が煩雑である。そこで、例えば、インク量の初期入力値を設定する入力格子点を、K=0の8個の頂点、すなわち、(C,M,Y,K)=(0,0,0,0),(0,0,255,0),(0,255,0,0),(0,255,255,0),(255,0,0,0),(255,0,255,0),(255,255,0,0),(255,255,255,0)の8個の頂点と、K=255の1個の頂点、例えば、(C,M,Y,K)=(0,0,0,255)の頂点のみとし、K=255の格子点のインク量を次の(6)式または(7)式で決定してもよい。
【数6】


【数7】


ここで、I(C,M,Y,K)は、K=0の8個の頂点におけるインク量の初期入力値から、前記(2)式と同様の式で算出されたインク量である。(6)式の関数f D1は値I(C,M,Y,0)と値I(0,0,0,255)の合計値がデューティー制限値D I8をオーバーする場合に、値I(C,M,Y,0)を減じることによって、インク量I(C,M,Y,255)がデューティー制限値D I8内に納まるようにする関数である。また(7)式の関数f D2は、値I(C,M,Y,0)と値I(0,0,0,255)の合計値がデューティー制限値D I8をオーバーする場合に、合計値(I(C,M,Y,0)+I(0,0,0,255))の全体を減じることによって、インク量I(C,M,Y,255)がデューティー制限値D I8内に納まるようにする関数である。
【0057】
図17のステップT104では、フォワードモデルコンバーター300を用いて、仮インク量に対応する色彩値L***を求める。この演算は、以下の(8)式または(9)式で表すことができる。
【数8】


【数9】


ここで、L* (R,G,B)、a* (R,G,B)、b* (R,G,B)、L* (C,M,Y,K) 、a* (C,M,Y,K)、b* (C,M,Y,K)はフォワードモデルコンバーター300による変換後の色彩値L***を示しており、関数fL*FM、fa*FM、fb*FMはフォワードモデルコンバーター300による変換を意味している。なお、これらの式からも理解できるように、この変換後の色彩値L***は、ベースLUTの入力値であるRGB値またはCMYK値に対応付けられている。
【0058】
図17のステップT106では、ステップT104で得られた色彩値L***を、インバースモデル初期LUT410を用いてインク量に再度変換する。ここで、インバースモデル初期LUT410を用いてインク量に再度変換する理由は、インク量Ijの初期入力値や、ステップT102で決定された仮インク量が、L***値を再現するインク量として必ずしも好ましいインク量Ijでは無いからである。一方、インバースモデル初期LUT410では、画質等を考慮した好ましいインク量が登録されているので、これを用いてL***値をインク量Ijに再度変換すれば、そのL***値を実現するための好ましいインク量Ijを初期値として得ることができる。ただし、ステップT106を省略してもよい。ステップT107では、上述したL*軸上のグレーターゲットを設定する。
【0059】
上述のステップT100(図17)の処理の結果、スムージング処理の対象となる色彩値について、以下の初期値が決定される。
(1)ベースLUTの入力格子点の値:(R,G,B)または(C,M,Y,K)
(2)各入力格子点に対応するL***空間の格子点の初期座標値:(L* (R,G,B),a* (R,G,B),b* (R,G,B))または(L* (C,M,Y,K),a* (C,M,Y,K),b* (C,M,Y,K)
(3)各入力格子点に対応する初期インク量:I(R,G,B)またはI(C,M,Y,K)
以上の説明から理解できるように、ベースLUT生成モジュール100は、代表的な入力格子点に関する入力初期値から他の入力格子点に関する初期値を設定する機能を有している。
【0060】
図16のステップT120では、ベースLUT生成モジュール100が、上述した力学モデルに従ってL***空間内の色彩値を移動させる。
【0061】
図18(A)〜(D)は、図16のステップT120〜T150の処理内容を示す説明図である。図18(A)に示すように、スムージング処理前には、格子点の分布にはかなりの偏りがある。図18(B)は、微小時間経過後の各格子点の位置を示している。この移動後の各色彩値のL***値を「ターゲット値(L*t*t*tあるいはLABt)」と表記する。「ターゲット」という修飾語は、このL*t*t*t値が、以下で説明するインク量の最適値の探索処理の際の目標値として使用されるからである。
【0062】
ステップT130では、ベースLUT生成モジュール100が、予め設定された目的関数Eを用いて、ターゲット値LABtに対するインク量Ijの最適値を探索する(図18(C)参照)。つまり、ターゲット値LABtを略再現するものとして指定したインク量Ijのインクを指定メディアに付着させたときの画質を評価するための目的関数Eを用いてインク量を最適化(最適なインク量を探索)し、インク量を決定する。この目的関数Eを用いた最適化では、力学モデルで微小量だけ移動した後の色彩値の座標値LABtに近いL***値を再現するインク量Ijが指定され、指定されたインク量Ijの中で、複数のパラメーターΔL*,Δa*,ΔGI,ΔCII,ΔTI…の2乗誤差の和がより小さいインク量が最適なインク量Ijとして決定される。また、最適なインク量Ijの探索は、ステップT100で設定された各入力格子点の初期インク量から開始される。従って、探索で得られるインク量Ijは、この初期インク量を修正した値となる。後で詳述するように、(EQ1)式で与えられる目的関数Eは、(EQ2)式のようなインク量ベクトルIに関する2次形式の関数として書き表すことができる。インク量Ijの最適化は、このような2次形式の目的関数Eを用いて、2次計画法に従って実行される。なお、ステップT130の詳細手順や目的関数Eの内容については後述する。
【0063】
図16のステップT140では、ステップT130で探索された(直近のステップT130で最適値であるとして決定された)インク量Ijに対応するL***値が、フォワードモデルコンバーター300で再計算される(図18(D)参照)。ここで、L***値を再計算する理由は、探索されたインク量Ijが目的関数Eを最小とするインク量なので、そのインク量Ijで再現されるL***値は、最適化処理のターゲット値LABtから多少ずれているからである。こうして再計算されたL***値が、各格子点の移動後の座標値として採用される。
【0064】
ステップT150では、各格子点の色彩値の移動量の平均値(ΔLab) aveが、予め設定された閾値ε以下であるか否かが判定される。平均値(ΔLab) aveは、各格子点の色彩値L***についての、ステップT120による移動前の値とステップT140で再計算された後の値との差異の平均値である。平均値(ΔLab) aveが閾値εよりも大きい場合には、ステップT120に戻りステップT120〜T150のスムージング処理が継続される。一方、平均値(ΔLab) aveが閾値ε以下の場合には、色彩値の分布が十分に平滑になっているので、スムージング処理が終了する。なお、閾値εは、予め適切な値が実験的に決定される。
【0065】
このように、本実施例の典型的なスムージング処理(平滑化および最適化処理)では、力学モデルによって各格子点を微小時間毎に移動させつつ、移動後の色点に対応する最適なインク量Ijを最適化手法で探索する。そして、色点の移動量が十分に小さくなるまでそれらの処理が継続される。この結果、図11(C)または図13(C)に示したように、スムージング処理によって、平滑な格子点分布を得ることが可能である。
【0066】
2−4.最適化処理の内容:
最適化処理の目的関数E(図18(C)参照)は、インク量の関数である色彩値(L***値)および画質評価指数に関するヤコビ行列Jを用いて表現することが可能である。各画質評価指数は、画質評価指数コンバーター136によって算出される。後述するように、各画質評価指数は、各インク量のインクを基本メディアに付着させた場合の画質を評価する指数である。ヤコビ行列Jは、例えば以下の(10)式で表される。
【0067】
【数10】

【0068】
(10)式の右辺の第1行〜第3行は、色彩値L***を個々のインク量Ijで偏微分した値を示している。また、第4行以下は、1組のインク量Ij(j=1〜8)で印刷されるカラーパッチの画質を表す画質評価指数(粒状性指数GI(Graininess Index)と、非色恒常性指数CII(Color Inconstancy Index)と、ガマット評価指数GMIと、合計インク量TIを個々のインク量Ijで偏微分した値を示している。なお、画質評価指数GI,CII,GMI,TIは、その値が小さいほど、インク量Ijで再現されるカラーパッチの画質が良い傾向にあることを示す指数である。
【0069】
色彩値L***は、フォワードモデルコンバーター300を用いて、以下の(11)式でインク量Ijから変換される。
【数11】

【0070】
画質評価指数GI,CII,TI,GMIも、一般に1次色のインク量Ij(j=1〜4)の関数としてそれぞれ表現できる。
【数12】


【数13】


【数14】


【数15】

【0071】
なお、(13)式の非色恒常性指数CIIillの下付文字「ill」は、光源の種類を表している。上述した(10)式では、光源の種類として、標準の光Aと標準の光F12とを用いている。なお、非色恒常性指数CIIの計算方法の例は後述するが、非色恒常性指数CIIとしては一種類または複数種類の任意の標準光源に関するものを利用することが可能である。
【0072】
粒状性指数GIは、各種の粒状性予測モデルを用いて算出可能であり、例えば以下の(16)式で算出することができる。
【数16】


ここで、aLは明度補正係数、WS(u)はカラーパッチの印刷に利用されるハーフトーンデータが示す画像のウイナースペクトラム、VTF(u)は視覚の空間周波数特性、uは空間周波数である。ハーフトーンデータは、カラーパッチのインク量Ijからハーフトーン処理(プリンター20が実行するハーフトーン処理と同一のものとする)によって決定される。前記(16)式は一次元で表現しているが、空間周波数の関数として二次元画像の空間周波数を算出することは容易である。粒状性指数GIの計算方法としては、例えば、本出願人により開示された特開2006−103640号公報に記載された方法を利用することができる。特開2006−103640号公報の方法では、印刷媒体にテストインク量Ijのインクを付着させて形成したカラーパッチを測定することにより得られた粒状性指数GIに基づいて学習したニューラルネットワークによって任意のインク量Ijで印刷した場合の粒状性指数GIを予測する。本実施例では、ニューラルネットワークが基本メディアに形成したカラーパッチの測定結果に基づいて学習されている。実体的には、画質評価指数コンバーター136がニューラルネットワークに任意のインク量Ijを入力することにより、該インク量Ijのインクを基本メディアに付着させた場合の粒状性指数GIを算出する。
【0073】
非色恒常性指数CIIは、例えば以下の(17)式で与えられる。
【数17】


ここで、ΔL*は2つの異なる観察条件下(異なる光源下)におけるカラーパッチの明度差、ΔC*abは彩度差、ΔH*abは色相差を示す。非色恒常性指数CIIの計算時には、2つの異なる観察条件下でのL***値は、色順応変換(CAT)を用いて標準観察条件(例えば標準の光D65の観察下)に変換される。なお、観察条件下でのL***値は、上述したフォワードモデルコンバーター300によって算出される。フォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)は基本メディアについて準備されたものであるため、非色恒常性指数CIIによれば各インク量Ijのインクを基本メディアに付着させた場合の非色恒常性を評価することができる。CIIについては、Billmeyer and Saltzman's Principles of Color Technology, 3rd edition, John Wiley & Sons, Inc, 2000, p.129, pp. 213-215を参照。
【0074】
ガマット評価指数GMIは、フォワードモデルコンバーター300によって得られる色彩値L***と目標色彩値LGM*GM*GM*との色差ΔE(CIE 1976)で与えられる。目標色彩値LGM*GM*GM*は、L***色空間の最外縁の色彩値とされる。ガマット評価指数GMIはすべての格子点について考慮されるのではなく、ガマットの頂点や稜線や外面上の格子点についてのみ考慮すればよい。また、各格子点に応じて目標色彩値LGM*GM*GM*は異なる。例えば、フォワードモデルコンバーター300によって得られる色彩値L***と色相角が同じで、かつ、より高彩度(L***色空間の最外縁)の色彩値を目標色彩値LGM*GM*GM*とすれば高彩度側にガマットが広いか否かを評価することができる。なお、グレー軸格子点に対応する格子点についての目標色彩値LGM*GM*GM*を、グレーターゲットの色彩値とすることによっても、該格子点をグレーターゲットに拘束することもできる。
【0075】
ヤコビ行列Jの複数の成分(「要素」とも呼ぶ)のうち、例えばL*値に関する成分は、(18)式で与えられる。
【数18】


ここで、fL*FMは、フォワードモデルによるインク量IからL*値への変換関数、Irはインク量Iの現在値(平滑化および最適化処理前のインク量)、hjはj番目のインク量Ijの微小変動量である。L*値について(17)式を例示したが、a**値についても同様である。L***値は、上述したフォワードモデルコンバーター300((11)式)によって算出されるため、L***値は各インク量Ijのインクを基本メディアに付着させた場合の色彩値を意味する。ヤコビ行列Jの最下行を除く他の成分も同様の形式で表される。前記(14)、(18)式に準じて、ヤコビ行列Jの最下行の要素を算出すると、ヤコビ行列Jの最下行の要素はすべて1となる。あるインクのインク量Ijが微小変動量hjだけ変動した場合の合計インク量TIの変動量もhjとなるからである。
【0076】
最適化の目的関数Eは、例えば以下の(19)式で与えられる。
【数19】


ここで、右辺の各項の最初に記載されているw L*,w a*等は、各項の重みである。各項の重みw L*,w a*…は、ステップS02において、ユーザーから指定され、設定テーブルSTBに格納された重みw L*,w a*…が使用される。特に、ユーザーがポインターの位置を初期位置から移動させなかった場合には、デフォルト重みw L*,w a*…が使用される。従って、目的関数Eによって重要視される項目がメディアおよびユーザーの設定に依存することとなる。
【0077】
(19)式の右辺第1項wL*(ΔL*−ΔL*t2は、色彩値L*の変動量ΔL*,ΔL*tに関する2乗誤差である。これらの変動量変動量ΔL*,ΔL*tは、次の式で与えられる。
【数20】


【数21】

【0078】
前記(20)式の右辺における偏微分値はヤコビ行列((10)式)で与えられる値であり、Ijは最適化処理の結果として得られるインク量であり、Ijrは現在のインク量である。第1の変動量ΔL*は、最適化処理によるインク量の変動量ΔIjを、ヤコビ行列の成分である偏微分値で線形変換した量である。一方、第2の変動量ΔL*tは、ステップT120の平滑化処理で得られたターゲット値L*tと、現在インク量Irで与えられる色彩値L*(Ir)との差分である。なお、第2の変動量ΔL*t は、平滑化処理の前後におけるL*値の差分と考えることが可能である。
【0079】
前記(19)式の右辺の第2項以降の各項も、前記(20)式および(21)式と同様の式で与えられる。すなわち、目的関数Eは、最適化処理によるインク量の変動量ΔIjをヤコビ行列の成分で線形変換して得られる第1の変動量ΔL*,Δa*,Δb*,ΔGI…と、パラメーターL*,a*,b*,GI…に関する平滑化処理の前後における第2の変動量ΔL*t,Δa*t,Δb*t,ΔGIt…と、の2乗誤差の和として与えられている。
【0080】
ところで、第1の変動量ΔL*,Δa*,Δb*,ΔGI…は、行列を用いて以下の(22)式および(23)式の形式に書き表すことが可能である。
【数22】


【数23】

【0081】
前記(19)式は、行列を用いて(24)式のように表記できる。
【数24】

【0082】
ここで、Tは行列の転置を表している。行列WMはそれぞれ対角要素に重みを配置した対角行列((25)式参照)であり、行列ΔMは各パラメーターに関する目標変動量ベクトル((26)式参照)である。
【数25】


【数26】

【0083】
(26)式の右辺は、各パラメーターL*,a*,b*,CII…(「要素」とも呼ぶ)に関するターゲット値と、現在のインク量Irで与えられる各パラメーター値との差分である。各パラメーターのターゲット値のうち、色彩値L*t,a*t,b*tは平滑化処理(ステップT120)で決定される。画質評価指数のターゲット値と現在の画質評価指数から求められる目標変動量ΔGIt,ΔCIIt,ΔTIt,ΔGMItについては、いくつかの決定方法がある。第1の方法は、目標変動量ΔGIt,ΔCIIt,ΔTIt,ΔGMItとして所定の定数(例えばΔGIt=−2,ΔCIIt=−1,ΔTIt=−1,ΔGMIt=−1)を使用する方法である。なお、定数としてマイナスの値を使用する理由は、これらの画質評価指数は、より小さいほど高画質であることを示す指数だからである。また、粒状性指数GIのターゲット値GItは、ゼロとすることも好ましい。第2の方法は、ターゲット値GIt,CIIt,TIt,ΔGMItを色彩値のターゲット値L*t,a*t,b*tの関数として定義しておく方法である。以上のように、各パラメーターのターゲット値は最適化処理前に決められているので、目標変動量ベクトルΔMの各成分はすべて定数である。
【0084】
前記(24)式の右辺の各項のうち、第3項(IrTT+ΔMT)WM(JIr+ΔM)、は、最適化処理の結果として得られるインク量Iを含まないので定数である。一般に、最適化のための目的関数Eにおいて定数項は不要である。そこで、前記(24)式から定数項を削除して全体に1/2を乗じると、次の(27)式が得られる。
【0085】
【数27】

【0086】
ここで、以下の(28)式および(29)式のように行列Aおよびベクトルgを定義すると、前記(27)式は(30)式のように書き表せる。
【数28】


【数29】


【数30】

【0087】
(30)式で与えられる目的関数Eは、最適化で得られるインク量ベクトルIに関する2次形式であることが理解できる。図18(C)に示した(EQ1)式と(EQ2)式は、(19)式と(30)式とそれぞれ同じものである。
【0088】
本実施例の最適化処理では、(30)式のような2次形式の目的関数Eを用いるので、最適化手法として2次計画法を使用することが可能である。ここで、「2次計画法」とは、逐次2次計画法を含まない狭義の2次計画法を意味している。2次形式の目的関数を用いた2次計画法を利用すれば、準ニュートン法や逐次2次計画法などの他の非線形計画法を利用する場合に比べて、処理を大幅に高速化することが可能である。
【0089】
ところで、本実施例における最適化処理によるインク量の探索は、以下の条件の下で実行される。
(最適化条件)目的関数Eを最小とする。
(制約条件)デューティー制限値を守る。
【0090】
基本メディアの場合、デューティー制限値として、ステップS04において設定テーブルSTBに登録したデューティー制限値DIjがそのまま使用される。なお、画質評価指数コンバーター136とフォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)は、デューティー制限値DIjを満足するインク量Ijについて色彩値や画質評価指数GI等を予測することができる。
【0091】
デューティー制限値に関する制約条件は、次の(31)式で表すことができる。
【数31】


ここで、ベクトルbは、デューティー制限値の対象となるインク種類を識別するための係数であり、要素に0か1を持つベクトルである。例えば、1種類のインクに関するデューティー制限値の場合には、ベクトルbの1個の要素のみが1となる。一方、全インクの合計インク量に関するデューティー制限値の場合には、ベクトルbのすべての要素が1となる。(31)式の右辺のDIは、個々のデューティー制限値DIjを要素とするベクトルである。(31)式の右辺、左辺とも、j=1〜8であるとする。すなわち、デューティー制限値に関する制約条件を課す際には、2次色の合計インク量I5〜I7と全部の合計インク量I8も考慮する。
【0092】
各インク量Ij(j=1〜8)には、負でないという制約も存在する。この非負制限は、以下の(32)式で表せる。
【数32】

【0093】
前記(31)式と(32)式とを合体すると、デューティー制限値は、次の(33)式で与えられる。
【数33】

【0094】
この(33)式で表される制約は、線形不等号制約である。一般に、2次計画法は線形制約の下で実行することが可能である。すなわち、本実施例における最適化処理では、(33)式の制約の下で、前記(30)式で与えられる2次形式の目的関数Eを用いた2次計画法を実行することによって、最適なインク量を探索する。この結果、この線形制約を厳密に満足しつつ、インク量探索を高速に実行することが可能である。
【0095】
図19は、最適化処理(図16のステップT130)の詳細手順を示すフローチャートである。ステップT132では、まず、前記(26)式で与えられる目標変動量ΔMを求める。この目標変動量ΔMは、前述したように、ステップT120(平滑化処理)で得られたターゲット値L*t,a*t,b*tと現在インク量Ir等に基づいて決定される。
【0096】
ステップT134では、前記(10)式で与えられるヤコビ行列Jを算出する。なお、ヤコビ行列Jの各成分は、前記(18)式で例示されるように、インク量の現在値Ir(平滑化および最適化前の値)に関して算出される値である。
【0097】
ステップT136では、ヤコビ行列Jによる線形変換の結果ΔL*,Δa*,Δb*,ΔGI…と、目標変動量ΔM(ΔL*t,Δa*t,Δb*t,ΔGIt…)との差が最小になるように、インク量Ijの最適化を実行する(ターゲット値LABt近傍のL*,a*,b*を再現し且つデューティー制限値を守る複数のインク量セット(一つのインク量セットはI1,I2,I3,I4で構成される。)の中で目的関数Eを最小にするインク量セットを決定する)。この最適化は、前記(30)式で与えられる2次形式の目的関数Eを用いた2次計画法を実行することによって実現される。上述したようにステップS04において設定テーブルSTBに格納したデューティー制限値DIjによる制約の下でインク量Ijが最適化されるため、メディアに応じて異なる最適化の結果が得られることとなる。特にガマットの大きさは、デューティー制限値DIjに大きく依存し、各メディア間で異なったものとなる。むろん、画質評価指数コンバーター136とフォワードモデルコンバーター300による色彩値や画質評価指数GI等の予測結果も各メディアに応じて異なるため、異なるインク量Ijの最適化の結果となる。
【0098】
なお、図16のフローチャートにおいて既に説明したように、ステップT130の最適化処理の後、収束が不十分と判断される場合(ステップT150において“No”)には、平滑化処理(ステップT120)および最適化処理(ステップT130)が再度実行される。この際、平滑化および最適化処理の初期値としては、その前の平滑化および最適化処理で得られた値が利用される。なお、このような繰り返し処理は必須ではなく、少なくとも1回の平滑化および最適化処理を行えばよい。
【0099】
3.プリンター調整:
次に、ステップS05(図2)の詳細について説明する。
図20は、ステップS05の詳細をフローチャートにより示している。ステップS50では、プリンター調整モジュール500は、プリンター調整用のテストパターンを指定メディアに印刷させる。具体的には、プリンター調整モジュール500がプリンター調整用のテストパターンを印刷させるための画像データを生成し、該画像データをプリンター20のハーフトーン部FW4に出力する。該画像データは、各画素がインク量を有する画像データである。
【0100】
図21は、プリンター調整用のテストパターンの一種として印刷される、プリンター20における紙送り量の設定の良否を判定するためのテストパターンを例示している。このテストパターンでは、指定メディアMaに紙送り補正量δを異ならせた複数(9個)のパッチPaがプリンター20の紙送り方向に沿って印刷されている。各パッチPaは、例えば、Kインクによる所定濃度(インク量)のグレーパッチであり、一つのパッチPaを構成する上半分と下半分(ここでは、紙送り方向下流側をパッチPaの“上側”とし、紙送り方向上流側をパッチPaの“下側”とする。)の領域は異なるパスによって印刷されている。当該上半分の領域を印刷したときのパスと下半分の領域を印刷するときのパスとの合間における紙送り量が、補正量δによって補正されている。すなわち、各パッチPaの上半分と下半分との相対位置は補正量δに応じて異なっている。この結果、各パッチPaには、プリンター20固有の紙送り誤差と補正値δとの関係に応じて、主走査方向に略平行な黒スジ(色の濃いスジ)や白スジ(色の薄いスジ)が現れる。このようなスジ状の色むらは、バンディングとも呼ぶ。各パッチPaの横に印刷されているパッチ番号1〜9は、補正値δにあらかじめ関連付けられている。ただし図21の補正値δは便宜上示しているだけであり、実際には印刷されない。補正量δの単位は、例えば[パルス]であり、これは紙送りローラーに設けられたロータリーエンコーダーからのパルスに対応している。補正量δは、紙送り機構57への指令値となり、紙送り機構57では、補正量δに基づいて紙送りモーターによる紙送りローラーの回転量を制御する。
【0101】
図21のテストパターンにおいては、中央のパッチPa(番号=5)の補正量δを「現在の補正量δの設定値」としている。プリンター20においては、その機体毎に固有の紙送り誤差が存在する。そのため、プリンター20には、固有の紙送り誤差を打ち消して理想的な紙送りが実現されるように、補正量δが製品出荷時からROM51に設定されており、紙送り量の補正に採用されている。したがって、「現在の補正量δの設定値」とは、製品出荷後初めて補正量δを調整する場合には製品出荷時のデフォルト値であり、デフォルト値が製品出荷後に変更になっている場合は、最新の補正量δの設定値が該当する。そのため、図21に例示するように、中央のパッチPaにバンディングが発生していなければ、「現在の補正量δの設定値」を変更する必要がない。一方、中央のパッチPaにバンディングが発生していれば、最もバンディングが見られない他の番号のパッチPaが対応している補正量δを、新たに採用すれば良い。
【0102】
ステップS52では、プリンター調整モジュール500は、表示装置および入力装置を介して、ステップS50で印刷させたテストパターンに基づく入力を受け付け、プリンター20の印刷環境の設定の良否を判定する。ステップS50で図21のようなテストパターンを印刷している場合には、ユーザーからのパッチPaの番号の入力を受け付ける。この場合、番号=5が入力されれば、「現在の補正量δの設定値」は良好(Yes)と判定できる。一方、番号=1〜4,6〜9のいずれかが入力されれば、「現在の補正量δの設定値」は良好ではない(No)と判定し、ステップS54へ進む。ステップS54では、プリンター調整モジュール500は、ステップS52における入力に基づいて、印刷環境の設定を変更した上で、ステップS50に戻る。つまり、図21のようなテストパターンを印刷し、パッチPaの番号=1〜4,6〜9のいずれかが入力された場合には、プリンター20に指令を出し、ROM51における「現在の補正量δの設定値」を、当該入力された番号に対応する補正値δに書き換えさせる。これにより、ステップS52で“Yes”と判定できた時点で、指定メディアに印刷したときにバンディングが発生しないようにプリンター20における紙送り量を調整できたことになる。なお紙送り量の調整については、特開2011−5875も適宜参照のこと。
【0103】
当該調整工程(図20)によって設定調整の対象となるプリンター20における印刷環境の項目は、紙送り量に限られない。プリンター調整モジュール500は、例えば、プリンター20が指定メディアに印刷を行う際のプラテンギャップPGの設定を調整するとしてもよい。プラテンギャップPGは、印刷ヘッド59のインク吐出面とプラテン62との距離(図7参照)である。プリンター20は、プラテン62の高さ位置(印刷ヘッド59からの距離)を所定の動力機構により変更することができる。プラテンギャップPGの違いは印刷ヘッド59から吐出されたインク滴がメディアに着弾するまでの距離に影響を与える。かかる距離が異なると、メディアに着弾したインク滴の広がり等が異なってくるため、色むら等の無い理想的な印刷結果を得るにはプラテンギャップPGも調整する必要がある。
【0104】
そこで、プリンター調整モジュール500は、プリンター20に、プラテンギャップPGの設定を異ならせた各状態(現在ROM51に設定されているプラテン62の高さ位置の設定値を含む、プラテン62についての複数の高さ位置)でパッチ(テストパターン)を指定メディアに印刷させる(ステップS50)。そして、このようなプラテンギャップPGの設定がそれぞれ異なる複数のパッチの中から、最も印刷結果が良好な(むら等が無い)パッチの指定(たとえば、パッチの番号による指定)をユーザーから受け付け、当該受け付けた指定に基づいて現在のプラテンギャップPGの設定が良好か否か判定し(ステップS52)、良好でない場合(ステップS52において“No”、すなわち現在のプラテンギャップPGの設定とは異なる設定で印刷されたパッチが指定された場合)は、ステップS52における指定に基づいて、プリンター20にプラテンギャップPGの設定を変更させ(ステップS54)、ステップS50に戻る。これにより、ステップS52で“Yes”と判定できた時点で、指定メディアに印刷したときにプラテンギャップPGが適切でないことに起因する色むら等の画質劣化が発生しないようにプリンター20におけるプラテンギャップPGを設定できたことになる。
【0105】
さらに当該調整工程(図20)では、紙送り量やプラテンギャップPGの設定の他にも、印刷画像の乾燥に関連する各種設定を調整することができる。乾燥に関する各種設定とは、例えば、上述した乾燥機65による温風の温度(ヒーターの温度)設定や、乾燥機65による温風の風力設定や、さらには、印刷ヘッド59の主走査時の移動速度の設定などがある。これらの設定の違いは、印刷結果における、インクのにじみやかすれの発生有無に影響を与える。プリンター調整モジュール500は、プリンター20に、上記乾燥に関する各種設定を異ならせた各状態(現在ROM51に登録されている上記乾燥に関する設定を含む、上記乾燥に関する複数の設定)でパッチ(テストパターン)を指定メディアに印刷させる(ステップS50)。そして、このような上記乾燥に関する設定がそれぞれ異なる複数のパッチの中から、最も印刷結果が良好な(インクのにじみやかすれが無い)パッチの指定(たとえば、パッチの番号による指定)をユーザーから受け付け、当該受け付けた指定に基づいて現在の上記乾燥に関する設定が良好か否か判定し(ステップS52)、良好でない場合(ステップS52において“No”、すなわち現在の上記乾燥に関する設定とは異なる設定で印刷されたパッチが指定された場合)は、ステップS52における指定に基づいて、プリンター20に上記乾燥に関する設定を変更させ(ステップS54)、ステップS50に戻る。これにより、ステップS52で“Yes”と判定できた時点で、指定メディアに印刷したときに上記乾燥に関する各種設定が適切でないことに起因するにじみやかすれ等の画質劣化が発生しないようにプリンター20における上記乾燥に関する各種設定ができたことになる。
【0106】
プリンター調整モジュール500は、他にも、プラテン62におけるメディアに対する吸引力の設定や、搬送ローラーによってメディアにかかるテンションの設定等、プリンター20における印刷結果に影響を与え得る各種設定項目について、それらの良否を確認するためのテストパターンを指定メディアに印刷させ(ステップS50)、印刷結果に基づくユーザーによる指定を受け付け、受け付けた指定に応じて、それら各項目の現在の設定が良好であるか判定し(ステップS52)、良好でないならプリンター20に上記指定に応じた適切な設定に変更させる(ステップS54)ことが可能である。
このように当該調整工程(図20)において、上述したような印刷環境の複数の項目について設定調整を実行する場合には、プリンター調整モジュール500は、一つの項目についてステップS50〜を実行してステップS52において“Yes”の判定をしたら、次の項目についてステップS50〜を実行して・・・ということを繰り返し、最終的にすべての項目についてステップS52において“Yes”の判定をした場合に、当該調整工程(図20)を終えるとしてもよい。
【0107】
なお上記説明では、ステップS52における判定は、ユーザーによるテストパターンの目視に基づく入力指示に従うとしたが、当該判定を自動化してもよい。つまり、コンピューター10(プリンター調整モジュール500)は、ステップS50でプリンター20に印刷させたテストパターンに対する測色機による測色結果を入力し、当該入力した測色結果を解析することにより所定の基準に基づいて画質が最も良好なパッチを選択し、選択したパッチがいずれのパッチであるかに応じてステップS52の分岐を行うとしてもよい。なお、ステップS50でプリンター20に印刷させるテストチャート(パッチ)は、全て第一テストパターンに該当する。
【0108】
4.転用メディアのベースLUT生成:
図2のステップS05の後のステップS06(指定メディア=転用メディアである場合のステップS06)においては、上述したようにまず図9の処理が実行され、その後、図10の処理が実行される。図9では、ステップS61において、ベースLUT生成モジュール100は、被転用メディアを決定する。被転用メディアとは、指定された転用メディアの系統と同じ系統の基本メディアである。指定された転用メディアの系統が未分類であった場合には、基本メディアのうち各インクの発色特性が標準的なものを被転用メディアとする。被転用メディアを特定する情報は、設定テーブルSTBに登録される。ステップS62においては、ベースLUT生成モジュール100が、メディアテーブルMTBに記憶された被転用メディアの発色特性データとデューティー制限値DIj(以下、基準デューティー制限値DSIjと表記する。)とを取得する。
【0109】
ステップS63においては、ベースLUT生成モジュール100が指定メディア(転用メディア)のデューティー制限値および発色特性を評価するための用のカラーパッチを指定メディアに印刷させる。具体的には、ベースLUT生成モジュール100がカラーパッチを印刷させるためのパッチ画像データを生成し、該パッチ画像データをプリンター20のハーフトーン部FW4に出力する。パッチ画像データは、例えば、各画素がインク量Ij(j=1〜4)を有する画像データであり、各インクの1次色(C,M,Y,K)、2次色(R,G,B)、全インクを混色した色、それぞれのインク量Ij(j=1〜8)のグラデーションに基づくカラーパッチを印刷させるものである。例えば、2次色と全インクのグラデーションにおける個々のインク量Ij(j=1〜4)は、均等とする。各カラーパッチには、該カラーパッチの印刷につき使用されたインク量Ij(j=1〜8)を表す文字が付記されることとする。ステップS64においては、印刷された各カラーパッチを測色機に測色させ、その測色値(CIE−L***表色系)を取得する。ステップS65においては、ベースLUT生成モジュール100は、指定メディア(転用メディア)の発色特性等を指定するためのメディア特性指定UI画像を表示装置に表示させる。
【0110】
図22は、メディア特性指定UI画像を示す図である。同図において、各グラデーションのカラーパッチ(C,M,Y,Kのみ)を測色して得られた測色値がグラフによって示されている。有彩色を示すカラーパッチ(C,M,Y)についてのグラフでは縦軸が彩度C*を表している。無彩色を示すカラーパッチ(K)についてのグラフでは縦軸が明度L*を表している。横軸は、インク量Ij(j=1〜8)を表している。各グラフでは、各カラーパッチの測色値に基づく彩度C*と明度L*とがプロット(白丸)されている。これにより、転用メディアにおけるインク量Ij(j=1〜8)に応じた発色特性がグラフに表されたこととなる。また、各グラフにおいては、メディアテーブルMTBから取得した被転用メディアについての発色特性も対比可能にプロット(黒丸)されている。被転用メディア(基本メディア)についても、同様のカラーパッチを印刷・測色されており、その測色結果が予め発色特性データとしてメディアテーブルMTBに格納されている。
【0111】
また、メディア特性指定UI画像において、各インクの1次色(C,M,Y,K)と2次色(R,G,B)と全インクのカラーパッチをユーザーが観察した結果、にじみが生じ始めたカラーパッチに付記されたインク量Ij(j=1〜8)をそれぞれデューティー制限値DIjとして入力するためのテキストボックスが設けられている。メディア特性指定UI画像には、デューティー制限値を確定するためのボタンが表示されており、該ボタンがクリックされたことを受けベースLUT生成モジュール100は入力されたデューティー制限値DIjを取得し、該デューティー制限値DIjを設定テーブルSTBに登録する(ステップS66)。ただし、コンピューター10では、ユーザーの観察によらず、にじみ等により測色値が不安定となり始めたインク量Ij(j=1〜8)をベースLUT生成モジュール100が判定し、当該判定したインク量をデューティー制限値DIjとしてもよい。以上により、デューティー制限値DIjが未知の指定メディア(転用メディア)についてもデューティー制限値DIjが設定できたこととなる。
【0112】
上記ステップS63でプリンター20に印刷させるカラーパッチからなるテストパターンは、第三テストパターンに該当する。すなわち本実施例では、ステップS05(図2)において紙送り量等を始めとしたプリンター20における印刷環境が最適な設定に調整された上で、次のステップS06で第三テストパターンがプリンター20により印刷される。そのため、第三テストパターンは、インクのむらや、にじみや、かすれ等の不具合を発生することなく印刷され、結果、当該第三テストパターンに基づいてプリンター20により指定メディアに印刷を行う際の発色特性やデューティー制限値が正確に得られる。また上記では、指定メディアにおけるインク量に応じた発色特性とデューティー制限値とを取得するために印刷する第三テストパターンを共通化しているが、かかる発色特性とデューティー制限値とをそれぞれ取得するために別の第三テストパターンをプリンター20に印刷させるとしてもよい。
【0113】
指定メディア(転用メディア)デューティー制限値DIjが設定できると、ベースLUT生成モジュール100は、下記の(34)式によって、被転用メディアについての各基準デューティー制限値DSIjと、指定メディア(転用メディア)についての各デューティー制限値DIjとに基づいて正規化比RWを算出する(ステップS67)。
【数34】


(34)式が示すように、正規化比RWは、各基準デューティー制限値DSIjを各デューティー制限値DIjによって除算した制限値比のうち最も値の小さい成分とされる。正規化比RWが算出できると、ベースLUT生成モジュール100は、指定メディア(転用メディア)に印刷した各カラーパッチの測色値のプロット(白丸)の横軸方向の位置を示すインク量Ij(j=1〜4)に正規化比RWを乗算することにより、インク量Ij(j=1〜4)を第1仮インク量IPPj(j=1〜4)へと変換する(ステップS68)。すなわち、第1仮インク量IPPjとインク量Ijとの関係は(35)式で表される。
【数35】


第1仮インク量IPPj(j=1〜4)の取り得る範囲は0〜DPIjとなる。つまりDPIj=RW・DIjである。なお、2次色以上のインク量Ij(j=5〜8)は、インク量Ij(j=1〜4)の変換に追従して変換されるため、変換の対象としていない。
【0114】
このように、指定メディア(転用メディア)に各カラーパッチを印刷することで得られた発色特性のインク量Ij(j=1〜4)に正規化比RWを乗算することにより、指定メディア(転用メディア)の発色特性が被転用メディアの発色特性に対して正規化されたことになる。本明細書において発色特性とは、インク量Iのインクを付着させたときに各メディア上において再現される色のL*,C*値の推移を意味する。次に、ベースLUT生成モジュール100は、指定メディア(転用メディア)の発色特性を、さらに被転用メディアの発色特性に近似させるよう、第1仮インク量IPPj(j=1〜4)を第2仮インク量ISPj(j=1〜4)へと変換する非線形変換関数を設定する(ステップS69)。
【0115】
図23(A)〜23(C)は、変換関数を設定する様子を示すグラフである。同図においては、指定メディア(転用メディア)におけるKインクの発色特性を実線(および白丸)で例示し、被転用メディアにおけるKインクの発色特性を鎖線(および黒丸)で例示している。図23(A)は、いずれの変換も行っていない状態の発色特性を示している。図23(B)は、図23(A)から指定メディア(転用メディア)のインク量を正規化比RW(Kインクの制限値比が最小であるとする)に基づいて第1仮インク量IPPj(j=1〜4)へ変換した状態を示している。図23(C)は、図23(B)の指定メディア(転用メディア)のインク量を非線形変換により第2仮インク量ISPj(j=1〜4)へ変換した状態を示している。本実施例では、L*=50の発色に注目し、指定メディア(転用メディア)においてL*=50を再現する第1仮インク量I PP4が、被転用メディア(破線)においてL*=50を再現するインク量I4と等しい値(第2仮インク量I SP4)に変換されるようなガンマ関数(γj値)を算出する。第2仮インク量ISPjは、以下の(36)式によって与えられる。
【数36】

【0116】
γj値は、各インク(j=1〜4)毎に異なる値が求められる。本実施例では、L*=50の発色に注目したが、最小二乗法等によって全体的に発色特性を近似させるようなγj値を算出してもよい。また、グラフに示した発色特性にユーザーがドラッグ&ドロップ可能な単一または複数の制御点を設け、該ドラッグ&ドロップされた制御点を通過するようなγj値を算出するようにしてもよい。むろん、ガンマ関数以外の非線形関数(スプライン曲線,ベジエ曲線,指数関数等)によって近似してもよい。
【0117】
図23(A)〜23(C)では、Kインクについて例示したが、他の有彩色インクについても、転用メディアにおいて所定のC値を再現する第1仮インク量IPPjが、被転用メディアにおいて該C値を再現するインク量Ijと等しい値(第2仮インク量ISPj)に変換されるようなガンマ関数を算出する。なお、前記(35)式により、IPPj=RW・Ij,DPIj=RW・DIjであるため、前記の(36)式は、下記の(37)式に書き換えることができる。
【数37】


以上により、指定メディア(転用メディア)に各インクを付着させた場合の発色特性が、被転用メディアに各インクを付着させた場合の発色特性に近似するようにインク量Ijを変換する変換式(変換関係)が得られたこととなる。fCVjは、インク量Ij(j=1〜4)を第2仮インク量ISPjに変換する変換関数を意味する。ここで、前記の(37)式を満足すれば、第2仮インク量ISPjのインクを被転用メディアに付着した場合の発色(L*,C*値)は、インク量Ijのインクを指定メディア(転用メディア)に付着した場合の発色(L*,C*値)とほぼ等しくなるということが言える。
【0118】
ベースLUT生成モジュール100は、(37)式の変換関数fCVjを設定テーブルSTBに登録する。これにより、ベースLUT生成モジュール100は、インク量Ij(j=1〜4)を第2仮インク量ISPj(j=1〜4)に変換することが可能となる。また、ベースLUT生成モジュール100は、変換関数fCVjの逆変換関数fCVj-1を使用して第2仮インク量ISPjをインク量Ij(j=1〜4)に逆変換することも可能となる。前記の(37)式のインク量Ijに指定メディア(転用メディア)のデューティー制限値DIjを代入すると、第2仮インク量ISPj=RW・DIjとなる。これを前記の(35)式と比較すると、デューティー制限値DIjについては、IPPj=ISPj=RW・DIjとなり、第1仮インク量IPPjと第2仮インク量ISPjとが等しくなる。なお、ベースLUT生成モジュール100は、複数のインク量Ijと第2仮インク量ISPjとの対応関係を記述したLUTを参照して、fCVj,fCVj-1に相当する変換・逆変換を行うようにしてもよい。
【0119】
ステップS70においては、指定メディア(転用メディア)に対してCMYインクをそれぞれ単独でデューティー制限値DIj(j=1〜3)まで付着させたときのa*,b*値(以下、転用メディア色味(aCj*,bCj*)(j=1〜3)と表記する。)、および、被転用メディアに対してCMYインクをそれぞれ単独で基準デューティー制限値DSIj(j=1〜3)まで付着させたときのa*,b*値(以下、被転用メディア色味(aSj*,bSj*)(j=1〜3)と表記する。)を取得し、これらを解析する。これらの色彩値は、ステップS62,S66において、デューティー制限値DIj(j=1〜3)と基準デューティー制限値DSIj(j=1〜3)に対応するカラーパッチから得られた測色値として取得されている。なお、転用メディア色味(aCj*,bCj*)と、被転用メディア色味(aSj*,bSj*)は、所定の明度L*や彩度C*が再現されるカラーパッチから取得してもよいし、デューティー制限値D Ij,SIj以外の所定のインク量Ij(例えば、デューティー制限値D Ij,SIjに対して15%等。)によるカラーパッチから取得してもよい。さらに、インク量Ij(j=1〜3)を等量ずつ各メディアに付着させて形成したコンポジットグレーのカラーパッチから、転用メディア色味(aCj*,bCj*)と、被転用メディア色味(aSj*,bSj*)とを取得してもよい。いずれの場合も、各メディアそのものの色彩値を取得するよちも、ある程度インクが付着した状態の各メディアの色彩値が取得されるため、中明度領域の色味を評価することができる。
【0120】
図24は、転用メディア色味(aCj*,bCj*)(j=1〜3)(白丸)と、被転用メディア色味(aSj*,bSj*)(j=1〜3)(黒丸)をa**平面にプロットしたグラフである。転用メディアと被転用メディアは、互いに異なる色味を有しているため、転用メディア色味(aCj*,bCj*)と、被転用メディア色味(aSj*,bSj*)は完全には一致しない。ステップS70では、(38)式のように、転用メディア色味(aCj*,bCj*)(j=1〜3)を、原点a*,b*=0からの位置ベクトルとして、互いに足し合わせることにより転用メディア色味(aC*,bC*)(白三角)を算出する。同様に、被転用メディア色味(aSj*,bSj*)を互いに足し合わせることにより、被転用メディア色味(aS*,bS*)(黒三角)を算出する。
【数38】


さらに、(39)式のように、転用メディア色味(aC*,bC*)(白三角)から被転用メディア色味(aS*,bS*)(黒三角)を差し引くことにより、差分色味(aD*,bD*)を算出する。
【数39】


以上のようにして、差分色味aD*,bD*を算出できると、差分色味(aD*,bD*)の符号を逆にしたベクトル(−aD*,−bD*)が示す色相方向を、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)の色相方向として設定する(ステップS71)。すなわち、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)は、ベクトル(−aD*,−bD*)に正の係数kを乗算したベクトルとなる。係数kの大きさは、例えばユーザーによって設定される。ステップS72では、ベースLUT生成モジュール100は、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)を設定テーブルSTBに登録する。
【0121】
以上の処理により、図5に示す転用メディア用の設定テーブルSTBには、必要な設定情報が記憶されたこととなる。以降、設定テーブルSTBを参照しながら、転用メディアのためのベースLUTを作成する処理(指定メディアが転用メディアである場合の、図10の処理)に移行する。ここでは、上述した基本メディアのためのベースLUTを作成する処理と異なる部分について順に説明していく。
【0122】
まず、図10のステップS100において、設定テーブルSTBに記憶された情報に基づいて、各コンバーター等300,310,410,136を準備(起動)することとなるが、転用メディアの場合には設定テーブルSTBに記憶された被転用メディアについての各コンバーター等300,310,410,136が準備(起動)されることとなる。すなわち、転用メディアについては各コンバーター等300,310,410,136が存在していないため、基本メディアである被転用メディアについての各コンバーター等300,310,410,136を転用する。また、設定テーブルSTBに登録された上述した変換関数fCVjと逆関数fCVj-1を使用したインク量Ijと第2仮インク量ISPjとの相互変換が有効となる。
【0123】
図16のステップT100における初期点設定処理では、図9のステップS72にて設定テーブルSTBに登録されたグレーターゲットの色味(agt*,bgt*)=k×(−aD*,−bD*)が設定される。すなわち、基本メディアのベースLUTを作成する場合は常にL*軸上にグレーターゲットが設定されていたのに対して、転用メディアのLUTを作成する場合は、グレーターゲットが転用メディアの相対的な色味の逆色相方向に遷移する。
【0124】
図25は、転用メディアのLUTを作成する場合のグレーターゲットを示す図である。同図に示すように、グレー軸格子点に対応する格子点(白丸)が、L***色空間のL*軸上の紙黒点と紙白点とを結び、かつ、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)の色相方向に湾曲した線分を16等分する位置を示すように拘束されている。これにより、スムージング処理後のグレー軸格子点に対応する格子点の位置は、L*軸からずれた位置となる。湾曲する量は中明度領域において最大となり、本実施例ではL*=50における最大値がグレーターゲットの色味(agt*,bgt*)となる。また、グレーターゲットにユーザーがドラッグ&ドロップ可能な単一または複数の制御点を設け、該ドラッグ&ドロップされた制御点を通過するような湾曲する量を規定する係数kを決定するようにしてもよい。
【0125】
さらに、図16のステップT130における最適化処理では、設定テーブルSTBに記憶された指定メディア(転用メディア)についての各インクのデューティー制限値DIj(j=1〜8)が上記設定された変換関数fCVjによって第2仮インク量ISPj(=仮デューティー制限値DPIj)へと変換される。すなわち、設定テーブルSTBに記憶された転用メディアの各インクのデューティー制限値DIj(j=1〜8)をそのまま使用するのではなく、仮デューティー制限値DPIjに変換した上で使用する。従って、仮デューティー制限値DPIjの制約条件の下でインク量Ijの最適化が実行されることとなる。
【0126】
前記(35),(37)式に示すように、仮デューティー制限値DPIjは、真のデューティー制限値DIj(j=1〜8)に対して正規化比RWを一律に乗算したものであり、各インク間の真のデューティー制限値DIjの大きさの相対比は、仮デューティー制限値DPIjにおいても維持されることとなる。従って、転用メディアにおける各インクの真のデューティー制限値DIj(j=1〜8)に応じたインク量Ijの最適化を実現することができ、転用メディアにおける各インクのデューティー制限値DIjの相対比に応じたガマットを形成することができる。
【0127】
(34)式が示すように、正規化比RWは、被転用メディアの基準デューティー制限値DSIj(j=1〜8)を、転用メディアのデューティー制限値DIj(j=1〜8)で除した制限値比DSIj/DIjの最も小さいインク成分である。ここで、制限値比DSIj/DIjが最も小さいインク成分j=zとし、それ以外のインク成分j=qとすると、下記の(40)式が成り立つ。
【数40】


前記の(40)式の両辺に、転用メディアに対するインク成分j=zについてのデューティー制限値DIzと、転用メディアに対するインク成分j=qについてのデューティー制限値DIqとを乗算すると、それぞれ下記の(41)(42)式が成り立つ。
【数41】


【数42】


上記の(41)(42)式の左辺のRW・DIz,RW・DIqは、インク成分j=z,qについての仮デューティー制限値DPiz,DPIqを意味する。インク成分j=zについては、仮デューティー制限値DPizが被転用メディアについての基準デューティー制限値DSIzと等しくなる。従って、インク成分j=zについては、被転用メディアの各コンバーター等300,310,410,136が色彩値等を予測可能なインク量Ijの範囲の全体にわたってインク量Ijの最適化を行うことができる。
【0128】
一方、インク成分j=qについては、仮デューティー制限値DPiqが被転用メディアについての基準デューティー制限値DSIjよりも小さくなる。従って、被転用メディアの各コンバーター等300,310,410,136が色彩値等を予測可能なインク量Ij(j=1〜8)の範囲内においてインク量Ijの最適化を行うことができる。いずれの場合も、被転用メディアの各コンバーター等300,310,410,136が色彩値等を予測可能なインク量Ijの範囲でインク量Ijの最適化が行われるため、これらによる予測が破綻を来すことが防止できる。反対に、指定メディア(転用メディア)のデューティー制限値DIjが、被転用メディアの基準デューティー制限値DIjを下回る場合にも、被転用メディアの基準デューティー制限値DIjによって制限されたインク量Ijが取り得る範囲を最大限に利用してインク量Ij(j=1〜4)を最適化することができる。
【0129】
さらに、図10のステップS400におけるベースLUT510,520の作成においては、平滑化および最適化処理によって最終的に得られた各格子点に対応するインク量Ij(j=1〜4)をベースLUT510,520の出力値としてそのまま登録するのではなく、該インク量Ij(j=1〜4)を上記設定された逆変換関数fCVj-1によって逆変換した上で、ベースLUT510,520の出力値として登録する。上述したように、平滑化および最適化処理によって最終的に得られた各格子点に対応するインク量Ij(j=1〜4)は、指定メディア(転用メディア)に付着させる真のインク量Ij(j=1〜4)の取り得る範囲ではなく、被転用メディアについての各コンバーター等300,310,410,136が色彩値等を予測可能なインク量Ijの範囲で最適化されている。この範囲のインク量Ijを逆変換関数fCVj-1によって逆変換することにより、指定メディア(転用メディア)においてインク量Ij(j=1〜4)が真に取り得る範囲のインク量Ij(j=1〜4)へと復元することができる。(37)式に示す変換関数fCVjの逆変換関数fCVj-1は、インク量Ij(j=1〜4)が取り得る範囲を復元する線形変換(1/RW)を含む。
【0130】
また、逆変換関数fCVj-1によって逆変換することにより、指定メディア(転用メディア)における各インクの発色特性と、被転用メディアにおける各インクの発色特性との差分が補償できる。被転用メディアについての各コンバーター等300,310,410,136は、被転用メディアにおける各インクの発色特性に対応した予測結果を出力するものである。例えば、ある格子点について、図23(A)に発色特性を図示したKインクのインク量I4=Im(黒三角)が最適なインク量I4であるとして最適化されたとする。このとき、該格子点については、インク量Imが最適であると同時に、インク量Imによる発色、すなわちインク量ImのKインクによって再現される明度Lm*が最適であると捉えることができる。
【0131】
被転用メディアにおいて最適な明度Lm*が再現できるKインクのインク量はImであるが、指定メディア(転用メディア)において最適な明度Lm*が再現できるKインクのインク量はImではない。すなわち、被転用メディアにおいて最適な明度Lm*が再現できるKインクのインク量Imではなく、指定メディア(転用メディア)において最適な明度Lm*が再現できるKインクのインク量I4が指定メディア(転用メディア)に関して真に最適なインク量であると考えることができる。指定メディア(転用メディア)において最適な明度Lm*が再現できるKインクのインク量I4は、被転用メディアにおいて最適な明度Lm*が再現できるKインクのインク量Im(第2仮インク量ISPj)を逆変換関数fCVj-1によって逆変換することにより得ることができる。従って、平滑化および最適化処理によって最終的に得られた各格子点のインク量Ijを第2仮インク量ISPjであると捉え、逆変換関数fCVj-1によって逆変換することにより、指定メディア(転用メディア)について最適なインク量Ijを得ることができる。このようにして得られた最適なインク量IjをベースLUT510,520の出力値として登録することにより、指定メディア(転用メディア)について最適なインク量Ijが規定されたベースLUT510,520を得ることができる。(37)式に示す変換関数fCVjの逆変換関数fCVj-1は、インクの発色特性に基づく非線形変換を含む。
【0132】
図3に示す重み指定用UI画像を表示させることにより、インク量Ijを最適化する際の目的関数Eにおける重みw L*,w a*…は、特にユーザーが設定を変更しない限り、指定メディアの系統に適したデフォルト重みw L*,w a*…が設定されることとなる。従って、指定メディアが転用メディアであってもメディアの系統に適した画質項目を重視するベースLUT510,520を作成することができる。メディアの指定に引き続いて重み指定用UI画像を表示することにより、メディアの性質や使用目的に応じた重みw L*,w a*…を設定することができる。
【0133】
ところで、転用メディアと被転用メディアは、それら自身が有する色味が異なるため、フォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)による色彩値の予測結果にずれが生じることとなる。むろん、L*軸まわりについても転用メディアと被転用メディア自身の色味に応じて、色彩値の予測結果にずれが生じる。これに対して、本実施例では、グレーターゲットの色味(agt*,bgt*)を意図的に転用メディアと被転用メディアとの差分色味(aD*,bD*)の逆色相方向にずらしているため、グレーターゲットに拘束したグレー軸格子点に対応する格子点の真の色彩値(フォワードモデルコンバーター300による予測の色彩値ではなく、該格子点に対応するインク量Ijのインクを転用メディアに付着させた場合に再現される色彩値)をL*軸上に位置させることができる。このようなベースLUT510,520によれば、真に無彩色(グレー)が再現できるインク量Ijを使用した補間演算を行うこと可能となる。従って、ベースLUT510,520に基づいて作成されるデバイスプロファイルや色補正LUTによれば、特に無彩色(グレー)の色再現性や階調性に優れた印刷結果を得ることができる。
【0134】
5.デバイスプロファイル生成:
次に、ステップS07(図2)の詳細について説明する。
図26は、ステップS07におけるデバイスプロファイル生成処理をフローチャートにより示している。ステップS80では、デバイスプロファイル生成モジュール200は、所定のプロファイル生成用テストパターンを表す画像データを、上記ステップS06により指定メディアに対応して生成されたベースLUTで色変換し、色変換によって生成された画像データ(各画素がCMYKのインク量Ijを有する画像データ)をプリンター20のハーフトーン部FW4に出力することにより、プロファイル生成用テストパターンを指定メディアに印刷させる。プロファイル生成用テストパターンは、第二テストパターンに該当する。ステップS06によりベース3D−LUT510が生成された場合には、ステップS80では、例えば、ベース3D−LUT510の各入力格子点のRGBの階調値で表された複数のパッチを表現したプロファイル生成用テストパターンを、ベース3D−LUT510により色変換する。一方、ステップS06によりベース4D−LUT520が生成された場合には、ステップS80では、例えば、ベースLUT4D−520の各入力格子点のCMYKの階調値で表された複数のパッチを表現したプロファイル生成用テストパターンを、ベースLUT520により色変換する。
【0135】
ステップS82では、デバイスプロファイル生成モジュール200は、ステップS80で指定メディアに印刷されたテストパターンにおける各パッチを測色機に測色させ、その測色値(L***値)を取得する。ステップS84では、デバイスプロファイル生成モジュール200は、ステップS82で取得したパッチ毎のL***値に基づいて、デバイスプロファイル(プリンタープロファイル)を生成する。つまり、ステップS06によりベースLUT3D−510が生成された場合には、各入力格子点のRGBと、これら各入力格子点のRGBに一対一で対応する各パッチのL***値とを対応付けることにより、RGBをL***値に変換する第一プロファイルを生成する。また、第一プロファイルとは逆の変換関係(L***値→RGBの変換)を規定した第二プロファイルも生成する。このように生成した第一プロファイルおよび第二プロファイルが、デバイス3D−プロファイル610に該当する。
【0136】
一方、ステップS06によりベースLUT4D−520が生成された場合には、各入力格子点のCMYKと、これら各入力格子点のCYMKに一対一で対応する各パッチのL***値とを対応付けることにより、CMYKをL***値に変換する第一プロファイルを生成する。また、第一プロファイルとは逆の変換関係(L***値→CMYKの変換)を規定した第二プロファイルも生成する。このように生成した第一プロファイルおよび第二プロファイルが、デバイス4D−プロファイル620に該当する。ステップS84で生成されたデバイスプロファイルは、指定メディアの種類に対応付けられた上で、一時的に保存される。なお、ステップS84においてデバイスプロファイルを生成する場合は、デバイスプロファイル生成モジュール200は、プロファイルを生成する上で設定され得る各種パラメーターに基づいてデバイスプロファイルを生成する。ここで言う各種パラメーターとは、例えば、ガマットマッピングの手法や、色分解の手法や、観察光源の種類や、明るさ補正の補正度合い、といったプロファイルを生成する上で参照すべき各種項目を規定するパラメーターである。
【0137】
ガマットマッピングの手法とは、上述した第二プロファイルに対して第二プロファイルが規定する色域外の入力値(L***値)が入力された場合の当該入力値についてのマッピング(第二プロファイルが規定する色域へのマッピング)手法であり、例えば、彩度を犠牲にして色相と明るさを維持するようにマッピングする手法や、色相を犠牲にして彩度保持を重視したマッピング手法などをパラメーターの設定により選択可能である。また、CMYKを規定するプロファイル生成の場合には、パラメーターの設定により、色分解の手法としてGCRやUCRを選択でき、さらにはKインクの発生開始点なども選択することができる。その他、観察光源や明るさ補正の度合いなど、デバイスプロファイルを生成する上で設定可能な各種項目をパラメーターにより設定することができる。このようなパラメーターの設定は基本的にはユーザーによりなされるものであるが、ステップS82の後の最初のステップS84においては、このようなパラメーターについて予め設定されているデフォルト値を採用してプロファイル生成を行なう。
【0138】
ステップS86では、デバイスプロファイル生成モジュール200は、ステップS84で生成されたデバイスプロファイルを用いた確認用の印刷(指定メディアへの印刷)をプリンター20に実行させる。
図27(A)は、デバイス3D−プロファイル610を生成したときに行う確認用の印刷に関わる処理を説明する図である。デバイスプロファイル生成モジュール200は、当該確認用の印刷のために用意されたsRGB表色系で各画素が表された画像データを、sRGB値とL***値との変換関係を規定した既知のソースプロファイルSP1により変換する。次に、ソースプロファイルSP1からの出力値(L***値)を、指定メディアに対応するデバイス3D−プロファイル610としての上記第二プロファイル(第二プロファイル610b)に(必要に応じてガマットマッピングをして)入力し、第二プロファイル610bにより変換する。次に、第二プロファイル610bからの出力値(RGB)を、指定メディアに対応するベース3D−LUT510に入力し、ベース3D−LUT510により変換する。このようにベース3D−LUT510で変換されて出力されたインク量Ijによる印刷をプリンター20に実行させることで、指定メディアへの確認用の印刷が完了する。
【0139】
図27(B)は、デバイス4D−プロファイル620を生成したときに行う確認用の印刷に関わる処理を説明する図である。デバイスプロファイル生成モジュール200は、当該確認用の印刷のために用意されたJAPAN COLOR表色系で各画素が表された画像データを、JAPAN COLOR表色系のCMYK値(jCMYK)値とL***値との変換関係を規定した既知のソースプロファイルSP2により変換する。次に、ソースプロファイルSP2からの出力値(L***値)を、指定メディアに対応するデバイス4D−プロファイル620としての上記第二プロファイル(第二プロファイル620b)に(必要に応じてガマットマッピングをして)入力し、第二プロファイル620bにより変換する。次に、第二プロファイル620bからの出力値(CMYK)を、指定メディアに対応するベース4D−LUT520に入力し、ベース4D−LUT520により変換する。このようにベース4D−LUT520で変換されて出力されたインク量Ijによる印刷をプリンター20に実行させることで、指定メディアへの確認用の印刷が完了する。
【0140】
ステップS88では、デバイスプロファイル生成モジュール200は、ステップS86における印刷結果に対する評価を行なう。この場合、ユーザーはステップS86によりプリンター20によって指定メディアに印刷された結果を目視で確認し、画質に問題が無ければ、入力装置および表示装置を介してコンピューター10に対して確認印刷が合格である旨を通知する。一方、ユーザーは、ステップ86による印刷結果に問題がある場合には、確認印刷が不合格である旨をコンピューター10に通知する。ステップS88では、この合格の通知を受けた場合には肯定的な評価であると判定し、ステップS92に進み、ステップS84で生成して一時保存したデバイスプロファイルを、指定メディアに対応するデバイスプロファイル610,620として本登録する。これにより、図2の処理が終了する。
【0141】
一方、ステップS88で不合格の通知を受けた場合には、否定的な評価であると判定し、ステップS90に進む。ステップS90では、デバイスプロファイル生成モジュール200は、表示装置に対して所定のパラメーター設定用UI画面を表示させ、当該パラメーター設定用UI画面を介してユーザーからのパラメーター調整(既設定のパラメーターの変更)を入力装置および表示装置を介して受け付ける。ここでいうパラメーターとは、上述したような、デバイスプロファイルを生成する上で参照すべき各種項目を規定するパラメーターである。ステップS90でパラメーターの調整を受け付けた後は、デバイスプロファイル生成モジュール200はステップS84に戻り、調整後のパラメーターの設定に基づいて、再びデバイスプロファイルの生成を行う。なお、ステップS88では、デバイスプロファイル生成モジュール200は、ユーザーの目視による合格・不合格の入力指示に基づいて判定を行ったが、ステップS86における印刷結果の測色値を解析することにより当該印刷結果が良好か否かの判定を所定の基準の下で行うことで、当該ステップS88における分岐を自動で行なうとしてもよい。また、ステップS90におけるパラメーターの調整も、上記測色値の解析結果に応じて自動で行なうとしてもよい。
【0142】
なお、図27(A)において鎖線で示すように、コンピューター10は、ソースプロファイルSP1に入力されるsRGB値と、ベースLUT510から最終的に出力されるインク量とを対応付けたLUTを生成することで、sRGB値をインク量に変換する色補正LUT700a(色補正LUT700の一種)を生成することができる。また、図27(B)において鎖線で示すように、コンピューター10は、ソースプロファイルSP2に入力されるjCMYK値と、ベースLUT610から最終的に出力されるインク量とを対応付けたLUTを生成することで、JAPAN COLOR表色系のCMYK値をインク量に変換する色補正LUT700b(色補正LUT700の一種)を生成することができる。色補正LUT700は、指定メディアと対応付けてHDD400やプリンター20内の記憶領域に保存することが可能である。
【0143】
6.低評価を受けての再処理:
これまでは図2のフローチャートに基づいて、メディアの指定から、当該メディアに対応したデバイスプロファイル610,620の生成までを説明した。ユーザーは、上記のようにデバイスプロファイル610,620を生成、登録した後は、これらプロファイル610,620を用いた色変換を伴う印刷処理(プリンター20による指定メディアへの印刷)をコンピューター10やプリンター20に任意に実行させることができる。しかしながら、日常の印刷処理を繰り返していく中で、ユーザーは印刷結果における画質に対して徐々に不満を感じるようなこともあり得る。そこで本実施例では、図2の処理を終えた後、ユーザーが印刷結果に不満(画質に対する低評価)を抱くようになった場合に、当該低評価を受け付け、受け付けた低評価に応じた解決処理を自動で行なうようにした。
【0144】
図28は、再処理制御モジュール600(図1)が実行する処理をフローチャートにより示している。ステップS800では、再処理制御モジュール600は、所定の評価受付用UI画面を介して、ユーザーからの評価を受け付ける。具体的には、再処理制御モジュール600は、ユーザーによる入力操作に応じて評価受付用UI画面を表示装置に表示させ、表示された評価受付用UIおよび入力装置を介してユーザーからの評価を受け付ける。
【0145】
図29は、評価受付用UI画面の一例を示している。当該UI画面は、印刷結果においてどのような問題が発生しているのかを、具体例を挙げながらユーザーに問いかける構成となっており、ユーザーは、該当する問題点を、入力装置を操作して選択することができる。なお、ステップS800では、再処理制御モジュール600は、問題点(低評価)の受け付けとともに、印刷結果に問題が生じたメディアの種類もユーザーから受け付ける。図28のフローチャートに基づく以下の説明においては、ステップS800でユーザーから受け付けたメディアの種類を、指定メディアとして扱う。
【0146】
ステップS810では、再処理制御モジュール600は、ステップS800で受け付けた低評価に基づいて、以降の処理を分岐する。一例として、印刷結果の色味、粒状性、階調性のいずれかについての低評価(色味が悪い、粒状感が目立つ、階調性が低い、といった否定的な評価)を受けた場合には、ステップS820に進む。また、印刷結果にバンディングが発生しているとの低評価を受けた場合には、ステップS830に進み、印刷結果に、にじみ又はかすれが発生しているとの低評価を受けた場合には、ステップS840に進む。
【0147】
ステップS820では、再処理制御モジュール600は、デバイスプロファイルの生成を実行すべきと判断し、デバイスプロファイル生成モジュール200に対して、指定メディアについてのデバイスプロファイルの生成を指示する。当該指示に応じて、デバイスプロファイル生成モジュール200は、上述したようなプロファイル生成処理(図2のステップS07)を再び行なう。この場合、デバイスプロファイル生成モジュール200は、指定メディアに対応して登録済みのベースLUT510,520を用いて、デバイスプロファイル610,620を生成しなおす。これにより、プリンター20により指定メディアに対して印刷を実行した場合に発生していた画質劣化(色味、粒状性、階調性などの問題)を抑制するようなデバイスプロファイルが新たに生成される。なお、このようにデバイスプロファイルの生成処理が再び行なわれる際には、プロファイル生成のための上記各パラメーターが調整されることにより(図26のステップS90)、それまでのデバイスプロファイルから特性が変化したデバイスプロファイルが生成される。
【0148】
なお、上記のように再びデバイスプロファイル生成を実行させる場合には、再処理制御モジュール600は、その前にベースLUTのキャリブレーションを行なった上で実行させるとしてもよい。ベースLUTのキャリブレーションとは、所定のテストパターン(第四テストパターン)を表した画像データを現在登録のベースLUTでインク量に変換し、この色変換で得られたインク量により第四テストパターンをプリンター20で指定メディアに印刷させ、この印刷結果の測色値と、所定の基準値(キャリブレーション基準値)とを比較し、当該比較結果(今回の測色値と基準値との色差)に基づいて現在登録のベースLUTの出力値(インク量)を補正する(色差が抑制されるようにインク量をγカーブなどで補正する)処理である。ここでいう第四テストパターンは、例えば、上記ステップS80(図26)で印刷するプロファイル生成用テストパターンと同じであってもよい。コンピューター10は、図2の処理を上述したように一通り実行する際に、併せてキャリブレーション基準値を取得してHDD400などに保存しておく。上記ステップS80(図26)で印刷したプロファイル生成用テストパターンを、第四テストパターンとしても扱う場合には、指定メディアに対応するデバイスプロファイルを初めて生成するときに印刷したプロファイル生成用テストパターンを構成する各パッチの測色値が、後のキャリブレーションのための基準値となる。このように、ステップS820では先ずベースLUTをキャリブレーションする構成とすれば、ベースLUTの出力を、プリンター20の経時変化によるインク吐出特性のずれを打ち消すように補正することができる。そのため、キャリブレーション後のベースLUTに基づいてデバイスプロファイルの生成を行うことにより、現在のプリンター20の状態に合った最適なデバイスプロファイルを生成することができる。
【0149】
ステップS830では、再処理制御モジュール600は、プリンター20における印刷環境の設定、その中でも特に、紙送り量および又はプラテンギャップPGの設定について調整すべきと判断し、プリンター調整モジュール500に対して、指定メディアを用いた印刷環境の設定調整を指示する。当該指示に応じて、プリンター調整モジュール500は、上述したような印刷環境の設定調整(図2のステップS05)を再び行なう。ここでは、少なくとも、上述したような紙送り量の設定に対する調整とプラテンギャップPGの設定に対する調整とのうち一方は必ず実行する。これにより、プリンター20における紙送り量の設定(補正値δ)やプラテンギャップPGの設定が変更され、以後、プリンター20で指定メディアに印刷する場合のバンディング発生が抑制される。
【0150】
ステップS850では、再処理制御モジュール600は、ステップS830で実行した設定調整による変更度合い(調整量)が所定以上大きいか否か判定し、大きいと判定した場合には、さらにステップS870に進む。例えば、ステップS830で紙送り量の設定を調整した場合には、調整(変更)前後における補正量δの差が所定値以上である場合に調整量が大きいと判定する。また、プラテンギャップPGの設定を調整した場合には、調整前後におけるプラテン62の高さ位置の差が所定距離以上である場合に調整量が大きいと判定する。ステップS870では、再処理制御モジュール600は、ステップS820と同様に、デバイスプロファイル生成モジュール200に指定メディアについてのデバイスプロファイルの生成を指示する。すなわち、プリンター20における印刷環境がある程度大きく変更された場合には、かかる変更の影響がプリンター20によって印刷される色味等にも生じると考えられる。そのため、上記調整量がある程度大きい場合にはデバイスプロファイルを生成し直すことで、現在のプリンター20の状態に合った最適なデバイスプロファイルを登録できるようにしている。
【0151】
ステップS840では、再処理制御モジュール600は、プリンター20における印刷環境の設定、その中でも特に、上述したような印刷画像の乾燥に関連する設定について調整すべきと判断し、プリンター調整モジュール500に対して、指定メディアを用いた印刷環境の設定調整を指示する。当該指示に応じて、プリンター調整モジュール500は、上述したような印刷環境の設定調整(図2のステップS05)を再び行なう。ここでは、少なくとも、上述したような乾燥に関する設定(乾燥機65による温風の温度設定、乾燥機65による温風の風力設定、印刷ヘッド59の移動速度の設定など)を対象とした調整を実行する。これにより、プリンター20における乾燥に関する設定が変更となり、以後、プリンター20で指定メディアに印刷する場合のインクのにじみやかすれ等が抑制される。
【0152】
ステップS860では、再処理制御モジュール600は、ステップS840で実行した設定調整による変更度合い(例えば、上記温風の温度設定の変更度合い、上記温風の風力設定の変更度合い、印刷ヘッド59の移動速度の設定の変更度合い、のいずれか一つ以上)が所定以上大きいか否か判定し、大きいと判定した場合には、さらにステップS880に進む。ステップS880では、再処理制御モジュール600は、ベースLUT生成モジュール100およびデバイスプロファイル生成モジュール200を起動させ、指定メディアについてのベースLUT生成(図2のステップS06)と、その後のデバイスプロファイル生成(図2のステップS07)を実行させる。すなわち、プリンター20における乾燥に関する設定がある程度大きく変更された場合には、指定メディアに付着可能なインク量も変化するため、指定メディアについてのデューティー制限値も改めて取得しなおす必要がある。そこで、指定メディアのデューティー値取得の工程(図9のステップS63〜S66)を含むベースLUT生成処理からもう一度やり直すことで、再度のステップS07の処理までが終わったときに、現在のプリンター20の状態に合った最適なベースLUTおよびデバイスプロファイルが登録される。
【0153】
なお図28に示す処理は、再処理制御モジュール600がユーザーから印刷結果に対する低評価(否定的な評価)を受けたときに実行する処理の一例であり、どのような問題を指摘されたときにどの様な処理を行なうかは種々のバリエーションが考えられる。例えば、調整量が所定の基準よりも小さい場合であっても(ステップS850,S860でNo)、ユーザーが調整後の設定による印刷結果を再度確認し、再び低評価を入力した場合には、デバイスプロファイル生成処理や、ベースLUT生成からの処理を実行するようにしてもよい。
【0154】
このように本実施例によれば、ユーザーが任意にメディアを指定した場合に、指定メディアに関してのフォワードモデルコンバーター300等が存在していない状況においても、限られたメディア(被転用メディア)に対して用意されているフォワードモデルコンバーター300を用いた色予測結果などを用いて目的関数Eによるインク量の最適化を行い、最適化により決定されたインク量を、指定メディアと被転用メディアとの発色特性に基づく変換関係で変換することにより、指定メディアにとって最適なインク量を規定したベースLUTを生成することができる。また、ベースLUTに基づいて、プリンター20による指定メディアに対する記録特性を規定したデバイスプロファイルを生成することができる。すなわち、ユーザー自身が、自宅や職場において、任意に選択したメディアについてのベースLUTやデバイスプロファイルを容易に生成できるようになった。
【0155】
さらに本実施例によれば、ユーザーが上記のように生成したデバイスプロファイル等を用いてプリンター20に実行させた印刷結果に問題が生じたとき、かかる問題の存在をUI画面上で受け付け(図29)、受け付けた問題に応じた最適な解決方法を自動的に実行する(図28)。そのため、ユーザーは、任意に選択した指定メディアについてのベースLUTやデバイスプロファイルであって、自己が所有するプリンター20の状態に対応した最適なベースLUTやデバイスプロファイルを常に得ることができる。
【0156】
7:変形例:
本発明は前記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。上記実施例や各変形例は、適宜組み合わせることができる。
【0157】
変形例1:
上記実施例では、基本メディアについてベースLUTを生成する場合には、予めメディアテーブルMTBに記録されたデューティー制限値DIjを用いるとした。しかし、ユーザーが基本メディアを指定メディアとした場合であっても、プリンター20の印刷環境の設定を調整する処理(図2のステップS05)を実行し、基本メディアについても改めてデューティー制限値DIjを取得する目的で図9のステップS63〜S66の処理を実行してもよい。そして、このようにプリンター20で基本メディアに対して実際に印刷したテストパターンに基づいて取得したデューティー制限値DIjの制約の下で、基本メディアについてのベースLUT生成を行うようにしてもよい。
【0158】
変形例2:
上記実施例においては、発色特性も考慮して(37)式に示す変換関数fCVj(fCVj-1)によってベースLUT510,520の出力値として登録するインク量Ijを変換したが、メディア間のデューティー制限値の差異のみを考慮した(35)式によってインク量Ijを変換するようにしてもよい。この場合、発色特性の差異に起因する誤差が生じることとなるが、転用メディアにおける各インクのデューティー制限値を反映させたベースLUT510,520を作成することができる。
【0159】
変形例3:
図30は、メディア特性指定UI画像を示す図である。同図においては、被転用メディアと転用メディアの発色特性(彩度C*値)が示されている。一般的に、各メディアにデューティー制限値DIj程度のインクを付着させると、それ以上インクを付着させても発色が変動しなくなる。そのため、C*値の傾きの絶対値(|δC*/δIj|)が所定の基準値(≒0)と等しくなるインク量Ijをデューティー制限値DIjとしてもよい。図30の例では、発色特性のグラフにおいて傾きの絶対値(|δC*/δIj|)が基準値と等しくなるインク量Ijにマーカー(白三角)を表示させるようにしている。これにより、ユーザーが、どのインク量Ijにデューティー制限値DIjが設定されるかを認識することができる。図30の例では、ユーザーによるラジオボタンの選択により、デューティー制限値DIjを直接指定することも可能としている。これにより、マーカーの位置が、ユーザーがにじみを感じたカラーパッチのインク量Ijと明らかに異なる場合等にも対応することができる。
【0160】
変形例4:
上記実施例では、転用メディアのデューティ制限値DIjと被転用メディアの基準デューティ制限値DSIjとの比である正規化比RWを使用して、転用メディアのデューティ制限値DIjを仮デューティ制限値DPIjに変換することとしたが、正規化比RWは他の指標によって定められてもよい。例えば、被転用メディアと転用メディアの発色特性の傾きの絶対値が一定の基準値(≠0)になったときのインク量Ijの比を正規化比RWとしてもよい。
【0161】
変形例5:
前記実施例では、機器独立表色系としてCIE−Lab表色系を利用していたが、CIE−XYZ表色系やCIE−L***表色系などの他の任意の機器独立表色系を利用することが可能である。ただし、滑らかな色再現を実現するという意味からは、CIE−Lab表色系やCIE−L***表色系などの均等色空間である機器独立表色系を用いることが好ましい。
【0162】
変形例6:
前記実施例では、平滑化処理として力学モデルを利用した処理を採用していたが、他の種類の平滑化処理を採用してもよい。例えば、隣接する色彩値同士の間隔を測定し、その平均値になるべく近づくように個々の間隔を調整する平滑化処理を採用することも可能である。
【0163】
変形例7:
本明細書において「インク」とは、インクジェットプリンタやオフセット印刷等に用いられる液体状インクに限らず、レーザプリンタに用いられるトナーも含む広い意味で使用されている。このような「インク」の広い意味を有する他の用語としては、「色材」や「着色材」、「着色剤」を用いることも可能である。
【0164】
変形例8:
前記実施例では、ルックアップテーブルのような色変換プロファイルを作成する方法および装置に関して説明したが、本発明は、こうして得られた色変換プロファイルを印刷装置に組み込む組み込み部を備える印刷装置製造システムにも適用可能である。色変換プロファイルを作成する色変換プロファイル作成装置は、この印刷装置製造システムに含まれるものとしてもよく、他のシステムや装置に含まれるものとしてもよい。なお、この製造システムの組み込み部は、例えば、プリンタドライバのインストーラ(インストールプログラム)として実現することができる。
【符号の説明】
【0165】
10…コンピューター、12…CPU、13…RAM、20…プリンター、50…CPU、51…ROM、52…RAM、100…ベースLUT生成モジュール、136…画質評価指数コンバーター、200…デバイスプロファイル生成モジュール、300…フォワードモデルコンバーター、310…分光プリンティングモデルコンバーター、320…色算出部、400…HDD、410…インバースモデル初期LUT、500…プリンター調整モジュール、600…再処理制御モジュール、510…ベース3D−LUT、520…ベース4D−LUT、610…デバイス3D−プロファイル、620…デバイス4D−プロファイル、700…色補正LUT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷制御装置であって、
印刷媒体の指定を受け付ける受付工程と、
少なくとも印刷装置に当該印刷装置における印刷環境の設定の良否を判定するための第一テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第一テストパターンの印刷結果に応じた上記設定の調整を実行する調整工程と、
上記調整工程後において、上記指定された印刷媒体とは異なる基本印刷媒体にインクを付着させたときの画質を評価する目的関数を用いたインク量の最適化によって、機器非依存表色系の格子点が示す色彩値を再現するインク量を決定し、当該決定したインク量を基本印刷媒体におけるインクの発色特性と上記指定された印刷媒体におけるインクの発色特性とに基づく変換関係によって変換したインク量と、所定の入力表色系の格子点との対応関係を規定することにより、上記指定された印刷媒体のための色変換テーブルを生成する色変換テーブル生成工程と、
第二テストパターンを表したデータを上記生成された色変換テーブルにより色変換し、当該色変換後のデータに基づいて、上記印刷装置に第二テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第二テストパターンの測色値に基づいて上記印刷装置の特性を規定したデバイスプロファイルを生成するプロファイル生成工程と、を実行可能であり、
上記生成されたデバイスプロファイルによる色変換を含む印刷制御処理によって上記印刷装置に実行させた上記指定された印刷媒体への印刷に対する所定の低評価を受け付けた場合には、当該評価の内容に応じて上記調整工程と色変換テーブル生成工程とプロファイル生成工程とのうちいずれか一以上の工程を実行することを特徴とする印刷制御装置。
【請求項2】
上記色変換テーブル生成工程では、上記印刷装置に第三テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第三テストパターンの印刷結果に基づいて、上記指定された印刷媒体に付着可能なインク量の制限値および上記指定された印刷媒体における上記発色特性を取得し、上記最適化によってインク量を決定する際のインク量の範囲を当該制限値に基づいて制限することを特徴とする請求項1に記載の印刷制御装置。
【請求項3】
印刷結果における色味、粒状性および階調性のいずれかに対する低評価を受け付けた場合には、上記プロファイル生成工程を実行し、当該プロファイル生成工程ではデバイスプロファイルの変換特性に影響を与える所定のパラメーターの調整を実行することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷制御装置。
【請求項4】
上記低評価を受け付けた場合に、第四テストパターンを表したデータを上記色変換テーブルにより色変換し、当該色変換後のデータに基づいて、上記印刷装置に第四テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第四テストパターンの測色値と所定の基準値とを比較し、当該比較結果に基づいて上記色変換テーブルが規定するインク量を補正するキャリブレーションを実行した上でプロファイル生成工程を実行することを特徴とする請求項3に記載の印刷制御装置。
【請求項5】
印刷結果に色むらが存在する旨の低評価を受け付けた場合には、上記調整工程を実行し、当該調整工程では、印刷装置が印刷媒体を搬送する際の送り量の設定の良否を判定するための第一テストパターンを印刷させ第一テストパターンの印刷結果に応じて当該送り量を調整する処理、及び又は、印刷装置が備える印刷ヘッドと上記搬送される印刷媒体が載るプラテンとのギャップの設定の良否を判定するための第一テストパターンを印刷させ第一テストパターンの印刷結果に応じて当該ギャップを調整する処理を実行することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の印刷制御装置。
【請求項6】
印刷結果に、にじみ及びかすれ、のいずれかが存在する旨の低評価を受け付けた場合には、上記調整工程を実行し、当該調整工程では、印刷画像の乾燥に関する設定の良否を判定するための第一テストパターンを印刷させ第一テストパターンの印刷結果に応じて当該乾燥に関する設定を調整することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の印刷制御装置。
【請求項7】
上記調整工程における調整量が所定以上大きい場合には、更に上記プロファイル生成工程を実行するか、或いは上記色変換テーブル生成工程およびプロファイル生成工程を実行することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の印刷制御装置。
【請求項8】
コンピューターに印刷装置に対する制御を実行させる印刷制御プログラムであって、
当該コンピューターに、
印刷媒体の指定を受け付ける受付工程と、
少なくとも印刷装置に当該印刷装置における印刷環境の設定の良否を判定するための第一テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第一テストパターンの印刷結果に応じた上記設定の調整を実行する調整工程と、
上記調整工程後において、上記指定された印刷媒体とは異なる基本印刷媒体にインクを付着させたときの画質を評価する目的関数を用いたインク量の最適化によって、機器非依存表色系の格子点が示す色彩値を再現するインク量を決定し、当該決定したインク量を基本印刷媒体におけるインクの発色特性と上記指定された印刷媒体におけるインクの発色特性とに基づく変換関係によって変換したインク量と、所定の入力表色系の格子点との対応関係を規定することにより、上記指定された印刷媒体のための色変換テーブルを生成する色変換テーブル生成工程と、
第二テストパターンを表したデータを上記生成された色変換テーブルにより色変換し、当該色変換後のデータに基づいて、上記印刷装置に第二テストパターンを上記指定された印刷媒体に印刷させ、第二テストパターンの測色値に基づいて上記印刷装置の特性を規定したデバイスプロファイルを生成するプロファイル生成工程と、を実行させ、
かつ上記コンピューターが、上記生成されたデバイスプロファイルによる色変換を含む印刷制御処理によって上記印刷装置に実行させた上記指定された印刷媒体への印刷に対する所定の低評価を受け付けた場合には、当該評価の内容に応じて上記調整工程と色変換テーブル生成工程とプロファイル生成工程とのうちいずれか一以上の工程を実行させることを特徴とする印刷制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−178800(P2012−178800A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41887(P2011−41887)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】