説明

印刷機用軸受

【課題】予圧の設定値を最適化することにより、軸受寿命を極端に低下させることなく、軸受剛性を向上させる印刷機用軸受を提供する。
【解決手段】印刷機用軸受10は、内周面に複列の外輪軌道12a,12aを有する外輪素子12,12と、外周面に複列の内輪軌道15a,15aを有する内輪素子15,15と、両外輪軌道12a,12aと両内輪軌道15a,15aとの間に転動自在に設けられる複数の円錐ころ17,17と、を備える。複数の円錐ころ17,17には、円錐ころ17,17と外輪軌道12a,12a及び内輪軌道15a,15aとの各接触部における外部荷重による弾性変形量を考慮して、予圧が付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機用軸受に関し、特に、印刷機の回転部材をフレーム等の固定部分に回転自在に支持する回転支持部に適用され、軸受剛性、回転精度、振動・音響を向上させるために予圧で使用される印刷機用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷機では、枚葉機の場合、版胴、ゴム胴、圧胴が並設されており、印刷時には、ゴム胴は版胴と圧胴の外周面と接触し、版胴から転写された印刷イメージを、圧胴との間を通過する印刷用紙に転写して印刷している。また、印刷トラブル等により紙が詰まった場合には、これら3つの胴を各々離間して配置しなければならず、ゴム胴の軸心を版胴と圧胴の各軸心から離して、ゴム胴のインクが印刷用紙に転写されないようにし、詰まった紙の排出が行なわれる。
【0003】
このような版胴、ゴム胴、圧胴等においては、印刷時のインクのズレやムラを極力少なくするために、胴の高剛性化が求められる。この為、これらの胴を回転自在に支持する印刷機胴サポート用軸受にも高い剛性が要求され、一般に、複列円錐ころ軸受や複列円筒ころ軸受等が予圧を付与した状態で使用されている。特許文献1では、軸受取付け時における予圧付与方法やその構造を開示する複列円錐ころ軸受ユニットについて記載されており、また、特許文献2では、円錐ころ軸受の予圧の設定方法について記載されている。
【特許文献1】特開2006−258115号公報
【特許文献2】特開2002−54630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軸受が外部荷重(特にラジアル荷重)を負荷すると、外部荷重を負荷する側(負荷圏側)では、転動体と外内輪とが接触して弾性変形が生じる。一方、非負荷圏では負荷圏側での弾性変形による内外輪の接近により、転動体と外内輪との間にすきまが生じる。このようなすきまが発生すると、軸受剛性が低下し、且つ転動体の挙動が不安定となるため、回転精度、振動・音響の悪化などが問題となり、また、シリンダの変位を抑えられず、印刷の品質が悪化する印刷障害が発生する。
【0005】
一方、予圧を極端に大きく設定した場合には、円周上全ての転動体と外内輪の接触状態を保持することが可能ではあるが、この場合には予圧が必要以上に過大となるために軸受寿命が著しく低下するという問題がある。
従って、予圧は軸受の寿命・剛性に大きな影響を及ぼし、予圧の適切な設定が重要となるが、上述した特許文献1及び2には、具体的な予圧の設定値については記載されていない。
【0006】
本発明は、上述の様な事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、予圧の設定値を最適化することにより、軸受寿命を極端に低下させることなく、軸受剛性を向上させる印刷機用軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1)内周面に複列の外輪軌道を有する外輪部と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内輪部と、
前記両外輪軌道と前記両内輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の転動体と、を備える印刷機用軸受であって、
前記複数の転動体には、前記転動体と前記外輪軌道及び前記内輪軌道との各接触部における外部荷重による弾性変形量を考慮して、予圧が付与されることを特徴とする印刷機用軸受。
(2)前記外部荷重が印圧であることを特徴とする(1)に記載の印刷機用軸受。
(3)前記予圧は、負荷率を1.0近傍に設定することで与えられることを特徴とする(1)又は(2)に記載の印刷機用軸受。
(4)前記内輪部は、それぞれの外周面に互いの外径が軸方向中央部に向かう程小さくなるテーパ状の内輪軌道を有する一対の内輪素子と、該一対の内輪素子間に配置される内輪間座と、を備え、
前記複数の転動体は、前記複列の内輪軌道と、互いの内径が軸方向中央部に向かう程小さくなるテーパ状に形成された前記複列の外輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の円錐ころであり、
前記内輪部は、前記一対の内輪素子が外嵌される軸部の軸方向一端側に設けられた段差部と前記軸部の他端側に螺着されるナット部材によって、前記一対の内輪素子と前記内輪間座を密着するまで締め切ることで、軸方向に位置決めされており、
前記予圧は、前記ナット部材を締め切る前の軸受内部のアキシアルすきまの管理によって設定されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の印刷機用軸受。
(5)前記内輪部は、それぞれの外周面に互いの外径が軸方向中央部に向かう程小さくなるテーパ状の内輪軌道を有する一対の内輪素子を備え、
前記複数の転動体は、前記複列の内輪軌道と、互いの内径が軸方向中央部に向かう程小さくなるテーパ状に形成された前記複列の外輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の円錐ころであり、
前記内輪部は、前記一対の内輪素子が外嵌される軸部の軸方向一端側に設けられた段差部と前記軸部の他端側に螺着されるナット部材によって、軸方向に位置決めされており、
前記予圧は、前記ナット部材の押込み量の管理、前記一対の内輪素子の内周面と前記軸部の外周面間をテーパ嵌合とする場合の、前記内輪軌道面の膨張を利用する前記内輪素子の押し込み量の管理、及び、軸受トルクの管理のいずれかによって設定されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の印刷機用軸受。
(6)前記内輪部は、それぞれの外周面が略一様外径である内輪軌道を有する一対の内輪素子と、該一対の内輪素子間に配置される内輪間座と、を備え、
前記複数の転動体は、前記複列の内輪軌道と、それぞれ略一様内径である前記複列の外輪軌道との間に転動自在に配置される複数の円筒ころであり、
前記内輪部は、前記一対の内輪素子が外嵌される軸部の軸方向一端側に設けられた段差部と前記軸部の他端側に螺着されるナット部材によって、前記一対の内輪素子と前記内輪間座を密着するまで締め切ることで、軸方向に位置決めされており、
前記予圧は、前記一対の内輪素子の内周面と前記軸部の外周面間をテーパ嵌合とする場合の、前記ナット部材の締め切りによる軸受内部のアキシアルすきまの管理、及び、前記ナット部材の締め切りによる(外輪軌道径−内輪軌道径)/2<ころ径とする管理のいずれかによって設定されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の印刷機用軸受。
(7)前記内輪部は、それぞれの外周面が略一様外径である内輪軌道を有する一対の内輪素子を備え、
前記複数の転動体は、前記複列の内輪軌道と、それぞれ略一様内径である前記複列の外輪軌道との間に転動自在に配置される複数の円筒ころであり、
前記内輪部は、前記一対の内輪素子が外嵌される軸部の軸方向一端側に設けられた段差部と前記軸部の他端側に螺着されるナット部材によって、軸方向に位置決めされており、
前記予圧は、前記ナット部材の押込み量の管理、前記一対の内輪素子の内周面と前記軸部の外周面間をテーパ嵌合とする場合の、前記内輪軌道面の膨張を利用する前記内輪素子の押し込み量の管理、及び、軸受トルクの管理のいずれかによって設定されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の印刷機用軸受。
(8)印刷機械胴サポート用軸受として使用されることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の印刷機用軸受。
(9)内周面に互いの内径が軸方向中央部に向かう程小さくなる複列のテーパ状の外輪軌道を有する外輪部と、
外周面に互いの外径が軸方向中央部に向かう程小さくなる複列のテーパ状の内輪軌道を有する内輪部と、
前記両外輪軌道と前記両内輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の円錐ころと、を備える円錐ころ軸受であって、
前記内輪部は、それぞれの外周面に、前記内輪軌道、前記両内輪軌道の軸方向外側にそれぞれ設けられた大径側鍔部、及び、前記内輪軌道と前記大径側鍔部の軸方向内端面との交点位置に設けられた研削逃げ部、を有する一対の内輪素子を備え、
前記円錐ころと前記軸方向内端面との接触により形成される接触楕円は、前記研削逃げ部及び前記軸方向内端面の外径部から離れ、且つ、前記軸方向内端面の径方向中央位置を含むように位置することを特徴とする円錐ころ軸受。
(10)前記接触楕円の中心は、前記軸方向内端面の径方向中央位置よりも前記研削逃げ部寄りに位置することを特徴とする(9)に記載の円錐ころ軸受。
(11)印刷機用軸受として使用されることを特徴とする(9)又は(10)に記載の円錐ころ軸受。
(12)印刷機械胴サポート用軸受として使用されることを特徴とする(9)〜(11)のいずれかに記載の円錐ころ軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の印刷機用軸受によれば、複数の転動体には、転動体と外輪軌道及び内輪軌道との各接触部における外部荷重による弾性変形量を考慮して、予圧が付与されるので、予圧の設定値が最適化され、軸受寿命を極端に低下させることなく、軸受剛性を向上させることができる。これにより、当該軸受により支持されたシリンダは、がたつく事がなく、印刷障害(インクのズレやムラ)の発生頻度を極端に低下することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態に係る印刷機用軸受について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る印刷機用軸受を示す。本実施形態の複列円錐ころ軸受10は、従来のものと同様、ゴム胴のような印刷機のシリンダの軸部を、円筒状の内周面を有するフレームの内径側で回転自在に支持しており、大きなラジアル荷重及びスラスト荷重が加わる(ラジアル方向及びスラスト方向の剛性を十分に高くする必要がある)回転支持部を構成する、印刷機用胴サポート軸受である。
【0011】
複列円錐ころ軸受10は、内周面に複列の外輪軌道12a,12aを有する外輪部11と、外周面に複列の内輪軌道15a,15aを有する内輪部14と、両外輪軌道12a,12aと両内輪軌道15a,15aとの間に転動自在に設けられる複数の転動体である円錐ころ17、17と、各円錐ころ17、17を転動自在に保持する保持器18、18と、を備える。
【0012】
外輪部11は、フレームに設けた軸受ハウジング1に内嵌される一対の外輪素子12、12及び外輪間座13によって構成されており、外輪間座13は、一対の外輪素子12、12間に配置されている。一対の外輪素子12、12の内周面には、テーパ状の外輪軌道12a,12aがそれぞれ形成されており、互いの内径が軸方向中央部に向かう程小さくなるように配置されている。
【0013】
また、内輪部14は、シリンダ2と同心に突設された軸部3に外嵌される一対の内輪素子15,15及び内輪間座16によって構成されており、内輪間座16は、一対の内輪素子15,15間に配置されている。一対の内輪素子15、15の外周面には、テーパ状の内輪軌道15a,15aがそれぞれ形成され、小径側端部外周面には小径側鍔部19、19が、大径側端部外周面には大径側鍔部20、20が、それぞれ内輪軌道15a,15aを軸方向両側から挟む状態で形成されている。また、一対の内輪素子15、15は、内輪軌道15a,15aの互いの外径が軸方向中央部に向かう程小さくなるように小径側鍔部同士を対向させた状態で配置されている。このように、複列円錐ころ軸受ユニット10は、背面組合せで構成されるため、軸受剛性の向上を図ることができる。
【0014】
軸部3に外嵌される一対の内輪素子15,15及び内輪間座16は、シリンダ2の端面(軸部3の軸方向一端側)に設けられた段差部4と、軸部3の先端部(他端側)の雄ねじ部に螺着したナット部材21との間で挟持され、ナット部材21を所定のトルクで回転させて、一対の内輪素子15,15と内輪間座16を密着するまで締め切ることで軸方向に位置決めされると共に、一対の内輪素子15,15に軸方向両側から互いに近付く方向に押圧力を作用させることで、各円錐ころ17,17に所望の予圧(用途に応じた適切な予圧)を付与している。
【0015】
この場合、予圧は、ナット部材21を締め切る前の軸受内部のアキシアルすきまの管理によって設定することができる。なお、本実施形態では、一対の内輪素子15,15間に内輪間座16が配置されているが、内輪間座16を有しない場合には、予圧は、ナット部材21の押込み量の管理、一対の内輪素子15,15の内周面と軸部3の外周面間をテーパ嵌合とする場合(図2参照。)の、内輪軌道面15a,15aの膨張を利用する内輪素子15,15の押し込み量の管理、及び、軸受トルクの管理のいずれかによって設定される。
【0016】
ここで、本実施形態の複列円錐ころ軸受10では、円錐ころ17,17と外輪軌道12a、12a及び内輪軌道15a,15aとの各接触部における印圧(外部荷重)による弾性変形量を考慮して、予圧が付与される。なお、印圧とは、各シリンダ2同士が押付け合う圧力であり、印圧以外にもシリンダ2の自重やギア荷重等の外部荷重も発生する。具体的に、本実施形態では、印刷の品質及び軸受の耐久性を確保するため、円周上全ての円錐ころ17,17が印圧負荷時に外輪軌道12a、12a及び内輪軌道15a,15aと接触するように、運転時の負荷率εを1.0近傍に設定している。なお、負荷率とは、負荷圏の広さを表す数値で、1.0を越える値は全ての円錐ころ17,17に荷重が負荷されていて、複列円錐ころ軸受10にラジアル方向の遊びがない状態を意味する。即ち、複列円錐ころ軸受10がその半周に亙って負荷を受けている場合にはε=0.5、丁度全周に亙って負荷を受けているが、最大負荷位置と反対位置の負荷が丁度0となっている場合にはε=1、全周に亙って均一な負荷を受けている場合にはε=∞である。
【0017】
本実施形態では、円錐ころ軸受にラジアル荷重が負荷する場合の、負荷率に対する軸受計算寿命及びラジアル変位比率について、以下の算出式を用いて計算した。まず、以下の算出式(1)〜(3)より、図3に示すような負荷率が得られる。
【0018】
【数1】

【0019】
【数2】

【0020】
【数3】

【0021】
また、軸受計算寿命比率L/L10は、以下の算出式(4)から図4に示すようなグラフが与えられ、図3及び図4から図5に示すような負荷率に対する軸受計算寿命比率のグラフが与えられる。
【0022】
【数4】

【0023】
また、負荷率に対する軸ラジアル変位比率は、以下の算出式(5)、(6)によって与えられ、図5に示すグラフとなる。なお、図5の各比率は負荷率=0.5(軸受すきま=0;即ち、円周上にて半分の転動体が荷重負荷)の時の値を1とした。
【0024】
【数5】

【0025】
【数6】

【0026】
なお、上述した算出式において、
Δr:ラジアルすきま
Lwe:ころ有効長さ
α:接触角
Fr:ラジアル荷重(N)
i:軸受列数
Z:ころ数
Jr:ラジアル積分
:平均転動体荷重についての積分
ε:負荷率
ψ:ラジアル荷重による負荷圏の角度/2、(図4参照)
ψ:負荷圏内の任意の角度(ラジアル荷重方向:0度)、(図4参照)
Qmax:転動体荷重
δr:ラジアル荷重負荷によるラジアル変位量(任意の軸受すきま時)
δr:ラジアル荷重負荷によるラジアル変位量(軸受すきま=0時)
L:軸受計算寿命(任意の軸受すきま時)
10:定格疲れ寿命(軸受すきま=0時)
である。
【0027】
図5より、ラジアル荷重負荷時に円周上全ての転動体が内外輪と接触し、自転しながら公転するような予圧荷重を満足するための負荷率:εは、以下となる。
1.0≦ε
また、図1に示しているとおり、εを1.0より極端に大きな値(予圧過大な状態)にすると寿命が著しく低下するため、相反する2つの要素である剛性と寿命を考慮した場合には、εを1.0近傍に設定される。従って、角荷率εを1.0近傍に設定することで、複列円錐ころ軸受10により支持されたシリンダは、がたつく事がなく、印刷障害(インクのズレやムラ)の発生頻度を極端に低下することができ、また、十分な軸受寿命を確保することができる。
【0028】
尚、本文での軸受すきま(ラジアルすきま及びアキシアルすきま)は、外内輪の変形を考慮していないため、予圧(マイナス)すきまの値は転動体と外内輪との接触部における弾性変形量として考えている。
【0029】
また、本実施形態では、複列円錐ころ軸受を用いて予圧の付与について説明したが、複列円筒ころ軸受が使用される場合にも同様に適用可能であり、また、玉軸受が使用される場合においても算出式は異なるが、同様の考え方が適用できる。
【0030】
例えば、複列円筒ころ軸受30は、図7(a)に示すように、内周面にそれぞれ略一様内径である複列の外輪軌道32a,32aを有する外輪部31である単一の外輪素子32と、外周面にそれぞれ略一様外径である複列の内輪軌道35a,35aを有する一対の内輪素子35,35を備えた内輪部34と、両外輪軌道32a,32aと両内輪軌道35a,35aとの間に転動自在に設けられる複数の転動体である円筒ころ37、37と、各円筒ころ37、37を転動自在に保持する保持器38、38と、を備える。
【0031】
外輪素子32は、フレームに設けた軸受ハウジング1に内嵌固定されており、また、一対の内輪素子35,35は、シリンダ2と同心に突設された軸部3に外嵌され、シリンダ2の端面(軸部の軸方向一端側)に設けられた段差部4と、軸部3の先端部(他端側)の雄ねじ部に螺着したナット部材21との間で挟持され、ナット部材21を所定のトルクで回転させて、軸方向に位置決めされると共に、一対の内輪素子35,35に軸方向両側から互いに近付く方向に押圧力を作用させることで、各円筒ころ37,37に所望の予圧(用途に応じた適切な予圧)を付与している。このような複列円筒ころ軸受30においても、上述した算出式を適用することができ、負荷率εが1.0近傍に設定される予圧が付与される。
【0032】
なお、複列円筒ころ軸受30の場合も、予圧は、ナット部材21の押込み量の管理、一対の内輪素子35,35の内周面と軸部3の外周面間をテーパ嵌合とする場合(図7(b)参照。)の、内輪軌道35a,35aの膨張を利用する内輪素子35,35の押し込み量の管理、及び、軸受トルクの管理のいずれかによって設定される。
また、図示しないが、一対の内輪素子35,35間に内輪間座が配置される場合には、
一対の内輪素子35,35の内周面と軸部3の外周面間をテーパ嵌合とする場合の、ナット部材21の締め切りによる軸受内部のアキシアルすきまの管理、及び、ナット部材21の締め切りによる(外輪軌道径−内輪軌道径)/2<ころ径とする管理のいずれかで、一対の内輪素子35,35と内輪間座を密着するまでナット部材21を締め切ることで、予圧が付与される。
【0033】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態の複列円錐ころ軸受10aを示す。この複列円錐ころ軸受10aは、円錐ころ17と内輪素子15の軸方向内端面20aとの接触により形成される接触楕円Cの位置を規定したものである。なお、複列円錐ころ軸受10aの構成は、第1実施形態のものと同様であるため、重複部分については説明を省略或いは簡略化する。
【0034】
本実施形態の一対の内輪素子15,15(図は、一方のみ示す)は、外周面に内輪軌道15a,15a、両内輪軌道15a,15aの軸方向内側にそれぞれ設けられた小径側鍔部19,19、両内輪軌道15a,15aの軸方向外側にそれぞれ設けられた大径側鍔部20,20を有する。内輪軌道15a,15aと小径側鍔部19,19の軸方向内端面との交点位置、及び、内輪軌道15a,15aと大径側鍔部20,20の軸方向内端面との交点位置には、研削逃げ部22,22,23,23が形成されている。
【0035】
ここで、円錐ころ17と大径側鍔部20の軸方向内端面20aとの接触により形成される接触楕円Cが、研削逃げ部23や軸方向内端面20aの外径部20bと接する場合には、いずれかの接触位置において応力集中が発生し、高トルクとなってしまう。このため、接触楕円Cは、研削逃げ部23及び軸方向内端面20aの外径部20bから離れ、且つ、軸方向内端面20aの径方向中央位置20cを含むように位置することで、トルクを低減且つ安定させることができる。なお、好ましくは、接触楕円Cの中心Caは、軸方向内端面20aの径方向中央位置20cよりも研削逃げ部寄りに位置するほうが、より低トルク化を実現することができる。なお、接触楕円Cは、円錐ころ17の大径側端面17a及び内輪素子15の軸方向内端面20aの形状等によって設定される。
【0036】
なお、本発明の複列円錐ころ軸受は、本実施形態のものに限定されるものでなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態に係る複列円錐ころ軸受の断面図である。
【図2】第1実施形態の変形例に係る複列円錐ころ軸受の断面図である。
【図3】算出式より求めた負荷率を示すグラフである。
【図4】算出式より求めた軸受計算寿命比率を示すグラフである。
【図5】負荷率に対する軸受計算寿命比率及びラジアル変位比率を示すグラフである。
【図6】ラジアル荷重負荷によるラジアル変位量を示す図である。
【図7】(a)本発明の変形例に係る複列円筒ころ軸受の断面図であり、(b)は、他の変形例に係る複列円筒ころ軸受の断面図である。
【図8】(a)は、本発明の第2実施形態に係る複列円錐ころ軸受の断面図であり、(b)は、(a)のVII部拡大図である。
【符号の説明】
【0038】
10、10a 複列円錐ころ軸受(印刷機用軸受)
11,31 外輪部
12,32 外輪素子
12a,32a 外輪軌道
14,34 内輪部
15,35 内輪素子
15a,35a 内輪軌道
17 円錐ころ(転動体)
21 ナット部材
30 複列円筒ころ軸受(印刷機用軸受)
37 円筒ころ(転動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪部と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内輪部と、
前記両外輪軌道と前記両内輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の転動体と、を備える印刷機用軸受であって、
前記複数の転動体には、前記転動体と前記外輪軌道及び前記内輪軌道との各接触部における外部荷重による弾性変形量を考慮して、予圧が付与されることを特徴とする印刷機用軸受。
【請求項2】
前記外部荷重が印圧であることを特徴とする請求項1に記載の印刷機用軸受。
【請求項3】
前記予圧は、負荷率を1.0近傍に設定することで与えられることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷機用軸受。
【請求項4】
前記内輪部は、それぞれの外周面に互いの外径が軸方向中央部に向かう程小さくなるテーパ状の内輪軌道を有する一対の内輪素子と、該一対の内輪素子間に配置される内輪間座と、を備え、
前記複数の転動体は、前記複列の内輪軌道と、互いの内径が軸方向中央部に向かう程小さくなるテーパ状に形成された前記複列の外輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の円錐ころであり、
前記内輪部は、前記一対の内輪素子が外嵌される軸部の軸方向一端側に設けられた段差部と前記軸部の他端側に螺着されるナット部材によって、前記一対の内輪素子と前記内輪間座を密着するまで締め切ることで、軸方向に位置決めされており、
前記予圧は、前記ナット部材を締め切る前の軸受内部のアキシアルすきまの管理によって設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷機用軸受。
【請求項5】
前記内輪部は、それぞれの外周面に互いの外径が軸方向中央部に向かう程小さくなるテーパ状の内輪軌道を有する一対の内輪素子を備え、
前記複数の転動体は、前記複列の内輪軌道と、互いの内径が軸方向中央部に向かう程小さくなるテーパ状に形成された前記複列の外輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の円錐ころであり、
前記内輪部は、前記一対の内輪素子が外嵌される軸部の軸方向一端側に設けられた段差部と前記軸部の他端側に螺着されるナット部材によって、軸方向に位置決めされており、
前記予圧は、前記ナット部材の押込み量の管理、前記一対の内輪素子の内周面と前記軸部の外周面間をテーパ嵌合とする場合の、前記内輪軌道面の膨張を利用する前記内輪素子の押し込み量の管理、及び、軸受トルクの管理のいずれかによって設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷機用軸受。
【請求項6】
前記内輪部は、それぞれの外周面が略一様外径である内輪軌道を有する一対の内輪素子と、該一対の内輪素子間に配置される内輪間座と、を備え、
前記複数の転動体は、前記複列の内輪軌道と、それぞれ略一様内径である前記複列の外輪軌道との間に転動自在に配置される複数の円筒ころであり、
前記内輪部は、前記一対の内輪素子が外嵌される軸部の軸方向一端側に設けられた段差部と前記軸部の他端側に螺着されるナット部材によって、前記一対の内輪素子と前記内輪間座を密着するまで締め切ることで、軸方向に位置決めされており、
前記予圧は、前記一対の内輪素子の内周面と前記軸部の外周面間をテーパ嵌合とする場合の、前記ナット部材の締め切りによる軸受内部のアキシアルすきまの管理、及び、前記ナット部材の締め切りによる(外輪軌道径−内輪軌道径)/2<ころ径とする管理のいずれかによって設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷機用軸受。
【請求項7】
前記内輪部は、それぞれの外周面が略一様外径である内輪軌道を有する一対の内輪素子を備え、
前記複数の転動体は、前記複列の内輪軌道と、それぞれ略一様内径である前記複列の外輪軌道との間に転動自在に配置される複数の円筒ころであり、
前記内輪部は、前記一対の内輪素子が外嵌される軸部の軸方向一端側に設けられた段差部と前記軸部の他端側に螺着されるナット部材によって、軸方向に位置決めされており、
前記予圧は、前記ナット部材の押込み量の管理、前記一対の内輪素子の内周面と前記軸部の外周面間をテーパ嵌合とする場合の、前記内輪軌道面の膨張を利用する前記内輪素子の押し込み量の管理、及び、軸受トルクの管理のいずれかによって設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷機用軸受。
【請求項8】
印刷機械胴サポート用軸受として使用されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印刷機用軸受。
【請求項9】
内周面に互いの内径が軸方向中央部に向かう程小さくなる複列のテーパ状の外輪軌道を有する外輪部と、
外周面に互いの外径が軸方向中央部に向かう程小さくなる複列のテーパ状の内輪軌道を有する内輪部と、
前記両外輪軌道と前記両内輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の円錐ころと、を備える円錐ころ軸受であって、
前記内輪部は、それぞれの外周面に、前記内輪軌道、前記両内輪軌道の軸方向外側にそれぞれ設けられた大径側鍔部、及び、前記内輪軌道と前記大径側鍔部の軸方向内端面との交点位置に設けられた研削逃げ部、を有する一対の内輪素子を備え、
前記円錐ころと前記軸方向内端面との接触により形成される接触楕円は、前記研削逃げ部及び前記軸方向内端面の外径部から離れ、且つ、前記軸方向内端面の径方向中央位置を含むように位置することを特徴とする円錐ころ軸受。
【請求項10】
前記接触楕円の中心は、前記軸方向内端面の径方向中央位置よりも前記研削逃げ部寄りに位置することを特徴とする請求項9に記載の円錐ころ軸受。
【請求項11】
印刷機用軸受として使用されることを特徴とする請求項9又は10に記載の円錐ころ軸受。
【請求項12】
印刷機械胴サポート用軸受として使用されることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の円錐ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−197846(P2009−197846A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37954(P2008−37954)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】