説明

印刷装置及び印刷制御方法

【課題】被印刷基材に電解質を有する液体を転移させる印刷装置において、液体を一定量だけ分割して被印刷基材に転移させることにより高精細及び高画質の画像を印刷できるようにする。
【解決手段】印刷装置は、被印刷基材に電解質を有する液体を転移させるものであり、送液装置1が複数、2次元的に配設されている。送液装置1は、電極13に電圧を印加することにより、流路10中の弁部11を疎水性から親水性に変化させて液体Fを送液し、電圧の印加を停止することにより、弁部11を疎水性に変化させて通気部14から外気を弁部11に導入して液体Fを一定量だけ分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷装置に関し、特に液体を一定量だけ分割して被印刷基材に転移することができる印刷装置及び該印刷装置における印刷制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学、光学、臨床、バイオ技術等の分野において、化学実験や化学操作等を微細化するため、基板上に微細な溝やくぼみ等の流路が形成されたチップ(マイクロチップ)上に、混合、化学反応、分離、検出等、一連の工程を集積化させたμ−TAS(マイクロタス)、Lab−on−a−Chip(ラボオンチップ)等と呼ばれる化学・分析システムの開発が進められており、このように微細化された化学・分析システムでは、試料や廃液の量の削減、分析時間の大幅な短縮と効率化、省スペース、携帯性等、様々な利点が期待されている。
【0003】
しかしながら上記のように微細化された化学・分析システムでは、微細な流路中に液体を送液する必要があり、従来より使用されている、ポンプ等の外力を利用する一般的な送液装置では、流路が細くなるほど界面張力等の影響が大きくなり、流れる液体の抵抗が大きくなってしまうので、液体を流すためには大きな圧力が必要となり、この圧力により微細な流路を破損させてしまう虞があるため、流路の構造を強固なものにする必要があった。また大きな圧力を生じさせるためには、消費電力も大きくなってしまう問題があった。
【0004】
そこで、近年では微細な流路中に液体を送液するために、エレクトロウェッティング(Electrowetting:以下、EW)という現象を利用した送液装置が提案されている(特許文献1)。EWは、図16の左図に示す如く、電極E上に直接電解質水溶液Fが接しているときに、この液体Fと電極E間に電圧を印加することにより、図16の右図に示す如く、液体Fの固液界面近傍に電極Eが陽電極である場合には負のイオンが、陰電極である場合には正のイオンが集まり、イオン同士が反発することによって、液体Fの界面張力を低下させる。すなわち左図の状態での液体Fと電極Eとの接触角θが、右図に示すように液体Fの界面張力が低下することによりθよりも小さい値の接触角θ’になり、電極E上の液体のいわゆる濡れ性が向上する。
【0005】
また、右図のように液面の界面張力が低下した状態から、電圧の印加をやめることで、左図に示す如く、界面近傍に集まっていたイオンが拡散して界面張力が回復することにより、前記濡れ性が低下する。
なお上記EWの現象は、電極Eと電解質水溶液Fとが直接接触せずに、図17に示す如く、誘電膜Dを介している場合でも生じる。これは、電場が与えられ電極Eが陽電極である場合には誘電膜Dの電極E側が陰極、電解質水溶液F側が陽極に分極し、電極Eが陰電極である場合には誘電膜Dの電極E側が陽極、電解質水溶液F側が陰極に分極するので、誘電膜Dと電解質水溶液Fとの界面でも上記電極Eと電解質水溶液Fとの界面と同様のEWの現象が生じるからである。
【0006】
上記送液装置は、電極が埋め込まれ内面が疎水性の流路において、電極に電圧を印加することで上記EWの現象により流路内に液体を導いている。
【0007】
また上記EWの現象をインクジェットのプリンタヘッドに使用したものとして、疎水性膜で取り囲まれたノズルの先端部にノズルの出口側に進行する電場を形成して、インクの界面張力を変化させることによってインクから所定体積を有する液滴を分離して、静電気によりノズルからインクを吐出させるものがある(特許文献2)。
【0008】
一方、近年ではコンピュータの性能の向上に伴って、高精細、高画質な画像を扱う頻度が増加している。コンピュータの周辺機器であるデジタルプリンタではこうした高精細、高画質な画像を印刷物として実現するために、一画素あたりの液適量が非常に微細化している。また近年ではデジタル印刷の技術は紙の印刷物の作成以外に、機能性材料を分散させた液体を基材上にパターンとして印刷し、産業用デバイスを作成する、いわゆるデジタルファブリケーションが注目されている。このデジタルファブリケーションにおいては、デバイスの微細化のために、高解像度化、特に最小ドットサイズの縮小化が重要視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−199231号公報
【特許文献2】特開2004−216899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながらデジタルプリンタの高精度化や最小ドットの縮小化は急速には進んでいない。電子写真方式プリンタでは原理的にトナーが静電場によって転移するときに散乱するため、安定的に実現できる最小ドットサイズはインクジェット方式プリンタよりも劣っている。インクジェット方式プリンタでは現在商品として実現できている最小ドットは、液滴量で1pl程度、紙への転移サイズ(直径)は20〜30μm程度である。インクジェット方式プリンタでは原理的にはさらに小さい液滴を生成することは可能であるが、紙等の被印刷基材とプリンタヘッドが少なくとも1mm程度の間隙を隔てて相対的に移動し、液滴が空気中を飛翔して被印刷基材に着滴するという条件を考慮すると、空気力学的原因からその着滴精度を保つためには上記液滴量及び上記転移サイズが限界であると考えられる。
【0011】
従って最小ドットサイズをできるだけ小さくしようとするためには、電子写真方式やインクジェット方式のような非接触転移ではなく、接触転移を利用することが望ましい。しかしながら接触転移を利用した方式のうち、感熱記録方式である溶融熱転写方式のプリンタではサーマルヘッド等の熱記録デバイスの一発熱素子を小さくすることに限界があることから、最小ドットサイズはインクジェット方式プリンタよりも劣っている。
【0012】
またデジタルファブリケーションという用途では、インクジェット方式はデジタルプリンタの中では最有力な選択肢であるが、機能性材料をインク中に分散させてインクジェットヘッドによる吐出を可能とするために、種々の制約条件をクリアする必要があり、機能性の観点からだけでは液体を選択することはできない。
【0013】
またプリンタ以外に接触により被印刷基材に微少量の液体を転移させる方法としては、ディスペンサがあり、将来的には様々な機能性材料を用いて、最小ドットサイズの小さい印刷を実現できる可能性があるが、ディスペンサは一般に1〜数本のノズルしか備えておらず、印刷の処理速度が遅いという問題がある。また高粘度液体で微細パターンを描こうとすれば、必然的に高い圧力が必要となり、高い圧力に耐えうるためには装置自体が高価で複雑になってしまう。
【0014】
一方、接触転移を利用したプリンタのプリンタヘッドに上述したような送液装置を利用する場合等には、電圧の印加を停止することにより流路内の液体の移動を停止することはできるものの、流路入口に隣接したいわゆる液溜から流路出口までの流路内に連続して液体が充填されてしまっているため、例えば印刷用の用紙等の浸透性又は親水性を有する基材を前記流路出口に接触させたときに、液体つまりインクは、基材がインクを吸収できなくなるまで、又は液溜内のインクがなくなるまで基材に転移し続けることになる。これはいわば万年筆のような状態である。
【0015】
この場合、基材へのインクの転移を中断させるためには、万年筆を用紙から離すのと同様に、液体出口を基材から離せばよいが、微細なパターンを描く際にこのような動作をさせると例えば用紙の移動方向の微細なズレ等によってパターンの品質を損ねてしまう虞がある。
【0016】
また特許文献2に記載のプリンタヘッドでは、インクの界面張力を変化させることのみで液滴を分離するため、流路内で完全に液滴を分割することは困難である。
【0017】
本発明はかかる事情に鑑みてなされものであり、液体を一定量だけ分割して被印刷基材に転移させることにより高精細及び高画質の画像を印刷することができる印刷装置及び該印刷装置における印刷制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の印刷装置は、被印刷基材に電解質を有する液体を転移させる印刷装置であって、
前記液体を流路中に送液する、
前記流路の内壁面の少なくとも一部が、該流路の入口から出口までの全体に亘って、送液を遮断する疎水性を有する少なくとも一つの弁部を除いて親水性を有し、
前記弁部に、前記液体の界面張力を減少させるための電極と、前記液体を切断するため外気を導入する通気部が設けられている送液装置が複数、2次元的に配設されていることを特徴とするものである。
【0019】
なお本発明において「界面張力」は、固体と液体との界面において、液体がその面積を縮めようとする力をいう。
【0020】
本発明の印刷装置においては、印刷装置本体に対して回動自在に装着された印刷ドラムを備え、
前記流路の入口が前記印刷ドラム内部に位置し、前記流路の出口が前記印刷ドラム外周面に露出するように前記送液装置が複数2次元的に配設され、
前記液体が前記流路の入口に供給されるものであってもよい。
【0021】
また本発明の印刷装置においては、前記被印刷基材が、前記印刷ドラムの前記外周面に所定期間密着して該外周面と同速度で搬送されるものであって、
前記液体は、前記被印刷基材が前記印刷ドラムに密着されている期間に、前記流路から前記被印刷基材に転移されるものであることが好ましい。
【0022】
また本発明の印刷装置においては、前記被印刷基材が、シート状で可撓性を有するものであって、
前記被印刷基材の搬送経路は前記印刷ドラムの外周面に沿って湾曲していてもよい。
【0023】
また本発明の印刷装置においては、印刷装置本体に装着された平坦な表面を有する印刷部材を備え、
前記流路の入口が前記印刷部材の前記表面よりも内方側に位置し、前記流路の出口が前記印刷部材の前記表面上に露出するように前記送液装置が複数2次元的に配設され、
前記液体が前記流路の入口に供給されるものであってもよい。
【0024】
また本発明の印刷装置においては、前記被印刷基材が、前記印刷部材の前記表面に所定期間密着されるものであって、
前記液体は、前記被印刷基材が前記印刷部材に密着されている期間に、前記流路から前記被印刷基材に転移されるものであることが好ましい。
【0025】
本発明の印刷装置は、前記送液装置において、
前記電極が、正負の二極を有し、
該正負の二極の一方の電極が、前記疎水性の弁部に臨設されていることが好ましい。
【0026】
この場合、前記正負の二極の電極が、前記液体の流れ方向に前後して配置されていることが好ましい。
【0027】
また本発明の印刷装置は、前記送液装置において、
前記電極と前記流路とを、誘電膜によって隔てることができる。
【0028】
また本発明の印刷装置は、前記送液装置において、
前記出口の外縁部が疎水性を有することが好ましい。
【0029】
また本発明の印刷装置は、前記送液装置において、
前記流路の出口区間の内壁及び前記出口の外縁部が疎水性を有するものであり、
前記出口区間及び前記外縁部のうち前記出口に隣接する周縁部に、前記液体の界面張力を減少させるための第二の電極が設けられていることが好ましい。
【0030】
また本発明の印刷装置は、前記送液装置において、
前記出口を有する流路出口部が、印刷装置本体から突出していることが好ましい。
【0031】
この場合、前記流路出口部が、弾性部材で形成されていることが好ましい。
【0032】
なお流路出口部は、流路が変形しなければ、例えば流路の出口付近のみ等、一部を弾性部材で形成してもよいし、全部を弾性部材で形成してもよい。
また、前記流路出口部が前記液体の流れ方向に弾性を有するものであってもよい。
【0033】
また本発明の印刷装置は、前記液体を、機能性粒子を分散させた液体とすることができる。
【0034】
本発明の印刷制御方法は、上記印刷装置の印刷制御方法において、
前記電極に電圧を印加することにより、前記流路中の前記弁部を疎水性から親水性に変化させて前記液体を送液し、電圧の印加を停止することにより前記弁部を疎水性に変化させると共に前記通気部から外気を該弁部に導入して前記液体を一定量だけ分割して前記被印刷基材に転移させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、印刷装置に、流路の内壁面の少なくとも一部が、流路の入口から出口までの全体に亘って、送液を遮断する疎水性を有する少なくとも一つの弁部を除いて親水性を有し、弁部に、液体の界面張力を減少させるための電極と、液体を切断するため外気を導入する通気部が設けられている送液装置が、複数2次元的に配設されているので、電極に電圧を印加することにより、弁部を疎水性から親水性に変化させて液体を送液し、電圧の印加を停止することにより、弁部を疎水性に変化させて通気部から外気を弁部に導入して液体の送液を停止することができ、流路中の弁部において弁部に導入した外気により流路中の液体を分割、つまり切ることができるので、流路の容積を調整することで、電解質を有する液体であればいずれの液体であっても任意の量を分割して被印刷基材に転移させることが可能となる。これにより高画質印刷やデジタルファブリケーションに最適な、最小ドットサイズの非常に小さい、高精細パターンの画像を印刷することができる。
【0036】
また本発明において、印刷装置が印刷装置本体に回転自在に装着された印刷ドラム又は印刷装置本体に装着された平坦な表面を有する印刷部材を備え、被印刷基材を印刷ドラムの外周面又は印刷部材の表面に接触させることによって液体を被印刷基材に転移させるものである場合には、インクジェット方式のように液体の液滴が空気中を飛翔して被印刷基材に着滴するのではなく、液体は流路の出口から空気に略触れずに被印刷基材に転移するので空気力学的原因による転移精度の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】印刷装置の概略構成図
【図2】プリンタヘッドを実装した印刷装置のイメージ斜視図
【図3】印刷部の拡大図及び印刷部の主要部拡大図
【図4】プリンタヘッドの配列例を示す図
【図5】第2の実施形態の印刷装置の主要部拡大図
【図6】第3の実施形態の印刷装置の主要部拡大図
【図7】(a)送液装置の概略構成図、(b)弁部拡大図
【図8】送液装置の動作の説明図
【図9】別の実施形態の送液装置の概略構成図
【図10】プリンタヘッドの動作の説明図
【図11】印字装置の(a)分解斜視図、(b)正面図、(c)主要部A拡大上面図
【図12】別の実施形態の印字装置
【図13】さらに別の実施形態の印字装置
【図14】第二の電極の斜視図の一例
【図15】別の実施形態のプリンタヘッドの概略模式図
【図16】エレクトロウェッティング現象の説明図(その1)
【図17】エレクトロウェッティング現象の説明図(その2)
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明にかかる一実施形態としての印刷装置100について、図面を参照して詳細に説明する。図1は印刷装置100の概略構成図、図2はプリンタヘッド素子2を実装した印刷装置100のイメージ斜視図、図3は印刷部P1の拡大図及び印刷部P1の主要部拡大図、図4はプリンタヘッド素子2の配列例を示す図である。なおプリンタヘッド素子2は、印刷物の一画素を形成するための流路を有する送液部(後述する)を備えた個々の送液デバイスをいい、このプリンタヘッド素子2が複数集合してなるものをプリンタヘッドという。
【0039】
印刷装置100は、図1に示す如く、被印刷基材である印刷用紙103の表面又は裏面に印刷する印刷部P1と、給紙台(図示省略)に載置された複数枚の印刷用紙103を一枚ずつ繰り出して送り出す給紙部P2と、給紙部P2から繰り出された印刷用紙103を印刷部P2に向けて搬送する搬送部P3と、印刷部P1によって表面又は裏面が印刷された印刷用紙103を排紙台(図示省略)に排紙する排紙部P4とを備えている。
【0040】
印刷部P1は、図1、図2、図3に示す如く、印刷装置100本体に対して回動自在に装着された円筒形状をした印刷ドラム101と、印刷ドラム101の下方から印刷用紙103を支持し、回転ドラム101と平行に回転可能に配置された回転体102とを備えている。印刷ドラム101は、ベルトなどの伝達手段を介してドラムモータ(図示省略)により回転するものであり、印刷ドラム101の内部には、後述するプリンタヘッド素子2が、図3に示す如く、流路の入口を印刷ドラム101の内部に位置させ、流路の出口を印刷ドラム101の外周面に露出させるようにして、複数二次元的に配設されている。
【0041】
本実施形態では直径約5〜10cmの印刷ドラム101に、直径約0.1mmのプリンタヘッド素子2が、図4に示す如く、各プリンタヘッド素子間のピッチdを約0.2mm程度とって印刷ドラム101の長さ方向x及び外周方向yにそれぞれ複数配列されている。
給紙部P2は、給紙台(図示省略)に載置された印刷用紙(被印刷基材)103を印刷ドラム1回転毎に1枚ずつ繰り出して送り出すスクレーパローラ104,スクレーパローラ104によって送り出された印刷用紙103をピックアップするピックアップローラ105、サバキ板106及び重送検出スイッチ107を備えている。
【0042】
搬送部P3は、給紙部P2から繰り出された印刷用紙103を印刷ドラム101と回転体102との間に挿入する搬送ローラ108,109及びガイド板110,111を備えている。搬送ローラ108,109はそれぞれの軸両端部にて歯車を介して噛合することにより、互いに逆向きに連動して回転するように構成されており、搬送ローラ108,109の近傍には、これらを回転させるための搬送モータ(図示せず)が設置されている。なお本実施形態においては、上記のような構成の搬送ローラ108,109を利用するようにしたが、例えば、一方の搬送ローラを駆動し、他方の搬送ローラはベアリング軸受けで加圧することで一方の搬送ローラに従動回転させるような構成としてもよい。
【0043】
排紙部P4は、印刷ドラム101と回転体102との間に挟圧搬送され印刷が施された印刷用紙103を排紙台(図示省略)に向けて搬出するサクションローラ112,113及びサクションベルト114を備えている。
【0044】
次に以上のように構成された印刷装置100の作用について説明する。印刷装置100は、印刷ドラム101が矢印A方向に所定の速度で回転するとともに、給紙台に載置された印刷用紙103の最上面から、スクレーパローラ104,ピックアップローラ105及びサバキ板106により1枚の印刷用紙103が繰り出され、繰り出された印刷用紙103はガイド板110に案内されつつ、搬送ローラ108,109まで搬送される。なお、このとき印刷用紙103が重送された場合には、重送検出スイッチ107により検出される。
【0045】
そして印刷用紙103は所定の速度で回転する搬送ローラ108,109の間に挟まれ、搬送ローラ108,109の回転により印刷ドラム101と回転体102との間に向かってさらに搬送される。そして印刷用紙103は、印刷ドラム101と回転体102との間に搬送されると、印刷用紙103の下面側が回転体102によって支持されることにより印刷用紙103の上面側が印刷ドラム101の外周面に所定期間密着し、印刷ドラム101及び印刷ドラム101と共に矢印B方向に回転する回転体102によって印刷ドラム101の外周面と同速度で搬送される。
【0046】
このように印刷用紙103が印刷ドラム101の外周面に所定期間密着して印刷ドラム101の外周面と同速度で搬送されることにより、印刷ドラム101の外周面に露出したプリンタヘッド素子2の流路出口が印刷用紙103に所定期間接触しながら印刷用紙103と同速度で回転する。このとき予め外部から入力された任意の印刷パターンデータに基づいて後述するプリンタヘッド素子2の電極への電圧を印加したり停止したりすることで、プリンタヘッド素子2内のインクを印刷用紙103に転移させ、図2に示すように、印刷用紙103に印刷パターンを印刷する。
【0047】
なお本実施形態では印刷用紙103が、図3の右図(拡大図)に示す如く、印刷ドラム101に圧接されて変形することにより、印刷ドラム101の外周面との接触面積が広く、すなわち接触するプリンタヘッド素子2の流路出口の数が多くなる。これにより印刷用紙103とプリンタヘッド素子2との接触時間を長くすることができるので、印刷用紙103に転移するインクの量を増やすことができる。
なお本実施形態では印刷用紙103が変形する構成としたが、印刷ドラム101が変形する構成としてもよい。
【0048】
そして印刷用紙103に任意の印刷パターンが印刷されると、印刷用紙103はサクションローラ112,113の回転によって環状移動されるサクションベルト114の移動に伴って排紙台に排紙される。以上のようにして印刷装置100は印刷用紙103に印刷を行う。
【0049】
なお印刷装置100を使用して上記のようにして印刷用紙103に印刷を行う場合には、プリンタヘッド素子2の配列ピッチdが0.2mm程度であることから、印刷パターンの解像度は127dpi程度となるが、例えば印刷装置100の印刷部P1を複数台並べて配置して、いわゆるタンデム方式を使用して、複数の印刷部P1によって順番に印刷を行うことにより高解像度の印刷を行うことができる。このように上記タンデム方式を使用することにより、例えば印刷用紙103を印刷ドラム101に対して複数回往復させたり、回転式の支持装置(リボルバー)に複数の印刷ドラム101を収めて複数回の印刷を行うマルチサイクル方式等よりも印刷に要する時間を短縮することができる。
【0050】
なお本実施形態の印刷装置100は、印刷ドラム101を備え、この印刷ドラム101に複数のプリンタヘッド素子2を2次元的に配設したが、本発明はこれに限られるものではない。次に本発明にかかる第2の実施形態の印刷装置100−2について説明する。図5は印刷装置100−2の主要部拡大図である。なお本実施形態では便宜上、上記実施形態の印刷装置100と異なる箇所についてのみ詳細に説明する。
【0051】
印刷装置100−2は、図5に示す如く、シート状で可撓性を有する印刷用紙(被印刷基材)103’に印刷を行うものであり、印刷ドラム101を挟んで印刷用紙103’の搬送方向の上流側と下流側にそれぞれ湾曲搬送ローラ120,121が設けられている。湾曲搬送ローラ120,121は、上述した搬送ローラ108,109の回転による印刷用紙103’の搬送及びサクションベルト114の環状移動による印刷用紙103’の搬送に伴って連れ回するように構成されており、それぞれ同じ速度で回転する。
【0052】
印刷用紙103’は、搬送方向上流側の湾曲搬送ローラ120と印刷ドラム101及び搬送方向下流側の湾曲搬送ローラ121と印刷ドラム101の間を通って、印刷用紙103’の印刷ドラム101に密着している部分が印刷ドラム101の外周面に沿って湾曲するように手動で、又は一般的に使用されている外部装置を使用することにより自動で設置される。
【0053】
なお印刷用紙103’の搬送方向上流側の湾曲搬送ローラ120の回転抵抗を、下流側の湾曲搬送ローラ121の回転抵抗よりも強く設定することにより、印刷用紙103’が印刷ドラム101の外周面に確実に密着するようにしている。
【0054】
本実施形態では湾曲搬送ローラ120,121を共に連れ回りする構成としたが、例えば、一方の湾曲搬送ローラを駆動し、他方の湾曲搬送ローラは回転抵抗をかけて連れ回りするような構成としてもよい。
【0055】
次に本発明にかかる第3の実施形態の印刷装置100−3について説明する。図6は印刷装置100−3の主要部拡大図である。なお本実施形態では便宜上、上述した実施形態の印刷装置100と異なる箇所についてのみ詳細に説明する。
【0056】
印刷装置100−3は、上記実施形態の印刷ドラム101の代わりに、図6に示す如く、印刷装置本体に装着された平坦な表面131aを有する印刷部材131を備えている。印刷部材131は、後述するプリンタヘッド素子2が、流路の入口を印刷部材131の表面131aよりも内方すなわち図6中上方に位置させ、流路の出口を表面131a上に露出させるようにして、表面131a全体的に複数二次元的に配設されている。本実施形態ではプリンタヘッド素子2の配列ピッチを0.2mm程度とする。また印刷部材131の表面131aに平行に対向させて印刷部材131の下方から印刷用紙103を支持するように配置された支持体132を備えている。
【0057】
そして印刷用紙103は、支持体132が印刷部材131の表面131aから退避した状態のときに、印刷部材131と支持体132との間に搬送され、支持体132が印刷用紙103を下方から支持して印刷部材131の表面131aに所定期間密着させる。このとき予め外部から入力された任意の印刷パターンデータに基づいて後述するプリンタヘッド素子2の電極への電圧を印加したり停止したりすることで、プリンタヘッド素子2内のインクを印刷用紙103に転移させて印刷パターンを印刷する。
【0058】
なお印刷装置100−3を使用して上記のようにして印刷用紙103に印刷を行う場合には、プリンタヘッド素子2の配列ピッチが0.2mm程度であることから、印刷パターンの解像度は127dpi程度となるが、支持体132の前記退避、印刷用紙103の前記搬送、支持体132による印刷用紙103の印刷部材131の表面131aへの前記密着の工程を繰り返し行うことにより高解像度の印刷を行うことができる。
【0059】
なお本実施形態ではプリンタヘッド素子2、2’を印刷部材131の表面131aの全面状に配設したが、例えばラインインクジェットプリンタのように、印刷用紙103の幅方向全体に対応するように、複数のプリンタヘッド素子2、2’を線状に配置してもよい。この場合、プリンタヘッド素子2、2’と印刷用紙103とは、プリンタヘッド素子2、2’の配列方向と直交する方向に相対移動し、一回の相対移動で印刷用紙103全体を走査可能とする。なお転移量を増やすために2回以上走査してもよい。
【0060】
また例えばシリアルインクジェットプリンタのように、数mm〜数十mmの長さで複数のプリンタヘッド素子2を線状に配置してもよい。この場合、プリンタヘッド素子2と印刷用紙103とは、プリンタヘッド素子2の配列方向と直交する方向に相対移動し、一回の相対移動で印刷用紙103の一部しか走査できないので、走査毎に、プリンタヘッド素子2を印刷用紙103に対して未走査位置まで移動させて次回の走査をさせる。
【0061】
次に上述した実施形態の印刷装置100,100−2,100−3で使用するプリンタヘッド素子2について図面を参照して詳細に説明する。なおプリンタヘッド素子2を説明する前に、まずプリンタヘッド素子2に利用する送液部(送液装置)1について説明する。図7(a)は本実施形態の送液部1の概略構成図、図7(b)は(a)の弁部拡大図、図8は図7の送液部1の動作の説明図である。
【0062】
本実施形態の送液部1は、図7(a)に示す如く、電解質を有する液体Fを流路10中に送液するものであり、流路10は、入口10aから後述の弁部11までの内壁面12a及び弁部11から出口10bまでの内壁面12bすなわち入口10aから出口10bまでの弁部11を除く内壁面12が親水性を有している。流路10は毛管現象が起こる程度の微細な径又は断面積を有するものであり、流路10の断面形状は、溝状であっても円や多角形等の管状であってもよい。また流路10は弁部11を除く内壁面12の少なくとも一部が入口10aから出口10bまで連続して親水性を有していれば、例えば内壁面12全体を親水性にしてもよいし、底面のみ等、一面のみを親水性にしてもよい。
【0063】
弁部11(図中斜線)は、内壁面12aと内壁面12bの間隙部分であって、流路10中の送液を遮断するものであり、流路10中に少なくとも1つ設けられ、図7(b)に示す如く、一部の流路10区間の内壁面を全て疎水性にすることによって構成されている。また弁部11の流路10区間すなわち流れ方向の寸法(以下、ギャップという)は、流路10の形状によって決定される。
【0064】
弁部11には、液体Fの界面張力を減少させるための電極13が設けられている。電極13は例えば金やカーボン等で構成された正負二極からなり、この二極は、図7(a)に示す如く、液体Fの流れ方向に前後して配置され、本実施形態では正極13aが疎水性の弁部11に臨設され、弁部11よりも流路10の入口10a側の内壁面12aの下側に負極13bが配置されている。ここで「正極13aが疎水性の弁部11に臨設され」とは、正極13aが必ずしも弁部11(斜線部分)の全面積を覆うことを意味せず、正極13aが弁部11の少なくとも内壁面12aから内壁面12bに向かう方向の全長に亘って存在することを意味する。
【0065】
つまり弁部11は、図7(b)に示す如く、流路10において親水性の内壁面12aと内壁面12bとの間隙に臨む正極13aの表面に疎水性の被膜を施すことにより形成することができる。このとき疎水性の被膜は疎水性誘電膜とすることができる。なお正極13aの表面全体に疎水性の被膜を施しても良い。そしてこの電極13は、電極13に接続されているスイッチをON又はOFFすることにより、電極13に電圧を印加したり、電圧の印加を停止したりすることができる。
【0066】
さらに弁部11には、液体Fを切断するため外気を導入する通気部14が設けられている。通気部14は、図7(a)、(b)に示す如く、弁部11の流路10区間内と連通する空気孔を有する溝や管で形成され、弁部11に確実に外気を導入するために、図7(a)に示す如く、弁部11の両側から外気を導入すべく弁部11に2つ設けられている。また通気部14は、弁部11のギャップよりも大きな径で形成されている。なお弁部11に外気が導入できれば、ギャップと同じ径であっても、小さい径であってもよい。また通気部14は、流路10中を液体Fが流れるときに、空気孔に液体Fが流れ込まないように、空気孔の径は流路10の径よりも小さく、かつ、内面は疎水性を有している。
【0067】
このようにして本実施形態の送液部1は構成されている。そして次にこの送液部1の動作について説明する。
【0068】
送液部1は、図8(a)に示す如く、先ずスイッチをOFFにした状態すなわち電極13に電圧を印加しない状態で、流路10の入口10aから液体Fを導入する。すると入口10aから入った液体Fは、親水性の内壁面12aを有する流路10中を毛管現象によって自律的に円滑に伝わって、弁部11の手前で停止する。
【0069】
そこで図8(b)に示す如く、スイッチをON、すなわち電極13に電圧を印加し、[背景]の項で説明したEWの現象(図16、図17参照)によって弁部11を疎水性から親水性に変化させる。すると液体Fは親水性の弁部11を通過し、親水性の内壁面12bを有する流路10内に流れ込んで毛管現象によってそのまま流路10の出口10bにまで進む。
【0070】
次に図8(c)に示す如く、スイッチをOFF、すなわち電圧の印加を停止することにより弁体11を親水性から疎水性に回復させる。すると液体Fは弁体11の手前で移動が停止し、通気部14から弁部11に外気が導入されて、この外気によって液体Fが完全に分割される。言い換えると流路10中で連続した液体Fを弁部11で切ることができる。
【0071】
このように流路10中で液体Fを切ることができるので、流路10の容積を調整することで、任意の量の液体Fを分割して送液することが可能となる。また内壁面が親水性である流路10においては、液体Fは流路10中を毛管現象によって自律的に進むので、送液部1では液体を移動させるための外部からの圧力や熱、電場等の力を必要としない。また弁部11においても殆ど電流が流れないため、弁部11で消費する電力は非常に小さい。よって送液部1は省エネルギー性に優れている。
【0072】
さらに送液部1では、電解質を含む液体であれば特に制約条件がないため、様々な機能性液体を送液することができる。
【0073】
なお本実施形態の送液部1では、電極13を上記のように液体Fの流れ方向に前後して配置したが、本発明はこれに限られるものではない。ここで図9に別の実施形態の送液部(送液装置)1’の概略構成図を示す。本実施形態の送液部1’では、図9(a)に示す如く、弁部11において正極13aと負極13bとを液体Fの流れ方向に対して並列に配置する。このとき正極13a及び負極13bは、図9(b)に示す如く、疎水性誘電膜で構成された弁部11に少なくとも一部が接するように配設される。
【0074】
この送液部1’では、電極13に電圧が印加されると、図9(b)に示す如く、正極13aと接している部分の弁部11と液体Fとの界面近傍に負のイオンが集まり、負極13bと接している部分の弁部11と液体Fとの界面近傍に正のイオンが集まって、それぞれの部分においてEWの現象が生じることにより疎水性が親水性となり液体Fが通過する。
【0075】
次に上述した送液部1を利用したプリンタヘッド素子2について説明する。図10は本実施形態のプリンタヘッド素子2の動作の説明図である。なお図10において弁部11に設けられた電極13やスイッチ等は図示を省略し、送液部1と同様の箇所は同符号で示して説明を省略する。また便宜上、液体の流れ方向の上流側を上方、下流側を下方として説明する。
本実施形態のプリンタヘッド素子2は、上述した実施形態の送液部1の流路10の入口10aに、上方から下方に向かうにつれて開口径が小さくなる略円錐状のインク溜20の排出口を連結して構成されている。なおこのときインク溜20には液体Fとして電解質を含む水溶性のインクが充填されている。
【0076】
まずインク溜20に充填されたインクiは、図10(a)に示す如く、インク溜20から入口10aを通って流路10a中に導入される。そして送液部1と同様に親水性の流路10中を毛管現象によって自律的に円滑に伝わって、弁部11の手前で停止する。ここで図示しない電極13に電圧を印加することによって弁部11を疎水性から親水性に変化させると、インクiは、図10(b)に示す如く、親水性の弁部11を通過し、毛管現象によってそのまま流路10の出口10b側の親水性の流路10に流れ込む。
【0077】
次に電圧の印加を停止することにより弁体11を親水性から疎水性に回復させる。すると図10(c)に示す如く、インクiは弁体11の手前で移動が停止し、通気部14から弁部11に外気が導入されて、この外気によって液体Fが分割される。このとき流路10の出口10bから染み出したインクiに印刷用紙103を接触させると、インクiは印刷用紙103に流れ込み、弁部11以降のインクiを印刷用紙103に転移することができる。
【0078】
このように上記プリンタヘッド素子2では、EWの現象を使用しているため、電解質を有する液体であれば水性液体のインクiを使用することができるので、インクiが転移した印刷物がその用途を終了して破棄されるときには、油性液体と比較して環境への負荷を小さく抑えることができる。
【0079】
また上記実施形態の送液部1と同様に、流路10中でインクiを切ることができるので、流路10の容積を調整することで、任意の量のインクiを分割して送液することが可能となる。従って印刷用紙103に任意の量のインクiを転移させることができる。
【0080】
一方、上記のようにEWの現象を印刷機器に利用するためには、例えば「印刷画像の綺麗さ」に関係する「液体の移動量」として0.3秒で5〜20plの性能を目標とし、「印刷速度」に対応する「液体の移動速度」として液体を0.3秒で滴下可能であることを目標としてもよい。液体の移動速度は、流路の形状により異なるが、流路長さを短くすることにより液体が滴下されるまでの応答時間を短縮することができる。また流路の親水性をより良くすることにより流速を早くすることもできる。そして本願発明者は、上記性能を満たす印刷機器用の送液装置としての印字装置4を提案した。この印字装置4は上述した印刷装置100,100−2,100−3に使用することもできる。ここで図11に印字装置4の(a)分解斜視図、(b)正面図、(c)主要部A拡大上面図を示す。
【0081】
印字装置4は、図11(a)に示す如く、まずガラス基板51上に金(Au)電極51aをスパッタし、正負の電極51a−1、51a−2を、それぞれ液体Fの流れ方向に前後して狭い間隔を隔てて配置した。
【0082】
そしてAu電極51aがスパッタされたガラス基板51の上全面を誘電体であるシリコーンゴム52で50μm被膜して、その上に正負の電極51a−1、51a−2部分を覆う疎水性誘電膜として旭硝子社製のサイトップ(登録商標)53を5μm被膜し、さらにその上に流路60の親水性の内壁面として3μmのアルミニウム(Al)54をスパッタした。このときアルミニウム54と正負の電極51a−1、51a−2とはシリコーンゴム52及びサイトップ(登録商標)53で隔てられているため電気的な導通はなく、電流が流れないので、アルミニウム54は電気的な機能を持たない。
【0083】
またシリコーンゴム52とサイトップ(登録商標)53の二層によって誘電膜が形成されるが、この誘電膜は表面に多くの電荷が誘導されるとEWによる効果が大きくなるため、誘電膜は誘電率の大きい材料で形成することが好ましい。同時に、誘導される電荷量が多くなる条件、すなわち高い電圧で機能できるように、絶縁耐圧が高い材料で形成することが好ましい。
【0084】
またアルミニウム54には、図11(c)に示す如く、正の電極51a−1の上になる一部に液体の流れ方向の幅が150μmのギャップ54aを形成した。このギャップ54aには、アルミニウム54の下に位置する疎水性誘電膜のサイトップ(登録商標)53が臨むため、流路60の内壁面は親水性の区間つまりアルミニウム54と疎水性の区間つまりサイトップ(登録商標)53とが存在し、この疎水性の区間が弁部61となる。そして以上をまとめてガラス基板チップ5とする。
【0085】
次にシリコーンゴムの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)基板55について説明する。PDMS基板55は、図11(a)に示したように、流路60と弁部61に外気を導入する通気部64としての空気抜き経路とが溝状に形成された疎水性のシートである。そして、図11(a)では図示の都合上PDMS基板55を上下面逆に記載しているが、図11(b)に示す如く、PDMS基板55の溝状の流路60が形成されている面をガラス基板チップ5に密着されることにより印字装置4としての流路60を形成した。
【0086】
なお空気抜き経路の幅は、液体の逆流を防ぐために流路60の幅よりも小さく形成し、流路60の溝と空気抜き経路の溝とが交差する箇所が、上述の弁部61上に位置するようにした。なお流路60の入口60aには容量を大きくしたインク溜60’を連結して形成した。以上のように印字装置4を形成した。
【0087】
そしてこの印字装置4の流路60中を送液する電解質を有する液体は、0.1M塩化カリウム(KCl)水溶液とし、この水溶液を吸収する基材としてはインクジェット用紙を使用した。
【0088】
上記のように構成した印字装置4は、正負の電極51a−1、51a−2に電圧を印加及び該印加を停止することにより、上記実施形態のプリンタヘッド素子2と同様の動作をする。
【0089】
そして流路60の幅wを25.5μm、高さhを2.7μm、入口60aから出口60bまでの長さLを300μmとして、正負の電極51a−1、51a−2に電圧を印加した状態すなわち流路60の内壁面を親水性として流路60に上記水溶液を流す実験を行った。この結果、毛管現象によって21plの上記水溶液を送液することができた。このとき送液に要した時間は0.12秒であった。
【0090】
また上記と同様に流路60の内壁面を親水性にし、毛管現象によって49nlの黒色水溶性染料を加えた液体を、出口60bからインクジェット用紙に転移させる実験を行った。この結果、φ950μmのドットで前記液体をインクジェット用紙に転移させることができた。
【0091】
また弁部61により流路60中で水溶液を所定量に分割し、紙に転移させる実験を行った。この結果、弁部61により分割された水溶液つまり弁部61より下流側に流路容積である6nlの水溶液を紙に転移させることができた。このときの印加電圧は200V、電流はμAオーダー以下であった。
【0092】
これにより印字装置4において、目標とする性能を満たし、かつ弁部61によって流路60中で一定量の液体を完全に分割して出口60bから排出できることが確認できた。
【0093】
次に図12に別の実施形態の印字装置を示す。なお本実施形態の印字装置は、上述した実施形態のプリンタヘッド素子2又は印字装置4と略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0094】
上述した実施形態のプリンタヘッド素子2又は印字装置4においては、インクジェット用紙等の印刷用紙103を、流路10、60の出口10b、60bに接触させて、インクiを印刷用紙103に転移させるときに、印刷用紙103と接触する出口10b、60bの外縁部が親水性を有する場合には、この外縁部がインクiで濡れてしまい、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを、正確な量だけ印刷用紙103に転移させるのは困難である。
【0095】
そこで本実施形態の印字装置は、図12に示す如く、上述した実施形態のプリンタヘッド素子2又は印字装置4の印刷用紙103と接触する出口10b、60bの外縁部7を疎水性誘電膜で被覆している。こうすることにより外縁部7はインクiを弾くのでインクiで濡れることが略なくなり、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを正確な量で確実に印刷用紙103に転移させることができる。
【0096】
次に図13に別の実施形態の印字装置、図14に第二の電極9の斜視図の一例を示す。なお本実施形態の印字装置も、上述した実施形態のプリンタヘッド素子2又は印字装置4と略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0097】
上述した実施形態のプリンタヘッド素子2又は印字装置4においては、インクジェット用紙等の印刷用紙103を、流路10、60の出口10b、60bに接触させて、インクiを印刷用紙103に転移させるときに、流路10、60内で一定量に分割されたインクiが印刷用紙103に全て転移せずに出口10b、60b付近に残ってしまう場合がある。このインクiが残る可能性のある区間を出口区間と呼ぶが、出口区間の長さは、インクiの粘度や界面張力、流路10、60の大きさや親水性、印刷用紙103の濡れ性等の因子により変動する。
【0098】
そこで本実施形態の印字装置は、図13に示す如く、弁部11、61よりも出口10b,60b側の親水性を有する一定区間Bを除いて出口10b、60bに隣接する流路10、60の出口区間の内壁8a、及び出口10b、60bの外縁部8を疎水性誘電膜で被覆して、出口区間の内壁8a及び外縁部8のうち出口10b、60bに隣接する周縁部8bに、インクiの界面張力を減少させるための弁部11、61に設けられた電極13、51a−1、2とは別に、正負の二極からなる第二の電極9a、9bを設けている。
【0099】
第二の電極9a、9bは、例えば図14の左図に示す如く、インクiの流れ方向に沿って2つに分割された角柱状に構成され、一方を正の電極9a−1、他方を負の電極9b−1とすることができる。また図14の右図に示す如く、インクiの流れ方向に沿って2つに分割された円柱状に構成され、一方を正の電極9a−2、他方を負の電極9b−2とすることもできる。
【0100】
上記のように構成された印字装置では、図13においてインクiが出口区間を通過するときには電極9a、9bに電圧を印加して、電極9a、9bと接している出口区間の内壁8a及び周縁部8bを親水性にしておき、図示しない紙等の吸収性の被転移基材を出口10b、60bに接触させることにより、弁部11、61で一定量に分割されたインクiを被転移基材に転移させる。このとき出口10b、60b付近の流路10、60内にインクiが残留している場合には、前記電圧の印加を停止して内壁8a及び周縁部8bを親水性から疎水性に変化させる。
【0101】
これにより残留していたインクiは濡れ性の差によって被転移基材に転移するので、流路10、60内で一定量に分割されたインクiを被転移基材に完全に転移させることができる。なおこのとき周縁部8bを除いた外縁部8は、常に疎水性を有しているので、上記実施形態と同様に、外縁部8がインクiを弾きインクiで濡れることが略ないため、弁部11、61にて一定量に分割されたインクiを正確な量で確実に被転移基材に転移させることができる。
【0102】
次に図15に別の実施形態のプリンタヘッド素子2’の概略模式図を示す。なお本実施形態のプリンタヘッド素子2’は、上述した実施形態のプリンタヘッド素子2と略同様の構成であるため、同じ箇所は同符号で示して説明を省略し、異なる箇所についてのみ説明する。
【0103】
本実施形態のプリンタヘッド素子2’は、図15(a)に示す如く、出口10bを有する流路出口部10’が、印刷装置100本体から突出している。具体的には、例えばプリンタヘッド素子2’本体の上端外周面に鍔部21を設け、この鍔部21の下端面が、開口を有する印刷装置100本体の支持板100aに当接することにより、印刷装置100がプリンタヘッド素子2’を支持するように構成することができる。このときプリンタヘッド素子2’内部のインク溜20に、印刷装置100に設けられ、インクiを供給するインク供給路20aが接続される。
【0104】
これにより出口10bが平坦面に位置するときよりも、インクiを転移させる印刷用紙103と出口10bとを確実に接触させることができる。なお流路出口部10’の先端外周を、図15(a)に示す如く、斜めに切り取って先鋭形状とすることにより出口10bが印刷用紙103にくい込むような効果を持たせることができる。
【0105】
また上記流路出口部10’は、例えばゴム等の弾性部材で形成してもよい。このとき流路出口部10’は、流路10が変形しなければ、例えば流路10の出口10b付近のみ、つまり一部を弾性部材で形成してもよいし、全部を弾性部材で形成してもよい。こうすることにより流路出口部10’は柔軟に変形可能となるので、出口10bと印刷用紙103とがより接触し易くなる。
【0106】
また上記流路出口部10’は、出口10bがインクiの流れ方向に弾性を有するものであってもよい。具体的には、例えば図15(b)に示す如く、プリンタヘッド素子2’本体の下側外周面に第二の鍔部22を設け、この第二の鍔部22の上端面と支持板100aの下端面との間にばね部材2aを配設することができる。このときインク供給路20aは弾性を有するパイプ等で形成する。これにより流路出口部10’を印刷用紙103に圧着させることができるので、出口10bと印刷用紙103とをより確実に接触させることができる。
【0107】
また例えば図15(c)に示す如く、上記ばね部材2aの代わりにゴム等の弾性部材2bを配設してもよい。この場合、弾性部材2bが通気部14による通気を阻害しないように、弾性部材2bを多孔性を有するものとしたり、通気経路をもつ形状にしたりする。例えば図15(c)に示す如く、弾性部材2bの内面と通気部14の開口との間に、外気と通じる間隙を設けてもよい。
【0108】
本発明にかかる実施形態の印刷装置100,100−2,100−3には、以上のようなプリンタヘッド素子2,2’又は印字装置4,が複数、二次元的に配設されている。このような印刷装置100,100−2,100−3によれば、電極13,51aに電圧を印加することにより、弁部11,61を疎水性から親水性に変化させて液体Fを送液し、電圧の印加を停止することにより、弁部11,61を疎水性に変化させて通気部14,64から外気を弁部11,61に導入して液体Fの送液を停止することができ、流路10,60中の弁部11,61において弁部11,61に導入した外気により流路10,60中の液体を分割、つまり切ることができるので、流路10,60の容積を調整することで、電解質を有する液体Fであればいずれの液体Fであっても任意の量を分割して被印刷基材103に転移させることが可能となる。これにより高画質印刷やデジタルファブリケーションに最適な、最小ドットサイズの非常に小さい、高精細パターンの画像を印刷することができる。
【0109】
またインクジェット方式のように液体Fの液滴が空気中を飛翔して被印刷基材103に着滴するのではなく、液体Fは流路10,60の出口10b,60bから空気に略触れずに被印刷基材103に転移するので空気力学的原因による転移精度の低下を防ぐことができる。
【0110】
なお流路中に送液する液体を、機能性粒子を分散させた液体とした場合には、例えば上記と同様にして、DNAチップ、プロテインチップ、細胞チップ等に使用するパターニング装置に適用することができる。なおこの液体を水性液体とすることにより、機能性材料をパターニングしたデバイスが、その用途を終了して破棄される際、溶媒が蒸発する場合にはその途中の工程においても、油性液体と比較して環境への負荷を小さく抑えることができる。
【0111】
なお上述した全ての実施形態は、電極として正負の二極からなる二電極系を採用しているが、正極一液体間の電位差及び負極一液体間の電位差を把握して最適な電圧制御を行うため、作用電極、対向電極及び参照電極を用いた三電極系を採用することもできる。この場合、例えば弁部に臨設する電極として作用電極、他方の電極として対向電極、さらに液体に接触する任意の位置に参照電極を配置すること等が考えられる。
【0112】
本発明の印刷装置及び該印刷装置における印刷制御方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0113】
1、1’ 送液部(送液装置)
10、60 流路
10a、60a 入口(流路入口)
10b、60b 出口(流路出口)
11、61 弁部(疎水性)
12a、12b 内壁面(親水性)
13、51a 電極
13a、51a−1 正の電極
13b、51a−2 負の電極
14、64 通気部
100、100−2、
100−3 印刷装置
101 印刷ドラム
131 印刷部材
131a 表面
2、2’ プリンタヘッド素子
20、60’ インク溜
3 印刷用紙(被印刷基材)
4 印字装置
F 液体
i インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷基材に電解質を有する液体を転移させる印刷装置であって、
前記液体を流路中に送液する、
前記流路の内壁面の少なくとも一部が、該流路の入口から出口までの全体に亘って、送液を遮断する疎水性を有する少なくとも一つの弁部を除いて親水性を有し、
前記弁部に、前記液体の界面張力を減少させるための電極と、前記液体を切断するため外気を導入する通気部が設けられている送液装置が複数、2次元的に配設されていることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
印刷装置本体に対して回動自在に装着された印刷ドラムを備え、
前記流路の入口が前記印刷ドラム内部に位置し、前記流路の出口が前記印刷ドラム外周面に露出するように前記送液装置が複数2次元的に配設され、
前記液体が前記流路の入口に供給されるものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記被印刷基材が、前記印刷ドラムの前記外周面に所定期間密着して該外周面と同速度で搬送されるものであって、
前記液体は、前記被印刷基材が前記印刷ドラムに密着されている期間に、前記流路から前記被印刷基材に転移されるものであることを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記被印刷基材が、シート状で可撓性を有するものであって、
前記被印刷基材の搬送経路は前記印刷ドラムの外周面に沿って湾曲していることを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
印刷装置本体に装着された平坦な表面を有する印刷部材を備え、
前記流路の入口が前記印刷部材の前記表面よりも内方側に位置し、前記流路の出口が前記印刷部材の前記表面上に露出するように前記送液装置が複数2次元的に配設され、
前記液体が前記流路の入口に供給されるものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記被印刷基材が、前記印刷部材の前記表面に所定期間密着されるものであって、
前記液体は、前記被印刷基材が前記印刷部材に密着されている期間に、前記流路から前記被印刷基材に転移されるものであることを特徴とする請求項5に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記送液装置において、
前記電極が、正負の二極を有し、
該正負の二極の一方の電極が、前記疎水性の弁部に臨設されていることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記送液装置において、
前記正負の二極の電極が、前記液体の流れ方向に前後して配置されていることを特徴とする請求項7に記載の印刷装置。
【請求項9】
前記送液装置において、
前記電極と前記流路とが、誘電膜によって隔てられていることを特徴とする請求項1から8いずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項10】
前記送液装置において、
前記出口の外縁部が疎水性を有することを特徴とする請求項1から9いずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項11】
前記送液装置において、
前記流路の出口区間の内壁及び前記出口の外縁部が疎水性を有するものであり、
前記出口区間及び前記外縁部のうち前記出口に隣接する周縁部に、前記液体の界面張力を減少させるための第二の電極が設けられていることを特徴とする請求項1から9いずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項12】
前記送液装置において、
前記出口を有する流路出口部が、印刷装置本体から突出していることを特徴とする請求項1から11いずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項13】
前記送液装置において、
前記流路出口部が、弾性部材で形成されていることを特徴とする請求項12に記載の印刷装置。
【請求項14】
前記送液装置において、
前記流路出口部が、前記液体の流れ方向に弾性を有するものであることを特徴とする請求項12に記載の印刷装置。
【請求項15】
前記液体が、機能性粒子を分散させた液体であることを特徴とする請求項1から14いずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項16】
請求項1から15いずれか1項に記載の印刷装置の印刷制御方法において、
前記電極に電圧を印加することにより、前記流路中の前記弁部を疎水性から親水性に変化させて前記液体を送液し、電圧の印加を停止することにより前記弁部を疎水性に変化させると共に前記通気部から外気を該弁部に導入して前記液体を一定量だけ分割して前記被印刷基材に転移させることを特徴とする印刷制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−208062(P2010−208062A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54349(P2009−54349)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】