説明

卵巣がんを検出するためのバイオマーカーの使用

本発明は、(a)生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの生体マーカーを検出し、(b)その測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、生体における卵巣がんの状態を認定する方法に関するものである。本発明は患者における卵巣がんの状態を認定するためのキットに関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年8月6日に出願された米国仮出願第60/401837号、2003年1月21日に出願された米国仮出願第60/441727号、2003年4月4日に出願された米国仮出願第60/460342号の利益を主張するものであり、その全内容は参照として本明細書に取り込まれる。
【0002】
本発明は、卵巣がんの検出において重要なバイオマーカーを提供する。マーカーは、SELDI分析を用いて、健常人由来のものと、卵巣がん患者の血清蛋白質プロファイリングを識別することで同定された。本発明は、卵巣がんの状態を認定するためにバイオマーカーが使用されるシステム及び方法に、これらのバイオマーカーを関連づけるものである。本発明はまた、既知の蛋白質であるバイオマーカーを同定する。
【背景技術】
【0003】
卵巣がんは、先進国において、もっとも致死性の高い婦人科学の悪性腫瘍の一つである。米国だけで年間約23000人の女性が当該疾患であると診断され、そのうちの約14000人が死亡する(Jamal, Aら、CA Cancer J Clin, 2002; 52: 23-47)。ガン治療の進歩にもかかわらず、卵巣がんによる致死率はこの20年以上目だって変化していない(上述)。疾患が診断された病期によって、生存率が急勾配になることから、卵巣がん患者の長期生存率を上げるには、早期発見が未だにもっとも重要な因子となっているといえる。
【0004】
後期ステージで診断された卵巣がんの予後がよくないこと、確認診断に伴う費用とリスク、そして一般人では相対的に羅患率が低いことがあいまって、一般人の卵巣がんのスクリーニングに用いられる試験に於いては、感度及び特異度に非常に厳しい条件が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガンの早期検出と診断に適した腫瘍マーカーの同定は、患者の臨床結果をよくするうえで非常に有望である。特に、あいまい若しくは何も徴候を示さない患者、又は物理的な試験では相対的に到達しにくい腫瘍を有する患者にとっては重要である。早期検出にかなりの努力がなされているにもかかわらず、未だコスト効率の良いスクリーニング試験は開発されておらず(Paley PJ., Curr Opin Pncol, 2001; 13(5):399-402)、女性は一般に診断において播種性の疾患を呈する(Ozols RFら、Epithelial ovarian cancer In: Hoskins YJ, Perez CA, Young RC編、Principles and Practice of Gynecologic Oncology. 3rd ed. Philadelphia Lippincott, Williams and Wilkins; 2000. p.981-1057)。
【0006】
腫瘍マーカーとして最も特徴付けられているCA125は、ステージIの卵巣腫瘍の約30−40%で陰性であるが、そのレベルは様々な良性の疾患でも上昇する(Meyer Tら、Br J Cancer, 2000; 82(9): 1535-8; Buamah P., J Surg Oncol, 2000; 75(4): 264-5; Tuxen MKら、Cancer Treat Rev, 1995; 21(3):215-45)。卵巣がんの早期検出及び診断のための集団性のスクリーニングに使用するには、感度及び特異度が低いので差し控えられている。(MacDonald NDら、Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 1999; 82(2): 155-7; Jacobs Iら、Hum Reprod, 1989; 4(1):1-12; Shih I-Mら、Tumor markers in ovarian cancer. In:Diamandis EP, Fritsche, H., Lilja, H., Chan, D.W., Schwartz, M編、Tumor markers physiology, pathobiology, technology and clinical applications. Philadelphia: AACC Press; in press)。骨盤及びより最近では膣のソノグラフィーが、危険性の高い患者のスクリーニングに使用されているが、どちらの技術も一般人に適用するためには十分な感度も特異度もない(MacDoland NDら、上述)。ガンのモデルの長期的な危険性(Skates SJら、Cancer, 1995; 76(10 Suppl): 2004-10)、及び第二の試験としての超音波と同時に(Jacobs I DAら、Br Med J, 1993; 306(6884): 1030-34; Menon U TAら、British Journal of Obstetrics and Gynecology, 2000; 107(2): 165-69)、追加の腫瘍マーカーと組み合わせてCA125を使用する最近の試みが(Woolal RP XFら、J Natl Cancer Inst, 1993; 85(21): 1748-51; W
oolas RPら、Gynecol Oncol, 1995; 59(1):111-6; Zhang Zら、Gynecol Oncol, 1999; 73(1): 56-61; Zhang Zら、Use of Multiple Markers to Detect Stage I Epithelial Ovarian Cancers: Neural Network Analysis Improves Performance. American Society of Clinical Oncology 2001; Annual Meeting, Abstract)、全ての試験の特異度をあげるという有望な結果を示したが、これは、比較的罹患率の低い卵巣がんのような疾患にとっては重要である。
【0007】
後期卵巣がんは、予測があまりできないため、医師は最低10%陽性の検出値の試験を受け入れるということが一般的である(Bast R.C.ら、Cancer Treatment and Research, 2002; 107: 61-97)。これを一般に広げるには、一般的なスクリーニング試験は70%以上の感度を必要とし、99.6%の特異度を必要とする。今のところ、CA125、CA72−4、又はM−CSFのような現存する血清マーカーは、どれもそのような有効性を示さない(Bast R.C.ら、Int J Biol Markers, 1998; 13:179-87)。
【0008】
そこで、個別に、又は他のマーカー若しくは診断様相と組み合わせて、卵巣がんの早期検出のために必要な感度と特異度を有する新しい血清マーカーが嘱望されている(Bast RCら、Early detection of ovarian cancer: promise and reality. Ovarian Cancer: ISIS Medical Media Ltd., Oxford, UK; 2001. in press)。許容できるスクリーニング試験がないことから、卵巣がん患者の長期生存率を上げるには、早期発見が最も重要な因子となっている。
【0009】
よって、患者の卵巣がん状態を検出する、信頼できる正確な方法、そしてその結果が生体の処置に使用できるようなものの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要約)
本発明は、マーカーを測定することにより、卵巣がんの状態を決定するために有用な、感度が高く迅速な方法及びキットを提供する。患者のサンプルにおいてこれらのマーカーを測定することで、診断者がヒトのガンの予想される診断、又は陰性(たとえば正常又は疾患ではない)と関連付けられる情報が提供される。マーカーは分子量、および/または、それらの蛋白質の独自性で特徴付けられる。マーカーは、たとえばマススペクトロメトリーを伴うクロマトグラフィーによる分離、固定化された抗体を使用する、又は伝統的なイムノアッセイによる蛋白質の捕獲等の、様々な分画技術を使用して、サンプル内のほかの蛋白質から分析されることができる。好ましい態様では、分析法は、表面活性化レーザー脱離/イオン化(SELDI)マススペクトロメトリーを含み、その方法では、マススペクトロメトリープローブの表面は、マーカーに結合する吸収剤を含んでいる。
【0011】
特に、(1)アポリポプロテインA1(ここでは「ApoAI」と表される)、(2)切断された形のトランスサイレチン(ここでは「トランスサイレチンΔN10」と表される)、(3)インターαトリプシン阻害剤重鎖H4(ここでは「IAIH4断片」と表される)として本明細書に開示される方法に従って、3つのバイオマーカーが発見され、同定された。
【0012】
本発明は、(a)生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つのバイオマーカーを検出し、ここでそのバイオマーカーは、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片、及びそれらの組み合わせから選択されるものであり、(b)その測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、生体における卵巣がんの状態を認定する方法を、提供する。他の方法では、測定工程はサンプルにおけるマーカーの量を定量することを含む。他の態様では、測定工程はサンプルにおけるバイオマーカーのタイプを認定することを含む。
【0013】
本発明はまた、測定方法が、血液及び血液由来の生体サンプルを提供し、陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分けてApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片を含む分画を集め、そして蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片を捕獲することを含む方法に関するものである。血液由来物質は、例えば血清又は血漿である。好ましい態様では、基質はIMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである。他の態様では、基質が、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片に結合する生体特異的親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである。他の態様では、基質がApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片に結合する生体特異的親和性試薬を含むマイクロタータープレートであり、蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで検出されるものである。
【0014】
ある態様では、本方法はさらに、本方法により決定された状態に基づいて、生体を処置する方法を含む。たとえば、もし本発明の方法の結果が決定的でないか、又は状態を確かめることが必要であるという理由がある場合には、医師はさらなる試験を指示するであろう。もしくは、もし手術が適切であることを示す状態であれば、医師は患者の手術を予定するであろう。同様に、たとえば状態が卵巣がんの末期であるというように、試験の結果が陽性、もしくは状態が急性である場合には、さらなる処置は請け負われないだろう。さらに、結果が、処置が成功でしたことを示すものであれば、さらなる処置は必要とされない。
【0015】
本発明はまた、生体処置の後に、ふたたび少なくとも一つのバイオマーカーを測定する方法を提供する。これらの例では、生体の処置工程はそれから繰り返され、及び/または、得られた結果によって変えられる。
【0016】
「卵巣がんの状態」という用語は、患者における疾患の状態を表す。卵巣がんの状態タイプの例としては、ガンのおそれ、疾患の存否、患者における疾患の状態、疾患の処置の有効性等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の方法において有用なバイオマーカーは、ApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片から選択される。ある好ましい態様では、さらに、生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの既知のバイオマーカー(ここで「マーカー4」として表されるもの)を測定し、少なくとも一つのマーカー4の測定結果と、ApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片の測定結果を、卵巣がんの状態と関連づけることを含む。ある態様では、ApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片から選択されるマーカーに加えて、マーカー4のみが測定され、他の態様では、マーカー4より多くのマーカーが測定される。
【0018】
マーカー4の例は、たとえば、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連トリプシン阻害剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリンフォスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾフォスファチジック酸(LPA)、上皮成長因子受容体(p110GFR)の細胞外ドメインの110kD構成体、例えばカリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1)等の組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、組織ペプチド抗体(TPA)、オステオポンチン、ハプトグロビン、及びそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0019】
ある態様では、本方法は、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片の3つ全てのバイオマーカーを測定することを提供する。ある態様では、生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの既知のバイオマーカー(マーカー4)がまた測定され、マーカー4の測定結果と、他3つのバイオマーカーの測定結果(ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片)の測定結果が、卵巣がんの状態と関連づけられる。上述したように、ある態様では、測定されるバイオマーカーは、3つのバイオマーカー(ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片)全て、及びマーカー4として指定されている群より二つ又はそれ以上のマーカーを含む。
【0020】
本発明はまた、マーカーI乃至XLVIIIとして示される生体マ−カーに関するものである。本発明の蛋白質マーカーは、一つ又はそれ以上のいくつかの局面で特徴付けられることができる。特に一つの態様では、これらのマーカーは、特にマススペクトロメトリースペクトル分析で決定されるように、ここに特徴付けられる条件下で分子量により特徴付けられる。他の態様では、マーカーは、サイズ(領域を含む)、及び/又はマーカーのスペクトルピークの形、近接を含む特徴、近隣ピークのサイズや形のような、マーカーのマススペクトロメトリースペクトル形跡の特徴で、特徴付けられることができる。さらに他の態様では、マーカーは、特に特定の条件下でIMAC銅吸収剤に結合する能力である、親和結合性の特徴で特徴付けられることができるが、例えばニッケルのようなほかの金属もまた使用されることができるだろう。好ましい態様では、本発明のマーカーは分子量、マススペクトル形跡、IMAC−銅吸収剤結合のような局面の各々で特徴づけられることができるだろう。
【0021】
ここに開示されるマーカーの質量値として、スペクトル装置の質量精度は、開示される分子量値の約±0.15パーセント以内であると考えられる。加えて、器具のそのような認識される精度のばらつきには、スペクトルマス決定は感度の限度が約400ないし1000m/dmで変化でき、ここでmは質量であり、dmは0.5ピーク高さにおけるマススペクトルピークの幅である。マススペクトル装置とその操作に伴う質量の精度と感度のばらつきは、マーカーI乃至XLVIII各々のマスの開示において「約」という用語の使用で反映されている。そのような質量の精度と感度のばらつきと、ここに開示される各マーカーの質量に関する「約」という用語の意味は、生体の性、遺伝子型、及び/又は民族性や、特有のがん又は起源若しくはそれらの状態によって存在するようなマーカーの変化を含む。
【0022】
本発明はさらに、(a)生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、ここでそのバイオマーカーはマーカーI乃至XLVIIIおよびその組み合わせからなる群から選択されたものであり、(b)その測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、生体における卵巣がん状態を認定する方法を提供する。ある方法では、測定工程は、サンプル内のマーカーの存否を検出することを含む。他の方法では、測定工程はサンプル内のマーカーを定量することを含む。他の方法では、測定工程はサンプル内のバイオマーカーの型を認定することを含む。
【0023】
診断試験の正確さは、受診者動作特性曲線(「ROC曲線」)により特徴づけられる。ROCは診断試験の異なる可能なカットポイントへの擬陽性比率に対する真の陽性比率のプロットである。ROC曲線は感度と特異度の関連を示す。つまり、感度の増加は特異度の減少を伴うであろう。曲線がより左軸とROC空間の上の端に近づくほど、試験はより正確である。逆に曲線がROCグラフの45度対角線に近づくほど、試験はより不正確である。ROCの下の領域は試験精度を評価する。試験の正確さは、試験される群を、問題となる疾患を有するへ及び有さない群と、いかによく分離できるかに依存する。(「AUC」として表される)曲線の下の領域が1の場合は、完全な試験を表す一方、0.5はより有用でない試験を表す。よって、本発明の好ましいバイオマーカーと診断方法は、0.5よりも大きいAUC、より好ましくは0.6より大きいAUC、さらに好ましくは0.7より大きいAUCを有する。
【0024】
バイオマーカーの測定の好ましい方法には、バイオチップアレイの使用が含まれる。本発明で有用なバイオチップアレイは、蛋白質チップアレイおよび核酸アレイを含む。一つ又はそれ以上のマーカーがバイオチップアレイ上に捕獲され、マーカーの分子量検出のためにレーザーイオン化に供される。マーカーの分析は、たとえば全イオン電流に対してノーマライズされた閾値強度に対して一つ又はそれ以上のマーカーの分子量によるものである。好ましくは、検出されるマーカーの数を限定するようにピーク強度範囲を限定するために、対数変換が使用される。
【0025】
本発明の好ましい方法では、バイオマーカーの測定結果と卵巣がんの状態を関連づける段階は、ソフトウエア分類アルゴリズムにより行われる。好ましくは、データはバイオチップアレイに固定化された生体サンプルにおいて、バイオチップアレイをレーザーイオンにさらし、質量/電荷比のシグナル強度を検出し、データをコンピュータで読める形態へ変換し、卵巣がん患者には存在するがガンでない対照の生体では欠如しているシグナルを検出するために、使用者の入力パラメータに従ってデータを分類するアルゴリズムを実行することで、産生される。
【0026】
好ましくは、たとえばバイオチップ表面は、イオン、アニオン、固定化されたニッケルイオン、陽性及び陰性イオンの混合物、一つ又はそれ以上の抗体、一本又は二本鎖核酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片、アミノ酸プローブ又はファージディスプレイライブラリーである。
【0027】
ほかの好ましい態様では、一つ又はそれ以上のマーカーは、吸収剤が装着された、マススペクトロメーターでの使用に適したプローブを提供すること、生体サンプルを吸収剤と接触させること、プローブからマーカーを脱離してイオン化し、マススペクトロメーターで脱イオン化/イオン化されたマーカーを検出することを含む、レーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリーを使用して測定される。
【0028】
好ましくは、レーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリーは、結合する吸収剤を含む基質を提供し、生体サンプルを吸収剤と接触させ、結合された吸収剤を含むマススペクトロメーターでの使用に適したプローブに基質を設置し、マーカーをプローブから脱離してイオン化して、脱離/イオン化されたマーカーをマススペクトロメーターで検出することを含む。
【0029】
吸収剤は例えば、ニッケル、抗体、一本又は二本鎖オリゴヌクレオチド、アミノ酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片のような、親水性、親油性、イオン又は金属キレート吸収剤である。
【0030】
本発明の方法は、たとえば血液、血清、血漿のような、そのような方法を受けることができるであろう患者のサンプルのいかなるタイプにおいても行うことができる。
【0031】
ある態様では、生体由来のサンプルにおいて複数のバイオマーカーが測定され、ここでバイオマーカーは、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択されるものと、少なくとも一つの既知マーカー、マーカー4である。複数のバイオマーカーの測定はまた、少なくとも一つのマーカー4の測定を含むことができる。好ましくは、蛋白質バイオマーカーはSELDI又はイムノアッセイにより測定される。
【0032】
本発明はまた、生体由来のサンプルにおいて少なくとも一つのバイオマーカーを測定する方法を提供し、ここでバイオマーカーは、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択されるものである。ある態様では、本方法はさらに、ApoAI及び/又は少なくとも一つの卵巣がんマーカー、すなわち、たとえばCA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、及びそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム)であるマーカー4を測定することを含む。
【0033】
本発明はまた、(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片、およびこれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーと結合する捕獲試薬、(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、を含むキットを提供する。好ましい態様では、捕獲試薬は複数のバイオマーカーに結合する。ある態様では、その複数には、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片が含まれる。捕獲試薬はいかなるタイプの試薬でもいいが、好ましくはその試薬はSELDIプローブである。捕獲試薬はまた、たとえばマーカー4などの、既知のほかのマーカーに結合してもよい。ある好ましい態様では、キットはさらに第一の捕獲試薬が結合しないバイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含む。
【0034】
さらに本発明で提供されるキットは、(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、(b)第一の捕獲試薬と結合しないバイオマーカーの少なくとも一つを結合する第二の捕獲試薬を含む。好ましくは、少なくとも一つの捕獲試薬は抗体である。あるキットはさらに、少なくとも一つの捕獲試薬が結合した、又は結合できるMSプローブを含む。
【0035】
本発明のあるキットでは、捕獲試薬は固定化された金属キレート(「IMAC」)である。
【0036】
本発明のあるキットは、さらに洗浄後、他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーが選択的に保持されるようにする洗浄液を含む。
【0037】
本発明はまた、(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための指示書、を含むキットを提供する。これらのキットのある態様では、捕獲試薬は抗体を含む。さらに、いくつかのキットでは、捕獲試薬はIMACを含む。キットはさらに、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含んでもよい。好ましくは、キットは、卵巣がん状態を決定するためにキットを使用するのための指示書を含み、指示書は、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定することを提供する。
【0038】
キットはまた、抗体、一本又は二本鎖オリゴヌクレオチド、アミノ酸、蛋白質、ペプチド又はそれらの断片である捕獲試薬を提供する。
【0039】
キットを使用する一つ又はそれ以上の蛋白質バイオマーカーの測定は、マススペクトロメトリー又はELISAのようなイムノアッセイによる。
【0040】
卵巣がんの検出のための精製された蛋白質、及び/又は、さらなる診断アッセイのための抗体の産生もまた、提供される。精製された蛋白質は、配列番号1(IAIH4断片)の精製されたペプチドを含む。本発明はまた、検出可能な標識を含む、精製されたペプチドを提供する。
【0041】
本発明はまた、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択される少なくとも二つのバイオマーカーに結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品を提供する。本発明製品のほかの態様は、さらに、たとえばCA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、及びそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)であるがこれらに限定されるものではないマーカー4である、他の既知の卵巣がんマーカーに結合する捕獲試薬を含む。
【0042】
本発明はまた、個々がApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片から選択される、異なるバイオマーカー、及び、少なくとも一つのマーカー4に結合するものである、複数の捕獲試薬、を含むシステムを提供する。
【0043】
本発明はまた、(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを決定する、ことを含むスクリーニング試験を提供する。そのような一つの試験では、基質はインターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である。この試験では、 カリクレインは好ましくは基質をIAIH4断片へ開裂させるものである。
【0044】
本発明のほかの局面は、以下に開示される。
【0045】
定義
他に定義されない限り、ここに使用される全ての技術及び化学用語は、本発明の所属する技術分野の当業者により普通に理解される意味を有するものである。以下の参照文献は、本発明において使用される用語の多くの一般的な定義を、当業者に提供するものである。Singletonら、Dictonary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994)、The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed. 1988)、The Glossary of Genetics, 5th ed., R.Riegerら(eds.), Springer Verlag (1991)、Hale & Marhan, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。ここに使用されるように、以下の用語は他に特定されない限り、それらの用語に割り当てられる意味を有している。
【0046】
「ガス相イオンスペクトロメーター」は、ガス相イオンを検出する器具を表す。ガス相イオンスペクトロメーターは、ガス相イオンを供給するイオン源を含む。ガス相イオンスペクトロメーターは、例えば、マススペクトロメーター、イオン移動性スペクトロメーター、及び総イオン電流測定装置を含む。「ガス相イオンスペクトロメトリー」はガス相イオンを検出するためにガス相イオンスペクトロメーターを使用することを表す。
【0047】
「マススペクトロメーター」は、ガス相イオンのマス対荷電比に翻訳されることができるパラメーターを測定するガス相イオンスペクトロメーターを表す。マススペクトロメトリースペクトロメーターは一般にイオン源とマススペクトロメトリー分析器を含む。マススペクトロメーターの例には、飛行時間、磁気領域、四極フィルター、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、静電領域分析、及びこれらの融合がある。「マススペクトロメトリー」とはガス相イオンを検出するためにマススペクトロメーターを使用することを表す。
【0048】
「レーザー脱離マススペクトロメーター」は、分析物を脱離、電圧をかけ、及びイオン化する手段として、レーザーエネルギーを使用するマススペクトロメーターを表す。
【0049】
「タンデムマススペクトロメーター」は、イオン及びイオン混合物を含む、m/zに基づくイオンの分離や測定の二つの連続する段階を実行することが可能な、いかなるマススペクトロメーターをも表す。この用語には、イオンタンデムインスペースの、m/zに基づく分離や測定の二つの連続する段階を実行できる二つのマス分析器を有するマススペクトロメーターが含まれる。本用語はさらに、イオンタンデムインスペースの、m/zに基づく分離や測定の二つの連続する段階を実行できる単一のマス分析器を有するマススペクトロメーターを含む。この用語はこのように、明らかに、Qq−TOFマススペクトロメーター、イオントラップマススペクトロメーター、イオントラップ−TOFマススペクトロメーター、TOF−TOFマススペクトロメーター、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴マススペクトロメーター、静電領域−磁気領域マススペクトロメーター、そしてこれらの組み合わせを含む。
【0050】
「マス分析器」はガス相イオンのマス対荷電比へ変換できるパラメーターの測定のための手段を含むマススペクトロメーターの副集合を表す。飛行時間マススペクトロメーターにおいて、マス分析器はイオン視覚集合、飛行チューブ及びイオン検出器を含む。
【0051】
「イオン源」は、ガス相イオンを提供するガス相イオンスペクトロメーターの副集合をあらわす。一つの態様では、イオン源は脱離/イオン化工程を通じてイオンを提供する。そのような態様は一般的に、イオン化エネルギーの源(たとえばレーザー脱離/イオン化源)への質問可能な関係や、ガス相イオンスペクトロメーターの検出器と、大気圧または副大気圧でともに伝達することに位置的に従事するプローブインターフェイスを含む。
【0052】
固相から分析物を脱離/イオン化するためのイオン化エネルギーの形態には、たとえば(1)レーザーエネルギー、(2)早い原子(早い原子物理衝撃で使用される)、(3)放射核のβ崩壊で産生される高エネルギー粒子(プラズマ脱離で使用される)、(4)二次イオンを産生する一次イオン(二次イオンマススペクトロメトリーで使用される)が含まれる。固相分析物に対して好ましいイオン化エネルギーの形態は、レーザー(レーザー脱離/イオン化で使用される)、特に窒素レーザー、Nd−Yagレーザー及び他のパルスされたレーザー源である。「能力(fluence)」は質問可能なイメージのユニット領域当たりに運ばれるエネルギーを表す。レーザーのような高能力源は、約1mJ/mm2から50mJ/mm2運ぶだろう。通常、サンプルはプローブの表面に位置され、プローブはプローブインターフェイスと連動し、プローブ表面はイオン化エネルギーで衝撃を受ける。エネルギーは分析分子を表面からガス相へ脱離し、それらをイオン化する。
【0053】
分析物のためのイオン化エネルギーの他形態には、たとえば(1)ガス相中性をイオン化する電子、(2)ガス相、固相、または液相中性からイオンを誘導する強度な電気的領域、(3)固相、ガス相、液相中性の化学的イオン化を誘導するために、イオン化粒子又は中性化学物質を有する電気的領域の組み合わせを適用する源、が含まれる。
【0054】
「固体支持体」とは、捕獲試薬とともに誘導可能である、又はそれに結合されることができる固体物質を表す。代表的な固体支持体には、プローブ、マイクロタイタープレート、及びクロマトグラフィー樹脂が含まれる。
【0055】
本発明における「プローブ」とは、ガス相イオンスペクトロメーター(例えばマススペクトロメーター)のプローブインターフェイスに携わり、イオン化とマススペクトロメーターのようなガス相イオンスペクトロメーターへ誘導するためのイオン化エネルギーへ分析物を提示するように適合された装置を表す。「プローブ」は、一般的に分析物がイオン化エネルギー源に提示される、サンプル提示表面を含む固体基質(可動性または非可動性)を含むものである。
【0056】
「表面活性化レーザー脱離/イオン化」又は「SELDI」は、分析物が、ガス相イオンスペクトロメーターのプローブインターフェースに携わるSELDIプローブの表面で分析物が捕獲される、脱離/イオン化ガス相イオンスペクトロメトリー(例えば、マススペクトロメトリー)法を表す。「SELDI MS」では、ガス相イオンスペクトロメーターはマススペクトロメーターである。SELDI技術は、例えば米国特許第5719060号(Hutchens及びYip)及び米国特許第6225047号(Hutchens及びYip)に開示されている。
【0057】
「表面活性化親和性捕獲」または「SEAC」は、吸着剤表面を含むプローブ(「SEACプローブ」)の使用を含むSELDIの形態である。「吸着剤表面」とは、吸着剤が結合する表面を表す(また「捕獲試薬」又は「親和性試薬」とも呼ばれる)。吸着剤は分析物に結合できるいかなる物質(例えば、標的ポリペプチドや核酸)でもよい。「クロマトグラフィー吸着剤」は、クロマトグラフィーで通常使用される物質を表す。クロマトグラフィー吸着剤には、たとえばイオン交換物質、金属キレート(たとえばニトリロ酢酸やイミノジ酢酸)、固定化された金属キレート、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、染料、単純な生体分子(例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、単純な糖や脂肪酸)、及び吸着剤の混合物(たとえば、疎水性吸引/静電反発作用吸着剤)が含まれる。「生体特異的吸着剤」とは、例えば核酸分子(たとえばアプタマー)、ポリペプチド、ポリサッカライド、脂質、ステロイドまたはこれらの接合物(例えばグリコプロテイン、リポプロテイン、グリコリピッド、核酸(たとえばDNA)蛋白質接合体)を含む吸着剤を表す。ある例では、生体特異的吸着剤は多蛋白質複合体、生体膜やウイルスのような巨大分子構造であり得る。生体特異的吸着剤の例は、抗体、受容体蛋白質、及び核酸である。生体特異的吸着剤は通常は、クロマトグラフィー吸着剤よりも標的分析物質に対してより特異的である。SELDIで使用される吸着剤のさらなる例は、米国特許第6225047号(HutchensおよびYip, “Use of retentate chromatography to generate difference maps”, 2001年5月1日)において見出すことができる。
【0058】
いくつかの態様では、SEACプローブは選択される吸着物質を提供するように修飾されることができる前活性化された表面として提供される。例えば、あるプローブは共有結合を通じて生理学的物質を結合できる活性部分とともに提供される。エポキシドやカルボジイミジゾールは、抗体や細胞性受容体のような生体特異的吸着剤を共有結合する有用な反応性部分である。
【0059】
「吸着」とは、分析物の吸着剤や捕獲試薬への検出可能な非共有結合を表す。
【0060】
「表面活性化簡易脱離」または「SEND」とは、化学的にプローブ表面に結合したエネルギー吸収分子を含むプローブ(「SENDプローブ」)の使用を含んでいるSELDIの形態である。「エネルギー吸収物質」(「EAM」)とは、レーザー脱離/イオン化源由来のエネルギーを吸着でき、それから接触する分析分子の脱離とイオン化に寄与できる分子を表す。この用語は、MALDIで使用される分子を含み、しばしば「マトリックス」として表され、他の物質と同様に、明らかに珪皮酸誘導体、シナピン酸(「SPA」)、シアノヒドロキシ珪皮酸(「CHCA」)、ジヒドロキシベンゾイックアシド、フェルリックアシド、ヒドロキシアセトフェノン誘導体を含む。それはまた、SELDIで使用されるEAMを含む。SENDはさらに米国特許第5719060、米国特許出願第60/408255、2002年9月4日に出願されたもの(Kitagawa, “Monomers And Polyners Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes”)に開示されている。
【0061】
「表面活性化光不安定装着及び放出」または「SEPAR」は、分析物に共有結合して、それから、例えばレーザー光のような光に照射後に、その部分でのフォトラビル結合を切断して分析物を放出できる表面に装着された部分を有するプローブの使用を含む、SELDIの形態である。SEPARはさらに、米国特許第5719060号に開示されている。
【0062】
「溶離液」又は「洗浄液」は、吸着表面への分析物質の吸着に影響する若しくは変更を加える、及び/又は、吸着表面から結合していない物質を取り除くために使用される通常は液体の試薬を表す。溶離液の溶離の特徴は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピズムの度合い、界面活性剤の強度及び温度に依存するものである。
【0063】
「分析物」とは、検出されることが望まれるサンプルのいかなる構成物質をも表す。本用語は、サンプル内の、単一の構成物質又は複数の構成物質を表すことができる。
【0064】
親和性捕獲プローブの吸着表面に吸着されたサンプルの「複雑さ」とは、吸着された、異なる蛋白質の種類の数を意図する。
【0065】
「分子結合パートナー」及び「特異的結合パートナー」とは、通常は特異的に結合する分子生物のペアーである、分子のペアーを表す。分子結合パートナーには、受容体とリガンド、抗体と抗原、ビオチンとアビジン、ビオチンとストレプトアビジンが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
「モニターリング」とは、継続的にパラメーターを変えた際に変化を記録することを表す。
【0067】
「バイオチップ」とは、吸着物質が結合した一般的に平面の表目を有する固相基質を表す。しばしば、バイオチップの表面には、複数のアドレス可能な位置が含まれ、それらの位置の各々はそこに結合する吸着物質を有している。バイオチップはプローブインターフェイスに携わるように適合されることができ、それゆえプローブとして機能する。
【0068】
「プロテインバイオチップ」とは、ポリペプチドを捕獲するのに適したバイオチップを表す。多くのプロテインバイオチップは当該技術分野で公知である。それらには例えば、サイファージェンバイオシステムズ(フレモント、CA)、パッカードバイオサイエンスカンパニー(メリデン、CT)、ジオミックス(ヘイワード、CA)、フィロス(レキシントン、MA)が含まれる。それらのプロテインバイオチップの例は、以下の特許又は特許出願に開示されている。米国特許第6225047号(HutchensおよびYip、「異なる地図を産生するためのリテンテートクロマトグラフィーの使用」、2001年5月1日)、国際公開第99/51773号(Kuimelis及びWagner、「アドレス可能蛋白質アレイ」、1999年10月14日)、米国特許第6329209号(Wagnerら、「蛋白質捕獲試薬のアレイとその使用方法」、2001年12月11日)、及び国際公開第00/56934号(Englertら、「継続的な多孔性マトリックスアレイ」、2000年9月28日)。
【0069】
サイファージェンバイオシステムズで製造されたプロテインバイオチップは、アドレス可能な位置に結合された、クロマトグラフ吸着又は生物特異的吸着物質を含んでいる。サイファージェンプロテインチップ(登録商標)アレイには、NP20、H4、H50、SAX−2、WCX−2、CM−10、IMAC−3、IMAC−30、LASX−30、LWCX−30、IMAC−40、PS−10、PS−20、PG−20が含まれる。これらの蛋白質バイオチップには、ストリップ形態でアルミニウム基質が含まれている。ストリップの表面はシリコンジオキサイドで覆われている。
【0070】
NP−20バイオチップの場合には、シリコンオキサイドは親水性蛋白質を捕獲するための親水性吸着物質として機能する。
【0071】
H4、H50、SAX−2、WCX−2、CM−10、IMAC−3、IMAC−30、PS−10、PS−20バイオチップはさらに、バイオチップの表面に物理的に結合した、又はバイオチップの表面にシランを通じて共有結合したヒドロゲルの形態で機能的にされた、クロスリンクされたポリマーを含む。H4バイオチップは疎水性結合のためにイソプロピル官能基を有している。H50バイオチップは、疎水性結合のためにノニルフェノキシポリ(エチレングリコール)メタクリレイトを有している。SAX−2バイオチップはアニオン交換のために四級アンモニウム官能基を有している。WCX−2及びCM−10バイオチップは、カチオン交換のためのカルボキシレート官能基を有している。IMAC−3およびIMAC−30バイオチップは、キレートによりCu++やNi++のような遷移金属イオンを吸着するニトリロ酢酸官能基を有している。これらの固定化された金属イオンは、結合を調整することでペプチドおよび蛋白質を吸着させる。PS−10バイオチップは蛋白質上の基と共有結合へと反応できるカルボイミディゾール官能基を有している。PS−20バイオチップは蛋白質と共有結合するためのエポキシド官能基を有している。PS種のバイオチップは、抗体、受容体、レクチン、ヘパリン、プロテインA、ビオチン/ストレプトアビジン等のような生物特異的吸着物質を、サンプル由来の分析物質を特異的に捕獲するように機能するようなチップ表面に結合させるのに有用である。PG−20バイオチップは、プロテインGが結合したPS−20チップである。LSAX−30(アニオン交換)、LWCX−30(カチオン交換)、IMAC−40(金属キレート)バイオチップは表面上で機能的にされたラテックスビーズを有している。そのようなバイオチップはさらに、WO00/66265(Richら、「ガス相イオンスペクトロメーターのためのプローブ」、2000年11月9日)、WO00/67293(Beecherら、「ガス相マススペクトロメーターのための疎水性被覆を有するサンプルホルダー」、2000年11月9日)、米国特許出願US20030032043A1(Pohl及びPapanu「ラテックスビーズの吸着チップ」、2002年7月16日)、米国特許出願60/350110(Umら、「疎水性表面チップ」、2001年11月8日)に記載されている。
【0072】
バイオチップ上に捕獲されて、分析物は、例えばガス相イオンスペクトロメトリー法、光学的手法、電気化学的手法、原子力顕微鏡、及び、放射性頻度手法から選択される、様々な検出方法により、検出されることができる。ガス相イオンスペクトロメトリー法はここに開示されている。特に興味深いのは、マススペクトロメトリー、特にSELDIの使用である。光学的手法には、例えば、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射、透過率、複屈折、または屈折率(例えば表面プラズモン共鳴、偏光解析法、反響鏡手法、格子連結ウェーブガイド手法又は干渉)が含まれる。光学的手法には、顕微鏡(共焦点並びに非共焦点)、イメージング手法、及び非イメージング手法が含まれる。様々な形態(例えばELISA)におけるイムノアッセイは、固相上に捕獲された分析物を検出するのに汎用される方法である。電気化学的手法には、ボルト及びアンペア手法が含まれる。放射性頻度手法には、多極共鳴分光学が含まれる。
【0073】
本発明における「マーカー」とは、(特有のはっきりした分子量の)ポリペプチドを表し、これは対照となる生体(たとえば陰性と診断された又はガンが検出されないヒト、正常又は健常人)から得られた対応するサンプルと比較して、ガン患者由来のサンプルにおいて異なって発現するものである。「バイオマーカー」という用語は、「マーカー」という用語と互換性をもって使用される。
【0074】
「測定」という用語は、サンプル内のマーカーの有無を検出、サンプル内のマーカーの定量、及び/又はバイオマーカーのタイプを認定する方法を含む。測定は、当業界において知られた方法を伴うことができ、ここに開示されるそのような方法には、SELDIやイムノアッセイが含まれるが、これらに限定されるものではない。いかなる適した方法も、ここに開示されるマーカーの一つまたはそれ以上の検出及び測定に使用されることができる。これらの方法には、マススペクトロメトリー(例えばレーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリー)、蛍光(例えばサンドイッチイムノアッセイ)、表面プラズモン共鳴、偏光解析法及び原子力顕微鏡が含まれるがこれらに限定されるものではない。
【0075】
「異なって発現する」という用語は、対照となる生体と比較して、ガン患者から採取されたサンプルにおけるマーカーの発現量及び/又は頻度における違いを表す。例えばIAIH4断片は対照となる生体由来のサンプルと比べて、卵巣がん患者のサンプルにおいて上昇したレベルを示す。対照的にApoA1及びここに開示されるトランスサイレチンΔN10は、対照となる生体由来のサンプルと比較して、卵巣がん患者のサンプルにおいて減少したレベルで発現している。さらにマーカーは、対照となる生体由来のサンプルと比較してガン患者のサンプルでより高頻度に、またはより低頻度で検出されるポリペプチドであってもよい。マーカーは量、頻度、またはその両方において異なるように発現するだろう。
【0076】
あるサンプルにおけるポリペプチドの量が、他のサンプルにおけるポリペプチドの量よりも、統計学的に顕著に異なる場合には、二つのサンプルの間では、ポリペプチドが異なって発現している。たとえば他のサンプルよりも少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%、若しくは少なくとも約1000%高く発現している、又は一つのサンプルで検出され、他のサンプルでは検出されない場合には、二つのサンプルにおいてポリペプチドは異なって発現している。
【0077】
一方又は加えて、卵巣がん患者のサンプルにおけるポリペプチドの検出頻度が、対照サンプルにおけるよりも統計学的に非常に高いか又は低い場合には、二つのサンプルセットの間においてポリペプチドは異なって発現している。たとえば他のサンプルよりも少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%、若しくは少なくとも約1000%より高い頻度又は低い頻度で他のサンプルセットに比べてあるサンプルセットにおいて観測される場合には、二つのサンプルにおいてポリペプチドは異なって発現している。
【0078】
「診断」とは、病理学的状態、すなわち卵巣がんの存在または性質を同定することを意味する。診断方法は、その感度及び特異度により異なる。診断アッセイの「感度」とは、陽性(「真に陽性」のパーセンテージ)である羅患者のパーセンテージである。アッセイで検出されない羅患者は、「誤った陰性」である。診断アッセイの「特異度」は、1から誤った陽性率を引いたものであり、「誤った陽性」率は陽性の疾患を有さないヒトの比率として定義される。特有の診断手法は状況の決定的な診断を提供しないかもしれないが、診断において助けとなる陽性の指標を提供する方法であれば、有用である。
【0079】
マーカーの「試験量」とは、試験されるサンプルに存在するマーカーの量を表す。試験量は絶対量(例えばμg/ml)または相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0080】
マーカーの「診断量」は、卵巣がんの診断と一致する生体サンプルにおけるマーカーの量をあらわす。診断量は絶対量(例えばμg/ml)または相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0081】
マーカーの「対照量」は、マーカーの試験量に対して比較される量または量の幅であることができる。例えばマーカーの対照量は卵巣がんでないヒトにおけるマーカーの量であることができる。対照量は絶対量(例えばμg/ml)または相対量(例えばシグナルの相対強度)であることができる。
【0082】
「抗体」とは、イムノグロブリン遺伝子あるいは複数のイムノグロブリン遺伝子により実質的にコードされるポリペプチドリガンド、またはその断片を表し、エピトープ(たとえば抗原)に特異的に結合して認識するものである。認識されるイムノグロブリン遺伝子は、κならびにλ定常領域遺伝子、α、γ、δ、ε、μ重鎖定常領域遺伝子、及びミリアードイムノグロブリン可変領域遺伝子を含む。抗体は例えば、完全なイムノグロブリンまたは、様々なペプチダーゼにより消化されて産生された多くのよく特徴づけられた断片として存在する。これにはたとえばFab‘およびF(ab)’2断片が含まれる。ここで使用される「抗体」という用語はまた、抗体全体の修飾によりまたは組換えDNAメソドロジー技術を使用してデノボ合成された抗体断片を含む。また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、化学抗体、ヒト化抗体、または一本鎖抗体も含まれる。抗体の「Fc」部分は、一つ又はそれ以上の重鎖定常領域ドメインであるCH1、CH2およびCH3を含むが、重鎖可変領域を含まないイムノグロブリン重鎖の部分を表す。
【0083】
「生体の処置」とは、卵巣がん状態を決定するための、医者の行動を表す。たとえばもし本発明の方法の結果が決定的でなく、または、状態を確かめる必要があるという理由がある場合には、医者はさらなる試験を指示するであろう。もしくは、もし状態が、手術が適切であることを示している場合には、医者は患者の手術を予定するだろう。同様に、例えば後期卵巣がんまたは急性であるような、状態が否定的な場合には、さらなる手段はとられないであろう。さらに、もし結果が処置の成功を示しているのであれば、さらなる処置は必要ないだろう。
【0084】
(発明の詳細な説明あ9
本発明は、プロテインチップ(登録商標)バイオマーカーシステム(サイファーゲンバイオシステムズ、インク、フレモント、CA)を使用して、卵巣がんと診断された患者及び既知の腫瘍疾患ではない患者由来の蛋白質プロファイルの比較から産生されたバイオマーカーを提供する。これらのバイオマーカーは、他の既知の卵巣がんマーカーと共に、個々のおよび多変量予測モデルにおいて評価された。特にこれらのバイオマーカーは個々でまたは好ましくはこのグループ由来のほかのバイオマーカー又は他の診断試験と組み合わせて、新規な生体における卵巣がん状態を決定する方法を提供する。
【0085】
有効なバイオインフォマティックス手段と組み合わせた高スループット蛋白質プロファイリングは、ガンマーカーをスクリーニングするための有用な手段を提供する。要するに、本発明で使用されるシステムは、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)を使用してサンプルをアッセイするために、クロマトグラフィープロテインチップ(登録商標)アレイを使用する。アレイに結合した蛋白質はプロテインチップ(登録商標)リーダー、飛行時間(TOF)マススペクトロメーターで読まれる。
【0086】
本発明は、卵巣がん患者のサンプルと対照生体のサンプルで異なって発現する蛋白質マーカーの発見、及び、卵巣がん状態を決定するためのこの発見の適用方法及びキットに基づくものである。これらの蛋白質マーカーは、ヒトのガンが検出されない女性由来のサンプルにおけるレベルと異なるレベルで卵巣がん患者由来のサンプルにおいて見出される。したがって、対照と比較して試験サンプルにおいて見出された一つ又はそれ以上のマーカーの量、または、試験サンプルにおける一つ又はそれ以上のマーカーの存否は、患者の卵巣がん状態に関する有用な情報を提供する。
【0087】
I.バイオマーカーの説明
A.アポリポプロテインA1
本発明の方法において有用なマーカーの一例は、アポリポプロテインA1であり、これは本明細書では「ApoA1」と表される。ApoA1はm/z28043のピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。本明細書に開示されるマーカーの分子量は、開示されるSELDIマススペクトロスコピー手順により決定される特定された値と0.15%以内の正確性であると考えられている。ApoA1は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用後のSELDIによる検出で、見出された。精製された蛋白質はトリプシンで消化され、アポリポプロテインA1と同定された。ApoA1の単離及び同定のための手順は、以下の実施例に開示されている。ApoA1はある段階の卵巣がん患者においてダウンレギュレートされている。よってApoA1の欠如または正常な対照と比較したApoA1量における統計学的に顕著な減少は、卵巣がん状態と関連があるだろう。統計学的に顕著な減少とは、たとえばp値が0.05より低いものであり、当該技術分野で公知のものである。
【0088】
B.トランスサイレチンΔN10
本発明の方法において有用はマーカーのほかの例には、プレアルブミンの形態であり、本明細書で「トランスサイレチンΔN10」と表されるものが含まれる。トランスサイレチンΔN10はm/z12870.9のピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。トランスサイレチンΔN10は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用後のSELDIによる検出で、見出された。免疫沈降およびタンデムマススペクトロメトリーにより、精製された蛋白質はN末端のアミノ酸を欠如するプレアルブミンの切断された形態(本明細書では「トランスサイレチンΔN10」と表される)であることが見出された。トランスサイレチンΔN10の単離及び同定のための手順は、以下の実施例に開示されている。トランスサイレチンΔN10もまたある段階の卵巣がん患者においてダウンレギュレートされている。よってトランスサイレチンΔN10の欠如または正常な対照と比較したトランスサイレチンΔN10量における統計学的に顕著な減少は、卵巣がん状態と関連があるだろう。
【0089】
本発明はトランスサイレチンΔN10を使用するものとしてここに開示される。しかしながら天然のトランスサイレチン(13900ダルトン)もまた、本発明の方法において有用である。
【0090】
C.IAIH4断片
本発明の方法において有用なマーカーのほかの例は、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4の解裂した断片であり、本明細書では「IAIH4」と表されるものである。IAIH4断片はm/z3272ピークとして、マススペクトロメトリーで検出される。IAIH4断片は手順に従って血液を分画化し、IMACチップへ適用後のSELDIによる検出で、見出された。ピークは一連のクロマトグラフィー分離技術を使用して、卵巣がんの集められた血清から精製された。その配列はMNFRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号1)と決定され、ヒトインターαトリプシン阻害剤、重鎖H4(ITIH4、PK−120)の660−689アミノ酸断片であった。この結果はマーカーのペプシン消化産物の分析により確認された。ITIH4断片はある段階の卵巣がん患者においてアップレギュレートされている。よってITIH4断片の存在または正常な対照と比較したITIH4断片量における統計学的に顕著な増加は、卵巣がん状態と関連があるだろう。
【0091】
E.他の発見された卵巣がんマーカー
さらなるバイオマーカーが、卵巣がん疾患状態と関連のある、pH4及びpH9で溶出された分画において同定された。pH4では、これらのバイオマーカーに対応する蛋白質またはその断片が、以下の値を中心とする分子量の強度ピークとして、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)プロテインチップ/マススペクトルにおいて表れた。
【0092】

【0093】

【0094】
pH4では、これらのバイオマーカーに対応する蛋白質またはその断片が、以下の値を中心とする分子量の強度ピークとして、SELDI(表面活性化レーザー脱離/イオン化)プロテインチップ/マススペクトルにおいて表れた。
【0095】

【0096】
マーカーI乃至XLVIIIのこれらの質量は、開示されたSELDIマススペクトロスコピー手段により決定される特定の値と0.15%以内の正確性であると考えられる。
【0097】
上述したように、マーカーI乃至XLVIIIはまた、吸着物への親和性、特に、以下の実施例の一般的な解説のプロテインチップ分析のもとで特定される条件で、固定化されたキレート(IMAC)−銅基質に特に結合して、特徴付けられるだろう。
【0098】
E.既知の卵巣がんマーカー
本発明のある態様はまた、ApoA1、トランスサイレチンΔN10,及び、IAIH4断片から選択される一つ又はそれ以上のマーカーと組み合わせて、既知の卵巣がんバイオマーカーを使用するものである。「マーカー4」という用語は、本明細書では既知の卵巣がんマーカーを表すのに使用される、マーカー4として有用なマーカーの例には、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、及び蛋白質変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
これらのマーカーは正常な生体に比較して、血中のレベルに基づいて卵巣がんを診断するのに有用である。たとえばCA125は、卵巣がんの女性の血液内で上昇していることが知られている。同様に、CA19−9、CA72.4、CA195、TATI、インヒビン、PLAP、及びその他は、卵巣がんの上清の血液内で上昇していることが知られている。本発明のある好ましい態様では、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片から選択されるマーカーの少なくとも一つと共に、少なくとも一つの既知のマーカー(マーカー4)が本方法において含まれる。
【0100】
II試験サンプル
A)生体型
サンプルは、例えば卵巣がんの状態を定めることを望む女性などの生体から集められる。生体はその家系に基づいて卵巣がんの高度の危険性があることが決定されている女性でもあろう。他の患者には、卵巣がんである女性が含まれ、試験は患者が受ける治療または処置の効果を決定するために使用される。また、患者には、お決まりの試験の一部としてまたはバイオマーカーのベースラインレベルを確立するために、テストを受ける健常人が含まれるだろう。サンプルは卵巣がんと診断され、ガンを軽減するための処置を受け、またはおそらく回復した女性から集められることもできるだろう。
【0101】
B)サンプルの型とサンプルの調製
マーカーは生理学的サンプルの異なる型において測定されることができる。サンプルは好ましくは生理学的液体サンプルである。有用な生理学的液体サンプルの例には、血液、血清、血漿、膣分泌、尿、涙、精液等が含まれる。マーカーは全て血清内で見出されることから、本発明の態様において血清が好ましいサンプル源である。
【0102】
所望により、サンプルはマーカーの検出度を増強するように調製される。例えば、マーカーの検出度を増強するために、生体由来の血清サンプルは好ましくは、例えばチバクロンブルーアガロースクロマトグラフィー、一本鎖DNA親和性クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー(例えば、抗体)等により分画化される。分画法は使用される検出方法のタイプに依存する。興味ある蛋白質を豊富にするいかなる方法をも使用できる。前分画化プロトコールのような、サンプル調製は適宜行われ、使用される検出方法に依存するマーカーの検出度を増強させるために必要ではないかもしれない。例えば、マーカーに特異的に結合する抗体がサンプル内のマーカーの存在を検出するために使用される場合には、サンプル調製は不要である。
【0103】
通常、サンプル調製にはサンプルの分画化とバイオマーカーを含むことが決定された分画を収集することが含まれる。前分画化の方法には、例えばサイズ除去クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ヘパリンクロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、連続的抽出、ゲル電気泳動及び液体クロマトグライフィーが含まれる。分析物はまた検出に先立って修飾されることができる。これらの方法はさらなる分析のためにサンプルを単純化するために有用である。たとえば、アルブミンのような高吸光度蛋白質を、分析の前に血液から除去することは有用であろう。分画化方法の例はPCT/US03/00531(その全体はここに挿入される)に開示されている。
【0104】
好ましくは、サンプルは陰イオン交換クロマトグラフィーにより前分画化される。陰イオン交換クロマトグラフィーは、その電荷の特徴にしたがっておおまかにサンプル内の蛋白質を前分画できる。例えばQ陰イオン交換樹脂が使用されることができ(例えばQハイパーD F、バイオセプラ)、サンプルは続いて異なるPHを有する溶出液により溶出されるだろう。陰イオン交換クロマトグラフィーは、他の型の生体分子から、より院生に荷電したサンプル内の生体分子を分離する。高いpHを有する溶出液で溶出される蛋白質は、弱く陰性に荷電しているだろうし、低いpHを有する溶出液で溶出される蛋白質は、より強く陰性に荷電しているだろう。よって、サンプルの複雑性を減じることに加えて、陰イオン交換クロマトグラフィーはその結合特徴にしたがって蛋白質を分離する。
【0105】
好ましい態様では、血清サンプルは陰イオン交換クロマトグラフィーで分画化される。高い吸光度蛋白質による、より低い吸光度蛋白質のシグナル抑制は、SELDIマススペクトロメトリーに対して重要な難題を表す。サンプルの分画化は、個々の分画における構成物の複雑性を減じる。この方法はまた、ある分画へ吸光度の高い蛋白質を単離しようとし、それによってより低い吸光度の蛋白質におけるシグナル抑制効果を減少させることができるだろう。陰イオン交換分画はその等電点(pI)により蛋白質を分離する。蛋白質はアミノ酸から作られており、それらは両極性であり、その荷電はアミノ酸がさらされる環境のpHに依存して変化する。蛋白質のpIは蛋白質がネットの荷電を有さないpHである。蛋白質は環境のpHが蛋白質のpIと等しいときに中性に荷電すると予想される。pHが蛋白質のpIより上昇すると、蛋白質はネットで陰性に荷電すると予想される。動揺に環境のpHが蛋白質のpIより加工すると、蛋白質はネットで陽性に荷電する。血清サンプルは、ここに開示されるマーカーを得るために、以下の実施例に記載されるプロトコールにしたがって分画化された。
【0106】
陰イオン交換上での捕獲の後、蛋白質はpH9、pH7、pH5、pH4、pH3という一連の洗浄段階で溶出された。三つの潜在的なバイオマーカーのパネルは、3つの分画(pH9/流出、pH4、有機溶媒)のプロファイリングデータのUMSA分析により発見された。二つのピークはpH4分画由来のm/z12828、28043であり、両方はガングループにおいてダウンレギュレートされており、三番目はpH9/流出分画由来のm/z3272であり、ガングループにおいてアップレギュレートされていた。固定化された金属親和性クロマトグラフィーアレイに結合したものは全て、銅イオンでチャージされた(IMAC3−Cu)。(図1のスペクトル)
【0107】
サンプル内の生体分子はまた、例えば一次元又は二次元ゲル電気泳動のような、高い分析電気泳動により分離されることができるだろう。マーカーを含む分画は、ガス相イオンスペクトロメトリーにより単離され、さらに分析されることができるだろう。好ましくは、二次元ゲル電気泳動は、一つ又はそれ以上のマーカーを含む、生体分子スポットの二次元アレイを産生するために使用される。例えばJungblut及びThiede, Mass Spectr. Rev. 16: 145-162 (1997)参照。
【0108】
二次元ゲル電気泳動は、当業界で既知の方法を使用して行われることができる。例えばDeutscher ed., Methods In Enzymology vol.182参照。通常、サンプル内の生体分子は、例えば、サンプル内の生体分子がそのネット荷電がゼロ(すなわち等電点)になるスポットに達するまで、pH勾配で分離されるような、等電点焦点により、分離される。この最初の分離段階は、生体分子の一次元アレイを生じる。一次元アレイ内の生体分子はさらに、最初の分離段階において使用されるものとは一般的に異なる技術を使用して分離される。例えば、二次元において、等電点焦点により分離された生体分子はさらに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS−PAGE)の存在下でノポリアクリルアミドゲル電気泳動のような、ポリアクリルアミドゲルを使用して分離される。SDS−PAGEゲルは、生体分子の分子量に基づいてさらに分離させることができる。通常、二次元ゲル電気泳動は、複雑な混合物内の1000−200000ダルトンの分子量を有する化学的に異なる生体分子を分離できる。これらのゲルのpI範囲は、約3−10(広範囲ゲル)である。
【0109】
二次元アレイ内の生体分子は、当業界で知られた、適するいかなる技術をも使用して検出されることができる。たとえばゲル内の生体分子は、標識されまたは染色されることができる(例えばクマシーブルーまたは銀染色)。ゲル電気泳動が、本発明の一つ又はそれ以上のマーカーの分子量に対応するスポットを産生した場合には、そのスポットはさらにガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。例えば、スポットはゲルから取り出され、ガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。または、生体分子を含むゲルは、電解液を添加することで不活性膜へ移送されることができるだろう。それから、マーカーの分子量におおよそ対応する膜上のスポットはガス相イオンスペクトロメトリーにより分析されることができるだろう。ガス相イオンスペクトロメトリーでは、スポットは、ここに開示されるMALDIまたはSELDI(例えばプロテインチップアレイを使用して)のようないかなる適した技術をも使用して分析されることができる。
【0110】
ガスイオンスペクトロメトリー分析に先立って、プロテアーゼ(たとえばトリプシン)のような解裂試薬を使用して、スポット内の生体分子をより小さい断片に解裂させることが望ましいだろう。生体分子の小さい断片への消化は、スポット内の生体分子のマスフィンガープリントを提供し、よって所望によりマーカーを同定するために使用されることができるだろう。
【0111】
高パフォーマンス液体クロマトグラフィー(HPLC)はまた、極性、電解、および大きさのような、異なる物理的な性質に基づいて、サンプル内の生体分子の混合物を分離するために使用することができるだろう。HPLC装置は通常、可動性相の貯蔵、ポンプ、インジェクター、分離カラム、及び検出器からなる。サンプル内の生体分子は、サンプル溶液をカラムへ注入することで分離される。混合物内の異なる生体分子が、可動性液相と静止相の間におけるそれらの群分離様式の相違に依存して、異なる速度でカラムを通過する。一つ又はそれ以上のマーカーの分子量及び/又は物理的性質に対応する画分が集められることができる。分画はそれからガス相イオンスペクトロメトリーによりマーカーを検出するために分析されることができる。たとえばスポットは、ここに開示されるようなMALDIまたはSELDI(たとえばプロテインチップアレイを使用して)を使用して分析されることができる。
【0112】
適宜、マーカーは、その感度を改良するためまたは同定するために、分析に先立って修飾されることができる。たとえば、マーカーは分析の前に蛋白質消化を行われることができる。いかなるプロテアーゼでも使用できる。トリプシンのようなマーカーを別個の断片へと解裂させるようなプロテアーゼは、特に有用である。消化された分画から生じた断片は、マーカーのフィンガープリントとして機能し、よってその同定を間接的に可能にする。これは、問題とされるマーカーに対して困惑されるような類似の分子量を有するマーカーがある場合において、特に有用である。また、蛋白質断片化は、より小さいマーカーはマススペクトロメトリーでより容易に分析されることから、高分子量マーカーのために有用である。他の例では、生体分子は検出分析を改良するために修飾されることができる。たとえば、ノイラミニダーゼは、陰イオン性吸着物質(たとえばカチオン交換プロテインチップアレイ)への結合を改善するため、及び、検出分析を改善するために、グリコプロテインから末端のシアル酸残基を除去するために使用されることができる。他の例では、分子マーカーに特異的に結合してそれらを区別する特有の分子量マーカーのタグを装着することで、分子マーカーは修飾されることができる。適宜、そのような修飾されたマーカーの検出の後に、マーカーの同一性は、さらに蛋白質データベース(たとえばSwissProt)で修飾されたマーカーの物理的及び化学的な特徴とマッチさせることで決定されることができる。
【0113】
III.マーカーの捕獲
マーカーは好ましくは、個々に開示されるいかなるバイオチップ、マルチウエルマイクロタイタープレートまたは樹脂のような、固体支持体に固定化された捕獲試薬により捕獲される。特に、本発明のバイオマーカーは、好ましくはSELDI蛋白質バイオチップ上に捕獲される。捕獲はクロマトグラフィーの表面または生体特異的表面において行われる。反応性表面を含むSELDI蛋白質バイオチップのいかなるものでも、本発明のバイオマーカーを捕獲及び検出するために使用されることができる。しかしながら、本発明のバイオマーカーは固定化された金属キレートによく結合する。IMAC−3及びIMAC30バイオチップは、ニトリル酢酸がキレートによりCu++やNi++のような遷移金属イオンを吸着するもので、本発明のバイオマーカーを捕獲するための好ましいSELDIバイオチップである。反応性表面を含むSELDI蛋白質バイオチップであれば、どれでも本発明のバイオマーカーの捕獲及び検出に使用できる。これらのバイオチップは生体分子を特異的に捕獲する抗体を運搬することができ、または、イムノグロブリンに結合するプロテインA又はプロテインGのような捕獲試薬とともに運搬することができる。それから生体分子は特異的な抗体を使用して溶液内で捕獲することができ、捕獲された生体分子は捕獲試薬を通じてチップ上で単離される。
【0114】
一般的に、血清のようなバイオマーカーを含むサンプルは、バイオチップの活性表面上に結合するのに十分な時間だけ置いておく。それから結合していない分子は、リン酸緩衡生理食塩水のような適切な溶出液を使用してその表面から洗浄する。一般に溶出液がストリンジェントであればあるほど、蛋白質が洗浄後に残るためには、より強固に結合していなければならない。保持された蛋白質バイオマーカーは、適切な手段により検出することができる。
【0115】
IV.マーカーの検出と測定
たとえばバイオチップ又は抗体のような基質に一旦捕獲されれば、適切な方法であればどれでも、サンプル内の一つ又はそれ以上のマーカーを測定するために使用できる。たとえば、マーカーは、ガス相イオンスペクトロメトリー法、光学的手法、電気化学的手法、原子力マイクロスコーピー、放射頻度方法を含む、様々な検出方法により、検出及び/又は測定することができる。これらの方法を使用することで、一つ又はそれ以上のマーカーが検出できる。
【0116】
A)SELDI
バイオマーカーの検出及び/又は測定のひとつの好ましい方法は、マススペクトロメトリー、特に、「表面活性化レーザー脱離/イオン化」または「SELDI」を使用する。SELDIとは、分析物がプローブインターフェースを司るSELDIプローブの表面に捕獲される、脱離/イオン化ガス相イオンスペクトロメトリー(たとえばマススペクトロメトリー)の方法のことである。「SELDI MS」では、ガス相イオンスペクトロメーターはマススペクトロメーターである。SELDI技術は詳しく上述されている。ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片は、それぞれm/z28043、m/z約12870.9、及びm/z3272として検出される。
【0117】
B)イムイノアッセイ
他の態様では、イムノアッセイがサンプル内のマーカーの検出及び分析に使用される。この方法は、(a)マーカーに特異的に結合する抗体を提供し、(b)サンプルを抗体と接触させ、(c)サンプル内でマーカーに結合した抗体の複合体の存在を検出する、ことを含む。
【0118】
イムノアッセイは、抗原(たとえばマーカー)に特異的に結合するために抗体を使用するアッセイである。イムノアッセイは、抗原を単離、標的化、及び/又は、定量するために、特有の抗体の特異的な結合性を使用することにより特徴づけられる。蛋白質又はペプチドを表す際に、抗体に「特異的に(又は選択的に)結合する」、または「特異的に(又は選択的に)免疫反応性である」という用語は、蛋白質や他の生理物質が混在する集団において蛋白質の存在を決定できる結合反応を表す。よって、指定されたイムノアッセイ条件下では、特定の抗体はバックグラウンドの少なくとも二倍特有の蛋白質に結合し、サンプル内に存在するほかの蛋白質には実質的に有意に結合しない。そのような条件下での抗体への特異的な結合は、特定の蛋白質への特異性により選択される抗体を必要とする。例えば、ラット、マウス、またはヒトのような特定の種由来のマーカーに対して産生されたポリクローナル抗体が、特異的にそのマーカーに対して免疫反応性であり、マーカーのポリモルフィックな変異体やアレル体を除く他の蛋白質とは免疫反応性を有さないポリクローナル抗体のみを得るために選択されることができる。この選択は他の種由来のマーカー分子と交差反応する抗体を差し引くことにより達成されることができるだろう。
【0119】
マーカーに特異的に結合する抗体は、精製されたマーカーまたはその核酸配列を使用して、当該技術分野公知の適当な方法を用いて調製できるものである。例えばColigan, Current Protocols in Immunology (1991); Harlow & Lane, Antibodies: A Laboratory Mannual (1998); Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed. 1986); Kohler & Milstein, Nature 256: 495-497 (1975)参照。そのような技術には、ウサギ又はマウスの免疫化によりポリクローナルおよびモノクローナル抗体を調製するのと同様に、ファージ又は同様のベクター内で組換え抗体ライブラリーから抗体を選択することで抗体を調製する技術を含むが、これに限定されるものではない(たとえば、Huseら、Science 246: 1275-1281 (1989),Wardら、Nature 341: 544-546 (1989)参照)。通常は、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも二倍であり、より典型的にはバックグラウンドの10から100倍以上である。
【0120】
一般に、生体から得られたサンプルはマーカーと特異的に結合する抗体と接触させられることができる。適宜、抗体をサンプルと接触させるのに先立って、複合体の洗浄とそれに続く単理を容易にするために、抗体は固体支持体に固定化されることができる。固体支持体の例には、ガラスや、例えばマイクロタイタープレート、スティック、ビーズ、又はマイクロビーズの形態のプラスチックが含まれる。抗体はまたプローブ基質や上述されたプロテインチップアレイへ装着されることができる。サンプルは好ましくは生体から採取された生理学的液体サンプルである。生理学的液体サンプルの例には、血液、血清、血漿、乳首アスピレート、尿、涙,精液などが含まれる。好ましい態様では、生理学的液体には血清が含まれる。サンプルは抗体に接触させる前に,適切な溶出液で希釈される。
【0121】
サンプルを抗体とインキュベートした後、混合物は洗浄され、抗体マーカー複合体が検出される。これは洗浄された混合物を検出試薬とインキュベートすることで達成される。この検出試薬は、たとえば検出可能な標識で標識された二次抗体であろう。模範的な検出可能なレベルには、磁気ビーズ(たとえばDYNABEADS(登録商標))、蛍光染料、放射標識、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリンフォスファターゼ、並びにその他の一般的にELISAで使用されるもの)、及び、コロイド金や色のついたガラスやプラスチックビーズのような比色分析の標識が含まれる。あるいは、サンプル内のマーカーは、例えば二次標識された抗体が、マーカー特異的に結合した抗体を検出するために使用されるように、非直接的な方法で、及び/又は、例えばマーカーの識別可能なエピトープに結合するモノクローナル抗体が混合物と同時にインキュベートされるように、競合もしくは阻害アッセイで、検出されることができるだろう。
【0122】
抗体−マーカー複合体の量または存在を測定する方法には、例えば蛍光、発光、化学発光、吸光、反射、透過率、複屈折または屈折率(たとえば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、反響鏡手法、格子連結ウェーブガイド手法又は干渉))が含まれる。光学的手法には、(共焦点ならびに非共焦点)顕微鏡、イメージング手法、及び、非イメージングが含まれる。電気化学的手法には、ボルトおよびアンペア手法が含まれる。放射頻度手法には、多極性共鳴分析計が含まれる。これらのアッセイを行う方法は、当業界において容易に知られている。有用なアッセイには、例えば酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロットアッセイ、またはスロットブロットアッセイのような酵素免疫アッセイ(EIA)が含まれる。これらの方法はまた、例えばMethods in Cell Biology: Antibodies in Cell Biology, vol.37 (Asai ed. 1993); Basic and Clinical Immunology (Stites & Terr, eds., 7th ed. 1991)、及び、Harlow & Lane, 上述に開示されている。
【0123】
アッセイを通じて、インキュベーション及び/又は洗浄工程が、試薬のそれぞれの組み合わせ後に必要となる。インキュベーション工程は、約5秒から数時間まで異なり、好ましくは約5分から約24時間である。しかし、インキュベーション時間は、アッセイの形態、マーカー、溶液の容量、濃度などに依存するものである。10℃から40℃というような温度の幅でアッセイは行われるが、通常は室温にて行われる。
【0124】
イムノアッセイは、サンプル内のマーカーの量と同様に、サンプル内のマーカーの存否を決定するために使用できる。抗体−マーカー複合体の量は標準物質と比較することで決定される。標準物質は、例えば既知の化合物又はサンプル内に存在することが知られているその他の蛋白質であってもよい。上述したように、マーカーの試験量は、測定ユニットが対照と比較できれば、絶対量のユニットで測定される必要はない。
【0125】
サンプル内のこれらのマーカーを検出するための方法には、多くの適用がある。たとえば、一つ又はそれ以上のマーカーが、ヒトのガン診断または予後診断を助けるために測定できる。他の例では、マーカーの検出の方法は、ガン治療に対する生体における応答をモニターするために使用される。他の例では、マーカーの検出方法は、生体内又は試験管内におけるこれらのマーカーの発現を調節する化合物のアッセイ及び同定のために使用される。好ましい例では、バイオマーカーは腫瘍進行の異なる段階を差別化するために使用されるので適切な処置と腫瘍の転移範囲を決定する上で助けとなる。
【0126】
V.データ分析
たとえばマススペクトロメトリーにより、サンプルが測定され、データが産生されると、データはそれからコンピュータソフトウェアプログラムにより分析される。一般的にソフトウェアはマス由来のシグナルをコンピュータで読み取り可能な形に変換するコードを含んでいる。ソフトウェアはまた、シグナルが、本発明のマーカーまたは他の有用なマーカーに対応する「ピーク」を表しているか否かを決定するために、シグナル分析のためのアルゴリズムを適用するコードを含むこともできる。ソフトウェアはまた、試験サンプル由来のシグナルを「正常」及びヒトガンの典型的なシグナルの特徴と比較して、両シグナル間の適合の親密さを決定するアルゴリズムを実行するコードを含むこともできる。ソフトウェアはまた、試験サンプルが最も近く、それゆえ予想される診断を提供するコードを表示することを含むことができる。
【0127】
本発明の好ましい方法では、多数のバイオマーカーが測定される。多数のバイオマーカーの使用は試験の予測値を増強させ、診断、毒性学、患者層別、および患者のモニターリングにおいてより有用である。「パターン認識」と呼ばれる工程は、多数のバイオマーカーで形成されたパターンを検出して、予測される薬剤の臨床プロテオミクスの感度及び特異度を大幅に改良する。たとえばSELDIを使用して得られた、臨床サンプル由来のデータにおける些細なバリエーションは、蛋白質発現のあるパターンは、疾患の存否、ガン進行の段階または、薬剤処置への有効な又は逆の応答のような、フェノタイプを予期できることを示している。
【0128】
マススペクトロメトリーでのデータ産生は、上述したようにイオン検出器によるイオンの検出で始まる。検出器をヒットするイオンは、類似シグナルをデジタル式に捕獲する高スピード時間アレイ記録装置によりデジタル化される電位を産生する。サイファーゲンのプロテインチップ(登録商標)システムは、これを達成するために、アナログからデジタルへの変換器(ADC)を採用する。ADCは規則的な時間間隔での検出器の出力を、時間依存性ビンへ増幅させる。時間の感覚は通常は1ないし4ナノ秒である。さらに最終的に分析される飛行時間スペクトルは、通常はサンプルに対するイオン化エネルギーのシグナルパルス由来のシグナルを示すのではなく、多数パルス由来のシグナルの合計を示すものである。これはノイズを減少させ、ダイナミックな範囲を増加させる。次いで、この飛行時間データは、データ処理に付される。サイファーゲンプロテインチップ(登録商標)ソフトウェアでは、データ処理は通常TOFからM/Zへの変換、ベースラインの差し引き、高頻度ノイズフィルターリングを含む。
【0129】
TOFからM/Zへの変換には、飛行時間を質量対電荷比(M/Z)へ変換するアルゴリズムの適用が包含される。この工程において、シグナルは時間ドメインから質量ドメインへと変換される。すなわち、個々の飛行時間は、質量対荷電比、M/Zへと変換される。計測は内部で又は外部で行われる。内部的な計測では、分析されるサンプルは一つ又はそれ以上の既知のM/Zを有する分析物を含む。これらの質量の分析物を表す飛行時間でのシグナルピークは、既知のM/Zへ割り当てられる。これらの割り当てられたM/Z比率に基づいて、パラメータが飛行時間をM/Zへ変換する数学的機能のために計算される。外部的な計測では、前もって行われた内部的な計測により創りだされたような、飛行時間をM/Zへ変換する機能が、内部的な計測を使用することなく飛行時間スペクトルへ適用される。
【0130】
ベースラインの差し引きは、スペクトルを乱す、人工的な再生可能な器械のオフセットを減じることで、定量データを改良する。それにはピーク幅のようなパラメータを挿入するアルゴリズムを使用してスペクトルのベースラインを計算して、マススペクトルからベースラインを差し引くことが含まれる。
【0131】
高頻度ノイズシグナルは、スムージング機能を適用することで減少される。通常のスムージング機能は、個々の時間依存的なビンに移動平均関数を適用する。改良された形態においては、移動平均フィルターは、フィルターバンド幅がたとえばピークバンド幅など、その機能によって変化する様々な幅のデジタルフィルターであり、一般的に飛行時間の増加に伴ってより広くなっている。たとえば、国際公開第00/70648号パンフレット、2000年11月23日(Gavinら、”Variable Width Digital Filter for Time-of-Flight Mass Spectrometry)参照。
【0132】
分析は一般的に、分析物由来のシグナルを表すスペクトルにおけるピークの同定を含んでいる。ピークの選択はもちろん視覚的にも行われるが、サイファーゲンプロテインチップソフトウェアの一部としてピークの検出を自動化したソフトウェアが利用できる。一般的に、シグナル対ノイズの比が選択された閾値を越えるシグナルを同定してピークシグナルの中心でピークの質量を標識することにより、このソフトウェアは機能する。ある有用な適用において、多くのスペクトルは、ある選択されたマススペクトルの比率において表れる同一ピークを同定するために比較される。このソフトウェアの一つのバージョンは、様々なスペクトルで表れる全てのピークを決定された質量範囲にクラスターし、質量(M/Z)クラスターの中心点に近い全てのピークに質量(M/Z)を割り当てる。
【0133】
一つ又はそれ以上のスペクトル由来のピークデータは、たとえば個々の列が特有の質量スペクトルを表し、個々のカラムが質量により決定されるスペクトルにおけるピークを表し、そして個々のセルがその特有のスペクトルでのピーク強度を含むスプレッドシートを作成することで、さらに分析することができる。様々な統計的またはパターン認識手法がデータに適用できる。
【0134】
ある例では、サイファーゲンバイオマーカーパターン(登録商標)ソフトウェアが、産生されたスペクトルにおけるパターンを検出するために使用される。データは分類モデルを使用するパターン認識工程を利用して分類される。一般的に、スペクトルは、分類アルゴリズムが検索される少なくとも二つの異なる群由来のサンプルを表すものである。たとえば、病理対非病理(たとえばガン対ガンでない)、薬剤応答対薬剤非応答、毒性応答対毒性非応答、疾患状態の進行対疾患状態の非進行、フェノタイプの状況出現対フェノタイプの状況欠損などの群である。
【0135】
本発明の態様において産生されるスペクトルは、分類モデルを使用するパターン認識工程を利用して分類することができる。ある態様では、「既知サンプル」のようなサンプルを使用して産生されたスペクトル(たとえばマススペクトルまたは飛行時間スペクトル)由来のデータは、分類モデルを「トレーニング」するために使用できる。「既知サンプル」とは前もって分類された(例えばガンまたはガンでない)サンプルである。「既知サンプル」のようなサンプルを使用して産生されたスペクトル(たとえばマススペクトルまたは飛行時間スペクトル)由来のデータは、分類モデルを「トレーニング」するために使用できる。「既知サンプル」は前もって分類されたサンプルである。スペクトル由来で分類モデルを形成するために使用されるデータは、「トレーニングデータセット」として表される。一旦トレーニングされると、分類モデルは未知のサンプルを使用して産生されたスペクトル由来のデータにおけるパターンを認識できる。分類モデルは未知のサンプルを分類するために使用されることができる。これは、たとえば特定の生理学的なサンプルが、特定の生理学的な状況(たとえば疾患対非疾患)と関連しているか否かを予測する上で、有用だろう。
【0136】
分類モデルを形成するために有用なトレーニングデータセットは、生データまたは前処理データを含むだろう。ある態様では、生データは飛行時間スペクトルまたはマススペクトルから得ることができ、いかなる適した様式で適宜「前処理」されるだろう。たとえば、前決定されたシグナル対ノイズの比率を超えるシグナルは、スペクトル内の全てのサンプルを選択するのではなく、スペクトル内のピークのサブセットが選択するために、選択されることができる。他の例では、(例えば特有の飛行時間値または質量対荷電比値)共通値における前もって決定されたピーク「クラスター」数が、ピークを選択するために使用できる。説明としては、与えられた質量対荷電比でのピークがマススペクトルの集団において、マススペクトルの50%より低い場合には、その質量対荷電比のピークはトレーニングデータセットから除くことができる。このような前もって処理する工程は、分類モデルをトレーニングするために使用されるデータ量を減じるために使用できる。
【0137】
分類モデルは、データに存在する目的となるパラメータに基づく分類へ、データの集まりを分離することを試みる、いかなる適した統計学的分類(または「学習」)方法を使用して行われる。分類方法は管理されてもされなくてもよい。管理されたおよびされていない分類工程の例は、Jain, “Statistical Pattern Recognition: A Review”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol.22, No.1, 2000年1月に開示され、その全体は個々に参照として挿入される。
【0138】
管理された分類では、既知のカテゴリー例を含むトレーニングデータは学習機構に提示され、その機構は既知の分類の個々を決定するさらなる関連性のセットを学習する。新しいデータはそれから学習機構へ適用され、それは学習された関係を利用して新しいデータを分類する。管理された分類工程の例には、線形回帰工程(たとえば多線形回帰(MLR)、部分的最少スクエアー(PLS)回帰、主要構成物回帰(PCR))、双対決定階層(例えばCART−分類及び回帰階)層のような帰納的分類工程)、バックプロパゲーションネットワークのような、人工的ニューラルネットワーク、識別分析(例えばベイシアンクラシファイアーまたはフィッシャー分析)、対数分類、及び支持ベクター分類(指示ベクター装置)が含まれる。
【0139】
好ましい管理された分類方法は、帰納的分類工程である。帰納的分類工程は、未知のサンプル由来のスペクトルを分類するために帰納的分類階層を使用する。帰納的分類工程に関するより詳細は、米国特許公開第20020138208号(Paulseら、「マススペクトルの分析方法」、2002年9月26日)に開示されている。
【0140】
他の態様では、つくられる分類モデルは管理されない学習方法を使用して構成されるだろう。管理されない分類は、トレーニングデータが由来するスペクトルを前もって分類することなく、トレーニングデータセットにおける類似性に基づいて分類を学習しようとする。管理されない学習方法には、クラスター分析が含まれる。クラスター分析は、互いに非常に類似しており他のクラスターのメンバーとは類似していないメンバーを理想的には有する「クラスター」または集団に、データを分けようとする。類似性は、データアイテム間の距離を測定する距離測定基準を使用して測定され、互いにより近いデータアイテムは一緒にクラスターされる。クラスター技術はマッククイーンK−平均値アルゴリズムやコホネンセルフオーガナイジングマップアルゴリズムを含む。
【0141】
生理学的情報を分類するうえで使用されるために確立された学習アルゴリズムは、たとえば、国際公開第01/31580号パンフレット(Barnhillら、”Methods and devices for identifying patterns in biological systems and methods of use thereof”, 2001年5月3日)、米国特許公開第2003/0193950号(Gavinら、”Method or analyzing mass spectra”, 2002年12月19日)、米国特許公開第2003/0004402号(Hittら、”Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data”, 2003年1月2日)、米国特許公開第2003/0055615号(Zhang及びZhang, “Systems and methods for processing biological expression data”, 2003年3月20日)に開示されている。
【0142】
より特異的に、バイオマーカーApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片を得るために、ガン患者と健常対照由来サンプルのピーク強度データが「発見セット」として使用された。このデータは一緒にされ、統一最大可分性分析(「USMA」)分類の非線形バージョンを使用して、様々な予期されるモデルを構築して試験するために、ランダムにトレーニングセットとテストセットへ分けられた。USMA分類の詳細は、米国特許公開第2003/0055615に開示されている。
【0143】
一般的に、上述のIVで産生されたデータは、診断アルゴリズム(すなわち、上述されたような分類アルゴリズム)へと挿入される。分類アルゴリズムは、学習アルゴリズムに基づいて産生される。その工程には分類アルゴリズムを産生できるアルゴリズムを開発することが含まれる。本発明の方法は、多くの卵巣がん、及び、統計学的なサンプル計算に基づく十分な数の正常サンプルを評価することで、より正確な分類アルゴリズムを産生する。サンプルは学習アルゴリズムにおけるデータのトレーニングセットとして使用される。
【0144】
分類の産生、すなわち、診断、アルゴリズムは、サンプルを分析し、上述のIVで得られたデータを産生するために使用されるアッセイプロトコールに基づく。(たとえば工程IVにおける)マーカーの検出及び/又は測定のプロトコールは、分類アルゴリズムを開発するために使用されるデータを得るために使用されるものと同じでなければならないことは、必須である。アッセイ条件は、サンプル調製と試験のための一般的なプロトコールと同様に、トレーニングと分類システムを通じて維持されなければならないものであり、チップタイプとマススペクトロメーターのパラメータを含む。マーカーの検出及び/又は測定のためのプロトコール(工程IV)が変わる場合には、学習アルゴリズムと分類アルゴリズムも変えなければならない。同様に、学習アルゴリズムと分類アルゴリズムが変わる場合には、マーカーの検出及び/又は測定のためのプロトコール(工程IV)もまた、分類アルゴリズムを産生するために使用されるものと一致するように変えなければならない。新しい分類モデルの開発は、十分な数のガン患者と正常サンプルの評価、新しい検出プロトコールに基づく新しいトレーニングデータセットの開発、データを使用する新しい分類アルゴリズムの産生、そして最終的に多面的な研究で分類アルゴリズムを確かめることを必要とするだろう。
【0145】
分類モデルは、いかなる適したデジタルコンピュータを使用して形成されることができる。適したデジタルコンピュータには、標準または、操作システムに基づいて、ユニックス、ウインドウズ(登録商標)、リナックス(登録商標)のような特定の操作システムを使用する、マイクロ、ミニ、または大型コンピュータが含まれる。使用されるデジタルコンピュータは、興味あるスペクトルを産生するのに使用されるマススペクトルメーターから物理的に分離され、または、マススペクトロメーターと共に使用されるであろう。マススペクトロメーターから分離される場合には、データは手動または自動のほかの手段によりコンピュータへ入力されなければならない。
【0146】
本発明のトレーニングデータセットと分類モデルは、実行されるコンピュータコードにより、または、デジタルコンピュータの使用で構築されることができる。コンピュータコードは光学または磁気ディスク、スティック、テープ等を含む、適したコンピュータで読み取り可能な媒体に保存されることができ、C、C++、ビジュアルベーシック等を含むいかなる適したコンピュータプログラミング言語によっても記載されることができる。
【0147】
VI.好ましい態様の例
好ましい態様では、血清サンプルは患者から集められ、上述したように陰イオン交換樹脂を使用して分画化される。サンプル内のバイオマーカーはIMAC銅プロテインチップアレイを使用して捕獲される。マーカーはそれからSELDIを使用して検出される。そのような試験においては、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片が検出できる。結果はコンピュータシステムへ挿入され、そのコンピュータシステムは、バイオマーカーをもともと決定するための学習アルゴリズムと分類アルゴリズムにおいて使用されたものと同じパラメータを使用するようにデザインされたアルゴリズムを含む。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関する受容されたデータに基づいて診断する。
【0148】
特に好ましい態様では、バイオマーカーCA125IIの量がまた、例えばイムノアッセイのような既知の方法を使用して、または、SELDIプロテインチップアレイを使用して検出される。この態様では、マーカーCA125IIに関する結果はまた、コンピュータアルゴリズムへ挿入され、診断準備のために使用される。Apo1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片、CA125IIの4バイオマーカーの検出に基づく診断試験は、少なくとも約80%の特異度を有している。
【0149】
診断は、バイオマーカーを使用して開発される分類アルゴリズムと、SELDI試験から産生されたデータを調べることで、決定される。分類アルゴリズムは、バイオマーカーの検出に使用される試験プロトコールの特徴に基づく。これらの特徴にはたとえば、サンプル調製、チップの型、マススペクトロメーターパラメータが含まれる。試験パラメータが変わる場合には、アルゴリズムも変えなければならない。同様に、アルゴリズムが変わる場合には、試験プロトコールを変えなければならない。
【0150】
他の態様では、サンプルは患者から集められる。バイオマーカーは上述したように抗体プロテインチップアレイを使用して捕獲される。マーカーは生体特異的SELDI試験システムを用いて検出される。そのような試験では、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片が検出できる。結果はコンピュータシステムへ挿入され、そのコンピュータシステムは、バイオマーカーをもともと決定するための学習アルゴリズムと分類アルゴリズムにおいて使用されたものと同じパラメータを使用するようにデザインされたアルゴリズムを含む。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関する受容されたデータに基づいて診断する。
【0151】
さらに他の好ましい態様では、マーカーは非SELDI形態を使用して捕獲されて試験される。ある例では、サンプルは患者から集められる。バイオマーカーは例えばマーカーに対する抗体のように、他の既知の手段を用いて、基質上に捕獲される。マーカーは例えば光学的方法または屈折率のような当該技術分野で公知の方法を用いて検出される。光学的方法の例には、たとえばELISAのような蛍光の検出が含まれる。屈折率の例には、プラズモン共鳴がふくまれる。マーカーに関する結果はそれからアルゴリズムへと供され、それは人工知能を要求しても要求しなくてもよい。アルゴリズムは個々のバイオマーカーに関して取得されたデータに基づいて診断する。
【0152】
上述した方法のいずれにおいても、サンプル由来のデータは検出手段から診断アルゴリズムを含むコンピュータへ直接供給されるだろう。あるいは、得られたデータは手動で、または、自動手段により、診断アルゴリズムを含む分離されたコンピュータへ供給されることができる。
【0153】
VII.生体の診断と卵巣がん状態の決定
個別的にいかなるバイオマーカーもが、卵巣がん状態を決定する上での助けとして有用である。まず、選択されたバイオマーカーが、例えばマススペクトロメトリーによる検出に続くSELDIバイオチップでの捕獲のような、ここに開示される方法を用いて、生体において測定される。それから、測定結果は卵巣がんの状態を、ガンでない状態から区別する対照の診断量と比較される。診断量はガンでない状態に比較して、ガン状態において特有のバイオマーカーがアップレギュレートまたはダウンレギュレートされているという情報を反映するだろう。当業界においてよく理解されているように、使用される特有の診断量は、診断する人の意向に基づいて、診断アッセイの感度や特異度を増強させるために調整されることができる。診断量と比較される試験量はよって、卵巣がんの状態を示す。
【0154】
個々のバイオマーカーが有用な診断マーカーであるが、バイオマーカーの組み合わせは単独マーカーよりもより高度の予測値を提供する。特に、サンプル内の複数マーカーの検出は、真に陽性及び真に陰性の割合を増加させ、誤った陽性及び誤った陰性の割合を低下させるだろう。よって、本発明の好ましい方法には、一つよりも多いバイオマーカーの測定が含まれる。例えば本発明の方法は、0.50より多いROC分析由来のAUC、より好ましい方法では0.60より多いAUC、さらに好ましくは0.70より多いAUCを有する。特に好ましい方法は0.70より多いAUCを有し、最も好ましい方法では0.80より多いAUCを有する。
【0155】
さらに、本発明の3つの好ましいバイオマーカーを、たとえばCA125などのマーカー4と組み合わせて測定する方法の利用は、CA125の診断能を顕著に増加させ、0.50より多いAUC、より好ましくは、0.60より多いAUC、さらに好ましくは0.70より多いAUCを有する試験を提供する。
【0156】
バイオマーカーを使用するために、対数回帰アルゴリズムが有用である。UMSAアルゴリズムが特に試験データから診断アルゴリズムを産生するのに有用である。このアルゴリズムは、Z.Zhangらの、マイクロアレイデータへの分類分析の適用に開示されている。
【0157】
学習アルゴリズムはオペレータに所望される特定の特異度及び感度を調節する多変量分類(診断)アルゴリズムを産生するだろう。分類アルゴリズムは卵巣がん状態を決定するために使用できる。その方法はまた、生体サンプル内の選択されたバイオマーカー(例えばApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片)を測定することを含む。これらの測定結果は分類アルゴリズムに供される。分類アルゴリズムは卵巣がん状態を示す標識スコアを産生する。
【0158】
ある態様では、マーカーの定量なしに、マーカーの存否が有用で、卵巣がんの確からしい診断と関連させることができる。たとえばIAIH4断片は、正常な生体よりもヒト卵巣がん患者においてより高頻度で検出できる。同様にたとえばバイオマーカーApoA1とトランスサイレチンΔN10は、正常な生体よりもヒト卵巣がん患者においてより低頻度で検出できる。よって、試験される生体におけるこれらのマーカーそれぞれの検出される存否は、生体がより高い卵巣がんの可能性を有することを示す。
【0159】
他の態様では、マーカーの測定は卵巣がんの確からしい診断とマーカーの検出を関連付けるために、マーカーを定量することを含むことができる。試験される生体において検出されるマーカーの量が対照量と比較して異なる場合には(すなわち対照よりより高いまたは低い、マーカーに依存する)、試験される生体は卵巣がんのより高い可能性を有している。
【0160】
関連性は、マーカーまたは複数のマーカーの対照量(たとえば、ヒトガンが検出されない正常な生体におけるもの)と比較した、サンプルにおけるマーカーまたは複数のマーカー量(マーカーまたは複数のマーカーのアップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)を考慮するものである。対照は、例えばヒトのガンが検出されない正常な生体の比較可能なサンプルに存在するマーカーの平均又は中間量である。対照量は、試験量の測定におけるものと同じか又は実質的に同様の実験条件下で測定される。関連付けには、試験サンプル内のマーカーの存否と対照における同マーカーの検出頻度を考慮する。関連付けに際しては、卵巣がんの状態の決定を容易にするためには、その両方の要因を考慮するものである。
【0161】
卵巣がんの状態を認定するある特定の態様では、本発明の方法は、状態に基づく生体処置を行うことをさらに含む。前述したように、そのような処置は、卵巣がんの状態を決定した後に医師や臨床医の行動を表す。たとえば、本発明の方法の結果が決定的でなく、または、状態を確認することが必要である理由がある場合には、医師はさらなる試験を命じるであろう。あるいは、もし状態が、手術が適当であることを示している場合には、医師は患者の手術を予定するだろう。他の例では、手術の替わりに、又は手術に加えて、患者は化学治療又は放射線治療を受けることになる。同様に、例えば状態が卵巣がんの後期段階であったり、状態があるいは急性であるなど、その結果が否定的であれば、さらなる対処法は保証の限りではない。さらに、結果が処置の成功を示すものであれば、さらなる処置は不要である。
【0162】
本発明はまた、バイオマーカー(または特異的なバイオマーカーの組み合わせ)が生体処置の後に再度測定されるような方法を提供する。これらの場合では、その方法は、例えばガン処置に対する応答、疾患の回復または疾患の進行のような状態をモニターするために使用される。その方法を使用する容易さと、その方法の侵襲性により、その方法は患者が受ける個々の処置の後に繰り返すことができる。これは医師が一連の処置の有効性を追うことを可能にする。結果が、処置が有効でないことを示せば、一連の処置はそれに従って変更できる。これにより、医師は処置に於いて柔軟性のある選択をすることができる。
【0163】
他の例では、マーカーを検出する方法は、生体内または試験管内でのマーカーの発現を調節する化合物を同定するアッセイにも用いられる。
【0164】
本発明の方法は、同様に他にも適用できる。たとえば、マーカーは生体内または試験管内でマーカーの発現を調節する化合物をスクリーニングするために使用でき、その化合物は患者において卵巣がんを処置または防御するのに有用である。他の例では、マーカーは卵巣がんの処置への応答をモニターするために使用できる。さらに他の例では、マーカーは、生体が卵巣がんを発展させる危険にあるか否かを決定するために遺伝研究において使用できる。例えば、あるマーカーは遺伝子工学的に関連している。これは、例えばその家族が卵巣がんの履歴を持つ卵巣がん患者の集団由来のサンプルを分析することにより、決定できるだろう。その結果は、例えばその家族が卵巣がんの履歴を持たない、卵巣がん患者由来のデータと比較できる。遺伝子工学的に関連のあるマーカーは、その家族が卵巣がんの履歴を持つ患者が、卵巣がんにかかりやすいか否かを決定するための手段として使用できるものである。
VIII.キット
【0165】
さらに他の局面では、本発明は卵巣がんの状態を認定するキットを提供し、そこではキットは本発明のマーカーを測定するために使用できる。例えば、キットは個々に開示されるマーカーの一つまたはそれ以上を測定するために使用でき、それらのマーカーは卵巣が患者のサンプルと正常な生体において異なって発現するものである。本発明のキットは様々な適用ができる。例えば、キットは、生体が卵巣がんを有するか陰性と診断されるかを区別するために使用でき、よって医師や臨床医がガンの存否を診断することを可能にする。キットはまた、一連の処置に対する患者の応答をモニターするために使用でき、医師が試験結果に基づいて処置を修飾することを可能にする。他の例では、キットは卵巣がんのための試験管内または生体内動物モデルにおいて、一つまたはそれ以上のマーカーの発現を調節する化合物を同定するために使用できる。
【0166】
本発明はそれゆえ、(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片、及びそれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーに結合する捕獲試薬、及び(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、を含むキットを提供する。好ましいキットでは、捕獲試薬は複数のバイオマーカーに結合する。捕獲試薬はまた、例えばCA125のような既知のバイオマーカー、マーカー4の少なくとも一つと結合するだろう。好ましい態様では、キットはさらに、第一の捕獲試薬が結合しない、バイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含む。
【0167】
本発明で提供されるさらなるキットは、(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択される少なくともひとつのバイオマーカーを結合する第一の捕獲試薬、(b)第一の捕獲試薬とは結合しないバイオマーカーの少なくとも一つと結合する第二の捕獲試薬、を含むものである。好ましくは、少なくとも一つの捕獲試薬は抗体である。あるキットはさらに、少なくとも一つの捕獲試薬が装着され、または装着可能なMSプローブを含む。
【0168】
捕獲試薬はいかなる型の試薬でもよいが、好ましくは、試薬はSELDIプローブである。本発明のある態様では、捕獲試薬はIMACを含む。
【0169】
本発明はまた、(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための指示書、を含むキットを提供する。これらのキットのある場合には、捕獲試薬は抗体を含む。さらに、前述したキットのいくつかはさらに、捕獲試薬が結合する、又は結合できるMSプローブを含む。あるキットでは、捕獲試薬はIMACを含む。本明細書で同定される三つのマーカーの各々は、IMACプロテインチップ(登録商標)アレイに結合する。よって、本発明のある好ましい態様には、卵巣がんの早期検出のための高スループット試験であって、伝統的なCA−125ELISA(又はCA−125はプロテインチップ(登録商標)アレイプラットフォームに移されるされる)と同様に、三つの分析物のためのIMACプロテインチップ(登録商標)上の患者のサンプルを分析するものである。
【0170】
他の態様では、ここに開示されるキットは、マーカーIからXLVIIIより選択される少なくともひとつのバイオマーカーと結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む。
【0171】
本発明のあるキットはさらに、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液または溶出液を含む。あるいは、キットは洗浄液を製造する指示書を含み、吸収剤と洗浄液の組み合わせで、ガス相イオンスペクトロメトリーを使用するマーカーの検出ができるようになる。
【0172】
好ましくは、キットは、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出することを提供するための使用説明書を含むものである。たとえば、キットは血清サンプルを捕獲試薬と接触させた後に、捕獲試薬(たとえばプローブ)をどのように洗浄するかを、消費者に説明する標準の使用説明書を含むものである。他の例では、キットは、サンプル内の蛋白質の複雑さを減じるためのサンプルの前分画化に関する説明書を含む。他の例では、キットは分画の自動化又は他の工程の自動化に関する説明書を含む。
【0173】
そのようなキットは好ましくは上述した物質から調製され、これらの物質(例えばプローブ基質、捕獲試薬、吸光度、洗浄液等)に関する上記考察は、このセクションにも適用できるものであるから、繰り返しの説明を省略するものである。
【0174】
他の態様では、キットはそれらの吸着物質(例えば、吸着物質を有する粒子)を含む一番目の基質と、プローブを形成するために一番目の基質がその上に位置づけされる、二番目の基質を含み、ガス相イオンスペクトロメーターへ除去可能なように挿入できるものである。他の態様では、キットは単一の基質を含み、基質上の吸光物質と除去可能に挿入できるプローブの形態である。さらに他の態様では、キットはさらに前分画スピンカラム(例えばチバクロンブルーアガロースカラム、抗HSAアガロースカラム、K−30サイズ除去カラム、Q陰イオン交換スピンカラム、一本鎖DNAカラム、レクチンカラム等)を含む。
【0175】
他の態様では、キットは(a)マーカーに特異的に結合する抗体と、(b)検出試薬を含む。そのようなキットは、上述した物質から調製でき、物質(例えば抗体、検出試薬、固定化支持体等)に関する上記考察はこのこのセクションにも適用できるものであるから、繰り返しの説明を省略するものである。キットはさらに前分画スピンカラムを含んでいてもよい。ある態様では、キットはさらに標識形態または分かれた挿入の形態で、適切な作業パラメータに関する指示書を含んでいてもよい。
【0176】
適宜キットはさらに、サンプルで検出されるマーカーの試験量が、卵巣がんの診断と一致する診断量であるか否かを決定するために、対照の情報、標準物質と試験サンプルが比較できるように、標準または対照の情報を含む。
【0177】
本発明は、はApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片から選択される少なくとも二つのバイオマーカーに結合した、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品を提供する。本発明の製品の例には、プロテインチップアレイ(登録商標)、プローブ、マイクロタイタープレート、ビーズ、テストチューブ、マイクロチューブ、及び、捕獲試薬が挿入されることができる他のいかなる固相が含まれ、これらに限定されるものではない。本発明製品のほかの態様はさらに、他の既知の卵巣がんマーカー、すなわちマーカー4に結合する捕獲試薬を含む。そのような製品の例では、例えばプロテインチップ(登録商標)アレイはApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片、及び、マーカー4に結合する捕獲試薬をさらに含むだろう。特に好ましい態様では、マーカー4はCA125である。他の例では、マイクロタイタープレートは、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片、及び、マーカー4に結合できる抗体を有するものである。これらはそのような製品の数例である。当業者であれば、本明細書に開示される教示にしたがって、容易に、その他のこのような製品を製造できるものである。
【0178】
本発明はまた、個々の試薬が、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片から選択される、異なるバイオマーカー、及び、マーカー4のカテゴリーに適合する少なくとも一つのマーカーに結合する複数の捕獲試薬を含むシステムを提供する。そのようなシステムの例としては、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片から選択されるバイオマーカーの一つ又はそれ以上と結合する吸着物質を含む、プロテインチップ(登録商標)アレイのセットを含み、これに限定されるものではない。このタイプのシステムでは、個々のバイオマーカーに対して一つのプロテインチップ(登録商標)アレイがあるだろう。あるいは、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片から選択される複数のマーカーに対する一つのプロテインチップ(登録商標)アレイと、CA125に対する第二のプロテインチップ(登録商標)アレイが存在するだろう。他のシステムの例には、捕獲試薬が、別個の又は集団に於ける各々のバイオマーカーに対する抗体を有する試験チューブであるものを含む。当業者は本明細書に開示される教示にしたがって、その他のこのようなシステムを容易に構築できるものである。
【0179】
本発明はまた、(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを測定する、ことを含むスクリーニング試験を提供する。そのような試験の一つにおいては、基質は、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である。以下で考察するように、いくつかのカリクレインは、卵巣がんにおいて障害をうけることが見出されている(Diamandis 2002における総説)。よって、カリクレインの活性を測定することは、卵巣がんの指標となる。そのような方法は、試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを測定する工程は、IAIH4断片の存在又は量を測定することを含むものである。上述したIAIH4断片の測定方法は、スクリーニング方法で使用することができる。
【0180】
以下の実施例は本発明を説明のためのものであって、これらに限定されるものではない。特定の例が提示されているが、上述の記載は説明のためのものであり、なんら本発明を限定するものではない。前述した態様の一つ又はそれ以上のいずれもが、本発明におけるほかの態様の一つ又はそれ以上といかなる組み合わせで用いられてもよい。さらに、本発明の多くの改変は、本明細書の記載によれば、当業者には明らかなものである。それ故、本発明の範囲は上述の記載に制限されるものではく、寧ろ下記の請求の範囲及びそれらの均等の範囲に基づいて決定されるものである。
【0181】
本出願で引用された全ての刊行物及び特許文献は、刊行物又は特許文献の各々に於いて示されているものが同等にその全てが参照として本明細書に取り込まれる。出願人は、本明細書で参照された何れの文献についても、本発明の「先行技術」として認めるものではない。
【0182】
実施例
原料と方法
サンプル
プロテオミックプロファイリングデータはグローニンゲン大学病院(グローニンゲン、オランダ)、デューク大学メディカルセンター(ダーハム、NC)、ロイヤルホスピタルフォーウイメン(シドニー、オーストラリア)、MDアンダーソン癌センター(ヒューストン、TX)で集められた全部で503例の血清試料から過去にさかのぼって得たものである。卵巣がんの群は、65人のステージI/IIの浸潤性上皮卵巣がん患者、88人のステージIII/IVの浸潤性上皮卵巣がん患者、28人の境界型腫瘍の患者及び14人の再発性患者からなる。ガンのケースはFIGOクライテリアに基づく病理学者により最適なステージに分けられる。ステージI/IIの浸潤性卵巣がん患者のうち、20人は重症、17人は粘液性、15人は子宮内、8人は明細胞、1人はがん肉腫、及び4人は混合上皮がん腫であった。サンプルはまた、良性骨盤塊と診断された166人の患者及び142人の健常人を対照として含むものであった。年齢及びCA125レベルを含む研究集団(群)の特徴と基本的な記述統計を、表1に記す。
【0183】
患者由来の全てのサンプルは、手術または処置の前に集められ、健康な有志由来の試料は、施設の同意で集められた。血液は凝固され、血清はすぐに分離された。全てのサンプルは−70℃で保存され、アッセイの直前に溶解された。前患者のCA125レベルは、CA125IIラジオイムノアッセイキット(セントカー)を使用した前もった研究により入手できた。
【0184】
プロテオミクスプロファイリングのための503例の試料に加え、ジョンズホプキンスメディカルインスティチューションでの定期的な臨床実験試験のために収集された142の血清試料が、イムノアッセイ試験が可能な同定されたバイオマーカーのレベルで試験された。これらのサンプルのうち、41例は後期卵巣がん患者から、41例は健常な女性から得られた。残りの60例サンプルは、胸がん、腸がん、前立腺がんの患者それぞれ20人から得られ、同定されたバイオマーカーの腫瘍部位特異性を試験するために使用された(表3)。全てのサンプルは、収集の後2乃至4時間で処理され、−70℃での凍結に先立って、最大48時間、2−8℃で保存された。CA125IIアッセイはまた、トソーAIA-600 II分析器(トソーメディックス)での二次元イムノエンザイモメトリックアッセイを使用して行われた。
【実施例1】
【0185】
蛋白質発現プロファイリング
血清分画:血清サンプルは氷上で溶かされ、それから沈殿を除去するために20000gで10分間遠心された。血清の20μlは30μlの変性緩衝液(U9:9Mのウレア、2%のCHAPS、50mMのトリスpH9.0)と混合され、4℃で20分間撹拌された。個々のサンプルのために、180μlのハイパーQDFアニオン交換樹脂が、200μlのU1緩衝液(50mMのトリスpH9.0で1:9に希釈されたU9)で三回平衡化された。変性した血清は樹脂に添加され、30分間結合させられた。結合しない物質は集められ、それから100μlの0.1%OGPを含む50mMトリス9.0が樹脂へと添加された。この洗浄物は収集され、結合しない物質(フロースルー、分画1)とあわせられた。分画はそれからpH7,5,4,3の洗浄緩衡液と有機溶媒それぞれ100μlを二回使用する段階的pH勾配で集められた。これで、全部で6つの分画が集められた。分画はバイオメック2000自動化液体ハンドラー(ベックマン)及びマイクロミックスシェイカー(DPC)で処理された。対照の収集されたヒト血清(インタージェン)のサンプルはアッセイをモニターするために、同様に処理された。
【0186】
A.蛋白質発現プロファイルのための物質
ベックマンバイオメック2000自動化ワークステーション
QハイパーDFセラミックアニオン交換樹脂(バイオセプラ、フランス)96穴ウェル
v底マイクロプレート
96穴ロプロダイン膜フィルタープレート(サイレントスクリーン、Nalge Nunc)
平衡緩衝液−50mMのトリス塩酸pH9.0
U9−9Mのウレア、2.0%のCHAPS、50mMのトリス塩酸、pH9.0;
U1−1Mのウレア、0.22%のCHAPS、50mMトリス塩酸、pH9.0;
pH9.0緩衝液−100mMのトリス塩酸、0.1%のOGP pH9.0;
pH7.0緩衡液−100mMのHEPES、0.1%のOGP pH7.0;
pH5.0緩衝液−100mMの酢酸Na、0.1%のOGP pH5.0;
pH4.0緩衝液−100mMの酢酸Na、0.1%のOGP pH4.0;
pH3.0緩衝液−50mMのクエン酸Na,0.1%のOGP pH3.0;
有機緩衝液−33.3%のイソプロパノール/16.67%のアセトニトリル/0.5%のトリフルオロ酢酸(TFA)
【0187】
B.手順
血清変性
20μlの血清を96穴V底プレートにピペットする。血清を含む個々のウエルに30μlのU9を添加する。96穴プレートをシーリングフィルムで覆う。樹脂が平衡化される間、少なくとも20分間4℃で撹拌する。
【0188】
樹脂の平衡化
50mMのトリス塩酸 pH9.0の3ベッド(bed)容量で樹脂を5回洗浄する。これは50mLの遠心チューブで行われる。樹脂に50mMのトリス塩酸 pH9.0の当量を添加することで樹脂の50/50スラリーを調製する。180μlの50/50スラリーを96ウェルフィルタープレートの個々のウェルに添加する。樹脂の緩衝液に対する比率を一貫したものに保つために、スラリーを含む(2又は3分取毎に)チューブを定期的に撹拌する。それから緩衝液をろ過し、200μlのU1を添加し、再度ろ過する。これを同様にさらに2回行う。
【0189】
サンプル適用とインキュベーション
次に血清を樹脂に結合させる。本工程の最初の段階は、フィルタープレート内の対応するウェルに50μlの個々のサンプルをピペットする。次にサンプルプレートの個々のウェルに50μlのU1を添加し、5分間混合する。それからサンプルプレートの個々のウェルから50μlをフィルタープレートの対応するウェルへピペットする。30分間4℃で撹拌する。
【0190】
次に分画を集める。フィルタープレートの下にV底96ウェルを設置する。フィルタープレートから流出物を集める。100μlの洗浄緩衝液1がフィルタープレートの個々のウェルにそれから添加される。次に室温で10分間撹拌する。分画1は流出及びpH9の溶離液を含む。次にフィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液2を添加する。室温で10分間撹拌する。フィルタープレートの下にきれいなV底プレートを設置し、プレート内に分画2を集める。フィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液2を添加する。10分間室温で撹拌する。V底96ウェルプレートに分画2の残りを集める。分画2はpH7の溶離液を含んでいる。フィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液3を添加する。室温で10分間撹拌する。清浄なV底プレートをフィルタープレートの下に設置し、分画3を集める。フィルタープレートの個々のウェルへ100μlの洗浄緩衝液3を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに分画3の残りを集める。分画3はpH5の溶離液を含んでいる。フィルタープレートに100μkの洗浄緩衝液4を添加し、室温で10分間撹拌する。フィルタープレートの下に清浄なV底プレートを設置し、分画4を集める。次にフィルタープレートへ100μlの洗浄緩衝液を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに残った分画4を集める。分画4はpH4の溶離液を含む。それからフィルタープレートの個々のウェルに100μlの洗浄緩衝液5を添加し、室温で10分間撹拌する。V底プレートに残った分画5を集める。分画5はpH3の溶離液を含んでいる。フィルタープレートに100μlの洗浄緩衡液6を添加し、10分間室温で撹拌する。次にフィルタープレートの下に清浄なV底プレートを設置し、分画6を集める。フィルタープレートに100μlの洗浄緩衝液6を添加し、再度室温で10分間撹拌する。残りの分画を集める。分画6は有機溶媒溶離液を含んでいる。
チップ結合手順までの間、分画は凍結させておく。
【0191】
アレイ結合:10μlの個々の分画は90μlの結合緩衝液と混合され、IMAC、SAX、H50、WCXプロテインチップアレイ(サイファージェンバイオシステムズ)へ三回結合された。IMACでは、結合緩衝液は500mMの塩化ナトリウムを含む、100mMのリン酸ナトリウム pH7.0であり、SAXでは、結合緩衝液はpH7の100mMリン酸ナトリウムであり、H50では結合緩衝液は50%のアセトニトリル水溶液であり、WCXでは、緩衝液はpH4.0の100mM酢酸ナトリウムであった。結合は室温で30分間行われた。チップはそれから結合緩衝液で3回洗浄され、水で二回洗浄された。使用されたマトリックスはシナピニック酸であった。
【0192】
データ獲得および分析:SELDI分析のために、全てのアレイは、サイファージェンPBSプロテインチップ(登録商標)アレイリーダー、タイムラグ焦点、線形、レーザー脱離/イオン化飛行時間マススペクトロメーターを使用して読まれた。全てのスペクトルは陽性イオンモードで獲得された。タイムラグ焦点遅延時間はペプチドに対して400ns、蛋白質に対して1900nsで設定された。イオンは3kVイオン抽出パルスを使用して抽出され、20kVの加速化電位を使用して最終速度へと加速された。このシステムは秒あたり2乃至5パルスの繰り返し率でパルスされた窒素レーザーを使用している。レーザー流は通常30−150μJ/mmであった。自動化された分析手順はほとんどのサンプル分析においてデータ獲得工程をコントロールするために使用された。個々のスペクトルは平均少なくとも100レーザーショットであり、既知のペプチド又は蛋白質の混合物に対して外見的に計測された。インシュリン及びイムノグロブリン標準物質を使用して、装置はパフォーマンスを毎週モニターされた。個々のチップは高低二つのレーザーエネルギーでよまれた。スペクトルは外見的に計測され、ベースラインは8倍のフィティング幅のセットを引かれ、それから総イオン電流へ(マトリックス領域を除いて)ノーマライズされた。
【実施例2】
【0193】
統計分析
バイオマーカー検索: M/Z2kD−50kDのマスの幅で限定されたマスピークが(S/N>5、0.3%のクラスターマスウインドウ)、SELDIスペクトルから選択された。興味あるスペクトルの幅でのデータのばらつきのより一貫したレベルを得るために、さらなる分析の前に対数変換がピーク強度に適用された。初期の上皮卵巣がん患者、及び、デューク大学医療センター(Ca n=36、HC n=47)並びにグロニンゲン大学病院(Ca n=20、HC n=30)由来の健常コントロールのデータ強度が、まずマイクロアレイデータ分析に、次いで蛋白質発現データ分析(プロピーク、3Zインフォマティックス)に用いられた、ユニファイドマキシマムセパラビリティー分析(UMSA)アルゴリズムを使用して分析された。(Li Jら、Clin Chem 2002, 48: 1296-304、Rai AJら、Zhang Zら、Arch Pathol Lab Med 2002, 126: 1518-26、Zhang Zら、Applying classification separability analysis: papers from CAMDA ’00 Boston: Kluwer Academic Publishers, 2001: 125-136; Zhang Zら、Fishing Expression- a Supervised Approach to Extract Patterns from a Compendium Of Expression Profiles. In: Lin SM, Johnson KF, eds. Microarray Data Analysis II: Papers from CAMDA ’01. Boston: Kluwer Academic Publishers, 2002)。
【0194】
データにおけるバイアスやアーティファクトのピークを選択する可能性を減少させるために、二つの側面からのデータが別々に分析された。初期の卵巣がんと健常コントロールを区別するはっきりとした一貫性のあるピークを選択するためにブーツストラップ・リサンプリング法が用いられた。各ブーツストラップ・ランにおいて、ある一定のパーセンテージのガン及び対照サンプルが、分析するための差し替え用にランダムに選択された。各ピークはUMSA分類の線形型式に当てはまるようにランク付けされた。各ピークのランクの平均及び標準偏差は複数回(20−40)の測定で算出された。高い平均ランクと低い標準偏差を有するピークが候補ピークの短いリストを形成するために選択された。次いで、二つの側面からの結果は、潜在的なバイオマーカーのパネルとして一貫した発現パターンを有するピークの最終セットを決定するために比較された。
【0195】
多変量予測モデル:多変量予測モデルを構築するために、二つの側面からのデータは合わせられ、ランダムにトレーニングセットと試験セットへと分けられた。潜在的なバイオマーカーパネルと得られた予測モデルの性能は最初に試験セットで評価され、最終的にバイオマーカー発見及びモデル構築工程に含まれなかった残り二つの側面からの、別々のデータで確認された。評価のための統計方法には感度並びに特異度評価、及び、受診者動作特性(ROC)曲線分析が含まれた。
【実施例3】
【0196】
バイオマーカーの精製
全てのマーカーにおいて、血清は蛋白質発現プロファイリングに使用されたアニオン交換プロトコールを使用してはじめに分画化された。個々の精製工程では、分画はNP20又はIMAC−銅プロテインチップアレイにおいてモニターされた。
【0197】
28kDマーカーの精製:アニオン交換分離由来の1mlのpH4分画が、500μlのRPCポリバイオ10−15(バイオセプラ)へ添加され、40℃で1時間インキュベートされた。0.1%のトリフルオロ酢酸を有するアセトニトリルの増加した量を含む分画が集められた。75%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸分画は高速バキュームで乾燥され、DTTを伴わない100μlのSDS−トリシンサンプルローディング緩衝液で再水和された。40μlのサンプルが16%トリシンゲルへロードされ、100mVで4時間実行された。ゲルはコロイドブルーキット(ピアース)で汚れを取り除かれ、28kDaのものが切り取られた。
【0198】
12.8kDaマーカーの精製:アニオン交換分離由来の10mlのpH4分画は、1Mのトリス塩酸、pH11で、pH7.5に調節され、20mlのpH7.2のPBSで3回前もって洗浄された10mlのMEPビーズ(バイオスプラ)へロードされた。ピークを含む流出分画が、30分間4℃でシェイクした後に得られた。この分画は大量のアルブミンを含んでいることから、アルブミンの免疫枯渇が行われた。プロテインAビーズが1.5mlPBSでの3回に続く、0.1%のトリトン100を含む1.5mlのPBSで前もって洗浄された。4mlの抗HSA抗体(ICN)が1.5mlのプロテイン−Aビーズに添加され、一晩中結合させられた。結合されたビーズは、0.1%トリトン−100を含む1mlPBSで3回洗浄され、それから1mlのPBSで3回洗浄された。MEPカラムからの流出物はビーズへ添加され、4℃で1時間インキュベートされた。流出物は1分間3000rcfでスピンすることで得られた。プロテインA−抗HSA抗体カラムからの流出画分は、1.5mlの0.1%TFAで4回前もって洗浄された1.5mlのRPCポリバイオ10−15樹脂(バイオセプラ)を含むスピンカラムへと添加された。流出物は4℃で40分間静かな振動でインキュベートした後に、3000rcfでスピンすることで除去され、ビーズは0.1%のTFA0.8mlで洗浄された。0.1%のトリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの増加した量を含む分画が集められた。75%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸分画が高速バキュームで乾燥され、DTTを有さない100μlのSDS−トリシンサンプルローディング緩衝液で再水和された。40μlのサンプルが16%トリシンゲルへとロードされ、100mVで4時間実行された。ゲルはコロイドブルーキット(ピアース)で汚れを取り除かれ、12.8kDaが切り取られた。
【0199】
3272ダルトンのバイオマーカーの精製:アニオン交換分画由来の1mlの流出物が、硫酸銅と結合した125μl(50%スラリー250μl)のIMACセルロース(バイオセプラ)へロードされ、4℃で1時間インキュベートされた。ビーズはそれからイミダゾールの徐々に増加する勾配で洗浄された(500mM塩化ナトリウムを有する、pH7の100mMリン酸ナトリウムの、20mM、50mM、100mM、150mM、200mMイミダゾール各々250μl)。バイオマーカー(50−150mMイミダゾール)を含む200μlの分画がC18カラム(ANSYSテクノロジーズ、メタケムポラリスC18−A5U)へロードされ、1ml/分で5分間0.1%のTFAで洗浄され、続いて1ml/分で、0.1%のTFAを含む0乃至9%ACN勾配で10分間洗浄された。カラムはそれから0.1%TFAを含む9%ACNから、0.1%TFAを含む45%ACNへの線形勾配で、1ml/分で30分間溶出された。分画は1ml容器に集められ、マーカーは(ACNの濃度が34.2%である)分画38で溶出した。
【実施例4】
【0200】
バイオマーカーの同定
精製された蛋白質はトリプシンで消化され、トリプシンで消化された断片はプロテインチップリーダーで分析された。個々のスペクトルは平均少なくとも250レーザーショットであり、既知のペプチドの混合物に対して外見的に校正され、又はトリプシン自動溶解およびマトリックスピークを使用して内部的に校正された。ピークマスはプロファウンド検索ペプチドマッピングサイト(http://129.85.19.192/profound_bin/WebProFound.exe)に供された。蛋白質配列はNCBIデータベースを使用して得られた。これらのデータベース合致は、プロテインチップアレイインターフェース(サイファーゲン)を装着したPE Sciex QStar(コンコルド、カナダ)により確かめられた。MS/MS実験では、スペクトルはサイファーゲンPCI1000プロテインチップ(登録商標)アレイインターフェースを装着したSciex QStar(コンコルド、オンタリオ、カナダ)タンデム四極飛行時間マススペクトロメーターで得られた。イオンは、平均電圧流が130μJ/mmの秒辺り30パルスで作動する、電圧をかけられた窒素レーザー(レーザーサイエンスVSL337NDS、フランクリン、MA、USA)を使用してつくられた。窒素ガスは、全ての低エネルギー衝突誘起解離(CID)実験と同様に、形成されたイオンの衝突冷却のために、圧力10mトールで使用された。適用された衝突エネルギーは一般に50eV/kDaの支配へ続く。MS及びMS/MSモードでは、システムは既知のペプチドの混合物を使用して外見的に校正された。蛋白質の同定はUCSFプロテインプロスペクターMS−タグプログラム(http://prospector.ucsf.edu)を使用して行われた。MS−タグによるデータベース検索は、以下の値を使用して行われた。ヒト、トリプシン消化(許容される解裂の二つがかけた)、カルバミドメチル化により修飾されたシステイン、親及び断片イオンマス許容性50ppm、NCBI又はSwiss−Protデータベース。
これらの同定は、EIA又はプロテインチップアレイに基づくイムノアッセイにより確かめられた。
【0201】
これらの蛋白質は一般的に急性反応物として特徴付けられるものであるが、イムノアッセイを使用する予備的な研究において、アポリポプロテインA1のレベルが胸又は小腸がん患者において変化しておらず、プレアルブミンのレベルもまた、胸又は前立腺がん患者においては変化してなかったことに言及すべきである。
【0202】
トランスサイレチンは陰性の急性蛋白質であり、そのレベルは上皮卵巣がんにおいて減少することが以前報告されている(Mahlck CGら、Gynecol Obstet Invest, 1994; 37: 135-40)。トランスサイレチンは血清チロキシンとトリヨードチロニンの主要なキャリアーであり、レチノール結合蛋白質との相互作用を通じてレチノールの運搬を容易にする。トランスサイレチンの発現を欠如する形質転換マウスは劇的に低いレベルのレチノール及びレチノール結合蛋白質を有しており、(van Bennekum AMら、J Biol Chem 2001; 276: 1107-13)細胞性レチノール結合蛋白質が卵巣上皮の悪性形質転換の増加した速度と関連づけられることが示されるのと同様に、レチノール結合蛋白質の減少したレベルを有している(van Bennekum AMら、J Biol Chem 2001; 276: 1107-13、Roberts Dら、DNA Cell Biol 2002; 21: 11-9)。加えて、細胞性レチナール結合蛋白質のレベルが卵巣がんにおいて変化することが、オリゴヌクレオチドアレイ解析により報告されている(Giordano TJら、Am J Pathol 2001; 159: 1231-8)。
【0203】
m/z3272バイオマーカーが由来するITIH4のカルボキシル部分は、血漿カリクレインの基質であることが示されている(Pu XPら、Biochem Biophys Acta 1994; 1208: 338-43、Nishimura Hら、FEBS Lett 1995; 357: 207-11)。カリクレインプロテアーゼは血漿カリクレインと組織カリクレインとからなっており、それらは基質特異性が重なっている(Diamandis EPら、Clin Chem 2002; 48: 1198-205)。組織カリクレインは前立腺特異的抗原(PSA;hK3)を含む大きな複数遺伝子ファミリーの産物であり、前立腺がんの腫瘍マーカーである。hK4、hK5、hK7、hK8、hK9を含むいくつかの組織カリクレインは卵巣がんにおいて異常発現物として見出されている(Yousef GMら、Minerva Endocrinol 2002; 27: 157-66)。
【0204】
トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片は成熟蛋白質の切り取られた産物である。これらのマーカーは、血漿カリクレイン、組織カリクレイン、マトリックスメタロプロテアーゼ、プロスタチン、及び卵巣がんにおいて増加することが最近報告されたトリプシン様セリンプロテアーゼを含む、一つ又はそれ以上のプロテアーゼにより解裂される産物であろう(Mok SCら、J Natl Cancer Inst 2001; 93: 1458-64)。これらのマーカーを産生するプロテアーゼはまた、予想されるモデルに対するより高い感度及び特異度を与えるためにマーカー1乃至4と組み合わせられることができるマーカーとして使用されることができるだろう。
【実施例5】
【0205】
個々のバイオマーカーの識別力
発見セット内で、初期の卵巣がん患者と健常人の対照との間における、3つのバイオマーカーの発現レベルにおける違いは統計学的に顕著であった(m/z12828及び28043のマーカーではP<0.000001、m/z3272のマーカーではP<0.003)(表1)。
【0206】
【表1】

【0207】
図2(パネルA−D)は、初期の卵巣がん患者及び健常人の対照由来のデータにおける、受診者動作特性(ROC)曲線分析を使用して、3つのバイオマーカーそれぞれの識別力とCA125の識別力を比較するものである。パネルA−Dでは、1:CA125、2:m/z12.8kD、3:m/z28kDa、4:m/z3272Dである。CA125とm/z12828は検索及び個別の検証セットにおいて同様に実行され、他の二つのバイオマーカーは、一つ又は両方のデータセットにおいてCA125より低い曲線下面積(AUC)を有していた。しかしながら3つのバイオマーカーとCA125の間の見積もられた関連は低く(データは示されていない)、それらはお互い補足しあうもので、多変量アプローチがCA125の単独分析にはより性能がよいであろうという可能性を示している。
【0208】
初期卵巣がんグループのサンプルが由来する50歳以上の女性は61%であるのに対して、健常人の対象サンプルの27%が50歳以上の女性由来であることから(P<0.000001)、これらのマーカーが年齢に関連する変換を反映しているものではないかという関心をもった。しかしながら、同定されたバイオマーカーは年齢集団の間においてさほど変化がなく、CA125のバイオマーカーと同様にレベルにおいて異なるものでもなかった。(表1)。以前の人口に基づく研究において、アポリポプロテインA1のレベルが年齢で実際若干増加することが示されている(Jungner Iら、Clin Chem 1998; 44: 1641-9、Bachorik PSら、Clin Chem 1997; 43: 2364-78)。
【実施例6】
【0209】
多変量予測モデル
非線形UMSA分類を使用して、二つの多変量予測モデルが構築された。最初のものは、その入力として3つのバイオマーカーのみを使用し、二番目のものはCA125レベルとともに、3つのバイオマーカーを使用した。図2のパネルE−Hは、二つのモデルの全体的な診断性能を、ROC分析を使用してCA125の全体的な診断性能と比較している。パネルE−Hでは、○:CA125、□:3つのバイオマーカーを使用する多変量モデル、△:3つのバイオマーカーとCA125を使用する多変量モデル。トレーニングデータでは、0.5のカットオフ値が感度及び特異度の合計をおおよそ最大化した。このカットオフを使用して、モデルは試験データと個々の検証データに適用された(表2)。独立した検証セットにおいて健常対照とステージI/II浸潤性卵巣がんとを差別するために、82.6%の感度(95% Cl 61.2−95.1%)で三つのバイオマーカーとCA125を使用する多変量モデルが、93.7%(84.5−98.2%)の特異度を有していた。表2はまた、独立した検証セットで、良性状態、後期浸潤がん、または境界の腫瘍である患者に関する結果を含んでいる。
【0210】
【表2】

【0211】
図3はCA125と3つのバイオマーカーの分布パターン、および、全ての診断集団におけるサンプルでの二つのモデルの性能をプロットする。y軸は3つのバイオマーカー全ての線上スケールにおける相対的な強度、対数スケールでのCA125の血清レベル、二つのモデルのための0(ガンのもっとも低い危険度)と1(ガンのもっとも高い危険度)の間の継続的な値である。サンプルグループには、A)健常対照、B)良性、C)ステージI/II浸潤性がん、D)ステージIII/IV浸潤性がん、E)再発、F)ステージI/II境界型腫瘍を含む。バイオマーカー検索セットにおける二つのIIIc浸潤性ケースと、個々の検証セットにおける三つのステージIII/IV境界型腫瘍はプロットされなかった。
【0212】
m/z3272を除いて、二つの予測されるモデルと同様に他の二つのバイオマーカーは、良性ケースからステージI/II浸潤性がんを検出することを適度に可能にした(m/z12828と28043それぞれにP=0.004、0.001、CA125あり及びなしのそれぞれのモデルでP=0.003、0.0001)。
【実施例7】
【0213】
免疫アッセイを使用する個別の検証
マイクロタイタープレート形式(和光化学、USA)で行われる濁度免疫アッセイを使用して、アポリポプロテインA1について、そして、ジメンションRxL器具(デイド−ベーリング)での、粒子増強濁度免疫アッセイを使用して、トランスサイレチンΔN10について、142の試料が分析された(表3)。
【0214】
【表3】

【0215】
41人の健常対照に比較して、41人の後期卵巣がん患者において、CA125の血清レベルはアップレギュレートされ、アポリポプロテインA1とトランスサイレチンΔN10のレベルはダウンレギュレートされていた(それぞれP=0.001895、0.000151、0.000006)。健常対照ではアポリポプロテインA1の平均血清レベルは、胸または結腸がん患者のものと顕著に異ならず(それぞれP=0.844163、0.330148)、前立腺がん患者とのみほんのわずかに異なっていた(P=0.0043676)。平均のトランスサイレチンレベルは、卵巣がん患者におけるよりも、結腸がん患者におけるほうがより低い程度ではあるがダウンレギュレートされていた(P=0.006889)。健常対照と胸または前立腺がん患者との間では、平均トランスサイレチンΔN10血清レベルは著しくは異ならなかった(それぞれP=0.928519、0.546918)。
【実施例8】
【0216】
分類アルゴリズム
図4において図式的に描かれる分類アルゴリズムに関して、モジュール1−3はUMSA学習アルゴリズムでトレーニングされた。しかしながら、最終分類モジュールは、通常の支持ベクター機械分類と同じ数学的形態を有していた。
【0217】
UMSA分類モジュール1
CA125nm=log(CA125+0.01)
m/z12.9Knm=(m/z12828−61.103)/239.031
m/z28Knm=(m/z28043−61.3043)/238.9799
m/z3272nm=log(m/z3272+0.01)
log():自然対数
カーネル機能:ポリノミナル<X(:,i)X(:,j)>)^3.0
【0218】

【0219】
UMSA分類モジュール2
CA125nm=log(CA125+0.01)
m/z12.9Knm=(m/z12828−0.345)/0.1114
m/z28Knm=(m/z28043−0.4834)/0.2792
m/z3272nm=log(m/z3272+0.01)
log():自然対数
カーネル機能:exp(−/X(:,i)−X(:,j)/^2/(2*(1.0)^))
【0220】

【0221】
UMSA分類モジュール3
カーネル機構:ポリノミアル<X(:,i),X(:,j)>)^2.0
X1=exp(モジュール1出力)/(1+exp(モジュール1出力)
X1=モジュール2出力
【0222】

【0223】
後処理
Y=(CA125<=75)ならば、モジュール3出力
その他は、モジュール3出力+log((CA125+0.0001)/75)*8/log(10/3)
モジュール出力=exp(Y/2)/(1+exp(Y/2))
【0224】
本発明は、その好ましい実施態様を含んで、詳細に記載されている。当該開示により当業者であれば、本発明の修飾及び/又は改良を行うことができるものであるが、後述の請求の範囲で示されるように、それらも本発明の範囲に含まれるものである。
【0225】
本出願で引用された全ての刊行物及び特許文献は、刊行物又は特許文献の各々に於いて示されているものが同等にその全てが参照として本明細書に取り込まれる。出願人は、本明細書で参照された何れの文献についても、本発明の「先行技術」として認めるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】図1は、m/z12828と28043(分画pH4、IMAC−Cuアレイ)、及び3272(分画pH9、IMAC−Cuアレイ)に位置するピークを示すバイオマーカー発見セットにおけるサンプル由来のマススペクトルの擬似ゲル像を表す。
【図2】図2(A)、(B)、(C)、(D)は、CA125と三つの同定されたバイオマーカーの間のROC曲線比較を示す。図2(E)、(F)、(G)、(H)は、CA125と二つの多変量予測モデルのROC曲線比較を示す。
【図3】図3(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)はバイオマーカー発見セットと、個々の検証セット(パネルa−h)における患者と健常対照間の、三つの同定されたバイオマーカーとCA125のスキャッチャードプロット分布を示す。図3(i)、(j)、(k)、(l)は試験セット(バイオマーカー発見セットの部分)と個々の検証セットにおける患者と健常対照との間の二つの多変量予測モデル出力を示すスキャッチャープロットを表す。
【図4】図4はバイオマーカーを特徴づけるために使用された分類アルゴリズムのダイアグラムを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つのバイオマーカーを検出し、ここでそのバイオマーカーは、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片、及びそれらの組み合わせから選択されるものであり、(b)その測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、生体における卵巣がんの状態を認定する方法。
【請求項2】
さらに、(c)状態に基づいて生体を処置することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体の処置が、さらなる試験の指示、手術、及びさらになにも行わないことから選択されるものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、(d)生体処置の後に、少なくとも一つのバイオマーカーを測定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
卵巣がんの状態が、ガンのリスク、疾患の存否、疾患の病期、および疾患の処置の有効性を含む群から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも一つのバイオマーカーが、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
さらに、生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの既知のバイオマーカー(マーカー4)を測定し、既知のバイオマーカーの測定結果と、ApoA1、トランスサイレチンΔN10又はIAIH4断片の測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
既知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連トリプシン阻害剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリンフォスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾフォスファチジック酸(LPA)、上皮成長因子受容体(p110GFR)の細胞外ドメインの110kD構成体、例えばカリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1)等の組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、組織ペプチド抗体(TPA)、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)から選択されるものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの既知のバイオマーカー(マーカー4)を測定し、既知のバイオマーカーの測定結果と、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片の測定結果を、卵巣がんの状態と関連づけることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
既知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、及びそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)から選択されるものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
測定が、(a)血液又は血液由来の生体サンプルを提供し、(b)陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分け、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片を含む分画を集め、(c)蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片を捕獲することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
基質がIMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
基質が、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片に結合する生体特異的親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
基質がApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片に結合する生体特異的親和性試薬を含むマイクロタータープレートであり、蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで検出されるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
測定が、バイオマーカーの存否を検出すること、マーカーを定量すること、及びバイオマーカーのタイプを認定することから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも一つのバイオマーカーが、バイオチップアレイを用いて測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
バイオチップアレイが蛋白質チップアレイである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
バイオチップアレイが核酸アレイである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも一つのバイオマーカーがバイオチップアレイに固定化されたものである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
蛋白質バイオマーカーがSELDIで測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで測定されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
関連づけがソフトウエア分類アルゴリズムにより行われるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
(a)生体由来のサンプルにおいて、バイオマーカーが、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片からなる群より選択される複数のバイオマーカーを測定することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項26】
複数のバイオマーカーがApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片を含むものである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
さらに少なくとも一つの既知のバイオマーカーを測定することを含むものである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
既知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)から選択されるものである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
蛋白質バイオマーカーがSELDI又はイムノアッセイで検出されるものである、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
(a)生体由来のサンプルにおいて、バイオマーカーが、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも一つのバイオマーカーを測定することを含む方法。
【請求項32】
さらにApoA1を測定することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
さらに少なくとも一つの既知のバイオマーカーを測定することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
既知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)から選択されるものである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
蛋白質バイオマーカーがSELDI又はイムノアッセイで検出されるものである、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択されるものである、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片並びにそれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーに結合する捕獲試薬、及び(b)少なくとも一つのバイオマーカーを含む容器、を含むキット。
【請求項38】
捕獲試薬が複数のバイオマーカーに結合するものである、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
捕獲試薬がSELDIプローブである、請求項37に記載のキット。
【請求項40】
さらにCA125に結合する捕獲試薬を含む、請求項37に記載のキット。
【請求項41】
さらに、第一の捕獲試薬が結合しないバイオマーカーの一つと結合する第二の捕獲試薬を含むものである、請求項37に記載のキット。
【請求項42】
(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10及びIAIH4断片から選択される少なくともひとつのバイオマーカーを結合する第一の捕獲試薬、及び(b)第一の捕獲試薬とは結合しないバイオマーカーの少なくとも一つと結合する第二の捕獲試薬、を含むキット。
【請求項43】
少なくとも一つの捕獲試薬が抗体である、請求項42に記載のキット。
【請求項44】
少なくとも一つの捕獲試薬が結合している、又は結合できるMSプローブをさらに含む、請求項42に記載のキット。
【請求項45】
捕獲試薬が固定化された金属キレートである、請求項42に記載のキット。
【請求項46】
さらに、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含む、請求項42に記載のキット。
【請求項47】
(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択される少なくとも一つのバイオマーカーと結合する第一の捕獲試薬、及び(b)バイオマーカーを検出するための捕獲試薬を使用するための説明書、を含むキット。
【請求項48】
捕獲試薬が抗体である、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
さらに、捕獲試薬が結合している、又は結合できるMSプローブを含む、請求項47に記載のキット。
【請求項50】
捕獲試薬が固定化された金属キレートである、請求項47に記載のキット。
【請求項51】
さらに、洗浄後に他のバイオマーカーと比較して、捕獲試薬に結合したバイオマーカーを選択的に保持する洗浄液を含む、請求項47に記載のキット。
【請求項52】
さらにガンを検出するためのキットの使用説明書を含むものである、請求項47に記載のキット。
【請求項53】
使用説明書は、試験サンプルを捕獲試薬と接触させ、捕獲試薬により保持される一つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出することを提供するものである、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
精製された配列番号1のペプチド(IAIH4断片)。
【請求項55】
検出可能な標識をさらに含む、請求項54に記載のペプチド。
【請求項56】
(a)ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択される少なくとも二つのバイオマーカーと結合する、少なくとも一つの捕獲試薬を含む製品。
【請求項57】
バイオマーカーが、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片である、請求項56に記載の製品。
【請求項58】
少なくとも一つの既知バイオマーカーと結合する捕獲試薬をさらに含む、請求項56に記載の製品。
【請求項59】
既知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン及びハプトグロビン、並びにそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)から選択されるものである、請求項58に記載の製品。
【請求項60】
(a)捕獲試薬の各々が、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、IAIH4断片及びCA125から選択される異なるバイオマーカーに結合する複数の捕獲試薬を含むシステム。
【請求項61】
(a)カリクレインを、カリクレイン基質及び試験試薬と接触させ、そして(b)試験試薬がカリクレインの活性を調節するか否かを決定する、ことを含むスクリーニング方法。
【請求項62】
基質が、インターαトリプシン阻害剤重鎖H4前駆体である、請求項61に記載の試験。
【請求項63】
カリクレインが基質をIAIH4断片へ開裂させるものである、請求項61に記載の試験。
【請求項64】
決定工程がバイオマーカーIAIH4断片を測定することをさらに含む、請求項61に記載の試験。
【請求項65】
蛋白質バイオマーカーがSELDIで測定されるものである、請求項61に記載の試験。
【請求項66】
蛋白質バイオマーカーがイムノアッセイで測定されるものである、請求項64に記載の試験。
【請求項67】
(a)生体由来のサンプルにおいて、マーカーIからXLVIII及びそれらの組み合わせから選択されるバイオマーカーの少なくとも一つを測定し、そして(b)測定結果を卵巣がんの状態と関連づけることを含む、生体における卵巣がんの状態を認定する方法。
【請求項68】
(c)状態に基づいて生体の処置を行うことをさらに含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
生体の処置が、さらなる試験の指示、手術、及びさらになにも行わないことから選択されるものである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
(d)生体処置の後に、少なくとも一つのバイオマーカーを測定することをさらに含む、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
卵巣がんの状態が、ガンのリスク、疾患の存否、疾患の病期(stage)、および疾患の処置の有効性を含む群から選択されるものである、請求項67に記載の方法。
【請求項72】
さらに、生体由来のサンプルにおいて、少なくとも一つの既知のバイオマーカーを測定し、少なくとも一つの既知バイオマーカーの測定結果と、マーカーI乃至XLVIIIからなる群の少なくとも一つのマーカーの測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、請求項67に記載の方法。
【請求項73】
既知のバイオマーカーが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、TATI、CEA、PLAP、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、M−CSF、CSF−1、LPA、p110EGFR、組織カリクレイン、プロスタシン、HE4、CKB、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、ダイアノンNB70/K、TPA、オステオポンチン、ハプトグロビン、及びそれらの変異体(例えば開裂体やアイソフォーム等)から選択されるものである、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
測定が、(a)血液又は血液由来の生体サンプルを提供し、(b)陰イオン交換樹脂でサンプル内の蛋白質を分け、マーカーI乃至XLVIIIからなる群から選択されるバイオマーカーのいずれかを含む分画を集め、(c)蛋白質バイオマーカーに結合する捕獲試薬を含む基質の表面で、分画由来のバイオマーカーを捕獲することを含む、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
基質がIMAC銅表面を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
基質が、マーカーI乃至XLVIIIからなる群から選択されるバイオマーカーのいずれかと結合する生体特異的親和性試薬を含むSELDIプローブであり、蛋白質バイオマーカーがSELDIで検出されるものである、請求項74に記載の方法。
【請求項77】
さらに、生体由来のサンプルにおいて、ApoA1、トランスサイレチンΔN10、及びIAIH4断片から選択される少なくともひとつのバイオマーカーを測定し、そのバイオマーカーの測定結果と、マーカーI乃至XLVIIIからなる群の少なくとも一つのマーカーの測定結果を、卵巣がんの状態と関連付けることを含む、請求項72に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2006−512586(P2006−512586A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506102(P2005−506102)
【出願日】平成15年8月5日(2003.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2003/024659
【国際公開番号】WO2004/013609
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(505045908)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ (21)
【出願人】(501497253)サイファージェン バイオシステムズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】