説明

双極性非プロトン性化合物を含む水性混合物の処理方法

本発明は、双極性非プロトン性化合物を含む水性混合物の処理方法に関し、a)水性混合物を多孔質吸着剤と接触させる吸着工程であって、そこで双極性非プロトン性化合物が水よりも容易に多孔質吸着剤に吸着されるように多孔質吸着剤が選択される工程と、b)この多孔質吸着剤を脱離剤と接触させる脱離工程であって、それによって脱離剤および双極性非プロトン性化合物を含む回収液が形成される工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、水性混合物から双極性非プロトン性化合物を取り出し、好ましくはその後それを採取するための双極性非プロトン性化合物を含む水性混合物の処理方法に関する。
【0002】
このような方法は独国特許出願公開第3834904A1号明細書から知られる。独国特許出願公開第3834904A1号明細書には、フェノールのある種の誘導体、例えばノニルフェノールで抽出する手段によって、双極性非プロトン性化合物であるN−メチル−2−ピロリドン(別名、1−メチル−2−ピロリドン、NMP)を水溶液から回収する方法が開示されている。
【0003】
この既知の抽出方法は、指示されている溶剤が毒性および環境保護の観点から望ましくないという欠点を有する。
【0004】
本発明の目的は、上記欠点を低減させるか、またはさらには無くすことである。
【0005】
上記目的は、方法が
a)水性混合物を多孔質吸着剤と接触させる吸着工程であって、双極性非プロトン性化合物が水よりも容易に多孔質吸着剤に吸着されるように多孔質吸着剤が選択される工程、および
b)多孔質吸着剤を脱離剤と接触させる脱離工程であって、脱離剤と双極性非プロトン性化合物とを含む回収液が形成される工程
を含むことによって達成される。
【0006】
本発明による方法の利点は、双極性非プロトン性化合物の採取を達成するために抽出工程およびそれに付随して特に選択される抽出用化合物に対する必要性に依存する必要がないことである。それにもかかわらず本発明によるこの方法により、双極性非プロトン性化合物を100%近くもの高い割合で採取することができる。本発明による方法の追加の利点は、既知の方法の場合のような抽出剤の残渣を含まない純化した水性混合物が得られることである。
【0007】
本発明による方法は、双極性非プロトン性化合物を含む水性混合物の処理に関する。一般には液体の形態のこの水性混合物において水が連続相であり、他の化合物もまた存在することができるが、好ましくは脱離剤(下記でより詳細に考察する)として機能することができる化合物の量は、全体としての水性混合物を基準にして最大で30重量%であり、より好ましくはこの量は最大で20または10重量%であり、また最も好ましくは脱離剤として機能することができる化合物の水性混合物中の量は本質的にはゼロである。水性混合物中に存在することができる他の化合物の例は、有機または無機塩などの電解質である。
【0008】
本発明による方法で処理される水性混合物は、双極性非プロトン性化合物を含む。このような化合物はそれ自体知られており、一般には比較的高い誘電率、典型的には約15を超える誘電率と、かなり大きな永久双極子モーメントとを有し、強い水素結合を形成するのに適した活性水素原子を放出してことができない化合物であると理解されており、したがってそれらは本質的に非プロトジェニックである。本発明による方法で水性混合物から好都合に取り出すことができる双極性非プロトン性化合物の例には、ヘキサメチル亜リン酸トリアミド(HMPT)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1−エチル−2−ピロリドン(NEP)、および式(I)
【化1】


(式中、R、R、R、Rは、それぞれ独立にHまたはC〜Cアルキル基であることができ、それにより、RおよびRは複素環基の一部であることができる)の尿素誘導体が挙げられる。式(I)においてR、R、R、Rは、それぞれ独立にHまたはメチル基またはエチル基であることが好ましい。別の実施形態ではR、R、R、Rは同一であることが好ましい。式(I)による化合物の好ましい別の部類の実施形態ではRおよびRは、化合物(I)が複素環を含むようなものである。周知のように用語複素環は、環形成原子がすべて炭素とは限らない環構造を指す。環形成の場合、RおよびRは環形成原子としてのみ炭素原子を与えることになるので、これは本発明の脈絡内では2個の窒素原子が環構造内に含まれることを意味する。式(I)による化合物が複素環を有する場合、この環は好ましくは5または6環である。式(I)による化合物の好ましい例は、尿素、1,3−ジメチルテトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)、または1,1,3,3−テトラメチル尿素(TMU)である。
【0009】
この水性混合物は、1種類の双極性非プロトン性化合物を含有することができるが、本発明による方法はまた、その水性混合物が上記で特定した数種類の双極性非プロトン性化合物を含有する場合にも適用可能である。
【0010】
水性混合物中の双極性非プロトン性化合物の量は、広い範囲で(現実に実行する場合と同様に)変えることができる。本発明による方法の利点は、水性混合物が比較的少量の双極性非プロトン性化合物を含有する場合、特に明白であることが分かった。したがって好ましい実施形態では本発明による方法で処理される水性混合物は、その水性混合物の総量を基準にして双極性非プロトン性化合物または化合物群を最大で40重量%、より好ましくは最大で30、20、10重量%、またはさらには最大で8、6、5重量%、または4重量%さえ含有する。驚くべきことに本発明による目的は、双極性非プロトン性化合物または化合物群を最大で2または1重量%、あるいはさらには最大で0.5または0.1重量%含む水性混合物を処理する場合でさえ達成される。
【0011】
本発明による方法は、吸着工程を含む。吸着工程では水性混合物を多孔質吸着剤と接触させる。双極性非プロトン性化合物がその吸着剤に水よりも容易に付着してその水性混合物から双極性非プロトン性化合物の減少または除去さえもが実際に起る可能性があるという条件で、種々様々な多孔質吸着剤が本発明による方法で使用するのに適している。多孔質吸着剤がこの基準(すなわち、或る双極性非プロトン性化合物が多孔質吸着剤に対して水より高い親和性を有するという)を満たすかどうかは、それ自体知られている簡単な定型化された試験により熟練者によって容易に試験することができる。そのような一つの試験は次の工程を含む。すなわち、容器中で液体水溶液系中に溶かした既知の濃度の双極性非プロトン性化合物を含有する組成物を作製する。続いて既知の量の多孔質吸着剤をその容器すなわちその組成物に加える。次いでその組成物プラス吸着剤を約1時間撹拌する。次いで組成物の試料を採取し、双極性非プロトン性化合物の濃度を測定する。上記濃度が低下したならば、それはその多孔質吸着剤が前述の基準を満たすという指標である。或る多孔質吸着剤が本発明による方法に使用するのに適しているかどうかを決定するための別の試験は、次の工程を含む。すなわち、カラムにその多孔質吸着剤を満たす。液状組成物(液体水溶液系中に溶かした既知の濃度の双極性非プロトン性化合物を含有する)をカラムの上部に送り込み、多孔質吸着剤を貫流させる。組成物がカラムの底を出たらすぐに試料を採取し、双極性非プロトン性化合物の濃度を測定する。上記濃度が低下したならば、それはその多孔質吸着剤が前述の基準を満たすという指標である。
【0012】
様々な種類の多孔質吸着剤を本発明による方法に使用することができ、そのような種類の例は、活性炭などの炭素質吸着剤、ならびに樹脂系吸着剤、あるいはシリカまたはアルミナを含む吸着剤である。好適な吸着剤は、ミクロ細孔(本明細書中では最大で2nmの平均直径を有する細孔と定義する)、メソ細孔(本明細書中では2から50nmの間にある平均直径を有する細孔と定義する)、またはマクロ細孔(本明細書中では50nmを超える平均直径を有する細孔と定義する)、またはこれらの混合物を含むことができる。好ましくは多孔質吸着剤は、ミクロ細孔、メソ細孔、およびマクロ細孔の混合物を含み、それはその吸着剤の高い吸着キャパシティーが水性混合物に対する多孔質吸着剤のすぐれた可触性と組み合わされるという利点を有する。好ましくは樹脂系吸着剤が用いられる。周知のように樹脂系多孔質吸着剤は、官能基を持たない形で、または官能基を持つイオン交換の形で得ることができる。本発明による方法の場合、本質的に非官能基化樹脂から調製される多孔質吸着剤を使用することが好ましい。上記非官能基化樹脂が、好ましくは吸着剤1グラム当たり少なくとも400、500、600、700、またはさらには800平方メートル(m/g)もの高い比表面積を有し、かつ架橋されている場合、有利である。多孔質吸着剤の調製に適した樹脂の例は、ポリスチレン−ジビニルベンゼン樹脂である。このような樹脂およびそれから作製される多孔質吸着剤は、それ自体知られている。架橋したポリスチレン−ジビニルベンゼン樹脂を基材とする好適な多孔質吸着剤の例は、Lewatit(登録商標)VP OC 1163(供給者:ランクセス(Lanxess))、Amberlite(登録商標)XAD 4(供給者:ローム・アンド・ハース(Rohm&Haas))、Dowex Optipore(登録商標)L493(供給者:ダウ・ケミカル(Dow Chemical))、およびSepabeads(登録商標)SP700(供給者:三菱化学株式会社(Mitsubishi Chemical Corporation))である。指摘したとおり多孔質吸着剤の比表面積は、好ましくは少なくとも400、500、600、700、または800m/g、より好ましくはその比表面積は少なくとも900、1000、1100、1200、またはさらには1300m/gである。本発明によれば、双極性非プロトン性化合物が実際に上記表面積の大部分またはさらには全体に達する物理的可能性を残すべきであるということを除いては多孔質吸着剤の比表面積を限定する理由はなにもないが、経済的理由で比表面積は最大で2500または2000m/gであるように多孔質吸着剤を選択することが役立つ場合もある。
【0013】
水性混合物を多孔質吸着剤と接触させることは、熟練者にはそれ自体知られている方法によって達成することができる。そのような方法の例は、カラムに多孔質吸着剤を充填し、続いてカラムに水性混合物を送り込み、強制的にその混合物を貫流させることである。この場合、多孔質吸着剤は、好ましくは静止状態またはさらには固定されており、水性混合物は運動状態にある。
【0014】
周知のように吸着の過程が完全な平衡に達するには若干の時間を要する。完全な平衡を待つことが、必ずしも常に本発明による方法を実施するための最も経済的なやり方を代表するとは限らないが、それでもやはり吸着工程は、多孔質吸着剤と水性混合物の間の或る一定の平均接触時間が達成されるようなやり方で行われることが好ましい。上記接触時間は広い範囲内で変えることができるが、確実に幾らかの吸着が起るようにするには少なくとも0.1分間であることが好ましく、また上記平均接触時間は少なくとも0.5、1、2、3、またはさらには5分間であることが好ましい。経済的な理由で平均接触時間は、最大でも150分間、好ましくは140、130、120、110、または100分間に制限することが好ましい。
【0015】
吸着工程が行われる温度および圧力は広い範囲内で変えることができ、それはその工程を最も経済的なやり方で行うのに好都合な条件を選択することに主に左右される。大気圧以外の圧力で操作することはもちろん可能だが、必ずしもしばしばそれが必要であるとは限らないはずである。同様に室温以外の温度が必ずしもしばしば必要であるとは限らないが、それももちろん可能である。これによって温度の上昇(例えば、室温から50℃へ)は、一般には多孔質吸着剤によって吸着される双極性非プロトン性化合物の量の顕著な低下を伴うことに留意されたい。
【0016】
吸着工程a)に続いて本発明による方法は、脱離工程b)を含む。脱離工程では多孔質吸着剤を脱離剤と接触させる。これは、多孔質吸着剤がそれからはもはや基本的に水性混合物と確実に接触しないようにするべきであるということを意味し、これは脱離工程の間に行う(例えば、脱離剤を多孔質吸着剤と接触させる行為によって)か、またはその前に行うことができる。脱離工程の目的は、双極性非プロトン性化合物が多孔質吸着剤から少なくとも部分的に脱離し、脱離剤中に溶解するかまたはそれと混ぜることである。
【0017】
脱離剤としては、多孔質吸着剤と接触させた場合に、その水性混合物と比べてより低い双極性非プロトン性化合物の平衡吸着濃度を示す任意の液体が原則的には適している。この低い平衡濃度は、脱離活性に対する原動力を与える。熟練者には直ぐはっきり分かるはずだが、また適切な多孔質吸着剤を選択するための上記で述べた簡単な試験を用いて或る液体が脱離剤として適しているかどうかを判定することができる。脱離剤に含めることができる化合物の例は、メタノールおよびエタノールなどのC〜Cアルキルアルコール類、2−プロパノールなどのC〜Cイソアルキルアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、および水である。脱離剤はまた、上記化合物の混合物を含むこともできる。脱離剤が水を含む場合、またはさらには実質的に水からなる場合、その水は好ましくは吸着工程が行われる温度よりも10℃から100℃高い温度、より好ましくはその温度よりも20℃から70℃高い温度を有し、蒸気の形態で水を使用することができる。本発明による脱離工程の好ましい実施形態では脱離剤はメタノールを含むか、またはさらには実質上メタノールからなる。
【0018】
脱離工程b)が行われている間に脱離剤は、多孔質吸着剤に吸着されている双極性非プロトン性化合物の少なくとも一部を脱離剤中に移動させ、その結果、本明細書中で回収液と呼ぶ新しい溶液が形成されるという作用を有する。この回収液は、脱離剤および双極性非プロトン性化合物を含む。さらに回収液は、水性混合物中に存在した化合物などの他の化合物を含むこともある。回収液は簡単な手段によって多孔質吸着剤から分離することができる。その例は、本発明による方法が多孔質吸着剤と脱離剤を容器中で一緒にするような方法で行われる場合、脱離工程の完了後に上記容器を排水することである。本発明による方法が多孔質吸着剤を充填したカラムを用いて行われる場合、その回収液はカラムの出口で回収することができる。しかしながら好ましくはこの目的のために下記に開示する再生工程が使用される。
【0019】
本発明による方法の好ましい実施形態では置換工程a1)が、吸着工程a)の後、または脱離工程b)の前に行われる。置換工程a1)では多孔質吸着剤を置換液と接触させる。上記置換液は、置換液の総重量を基準にして電解質を5重量%未満、好ましくは2重量%未満含有する水溶液であることが好ましい。さらにその置換液は、好ましく脱離剤として機能することができる化合物または化合物群を20重量%未満、より好ましくは10重量%または5重量%未満含有する。
【0020】
置換工程a1)は、その水性混合物が、脱離剤中に溶解しない化合物を含有する場合にはとりわけ重要である。このような場合、吸着工程a)の後に脱離工程b)を直接行うことは、多孔質吸着剤中に望ましくない沈降固体材料の蓄積をひき起す恐れがある。この問題は、ある種の状況下では水性混合物から多孔質吸着剤を簡単に分離することにより、例えば本発明による方法がこのようなやり方で行われる場合、吸着剤を含むカラムを排水し、続いて脱離工程にかけることにより解決することができる。しかしこのような分離工程は、本発明による方法が行われている系に空気などの大量のガスを導入することに繋がる可能性があり、これは望ましくないことが多い。この理由で上記分離工程を行うことは、置換工程を行うことに比べると好ましくない。熟練者は分かるはずだが置換工程a1)を行う必要性は、水性混合物中の化合物の特定の性質および脱離剤の性質に左右される。例えば、脱離剤がメタノールなどのアルコールを含むか、またはさらには実質上アルコールからなる場合、その中に溶解しない、したがって分離工程またはより好ましくは置換工程の必要性を刺激する可能性のある典型的な化合物には様々な塩が含まれる。
【0021】
置換液が水性混合物と混和性であることは実際的な理由で好ましいので、置換液は水溶液であることが好ましい。脱離工程b)の間の前述の沈降の問題を避けるために、置換液は80重量%を超える、好ましくは90、95、またはさらには99重量%を超える純度(水に関して)を有し、かつ脱離剤中で低い溶解度を有する化合物を5重量%未満、好ましくは2重量%未満含有する。低溶解度は、本明細書中では室温で10重量%未満の溶解度と定義される。
【0022】
本発明による方法の好ましい実施形態では再生工程c)は、脱離工程b)の後に行われる。再生工程c)の目的は、再生工程c)を行わなかった場合と比較して吸着工程a)をよりよいやり方(すなわち多孔質吸着剤への双極性非プロトン性化合物のより迅速かつ/またはより高度の吸着)で行うことができるような条件に多孔質吸着剤を持って行くことである。この目的を達成するために多孔質吸着剤を再生液と接触させる。上記再生液は、再生液の総重量を基準にして電解質を5重量%未満、好ましくは2重量%未満含有する水溶液である。さらに再生液は、脱離剤として機能することができる化合物または化合物群を好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満または5重量%未満含有する。多孔質吸着剤を再生液と接触させることによって、回収液は多孔質吸着剤から少なくとも一部が分離されることになる。これは、その分離が回収液からの双極性非プロトン性化合物の単離を可能にするので有利である。
【0023】
本発明による方法のさらなる好ましい実施形態では脱離工程b)または再生工程c)の後に回収工程d)が続く。この回収工程d)では双極性非プロトン性化合物が回収液から単離される。上記単離は、熟練者にそれ自体知られている方法によって達成することができる。このような方法の例は、精留/蒸留および/または薄膜蒸発である。回収液中の双極性非プロトン性化合物の濃度は水性混合物中の上記濃度よりも一般にずっと高いはずであるので、今ではこれら名前を挙げた技術はずっと高い経済的実施可能性を有する。これら名前を挙げた技術、例えば沸騰させてきわめて容易に取り除けるか、または双極性非プロトン性化合物よりも高い沸点を有するいずれかの脱離剤を選択することによる技術を用いて、双極性非プロトン性化合物から簡単に分離することができる脱離剤を選択するのが有利である。
【0024】
多くの場合、本発明による方法の実際の実施には、ある種のコンテナ、例えば撹拌型容器かまたはカラム中に入れた多孔質吸着剤の存在を伴うことになる。このような場合、ベッドボリューム(BV)を決定することができるはずである。次にBVを、多孔質吸着剤がその中に存在する上記コンテナの容積部分と定義する。水性混合物の処理のための方法において通常行われるように、使用される様々な蒸気(水性混合物自体だけでなく脱離剤ならびに適用可能ならばまた置換液および再生液も)の量をBV値それ自体で、または単位時間当たりで表すことができる。
【0025】
その多孔質吸着剤がその最大キャパシティーに達するまでに吸着工程の間にその吸着剤と接触することができる水性混合物のBV値の数字は、熟練者が予想するようにその水性混合物中の双極性非プロトン性化合物の初期濃度およびその多孔質吸着剤の吸着キャパシティーによって決まり、BV値の上記数字はこれら2つの入力データから容易に計算することができる。最大吸着キャパシティーを超えることを避けるべきであるならば、例えばカラムを使って作業をする場合、またカラムの出口に双極性非プロトン性化合物が存在することが望ましくない場合、多孔質吸着剤と接触する水性混合物のBV値の数字は最大値未満に留まるべきである。
【0026】
吸着剤のBV値の数字は、回収液中の双極性非プロトン性化合物の濃度ができるだけ高くなるように選択されることが好ましい。それは、脱離剤を0.5から2.0BVの間、好ましくは0.75から1.5BVの間、最も好ましくは0.8から1.2BVの間で使用する場合であることが多いはずである。
【0027】
置換液および再生液のBV値の数字はできるだけ低い(上記溶液の目的を遂げるには本質的にまだ十分だが)ことが好ましい。それは、上記化合物の回収ができるだけ効率的であるようにこれら溶液中の高価な化合物の濃度をできるだけ高くすることになるという利点を有する。好ましい実施形態では置換液および再生液の使用されるBV値の数字は0.5から3の間にある。
【0028】
本発明による方法で処理されるのに適した水性混合物の産業界における例は、それ自体高価な製品であり、さらにはビタミンAなどの様々な製品の合成における重要な中間体である2−メチル−4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテナールすなわちC14−アルデヒドの合成の間に形成される可能性のある混合物である。C14−アルデヒドは、とりわけ米国特許第2,987,550号に開示され、それ自体知られているダルツェン型の縮合を介してα−イオノンから調製することができる。この縮合過程中は希釈剤を用いるのが有利であり、その際、驚くべきことにDMSO、DMPU、TMU、またはNMPのような双極性非プロトン性化合物を希釈剤として使用するのが有利である。さらに反応原系としてナトリウムメチラートおよびクロロ酢酸のメチルエステルを使用することにより、副生物としてメタノールが形成され、このメタノールは好適な脱離剤であるので有利である。縮合に続いてけん化工程および加水分解工程が行われ、これによりとりわけ元の希釈剤(例えばDMSO、DMPU、TMU、またはNMP)、メタノール、およびC14−アルデヒドを含む混合物が形成される。このC14−アルデヒドは、抽出工程によって混合物から取り出すことができ、その際、その抽出剤は、例えばヘキサンであることができる。次いでその結果として廃棄物の流れが形成され、この廃棄物の流れは、(水のほかに)メタノール、希釈剤、またさらには先行する工程の間に形成される塩類、例えばNaClおよびNaHCOなどの無機塩と、CHOCHCOONaおよび/またはCHCOONaなどの有機塩とを含む水性混合物である。このメタノールは、精留により廃棄物の流れから単離することができる。次いでこの廃棄物の流れから希釈剤を除去することおよびそれを回収することは、この希釈剤が双極性非プロトン性化合物であるため経済的また環境保護的にきわめて重要である。それは本発明の方法により効率的に達成することができ、その際その形成されたメタノールを脱離剤として利用し、それによってC14−アルデヒドの合成を行う際に使用される化合物の数を制限する可能性という追加の利点がある。
【0029】
本発明による方法の産業界での利用の別の例は、半導体の生産においてポストエッチ残渣を除去するための、形成される水性混合物の処理である。NMPなどの双極性非プロトン性化合物を含有するこのような水性混合物の形成については、例えば国際公開第2005/098920号パンフレットに記載されている。
【0030】
本発明による方法の産業界での利用のさらに別の例は、ペイントの剥ぎ取り用にまたはその間に形成される水性混合物の処理である。またこれらの混合物は、除去すると好都合であり、好ましくは本発明に従ってさらに回収することができる1種類または複数種類の双極性非プロトン性化合物を一般に含有する。
【0031】
本発明による方法を下記の実施例により例示することにするが、これらには限定されない。
【0032】
[実施例1]
Amberlite(登録商標)XAD 4(供給者:ローム・アンド・ハース、この吸着剤は架橋ポリスチレン−ジビニルベンゼンのマトリックスを含み、この吸着剤はさらには官能基化されない)が好適な多孔質吸着剤であるかどうかを評価するために次の実験を行った。吸着剤を脱イオン水で完全に水洗した。次いで吸着剤10mlを採り、水と4重量%の1,1,3,3−テトラメチル尿素(TMU)との混合物50ml中に磁気撹拌しながら注ぎ込んだ。この吸着工程の間ずっと温度を25℃に保った。磁気撹拌を続けて1時間後にこの水混合物中のTMUの量をガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。混合物中のTMU濃度の低下は、吸着剤に吸着されたTMUの量の決定を可能にし、吸着剤1リットル当たり80グラムと測定された。
【0033】
[実施例2]
実施例1が繰り返されたが、双極性非プロトン性化合物が1−エチル−2−ピロリドン(NEP)であり、最初に水中に3重量%の量で存在したという違いがあった。吸着剤によって吸着されたNEPの量は、吸着剤1リットル当たり57グラムと測定された。
【0034】
[実施例3]
実施例2が繰り返されたが、多孔質吸着剤がLewatit(登録商標)VP OC 1064(供給者:ランクセス)であり、NEPが最初に水中に2重量%の量で存在したという違いがあった。吸着剤によって吸着されたNEPの量は、吸着剤1リットル当たり42グラムと測定された。
【0035】
[実施例4]
実施例1が繰り返されたが、多孔質吸着剤がLewatit(登録商標)VP OC 1163(供給者:ランクセス)であり、また双極性非プロトン性化合物が1,3−ジメチルテトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)であり、最初に水中に3重量%の量で存在したという違いがあった。吸着剤によって吸着されたDMPUの量は、吸着剤1リットル当たり170グラムと測定された。
【0036】
[実施例5]
実施例1が繰り返されたが、双極性非プロトン性化合物が1−メチル−2−ピロリドン(NMP)であったという違いがあった。吸着剤によって吸着されたNMPの量は、吸着剤1リットル当たり80グラムと測定された。
【0037】
[実施例6]
実施例5が繰り返されたが、多孔質吸着剤がDowex Optipore(登録商標)L493(供給者:ダウ・ケミカル)であったという違いがあった。吸着剤によって吸着されたNMPの量は、吸着剤1リットル当たり85グラムと測定された。
【0038】
[実施例7]
実施例1が繰り返されたが、多孔質吸着剤がLewatit(登録商標)VP OC 1163であり、また双極性非プロトン性化合物がNMPであったという違いがあった。吸着剤によって吸着されたNMPの量は、吸着剤1リットル当たり130グラムと測定された。
【0039】
[実施例8]
メタノールが好適な脱離剤であるかどうかを評価するために、多孔質吸着剤Lewatit(登録商標)VP OC 1163を、(脱イオン水で完全に水洗した後に)96重量%のメタノールおよび4重量%のNMPからなるメタノール混合物と磁気撹拌の下で接触させた。25℃で磁気撹拌を続けて1時間後にメタノール混合物中のNMPの量をガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。混合物中のNMP濃度の低下は、吸着剤に吸着されたNMPの量の決定を可能にし、吸着剤1リットル当たり35グラムと測定された。この量は水溶液系中のNMPの平衡吸着濃度よりもずっと低い(実施例1を参照)ので、これによってメタノールが実際に脱離剤として機能することができることが証明された。
【0040】
[実施例9]
置換工程a1)と組み合わせて、吸着工程a)、脱離剤としてメタノールを用いた脱離工程b)、および再生工程c)を行うために次の実験室規模の作業を行った。
【0041】
二重壁温度制御クロマトグラフィー型ガラスカラムに多孔質吸着剤Lewatit VP OC 1163を充填し、吸着剤を固定床として保持した。カラムは長さ約450mm、内径26mmであり、またベッドボリューム(BV)は吸着剤0.178リットルであった。カラムを垂直に置き、すべての液体は1時間当たり1リットル(すなわち5.6BV)の流量で上部から下部へ流した。吸着工程を行うために、その中に1リットル当たり20グラムの双極性非プロトン性化合物NMPを溶解した、実質上メタノールを含有しない水溶液の流れをカラムに通した。NMPの濃度をカラムの出口で測定した。吸着工程の始めおよびその後50分(すなわち4.7BV)の間は上記濃度はゼロであった、すなわちすべてのNMPが多孔質吸着剤に吸着された。これは、この吸着工程が成功裡に行われたことを証明した。50から70分の間の期間では、NMPの濃度は1リットル当たり20グラムまで次第に増加し、このいわゆる漏出曲線は、多孔質吸着剤の完全な飽和が起ったこと、またすべてのNMPがたった今通過したことを証明した。
【0042】
吸着剤が、この漏出測定により決定される最大限度まで双極性非プロトン性化合物を吸着した後、その流入物を脱イオン水に変更することによって置換工程a1)が行われた。1BVの脱イオン水が使用され、これにより脱離剤に溶けないいかなる化合物も基本的に除去したことを確実にした。この時間の間ずっと出口におけるNMP濃度は、1リットル当たり約20グラムのままであった。
【0043】
置換工程a1)に続いてカラムの流入物をメタノールに変更することによって脱離工程b)が行われた。1.4BVのメタノールが使用された。NMPは、メタノールによって簡単に多孔質吸着剤から脱離されることが分かった。これは出口におけるNMP濃度が1リットル当たり130グラムまで急に増加し、続いて次に下落することによって証明された。こうして形成された回収液はカラムの出口で回収され、別途保存された。回収液中のNMP濃度は75g/リットルであることが分かった。
【0044】
脱離工程b)の完了後、カラムの流入物を脱イオン水に変更することによって再生工程c)が行われた。多孔質吸着剤からメタノールを除去するために約2.5BVの脱イオン水が使用された。この時間の間に出口におけるNMP濃度は基本的にゼロまで低下した。こうしてカラムは再生され、工程a)の新たなサイクルの実施の準備が整った。
【0045】
[実施例10]
吸着工程a)を、置換工程a1)、脱離剤としてメタノールを用いた脱離工程b)、再生工程c)、および回収工程d)と組み合わせて実施するために、下記の試験工場による作業を行った。
【0046】
ステンレス鋼製カラムに多孔質吸着剤Lewatit(登録商標)VP OC 1163を充填し、吸着剤を固定床として保持した。カラムは2000mmよりも幾らか長く、内径は109.1mmであり、内部ベッドボリューム(BV)は18.7リットルであった。カラムを垂直に置き、液体を吸着工程a)の間は1時間当たり93.5リットル(すなわち5BV)の流量で、また他のすべての工程では1時間当たり46.7リットル(すなわち2.5BV)の流量で上部から下部へ流した。
【0047】
吸着工程を行うために、10BVの水性混合物をカラムに供給した。水性混合物は、C14−アルデヒドである2−メチル−4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテナールの調製の過程で形成され、次の組成、すなわち92.3重量%の水、1.2重量%のNMP、5.5重量%の電解質(塩)、0.7重量%のNaOH、残り0.3重量%の不純物を有していた。一般的には、漏出は7〜7.5BV後に始まり、9〜9.5BV後に最大の状態になることが分かった。
【0048】
置換工程a1)は、供給物を脱イオン水に変更し1BVを供給することによって行われた。
【0049】
置換工程a1)に続いてカラムの流入物をメタノールに変更することによって脱離工程b)が行われた。1.5BVのメタノールが使用された。こうして形成された回収液はカラムの出口で回収され、別途保存された。回収液中のNMP濃度は8.5重量%であることが分かった。
【0050】
脱離工程b)の完了後、カラムの流入物を脱イオン水に変更することによって再生工程c)が行われた。2BVの多孔質吸着剤からメタノールを除去するために2BVの脱イオン水が使用された。この時間の間に出口におけるNMP濃度は基本的にゼロまで低下し、これはすべてのNMPがカラムを通り過ぎたことを示す。こうしてカラムは再生され、工程a)の新たなサイクルの実施の準備が整った。
【0051】
回収工程d)を行うために回収液を蒸留カラムに供給した。その上部生成物は、89.2重量%のメタノールと10.8重量%の水から構成され、基本的には少しのNMPも含まなかった。下部生成物は、0.1重量%の水と、80.4重量%のNMPと、C14−アルデヒドの調製から生じた18.5重量%の様々な不純物から構成された。この下部生成物は薄膜蒸発装置に供給され、その上部生成物は約2重量%の不純物を含むNMPから構成された。この生成物は、C14−アルデヒドの調製の過程でうまく再利用することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双極性非プロトン性化合物を含む水性混合物の処理方法であって、
a)前記水性混合物を多孔質吸着剤と接触させる吸着工程であって、前記双極性非プロトン性化合物が水よりも容易に前記多孔質吸着剤に吸着されるように前記多孔質吸着剤が選択される工程と、
b)前記多孔質吸着剤を脱離剤と接触させる脱離工程であって、前記脱離剤と前記双極性非プロトン性化合物とを含む回収液が形成される工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記双極性非プロトン性化合物が、ヘキサメチル亜リン酸トリアミド(HMPT)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1−エチル−2−ピロリドン(NEP)、および式
【化1】


(式中、R、R、R、Rは、それぞれ独立にHまたはC〜Cアルキル基であることができ、それにより、RおよびRは複素環基の一部であることができる)の尿素誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)の後および工程b)の前に、
a1)前記多孔質吸着剤を置換液と接触させる置換工程であって、前記置換液が、置換液の総重量を基準にして最大で5重量%の電解質と、脱離剤として機能することができる最大で20重量%の化合物または化合物群とを含有する水溶液である工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程b)に続いて、
c)前記多孔質吸着剤を再生液と接触させる再生工程であって、前記再生液が、置換液の総重量を基準にして最大で5重量%の電解質と、脱離剤として機能することができる最大で20重量%の化合物または化合物群とを含有する水溶液であり、それによって前記回収液が少なくとも部分的に前記多孔質吸着剤から分離される工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程b)またはc)に続いて、
d)前記双極性非プロトン性化合物を前記回収液から単離する回収工程
を含む、請求項1または4に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔質吸着剤が、架橋した樹脂を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記多孔質吸着剤が、少なくとも400m/gの比表面積を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記多孔質吸着剤が、架橋ポリスチレン−ジビニルベンゼン樹脂を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
2−メチル−4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテナールの調製方法であり、双極性非プロトン性化合物を含む水性混合物が形成される方法において、その水性混合物が請求項1〜8のいずれか一項に従って処理されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法を含む、ビタミンAの調製方法。
【請求項11】
前記脱離剤がメタノールを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−519989(P2009−519989A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546256(P2008−546256)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/012331
【国際公開番号】WO2007/093211
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】