説明

反射防止フィルム及びその製造方法、偏光板、透過型液晶ディスプレイ

【課題】本発明にあっては、製造コストが低く、また、光学特性に優れた反射防止フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】透明基材の少なくとも一方の面に、少なくとも低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムであって、前記低屈折率ハードコート層は電離放射線硬化型材料を硬化して形成されるバインダーマトリックスと低屈折率粒子からなり、前記低屈折率ハードコート層は前記透明基材と前記バインダーマトリックスが勾配をもって混じりあった混合層と、前記バインダーマトリックスと前記低屈折率粒子を含む偏在層を備え、前記混合層は光学的に分離しておらず、前記偏在層は光学的に分離しており、且つ、前記偏在層の屈折率が1.29以上1.43以下の範囲内であり、且つ、前記偏在層の光学膜厚が100nm以上200nm以下の範囲内であることを特徴とする反射防止フィルムとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓やディスプレイなどの表面に外光が反射することを防止することを目的として設けられる反射防止フィルムに関する。特に、液晶ディスプレイ(LCD)、CRTディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、プラズマディスプレイ(PDP)、表面電界ディスプレイ(SED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などのディスプレイの表面に設けられる反射防止フィルムに関する。特に、液晶ディスプレイ(LCD)表面に設けられる反射防止フィルムに関する。さらには、透過型液晶ディスプレイ(LCD)表面に設けられる反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にディスプレイは、室内外での使用を問わず、外光などが入射する環境下で使用される。この外光等の入射光は、ディスプレイ表面等において正反射され、それによる反射像が表示画像と混合することにより、画面表示品質を低下させてしまう。そのため、ディスプレイ表面等に反射防止機能を付与することは必須であり、反射防止機能の高性能化、反射防止機能以外の機能の複合化が求められている。
【0003】
一般に反射防止機能は、透明基材上に金属酸化物等の透明材料からなる高屈折率層と低屈折率層の繰り返し構造による多層構造の反射防止層を形成することで得られる。これらの多層構造からなる反射防止層は、化学蒸着(CVD)法や、物理蒸着(PVD)法といった乾式成膜法により形成することができる。乾式成膜法を用いて反射防止層を形成する場合にあっては、低屈折率層、高屈折率層の膜厚を精密に制御できるという利点がある一方、成膜を真空中でおこなうため、生産性が低く、大量生産に適していないという問題を抱えている。これに対し、反射防止層の形成方法として、大面積化、連続生産、低コスト化が可能であることから塗液を用いた湿式成膜法による反射防止膜の生産が注目されている。
【0004】
また、これらの反射防止層がフィルム状の透明基材上に設けられている反射防止フィルムにあっては、その表面が比較的柔軟であることから、表面硬度を付与するために、一般にアクリル系の電離放射線硬化型材料を硬化して得られるハードコート層を透明基材上に設け、その上に反射防止層を形成するという手法が用いられている。このハードコート層はアクリル系材料により、高い表面硬度、光沢性、透明性、耐擦傷性を有する。
【0005】
湿式成膜法によって反射防止層を形成する場合、このようにして得られるハードコート層の上に少なくとも低屈折率層を塗布して製造されるものであり、乾式成膜法に比べ安価に製造できるメリットがあり、市場に広く出まわっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−202389号公報
【特許文献2】特開2005−199707号公報
【特許文献3】特開平11−92750号公報
【特許文献4】特開2007−121993号公報
【特許文献5】特開2005−144849号公報
【特許文献6】特開2006−159415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反射防止フィルムをディスプレイ表面に設けることにより、その反射防止機能によって、外光の反射を抑制することができ、明所でのコントラストを向上させることができる。また、同時に可視光透過率を向上させることができることから画像をより明るく表示可能にすることができる。また、バックライトの出力などを抑える省エネ効果も期待できる。
【0008】
反射防止フィルムにあっては、製造コストの低い反射防止フィルムが求められている。また、反射防止フィルムにあっては、反射防止性能や干渉ムラのない光学特性に優れた反射防止フィルムが求められている。本発明にあっては、製造コストが低く、また、光学特性に優れた反射防止フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本願発明としては、透明基材の少なくとも一方の面に、少なくとも低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムであって、前記低屈折率ハードコート層は電離放射線硬化型材料を硬化して形成されるバインダーマトリックスと低屈折率粒子からなり、前記低屈折率ハードコート層は前記透明基材と前記バインダーマトリックスが勾配をもって混じりあった混合層と、前記バインダーマトリックスと前記低屈折率粒子を含む偏在層を備え、前記混合層は光学的に分離しておらず、前記偏在層は光学的に分離しており、且つ、前記偏在層の屈折率が1.29以上1.43以下の範囲内であり、且つ、前記偏在層の光学膜厚が100nm以上200nm以下の範囲内であることを特徴とする反射防止フィルムとした。
【0010】
さらに、前記偏在層の光学膜厚が110nm以上140nm以下の範囲内である反射防止フィルムとした。
【0011】
さらに、前記低屈折率ハードコート層中の前記低屈折率粒子の含有率は0.5wt%以上5wt%未満であり、且つ、前記低屈折率ハードコート層中の単位面積あたりの低屈折率粒子の含有量は0.05g/m以上0.5g/m以下の範囲内である反射防止フィルムとした。
【0012】
さらに、前記混合層と前記偏在層との間に前記バインダーマトリックス成分と前記透明基材成分からなり光学的に分離していない中間層が形成されている反射防止フィルムとした。
さらに、前記中間層は前記バインダーマトリックスを95wt%以上含む反射防止フィルムとした。
さらに、前記混合層の厚みは0.5μm以上である反射防止フィルムとした。
【0013】
さらに、前記偏在層側の反射防止フィルム表面での視感平均反射率が0.5%以上2.0%以下の範囲内であり、且つ、前記偏在層側の反射防止フィルム表面でのL*a*b*色度系における反射色相が0.00≦a*≦3.00且つ−3.00≦b*≦3.00を満たす反射防止フィルムとした。
【0014】
さらに、前記低屈折率ハードコート層が電子伝導型の導電性ポリマーを含む反射防止フィルムとした。
さらに、前記透明基材がトリアセチルセルロースフィルムからなる反射防止フィルムとした。
【0015】
さらに、本発明の反射防止フィルムの低屈折率層が設けられている側の反対側の透明基材の面に偏光層、透明基材を順に備える偏光板とした。
さらに、本発明の偏光板、液晶セル、偏光板、バックライトユニットをこの順に備える透過型液晶ディスプレイとした。
【0016】
また、本願発明としては、透明基材の少なくとも一方の面に、少なくとも低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムの製造方法であって、前記透明基材上に電離放射線硬化型材料を含むバインダーマトリックス形成材料と低屈折率粒子と溶媒を含む低屈折率ハードコート層形成用塗液を塗布し塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥する工程と、前記塗膜に電離放射線を照射し、低屈折率ハードコート層を形成する工程を順に備え、且つ、前記低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒のうち30wt%以上90wt%以下は前記透明基材を溶解または膨潤させる溶媒であり、且つ、前記低屈折率ハードコート層は前記透明基材と前記バインダーマトリックスが勾配をもって混じりあった混合層と、前記バインダーマトリックスと前記低屈折率粒子を含む偏在層を備え、前記混合層は光学的に分離しておらず、前記偏在層は光学的に分離しており、且つ、前記偏在層の屈折率が1.29以上1.43以下の範囲であり、且つ、前記偏在層の光学膜厚が100nm以上200nm以下の範囲であることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法とした。
【0017】
さらに、前記塗膜を乾燥する工程は、前記低屈折率ハードコート層形成用塗液を前記透明基材に塗布し塗膜を形成後、当該塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間が2秒以上60秒以下の範囲内である反射防止フィルムの製造方法とした。
【0018】
さらに、前記低屈折率ハードコート層形成用塗液は溶媒を55wt%以上85wt%以下の割合で含む反射防止フィルムの製造方法とした。
【0019】
さらに、前記塗膜を乾燥する工程は、溶媒濃度0.2vol%以上10vol%以下の溶媒雰囲気下でおこなわれる反射防止フィルムの製造方法とした。
【0020】
さらに、前記塗膜を乾燥する工程は、塗布直後に乾燥温度20℃以上30℃以下でおこなわれる一次乾燥工程と、一次乾燥工程後に乾燥温度50℃以上150℃以下でおこなわれる二次乾燥工程の二段階を含む反射防止フィルムの製造方法とした。
【0021】
さらに、前記第一次乾燥工程が2秒以上60秒以下の範囲内でおこなわれる反射防止フィルムの製造方法とした。
【0022】
さらに、前記透明基材がトリアセチルセルロースフィルムであり、且つ、前記低屈折率ハードコート層形成用塗液は溶媒としてN−メチルピロリドンを含む反射防止フィルムの製造方法とした。
【発明の効果】
【0023】
本発明の反射防止フィルムは、低屈折率粒子を偏在層に偏在させるため、低屈折率層を別に設ける場合と比較して低屈折率粒子の使用量を抑えることができる。従って、(低屈折粒子の過度の添加による)反射防止フィルムの表面強度の低下や、可視光透過率の低下を防ぐことができる。また、低屈折率機能を備えた層とハードコート機能を備えた層とが一工程で形成できるため、ハードコート層に加えて低屈折率層を別に設ける場合と比較して製造時間を短縮し製造コストを低く抑えることができる。
【0024】
また、本発明の反射防止フィルムは混合層を備えている。混合層では透明基材成分とバインダーマトリックスとが勾配を持って混じりあい、光学的に分離していないため、両隣の層の屈折率の変化を吸収し、隣接する層の屈折率の違いに起因する干渉縞の発生を抑えることができる。
さらに、本発明の反射防止フィルムでは偏在層は光学的に分離しており、偏在層の屈折率が1.29以上1.43以下であり、光学膜厚が100nm以上200nm以下である。そのため、偏在層を低屈折率層として機能させることができる。
以上のとおり、本発明の反射防止フィルムとすることにより、製造コストが低く、また、光学特性に優れた反射防止フィルムを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明の反射防止フィルムの断面模式図である。
【図2】図2は本発明の反射防止フィルムの断面模式図である。
【図3】図3は本発明の反射防止フィルムを用いた本発明の偏光板の断面模式図である。
【図4】図4は本発明の反射防止フィルムを備える本発明の透過型液晶ディスプレイの断面模式図である。
【図5】図5は本発明の反射防止フィルムの屈折率の変化を模式的に示した図である。(a)は光学的に分離不可能な混合層と、光学的に分離不可能な中間層を備えている例、(b)はほぼ混合層のみで中間層が形成されていない例、(c)は薄い混合層と、光学的に分離可能な中間層を備えている例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に本発明の反射防止フィルムの断面模式図を示した。
本発明の反射防止フィルム1にあっては、透明基材11の少なくとも一方の面に低屈折率ハードコート層12を備える。低屈折率ハードコート層12は電離放射線硬化型材料を硬化して形成されるバインダーマトリックスと低屈折率粒子を備える。低屈折率ハードコート層12は電離放射線硬化型材料を硬化して形成されるバインダーマトリックスを備えることから、反射防止フィルム表面に高い表面硬度を付与することができ、耐擦傷性に優れた反射防止フィルムとすることができる。
【0027】
本発明の反射防止フィルム1にあっては、低屈折率ハードコート層12はバインダーマトリックスと低屈折率粒子を備える。本発明の低屈折率ハードコート層が備えるバインダーマトリックスとは低屈折率ハードコート層において低屈折率粒子以外の部分を指す。本発明の低屈折率ハードコート層は、低屈折率ハードコート層形成用塗液を用い透明基材に塗布することにより形成される。低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる固形分のうち、低屈折率粒子を除いたものをバインダーマトリックス形成材料とする。バインダーマトリックス形成材料は電離放射線硬化型材料を含み、電離放射線を照射することにより硬化し、バインダーマトリックスとなる。
【0028】
本発明の反射防止フィルム1にあっては、低屈折率ハードコート層が透明基材側に位置する混合層12aと、低屈折率粒子が偏在した偏在層12cとを備え、混合層は光学的に分離しておらず、偏在層は光学的に分離しており、且つ、前記偏在層の屈折率が1.29以上1.43以下の範囲内であり、且つ、前記偏在層の光学膜厚が100nm以上200nm以下の範囲内である。
【0029】
本発明の反射防止フィルムにあっては低屈折率粒子を低屈折率ハードコート層表面側に偏在させることにより、低屈折率ハードコート層全体としては少ない低屈折率粒子の含有量で高い反射防止性を付与することができる。すなわち、高い反射防止性と高い可視光透過率を実現することができる。一方、透明基材11側の混合層12aはほとんど低屈折率粒子を含まない層となる。本発明の反射防止フィルム1の低屈折率ハードコート層12のうち、偏在層12cは低屈折率粒子とバインダーマトリックスによって形成され、混合層12aは低屈折率粒子をほとんど含まず主にバインダーマトリックスと透明基材成分によって形成される。
【0030】
混合層12aにあっては、厚さ方向で透明基材11側から低屈折率ハードコート層12側に向かって、その屈折率が透明基材11の屈折率から低屈折率ハードコート層12のバインダーマトリックスの屈折率まで漸次変化する。すなわち、透明基材成分とバインダーマトリックスが勾配をもって混じりあっている。
【0031】
本発明の反射防止フィルムにあっては、透明基材の屈折率から低屈折率ハードコート層のバインダーマトリックスの屈折率まで漸次変化する混合層12aを設けることにより、低屈折率ハードコート層と透明基材界面との屈折率の差により発生する干渉縞の発生を防ぐことができる。また、混合層12aは透明基材11と低屈折率ハードコート層12間の密着性を向上させることができる。
【0032】
図5に、本発明の反射防止フィルムの厚みと屈折率の変化を模式的に示す。図5は縦軸が屈折率(n)、横軸が反射防止フィルムの厚みを表し、左から右へ行くに従い、透明基材11側から低屈折率ハードコート層12表面(偏在層12c)側へと変化をする。
本発明の反射防止フィルムは、透明基材11の少なくとも一方の面に、少なくとも低屈折率ハードコート層12を備えており、低屈折率ハードコート層12は、透明基材成分とバインダーマトリックスが勾配をもって混じりあった混合層12aと、バインダーマトリックスと低屈折率粒子を含む偏在層12cを備えている(図5(a)、(b))。
【0033】
ここで、偏在層12cは光学的に分離している。「光学的に分離している」とは、本発明の反射防止フィルムの表面A側(図1、図2参照)から5°の入射角で可視光(380nm以上800nm以下)での分光反射率を求め、この分光反射率について光学シミュレーションを行った際に、偏在層12cに起因する干渉ピークを観測することができる状態を指す。
【0034】
通常、反射防止フィルム等の製造において、各機能層(ハードコート層、低屈折率層など)の厚みは塗液の組成と単位面積あたりの塗布量から予測することができる。本発明の反射防止フィルムでもその原則は変わらないため、低屈折率ハードコート層の厚みは想定可能である。しかし、実際にシミュレーションにより求められた結果が、その想定される厚み(以下、想定膜厚とする)よりもかなり薄い厚みを示すピークであることから、当該ピークが偏在層12cに起因する(すなわち、偏在層の存在を示す)ものであることがわかる。そしてこの結果は、想定膜厚から偏在層の厚みを差し引いた程度の厚みの他の層の存在を示唆する。
【0035】
この「他の層」には、本発明の反射防止フィルムが備える混合層12a(低屈折率ハードコート層を構成するバインダーマトリックス成分と透明基材成分が勾配をもって混じりあった層)が含まれる。
ここで、「他の層」にはバインダーマトリックスにさらに透明基材成分が含まれていることから、厳密に言えばその分だけ、その厚みは低屈折率ハードコート層12の想定膜厚から偏在層12cを差し引いた厚みより厚くなる。
このように「他の層」が存在する場合、反射防止フィルムの裏面を黒塗り処理し、外観検査を行うと、干渉縞ムラの発生はまったく観測されない。
【0036】
反射防止フィルムから得られる分光反射率から低屈折率ハードコート層12の想定膜厚に対応した干渉ピーク(分光スペクトルの波形に多数のリップルが観測される)のみが確認された場合は、バインダーマトリックスにさらに透明基材成分が含まれている「他の層」が存在しないということであり、これは混合層12aが存在しないということを意味する。
このとき、反射防止フィルムの裏面を黒塗り処理し、外観検査を行うと、干渉縞ムラの発生が観測される。
【0037】
混合層12aでは低屈折率ハードコート層12に由来するバインダーマトリックスと透明基材11に由来する成分とが混じりあい勾配をもって変化をするため、急峻な屈折率変化がない(図5(a)及び(b)参照)。従って、混合層12aに隣接する層(図5(a)では透明基材11と中間層12b、図5(b)では透明基材11)では、その境界の屈折率の変化によって生じる干渉を抑えることができ、これが本発明の反射防止フィルムに優れた光学特性を付与する。このように干渉が抑えられるということは、「光学的に分離していない」(分光反射率測定では対応するピークが観測できない)ということでもある。
【0038】
低屈折率ハードコート層は、ハードコート性能を発揮するバインダーマトリックス成分を一定量以上含むことによって、反射防止フィルムにハードコート性能を付与している。本発明の反射防止フィルムでも、バインダーマトリックス成分は低屈折率ハードコート層12を構成する偏在層12cと混合層12aとにそれぞれ含まれている。しかし、混合層に占める透明基材由来成分の割合が多い場合、バインダーマトリックスが透明基材由来成分で希釈され、反射防止フィルムに必要とされるハードコート性能を発揮できなくなることがある。
【0039】
従って、本発明の反射防止フィルムでは、偏在層12cと混合層12aの間に中間層12bが形成されていることが好ましい(図2及び図5(a)参照)。中間層12bはハードコート性能を発揮するバインダーマトリックス成分濃度が混合層12aよりも濃く、中間層を構成する成分の組成比がほぼ一定に保たれた層であるため、本発明の反射防止フィルムに確実にハードコート性能を付与することができる。
なお、この中間層12bも低屈折率ハードコート層12を構成し、「他の層」に含まれる層である。
【0040】
さらに確実にハードコート性能を担保するために、中間層12bでは95vol%のバインダーマトリックスを含むことが好ましい。
また、本発明の中間層12bがバインダーマトリックスを95wt%以上の割合で含むということは、偏在層12cに含まれる低屈折率粒子の割合がとても多い(すなわち、より高い度合いで偏在している)ということでもあり、本発明の反射防止フィルムが備える反射防止効果及をより高いものとすることができる。)
【0041】
本発明の反射防止フィルムを構成する低屈折率ハードコート層12各層におけるバインダーマトリックスの存在量は蛍光X線分析およびラマン分光分析により求めることができる。
各層に占める低屈折率粒子の存在量(含有率)は、蛍光X線分析により測定することができる。また、各層に占める透明基材成分の存在量(含有率)についてはラマン分光分析による断面プロファイルの測定により求めることができる。そして、各層に占める低屈折率粒子及び透明基材成分の存在量を全体から差し引くことで各層におけるバインダーマトリックスの存在量(含有率)を求めることができる。
なお、本明細書中で述べる各層(低屈折率ハードコート層、混合層、中間層、偏在層)の成分の濃度とは、特に断りのない限り、各層全体での平均された成分の濃度を指す。特に、混合層ではその組成が勾配をもって変化しているため、濃度といってもその計測部分によって組成が変化してしまい定まらないためである。
【0042】
偏在層12cと混合層12aの間に中間層12b(成分の組成比がほぼ横ばいである層)がほとんど形成されていない場合(図5(b)参照)でも、混合層の上層(偏在層側)におけるバインダーマトリックスの含有量が反射防止フィルムにハードコート性を付与するために十分である場合もある。しかし、より確実なハードコート性能を得るために、本発明の反射防止フィルムでは中間層を2μm以上の厚みで備えていることが好ましい。中間層の厚みの上限は特にないが、あまり厚すぎるとフィルムとしての可撓性が失われ、また不必要な材料を費やすため、低屈折率ハードコート層とあわせて15μm程度までが好ましい。
【0043】
中間層12bを構成する成分と混合層12aを構成する成分はほぼ同様であるが、その組成変化に違いがある。先に述べたとおり、混合層12aはその組成が厚さ方向に勾配をもって変化をするため、急峻な屈折率変化がない。従って、混合層12a自体は常に光学的に分離していない。これに対し、中間層12bでは混合された組成ではあるが勾配変化をもたない(図5(a))。厳密に言えば、中間層はまったく勾配変化を持たないわけではないが、その変化の度合いは隣接する層との干渉ピークを打ち消すほどではない。従って、中間層12bが光学的に分離しているかどうかは、隣接する層がどのような状態であるかに依存する。
【0044】
混合層12aが極端に薄く、中間層12bの占める割合が多い場合、混合層12aでは両隣の層の屈折率変化を吸収しきれず、隣接する層との屈折率の違いによる干渉ピークが検出されるようになる。具体的には、偏在層と同様に、反射防止フィルム表面A側から5°の入射角で可視光(380nm以上800nm以下)での分光反射率を求め、この分光反射率について光学シミュレーションを行った際に偏在層12cの他に中間層12bに起因する干渉ピークを観測することができる。すなわち、隣接する層である中間層12bが「光学的に分離している」状態になる(図5(c))。
【0045】
ここで、ある層が光学的に分離していないことは、その層が形成されていないということではない。
反射防止フィルムが光学的に分離している中間層12bを備える場合に、同時に混合層12aも備えているかどうかは分光反射率の測定から判断できる。光学的に分離しているな中間層12bを備える反射防止フィルムの分光反射率を測定すると、想定膜厚よりもかなり薄い層を示すはっきりとした干渉ピークと、想定膜厚よりも少し薄い層を示すぼんやりとしたピークを確認することができる(図5(c))。前者のピークは先に述べたとおり偏在層12cを示すものである。先に述べたように、混合層12aと中間層12bを合わせた「他の層」は、低屈折率ハードコート層の想定膜厚から偏在層12cを差し引いた厚みより厚くなることから、後者のピークは中間層12cの存在を示すものであることがわかり、残りの厚みは混合層12aの存在を示唆する。
【0046】
このような(光学的に分離している中間層を備える)層構成になると、反射防止フィルムはハードコート性能を確実に備えることになるが、干渉縞が発生するようになり、光学的には好ましくない状態となる。
【0047】
従って、本発明の反射防止フィルムにおいては、低屈折率ハードコート層の層構成として、光学的に分離している偏在層と、光学的に分離していない混合層を備えていることに加えて、光学的に分離していない中間層を備えていることが好ましい。
混合層12aが十分な厚みを備えていれば、混合層12aは、その両隣の層の境界との屈折率の変化によって生じる干渉を抑えることができるため、中間層12bを備えていても、中間層は「光学的に分離していない」状態となり、その干渉ピークは検出されない(図5(a))。
光学的に分離していない中間層を備えていることで、干渉を抑えつつ、ハードコート性能を保つことができる。
【0048】
中間層を光学的に分離していない状態とするためには、混合層の厚みは0.5μm以上であることが好ましい。混合層が厚いほどその組成変化の勾配が緩やかになるため干渉ピークを吸収するという観点からは好ましいが、厚すぎる場合はバインダーマトリックスの割合が少ない層が多くなってしまい、反射防止フィルムのハードコート性能に影響を及ぼす。従って、混合層は10μm以下が好ましく、中間層が形成されるためには5μm以下であることが好ましい。
【0049】
混合層及び中間層が光学的に分離していない場合であっても、各層の形成は低屈折率ハードコート層の想定膜厚及び分光反射率の光学シミュレーションによる偏在層の膜厚の差から推定することができる。さらに、ラマン分光分析による断面プロファイルを測定することで、混合層と中間層の存在を確認することができ、混合層ではその組成が勾配をもって変化していることを、中間層では組成比がほぼ一定であることを、それぞれ確認することができる。
【0050】
本発明の反射防止フィルムにあっては、低屈折率ハードコート層12は光学的に分離していない混合層12aと光学的に分離している(低屈折率粒子が偏在した)偏在層12cを備えていることを特徴とする。さらに、偏在層12bの屈折率が1.29以上1.43以下の範囲内であり、偏在層の光学膜厚が100nm以上200nm以下の範囲内であることを特徴とする。このため、偏在層12cを屈折率の低い低屈折率層として機能させることができ、形成される反射防止フィルムに高い反射防止性能を付与することができる。また、偏在層の光学膜厚を100nm以上200nm以下の範囲内とすることにより、偏在層の光学膜厚は可視光波長の1/4波長となり、形成される反射防止フィルムに高い反射防止性能を付与することができる。なお、光学膜厚(nd)は対象となる層の屈折率(n)とその層厚(d)をかけることにより得られる値である。
【0051】
なお、偏在層12cの光学膜厚と屈折率は、分光光度計を用い入射角度5°で反射防止フィルムの表面A側から求められる分光反射率曲線から光学シミュレーション法により求めることができる。
【0052】
また、本発明の反射防止フィルムにあっては、低屈折率ハードコート層形成用塗液を透明基材上に一度塗布することにより、主にハードコート機能を備える中間層だけでなく、低屈折率層として機能する偏在層を形成することができる。したがって、透明基材上にハードコート層及び低屈折率層を順次塗布・形成した場合と比較して、製造コストを抑えることができる。
【0053】
本発明の反射防止フィルム1にあっては、偏在層12cの光学膜厚が110nm以上140nm以下の範囲であることがさらに好ましい。偏在層12cの光学膜厚を110nm以上140nm以下の範囲とすることにより、反射防止フィルムの表面A側から求められる分光反射率曲線を500nm近傍で極小値をとる分光反射率曲線とすることができる。
【0054】
本発明の、光学的に分離していない混合層と光学的に分離している偏在層を備えた反射防止フィルムの分光反射率曲線は、極小値を基準として短波長方向への上昇カーブが長波長方向への上昇カーブと比較して急峻な傾向を示す。このとき、分光反射率曲線の極小値を基準としたときの短波長方向への急峻な上昇カーブは、反射防止フィルムの反射光の色味の原因となり、また、偏在層に膜厚のムラが発生したときに反射防止フィルムの色ムラの発生原因となる。
本発明のより好ましい態様にあっては、偏在層12cの光学膜厚を110nm以上140nm以下の範囲とすることで分光反射率曲線の極小値を500nm近傍とすることができ、極小値を基準としたときの短波長方向への急峻な上昇カーブを和らげることができるので、反射色相が小さく、短波長方向への急峻な上昇カーブによる色ムラの発生を抑制することができた。
【0055】
なお、本発明の反射防止フィルムにおいて色ムラとは低屈折率層として機能する偏在層12bの膜厚ムラに起因する反射色ムラのことであり、面内の色バラツキが大きくなると外観不良となる現象である。一方、干渉縞とは光学干渉による色ムラの一種であるが主に透明基材と低屈折率ハードコート層の屈折率差に起因するもので、低屈折率ハードコート層の膜厚が厚い場合に複数の光学干渉が同時に発生し虹色状に色ムラが観察される現象である。
【0056】
また、本発明の反射防止フィルムにあっては、低屈折率ハードコート層12全体における低屈折率粒子の含有率が0.5wt%以上5wt%未満であり、且つ、前記低屈折率ハードコート層中の単位面積あたりの低屈折率粒子の含有量は0.05g/m以上0.5g/m以下の範囲内であることが好ましい。本発明にあっては、低屈折率ハードコート層中の低屈折粒子を低屈折率ハードコート層の表面側に偏在させ偏在層12cを形成することにより、低屈折率ハードコート層12全体に含有される量としては少ない含有率で(すなわち、低屈折率ハードコート層に対して少ない添加量で)十分な反射防止性能を発現させることができ、低屈折粒子の過度の添加による反射防止フィルムの可視光透過率の低下を防ぐことができる。
【0057】
低屈折率ハードコート層12中の低屈折率粒子の含有率が0.5wt%に満たない場合にあっては、十分な量の低屈折率粒子を偏在層に偏在させることができず、反射防止フィルムとして十分な反射防止性能を得られなくなってしまう場合がある。一方、低屈折率粒子の含有率が5wt%を超える場合にあっては、得られる反射防止フィルムの可視光透過率が低下してしまう場合がある。また、コスト高となる。また、低屈折率ハードコート層中の単位面積あたりの低屈折率粒子の含有量が0.05g/mに満たない場合にあっては、十分な量の低屈折率粒子を偏在層に偏在させることができず、反射防止フィルムとして十分な反射防止性能を得られなくなってしまう場合がある。一方、低屈折率ハードコート層中の単位面積あたりの低屈折率粒子の含有量が0.5g/mを超える場合にあっては、得られる反射防止フィルムの可視光透過率が低下してしまう場合がある。
【0058】
低屈折率ハードコート層中の低屈折率粒子の含有率(wt%)及び単位面積あたりの低屈折率粒子の含有量(g/m)は、製造に際しては使用した材料から計算によって求めることができる。また、反射防止フィルムの状態からは、例えば蛍光X線分析により低屈折率ハードコート層を構成する各層に含まれる低屈折率粒子の存在量(wt%)を測定することができる。この値と各層の厚みから、単位面積あたりの低屈折率粒子の含有量(g/m)を求めることができる。
【0059】
また、本発明の反射防止フィルムにあっては、低屈折率ハードコート層の厚みが3μm以上15μm以下の範囲内であることが好ましい。低屈折率ハードコート層の層厚が3μmに満たない場合にあっては十分なハードコート性を備えず、反射防止フィルムの硬度が不十分となってしまうことがある。反射防止フィルムにハードコート性能を付与するためには、低屈折率ハードコート層全体(混合層、中間層、偏在層)の厚みが3μm以上であることが好ましい。あるいは、中間層の厚みが2μm以上であることが好ましい。また、光学的特性の面からは厚みの上限に特に制限はないが、必要以上に分厚いとコストがかさみ、また可撓性も失われてしまうので低屈折率ハードコート層の厚みは15μm程度であることが好ましい。低屈折率ハードコート層の層厚が15μmを超える場合にあっては、低屈折率ハードコート層の硬化収縮による反射防止フィルムのカールが大きくなってしまい、後加工性が不適であったり、また後加工においてクラックが発生するといったことがある。
【0060】
また、本発明の反射防止フィルムにあっては、前記偏在層側の反射防止フィルム表面Aでの視感平均反射率が0.5%以上2.0%以下の範囲内であり、且つ、前記偏在層側の反射防止フィルム表面でのL*a*b*色度系における反射色相が0.00≦a*≦3.00且つ−3.00≦b*≦3.00を満たすことが好ましい。
【0061】
本発明の反射防止フィルムにあっては、偏在層を形成し低屈折率層とすることにより優れた光学特性を備える反射防止フィルムとすることができる。反射防止フィルム表面A(図1及び図2参照)での視感平均反射率が0.5%以上2.0%以下の範囲内とすることにより十分な反射防止性能を備える反射防止フィルムとすることができる。
【0062】
偏在層側の反射防止フィルム表面での視感平均反射率が2.0%を超える場合にあっては、十分な反射防止性能を備える反射防止フィルムとすることができない。一方、偏在層側の反射防止フィルム表面Aでの視感平均反射率が0.5%より小さい反射防止フィルムを偏在層の光学干渉により実現することは困難である。なお、さらには偏在層側の反射防止フィルム表面での視感平均反射率は0.5%以上1.5%以下の範囲内であることが好ましい。
【0063】
また、反射色相は、a*、b*が0に近いほど無色に近い。しかしながら、−3.00≦a*<0.00は比視感度の高い緑色の領域であり、観察者にとって色味が認識されやすい傾向にある。したがって、本発明の反射防止フィルムにあっては、0.00≦a*≦3.00且つ−3.00≦b*≦3.00とすることが好ましく、a*、b*を上記範囲内とすることにより観察者に色味の視認されにくい反射防止フィルムとすることができる。
【0064】
また、本発明の反射防止フィルムにあっては、低屈折率ハードコート層が電子電導型の導電性ポリマーを含むことが好ましい。低屈折率ハードコート層が電子電導型の導電性ポリマーを含むことにより、低屈折率ハードコート層に帯電防止性能を付与することができる。導電性材料の中でも電子電導性ポリマーを用いることにより、金属粒子や金属酸化物粒子といった導電性粒子を用いて帯電防止性を有する低屈折率ハードコート層を形成する場合と比較して全光線透過率の低下を防ぐことができる。さらに、導電性ポリマーは低屈折率ハードコート層形成用塗液の塗布時に偏在層が形成されることを阻害しないという特徴を有する。また、イオン電導性の材料を用いて低屈折率ハードコート層に帯電防止性能を付与する場合と比較して、様々な環境下で帯電防止性能を発揮することができる。具体的には、低湿度下であっても十分な帯電防止性能を発揮することができる。
【0065】
また、本発明の反射防止フィルムにあっては透明基材11がトリアセチルセルロースフィルムからなることが好ましい。トリアセチルセルロースフィルムにあっては、複屈折率が小さく、透明性が良好なフィルムである、特に、本発明の反射防止フィルムを液晶ディスプレイ表面に設けるにあっては透明基材としてトリアセチルセルロースフィルムを好適に用いることができる。
【0066】
次に、本発明の反射防止フィルムを用いた本発明の偏光板について説明する。
図3に本発明の反射防止フィルムを用いた偏光板の断面模式図を示した。本発明の偏光板2は2つの透明基材(第1の透明基材11及び第2の透明基材22)間に偏光層23が狭持された構造をとる。本発明の偏光板2にあっては、反射防止フィルム1を構成する第1の透明基材11の一方の面に低屈折率ハードコート層12が設けられ、他方の面に、偏光層23、第2の透明基材22を順に備える。すなわち、反射防止フィルム1を構成する第1の透明基材11が、偏光層23を狭持するための透明基材を兼ねる構造となっている。偏光層としては、例えば、ヨウ素を加えた延伸ポリビニルアルコール(PVA)を用いることができる。また、第2の透明基材としては、本発明の反射防止フィルムに透明基材として用いる基材を選択することができ、トリアセチルセルロースからなるフィルムを好適に用いることができる。
【0067】
次に、本発明の反射防止フィルムを用いた透過型液晶ディスプレイについて説明する。
図4に本発明の反射防止フィルムを備える透過型液晶ディスプレイの断面模式図を示した。図4の透過型液晶ディスプレイにおいては、バックライトユニット5、第2の偏光板4、液晶セル3、本発明の反射防止フィルム1を含む第1の偏光板2をこの順に備えている。このとき、反射防止フィルム側が観察側すなわちディスプレイ表面となる。
【0068】
バックライトユニット5は、光源と光拡散板を備える(図示せず)。液晶セルは、一方の透明基材に電極が設けられ、もう一方の透明基材に電極及びカラーフィルターを備えており、両電極間に液晶が封入された構造となっている(図示せず)。第2の偏光板4は第3の透明基材41と第4の透明基材42との間に第2の偏光層43を狭持した構造となっている。第1の偏光板2と第2の偏光板4は液晶セル3を挟むように設けられる。
【0069】
また、本発明の透過型液晶ディスプレイにあっては、他の機能性部材を備えても良い。他の機能性部材としては、例えば、バックライトから発せられる光を有効に使うための、拡散フィルム、プリズムシート、輝度向上フィルムや、位相差や視野角を補償するための位相差フィルムが挙げられるが、本発明の透過型液晶ディスプレイはこれらに限定されるものではない。
【0070】
次に、本発明の反射防止フィルムの製造方法について説明する。
本発明の反射防止フィルムの製造方法にあっては、透明基材上にバインダーマトリックス形成材料と低屈折率粒子と溶媒を含む低屈折率ハードコート層形成用塗液を塗布し塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥する工程と、前記塗膜に電離放射線を照射し低屈折率ハードコート層を形成する工程により反射防止フィルムが製造される。バインダーマトリックス形成材料は電離放射線硬化型材料を含んでいる。
【0071】
本発明の反射防止フィルムは、低屈折率ハードコート層を形成する際に低屈折率ハードコート層形成用塗液に透明基材を溶解または膨潤させる溶媒を含ませることにより、偏在層及び混合層を形成することができる。
すなわち、本発明の反射防止フィルムの製造方法にあっては、低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒のうち30wt%以上90wt%以下の範囲内の溶媒が透明基材を溶解または膨潤させる溶媒であることを特徴とする。
【0072】
低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒のうち30wt%以上90wt%以下の範囲内で透明基材を溶解または膨潤させる溶媒を用いることにより、低屈折率粒子が偏在した偏在層と、バインダーマトリックス成分及び透明基材成分が勾配をもって混じりあった混合層とを形成することができる。
【0073】
本発明の反射防止フィルム及びその製造方法にあって偏在層の形成機構は明確ではないが、透明基材上に低屈折率ハードコート層形成用塗液を塗布し塗膜を形成してから乾燥するまでの工程で、塗液に含まれている「透明基材を溶解あるいは膨潤させる溶媒」が透明基材へと浸透し、それにともないバインダーマトリックス形成材料成分も透明基材へと浸透し、透明基材を形成している材料と混合され混合層が形成され、一方、低屈折粒子は透明基材には浸透しがたいため、透明基材側とは反対の低屈折率ハードコート層表面側へと偏析し偏在層を形成するものと考えられる。
【0074】
低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒のうち30wt%以上90wt%以下の範囲内で透明基材を溶解または膨潤させる溶媒を用いることにより、透明基材と低屈折率ハードコート層間に透明基材成分とバインダーマトリックス成分からなる混合層を形成することができる。さらには、効率的に偏在層を形成することができる。
【0075】
低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒のうち透明基材を溶解または膨潤させる溶媒が30wt%を下回る場合にあっては、光学的に分離した偏在層を形成することができなくなってしまう。一方、全溶媒のうち透明基材を溶解または膨潤させる溶媒が90wt%を上回る場合にあっては、混合層の厚みが増大して反射防止フィルムの硬度が低下したり、偏在層の低屈折率粒子が凝集して必要以上のヘイズが発生してしまうことがあり不適である。
【0076】
なお、本発明の反射防止フィルムの製造方法においては、低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒のうち40wt%以上80wt%以下の範囲内の溶媒が、透明基材を溶解または膨潤させる溶媒であることがより好ましい。さらには、低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒のうち50wt%以上70wt%以下の範囲内の溶媒が、透明基材を溶解または膨潤させる溶媒であることがより好ましい。
【0077】
また、本発明の反射防止フィルムの製造方法にあっては、低屈折率ハードコート層形成用塗液からなる塗膜を透明基材上に形成してから前記透明基材上の塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間が2秒以上60秒以下の範囲内であることが好ましい。ここでいう溶媒とは、透明基材を溶解または膨潤させる溶媒も含む全溶媒である。
【0078】
低屈折率ハードコート層となる塗膜を透明基材上に形成してから前記透明基材上の塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間が2秒以上60秒以下の範囲内とすることにより、塗膜中の低屈折率粒子が偏在して偏在層を形成するまでの時間を十分にとることができ、偏在層と中間層を備えた本発明の反射防止フィルムを容易に製造することができる。
【0079】
塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間が2秒に満たない場合にあっては、塗膜の急激な乾燥により偏在層を形成することができなくなってしまう恐れがある。また、本発明の反射防止フィルムにあってはロール・ツー・ロール方式により低屈折率ハードコート層が連続形成される。塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間が60秒を超える場合にあっては、時間がかかりすぎてしまい現実的でない。枚葉方式で低屈折率ハードコート層を形成する場合においても、タクトタイムが長くなり生産性が低下するため好ましくない。
塗膜中に含まれる溶媒の量は、重量を測定することにより求めることができる。また、赤外線モニタによっても測定することができる。
【0080】
また、本発明の反射防止フィルムの製造方法にあっては、低屈折率ハードコート層形成用塗液中に含まれる溶媒が55wt%以上85wt%以下の割合であるが好ましい。塗液中の溶媒量を上記範囲内とすることにより、塗膜中の低屈折率粒子が偏在して偏在層を形成するまでの時間を十分とすることができ、偏在層と中間層を備えた本発明の反射防止フィルムを容易に製造することができる。
低屈折率ハードコート層形成用塗液中の溶媒量が55wt%に満たない場合にあっては、塗膜が急激に乾燥してしまい偏在層を形成することができなくなってしまう恐れがある。一方、低屈折率ハードコート層形成用塗液中の溶媒量が85wt%を越える場合にあっては、乾燥時間を長くする必要があり大量生産に不向きとなってしまう。
【0081】
また、本発明の反射防止フィルムの製造方法にあっては、低屈折率ハードコート層となる塗膜を乾燥する工程を溶媒濃度0.2vol%以上10vol%以下の溶媒雰囲気下でおこなうことが好ましい。塗膜を乾燥する工程を0.2vol%以上10vol%以下の溶媒雰囲気下でおこなうことにより、塗膜中の低屈折率粒子が偏在して偏在層を形成するまでの時間を十分とすることができ、偏在層と中間層を備えた本発明の反射防止フィルムを容易に製造することができる。なお、このとき乾燥雰囲気に用いられる溶媒としては、低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる溶媒のうち少なくとも1種類が用いられる。
溶媒雰囲気下が0.2vol%に満たない場合にあっては、塗膜が急激に乾燥してしまい偏在層を形成することができなくなってしまう場合がある。一方、溶媒雰囲気下が10vol%を超える場合にあっては、乾燥時間を長くする必要があり大量生産に不向きとなってしまう。
【0082】
また、本発明の反射防止フィルムの製造方法にあっては、低屈折率ハードコート層となる塗膜を透明基材に形成後、乾燥を行う。この乾燥工程は、塗液の塗布直後に乾燥温度20℃以上30℃以下の範囲内で一次乾燥工程をおこなうことが好ましい。一次乾燥温度を20℃以上30℃以下の範囲内とすることにより、塗膜中の低屈折率粒子が偏在して偏在層を形成するまでの時間を十分とすることができ、偏在層と中間層を備えた本発明の反射防止フィルムを容易に製造することができる。
乾燥温度が30℃を超える場合にあっては、塗膜が急激に乾燥してしまい偏在層を形成することができなくなってしまう恐れがある。一方、乾燥温度が20℃を下回る場合にあっては、乾燥時間を長くする必要があり連続生産に不向きとなってしまう。またこれらの一次乾燥工程のみでは乾燥が不十分の場合があり、一時乾燥後、二次乾燥工程として乾燥温度50℃以上150℃以下の範囲内で適度な加熱乾燥をおこなうことが好ましい。
【0083】
また、一次乾燥工程は2秒以上60秒以下の範囲内でおこなわれることが好ましい。一次乾燥工程の時間が2秒に満たない場合にあっては、塗膜が急激に乾燥してしまい偏在層を形成することができなくなってしまう場合がある。また、本発明の反射防止フィルムにあってはロール・ツー・ロール方式により低屈折率ハードコート層が連続形成される。一次乾燥工程の時間が60秒を超える場合にあっては、透明基材の搬送速度を低下させる必要や、塗膜を乾燥するための乾燥ユニットを長くする必要があり、現実的でない。
【0084】
低屈折率ハードコート層形成用塗液中に含まれる溶媒は、沸点の高い揮発性溶媒が好ましい。好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上である。沸点が高いほうが、混合層及び中間層の形成に重要な要素となる一次乾燥工程の時間を調整しやすいからである。
また、本発明の反射防止フィルムの製造方法にあっては、透明基材がトリアセチルセルロースフィルムの際に低屈折率ハードコート層形成用塗液中に含まれる溶媒がN−メチルピロリドンを含むことが好ましい。N−メチルピロリドンは沸点が高く、またトリアセチルセルロースとN−メチルピロリドンとの相性がとりわけ良いため、低屈折率ハードコート層形成用塗液中に含まれる溶媒がN−メチルピロリドンを含むことにより、偏在層と中間層を備えた本発明の反射防止フィルムを容易に製造することができる。
【0085】
本発明の反射防止フィルム及びその製造方法についてさらに詳細に説明する。
本発明の反射防止フィルムにおける透明基材としては、種々の有機高分子からなるフィルムまたはシートを用いることができる。例えば、ディスプレイ等の光学部材に通常使用される基材が挙げられ、透明性や光の屈折率等の光学特性、さらには耐衝撃性、耐熱性、耐久性などの諸物性を考慮して、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等のセルロース系、6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド系、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、エチレンビニルアルコール等の有機高分子からなるものが用いられる。特に、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートが好ましい。中でも、トリアセチルセルロースにあっては、複屈折率が小さく、透明性が良好であることから液晶ディスプレイに対し好適に用いることができる。
【0086】
なお、透明基材の厚みは25μm以上200μm以下の範囲内にあることが好ましく、さらには、40μm以上80μm以下の範囲内にあることが好ましい
【0087】
さらに、これらの有機高分子に公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤等を添加することにより機能を付加させたものも使用できる。また、透明基材は上記の有機高分子から選ばれる1種または2種以上の混合物、または重合体からなるものでもよく、複数の層を積層させたものであってもよい。
【0088】
次に、低屈折率ハードコート層の形成方法について述べる。本発明の反射防止フィルムにあっては、透明基材上に電離放射線硬化型材料を含むバインダーマトリックス形成材料と低屈折率粒子と溶媒を備える低屈折率ハードコート層形成用塗液を塗布し塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥する工程と、前記塗膜に電離放射線を照射し低屈折率ハードコート層を形成する工程により低屈折率層として機能する偏在層を備えた低屈折率ハードコート層が形成される。
【0089】
低屈折率粒子としては、LiF、MgF、3NaF・AlFまたはAlF(いずれも、屈折率1.4)、または、NaAlF(氷晶石、屈折率1.33)等の低屈折材料からなる低屈折率粒子を用いることができる。また、粒子内部に空隙を有する粒子を好適に用いることができる。粒子内部に空隙を有する粒子にあっては、空隙の部分を空気の屈折率(≒1)とすることができるため、非常に低い屈折率を備える低屈折率粒子とすることができる。具体的には、内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子を用いることができる。
また、粒子内部に空隙を有する粒子は透明基材成分には分散しづらいため、低屈折率ハードコート層を構成するバインダーマトリックス形成材料が透明基材へ浸透する際に、バインダーマトリックス形成材料が透明基材成分と混じりあった部分(混合層及び中間層)から押し出される。こうして偏在層を形成することができる。
【0090】
本発明の低屈折率ハードコート層に用いられる低屈折率粒子としては、粒径が1nm以上100nm以下であることが好ましい。粒径が100nmを超える場合、レイリー散乱によって光が著しく反射され、低屈折率ハードコート層が白化して反射防止フィルムの透明性が低下する傾向にある。一方、粒径が1nm未満の場合、粒子が凝集して低屈折率ハードコート層における粒子の分散が不均になるなどの問題が生じることがある。これらの低屈折率粒子は、各々単独で用いても、材料や粒径の異なる複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
低屈折率ハードコート層を形成するためのバインダーマトリックス形成材料としては電離放射線硬化型材料を含む。電離放射線硬化型材料としては、アクリル系材料を好ましく用いることができる。アクリル系材料としては、多価アルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルのような多官能または多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。またこれらの他にも、電離放射線硬化型材料として、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0092】
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の両方を示している。たとえば、「ウレタン(メタ)アクリレート」は「ウレタンアクリレート」と「ウレタンメタアクリレート」の両方を示している。
【0093】
単官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0094】
前記2官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0095】
前記3官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0096】
アクリル系材料として多官能ウレタンアクリレートを用いることもできる。ウレタンアクリレートは、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有アクリレートを反応させることによって得られる。具体的には、共栄社化学社製、UA−306H、UA−306T、UA−306I等、日本合成化学社製、UV−1700B、UV−6300B、UV−7600B、UV−7605B、UV−7640B、UV−7650B等、新中村化学社製、U−4HA、U−6HA、UA−100H、U−6LPA、U−15HA、UA−32P、U−324A等、ダイセルユーシービー社製、Ebecryl−1290、Ebecryl−1290K、Ebecryl−5129等、根上工業社製、UN−3220HA、UN−3220HB、UN−3220HC、UN−3220HS等を挙げることができるがこの限りではない。
【0097】
またこれらの他にも、電離放射線硬化型材料として、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0098】
また、低屈折率ハードコート層形成用塗液を紫外線により硬化させる場合にあっては、低屈折率ハードコート層形成用塗液に光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、紫外線が照射された際にラジカルを発生するものであれば良く、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類を用いることができる。また、光重合開始剤の添加量は、電離放射線硬化型材料100重量部に対して0.1重量部以上10重量部以下の範囲内であることが好ましく、さらには1重量部以上7重量部以下であることが好ましい。
【0099】
低屈折率ハードコート層形成用塗液にあっては、溶媒が加えられる。本発明の低屈折率ハードコート層形成用塗液にあっては、塗液に含まれる全溶媒のうち30wt%以上90wt%以下の範囲内で透明基材を溶解または膨潤させる溶媒が用いられる。
【0100】
透明基材としてトリアセチルセルロースフィルムを用いた際に透明基材を溶解または膨潤させる溶媒としては、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール等のエーテル類、またアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、およびメチルシクロヘキサノン等の一部のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン等のエステル類、さらには、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類、その他としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチルピロリドン)、炭酸ジメチルが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
トリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させない溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサンなどの炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、ジアセトンアルコールなどの一部のケトン類などが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0102】
また、バインダーマトリックス形成材料としては、電離放射線硬化型材料の他に熱可塑性樹脂等を加えることもできる。熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル及びその共重合体、塩化ビニル及びその共重合体、塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、アクリル樹脂及びその共重合体、メタクリル樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を使用できる。熱可塑性樹脂を加えることにより、製造されるフィルムのカールを抑制することができる。
【0103】
また、低屈折率ハードコート層形成溶塗液に含まれる電子電導型の導電性ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンサルファイド、ポリ(1,6−ヘプタジイン)、ポリビフェニレン(ポリパラフェニレン)、ポリパラフィニレンスルフィド、ポリフェニルアセチレン、ポリ(2,5−チエニレン)及びこれらの誘導体から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0104】
また、低屈折率ハードコート層形成用塗液には添加剤として、表面調整剤、屈折率調整剤、密着性向上剤、硬化剤等を加えることもできる。
【0105】
以上のような材料を含む低屈折率ハードコート層形成用塗液は透明基材上に塗布され、塗膜を形成する。低屈折率ハードコート層形成用塗液を透明基材上に塗布するための方法としては、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーターを用いた塗布方法を用いることができる。
【0106】
次に、透明基材上に形成された低屈折率ハードコート層となる塗膜は乾燥工程により、塗膜中の溶媒が除去される。このとき乾燥手段としては、加熱、送風、熱風等を用いることができる。
【0107】
低屈折率ハードコート層形成用塗液を透明基材上に塗布することにより得られる塗膜に対し、電離放射線を照射することにより、低屈折率ハードコート層が形成される。電離放射線としては、紫外線、電子線を用いることができる。紫外線硬化の場合は、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク等の光源が利用できる。また、電子線硬化の場合はコックロフトワルト型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される電子線が利用できる。電子線は、50〜1000KeVのエネルギーを有するのが好ましい。100〜300KeVのエネルギーを有する電子線がより好ましい。
【0108】
本発明の低屈折率ハードコート層はロール・ツー・ロール方式により連続形成される。ウェブ状の透明基材を塗布装置の巻き出し部から巻き取り部まで連続走行させ、このとき、透明基材を塗布ユニット、乾燥ユニット、電離放射線照射ユニットを通過させることにより、透明基材上に低屈折率ハードコート層が連続形成される。
【実施例】
【0109】
(実施例1)
<透明基材>
透明基材として、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.49)を用意した。
<低屈折率ハードコート層の形成>
内部に空隙を有する低屈折率シリカ微粒子分散液(一次粒子径30nm/固形分20wt%/イソプロピルアルコール分散)6.0重量部と、電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)7.8重量部とペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)23.3重量部とウレタンアクリレートUA−306T(共栄社化学社製)7.8重量部を用意し、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバ・ジャパン社製)2.0重量部を用意し、溶媒としてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとジアセトンアルコールを重量比で6:2:2で混合した混合溶媒55.2重量部を用意し、これらを混合することにより固形分40wt%の低屈折率ハードコート層形成用塗液を得た。
得られた塗液を透明基材上にワイヤーバーコーターにより塗布し、塗膜を形成し、2〜5vol%の溶剤雰囲気下の半密閉空間にて30秒25℃で室温乾燥をおこなった(一次乾燥)。室温乾燥工程で透明基材上の塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間は4秒であった。室温乾燥後、オーブンで80℃1分乾燥をおこない(二次乾燥)、乾燥後、コンベア式紫外線硬化装置で露光量400mJ/cmで紫外線照射をおこなうことにより透明基材上に厚さ5μmの低屈折率ハードコート層を形成した。
以上により、透明基材上に低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムを作製した。
【0110】
(実施例2)
<透明基材>
透明基材として、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.49)を用意した。
<低屈折率ハードコート層の形成>
内部に空隙を有する低屈折率シリカ微粒子分散液(一次粒子径30nm/固形分20wt%/イソプロピルアルコール分散)2.0重量部と、電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)4.9重量部とペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)14.7重量部とウレタンアクリレートUA−306T(共栄社化学社製)4.9重量部を用意し、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバ・ジャパン社製)2.0重量部と、導電性ポリマーBaytron P CH 8000(固形分3%)16.7重量部と、変性シリコーンオイルTSF44(GE東芝シリコーン製)0.5重量部を用意し、溶媒としてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとジアセトンアルコールを重量比で6:2:2で混合した混合溶媒56.6重量部を用意し、これらを混合することにより固形分26wt%の低屈折率ハードコート層形成用塗液を得た。
得られた塗液を透明基材上にワイヤーバーコーターにより塗布し、塗膜を形成し、溶剤濃度が0.1vol%以下の開放空間にて30秒25℃で室温乾燥をおこなった(一次乾燥)。室温乾燥工程で透明基材上の塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間は3秒であった。室温乾燥後、オーブンで80℃1分乾燥をおこない(二次乾燥)、乾燥後、コンベア式紫外線硬化装置で露光量400mJ/cmで紫外線照射をおこなうことにより透明基材上に厚さ5μmの低屈折率ハードコート層を形成した。
以上により、透明基材上に低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムを作製した。
【0111】
(実施例3)
<透明基材>
透明基材として、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.49)を用意した。
<低屈折率ハードコート層の形成>
フッ化マグネシウム(MgF2)微粒子分散液(一次粒子径20nm/固形分20wt%/イソプロピルアルコール分散)6.0重量部と、電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)7.8重量部とペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)23.3重量部とウレタンアクリレートUA−306T(共栄社化学社製)7.8重量部を用意し、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバ・ジャパン社製)2.0重量部を用意し、溶媒としてメチルエチルケトンとN−メチルピロリドンとジアセトンアルコールを重量比で5:2:3で混合した混合溶媒55.2重量部を用意し、これらを混合することにより固形分40wt%の低屈折率ハードコート層形成用塗液を得た。
得られた塗液を透明基材上にワイヤーバーコーターにより塗布し、塗膜を形成し、溶剤濃度が0.1vol%以下の開放空間にて30秒25℃で室温乾燥をおこなった(一次乾燥)。室温乾燥工程で透明基材上の塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間は25秒であった。室温乾燥後、オーブンで80℃1分乾燥をおこない(二次乾燥)、乾燥後、コンベア式紫外線硬化装置で露光量400mJ/cmで紫外線照射をおこなうことにより透明基材上に厚さ5μmの低屈折率ハードコート層を形成した。
以上により、透明基材上に低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムを作製した。
【0112】
(比較例1)
<透明基材>
透明基材として、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.49)を用意した。
<ハードコート層の形成>
電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)10重量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)30重量部、ウレタンアクリレート(共栄社化学株式会社製UA−306T)10重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバジャパン株式会社製(光重合開始剤)2.5重量部、溶媒としてメチルエチルケトン25重量部、酢酸ブチル25重量部を混合したハードコート層形成用塗液を用いた。得られたハードコート層形成用塗液をトリアセチルセルロースフィルム上にワイヤーバーコーターにより塗布した。ハードコート層形成用塗液を塗布したトリアセチルセルロースフィルムをオーブンで80℃1分乾燥をおこない、乾燥後、コンベア式紫外線硬化装置で露光量400mJ/cmで紫外線照射をおこなうことにより透明基材上に厚さ5μmのハードコート層を形成した。
<帯電防止層の形成>
有機ケイ素化合物としてテトラエトキシシランを原料とし、これにイソプロピルアルコール、0.1N塩酸を加え、加水分解させることより、テトラエトキシシランの重合体を含む溶液を得た。この溶液に一次粒子径が8nmのアンチモンドープ酸化スズ(ATO)微粒子を混合し、イソプロピルアルコールを加え、塗液100重量部中にテトラエトキシシランの重合体2.5重量部、アンチモンドープ酸化スズ微粒子2.5重量部を含む帯電防止層形成用塗液を得た。得られた帯電防止層形成用塗液をアルカリ処理したハードコート層上にワイヤーバーコーターに塗布し、オーブンで120℃1分間加熱乾燥をおこない、光学膜厚(nd)が可視光波長の1/4となるように帯電防止層を形成した。
<低屈折率層の形成>
有機ケイ素化合物としてテトラエトキシシランと1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリメトキシシランをmol比で95:5となるように混合したものを用い、これにイソプロピルアルコール、0.1N塩酸を加え、加水分解させることより、有機ケイ素化合物の重合体を含む溶液を得た。この溶液に内部に空隙を有する低屈折率シリカ微粒子分散液(一次粒子径30nm/固形分20重量%)を混合し、イソプロピルアルコールを加え、塗液100重量部中に有機ケイ素化合物2.0重量部、低屈折率シリカ微粒子2.0重量部を含む低屈折率層形成用塗液を得た。得られた低屈折率層形成用塗液を帯電防止層上にワイヤーバーコーターに塗布し、オーブンで120℃で1分間加熱乾燥をおこない、光学膜厚(nd)が可視光波長の1/4となるような低屈折率層を形成した。
以上により、透明基材、ハードコート層、帯電防止層、低屈折率層を順に備える反射防止フィルムを作製した。
【0113】
(比較例2)
<透明基材>
透明基材として、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.49)を用意した。
<帯電防止ハードコート層の形成>
導電性粒子としてアンチモンドープ酸化スズ粒子分散液(ATO/平均粒子径8nm/固形分比30重量%/分散媒イソプロピルアルコール)33.3重量部を用意し、電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート8.3重量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート25重量部、ウレタンアクリレート(共栄社化学株式会社製UA−306T)8.3重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバジャパン株式会社製(光重合開始剤)2.1重量部、溶媒としてトルエン23重量部を混合した帯電防止ハードコート層形成用塗液を用いた。得られた帯電防止ハードコート層形成用塗液をトリアセチルセルロースフィルム上にワイヤーバーコーターにより塗布した。帯電防止ハードコート層形成用塗液を塗布したトリアセチルセルロースフィルムをオーブンで80℃1分乾燥をおこない、乾燥後、コンベア式紫外線硬化装置で露光量400mJ/cmで紫外線照射をおこなうことにより透明基材上に厚さ5μmの帯電防止ハードコート層を形成した。
<低屈折率層の形成>
有機ケイ素化合物としてテトラエトキシシランと1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリメトキシシランをmol比で95:5となるように混合したものを用い、これにイソプロピルアルコール、0.1N塩酸を加え、加水分解させることより、有機ケイ素化合物の重合体を含む溶液を得た。この溶液に内部に空隙を有する低屈折率シリカ微粒子分散液(一次粒子径30nm/固形分20重量%)を混合し、イソプロピルアルコールを加え、塗液100重量部中に有機ケイ素化合物2.0重量部、低屈折率シリカ微粒子2.0重量部含む低屈折率層形成用塗液を得た。得られた低屈折率層形成用塗液を帯電防止ハードコート層上にワイヤーバーコーターに塗布し、オーブンで120℃で1分間加熱乾燥をおこない、光学膜厚(nd)が可視光波長の1/4となるような低屈折率層を形成した。
以上により、透明基材上に帯電防止ハードコート層、低屈折率層を順に備える反射防止フィルムを作製した。
【0114】
(比較例3)
<透明基材>
透明基材として、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.49)を用意した。
<低屈折率ハードコート層の形成>
内部に空隙を有する低屈折率シリカ微粒子分散液(一次粒子径30nm/固形分20wt%/イソプロピルアルコール分散)6.0重量部と、電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)7.8重量部とペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)23.3重量部とウレタンアクリレートUA−306T(共栄社化学社製)7.8重量部を用意し、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバ・ジャパン社製)2.0重量部を用意し、溶媒としてトルエン55.2重量部を用意し、これらを混合することにより固形分40wt%の低屈折率ハードコート層形成用塗液を得た。
得られた塗液を透明基材上にワイヤーバーコーターにより塗布し、塗膜を形成し、2〜5vol%の溶剤雰囲気下の半密閉空間にて30秒25℃で室温乾燥をおこなった(一次乾燥)。室温乾燥工程で透明基材上の塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間は4秒であった。室温乾燥後、オーブンで80℃1分乾燥をおこない(二次乾燥)、乾燥後、コンベア式紫外線硬化装置で露光量400mJ/cmで紫外線照射をおこなうことにより透明基材上に厚さ5μmの低屈折率ハードコート層を形成した。
以上により、透明基材上に低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムを作製した。
【0115】
(比較例4)
<透明基材>
透明基材として、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率1.49)を用意した。
<低屈折率ハードコート層の形成>
内部に空隙を有する低屈折率シリカ微粒子分散液(一次粒子径30nm/固形分20wt%/イソプロピルアルコール分散)5.0重量部と、電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)4.7重量部とペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)14.1重量部とウレタンアクリレートUA−306T(共栄社化学社製)4.7重量部を用意し、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバ・ジャパン社製)1.5重量部を用意し、溶媒としてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールを重量比で3:7で混合した混合溶媒69.0重量部を用意し、これらを混合することにより固形分25wt%の低屈折率ハードコート層形成用塗液を得た。
得られた塗液を透明基材上にワイヤーバーコーターにより塗布し、塗膜を形成し、溶剤濃度が0.1vol%以下の開放空間にて30秒25℃で室温乾燥をおこなった(一次乾燥)。室温乾燥工程で透明基材上の塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間は2秒未満であった。室温乾燥後、オーブンで80℃1分乾燥をおこない(二次乾燥)、乾燥後、コンベア式紫外線硬化装置で露光量400mJ/cmで紫外線照射をおこなうことにより透明基材上に厚さ5μmの低屈折率ハードコート層を形成した。
以上により、透明基材上に低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムを作製した。
【0116】
得られた反射防止フィルムについて、以下の測定・評価をおこなった。
【0117】
・分光反射率の測定
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムの低屈折率ハードコート層形成面と反対側の面を黒色艶消しスプレーにより黒色に塗布した。スプレー塗布後、自動分光光度計(日立製作所製、U−4000)を用い、C光源、2度視野の条件下で、低屈折率ハードコート層形成面について入射角5°における分光反射率を測定した。そして、得られた分光反射率曲線から光学シミュレーション法により、低屈折率ハードコート層中の偏在層の有無、偏在層の光学膜厚、偏在層の屈折率、中間層の屈折率を求めた。また、得られた分光反射率曲線から混合層の存在の確認をおこなった。また、(比較例1)にあっては帯電防止層の屈折率、光学膜厚、低屈折率層の屈折率、光学膜厚を求めた。
・混合層の確認
(実施例1)〜(実施例3)で得られた反射防止フィルムについて、ミクロトームによる断面出しをおこなった。得られた断面について透明基材との境界を観察し、不明りょうである(混合層が形成されている)ことを確認した。さらに混合層の断面プロファイルが0.5μm以上であることを確認した。
【0118】
(表1)に、分光反射率から得られた低屈折率ハードコート層中の偏在層と混合層の有無、中間層の屈折率、偏在層の屈折率、偏在層の光学膜厚を示す。なお、(比較例1)にあってはハードコート層の屈折率を、(比較例2)にあっては帯電防止ハードコート層の屈折率を中間層の屈折率の箇所に記載した。
【0119】
【表1】

【0120】
また、低屈折率ハードコート層に占める低屈折率粒子の含有率(wt%)、低屈折率ハードコート層中の単位面積あたりの低屈折率粒子の含有量(g/m)、低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる溶媒の割合(wt%)及び当該塗液に含まれる全溶媒中に占める透明基材を溶解または膨潤させる溶媒の割合(wt%)をそれぞれ「低屈折率粒子の含有率(wt%)」、「単位面積あたりの含有量(g/m)」、「塗液に含まれる溶媒の割合(wt%)」、「塗液に含まれる全溶媒に占める溶解/膨潤溶媒の割合(wt%)」として、(表2)にまとめた。比較例1及び比較例2については、低屈折率粒子の含有率(wt%)欄にそれぞれ導電性粒子(帯電防止(HC)層)と低屈折率粒子(低屈折率層)の含有率を記載した。「単位面積あたりの含有量(g/m)」は、低屈折率ハードコート層の比重を1.2として算出した値である。
【0121】
【表2】

【0122】
・視感平均反射率、反射色相の測定
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムの低屈折率ハードコート層形成面と反対側の面を黒色艶消しスプレーにより黒色に塗布した。塗布後、自動分光光度計(日立製作所製、U−4000)を用い測定した低屈折率ハードコート層形成面についてC光源、2度視野の条件下での入射角5°における分光反射率から平均視感反射率(Y%)、反射色相(a*、b*)を算出した。また、比視感度は明所視標準比視感度を用いた。
【0123】
・ヘイズ(H)、平行光線透過率の測定
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムについて、写像性測定器(日本電色工業製、NDH−2000)を使用してヘイズ(H)、平行光線透過率を測定した。
【0124】
・表面抵抗の測定
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムの低屈折率層表面についてJIS K6911に準拠して高抵抗抵抗率計(株式会社ダイアインスツルメンツ製ハイレスターMCP−HT260)にて測定をおこなった。
【0125】
・色ムラ、干渉縞の確認
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムについて、低屈折率層表面に蛍光灯を映りこませて、反射光を確認することにより色ムラの確認、干渉ムラの確認をおこなった。
【0126】
(表3)に得られた反射防止フィルムの視感平均反射率、平行光線透過率、ヘイズ、反射色相、表面抵抗、中間層のバインダーマトリックス成分の含有割合の測定結果を示す。また、色ムラ、干渉縞の評価結果を示す。なお、(比較例2)、(比較例3)については、干渉縞の度合いが強く、色ムラの発生の確認についてはおこなわなかった。
【0127】
【表3】

【0128】
比較例1はハードコート層と帯電防止層と低屈折率層を別々に形成した例であるが、この例ではハードコート層と帯電防止層と低屈折率層との膜厚のばらつきに起因する色ムラが発生してしまった。
比較例2及び比較例3は帯電防止ハードコート層形成用塗液が、透明基材を溶解又は膨潤させる溶媒を含まない例である。また、比較例2は、導電性粒子を含む帯電防止ハードコート層と、低屈折率粒子を含む低屈折率層を順次形成した例である。比較例2では表面抵抗は十分であったが、多量の導電性粒子の添加によって平行光線透過率の著しい低下が見られ、ヘイズも大きい傾向がみられた。比較例3では低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒中に占める透明基材を溶解または膨潤させる溶媒の割合(wt%)が不十分で、混合層及び偏在層が形成されなかった。従って、基材との屈折率差に起因する干渉縞が発生してしまった。また、十分な反射防止性能を備えるものとすることができなかった。
比較例4は混合層及び偏在層は形成されたが、偏在層の形成が不十分で適切な厚みではなかったため、干渉縞が発生してしまった。
【0129】
これに対し、(実施例)で得られた反射防止フィルムにあっては、製造コストが低く、また、光学特性に優れた反射防止フィルムを提供することができた。(実施例)で得られた反射防止フィルムにあっては、低屈折率層を別途設ける場合(比較例1、比較例2)と比較して、製造コストを抑えることができた。また、(実施例)で得られた反射防止フィルムにあっては、偏在層を低屈折率層として機能させることにより光学特性を向上させることができ、具体的には反射防止性能に優れ、緩衝縞、色ムラがなく、反射色相の小さい反射防止フィルムとすることができた。特に(実施例2)で得られた反射防止フィルムにあっては、十分な帯電防止性能を備えるとともに、干渉縞、色ムラの発生もなく、優れた光学特性を備えるものとすることができた。また、本発明の反射防止フィルムにあっては平行光線透過率が高く、ヘイズが低い。したがって、本発明の反射防止フィルムにあってはディスプレイのコントラストを低下することなく反射防止性能を発揮することができ、ディスプレイ表面に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0130】
1 反射防止フィルム
11 第1の透明基材
12 低屈折率ハードコート層
12a 混合層
12b 中間層
12c 偏在層
2 偏光板
22 第2の透明基材
23 偏光層
3 液晶セル
4 第2の偏光板
41 第3の透明基材
42 第4の透明基材
43 第2の偏光層
5 バックライトユニット
A 反射防止フィルム表面
100 変化が急なためピークが検出される(光学的に分離可能)
200 勾配をもって変化するため検出されない(光学的に分離不可能)
300 勾配が急であるため薄いピークが検出される(光学的に分離可能)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の少なくとも一方の面に、少なくとも低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムであって、
前記低屈折率ハードコート層は電離放射線硬化型材料を硬化して形成されるバインダーマトリックスと低屈折率粒子からなり、
前記低屈折率ハードコート層は前記透明基材と前記バインダーマトリックスが勾配をもって混じりあった混合層と、前記バインダーマトリックスと前記低屈折率粒子を含む偏在層を備え、
前記混合層は光学的に分離しておらず、前記偏在層は光学的に分離しており、且つ、
前記偏在層の屈折率が1.29以上1.43以下の範囲内であり、且つ、
前記偏在層の光学膜厚が100nm以上200nm以下の範囲内であることを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項2】
前記偏在層の光学膜厚が110nm以上140nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記低屈折率ハードコート層中の前記低屈折率粒子の含有率は0.5wt%以上5wt%未満であり、且つ、前記低屈折率ハードコート層中の単位面積あたりの低屈折率粒子の含有量は0.05g/m以上0.5g/m以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記混合層と前記偏在層との間に前記バインダーマトリックス成分と前記透明基材成分からなり光学的に分離していない中間層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記中間層は前記バインダーマトリックスを95wt%以上含むことを特徴とする請求項4記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記混合層の厚みは0.5μm以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記偏在層側の反射防止フィルム表面での視感平均反射率が0.5%以上2.0%以下の範囲内であり、且つ、前記偏在層側の反射防止フィルム表面でのL*a*b*色度系における反射色相が0.00≦a*≦3.00且つ−3.00≦b*≦3.00を満たすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記低屈折率ハードコート層が電子伝導型の導電性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
前記透明基材がトリアセチルセルロースフィルムからなることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の反射防止フィルムと、当該反射防止フィルムの低屈折率ハードコート層非形成面に偏光層、第2の透明基材を順に備えることを特徴とする偏光板。
【請求項11】
請求項10記載の偏光板、液晶セル、第2の偏光板、バックライトユニットをこの順に備えることを特徴とする透過型液晶ディスプレイ。
【請求項12】
透明基材の少なくとも一方の面に、少なくとも低屈折率ハードコート層を備える反射防止フィルムの製造方法であって、
前記透明基材上に電離放射線硬化型材料を含むバインダーマトリックス形成材料と低屈折率粒子と溶媒を含む低屈折率ハードコート層形成用塗液を塗布し塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥する工程と、
前記塗膜に電離放射線を照射し、低屈折率ハードコート層を形成する工程を順に備え、且つ、
前記低屈折率ハードコート層形成用塗液に含まれる全溶媒のうち30wt%以上90wt%以下は前記透明基材を溶解または膨潤させる溶媒であり、且つ、
前記低屈折率ハードコート層は前記透明基材と前記バインダーマトリックスが勾配をもって混じりあった混合層と、前記バインダーマトリックスと前記低屈折率粒子を含む偏在層を備え、
前記混合層は光学的に分離しておらず、前記偏在層は光学的に分離しており、且つ、
前記偏在層の屈折率が1.29以上1.43以下の範囲であり、且つ、
前記偏在層の光学膜厚が100nm以上200nm以下の範囲であることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記塗膜を乾燥する工程は、前記低屈折率ハードコート層形成用塗液を前記透明基材に塗布し塗膜を形成後、当該塗膜中に含まれる溶媒が10wt%以下となるまでの時間が2秒以上60秒以下の範囲内であることを特徴とする請求項12記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記低屈折率ハードコート層形成用塗液は溶媒を55wt%以上85wt%以下の割合で含むことを特徴とする請求項12または請求項13記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記塗膜を乾燥する工程は、溶媒濃度0.2vol%以上10vol%以下の溶媒雰囲気下でおこなわれることを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記塗膜を乾燥する工程は、塗布直後に乾燥温度20℃以上30℃以下でおこなわれる一次乾燥工程と、一次乾燥工程後に乾燥温度50℃以上150℃以下でおこなわれる二次乾燥工程の二段階を含むことを特徴とする請求項12乃至15のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記第一次乾燥工程が2秒以上60秒以下の範囲内でおこなわれることを特徴とする請求項16記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記透明基材はトリアセチルセルロースフィルムであり、且つ、
前記低屈折率ハードコート層形成用塗液は溶媒としてN−メチルピロリドンを含むことを特徴とする請求項12乃至17のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−237648(P2010−237648A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11912(P2010−11912)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】