反射防止膜
【課題】 一方の片面が多層反射防止膜特性、他の片面がMgF2の単層膜特性を必要とするレンズを加工する場合、スパッタ法のみを用いて両面加工が可能な、MgF2の単層膜特性を有する多層反射防止膜を提供することにある。
【解決手段】 反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜と1.65以下の低屈折率膜の交互層で構成される6層以上の反射防止膜において、空気側最終層がSiO2膜で形成され、可視域(405〜700nm)の各波長の反射率をR(λ)、同一基準波長をλ0を有する単層MgF2膜の各波長の反射率をR単(λ)とした時、
|R(λ)−R単(λ)|≦0.4%……(1)
(1)式を満たすことを特徴とする反射防止膜とする。
【解決手段】 反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜と1.65以下の低屈折率膜の交互層で構成される6層以上の反射防止膜において、空気側最終層がSiO2膜で形成され、可視域(405〜700nm)の各波長の反射率をR(λ)、同一基準波長をλ0を有する単層MgF2膜の各波長の反射率をR単(λ)とした時、
|R(λ)−R単(λ)|≦0.4%……(1)
(1)式を満たすことを特徴とする反射防止膜とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカメラレンズ等の表面に設けられる反射防止膜の膜構成に関するものであって、特にはスパッタ法を用いて形成するカラーバランス調整用の反射防止膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラレンズ等の硝材の表面に設けられる反射防止膜としては、MgF2単層膜、空気側の最終層にMgF2膜を設けた多層反射防止膜がよく知られている。多層反射防止膜は、可視域で単層膜よりも反射防止性能に優れ、カメラの鏡筒内のレンズ面に多用されるが、全てのレンズ面に多層反射防止膜を設けるとレンズ全体の透過光のカラーバランス(色味)が偏ってしまい、そのためにカラーバランス調整用としてMgF2単層膜が用いられる。又、MgF2単層膜は曲率の強いレンズ形状で発生する膜厚ムラに依存する反射光の色味の変化が目立たないという利点も有する。従って、一方の片面が多層反射防止膜、他の片面がMgF2単層膜を有するレンズが必要となっている。
【0003】
通常、前記のレンズへの反射防止膜の加工には、多層反射防止膜の最終層がMgF2膜であるため、多層反射防止膜が加工できる蒸着装置(アシストも含む)が使用される。しかしながら、多層反射防止膜の加工に限っては、スパッタ法でも行われており、例えば特許文献1、特許文献2が上げられる。共に、高屈折率膜と低屈折率膜で構成される5層、又は6層からなる多層反射防止膜である。スパッタ法の場合、良質なMgF2膜を蒸着法と同等のコストで得るのは困難なため、多層反射防止膜の最終層はSiO2膜で構成されている。
【特許文献1】特公平7−111482号公報
【特許文献2】特許第2566634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来例では、レンズの一方の片面の多層反射防止膜をスパッタ法を用いて加工する場合、他の片面のMgF2単層膜を加工するためには、蒸着法を用いねばならなく、片面ごとに異なる装置を用いるため、コスト上不利という問題点が有った。
【0005】
又他の片面のMgF2単層膜を加工するためにスパッタ法を用いるとすると、良質なMgF2膜を得るにはフッ素ガス雰囲気中でのスパッタが必要となり、安定性、排ガス処理等歩留まり、コスト上不利という問題点が有った。
【0006】
又他の片面のMgF2単層膜に換えてスパッタ法を適用できるSiO2単層膜を用いた場合、MgF2膜よりも屈折率が高いため、反射防止効果、カラーバランス調整用としては不十分であるという問題点が有った。
【0007】
本発明の目的は、一方の片面が多層反射防止膜特性、他の片面がMgF2の単層膜特性を必要とするレンズを加工する場合、スパッタ法のみを用いて両面加工が可能な、MgF2の単層膜特性を有する多層反射防止膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本出願に係る第1の発明は、反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜と1.65以下の低屈折率膜の交互層で構成される6層以上の反射防止膜において、空気側最終層がSiO2膜で形成され、可視域(405〜700nm)の各波長の反射率をR(λ)、同一基準波長をλ0を有する単層MgF2膜の各波長の反射率をR単(λ)とした時、
|R(λ)−R単(λ)|≦0.4%……(1)
(1)式を満たすことを特徴とする。
【0009】
前記構成において、本発明は、カラーバランス調整用反射防止膜として単層MgF2膜と同等の効果を示す。(1)式において0.3%を超える特性の場合は、単層MgF2膜と色味が異なり、特に光線の入射角が大きくなると色味(反射率)の変化が大きくなり好ましくない。
【0010】
本出願に係る第2の発明は、第1の発明に記載の反射防止膜において、その基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される6層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.11≧nH*d1/λ0≧0.01
0.26≧nL*d2/λ0≧0.05
0.23≧nH*d3/λ0≧0.03
0.21≧nL*d4/λ0≧0.04
0.22≧nH*d5/λ0≧0.03
0.38≧nL*d6/λ0≧0.26……(21)
(21)式を満たし、且つ
0.94≧総光学膜厚/λ0≧0.8……(22)
(22)式を満たすことを特徴とする。
【0011】
前記構成において、本発明は、カラーバランス調整用反射防止膜として単層MgF2膜と同等の効果を示す。
【0012】
本出願に係る第3の発明は、第1の発明に記載の反射防止膜において、反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される7層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.13≧nL*d1/λ0≧0.03
0.13≧nH*d2/λ0≧0.01
0.18≧nL*d3/λ0≧0.09
0.2≧nH*d4/λ0≧0.03
0.2≧nL*d5/λ0≧0.07
0.21≧nH*d6/λ0≧0.03
0.37≧nL*d7/λ0≧0.28……(31)
(31)式を満たし、且つ
1.12≧総光学膜厚/λ0≧0.81……(32)
(32)式を満たすことを特徴とする。
【0013】
前記構成において、本発明は、カラーバランス調整用反射防止膜として単層MgF2膜と同等の効果を示す。
【0014】
本出願に係る第4の発明は、第1の発明に記載の反射防止膜において、反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される8層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.09≧nH*d1/λ0≧0.01
0.26≧nL*d2/λ0≧0.06
0.19≧nH*d3/λ0≧0.03
0.2≧nL*d4/λ0≧0.04
0.3≧nH*d5/λ0≧0.05
0.18≧nL*d6/λ0≧0.02
0.24≧nH*d7/λ0≧0.03
0.36≧nL*d8/λ0≧0.26……(41)
(41)式を満たし、且つ
1.2≧総光学膜厚/λ0≧1.01……(42)
(42)式を満たすことを特徴とする。
【0015】
前記構成において、本発明は、カラーバランス調整用反射防止膜として単層MgF2膜と同等の効果を示す。
【0016】
本出願に係る第5の発明は、第2、3、4いずれかの発明に記載の反射防止膜において、全層がスパッタ法で形成されることを特徴とする。
【0017】
前記構成において、本発明は、単層MgF2膜に比較して、より耐久性(膜強度、クモリ、特性経時変化)に優れたカラーバランス調整用反射防止膜としての効果を示す。
【発明の効果】
【0018】
前記のように構成された本発明の反射防止膜を用いる事により、単層MgF2膜と同等のカラーバランス調整効果を得る事が出来る。又、第2、3、4の発明によれば、基板側から第1層目の低屈折率膜としてAl2O3膜を用いる事により、単層MgF2膜に比較して、より耐久性(膜強度、クモリ、特性経時変化)に優れたカラーバランス調整用反射防止膜を得る事が出来る。又全層をスパッタ法で形成する事により、単層MgF2膜に比較して、より耐久性(膜強度、クモリ、特性経時変化)に優れたカラーバランス調整用反射防止膜を得る事が出来る。又全層をスパッタ法で形成する事により、スパッタ法のみを用いたレンズの両面加工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
反応性DCスパッタ法を用いて、各硝子基板BSL7(n=1.52)、BSM15(n=1.62)、BaSF08(n=1.72)、TIH6(n=1.81)上にTiO2(n=2.53)とSiO2(n=1.47)の交互層からなる6層反射防止膜を形成した。目標特性は、λ0=500nmとした時、n*d=125nmのMgF2(n=1.38)単層で得られる特性(マゼンタ)である。ターゲット材としては、金属Ti、単結晶Siを用いた。表1に膜構成、図1に入射角0度の時の膜特性を示す。図1の縦軸は反射率(%)、横軸は波長(nm)を示す。表1の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0021】
【表1】
【実施例2】
【0022】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様Ta2O5(n=2.18)とSiO2の交互層からなる6層反射防止膜を形成した。ターゲット材としては、金属Ta、単結晶Siを用いた。表2に膜構成、図2に膜特性を示す。表2の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0023】
【表2】
【実施例3】
【0024】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様TiO2とSiO2の交互層からなる6層反射防止膜を形成した。但し第2層はAL2O3膜(n=1.63)とした。ターゲット材としては、金属Ti、金属Al、単結晶Siを用いた。表3に膜構成、図3に膜特性を示す。本構成の場合、BSL7用としては特性にリップルを生じ不適であった。表2の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0025】
【表3】
【実施例4】
【0026】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様Ta2O5とSiO2の交互層からなる6層反射防止膜を形成した。但し第2層はAL2O3膜(n=1.63)とした。ターゲット材としては、金属Ta、金属Al、単結晶Siを用いた。表4に膜構成、図4に膜特性を示す。本構成の場合、BSL7用としては特性にリップルを生じ不適であった。表4の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0027】
【表4】
【実施例5】
【0028】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様TiO2とSiO2の交互層からなる7層反射防止膜を形成した。但し第1層はAL2O3膜(n=1.63)とした。ターゲット材としては、金属Ti、金属Al、単結晶Siを用いた。表5に膜構成、図5に膜特性を示す。表5の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。本構成においては、第1層をAL2O3膜とする事により、耐久性(クモリ)が向上した。AL2O3膜の厚さは0.03λ0以下ではクモリ防止効果が不足であり、0.13λ0以上では反射防止特性、生産性に劣る。
【0029】
【表5】
【実施例6】
【0030】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例5と同様Ta2O5とSiO2の交互層からなる7層反射防止膜を形成した。但し第1層はAL2O3膜(n=1.63)とした。ターゲット材としては、金属Ta、金属Al、単結晶Siを用いた。表6に膜構成、図6に膜特性を示す。表6の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。本構成においては、第1層をAL2O3膜とする事により、耐久性(クモリ)が向上した。
【0031】
【表6】
【実施例7】
【0032】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様にTiO2とSiO2の交互層からなる8層反射防止膜を形成した。ターゲット材としては、金属Ti、単結晶Siを用いた。表7に膜構成、図7に膜特性を示す。表7の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0033】
【表7】
【実施例8】
【0034】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例7と同様にTa2O5とSiO2の交互層からなる8層反射防止膜を形成した。ターゲット材としては、金属Ta、単結晶Siを用いた。表8に膜構成、図8に膜特性を示す。表8の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0035】
【表8】
【実施例9】
【0036】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例7と同様にTiO2とSiO2の交互層からなる8層反射防止膜を形成した。但し第2層はAL2O3膜とした。ターゲット材としては、金属Ti、金属Al、単結晶Siを用いた。表9に膜構成、図9に膜特性を示す。本構成の場合、BSL7用としては特性にリップルを生じ不適であった。表9の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0037】
【表9】
【実施例10】
【0038】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例7と同様にTa2O5とSiO2の交互層からなる8層反射防止膜を形成した。但し第2層はAL2O3膜とした。ターゲット材としては、金属Ta、金属Al、単結晶Siを用いた。表10に膜構成、図10に膜特性を示す。本構成の場合、BSL7用としては特性にリップルを生じ不適であった。表10の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0039】
【表10】
【0040】
[従来例1]
真空上蒸着法により、各硝子基板BSL7(n=1.52)、BSM15(n=1.62)、BaSF08(n=1.72)、TIH6(n=1.81)上にMgF2(n=1.38)単層からなる反射防止膜を形成した。目標特性は、λ0=500nmとした時、n*d=125nmの単層で得られる特性(マゼンタ)である。表11に膜構成、図11に膜特性を示す。蒸着単層膜は、カラーバランス調整用膜としては作成も簡便であり、成膜時間も短くコスト的にも有利であるが、クモリ易い硝子に対して防止効果に劣る欠点がある。
【0041】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の構成により、小型、少量加工、低コストスパッタ成膜装置を用いて、真空蒸着法に近い成膜時間で反射防止膜を加工することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1の特性図
【図2】実施例2の特性図
【図3】実施例3の特性図
【図4】実施例4の特性図
【図5】実施例5の特性図
【図6】実施例6の特性図
【図7】実施例7の特性図
【図8】実施例8の特性図
【図9】実施例9の特性図
【図10】実施例10の特性図
【図11】従来例1の特性図
【技術分野】
【0001】
本発明はカメラレンズ等の表面に設けられる反射防止膜の膜構成に関するものであって、特にはスパッタ法を用いて形成するカラーバランス調整用の反射防止膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラレンズ等の硝材の表面に設けられる反射防止膜としては、MgF2単層膜、空気側の最終層にMgF2膜を設けた多層反射防止膜がよく知られている。多層反射防止膜は、可視域で単層膜よりも反射防止性能に優れ、カメラの鏡筒内のレンズ面に多用されるが、全てのレンズ面に多層反射防止膜を設けるとレンズ全体の透過光のカラーバランス(色味)が偏ってしまい、そのためにカラーバランス調整用としてMgF2単層膜が用いられる。又、MgF2単層膜は曲率の強いレンズ形状で発生する膜厚ムラに依存する反射光の色味の変化が目立たないという利点も有する。従って、一方の片面が多層反射防止膜、他の片面がMgF2単層膜を有するレンズが必要となっている。
【0003】
通常、前記のレンズへの反射防止膜の加工には、多層反射防止膜の最終層がMgF2膜であるため、多層反射防止膜が加工できる蒸着装置(アシストも含む)が使用される。しかしながら、多層反射防止膜の加工に限っては、スパッタ法でも行われており、例えば特許文献1、特許文献2が上げられる。共に、高屈折率膜と低屈折率膜で構成される5層、又は6層からなる多層反射防止膜である。スパッタ法の場合、良質なMgF2膜を蒸着法と同等のコストで得るのは困難なため、多層反射防止膜の最終層はSiO2膜で構成されている。
【特許文献1】特公平7−111482号公報
【特許文献2】特許第2566634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来例では、レンズの一方の片面の多層反射防止膜をスパッタ法を用いて加工する場合、他の片面のMgF2単層膜を加工するためには、蒸着法を用いねばならなく、片面ごとに異なる装置を用いるため、コスト上不利という問題点が有った。
【0005】
又他の片面のMgF2単層膜を加工するためにスパッタ法を用いるとすると、良質なMgF2膜を得るにはフッ素ガス雰囲気中でのスパッタが必要となり、安定性、排ガス処理等歩留まり、コスト上不利という問題点が有った。
【0006】
又他の片面のMgF2単層膜に換えてスパッタ法を適用できるSiO2単層膜を用いた場合、MgF2膜よりも屈折率が高いため、反射防止効果、カラーバランス調整用としては不十分であるという問題点が有った。
【0007】
本発明の目的は、一方の片面が多層反射防止膜特性、他の片面がMgF2の単層膜特性を必要とするレンズを加工する場合、スパッタ法のみを用いて両面加工が可能な、MgF2の単層膜特性を有する多層反射防止膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本出願に係る第1の発明は、反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜と1.65以下の低屈折率膜の交互層で構成される6層以上の反射防止膜において、空気側最終層がSiO2膜で形成され、可視域(405〜700nm)の各波長の反射率をR(λ)、同一基準波長をλ0を有する単層MgF2膜の各波長の反射率をR単(λ)とした時、
|R(λ)−R単(λ)|≦0.4%……(1)
(1)式を満たすことを特徴とする。
【0009】
前記構成において、本発明は、カラーバランス調整用反射防止膜として単層MgF2膜と同等の効果を示す。(1)式において0.3%を超える特性の場合は、単層MgF2膜と色味が異なり、特に光線の入射角が大きくなると色味(反射率)の変化が大きくなり好ましくない。
【0010】
本出願に係る第2の発明は、第1の発明に記載の反射防止膜において、その基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される6層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.11≧nH*d1/λ0≧0.01
0.26≧nL*d2/λ0≧0.05
0.23≧nH*d3/λ0≧0.03
0.21≧nL*d4/λ0≧0.04
0.22≧nH*d5/λ0≧0.03
0.38≧nL*d6/λ0≧0.26……(21)
(21)式を満たし、且つ
0.94≧総光学膜厚/λ0≧0.8……(22)
(22)式を満たすことを特徴とする。
【0011】
前記構成において、本発明は、カラーバランス調整用反射防止膜として単層MgF2膜と同等の効果を示す。
【0012】
本出願に係る第3の発明は、第1の発明に記載の反射防止膜において、反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される7層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.13≧nL*d1/λ0≧0.03
0.13≧nH*d2/λ0≧0.01
0.18≧nL*d3/λ0≧0.09
0.2≧nH*d4/λ0≧0.03
0.2≧nL*d5/λ0≧0.07
0.21≧nH*d6/λ0≧0.03
0.37≧nL*d7/λ0≧0.28……(31)
(31)式を満たし、且つ
1.12≧総光学膜厚/λ0≧0.81……(32)
(32)式を満たすことを特徴とする。
【0013】
前記構成において、本発明は、カラーバランス調整用反射防止膜として単層MgF2膜と同等の効果を示す。
【0014】
本出願に係る第4の発明は、第1の発明に記載の反射防止膜において、反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される8層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.09≧nH*d1/λ0≧0.01
0.26≧nL*d2/λ0≧0.06
0.19≧nH*d3/λ0≧0.03
0.2≧nL*d4/λ0≧0.04
0.3≧nH*d5/λ0≧0.05
0.18≧nL*d6/λ0≧0.02
0.24≧nH*d7/λ0≧0.03
0.36≧nL*d8/λ0≧0.26……(41)
(41)式を満たし、且つ
1.2≧総光学膜厚/λ0≧1.01……(42)
(42)式を満たすことを特徴とする。
【0015】
前記構成において、本発明は、カラーバランス調整用反射防止膜として単層MgF2膜と同等の効果を示す。
【0016】
本出願に係る第5の発明は、第2、3、4いずれかの発明に記載の反射防止膜において、全層がスパッタ法で形成されることを特徴とする。
【0017】
前記構成において、本発明は、単層MgF2膜に比較して、より耐久性(膜強度、クモリ、特性経時変化)に優れたカラーバランス調整用反射防止膜としての効果を示す。
【発明の効果】
【0018】
前記のように構成された本発明の反射防止膜を用いる事により、単層MgF2膜と同等のカラーバランス調整効果を得る事が出来る。又、第2、3、4の発明によれば、基板側から第1層目の低屈折率膜としてAl2O3膜を用いる事により、単層MgF2膜に比較して、より耐久性(膜強度、クモリ、特性経時変化)に優れたカラーバランス調整用反射防止膜を得る事が出来る。又全層をスパッタ法で形成する事により、単層MgF2膜に比較して、より耐久性(膜強度、クモリ、特性経時変化)に優れたカラーバランス調整用反射防止膜を得る事が出来る。又全層をスパッタ法で形成する事により、スパッタ法のみを用いたレンズの両面加工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
反応性DCスパッタ法を用いて、各硝子基板BSL7(n=1.52)、BSM15(n=1.62)、BaSF08(n=1.72)、TIH6(n=1.81)上にTiO2(n=2.53)とSiO2(n=1.47)の交互層からなる6層反射防止膜を形成した。目標特性は、λ0=500nmとした時、n*d=125nmのMgF2(n=1.38)単層で得られる特性(マゼンタ)である。ターゲット材としては、金属Ti、単結晶Siを用いた。表1に膜構成、図1に入射角0度の時の膜特性を示す。図1の縦軸は反射率(%)、横軸は波長(nm)を示す。表1の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0021】
【表1】
【実施例2】
【0022】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様Ta2O5(n=2.18)とSiO2の交互層からなる6層反射防止膜を形成した。ターゲット材としては、金属Ta、単結晶Siを用いた。表2に膜構成、図2に膜特性を示す。表2の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0023】
【表2】
【実施例3】
【0024】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様TiO2とSiO2の交互層からなる6層反射防止膜を形成した。但し第2層はAL2O3膜(n=1.63)とした。ターゲット材としては、金属Ti、金属Al、単結晶Siを用いた。表3に膜構成、図3に膜特性を示す。本構成の場合、BSL7用としては特性にリップルを生じ不適であった。表2の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0025】
【表3】
【実施例4】
【0026】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様Ta2O5とSiO2の交互層からなる6層反射防止膜を形成した。但し第2層はAL2O3膜(n=1.63)とした。ターゲット材としては、金属Ta、金属Al、単結晶Siを用いた。表4に膜構成、図4に膜特性を示す。本構成の場合、BSL7用としては特性にリップルを生じ不適であった。表4の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0027】
【表4】
【実施例5】
【0028】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様TiO2とSiO2の交互層からなる7層反射防止膜を形成した。但し第1層はAL2O3膜(n=1.63)とした。ターゲット材としては、金属Ti、金属Al、単結晶Siを用いた。表5に膜構成、図5に膜特性を示す。表5の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。本構成においては、第1層をAL2O3膜とする事により、耐久性(クモリ)が向上した。AL2O3膜の厚さは0.03λ0以下ではクモリ防止効果が不足であり、0.13λ0以上では反射防止特性、生産性に劣る。
【0029】
【表5】
【実施例6】
【0030】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例5と同様Ta2O5とSiO2の交互層からなる7層反射防止膜を形成した。但し第1層はAL2O3膜(n=1.63)とした。ターゲット材としては、金属Ta、金属Al、単結晶Siを用いた。表6に膜構成、図6に膜特性を示す。表6の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。本構成においては、第1層をAL2O3膜とする事により、耐久性(クモリ)が向上した。
【0031】
【表6】
【実施例7】
【0032】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例1と同様にTiO2とSiO2の交互層からなる8層反射防止膜を形成した。ターゲット材としては、金属Ti、単結晶Siを用いた。表7に膜構成、図7に膜特性を示す。表7の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0033】
【表7】
【実施例8】
【0034】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例7と同様にTa2O5とSiO2の交互層からなる8層反射防止膜を形成した。ターゲット材としては、金属Ta、単結晶Siを用いた。表8に膜構成、図8に膜特性を示す。表8の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0035】
【表8】
【実施例9】
【0036】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例7と同様にTiO2とSiO2の交互層からなる8層反射防止膜を形成した。但し第2層はAL2O3膜とした。ターゲット材としては、金属Ti、金属Al、単結晶Siを用いた。表9に膜構成、図9に膜特性を示す。本構成の場合、BSL7用としては特性にリップルを生じ不適であった。表9の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0037】
【表9】
【実施例10】
【0038】
反応性DCスパッタ法を用いて、実施例7と同様にTa2O5とSiO2の交互層からなる8層反射防止膜を形成した。但し第2層はAL2O3膜とした。ターゲット材としては、金属Ta、金属Al、単結晶Siを用いた。表10に膜構成、図10に膜特性を示す。本構成の場合、BSL7用としては特性にリップルを生じ不適であった。表10の構成において、同一λ0の時、単層MgF2膜との反射率の差は0.4%以下であった。
【0039】
【表10】
【0040】
[従来例1]
真空上蒸着法により、各硝子基板BSL7(n=1.52)、BSM15(n=1.62)、BaSF08(n=1.72)、TIH6(n=1.81)上にMgF2(n=1.38)単層からなる反射防止膜を形成した。目標特性は、λ0=500nmとした時、n*d=125nmの単層で得られる特性(マゼンタ)である。表11に膜構成、図11に膜特性を示す。蒸着単層膜は、カラーバランス調整用膜としては作成も簡便であり、成膜時間も短くコスト的にも有利であるが、クモリ易い硝子に対して防止効果に劣る欠点がある。
【0041】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の構成により、小型、少量加工、低コストスパッタ成膜装置を用いて、真空蒸着法に近い成膜時間で反射防止膜を加工することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1の特性図
【図2】実施例2の特性図
【図3】実施例3の特性図
【図4】実施例4の特性図
【図5】実施例5の特性図
【図6】実施例6の特性図
【図7】実施例7の特性図
【図8】実施例8の特性図
【図9】実施例9の特性図
【図10】実施例10の特性図
【図11】従来例1の特性図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜と1.65以下の低屈折率膜の交互層で構成される6層以上の反射防止膜において、空気側最終層がSiO2膜で形成され、可視域(405〜700nm)の各波長の反射率をR(λ)、同一基準波長をλ0を有する単層MgF2膜の各波長の反射率をR単(λ)とした時、
|R(λ)−R単(λ)|≦0.4%……(1)
(1)式を満たすことを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される6層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.11≧nH*d1/λ0≧0.01
0.26≧nL*d2/λ0≧0.05
0.23≧nH*d3/λ0≧0.03
0.21≧nL*d4/λ0≧0.04
0.22≧nH*d5/λ0≧0.03
0.38≧nL*d6/λ0≧0.26……(21)
(21)式を満たし、且つ
0.94≧総光学膜厚/λ0≧0.8……(22)
(22)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される7層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.13≧nL*d1/λ0≧0.03
0.13≧nH*d2/λ0≧0.01
0.18≧nL*d3/λ0≧0.09
0.2≧nH*d4/λ0≧0.03
0.2≧nL*d5/λ0≧0.07
0.21≧nH*d6/λ0≧0.03
0.37≧nL*d7/λ0≧0.28……(31)
(31)式を満たし、且つ
1.12≧総光学膜厚/λ0≧0.81……(32)
(32)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項4】
反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される8層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.09≧nH*d1/λ0≧0.01
0.26≧nL*d2/λ0≧0.06
0.19≧nH*d3/λ0≧0.03
0.2≧nL*d4/λ0≧0.04
0.3≧nH*d5/λ0≧0.05
0.18≧nL*d6/λ0≧0.02
0.24≧nH*d7/λ0≧0.03
0.36≧nL*d8/λ0≧0.26……(41)
(41)式を満たし、且つ
1.2≧総光学膜厚/λ0≧1.01……(42)
(42)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項5】
全層がスパッタ法で形成されることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1つに記載の反射防止膜。
【請求項1】
反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜と1.65以下の低屈折率膜の交互層で構成される6層以上の反射防止膜において、空気側最終層がSiO2膜で形成され、可視域(405〜700nm)の各波長の反射率をR(λ)、同一基準波長をλ0を有する単層MgF2膜の各波長の反射率をR単(λ)とした時、
|R(λ)−R単(λ)|≦0.4%……(1)
(1)式を満たすことを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される6層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.11≧nH*d1/λ0≧0.01
0.26≧nL*d2/λ0≧0.05
0.23≧nH*d3/λ0≧0.03
0.21≧nL*d4/λ0≧0.04
0.22≧nH*d5/λ0≧0.03
0.38≧nL*d6/λ0≧0.26……(21)
(21)式を満たし、且つ
0.94≧総光学膜厚/λ0≧0.8……(22)
(22)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される7層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.13≧nL*d1/λ0≧0.03
0.13≧nH*d2/λ0≧0.01
0.18≧nL*d3/λ0≧0.09
0.2≧nH*d4/λ0≧0.03
0.2≧nL*d5/λ0≧0.07
0.21≧nH*d6/λ0≧0.03
0.37≧nL*d7/λ0≧0.28……(31)
(31)式を満たし、且つ
1.12≧総光学膜厚/λ0≧0.81……(32)
(32)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項4】
反射防止膜の基準波長をλ0とした時、λ0における屈折率が2.1以上の高屈折率膜(nH)と1.65以下の低屈折率膜(nL)の交互層で構成される8層反射防止膜であって、各層のλ0における光学膜厚(nH*d、nL*d)が基板側から、
0.09≧nH*d1/λ0≧0.01
0.26≧nL*d2/λ0≧0.06
0.19≧nH*d3/λ0≧0.03
0.2≧nL*d4/λ0≧0.04
0.3≧nH*d5/λ0≧0.05
0.18≧nL*d6/λ0≧0.02
0.24≧nH*d7/λ0≧0.03
0.36≧nL*d8/λ0≧0.26……(41)
(41)式を満たし、且つ
1.2≧総光学膜厚/λ0≧1.01……(42)
(42)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項5】
全層がスパッタ法で形成されることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1つに記載の反射防止膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−119525(P2006−119525A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309649(P2004−309649)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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