説明

反転盤製造方法

【課題】原盤に形成された凹凸状パターンに応じた凹凸状パターンを、より正確に金属板に形成することができる反転盤製造方法を提供する。
【解決手段】表面に多数の凹凸状パターンが形成されている原盤26の表面上に導電層を形成する工程と、原盤を電解液に浸して導電層上に金属を電着することにより所定厚さの金属板よりなる反転盤28を形成する工程と、反転盤の形成後に原盤から反転盤を剥離する工程とを備える反転盤製造方法である。導電層形成工程及び/又は導電層形成工程以前における原盤周辺の雰囲気温度及び/又は原盤の温度を電解液の液温度に対して±15°C以内に管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反転盤製造方法に係り、特に、磁気転写に使用する磁気転写用マスターディスクや光ディスクの成形に使用する光ディスク用マスターディスクなど、情報に応じた凹凸状パターンが形成されたマスターディスクの製造や、凹凸状パターンが形成された反射防止膜、防眩性フィルム、回折格子等の光学素子の製造に好適な反転盤製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているハードディスクドライブに使用される磁気ディスク(ハードディスク)は、磁気ディスクメーカーよりドライブメーカーに納入された後、ドライブに組み込まれる前に、フォーマット情報やアドレス情報が書き込まれるのが一般的である。この書き込みは、磁気ヘッドにより行うこともできるが、これらのフォーマット情報やアドレス情報が書き込まれているマスターディスクより一括転写する方法が効率的であり、好ましい。
【0003】
このような磁気転写は、表層に磁性層を有し、サーボ信号等の転写パターンが凹凸形状で形成されたマスターディスク(パターンドマスター)と、ハードディスクやフレキシブルディスク等の磁気記録部を有する被転写用ディスク(スレーブディスク)とを密着させた状態で、これら密着体に転写用磁界を印加し、マスターディスクに担持した情報に対応する磁化パターンをスレーブディスクに転写記録することによりなされる。
【0004】
上記磁気転写に使用するマスターディスクとしては、たとえば、特許文献1において、基板の表面に情報信号に対応する凹凸状パターンを形成し、この凹凸状パターンの表面に薄膜の磁性層を被覆形成してなるものが提案されている。
【0005】
このマスターディスクは、たとえば、次の工程により製造される。先ず、表面が平坦なSi基板上に電子線レジスト又はフォトレジストを塗布し、電子ビーム又は光等により転写パターンを描画露光し、現像することによりレジストによる凹凸状パターンを有する原盤を得る。
【0006】
次に、この原盤の凹凸状パターン上に、たとえばスパッタリングにより導電層を設け、その導電層の設けられた原盤を電解液に浸し、導電層上にNiを電着して所定厚さの金属板(反転盤)を形成する。そして、原盤から金属板を剥離し、剥離された金属板を所定サイズになるように打ち抜いてマスター基板を作製し、このマスター基板の凹凸状パターン表面に磁性層を成膜する。これにより磁気転写用マスターディスクが製造される。
【0007】
上記のような反転盤形成の技術は、磁気転写用マスターディスクの製造のみならず、他の分野、たとえば特許文献2のような光ディスク、光カードその他の光応用プラスチック製品等の製造のためのスタンパの製造にも利用されている。
【特許文献1】特開2001−256644号公報
【特許文献2】特開平2−8392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような製造方法によりマスターディスクを製造する場合、原盤上への金属板の積層は電解液中で加熱しながら行われるため、たとえば、金属板が積層された後に、その金属板が積層された原盤を空気中に取り出し、温度がある程度下がった状態で金属板を原盤から剥離するようにしたのでは、原盤の材料であるSiと金属板の材料であるNiとでは熱膨張係数が異なるため、冷却される際の収縮度が異なり、原盤に形成された凹凸状パターンに応じた凹凸状パターンを正確に金属板に形成することができなかったり、金属板における凹凸状パターンに欠損を生じたりする。
【0009】
これに対し、特許文献2においては、電解液中で金属板を原盤に積層した後、その金属板の積層された原盤を電解液と同温度の洗浄水に移し、洗浄水の温度を徐々に低下させて常温まで冷却した後、金属板を原盤から剥離する方法が提案されている。しかし、この方法においても、上記のような問題が生じることが実験的に確認されている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、上記のようなマスターディスクの製造等の反転盤の形成において、原盤に形成された凹凸状パターンに応じた凹凸状パターンを、より正確に金属板に形成することができる反転盤製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、を備える反転盤製造方法において、前記導電層形成工程及び/又は前記導電層形成工程以前における前記原盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記原盤の温度を前記電解液の液温度に対して±10°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、導電層形成工程及び/又は導電層形成工程以前における原盤周辺の雰囲気温度及び/又は原盤の温度を電解液の液温度に対して±10°C以内に管理するので、導電層の形成において、常温で行うよりも緻密な導電層が形成できる。これにより、電鋳される反転盤の表面に欠陥が生じにくいという効果が得られる。
【0013】
上記の観点より、導電層形成工程及び/又は導電層形成工程以前における原盤周辺の雰囲気温度及び/又は原盤の温度を電解液の液温度に対して±5°C以内に制御するのがより好ましく、±1°C以内に制御するのが更に好ましい。
【0014】
また、本発明は、表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、を備える反転盤製造方法において、前記剥離工程及び/又は前記剥離工程以前における前記反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記反転盤の温度を前記電解液の液温度に対して±10°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、剥離工程及び/又は剥離工程以前における反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は反転盤の温度を電解液の液温度に対して±10°C以内に管理するので、熱膨張係数の影響を減少させることができ、原盤に形成された凹凸状パターンに応じた凹凸状パターンをより正確に反転盤(金属板)に形成することができる。
【0016】
上記の観点より、剥離工程及び/又は剥離工程以前における反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は反転盤の温度を電解液の液温度に対して±5°C以内に制御するのがより好ましく、±1°C以内に制御するのが更に好ましい。
【0017】
また、本発明は、表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、を備える反転盤製造方法において、前記導電層形成工程及び/又は前記導電層形成工程以前における前記原盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記原盤の温度、及び、前記剥離工程及び/又は前記剥離工程以前における前記反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記反転盤の温度を前記電解液の液温度に対して±10°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、導電層形成工程及び/又は導電層形成工程以前における原盤周辺の雰囲気温度及び/又は原盤の温度を電解液の液温度に対して±10°C以内に管理するので、導電層の形成において、常温で行うよりも緻密な導電層が形成できる。これにより、電鋳される反転盤の表面に欠陥が生じにくいという効果が得られる。また、剥離工程及び/又は剥離工程以前における反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は反転盤の温度を電解液の液温度に対して±10°C以内に管理するので、熱膨張係数の影響を減少させることができ、原盤に形成された凹凸状パターンに応じた凹凸状パターンをより正確に反転盤(金属板)に形成することができる。
【0019】
上記の観点より、導電層形成工程及び/又は導電層形成工程以前における原盤周辺の雰囲気温度及び/又は原盤の温度、及び、剥離工程及び/又は剥離工程以前における反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は反転盤の温度を電解液の液温度に対して±5°C以内に制御するのがより好ましく、±1°C以内に制御するのが更に好ましい。
【0020】
本発明において、前記導電層形成工程における前記原盤の温度管理を導電層形成装置内で行うことが好ましい。このように、導電層形成工程における原盤の温度管理を導電層形成装置内(たとえば、スパッタ装置のチャンバ内)で行うのであれば、温度管理が容易である。
【0021】
また、本発明において、前記剥離工程及び/又は前記剥離工程以前における前記原盤及び/又は前記反転盤の温度管理を恒温装置内で行うことが好ましい。このように、剥離工程及び/又は剥離工程以前における原盤及び/又は反転盤の温度管理を恒温装置内(たとえば、恒温水槽内や恒温式オーブン内)で行うのであれば、温度管理が容易である。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、導電層の形成において、常温で行うよりも緻密な導電層が形成できる。これにより、電鋳される反転盤の表面に欠陥が生じにくいという効果が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、熱膨張係数の影響を減少させることができ、原盤に形成された凹凸状パターンに応じた凹凸状パターンをより正確に反転盤(金属板)に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面に従って、本発明に係る反転盤製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。図1は、本発明に係る反転盤製造方法によって製造された磁気転写用マスターディスクの部分拡大斜視図である。図2は、磁気転写用マスターディスクの平面図である。図3は、本発明に係る反転盤製造方法によって磁気転写用マスターディスクを製造する際の各工程を順に示す断面図である。なお、各図は模式図であり、実際の寸法とは異なる比率で示している。
【0025】
先ず、本発明に係る反転盤製造方法により製造される磁気転写用マスターディスクについて説明する。磁気転写用マスターディスク10は、図1に示されるように、金属製のマスター基板12と磁性層14とで構成されており、マスター基板12は表面に転写情報に応じた微細な凹凸状パターンを有しており、その表面に磁性層14が被覆形成されてなる。
【0026】
図1において、マスター基板12の片面に磁性層14による微細な突起状パターンが形成された転写情報担持面が形成されており、マスター基板12の反対側の面が不図示の密着手段に保持されるようになっている。この微細な突起状パターンの形成は、後述するフォトファブリケーション法等によりなされる。このマスターディスク10の片面(転写情報担持面)は、スレーブディスクと密着される面である。
【0027】
微細な突起状パターンは、平面視で長方形であり、厚さmの磁性層14が形成された状態で、トラック方向(図中の太矢印方向)の長さbと、半径方向の長さlとよりなる。この長さbとlの最適値は、記録密度や記録信号波形等により異なるが、たとえば、長さbを80nmに、長さlを200nmにできる。
【0028】
この微細な突起状パターンは、サーボ信号の場合は、半径方向に長く形成される。この場合、たとえば、半径方向の長さlが0.05〜20μm、トラック方向(円周方向)の長さが0.05〜5μmであることが好ましい。この範囲で半径方向の方が長いパターンを選ぶことが、サーボ信号の情報を担持するパターンとしては好ましい。
【0029】
マスター基板12表面の微細な突起状パターンの深さ(突起の高さ)は、20〜800nmの範囲が好ましく、30〜600nmの範囲がより好ましい。
【0030】
マスターディスク10において、マスター基板12がNi等を主体とした強磁性体の場合には、このマスター基板12のみで磁気転写が可能であり、磁性層14は被覆しなくてもよいが、転写特性のよい磁性層14を設けることにより、より良好な磁気転写が行える。マスター基板12が非磁性体の場合には、磁性層14を設けることが必要である。マスターディスク10の磁性層14は、保磁力Hcが48kA/m(≒600Oe)以下の軟磁性層であることが好ましい。
【0031】
マスター基板12がNi等を主体とした強磁性体の場合には、電鋳により作製できる。この場合、図2に示されるように、マスター基板12は中心孔12aをする円盤状に形成でき、片面の内周部及び外径部を除く円環状領域12bに凹凸状パターンを形成できる。
【0032】
このマスター基板12は、後述するように、情報に応じた凹凸状パターンが形成された原盤に、Niなどを電着することによって所定厚さの金属板を積層し、この金属板を原盤から剥離し、外周部分及び中心孔12aの部分が所望のサイズで打ち抜かれて作製されたものである。
【0033】
次に、マスター基板12の製造方法を図3(A)〜(G)に基づいて説明する。先ず、図3(A)に示されるように、表面が平滑なシリコンウエハーである原板20(ガラス板、石英ガラス板でもよい)の上に、密着層形成等の下地処理を施し、次いで、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して、レジストの層22を形成し、ベーキング処理(プレベーク)する。
【0034】
次いで、高精度な回転ステージ又はX−Yステージを備えた不図示の電子ビーム露光装置のステージ上に原板20をセットし、原板20を回転させながら、サーボ信号に対応して変調した電子ビーム24を照射し、レジストの層22の略全面に所定のパターン、たとえば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に描画露光する。
【0035】
次いで、図3(B)に示されるように、レジストの層22を現像処理し、露光部分を除去して、残ったレジストの層22による所望厚さの被覆層を形成する。この被覆層が次工程(エッチング工程)のマスクとなる。現像処理の後には、レジストの層22と原板20との密着力を高めるためにベーキング処理(ポストベーク)を行う。
【0036】
次いで、図3(C)に示されるように、レジストの層22の開口部より原板20を表面より所定深さだけ除去(エッチング)する。このエッチングにおいては、アンダーカット(サイドエッチ)を最小にすべく、異方性のエッチングが望ましい。このような、異方性のエッチングとしては、RIE(Reactive Ion Etching)が好ましく採用できる。
【0037】
次いで、図3(D)に示されるように、レジストの層22を除去する。レジストの層22の除去方法は、乾式法としてアッシングが採用でき、湿式法として剥離液による除去法が採用できる。以上のアッシング工程により、所望の凹凸状パターンの反転型が形成された原盤26が作製される。
【0038】
次いで、図3(D)に示される原盤26の表面に均一厚さに導電層を形成する。導電層の形成方法としては、PVD(Physical Vapour Deposition)、CVD(Chemical Vapour Deposition)、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。このように、導電層を形成すれば、金属の電着が均一に行えるという効果が得られる。
【0039】
導電層としては、Niを主成分とする膜であることが好ましい。このようなNiを主成分とする膜は、形成が容易であり導電層としてふさわしい。この導電層の膜厚として、特に制限はないが、数十nm程度が一般的に採用できる。このように導電層の膜厚が僅かなので、図示は省略されている。
【0040】
導電層形成工程及び/又は導電層形成工程以前における原盤26周辺の雰囲気温度及び/又は原盤26の温度を電解液の液温度tに対して±10°C以内に管理することが求められる。このように管理することにより、管理なしで常温に放置するよりも緻密な導電層が形成でき、電鋳される反転盤の表面に欠陥が生じにくいという効果が得られる。
【0041】
上記の観点より、導電層形成工程及び/又は導電層形成工程以前における原盤26周辺の雰囲気温度及び/又は原盤26の温度を電解液の液温度tに対して±5°C以内に管理するのがより好ましく、±1°C以内に管理するのが更に好ましい。
【0042】
なお、導電層形成工程における原盤26の温度管理を導電層形成装置内で行うことが好ましい。このように、導電層形成工程における原盤26の温度管理を導電層形成装置内(たとえば、スパッタ装置のチャンバ内)で行うのであれば、温度管理が容易である。
【0043】
次いで、図3(E)に示されるように、原盤26の表面に、電鋳装置30により電着(電鋳)を行って所望の厚さのNi金属による金属板28を積層する(反転板形成工程)。
【0044】
ここで、電着は、図4に示されるように、電鋳装置30の温度tの電解液中に原盤26を浸し、原盤26を陽極とし、陰極との間に通電することにより行われるが、このときの電解液の濃度、pH、電流のかけ方等は、積層された金属板28(すなわちマスター基板12)に歪みのない最適条件で実施されることが求められる。また、電着の際の電解液の温度tは、40°C〜70°Cであることが望ましい。
【0045】
なお、図4の電鋳装置30において、液槽以外の各構成(陰極、電源、配線等)の図示は省略してある。
【0046】
そして、上記のようにして電着が終了した後、金属板28の積層された原盤26が電鋳装置30の電解液から取り出され、その後すぐに、図4に示されるように剥離層32内の温度Tの純水に浸される。
【0047】
剥離工程において、金属板28の積層された原盤26が純水に浸される際の純水の温度Tは、電解液の液温度に対して±10°C以内に管理することが求められる。このように管理することにより、管理なしとするよりも熱膨張係数の影響を減少させることができ、原盤26に形成された凹凸状パターンに応じた凹凸状パターンをより正確に反転盤(金属板)28に形成することができる。
【0048】
上記のように、金属板28の積層された原盤26が電解液から取り出され、その後すぐに純水に浸されない場合であっても、剥離工程及び/又は剥離工程以前における反転盤28(原盤26も)の周辺の雰囲気温度(液温度又は気温)及び/又は反転盤28(原盤26も)の温度を電解液の液温度に対して±10°C以内に管理することが、同様に求められる。
【0049】
上記の観点より、剥離工程及び/又は剥離工程以前における反転盤28(原盤26も)周辺の雰囲気温度及び/又は反転盤28(原盤26も)の温度を電解液の液温度に対して±5°C以内に管理するのがより好ましく、±1°C以内に管理するのが更に好ましい。
【0050】
なお、本実施形態においては、剥離層32において純水を使用するようにしたが、これに限らず、洗浄作用を有する水であればよく、たとえば、界面活性剤(ノニオン性、アニオン性、カチオン性など)、石鹸頬(高級脂肪酸金属塩)、酸(過酸化水素、フツ酸など)などを含んでいてもよい。
【0051】
なお、反転盤形成工程及び/又は剥離工程における原盤26及び/又は反転盤28の温度管理を恒温装置内で行うことが好ましい。このように、反転盤形成工程及び/又は剥離工程における原盤26及び/又は反転盤28の温度管理を恒温装置内(たとえば、恒温水槽内や恒温式オーブン内)で行うのであれば、温度管理が容易である。
【0052】
剥離工程において、剥離層32内において、反転盤(金属板)28を原盤26から剥離する。そして、原盤26から金属板28を剥離した後、金属板28に残留するレジストの層22を除去・洗浄し、図3(F)に示されるような、反転した凹凸状パターンを有する反転盤28を得る。そして、反転盤28の内径及び外径を、所定のサイズに打抜き加工する。
【0053】
次いで、上記のようにして製造されたマスター基板12の凹凸状パターンの表面に、図3(G)に示されるように、スパッタリング等により磁性層14を成膜し、更に必要に応じて保護層を成膜し、磁気転写用マスターディスク10が製造される。
【0054】
なお、反転盤28を原盤26より引き剥がした時や、打抜き加工時に受けた変形(歪み/反り)を除去すべく、上記のように製造されたマスター基板12に、平坦化するための歪み除去加工を施してもよい。この処理としては、たとえば、マスター基板12を電気炉内において、上面が平坦な面板上に載置し(平面放置状態とし)、200〜300°Cの雰囲気下で、30分〜2時間、たとえば、250°Cでl時間熱処理し、内部歪みを除去して変形を戻すものである。
【0055】
次いで、上記のようにして製造されたマスター基板12の凹凸状パターンの表面にスパッタリング等により磁性層14を成膜し、更に必要に応じて保護層を成膜し、磁気転写用マスターディスク10が製造される。
【0056】
磁性層14の成膜は、磁性材料を真空蒸着法、スパツタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、電鋳等のメッキ法等により行う。磁性層14の磁性材料としては、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)を用いることができる。このうち、特にFeCo、FeCoNiを用いるのが好ましい。磁性層14の厚さmは、50nm〜500nmの範囲が好ましく、50nm〜300nmの範囲がより好ましい。
【0057】
また、磁性層14の凹凸状パターンにダイヤモンドライクカーボン(DLC)、スパッタカーボン等の保護膜を設けることが好ましく、潤滑剤層を設けても良い。また保護膜として5〜30nmのDLC膜と潤滑剤層が存在することが更に好ましい。潤滑剤は、スレーブディスクとの接触過程で生じるずれを補正する際の、摩擦による傷の発生などの耐久性の劣化を改善するものである。
【0058】
以上、本発明に係る反転盤製造方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0059】
たとえば、本実施形態では、原盤26に金属を電着して反転盤28を得てマスター基板12としているが、他の製造工程も採用できる。具体的には、原盤26に金属を電着して第2の原盤を作製し、この第2の原盤を使用して再び金属を電着して反転した凹凸状パターンを有する金属板(反転盤)を作製し、所定サイズに打ち抜いてマスター基板を作製する態様も採り得る。
【0060】
更に、第2の原盤を用いて電着を行って第3の原盤を作製し、第3の原盤を用いて電着を行って金属板を作製し、更に反転した凹凸状パターンを有する金属板を剥離してマスター基板を作製する態様も採り得る。
【0061】
また、上記第2又は第3の原盤を繰り返し使用し、複数の金属板(反転盤)を作製する態様も採り得る。なお、上記のような製造方法を採用する場合においても、原盤26からの金属板(反転盤)の剥離は純水中で行うことが望ましく、その純水の温度も上記実施形態と同様にすることが望ましい。
【0062】
また、磁気転写用マスターディスクを製造する工程は、図3以外の態様をも採り得る。この1例を図5に示す。この例において図5(A)及び(B)までは図3と同一である。そして、図5(C)において、原盤26の表面に、電鋳装置30により電着(電鋳)を行って所望の厚さのNi金属による金属板28を積層する(反転板形成工程)。次いで、図5(D)に示されるような、反転した凹凸状パターンを有する反転盤28を得る。
【0063】
また、本実施形態は、上記のような磁気転写用マスターディスクの製造方法に適用されているが、これ以外に、たとえば光ディスクを製造するためのスタンパの製造方法や、凹凸状パターンが形成された反射防止膜、防眩性フィルム、回折格子等の光学素子の製造方法や、他の用途に使用される凹凸状パターンが形成された基板やフィルムにも広く適用することができる。
【0064】
また、本実施形態の凹凸状パターンは、図1に示されるような、平面に多数の突起状パターンが配されたものであるが、線状のパターン、たとえばレンチキュラーレンズ(断面蒲鉾状のシート)やフレネルレンズ等の同心円状パターンにも広く適用することができる。
【0065】
なお、スタンパを製造する際には、上記実施形態のように磁性層を設ける必要はなく、上記実施形態と同様にして製造された金属板をそのままスタンパとして用いることができる。
【0066】
また、本実施形態において、導電層形成工程と、Niの電鋳を行う反転盤形成工程とが別個に設けられているが、導電層形成工程と反転盤形成工程とを1工程とすることもできる。すなわち、Niの電鋳は主に反転盤の形成であるが、電鋳のスタート時には導電層の形成をも行っている。したがって、Niによる導電層形成工程とNiによる反転盤形成工程による1工程も、本発明の技術的思想の均等範囲と言い得る。
【実施例】
【0067】
実施例として、上記の製造方法により、電鋳装置30の電解液の温度tを55°C、剥離層32内の純水の温度Tを55°Cに設定して、磁気転写用マスターディスク10を作製した。すなわち、電解液の温度tと純水の温度Tとは同一である。
【0068】
比較例として、上記の製造方法により、電鋳装置30の電解液の温度tを55°C、剥離層32内の純水の温度Tを25°Cに設定して、磁気転写用マスターディスク10を作製した。すなわち、電解液の温度tと純水の温度Tとの差は30°Cである。
【0069】
そして、剥離層32内の純水中において金属板28を原盤26から剥離して磁気転写用マスターディスク10を作製し、それぞれの条件で製造された磁気転写用マスターディスク10の表面の凹凸状パターンを電子顕微鏡写真により観察、評価した。
【0070】
その結果、実施例の場合には、凹凸状パターンの欠損が見られなかった。一方、比較例の場合には、凹凸状パターンに欠損が生じていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る反転盤製造方法によって製造された磁気転写用マスターディスクの部分拡大斜視図
【図2】磁気転写用マスターディスクの平面図
【図3】本発明に係る反転盤製造方法によって磁気転写用マスターディスクを製造する際の各工程を順に示す断面図
【図4】電鋳装置及び剥離槽の断面図
【図5】本発明に係る反転盤製造方法によって磁気転写用マスターディスクを製造する他の例を各工程順に示す断面図
【符号の説明】
【0072】
10…磁気転写用マスターディスク、12…マスター基板、14…磁性層、20…原板、22…レジストの層、24…電子ビーム、26…原盤、28…反転盤(金属板)、30…電鋳装置、32…剥離層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、
前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、
を備える反転盤製造方法において、
前記導電層形成工程及び/又は前記導電層形成工程以前における前記原盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記原盤の温度を前記電解液の液温度に対して±10°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法。
【請求項2】
表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、
前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、
を備える反転盤製造方法において、
前記剥離工程及び/又は前記剥離工程以前における前記反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記反転盤の温度を前記電解液の液温度に対して±10°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法。
【請求項3】
表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、
前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、
を備える反転盤製造方法において、
前記導電層形成工程及び/又は前記導電層形成工程以前における前記原盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記原盤の温度を前記電解液の液温度に対して±5°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法。
【請求項4】
表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、
前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、
を備える反転盤製造方法において、
前記剥離工程及び/又は前記剥離工程以前における前記反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記反転盤の温度を前記電解液の液温度に対して±5°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法。
【請求項5】
表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、
前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、
を備える反転盤製造方法において、
前記導電層形成工程及び/又は前記導電層形成工程以前における前記原盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記原盤の温度、及び、前記剥離工程及び/又は前記剥離工程以前における前記反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記反転盤の温度を前記電解液の液温度に対して±10°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法。
【請求項6】
表面に凹凸状パターンが形成されている原盤の前記表面上に導電層を形成する導電層形成工程と、
前記原盤を電解液に浸して前記導電層上に金属を電着することにより、所定厚さの金属板よりなる反転盤を形成する反転盤形成工程と、
前記反転盤の形成後に、前記原盤から前記反転盤を剥離する剥離工程と、
を備える反転盤製造方法において、
前記導電層形成工程及び/又は前記導電層形成工程以前における前記原盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記原盤の温度、及び、前記剥離工程及び/又は前記剥離工程以前における前記反転盤周辺の雰囲気温度及び/又は前記反転盤の温度を前記電解液の液温度に対して±5°C以内に制御することを特徴とする反転盤製造方法。
【請求項7】
前記導電層形成工程における前記原盤の温度管理を導電層形成装置内で行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の反転盤製造方法。
【請求項8】
前記剥離工程及び/又は前記剥離工程以前における前記原盤及び/又は前記反転盤の温度管理を恒温装置内で行う請求項1〜7のいずれか1項に記載の反転盤製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−213979(P2006−213979A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29571(P2005−29571)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】