説明

受信保護回路及びそれを用いた無線通信装置

【課題】 経路切り替えのためのスイッチを用いることなく、また受信機のNFの劣化をなくして受信性能の低下を招来することなく、過大入力に対する保護を可能にした受信保護回路を得る。
【解決手段】 受信信号を検波する検波回路7と、この検波出力と基準値とを比較する比較器8と、この比較結果に応じて受信回路5の電源の供給制御をなす電源回路9とを設ける。更に、検波回路7、比較器8及び電源回路5における動作遅延時間に相当する時間だけ、受信回路5の入力信号を遅延せしめる遅延回路4を設ける。過大入力が受信された時に、受信回路5に対する電源回路9の電源供給を断とするよう制御することにより、過大入力に対して受信回路5の保護を、NFの劣化なく正確に行うことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は受信保護回路及びそれを用いた無線通信装置に関し、特に無線通信システムにおいて過大な受信レベルに対する受信回路の損傷を防止する受信保護回路の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の受信保護回路の一例が特許文献1に開示されており、図7にそのブロック図を示しいる。図7において、検波回路105はアンテナ100から受信している受信電力を検出する。スイッチ102a、スイッチ102bは後述する減衰器103を通る経路と通らない経路を選択する。減衰器103は、アンテナ100による受信信号を後述の高周波増幅器104の部品が破壊しない電力まで減衰させる。ダイオード回路121、ダイオード回路122は過大な電力が入力されてスイッチ102a、スイッチ102bが切り替わるまでの時間、高周波増幅器104を保護する。スイッチ制御回路106は検波回路105の検出結果によりスイッチ102a、スイッチ102bの制御を行う。
【0003】
また、特許文献2を参照すると、アンテナによる受信信号を減衰回路(図7の減衰器103に相当)を介して増幅回路(図7の高周波増幅器に相当)に供給する構成としておき、受信信号のレベルが増幅回路の許容範囲外のときであって、かつ減衰回路の減衰量の調整範囲外のときに、減衰回路と増幅回路との電源を断とする構成が開示されている。
【0004】
【特許文献2】特開昭64−46328号公報
【特許文献1】特許第2912335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7に示した従来の受信保護回路においては、次のような課題がある。すなわち、スイッチによる経路切り替えを行っているために、スイッチが故障した場合には保護が出来ないという欠点がある。また、図7の回路でも、特許文献2の回路でも、信号ラインに減衰器が挿入されているので、通常時にも、減衰量は厳密に“0”に制御することは不可能であって微小な減衰量が発生することは避けられないために、受信機のNF(Noise Figure)の劣化を招来して受信性能が低下する、あるいは受信することが不可能になる事態が発生することがある。
【0006】
本発明の目的は、経路切り替えのためのスイッチを用いることなく、過大入力に対する保護を可能にした受信保護回路及びそれを用いた無線通信装置を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、受信機のNFの劣化をなくして受信性能の低下を招来することなく、過大入力に対する保護を可能にした受信保護回路及びそれを用いた無線通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による受信保護回路は、無線通信装置の受信保護回路であって、受信信号を検波する検波回路と、この検波出力と基準値とを比較する比較器と、この比較結果に応じて受信回路の電源の供給制御をなす電源回路とを含むことを特徴とする。
【0009】
更に、前記検波回路、前記比較器及び前記電源回路における動作遅延時間に相当する時間だけ、前記受信回路の入力信号を遅延せしめる遅延回路を含むことを特徴とし、前記基準値は変更自在であることを特徴とする。また、無線通信装置における送信回路に対する電源供給以降に、前記受信回路の電源の供給制御をなすようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明による他の受信保護回路は、無線通信装置の受信保護回路であって、受信信号を検波する検波回路と、この検波出力と基準値との比較結果に応じて受信回路の電源供給制御をなす制御手段とを含み、前記制御手段は、前記検波出力が基準値以上となる場合が一定期間続いた時に、受信回路の電源供給を断とする制御手段とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、前記制御手段は、前記前記検波出力が前記基準値より小となる場合が一定期間続いた時に、受信回路の電源供給をなすことを特徴とし、前記制御手段をソフトウェアにより実現したことを特徴とする。
【0012】
本発明による無線通信装置は上述の受信保護回路を有することを特徴とし、また、当該無線通信装置は携帯通信端末であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、信号ラインに減衰回路やスイッチを挿入する代わりに、受信回路に対する電源供給の制御を行うようにしたので、過大入力に対する受信回路の保護を、受信性能の劣化無しに行うことが可能となるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1を参照すると、本発明の一実施の形態としての受信保護回路を適用した受信装置のブロック図が示されている。図1において、アンテナ1は移動通信用無線移動局からの電波を受信する。フィルタ2は受信した信号を受信帯域の周波数のみ通過させ不要波の抑圧を行う。方向性結合器3はフィルタ2の出力信号を受信処理する信号と検波を行う信号とに分離する。遅延回路4は、後述の電源回路9が後述の受信機5の電源電圧を停止するまでの間、受信信号を遅延させる。
【0015】
受信回路5は遅延回路4の出力信号を低雑音で増幅し、信号処理部6で処理できる低い周波数へと変換する。信号処理部6は受信回路5の出力信号をアナログ/デジタル変換して復調処理を行う。検波回路7は方向性結合器3からの信号を検波ダイオードにより直流電圧に変換する。比較回路8は検波回路7の出力信号と予め決められた基準電圧とを比較する。電源回路9は受信回路5のための電源電圧発生回路であり、比較回路8の比較結果に基づく信号により電源電圧の供給及び停止制御が可能となっている。
【0016】
図2を参照すると、図1に示す受信回路5の一般的な構成が示されている。低雑音増幅器11は入力信号を低雑音で増幅する。フィルタ12は低雑音増幅器11の出力信号の不要波の抑圧を行う。ミキサ13はフィルタ12の出力信号を中間周波数に変換する。フィルタ14はミキサ13の出力信号を帯域制限するために不要波の抑圧を行う。ミキサ15はフィルタ14の出力信号をデジタル変換するために低い周波数へ周波数変換を行う。局発信号生成部16はミキサ13を動作させるための局発信号を生成する。局発信号生成部17はミキサ15を動作させるための局発信号を生成する。
【0017】
次に、図1の回路において、受信回路5の保護のために、電源を停止させる動作を図3に示すフローチャートを使用して説明する。図3において、先ず、装置に電源が供給され装置が起動される(ステップF1)と、アンテナ1で信号が受信される(ステップF2)。すると、フィルタ2、方向性結合器3を介して検波回路7にて受信信号の検波が行われる(ステップF3)。ダイオード等で構成された検波回路7からは、受信信号の電力に応じた信号が出力され、比較回路8において、この信号が過大入力のしきい値となる基準電圧と比較される(ステップF4)。
【0018】
この比較の結果、過大入力のしきい値よりも受信信号の電力の方が低いと判定されると(ステップF5でYES)、受信回路5の部品故障が起きない正常な電力が入力されていることになる(ステップF6)。この場合、比較回路8から正常を示す信号が出力され、電源回路9の電源電圧出力が開始され(ステップF7)、受信回路5に電源電圧が供給される(ステップF8)。これにより、受信信号の受信処理が開始されて(ステップF9)、装置が運用されることになる。
【0019】
次に、過大な電力が入力されたときの動作について説明する。ステップF4において、基準電圧と検波回路7の出力信号の電圧とが比較され、当該出力信号が基準電圧より高くなった場合には(ステップF5でNO)、受信回路5の部品が故障する可能性がある過大な電力が入力されたと判断され(ステップF10)、比較回路8から異常を示す信号が出力され、電源回路9の電源電圧の出力が停止される(ステップF11)。よって、受信回路5には、電源が供給されなくなり(ステップF12)、受信回路5は動作しなくなって、受信処理は行われない(ステップF13)。
【0020】
以後は、引き続きステップF2へ戻ることにより、再度受信信号の電力が監視され、検波回路7の出力信号が基準電圧よりも低くなるまで、受信回路5の電源供給は停止したままとなる。但し、過大な電力が入力されて(ステップF2)から、受信回路5の電源供給停止(ステップF12)するまでの時間Tの間は、過大な電力が入力されているので、この時間Tの間に受信回路5の部品が破壊される恐れがある。この遅延時間Tは、検波回路7、比較回路8、電源回路9の固定遅延および電源回路9と受信回路5の間の容量成分による電源回路9の出力停止特性による遅延であるために、その時間T分を遅延線(同軸ケーブル)などで構成された遅延回路4にて遅延させる構成となっているのである。
【0021】
このように、受信回路5の電源供給を停止することにより、受信回路5は動作しなくなることから、受信回路5の部品が破壊されるような過大な電力が入力されても、検波回路7と比較回路8とを追加するだけで、受信回路の構成部品の破壊を低減させることが可能となる。また、遅延回路4を追加することにより、受信回路5の電源供給停止までの時間Tの間も、過大な電力から部品の保護を行うことが可能となる。
【0022】
本発明の他の実施の形態として、その基本的構成は上記の通りであるが、レベル検出から電源供給の停止までの方法についてさらに工夫している。その構成を図4に示す。図において図1と同等部分は同一符号にて示している。図4においては、図1の構成に、D/A変換器20と制御部21とを追加したものである。D/A変換器20は比較回路8の基準電圧を生成するものであり、制御部21はD/A変換器20のデータを生成するものである。
【0023】
図1の例における比較回路8の基準電圧はハードウェア回路にて設定しており、この場合には、設計変更における基準電圧の変更では部品を変更しなければいけないし、また、装置毎に基準電圧を変更することもできない。さらに、装置を運用中に基準電圧の変更が生じた場合は、運用を停止し、ハードウェアの変更を行わなければならない。
【0024】
そこで、図4に示しているように、D/A変換器20、制御部21を設けて、比較回路8の基準電圧を、制御部21からの指示により、D/A変換器20で生成することにより、基準電圧の変更が容易に可能となることは明らかである。このように、本例では、比較回路8の基準電圧を、制御部21とD/A変換器20とにより設定できる構成としたので、基準電圧の変更が容易となるという効果が得られる。
【0025】
更に他の実施の形態として、装置起動時における電源供給方法について工夫している。その構成を図5に示す。図5において図1,4と同等部分は同一符号にて示している。図5を参照すると、送受共用器30は送信信号と受信信号を分配合成している。論理回路31は比較回路8からの信号と制御部21からの信号との論理積演算をなす。電源回路32は送信回路33の電源供給を行っている。送信回路33は本装置の送信信号を生成し、送信周波数へと変換して任意の送信電力に増幅している。
【0026】
先の図4の例においては、装置起動時は制御部21からD/A変換器20へデータを送出することが出来ない。従って、比較回路8に対して基準電圧が設定できないため、過大な電力が入力されても受信回路5の電源供給が停止できない、あるいは正常な電力が入力されていても受信回路5の電源供給が停止している、という問題が発生する。
【0027】
そこで、制御部21からの出力信号により、電源回路32の電源出力を制御し、送信回路33の電源を供給するようにする。送信回路33に電源が供給されるということは、送信信号を出力する準備が出来たことであり、これを契機に受信回路5への電源供給を開始する必要がある。従って、本例では、この制御部21からの出力信号と比較回路8の出力信号とを、論理回路31へ入力して、論理積演算をなすことにより、送信回路33が電源供給停止時は、受信回路5の電源供給も停止状態になるようにしている。
【0028】
これにより、装置起動時は、常に受信回路5の電源供給は停止状態になり、装置起動後に、D/A変換器20から基準電圧が生成されるようになり、過大な電力が受信されておらず、かつ送信回路33の電源供給が開始されている状態になってから、受信回路5への電源供給が開始されるようになる。
【0029】
更に別の実施の形態として、検波回路7からの出力信号の処理をソフトウェアによって行う工夫をしている。その構成を図6に示す。図6において図1と同等部分は同一符号により示している。図6においては、図1の比較回路8、D/A変換器20及び制御部21に代えて、A/D変換器40及び制御部41を設けている。A/D変換器40は検波回路7からの信号をデジタル変換している。制御部41は、A/D変換器40の出力信号から過大な電力が受信されているかを判断し、その判断結果から電源回路9を制御する信号を出力する。
【0030】
図1の例においては、過大な電力を受信しているかの判断をハードウェアで実現しているが、基準電圧をソフトウェアで設定できる図4の構成も可能であるが、電源供給の開始、停止に時定数を持たせることにより、基準電圧前後の受信信号が入力されている際も、電源の開始、停止の繰り返しを起こしてしまう問題を防ぐことが出来る。
【0031】
そこで、図6のように、検波回路7からの信号をA/D変換器40を用いることでデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を制御部41に入力する。制御部41では、ソフトウェアにより任意に設定した基準電圧と比較し、過大な電力が受信されている場合は、電源回路9に対して電源供給を停止する信号を送出する。
【0032】
このとき、任意の一定時間過大な電力が受信されている場合のみ、電源回路9の電源供給停止を制御し、任意の一定時間以内に正常な受信電力に戻った場合は電源回路9の電源供給停止を行わない、とすることができる。また、電源回路9の電源供給停止中に正常な受信電力となったために電源供給を開始する場合も、制御部41にて任意の時間を指定し、その任意の時間以内に過大な電力が再度受信されたら電源供給開始は行わず、電源供給停止のままとすることが出来る。
【0033】
上述した各実施の形態においては、携帯電話機や、PDAなどの携帯通信端末に適用できるが、一般の無線通信装置にも広く適用できることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図1の受信回路の具体例を示す図である。
【図3】図1の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の他の実施の形態を示すブロック図である。
【図5】本発明の更に他の実施の形態を示すブロック図である。
【図6】本発明の別の実施の形態を示すブロック図である。
【図7】従来例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0035】
1 アンテナ
2 フィルタ
3 方向性結合器
4 遅延回路
5 受信回路
6 信号処理部
7 検波回路
8 比較回路
9,32 電源回路
20 D/A変換器
21,41 制御部
31 論理回路
33 送信回路
40 A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信装置の受信保護回路であって、受信信号を検波する検波回路と、この検波出力と基準値とを比較する比較器と、この比較結果に応じて受信回路の電源の供給制御をなす電源回路とを含むことを特徴とする受信保護回路。
【請求項2】
前記検波回路、前記比較器及び前記電源回路における動作遅延時間に相当する時間だけ、前記受信回路の入力信号を遅延せしめる遅延回路を、更に含むことを特徴とする請求項1記載の受信保護回路。
【請求項3】
前記基準値は変更自在であることを特徴とする請求項1または2記載の受信保護回路。
【請求項4】
無線通信装置における送信回路に対する電源供給以降に、前記受信回路の電源の供給制御をなすようにしたことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の受信保護回路。
【請求項5】
無線通信装置の受信保護回路であって、受信信号を検波する検波回路と、この検波出力と基準値との比較結果に応じて受信回路の電源供給制御をなす制御手段とを含み、前記制御手段は、前記検波出力が基準値以上となる場合が一定期間続いた時に、受信回路の電源供給を断とする制御手段とを含むことを特徴とする受信保護回路。
【請求項6】
前記制御手段は、前記検波出力が前記基準値より小となる場合が一定期間続いた時に、前記受信回路の電源供給をなすことを特徴とする請求項5記載の受信保護回路。
【請求項7】
前記制御手段を、ソフトウェアにより実現したことを特徴とする請求項5または6記載の受信保護回路。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の受信保護回路を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項9】
携帯通信端末であることを特徴とする請求項8記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−157750(P2006−157750A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347946(P2004−347946)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】