説明

口腔用組成物

【課題】本発明の目的は、優れたGTase阻害作用を有し、歯垢の形成を抑制することによりう蝕を効果的に予防できる口腔用組成物を提供することである。
【解決手段】アカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物を使用して、口腔用組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたGTase阻害作用を有し、歯垢の形成を抑制してう蝕を効果的に予防できる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の疾患の1つとして、う蝕(虫歯)が知られている。このう蝕の発生機序は、次のように考えられている。歯表面には、だ液中の成分である糖タンパク質によってペリクル層が形成されており、このペリクル層にミュータンス菌等の細菌が付着する。この細菌は、菌体外に分泌する酵素であるグルコシルトランスフェラーゼ(以下、「GTase」と表記する)の作用により、食物由来のショ糖を粘着性多糖類に変性させ、更に増殖しながら強固に歯面に付着する。これを一般に歯垢(プラーク)と呼ぶが、付着した細菌は、歯垢中で糖類を代謝し、その代謝産物として酸を生成する。そしてこの酸が歯のエナメル表面を脱灰することにより、う蝕が引き起こされる。また歯垢は、う蝕の他、口臭、歯周病、歯肉炎、歯槽膿漏の原因になるとも言われている。
【0003】
今日では、う蝕を予防する1つの方策として、GTaseの作用を阻害して、歯垢の形成を抑制することが有効であると考えられている。このような観点から、近年、GTase阻害作用を有する物質の開発が精力的に行われており、GTase阻害作用を有する植物抽出物が種々報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これまで報告されている植物抽出物では、GTase阻害作用が十分でない等の理由で実用に供し得ないものも多く、更なるGTase阻害成分及びそれを用いた口腔用組成物の開発、提供が望まれている。
【特許文献1】特開平4−95020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、優れたGTase阻害作用を有し、歯垢の形成を抑制することにより、う蝕を効果的に予防できる口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、アカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物には、優れたGTase阻害作用があり、該抽出物を含有する口腔用組成物は、う蝕の予防に有用であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0006】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を包含する:
項1. アカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物を含有することを特徴とする、口腔用組成物。
項2. 前記抽出物が、アカバナ科マツヨイグサ属植物の種子の抽出物である、項1に記載の口腔用組成物。
項3. アカバナ科マツヨイグサ属植物が、メマツヨイグサである、項1又は2に記載の口腔用組成物。
項4. 食品、医薬品、医薬部外品又は口腔内化粧品である、項1乃至3のいずれかに記載の口腔用組成物。
【0007】
本発明の口腔用組成物は、アカバナ科マツヨイグサ属(Oenothera)植物の極性溶媒抽出物を含有することを特徴とする。
【0008】
本発明で使用されるアカバナ科マツヨイグサ属植物としては、特に制限されず、例えば、メマツヨイグサ(Oenothera biennis)、マツヨイグサ(Oenothera striata)、オオマツヨイグサ(Oenothera erythrosepala)、コマツヨイグサ(Oenotheralaciniata)等が例示される。これらの中で、好ましくはメマツヨイグサである。
【0009】
当該アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物は、該植物体の全草、又は種子、根、茎、葉、花蕾等の該植物体の一部から抽出されたものであればよいが、好ましくは該植物の種子から抽出されたものである。
【0010】
また、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物の抽出に使用される溶媒としては、極性溶媒である限り、特に制限されない。このような極性溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1〜5の低級アルコール;、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;アセトン;エチルエーテル;酢酸エチル;酢酸メチル等が例示される。これらの極性溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。当該抽出溶媒として、好ましくは水、炭素数1〜5の低級アルコール、及び炭素数1〜5の低級アルコールと水の混合液;更に好ましくは水、エタノール、及びエタノールと水の混合液;特に好ましくはエタノールと水の混合液が挙げられる。抽出溶媒として、炭素数1〜5の低級アルコールと水の混合液を使用する場合、該混合液の総重量に対する該低級アルコールの含有割合としては、例えば0.0001〜99.9重量%、好ましくは40〜99.9重量%、更に好ましくは50〜90重量%となる割合が挙げられる。
【0011】
アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物は、上記抽出対象植物部位をそのまま、或いは必要に応じて、乾燥、細切、破砕、圧搾、煮沸或いは発酵処理したものを、上記抽出溶媒により抽出することによって得られる。抽出方法としては、通常用いられている植物抽出物の抽出方法を採用することができ、具体的には、冷浸、温浸等の浸漬法;加温下で攪拌する方法;又はパーコレーション法等が例示される。
【0012】
なお、アカバナ科マツヨイグサ属植物を極性溶媒で抽出するのに先立って、前処理として、圧搾法又はヘキサン等の非極性有機溶媒を使用することにより予め脱脂処理を行い、抽出処理時に該植物から余分な脂質が抽出されるのを防止しておくことが望ましい。
【0013】
上記方法で得られるアカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物は液状であり、本発明では、該抽出物を液状のまま使用してもよく、また必要に応じて濃縮、乾燥等の処理に供して濃縮物や乾燥物として使用してもよい。また濃縮又は乾燥後、該濃縮又は乾燥物を非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いてもよく、またこれを更に適当な溶剤に溶解もしくは懸濁して用いることもできる。また、得られた抽出物を、慣用されている精製法、例えば向流分配法や液体クロマトグラフィー等を用いて、GTase阻害活性を有する画分を取得、精製して使用することも可能である。
【0014】
また、簡便には、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物としては、商業的に入手できるものを使用することもできる。
【0015】
本発明の口腔用組成物において、上記アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物の配合割合は、口腔用組成物の形態、抽出物の濃縮率等に応じて異なり、一律に規定することができないが、一例として、口腔用組成物の総量に対して、該抽出物(乾燥重量換算)が、通常0.00001〜20重量%、好ましくは0.0001〜10重量%、更に好ましくは0.001〜5重量%となる割合が例示される。
【0016】
本発明の口腔用組成物には、上記アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物に加えて、う蝕性細菌に対する抗菌剤や他のGTase阻害物質を組み合わせて配合することにより、抗う蝕効果を相加的若しくは相乗的に増強しておくこともできる。このような抗菌剤としては、例えば、塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、ソルビン酸、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩化デカリニウム、トリクロサン、塩酸クロルヘキシジン、ヨウ化カリウム等が挙げられる。また、他のGTase阻害物質としては、例えば、ブドウ科ブドウ属(Vitis)植物の抽出物、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫、タステイン、タンニン類、エラグ酸、ポリフェノール、ウーロン茶抽出物、緑茶抽出物、センブリ、タイソウ、ウイキョウ、芍薬、ゲンチアナ、センソ、龍胆、黄連等が挙げられる。
【0017】
本発明の口腔用組成物の好適な一実施態様として、上記アカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物に加えて、更にGTase阻害物質としてブドウ科ブドウ属植物の抽出物を含有するものが例示される。
【0018】
当該ブドウ科ブドウ属植物としては、特に制限されず、ヨーロッパブドウ(Vitis viniferaL.)やアメリカブドウ(Vitis labruscaL.)等を使用することができる。好ましくは、ヨーロッパブドウである。
【0019】
当該ブドウ科ブドウ属植物の抽出物は、該植物体の葉部、茎部、根部又はこれらの混合物から抽出されたものであればよいが、好ましくは葉部から抽出されたものである。
【0020】
また、ブドウ科ブドウ属植物の抽出物の抽出に使用される溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1〜5の低級アルコール;、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;アセトン;エチルエーテル;酢酸エチル;酢酸メチル等の極性溶媒が例示される。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。当該抽出溶媒として、好ましくは水、炭素数1〜5の低級アルコール、及び炭素数1〜5の低級アルコールと水の混合液;更に好ましくは水、エタノール、及びエタノールと水の混合液;特に好ましくは水が挙げられる。抽出溶媒として、炭素数1〜5の低級アルコールと水の混合液を使用する場合、該混合液の総重量に対する該低級アルコールの含有割合としては、例えば0.1〜99.9重量%、好ましくは0.1〜70重量%、更に好ましくは0.1〜50重量%となる割合が挙げられる。
【0021】
ブドウ科ブドウ属植物の抽出物の抽出は、上記アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物の場合と同様の方法で行うことができる。なお、ブドウ科ブドウ属植物の溶媒抽出に先立って、前処理として、圧搾法又はヘキサン等の非極性有機溶媒を使用することにより予め該植物に対して脱脂処理を行ってもよい。
【0022】
ブドウ科ブドウ属植物の抽出物は、上記アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物の場合と同様、液状であってもよく、濃縮物や乾燥物の状態であってもよい。
【0023】
本発明の口腔用組成物に上記ブドウ科ブドウ属植物の抽出物を配合する場合、該抽出物の配合割合としては、特に制限されないが、例えば、0.00001〜20重量%、好ましくは0.0001〜10重量%、更に好ましくは0.001〜5重量%となる割合が挙げられる。
【0024】
本発明の口腔用組成物には、その形態に応じて、口腔用組成物に通常使用される成分を含有していてもよい。このような成分としては、制限されないが、例えば、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、発泡剤、香料、矯味剤、甘味剤、防腐剤、消炎剤、殺菌剤、抗菌剤、色素、増粘剤、界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0025】
本発明において、口腔用組成物とは、例えば飲食物のように経口的に摂取される組成物、及び歯磨きやマウスウォッシュのように口腔内で用いられる組成物の双方を含むものである。
【0026】
本発明の口腔用組成物の具体例としては、可食性フィルム、トローチ、チューインガム、キャンディ、グミキャンディ、チョコレート、ジュース、タブレット、顆粒、カプセル等の各種食品;飲料水、ドリンク剤等の飲料;歯磨剤(練り状、液体状、粉末固形状),口中清涼剤(マウススプレー等)、咀嚼剤、トローチ剤、口腔用パスタ剤、うがい剤、シロップ剤、歯肉マッサージクリーム等の医薬品又は医薬部外品;歯磨剤、マウスウォッシュ、マウスリンスなどの口腔内化粧品を挙げることができる。これらの中で好ましくは、可食性フィルム、チューインガム、歯磨剤、口中清涼剤、洗口剤(マウスウオッシュ)、マウスリンス等を挙げることができる。これらの形態並びに剤形は、特に制限されず、種類に応じて任意に定めることができる。
【0027】
また、本発明の口腔用組成物は、含有するアカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物の作用により、GTase阻害効果、歯垢形成阻害効果、抗う蝕効果等の効果を奏することができる。即ち、本発明の口腔用組成物は、GTase阻害剤、歯垢形成阻害剤、又は抗う蝕剤として有用である。更に、本発明は、他の観点から、下記態様の発明を提供する:
(1) アカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物を含有することを特徴とする、GTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(2) 前記抽出物が、アカバナ科マツヨイグサ属植物の種子の抽出物である、(1)に記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(3) アカバナ科マツヨイグサ属植物がメマツヨイグサである、(1)又は(2)に記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(4) アカバナ科マツヨイグサ属植物の前記抽出物が、該剤の総量に対して、0.00001〜20重量%、好ましくは0.0001〜10重量%、更に好ましくは0.001〜5重量%の割合で含有されている、(1)乃至(3)のいずれかに記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(5) 更に、ブドウ科ブドウ属植物の葉部、茎部、根部又はこれらの混合物の抽出物を含有する、(1)乃至(4)のいずれかに記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(6) ブドウ科ブドウ属植物の抽出物が、極性溶媒を使用して得られるものである、(5)に記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(7) ブドウ科ブドウ属植物がヨーロッパブドウである、(5)又は(6)に記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(8) ブドウ科ブドウ属植物の前記抽出物が、該剤の総量に対して、0.00001〜20重量%、好ましくは0.0001〜10重量%、更に好ましくは0.001〜5重量%の割合で含有されている、(5)乃至(7)のいずれかに記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(9) 口腔組成物である、(1)乃至(8)のいずれかに記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
(10) 食品、医薬品、医薬部外品又は口腔内化粧品である、(9)に記載のGTase阻害剤、歯垢形成阻害剤又は抗う蝕剤。
【0028】
なお、上記GTase阻害剤、歯垢形成阻害剤及び抗う蝕剤において、使用するアカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物、当該抽出物の配合割合、該阻害剤に配合可能な成分、使用形態等については、前述する口腔用組成物の場合を援用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の口腔組成物によれば、アカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物の作用に基づいて、口腔内で優れたGTase阻害効果を奏することができ、これによって、歯垢形成を阻害してう蝕を効果的に予防することができる。
【0030】
また、本発明の口腔用組成物に配合されるアカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物は、天然由来成分で高い安全性を備えている。そのため、本発明の口腔用組成物は、日常的に食される食品の形態で提供でき、これによって食品の日常的な摂取という簡便で汎用性の高い手段を通してう蝕を予防することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
製造例1
メマツヨイグサ(Oenothera biennis)植物の種子の粉砕物100gに対して、常法に従って脱脂処理した後、濾過により残渣を回収した。脱脂された脱脂種子粉砕物を乾燥させた後、抽出溶媒として水エタノール混合液(水30重量%、エタノール70重量%含有)を用いて、45〜55℃で2時間抽出を行った。次いで、濾過により残渣を除去して抽出液を得、これをエバポレーターにて濃縮、噴霧乾燥することにより、植物抽出物(以下、「マツヨイグサ属植物抽出物」と表記する)5gを得た。
【0033】
参考製造例1
ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera L.)の葉の粉砕物を原料として、抽出溶媒として精製水を用いて、浸漬法により抽出処理を行った。抽出処理後、濾過により残渣を除去して抽出液を得、これをエバポレーターにて濃縮、噴霧乾燥することにより、植物抽出物(以下、「ブドウ属植物抽出物」と表記する)を得た。
【0034】
試験例1 Streptococcus sobrinusが産生するGTaseに対する阻害作用の評価
Streptococcus sobrinus 6715株(大阪大学歯学部より分与)が産生するGTaseに対するマツヨイグサ属植物抽出物の阻害作用を評価するために、以下の試験を行った。
1.Streptococcus sobrinus 6715株産生GTaseの調製
(1)培地の調製
Trypticase 15g、Tryptose 4g、yeast extract 4g、K2HPO42g、KH2PO4 5g、Na2CO32g、及びNaCl 2gに水を添加して合計900mlにメスアップした。また、別途、glucose 10gに水を添加して合計100mlにメスアップした。これらを別々の加熱滅菌した後、培養前に、これらを混合することによって、培地を調製した。
(2)Streptococcus sobrinus6715株の培養
前培養しておいたStreptococcussobrinus 6715株を上記培地 1000mlに植菌し、37℃で18時間、静置培養を行った。
(3)GTaseの精製
上記(2)で得られた培養液を遠心分離し、上清を回収した。得られた上清に終濃度50重量%となるように硫酸アンモニウムを添加した後、再度遠心分離を行い、沈殿を回収した。回収した沈殿をリン酸緩衝液(pH6.5)で洗浄した後、再度遠心分離を行い、沈殿を回収した。得られた沈殿に、リン酸緩衝液(pH6.5)を適量加えて、これと同緩衝液を用いて透析を行った。透析後に、GTaseを含む溶液を回収し、これをGTase液とした。得られたGTase液は、−80℃で保存した。
【0035】
2.Streptococcus sobrinus 6715株産生GTaseに対する阻害作用の評価試験
96穴プレートの各穴に、基質液(0.1M リン酸緩衝液(pH6.5)、2重量%スクロース、0.1重量%アジ化ナトリウム、40μM デキストラン10(分子量1万)含有)260μl、GTase液20μl、及びマツヨイグサ属植物抽出物溶液(穴中のマツヨイグサ属植物抽出物の終濃度が0.063〜2mg/mlとなるように調整)20μlを添加し、37℃で18時間インキュベートした。その後、合成されたグルカンの量を求めるために、550nmの吸光度を測定した。また、コントロールとして、マツヨイグサ属植物抽出物を添加しなかった穴についても同様に測定を行った。コントロールの550nmの吸光度をGTase活性値100%として、各濃度のマツヨイグサ属植物抽出物共存下でのGTase活性値(%)を算出した。また、比較として、GTase阻害活性が公知であるウーロン茶抽出物(商品名「サンウーロン」サントリー(株)製)を用いて、上記と同様に試験を行った。また、参考として、ブドウ属植物抽出物を用いて、上記と同様に試験を行った。
【0036】
得られた結果を図1に示す。この結果から、マツヨイグサ属植物抽出物には、ウーロン茶抽出物に比して、顕著に優れたGTase阻害作用があることが確認され、該抽出物は、有効な抗う蝕作用を発揮できることが明らかとなった。また、参考のため評価したブドウ属植物抽出物についても、優れたGTase阻害作用があることが確認された。
【0037】
試験例2 Streptococcus sobrinusが産生するGTaseに対する阻害作用の評価
更に、Streptococcus sobrinus 6715株(大阪大学歯学部より分与)が産生するGTaseに対するマツヨイグサ属植物抽出物の阻害作用を評価するために、上記試験例1と同様の方法で(但し、該抽出物の穴中の終濃度は0.5〜2mg/mlとした)、マツヨイグサ属植物抽出物のGTaseに対する阻害作用を評価した。なお、ここでは、比較として、緑茶抽出物(商品名「緑茶乾燥エキス」、アスク薬品(株))を使用して、同様に試験を行った。また、参考として、ブドウ属植物抽出物についても、同様に試験を行った。
【0038】
得られた結果を図2に示す。この結果から、GTase阻害活性が公知である緑茶抽出物に比して、マツヨイグサ属植物抽出物は、顕著に優れたGTase阻害作用があることが明らかとなり、口腔内で、歯垢形成抑制作用や抗う蝕作用を有効に発揮し得ることが確認された。
【0039】
試験例3 Streptococcus mutansが産生するGTaseに対する阻害作用の評価
Streptococcus mutans MT8148株(大阪大学歯学部より分与)が産生するGTaseに対するマツヨイグサ属植物抽出物の阻害作用を評価した。具体的には、以下に記載の方法で、Streptococcusmutans MT8148株産生GTaseの調製を行い、前記試験例1と同様の方法で、該GTaseに対するマツヨイグサ属植物抽出物の阻害作用の評価試験を行った。
Streptococcus mutans MT8148株産生GTaseの調製>
(1)培地の調製
Trypticase 15g、Tryptose 4g、yeast extract 4g、K2HPO42g、KH2PO4 5g、Na2CO32g、及びNaCl 2gに水を添加して合計900mlにメスアップした。また、別途、glucose 10gに水を添加して合計100mlにメスアップした。これらを別々の加熱滅菌した後、培養前に、これらを混合することによって、培地を調製した。
(2)Streptococcus mutansMT8148株の培養
前培養しておいたStreptococcusmutans MT8148株を上記培地1000mlに植菌し、37℃で18時間、静置培養を行った。
(3)GTaseの精製
上記(2)で得られた培養液を遠心分離し、沈殿を回収した。得られた沈殿をリン酸緩衝液(pH6.5)で洗浄した後、再度遠心分離を行い、沈殿を回収した。次いで、回収した沈殿に、8M尿素を加え抽出した。得られた抽出上清を、リン酸緩衝液(pH6.5)で透析後、限外濾過を行い得られた溶液をGTase液とした。得られたGTase液は、−80℃で保存した。
【0040】
得られた結果を図3に示す。この結果から、試験例1の場合と同様に、マツヨイグサ属植物抽出物には優れたGTase阻害作用があることが確認された。また、参考のため評価したブドウ属植物抽出物についても、同様に、優れたGTase阻害作用があることが確認された。
【0041】
試験例4 歯垢形成阻害作用の評価
マツヨイグサ属植物抽出物の歯垢形成阻害作用を評価するために、12名の被験者(歯周病疾患がない25〜30歳の男性)により、表1に示す洗口剤(実施例1及び比較例1)を用いて、以下の試験を行った。
【0042】
【表1】

【0043】
まず、電動歯ブラシやデンタルフロスを用いて、口腔内の歯垢を完全に除去した。口腔内の歯垢が完全に除去されていることについては、歯垢染色液(商品名「DENT リキッドプラークテスター」;ライオン株式会社製)を用いて確認した。その後の2日間、実施例1の洗口剤を用いて洗口させた。なお、洗口は、食前、食後、就寝前、間食前、間食後に、実施例1の洗口剤10mlで20秒間実施した。当該期間中は、被験者には、実施例1の洗口剤以外での物理的又は化学的口腔清掃を禁止させた。また、日本茶、紅茶、コーヒー及びワインの摂取も禁止したが、他の食品、甘味料、喫煙については制限しなかった。実施例1の洗口剤の使用開始から2日後に、歯垢の付着状況を確認した。実施例1の洗口剤を用いた試験期間が終了した後、5日間の間隔を空けて、比較例1の洗口剤を用いて同様の条件で洗口を行い、歯垢の付着状況を確認した。
【0044】
歯垢の付着状況の評価は、上顎右側第一大臼歯、上顎左側中切歯、上顎左側第一小臼歯、下顎左側第一大臼歯、下顎右側中切歯及び下顎右側第一小臼歯の各歯について、歯垢染色液(商品名「DENT リキッドプラークテスター」;ライオン株式会社製)を用いて染色した後に、頬側及び口蓋側の両面をミラーホルダー等を用いて観察し、以下の判定基準に従ってスコア化することにより行った。
<歯垢の付着状況の判定基準>
プラークスコア
0 :染色された領域なし
1 :僅かに染色されている領域がある
2 :表面積の1/3以下の領域が染色されている
3 :表面積の1/3より大きく2/3以下の領域が染色されている
4 :表面積の2/3より大きい領域が染色されている
参考のために、図4に、各プラークスコアと歯垢の付着状況(染色領域)の関係についての代表例を示す。
【0045】
また、上記試験終了後、被験者に、実施例1及び比較例1の洗口剤の使用感について、「歯垢形成阻害効果の実感」及び「呈味」を下記基準に従ってスコア化して評価した。
<洗口剤の使用感の判定基準>
・歯垢形成阻害効果の実感
5:実施例1の方が比較例1よりも歯垢形成阻害効果が優れていると感じる
4:実施例1の方が比較例1よりも歯垢形成阻害効果がやや優れていると感じる
3:実施例1と比較例1とでは、歯垢形成阻害効果は同等であると感じる
2:実施例1の方が比較例1よりも歯垢形成阻害効果がやや劣っていると感じる
1:実施例1の方が比較例1よりも歯垢形成阻害効果が劣っていると感じる
・呈味
【0046】
5:実施例1の方が比較例1よりも呈味が良好であると感じる
4:実施例1の方が比較例1よりも呈味がやや良好であると感じる
3:実施例1と比較例1とでは、呈味は同等であると感じる
2:実施例1の方が比較例1よりも呈味がやや劣っていると感じる
1:実施例1の方が比較例1よりも呈味が劣っていると感じる。
【0047】
得られた結果を表2及び3に示す。この結果から、実施例1の洗口剤で洗口した場合には、比較例1の洗口剤の場合に比して明らかに歯垢の付着が低減されており、マツヨイグサ属植物抽出物には、歯垢の形成を阻害する作用があることが確認された。また、実施例1の洗口剤は、使用者にとって、歯垢形成阻害効果が実感でき、しかも呈味も良好であることが明らかとなり、使用感の点でも優れていることが分かった。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
実施例2 チューインガム
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 2
炭酸カルシウム 5
ガムベース 30
エリスリトール 10
キシリトール 40
マルチトール 12
香料 2
合計 100
【0051】
実施例3 タブレット
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
ポリデキストロース 7
シュガーエステル 2
香料 1
キシリトール 15
パラチノース 残部
合計 100
【0052】
実施例4 糖衣タブレット
下記組成の錠剤と糖衣を用いて、糖衣タブレットを調製した。
錠剤 (重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1.5
シュガーエステル 1
グアガム 0.2
アスパルテーム 0.01
パラチノース 残部
香料 適量
合計 100
糖衣 (重量%)
リン酸カルシウム 1
アスパルテーム 0.01
アラビアガム 0.5
カルバナワックス 0.1
シェラック 0.2
マルチトース 残量
香料 0.4
合計 100
【0053】
実施例5 キャンディー
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
キシリトール 8
マルチトール 10
アスパルテーム 0.1
パラチニット 残部
香料 0.2
合計 100
【0054】
実施例6 練歯磨き
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
リン酸カルシウム 30
グリセリン 10
ソルビトール 20
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1
ラウリル酸ナトリウム 1.5
カラギーナン 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
安息香酸ナトリウム 0.3
香料 1
水 残部
合計 100
【0055】
実施例7 練歯磨き
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
ラウリル酸ナトリウム 0.8
ラウリル酸ジエタノールアミド 1
プロピレングリコール 3
60重量%ソルビット液 35
メチルパラベン 0.2
ブチルパラベン 0.01
サッカリンナトリウム 0.15
ゼラチン 0.3
アルギン酸ナトリウム 0.9
水酸化アルミニウム 45
モノフルオリン酸ナトリウム 0.76
香料 残部
合計 100
【0056】
実施例8 洗口剤
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
エタノール 10
グリセリン 5
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.1
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 0.5
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
香料 0.2
水 残部
合計 100
【0057】
実施例9 洗口剤
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
ラウリル酸ナトリウム 0.8
ラウリル酸ジエタノールアミド 0.8
グリセリン 12
サッカリンナトリウム 0.2
ハッカ油 0.8
アルギニン 0.1
リン酸水素二ナトリウム 0.5
リン酸水素二カリウム 0.08
水 残部
合計 100
【0058】
実施例10 トローチ
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
マルチトール 21
アラビアガム 1.5
ショ糖脂肪酸エステル 2.5
クエン酸 4
粉末香料 1
キシリトール 残部
合計 100
【0059】
実施例11 口腔用パスタ
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
流動パラフィン 13
セタノール 10
グリセリン 25
ソルビタンモノパルミテート 0.6
ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート 5
ラウリル硫酸ナトリウム 0.1
塩化ベンゾトニウム 0.1
サリチル酸メチル 0.1
サッカリン 0.2
香料 0.25
水 残部
合計 100
【0060】
実施例12 洗口剤
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 1
参考製造例1で得られたブドウ属植物抽出物 1
エタノール 10
グリセリン 5
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.1
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 0.5
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
香料 0.2
水 残部
合計 100
【0061】
実施例13 洗口剤
(重量%)
製造例1で得られたマツヨイグサ属植物抽出物 0.5
濃グリセリン 5
パラオキシ安息香酸プロピル 0.02
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 2
香料 0.1
エタノール 5
精製水 残部
合計 100
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】試験例1の結果、即ち、Streptococcus sobrinus由来のGTaseに対して、マツヨイグサ属植物抽出物が有する阻害作用の強さを示す図である。
【図2】試験例2の結果、即ち、Streptococcus sobrinus由来のGTaseに対して、マツヨイグサ属植物抽出物が有する阻害作用の強さを示す図である。
【図3】試験例3の結果、即ち、Streptococcus mutans由来のGTaseに対して、マツヨイグサ属植物抽出物が有する阻害作用の強さを示す図である。
【図4】試験例4における歯垢の付着状況の判定基準の一例、即ち各プラークスコアと歯垢の付着状況(染色領域)の関係についての代表例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカバナ科マツヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物を含有することを特徴とする、口腔用組成物。
【請求項2】
前記抽出物が、アカバナ科マツヨイグサ属植物の種子の抽出物である、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
アカバナ科マツヨイグサ属植物が、メマツヨイグサである、請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
食品、医薬品、医薬部外品又は口腔内化粧品である、請求項1乃至3のいずれかに記載の口腔用組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−306844(P2006−306844A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84849(P2006−84849)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】