説明

可動接点用銀被覆複合材料およびその製造方法

【課題】接点の繰り返し開閉動作においても銀被覆層が剥離せず、かつ長期間の使用においても接触抵抗の上昇が抑えられた、長寿命の可動接点が得られる、銀被覆ステンレス条およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と
前記基材の表面の少なくとも一部に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、
前記下地層の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、
前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備え、
被覆層としての前記下地層、前記中間層および前記最表層に含まれる銅の総量が被覆面積1mあたり0.025mol以下であることを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長寿命の可動接点が得られる、銀または銀合金被覆複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクター、スイッチ、端子などの電気接点部には皿バネ接点、ブラシ接点、クリップ接点などが用いられている。これら接点には、比較的安価で、耐食性、機械的性質などに優れる銅合金やステンレス鋼をはじめとする鉄・ニッケル合金などの基材上にニッケルを下地めっきし、その上に導電性と半田付け性に優れる銀を被覆した複合接点材料が多用されている(特許文献1参照)。
【0003】
特にステンレス鋼基材を用いた複合接点材料は、銅合金基材を用いたものより機械的性質、疲労寿命などに優れるため接点の小型化に有利であり、また動作回数の増加も可能なため長寿命のタクティルプッシュスイッチや検出スイッチなどの可動接点に使用されている。
【0004】
しかしながら、ステンレス鋼基材上にニッケルを下地めっきし、その上に銀を被覆した複合接点材料は、スイッチの接点圧力が大きいため、繰り返しの接点開閉動作に於いて、接点部の銀被覆層が剥離し易いという問題があった。この現象は以下のような理由で起こると理解されている。即ち、図4に示すように、ニッケルと銀が互いに固溶しない性質を持ち、また、銀層には大気から酸素が浸入して拡散する現象が起こるために、浸入し拡散した酸素がニッケルと銀との界面に到達し、界面でニッケルの酸化物を生成するために、被覆層間の密着力が低下する。
【0005】
上述した問題点を解決する手段として、ステンレス鋼基材上にニッケル層、銅層、銀層をこの順に電気めっきしたもの(特許文献2〜4参照)が提案されている。これらの技術は、互いに固溶しないニッケルと銀の間に、ニッケルと銀の両方と互いに固溶する銅の層を設けることによって各層間で相互拡散させ、密着性を高めることが出来る。さらに、銀層に固溶した銅には、大気から浸入して銀層中を拡散する酸素を捕獲することで、界面での酸素の蓄積による密着性の低下を防ぐ作用があるため、密着性の低下を防止することが出来る。
【特許文献1】特開昭59−219945号公報
【特許文献2】特開2004−263274号公報
【特許文献3】特開2005−002400号公報
【特許文献4】特開2005−133169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記技術には以下の欠点があることが明らかとなった。即ち、図5に示すように、従来のニッケル層と銀層をこの順に電気めっきしたものにくらべ、長期間使用する際の接触抵抗の上昇がより早くなるという問題である。また、銅中間層が厚すぎると、めっきの屈曲性が低下し、プレス加工時などにめっきにクラックが入ってしまうなどの不具合の原因となることも分かってきた。
【0007】
本発明は、接点の繰り返し開閉動作においても銀被覆層が剥離せず、かつ長期間の使用においても接触抵抗の上昇が抑えられた、長寿命の可動接点が得られる、銀被覆ステンレス条およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこのような状況に鑑み鋭意研究を行い、図1に示すように、接触抵抗の上昇は、銀被覆層の剥離は、銀層中に固溶した銅が表面に達して酸化し、高電気抵抗の酸化物を生成したためであり、表面に到達する銅の量を少なくすることで接触抵抗の上昇を防止できること、また、銅層を薄くすることでプレス加工時のひび割れを抑制できることを知見した。この発明は上述した知見に基づきなされたものである。
【0009】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第1の態様は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、前記下地層の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備え、被覆層としての前記下地層、前記中間層および前記最表層に含まれる銅の総量が被覆面積1mあたり0.025mol以下であることを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料である。
【0010】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第2の態様は、前記中間層が厚さ0.02〜0.18μmの銅または銅合金からなっている可動接点用銀被覆複合材料である。
【0011】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第3の態様は、前記下地層が厚さ0.01〜2μmのニッケルまたはニッケル合金からなっている可動接点用銀被覆複合材料である。
【0012】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第4の態様は、前記下地層が厚さ0.01〜2μmのコバルトまたはコバルト合金からなっている可動接点用銀被覆複合材料である。
【0013】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第5の態様は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成された厚さ0.01〜2μmのニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、前記下地層の上に形成された厚さ0.02〜0.18μmの銅または銅合金からなる中間層と、前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備えている可動接点用銀被覆複合材料である。
【0014】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第6の態様は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、前記下地層の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備え、被覆層としての前記下地層、前記中間層および前記最表層に含まれる銅の総量が被覆面積1mあたり0.014mol以下であることを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料である。
【0015】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第7の態様は、前記基材はステンレス鋼からなっている可動接点用銀被覆複合材料である。
【0016】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第8の態様は、前記中間層は厚さ0.02〜0.10μmの銅または銅合金からなっている可動接点用被覆複合材料である。
【0017】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第9の態様は、前記下地層は厚さ0.01〜2μmのニッケルまたはニッケル合金からなっている可動接点用被覆複合材料である。
【0018】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第10の態様は、ステンレス鋼からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成された厚さ0.01〜2μmのニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、前記下地層の上に形成された厚さ0.02〜0.10μmの銅または銅合金からなる中間層と、前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備えている可動接点用銀被覆複合材料である。
【0019】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第11の態様は、前記下地層と前記基材の表面との間に、更に銅また銅合金を含む別の被覆層を備えている可動接点用銀被覆複合材料である。
【0020】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第1の態様は、
ステンレス条を電解脱脂・塩酸で酸洗して活性化し、
次いで、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液で電解してニッケルめっきを施すか、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液に塩化コバルトを添加してニッケル合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施し、
次いで、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で電解して銅めっきを施すか、シアン化銅、シアン化カリウムを基本とし、シアン化亜鉛またはスズ酸カリウムを加えて電解して銅合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施し、
次いで、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀めっきを施すか、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液に酒石酸アンチモニルカリウムを添加して銀合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して、銀被覆複合材料を製造する可動接点用銀被覆複合材料の製造方法である。
【0021】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第2の態様は、
前記銅めっきまたは前記銅合金めっきのいずれかのめっき処理を施した後、前記銀めっきまたは前記銀合金めっきのいずれかのめっき処理を施す前に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀ストライクめっきを施して、銀被覆複合材料を製造する可動接点用銀被覆複合材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の可動接点用銀被覆ステンレス条は、ニッケル下地層と銅中間層、更に銀被覆層がそれぞれ相互拡散するため、密着性が高く、さらに銀被覆層に拡散した銅は大気中より浸入した酸素と化合するため、被覆層と下地層の界面への酸素の到達が抑制され、その結果密着力の劣化が防止される。かつ、最表層中の銅量が所定の値以下に抑制されているため、接触抵抗の上昇も抑制される。(図1参照)
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の可動接点用銀被覆ステンレス条とその製造方法について、望ましい実施の態様について、詳細に説明する。
【0024】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の1つの態様は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、前記下地層の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備え、被覆層としての前記下地層、前記中間層および前記最表層に含まれる銅の総量が被覆面積1mあたり0.025mol以下であることを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料である。
【0025】
本発明において、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材としてステンレス鋼を使用する。ここで、鉄またはニッケルを主成分とする合金とは、鉄またはニッケルの少なくとも一方の質量比が50質量%以上である合金を意味する。可動接点の機械的強度を担うステンレス鋼基材には、応力緩和特性および耐疲労破壊特性に優れるSUS301、SUS304、SUS305、SUS316などの圧延調質材またはテンションアニール材が好適である。
【0026】
前記ステンレス鋼基材上に形成される下地層は、ステンレス鋼と銅又は銅合金層との密着性を高めるために配置し、銅又は銅合金の中間層は下地層と銀又は銀合金層の密着性を高めることが出来る。なお、下地層と基材との間に特定の目的でさらに別の層を設けてもよい。
【0027】
下地層を形成する金属は、公知のようにニッケル、コバルト、またはこれら両者を主成分(全体の質量比として50質量%以上)とする合金が選ばれるが、なかでもニッケルが好ましい。この下地層は、ステンレス基材を陰極にして、例えば塩化ニッケル及び遊離塩酸を含む電解液を用いて電解することにより、0.05〜2μmにするのが好ましい。なお、以下において、下地層の金属としてニッケルを例に説明するが、これはニッケルに限るものではなく、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の場合も同様な効果が得られる。
【0028】
従来の接触抵抗上昇の原因は、銀被覆層を拡散した中間めっきの銅が表面に達し、酸化することによるものであり、その対策として、銅が表面に達しないような銅量を見出すことが必要である。本発明では、めっき層中におけるめっき1mあたりの銅の総量を0.025mol以下に制限する。これにより、表面への銅の拡散及びそれに伴う酸化を抑えることができる。この場合の最も望ましい形態は、中間層を実質的に銅からなる0.02〜0.18μmの層として形成し、その上に銅を含まない銀または銀合金層が形成されている構成である。ここで述べた中間層の厚さの下限値である0.02μmは、中間層の厚さがこれを下回るとめっき密着性を高める効果が小さくなることによるものであり、厚さの上限値である0.18μmは、1mあたりの銅の析出量としての0.025molに相当し、中間層の厚さが上限値を上回ると使用環境における接触抵抗の上昇が起こりやすくなることによるものである。
【0029】
また、中間層の厚さを上述した範囲内にすることによって、プレス加工時のめっき割れを防止できる。さらに、めっき1mあたりの銅の総量を0.014mol以下に制限することにより、表面への銅の拡散及びそれに伴う酸化を更に抑えることが出来る。この場合の最も望ましい形態は、中間層を実質的に銅からなる厚さ0.02〜0.10μmの層として形成し、その上に銅を含まない銀または銀合金層が形成されている構成である。中間層の厚さを0.10μm以下とすることにより、プレス加工時のめっき割れは、一層起きにくくなる。
【0030】
本発明において、下地層、銅又は銅合金層、銀又は銀合金層の各層は、電気めっき法、無電解めっき法、物理・化学的蒸着法など任意の方法により形成できるが、電気めっき法が生産性とコストの面から最も有利である。上述した各層は、ステンレス鋼基材の全面に形成してもよいが、接点部のみに限定して形成するのが経済的である。
【0031】
また、密着強度向上のために、加熱処理などの公知の方法を適用することも出来る。
【0032】
なお、中間層以外の層に、銅を合金化してもよい。その場合は、合金化した銅の量だけ中間層の銅の析出量を減らし、めっき1mあたりの銅の総量を0.025mol以下に制御すればよい。また、他の目的でニッケル層の下にさらに下地層を設けてもよい。この場合、ニッケル層の下に形成した下地層の中に銅が含まれていて、めっき層全体におけるめっき1mあたりの銅の総量が0.025molを超えていても、ニッケル層の下に形成された下地層の銅は、最表層の銀層への拡散には殆ど寄与しない。
【0033】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の代表的な1つの態様は、
ステンレス条を陰極電解脱脂・塩酸で酸洗して活性化し、
次いで、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液で陰極電流密度(5A/dm)で電解して、ニッケルめっきを施し、
次いで、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で陰極電流密度(5A/dm)で電解して銅めっきを施し、
次いで、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で陰極電流密度(2A/dm)で電解して銀めっきを施して、銀被覆複合材料を製造する可動接点用銀被覆複合材料の製造方法である。
なお、前記ニッケルめっきの代わりに、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液に塩化コバルトを添加して陰極電流密度(5A/dm)で電解して、ニッケル合金めっきを施してもよく、前記銅めっきの代わりに、シアン化銅、シアン化カリウムを基本とし、シアン化亜鉛またはスズ酸カリウムを加えて陰極電流密度(3A/dm)で電解して銅合金めっきを施してもよく、前記銀めっきの代わりに、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液に酒石酸アンチモニルカリウムを添加して陰極電流密度(2A/dm)で電解して銀合金めっきを施してもよい。また、銅めっきまたは銅合金めっきの後に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で陰極電流密度(2A/dm)で電解して銀ストライクめっきを施し、その後銀めっきまたは銀合金めっきを施してもよい。
【0034】
この発明を実施例によって更に詳細に説明する。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0036】
SUS301条を連続的に通板して巻き取るめっきラインにおいて、厚さ0.06mm、条幅100mmのSUS301条を電解脱脂、水洗、電解活性化、水洗、ニッケルめっき(又はニッケル−コバルトめっき)、水洗、銅めっき、水洗、銀ストライクめっき、銀めっき、水洗、乾燥の各処理を行った。
処理条件は次のとおりである。
1.(電解脱脂、電解活性化) ステンレス条をオルソケイ酸ソーダ100g/lの水溶液で陰極電解脱脂し、10%塩酸で酸洗して活性化する。
2.(ニッケルめっき) 塩化ニッケル250g/lと遊離塩酸50g/lとを含む電解液で陰極電流密度5A/dmで電解する。
【0037】
(ニッケル合金めっき)上述しためっき液に塩化コバルト25g/lまたは塩化銅25g/lを添加してめっきする。
3.(銅めっき) 硫酸銅150g/lと遊離硫酸100g/lとを含む電解液で陰極電流密度5A/dmで電解する。
【0038】
(銅合金めっき)シアン化銅50g/l、シアン化カリウム75g/l、水酸化カリウム40g/lを基本とし、シアン化亜鉛0.3g/lまたはスズ酸カリウム1g/lを加えて陰極電流密度3A/dmで電解する。
4.(銀ストライクめっき) シアン化銀5g/lとシアン化カリウム50g/lとを含む電解液で陰極電流密度2A/dmで電解する。
5.(銀めっき) シアン化銀50g/lとシアン化カリウム50g/lとを含む電解液で陰極電流密度5A/dmで電解する。なお、必要に応じて炭酸カリウム30g/lを加えてもよい。
【0039】
(銀合金めっき)上記電解液に酒石酸アンチモニルカリウム0.6g/lを添加して電解する。
【0040】
ここで、中間層である銅めっき層の厚さを種々に変化させて、表1に示した各可動接点用銀めっきステンレス条を製造した。また、実施例7、12、15の試料については熱処理(250℃×2時間、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中)を行った。
【0041】
得られたこれらの可動接点用銀めっきステンレス条を直径4mmφのドーム型可動接点に加工し、固定接点には銀を1μm厚さにめっきした黄銅条を用いて、図2および図3に示す構造のスイッチで打鍵試験をおこなった。図2は、打鍵試験に用いたスイッチの平面図である。また、図3は、打鍵試験に用いたスイッチの図2におけるA−A線断面図と押圧を示すもので、(a)はスイッチ動作前、(b)はスイッチ動作時である。図中、1は銀めっきステンレスのドーム型可動接点、2は銀めっき黄銅の固定接点であり、これらが樹脂ケース4中に樹脂の充填材3で組み込まれている。
【0042】
打鍵試験は、接点圧力:9.8N/mm、打鍵速度:5Hzで最大100万回の打鍵を行って接触抵抗の経時変化を測定し、その結果を「表1」に示した。また、100万回の打鍵試験を行った後、可動接点部の状況を観察し、その結果も表に記した。
【0043】
加熱試験は、85℃のエアバスで1000時間の加熱を行って、接触抵抗の変化を測定し、その結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
本発明の可動接点用銀めっきステンレス条(実施例1から17)は、何れも100万回の打鍵試験を行っても接触抵抗の増加は少なく、100万回打鍵後の接点部には中間層及び下地層の露出は見られなかった。さらに、1000時間の加熱後も接触抵抗の上昇は小さかった。
【0046】
これに対して、銅の中間層の厚さが本発明の範囲の下限よりも小さい0.01μmの比較例4では、従来例より優れるものの10万回から接触抵抗が上昇し始め、100万回では250mΩに達し、接点部は僅かに下地層が露出していた。
【0047】
(図示しない)中間層の無い従来例では、10万回で接触抵抗が上昇し、100万回では1000mΩを超える接触抵抗になり、接点部は銀の剥がれが見られ下地層が露出していた。
【0048】
一方、銅の量が本発明の範囲の上限を超えて過剰な比較例1〜3、および5では、加熱試験後に接触抵抗の大幅な上昇が見られた。中でも、銅または銅合金の中間層の厚さが本発明の範囲の上限を超えて過剰な比較例1〜3では、打鍵試験後にクラックが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
上述したように、この発明の可動接点用銀被覆複合材料によると、接点の繰り返し開閉動作においても銀被覆層が剥離せず、かつ長期間の使用においても接触抵抗の上昇が抑えられた、長寿命の可動接点が得られる、銀被覆ステンレス条およびその製造方法を提供することができ、産業上の利用可能性が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の機能を説明する図である。
【図2】打鍵試験に用いたスイッチの平面説明図である。
【図3】図2に示したスイッチのA−A断面説明図で、(イ)はスイッチ動作前、(ロ)はスイッチ動作後である。
【図4】従来のニッケル下地銀被覆材の問題点を説明する図である。
【図5】従来の銅中間層を持つニッケル下地銀被覆材の問題点を説明する図である。
【符号の説明】
【0051】
1 樹脂ケース
2 固定接点
3 固定接点
4 ドーム型可動接点
5 樹脂の充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と
前記基材の表面の少なくとも一部に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、
前記下地層の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、
前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備え、
被覆層としての前記下地層、前記中間層および前記最表層に含まれる銅の総量が被覆面積1mあたり0.025mol以下であることを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項2】
前記中間層が厚さ0.02〜0.18μmの銅または銅合金からなっている請求項1に記載の可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項3】
前記下地層が厚さ0.01〜2μmのニッケルまたはニッケル合金からなっている請求項2に記載の可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項4】
前記下地層が厚さ0.01〜2μmのコバルトまたはコバルト合金からなっている請求項2に記載の可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項5】
鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と
前記基材の表面の少なくとも一部に形成された厚さ0.01〜2μmのニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、
前記下地層の上に形成された厚さ0.02〜0.18μmの銅または銅合金からなる中間層と、
前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備えている可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項6】
鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と
前記基材の表面の少なくとも一部に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、
前記下地層の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、
前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備え、
被覆層としての前記下地層、前記中間層および前記最表層に含まれる銅の総量が被覆面積1mあたり0.014mol以下であることを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項7】
前記基材はステンレス鋼からなっている請求項6に記載の可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項8】
前記中間層は厚さ0.02〜0.10μmの銅または銅合金からなっている請求項7に記載の可動接点用被覆複合材料。
【請求項9】
前記下地層は厚さ0.01〜2μmのニッケルまたはニッケル合金からなっている請求項8に記載の可動接点用被覆複合材料。
【請求項10】
ステンレス鋼からなる基材と
前記基材の表面の少なくとも一部に形成された厚さ0.01〜2μmのニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地層と、
前記下地層の上に形成された厚さ0.02〜0.10μmの銅または銅合金からなる中間層と、
前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備えている可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項11】
前記下地層と前記基材の表面との間に、更に銅また銅合金を含む別の被覆層を備えている、請求項1から10の何れか1項に記載の可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項12】
ステンレス条を電解脱脂・塩酸で酸洗して活性化し、
次いで、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液で電解してニッケルめっきを施すか、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液に塩化コバルトを添加してニッケル合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施し、
次いで、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で電解して銅めっきを施すか、シアン化銅、シアン化カリウムを基本とし、シアン化亜鉛またはスズ酸カリウムを加えて電解して銅合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施し、
次いで、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀めっきを施すか、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液に酒石酸アンチモニルカリウムを添加して銀合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して、銀被覆複合材料を製造する可動接点用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記銅めっきまたは前記銅合金めっきのいずれかのめっき処理を施した後、前記銀めっきまたは前記銀合金めっきのいずれかのめっき処理を施す前に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀ストライクめっきを施して、銀被覆複合材料を製造する請求項12に記載の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−291509(P2007−291509A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77912(P2007−77912)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】