説明

可動接点部品用銀被覆材およびその製造方法

【課題】スイッチングが繰り返されるような環境下で使用されても、表面の銀層が剥離することのない、可動接点部品用銀被覆材を提供する。
【解決手段】鉄または鉄合金からなる導電性基材1上に厚さ0.005〜0.5μmのニッケルまたはニッケル合金からなる下地層2が被覆され、該下地層2上にパラジウム、パラジウム合金、または銀スズ合金からなる厚さ0.01〜0.5μmの中間層3が被覆され、該中間層3上に銀または銀合金からなる最表層4が形成された可動接点部品用銀被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動接点部品用銀被覆材とその製造方法に関し、詳しくはコネクタ、スイッチ、端子および電子接点部品の皿バネ材として好適な可動接点部品用銀被覆材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機や携帯端末機器等に用いられているプッシュスイッチには、リン青銅やベリリウム銅、近年はコルソン系銅合金などの銅合金や、ステンレスなどの鉄系合金などのばね性に優れた導電性基材に銀めっきを施した材料が使用されてきた。
従来は、導電性基材上にニッケル下地層を形成した後、直接銀表層めっきを形成した材料を用いていた。一方、携帯電話のeメールの普及により繰り返しのスイッチング動作が多くなっている。短期間でスイッチングを繰り返すことでスイッチング部が発熱し、銀めっきを透過した酸素がニッケルを酸化せしめて銀を剥離しやすくすることが知られていた。
【0003】
この現象を防止するために、銀層とニッケル層の中間に銅中間層を設けた、例えば銀/銅/ニッケル/ステンレス材を用いることが提案されている(特許文献1〜3参照)。この銅中間層は、銀めっきを透過した酸素を捕捉し、下地層のニッケルの酸化を防止する効果があるとされている。
【特許文献1】特許3889718号公報
【特許文献2】特許3772240号公報
【特許文献3】特開2005−133169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記各特許文献に記載された電気接点材料は、中間層が厚すぎると中間層を形成する銅が拡散して最表層に現れ、これが酸化して接触抵抗を高くしてしまうことがあり、また中間層の厚さが薄すぎる場合には中間層による酸素の捕捉が不十分となり、繰り返しのスイッチング作動等により材料表面の銀層の剥離が十分予測される。すなわち、中間層の厚さを適切に設定することが難しくなり、製造条件を厳しく管理しなければならなくなるという新たな課題が発生している。
【0005】
そこで、本発明は、スイッチングが繰り返されるような環境下で使用されても、表面の銀層が剥離することなく、かつ製造上の制約が緩和される、可動接点部品用銀被覆材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)鉄または鉄合金からなる導電性基材上に厚さ0.005〜0.5μmのニッケルまたはニッケル合金からなる下地層が被覆され、該下地層上に厚さ0.01〜0.5μmのパラジウム、パラジウム合金、または銀スズ合金からなる中間層が被覆され、該中間層上に銀または銀合金からなる最表層が形成されたことを特徴とする可動接点部品用銀被覆材、
(2)前記中間層のパラジウム合金が、金パラジウム、銀パラジウム、スズパラジウム、ニッケルパラジウム、またはインジウムパラジウムであることを特徴とする(1)項に記載の可動接点部品用銀被覆材、
(3)鉄または鉄合金からなる導電性基材上に厚さ0.01〜0.5μmのパラジウム、パラジウム合金、または銀スズ合金からなる中間層を被覆し、該中間層上に銀または銀合金からなる最表層が形成されたことを特徴とする可動接点部品用銀被覆材、
(4)(1)または(2)項に記載の可動接点部品用銀被覆材を製造する方法であって、導電性基材にニッケルまたはニッケル合金を被覆して活性化処理を行った後、中間層を被覆し、銀または銀合金を被覆することを特徴とする可動接点部品用銀被覆材の製造方法、
(5)(3)項に記載の可動接点部品用銀被覆材を製造する方法であって、導電性基材を活性化処理した後、中間層を被覆し、銀または銀合金被覆を行うことを特徴とする可動接点部品用銀被覆材の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、中間層に酸化されにくい金属(合金)層を形成したものであるため、中間層の酸化による最表層(銀層)との密着性の低下を抑制することができる。また、銀層に拡散しにくい金属(合金)層が形成されているので、中間層の成分またはその酸化物等が最表層(銀層)に拡散することによる導電性の低下や中間層と最表層との密着性の低下を抑制することができる。さらに、中間層の製造条件が緩和されるため、製造上の歩留まりが向上するという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の可動接点部品用銀被覆材の一実施態様を示す断面図である。図1において、1は導電性基材、2は下地層、3は中間層、4は最表層である。
【0009】
導電性基材1は、可動接点部品用として用いるに足る導電性、バネ特性、耐久性等を有する材料であり、本発明においては鉄または鉄合金からなる。
基材1として好ましく用いられる鉄合金としては、ステンレス鋼(SUS)、42アロイなどが挙げられる。
基材1の厚さは、0.03〜0.3μmが好ましく、0.05〜0.1μmであることがさらに好ましい。
【0010】
基体1の面上には厚さ0.005〜0.5μm、好ましくは0.01〜0.5μm、さらに好ましくは0.05〜0.1μmのニッケル(Ni)またはNi合金からなる下地層2が被覆されている。下地層2の厚さの下限は、基材1と中間層3との密着性の観点から決定され、下地層2の厚さの上限は、被覆材から電気接点材料をプレス加工等により形成する際に加工性が低下し、下地層2などに割れが発生するおそれを防ぐ観点から決定される。
下地層2に用いられるNi合金としては、Ni−P系、Ni−Sn系、Ni−Co系、Ni−Co−P系、Ni−Cu系、Ni−Cr系、Ni−Zn系、Ni−Fe系などの合金が好適に用いられる。NiおよびNi合金は、めっき処理性が良好で、価格的にも問題がなく、また融点が高いためバリア機能が高温環境下にあっても衰えが少ない。
【0011】
下地層2上には、パラジウム(Pd)、パラジウム合金、または銀スズ合金からなる厚さ0.01〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.2μmの中間層3が被覆される。中間層3として、パラジウムまたはパラジウム合金を用いた場合には、パラジウム及びその合金は硬度が高く、厚くなると加工性が悪く、割れが発生しやすくなるため、パラジウムまたはパラジウム合金を中間層3とする場合、その厚さは0.2μm以下とすることが好ましい。なお、中間層3の厚さの下限は、下地層2の成分の酸化を防ぐ観点から決定される。
パラジウム、パラジウム合金、および銀スズ合金はいずれも銅より酸化されにくい金属または合金である。したがって、銅中間層を施したものと比較して、中間層3の表面の酸化による最表層4の銀または銀合金層との密着性の低下、および中間層3の成分が最表層4に表れて酸化することによる導電性(接触抵抗)の低下が起こりにくい。
【0012】
中間層3に用いられるパラジウム合金としては、金パラジウム合金(Pd−Au)、銀パラジウム合金(Pd−Ag)、スズパラジウム合金(Pd−Sn)、インジウムパラジウム合金(Pd−In)が好ましい。
また、パラジウム(Pd)を合金化することでより拡散しにくくなるため、銀または銀合金層との密着性が低下しにくくなり、さらに中間層3の成分が最表層4に表れて酸化することによる導電性(接触抵抗)の低下が起こりにくくなる。
また、銀スズ合金層を中間層3に用いることで、パラジウム同様に拡散しにくく、銀または銀合金層との密着性が低下しにくくなり、さらに中間層3の成分が最表層4に表れて酸化することによる導電性(接触抵抗)の低下が起こりにくくなる。
【0013】
中間層3上には、銀(Ag)または銀合金からなる最表層4が形成される。銀(Ag)または銀合金からなる最表層4は接点部材としての導電性を向上させるために設ける層であり、その厚さは好ましくは0.5〜3.0μm、さらに好ましくは1.0〜2.0μmである。
また、最表層4として好ましく用いることができる銀合金としては、銀スズ合金、銀ニッケル合金、銀銅合金、銀パラジウム合金などの2成分系、それらを組み合わせた多成分系の合金を挙げることができる。
【0014】
上記可動接点部品用銀被覆材の下地層2、中間層3、および最表層4は、めっき法やPVD法などによって被覆し形成できるが、湿式めっき法により被覆形成することが簡便かつ低コストで望ましい。
【0015】
図1に示す態様の可動接点部品用銀被覆材は、例えば、導電性基材を電解脱脂などの前処理を行い、ニッケルまたはニッケル合金めっきによりニッケルまたはニッケル合金を被覆し、活性化処理を行った後、パラジウムめっきまたはパラジウム合金めっきまたは銀スズ合金めっきにより中間層被覆して、銀または銀合金めっきにより銀被覆することで形成することができる。
【0016】
図2は本発明の可動接点部品用銀被覆材の別の実施態様を示す断面図である。図2において、11は鉄または鉄合金からなる導電性基材、13はパラジウム、パラジウム合金、または銀スズ合金からなる中間層、14は銀または銀合金からなる最表層である。
導電性基材11、中間層13、最表層14の厚さおよび好ましい態様は、それぞれ上記の導電性基材1、中間層3、最表層4と同様である。
【0017】
図2に示す態様の可動接点部品用銀被覆材は、例えば、導電性基材を活性化処理した後、ニッケルまたはニッケル合金を被覆せずに、パラジウムめっきまたはパラジウム合金めっきまたは銀スズ合金めっきにより中間層を被覆して、銀または銀合金めっきにより銀被覆することで形成することができる。
【0018】
本発明の可動接点部品用銀被覆材は、例えばコネクタ、スイッチ、端子および電子接点材料の皿バネ材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0020】
実施例1〜30
厚さ0.06mmのSUS301、SUS304、SUS403、またはSUS430(いずれもJIS規格ステンレス鋼)からなる条に以下の処理を行い、表1に示す層構成の銀被覆材を得た。後、実施例1〜8における(2)〜(7)の処理を施し、表1に示す層構成の銀被覆材を得た。ただし、中間層めっきは(4)〜(7)を含めた中から、表1の中間層の種類に示す種類に対応するめっきが施された。また、最表層は表1の最表層の種類に示す種類に対応する(7)あるいは(8)、(9)のめっきが行われた。
(1)前処理:オルソケイ酸ソーダ100g/lの水溶液を用いて陰極電解して電解脱脂した。
(2)ニッケル下地めっき:塩化ニッケル5g/lと30%遊離塩酸のめっき液を用いて陰極電流密度2A/dmの条件で施し、下地層を形成した。
(3)活性化処理:ニッケル下地めっき後のCu−Be条を40〜90℃の温水〜熱水に3秒以上保持して施した。電解脱脂から活性化処理までの間のBe−Cu条の温度は、Be−Cu条を冷却器により温度調整した水洗槽内に浸漬して制御した。
(4)中間層(Pd)めっき:硫酸パラジウム100g/lと遊離塩酸20g/lを含むめっき液を用い、陰極電流密度5A/dmの条件で施し、中間層を形成した。
(5)中間層(Pd−Au、Pd−Ag)めっき:硫酸パラジウム100g/lと金または銀の金属塩30g/lと遊離塩酸20g/lを含むめっき液を用い、陰極電流密度5A/dmの条件で施した。
(6)中間層(Pd−Sn、Pd−Ni、Pd−In)めっき:硫酸パラジウム100g/lとスズ、ニッケル、またはインジウムの各金属塩30g/lと遊離塩酸20g/lを含むめっき液を用い、陰極電流密度5A/dmの条件で施した。
(7)中間層または最表層(Ag−Sn):シアン化銀50g/l、シアン化カリウム50g/l、炭酸カリウム30g/lとSnの金属塩30g/lを含むめっき液を用いて、陰極電流密度5A/dmの条件で施した。
(8)最表層(銀ストライクめっき):シアン化銀5g/lとシアン化カリウム50g/lを含むめっき液を用い、陰極電流密度2A/dmの条件で施した。
(9)最表層(銀めっき):シアン化銀50g/l、シアン化カリウム50g/l、炭酸カリウム30g/lを含むめっき液を用いて、陰極電流密度5A/dmの条件で施した。
【0021】
実施例1〜30の各層めっきに関して、中間層めっきについては上記(4)〜(7)のいずれかを施せばよい。また、上記(8)の銀ストライクめっきは、最表層である上記(7)の銀スズ合金めっきまたは上記(9)の銀めっきの密着性をさらに高めるために必要に応じて行われるもので、本実施例では厚さ0.01〜0.05μmの範囲となるようにした。実際には、0.005〜0.1μmの範囲であればよい。この場合、最表層の厚さは、上記(8)のめっきの厚さと上記(7)または上記(9)のめっきの厚さを加えたものとする。
【0022】
なお、上記(7)において、めっき液の成分を中間層めっきと最表層めっきとで共通にしているが、これはあくまでも一例であって、成分は銀が主成分となる範囲で適宜変更することができる。また、中間層めっきおよび最表層めっきをともに銀スズめっきとすることもできるが、この場合は両者の厚さを適切にする(特に中間層の上限の超過を防ぐ)ため、間に上記(8)のめっき液を用いた銀ストライクめっきを施すことが前提となる。銀ストライクめっきを施すことで、中間層めっきと最表層めっきとの間の密着性が高まるだけでなく、中間層における割れの発生を抑制することもできる。
【0023】
比較例1〜4
中間層めっきとして、硫酸銅150g/lと遊離硫酸100g/lを含むめっき液を用い、陰極電流密度5A/dmの条件でCuめっきを施した以外は、実施例9〜22と同様にして、表1に示す層構成の銀被覆材を得た。ただし、比較例3では中間層めっきを施さず、また、比較例4ではニッケル下地めっきおよび中間層めっきを施さなかった。
【0024】
試験例
得られた実施例および比較例の各々の銀被覆材を温度400℃の大気中で5〜15分間加熱後の剥離試験を行い、めっきの密着性を調べた。剥離試験は、JIS K 5600−5−6(クロスカット法)に基づき試験した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示されるように、比較例1〜4では、いずれも10分経過後には剥離が発生し、特に比較例4では、5分経過後には剥離が発生していた。
これに対し、実施例1〜30はいずれも15分経過後にも剥離は発生せず、すぐれた最表層の耐剥離性を示した。
このように、本発明の可動接点部品用銀被覆材は、(1)中間層の酸化による銀層と密着性の低下が抑制され、(2)中間層の成分またはその酸化物等が銀層に拡散することによる導電性の低下(接触抵抗の上昇)や中間層と最表層との密着性の低下が抑制され、(3)中間層の製造条件が緩和されるため、製造上の歩留まりが向上したものであることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一つの実施態様を示す縦断面図である。
【図2】本発明の別の実施態様を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 鉄または鉄合金からなる導電性基材
2 NiまたはNi合金からなる下地層
3 PdまたはPd合金またはAgSn合金からなる中間層
4 銀または銀合金からなる最表層
11 鉄または鉄合金からなる導電性基材
13 PdまたはPd合金またはAgSn合金からなる中間層
14 銀または銀合金からなる最表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄または鉄合金からなる導電性基材上に厚さ0.005〜0.5μmのニッケルまたはニッケル合金からなる下地層が被覆され、該下地層上に厚さ0.01〜0.5μmのパラジウム、パラジウム合金、または銀スズ合金からなる中間層が被覆され、該中間層上に銀または銀合金からなる最表層が形成されたことを特徴とする可動接点部品用銀被覆材。
【請求項2】
前記中間層のパラジウム合金が、金パラジウム、銀パラジウム、スズパラジウム、ニッケルパラジウム、またはインジウムパラジウムであることを特徴とする請求項1に記載の可動接点部品用銀被覆材。
【請求項3】
鉄または鉄合金からなる導電性基材上に厚さ0.01〜0.5μmのパラジウム、パラジウム合金、または銀スズ合金からなる中間層が被覆され、該中間層上に銀または銀合金からなる最表層が形成されたことを特徴とする可動接点部品用銀被覆材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の可動接点部品用銀被覆材を製造する方法であって、導電性基材にニッケルまたはニッケル合金を被覆して、活性化処理を行った後、中間層を被覆し、銀または銀合金を被覆することを特徴とする可動接点部品用銀被覆材の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の可動接点部品用銀被覆材を製造する方法であって、導電性基材を活性化処理した後、中間層を被覆し、銀または銀合金を被覆することを特徴とする可動接点部品用銀被覆材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−270193(P2008−270193A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76885(P2008−76885)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】