説明

可変バルブタイミング装置

【課題】オイル粘度が高い場合等においても、制御弁のスプールを保持位置で停止させることが可能な可変バルブタイミング装置を提供する。
【解決手段】スリーブ18内のスプール12の位置によって油圧アクチュエータ20に対する作動油の給排を制御するOCV10と、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいたOCV駆動デューティをOCV10に出力することによって、油圧アクチュエータ20の動作を制御する制御装置40とを備え、制御装置40は、スプール12を作動位置から保持位置に移動させる場合には、OCV10に、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいたOCV駆動デューティを出力すると共に、スプール12が保持位置に戻るための、当該OCV駆動デューティと逆極性のOCV駆動デューティを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変バルブタイミング装置に関し、詳細には、内燃機関の吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを制御する可変バルブタイミング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の運転状態に応じて、吸気弁または排気弁の開閉タイミングを制御し、出力増加または燃費の改善を図ることのできる可変バルブタイミング機構(以下、「VVT」とも称する)は公知である。
【0003】
VVTでは、クランク軸に対するカム軸の変位角を変化させるための手段として、油圧アクチュエータが用いられている。この油圧アクチュエータには、2つの油室、すなわち、進角側油室と遅角側油室とが設けられている。進角側油室への作動油の供給および遅角側油室からの作動油の排出によってバルブタイミングは進角され、遅角側油室への作動油の供給および進角側油室からの作動油の排出によってバルブタイミングは遅角される。
【0004】
油圧アクチュエータの両油室に対する作動油の給排は、制御弁(OCV)によって制御されている。制御弁は、スリーブ内のスプールの位置によって作動油の給排を制御することができる。スプールがスリーブ内の保持位置(中立位置)にあるとき、両油室はともに油圧ポンプおよびオイルタンクとの連通が遮断されている。スプールが中立域から一方(進角方向)に移動することで、進角側油室が油圧ポンプに接続され、遅角側油圧がオイルタンクに接続される。スプールは、ソレノイドによって駆動され、その位置はソレノイドに出力されるデューティ(電流値)によって制御されている。
【0005】
制御弁においてスプールが位置する中立域は、一定の幅をもって形成されている。スプールが中立域を移動している間は、両油室に対する作動油の給排は行われないか或いはほとんど行われない。このため、可変バルブタイミング機構には、作動油の供給流量がほぼゼロとなるデューティ、すなわち、現在のバルブタイミングを保持するデューティ付近に、デューティ値の変化に対するバルブタイミングの応答が無いか或いは応答性の低い不感帯が存在する。
【0006】
バルブタイミングを進角させるには、制御弁に出力するデューティを保持デューティから増大側に変化させる。逆にバルブタイミングを遅角させる場合は、制御弁に出力するデューティを保持デューティ側から減少側に変化させる。その際、デューティが不感帯を超えるまではバルブタイミングの変化速度は小さく、デューティが不感帯を超えた時点からバルブタイミングはデューティの値に応じて急激に変化し始める。このように、不感帯の存在は、バルブタイミングの制御性に大きな影響を与えている。
【0007】
図6は、VVT作動時とVVT保持時の制御弁のスプールの位置を説明するための模式図である。同図において、100は制御弁(OCV)、101はスリーブ、102はスプール、103はソレノイド、104はスプリングを示しており、(A)はVVT作動時、(B)はVVT保持時を示している。オイル粘度や油圧が高い場合およびオイル流量が多い場合等には、制御弁100のスプール102が動きにくい状態となる。また、制御弁100に保持デューティを出力したときのスプール102の変位速度はデューティ100%や0%の時に比べて遅い。このため、オイル粘度や油圧が高い場合およびオイル流量が多い場合等には、スプール102をVVT作動時の状態からVVT保持位置(中立位置)の状態へ移動させる場合に、スプール102の移動に時間がかかり、スプール102が保持位置を通り過ぎてしまう場合があるという問題がある。
【0008】
例えば、特許文献1では、低油温時(オイル粘度増大時)には、信号のデューティ比DRを所定の保持時間だけ大きな値(0または100パーセント)に保持して可変バルブタイミングを駆動し、その後可変バルブタイミングが動作しない値(50パーセント)に保持するインチング動作を繰返すことにより機関バルブタイミングを制御する技術が提案されている。しかしながら、かかる特許文献1では、オイル制御弁のスプールを保持位置で停止させる方法については、具体的に記載されていない。
【0009】
【特許文献1】特開2003−254017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、オイル粘度が高い場合等においても、制御弁のスプールを保持位置で停止させることが可能な可変バルブタイミング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決して、本発明の目的を達成するために、本発明は、内燃機関の吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを制御する可変バルブタイミング装置において、作動油の給排によって動作し、前記開閉タイミングを変化させる油圧アクチュエータと、スリーブ内のスプールの位置によって前記油圧アクチュエータに対する作動油の給排を制御する制御弁と、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいた駆動電流を、前記制御弁に出力することによって、前記油圧アクチュエータの動作を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記スプールを作動位置から保持位置に移動させる場合には、前記制御弁に、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいた駆動電流を出力すると共に、前記スプールが保持位置に戻るための、当該駆動電流と逆極性の駆動電流を出力することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記制御手段は、前記スプールを作動位置から保持位置に移動させる場合には、前記制御弁に、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいた駆動電流を出力すると共に、0<前記偏差<第1の閾値、かつ、前記油圧アクチュエータの変位速度>第2の閾値の場合に、前記スプールが保持位置に戻るための、当該駆動電流と逆極性の駆動電流を出力することが望ましい。
【0013】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記逆極性の駆動電流は、0<前記偏差<第1の閾値、かつ、前記油圧アクチュエータの変位速度>第2の閾値となった際の駆動電流値からブレーキ電流値を減じたものであることが望ましい。
【0014】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記駆動電流が出力される信号域のうち、駆動電流に対する前記油圧アクチュエータの応答が無いまたは応答性が低い不感帯を学習する不感帯学習手段を備え、前記逆極性の駆動電流は、不感帯上端の駆動電流値からブレーキ電流値を減じたものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内燃機関の吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを制御する可変バルブタイミング装置において、作動油の給排によって動作し、前記開閉タイミングを変化させる油圧アクチュエータと、スリーブ内のスプールの位置によって前記油圧アクチュエータに対する作動油の給排を制御する制御弁と、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいた駆動電流を、前記制御弁に出力することによって、前記油圧アクチュエータの動作を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記スプールを作動位置から保持位置に移動させる場合には、前記制御弁に、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいた駆動電流を出力すると共に、前記スプールが保持位置に戻るための、当該駆動電流と逆極性の駆動電流を出力することとしたので、オイル粘度が高い場合等においても、制御弁のスプールを保持位置で停止させることが可能な可変バルブタイミング装置を提供することが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の実施例に係る可変バルブタイミング装置の概略構成図である。可変バルブタイミング装置は、図1に示すように、クランク軸に対する吸気側または排気側のカム軸(不図示)の変位角を変化させるための油圧アクチュエータ20を備えている。油圧アクチュエータ20は、クランク軸に同期して回転するハウジング22と、ハウジング22内に配置されたカム軸に同期して回転するロータ24とを備えている。ハウジング22の内部には油室26、28が形成されている。この油室26、28は、ロータ24の回転によって進角側油室26と遅角側油室28とに区画されている。
【0018】
油圧アクチュエータ20は、油室26、28へ作動油が供給されてハウジング22に対するロータ24の回転角が変化することによって動作する。進角側油室26へ作動油が供給されるときには、油圧アクチュエータ20はクランク軸に対するカム軸の変位角を進角側に変化させるように動作し、遅角側油室28へ作動油が供給されるときにはクランク軸に対するカム軸の変位角を遅角側に変化させるように動作する。このとき、作動油が供給されていない側の油室からは、作動油が供給される側の油室の拡大に伴い内部の作動油が押し出されて排出されるようになっている。
【0019】
油圧アクチュエータ20に供給される作動油は、エンジンにより駆動されるオイルポンプ30から圧送される。オイルポンプ30と油圧アクチュエータ20との間にはOCV(制御弁)10が設けられている。OCV10は、4ポートスプール弁であって、スリーブ18内のスプール12の位置によって、油圧アクチュエータ20の両油室26、28に対する作動油の給排を制御することができる。OCV10のAポートは、油圧アクチュエータ20の進角側油室26に接続され、Bポートは遅角側油室28に接続されている。また、OCV10のPポートは、オイルポンプ30に接続され、Rポートはオイルタンク32に接続されている。
【0020】
スプール12は、移動方向の一方の端部をスプリング16によって支持され、他方の端部をソレノイド14によって支持されている。スリーブ18内でのスプールの位置は、ソレノイド14に供給する駆動電流のデューティ(OCV駆動デューティ)によって制御することができる。同図に示すスプール12の位置では、A、BポートとP、Rポートとの連通が遮断されて、両油室26、28に対する作動油の給排は実質的に行わない。以下、A、Bポートと、P、Rポートとの連通が遮断されるスプール12の動作域を中立域(保持位置)という。
【0021】
スプール12が中立域(保持位置)にある状態においてOCV駆動デューティが増大されると、スプール12は、ソレノイド14に押されて移動する。これにより、AポートがPポートに連通して、遅角側油室28への作動油の供給と進角側油室26からの作動油の排出とが同時に行われるようになる。以下、遅角側油圧28へ作動油が供給されるスプール12の動作域を遅角域という。OCVの制御は、制御装置40によって行われる。油圧アクチュエータ20とOCV10とにより可変バルブタイミング機構(VVT)が構成される。
【0022】
制御装置40は、CPU、RAM、ROM、I/Oポート、A/D変換器、および駆動回路等で構成されている。I/Oポートには、カム軸の位相を検出するカム角センサ44、クランク軸の位相を検出するクランク角センサ42、OCV10から油圧アクチュエータ20への作動油の油温、油圧を検出する油温センサ46、油圧センサ47等が接続されている。
【0023】
制御装置40は、クランク軸に対するカム軸の目標変位角を設定し、目標変位角と実際の変位角である制御変位角との偏差に基づいて、駆動電流であるOCV駆動デューティを算出する。制御装置40は、算出したOCV駆動デューティを制御信号としてOCV10に出力する。なお、目標変位角は、エンジンの運転状態をパラメータとするマップから決定される。制御変位角は、クランク角センサ42の出力信号とカム角センサ44の出力信号とから算出することができる。
【0024】
制御装置40は、機関運転条件に最適な吸気弁または排気弁のバルブタイミングを設定するため、油圧アクチュエータ20の制御変位角と目標変位角との偏差に基づくフィードバック制御によってOCV10のデューティ制御を行う。より具体的には、フィードバック制御にはPD制御が用いられる。制御装置40には、エンジン回転数NEおよび油温と制御ゲインとの関係が予めマップデータとして記憶されている。エンジン回転数NEは、クランク角センサ42の出力信号に基づいて検出することができる。PD制御におけるP制御の制御量は、目標変位角と制御変位角との偏差とP制御ゲインとから算出される。また、D制御の制御量は、目標変位角と制御変位角との偏差の変化速度とD制御ゲインとから算出される。
【0025】
図2は、VVTにおけるOCV駆動デューティと油圧アクチュエータ20の変位速度(クランク軸に対するカム軸の変位角の変化速度)との関係を示す特性図である。同図において、VVTには、油圧アクチュエータ20の変位速度がゼロに保持されるデューティ(保持デューティ)の付近に、デューティ値の変化に対して、変位速度の変化の小さい、すなわち、デューティ値の変化に対する応答性が低い不感帯が存在する。前述の中立域は、一定の幅をもって形成されている。スプール12が中立域内にあるときのOCV駆動デューティの範囲が不感帯となる。
【0026】
OCV駆動デューティが不感帯を超えて増大すると、油圧アクチュエータ20の変位速度は、進角側に増大し始め、OCV駆動デューティの変化に対して線形に変化する。これは、スプール12の動作域が中立域から進角域に入ったことによる。OCV駆動デューティがある程度まで増大した時点で油圧アクチュエータ20の変位速度は最大進角速度に達し、それ以上OCV駆動デューティを増大させても変位速度は一定に保持される。この時、スプール12は進角域の限界位置まで移動し、AポートとPポートとが、また、BポートとRポートとが完全に連通した状態となっている。
【0027】
逆に、OCV駆動デューティが不感帯を超えて低減されると、油圧アクチュエータ20の変位速度は、遅角側に増大し始め、OCV駆動デューティの変化に対して線形に変化する。これは、スプール12の動作域が中立域から遅角域に入ったことによる。OCV駆動デューティがある程度まで減少した時点で油圧アクチュエータ20の変位速度は最大遅角速度に達し、それ以上OCV駆動デューティを減少させても変位速度は一定に保持される。この時、スプール12は遅角域の限界位置まで移動し、AポートとRポートとが、また、BポートとPポートとが完全に連通した状態となっている。
【0028】
制御装置40は、OCV10の不感帯を、OCV10のデューティ制御により油圧アクチュエータ20の動作を制御する中で学習する。不感帯の学習方法は従来提案されている何れの方法を使用することにしてもよい。例えば、本願出願人の特願2007−010308で提出されている方法を使用することができる。また、油圧アクチュエータ20の変位速度の絶対値を計算し、その前回値は所定の基準値より小さいが、今回値は所定の基準値より大きくなったとき、その時点でのOCV駆動デューティを不感帯の上端値或いは下端値として学習する方法を用いることができる。また、油圧アクチュエータ20の変位速度の絶対値が所定の基準値以下の範囲でOCV駆動デューティの最大値を不感帯の上端値として学習し、同範囲でのOCV駆動デューティの最小値を不感帯の下端値として学習する方法もある。
【0029】
つぎに、制御装置40が、VVTの作動時の状態からVVTの保持時(中立位置)の状態にOCV10のスプール12を移動させる場合の制御について説明する。上述したように、オイル粘度や油圧が高い場合およびオイル流量が多い場合等には、VVTの応答が遅くなり、OCV10のスプール12がVVT作動時の状態からVVT保持時の状態へ移動する場合に、スプール12が保持位置(中立位置)を通り過ぎてしまう場合がある。本実施例では、制御装置40は、OCV10のスプール12を作動位置から保持位置に移動させるに際して、OCV10のスプール12を保持位置へ戻すように、逆極性のOCV駆動デューティを短時間出力するブレーキ処理を実行する。
【0030】
図3は、制御装置40が、OCV10のスプール12を作動位置から保持位置に移動させる場合の制御を説明するためのタイミングチャートの一例を示す図である。図3において、(A)は、目標変位角(目標値)と制御変位角(制御値)の変化を、(B)は、その場合のOCV駆動デューティの変化を示している。図4は、制御装置40が、OCV10のスプール12を作動位置から保持位置に移動させる場合の制御の概略を説明するためのフローチャートである。
【0031】
図4において、制御装置40は、制御変位角と目標変位角との偏差Dに基づくフィードバック制御(PD制御)によってOCV10のデューティ制御を行う(ステップS1)。このフィードバック制御では、制御装置40は、エンジンの運転状態で定まる目標変位角と実際のバルブタイミングである制御変位角との偏差Dを算出するとともに、PD制御によるOCV駆動デューティを算出し、OCV10のソレノイド14に供給する。
【0032】
つぎに、ブレーキ処理実行条件、すなわち、0<偏差D<A(第1の閾値)、かつ、油圧アクチュエータ20の変位速度V(クランク軸に対するカム軸の変位角の変化速度)>B(第2の閾値)が成立するか否かを判定する(ステップS2)。変位速度Vは、クランク角センサ42の出力信号とカム角センサ44の出力信号とから算出することができる。ここで、偏差Dを判定しているのは、ブレーキ処理は、スプール12を保持位置に戻す(停止させる)ための制御であるので、偏差Dが大きい状態でブレーキ処理を行うと、アンダーシュートを生じる可能性があるためである。また、変位速度Vを判定しているのは、油温が高く作動油粘度が充分に低い場合や油圧が低い場合には、通常のフィードバック制御を実行しても何ら問題は生じないため設けた条件である。このため、油温が所定値以上および油圧が所定値以下になった場合には、ブレーキ処理を禁止することにしてもよい。
【0033】
ブレーキ処理実行条件が成立する場合には(ステップS2の「Yes」)、ブレーキ処理を実行して、スプール12を保持位置まで戻すための逆極性(逆向きの)のOCV駆動デューティを出力する(ステップS3)。ブレーキ処理実行条件が成立しない場合には(ステップS2の「No」)、ブレーキ処理を実行しない。
【0034】
ここで、逆極性のOCV駆動デューティ=(PD制御により求めたOCV駆動デューティ)−(ブレーキデューティ量(ブレーキ電流値))、または逆極性のOCV駆動デューティ=(不感帯上端デューティ)−(ブレーキデューティ量)とすることができる。ブレーキデューティ量は、OCV10を流れる作動油により位置がずれているスプール12を、変位速度Vの小さい不感帯の中へ移動させるために必要なソレノイド14の電磁力を発生させるためのものであり、偏差D、油温、油圧、およびエンジン回転NEなどにより決定する。逆極性のOCV駆動デューティを出力する時間(ブレーキ時間)は、ブレーキ処理実行条件が成立している時間および予め定めた所定時間のうちのいずれか短い時間である。
【0035】
図3に示す例では、時刻t1で、目標変位角(目標値)と制御変位角(制御値(実際値))との偏差Dが小さくなり(0<偏差D<A)、かつ、変位速度V>Bとなっているので、OCVのスプール12を保持位置まで戻すための逆極性のOCV駆動デューティの出力を開始し、時刻t2で、変位速度Vが小さくなり、ブレーキ制御実行条件が不成立となるので(ただし、ブレーキ処理実行条件時間<所定時間)、逆極性のOCV駆動デューティの出力を停止する。
【0036】
図5は、制御装置40が、OCV10のスプール12を作動位置から保持位置に移動させる場合の制御を説明するためのタイミングチャートの他の例を示す図である。図5において、(A)は、目標変位角(目標値)と制御変位角(制御値)の変化を、(B)は、その場合のOCV駆動デューティの変化を示している。上記図4に示す例では、逆極性のOCV駆動デューティを1回出力する構成としたが、図5に示すように、逆極性のOCV駆動デューティを複数回出力する構成としてもよい。逆極性のOCV駆動デューティの大きさおよびその出力時間は、パルス回数、偏差、油温、油圧、およびエンジン回転NE等により決定する。
【0037】
以上説明したように、本実施例によれば、作動油の給排によって動作し、吸気弁または排気弁の開閉タイミングを変化させる油圧アクチュエータ20と、スリーブ18内のスプール12の位置によって油圧アクチュエータ20に対する作動油の給排を制御するOCV10と、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいたOCV駆動デューティを、OCV10に出力することによって、油圧アクチュエータ20の動作を制御する制御装置40とを備え、制御装置40は、スプール12を作動位置から保持位置に移動させる場合には、OCV10に、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいたOCV駆動デューティを出力すると共に、スプール12が保持位置に戻るための、当該OCV駆動デューティと逆極性のOCV駆動デューティを出力することとしたので、オイル粘度が高い場合等においても、OCVのスプールを保持位置で停止させることが可能となる。
【0038】
また、本実施例によれば、制御装置40は、スプール12を作動位置から保持位置に移動させる場合には、OCV10に、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいたOCV駆動デューティを出力すると共に、0<偏差D<A(第1の閾値)、かつ、油圧アクチュエータ20の変位速度V>B(第2の閾値)の場合に、スプール12が保持位置に戻るための、OCV駆動デューティと逆極性のOCV駆動デューティを出力することとしたので、不要なブレーキ処理が実行されることを防止することが可能となる。
【0039】
また、本実施例によれば、逆極性のOCV駆動デューティは、0<偏差D<A(第1の閾値)、かつ、油圧アクチュエータ20の変位速度>B(第2の閾値)となった際のOCV駆動デューティ値−(ブレーキデューティ量)としたので、簡単に逆極性のOCV駆動デューティを算出することが可能となる。
【0040】
また、本実施例によれば、制御装置40は、OCV駆動デューティが出力される信号域のうち、OCV駆動デューティに対する油圧アクチュエータ20の応答が無いまたは応答性が低い不感帯を学習し、逆極性のOCV駆動デューティを、(不感帯上端のOCV駆動デューティ)−(ブレーキデューティ量)としたので、簡単に逆極性のOCV駆動デューティを算出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る可変バルブタイミング装置は、スプールを備えた制御弁を使用する可変バルブタイミング装置に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例に係る内燃機関の可変バルブタイミング装置の概略構成図である。
【図2】バルブタイミング可変機構におけるOCV駆動デューティと油圧アクチュエータの変位速度(クランク軸に対するカム軸の変位角の変化速度)との関係を示す特性図である。
【図3】制御装置が、OCVのスプールを作動位置から保持位置に移動させる場合の制御を説明するためのタイミングチャートの一例を示す図である。
【図4】制御装置が、OCVのスプールを作動位置から保持位置に移動させる場合の制御の概略を説明するためのフローチャートである。
【図5】制御装置が、OCVのスプールを作動位置から保持位置に移動させる場合の制御を説明するためのタイミングチャートの他の例を示す図である。
【図6】VVT作動時とVVT保持時の制御弁のスプールの位置を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0043】
10 OCV(制御弁)
12 スプール
14 ソレノイド
16 スプリング
18 スリーブ
20 油圧アクチュエータ
22 ハウジング
24 ロータ
26 進角側油室
28 遅角側油室
30 オイルポンプ
32 オイルタンク
40 制御装置
42 クランク角センサ
44 カム角センサ
46 油温センサ
47 油圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを制御する可変バルブタイミング装置において、
作動油の給排によって動作し、前記開閉タイミングを変化させる油圧アクチュエータと、
スリーブ内のスプールの位置によって前記油圧アクチュエータに対する作動油の給排を制御する制御弁と、
目標変位角と制御変位角の偏差に基づいた駆動電流を、前記制御弁に出力することによって、前記油圧アクチュエータの動作を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記スプールを作動位置から保持位置に移動させる場合には、前記制御弁に、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいた駆動電流を出力すると共に、前記スプールが保持位置に戻るための、当該駆動電流と逆極性の駆動電流を出力することを特徴とする可変バルブタイミング装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記スプールを作動位置から保持位置に移動させる場合には、前記制御弁に、目標変位角と制御変位角の偏差に基づいた駆動電流を出力すると共に、0<前記偏差<第1の閾値、かつ、前記油圧アクチュエータの変位速度>第2の閾値の場合に、前記スプールが保持位置に戻るための、当該駆動電流と逆極性の駆動電流を出力することを特徴とする可変バルブタイミング装置。
【請求項3】
前記逆極性の駆動電流は、0<前記偏差<第1の閾値、かつ、前記油圧アクチュエータの変位速度>第2の閾値となった際の駆動電流値からブレーキ電流値を減じたものであることを特徴とする請求項2に記載の可変バルブタイミング装置。
【請求項4】
前記駆動電流が出力される信号域のうち、駆動電流に対する前記油圧アクチュエータの応答が無いまたは応答性が低い不感帯を学習する不感帯学習手段を備え、
前記逆極性の駆動電流は、不感帯上端の駆動電流値からブレーキ電流値を減じたものであることを特徴とする請求項2に記載の可変バルブタイミング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−68646(P2009−68646A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239662(P2007−239662)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】