説明

可変圧縮比機構

【課題】カムの回動によってシリンダブロックをクランクケースに対して相対移動させることにより内燃機関の圧縮比を変更する可変圧縮比機構において、カム軸とカム軸の軸受部の間に好適に油膜を形成することができる技術を提供する。
【解決手段】カム軸が連続して所定時間以上、圧縮比の変更のための回動を行わずに停止していた場合には(S103)、油膜形成手段が、カム軸を往復回動させることにより、カム軸とカム軸の軸受部の間に油膜を形成する(S104)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室容積を変更することにより圧縮比を可変とする可変圧縮比機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の燃費性能や出力性能などを向上させることを目的として、内燃機関の圧縮比を可変にする技術が提案されている。この種の技術としては、シリンダブロックとクランクケースとを相対移動可能に連結するとともにその連結部分にカム軸を設け、前記カム軸を回動させてシリンダブロックとクランクケースとを接近又は離反させることにより圧縮比を変更する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2003−206771
【特許文献2】特開平7−26981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術においては、燃焼圧やシリンダブロックの自重等に起因した荷重がカム軸とカム軸の軸受部の間に作用するため、カム軸とカム軸の軸受部との間に形成された潤滑油の油膜を保持することが困難になる。更に、上記従来技術におけるカム軸は、クランクシャフトや動弁系のカム軸のように高速で且つ常時回転しているわけではないので、カム軸とカム軸の軸受部との間に周囲から潤滑油が供給され難く、油膜を形成することが困難である。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、カム軸の回動によってシリンダブロックをクランクケースに対して相対移動させることにより圧縮比を変更する可変圧縮比機構において、カム軸における摺動部に好適に油膜を形成することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明は、カム軸を回動させることによりシリンダブロックとクランクケースを相対移動させて圧縮比を変化させる可変圧縮比機構において、油膜形成手段が、カム軸における摺動部分に油膜を形成することを最大の特徴とする。
【0006】
より詳しくは、内燃機関のシリンダブロックとクランクケースを相対移動可能に連結するとともに該連結部にカム軸を回動自在に設け、前記カム軸を回動させることにより前記シリンダブロックと前記クランクケースとを相対移動させて前記内燃機関の圧縮比を変更する可変圧縮比機構であって、
前記カム軸と該カム軸の軸受部との間に油膜を形成する油膜形成手段を備えたことを特徴とする。
【0007】
すなわち、本発明に係る可変圧縮比機構において、シリンダブロックとクランクケースとを相対移動させるカム軸は、カム軸と軸受部との間に油膜を形成する油膜形成手段を備えている。
【0008】
このことにより、潤滑油の油膜切れが発生しやすいカム軸と軸受部との間に、潤滑油による油膜を形成することができるので、潤滑油の油膜切れを防止することができ、また、油膜切れが生じている場合には油膜を再形成することができる。従って、カム軸を回動させるときに、カム軸の回転抵抗の増加を抑制し、結果として、速やか且つ円滑な圧縮比の
変更を可能とする。
【0009】
なお、本発明において、カム軸には、その回動の際の回動中心となる軸部と、軸部に対して偏心して形成されたカム面を有するカム部とが含まれている。また、軸受部には、前記軸部を回動可能に支持する軸受と、前記カム面が当接する相手側であるカム当接面とが含まれる。
【0010】
本発明における可変圧縮比機構の具体的な例としては、例えば、シリンダを有するシリンダブロックと、ピストン及び該ピストンと連結されたクランクシャフトを有するクランクケースと、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの間に構築され、前記シリンダの両側に平行に配置された一対のカム軸と、前記一対のカム軸を回動させる回動手段と、を備え、
前記シリンダブロックは、前記クランクケースに相対移動可能に取り付けられ、
前記カム軸は、軸部と、該軸部に固定されたカム部と、該軸部に回転可能に設けられた可動軸受部と、を有し、該カム部は、前記シリンダブロック又は前記クランクケースの一方に形成されたカム収納孔に収納され、前記可動軸受部が回転可能に設けられた軸部は、前記可動軸受部に形成された軸収納孔に収納され、前記可動軸受部は、前記シリンダブロックまたは前記クランクケースの他方に形成された軸受収納孔に収納され
前記回動手段が前記カム軸を回動させて前記シリンダブロックを前記クランクケースに対して前記シリンダの軸方向に相対移動させることにより前記シリンダ内の圧縮比を変更する可変圧縮比機構であって、
前記カム部と前記カム収納孔との間及び、前記軸部と前記軸収納孔との間及び、前記可動軸受部と前記軸受収納部の間のうちの少なくともいずれかに油膜を形成する油膜形成手段を備える可変圧縮比機構であってもよい。
【0011】
すなわち、カム軸は、軸部と、軸部に固定されたカム部と、軸部に回転可能に設けられた可動軸受部とを有し、カム部は、シリンダブロック又はクランクケースの一方に形成されたカム収納孔に収納され、軸部は可動軸受部に形成された軸収納孔に収納され、可動軸受部は、シリンダブロックまたはクランクケースの他方に形成された軸受収納孔に収納される構成をとることにより、単純な機構によってシリンダブロックをシリンダの軸方向に相対移動させるようにした可変圧縮比機構において、前記カム部と前記カム収納孔との間及び、前記軸部と前記軸収納孔との間及び、前記可動軸受部と前記軸受収納部の間のうちの少なくともいずれかに対して油膜を形成する油膜形成手段を備えた。なお、この具体例では、カム軸には上記のように、カム部と、軸部と、可動軸受部が含まれ、軸受部には、カム収納孔と、軸収納孔と、軸受収納孔とが含まれる。
【0012】
このような機構においては、単純な機構によって大きなストロークの相対移動が可能になる一方、カム軸のカム部とカム収納孔との間の他に、カム軸の軸部と軸収納部との間、可動軸受部と軸受収納孔との間についても油膜切れが発生するおそれがあり、油膜切れが生じないよう、より一層の注意が必要である。従って、このような機構において油膜形成手段を備えることにより、カム軸の回転抵抗の増加を抑制し、速やか且つ円滑な圧縮比の変更を可能とする効果がより一層顕著になる。
【0013】
ここで、カム軸と軸受部との間に油膜を形成する方法としては、カム軸を軸受部に対して相対運動させる方法を挙げることができる。油膜切れが発生する場合、潤滑油が実際に摺動運動の行われている、カム軸と軸受部との間から、他の場所に移動してしまい、カム軸と軸受部との間には油膜を形成しなくなることが多い。従って、カム軸を軸受部に対して相対運動させることにより、カム軸と軸受部との間から他の場所に移動してしまった潤滑油を、カム軸と軸受部との間に呼び戻すことができ、これによりカム軸と軸受部との間に油膜を形成することができる。
【0014】
この方法を用いることにより、新たにカム軸と軸受部との間に潤滑油を供給する必要がなく簡単な制御で、無駄に潤滑油を消費せずに、カム軸の回転抵抗の増加を抑制し、速やか且つ円滑な圧縮比の変更を可能とする。
【0015】
ここで、カム軸を軸受部に対して相対運動させて、カム軸と軸受部との間に油膜を形成するための更に具体的な方法としては、第1に、回動手段によってカム軸を往復回動させ
る方法を例示することができる。ここでカム軸を往復回動させるとは、カム軸を所定角度回転させたのち、元の位置まで再度回転させる運動をいう。
【0016】
前述のように、カム軸が、軸受部と接触しながら回転している場合、その摺動部分における潤滑油の油膜の厚みが所定厚みより薄くなることにより潤滑不良が発生する。この状態において、さらにカム軸を回動させ続けると、油膜の薄い領域が増加し、油膜切れによるロックが発生するおそれがある。
【0017】
従って、上記の不具合を防止するためには、油膜切れによるロックが発生する前に、それまでの回転方向とは反対方向に一旦カム軸を回転させ、カム軸において油膜厚が薄くなった領域に面している部位を、適正な油膜厚を維持している領域へ移動させることが有効である。このことにより、油膜が薄くなった領域に適正な厚みの油膜を形成することができる。そして、油膜が薄くなった領域に適正な油膜を形成できた時点でカム軸の角度を元の位置まで戻し、再度目的の方向に回動を開始することにより、油膜切れによるカム軸のロックを防止することができる。
【0018】
一方、カム軸が長時間停止している場合には、カム軸と軸受部との間に、シリンダブロックの自重や、シリンダ内の燃焼による圧力などの荷重が長時間にわたってかかることになるので、カム軸と軸受部との間における油膜がより薄くなる傾向がある。この状態を放置しておくと、カム軸と軸受部との間において油膜切れが発生するおそれがある。このような場合についても、カム軸を適宜往復回動させることにより、カム軸において油膜が薄くなった領域に面している部位を、適正な油膜厚を維持している領域へ移動させることができ、その部位に適正な厚みの油膜を形成することができる。
【0019】
なお、この往復回動の実施回数は1回に限るものではなく、往復回動を複数回行ってもよい。往復回動を複数回行うことによって、カム軸と軸受部との間の潤滑油膜にくさび膜作用やスクイーズ作用を誘発し、より確実にカム軸と軸受部との間に適正な厚みの油膜を形成することができる。
【0020】
次に、カム軸と軸受部との間に油膜を形成する方法としては、第2に、前記カム軸を軸方向と直角方向に往復運動させる方法を例示することができる。
【0021】
ここで、カム軸と軸受部との間は、前述のように油膜が薄くなっている領域が存在する。この方法は、カム軸を軸方向と直角方向に往復運動させることにより、この部分の隙間を一時的に大きくし、周囲にある潤滑油を油膜が薄くなっている領域に移動させるものである。この方法によれば、その後、上記隙間が元に戻ったときに、移動した潤滑油がカム軸と軸受部との間に広がることによって適正な厚みの油膜が形成される。なお、この場合の往復運動は、カム軸と軸受部との間のガタ量の範囲内で行われる。
【0022】
カム軸を軸方向と直角方向に往復運動させる具体的な方法としては、圧電素子などに瞬間的に電圧を加えることにより、質量を持つ物体に慣性を持たせて、カム軸に軸方向と直角方向から衝突させる方法などを例示することができる。この方法によれば、既に油膜切れが発生し、カム軸がロックして回動しないような場合にも、カム軸に対して軸方向と直
角に衝撃を与えることによりロックを解除できるという効果もある。
【0023】
ここで、カム軸に対して衝撃を与える場合には、カム軸の両端に時間差をもって衝撃を与えることなどによって、カム軸を傾けながら移動させるようにしてもよい。さらに、この往復運動の回数は1回に限るものではなく、連続して複数回の往復運動を行ってもよい。このことにより、さらに効果的に、カム軸と軸受部との間に油膜を形成することができるとともに、既に油膜切れが発生し、カム軸がロックしている場合にも、効果的にロックを解除できる。
また、カム軸と軸受部との間に油膜を形成する方法としては、第3に、カム部とカム収納孔、軸部と軸収納部及び、可動軸受部と軸受収納部など、カム軸及び軸受部を構成している部分の少なくとも一部について、それらを同等の傾斜を有するテーパ状に形成し、さらに該カム軸を軸方向に進退運動させる方法を例示することができる。
【0024】
すなわち、テーパ状に形成された軸受部の各部が、テーパ状に形成されたカム軸の各部を軸支している状態で、カム軸を、上記テーパにおける径が増加する方向に移動させた後戻すという進退運動をさせることにより、カム軸と軸受部との間を一時的に広げることができる。このことにより、油膜が薄くなった、カム軸と軸受部との間の部分に対して、潤滑油を周囲から移動させるものである。この方法によっても、適正な厚みの油膜を形成できるとともに、既に油膜切れが発生し、カム軸がロックして回動しないような場合に、ロックを解除できるという効果もある。
【0025】
なお、ここでは、カム軸及び軸受部の全てをテーパ状に形成することが望ましいが、シリンダブロックの自重や燃焼などに起因した荷重がかかり易い部位のみをテーパ状に形成するようにしてもよい。この場合、カム軸と軸受部との間の油膜切れを抑制するという本発明の課題を解決することが可能となる上、カム軸の製造工数の増加を最小限に抑えることができる。
【0026】
ここで、カム軸を軸方向に進退運動させるための具体的な方法としては、前述の場合と同様、進退運動させようとするカム軸の両端に適当な質量を持つ物体を配置し、圧電素子などに瞬間的に電圧を加えることにより、その物体に慣性を持たせて、カム軸に軸方向から衝突させる方法を例示することができる。この方法は、本発明におけるカム軸のように摩擦を受けている対象物を移動させる場合に特に有効であり、カム軸の移動量の微小な制御も可能となる。
【0027】
また、前述のように、カム軸と軸受部との間には、シリンダブロックの自重やシリンダにおける燃焼による圧力などの荷重がかかっている。従って、カム軸を軸方向であって上記テーパにおける径が増加する方向に移動させたときには、シリンダブロックなどは、そのカム軸の動きに追従するように軸方向と直角な方向、すなわち、カム軸と軸受部の間の隙間が広がらない方向に移動する。これに対し、カム軸を軸方向に移動させる方法として、圧電素子などに瞬間的に電圧を加えて慣性を持たせた物体を、カム軸に軸方向から衝突させる方法をとることにより、カム軸を大きな加速度をもって移動させることができる。従って、シリンダブロックなどの、カム軸と軸受部の間の隙間が広がらないような動きに打ち勝って、カム軸と軸受部の間の隙間を充分に広げることができる。
【0028】
カム軸を大きな加速度をもって進退運動させることができる他の方法としては、カム軸の両端に進退運動用のカムを別に設け、該進退運動用のカムを高速で回転させ、カム軸の端部に衝突させる方法を例示することができる。
【0029】
また、上述のように、カム軸を上記テーパにおける径が増加する方向に移動させる場合には大きな加速度をもって移動させることが望ましいが、カム軸を元に戻すときの移動に
ついては、特に大きな加速度を必要としない。従って、カム軸を元に戻すための具体的な方法としては、上記の他に、電磁石による斥力を利用した方法や、バネなどの弾性力を利用してカム軸を元の位置に復帰させる方法などを使用してもよい。
【0030】
なお、この方法における進退運動の運動距離は、テーパ形状との関係で決定されるが、数10から数100μm程度としてもよい。また、進退運動の数は1回に限られず、複数回にわたって行っても良い。
【0031】
また、この方法においては、カム軸を進退運動させるのではなく、軸受部を進退運動するようにしてもよい。この場合でもカム軸を進退運動させた場合と同様の効果を得ることができる。
【0032】
また、本発明においては、カム軸近傍の温度を検出する温度検出手段と、この温度検出手段が検出した温度に応じて、カム軸の軸方向の停止位置を補正する停止位置補正手段と、をさらに備えるようにするとよい。
【0033】
ここで、可変圧縮比機構において、シリンダ内における燃焼熱によってカム軸近傍の温度が上昇した場合、カム軸を構成している材料と、軸受部を構成している材料の線膨張係数の違いにより、それらの間の隙間が最適値からずれ、場合によっては、隙間がなくなりロックしてしまうおそれがある。
【0034】
従って、カム軸近傍の温度を検出する温度検出手段を備えておき、テーパ状に形成されたカム軸の各部が、テーパ状に形成された軸受部の各部と回転可能に係合している状態で、前記温度検出手段が検出したカム軸近傍の温度に応じて、カム軸を軸方向に移動させてカム軸の軸方向の停止位置を補正し、カム軸と軸受部との間に少なくともロックが生じないための隙間を維持できるようにする。このことにより、カム軸近傍の温度の、油膜切れの発生への影響を抑制することができる。そして、この制御を行ったうえで、さらにカム軸を進退運動させてカム軸と軸受部との間に油膜を形成することにより、より確実にカム軸の回転抵抗の増加を抑制し、結果として、より確実に速やか且つ円滑な圧縮比の変更を可能とする。
【0035】
なお、この場合、カム軸近傍の温度と、その温度においてロックを防止するために必要なカム軸の移動量との関係を予め実験的に求めておき、マップ化しておくとよい。そして、所定時期にカム軸近傍の温度を検出して、その検出温度においてカム軸と軸受部との間に十分な隙間を維持するためのカム軸移動量を前記マップから読み出して、そのデータを用いてカム軸を移動させるとよい。こうすれば、カム軸と軸受部との間について、常に必要最低限の隙間を維持することができ、結果として、カム軸と軸受部との間に形成される油膜についてのカム軸近傍の温度の影響を小さくすることができる。
【0036】
また、本発明においては、油膜形成手段は、カム軸が内燃機関の圧縮比を変更すべく回動を開始するときに、カム軸と軸受部との間に油膜を形成するように制御するとよい。
【0037】
こうすれば、圧縮比を変更するためにカム軸が回動を開始する際には、必ずカム軸と軸受部との間に油膜を形成してから、カム軸を回動させることができるので、カム軸の回動中に、カム軸と軸受部との間における油膜切れが発生しづらくなり、カム軸がロックすることを抑制できる。なお、この制御を行う場合であって、特にカム軸を往復回動させることにより油膜を形成する場合については、カム軸を、圧縮比変更のために回転すべき方向に所定角回転させた後、元の位置まで戻すことにより往復回動させることが望ましい。これを、回転する予定の方向と反対の方向に所定角回転させてから元の位置に戻すことにより往復回動させると、そのことにより、内燃機関の圧縮比が一時的に、目的とする圧縮比
の方向と逆の方向に変化してしまうからである。
【0038】
また、本発明においては、油膜形成手段は、内燃機関の圧縮比を変更すべくカム軸が回動しているときに、カム軸と軸受部との間に油膜を形成するように制御するとよい。
【0039】
具体的には、例えば内燃機関の圧縮比を変更すべくカム軸が回動しているときは、カム軸が回動を開始してから所定時間が経過したとき、または、所定角度を回動したときに、油膜形成手段が油膜を形成するように制御するとよい。
【0040】
このとき、カム軸を回動させてから油膜切れが生じる可能性がある時間より短い時間または、カム軸を回動させてから油膜切れが生じる可能性がある回動角度より小さい回動角度を、上記の所定時間または所定角度として設定することによって、カム軸の回動中において、カム軸と軸受部との間に油膜切れが発生しづらくなり、結果として、カム軸の回動抵抗が増加したり、ロックが発生したりすることを抑制できる。
【0041】
また、本発明においては、例えば内燃機関の圧縮比を変更すべくカム軸が回動しているときは、所定時間が経過する毎に、または、所定角度回転する毎に油膜を形成するように制御するとよい。
【0042】
このとき、カム軸を回動させてから油膜切れが生じる可能性がある時間より短い時間または、カム軸を回動させてから油膜切れが生じる可能性がある回動角度より小さい回動角度を、上記の所定時間または所定角度として設定することによって、カムの回動中、何度でも油膜を形成することができるので、さらに、カム軸の回動中において、カム軸と軸受部との間に油膜切れが発生しづらくなり、結果として、カム軸の回動抵抗が増加したり、ロックが発生したりすることをさらに確実に防止できる。
【0043】
また、本発明においては、例えば内燃機関の圧縮比を変更すべくカム軸が回動しているときは、油膜形成手段は、カム軸の回動中にカム軸の駆動トルクをモニターしておき、駆動トルクが所定値以上になったときに、カム軸と軸受部との間に油膜を形成するように制御するとよい。
【0044】
ここで、油膜を形成すべきかどうかを判断する基準となる所定の駆動トルクは、カム軸と軸受部との間において油膜切れが生じたときの駆動トルクの値として実験的に求められたトルクの値をもとに、それより小さく設定された値である。また、カム軸の駆動トルクを検出する方法としては、カム軸を回動する回動手段がモータの場合は、該モータへの供給電流の値によって検出する方法を例示できる。また、回動手段がモータ以外のものである場合には、カム軸と回動手段の軸との間にねじりバネなどの弾性部材を介しておき、そのねじりバネのねじれ角度を光電センサなどで検出する方法を例示できる。
【0045】
これにより、本発明に係る可変圧縮比機構において、圧縮比の変更のためにカム軸を回動させている最中に、カム軸の駆動トルクが所定値以上となった場合には、カム軸と軸受部との間において油膜切れが発生しつつあると判断できるので、この場合には、前記油膜形成手段により油膜を形成させる。こうすれば、実際に油膜切れが発生しつつあることを検出して油膜を形成させることができるので、油膜切れを抑制することができる。また、カム軸と軸受部との間に油膜が充分にある状態でさらに油膜を形成するという無駄を防止することができる。
【0046】
また本発明においては、油膜形成手段は、カム軸が内燃機関の圧縮比の変更のための回動を停止している期間中の所定時間毎に、カム軸と軸受部との間に油膜を形成するよう制御するとよい。
【0047】
こうすることにより、長期間、カム軸が停止状態を継続し、その間にシリンダブロックの自重やシリンダにおける燃焼の圧力によってカム軸と軸受部との間に長期間にわたって荷重がかかり、その部分の油膜の厚みが薄くなったとしても、所定時間毎に油膜形成手段により、カム軸と軸受部との間に油膜が形成されるので、カム軸の停止中に油膜切れが発生し、カム軸の回動開始時にカム軸が円滑に回動しないという事態を回避することができる。
【0048】
ここで、上述した所定時間については、カム軸が停止した状態で前記荷重を受け続けた場合に、とれだけの時間が経過するとカム軸と軸受部との間の油膜切れが発生しやすくなるかを予め実験的に求めておき、その期間より短いことを条件に所定時間を設定するとよい。これにより、カム軸の停止期間についても、より確実にカム軸と軸受部との間における油膜切れを防止することができるとともに、カム軸と軸受部との間に必要以上に油膜形成する動作を繰り返すという無駄を防止することができる。
【0049】
また、本発明において、カム軸が内燃機関の圧縮比の変更のための回動を停止している期間中に、カム軸を往復回動させることによって油膜形成する場合には、内燃機関が減速状態にあるときに限って行うことが望ましい。すなわち、前記カム軸を往復回動させることによって油膜形成する場合には、当該往復回動によっても内燃機関の圧縮比が変化してしまうので、運転状態に影響を与えてしまう。従って、この油膜形成する時期を、内燃機関の圧縮比が変化しても運転状態への影響が少ない減速状態のときに限って行うこととしたものである。こうすることにより、内燃機関の運転状態に影響を及ぼすことなく、カム軸と軸受部との間に油膜を形成させることができる。
【0050】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明にあっては、可変圧縮比機構において、カム軸と軸受部との間の油膜切れが抑制され、カム軸の回動抵抗の増加を抑制することができる。この結果、本発明は速やか且つ円滑な圧縮比変更の実現に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。
【実施例1】
【0053】
以下に説明する内燃機関1は、可変圧縮比内燃機関であり、シリンダ2を有するシリンダブロック3を、図示しないピストンが連結されたクランクケース4に対してシリンダ2の軸方向に移動させることによって圧縮比を変更するものである。
【0054】
先ず、図1を用いて、本実施例に係る可変圧縮比内燃機関の構成について説明する。図1に示されるように、シリンダブロック3の両側下部に複数の隆起部が形成されており、
この各隆起部にカム収納孔5が形成されている。カム収納孔5は、円形をしており、シリンダ2の軸方向に対して直角に、かつ複数のシリンダ2の配列方向に平行になるようにそれぞれ形成されている。カム収納孔5はすべて同一軸線上に位置している。そして、シリンダブロック3の両側のカム収納孔5の一対の軸線は平行である。
【0055】
クランクケース4には、上述したカム収納孔5が形成された複数の隆起部の間に位置す
るように、立壁部が形成されている。各立壁部のクランクケース4外側に向けられた表面
には、半円形の凹部が形成されている。また、各立壁部には、ボルト6によって取り付けられるキャップ7が用意されており、キャップ7も半円形の凹部を有している。また、各立壁部にキャップ7を取り付けると、円形の軸受収納孔8が形成される。軸受収納孔8の形状は、上述したカム収納孔5と同一である。
【0056】
複数の軸受収納孔8は、カム収納孔5と同様に、シリンダブロック3をクランクケース4に取り付けたときにシリンダ2の軸方向に対して直角に、且つ、複数のシリンダ2の配列方向に平行になるようにそれぞれ形成されている。これらの複数の軸受収納孔8も、シリンダブロック3の両側に形成されることとなり、片側の複数の軸受収納孔8はすべて同一軸線上に位置している。そして、シリンダブロック3の両側の軸受収納孔8の一対の軸線は平行である。また、両側のカム収納孔5の間の距離と、両側の軸受収納孔8との間の距離は同一である。
【0057】
交互に配置される二列のカム収納孔5と軸受収納孔8には、それぞれカム軸9が挿通される。カム軸9は、図1に示されるように、軸部9aと、軸部9aの中心軸に対して偏心
された状態で軸部9aに固定された正円形のカムプロフィールを有するカム部9bと、カム部9bと同一外形を有し軸部9aに対して回転可能に取り付けられた可動軸受部9cとが交互に配置されている。この可動軸受部9cには、軸収納孔9eが設けられており、その中をカム軸9の軸部9aが挿通される構成をとることにより、可動軸受部9cは軸部9aに対して回動可能となっている。そして、これら一対のカム軸9は鏡像の関係を有している。また、カム軸9の端部には、後述するギア10の取り付け部9dが形成されている。軸部9aの中心軸と取り付け部9dの中心とは偏心しており、カム部9bの中心と取り付け部9dの中心とは一致している。
【0058】
可動軸受部9cも、軸部9aに対して偏心されておりその偏心量はカム部9bと同一である。また、各カム軸9において、複数のカム部9bの偏心方向は同一である。また、可動軸受部9cの外形は、カム部9bと同一正円であるので、可動軸受部9cを回転させることで、複数のカム部9bの外表面と複数の可動軸受部9cの外側面とを一致させることができる。
【0059】
各カム軸9の軸部9aの一端にはギア10が取り付けられている。一対のカム軸9の端部に固定された一対のギア10には、それぞれをウォームギア11a、11bがかみ合っている。ウォームギア11a、11bは単一のモータ12の一本の出力軸にとりつけられている。ウォームギア11a、11bは、互いに逆方向に回転する螺旋溝を有している。このため、モータ12を回転させると、一対のカム軸9は、ギア10を介して逆方向に回転する。モータ12は、シリンダブロック3に固定されており、シリンダブロック3と一体的に移動する。
【0060】
また、内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための図示しない電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)が併設されている。このECUは、CPUの他、後
述する各種のプログラム及びマップを記憶するROM、RAM等を備えており、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態等を制御するユニットである。
【0061】
ECUには、内燃機関1の運転状態を検出する種々のセンサが電気配線を介して接続され、それらの出力信号がECUに入力されるようになっている。一方、ECUには、本実施例に係るモータ12などが電気配線を介して接続され、ECUからの指令によってモータ12が回転し、内燃機関1の圧縮比を変更するようになっている。
【0062】
次に、上述した構成の内燃機関1において圧縮比を制御する方法について詳しく説明す
る。図2(a)から図2(c)にシリンダブロック3と、クランクケース4と、これら両者の間に構築されたカム軸9との関係を示した断面図を示す。図2(a)から図2(c)において、軸部9aの中心軸をa、カム部9bの中心をb、可動軸受部9cの中心をcとして示す。図2(a)は、軸部9aの延長線上から見て全てのカム部9b及び可動軸受部9cの外周が一致した状態である。このとき、ここでは一対の軸部9aは、カム収納孔5及び軸受収納孔8の中で外側に位置している。
【0063】
図2(a)の状態から、モータ12を駆動して軸部9a矢印方向に回転させると、図2(
b)の状態となる。このとき、軸部9aに対して、カム部9bと可動軸受部9cの偏心方
向にずれが生じるので、クランクケース4に対してシリンダブロック3を上死点側にスライドさせることができる。そして、そのスライド量は図2(c)のような状態となるまでカム軸9を回転させたときが最大となり、カム部9bや可動軸受部9cの偏心量の2倍となる。カム部9b及び可動軸受部9cは、それぞれカム収納孔5及び軸受収納孔8の内部で回転し、それぞれカム収納孔5及び軸受収納孔8の内部で軸部9aの位置が移動するのを許容している。
【0064】
上述したような機構を用いることによって、シリンダブロック3をクランクケース4に対して、シリンダ2の軸線方向に相対移動させることが可能となり、圧縮比を可変制御することができる。
【0065】
なお、上記の機構において軸部9aと軸収納孔9e、カム部9bとカム収納孔5、可動軸受部9cと軸受収納孔8は、圧縮比の変更の際には、上記したようにお互いに摺動しつつ相対的な回動運動を行う。これらの回動運動を円滑かつ速やかに行うために、軸部9aと軸収納孔9e、カム部9bとカム収納孔5、可動軸受部9cと軸受収納孔8の間の隙間には潤滑油が供給されるが、圧縮比変更過程において回動不良が発生する場合がある。この回動不良の発生メカニズムは、おおよそ以下のようになっていると考えられる。
【0066】
なお、これ以降の説明において「カム軸9と軸受部18との間」とは、軸部9aと軸収納孔9eとの間、カム部9bとカム収納孔5との間及び、可動軸受部9cと軸受収納孔8との間を意味する。
【0067】
すなわち、カム軸9と軸受部18との間隙には、シリンダブロック3の自重やシリンダ2内で生起される燃焼圧力等の荷重が常時かかっている。更に、カム軸9は停止状態と低速での回転とを繰り返すため、カム軸9と軸受部18との隙間へ供給された潤滑油が該隙間全体へ均等に供給され難い上、一部の隙間に荷重が集中する期間が長引き易い。荷重が集中している一部の隙間へ十分な量の潤滑油が供給されなくなると、その部分の油膜厚が薄くなり、場合によっては油膜切れが発生する。カム軸9と軸受部18との隙間の油膜厚が薄くなり、或いは油膜切れが発生した場合には、カム軸9の回動抵抗が増大して回動不良が発生する。カム軸9の回動不良が発生した場合には、モータ12の消費電力が過剰に増加してしまうという問題がある。更に、前記したような油膜切れの状態が継続すると、カム軸9が回動不能に陥る所謂ロック現象が発生し、圧縮比を変更することができなくなる可能性もある。
【0068】
そこで、本実施例においては、上記カム軸9を回動させることによって内燃機関1の圧縮比を変化させる場合に、カム軸9の回動中、回動開始から所定時間が経過した時点でカム軸9に、油膜形成のための往復回動をさせることとしている。このように、カム軸9が回動している最中に、カム軸9を一旦往復回動させることにより、カム軸9と軸受部18との間に油膜を形成することができ、カム軸9と軸受部18との間における油膜切れを抑制することができる。
【0069】
ここで、図3(a)から(c)を用いてこの原理について詳細に説明する。図3は、カム部9bとカム収納孔5の間における油膜の状態を示す断面図である。ここでは、カム部9bがカム収納孔5の中で回動する場合について説明しているが、軸部9aが軸収納孔9eの中で回動する場合、可動軸受部9cが軸受収納部8の中で回動する場合についても同様である。
【0070】
図3(a)において、カム部9bにはシリンダブロック3の自重及び、シリンダ2における燃焼による圧力による荷重Fがかかるため、カム軸9の回転中における軸周りの油膜厚と油膜にかかる圧力分布は図3(a)に示すようになる。図3(a)に示すようにカム部9b周辺に適切に潤滑油が保持されていれば、最も摺動面圧が高くなるA点でも充分な潤滑油圧が発生し、流体潤滑が持続される。
【0071】
しかし、図3(b)に示すように、カム部9bの回転中にA点の油膜厚が減少した場合、潤滑不良が発生する。ここで、それ以上同じ方向に回転させると、潤滑不良部側に進むため、A点では充分な油膜が得られない状態が続き、油膜切れによる軸のロックが発生する可能性がある。
【0072】
従って、図3(c)に示すように、それまでの回転方向とは反対方向に一旦カム部9bを回動させ、適正な油膜が維持されていた領域に一旦戻し、これにより油膜切れを回避し、反転をある程度進めて潤滑不良が回避された上で、カム部9bをもとの位置まで回動し、さらに目的方向に回転を再開することとする。
【0073】
このことにより、簡単な動作により、カム軸9と軸受部18との間に油膜を形成することができるので、圧縮比変更の途中で、カム軸9の回動抵抗が増加したり、カム軸9がロックを起こして回動不能になるなどといった不具合を抑制することができる。
【0074】
なお、カム軸9の回動開始後、カム軸9の往復回動を行うまでの時間については、予め、カム軸9の回動開始後にどの位の時間が経過すれば、カム軸9と軸受部18との間に油膜切れが発生するかを実験的に求めておき、求められた時間より短い時間を設定すればよい。ここで、所定時間経過後にカム軸9を往復回動させる回数は、1回に限る必要はなく、複数回行っても良い。
【0075】
また、本実施例においては、カム軸9の回動開始より、所定時間経過後にカム軸9に往復回動させることとしたが、これを、カム軸9の回動開始より、カム軸9が所定角度回転したときに往復回動するように制御しても構わない。この場合、所定角度については、やはり、予め実験的に、回動開始後のどの位の角度を回動すれば、カム部9bなどに油膜切れが発生するかを実験的に求めておき、求められた角度より小さい角度を設定すればよい。
【0076】
また、カム軸9の回動中に往復運動を行う場合は、モータ回転トルクをモニタし、モータ回転トルクが一定値を上回ったことをトリガとして往復動作を行うようにしてもよい。
【0077】
また、同様に本実施例における往復回動を、カム軸9の回動開始の際に行っても良い。こうすれば、カム軸9が長時間停止された後に回動される場合のように、図3中A点の油膜圧が薄くなっている状態からカム軸9を回動させる場合であっても、カム軸9の回動に先立って前記A点に油膜が再形成されるため、カム軸9回動中における回動不良やロック現象の発生を抑制することができる。尚、カム軸9の停止状態が一定時間以上となった場合にのみカム軸の往復回動を行うようにしてもよい。
【0078】
また、上記した実験的に求められた時間や角度が小さい値である場合には、圧縮比を変
更するときのカム軸9の1回の回動動作について、油膜形成のためのカム軸9の往復回動動作を1回に限る必要はない。従って、カム軸9の1回の回動動作中に、所定時間毎、あるいは所定角度毎に、カム軸9の往復回動動作を行うよう制御してもよい。
【0079】
このように、ECUがカム軸9を往復回動させるべくモータ12を制御することにより、本発明にかかる油膜形成手段が実現される。
【実施例2】
【0080】
次に実施例2について説明する。ここでは、実施例1と異なる構成についてのみ説明し、実施例1と同じ構成については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0081】
実施例1においては、圧縮比の変更のためにカム軸9の回動を開始するときまたは回動させているときに、カム軸9を往復回動させることによって、カム軸9と軸受部18との間に油膜を形成する例について説明したが、実施例2においては、説明したカム軸9の往復回動をカム軸9の停止時すなわち、圧縮比の変更時以外の期間に行い、カム軸9と軸受部18との間の油膜切れを防止する例について説明する。
【0082】
前述のように、カム軸9を回動させることによってシリンダブロック3とクランクケース4を相対移動させ、圧縮比を変更する内燃機関1においては、カム軸9の停止中、すなわち圧縮比の変更時以外の期間においても、シリンダブロック3の自重及びシリンダ2における燃焼による圧力によって、カム軸9と軸受部18との間には常に荷重が働いている。従って、カム軸9が長期間にわたって停止している間にも、カム軸9と軸受部18との間における油膜は減少し、場合によっては油膜切れが発生するおそれがある。
【0083】
従って、本実施例においては、カム軸9の停止期間において、定期的にカム軸9の往復回動を行うことで、カム軸9と軸受部18との間の油膜切れを防ぎ、圧縮比の変更時におけるカム軸9の回動を速やか且つ円滑にすることとしている。
【0084】
図4は、本実施例における油膜形成ルーチンである。本ルーチンは、ECU内のROMに記憶されたプログラムであり、内燃機関1において、圧縮比変更ためのカム軸9の回動動作が終了したことをトリガとして割り込み処理されるルーチンである。
【0085】
本ルーチンが実行されると、まずS101においてカム軸9の連続停止時間を計測するためのタイマが一旦リセットされたうえでスタートされる。
【0086】
次に、S102においては、カム軸9の連続停止時間が検出される。具体的にはS101においてスタートしたタイマの値をCPUが読み込むことによって検出される。
【0087】
次に、S103においては、S102で検出されたカム軸連続停止時間が予め設定された所定値t0より長いかどうかが判断される。ここでカム軸連続停止時間が所定値t0以下である場合は、カム軸9と軸受部18との間に十分な油膜が形成されているとみなし、S102に戻って再度カム軸連続停止時間を検出する。そして、S103において、S102で検出したカム軸連続停止時間が所定値t0より長いと判断されるまでこの動作が繰り
返される。
【0088】
そして、S103において、カム軸連続停止時間が所定値t0より長いと判断された場
合には、S104に進み、カム軸9の往復回動が実施される。このカム軸9の往復回動によって油膜切れが生じている部分あるいは油膜切れが生じるおそれがある部分に油膜が形成される。なお、この際に往復回動させる角度は、往復回動によって油膜切れを解消できる回動角度を予め実験的に求めておき、求まった角度よりも大きい角度に設定すればよい
。例えば、回動角度を180度というように設定してもよい。また、往復回動は一往復に限る必要はなく、たとえば、180度の往復運動を2回行うなどとしてもよい。S104の処理が終わるとS105に進む。
【0089】
S105においては、次回のカム軸連続停止時間の計測を開始するために、タイマが一旦リセットされた上でスタートされる。S105の処理が終わるとS106に進む。
【0090】
S106においては、圧縮比変更動作が開始されたかどうかが判断される。すなわち、ECUからの指令によりカム軸9が回動し、本内燃機関1のシリンダ2内の圧縮比が変更されたかどうかが判断される。なお、ここにおけるカム軸9の回動にはS104におけるカム軸9の往復回動は含まれないことはもちろんである。
【0091】
S106において、圧縮比変更動作が開始されていないと判断された場合には、S102の処理の前にもどり、本ルーチンを継続する。一方、S106において、圧縮比変更動作が開始されたと判断された場合には、本ルーチンを終了する。
【0092】
以上、説明したように、本実施例においては、カム軸9の回動停止時において、その連続停止時間を検出し、カム軸9の連続停止時間が所定値より長い場合には、カム軸9の往復回動を実施する。すなわち、カム軸9の停止時には所定時間毎にカム軸9と軸受部18との間に油膜を形成するので、シリンダブロック3の自重あるいはシリンダ2内における燃焼による圧力によってカム軸9と軸受部18との間における油膜切れが生じることを抑制できる。この結果、圧縮比の変更のためにカム軸9が回動を開始した場合には、速やか且つ円滑にカム軸9を回動させることができる。
【0093】
なお、上記の油膜形成ルーチンにおいて、S103の処理と、S104の処理との間で、内燃機関1が減速運転中かどうかを判断し、減速運転中でないと判断された場合には、そのままS106に進んでカム軸9の往復回動による油膜形成を行わないこととし、減速運転中であると判断された場合にS104に進むようにしてもよい。すなわち、油膜形成のためのカム軸9の往復回動は、減速運転中に限って行うこととしてもよい。こうすることにより、減速運転状態以外の運転状態においてカム軸9が往復回動することが原因で内燃機関1の圧縮比が変化し、運転状態に影響を及ぼしてしまうという不具合を防止することができる。ここで、減速運転中とは、内燃機関1がフューエルカット状態かまたは点火カット状態であることを意味しており、実際には、ECUから、燃料噴射弁または点火栓へ出されている制御信号を読み出すことによって判断される。
【実施例3】
【0094】
次に実施例3について説明する。ここでは、実施例1と異なる構成についてのみ説明し、実施例1と同じ構成については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0095】
実施例1及び実施例2においては、カム軸9を往復回動させることによって、カム軸9と軸受部18との間に油膜を形成する例について説明したが、実施例3においては、カム軸9と軸受部18との間をテーパ状に形成し、カム軸9を軸方向に進退運動させることによりテーパ状に形成したカム軸9と軸受部18との間に油膜を形成する例について説明する。
【0096】
図5(a)は、本実施例におけるカム軸9付近の構成を示した断面図である。ここでは、カム軸9におけるカム部9bと軸部9a、可動軸受部9cの外形を全てテーパ状に形成している。そして、カム収納孔5、軸受収納孔8、及び、可動軸受部9cにおける軸収納孔9eもテーパ状に形成している。カム軸9の図中右側に配置されているのは、軸押し出し用圧電アクチュエータ13である。カム軸9の図中左側に配置されるのは、軸位置復帰
用圧電アクチュエータ14である。なお、図1においては、カム軸9においてカム部9bは5箇所、可動軸受部9cは4箇所あるが、図5(a)においては、簡単のため、カム部9bは2箇所、可動軸受部9cは1箇所として説明する。
【0097】
ここにおいてテーパ状に形成されたカム軸9と軸受部18との間に油膜を形成する場合には、軸押し出し用圧電アクチュエータ13がカム軸9を軸方向に押し出す。そして、カム軸9が図5(a)中における左側に移動することによって、カム部9bとカム収納孔5との隙間Cをはじめ、軸部9aと軸収納孔9eとの隙間C'、可動軸受部9cと軸受収納
孔8との隙間C”も大きくなる。次に軸位置復帰用圧電アクチュエータ14によって、カム軸9を図4(a)における右側に移動させ、復帰させる。
【0098】
この動作によって、カム軸9と軸受部18との間の隙間における油膜切れの発生が抑制される。これは、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”が一時的に大きくなることにより、カム軸9と軸受部18との間の周囲の潤滑油が、カム軸9と軸受部18との間に移動し、カム軸9の位置復帰によって再度隙間が小さくなることにより、移動した潤滑油がカム軸9と軸受部18との間に広がることによる。
【0099】
以上の動作によって、カム軸9と軸受部18との間に油膜を形成することができる。ここで、本実施例においては、カム軸9を軸方向に移動させるアクチュエータとして、前述のように軸押し出し用圧電アクチュエータ13及び、軸位置復帰用圧電アクチュエータ14を用いている。これは、圧電素子に瞬間的に電圧を加えて、所定質量を有するヘッド13a及び14aを加速して慣性を持たせた後、カム軸9に衝突させてカム軸9を移動させる、いわゆる“芯打ち機構"を応用したものである。
【0100】
本実施例では、カム軸9の移動用のアクチュエータとしてこの機構を採用したため、カム軸9がシリンダブロック3の自重やシリンダ2における燃焼による圧力などの荷重を受けていても、その荷重に起因する摩擦力に抗してカム軸9を移動させることができる。また、複数回に分けてカム軸9に衝撃を与えることにより、カム軸9の移動量の微小な制御が可能となる。また、所定の質量を有したヘッド13a、14aをカム軸9に衝突させて移動させるので、移動時のカム軸9の加速度を高くすることができる。本実施例においては、シリンダブロック3の自重やシリンダ2における燃焼による圧力により、カム部9bとカム収納孔5の隙間Cなどが小さくなるような荷重がかかっている。従って、少なくとも、カム軸9が軸方向に移動するときには、上記荷重に起因するシリンダブロック3などの運動加速度以上の加速度をもって移動しないと、カム部9aとカム収納孔5の隙間Cなどを一時的にしろ大きくすることはできない。このような観点からも、本実施例において、いわゆる"芯打ち機構"を採用することは有効である。
【0101】
なお、本実施例においては、カム軸9におけるカム部9bと軸部9a、可動軸受部9cの外形を全てテーパ状に形成し、カム収納孔5及び軸収納孔9e、軸受収納孔8の内径もテーパ状に形成しているが、必ずしもこれらの全てをテーパ状に形成する必要がないことはもちろんである。例えば、図5(b)に示す図では、カム軸9におけるカム部9bと可動軸受部9cの外形をテーパ状に形成し、カム収納孔5及び軸受収納孔8もテーパ状に形成しているが、軸部9aの外形、軸収納孔9eの内径はテーパ状に形成していない。このように、例えば、軸部9aの外形と軸収納孔9eの内径の間の油膜切れがあまり問題にならない場合には、その部分はテーパ状に形成する必要はない。
【0102】
次に、本実施例における、油膜形成制御について説明する。本実施例においては、内燃機関1の圧縮比を変更するためにモータ12に通電し、カム軸9を回動させて、シリンダブロック3を、クランクケース4に対して相対移動させるが、このカム回動中に、モータ12の回転トルクをモニターしておき、この回転トルクが所定の値以上になった場合には
、カム軸9を軸方向へ進退運動させ、カム軸9と軸受部18との間に油膜を形成する。この制御により、カム軸9の回動の途中で油膜切れが発生し、カム軸9がロックを起こすことを防止している。
【0103】
図6は、本実施例における油膜形成ルーチンを示したフローチャートである。本ルーチンはECUのROMに記憶されたプログラムであり、圧縮比の変更のためにモータ12に通電を開始した場合に実行される。本ルーチンが実行されると、S601においてモータ回転トルクを検出する。具体的にはモータ12に供給される電流値を検出することによりモータ回転トルクを推定する。
【0104】
S602においては、S601で検出したモータ回転トルクが所定値M0より小さいか
どうかが判断される。ここでM0とは、モータ回転トルクがそれ以上であれば、カム軸9
と軸受部18との間に油膜切れが発生している可能性が高いと判断されるトルク値であり、予め実験的に求められた値である。
【0105】
S602において、モータ回転トルクがM0以上であると判断された場合は、カム軸9
と軸受部18との間に油膜切れが発生するおそれがあると判断されるので、S607に進み、カム軸9を、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”が増加する方向に移動させる。具体的には、軸押し出し用圧電アクチュエータ13に瞬間的に電圧を加えることによりカム軸9に衝撃を与える。S607の処理が終了するとS601に戻る。
【0106】
そして、S601において再度モータ回転トルクを検出し、S602において再度モータ回転トルクがM0以上かどうかが判断される。そして、S602においてモータ回転ト
ルクがM0より小さいと判断されるまでこの一連の処理が繰り返される。そして、S60
2においてモータ回転トルクがM0より小さいと判断された場合には、S603に進む。
【0107】
S603においては、カム軸9の軸方向の位置が検出される。具体的には、カム軸9の端部に発光素子15a及び受光素子15bを備え、発光素子15aから出射された光の一部がカム軸9により遮光されるような構成とした透過型光電センサ15を設けておき、受光素子15bの出力信号を検出することにより、カム軸9の軸方向の位置を検出してもよい。S603の処理が終了するとS604に進む。
【0108】
S604においては、カム軸9の軸方向の位置が初期位置かどうかが判断される。ここで、カム軸9の位置が初期位置でないと判断された場合には、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”が増加したままであると判断されるので、S608に進む。S608においては、カム軸9を、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”が小さくなる方向に移動させる。具体的には、軸位置復帰用圧電アクチュエータ14の圧電素子に電圧を加え、カム軸9に衝撃を与えて移動させる。次にS603に戻り、再度カム軸9の位置検出を行う。そして、S604において再度カム軸9の位置が初期位置に戻ったかどうかが判断される。
【0109】
そして、S604において、カム軸9が初期位置に戻ったと判断されるまでこの処理を繰り返す。S604において、カム軸9が初期位置に戻ったと判断された場合には、S605に進む。次にS605においてはモータの回転角が検出される。具体的には、モータ12が所定角度回転する毎に電気パルスを出力する図示しないエンコーダが備えられており、このエンコーダから出力された電気パルスの数によって、モータ12の回転角を推定する。ここで、モータ12の回転角を検出する方法はこの方法に限られるわけではなく、ギア10に予め所定角度毎に設けられたマークの数を光電センサで読み取ることなどにより、検出してもよい。
【0110】
そして、S606においては、モータ12の回転角が、目標値になっているか、すなわち、目的とする圧縮比の値を得るために必要な位置までシリンダブロック3が移動したかどうかが判断される。ここで、モータ12の回転角が目標値に達していると判断された場合には、本ルーチンを一旦終了する。そうでない場合には、S601に戻り、本ルーチンの処理を再度実行する。
【0111】
以上、説明したように、本実施例においては、圧縮比の変更制御の途中にモータ12の回転トルクを検出し、モータ12の回転トルクが所定値以上となった場合には、カム軸9と軸受部18との間に油膜切れが発生する可能性が高いと判断し、カム軸9を軸方向に進退運動することによってカム軸9と軸受部18との間に油膜を形成することとしている。従って、圧縮比の変更制御の途中に、カム軸9の回動抵抗が極端に増加してモータ12の消費電力が増加したり、カム軸9が油膜切れによってロックしたりすることを抑制することができる。
【0112】
また、モータ12の回転トルクを検出し、実際に回転トルクが所定値以上となって初めてカム軸9の移動を行うので、カム軸9と軸受部18との間に油膜切れが生じるおそれがない場合にまでカム軸9の軸方向の移動を行う無駄をなくし、消費電力を低減し、燃費の低減を行うことができる。
【0113】
なお、本実施例においては、S602においてモータ12の回転トルクが所定値M0
上と判断された場合に、モータ12の回転を停止せずにカム軸9の進退運動を実施する制御について説明したが、モータ12の回転トルクが所定値M0以上になった場合には、モ
ータ12を停止し、カム軸9の進退運動を行ってからモータ12の回転を再開するような制御にしてもよい。また、カム軸9を、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”が増加する方向に移動させることによりモータ12の回転トルクが所定値M0より小さ
くなった場合に、その状態で、目標の回転角までモータ12を回転させ、圧縮比の変更が終了した後に、カム軸9の位置を初期位置に復帰させるような制御にしてもよい。
【実施例4】
【0114】
次に実施例4について説明する。ここでは、実施例3と異なる構成についてのみ説明し、実施例3と同じ構成については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0115】
実施例4においては、実施例3と同様、カム部9bとカム収納孔5などをテーパ状に形成し、カム軸9を軸方向に進退運動させることによりテーパ状に形成した部分に油膜を形成する例であって、さらに、カム軸9近傍の温度変化を検出し、検出されたカム軸9近傍の温度に応じてカム軸9を軸方向に移動させてカム軸9の軸方向の停止位置を補正し、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”がカム軸9近傍の温度によって変動しないようにした例について説明する。
【0116】
本実施例では、カム軸9などの部材の熱変形によるカム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”の増減を事前に見積もり、そこから、カム軸9近傍の温度とカム軸9の軸方向の適正位置との関係を示すマップを作成し、そのマップから読み出された位置までカム軸9を移動させることにより、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”がカム軸9近傍の温度にかかわらず油膜形成に適した間隙となるように制御を行う。
【0117】
図7を用いて、本実施例における熱変形補正ルーチンついて説明する。本ルーチンは、内燃機関1の作動中において所定期間毎に実行されるルーチンである。すなわち、本実施例においては、圧縮比の変更時には実施例3で説明した油膜形成制御と同じ制御によって、カム軸9の回動抵抗の増加を防止しており、その制御に加えて、圧縮比の変更時以外の時期についても常に熱変形の補正制御を行っている。
【0118】
本実施例における熱変形補正ルーチンが実行されると、まずS701において、カム軸9近傍の温度が検出される。具体的には、内燃機関1の冷却水温度を検出して、この冷却水温度からカム軸9近傍の温度を推定している。ここで、カム軸9近傍の温度を検出する方法はこの方法に限られない。例えば、潤滑油の温度から推定するようにしてもよく、あるいはカム軸9の温度を直接検出する温度センサを備えるようにしてもよい。本実施例における温度検出手段は、これらの温度センサを含んで構成される。
【0119】
次に、S702において、カム軸9の適正移動量を求める。具体的には、前述した、カム軸9近傍の温度と、その温度においてカム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”を油膜形成に適した値に維持するためのカム軸9の軸方向の位置との関係を示した温度補正マップから、S701において検出したカム軸9近傍の温度に対応したカム軸9の適正移動量データを読み出す。
【0120】
そしてS703において、S702において求めた適正移動量だけ、カム軸9を移動させる。なお、この移動については、実施例3において説明した軸押し出し用圧電アクチュエータ13及び、軸位置復帰用圧電アクチュエータ14によりカム軸9に衝撃を与えることにより移動させる。
【0121】
以上、説明したように本実施例においては、カム軸9近傍の温度を検出し、当該温度に応じて、カム軸9を軸方向に移動させることにより、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”を最適値付近に維持することにより、カム軸9近傍の温度によって、カム軸9と軸受部18との間の隙間C、C’、C”が変化することを抑制している。その結果、圧縮比を変更しない時期についても、カム軸9近傍の温度変化によってカム軸9と軸受部18との間の油膜の厚みが減少したり、カム軸9がロックしたりすることを抑制し、実際に圧縮比を変化する場合のカム軸9の回動をより速やか且つ円滑に実施することができる。
【0122】
なお、本実施例における停止位置補正手段は、前記の熱変形補正ルーチンを記憶したROMを備えたECU、軸押し出し用圧電アクチュエータ13、軸位置復帰用圧電アクチュエータ14を含んで構成される。
【実施例5】
【0123】
次に実施例5について説明する。ここでは、実施例3と異なる構成についてのみ説明し、実施例3と同じ構成については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0124】
実施例5においては、カム部9bとカム収納孔5などはテーパ状でなく、円柱状とし、カム軸9を軸と直角方向に往復運動させることによりカム軸9と軸受部18との間に油膜を形成する例について説明する。
【0125】
図8は、本実施例におけるカム軸9近傍の概略構成を示した断面図である。本実施例においては、軸運動用圧電アクチュエータ16、17がカム軸9の軸方向と直角に備えられている。そして、図8に示すように、軸部9a、カム部9b、可動軸受部9cの外形はいずれも円柱形をしており、軸収納孔9e、カム収納孔5、軸受収納孔8の内面もいずれも円筒形をしている。また、カム軸9の両端の軸部9aは、実施例3及び4に比較して長く延びている。
【0126】
ここで、カム軸9と軸受部18との間に油膜を形成する場合には、軸運動用圧電アクチュエータ16及び17によって、カム軸9の両端に延びた軸部9aに衝撃を与える。この結果カム軸9は瞬間的に図8における上下方向に往復運動をし、カム軸9と軸受部18と
の間の隙間C、C’、C”が一時的に大きくなる。その結果、周囲の潤滑油が隙間が大きくなった部分に移動し、さらにカム軸9が元の位置に戻ったときには、一時的に大きくなった隙間が縮まるため、移動した潤滑油がカム軸9と軸受部18との間に広がり、結果として、カム軸9と軸受部18との間に油膜が形成される。
【0127】
以上、説明したように本実施例においては、カム軸9のカム部9a、カム収納孔5などを円筒状に形成し、カム軸9の軸方向に直角の方向からカム軸9の両端に延びた軸部9aに衝撃を与えることにより、カム軸9と軸受部18との間に油膜を形成することができる。従って、カム部9b、カム収納孔5などをテーパ状に形成することなく、簡単な構造で、カム軸9の油膜切れを抑制することができる。
【0128】
なお、本実施例における油膜形成の時期については、先に説明した実施例と同様、圧縮比の変更のためにカム軸9を回動中の所定時期に行ってもよいし、モータ12の回転トルクを検出し、当該トルクが所定値以上となった場合に行ってもよい。また、カム軸9の停止時において所定時間毎に油膜形成を行うことにより、カム軸9の停止時においてもカム軸9と軸受部18との間の油膜切れを防止するようにしてもよい。
【0129】
なお、本実施例における油膜形成動作については、その動作が瞬間的であることと、シリンダブロック3の、クランクケース4に対する相対位置変化を伴わないので、その実施時期を特に減速運転時に限る必要もない。
【0130】
また、本実施例においては、軸運動用圧電アクチュエータ16及び17により、カム軸9の両側に延びた軸部9aに同時に衝撃を与えたが、軸運動用圧電アクチュエータ16及び17の圧電素子に時間差を設けて電圧を与えることにより、カム軸9の両側に延びた軸部9aに時間差を設けて衝撃を与え、カム軸9が傾きながら往復運動するような制御にしてもよい。また、軸運動用圧電アクチュエータ16及び17の、軸部9aを挟んで反対側に、別に図示しない軸運動用圧電アクチュエータをそれぞれ設け、軸部9aに図8における上下から衝撃を与えるようにしてもよい。
【0131】
また、上記の軸運動用圧電アクチュエータはカム軸9の両端に配置される必要はなく、カム軸9におけるカム部9bと可動軸受部9cとの間に配置されてもよいことはもちろんである。要は、軸運動用圧電アクチュエータの個数及び配置は、カム軸9の長さや、カム部9b及び可動軸受部9cの個数などに応じて適宜変更すればよい。
【0132】
なお、本発明を適用する内燃機関1は、図1及び2において説明した内燃機関1に限るものではなく、カム軸が、軸受部に軸支された軸部と、該軸部に固定されたカム部とを有し、このカム軸を回動させることによって、シリンダブロックを、クランクケースに対して相対移動させて圧縮比を変更する内燃機関には広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明に係る内燃機関の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明に係る内燃機関におけるシリンダブロックがクランクケースに対して相対移動する経過を示す断面図である。図2(a)は軸部の延長線上から見て全てのカム部及び可動軸受部の外周が一致した状態を示す図である。同図(b)は同図(a)の状態から軸部を矢印方向に回転させた状態を示す図である。同図(c)はシリンダブロックの移動量が最大となる状態を示す図である。
【図3】本発明に係るカム部とカム収納孔の間における油膜の状態を示す断面図である。図3(a)はカム部周辺に適切に潤滑油が保持されている場合の図である。同図(b)はカム部の回転中に油膜厚が減少した場合の図である。同図(c)は反対方向にカム部を回動させた場合の図である。
【図4】本発明に係る実施例2における油膜形成ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】図5(a)は本発明に係る実施例3におけるカム軸付近の概略構成を示す断面図である。同図(b)は実施例3におけるカム軸付近の概略構成の別の例を示す断面図である。
【図6】本発明に係る実施例3における油膜形成ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る実施例4における熱変形補正ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る実施例5におけるカム軸付近の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0134】
1・・・内燃機関
2・・・シリンダ
3・・・シリンダブロック
4・・・クランクケース
5・・・カム収納孔
6・・・ボルト
7・・・キャップ
8・・・軸受収納孔
9・・・カム軸
9a・・軸部
9b・・カム部
9c・・可動軸受部
9e・・軸収納孔
10・・ギア
11a、11b・・ウォームギア
12・・モータ
13・・軸押し出し用圧電アクチュエータ
14・・軸位置復帰用圧電アクチュエータ
15・・透過型光電センサ
16・・軸運動用圧電アクチュエータ
17・・軸運動用圧電アクチュエータ
18・・軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックとクランクケースを相対移動可能に連結するとともに該連結部にカム軸を回動自在に設け、前記カム軸を回動させることにより前記シリンダブロックと前記クランクケースとを相対移動させて前記内燃機関の圧縮比を変更する可変圧縮比機構であって、
前記カム軸と該カム軸の軸受部との間に油膜を形成する油膜形成手段を備えたことを特徴とする可変圧縮比機構。
【請求項2】
前記油膜形成手段は、前記カム軸を前記カム軸の軸受部に対して相対運動させることにより前記カム軸と該カム軸の軸受部との間に油膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比機構。
【請求項3】
前記油膜形成手段は、前記カム軸を往復回動させることにより前記カム軸を前記カム軸の軸受部に対して相対運動させることを特徴とする請求項2に記載の可変圧縮比機構。
【請求項4】
前記油膜形成手段は、前記カム軸を軸方向と直角方向に往復運動させることにより前記カム軸を前記カム軸の軸受部に対して相対運動させることを特徴とする請求項2に記載の可変圧縮比機構。
【請求項5】
前記カム軸及び前記カム軸の軸受部の少なくとも一部がテーパ状に形成され、前記油膜形成手段は、前記カム軸又は前記カム軸の軸受部を軸方向へ進退運動させることにより前記カム軸を前記カム軸の軸受部に対して相対運動させることを特徴とする請求項2に記載の可変圧縮比機構。
【請求項6】
前記カム軸近傍の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段が検出した温度に応じて、前記カム軸または前記カム軸の軸受部の軸方向の停止位置を補正する停止位置補正手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の可変圧縮比機構。
【請求項7】
前記油膜形成手段は、前記カム軸が前記内燃機関の圧縮比を変更すべく回動を開始するときに、前記カム軸と前記カム軸の軸受部との間に油膜を形成することを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の可変圧縮比機構。
【請求項8】
前記油膜形成手段は、前記カム軸が前記内燃機関の圧縮比を変更すべく回動しているときに、前記カム軸と前記カム軸の軸受部との間に油膜を形成することを特徴とする請求項1から7までのいずれかに記載の可変圧縮比機構。
【請求項9】
前記油膜形成手段は、前記カム軸が前記内燃機関の圧縮比の変更のための回動を停止している期間中の所定時間毎に、前記カム軸と前記カム軸の軸受部の間に油膜を形成することを特徴とする請求項1から8までのいずれかに記載の可変圧縮比機構。
【請求項10】
前記油膜形成手段は、前記カム軸が前記内燃機関の圧縮比の変更のための回動を停止している期間中であって、且つ前記内燃機関が減速運転状態にあるときに、前記カム軸を往復回動させることにより前記カム軸を前記カム軸の軸受部に対して相対運動させることを特徴とする請求項3に記載の可変圧縮比機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−45561(P2008−45561A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253420(P2007−253420)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【分割の表示】特願2003−289861(P2003−289861)の分割
【原出願日】平成15年8月8日(2003.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】