説明

可逆的不死化させた嗅神経鞘グリア、およびニューロン再生を促進するためのその使用

本発明は、成体哺乳動物の中枢神経系(CNS)において軸索再生を助長する嗅神経鞘グリア(OEG)の能力に基づく。この特異的能力は、たとえば細胞膜の分子組成および/またはなんらかの分子を分泌する能力などいくつかの因子の組合せ;グリア瘢痕を低減するとともに損傷CNSにおける新たな成長軸索を付随させる能力を組み合わせたことによるものであろう。我々は、初代ヒトOEG細胞から不死化細胞系を開発した。細胞は、ドナーからの死後のヒト組織から培養され、可逆的な系を用いて不死化させた。これらOEGヒトクローン細胞系のあるものは、初代OEGに類似の方法で成体ラット網膜神経節ニューロンからの軸索再生を促進するそれらの能力によって選択した。これらの細胞系は、単独でも、またはこれらの細胞を含む医薬組成物としても、CNSにおけるニューロン損傷を修復するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニューロン再生に関する。特に、本発明は、移植での使用について機能的で安全である特定のタイプの細胞、すなわち、可逆的に不死化させ、培養で増殖させた嗅神経鞘グリア(OEG)を提供する。本発明は、手術または外傷後の急性および慢性の神経損傷の回復を助けるための、ヒトの神経領域、たとえば、脳、脊椎および/または末梢神経を対象とする移植において特に適用される。
【背景技術】
【0002】
嗅神経鞘グリア(OEG)
RamonとCajalの研究から、成体の中枢神経系(CNS)のニューロンの再生の能力は極めて限定されていることが知られている。対照的に、末梢神経系(PNS)からのニューロンは注目すべき再生能力を有しており、これは特に、PNS軸索を鞘状に覆うシュワン細胞(SC)の特定の特徴による可能性がある。この事実は、CNSにおける再生を助長するための末梢神経およびSC移植片の使用を刺激し、有望な結果が得られている(Jones LLら、「Neurotrophic factors, cellular bridges and gene therapy for spinal cord injury」、J. Physiol 2001; 533:83〜89頁においてレビューされている)。それにもかかわらず、SCで達成されたCNS再生が不完全なことから、より効果的な再生メディエーターの探索が必要である。
【0003】
近年、CNS再生のためのOEG細胞の使用は、その特別な特性のために、多くの注目を得ている。嗅覚系は、成体哺乳動物の中枢神経系内で注目すべき特有の特性を有している。生物体の一生を通じて、嗅覚ニューロンは、嗅覚神経上皮に存在する前駆細胞から再生される。新生の感覚ニューロンは新しい軸索をのばし、これが成長してCNS内に入り、嗅球の球状層において適切な接続をなす。これらの嗅覚軸索は、嗅神経鞘グリア(OEG)と呼ばれる特別なタイプのグリア細胞に囲まれている。
【0004】
in vivoでOEG細胞はいくつかのマーカーを発現し、これらのマーカーは単離と培養の後のそれらの同定のために用いられている(Ramon-Cueto A、Avila J.「Olfactory ensheathing glia: properties and function」Brain Res. Bull. 1998; 46:175〜187頁およびその中の参考文献を参照のこと)。OEG細胞はシュワン細胞およびアストロサイトといくつかの特性を共有しているが、それらをグリア細胞の異なるクラスとして分類できるマーカーおよび特性の特異なパターンを示す。
【0005】
2つのOEG細胞の変種が培養物中で同定されている。無血清培地において、Barnettら(Franceschini IA、Barnett SC.「Low-affinity NGF-receptor and E-N-CAM expression define two types of olfactory nerve ensheathing cells that share a common lineage」Dev.Biol. 1996; 173:327〜343頁)は、OEG細胞培養物において2つの対極的な形態のタイプを同定した。すなわち、GFAP(線維性染色)およびPSA-NCAMを発現するとともにp75-NGFrに関して陰性であるアストロサイト様扁平細胞と、第2のタイプ、すなわち、p75-NGFrを発現し、GFAPに関しては拡散した染色であり、PSA-NCAMに関しては陰性であるシュワン様紡錘細胞である。あらゆる中間的表現型が可能であり、これらの表現型が或る確立されたクローン細胞系においてさえも観察されることは、それらが、共通の前駆細胞から派生できるという見解を支持する。成体ラットおよびヒトドナーからの我々のOEG細胞培養物において、我々はまた、両方の形態のタイプの細胞とその中間的表現型を検出した。
【0006】
我々の研究室および他の研究室から得られたデータから、ネズミおよびヒトドナーの齢とは無関係に、OEGはアストロサイトまたはシュワン細胞とは明確に異なることが明らかである。
【0007】
神経突起増生を促進するOEG細胞の能力は、培養における神経突起生成および/または再生モデルを確立するために用いることができる。胚または新生仔のニューロンを用いる場合に、培養における神経突起増生は単純に神経突起生成を示す可能性がある。しかし、成体CNSニューロンからの神経突起伸長は、CNS再生の培養モデルと考えることができる。このように、WigleyとBerryは、グリア細胞の単層上の成体網膜神経節細胞(今後はRGC)を用いて共培養モデルを確立した。新生仔皮質アストロサイトのコンフルエントな単層上で培養された成体RGCは、長距離にわたって神経突起を再成長させることができる(Wigley CB、Berry M.「Regeneration of adult rat retinal ganglion cell processes in monolayer culture: comparisons between cultures of adult and neonatal neurons」Brain Res. 1988; 470:85〜98頁)。最近の研究において、Wigleyらは、同モデルを用いて、成体ラットOEGの単層を、新生仔のアストロサイトおよびSCと比較した。彼らは、成体ラットOEG細胞が、培養における成体RGCの神経突起再生のために最良の基質であるとともに、この効果が、細胞間接触とカルシウムに主に依存することを実証した。細胞表面分子(接着、軸索案内などの因子)が、Sonigraらによって実証されたように、成体RGCにとって重要である(Sonigra RJ、Brighton PC、Jacoby J、Hall S、Wigley CB、「Adult rat olfactory nerve ensheathing cells are effective promoters of adult central nervous system neurite outgrowth in coculture」Glia 1999; 25:256〜269頁)が、その正確なアイデンティティはこれから定義されなければならない。
【0008】
最初にCNSにおける再生は、PNSシュワン細胞(SC)移植片の使用によって達成された。CNS再成長軸索は、この許容的環境の中に進入することができるが、問題は、病変部から離れたCNS組織における再進入の効率が低いことである。従前の実験は、OEG細胞が、リゾトミー(rizhotomy)後の脊髄CNS環境において末梢感覚軸索の再進入を仲介することができることを示した。SCとOEG細胞のブリッジ管がおかれると、脊髄の完全なる横切断の後に再生しつつある軸索のCNSへの再進入が観察されている。OEG細胞の存在は、グリア瘢痕の形成を低減するとともに、移植片宿主インターフェースで軸索通路を構成した。この方法は、CNS宿主組織において再生中軸索の再進入の効率を増大する方法を提供する。ラット脊髄完全横切断のモデルを用いて、脊髄においていくつかの路に傾倒するCNS再生の非凡な等級が実証されており、これには、行動試験で測られるような機能回復も伴っている(Ramon-Cueto Aら、「Functional recovery of paraplegic rats and motor axon regeneration in their spinal cords by olfactory ensheathing glia」、Neuron 2000; 25:425〜435頁)。OEG細胞は、宿主CNS組織内を移動して成長中の軸索とともに動くことができるようであり、このようにしてCNS再生に好都合な微小環境を提供する。
【0009】
全てのこれらのデータは、OEG細胞が、アストロサイトやシュワン細胞などの他の神経細胞とは機能的に異なるという見解を支持する。
【0010】
これらの細胞の使用のための最も重要な必要条件の1つは、それらの成長要件の完全な理解である。たとえば、ヘパリンに結合せずかつニューレグリン-1(NRG-1)に対する抗体で阻害されうる、アストロサイトならし培地(ACM)に存在する因子のように、OEG細胞の或る種の細胞分裂誘起物質が初期に特徴づけられた。さらに、GGF、NRG-1を含むいくつかのグリア細胞分裂誘起物質の粗源である準精製ウシ下垂体抽出物が、OEGに対して活性である。
【0011】
齧歯類において行われた実験は、OEG細胞移植片が脊髄損傷後の機能回復に好都合であることを示唆するが、これらの研究は、霊長類に拡大しなければならず、霊長類では、運動機能の脊髄上位コントロールが、機能回復を評価するための基本事項である。この点で最も重要なのは、患者への移植のための、アクセス可能で制限のないヒトOEG細胞源の利用可能性である。我々は、栄養性因子、生化学化合物質および培地の特定混合物を用いて成体ラットOEG細胞の長期継代培養のための条件を定義した。この組合せ物はまた、ヒトOEG細胞の増殖も可能にする。しかしながら、長期培養の後に、OEG細胞は、若いニューロンからの軸索伸長を支持する能力は維持するものの、成体CNSニューロンからの軸索再生を支持する能力を失う。このように、OEG細胞の長期培養は、移植のための十分な集団を得るための選択肢にはならないようである。
【0012】
WO02/088337は、初代OEG細胞をレトロウイルスベクターに感染させることを含み、ベクターが、修飾OEG細胞を得るために、テロメラーゼ触媒サブユニットTertを含む、多量のOEG細胞を得るための方法を開示している。しかしながら、成体CNSニューロンからの軸索再生を支持する細胞の能力については何も言及されていない。
【0013】
初代OEG細胞培養物の軸索再生促進特性を保持する不死化非腫瘍原性クローン細胞系の生成は、制限されない量のOEGを持つための選択肢である。クローン化されたラットOEG細胞系が、構成細胞性プロモーターから発現されたSV40ラージT抗原を用いた不死化によって開発されている(Moreno-Flores MTら、「Immortalised olfactory ensheathing glia promote axonal regeneration of rat retinal ganglion neurons」、J. Neurochem. 2003; 85:861〜871頁)。これらの不死化ラットOEGのいくつかは、成熟RGNの軸索再生の促進において初代ラットOEG細胞およびSCと同等であることが見出された。しかしながら、これらの細胞において発癌遺伝子が存続すること(この場合、SV40ラージT抗原をコードする遺伝子)は、移植後の悪性転換のリスクを増大する可能性があるため、懸念される。
【0014】
このように、軸索再生促進特性を保持し、同時に腫瘍発生を回避するアクセス可能で制限のないヒトOEG細胞源に対する必要性は依然として存在する。
【非特許文献1】Jones LLら、「Neurotrophic factors, cellular bridges and gene therapy for spinal cord injury」、J. Physiol 2001; 533:83〜89頁
【非特許文献2】Ramon-Cueto A、Avila J.「Olfactory ensheathing glia: properties and function」Brain Res. Bull. 1998; 46:175〜187頁およびその中の参考文献
【非特許文献3】Franceschini IA、Barnett SC.「Low-affinity NGF-receptor and E-N-CAM expression define two types of olfactory nerve ensheathing cells that share a common lineage」Dev.Biol. 1996; 173:327〜343頁
【非特許文献4】Wigley CB、Berry M、「Regeneration of adult rat retinal ganglion cell processes in monolayer culture: comparisons between cultures of adult and neonatal neurons」Brain Res. 1988; 470:85〜98頁
【非特許文献5】Sonigra RJ、Brighton PC、Jacoby J、Hall S、Wigley CB、「Adult rat olfactory nerve ensheathing cells are effective promoters of adult central nervous system neurite outgrowth in coculture」Glia 1999; 25:256〜269頁
【非特許文献6】Ramon-Cueto Aら、「Functional recovery of paraplegic rats and motor axon regeneration in their spinal cords by olfactory ensheathing glia」、Neuron 2000; 25:425〜435頁
【特許文献1】WO02/088337
【非特許文献7】Moreno-Flores MTら、「Immortalised olfactory ensheathing glia promote axonal regeneration of rat retinal ganglion neurons」、J. Neurochem. 2003; 85:861〜871頁
【非特許文献8】Sambrookら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」(1989)
【非特許文献9】「DNA Cloning: A Practical Approach」、第IおよびII巻(D. N. Glover編、1985)
【非特許文献10】「Oligonucleotide Synthesis」(M. J. Gait編、1984)
【非特許文献11】「Nucleic Acid Hybridization」[B. D. HamesとS. Higgins編、(1985)]
【非特許文献12】「Transcription and Translation」[B. D. HamesとS. J. Higgins編、(1984)]
【非特許文献13】「Animal Cell Culture」[R. I. Freshney編、(1986)]
【非特許文献14】「Immobilized Cells And Enzymes」[IRL Press, (1986)]
【非特許文献15】B. Perbal、「A Practical Guide To Molecular Cloning」(1984)
【非特許文献16】「Current Protocols in Molecular Biology」、Frederick M. Ausubelら編、John Wiley & Sons, 1999
【非特許文献17】Feronら、「new techniques for biopsy and culture of human olfactory epithelial neurons」Arch. Otorlaryngol. Head Neck Surg. 1998; 124: 861〜866頁
【特許文献2】EP235113
【非特許文献18】「Current Protocols in Molecular Biology」Frederick M. Ausubelら編、John Wiley & Sons、2001
【特許文献3】US5629159
【非特許文献19】Westerman & Leboulch, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 8971〜8976頁、1996
【非特許文献20】Moreno-Flores MT、Lim P、Martin-Bermejo MJ、Diaz-Nido J、Avila J、Wandosell F、「Immortalised olfactory ensheathing glia promote axonal regeneration of rat retinal ganglion neurons」J. Neurochem. 2003;85:861〜871頁
【非特許文献21】Ramon-Cueto A、Avila J.「Olfactory ensheathing glia; properties and function」Brain Res. Bull. 1998;46:175〜187頁
【非特許文献22】Naldini L、Blomer U、Gage FH、Trono D、Verma IM.「Efficient transfer, integration, and sustained long-term expression of the transgene in adult rat brains injected with a lentiviral vector」Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 1996;93:11382〜11388頁
【非特許文献23】Salmon P、Oberhozer J、Occhiodoro T、Morel P、Lou J、Trono D.「Reversible immortalization of human primary cells by lentivector-mediated transfer of specific genes」Mol. Ther. 2000;2:404〜414頁
【非特許文献24】Moreno-Ploresら、2003
【非特許文献25】Li Y、Field PM、Raisman G.「Repair of adult rat corticospinal tract by transplants of olfactory ensheathing cells」Science 1997;277:2000〜2002頁
【非特許文献26】Li Y、Field PM、Raisman G.「Regeneration of adult rat corticospinal axons induced by transplanted olfactory ensheathing cells」J. Neurosci. 1998;18:10514〜10524頁
【非特許文献27】Ramon-Cueto A、Plant GW、Avila J、Bunge MB.「Long-distance axonal regeneration in the transected adult rat spinal cord is promoted by olfactory ensheathing glia transplants」J. Neurosci. 1998;18:3803〜3815頁
【非特許文献28】Ramon-Cueto A、Cordero MI、Santos-Benito FF、Avila J.「Functional recovery of paraplegic rats and motor axon regeneration in their spinal cords by olfactory ensheathing glia」Neuron 2000;25:425〜435頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
我々の発明の目的は、in vitroおよびin vivoでニューロン軸索再生を促進するOEG細胞の能力に基づいており、これは、現在までのところ、他のいかなる初代のまたは遺伝子修飾された細胞型によっても同程度には保持されていない能力である。我々は、可逆的な遺伝子修飾および選択によって、軸索再生能力を保つOEG細胞を量に制限なく得る方法を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
我々の研究の過程において、我々は、初代細胞を逆不死化し、ヒトドナーからのOEG細胞の不死化クローン細胞系を得る手順を見出した。我々は、全てのこれらの細胞系は、その分子マーカーにおいて初代OEGとよく似ていることを試験した。重要なことに、我々は、これらの細胞系のいくつかは、不死化プロセスを逆行させたときでさえも、成体ニューロンからの軸索再生を促進する能力を維持していたことを見出した。
【0017】
本発明の1つの態様によれば、機能性の可逆的不死化または逆不死化させた嗅神経鞘グリア(OEG)細胞系が提供される。細胞系は、たとえば中枢および/または末梢神経系における損傷の領域へ細胞を移植することによってニューロン再生を促進する方法などの治療方法に用いてもよい。或る特定の実施形態において、細胞系はヒト細胞系である。
【0018】
本発明のもう1つの態様では、患者への移植のための機能性OEG細胞の集団を作る方法が提供される。方法は、(a)初代OEG細胞のサンプルを提供すること、(b)1つの発癌遺伝子(または発癌遺伝子の組合せ)を含む除去可能なDNAセグメントを含むベクターでOEG細胞を形質転換することによってOEG細胞を不死化させて、不死化OEG細胞を生成すること、(c)不死化OEG細胞を増殖させること、(d)親OEG細胞の機能特性(すなわち、成体CNSニューロンからの軸索再生の引き金を引く能力)を維持する不死化OEGクローン細胞系を選択すること、および(e)不死化OEG細胞から発癌遺伝子(または発癌遺伝子の組合せ)を除去し、除去が、患者への移植のための機能性OEG細胞の集団の生成という結果になることを含む。好ましくは、OEG細胞はヒトドナーから得られ、発癌遺伝子は、SV40ラージT抗原、テロメラーゼ触媒サブユニット、Bmi-1タンパク質またはこれら発癌遺伝子の任意の組合せを含む、老化への進入をバイパスすることができる任意の遺伝子である。
【0019】
本発明のもう1つの態様は、機能性嗅神経鞘グリア(OEG)細胞と、製薬的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。好ましい実施形態では、細胞は、逆不死化されたOEG細胞である。
【0020】
発癌遺伝子(または発癌遺伝子の組合せ)は、好ましくは、それをリコンビナーゼ標的部位に隣接させることによって除去可能とされ、除去は、リコンビナーゼ標的部位を特異的に認識するリコンビナーゼを生成するべく発現される遺伝子を不死化細胞の中に導入することによって成し遂げられる。好ましくは、リコンビナーゼはCreリコンビナーゼであり、リコンビナーゼ標的部位はloxP部位である。
【0021】
好適な実施形態において、除去可能なDNAセグメントは自殺遺伝子をさらに含み、自殺遺伝子は、除去可能なDNAセグメントが細胞から除去されない場合、外来性物質による不死化細胞の破壊を可能にする遺伝子産物をコードする。自殺遺伝子は、好ましくは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼをコードする遺伝子であり、細胞は、除去可能なDNAセグメントが細胞から除去されない場合、ガンシクロビルへの曝露によって破壊される。
【0022】
本発明のもう1つの態様は、患者に移植するための機能性OEG細胞の集団を作る方法であって、(a)初代OEG細胞のサンプルを提供すること、(b)1つの発癌遺伝子(または発癌遺伝子の組合せ)をコードする遺伝子と、選択可能マーカー遺伝子と、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼをコードする遺伝子とを、遺伝子がともにそのいずれかの側でloxP部位に隣接した状態で含む除去可能なDNA構築物を含むベクターでOEG細胞を形質転換することによってOEG細胞を不死化させること、(c)不死化OEG細胞を増殖させること、(d)親OEG細胞の機能特性を維持する不死化OEGクローン細胞系を選択すること、および(e)DNA構築物を不死化OEG細胞から除去することによってOEG細胞の不死化を逆行させ、除去は、loxP部位でのDNA構築物の切除をもたらすために、Creリコンビナーゼをコードする遺伝子を不死化OEG細胞に導入することによって成し遂げられ、切除は、患者への移植のための機能性OEG細胞の集団の生成という結果になることを含む方法を提供する。
【0023】
上記した方法によって生成される機能性OEG細胞の集団も提供されるとともに、ニューロン損傷に対して患者を処置する方法であって、OEG細胞を、患者の損傷または傷害のニューロン領域、たとえば、脳、脊髄および/または末梢神経に、それらOEG細胞の十分な量として移植することで、患者におけるニューロン損傷または傷害を修復するまたは手術または外傷後の急性および慢性の神経損傷の回復を助ける方法が提供される。
【0024】
本発明のもう1つの態様によれば、可逆的不死化OEG細胞が提供され、これは、不死化をOEG細胞に授ける1つの発癌遺伝子(または発癌遺伝子の組合せ)に隣接する2つのリコンビナーゼ標的部位を含むDNA構築物で形質転換された初代OEG細胞を含み、不死化は、標的部位が標的部位を特異的に認識するリコンビナーゼに曝露されたときにリコンビナーゼ標的部位で切断されることによるDNA構築物の切除によって可逆である。好ましくは、リコンビナーゼ標的部位がloxP部位であり、不死化がloxP部位でのCreリコンビナーゼ切断によって可逆である。DNA構築物は選択可能マーカー遺伝子をさらに含むことができ、自殺遺伝子をさらに含んでもよく、自殺遺伝子は、構築物が細胞から除去されない場合、外来性の物質によって不死化OEG細胞の破壊を可能にする遺伝子産物をコードする。好ましくは、自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼをコードする遺伝子であり、外来性の物質はガンシクロビルである。
【0025】
1つの実施形態では、初代OEG細胞がヒトドナーから得られ、可逆的不死化OEG細胞系が提供される。
【0026】
本発明のもう1つの態様によれば、患者への移植の際に機能性である逆不死化OEG細胞が提供され、これは、上述の不死化OEG細胞内でDNA構築物を、リコンビナーゼ標的部位での切断によってDNA構築物を切除するリコンビナーゼに曝露することによって生成される。ニューロン損傷に対して患者を処置する方法もまた提供され、これは、患者におけるニューロン再生を促進するために、患者の傷害領域に十分量の逆不死化OEG細胞を移植することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の或る態様は、従来の分子生物学、微生物学、および当技術分野においてよく知られている組換えDNA手法を使用する。たとえば、Sambrookら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」(1989);「DNA Cloning: A Practical Approach」、第IおよびII巻(D. N. Glover編、1985);「Oligonucleotide Synthesis」(M. J. Gait編、1984);「Nucleic Acid Hybridization」[B. D. HamesとS. Higgins編、(1985)];「Transcription and Translation」[B. D. HamesとS. J. Higgins編、(1984)];「Animal Cell Culture」[R. I. Freshney編、(1986)];「Immobilized Cells And Enzymes」[IRL Press, (1986)]; B. Perbal、「A Practical Guide To Molecular Cloning」(1984);または「Current Protocols in Molecular Biology」、Frederick M. Ausubelら編、John WileyとSons, 1999などを参照のこと。
【0028】
用語「核酸構築物」または「DNA構築物」は、適切な調節配列に作動的に連結され、細胞を形質転換するためのベクターに挿入された1つまたは複数のコード配列を意味するように用いられることがある。この用語は、用語「形質転換DNA」と同義的に用いられる。このような核酸構築物は、選択可能マーカー遺伝子および/またはレポーター遺伝子とともに、関心対象の遺伝子産物ためのコード配列を含んでもよい。
【0029】
用語「作動的に連結され」または「作動的に挿入され」は、ここでは、コード配列の発現のために必要な調節配列が、コード配列の発現を可能にするように核酸分子内においてコード配列に対して適切な位置に置かれていることを意味する。同定義は、発現ベクターにおける他の転写コントロール要素(たとえば、エンハンサー)の配置にも適用されることがある。
【0030】
用語「選択可能マーカー遺伝子」は、発現されると、形質転換細胞において抗生物質耐性のような選択可能表現型を与える産物をコードする遺伝子を意味する。
【0031】
「ベクター」は、たとえばプラスミド、ファージ、コスミド、またはウイルスなど、もう1つの核酸セグメントが、セグメントの複製または発現を起こさせるように作動的に挿入されてもよいレプリコンである。より具体的には、用語「ウイルスベクター」は、外来性のまたは異種性の遺伝情報を宿主に伝えることができるウイルスを意味する。この外来性遺伝情報は、タンパク質産物に翻訳されてもよいが、このことは、外来性情報に必要な要件ではない。
【0032】
用語「不死化」または「不死化された」は、培養において無期限に増殖し老化への進入をバイパスする細胞、またはそのような細胞を作製するためのプロセスを意味する。本発明において、不死化は、初代細胞培養が、細胞をして或る点において腫瘍細胞のように具体的には、腫瘍細胞の増殖的特徴で挙動させる、形質転換させるプロセスを意味する。
【0033】
用語「選択」は、不死化OEGクローン細胞系が、ニューロンの生存を支持するとともに成体CNSニューロンからの軸索再生を促進する能力について個別にアッセイされ、以てその機能特性を維持しているクローン細胞系を排他的に選ぶことをはかるプロセスを意味する。
【0034】
用語「逆不死化」は、細胞が、後にそれらが非不死化状態に戻されることを可能にする手段によって不死化されるプロセスを意味する。
【0035】
「可逆的不死化」細胞は、現在は不死化状態にあるものの、ここに記述される逆不死化プロセスを利用して、後に非不死化状態に戻されるうる細胞である。
【0036】
「逆不死化」細胞は、逆不死化の全プロセスにかけられて今は非不死化状態で存在する細胞である。
【0037】
本明細書で用いられる用語「機能性の」は、逆不死化OEG細胞が、共培養系においてin vitroで成体CNSニューロンからの軸索再生の引き金を引くことができ、したがって、患者のニューロン傷害領域への移植の際にin vivoでニューロン再生を促進する能力を依然として有することを意味する。
【0038】
用語「自殺遺伝子」は、可逆的に不死化された細胞に致死性表現型を与える遺伝子を意味する。より一般的には、「自殺遺伝子」は、負の選択可能マーカー遺伝子として考えることができる。その遺伝子産物の発現は、細胞を致死可能、すなわち、抗細菌または抗ウイルス性媒介物のような外来性の物質による細胞の処置によって致死可能にする。
【0039】
用語「リコンビナーゼ/リコンビナーゼ標的」は、一方はリコンビナーゼ酵素であり、他方は、そのリコンビナーゼ酵素によって特異的に認識されて切断されるDNA部位である、相互作用する一対の分子を意味する。リコンビナーゼ/リコンビナーゼ標的は、両者の間の特異的相互作用、すなわち、リコンビナーゼの、その同族DNA結合配列への結合、およびその部位でのDNAの切断、によって対のものとされる。
【0040】
本明細書で用いられる用語「ニューロン損傷」は、いかなる急性または慢性の外傷性病変またはいかなる変性疾患状態から生じるニューロンの細胞死、ニューロン路組織崩壊、軸索変性またはシナプス消失の結果としてのいかなる機能性の神経学的な能力障害につながるいかなる傷害をも意味する。このように、ニューロン軸索再生の促進は、脳および脊髄の外傷性病変、多発性硬化症を含む軸索変性疾患、およびアルツハイマー病、パーキンソン、ハンチントン、運動ニューロン疾患および脊髄小脳失調症などを含むニューロン変性疾患、を含む多様な状況において、生存しているニューロン回路の修復を容易にするであろう。
【0041】
本発明によれば、初代OEG細胞の不死化と細胞培養での増殖によって生成された移植OEG細胞の悪性転換のリスクを最小にまたはなくするために或る手段が利用可能となる。本発明者らは、腫瘍性成長を誘導する能力があり、リコンビナーゼ標的部位に隣接した1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せを含む、たとえばレンチウイルスなどの組換えウイルスを用いて、OEG細胞を可逆的に不死化した。不死化細胞からの1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せの切除は、リコンビナーゼ標的部位を特異的に認識するリコンビナーゼをコードする遺伝子の細胞への導入に続く部位特異的組換えによって成し遂げられる。部位特異的な組換えおよび発癌遺伝子切除の後に、細胞増殖が止まり、細胞は、初代OEG細胞の特徴を現す。さらに、細胞は最小の発癌潜在性を有する。
【0042】
上で記述した逆不死化OEG細胞の重要な特徴は、移植患者におけるそれらの悪性転換のリスクが大きく低減されることである。OEG移植のためのこれらの細胞の安全な使用は、本発明にしたがえば、細胞を不死化するために使用した最初のウイルス構築物に「自殺」遺伝子を加えることによってさらに拡充されている。例示的な実施形態において、自殺遺伝子は、レンチウイルスベクター内の2つのloxP部位の間に組み入れられた単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子である。1つの発癌遺伝子(または発癌遺伝子の組合せ)が、上に記述した機構を介してCreリコンビナーゼによって首尾よく切除できれば、HSV-tk遺伝子もまた切除される。それが切除されない場合、細胞は、HSV-tk遺伝子産物を標的とする抗ウイルス性剤である、ガンシクロビルでの処置によって破壊することができる。
【0043】
このように、本発明の可逆的不死化OEG細胞は、選択可能マーカー遺伝子と、細胞を培養中で増殖可能にする1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せとを、選択可能マーカー遺伝子および1つの発癌遺伝子(または複数の発癌遺伝子)がともにリコンビナーゼのためのDNA結合部位に隣接した状態で、含む異種性のDNA構築物を含むOEG細胞である。随意的に、DNAセグメントは、同様にリコンビナーゼ結合部位内に配置された「自殺」遺伝子をさらに含む。本発明は、初代OEG細胞をDNA構築物で形質転換し、形質転換されたOEG細胞を、形質転換OEG細胞の集団を増大するのに適した標準的条件の下で培養し、その後、形質転換OEG細胞を、DNA構築物上の結合部位を認識するリコンビナーゼに曝露する(たとえば、形質転換OEG細胞を、リコンビナーゼをコードする遺伝子を含むウイルスベクターに感染させる)ことによって、実施される。DNA構築物が「自殺」遺伝子も含む場合には、OEG細胞は、リコンビナーゼでの処置に続いて、DNA構築物を依然として含むいかなる細胞をも殺す条件にさらに制約される。
【0044】
初代OEG細胞は、いかなるドナーまたはいかなる源から得てもよい。好ましくは、ドナーまたは源は、たとえばマウスまたはラットなどの哺乳動物であり、最も好ましくは、ドナーまたは源はヒトである。初代OEG細胞を得て培養を開始するための方法は、当技術分野においてよく知られている。たとえば、初代OEGは、患者またはドナーから、必然的に明白な困難とリスクを伴う嗅球から、または嗅粘膜固有層から得ることができる。本発明で、我々は、嗅粘膜固有層の限定された供給源のみから移植のための十分なOEG細胞を得るという問題を解決する。ヒト嗅粘膜は、単純な内視鏡的な手順または局所麻酔を介して比較的簡単に組織診される(Feronら、「new techniques for biopsy and culture of human olfactory epithelial neurons」Arch. Otorlaryngol. Head Neck Surg. 1998; 124: 861〜866頁)。
【0045】
いかなる1つの発癌遺伝子または複数の発癌遺伝子も、初代OEG細胞を可逆的に不死化するために用いてよく、これらの多くは当技術分野において知られている。初代細胞を不死化するために用いられる知られた発癌遺伝子である、SV40ラージT抗原(SV40Tag)をコードする遺伝子は、上記遺伝子のうちの1つであるが、他のものを用いてもよい。これらは、当技術分野において知られているウイルス性発癌遺伝子、たとえばBmi-1、テロメラーゼ触媒サブユニット、c-myc、または成長因子受容体をコードする遺伝子のような細胞性発癌遺伝子を含むが、それらに限定されない。或る特定の実施形態において、DNAセグメントは発癌遺伝子を1つのみ含む。もう1つの実施形態において、DNAセグメントは2つ以上の発癌遺伝子の組合せを含み、この場合、発癌遺伝子は、タンデムまたは他のいかなる適切な位置にあってもよい。
【0046】
1つ(複数)の発癌遺伝子は、たとえば、遺伝物質を細胞に送達するために適したいかなるベクター中においても、多様な方法によって送達されうる。レンチウイルスベクターがここで例示される。他の適したベクターは、レトロウイルスベクター、具体的には、オンコレトロウイルス、ならびにアデノ関連ウイルスおよびアデノウイルスを含む。レンチウイルスベクターの例は、ヒト免疫不全症ウイルス1型(HIV-1)を含み、このウイルスから、多くの適したベクターが開発されている。ベクターとしての使用に適している他のレンチウイルスは、ヒト免疫不全症ウイルス2型(HIV-2)、ヒト免疫不全症ウイルス3型(HIV-3)、サル免疫不全症ウイルス(SIV)、サルAIDSレトロウイルス(SRV-1)、ヒト Tリンパ球向性ウイルスウイルス4型(HTLV4)を含む霊長類レンチウイルス群、ならびにウシレンチウイルス、ウマレンチウイルス、ネコレンチウイルスおよびヒツジ/ヤギレンチウイルス群を含む。上に示した方法による1つ(複数)の発癌遺伝子の送達に加えて、1つ(複数)の発癌遺伝子は、当技術分野において知られる他の手段によって送達してもよく、たとえば、EP235113において教示されるものと類似した様式で細胞に電気穿孔することによってもよい。
【0047】
同様に、いかなる選択可能マーカー遺伝子も、発癌遺伝子を保有するDNA構築物に用いてもよく、これらの多くが当技術分野において知られている。いくつかの選択可能マーカー系ならびに発癌遺伝子を細胞内に送るベクターおよび他の手段が、「Current Protocols in Molecular Biology」Frederick M. Ausubelら編、John Wiley & Sons、2001に記述されている。
【0048】
加えて、適した「自殺」遺伝子の多くの例が当技術分野において知られている。HSV-tk遺伝子が使用のために好ましいが、他のものを用いてもよい。多くの例が、Ausubelら、2001、前掲、によって記載されている。
【0049】
不死化させる発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せ、選択可能マーカー遺伝子および自殺遺伝子に加えて、DNA構築物は、たとえば成長を促進するための、1つまたは複数の所望の遺伝子を含んでもよい。
【0050】
上記の遺伝子は、当技術分野において知られているように、1つまたは複数の5'および/または3'発現コントロール領域でもよい。プロモーターに関しては、当技術分野において知られているように、恒常的または誘導性のプロモーターを利用してもよい。
【0051】
本発明における使用に適したDNAリコンビナーゼ系もまた当技術分野において知られている。cre/lox系(Creリコンビナーゼ、LoxP結合部位)は使用に好適であるが、他の系を用いることもでき、サッカロミセス・セレヴィシェエからのFLP/FRT系を含むがこれに限定されない。DNA構築物が、特定のリコンビナーゼのための標的結合部位を含む場合、まさにそのリコンビナーゼが、OEG細胞の不死化を逆行させる際に用いられるということは理解されよう。
【0052】
US5629159は、膵島細胞およびニューロン細胞の不死化および脱不死化における使用のために例示される多様なDNA構築物を記述している。これらの多様な構築物の1つまたは複数を、本発明にしたがったOEG細胞の逆不死化のために、ここに記述される方法を用いて、全部または部分において適合させてもよい。
【0053】
本発明の好適な実施形態は、(1)loxP部位に隣接する、SV40Tag遺伝子、HSV-tk遺伝子および適した選択可能マーカー遺伝子(たとえば、熱安定性抗原をコードしているneoまたはHSA)を含むレンチウイルスベクターで、初代OEG細胞を不死化すること、(2)形質転換体を選択してそれらを培養で成長させること、(3)発癌遺伝子を切除するための発現可能なCreリコンビナーゼ遺伝子を保有する、たとえばアデノウイルスベクターのような、適したベクターに、細胞を感染させることによって不死化を逆行させること、および、随意的に、(4)発癌遺伝子が、細胞をガンシクロビルで処置することによっても首尾よく切除できなかった細胞を破壊すること、を含む。このタイプの系とベクターが、様々な初代細胞の可逆的不死化のために開発されている(WestermanとLeboulch, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 8971〜8976頁、1996)が、初代OEG細胞の逆不死化のために用いられたことはない。より重要なことに、本発明以前には、そのような系を用いて、軸索再生特性を維持する移植に続くin vivoで機能し、そのような使用に対して安全であるために十分に低い発癌潜在性のものであるOEG細胞を生成することができるか否かは未知であった。
【0054】
上記好適な実施形態は、実施例に詳細に記述したように試験された。簡単に言うと、ヒト嗅球からのOEG細胞を、Trono博士の研究室(実施例1)によって記述されたプロトコルにしたがって、loxP組換え標的部位に隣接したSV40Tagをコードする遺伝子を含む組換えレンチウイルスを用いて不死化した。そして、不死化細胞からのSV40Tagの切除は、Creリコンビナーゼによる部位特異的な組換えによって成し遂げられた。この組換えのウイルスで不死化された細胞は、上記発癌遺伝子[(この場合、SV40Tag)または他の発癌遺伝子、またはそれらの組合せ]を発現したが、それらは、分裂を止めない。SV40Tagをコードする遺伝子のCreリコンビナーゼによる切除の後で、細胞は成長を止め、DNA合成が低下し、細胞は、限定された時間の後に老化する。
【0055】
まとめると、これらの結果は、上に記述した方法によって生成された逆不死化OEG細胞は、移植に続いてOEG細胞としてin vivoで機能することを実証する。さらに、細胞は、移植を必要とする患者へのそのような移植処置に対して安全であるように十分に低い発癌潜在性のものである。同様の逆不死化プロトコルは他の細胞タイプに対してこれまでに使用されているが、in vivoで機能性のOEG細胞をもたらすという首尾よい不死化逆行は、予想外の結果であった。実際に、逆不死化に続いて得られるOEG細胞は、ニューロン再生を促進する能力がある(実施例2)。
【0056】
このように、本発明は、1つの発癌遺伝子(または複数の発癌遺伝子の組合せ)、自殺遺伝子およびリコンビナーゼ/リコンビナーゼ標的系を組み入れた組換えウイルスで初代OEG細胞に形質導入することによって、よく分化した可逆的不死化非腫瘍原生OEG細胞系が生成されることを実証する。そのような細胞系の首尾よい生成は、本発明にしたがって記述した結果に先だって予測することは可能でなかったであろう。
【0057】
OEG細胞移植は、神経系修復、ニューロン再生、および、ニューロン損傷、障害、または脳および脊髄の外傷性病変含むSNC病変、多発性硬化症を含む軸索変性疾患、およびアルツハイマー病、パーキンソン、ハンチントン、運動ニューロン疾患および脊髄小脳失調症などを含むニューロン変性疾患、の処置を促進するための別法として多大な見込みを保持する。移植用のOEG細胞の利用可能性が限定されていることに関連したこの治療方の開発に対する有意の限定が、本発明によって克服された。
【0058】
したがって、1つの態様において、本発明はまた、上で定義された逆不死化OEG細胞を含む組成物を有効量使って処置することによる、ニューロン損傷に苦しむヒト患者の処置の方法を対象とする。供与する細胞の数は、処置される病変の大きさおよび患者の状態に依存する。供与は、通常は、本発明の細胞を直接供与することができるように手術によって病変の部位を露出させる。
【0059】
処置は、自家とすることもでき、したがって、患者からのOEG細胞から生成された逆不死化OEG細胞を用いる。これは、有害な免疫反応のリスクを低減させるが、患者からサンプルを取った瞬間から十分な逆不死化細胞が処置のために生成されるまでにいくらかの時間が必要であるという不都合も有する。別法として、処置を、可逆的に不死化されたまたは逆不死化された、直ぐに利用可能なOEG細胞のバンクを用いて、異種性とすることができる。この細胞のバンクは、本発明のここに記述された方法によって調製された可逆的不死化または逆不死化OEG細胞のコレクションと、軸索再生を促進する上での大きな組織適合性および有効性によって特徴づけられるものを選択することを含む。この細胞のコレクションが利用可能であることは、免疫抑制化合物の使用は必要とされるかもしれないが、たとえばCNS障害後の、処置に必要とされる時間を有意に低減するであろう。
【0060】
可逆的不死化または逆不死化OEG細胞を含む移植用の細胞のバンクも、本発明の目的である。
【0061】
1つの実施形態において、本発明の細胞バンクは、1つのライブラリーまたは複数のヒト可逆的不死化または逆不死化OEG細胞系を含み、各細胞系は、少なくとも1つまたは複数のクリティカルな抗原遺伝子、すなわち、組織適合性抗原をコードする遺伝子、に関してホモ接合である:好ましくは、各細胞系は、或るヒト集団に存在する少なくとも1つのMHC(主要組織適合性複合体)対立遺伝子に関してホモ接合であり、複数の細胞系の各メンバーは、複数のOEG細胞系の他のメンバーに対して異なるセットのMHC対立遺伝子に関してホモ接合である。好ましくは、ライブラリーの各メンバーは、組織適合性またはMHC抗原対立遺伝子の異なる組合せに関してホモ接合である。コレクションは、凍結状態で保持することおよび供与の部位へ配給することができる。本発明の方法を用いて、可逆的不死化または逆不死化OEG細胞の系は、移植を必要としている患者のMHC対立遺伝子に合致するMHC対立遺伝子の場合、1つまたは複数の組織適合抗原対立遺伝子に関してホモ接合であるそのような細胞のバンクから選択することができる。
【0062】
本発明の処置の方法は、たとえば神経栄養性または成長の因子、神経伝達物質の作用を模倣する薬理学的な媒介物、抗アポトーシス性媒介物、成長中の軸索の阻害剤に干渉する媒介物の投与、および肉体的リハビリテーションと訓練など、他の治療法と組み合わせることができる。再生中の軸索の定方向の成長を許容するために、ポリマー骨格を用いることができる。
【0063】
本発明の細胞を含む医薬組成物も予見される。これらの細胞は、好ましくは、たとえばDulbecco変法Eagle培地、RPMI 1640、FisherまたはIscoveまたはMcCoy培地などの培養培地;または、好ましくは、コラーゲン、コラーゲングリコサミノグリカン、フィブリン、ポリ塩化ビニル、たとえばポリリジンまたはポリオルニチンなどのポリアミノ酸、ヒドロゲル、アガロース、硫酸デキストランまたはシリコーンなど、固形、半固形、ゼラチン状のまたは粘稠の支持培地、を含むがそれらに限定されない生理学的に適合するビヒクルなど薬理学的に適した担体の中に含まれる。支持培地は、具体的な実施形態において、成長因子または上に記述したような他の媒介物を含む。
【0064】
固形、半固形またはゼラチン状の支持体がビヒクルとして用いられる場合、細胞は、後により固形化するように処置されるビヒクルの液相内に導入されてもよい。ビヒクルが固形構造を有する本発明の実施形態において、ビヒクルは、病変の形状に合うような形状に成型されてもよい。
【0065】
後に続く実施例は、本発明をさらに詳細に記述するために提供される。それらは、本発明を限定するのではなく説明することを意図されたものである。
【0066】
(実施例1)
Cre/Lox系を用いたヒト初代OEG細胞の逆不死化
この実施例に記述されたプロトコルにおいて、ヒトOEG細胞を、Loxp部位が隣接するSV40Tagをコードする遺伝子を含む組換えレンチウイルスを用いて不死化した。このアプローチが移植のために臨床的に有用なOEG細胞を生成することができるかどうかを決定するために、Creリコンビナーゼをコードする遺伝子を伝達する能力のある組換えアデノウイルスによる処置の前後に細胞を特徴付けした。
【0067】
ヒト細胞は、成人ドナーからの死後のヒト組織から得た。組織は、男性および女性成人ドナーに属するもので、嗅球からのものである。外層を分離し、0.1%トリプシン消化でした。ドナーの年齢は、培養の成功には限定事項にならないようである。組織は、抗細菌性物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)および抗真菌物質(Primocin)を含む滅菌リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)溶液で洗った。そして、組織を37℃で20分間、トリプシン溶液による制御されたタンパク分解にかけた。この後で、組織は、組織の消化物を直径がより小さくなる複数のパスツールピペットに通すことによって、機械的に破壊し、この細胞タイプのために特異的に設計された培地の中で培養した。この部分規定培地は、ウシ下垂体からの抽出物、フォルスコリン、熱で不活性化させた胎仔ウシ血清を、Moreno-Flores MT、Lim P、Martin-Bermejo MJ、Diaz-Nido J、Avila J、Wandosell F、「Immortalised olfactory ensheathing glia promote axonal regeneration of rat retinal ganglion neurons」J. Neurochem. 2003;85:861〜871頁に記述されたようなDulbeco変法培地(DMEM)との組合せで、含んでいる。
【0068】
ヒト細胞を、7%CO2中37℃で培地中に維持し、その後、Ramon-Cueto A、Avila J.「Olfactory ensheathing glia; properties and function」Brain Res. Bull. 1998;46:175〜187頁に示された一般的な判定基準にしたがってOEG細胞として特徴づけた。その結果を図1〜3に示す。表1は、ネズミOEG細胞、アストロサイト、シュワン細胞およびオリゴデンドサイト-O2アストロサイト系およびヒトOEG細胞からの解析された異なる細胞マーカーをまとめたものである。
【0069】
【表1】

【0070】
これらのヒトOEG細胞を不死化するために、我々は、SV40ラージT抗原をコードする遺伝子を発癌遺伝子として含むpLOX-Ttag-Ires-TK(図5)によって表されたレンチウイルス構築物を用いた或る可逆系を用いたが、これは、D. Trono博士の研究室(Naldini L、Blomer U、Gage FH、Trono D、Verma IM.「Efficient transfer, integration, and sustained long-term expression of the transgene in adult rat brains injected with a lentiviral vector」Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 1996;93:11382〜11388頁;Salmon P、Oberhozer J、Occhiodoro T、Morel P、Lou J、Trono D.「Reversible immortalization of human primary cells by lentivector-mediated transfer of specific genes」Mol. Ther. 2000;2:404〜414頁)に記述されている。別法として、テロメラーゼ触媒サブユニットをコードする遺伝子を発癌遺伝子として含むpLOX-HTERT-Ires-TK(図6)によって、またはBmi-1タンパク質をコードする遺伝子を発癌遺伝子として含むpLOX-CWBmi1(図7)によって表されたレンチウイルス構築物を用いてもよい。
【0071】
これらの感染物から、確立されたクローンが、最も高い成長速度を有するヒト細胞に続いて得られた。初めに、いくつかクローンが、OEG細胞として得られ特徴づけられた。たとえば、pLOX-Ttag-Ires-TKで不死化された細胞は、T抗原(>85%)、S100および3-PDGHを発現した。
【0072】
(実施例2)
成体網膜軸索再生アッセイ
成体ラット網膜神経節ニューロン(RGN)からの軸索再生の促進は、細胞培養において再生能力を決定する標準的手順として用いられる。この方法は、他の神経突起生成アッセイよりも、より密接にOEG細胞のin vivo修復特性を反映する。
【0073】
端的に言うと、用いられる方法は下記のとおりである:網膜をP60ラットの眼から切り出し、分離し、0.1%トリプシンで消化した。トリプシンのダイズ阻害剤2mg/mlで消化を止め、消化物を直径がより小さくなる複数のパスツールピペットに通すことによって微細な懸濁液を得た。細胞を遠心して、或る定義された培養液に再懸濁した(Moreno-Ploresら、2003)。RGNを、グリア細胞:初代OEGの単層上にまたは確立された細胞系においてプレートした。
【0074】
免疫細胞化学的解析のために、ニューロン-ヒトOEG細胞混合培養を、培養の7日後に、4%パラホルムアルデヒドで固定した。図4は、たとえばニューロン特異的チューブリン(334)のようなニューロンのタンパク質、たとえばMAP1B-SMI31またはMAP2(305)のような軸索タンパク質、または細胞体樹状突起タンパク質MAP2(514)、に対する抗体で染色したラット網膜ニューロンの軸索再生能力を示す。
【0075】
我々データは、可逆的不死化ヒトOEG細胞は、初代OEG細胞またはラットOEG細胞からのクローン細胞系と同程度に、成体RGNからの軸索再生を促進したことを示す。
【0076】
いくつかの最近の研究がin vivoでCNS軸索再生を促進するOEG細胞の能力を示している(Li Y、Field PM、Raisman G.「Repair of adult rat corticospinal tract by transplants of olfactory ensheathing cells」Science 1997;277:2000〜2002頁;Li Y、Field PM、Raisman G.「Regeneration of adult rat corticospinal axons induced by transplanted olfactory ensheathing cells」J. Neurosci. 1998;18:10514〜10524頁;Ramon-Cueto A、Plant GW、Avila J、Bunge MB.「Long-distance axonal regeneration in the transected adult rat spinal cord is promoted by olfactory ensheathing glia transplants」J. Neurosci. 1998;18:3803〜3815頁;およびRamon-Cueto A、Cordero MI、Santos-Benito FF、Avila J.「Functional recovery of paraplegic rats and motor axon regeneration in their spinal cords by olfactory ensheathing glia」Neuron 2000;25:425〜435頁)とともに、脊髄の完全な離断の後でさえも感嘆すべき運動および感覚機能回復を見せていること[Ramon-Cuetoら、2000前掲]によって実証していること、および我々の最近の予備実験がラット源からの確立された細胞系が培養中およびin vivoでそのようなニューロン再生能力を維持したことを示すことを考慮して、我々は、その重要な分子機構は今のところ知られていないものの、ヒトOEG細胞の可逆的不死化これは再生能力において有意な低下を生じさせなかったと結論する。
【0077】
我々の知る限り、可逆的不死化ヒトOEG細胞が成熟哺乳動物CNSからの培養ニューロンの軸索再生を促進することができることを実証したのは今回が初めてある。我々ヒトOEG細胞系は、研究と応用の両方におけるOEG細胞の使用において進歩するための有用な道具を意味する。これらの細胞系および類似物は、単独であれ、それを含む医薬組成物であれ、CNS病変を処置するために用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】分離し、1週間培養後(DIV 1)または5連続継代後(DIV 2)のヒトOEG細胞の一般的形態を示す図である。
【図2】たとえばニューロリギン、APP (22C11)、S100およびGFAPなど、グリアマーカーに対する抗体で染色したヒトOEGの免疫蛍光を示す図である。
【図3】EGF-Rファミリーのメンバーの発現を示す図である。異なる培地におけるヒトOEGから得られた細胞抽出物を、Erb B2、Erb B3、およびErb B4に対する抗体を用いたウェスタンブロットによって解析した。搭載コントロールとして、チューブリンを用いた。図は、ラットOEGからの確率細胞系からの並行培養培地を用いた類似の実験からのデータを含む。
【図4】たとえばニューロン特異的チューブリン(334)のようなニューロンのタンパク質、たとえばMAP1B-SMI31(SMI31)またはMAP2(305)のような軸索タンパク質、または細胞体樹状突起タンパク質MAP2(514)、に対する抗体で染色したラット網膜ニューロンの軸索再生能力を示す図である。
【図5】SV40ラージT抗原をコードする遺伝子を発癌遺伝子として含むレンチウイルス構築物pLOX-Ttag-Ires-TKの模式図である。
【図6】テロメラーゼ触媒サブユニットをコードする遺伝子を発癌遺伝子として含むレンチウイルス構築物pLOX-HTERT-Ires-TKの模式図である。
【図7】Bmi-1タンパク質をコードする遺伝子を発癌遺伝子として含むレンチウイルス構築物pLOX-CWBmi1の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可逆的または逆不死化された嗅神経鞘グリア(OEG)細胞系。
【請求項2】
治療の方法に使用するための、請求項1に記載の細胞系。
【請求項3】
ニューロン再生の促進に使用するための、請求項2に記載の細胞系。
【請求項4】
ヒト細胞系である、請求項1から3のいずれかに記載の細胞系。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の細胞系と、製薬的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項6】
患者への移植のための機能性OEG細胞の集団を作る方法であって、
a)初代OEG細胞のサンプルを提供すること、
b)1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せを含む除去可能なDNAセグメントを含むDNA構築物で前記OEG細胞を形質転換することによってOEG細胞を不死化させて、不死化OEG細胞を生成すること、
c)前記不死化OEG細胞を増殖させること、
d)機能特性を維持するこれらの不死化OEGクローン細胞系を選択すること、および
e)前記不死化OEG細胞から前記1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せを除去し、該除去により前記患者への移植のための機能性OEG細胞の集団が生成されることを含む方法。
【請求項7】
前記OEG細胞がヒトドナーから得られる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せが、それをリコンビナーゼ標的部位に隣接させることによって除去可能になり、該除去が、発現されると該リコンビナーゼ標的部位を特異的に認識するリコンビナーゼを生成する遺伝子を前記不死化細胞の中に導入することによって成し遂げられる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記リコンビナーゼがCreリコンビナーゼであり、前記リコンビナーゼ標的部位がloxP部位である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記発癌遺伝子が、SV40ラージT抗原をコードする遺伝子、テロメラーゼ触媒サブユニットをコードする遺伝子、Bmi-1タンパク質をコードする遺伝子、または前記発癌遺伝子のいずれかの組合せである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記除去可能なDNAセグメントが自殺遺伝子をさらに含み、該自殺遺伝子は、前記除去可能なDNAセグメントが前記細胞から除去されない場合、外来性の物質による前記不死化細胞の破壊を可能にする遺伝子産物をコードする、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記自殺遺伝子が、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼをコードする遺伝子であり、前記細胞は、前記除去可能なDNAセグメントが細胞から除去されない場合、ガンシクロビルへの曝露によって破壊される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項6に記載の方法によって生成される機能性OEG細胞の集団。
【請求項14】
神経損傷に対して患者を処置する方法であって、前記患者のニューロン損傷領域におけるニューロン再生の促進を提供するために、該患者に請求項13に記載のOEG細胞の十分量を移植することを含む方法。
【請求項15】
患者に移植するための機能性OEG細胞の集団を作る方法であって、
a)初代OEG細胞のサンプルを提供すること、
b)1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せと、選択可能マーカー遺伝子と、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼをコードする遺伝子とを、前記遺伝子がともにそのいずれかの側でloxP部位に隣接した状態で含む除去可能なDNAセグメントを含むDNA構築物で前記OEG細胞を形質転換することによってOEG細胞を不死化させること、
c)不死化OEG細胞を増殖させること、
d)機能特性を維持する不死化OEGクローン細胞系を選択すること、および
e)前記DNAセグメントを前記不死化OEG細胞から除去することによって該OEG細胞の不死化を逆行させ、該除去は、loxP部位でのDNAセグメントの切除をもたらすために、Creリコンビナーゼをコードする遺伝子を前記不死化OEG細胞に導入することによって成し遂げられ、該切除により、患者への移植のための機能性OEG細胞の集団が生成されることを含む方法。
【請求項16】
前記OEG細胞がヒトドナーから得られる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記発癌遺伝子が、SV40ラージT抗原をコードする遺伝子、テロメラーゼ触媒サブユニットをコードする遺伝子、Bmi-1タンパク質をコードする遺伝子、またはいずれかの組合せの前記発癌遺伝子である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
請求項10に記載の方法によって生成される機能性OEG細胞の集団。
【請求項19】
神経損傷に対して患者を処置する方法であって、前記患者のニューロン損傷領域におけるニューロン再生の促進を提供するために、該患者に請求項18に記載のOEG細胞の十分量を移植することを含む方法。
【請求項20】
不死化をOEG細胞に授ける1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せに隣接する2つのリコンビナーゼ標的部位を含むDNA構築物で形質転換された初代OEG細胞を含み、該不死化は、前記標的部位が該標的部位を特異的に認識するリコンビナーゼに曝露されたときに、該リコンビナーゼ標的部位で切断されることによる前記発癌遺伝子の切除によって可逆である、不死化OEG細胞。
【請求項21】
前記リコンビナーゼ標的部位がloxP部位であり、前記不死化が該loxP部位でのCreリコンビナーゼ切断によって可逆である、請求項20に記載の不死化OEG細胞。
【請求項22】
前記DNA構築物が選択可能マーカー遺伝子をさらに含む、請求項20に記載の不死化OEG細胞。
【請求項23】
前記DNA構築物が自殺遺伝子をさらに含み、該自殺遺伝子は、前記発癌遺伝子が前記細胞から除去されない場合、外来性の物質による前記不死化OEG細胞の破壊を可能にする遺伝子産物をコードする、請求項20に記載の不死化OEG細胞。
【請求項24】
前記自殺遺伝子が、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼをコードする遺伝子であり、前記外来性の物質がガンシクロビルである、請求項23に記載の不死化OEG細胞。
【請求項25】
前記OEG細胞がヒトドナーから得られる、請求項20に記載の不死化OEG細胞。
【請求項26】
請求項25に記載の不死化OEG細胞の集団を含む細胞系。
【請求項27】
請求項20に記載の不死化OEG細胞内で前記DNA構築物を、リコンビナーゼ標的部位での切断によって前記1つの発癌遺伝子または発癌遺伝子の組合せを切除するリコンビナーゼに曝露することによって生成される、患者への移植の際に機能性である逆不死化OEG細胞。
【請求項28】
ニューロン損傷に対して患者を処置する方法であって、前記患者のニューロン損傷領域におけるニューロン再生の促進を提供するために、該患者に請求項27に記載の逆不死化OEG細胞の十分量を移植することを含む方法。
【請求項29】
請求項6から12または15から17のいずれか一項に記載の方法にしたがって調製された可逆的不死化されたまたは逆不死化OEG細胞のコレクションを含む細胞ライブラリー。
【請求項30】
ニューロン損傷を処置するための医薬品の調製における可逆的または逆不死化された嗅神経鞘グリア細胞の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−536901(P2007−536901A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520020(P2006−520020)
【出願日】平成16年7月19日(2004.7.19)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003149
【国際公開番号】WO2005/012513
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(593005895)コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス (67)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【出願人】(502415548)ウニベルシダッド・アウトーノマ・デ・マドリード(ウ・ア・エメ) (2)
【Fターム(参考)】