説明

合成樹脂中空体の製造方法

化粧料溶液、薬品および飲料などの流体物質を収容する合成樹脂中空体の製造方法において、オーバーモールド工程の間、中空成型体に冷却したガスまたは冷却した加圧ガスを充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年11月5日に出願した米国仮特許出願第61/58,311号に基づく米国特許法119条による優先権を主張するものであり、その内容はすべて参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0002】
本発明は、化粧料溶液、薬品および飲料などの流体物質を収容する合成樹脂中空体の製造方法に関する。特に、オーバーモールド工程の間、中空成型体内に冷却したガス、または冷却した加圧ガスを充填する。
【背景技術】
【0003】
本明細書では、本発明が属する技術分野の最新技術についてより十分に説明するために、いくつかの特許および刊行物を引用する。これらの各特許および刊行物の開示内容全体は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0004】
化粧料溶液、薬品および飲料などの流体物質を収容する容器は、従来、ガラス製で、ある場合には金属製である。ガラス容器は、近寄りがたさ、高価値および高品質な外観および手触りを有している。したがって、ガラス容器が、例えば香水などの化粧料溶液の容器として特に多用されているのは、何ら驚くことではない。
【0005】
しかしながら、ガラス容器は、輸送中の衝撃、または使用中にそれらを落とすことにより容易に破損するおそれがある。金属容器は、優れた耐衝撃性を有する一方、非常に高価で、不透明で、重く、そして、特に加工が困難であるという欠点を有している。ガラスまたは金属容器は、多くの場合、単純な形を有しており、そのため装飾性に欠ける。
【0006】
したがって、このジレンマに対して、ポリマーに基づく多くの解決策が提案されている。例えば、国際公開第2008/010600号には、予め製造した中空成型体(a)を合成樹脂組成物でオーバーモールドする合成樹脂中空体の製造方法が記載されている。この記載された方法により、壁の厚さおよび外形を自由に調節できるポリマー製ボトルの製造が可能になり、これにより、製造業者は、今までガラス製のボトルでのみ可能であった形状のポリマー製ボトルを製造できるようになった。
【0007】
国際公開第2008/010600号に記載されている方法は、多くの利点を有するものの、ある一定の制約を抱えていることも認識しなければならない。例えば、予め製造した中空成型体(a)を溶融合成樹脂でオーバーモールドして、合成樹脂中空体を製造した場合、製造された樹脂中空体はかなりの割合で、樹脂中空体の目視検査により明らかになる欠陥を有している。
【0008】
1つの一般的な欠陥は、中空成型体(a)に外観を損なう変形、亀裂およびゆがみが生じ得ることである。これらの欠陥は、主として、中空成型体(a)のオーバーモールドに使用する溶融合成樹脂が、中空成型体(a)を加熱軟化させ、より柔軟にして変形し易くすることにより引き起こされ、これにより相当の割合で欠陥ボトルが生み出される。
【0009】
中空成型体に影響し得る熱エネルギーの量は、オーバーモールドに使用する合成樹脂組成物の量に正比例するため、上記問題は溶融合成樹脂の量が増加するにつれてより深刻になる。
【0010】
これらの欠陥を減少させることは、金属をコーティングした中空成型体(a)を有する合成樹脂中空体を製造するとき、特に重要であり、たとえ非常に小さい亀裂であっても、金属をコーティングした中空成型体(a)の反射層に、容易に検出される欠陥を生じさせる。
【0011】
合成樹脂中空体の製造における廃品の流れを減少させる努力が続けられる中で、いくつかの解決方法が提案されている。例えば、米国特許第5,942,169号明細書には、オーバーモールドにおける中空成型体(a)の変形、破損、損傷およびゆがみを減少させる試みの中で、所与の形状の中空成型体(a)にかかる圧力プロファイルを減ずるのに注入ノズルの最適な配置を計算し、また、変形を防止するために必要な中空成型体(a)の壁厚を計算する方法が記載されている。この方法は、形状変化が小さくとも、新規の中空成型体(a)の形状毎に、注入ノズルの配置および壁厚を新たに計算する必要がある。
【0012】
欧州特許第646447号には、オーバーモールド方法において、中空成型体(a)の変形、破損、損傷およびゆがみを減少させる他の方法が記載されている。中空成型体(a)に対する機械的応力を低減するために、溶融合成樹脂の注入圧力を低下させ、同時に、中空成型体(a)の内部に流体を充填することによって、溶融合成樹脂の射出で生じた外部圧力とバランスさせている。しかしながら、圧力が不十分または過剰であると、収縮または膨張した中空成型体(a)が製造されるであろうことから、中空成型体(a)と注入樹脂の双方に加える圧力を注意深く制御しなければならないので、適正にバランスさせることは容易ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の欠点がなく、欠陥ボトルの量をさらに減少させることができる、欠陥合成樹脂中空体の量を減少させる方法を提供する強いニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、ここでは、中空体および少なくとも1つの開口部を備えた樹脂からなる中空成型体(a)の外側に、オーバーモールドのために溶融樹脂を注入して、中空成型体(a)と一体に樹脂シース体を形成する合成樹脂中空体(A)の製造方法であって、流体物質を中空成型体(a)に充填した状態で、オーバーモールド用の溶融樹脂を注入する工程を含み、流体物質が、15℃〜−80℃の温度に冷却されていて、かつまた1気圧超の圧力に維持されていてもよい方法を提供するものである。
【0015】
本発明の特徴である、これらと、他の種々の新規な利点および特徴は、本明細書に添付され、かつ本明細書の一部を構成する特許請求の範囲に詳しく示されている。しかしながら、本発明、その利点、および本発明の使用によって得られる物をより理解するためには、本明細書の一部をさらに構成する図面と、本発明の好ましい実施形態を解説し説明する以下の記述を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は合成樹脂中空体の透視図である。
【図2】図2A、図2Bおよび図2Cは、本発明のオーバーモールドプロセスにおける種々の時点での、型、中空成型体およびオーバーモールドした中空体の断面図である。
【図3】図3Aおよび3Bは、本発明のオーバーモールドプロセスにおける種々の時点での、型、中空成型体およびオーバーモールドした中空体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に記載する方法は、当業者であれば、最新技術に比べて欠陥ボトルの割合を低下させる方法で合成樹脂中空体を製造することができ、それにより、これらの合成樹脂中空体の製造効率をより高めることができることを特徴としている。
【0018】
図面全体を通して同じ参照記号が対応する構造を示している図面をここで参照すると、特に図1を参照すると、本発明の方法により得られる合成樹脂中空体(A)は、図1に示すように、中空成型体(a)を含み、その中空成型体(a)の外表面が少なくとも部分的に樹脂シース体(H)で覆われている。
【0019】
本発明での使用に適した中空成型体は、中空成型体(a)が少なくとも1つの開口部を有することを特徴としている。
【0020】
中空成型体(a)と樹脂シース体(H)は、例えば、円筒状、多面体状または球状など、所望のいかなる形状または構造を有していてもよい。それらは凹形状であっても凸形状であってもよく、それらの輪郭線は連続しても、不連続であっても、角があっても、曲線であってもよい。中空成型体(a)および樹脂シース体(H)は、他の複雑な形状または構造を有してもよく、あるいは2種以上の形状または構造の組み合わせであってもよい。樹脂シース体(H)は、中空成型体(a)をその基礎としている。しかしながら、他の点では、中空成型体(a)の形状は樹脂シース体(H)の形状に依存しておらず、合成樹脂中空体(A)の形状にも依存していない。
【0021】
中空成型体(a)の材料
中空成型体(a)には、任意のポリマー材料を使用することができる。材料は熱硬化性材料であってもよい。また、熱可塑性材料、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリエステル(PET(ポリエチレンテレフタレートなど)、コポリエステル(PETG(ポリエチレンテレフタレートグリコールなど)、PEGT、PCT(ポリシクロヘキサンジメチルナフタレート)、PCTA(ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート)およびPEN(ポリエチレンナフタレート)など)、アクリル樹脂、スチレン樹脂(スチレンアクリロニトリルコポリマー樹脂、スチレンメチルメタクリレートコポリマー樹脂など)、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリアミド、フルオロポリマー、フルオロエラストマー、アイオノマー樹脂、およびPAN(ポリアクリロニトリド)なども使用することができる。
【0022】
樹脂シース体(H)の屈折率に類似の屈折率を有する材料が好ましい。本開示において、類似の屈折率とは、それらの数値との差が10%以内の屈折率をいう。屈折率の差が7.5%、5%、2.5%または1%以内であることがより好ましい。樹脂シース体(H)と同一材料が使用される場合に、最適な効果を得ることができ、それにより、高品質感、外観および審美性を向上させることができる。
【0023】
合成樹脂中空体(A)内に入れる流体物質が腐食性の薬品である場合、中空成型体(a)の材料としてフルオロポリマー、ポリエチレンまたはポリプロピレンを使用することが有利である。これらの材料は、優れた耐薬品性を有し、かつ透明度の高い合成樹脂である。
【0024】
その優れた透明性は、樹脂シース体(H)とともに最適の効果を有し、それにより、高品質感、外観および審美性が向上し、同時に優れた耐薬品性を示す。
【0025】
中空成型体(a)に使用することができるポリマー材料は、好ましくはポリプロピレンである。
【0026】
他の改善点として、例えば、内側バリア層、任意選択による接着層、および外側層などのように、複数の層からなる中空成型体(a)を使用することができ、かつ好ましい。
【0027】
中空成型体(a)が複数の層から構成される場合、化粧料溶液、薬品および飲料と対向する内側バリア層は、上述のように化粧料溶液、薬品および飲料の化学的性質に応じて選択することができる。
【0028】
内側バリア層は、好ましくは、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはフルオロポリマーで作製することができ、それは、それらの透明性により高品質感、外観特性および審美性が加わるためである。
【0029】
合成樹脂中空体(A)の内容物が酸素と反応し易いときは、中空成型体(a)が酸素に対しバリアとして作用する特性を有する材料を含むか、またはそのような材料で作製することが好ましい。中空成型体(a)が複数の層から構成される場合、化粧料溶液、薬品および飲料と対向する内側バリア層と、任意選択の接着層および外側層との間に、さらに酸素バリア層を挿入することができる。このように、酸素バリア層は合成樹脂中空体(A)の内容物と接触させる必要はない。酸素層は、ポリビニリデンクロライド、エチレンビニルアルコール、ポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはこれらの組み合わせなどの酸素不透過性材料から作製することができる。好ましくは、追加する酸素バリア層は、エチレンとビニルアルコール(EVOH)とのコポリマーから作製することができる。また、ガスバリア性を向上させることで知られている無機充填剤を酸素バリア層に含有させてもよい。例えば、米国特許第7,303,797号明細書を参照されたい。
【0030】
中空成型体(a)の製造
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、中空成型体(a)が、好ましくはブロー成型、押出ブロー成型、射出ブロー成型、射出成型、または2分割成型体を振動溶接法により溶接する方法により形成されることを特徴としている。
【0031】
本発明の中空成型体(a)は押出ブロー成型により製造することがより好ましい。
【0032】
外側シース材料
中空成型体(a)に関して上述したポリマー材料のいずれもが、外側シース材料として使用するのに適している。熱硬化性オーバーモールド材料を使用する場合、本明細書に記載する方法に、適切な硬化工程が含まれることもまた明らかである。
【0033】
合成樹脂中空体(A)の製造には、樹脂シース体(H)の材料として透明度の高い合成樹脂を使用することが好ましい。全光線透過率(JIS K7105により、厚さ1mmのシートで測定)が80%〜100%の範囲、より好ましくは85%〜100%の範囲の合成樹脂を使用することがより好ましい。また、上記したように、オーバーモールド材料の屈折率が中空成型体(a)の屈折率に類似していることが好ましい。
【0034】
透明度の高い合成樹脂であって、透過率が上記範囲を満たす材料としては、限定はされないが、アイオノマー樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびスチレン樹脂(スチレンアクリロニトリルコポリマー樹脂およびスチレンメチルメタクリレートコポリマー樹脂など)が挙げられる。好ましくは、ポリエステル樹脂またはアイオノマー樹脂を使用することができる。より好ましくは、アイオノマー樹脂を使用することができる。
【0035】
アイオノマー樹脂としては、例えば、不飽和カルボン酸を1〜40重量%含むエチレン不飽和カルボン酸コポリマーを使用することができる。
【0036】
カルボキシル基の少なくとも一部(一般に、0モル%超、99モル%以下、好ましくは90モル%以下)は中和されて、対イオンとしてカチオンを有するカルボキシレート基を形成する。
【0037】
アイオノマー樹脂のベースポリマーであるエチレン不飽和カルボン酸コポリマーは、エチレンと不飽和カルボン酸を共重合することにより得ることができるが、他の極性モノマーを共重合させてもよい。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルおよびマレイン酸モノエチルを挙げることができる。不飽和カルボン酸は、好ましくは、メタクリル酸またはアクリル酸である。
【0038】
コポリマー成分としてもよい極性モノマーとしては、酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニルなどのビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジメチルおよびマレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル、並びに一酸化炭素を挙げることができる。不飽和カルボン酸のアルキルエステルが、任意選択のコポリマー成分として好ましい。
【0039】
対イオンは、1価、2価または3価のカチオンである。例えば、アンモニウムカチオンおよび金属カチオンなどの、ポリマー加工条件下で安定なカチオンが適している。1価および2価の金属カチオンが好ましい。より具体的には、Na+、K+、Li+、Cs+、Ag+、Hg+、Cu+、Be++、Mg++、Ca++、Sr++、Ba++、Cu++、Cd++、Hg++、Sn++、Pb++、Fe++、Co++、Ni++、Zn++、Al+++、Sc+++、Fe+++およびY+++を挙げることができる。金属イオンは、好ましくは、Na+、Zn++、K+およびLi+イオンである。最も好ましくは、金属イオンは、Na+またはZn++である。
【0040】
上記アイオノマー材料は、優れた透明性、耐衝撃性および耐傷付性を有する。さらに、ガラスに似た高級感を与える、厚壁の樹脂シース体(H)を形成することができる。したがって、これらの材料が、樹脂シース体(H)の材料として好ましい。本発明では、樹脂シース体(H)の厚さは少なくとも1mmであることが好ましい。
【0041】
外側のシース材料にはまた、合成樹脂中空体(A)に望ましい物理的および光学的特性に合った添加剤が含まれていてもよい。例えば、外側シース材料は、顔料;染料;真珠フィラーまたは金属フレークなどの光学的効果のための添加剤;充填剤;離型剤;加工助剤;流動性促進添加剤、流動性抑制添加剤(例えば、有機過酸化物);滑剤;光学的光沢剤;難燃剤;衝撃性改良剤;核化剤;熱安定剤;ヒンダードアミン系光安定剤(HALS);UV吸収剤;UV安定剤;分散剤;界面活性剤;キレート剤など、および2種以上の従来の添加剤の組み合わせなどを含有してもよい。これらの添加剤は、例えば、Kirk Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、第5版、John Wiley & Sons(New Jersey、2004年)に記載されている。
【0042】
添加剤は、樹脂シース体(H)、または外側シース材料から製造された合成樹脂中空体(A)の性能に重大な悪影響を及ぼさない限り、外側シース材料の全重量に対して約0.01〜約15重量%、または約0.01〜約10重量%の量を、外側シース材料に含有させてもよい。
【0043】
オーバーモールドプロセス
本明細書に記載する方法は、当業者であれば、最新技術に比べて欠陥ボトルの割合を低下させる方法で合成樹脂中空体を製造することができ、それにより、これらの合成樹脂中空体の製造効率をより高めることができることを特徴としている。欠陥ボトルは、中空成型体(a)に、ぎざぎざ、亀裂、隆起、膨張、孔、脱色およびその他の変形などの欠陥;または樹脂シース体(H)に気泡、空洞、脱色などの欠陥;あるいは中空成型体(a)および樹脂シース体(H)の両方に欠陥を有するボトルである。
【0044】
樹脂で作られ、かつ少なくとも1つの開口部を具備した中空成型体(a)の外側に、オーバーモールド用の溶融樹脂を注入して、中空成型体(a)と一体に樹脂シース体(H)を形成する、本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、中空成型体(a)の一部または全体に冷却した流体物質を充填した状態で、オーバーモールド用溶融樹脂を注入する工程を含むことを特徴としている。
【0045】
そのような構成によって、成型時の樹脂の圧力および温度による中空成型体(a)の変形を防止することができ、これにより、中空成型体(a)の外表面が、樹脂シース体(H)で確実に一体に覆われた合成樹脂中空体(A)が製造される。
【0046】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、冷却した流体物質が、好ましくは空気、窒素、酸素、不活性ガスまたは二酸化炭素などのガスであることを特徴としている。より好ましくは、ガスは窒素または空気である。より一層好ましくは、ガスは空気である。
【0047】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、ガスが好ましくは周囲温度より低い温度、好ましくは15℃〜−80℃に冷却されていることを特徴としている。ガスは0℃〜−60℃の温度に冷却されていることがより好ましい。ガスは−20℃〜−50℃の温度に冷却されていることがより一層好ましい。
【0048】
ガスは、そのプロセスで注入する前に冷却することが好ましい。しかしながら、高圧の場合、ガスが中空体内で膨張することによって追加的に冷却されることがあり得るであろう。
【0049】
上記のように、溶融樹脂の注入工程、および溶融樹脂の冷却時に、中空成型体(a)内のガスの温度を調節することにより、注入工程において注入圧力および温度により中空成型体(a)が変形するのを防止することができ、また、冷却時に中空成型体(a)と樹脂シース体(H)の間にゆがみや亀裂が生じるのを確実に防止することができる。
【0050】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、冷却ガスが、好ましくは1〜2MPaの圧力であることを特徴としている。冷却ガスは1.1〜1.6MPaの圧力であることがより好ましい。ガスは1.3〜1.5MPaの圧力であることがより一層好ましい。
【0051】
上記のように、溶融樹脂の注入工程、および溶融樹脂の冷却時に、中空成型体(a)中のガスの圧力を調節することにより、注入工程で中空成型体(a)が注入圧力により変形するのを防止することができ、また、冷却時に中空成型体(a)と樹脂シース体(H)の間にゆがみや亀裂が生じるのを確実に防止することができる。
【0052】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、冷却ガスが中空成型体(a)内に流れることを特徴としている。流れは、中空成型体(a)へ空気を送入するために使用するブローピン装置(P)の少なくとも1個の排気口により可能になる。
【0053】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、冷却ガスの流れが毎分300〜1000リットルの範囲であることを特徴としている。冷却ガスの流れは、好ましくは、毎分350〜600リットルの範囲である。
【0054】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、型を開放する直前のある一定時間、中空成型体(a)内のガスの圧力が、好ましくは大気圧に等しいことを特徴としている。
【0055】
ガスの圧力を上記の範囲に調節することにより、型を開放して未だ軟らかい合成樹脂中空体(A)を取り出す際、合成樹脂中空体(A)が破裂するのを確実に防止することができる。
【0056】
上記のように、中空成型体(a)に充填する流体物質は気体であるので、合成樹脂中空体(A)はオーバーモールド後、直ちに市場向け製品となり、これにより、乾燥または洗浄工程が必要な、流体物質が液体の場合と比べて、生産性をさらに向上させることができる。
【0057】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、樹脂シース体(H)を形成する溶融合成樹脂が、型に注入される瞬間から型に充填される瞬間まで、100℃〜300℃の範囲の温度と、20〜100MPaの範囲の注入圧を有することを特徴としている。
【0058】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、金型に注入する溶融合成樹脂が、好ましくはアイオノマー樹脂であることを特徴としている。
【0059】
上記のように、そのような合成樹脂を成型に使用することにより、樹脂シース体(H)を通して中空成型体(a)を明瞭に見ることができる。さらに、樹脂シース体(H)は極めて高い透明度を有しており、それにより、高品質感、審美性および外観が大きく向上する。
【0060】
図2Aに示すように、合成樹脂中空体(A)の製造方法では、空の状態の中空成型体(a)を金型M1およびM2内にセットし、冷却ガスGをブローピン装置(P)を通して中空成型体(a)の開口部(O)に吹き込む。
【0061】
その後、図2Bに示すように、冷却ガスGを中空成型体(a)に吹き込みながら、金型M1およびM2を閉じる。
【0062】
図2Cに示すように、冷却ガスGを中空成型体(a)に吹き込みながら、溶融合成樹脂を、樹脂流入口Rから金型M1およびM2内に注入する。そのようなプロセスにより、溶融合成樹脂は中空成型体(a)の少なくとも1部を覆う。
【0063】
一定時間、型が閉じた状態を維持することによって、溶融合成樹脂を冷却し、硬化させる。
【0064】
こうして、中空成型体(a)と樹脂シース体(H)の間にゆがみを生じることなく、中空成型体(a)の外表面が樹脂シース体(H)と一体に覆われるように、樹脂シース体(H)を形成することができる。
【0065】
溶融合成樹脂を冷却し硬化させる間、冷却ガスGを中空成型体(a)に、注入時と同じレベルを維持し得るか、またはそれより高く、もしくは低くし得る、流量、温度および圧力で吹き込む。例えば、樹脂シース体(H)の冷却および硬化にともない、ガスの温度を上げたり、あるいはその圧力および流量を下げたりすることができる。
【0066】
その後、図3Aに示すように、金型M1およびM2を開放する。図3Bに示すように、ランナーおよびスプルー(S)を取り外し、キャップ部材(C)(図1に示されている)を開口部Oに取り付けることができる。その結果、樹脂シース体(H)が中空成型体(a)と一体に形成された合成樹脂中空体(A)を得ることができる。合成樹脂中空体(A)を、型から取り外した後、適当な温度にまで、例えば、周囲条件下、空気中に放置するなどの従来の手段で冷却する。しかしながら、合成樹脂中空体(A)の冷却に、冷却浴や冷蔵などの他の手段を使用してもよい。但し、冷却速度を大きくしすぎると、合成樹脂中空体(A)の内部に応力割れ、または他の欠陥が引き起こされるおそれがある。
【0067】
オーバーモールド工程の間、液体または砂などの固体でなく、気体を中空成型体(a)に吹き込んでいるので、洗浄工程も乾燥工程も追加する必要がない。したがって、合成樹脂中空体(A)が成型され、適当な温度にまで冷却されれば、直ちに、中空成型体(a)に所望の化粧料溶液、薬品および飲料を充填することができ、これにより、製造コストをさらに低減することができる。
【0068】
上記のような方法で中空成型体(a)を形成することにより、大量生産が可能になり、かつ製造コストを低減することができ、それによりまた、中空成型体(a)の外表面が樹脂シース体(H)で一体に経済的有利性を持って覆われた合成樹脂中空体(A)の成型プロセスが可能になる。
【0069】
本発明の合成樹脂中空体(A)の製造方法は、中空成型体(a)が好ましくは薄壁成型体であることを特徴としている。
【0070】
上記のように、中空成型体(a)は薄壁成型体であるので、中空成型体(a)が樹脂シース体(H)と一体化されている場合、両部材間の境界線は殆ど見えず、これにより、審美性が向上した合成樹脂中空体(A)が得られる。
【0071】
以下の実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、現時点で考えられる本発明を実施するために好ましい態様を記載するものであるが、本発明を説明することを意図したものであって、本発明を限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0072】
中空成型体
3層を有する中空成型体を共押出ブロー成型により形成した。
【0073】
最内層は、厚さが0.5mmで、ランダムポリプロピレン(PP Atofina 3221)からなり、温度200℃で共押出された。
【0074】
中間接着層は、厚さ0.2mmで、無水変性エチレンビニルアセテート(Bynel 3861)からなり、温度200℃で共押出された。
【0075】
外側層は、厚さ0.8mmで、PETGからなり、温度220℃で共押出された。
【0076】
共押出された中空成型体パリソンを、冷却した金型を閉じることによって切断した。収容したパリソン内に、ブローピンより加圧流体を送り込み、そのようにしてパリソンを型の寸法にまで膨張させた。
【0077】
室温(25℃)の、圧力が0.8MPaである周囲空気を流体として使用した。型内で30秒間冷却した後、完成した中空成型体を取り出した。
【0078】
実施例1
その後、このようにして得られた中空成型体を、Netstal Synergy 1750射出成型機に装着された型に入れ、アイオノマーでオーバーモールドした。アイオノマーは、エチレンとメタクリル酸とのコポリマーで、19重量%の部分的にナトリウムで中和されたメタクリル酸を含み、かつASTM 1238に準拠して190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローインデックスが4.5g/10分であった。同様のアイオノマーが、E.I.du Pont de Nemours & Company、Wilmington、DE、USAから、Surlyn(登録商標)の商標で商業的に入手可能である。
【0079】
アイオノマーを注入する前に、中空成型体を5秒間、中空成型体とその周りを取り囲んでいる型に冷却した空気を循環させることによって、予備冷却した。空気は、約−14℃に冷却し、約1.2MPaに加圧した。
【0080】
その後、中空成型体を収容した型に溶融アイオノマー樹脂を注入し、中空成型体をオーバーモールドした。アイオノマー樹脂の注入圧力は、型に充填されるまで約80MPaとした。型に充填された後は、アイオノマー樹脂の圧力を30MPaに下げ、型内で110秒間、アイオノマー樹脂を固化させた。
【0081】
注入および固化を行っている間、中空成型体に冷却した空気を圧力0.6MPaで循環させた。
【0082】
アイオノマー樹脂を固化させた後、オーバーモールド機からオーバーモールドした中空成型体を取り出し、その品質を評価した。1を最悪、3を最良の品質とする、3つの明確に異なるレベルで、品質等級の評価を行った。
【0083】

【0084】
実施例2
上で概要を説明した実験手順にしたがって形成した中空成型体を使用した。圧力0.8MPaの冷却空気を使用した以外は、実施例1で記載のようにオーバーモールド工程を行った。
【0085】
実施例3
上で概要を説明した実験手順にしたがって形成した中空成型体を使用した。圧力1MPaの冷却空気を使用した以外は、実施例1で記載のようにオーバーモールド工程を行った。
【0086】
実施例4
上で概要を説明した実験手順にしたがって形成した中空成型体を使用した。圧力1.2MPaの冷却空気を使用した以外は、実施例1で記載のようにオーバーモールド工程を行った。
【0087】
比較例1
上で概要を説明した実験手順にしたがって形成した中空成型体を使用した。
【0088】
室温(25℃)の空気を使用した以外は、実施例1で記載のようにオーバーモールド工程を行った。
【0089】
比較例2
上で概要を説明した実験手順にしたがって形成した中空成型体を使用した。
【0090】
室温(25℃)の空気を使用した以外は、実施例2で記載のようにオーバーモールド工程を行った。
【0091】
比較例3
上で概要を説明した実験手順にしたがって形成した中空成型体を使用した。
【0092】
室温(25℃)の空気を使用した以外は、実施例3で記載のようにオーバーモールド工程を行った。
【0093】
比較例4
上で概要を説明した実験手順にしたがって形成した中空成型体を使用した。
【0094】
室温(25℃)の空気を使用した以外は、実施例4で記載のようにオーバーモールド工程を行った。
【0095】
表1
表1に、実施例1、2、3および4、並びに対応する比較例1、2、3および4で作製された合成樹脂中空体(A)の品質評価を示す。
【0096】
表1

注(1):実施例1(0.6MPa)および実施例2(0.8MPa)で作製された合成樹脂中空体の品質評価は1(中空成型体および樹脂シースの両方に欠陥)であるが、実施例3(1MPa)で作製された合成樹脂中空体の品質は2(中空成型体に欠陥)である。実施例4で作製された合成樹脂中空体の品質は3(欠陥なし)である。比較例1、2、3および4で作製された合成樹脂中空体の品質は1(中空成型体および樹脂シースの両方に欠陥)である。
【0097】
表1のデータから分かるように、本発明の製造方法において冷却空気を使用すると、空気を冷却しない製造方法と比べて、より高品質の合成樹脂中空体が得られる。オーバーモールド時に、冷たい空気により中空成型体が硬くなり、それにより、変形、亀裂または歪みの発生が防止されると考えられる。また、空気の温度が−14℃のとき、圧力1および1.2MPaで循環させると、より良好な結果が得られる。
【0098】
さらに、冷却した空気は、ブローピンから出る瞬間にさらに冷却されると考えられる。ブローピンは、中空成型体に流れた冷却空気を外部に排出させることができる排気口を有しており、そして排気口はブローピンより直径が大きいため、ブローピンを出た冷却空気にガス膨張が生じ、その結果、周囲温度で注入したガスの温度でも低下させる減圧効果により、冷却した空気がさらに冷却される。
【0099】
実施例5〜10
空気の温度および圧力を下の表2に示すようにした以外は、上記の手順にしたがって試料を作製した。溶融アイオノマー樹脂によるオーバーモールドの前後で、中空成型体の内容積の変化を評価し、それらの結果をまた表2に示す。予め冷却し、加圧した空気を使用して作製された合成樹脂中空体(実施例5〜10)内の中空成型体は、明らかに、ほぼ一定の容積を維持した。対照的に、予め冷却していない加圧空気を使用して作製された合成樹脂中空体(比較例5〜10)内の中空成型体の容積は、5分の1〜3分の1減少した。
【0100】
表2

【0101】
以上、本発明の好ましい実施形態をいくつか記載し、かつその具体例を示したが、本発明をそのような実施形態に限定することを意図するものではない。むしろ、本発明の多くの特徴および利点が、本発明の構成および作用の詳細とともに、上記説明の中に記載されているとはいえ、この開示は単に説明のためであって、細部、特に、部品の形、寸法および配置については、添付の請求項を表現している用語の広範な一般的意味によって示される、本発明の原理の最大限の範囲内で、変更を行ってもよいと理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空体および少なくとも1つの開口部を備えた中空成型体の外側に、オーバーモールドとして溶融樹脂を注入して、前記中空成型体と一体に樹脂シース体を形成する合成樹脂中空体の製造方法であって、前記中空成型体(a)にガスを充填した状態で、オーバーモールド用の前記溶融樹脂を注入する工程を含み、前記ガスが冷却されていて、かつ前記ガスの圧力が大気圧超であってもよいか、または前記ガスが冷却されていて、かつ前記ガスの圧力が大気圧超である合成樹脂中空体の製造方法。
【請求項2】
前記冷却ガスは、15℃〜−80℃の温度を有するか、または1〜2MPaの圧力を有する請求項1に記載の合成樹脂中空体(A)の製造方法。
【請求項3】
前記成型温度が100℃〜300℃の範囲で、かつ前記溶融樹脂を前記金型に注入する場合の注入圧力が20〜100MPaである請求項1または2に記載の合成樹脂中空体(A)の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂がアイオノマー樹脂である請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成樹脂中空体(A)の製造方法。
【請求項5】
前記冷却ガスの流れが毎分300〜1000リットルの範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成樹脂中空体(A)の製造方法。
【請求項6】
前記中空成型体(a)が、ブロー成型法、または2分割成型体を振動溶接法により溶接する方法により形成される請求項1〜5のいずれか一項に記載の合成樹脂中空体(A)の製造方法。

【図1】
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【図2A−2C】
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【図3A−3B】
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【公表番号】特表2013−510016(P2013−510016A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537232(P2012−537232)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/055611
【国際公開番号】WO2011/057066
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】