説明

合成樹脂成形体及びこの合成樹脂成形体を用いた浴室部材

【課題】新たな金型投資を必要とせず、生産性・肌触り・滑りにくさ・水の乾燥性・衝撃吸収性・防音性・耐久性・清潔性に優れ、しかも、表面部材と基部の接着性が良好で、成形時の軟質材の流動や成形後の成形品反りを抑えることができる、より安全で快適な浴室成形品を提供する。
【解決手段】基部5と、この基部に積層される表面部材4とを備え、上記上面部材が、軟質であり、その表面に織物の転写面を有する合成樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に織物の転写面を有し、その表面が軟質な合成樹脂成形体に関するものであり、より具体的には、シートモールドコンパウンド(以下、「SMC」と言う。)やバルクモールディングコンパウンド(以下、「BMC」と言う。)などの基部を配し、その表面に、織物の転写面を有する軟質な表面部材を設けた浴室部材に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室内に設置される浴室床、防水パン、浴室壁、浴槽、浴槽エプロン、浴室天井等は通常、樹脂(FRP)製、ステンレス製、またはホーロー製等であり、表面の平滑性、重厚感を向上させるため、これを硬質化する傾向があった。なお、FRPとは繊維と樹脂を用いて補強することによって、強度を向上したプラスチックである。
【0003】
また、浴室内での安全性をより高めるために、発泡ポリウレタン製の軟質材を既設の浴槽上に被覆し、使用後の交換が可能な軟質なセーフティバスが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、熱可塑性エラストマー層と発泡層を有する軟質材を予め真空成形により成形し、これを成形型にセットしてFRPのバックアップ層を積層させて一体化する軟質浴槽(特許文献2参照)や、表面樹脂層をアクリル変性ビニルエステル樹脂などの軟質樹脂で形成し、基材樹脂層をアクリル変性ビニルエステル樹脂などの軟質樹脂に充填剤を添加した材料で形成する人工大理石(特許文献3参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平7−236587号公報
【特許文献2】特開平10−80958号公報
【特許文献3】特開2000−62098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法であると、軟質で強度の弱い発泡ポリウレタンで形成されているため、耐久性に欠け、交換時にさらにコストが発生するといった問題があった。さらに、軟質材には、汚れ、ぬめり等が付着し、不潔であるといった問題点もあった。
【0006】
また、特許文献2、特許文献3の方法であると、従来のSMC成形等に比べて多工程が必要で時間を要する。また滑りを防止することが困難であった。
【0007】
一方、プレス一体成形により成形品表面に軟質BMCやゴムのような軟質材を設け、その表面に金型形状を転写して形成した微細凹凸で、滑りを抑えた浴室成形品が提案されているが、所望の微細凹凸の形状を付与するため、新たに多額の金型投資をし、所望の形状を付与した金型を製作する必要があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、新たな金型投資を必要とせず、生産性・肌触り・滑りにくさ・水の乾燥性・衝撃吸収性・防音性・耐久性・清潔性に優れ、しかも、表面部材と基部の接着性が良好で、成形時の軟質材の流動や成形後の成形品反りを抑えることができる、より安全で快適な浴室成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次のものに関する。
(1)基部と、この基部に積層される表面部材とを備え、上記上面部材が、軟質であり、その表面に織物の転写面を有する合成樹脂成形体。
(2)項(1)において、表面部材が、基布と、この基布の表裏何れか一方の面にゴム製の表面部材接着層を有する多層構造シートであり、上記表面部材接着層を、SMC又はBMCの基部との接着層として、表面部材と基部とをプレス一体成形した合成樹脂成形体。
(3)項(2)において、基布が、表面部材接着層を設けた面とは反対の面に、表面部材表層を有し、この表面部材表層が、基布に積層させたゴムであり、積層時に表面部材表層の製品面側に織物を備え、織物の形状を表面部材表層に転写させた合成樹脂成形体。
(4)項(1)乃至(3)の何れかにおいて、表面部材と基部の間に、表裏の一方又は両方に接着処理を施した中間材を有し、表面部材と中間材と基部とをプレス一体成形した合成樹脂成形体。
(5)製品面から表面部材表層、基布、表面部材接着層、基部の順に、または表面部材表層、基布、表面部材接着層、中間材、基部の順に構成され、表面部材表層がクロロスルホン化ポリエチレンゴム、基布がポリエステルまたはナイロン製の基布、表面部材接着層がクロロプレンゴム、中間材が金属製または樹脂製の板またはフィルム、基部がFRPである合成樹脂成形体。
(6)項(5)において、表面部材の表面部材表層及び表面部材接着層が予め加硫させたゴムシートであり、加硫時及びプレス一体成形時に織物の形状を表面部材表層に転写させ、プレス一体成形後に織物を剥離する合成樹脂成形体。
(7)項(5)又は(6)において、表面部材と基部との接着層である表面部材接着層がクロロプレンゴムであり、クロロプレンゴムと基部との接着面側にバフ掛けを施した合成樹脂成形体。
(8)項(1)乃至(7)の何れかにおいて、織物の転写面の算術平均粗さRaの平均値が0.5μm以上である合成樹脂成形体。
(9)項(1)乃至(8)の何れかに記載される合成樹脂成形体を用いた、浴室床、防水パン、浴室壁、浴槽、浴槽エプロン又は浴室天井の浴室部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新たな金型投資を必要とせず、生産性・肌触り・滑りにくさ・乾燥性・衝撃吸収性・防音性・耐久性・清潔性に優れ、しかも、表面部材と基部の接着性が良好で、成形時の軟質材の流動や成形後の成形品反りを抑えることができる、より安全で快適な浴室成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明を図面に基づいて説明する。
本発明における表面に軟質部材を備えた合成樹脂成形体の断面構成は図1、図2及び、図3に示すように、表面部材4と基部5、または、表面部材4と中間材6と基部5とを備え、表面部材4が基布2の両面または片面にゴムを積層(トッピング)させた多層構造シート、基部5がSMCまたはBMCを使用したFRP、中間材6が金属製または樹脂製の板またはフィルムで、上記の表面部材と基部、または表面部材と中間材と基部をプレス一体成形したものである。
【0012】
表面部材4に用いる多層構造シートは、使用目的や用途に合わせ、種々のゴムを基布2となる繊維の上下、または、基布2となる繊維の上のみにトッピング加工することで形成できる。製品面となる表面部材4の表面部材表層1には、耐久性、耐候性、耐油性、耐摩耗性に優れたクロロスルホン化ポリエチレンゴムを始め、シリコンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、EPDM、ポリウレタン、ポリアミド等、種々の軟質材を使用できる。
また、FRPとの接着面となる表面部材4の表面部材接着層3には、接着が容易で強固であり、接着加工が必要な用途に適しているクロロプレンゴムを使用することが好ましいが、クロロスルホン化ポリエチレンゴムを始め、シリコンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、EPDM、ポリウレタン、ポリアミド等、種々の軟質材を使用できる。
なお、トッピング加工とは、2本の等速ロール間に、分出しシートと布、あるいは布状の各種材質の樹脂などを同時に通し圧着しながら貼り付けることによって、その布の片面や両面に薄いゴム層のある複合体を作る加工である。
【0013】
表面部材4に用いる軟質材は、成形時の軟質材の変形や流動、成形後の成形品の反りを抑えるため、加硫状態のゴム材を用いることが好ましいが、金型形状の転写性や基部5との密着性、成形時の流動性などに応じて加硫状態を調整でき、未加硫または半加硫状態のゴム材であってもよい。ここで半加硫状態とは、ゴム材を完全に加硫するのではなく、架橋反応が完了する前に加硫を一旦中止した状態をいう。半加硫状態は、キュラストメータ(型式:JSR−3型、日本合成ゴム社製)で測定したトルク値が、完全な加硫状態を100%とした場合に、その70〜90%となった状態が望ましい。70%未満では成形時に軟質材の流動が大きくなり、90%を超えると転写性や密着性が完全な加硫状態と同等まで低下する。塩ビシート、熱可塑性エラストマー、発泡材料等の軟質材料も使用できる。
また、表面部材4の硬さは、特に指定するものではないがデュロメーター硬さ試験タイプDで測定した際の硬度が、80以下であることが好ましい。これは、衝撃吸収性の付与と成形後の反り抑制のためである。
【0014】
表面部材4の表面部材表層1および表面部材接着層3には、表面部材表層1の保護や表面部材接着層3の基部5との接着向上を目的に表面処理を施すことができる。表面部材表層1には、例えば塗装やフィルムの貼り付けのほか、各種トップコート剤やホットメルト剤等の表面処理剤で表層に処理を施すことができる。
表面部材接着層3には、例えばバフ掛け処理、塗装、フィルムの貼り付けのほか、エポキシ樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、アクリル変成シリコーン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、クロロプレンゴム系溶剤形接着剤、合成ゴム系ラテックス形接着剤、イソシアネート系接着剤、エマルジョン形接着剤、ホットメルト形接着剤、シランカップリング剤等のような各種接着剤を塗布するほか、脱脂処理、サンディング処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理、酸処理等の処理を施すことができる。また、表面処理時には必要に応じて充填材、発泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤の添加や着色加工ができる。また、防カビ・抗菌剤を含有でき、市販の工業用抗菌剤を使用できる。通常、工業用抗菌剤は無機系抗菌剤と有機系抗菌剤に大別されるが、本発明の表面部材4には何れの抗菌剤も用いることができる。
【0015】
表面部材4に用いる基布2は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ガラス繊維、天然繊維、金属繊維、セラミックス繊維等、種々の繊維を使用でき、必要に応じて接着処理等の処理を施すことができる。また、繊維の形態は平織り、朱子織り、不織布、マット等何れの形態であってもよい。
【0016】
表面部材4には、必要に応じて充填材、発泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を添加できる。また、防カビ・抗菌剤を含有でき、市販の工業用抗菌剤を使用できる。通常、工業用抗菌剤は無機系抗菌剤と有機系抗菌剤に大別されるが、本発明の表面部材4には何れの抗菌剤も用いることができる。
【0017】
表面部材4は、着色加工ができ、表面部材4を構成する材料に顔料、或いはトナーとした液状またはペースト状の顔料を加えて着色する。また、シート状の表面部材4上にグラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の印刷を施したり、表面部材4の製品面側にグラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の印刷を施したフィルムなどを備えたりすることができる。
【0018】
表面部材4の厚みは10〜5000μmとする。これは、厚みが10μm未満になると、軟質感と衝撃吸収性の効果が低下し、5000μmを超えると、成形品の強度バランスが乏しくなるためである。また、表面部材4と基部5の厚さの比は、必要とされる軟質感、衝撃吸収性、強度などにより決定される。
【0019】
基部5の材料としては、安価・高強度で、生産性にも優れるSMCやBMCを使用することが好ましいが、その他、ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や、熱可塑性樹脂を用いることができる。また、基部5の厚みは1〜20mmとすることが好ましい。厚みが1mm未満になると徐々に成形品の強度が乏しくなり、20mmを超えると徐々に成形品重量が増し、成形性も乏しくなるためである。
【0020】
基部5の材料に用いるSMCとは、熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、硬化剤、重合禁止剤、充填剤、増粘剤を配合してなる不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維補強材に含浸させた繊維強化成形材料であって、シート状に形成されたものである。また、BMCとは樹脂に各種の添加剤、繊維補強材が加えられた塊粘土状の成形用材料である。
【0021】
熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂が多く用いられるが、ビニルエステル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を用いることができる。
【0022】
重合性単量体は、例えば、スチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、ターシャリブチルスチレン、臭化スチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のメタクリル酸又はアクリル酸のアルキルエステル、β−ヒドロキシメタクリル酸エチル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル等のメタクリル酸又はアクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、ジアリルフタレート、アクリルアミド、フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0023】
低収縮剤は、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ブタジエンゴムなどの熱可塑性樹脂が用いられる。使用量は、成形品の成形収縮率や表面平滑性、表面光沢等の表面特性を考慮して決定され、特に制限はない。低収縮剤は、前記不飽和ポリエステル樹脂と重合性単量体との総量に対して20〜50質量%の範囲で使用されることが好ましい。
【0024】
硬化剤は、ケトンパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、ハイドロパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、アルキルパーエステル類等が挙げられる。硬化剤の量は、材料の保存性、成形サイクルの面から前記不飽和ポリエステル樹脂及び重合性単量体の総量に対し0.5〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは1.0〜3.0質量%である。
【0025】
重合禁止剤は、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、トルキノン、ハイドロキノン、モノ−t−ブチルハイドロキノン、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤は、前記不飽和ポリエステル樹脂と重合性単量体との総量に対して0.8質量%以下で使用されることが好ましい。
【0026】
充填剤は,炭酸カルシウムや水酸化アルミニウム等が使用できる。その含有量は,増粘性及び成形した場合の表面特性,機械特性等を考慮して決定されるが不飽和ポリエステル樹脂組成物中の含有量が10質量%以上60質量%以下になるように加えられる。
【0027】
増粘剤は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カリウム、水酸化カリウム等が用いられるが、一般的には酸化マグネシウムが用いられる。増粘剤の量は、成形材の作業性に応じて決定されるが、前記不飽和ポリエステル樹脂及び重合性単量体の総量に対して、0.5〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.7〜2.0質量%である。
【0028】
繊維補強材は、ガラス繊維や有機繊維が使用できる。ガラス繊維は,連続繊維,織布等の形態で用いられるが,ロービング状のものを5〜30mmに切断したものを用いることが好ましい。
【0029】
前記の不飽和ポリエステル樹脂組成物には、さらに適宜、離型剤、安定剤、着色剤等を配合することもできる。
【0030】
SMCは、通常のSMC製造装置を用いて通常の方法により製造することができる。例えば、前記不飽和ポリエステル樹脂組成物を、上下に配置されたキャリアフィルムに均一な厚さとなるように塗布し、巻き出し装置から巻き出された所定の大きさの繊維補強材を上記した上下に配置されたキャリアフィルム上の不飽和ポリエステル樹脂組成物で挾み込み、次いで、全体を含浸ロールの間に通して、圧力を加えて繊維補強材を不飽和ポリエステル樹脂組成物に含浸させた後、ロール状に巻き取るかつづら折りに畳む。また、繊維補強材として単繊維を用いる場合、キャリアフィルムに不飽和ポリエステル樹脂組成物を塗布し、ついで、単繊維をその上に散布する方法もある。この後、必要に応じて熟成等を行う。増粘剤を配合した場合には室温〜60℃の温度に加熱して熟成することが好ましい。
【0031】
SMCの粘度は、40℃において15,000〜150,000Pa・sとなるように調整されるのが好ましく,60,000〜120,000Pa・sとなるように調整されるのが特に好ましい。
【0032】
上記のようにして作製したSMCを基部5として用いると、運搬時等に衝撃を受けた時にクラックが発生しにくくなり、浴室部材として優れた強度、特性を持たせることができる。
【0033】
中間材6は、金属製または樹脂製の板またはフィルムが使用でき、成形時のSMC9の流動圧力や成形温度・圧力による表面部材4の変形などの影響を緩和するとともに、溶剤成分などが各層間を移動することを防止できる。中間材6は、例えばアルミ板、鋼板、銅板、アルミ箔、鋼板、銅箔、金属蒸着フィルムのほか、PETフィルムなどの各種樹脂製のフィルムが使用でき、成形方法や成形条件により適宜選択して用いる。
また、中間材6の表裏一方または両面には接着処理を施すことができ、例えばバフ掛け処理、塗装、フィルムの貼り付けのほか、エポキシ樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、アクリル変成シリコーン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、クロロプレンゴム系溶剤形接着剤、合成ゴム系ラテックス形接着剤、イソシアネート系接着剤、エマルジョン形接着剤、ホットメルト形接着剤、シランカップリング剤等のような各種接着剤を塗布したり、脱脂処理、サンディング処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理、酸処理等の処理を施したりすることができる。また、表面処理時には必要に応じて充填材、発泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤の添加や着色加工ができる。
【0034】
本発明の表面に軟質材を備えた浴室用部材は、図4、図5、図6及び、図7に示すように、表面部材4とSMC9、表面部材4と中間材6とSMC9、または織物10と表面部材4と中間材6とSMC9をプレス(加熱加圧)一体成形する方法で製造でき、金型内での熱または圧力により表面部材4とSMC9の接着、表面部材4及びSMC9と中間材6の接着、表面部材4の表面部材表層1へ形状付与、織物10による表面部材4の表面部材表層1へ形状付与を行い、図1、図2及び、図3に示す成形品を得る。
【0035】
加熱加圧一体成形する場合は、圧縮成形、トランスファー成形等により成形され、予め昇温しておいた金型の製品面側から、表面部材4とSMC9、表面部材4と中間材6とSMC9、または織物10と表面部材4と中間材6とSMC9をセットし、加熱加圧する。また、成形温度は70〜180℃、成形圧力は0.05〜10MPaであることが好ましい。
【0036】
表面部材4の表面部材表層1の表面形状は、プレス一体成形時に金型の形状を表面部材表層1に転写させる方法と、表面部材表層1の加硫時、またはプレス一体成形時に織物の形状を表面部材表層に転写させる方法がある。後者の方法に用いる織物は、加硫前に表面部材表層1へ密着させ、この状態のまま加硫、プレス一体成形をし、成形後に織物を表面部材表層1から剥がすことが好ましいが、プレス一体成形時に表面部材表層1に織物を密着させて、成形後に織物を剥がすことでも表面部材表層1の表面に織物の形状を転写させることができる。
【0037】
織物10は、表面部材表層1に織物の形状を転写させた際の転写面が、表面粗さ形状測定機で評価長さ20mm、測定速度0.6mm/s、カットオフ値0.08mm、フィルタ種別ガウシン、カットオフ比300に設定し、任意に選んだ3箇所以上を測定したときに算術平均粗さRaの平均値が0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上である織物であればよい。また、織物の種類は用途に応じて決定されるが、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維、ガラス繊維、天然繊維、金属繊維、セラミックス繊維等、種々の繊維を使用でき、また、織物の形態は平織り、朱子織り、不織布、マット等何れの形態であってもよい。なお、織物の形状を転写して得た表面部材表層1の凹凸は、表面部材表層1の表面を親水性させて水の乾きを良くするほか、微細凹凸のグリップ効果で滑り転倒を防止することができる。
【0038】
また、表面部材表層1の表面には織物の転写形状に加えて、幅が200〜5000μm、深さが200〜5000μm、断面が略U字形またはV字形である細く深い溝や、凹凸形状を付与できる。この場合、表面に細く深い溝や凹凸形状を施した金型でプレス一体成形し、成形後に織物を剥離することで、織物の転写形状に加え、細く深い溝や凹凸形状を表面部材表層1に形成できる。
【0039】
なお、織物の転写は、基部5の表面に行うこともできる。この場合、成形時に表面部材4を用いず、織物と基部となる材料を一体成形し、成形後に織物を剥離することで、表面に織物の転写面を有する合成樹脂成形体が得られる。なお、基部の材料は、SMCやBMCのほか、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などを用いることができ、プレス成形や射出成形などの各種成形方法により製造できる。
【実施例】
【0040】
(SMCの作製)
以下に示す実施例、比較例においては、次のようにSMCを作製した。
スチレンに溶解された不飽和ポリエステル樹脂(商品名:PS−9415、日立化成工業株式会社製)85質量部(スチレン60質量部%)及びスチレンに溶解したポリスチレン15質量部(スチレン60質量部%)の混合物100質量部に対して、硬化剤1.0質量部、重合禁止剤のパラベンゾキノン0.77質量部、離型剤のステアリン酸亜鉛2.5質量部、及び増粘剤の酸化マグネシウム2.0質量部、充填剤として炭酸カルシウムを150質量部配合して不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。このように配合して得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物を、ガラス繊維に含浸させ、SMCを作製した。
【0041】
(実施例1)
ポリエステル基布2の表面部材表層1側にクロロスルホン化ポリエチレンゴムをトッピングし完全に加硫させた多層構造シート4と、SMC9とを、図4に示すように、下金型8上に投入し、加熱加圧成形により、図1に示す構成の200mm角の成形品を得た。多層構造シート4は、ハイパロン(デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー登録商標)ゴム引布(商品名:T−10、アキレス株式会社製)を使用した。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は鏡面の型を使用した。
【0042】
(実施例2)
ポリエステル基布2の表面部材表層1側と表面部材接着層3側の両方にクロロスルホン化ポリエチレンゴムをトッピングし完全に加硫させた多層構造シート4と、SMC9とを、図5に示すように、金型上に投入し、加熱加圧成形により、図2に示す構成の200mm角の成形品を得た。多層構造シート4は、ハイパロン(デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー登録商標)ゴム引布(商品名:T−10、アキレス株式会社製)を使用した。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は鏡面の型を使用した。
【0043】
(実施例3)
ポリエステル基布2の表面部材表層1側にクロロスルホン化ポリエチレンゴム、表面部材接着層3側にクロロプレンゴムをトッピングし完全に加硫させた多層構造シート4と、SMC9とを、図5に示すように、下金型8上に投入し、加熱加圧成形により、図2に示す構成の200mm角の成形品を得た。多層構造シート4は、ハイパロン(デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー登録商標)ゴム引布(商品名:T−10、アキレス株式会社製)を使用した。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は鏡面の型を使用した。
【0044】
(実施例4)
ポリエステル基布2の表面部材表層1側にクロロスルホン化ポリエチレンゴム、表面部材接着層3側にクロロプレンゴムをトッピングし半加硫状態とさせた多層構造シート4と、SMC9とを、図5に示すように、下金型8上に投入し、加熱加圧成形により、図2に示す構成の200mm角の成形品を得た。多層構造シート4は、ハイパロン(デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー登録商標)ゴム引布(商品名:T−10、アキレス株式会社製)を使用した。ここでの半加硫状態は、キュラストメータ(型式:JSR−3型、日本合成ゴム社製)で測定したトルク値が、完全な加硫状態を100%とした場合に、その80%となった状態とした。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は鏡面の型を使用した。
【0045】
(実施例5)
ポリエステル基布2の表面部材表層1側にクロロスルホン化ポリエチレンゴム、表面部材接着層3側にクロロプレンゴムをトッピングし完全に加硫させた後、SMC9との接着面となるクロロプレンゴム表面をバフ掛けした多層構造シート4と、SMC9とを、図5に示すように、下金型8上に投入し、加熱加圧成形により、図2に示す構成の200mm角の成形品を得た。多層構造シート4は、ハイパロン(デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー登録商標)ゴム引布(商品名:T−10、アキレス株式会社製)を使用した。バフ掛けは、#100の研磨紙を用いて行った。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は鏡面の型を使用した。
【0046】
(実施例6)
ポリエステル基布2の表面部材表層1側にクロロスルホン化ポリエチレンゴム、表面部材接着層3側にクロロプレンゴムをトッピングし完全に加硫させた後、SMC9との接着面となるクロロプレンゴム表面をバフ掛けした多層構造シート4、中間材6、SMC9とを、図6に示すように、下金型8上に投入し、加熱加圧成形により、図3に示す構成の200mm角の成形品を得た。多層構造シート4は、ハイパロン(デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー登録商標)ゴム引布(商品名:T−10、アキレス株式会社製)を使用した。バフ掛けは、#100の研磨紙を用いて行った。中間材6は0.3mmの鋼板を用い、この中間材の表面部材接着層との接着面にはホットメルト接着剤を、また基部との接着面には#100の研磨紙で研磨後、カップリング剤処理を行った。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は鏡面の型を使用した。
【0047】
(実施例7)
ポリエステル基布2の表面部材表層1側にクロロスルホン化ポリエチレンゴム、表面部材接着層3側にクロロプレンゴムをトッピングし完全に加硫させた後、SMC9との接着面となるクロロプレンゴム表面をバフ掛けした多層構造シート4、中間材6、SMC9とを、図6に示すように、下金型8上に投入し、加熱加圧成形により、図3に示す構成の200mm角の成形品を得た。多層構造シート4は、ハイパロン(デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー登録商標)ゴム引布(商品名:T−10、アキレス株式会社製)を使用した。バフ掛けは、#100の研磨紙を用いて行った。中間材は0.3mmの鋼板を用い、この中間材の表面部材接着層との接着面にはホットメルト接着剤を、また基部との接着面には#100の研磨紙で研磨後、カップリング剤処理を行った。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は表面に算術平均粗さRaの平均値が1.1μmの微細凹凸を施した型を使用した。
【0048】
(実施例8)
ポリエステル基布2の表面部材表層1側にクロロスルホン化ポリエチレンゴム、表面部材接着層3側にクロロプレンゴムをトッピングし、さらに表面部材表層1の製品面側にポリエステル製の織物10を密着させて完全に加硫させた後、SMC9との接着面となるクロロプレンゴム表面をバフ掛けした多層構造シート4、中間材6、SMC9とを、図7に示すように、下金型8上に投入し、加熱加圧成形後に織物10を成形品から剥離して図3に示す構成の200mm角成形品を得た。多層構造シート4は、ハイパロン(デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー登録商標)ゴム引布(商品名:T−10、アキレス株式会社製)を使用した。バフ掛けは、#100の研磨紙を用いて行った。中間材は0.3mmの鋼板を用い、この中間材の表面部材接着層との接着面にはホットメルト接着剤を塗布し、また基部との接着面には#100の研磨紙で研磨後、カップリング剤処理を行った。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は鏡面の型を使用した。
【0049】
(比較例1)
SMC9を下金型8上に投入し、加熱加圧成形により200mm角の成形品を得た。なお、成形条件は、SMC投入重量300g、チャージ面積0.05m(15cm角)、成形圧力3MPa、保圧時間10分で成形し、下金型8は表面に算術平均粗さRaの平均値が1.1μmの微細凹凸を施した型を使用した。
【0050】
(試験方法)
(1)衝撃吸収性の評価
得られた成形品上に500mmの高さから卓球ボールを落下させ、跳ね返り高さを計測し、衝撃吸収性を比較評価した。
(2)表面部材と基部の接着性評価
表面部材4と基部5の接着性の評価は、一体成形品の表面部材4の引っ張り試験を行った際の強度が30N以上である場合を○、10N以上30N未満である場合を△、10N以下の場合を×として評価した。
(3)一体成形時の軟質材変形の評価
表面部材4と基部5をプレス一体成形した際の表面部材4として用いた軟質材の変形の評価は、一体成形で軟質材が成形時の圧力の影響で変形せず形状を維持した場合を○、やや変形した場合を△、変形し形状を維持できない場合を×として評価した。
(4)滑りにくさの評価方法
得られた成形品に5%濃度の石鹸水をかけ、質量90gの錘を載せ、成形品を少しずつ傾け、錘が滑り落ち始める角度を読み取った。
(5)金型投資の必要性評価
成形品表面に、算術平均粗さRaの平均値が0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上の形状を付与する際の金型投資の必要性を評価した。
(6)防音性の評価
得られた成形品上で風呂イスの引きずりを行った際、SMC成形品の騒音値65dBよりも値が10dB以上小さい場合を○、10dB未満または同等の場合を△、同等以下の場合を×とした。
【0051】
その結果、表1、表2に示すように、本発明の基部5を配し、その表面に軟質な表面部材4や中間材6を設けた成形品は、従来のSMC成形品に比べて衝撃吸収性があり、何かを落下させた場合であても衝撃を抑えることができる。
また、軟質部材の表面に微細凹凸や織物の形状を転写することで、成形品を傾けた際の成形品上の錘が滑り始める角度が大きく、滑りくいものであった。ポリエステル基布2の表面部材表層1側にクロロスルホン化ポリエチレンゴム、表面部材接着層3側にクロロプレンゴムをトッピングし完全に加硫させた後、SMC9との接着面となるクロロプレンゴム表面をバフ掛けした多層構造シート4を使用した場合、また中間材6を使用した場合は、一体成形時の軟質材変形の抑制、接着性、生産性に優れ、良好な結果が得られた。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例1の浴室成形品の断面構成図である。
【図2】本発明の実施例2〜5の浴室成形品の断面構成図である。下金型は鏡面のものと微細凹凸を表面に施したものの何れかを使用するが、本図では後者で代表させた。
【図3】本発明の実施例6〜8の浴室成形品の断面構成図である。
【図4】本発明の実施例1の浴室成形品の浴室成形品の製造方法を示す図である。
【図5】本発明の実施例2〜5の浴室成形品の浴室成形品の製造方法を示す図である。下金型は鏡面のものと微細凹凸を表面に施したものの何れかを使用するが、本図では後者で代表させた。
【図6】本発明の実施例6〜7の浴室成形品の浴室成形品の製造方法を示す図である。
【図7】本発明の実施例8の浴室成形品の浴室成形品の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1…表面部材表層(ゴム)、2…基布、3…表面部材接着層(ゴム)、4…表面部材(多層構造シート)、5…基部(FRP)、6…中間材、7…上金型、8…下金型、9…SMC、10…織物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、この基部に積層される表面部材とを備え、上記上面部材が、軟質であり、その表面に織物の転写面を有する合成樹脂成形体。
【請求項2】
請求項1において、表面部材が、基布と、この基布の表裏何れか一方の面にゴム製の表面部材接着層を有する多層構造シートであり、上記表面部材接着層を、SMC又はBMCの基部との接着層として、表面部材と基部とをプレス一体成形した合成樹脂成形体。
【請求項3】
請求項2において、基布が、表面部材接着層を設けた面とは反対の面に、表面部材表層を有し、この表面部材表層が、基布に積層させたゴムであり、積層時に表面部材表層の製品面側に織物を備え、織物の形状を表面部材表層に転写させた合成樹脂成形体。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、表面部材と基部の間に、表裏の一方又は両方に接着処理を施した中間材を有し、表面部材と中間材と基部とをプレス一体成形した合成樹脂成形体。
【請求項5】
製品面から表面部材表層、基布、表面部材接着層、基部の順に、または表面部材表層、基布、表面部材接着層、中間材、基部の順に構成され、表面部材表層がクロロスルホン化ポリエチレンゴム、基布がポリエステルまたはナイロン製の基布、表面部材接着層がクロロプレンゴム、中間材が金属製または樹脂製の板またはフィルム、基部がFRPである合成樹脂成形体。
【請求項6】
請求項5において、表面部材の表面部材表層及び表面部材接着層が予め加硫させたゴムシートであり、加硫時及びプレス一体成形時に織物の形状を表面部材表層に転写させ、プレス一体成形後に織物を剥離する合成樹脂成形体。
【請求項7】
請求項5又は6において、表面部材と基部との接着層である表面部材接着層がクロロプレンゴムであり、クロロプレンゴムと基部との接着面側にバフ掛けを施した合成樹脂成形体。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかにおいて、織物の転写面の算術平均粗さRaの平均値が0.5μm以上である合成樹脂成形体。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載される合成樹脂成形体を用いた、浴室床、防水パン、浴室壁、浴槽、浴槽エプロン又は浴室天井の浴室部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−184297(P2009−184297A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28887(P2008−28887)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(301050924)株式会社ハウステック (234)
【Fターム(参考)】