説明

合成繊維ロープ

【課題】ロープの耐用期間を監視するための感応度が高められた合成繊維ロープを作り出す。
【解決手段】合成繊維ロープを破断の手前限界まで使い、したがって新規のタイプの懸吊手段の経済的潜在性をより完全に引き出すことができるように、あるいは使用者が、使用者の要件にしたがってロープの摩耗の状況を検出する感応度を設定することができるように、表示繊維または表示ヤーンを備えるストランドの反応挙動はさらに充分に調整可能でなくてはならず、ストランドの表示繊維は、高い可能性で表示繊維の導電性を損失し、これによってケーブルの摩耗を検出する。表示繊維を備える、または少なくとも1つの表示ヤーンを備えるストランドのマトリックスは、他のストランドのマトリックスよりも小さな摩耗抵抗しか有さない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの層のストランドで構成されたストランドからなる合成繊維ロープであって、ストランドが捻られたヤーンからなり、ヤーンが合成繊維からなり、少なくとも1つのストランドが、独立請求項の定義によるロープの耐用期間を監視するための表示繊維または少なくとも1つの表示ヤーンの少なくとも1つの層のストランドを有する、合成繊維ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許出願公開第1371597A1号明細書から、エレベータ用懸吊手段として使用される被覆ロープが知られている。ロープは内側ストランド層と外側ストランド層を有し、ストランド層が幾つかの捻られたストランドからなり、内側ストランド層の捻り方向は、外側ストランド層の捻り方向と反対である。内側ストランド層の引張り強度は外側ストランド層の引張り強度よりも大きい。各ストランドは、捻られた、含浸されたアラミド合成繊維から構成されている。外側ストランド層の耐用期間は、内側ストランド層の耐用期間よりも短い。ロープを監視する目的で、外側ストランド層の個々のストランドには導電性ワイヤが設けられ、隣り合う2つのストランドごとに、相互に摩耗してロープの耐用期間が切れたこと、またはロープのロープ耐用期間の終了したことを迅速に検出する導電性ワイヤが設けられる。
【0003】
欧州特許出願公開第0731209A1号明細書から、エレベータ用懸吊手段として使用される被覆ロープが知られている。ロープは内側ストランド層と外側ストランド層を有し、ストランド層が幾つかの捻られたストランドからなり、内側ストランド層の捻り方向は、外側ストランド層の捻り方向と同じである。各ストランドは、捻られた、含浸されたアラミド合成繊維から構成されている。この合成繊維ロープの耐用期間または摩耗の状態を監視する目的で、いずれの場合にも、ストランド層の中の1つのストランドに導電性の炭素繊維が設けられる。通常運転では、過剰な伸張または過剰な回数の反転(reverse)曲げのいずれかの結果として、炭素繊維が、負荷を支承するストランドのアラミド繊維よりも早く切れ、または壊れるのが常である。電圧源を用いて、切れた炭素繊維の数を判定することができる。合成繊維ロープの残留負荷支承容量を確保することができるように、炭素繊維の一定パーセントしか切れることができない。次いでエレベータが所定の停止部まで自動的に駆動され、スイッチを切られる。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1371597A1号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0731209A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が救済策を提供しようとしているのはここである。請求項1で特徴付けられる通りの本発明は、ロープの耐用期間を監視するための感応度が高められた合成繊維ロープを作り出すという問題を解決する。
【0005】
本発明の有利なさらなる発展形態を従属請求項で述べる。
【0006】
ロープ耐用期間を監視することは、全ての合成繊維ロープ、特にシースによって取り囲まれたロープの基本的な問題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
現在の最新技術によると、ロープの負荷の状況に応じて炭素繊維を選択し、構成することができる。本方法の欠点は、調整するべきパラメータを相互に対して最適に適合することができず、危険な状態から充分に懸け離れているようにするために、懸吊手段を極めて早期に交換しなければならないことである場合がある。エレベータの構築では、懸吊手段として働く合成繊維ロープを、通常の破壊強度に対して60%から80%までの残留破壊強度を使用することができる。この点に正確に到達できるほど、懸吊手段をより経済的に使用することができる。
【0008】
合成繊維ロープ使用の種類、用途、および安全要件に応じて、合成繊維ロープの表示ストランドの監視感応度の要件は大きくなる。この要件に応じた正確な反応挙動および再現性が、本発明による合成繊維ロープの有利な特徴である。エレベータ用の懸吊手段として働く合成繊維ロープは、ロープストランドに一体化された炭素繊維のヤーンによって恒久的に電気的に監視されることが知られている。このことは、合成繊維ロープが、例えばロープソケット内の領域などの見えない領域を含む合成繊維ロープの長さ全てにわたって監視されるという利点を有する。合成繊維ロープは、ロープ内の摩耗量を検出し、外側から作用する損傷を確実に検出し、必要な場合に迅速かつ徹底的に反応するエレベータ制御部との連続的な接続によって、エレベータ使用者に対して最高の安全性を与える。
【0009】
現代の懸吊手段の監視に対する要件は、過去のものと比べて高められている。合成繊維ロープをその破断の手前限界まで使い、したがって新しいタイプの懸吊手段の経済的潜在性をより完全に引き出すことができるように、あるいは使用者が、使用者の要件に対して必要となるロープの摩耗の状況を検出する感応度を設定することができるように、表示繊維を備えるこのストランドの反応挙動はさらに充分に調節可能でなくてはならず、ストランドの表示繊維は、反転撓みの回数および残っている破断力に応じて、高い可能性で表示繊維の導電性を損失し、これによってロープの摩耗を検出する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
表示繊維または表示ヤーンは、例えば光導電性の特性を備える繊維、または導電性であり、負荷支承繊維よりも早く直接接触摩耗する、金属皮膜の工業用繊維、炭素繊維などの任意の形態の導電性の任意の材料であることができる。
【0011】
恒久的な監視のために、導電性表示繊維はロープの端部で器具と接触され、接続される。一方のロープ端部で、表示繊維は信号送信機に接続され、他方のロープ端部で、表示繊維は信号受信機に接続される。送信機の信号は、信号受信機によって測定され、測定された信号によって、または信号のないことによって表示繊維の状態が評価される。欧州特許出願公報第0731209A1号明細書は、電気信号による表示繊維監視の実施例を示している。
【0012】
合成繊維ロープは、異なった層で構成された複数の捻られたストランドからなり、各ストランドは捻られたヤーンからなり、ヤーンは例えば1000本の合成繊維からなる。生のヤーンは一方向の合成繊維からなり、あるいは加工し易くするために、工場から既に、例えばメータ当り15回の保護用捻りを有している。一般に「繊維」は、長さに関係のない、全ての織物繊維材料に対する総称として使用されている。「フィラメント」は、長い、または実質的に無端の長さの織物繊維のための化学繊維製造で使用される用語である。ストランドのヤーンの捻りの方向は、個々の繊維がロープの引張り方向に、またはロープの長手軸に有利に位置合わせされるように予見される。合成繊維ロープは、例えばアラミド繊維またはこれに関連したタイプの繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維などの化学繊維から構成することができる。
【0013】
合成繊維ロープは、1つまたは2つまたは3つまたは3つより多い層のストランドからなることができる。ストランドの少なくとも1つの層の少なくとも1つのストランドは、ロープ耐用期間を監視するための表示繊維、または少なくとも1つの表示ヤーンを有する。
【0014】
本発明によると、少なくとも1つの表示繊維または表示ヤーンが設けられたストランドを取り囲む、マトリックスとも呼ばれるプラスチックは、他のストランドのマトリックスよりも小さな摩耗抵抗しか有さない。
【0015】
本発明による合成繊維ロープでは、表示繊維または表示ヤーンを備えるストランドのストランドを取り囲むマトリックス材料または樹脂は、近傍または他のストランドのマトリックス材料(例えばショア硬度等級D)よりも柔らかいプラスチック(例えばショア硬度同級A)からなり、この結果、これらのストランドは、表示繊維または表示ヤーンのないストランドと比べて小さな摩耗抵抗しか有さない。柔らかい方のプラスチックの代替物として、マトリックス材料を柔軟剤に含浸させることができる。この目的のために、知られている柔軟剤を使用することができる。表示繊維を備えるストランドの弱い摩耗挙動の結果、屈曲中に起こる隣接ストランドに対する動きによって、摩耗の早期の発現、したがってストランド内の表示繊維のより早期の破断が引き起こされる。表示繊維または表示ヤーンを備えるストランドは、故意の破壊点として作用する。表示繊維または表示ヤーンを備えるストランドを、以下「表示ストランド」と呼ぶ。選択した柔軟剤のタイプおよび量に応じて、摩耗の増大を制御することができる。
【0016】
フタラートおよびアジペートが、ストランドを柔らかくし、ストランドの側方剛性を小さくし、ストランドの摩耗抵抗を小さくする典型的な柔軟剤である。表示ストランドのマトリックスに対する1%から30%の選択された重量比によって、マトリックスを隣接するストランドと比べて「より柔らかく」することができ、摩耗挙動は、柔らかさの程度に応じて柔軟剤の量が増大するにつれて悪化する。
【0017】
さらに、表示ストランドのマトリックス材料と同一の、隣接ストランドまたは他のストランド(表示繊維または表示ヤーンなしのストランド)のマトリックス材料を、表示ストランドに対して摩擦を低下させる添加剤に含浸させることができる。添加することのできる添加剤はワックスまたは少量のテフロン(登録商標)(繊維含有物を除いたマトリックスの固形分に対して1%から3%のワックス、または5%から15%のテフロン(登録商標)粉末)である。
【0018】
さらに、隣接ストランドのマトリックス材料と同一の表示ストランドのマトリックス材料を、製造中に、プラスチックマトリックスが劣化して、硬度および摩耗抵抗が低下するような形で処理することができる。これは、230°よりも高い温度での表示ストランドの温度処理と、20秒を超える処理時間とによって達成される。この温度の結果、材料特性に必要とされる長い分子鎖が、分子を冷却してももはや完全には再結合しない程度にまで分離してしまう。このプロセスを支持するために、ストランドのマトリックスに水分子を加えることができ、これによって分子鎖の完全な再結合が防止される。代替物として、再結合を損傷または防止する他の分子も考えられる。マトリックスの最初の劣化が起こり、これが摩耗抵抗の急激な低下を引き起こして、表示繊維または表示ヤーンの破綻を起こす。摩耗保護は、目標とされた形で低下させられる。
【0019】
表示繊維または表示ヤーンは、ストランドの表面付近に位置付けられ、合成繊維または合成繊維ヤーンの螺旋構造に加わる。より柔らかいストランドマトリックスのために、表示繊維または表示ヤーンは擦り切れる。負荷支承ストランドの恒久的な監視がこのように妨害され、他の負荷支承ストランドが影響を受ける前に摩耗として検出される。これによって、破断伸びまでの伸張が異なっていることから表示ストランドが異なった作業能力を有するということだけでなく、マトリックスの異なった硬度の結果、信頼できる破綻の確率が作り出されるということが保証される。(破断伸びとは、繊維、ヤーン、またはストランドが破断するまでのその伸張のことである)。
【0020】
表示ストランドの多層合成繊維ロープ内への位置決めを、吸収された負荷が隣接ストランドの負荷よりも大きくなるように行うこともさらに可能である。例えば、3つのストランド層を備える合成繊維ロープにおいて、内側の2つの同心のストランド層がより大きな割合の負荷を吸収する。これは、最も外側の層に対する撚りの長さは一定であるが、合成繊維ロープの中点に対する撚りの角度は常に小さくなることによる。撚られたロープでは、ストランドは著しく急峻な状態にあり、その結果、ストランドは層によって短くなったり長くなったりする。形状上の制限を考慮すると、最も内側のストランドが最も短く、したがってより大きな負荷を支承する。したがって、内側の2つのストランド層の個々のストランド内に、さらなる表示繊維または表示ヤーンを配置することが望ましい。3層ロープの場合は、中央のストランド層が好ましいが、これは、異なった包装半径、したがって異なった屈曲速度のために、この層がより大きな応力負荷を受けることによる。
【0021】
さらに、表示繊維のないストランドのストランド構築に、極めて良好な動的反転曲げ能力を備える合成繊維を使用することができる。表示ストランドの表示ヤーンとするために、表示繊維(例えば炭素繊維)を、動的反転曲げ能力が表示ストランドの他の合成繊維の動的反転曲げ能力、または表示繊維のないストランドの動的反転曲げ能力よりも劣っている合成繊維(例えば炭素繊維)と結合することができる。より優れた合成繊維は、コポリテレフタルアミドなどのコポリマーを基礎とした走行懸吊手段を適用するために存在する。これらの条件下で働きの劣っている繊維は、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドであることができる。(動的反転曲げ能力とは、変化する負荷下での反転曲げ能力のことである)。
【0022】
さらに、表示ヤーンを構築するために、表示繊維(例えば炭素繊維)を、表示ストランドの他の合成繊維に対して、または表示ヤーンのないストランドの合成繊維と比べて大きな弾性係数を有する合成繊維と結合することができる。表示ストランド内の表示ヤーンと結合される合成繊維には、例えば100,000N/mmから120,000N/mmの弾性係数を備えるTwaron(登録商標)繊維を使用することができる。非表示ストランドの他の繊維は、例えば76,000N/mmを備えるTechnora(登録商標)繊維からなることができる。
【0023】
ロープ耐用年数を監視するための上述の手段を組み合わせることもできる。例えば、ストランドのマトリックスを変更することによって摩耗抵抗をもたらすことができ、同時に、応力に関して他の合成繊維よりも劣る表示繊維および合成繊維から表示ヤーンを構成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのストランド層で構成されたストランドからなる合成繊維ロープであって、ストランドが捻られたヤーンからなり、ヤーンが合成繊維からなり、少なくとも1つのストランドが、ロープの耐用期間を監視するための表示繊維または少なくとも1つの表示ヤーンの少なくとも1つのストランド層を有する合成繊維ロープにおいて、表示繊維を備える、または少なくとも1つの表示ヤーンを備えるストランドが、他のストランドよりも小さな摩耗抵抗しか有さないことを特徴とする、合成繊維ロープ。
【請求項2】
表示繊維を備える、または少なくとも1つの表示ヤーンを備えるストランドのマトリックスが、他の繊維のマトリックスよりも小さな摩耗抵抗しか有さないことを特徴とする、請求項1に記載の合成繊維ロープ。
【請求項3】
表示繊維を備える、または少なくとも1つの表示ヤーンを備えるストランドのマトリックスが柔軟剤に含浸されることを特徴とする、請求項2に記載の合成繊維ロープ。
【請求項4】
表示繊維を備える、または少なくとも1つの表示ヤーンを備えるストランドのマトリックスが、隣接するストランドまたは他のストランドのマトリックスよりも小さなショア硬度で実施されていることを特徴とする、請求項2に記載の合成繊維ロープ。
【請求項5】
表示繊維を備える、または少なくとも1つの表示ヤーンを備えるストランドのマトリックスが、熱処理によって、および/または分子の追加によって劣化することを特徴とする、請求項2に記載の合成繊維ロープ。
【請求項6】
他のストランドのマトリックスが、表示繊維を備えるまたは少なくとも1つの表示ヤーンを備えるストランドに対して、摩擦を低下させる添加剤に含浸されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の合成繊維ロープ。
【請求項7】
表示繊維を備える、または少なくとも1つの表示ヤーンを備えるストランドが、この負荷吸収が、隣接する繊維と比べて大きくなるように位置決めされることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の合成繊維ロープ。
【請求項8】
ストランドが表示繊維によって恒久的に監視されることを特徴とする、請求項1から7に記載の合成繊維ロープのロープ耐用期間を監視する方法。
【請求項9】
表示繊維を監視する目的で、ロープの一方端部で、表示繊維が信号送信機に接続され、ロープの他方端部で、表示繊維が信号受信機に接続されることと、信号送信機の送信信号が、信号受信機によって測定され、測定された信号によって、または信号のないことによって表示繊維の状態が評価されることとを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
表示繊維の監視が、光信号または電気信号によって行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の合成繊維ロープを備える、エレベータ。

【公開番号】特開2008−150210(P2008−150210A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−300099(P2007−300099)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(390040729)インベンテイオ・アクテイエンゲゼルシヤフト (166)
【氏名又は名称原語表記】INVENTIO AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】