説明

合成部材の耐火性能評価方法

【課題】各種形態の合成部材について、高温時における頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力を、高い精度で評価することが可能となる合成部材の耐火性能評価方法を提供する。
【解決手段】予め設定された温度または解析によって得られた火災時における頭付きスタッドの根元の温度もしくはこれよりも高い上記鉄骨部材の温度を評価温度とし、当該評価温度におけるコンクリート部材の圧縮強度Fc´および頭付きスタッドの引張強度σu´を導出して、頭付きスタッドの軸部断面積scaおよび常温時のコンクリート部材を構成するコンクリートのヤング係数Ecに基づいて、頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsを、下式によって評価する。
qs=min(qs1、qs2
qs1=0.5×sca×(Fc´×Ec)1/2
qs2sca×σu´

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨部材とコンクリート部材とが頭付きスタッドにより相互に接合された合成部材における耐火性能の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記合成部材の一種として、H形鋼とコンクリートスラブとが頭付きスタッドにより緊結されて両者が一体化された合成梁が知られている。
このような合成梁においては、H形鋼とコンクリートスラブとが一体となって曲げ力に抵抗することができるために、H形鋼単体の梁と比較して、高い曲げ耐力が得られるという利点がある。
【0003】
ところで、常温時の上記合成梁における頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsは、日本建築学会「各種合成構造設計指針」において、下記に示す式により評価されている。
(1)等厚スラブの場合
qs1=0.5×sca×(Fc×Ec)1/2
ただし、(Fc×Ec)1/2≦9000kg/cm2
ここで、Fcはコンクリートの圧縮強度、Ecはコンクリートのヤング係数、scaは頭付きスタッドの軸部断面積である。
【0004】
(2)デッキ合成スラブの場合
qs={(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}×{0.5×sca×(Fc×Ec)1/2
ただし、(Fc×Ec)1/2≦9000kg/cm2、{(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}≦1
ここで、ndは1本の溝の中の頭付きスタッドの本数、bdはデッキプレートの溝の平均幅、Hdはデッキプレートの全せい、Lは頭付きスタッドの長さ寸法である。
【0005】
しかしながら、火災時などの高温時の上記合成梁における頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力は未解明であって具体的な評価基準がない。
このため、耐火性が要求される建築物に上記合成梁を用いる場合には、高温時における上記合成梁の曲げ耐力を、もっぱら鉄骨部材の断面のみによって評価する手法が採られており、当該鉄骨部材とコンクリートスラブとの合成効果は考慮されていないのが現状である。このことは、上記合成梁以外のサンドイッチ鋼板等の他の合成部材についても同様である。
【0006】
そこで、本発明者等は、先に下記特許文献1に見られるような合成梁の設計方法を提案した。
この合成梁の設計方法は、火災時におけるコンクリートの圧縮強度をFc´、火災時におけるコンクリートのヤング係数をEc´、頭付きスタッドの軸部断面積をBa、火災時における頭付きスタッドのせん断強度をBσy´、頭付きスタッド溶接部の温度をBT、頭付きスタッドのせん断強度が低下を開始するときの温度をS1として、火災時における上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力Bq´を、
5000kgf/cm2<(Fc´・Ec´)1/2<9000kgf/cm2
という条件式が満たされ、かつBT≦S1のときには、
Bq´=0.5・Ba・(Fc´・Ec´)1/2 (4)式
によって導き出す一方、BT>S1のときには、
Bq´=min(0.5・Ba・(Fc´・Ec´)1/2Bσy´・Ba)
によって導き出すようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
ここで、(4)式は、コンクリートの破壊によってコンクリートスラブと鉄骨梁との一体性が破壊されるモードであり、
Bq´=Bσy´・Ba (5)式
は、頭付きスタッドの破断によってコンクリートスラブと鉄骨梁との一体性が破壊されるモードである。
【0008】
したがって、上記従来の合成梁の設計方法によれば、火災時におけるコンクリートスラブと鉄骨梁との一体性を検証した上で、合成梁の高温時終局曲げ耐力を導き出すようにしたので、高温時における終局曲げ耐力の信頼性を向上させることが可能になるという効果が得られる。
【特許文献1】特許第3775395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記従来の合成梁の設計方法は、鉄骨梁と等厚のコンクリートスラブとが頭付きスタッドにより相互に接合された合成梁を対象とするものであるために、デッキ合成スラブに対して、充分な精度を持った耐火性能の評価を行うことが難しいという欠点があった。
【0010】
また、後述するように、本発明者等が、上記設計方法の(4)式および(5)式によって得られた火災時における上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力Bq´を、耐火実験の結果と対比したところ、上記設計方法が当該実験値よりも過小に評価していることが判明した。この結果、上記設計方法に基づいて合成梁の諸元を決定すると、過剰設計となる傾向が生じるために、より一層精度の高い評価方法の開発が要望されていた。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、各種形態の合成部材について、高温時における頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力を、高い精度で評価することが可能となる合成部材の耐火性能評価方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、鉄骨部材と等厚のコンクリート部材とが頭付きスタッドにより相互に接合された合成部材の高温時における上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力を評価する合成部材の耐火性能評価方法であって、予め設定された温度または解析によって得られた火災時における上記頭付きスタッドの根元の温度もしくはこれよりも高い上記鉄骨部材の温度を評価温度とし、当該評価温度における上記コンクリート部材の圧縮強度Fc´および頭付きスタッドの引張強度σu´を導出して、上記頭付きスタッドの軸部断面積scaおよび常温時の上記コンクリート部材を構成するコンクリートのヤング係数Ecに基づいて、上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsを、
qs=min(qs1、qs2) (1)
qs1=0.5×sca×(Fc´×Ec)1/2 (2)
qs2sca×σu´ (3)
による算定式によって評価することを特徴とするものである。
【0013】
他方、請求項2に記載の発明は、鉄骨部材とデッキプレート上に打設されたコンクリート部材とが、予め上記デッキプレートの上記溝内に設けられて上記鉄骨部材と一体化された頭付きスタッドにより相互に接合された合成部材の高温時における上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力を評価する合成部材の耐火性能評価方法であって、予め設定された温度または解析によって得られた火災時における上記頭付きスタッドの根元の温度もしくはこれよりも高い上記鉄骨部材の温度を評価温度とし、当該評価温度における上記コンクリート部材の圧縮強度Fc´および頭付きスタッドの引張強度σu´を導出して、上記頭付きスタッドの軸部断面積sca、常温時の上記コンクリート部材を構成するコンクリートのヤング係数Ec、デッキプレートの全せいHd、デッキプレートの溝の平均幅bd、1本の上記溝中の上記頭付きスタッドの本数ndおよび上記頭付きスタッドの長さ寸法Lに基づいて、
{(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}≦1を前提として、
上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsを、
qs=min(qs1、qs2) (1)
qs1={(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}×{0.5×sca×(Fc´×Ec)1/2} (2)´
qs2sca×σu´ (3)
による算定式によって評価することを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、上記(3)式によって得られるqs2に代えて、
qs2={(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}×sca×σu´
によって得られるqs2を用いることを特徴とするものである。
【0015】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記(3)式における上記頭付きスタッドの引張強度(引張強さ)σu´に代えて、上記評価温度における上記頭付きスタッドの降伏強度σy´を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、(2)式または(2)´式は、コンクリートの破壊によってコンクリートスラブと鉄骨梁との一体性が破壊されるモードであり、(3)式は、頭付きスタッドの破断によってコンクリートスラブと鉄骨梁との一体性が破壊されるモードである。
【0017】
そして、建物に対して要求される耐火温度等の予め設定された温度や、建物の構造に基づいて解析によって得られた火災時における上記頭付きスタッドの根元の温度あるいは当該温度よりも高い上記鉄骨部材の温度を評価温度とし、この評価温度におけるコンクリート部材の圧縮強度Fc´等の諸元から上記(2)式または(2)´式のqs1と、(3)式のqs2とを算出し、さらに(1)式により、いずれか小さい値を選択して合成部材の高温時における上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsを評価しているために、火災時におけるコンクリートスラブと鉄骨梁との一体性を検証した上で、合成梁の高温時終局曲げ耐力を導き出すことができる。
【0018】
この際に、本発明においては、上記(2)式または(2)´式において、上述した従来の評価式である(4)式の火災時におけるコンクリートのヤング係数Ec´に代えて、常温時の上記コンクリート部材を構成するコンクリートのヤング係数Ecを適用している。また、上記(3)式においては、従来の評価式である上記(5)式の頭付きスタッドのせん断強度Bσy´に代えて、上記評価温度における頭付きスタッドの引張強度σu´を適用している。
この結果、従来の評価方法よりも、一層高い精度で合成梁の高温時終局曲げ耐力を評価することができる。
【0019】
すなわち、本発明者等は、下記実施例において詳述するように、等厚スラブの合成梁について、高温時における頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力を評価する実験を行ったところ、図9に示すような結果が得られた。なお、図中○のプロットは、コンクリートの破壊により崩壊した試験体を、図中●のプロットは、頭付きスタッドの破断により崩壊した試験体を示すものである。
【0020】
これに対して、図9に見られるように、従来の上記評価式である(4)式および(5)式による耐力計算値によれば、いずれも上記実験結果によって得られた値よりも過小に評価してしまうことが判明した。そこで、本発明者等は、上記(4)式および(5)式の変数の適否について種々検討を行ったところ、上記(4)式の火災時におけるコンクリートのヤング係数Ec´に代えて、常温時の上記コンクリート部材を構成するコンクリートのヤング係数Ecを適用した上記(2)式または(2)´式、並びに上記(5)式の頭付きスタッドのせん断強度Bσy´に代えて、頭付きスタッドの引張強度(引張強さ)σu´を適用した上記(3)式によれば、実験結果と近似の評価を行うことができるとの知見を得た。
【0021】
このように、本発明によれば、高温時終局曲げ耐力の信頼性を一段と向上させることが可能となり、この結果合成ばりの諸元を最適設計することが可能になるために、従来のように高温時終局曲げ耐力を過小評価することなく、合成部材の火災時における構造安定性を担保することができるとともに、鉄骨量を適正化して合成部材の一層の軽量化を図ることができる。
【0022】
ここで、評価の対象となる高温時の温度(評価温度)を決定するに際して、鉄骨部材側から加熱された場合に、鉄骨部材側からコンクリート側に向けて漸次温度が低下する温度勾配が生じる。このため、頭付きスタッドの温度は、その根元が最も高くなる。他方、コンクリートおよび鉄骨部材は、高温になるにしたがって、その強度は低下するため、せん断力を受ける頭付きスタッドの破断や、支圧力を受けるコンクリートの破壊は、頭付きスタッドの根元に集中することになる。
【0023】
したがって、解析によって求める場合には、上記評価温度として頭付きスタッドの根元の温度を採用することが適当であり、さらに安全側に評価したい場合には、上記頭付きスタッドの根元の温度よりも高い上記鉄骨部材の温度を採用することが好適である。
【0024】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項2に記載の上記(3)式によって得られるqs2に代えて、
qs2={(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}×sca×σu´
によって得られるqs2を用いたり、さらには請求項4に記載の発明のように、請求項1〜3のいずれかに記載の上記(3)式における頭付きスタッドの引張強度σu´に代えて、上記頭付きスタッドの降伏強度σy´を用いたりすれば、より一層安全側の評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る合成部材の耐火性能評価方法を、等厚スラブの合成梁およびデッキ合成スラブの合成梁に適用した一実施形態について説明する。
まず、この評価方法においては、第1ステップにおいて、上記合成ばりを構成する各部材(コンクリートスラブ(コンクリート部材)、鉄骨梁(鉄骨部材)、頭付きスタッド、デッキプレート)の諸元を設定する。具体的には、コンクリートスラブの鉄筋量・厚さ・設計基準強度、鉄骨梁に用いる鋼材の種類・断面寸法、頭付きスタッドのスタッド径・長さ・数量等を設定する。
【0026】
次いで、第2ステップにおいて、火災時における各部材の温度を解析により求める。ここでは、先ず、火災室に関する各種設定(例えば、火災室の用途、開口の状況、可燃物量、区画の形状等の設定)を行い、予め設定された火災モデル(例えば、告示1433号、川越モデル、2層ゾーンモデル、1層ゾーンモデルなど)を用いて、火災継続時間や火災温度等など、火災性状を解析した後、差分法や有限要素法等によって、火災時における部材温度(例えば、鉄骨梁の温度、頭付きスタッド周辺のコンクリート温度、スタッド溶接部の温度など)を求めて、上記頭付きスタッドの根元の温度またはこれよりも高い上記鉄骨梁のフランジの温度を評価温度として設定する。
【0027】
次いで、第3ステップにおいて、常温時の上記コンクリートスラブを構成するコンクリートのヤング係数Ecを得るとともに、上記第2ステップの解析結果を用いて、上記評価温度における上記コンクリートスラブの圧縮強度Fc´および頭付きスタッドの引張強度σu´を導出する。
【0028】
なお、これらの値は、使用する頭付きスタッドの材質や径等の諸元やコンクリートの種類や強度等の諸元に基づいて、予め図4および図5に示すような温度と強度の関係を求めておくことにより、容易に得ることができる。また、上記評価温度におけるコンクリートの圧縮強度Fc’は、例えばRILEM(国際材料構造試験研究機関連合)の報告書(CEB Bulletin D'Information No.208(RILEM-Committee 44 PHT))の数値を用いることもできる。
【0029】
次いで、第4ステップにおいて、上記第1ステップおよび第3ステップで得られた値に基づいて、等厚スラブの合成梁あるいはデッキ合成スラブの合成梁の上記評価温度における頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsを評価する。
【0030】
先ず、等厚スラブの合成梁の場合には、
qs1=0.5×sca×(Fc´×Ec)1/2 (2)式
qs2sca×σu´ (3)式
によりqs1およびqs2を算出し、次いで、
qs=min(qs1、qs2) (1)式
により、いずれか小さい値を、上記評価温度における頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsとして評価する。
【0031】
他方、上記合成梁がデッキ合成スラブによるものである場合には、
qs1={(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}×{0.5×sca×(Fc´×Ec)1/2} (2)´式
qs2sca×σu´ (3)式
によりqs1およびqs2を算出し、次いで、
qs=min(qs1、qs2) (1)式
により、いずれか小さい値を、上記評価温度における頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsとして評価する。
【0032】
なお、上記デッキ合成スラブの合成梁の場合には、上記(3)式に代えて、
qs2={(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}×sca×σu´
(6)式
によって得られるqs2を用いれば、{(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}≦1であることから、特に高温時において、より安全側の評価を合理的に行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の元となった等厚スラブの合成梁およびデッキ合成スラブの合成梁の試験体による耐火実験およびその結果について説明する。
等厚スラブの合成梁の試験体として、図1に示すような寸法諸元を有するH形鋼(鉄骨部材)1とコンクリートスラブ2とを頭付きスタッド3で結合したものを4体準備した。
また、デッキ合成スラブの合成梁として、図2に示すような寸法諸元を有するH形鋼1上にデッキプレート4を配置するとともに、このデッキプレート4を貫通してH形鋼1上に接合した頭付きスタッド3によって、当該デッキプレート4上に打設したコンクリートスラブ2を結合したものを4体準備した。
【0034】
なお、いずれの合成梁も、頭付きスタッド3として、JIS B 1198の頭付きスタッド(19φ、長さL=110mm)を用いた。なお、デッキ合成スラブの合成梁においては、頭付きスタッド3を、デッキプレート4を貫通させてH形鋼1に溶接した。
ここで、図4は、使用した上記頭付きスタッド3の高温引張試験結果を示すものであり、図5は、コンクリートスラブを構成するコンクリートの高温圧縮試験結果を示すものである。
【0035】
次いで、図3に示すように、上記試験体を自己釣り合い型の加圧フレーム5にセットし、当該加圧フレーム5の上部に設けられた油圧ジャッキ6によりPC鋼棒7を介して試験体の下方に配設された加圧梁8を押し上げることにより、試験体内の頭付きスタッド3にせん断力を作用させた。この際に、加圧中にコンクリートスラブ2とH形鋼1とが分離しないように、コンクリートスラブ2と加圧フレーム5との間の複数箇所に、コロ(丸棒)9を介装して開き止めとした。
【0036】
なお、図3は、デッキ合成スラブの合成梁の試験体をセットした状態を示すものであるが、等厚スラブの合成梁の試験体についても同様である。
そして、4体準備した等厚スラブの合成梁およびデッキ合成スラブの合成梁の試験体のうちの各々1体は、常温による単調載荷とした。また、他の試験体については、所定の荷重を載荷した後に、当該荷重を一定に保持した状態で、同図に示すように、コンクリートスラブ2の下面側すなわちH形鋼1側から加熱するとともに、温度の上昇に伴って所定の荷重が保持できなくなった温度を崩壊温度とした。
【0037】
図6は、等厚スラブの合成梁の試験体が上記崩壊温度に達した時の各構成部材の温度分布の一例を示すものである。
図6から明らかなように、上記試験体はH形鋼1側から加熱されるために、部材温度は断面内でH形鋼1側からコンクリートスラブ2へ向けて漸次低下する温度勾配があり、頭付きスタッド3については、その根元が最も高温になる。そして、H形鋼1およびコンクリートスラブ2は、いずれも高温になるにしたがって、その強度は低下するため、せん断力を受ける頭付きスタッド3の破断や、支圧力を受けるコンクリートスラブ2の破壊は、頭付きスタッド3の根元に集中することになる。
ちなみに、実験後にコンクリートスラブ2をはつって調査したところ、崩壊温度が高い試験体ほど、頭付きスタッド3の変形が根元に集中していることを確認することができた。
【0038】
次いで、図7は、等厚スラブの合成梁の試験体における頭付きスタッド3の1本あたりに作用するせん断力と、崩壊時における頭付きスタッド3の根元温度との関係を示すものであり、図8は、デッキ合成スラブの合成梁の試験体における頭付きスタッド3の1本あたりに作用するせん断力と、崩壊時における頭付きスタッド3の根元温度との関係を示すものである。いずれも、図中●が頭付きスタッド3の破断により崩壊した試験体であり、図中○がコンクリートの破壊によって崩壊した試験体を示している。
【0039】
図7に見られるように、等厚スラブの合成梁の試験体は、全て頭付きスタッド3の破断により崩壊した。また、崩壊温度が高い試験体ほど、コンクリートスラブ2の損傷は軽微であった。
そして、図7中に実線および点線で示す(1)式〜(3)式による耐力計算値との比較から、本発明の評価方法によれば、極めて実験値と近似し、かつ僅かに安全側に評価し得ることが判る。なお、(1)式〜(3)式の耐力計算においては、コンクリートスラブの圧縮強度Fc´および頭付きスタッドの引張強度σu´として、それぞれ図4および図5に示した値を使用した。
【0040】
他方、図8に見られるように、デッキ合成スラブの合成梁の試験体については、2体が頭付きスタッド3の破断により崩壊し、他の2体がコンクリートの破壊によって崩壊した。そして、上記等厚スラブによる合成梁の試験体の場合と同様にして耐力計算を行った図8中の(1)式、(2)´式および(3)式の計算結果を示す実線および点線との比較から、本発明の評価方法によれば、デッキ合成スラブの合成梁に対しても、同様に極めて実験値と近似し、かつ僅かに安全側に評価し得ることが判る。
さらに、同図から、上記(3)式に代えて上記(6)式による耐力計算結果を用いれば、特に高温時において、より安全側の評価を合理的に行うことができることが判る。
【0041】
なお、上記実施形態においては、本発明の合成部材を、等厚スラブの合成梁およびデッキ合成スラブの合成梁に適用した場合についてのみ説明したが、これに限定されるものではなく、本発明は、例えば壁に用いられるサンドイッチ鋼板等の、鉄骨部材とコンクリート部材とが頭付きスタッドにより相互に接合された各種の合成部材に対して、同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例において使用した等厚スラブによる合成梁の試験体の形状および諸元を示す図である。
【図2】本発明の実施例において使用したデッキ合成スラブによる合成梁の試験体の形状および諸元を示す図である。
【図3】図2の試験体を加圧フレームにセットした状態を示す側面図である。
【図4】実施例に使用した頭付きスタッドの高温引張試験結果を示すグラフである。
【図5】実施例に使用したコンクリートの高温圧縮試験結果を示すグラフである。
【図6】実施例において等厚スラブの合成梁の試験体が崩壊温度に達した時の各構成部材の温度分布の一例を示す図である。
【図7】等厚スラブの合成梁の試験体による耐火実験の結果と耐力計算結果とを示すグラフである。
【図8】デッキ合成スラブの合成梁の試験体による耐火実験の結果と耐力計算結果とを示すグラフである。
【図9】等厚スラブの合成梁の試験体による耐火実験の結果と従来および本発明に係る耐力計算結果とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 H形鋼(鉄骨部材)
2 コンクリートスラブ(コンクリート部材)
3 頭付きスタッド
4 デッキプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨部材と等厚のコンクリート部材とが頭付きスタッドにより相互に接合された合成部材の高温時における上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力を評価する合成部材の耐火性能評価方法であって、
予め設定された温度または解析によって得られた火災時における上記頭付きスタッドの根元の温度もしくはこれよりも高い上記鉄骨部材の温度を評価温度とし、当該評価温度における上記コンクリート部材の圧縮強度Fc´および頭付きスタッドの引張強度σu´を導出して、上記頭付きスタッドの軸部断面積scaおよび常温時の上記コンクリート部材を構成するコンクリートのヤング係数Ecに基づいて、上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsを、
qs=min(qs1、qs2) (1)
qs1=0.5×sca×(Fc´×Ec)1/2 (2)
qs2sca×σu´ (3)
による算定式によって評価することを特徴とする合成部材の耐火性能評価方法。
【請求項2】
鉄骨部材とデッキプレート上に打設されたコンクリート部材とが、予め上記デッキプレートの上記溝内に設けられて上記鉄骨部材と一体化された頭付きスタッドにより相互に接合された合成部材の高温時における上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力を評価する合成部材の耐火性能評価方法であって、
予め設定された温度または解析によって得られた火災時における上記頭付きスタッドの根元の温度もしくはこれよりも高い上記鉄骨部材の温度を評価温度とし、当該評価温度における上記コンクリート部材の圧縮強度Fc´および頭付きスタッドの引張強度σu´を導出して、上記頭付きスタッドの軸部断面積sca、常温時の上記コンクリート部材を構成するコンクリートのヤング係数Ec、デッキプレートの全せいHd、デッキプレートの溝の平均幅bd、1本の上記溝中の上記頭付きスタッドの本数ndおよび上記頭付きスタッドの長さ寸法Lに基づいて、
{(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}≦1を前提として、
上記頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力qsを、
qs=min(qs1、qs2) (1)
qs1={(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}×{0.5×sca×(Fc´×Ec)1/2} (2)´
qs2sca×σu´ (3)
による算定式によって評価することを特徴とする合成部材の耐火性能評価方法。
【請求項3】
上記(3)式によって得られるqs2に代えて、
qs2={(0.85/nd1/2×(bd/Hd)×(L/Hd−1)}×sca×σu´
によって得られるqs2を用いることを特徴とする請求項2に記載の合成部材の耐火性能評価方法。
【請求項4】
上記(3)式における上記頭付きスタッドの引張強度σu´に代えて、上記評価温度における上記頭付きスタッドの降伏強度σy´を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の合成部材の耐火性能評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−198244(P2009−198244A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38709(P2008−38709)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】