説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法

【課題】耐パウダリング性及び界面密着強度に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.030〜0.25%、Si:0.060〜0.30%、Mn:1.0〜3.0%、S:≦0.010%、P:≦0.035%、N≦0.0060%、sol.Al:0.10〜1.0%、残部がFe及び不可避的不純物である鋼板母材の表面に、Fe:8.0〜15%及びAl:0.10〜0.50%を含有しη相が存在しない合金化溶融亜鉛めっき層を備え、該めっき層を除去した後の鋼板母材の表面の中心線平均粗さRaが0.60〜1.4μmであり、めっき層と鋼板母材との界面から鋼板母材の深さ方向に0.2〜0.5μmの領域でグロー放電発光分光分析法により測定されるSi発光強度と、界面から鋼板母材の深さ方向に9〜10μmの領域で測定されるSi発光強度の平均値との比が1以上2以下である、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。特に本発明は、主として自動車の車体等のように複雑なプレス成形加工にも十分耐えうる高強度と優れためっき密着性及び耐パウダリング性とを有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車業界においては、車体軽量化による燃費向上と車体の高強度化による安全性の向上という相反する課題解決に向けて高強度鋼板の車体への適用が急速に進んでいる。一方、鋼板を素材とする自動車用部品の多くはプレス加工によって成形されるため、自動車鋼板には優れたプレス成形性が要求される。また鋼板には溶融亜鉛めっき鋼板が大量に使用されているが、とりわけ経済性、防錆機能、塗装後の性能の点で優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板が広く用いられている。
【0003】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、次のようにして製造される。鋼板を溶融めっき前に無酸化炉または直火炉において加熱し、還元雰囲気中で焼鈍し、次いでめっき浴温前後に冷却し、その後に溶融Znめっきを施す。そして、この溶融亜鉛めっきを施した鋼板を、熱処理炉において加熱してFe−Zn合金めっき相を形成することによって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【0004】
このように製造された、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス加工する際、めっき表層におけるFe含有量が比較的低い軟質な合金相(ζ相、η相)を有するときは、めっき表層と金型表面との凝着現象などにより金型表面と鋼板との間の摺動性に劣るため、めっき剥離(以下において、「フレーキング」という。)や鋼板のプレス割れが生じることがある。一方で、めっき層中のFe含有量が高い場合には、鋼板母材とめっき層との界面近傍に硬質なΓ、Γ1、δ1c相が形成されるため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板をプレス加工する場合にめっき層の粉化(以下において、「パウダリング」という。)が発生しやすくなる。パウダリングが発生すると、金型に剥離片が付着して押込み疵が生じることになる。
【0005】
このような問題点を解決するために、合金化溶融亜鉛めっき皮膜を比較的硬軟のバランスがとれたδ1相が主体の合金相皮膜とするめっき鋼板が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、目付量45〜90g/mのめっき層を少なくとも片面に有する耐パウダリング性及び耐フレーキング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が記載されている。特許文献1で提案されている鋼板では、めっき層中のFe含有量を8〜12%、同Al含有量を0.05〜0.25%に管理して、めっき層表面にη相及びζ相を存在させず、母材とめっき層との界面のΓ相を1.0μm以下にしている。
【0007】
また、特許文献2には、皮膜のめっき層中のFe含有量が8〜12%となるように合金化処理を行う合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関して、めっき浴中のAl濃度を0.13%以上に管理するとともに、母材となる鋼板の侵入板温を浴中Al濃度の増加に伴って上昇させたり、高周波誘導加熱炉出側の板温を適正範囲に管理したりすることによって、耐パウダリング性及び耐フレーキング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、加工性及びめっき密着性等に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板として、質量%で、C:0.0001〜0.004%、Si:0.001〜0.10%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.001〜0.015%、S:0.015%以下、Al:0.12〜0.50%、Ti:0.002〜0.10%、N:0.0005〜0.004%を含有し、必要に応じて、さらに、質量%で、Nb:0.002〜0.1%を含有し、さらに、B:0.0002〜0.003%を含有させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が提案され、さらに、Al:0.05〜0.5%、Fe:7〜15%、残部がZn及び不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を形成させることが記載されている。
【0009】
一方で、高強度鋼板を母材とした合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐パウダリング性の改善方法については、次のとおり提案されている。
【0010】
例えば特許文献4には、母材となる鋼板の化学組成が、質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.02〜0.70%、Mn:0.50〜3.0%、P:0.005〜0.10%、S:0.1%以下、sol.Al:0.10〜2.0%、N:0.01%以下で、且つ、Si(%)+Al(%)≧0.5を満足すると共に残部がFeおよび不純物から成り、母材がオーステナイト相を体積%で1%以上含有し、さらに、めっき皮膜は、Fe濃度が8質量%以上15質量%以下であり、且つ、めっき皮膜におけるΓ相平均厚み:2μm以下、厚み方向の最大Γ1相長さ:1.5μm以下であって、最大Γ1相長さ/Γ相厚み≦1.0の関係を満足する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が記載されている。さらに、特許文献4では、当該鋼板に、750〜870℃で還元焼鈍を行い、次いで350〜550℃の温度に20s以上滞留させ、その後、溶融亜鉛めっきを行ってから、特定の合金化温度及び滞留時間で合金化処理を行う合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。特許文献4にかかる発明では、母材となる鋼板中にオーステナイト(γ)相を1体積%以上残存させることによって、当該鋼板に優れた局部延性及び高強度を付与している。そして、皮膜中のFe量を8〜15質量%に規定するとともに、めっき層におけるΓ相平均厚みを2μm以下、厚み方向の最大Γ1相長さを1.5μm以下、そして、最大Γ1相長さとΓ相厚みとの比を1.0以下に規定することによって、耐パウダリング性を改善している。
【0011】
また、特許文献5には、質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.01〜1.50%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜2.0%、N:0.01%以下、Ti:0.05%以下、Nb:0.08%以下、且つ、Si(%)+Al(%)≧0.5を満足し、残部不純物およびFeから成る化学組成を有する、オーステナイト相を体積%で1%以上含有し、引っ張り強度Ts(MPa)×伸びEl(%)≧20000を満たす鋼板を母材とし、上記鋼板を、一回目の熱処理工程において、780〜870℃で焼鈍した後、さらに、700℃から550℃までの温度範囲を平均30℃/s以上の冷却速度で冷却し、次いで、350〜550℃の温度範囲に20s以上滞留させるものであり、この一回目の熱処理工程の後常温まで冷却し、得られた鋼板に、Ni、Fe、Cu及びCoのうち1種または2種以上を付着させ、その後二回目の熱処理工程において、780〜870℃で5〜500s滞留させて還元焼鈍を行い、そのときの到達温度からめっき浴温度近傍まで冷却するものであり、この2回目の熱処理工程の後、めっきを行い、その後最高到達温度520℃以下で合金化処理を行い、7〜15%のFe濃度の皮膜を形成させることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が記載されている。特許文献5にかかる発明では、母材となる鋼板中にオーステナイト(γ)相を体積%で1%以上含有させることによって、母材となる鋼板に引張り強度Ts(MPa)×伸びEl(%)≧20000を満足する高強度と高延性とを付与している。そして、皮膜中のAl量を0.20〜0.40%、同Fe量を8〜15%に規定して、1回目の焼鈍後のNi、Cu、Co量を増加させ、合金化を促進させることで、耐パウダリング性及び耐フレーキング性を改善している。
【0012】
また、特許文献6には、鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、鋼板が、質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.02〜0.20%、Mn:0.5〜3.0%、S:0.01%以下、P:0.035%以下、及び、sol.Al:0.01〜0.5%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、且つ、合金化亜鉛めっき層が、質量%で、Fe:10〜15%、及び、Al:0.20〜0.45%を含有し、残部がZn及び不純物からなる化学組成を有するとともに、鋼板と合金化亜鉛めっき層との界面密着強度が20MPa以上である高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板が記載されている。
【0013】
また、特許文献7には、鋼板母材の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備え、鋼板母材が、質量%で、C:0.25%以下、Si:0.030〜0.15%、Mn:0.030〜3.0%、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10〜0.80%、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、合金化溶融亜鉛めっき層に、質量%で、Fe:8.0〜15%、及び、Al:0.080〜0.50%が含有されるとともに、めっき層表面にη相が存在しないことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、Si及びAlを複合的に含有させることにより、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との界面剥離部における鋼板母材側の粒径剥離面積率が5.0%以上になり得ると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第1778564号
【特許文献2】特許第2658608号
【特許文献3】特許第3643333号
【特許文献4】特開2002−30403号公報
【特許文献5】特許第3716718号
【特許文献6】特開2006−97102号公報
【特許文献7】特開2007−314858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
高強度鋼板を母材に用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車部門において、高強度化による軽量化と、高耐食性の両立が可能であり、広く用いられている。しかし、プレス成形時、軟鋼板に比較し皮膜のめっき層への面圧が急激に増加するので、高強度鋼板を母材に用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形時に皮膜が粉状となって剥離するパウダリング現象が起こりやすくなる。パウダリング現象により剥離した粉がプレスの成形型に堆積しプレス部品に疵を付けるなどの弊害が生じる。
【0016】
また、最近では、自動車車体を製造する際の鋼材の接合技術として、軟鋼板においては溶接ではなく接着剤による接合(以下において、「接着」という。)が適用される部位が増加している。しかしながら、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を接着部材に用いた場合、他のめっき鋼板に比べ、接着強度が低い。具体的には、他のめっき鋼板では接着剤自身の凝集破壊が生じるのに対し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、めっき層−鋼板母材界面での剥離が生じやすい。この理由は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層−鋼板母材界面の界面密着強度(以下において、単に「界面密着強度」という場合は、めっき層−鋼板母材界面の密着強度を意味する。)が低く、このため当該界面で剥離が生じることによる。接着材料として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を適用する場合はより高い界面密着強度が求められる。さらに、溶接打点数の削減や、疲労強度上昇等の観点から、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が多く用いられている自動車構造部品に対する接着接合技術の適用は、今後拡大が見込まれる。この場合、界面密着強度をより一層向上させることが必要になる。
【0017】
このように、高強度鋼板を母材とした合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、耐パウダリング性の向上と、界面密着強度の上昇とを両立し得る合金化溶融亜鉛めっき皮膜を有する、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の開発が望まれている。
【0018】
特許文献1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板や特許文献2に記載の製造方法によって得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、軟鋼板を母材に用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関して、亜鉛めっき層の合金相を規定するものであるが、高強度鋼板を母材に用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用した場合、耐パウダリング性の改善効果は殆ど認められないことが判明している。
【0019】
また、特許文献3では、鋼板母材のAl含有量を多くすることにより、鋼板の強度をほとんど上昇させずに合金化速度を遅くし、鋼板の加工性とめっき密着性とを満足することができる、としている。しかしながら、特許文献3における密着性とは、その従来技術欄の記載や実施例の評価方法(鋼板のV字曲げ)等から見て、耐パウダリング性を意味するものであり、特許文献3では、界面密着強度の向上について言及していない。特許文献3に記載の技術では、高い界面密着強度を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られ難いという問題があった。
【0020】
また、高強度鋼板のパウダリング改善方法として特許文献4及び特許文献5で提案された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼中のSi及びPの含有量が比較的高い鋼種である上に、その製造には複雑な還元焼鈍ヒートパターンで熱処理を行う必要がある。さらに、これらの文献で提案された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るためには、従来のものよりも合金化に長い熱処理時間がかかるため、炉長の長い熱処理炉を必要とし、新たな設備投資が必要となるという問題がある。
【0021】
また、特許文献6では、鋼板母材のC含有量が多いため、加工性に劣るという問題があった。また、鋼板の調質圧延ロールの表面うねりWcaを0.5μm以下とし、調質圧延線荷重を1.47MN/m以上とすることにより鋼板表面に凹凸を生成し界面密着強度を上昇させているが、鋼板母材の化学組成と表面うねり、界面密着強度の関係については明確でない。
【0022】
また、特許文献7で提案されているSi及びAlの複合添加鋼板は、めっき層−母材界面で強制的に剥離させた場合の、粒径剥離面積率により界面密着強度を規定したものであり、界面密着強度については示されていない。
【0023】
本発明は、このような問題点を解決することを目的としてなされたものであり、特に高強度鋼板特有の耐パウダリング特性を改善し、さらに界面密着強度に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため、本発明者らは、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐パウダリング性と界面密着強度を両方向上させるには、鋼板表面の粗度を上昇させることが有効であり、鋼板中にSiとAlを複合的に含有させることにより粗度が上昇することを知見した。また一方で、これら元素が鋼板母材中に固溶状態にあると熱延工程及び焼鈍工程においては表層に濃化し、Γ相の成長を遅延させることで、亜鉛めっき層中のΓ相の厚みを抑制しており、これにより耐パウダリング性と界面密着強度が上昇する、との着想のもとに上記構造と性質を有する鋼板およびめっき層について検討した。
【0025】
極低炭素鋼板の場合、鋼板母材とめっき層との界面の密着力を高めるためには、めっき浴中のAl濃度を高めるという手法が用いられる。この場合、母材となる鋼板の粒内と粒界における合金化速度の差が拡大し、鋼板母材と合金化溶融亜鉛めっき層との界面の凹凸が増加する。一方、Cにより高強度を得ている高強度鋼板では、同様な手法を採用した場合、Cの粒界での偏析に起因し、めっき浴中のAl濃度を高めても、鋼板母材と合金化溶融亜鉛めっき層との界面の凹凸増加を望むことができない。このため、界面密着強度の大幅な改善は困難である。
【0026】
この課題に対し、本発明者らは、種々検討の結果、母材となる鋼板の鋼中に、質量%で0.060%以上0.30%以下のSiと、0.10%以上1.0%以下のsol.Alとを含有させることにより、合金化処理過程において、めっき層中の亜鉛が母材となる鋼板の粒界へ拡散するのを助長し、鋼板母材とめっき層との界面の凹凸を増加させることで、めっき剥離経路の複雑化を図り、耐パウダリング性と界面密着強度を上昇させることが可能になることを知見した。
【0027】
次に、本発明者らは鋼板母材とめっき層との界面から鋼板母材の深さ方向に0.20μm以上0.5μm以下の領域におけるSiの発光強度(グロー放電発光分光分析法で測定される発光強度。以下において同じ。)を、上記界面から鋼板母材の深さ方向に9.0μm以上10μm以下の領域におけるSiの発光強度の1.0倍以上2.0倍以下に管理することが、耐パウダリング性及び界面密着強度の上昇に有効であることを知見した。さらに、鋼板母材の組成及び製造工程を工夫することにより、生産性を維持しながら上述の耐パウダリング性と界面密着強度の良好な鋼板を製造可能であることを知見した。
【0028】
本発明は、このような新たな知見に基いてなされたものである。以下、本発明について説明する。
【0029】
本発明の第1の態様は、質量%で、C:0.030%以上0.25%以下、Si:0.060%以上0.30%以下、Mn:1.0%以上3.0%以下、S:0.010%以下、P:0.035%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上1.0%以下、且つ、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有する鋼板母材の表面に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.10%以上0.50%以下を含有するとともにη相が存在しない合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、合金化溶融亜鉛めっき層を除去した後の鋼板母材の表面の中心線平均粗さRaは、0.60μm以上1.4μm以下であり、さらに、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との界面から鋼板母材の深さ方向に0.20μm以上0.50μm以下の領域においてグロー放電発光分光分析法(以下において、「GDS」ということがある。)で測定されるSi発光強度Iと、前記界面から前記鋼板母材の深さ方向に9.0μm以上10μm以下の領域においてGDSで測定されるSi発光強度の平均値Iとの比I/Iが、1.0以上2.0以下であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0030】
ここに、「sol.Al:0.10%以上1.0%以下」とは、鋼板母材に、固溶状態のAlが、0.10%以上1.0%以下含まれることをいう。また、「合金化溶融亜鉛めっき層を除去した後の鋼板母材の表面」とは、合金化溶融亜鉛めっき層を、当該層と界面を形成する鋼板母材表面の状態を損なうことなく除去することによって得られる鋼板母材の表面をいい、例えば、数%〜10%程度の塩酸に適当なインヒビターを加えて酸洗することにより容易に得ることができる。また、「比I/I0が、1.0以上2.0以下である」とは、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との界面(以下において、単に「界面」ということがある。)から鋼板母材の深さ方向に9.0μm以上10μm以下の領域の複数箇所でGDSによりSi発光強度を測定した測定結果の平均値をIとするとき、界面から鋼板母材の深さ方向に0.20μm以上0.50μmの領域で、GDSによりSi発光強度Iを測定すると、各測定点で、I/Iが1.0以上2.0以下になることをいう。
【0031】
また、上記本発明の第1の態様において、鋼板母材に、さらに、Ti:0.0040%以上0.25%以下、Nb:0.0040%以上0.15%以下、V:0.0010%以上0.15%以下、Cr:0.0010%以上1.0%以下、Mo:0.0010%以上0.15%以下、及び、B:0.00010%以上0.020%以下からなる群より選択される1種又は2種以上が含有されることが好ましい。
【0032】
また、上記本発明の第1の態様において、鋼板母材に、さらに、REM:0.00010%以上0.10%以下、Ca:0.00010%以上0.010%以下、及び、Mg:0.00010%以上0.010%以下からなる群より選択される1種又は2種以上が含有されることが好ましい。
【0033】
ここに、本発明において、「REM」とは、Sc、Y、及び、ランタノイドの合計17元素をいう。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。また、本発明において、「REM:0.00010%以上0.10%以下」とは、REMに含まれる17元素の合計含有量が、0.00010%以上0.10%以下であることをいう。
【0034】
また、上記本発明の第1の態様において、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との界面から鋼板母材の深さ方向に20μmまでの領域におけるフェライト平均粒径をG1μm、鋼板母材の板厚の1/2の位置におけるフェライト平均粒径をG2μmとするとき、G1及びG2がG1≦2×G2を満たすことが好ましい。
【0035】
本発明の第2の態様は、質量%で、C:0.030%以上0.25%以下、Si:0.060%以上0.30%以下、Mn:1.0%以上3.0%以下、S:0.010%以下、P:0.035%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上1.0%以下、且つ、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有する鋼スラブを熱間圧延して鋼板とする熱間圧延工程と、該熱間圧延工程で熱間圧延された鋼板を、下記式(1)を満たす巻取温度Cで巻き取る巻き取り工程と、該巻き取り工程後に、鋼板を酸洗する酸洗工程と、該酸洗工程後に、鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程と、該冷間圧延工程後に、冷間圧延された鋼板を、0.90以上1.2以下の空燃比に調整された無酸化炉又は直火炉にて10秒以上30秒以下に亘って保持することにより鋼板の表面を酸化させる酸化工程と、該酸化工程後に、露点が−10℃以下である還元雰囲気において鋼板を焼鈍する還元焼鈍工程と、該還元焼鈍工程で焼鈍された鋼板を質量%で0.080%以上0.14%以下のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴へ浸漬する浸漬工程と、該浸漬工程後に、鋼板の表面の亜鉛付着量を制御する付着量制御工程と、該付着量制御工程後に、鋼板を470℃以上570℃以下の温度で合金化処理する合金化処理工程と、を備え、該合金化処理工程において、質量%でFe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.10%以上0.50%以下を含有するとともにη相が存在しない合金化溶融亜鉛めっき層が形成されることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
A≦C≦B …式(1)
ここで、A=500−10×([Si]+0.8×[Al])、B=670+25×([Si]+0.8×[Al])であり、[Si]は鋼スラブ中のSi濃度(質量%)、[Al]は鋼スラブ中のAl濃度(質量%)である。
【0036】
また、上記本発明の第2の態様において、鋼スラブには、さらに、Ti:0.0040%以上0.25%以下、Nb:0.0040%以上0.15%以下、V:0.001%以上0.15%以下、Cr:0.0010%以上1.0%以下、Mo:0.0010%以上0.15%以下、及び、B:0.00010%以上0.020%以下からなる群より選択される1種又は2種以上が含有されることが好ましい。
【0037】
また、上記本発明の第2の態様において、鋼スラブに、さらに、REM:0.00010%以上0.1%以下、Ca:0.00010%以上0.010%以下、及び、Mg:0.00010%以上0.010%以下からなる群より選択される1種又は2種以上が含有されることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、耐パウダリング性に優れ、且つ、界面密着強度を向上させることが可能な、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、及び、当該合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図2】めっき層と母材との界面密着強度の測定を行う際の試験片の形態を示す図である。
【図3】ハット成形試験の模式図である。図3(a)はハット成形試験装置の一部を拡大して示す模式図である。図3(b)は成形後の供試材を示す模式図である。
【図4】比I/Iの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0041】
1.合金化溶融亜鉛めっき鋼板
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、詳細に説明する。以下、「%」は、特に断りがない限り、「質量%」を意味する。また、以下において、「質量%でX%以上Y%以下」を「X〜Y%」、「質量%でZ%以下」を「≦Z%」と表記することがある。また、以下において、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を単に「鋼板」と表記し、表面にめっき層が備えられる(形成される)鋼板母材を「母材」と表記することがある。
【0042】
1.1.母材
(1)C:0.030〜0.25%
Cは低コストで強度向上に有効な元素である。強度向上の効果を十分に得られるようにするため、C含有量は0.030%以上とする。好ましくは、0.050%以上である。一方、切断や打ち抜き部の亀裂進展が大きくならないようにするため、C含有量は0.25%以下とする。好ましくは、0.20%以下である。
【0043】
(2)Si:0.060〜0.30%
Siは、以下の2つの理由により、界面密着強度を増加させる重要な元素である。
第一に、Siは、熱間圧延後に鋼帯が適正な温度範囲で巻き取られる際に、鋼板表層部の結晶粒界で酸化物を形成する。この酸化物が後続の酸洗により除去されることで、熱延鋼板表面には微細な凹凸が形成される。このような微細凹凸は、冷間圧延工程、溶融めっき、及び、合金化処理工程後の、めっき層−母材界面の凹凸にも影響を与え、界面密着強度を上昇させる。
第二に、合金化処理工程において、母材にSiが含有されることにより、合金化時にめっき層中のZnが母材の粒界へと拡散しやすくなり、剥離径路が迂回されてエネルギーが吸収されるため、界面密着強度が向上する。さらに、Siは、焼鈍によって母材の表層部に不均一に濃化すると考えられ、そのため合金化処理時にΓ相の成長が不均一になり、めっき−母材界面に凹凸が形成される。このことも界面密着強度を向上させる一因となっていると考えられる。
界面密着強度の向上効果を十分に得られるようにするため、Si含有量は0.060%以上とする。好ましくは、0.080%以上である。一方、鋼板の成形性に悪影響を及ぼさないようにする、また、合金化速度の著しい低下による合金化処理時間の長時間化を抑制して、生産性の低下及び設備の長大化を防ぐ観点から、Si含有量は0.30%以下とする。好ましくは、0.25%以下である。
【0044】
(3)Mn:1.0〜3.0%
Mnは、鋼板の強度向上に有効な元素である。強度向上効果を十分に得られるようにするため、Mn含有量は1.0%以上とする。一方、母材の脆化を抑制するため、Mn含有量は3.0%以下とする。鋼板の製造コストを抑制する等の観点からは、Mn含有量を2.5%以下とすることが好ましい。
【0045】
(4)S:≦0.010%
Sは、本発明においては不純物であり、その含有量は少ないほど好ましい。MnSの多量の析出に起因する鋼板の延性低下を抑制するため、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは、0.005%以下である。
【0046】
(5)P:≦0.035%
Pは、任意添加元素である。0.020%以上含有させれば、高強度化に有効であるが、過剰に含有すると合金化速度が低下するため、合金化処理時間を長時間化し、生産性の低下や設備の長大化を招く。また、過剰に含有させた場合、合金化処理時間を短縮するために合金化処理温度を上昇させると、操業性の低下又は界面密着強度の低下を招く。このため、P含有量は0.035%以下とする。好ましくは、0.025%以下である。
なお、Pを含有させなくても、他の合金成分により、十分に高強度化が図られるときは、Pを積極的に添加する必要はない。この場合、P含有量の下限は限定されない。
【0047】
(6)sol.Al:0.10〜1.0%
Alは、めっき層と母材との界面密着強度を向上させるのに重要な元素である。界面密着強度向上の機構はSiと同様と考えられ、その効果を発現させるため、Alは固溶状態で0.10%以上含有させる。好ましくは、0.20%以上である。一方、Alを固溶状態で多量に含有させても、その効果は飽和する。また、めっきライン通板時に鋼帯同士を溶接する場合の溶接性の低下を抑制する観点から、固溶状態のAl含有量は1.0%以下とする。sol.Alの好ましい含有量は、0.20〜0.80%である。
【0048】
(7)N:≦0.0060%
Nは、鋼板の成形性を低下させるため、少ないほど良い。N含有量は0.0060%以下とする。
【0049】
続いて、その他の元素について説明する。
Ti:0.0040〜0.25%、Nb:0.0040〜0.15%、V:0.0010〜0.15%、Cr:0.0010〜1.0%、Mo:0.0010〜0.15%、B:0.00010〜0.020%からなる群より選択される1種又は2種以上が、母材に含有されていても良い。これらの元素を適量含有させることで、鋼板の強度を高める効果が得られる。
【0050】
また、REM:0.00010〜0.10%、Ca:0.00010〜0.010%、及び、Mg:0.00010〜0.010%からなる群より選択される1種又は2種以上が、母材に含有されていても良い。REM、Ca、及び、Mgは、いずれも、硫化物、酸化物等の介在物を球状化し無害化させることができる元素である。その効果は、REMを0.00010%以上、Caを0.00010%以上、Mgを0.00010%以上、含有させることにより顕著に発現する。一方、0.10%を超えるREM、0.010%を超えるCa、及び、0.010%を超えるMgをそれぞれ含有させても、その効果は飽和する。
【0051】
1.2.めっき層
(1)Fe:8.0〜15%、η相
めっき層表層部にη相が局所的に残存すると、プレス成形時に金型との焼きつきが生じやすくなるほか、鋼板表面に塗布される接着剤とめっき層との界面における接着強度が低下し、当該界面で剥離が生じやすくなる。そのため、めっき層にη相が残存しない程度に、めっき層を十分に合金化させる必要がある。合金化度の目安として、めっき層のFe含有量は、8.0%以上とする。好ましくは、10%以上である。一方、耐パウダリング性の低下を抑制する、また、合金化の所要時間を低減して生産性を向上させやすくする観点から、めっき層のFe含有量は15%以下とする。好ましくは、14%以下である。
【0052】
(2)Al:0.10〜0.50%
めっき浴中における合金相の発達の抑制効果を発現させてめっき付着量の制御を容易にする等の観点から、めっき層のAl含有量は0.10%以上とする。好ましくは、0.15%以上である。一方、合金化速度の低下を抑制して鋼板の生産性低下を抑制する等の観点から、めっき層のAl含有量は0.50%以下とする。めっき層に含有されるAlは、めっき浴中のAl濃度でほぼ決定されるが、めっき付着量や母材のAlによっても若干変動する。本発明では、Alを多く含有する母材をめっき基材として用いるので、Al含有量の少ない母材を基材に用いた場合と比較して、Alの含有量が多くなる傾向がある。本発明において、めっき層のAl含有量は、めっき付着量が片面あたり40g/m〜60g/m程度の場合、0.15〜0.50%とするのが好ましい。
【0053】
1.3.界面の形態
本発明の鋼板においては、合金化処理を行った後の界面の形態が重要な作用効果を示す。合金化処理を行った後の界面とは、めっき層と界面を形成する母材の表面の状態を損なうことなく、めっき層を除去することによって得られる母材の表面であり、例えば、数%〜10%程度の塩酸に適当なインヒビターを加えて酸洗することにより容易に得ることができる。優れた界面密着強度を示すものは、この母材表面の粗さが中心線平均粗さRaで0.60μm以上である。一方、中心平均粗さRaが1.4μmを超えるようなものは、母材表面の粒界の脆化が起こり、界面密着強度が低下しやすい。したがって、本発明において、めっき層を除去した後の母材の表面の中心線平均粗さRaは、0.60μm以上1.4μm以下とする。
【0054】
母材表面の粗さが上昇すると、めっき層と母材とが互いに入り組んだ状態となり、界面の密着性が増大すると考えられる。本発明によれば、鋼中のSi及びAlが巻き取り工程において母材表層の粒界で酸化物を形成し、これらが酸洗工程において溶出されることにより母材表面の粗さが増大する。
【0055】
1.4.母材表層のSi発光強度
(1)比I/I
本発明においては、「界面から母材方向に深さ0.20μm以上0.50μm以下の領域(界面からの深さが0.20μm以上0.50μm以下である母材の表層領域)においてGDSで測定されるSi発光強度Iと、界面から母材方向に深さ9.0μm以上10μm以下の領域(界面からの深さが9.0μm以上10μm以下である母材領域)においてGDSで測定されるSi発光強度の平均値Iとの比I/Iを、1.0以上2.0以下」とする。これは、深さが0.2μm以上0.5μm以下の母材表層領域においては、各測定点でI/Iが1.0以上2.0以下となることを意味する。これを満たすことで、優れた耐パウダリング性と高い界面密着強度が得られる。I/Iが1.0以上では、前述のSiの不均一濃化に由来すると考えられるΓ相の不均一な成長が認められる。一方で、I/Iが2.0を超えると、不めっきが発生しやすくなる。
【0056】
(2)比I/Iの導出方法
比I/Iは、以下の方法により導出することができる。すなわち、鋼板を20mm×30mmの大きさに切り出し、10体積%塩酸に塩酸用インヒビターを添加した溶液に浸漬して、めっき層のみを除去する。その後、GDSによりめっき層が除去された母材の表面から10μm以上の深さまでAr等でスパッタリングしながらSiの発光強度を測定する。この際、母材の表面から深さが0.20μm以上0.50μm以下の領域でSiの発光強度Iを測定する。さらに、母材の表面から深さが9μm以上10μm以下の領域の複数個所においてもSiの発光強度を測定し、その平均値(I)を算出する。このようにすることで、母材の表面から深さが0.20μm以上0.50μm以下の領域の各測定点における比I/Iを導出することができる。
【0057】
1.5.フェライト平均粒径
一般に、鋼板を還元雰囲気下で焼鈍する場合、焼鈍炉内の露点は鋼板表層の粒径に影響を与える。露点が高すぎると、表層組織の粒界に偏析したCが酸化されることにより鋼板表層で脱炭反応が進行し、表層のフェライト粒径が粗大化する。めっき層と母材との界面から母材の深さ方向に20μm以内の領域におけるフェライトの平均粒径G1(μm)が、母材の板厚の1/2位置におけるフェライトの平均粒径G2(μm)に対し、2倍を超えない組織であれば、耐パウダリング性及び界面密着強度が良好である。したがって、本発明では、G1≦2×G2とすることが好ましい。より好ましくは、G1≦1.5×G2である。
【0058】
2.合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
図1は、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法(以下において、「本発明の製造方法」という。)の流れを示すフローチャートである。図1に示すように、本発明の製造方法は、熱間圧延工程(工程S1)と、巻き取り工程(工程S2)と、酸洗工程(工程S3)と、冷間圧延工程(工程S4)と、酸化工程(工程S5)と、還元焼鈍工程(工程S6)と、浸漬工程(工程S7)と、付着量制御工程(工程S8)と、合金化処理工程(工程S9)とを有し、工程S1〜工程S9を経て、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。以下、工程毎に説明する。
【0059】
(1)工程S1
工程S1は、C:0.030〜0.25%、Si:0.060〜0.30%、Mn:1.0〜3.0%、S:≦0.010%、P:≦0.035%、及び、sol.Al:0.10〜1.0%、且つ、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有する鋼スラブ(以下において、単に「鋼スラブ」という。)を熱間圧延して鋼板とする工程である。工程S1は、例えば、鋼スラブを加熱炉で加熱し、粗圧延機及び仕上圧延機にて熱間圧延する過程を経て、鋼スラブを帯状の鋼板(ストリップ)にする形態、とすることができる。
【0060】
(2)工程S2
工程S2は、上記工程S1で熱間圧延された鋼板を、下記式(1)を満たす巻取温度Cで巻き取る工程である。
A≦C≦B …式(1)
式(1)において、
A=500−10×([Si]+0.8×[Al])、
B=670+25×([Si]+0.8×[Al])であり、
[Si]は前記鋼スラブ中のSi濃度(質量%)、[Al]は前記鋼スラブ中のAl濃度(質量%)である。
【0061】
界面密着強度を高めるには、前述したように、熱間圧延後の巻き取り時に、鋼中のSi及びAlの酸化物を鋼板表層部の粒界に酸化させるのがよい。本発明の製造方法では、工程S2の巻き取り温度Cを上記式(1)のA値以上とすることで、Si及びAlの粒界酸化を促進する。
一方で、後述する合金化処理時には、鋼板に残存する固溶SiやAlの効果により母材の結晶粒界へZnの侵入が助長され、めっき層と母材との界面密着強度が向上する。したがって、Si及びAlは、一部固溶状態でも存在させる。また、Si及びAlの大部分が鋼中に固溶状態で存在すると、後の酸化工程及び還元焼鈍工程において生成するSi酸化物及びAl酸化物の量が多くなる。これらの酸化物は鋼板表面に濃化して、続く合金化反応を遅延させる。したがって、鋼中に固溶状態で存在させるSi及びAlは、鋼中に存在するSi及びAlの一部とする。本発明の製造方法において、巻き取り温度が高すぎると、鋼中のSi及びAlが粒内でも容易に酸化してしまうほか、粒界酸化が過度に進行して、鋼板表層粒界が脆化し、めっき密着性が低下する。また、巻き取り温度が高すぎると、後の酸化工程及び還元焼鈍工程において生成するSi酸化物及びAl酸化物が十分に得られず、合金化処理工程においてΓ相成長の遅延効果が得られない。このため、巻き取り温度Cの上限は、上記式(1)のB値以下とする。
【0062】
(3)工程S3
工程S3は、上記工程S2の終了後に、鋼板を酸洗する工程である。上記工程S2で巻き取られた鋼板(鋼帯)は、表面にスケールが形成されている。それゆえ、このスケールを除去するため、鋼板を酸洗する。この酸洗工程において、上記工程S2で鋼板の表層部の粒界に形成されたSi酸化物及びAl酸化物も除去される。工程S3で使用する酸は、塩酸と硫酸が主流である。また、過酸洗を防止するため、ごく少量の抑制剤(例えば、酸腐食抑制剤(朝日化学工業株式会社製のイビット710N等)等)を添加することができる。
【0063】
(4)工程S4
工程S4は、上記工程S3で酸洗された鋼板を、冷間圧延する工程である。上記工程S3でスケールを除去された鋼板は、引き続き、熱延鋼板から所定の板厚の冷延母材を得るために、冷間圧延が施される。モーターパワー、各スタンドの速度範囲、形状、板厚変動、及び、作業性等の観点から、工程S4における総圧下率は40%以上95%以下とすることが好ましい。
冷間圧延された鋼板には、圧延油や鉄粉が付着している。それゆえ、めっき外観を向上させる等の観点から、工程S4を経た鋼板を、アルカリで洗浄しても良い。
【0064】
(5)工程S5
工程S5は、上記工程S4を経た鋼板、又は、上記工程S4の後にアルカリで洗浄された鋼板を、0.90以上1.2以下の空燃比に調整された無酸化炉又は直火炉にて10秒以上30秒以下に亘って保持することにより、鋼板の表面を酸化させる工程である。工程S5を経ることにより、続く工程S6においてSi及びAlが鋼板表面に不均一に濃化して、界面に凹凸が形成されると考えられる。空燃比が高すぎると、鋼板の酸化量が過多となり、続く工程S6の際に、鋼板表面の還元によって鋼板表面近傍の雰囲気の露点の上昇につながる。したがって、工程S5の空燃比は0.90以上1.2以下とする。また、鋼板の表面を十分に酸化させるため、工程S5の保持時間は10秒以上とする。また、保持時間が30秒を超えても効果は飽和する。そのため、通板の能率低下を抑制するという観点から、工程S5の保持時間は30秒以下とする。
【0065】
(6)工程S6
工程S6は、上記工程S5の後に、露点が−10℃以下である還元雰囲気において鋼板を還元焼鈍する工程である。十分な界面密着強度が得られるようにするため、還元焼鈍の雰囲気の露点は−10℃以下とする。露点の下限は特に限定されないが、製造コストを抑制可能にする等の観点からは、露点を−40℃以上とすることが好ましい。工程S6における焼鈍の温度は、例えば、650℃以上900℃以下とすることができる。
【0066】
(7)工程S7
工程S7は、上記工程S7で還元焼鈍された鋼板を、質量%で0.080%以上0.14%以下のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴へ浸漬する工程である。工程S7は、例えば、上記工程S6を経た鋼板を、めっき浴温近傍(例えば、470℃程度)まで冷却した後、溶融亜鉛めっき浴へ浸漬する工程とすることができる。めっき付着量の制御を行いやすくするため、めっき浴中のAl濃度は0.080%以上とする。好ましくは、0.090%以上である。一方、界面へのFe−Al合金層の形成を抑制することにより、後述する工程S9で所定の合金化度を得るために必要とされる処理時間を低減し、生産性の低下を抑制する等の観点から、めっき浴中のAl濃度は、0.14%以下とする。好ましくは、0.13%以下である。本発明の製造方法において、工程S7のその他の条件は、特に限定されるものではない。
【0067】
(8)工程S8
工程S8は、上記工程S7の終了後に、鋼板の表面の亜鉛付着量を制御する工程である。工程S8は、例えば、鋼板の表面の亜鉛付着量が、一般に製品として用いられる25g/m以上70g/m以下となるように、めっき層の付着量を制御する工程とすることができる。
【0068】
(9)工程S9
工程S9は、上記工程S8を経た鋼板を、470℃以上570℃以下の温度で合金化処理することにより、Feを8.0〜15%含有するめっき層を形成する工程である。工程S9において、合金化処理温度を高くすると、母材の結晶粒内へのZnの拡散速度が大きくなり、Znが粒界よりも粒内へ拡散しやすくなる。その結果、めっき層と母材との界面密着強度が低下する。そのため、めっき層と母材との界面密着強度の低下を抑制する観点から、合金化処理温度は570℃以下とする。好ましくは550℃以下である。一方、合金化処理温度が低いと、Znの拡散速度が小さくなり、合金化処理時間が長くなる。かかる場合であっても、η相が存在しない程度にまで合金化処理を行えば、優れた界面密着強度を有する鋼板が得られる。しかし、生産性の低下を防止する観点から、合金化処理温度は470℃以上とする。好ましくは、480℃以上である。
本発明において、合金化処理温度に達するまでの昇温速度、合金化処理温度での保持時間、及び、保持後の冷却速度等は、特に制限されない。合金化処理における加熱手段は、上記形態のめっき層を形成可能であれば、輻射加熱、高周波誘導加熱、通電加熱等、何れの手段によっても良い。
【0069】
(10)後処理工程
上記工程S1〜工程S9を経て製造された鋼板の表面には、必要に応じて、防錆処理(例えば、クロメート処理やクロムフリー処理等)、リン酸塩処理、樹脂皮膜塗布等の後処理を施すことができ、防錆油を塗布することも可能である。
【0070】
少なくとも上記工程S1〜工程S7及び上記工程S9を備える本発明の製造方法では、母材(スラブ)の化学組成を限定し、めっき浴のAl濃度を特定し、さらに、合金化処理温度を限定することで、生産性の低下を防止している。本発明の製造方法によって製造した鋼板は、優れた界面密着強度を有し、成形性が要求される用途にも用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を示しつつ、本発明についてさらに具体的に説明する。
【0072】
1)供試材の作製
表1に、今回使用した供試材の化学組成を示す。本発明の技術的範囲に含まれる供試材を「本発明例」、本発明の技術的範囲に含まれない供試材を「比較例」とした。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示した化学組成の厚さ300mmのスラブを1200℃で加熱し、熱間圧延により厚さ2.3mmの熱延鋼板とした。次いで、酸洗により黒皮を除去し、冷間圧延により53%の圧下率で圧延し冷延鋼板とした。続いて連続式溶融亜鉛めっきラインに通板して、酸化工程、還元焼鈍工程、浸漬工程、及び、合金化処理工程を順に行った。合金化温度は450〜550℃、めっき浴中のAl濃度は0.10〜0.13%に調整した亜鉛めっき浴を使用した。合金化時間は25秒とした。合金化処理後に圧下率0.2〜0.5%の調質圧延を施した。
【0075】
2)分析・評価
上記手順により得られた供試材に対し、以下に示す方法で分析・評価を行った。その結果を、巻取り温度、空燃比、焼鈍露点、及び、焼鈍温度の値と共に表2にあわせて示す。なお、表2の鋼種欄の数字は、表1の鋼種欄の数字と対応している。
【0076】
【表2】

表2において、
A値=500−10×([Si]+0.8×[Al])、
B値=670+25×([Si]+0.8×[Al])であり、
[Si]は前記鋼スラブ中のSi濃度(質量%)、[Al]は前記鋼スラブ中のAl濃度(質量%)である。
【0077】
2−1)めっき層の組成分析
合金化処理後の供試材から、25mm角の試料片を採取し、0.50体積%インヒビター(商品名「イビット710N」、朝日化学工業株式会社製)を含有した10体積%塩酸水溶液で亜鉛めっき層を溶解し、これを、誘導結合プラズマ(ICP)法で分析することにより、めっき層の組成を分析した。分析結果(「めっき層中Fe含有量(%)」及び「めっき層中Al含有量(%)」)を表2に示す。
【0078】
2−2)界面密着強度の測定
合金化処理後の供試材を、長手方向が圧延方向となるように、20mm×100mmに裁断し、構造用接着剤(商品名「ペンギンセメント1085」、サンスター技研株式会社製)を用い、重ね代:10mm、接着剤膜厚:200μm、焼付条件:170℃×30分間、引張速度:5.0mm/min、露点が−30℃の雰囲気内で、長手方向に引張試験を実施した。界面密着強度及びめっき密着性評価の結果を表2に示す。めっき密着性の評価基準は、剪断引張強度が25MPa以上のものを「○」とし、剪断引張強度が25MPa未満のものを「×」とした。この「×」は、めっき密着性が不良であることを意味する。引張試験を行う際の試験片の形態を図2に示す。
【0079】
2−3)パウダリング試験
合金化処理後の供試材を、90mm×90mmに裁断したサンプルに、防錆油(商品名「550S」、日本パーカライジング株式会社製)を刷毛塗りし、ハット成形試験を室温で行った。ハット成形試験の模式図を図3に示す。ここで、「ハット成形試験」とは、図3(a)に試験装置の一部を拡大して示すように、所定の間隔を開けて備えられるダイ31の上に、成形前の供試材32を載せ、当該供試材32の上方からポンチ33を下方へと移動させることにより、成形された供試材34(図3(b)参照)とする試験を意味する。このようにして供試材34へと成形した後、供試材34の縦壁部35にテープ(JIS Z−1522に準ずる、ニチバン株式会社製のセロテープ。「セロテープ」はニチバン株式会社の登録商標。)を貼り、その後、当該テープを剥離して、テープ剥離後の成形品の質量を測定した。そして、テープ剥離後の成形品の質量と、成形前の供試材31の質量とを比較することにより、1サンプルあたりのめっき層の剥離量(パウダリング剥離量)を算出した。その結果及び耐パウダリング性の評価を表2に示す。耐パウダリング性の評価基準は、1試験片当たりのパウダリング剥離量が20mg未満のものを「○」とし、1試験片当たりのパウダリング剥離量が20mg以上のものを「×」とした。この「×」は、耐パウダリング性が不良であることを意味する。パウダリング試験のその他の条件は、ポンチ平行部:28mm、ダイス平行部:30mm、ポンチ肩R:3.0mm、ダイス肩R:5.0mm、成形速度:60mm/minとした。パウダリング試験の結果を、表2に示す。
【0080】
2−4)フェライト平均粒径測定
界面から母材の深さ方向に20μmの領域におけるフェライトの平均粒径は、走査型電子顕微鏡(型番「JSM5800−LV」、日本電子株式会社製)による観察組織写真から算出した、界面から母材の深さ方向に20μmの領域に存在するフェライト粒の長径を、1試料につき少なくとも5つのフェライト粒についてその平均値を測定し、平均粒径とした。母材の板厚の1/2位置におけるフェライト平均粒径についても、同様に測定した。界面から母材の深さ方向に20μmの領域におけるフェライトの平均粒径を「表層フェライト平均粒径」、母材の板厚の1/2位置におけるフェライト平均粒径を「平均フェライト粒径」として、その結果を表2に示す。
【0081】
2−5)Si光学強度測定
各供試材を20mm×30mmの大きさに切り出し、10体積%塩酸に塩酸用インヒビターを添加した溶液に浸漬して、めっき層のみを除去した後、グロー放電発光分光分析装置(型番「GDA−750」、株式会社リガク製)を用いて、めっき層が除去された母材の表面から10μm以上の深さまで、ArでスパッタリングしながらSiの発光強度を測定した。この際、母材の表面から深さが0.20μm以上0.50μm以下の領域でSiの発光強度Iを測定した。さらに、母材の表面から深さが9μm以上10μm以下の領域の複数個所においてもSiの発光強度を測定し、その平均値(I)を算出した。そして、測定値I及びIから、各供試材の比I/Iを導出した。結果を表2及び図4に示す。表2のI/I欄において、「○」は、1.0≦I/I≦2.0であった供試材であることを意味し、「×」は、2.0<I/Iであった供試材であることを意味する。また、図4に示す本発明例は、供試材No.1の結果であり、図4に示す比較例は、供試材No.18の結果である。
【0082】
3)結果
表2より、鋼板中のSi含有量が0.060%未満、又は、sol.Al含有量が0.1%未満のいずれか、又は、その両方を満たすことにより、本発明の技術的範囲に含まれないスラブ(鋼種No.11、12)を用いた供試材(No.18、19)は、いずれも、耐パウダリング性が不芳であり、供試材No.19はめっき密着性も不芳であった。また、母材中のSi含有量が0.30%を超えることにより、本発明の技術的範囲に含まれないスラブ(鋼種No.13)を用いた供試材(No.20)は、2.0<I/Iとなり、鋼板表層へのSiの濃化がみられた。また、供試材No.20は、過剰なSiの添加により、耐パウダリング性が低下した。
これに対し、本発明の技術的範囲に含まれるスラブ(鋼種No.1〜10)を用いた供試材(No.1、2、5、9、11〜17)は、すべて、良好なめっき密着性及び耐パウダリング性を有していた。
【0083】
また、供試材No.3及び供試材No.4は、焼鈍炉内の露点が、それぞれ、0℃、−5℃であった。これにより、積極的に鋼板の内部酸化が進行し、表層のフェライトが粗大化したため、めっき密着性及び耐パウダリング性が、ともに劣化した。
【0084】
また、供試材No.6は、巻き取り温度CがA値未満となり、本発明の範囲外で製造された。その結果、界面の表面粗さRaが0.60未満の0.58となり、めっき密着性が低下した。一方、供試材No.7は、巻き取り温度CがB値を超え、本発明の範囲外であった。その結果、Si及びAlが過度に粒界で酸化し、界面の表面粗さRaが大きく上昇した。また、還元焼鈍工程でSi酸化物及びAl酸化物が十分に得られないため、I/I<1.0となり、界面密着強度が低下し、めっき密着性が劣化した。また合金化処理工程におけるΓ相成長の遅延効果が得られず、Γ相が成長したため耐パウダリング性が低下した。
【0085】
また、供試材No.8は、めっき層中Fe濃度が15%を超えたため、耐パウダリング性が低下した。
【0086】
また、供試材No.10は、空燃比が1.2を超えていた。その結果、2.0<I/Iとなり、界面密着強度が低下し、めっき密着性が劣化した。また、鋼板表面のFe含有量が増大したほか、Si及びAlの酸化が過度に進行し、還元焼鈍炉内の露点が上昇したため、鋼板表層部のフェライト粒径が粗大化した。これにより、合金化工程においてΓ相の成長が促進され、めっき密着性及び耐パウダリング性が劣化した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、特に、自動車の構造部材として適している。
【符号の説明】
【0088】
S1…熱間圧延工程
S2…巻き取り工程
S3…酸洗工程
S4…冷間圧延工程
S5…酸化工程
S6…還元焼鈍工程
S7…浸漬工程
S8…付着量制御工程
S9…合金化処理工程
31…ダイ
32…成形前の供試材
33…ポンチ
34…成形後の供試材
35…縦壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.030%以上0.25%以下、Si:0.060%以上0.30%以下、Mn:1.0%以上3.0%以下、S:0.010%以下、P:0.035%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上1.0%以下、且つ、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有する鋼板母材の表面に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.10%以上0.50%以下を含有するとともにη相が存在しない合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記合金化溶融亜鉛めっき層を除去した後の前記鋼板母材の表面の中心線平均粗さRaは、0.60μm以上1.4μm以下であり、
さらに、前記合金化溶融亜鉛めっき層と前記鋼板母材との界面から前記鋼板母材の深さ方向に0.20μm以上0.50μm以下の領域において、グロー放電発光分光分析法で測定されるSi発光強度Iと、前記界面から前記鋼板母材の深さ方向に9.0μm以上10μm以下の領域において、グロー放電発光分光分析法で測定されるSi発光強度の平均値Iとの比I/Iが、1.0以上2.0以下であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記鋼板母材に、さらに、Ti:0.0040%以上0.25%以下、Nb:0.0040%以上0.15%以下、V:0.0010%以上0.15%以下、Cr:0.0010%以上1.0%以下、Mo:0.0010%以上0.15%以下、及び、B:0.00010%以上0.020%以下からなる群より選択される1種又は2種以上が含有されることを特徴とする、請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記鋼板母材に、さらに、REM:0.00010%以上0.10%以下、Ca:0.00010%以上0.010%以下、及び、Mg:0.00010%以上0.010%以下からなる群より選択される1種又は2種以上が含有されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記合金化溶融亜鉛めっき層と前記鋼板母材との界面から前記鋼板母材の深さ方向に20μmまでの領域におけるフェライト平均粒径をG1μm、前記鋼板母材の板厚の1/2の位置におけるフェライト平均粒径をG2μmとするとき、G1及びG2がG1≦2×G2を満たすことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
質量%で、C:0.030%以上0.25%以下、Si:0.060%以上0.30%以下、Mn:1.0%以上3.0%以下、S:0.010%以下、P:0.035%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上1.0%以下、且つ、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有する鋼スラブを熱間圧延して鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程で熱間圧延された前記鋼板を、下記式(1)を満たす巻取温度Cで巻き取る巻き取り工程と、
前記巻き取り工程後に、前記鋼板を酸洗する酸洗工程と、
前記酸洗工程後に、前記鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後に、冷間圧延された前記鋼板を、0.90以上1.2以下の空燃比に調整された無酸化炉又は直火炉にて10秒以上30秒以下に亘って保持することにより前記鋼板の表面を酸化させる酸化工程と、
前記酸化工程後に、露点が−10℃以下である還元雰囲気において前記鋼板を焼鈍する還元焼鈍工程と、
前記還元焼鈍工程で焼鈍された前記鋼板を質量%で0.080%以上0.14%以下のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴へ浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後に、前記鋼板の表面の亜鉛付着量を制御する付着量制御工程と、
前記付着量制御工程後に、前記鋼板を、470℃以上570℃以下の温度で合金化処理する合金化処理工程と、を備え、
前記合金化処理工程において、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.10%以上0.50%以下を含有するとともにη相が存在しない合金化溶融亜鉛めっき層が形成されることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
A≦C≦B 式(1)
ここで、A=500−10×([Si]+0.8×[Al])、B=670+25×([Si]+0.8×[Al])であり、[Si]は前記鋼スラブ中のSi濃度(質量%)、[Al]は前記鋼スラブ中のAl濃度(質量%)である。
【請求項6】
前記鋼スラブには、さらに、Ti:0.0040%以上0.25%以下、Nb:0.0040%以上0.15%以下、V:0.001%以上0.15%以下、Cr:0.0010%以上1.0%以下、Mo:0.0010%以上0.15%以下、及び、B:0.00010%以上0.020%以下からなる群より選択される1種又は2種以上が含有されることを特徴とする、請求項5に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記鋼スラブに、さらに、REM:0.00010%以上0.1%以下、Ca:0.00010%以上0.010%以下、及び、Mg:0.00010%以上0.010%以下からなる群より選択される1種又は2種以上が含有されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−222676(P2010−222676A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73622(P2009−73622)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】