説明

同心度測定装置

【課題】 外周面の断面が円形で、軸方向に延びる半円形断面の複数の溝を周方向に等間隔に形成した被測定物に対し、溝断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を正確に測定できる装置と方法を提供する。
【解決手段】 被測定物Wをインデックス回転させ、各回転位置ごとに第1のテーブル可動板24を進出させ、先端に配置した一対の球面接触子21を2つの溝に押し当てる。第1のテーブル可動板24上に進退自在に設けた第2のテーブル可動板40aを被測定物Wに付勢し、先端の変位測定先端部材42をランド部外周に接触させる。球面接触子21の中心位置を基準として、第2のテーブル可動板40aの進出位置からランド部外周の径寸法を測定し、各回転位置で測定されるランド部外周の径寸法の最大値と最小値の差から、仮想円の中心と、ランド部外周円の中心点との偏心量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば等速ジョイントの内輪等のように、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を測定する同心度測定装置および同心度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸方向に外径の異なる円筒体とされた被測定物に対して同心度を測定する装置として、特許文献1に開示の装置が知られている。この同心度測定装置は、被測定物をVブロックに押し付けてがたつきを防止した状態で、同心度の測定を行う。その同心度測定では、被測定物における同心度測定の必要な各円筒部に対して、これら円筒部の外周面に複数のセンサを接触させ、センサの接触部位の径方向位置を測定し、その測定データをデータ処理装置に記憶させる。以後、回転機構により被測定物を軸回りに90度回転させるごとに、同様の測定およびデータ処理装置によるデータ記憶を繰り返す。このような測定を所定回数実施した後、データ処理装置に記憶させたデータを基にして演算を行い、測定対象の円筒部間の同心度を割り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−345195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同心度測定の対象物として、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる製品がある。このような形状の製品の一例は、例えば自動車の駆動系統に接続されるドライブシャフトにおけるディファレンシャル側の等速ジョイントの内輪であり、この場合の溝は転動体の介在するトラック溝である。この場合の複数の溝の半円断面の曲率は同じである。また、この場合、外周面は周方向だけでなく、軸方向にも曲率を有する。このような被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を測定することが求められる。
【0005】
しかし、上記形状の被測定物の場合、外周面に複数の溝を有し、しかも被測定物によっては外周面の周方向のみならず軸方向にも曲率を有する場合があるので、特許文献1に開示の同心度測定装置のように、Vブロックに被測定物を押し付けても、測定時に安定良く支持できない。また、上記同心度測定装置におけるセンサを、この被測定物の溝の底部に接触させるのはむずかしく、この同心度測定装置では正確な測定が困難である。
【0006】
この発明の目的は、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を正確に測定できる同心度測定装置および同心度測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の同心度測定装置は、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を測定する同心度測定装置であって、
前記被測定物をその軸心回りに回転自在に支持する被測定物支持手段と、前記被測定物をその軸心回りに被測定物の溝配置角度ごとにインデックス回転させる被測定物回転手段と、被測定物の軸心に対して垂直な平面内で前記軸心に向けて進退自在とされ、被測定物に対向する先端位置に被測定物の隣り合う2つの溝の間隔に対応してこれら2つの溝に押し当て可能な一対の球面接触子を有する第1のテーブル可動板と、この第1のテーブル可動板を進退駆動するテーブル駆動手段と、前記第1のテーブル可動板上に第1のテーブル可動板と平行に被測定物の軸心に向けて進退自在でかつ被測定物に向けて付勢手段で付勢されて設けられ、前記一対の球面接触子に挟まれる位置で被測定物の隣り合う2つの溝に挟まれるランド部外周に接触可能な変位測定先端部材を有する第2のテーブル可動板と、この第2のテーブル可動板の後端に押し当てられる接触子を有し前記一対の球面接触子の中心位置を基準として、第2のテーブル可動板の進出位置から被測定物の前記ランド部外周の径寸法を測定する変位計と、前記被測定物回転手段により被測定物支持手段がインデックス回転されるごとに前記変位計で測定される前記ランド部外周の径寸法の最大値と最小値の差から、被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てられる前記第1のテーブル可動板の一対の球面接触子の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部外周円の中心点との偏心量を算出する偏心量演算手段とを備える。なお、上記球面接触子は、被測定物に接触させる面が球面であれば良く、他の部位の形状は任意の形状で良い。
【0008】
この構成によると、被測定物支持手段により被測定物をその軸心回りに回転自在に支持し、被測定物回転手段により被測定物をその軸心回りに被測定物の溝配置角度ごとにインデックス回転させ、第1のテーブル可動板の一対の球面接触子を被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てた状態で、これら2つの溝で挟まれるランド部の外周の径寸法を測定するようにしたので、被測定物の外周面に軸方向に延びる複数の溝を有する場合でも、さらには外周面が周方向だけでなく軸方向にも曲率を有する場合でも、安定した自動測定が可能となる。
また、被測定物が溝の半円形断面の中心を基準とする規格品であっても、溝断面と同様の曲率を有する一対の球面接触子を前記溝に押し当てると共に、これら球面接触子が押し当てられる隣り合う2つの溝で挟まれる被測定物ランド部の外周面に第2のテーブル可動板の変位測定先端部材を接触させることで、前記各球面接触子の中心点を基準位置として前記変位測定先端部材の位置を変位計により測定し、その測定値からランド部の外周の径寸法を求めるようにしているので、測定の基準位置が安定し正確な測定が可能となる。
これにより、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を正確に測定できる。
【0009】
この発明において、前記一対の球面接触子が球体であり、これら一対の球面接触子は、前記第1のテーブル可動板に固定され前記一対の球面接触子を下方から支える球面接触子支持板と、前記第1のテーブル可動板に固定されて前記一対の球面接触子の上方に配置され被測定物の隣り合う2つの溝の間隔に対応した位置に各球面接触子に係合可能な一対の孔を有する球面接触子ガイド板とで挟まれて位置決めされるものとしても良い。
このように球面接触子を球体として第1のテーブル可動板に対して上記のように支持することにより、球面接触子が被測定物の溝の表面になじみ易く、より精度の良い測定が行える。
【0010】
この発明において、前記テーブル駆動手段は、その駆動機構を構成するボールねじおよび駆動モータと、前記第1のテーブル可動板の進出位置を検出する位置センサと、駆動モータを制御する制御部とを備え、前記一対の球面接触子を被測定物の溝に押し当てる力が常に一定となるように制御されるものとしても良い。このように球面接触子の被測定物への押し当て力を一定とすることで、より精度の良い測定が手行える。
【0011】
この発明において、前記テーブル駆動手段は、その駆動機構を構成するリニアモータと、第1のテーブル可動板の進出位置を検出する位置センサと、前記リニアモータを制御する制御部とを備え、前記一対の球面接触子を被測定物の溝に押し当てる力が常に一定となるように制御されるものとしても良い。この構成の場合も、球面接触子の被測定物への押し当て力が一定となるため、より精度の良い測定が手行える。
【0012】
この発明において、前記第2のテーブル可動板は、エアシリンダにより被測定物に向けて付勢されるものとしても良い。エアシリンダを用いた場合、第2のテーブル可動板の進退駆動が簡素な構成で行え、また何らかの支障が生じて無理な押し当て力が生じた場合に、その無理な力を弾性的に吸収することができる。
【0013】
この発明において、前記被測定物支持手段は主軸を上向きに配置したスピンドル装置からなり、前記被測定物回転手段は、前記スピンドル装置を回転駆動するモータと、前記主軸の回転位置を検出するエンコーダと、前記モータを制御して前記スピンドル装置の主軸を所定の回転角度位置にインデックス回転させる制御装置とを有し、前記スピンドル装置の主軸は、その上端部が下端部よりも小径で被測定物の内径に係合可能な円柱部とされた段付形状であり、その主軸の下端部肩面で被測定物の端面を支えるものとしても良い。このように被測定物を支持する構成とすることで、被測定物を精度良く安定して支持することができる。
【0014】
この発明において、前記スピンドル装置の上方にスピンドル装置と同心に配置され、スピンドル装置の主軸に支持された被測定物の上端面を、その被測定物の溝に前記第1のテーブル可動板の球面接触子が押し当てられた状態のもとで下方に加圧する加圧機構を設けても良い。この構成の場合、測定時の被測定物を被測定物支持手段に安定良く支持することができ、正確な測定が可能となる。
【0015】
この発明において、前記偏心量演算手段は、前記被測定物支持手段の回転位置信号と前記変位計の検出信号を取り込むデータ処理部と、前記被測定物支持手段がインデックス回転されるごとに、そのインデックス回転位置に対応付けて前記ランド部外周の径寸法を順次記憶する記憶部とを有し、1周期分のインデックス回転後に、前記記憶部に記憶された全データから被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てられる前記第1のテーブル可動板の一対の球面接触子の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部外周円の中心点との偏心量を算出するものとしても良い。1周期分のインデックス回転後に纏めて計算することで、前記偏心量を算出が容易に精度良く行える。
【0016】
この発明の同心度測定方法は、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を測定する同心度測定方法であって、
前記被測定物をその軸心回りに回転自在に支持して所定角度ごとにインデックス回転させ、その各インデックス回転位置ごとに、被測定物の軸心に対して垂直な平面内で前記軸心に向けて進退自在とされ、被測定物に対向する先端位置に被測定物の隣り合う2つの溝の間隔に対応して配置された一対の球面接触子を有する第1のテーブル可動板を進出させて、前記一対の球面接触子を被測定物の2つの溝に押し当てると共に、この第1のテーブル可動板上に第1のテーブル可動板と平行に被測定物の軸心に向けて進退自在でかつ被測定物に向けて付勢されて設けられた第2のテーブル可動板の先端の変位測定先端部材を、被測定物の隣り合う2つの溝に挟まれるランド部外周に接触させ、前記一対の球面接触子の中心位置を基準として、第2のテーブル可動板の進出位置から被測定物の前記ランド部外周の径寸法を測定し、1周期にわたるインデックス回転で測定される前記ランド部外周の径寸法の最大値と最小値の差から、被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てられる前記第1のテーブル可動板の一対の球面接触子の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部外周円の中心点との偏心量を算出することを特徴とする。
この測定方法によると、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を正確に測定できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の同心度測定装置は、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を測定する同心度測定装置であって、前記被測定物をその軸心回りに回転自在に支持する被測定物支持手段と、前記被測定物をその軸心回りに被測定物の溝配置角度ごとにインデックス回転させる被測定物回転手段と、被測定物の軸心に対して垂直な平面内で前記軸心に向けて進退自在とされ、被測定物に対向する先端位置に被測定物の隣り合う2つの溝の間隔に対応してこれら2つの溝に押し当て可能な一対の球面接触子を有する第1のテーブル可動板と、この第1のテーブル可動板を進退駆動するテーブル駆動手段と、前記第1のテーブル可動板上に第1のテーブル可動板と平行に被測定物の軸心に向けて進退自在でかつ被測定物に向けて付勢手段で付勢されて設けられ、前記一対の球面接触子に挟まれる位置で被測定物の隣り合う2つの溝に挟まれるランド部外周に接触可能な変位測定先端部材を有する第2のテーブル可動板と、この第2のテーブル可動板の後端に押し当てられる接触子を有し前記一対の球面接触子の中心位置を基準として、第2のテーブル可動板の進出位置から被測定物の前記ランド部外周の径寸法を測定する変位計と、前記被測定物回転手段により被測定物支持手段がインデックス回転されるごとに前記変位計で測定される前記ランド部外周の径寸法の最大値と最小値の差から、被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てられる前記第1のテーブル可動板の一対の球面接触子の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部外周円の中心点との偏心量を算出する偏心量演算手段とを備えるため、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を正確に測定できる。
【0018】
この発明の同心度測定方法は、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を測定する同心度測定方法であって、前記被測定物をその軸心回りに回転自在に支持して所定角度ごとにインデックス回転させ、その各インデックス回転位置ごとに、被測定物の軸心に対して垂直な平面内で前記軸心に向けて進退自在とされ、被測定物に対向する先端位置に被測定物の隣り合う2つの溝の間隔に対応して配置された一対の球面接触子を有する第1のテーブル可動板を進出させて、前記一対の球面接触子を被測定物の2つの溝に押し当てると共に、この第1のテーブル可動板上に第1のテーブル可動板と平行に被測定物の軸心に向けて進退自在でかつ被測定物に向けて付勢されて設けられた第2のテーブル可動板の先端の変位測定先端部材を、被測定物の隣り合う2つの溝に挟まれるランド部外周に接触させ、前記一対の球面接触子の中心位置を基準として、第2のテーブル可動板の進出位置から被測定物の前記ランド部外周の径寸法を測定し、1周期にわたるインデックス回転で測定される前記ランド部外周の径寸法の最大値と最小値の差から、被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てられる前記第1のテーブル可動板の一対の球面接触子の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部外周円の中心点との偏心量を算出するものとしたため、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態にかかる同心度測定装置における機構部の一部破断正面図と制御・演算部のブロック図とを組み合わせて示す図である。
【図2】図1の同心度測定装置における機構部のII−II矢視平面図である。
【図3】被測定物における複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円と、ランド部外周円との関係を示す説明図である。
【図4】測定動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。この同心度測定装置は、図3に平面図で示す被測定物Wを測定する装置である。この被測定物Wは、外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向(同図において紙面に対して垂直な方向)に延びる複数の溝aを周方向に等間隔に形成してなる。この同心度測定装置は、上記構成の被測定物Wに対して、その複数の溝aの断面の中心点Oa を連ねた仮想円Sの中心Os と、隣り合う溝a,aに挟まれたランド部r外周の曲率中心Or との偏心量を測定する装置である。図示の例の被測定物Wは、自動車の駆動系統に接続されるドライブシャフトにおけるディファレンシャル側の等速ジョイントの内輪であり、その溝aは、ボールからなる転動体の介在するトラック溝である。複数の溝aの半円断面の曲率は同じである。この被測定物Wは、外周面の軸方向に沿う断面形状が円弧状であり、外周面は周方向だけでなく、軸方向にも曲率を有する。
【0021】
図1はその同心度測定装置における機構部の一部破断正面図と制御・演算部のブロック図とを組み合わせた図を示す。図2は図1に示す機構部のII−II矢視平面図を示す。この同心度測定装置は、被測定物支持手段1と、被測定物回転手段10と、第1の可動テーブル装置20と、テーブル駆動手段30と、第2の可動テーブル装置40と、変位計50と、偏心量演算手段60と、加圧機構70とを備える。
【0022】
被測定物支持手段1は、被測定物Wをその軸心回りに回転自在に支持する手段であり、ここでは主軸3を上向き配置したスピンドル装置2からなる。スピンドル装置2の主軸3は、その上端部3aが下部3bよりも小径とされた段付形状であり、円柱部とされた上端部3aが被測定物Wの内径に係合可能とされ、下部3bの上面となる肩面3cで被測定物Wの端面を支えるようにされている。これにより、被測定物Wを安定良く回転自在に支持することができる。
【0023】
被測定物回転手段10は、被測定物Wをその軸心回りに被測定物Wの溝aの配置角度ごとにインデックス回転させる手段である。この被測定物回転手段10は、前記スピンドル装置2の主軸3を回転駆動するモータ11と、主軸3の回転位置を検出するエンコーダ12と、前記モータ11を制御して主軸3を所定の回転角度位置にインデックス回転させる制御装置13とを有する。
【0024】
第1の可動テーブル装置20は、そのテーブル可動板である第1のテーブル可動板24が、前記被測定物支持手段1で支持された被測定物Wの軸心に対して垂直な平面内で前記軸心に向けて進退自在に設けられたテーブル装置である。第1のテーブル可動板24の被測定物Wに対向する先端位置には、被測定物Wの隣り合う2つの溝a,aの間隔に対応して、被測定物Wの軸心に対し垂直な面内に配置され前記2つの溝aに押し当て可能な一対の球面接触子21,21が設けらている。これら球面接触子21,21は、鋼球等の球体からなる。具体的には、この一対の球面接触子21,21は、第1のテーブル可動板24に固定され球面接触子21を下方から支える球面接触子支持板22と、同じく第1のテーブル可動板24に固定されて球面接触子21の上方に配置され被測定物Wの隣り合う2つの溝a,aの間隔に対応した位置に各球面接触子21に係合可能な一対の孔23a,23aを有する球面接触子ガイド板23とで挟まれて位置決めされる。球面接触子21の曲率は、被測定物Wにおける半円断面形状の溝aと同じ曲率とされる。
【0025】
テーブル駆動手段30は前記第1のテーブル可動板24を進退駆動する手段であり、その駆動機構を構成するエアシリンダ32、ピストンロッド35、及び空気の給気路36を切り替える電磁弁34とを備え、この電磁弁34は制御装置13によって制御されて可動板取り付け部材31の進退方向が切り替えられる。このエアシリンダ32には一定圧の空気が給気されているため、前記一対の球面接触子21,21を被測定物Wの溝a,aに押し当てる力が常に一定となる。可動板取り付け部材31の後退位置は、ストパー33により調整される。なお、駆動機構を構成するエアシンダを、図示しないボールねじおよび駆動モータやリニアモータに置き換え、このボールねじの駆動モータやリニアモータを制御部13で制御するように構成しても良い。
【0026】
第2の可動テーブル装置40は、前記第1のテーブル可動板24上における被測定物Wに対向する先端位置に設けられ、そのテーブル可動板である第2のテーブル可動板40aが、第1のテーブル可動板24と平行に被測定物Wの軸心に向けて進退自在とされ、かつ付勢手段となるばね41により被測定物Wに向けて付勢されている。この場合の第2のテーブル可動板40aの被測定物Wに向けての付勢は、前記ばね41によらず例えばエアシンダで行っても良い。この第2のテーブル可動板40aの先端の、前記一対の球面接触子21,21で挟まれる位置には、図2のように被測定物Wの隣り合う2つの溝a,aに挟まれるランド部rの外周に接触可能な変位測定先端部材42が設けられている。この変位測定先端部材42は被測定物Wの軸心と平行な垂直向きとされた円柱体または板状体とされる。
【0027】
変位計50は、前記第2のテーブル可動板40aの後端に押し当てられる接触子51を有し、第1のテーブル可動板24上に固定される。この変位計50は、前記一対の球面接触子21,21の中心位置を基準として、第2の可動テーブル4の進出位置から被測定物Wのランド部rの外周の径寸法を測定する手段である。
【0028】
偏心量演算手段60は、前記被測定物回転手段10により被測定物支持手段1の主軸3がインデックス回転されるごとに前記変位計50で測定されるランド部rの外周径寸法の最大値と最小値の差から、被測定物Wの隣り合う2つの溝aに押し当てられる前記一対の球面接触子21,21の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部rの外周円の中心点Or との偏心量を算出する。この偏心量演算手段60は、被測定物回転手段10のエンコーダ12から出力される被測定物支持手段1の回転位置信号と、前記変位計50の検出信号を取り込むデータ処理部61と、被測定物支持手段1がインデックス回転されるごとに、各回転位置に対応付けて被測定物Wのランド部rの径寸法測定値を順次記憶する記憶部62とを有し、1周期分のインデックス回転後に、前記記憶部62に記憶された全データから、被測定物Wの隣り合う2つの溝a,aに押し当てられる一対の球面接触子21,21の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部rの外周円の中心点Or との偏心量を算出する。この場合、球面接触子21の中心を連ねて形成される仮想円は、被測定物Wの複数の溝aの断面の中心点Oa を連ねて形成される仮想円Sを表すことになる。つまり、偏心量演算手段60は、被測定物Wにおける複数の溝aの断面の中心点Oa を連ねた仮想円Sの中心Os と、隣り合う溝a,aに挟まれたランド部rの外周の曲率中心Or との偏心量を算出する。
【0029】
加圧機構70は、被測定物支持手段1を構成するスピンドル装置2の上方にスピンドル装置2と同心に配置される。この加圧機構70はエアシリンダ71からなり、そのピストンロッド72の下端に設けられた加圧部材73により、スピンドル装置2の主軸3に支持された被測定物Wの上端面を、その被測定物Wの溝aに第1の可動テーブル装置20の一対の球面接触子21,21が押し当てられ状態で下方に加圧する。これにより、測定時の被測定物Wを被測定物支持手段1に安定良く支持でき、正確な測定が可能となる。
【0030】
次に、上記構成の同心度測定装置による被測定物Wの同心度測定の手順を説明する。先ず、図1のように被測定物支持手段1を構成するスピンドル装置2の主軸3で被測定物Wを支持して、被測定物回転手段10によりスピンドル装置2の主軸3を所定回転位置にインデック回転させる。ここでの所定回転位置とは、図2のように、主軸3に支持された被測定物Wの隣り合う2つの溝a,aが、第1の可動テーブル装置20の一対の球面接触子21,21と可動テーブル装置20の進行方向に向けて対向する回転位置である。次に、第1のテーブル可動板24をテーブル駆動手段30により所定の初期位置から被測定物Wに向けて前進させ、図4のように一対の球面接触子21,21を隣り合う2つの溝aにそれぞれ押し当てる。このとき、第2のテーブル可動板40aの先端に設けた変位測定先端部材42が、被測定物Wにおける前記2つの溝aに挟まれたランド部rの外周面に接触する。変位測定先端部材42は、付勢手段であるばね41によって常に背後から第2のテーブル可動板40aを介して所定の接触圧で押される。
【0031】
次に、被測定物支持手段1の上方に、スピンドル装置2と同心に配置された加圧機構70のエアシリンダ71が下降駆動して、そのエアシリンダ71のピストンロッド72の下端に設けられた加圧部材73が被測定物Wの上端面を下方に向けて押さえる。これにより、被測定物Wを被測定物支持手段1に安定良く支持させることができ、正確な測定が可能となる。
【0032】
この状態で、被測定物回転手段10のエンコーダ12により検出されるスピンドル装置2の回転位置信号、つまり被測定物Wの回転位置データと、変位計50の測定する変位量データとが偏心量演算手段60のデータ処理部61に取り込まれ、記憶部62において変位量データが回転位置データと対応付けて記憶される。この場合の変位計50の変位量データは、一対の球面接触子21,21の中心点を基準とした前記変位測定先端部材42の変位量から求められる被測定物ランド部rの外周の半径である。
【0033】
このような測定を行った後、加圧機構70のエアシリンダ71が上昇駆動して、そのエアシンダ71の加圧部材73が被測定物Wの上端面から上方に退避する。また、第1のテーブル可動板24も初期位置に退避させられ、被測定物Wの2つの溝aへの一対の球面接触子21,21の押し当て、およびランド部rの外周面への変位測定先端部材42の接触が解除される。
【0034】
この後、上記した測定済みランド部rに隣接するランド部rの半径測定を行うべく、被測定物回転手段10がスピンドル装置2の主軸3を被測定物Wの溝配置角度だけインデック回転させ、上記と同様の一連の測定動作を行う。測定されたデータが偏心量演算手段60のデータ処理部61に取り込まれ、記憶部62で記憶されることも同様である。
【0035】
以上のように、被測定物Wをその溝配置角度だけ順次インデックス回転させつつ、上記測定を繰り返し、測定データを偏心量演算手段60のデータ処理部61に取り込み記憶する。この測定を被測定物Wの一周にわたって行った後、偏心量演算手段60は、測定したランド部rの外周半径の最大値と最小値の差を演算することによって同心度を求める。つまり、図3に示す被測定物Wの複数の溝aの中心点Oa を連ねた仮想円Sの中心Os と、隣り合う溝a,aに挟まれたランド部rの外周の曲率中心Or との偏心量ΔOを測定する。
【0036】
このように、この同心度測定装置を用いた測定によると、被測定物支持手段1により被測定物Wをその軸心回りに回転自在に支持し、被測定物回転手段10により被測定物Wをその軸心回りに被測定物Wの溝配置角度ごとにインデックス回転させ、第1の可動テーブル装置20の一対の球面接触子21,21を被測定物Wの隣り合う2つの溝aに押し当てた状態で、これら2つの溝aで挟まれるランド部rの外周の半径を測定するようにしている。このため、被測定物Wの外周面に軸方向に延びる複数の溝aを有する場合でも、さらには外周面が周方向だけでなく軸方向にも曲率を有する場合でも、安定した自動測定が可能となる。
【0037】
また、被測定物Wが溝aの半円形断面の中心を基準とする規格品であっても、溝断面と同様の曲率を有する一対の球面接触子21,21を前記溝aに押し当てると共に、これら球面接触子21が押し当てられる隣り合う2つの溝a,aで挟まれるランド部rの外周面に第2のテーブル可動板40aの変位測定先端部材42を接触させることで、前記各球面接触子21の中心点を基準位置として前記変位測定先端部材42の位置を変位計50により測定し、その測定値からランド部rの外周の径寸法を求めるようにしている。このため測定の基準位置が安定し正確な測定が可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1…被測定物支持手段
2…スピンドル装置
3…主軸
3a…主軸の上端部
3b…主軸の下端部
3c…主軸の肩面
10…被測定物回転手段
11…モータ
12…エンコーダ
13…制御装置
20…第1の可動テーブル装置
21…球面接触子
22…球面接触子支持板
23…球面接触子ガイド板
23a…球面接触子ガイド板の孔
24…第1のテーブル可動板
30…テーブル駆動手段
31…テーブル可動板取り付け部材
32…エアシリンダ
33…ストッパー
34…電磁弁
40…第2の可動テーブル
40a…第2のテーブル可動板
41…ばね(付勢手段)
42…変位測定先端部材
50…変位計
51…接触子
60…偏心量演算手段
61…データ処理部
62…記憶部
70…加圧機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を測定する同心度測定装置であって、
前記被測定物をその軸心回りに回転自在に支持する被測定物支持手段と、前記被測定物をその軸心回りに被測定物の溝配置角度ごとにインデックス回転させる被測定物回転手段と、被測定物の軸心に対して垂直な平面内で前記軸心に向けて進退自在とされ、被測定物に対向する先端位置に被測定物の隣り合う2つの溝の間隔に対応してこれら2つの溝に押し当て可能な一対の球面接触子を有する第1のテーブル可動板と、この第1のテーブル可動板を進退駆動するテーブル駆動手段と、前記第1のテーブル可動板上に第1のテーブル可動板と平行に被測定物の軸心に向けて進退自在でかつ被測定物に向けて付勢手段で付勢されて設けられ、前記一対の球面接触子に挟まれる位置で被測定物の隣り合う2つの溝に挟まれるランド部外周に接触可能な変位測定先端部材を有する第2のテーブル可動板と、この第2のテーブル可動板の後端に押し当てられる接触子を有し前記一対の球面接触子の中心位置を基準として、第2のテーブル可動板の進出位置から被測定物の前記ランド部外周の径寸法を測定する変位計と、前記被測定物回転手段により被測定物支持手段がインデックス回転されるごとに前記変位計で測定される前記ランド部外周の径寸法の最大値と最小値の差から、被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てられる前記第1のテーブル可動板の一対の球面接触子の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部外周円の中心点との偏心量を算出する偏心量演算手段とを備える、
ことを特徴とする同心度測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記一対の球面接触子が球体であり、これら一対の球面接触子は、前記第1のテーブル可動板に固定され前記一対の球面接触子を下方から支える球面接触子支持板と、前記第1のテーブル可動板に固定されて前記一対の球面接触子の上方に配置され被測定物の隣り合う2つの溝の間隔に対応した位置に各球面接触子に係合可能な一対の孔を有する球面接触子ガイド板とで挟まれて位置決めされる同心度測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記テーブル駆動手段は、その駆動機構を構成するボールねじおよび駆動モータと、前記第1のテーブル可動板の進出位置を検出する位置センサと、駆動モータを制御する制御部とを備え、前記一対の球面接触子を被測定物の溝に押し当てる力が常に一定となるように制御される同心度測定装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記テーブル駆動手段は、その駆動機構を構成するリニアモータと、第1のテーブル可動板の進出位置を検出する位置センサと、前記リニアモータを制御する制御部とを備え、前記一対の球面接触子を被測定物の溝に押し当てる力が常に一定となるように制御される同心度測定装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、前記第2のテーブル可動板は、エアシリンダにより被測定物に向けて付勢されている同心度測定装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記被測定物支持手段は主軸を上向きに配置したスピンドル装置からなり、前記被測定物回転手段は、前記スピンドル装置を回転駆動するモータと、前記主軸の回転位置を検出するエンコーダと、前記モータを制御して前記スピンドル装置の主軸を所定の回転角度位置にインデックス回転させる制御装置とを有し、前記スピンドル装置の主軸は、その上端部が下部よりも小径で被測定物の内径に係合可能な円柱部とされた段付形状であり、その主軸の下部の上面となる肩面で被測定物の端面を支えるものとした同心度測定装置。
【請求項7】
請求項6において、前記スピンドル装置の上方にスピンドル装置と同心に配置され、スピンドル装置の主軸に支持された被測定物の上端面を、その被測定物の溝に前記第1のテーブル可動板の球面接触子が押し当てられた状態のもとで下方に加圧する加圧機構を設けた同心度測定装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記偏心量演算手段は、前記被測定物支持手段の回転位置信号と前記変位計の検出信号を取り込むデータ処理部と、前記被測定物支持手段がインデックス回転されるごとに、そのインデックス回転位置に対応付けて前記ランド部外周の径寸法を順次記憶する記憶部とを有し、1周期分のインデックス回転後に、前記記憶部に記憶された全データから被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てられる前記第1のテーブル可動板の一対の球面接触子の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部外周円の中心点との偏心量を算出するものとした同心度測定装置。
【請求項9】
外周面の断面形状が円形で、その外周面に断面が略半円形で軸方向に延びる複数の溝を周方向に等間隔に形成してなる被測定物に対して、その複数の溝の断面の中心点を連ねた仮想円の中心と、隣り合う溝に挟まれたランド部外周の曲率中心との偏心量を測定する同心度測定方法であって、
前記被測定物をその軸心回りに回転自在に支持して所定角度ごとにインデックス回転させ、その各インデックス回転位置ごとに、被測定物の軸心に対して垂直な平面内で前記軸心に向けて進退自在とされ、被測定物に対向する先端位置に被測定物の隣り合う2つの溝の間隔に対応して配置された一対の球面接触子を有する第1のテーブル可動板を進出させて、前記一対の球面接触子を被測定物の2つの溝に押し当てると共に、この第1のテーブル可動板上の被測定物に対向する先端位置に第1のテーブル可動板と平行に被測定物の軸心に向けて進退自在でかつ被測定物に向けて付勢されて設けられた第2のテーブル可動板の先端の変位測定先端部材を、被測定物の隣り合う2つの溝に挟まれるランド部外周に接触させ、前記一対の球面接触子の中心位置を基準として、第2のテーブル可動板の進出位置から被測定物の前記ランド部外周の径寸法を測定し、1周期にわたるインデックス回転で測定される前記ランド部外周の径寸法の最大値と最小値の差から、被測定物の隣り合う2つの溝に押し当てられる前記第1のテーブル可動板の一対の球面接触子の中心を連ねて形成される仮想円の中心と、前記ランド部外周円の中心点との偏心量を算出することを特徴とする同心度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−69683(P2011−69683A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220110(P2009−220110)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】