説明

含フッ素重合体およびそれを用いた帯電防止剤

【課題】耐候性に優れた帯電防止性を有し、透明性に優れた合成樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(2)で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体。


[式中、Wは連結基、Rはそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を表し、Qは重合性二重結合基含有基の二重結合が開裂して形成した単位構造を表す。Mは、水素カチオン、金属イオンまたは一般式(15)


(式中、R11〜R14はそれぞれ独立に置換基を有するかまたは有しない炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基を表す。)で表わされる4級アンモニウムカチオンを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体を成分とする帯電防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックやガラス、ウェファーなどの成形品は一般に電気抵抗値が高いため、摩擦等によって容易に帯電し、ゴミ、ほこり等を吸引して汚れたり傷がつく等、外観を損ね、人間がそれらの帯電した機器に触れたときに電気ショックを受け、また、製造工程における不良品の発生する場合があるなどの問題を起こしている。
これらの問題を解消するために成形品に帯電防止性能を付与することが行われており、その方法としては、(1)界面活性剤の内部添加(2)界面活性剤またはシリコン系化合物の表面塗布(3)プラズマ処理による表面改質などが挙げられる。
【0003】
このなかで、(1)の方法は、成形の際に分解したり一部が分離したりすることがあり、また成形品は経時的に界面活性剤が相分離を起こすことがある。また、(2)の方法は、少量の界面活性剤で帯電防止性能を付与できるものの、その性能が水洗や摩擦によって容易に失われてしまうことがあり、また、一旦樹脂製品を成形した後に改めて界面活性剤を塗布する必要がある。
【0004】
このなかで、物品を構成するプラスチックなどに混練する(1)の内部型帯電防止剤は、表面にあった帯電防止効果を示す活性基が摩擦、汚れなどで減少したときに内部から活性基が再生することで永続的な効果を維持することができる。使用方法としては、重合前の合成樹脂原料や成型前の合成樹脂に界面活性剤を混合または分散させるので、製造工程は簡単となるが、非イオン性界面活性剤を用いて帯電防止性能を発揮させるには大量使用の必要があり、表面特性が低下する欠点がある。またイオン性界面活性剤の場合には比較的少量で帯電防止性能を発揮することもあるが、均一、透明に溶解せず、一時的に溶解しても経時的に相分離を起こしたり、不溶物が発生することがあり、適当な界面活性剤は見出されていない。
【0005】
これに対し、表面に塗布して被膜を形成する(2)の方法は、基材となる合成樹脂成型品の物性を損なうことがない上少量の界面活性剤で良好な帯電防止性能が得られる利点をもつ。しかし反面、合成樹脂成型品本来の美麗な外観を損ねる可能性があり、摩擦による消滅、水洗や溶解による消失などで効果を失ったときはその後帯電防止効果を再生することはない。そのため、製造工程中での短時間の帯電防止効果で足る場合を除き長期に効果を維持するには高分子からなる膜やその硬化膜を形成する必要がある。
最近では、光デイスク、ビデオテープ等製品や半導体工業の製造プロセスにおける加工品のように、帯電防止性能に加えて透明性、均一性を要求される場合が多く、これらの性能を満足するものは得られていない。
【0006】
このように、合成樹脂本来の特性を維持し、かつ合成樹脂成型品に優れた帯電防止性能を付与する工業生産性に優れた方法は得られていなかった。
【0007】
また、帯電防止効果を付与するために使用する帯電防止剤には、表面に水を吸着させて水の導電性で静電気を伝導消失させるものと、イオン構造が有する伝導性を利用するものがあり、前者ではノニオン系の界面活性剤やアミノ樹脂が知られ、後者ではカチオンとして4級アンモニウムカチオンや金属イオン、アニオンとしてスルホン酸基、ホスホン酸基などが広く知られている。
【0008】
また、帯電防止剤としてイオン性化合物、中でも有機塩類が使用される。有機カチオンの例としては、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、カルボカチオン等が挙げられ、また有機アニオンの例としては、カルボン酸の共役塩基、スルホン酸の共役塩基、リン酸の共役塩基、スルホンイミドの共役塩基、スルホニルメタン酸の共役塩基、ボレートアニオン、アルミネートアニオン等が挙げられる。帯電防止性能の観点から、金属のカチオンと炭素を含む有機アニオンとからなるイオン性化合物を用いられ、イオン性化合物のアニオンとして、フッ化アルキル基を含んだ有機アニオンが優れた帯電防止性能を有し、例えば、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのリチウム塩等が報告されている(特許文献1)。
【0009】
オレフィン性メチドモノマーCF=CFOCFCF(CF)OCFSOC(Li)(SOCF)2とフッ化ビニリデンとの共重合体については特許文献2に記載されているが、ほぼパーフルオロ化合物であって、溶剤溶解性や基材表面への付着性、製膜性から特殊な用途に限られる。
【特許文献1】特開2007−9042号公報
【特許文献2】特表2002−505356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、メチド化合物が有する優れた帯電防止性能を長期にわたり安定して物品に付与することのできる含フッ素重合体およびそれを用いた帯電防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、帯電防止効果に優れるメチド構造を側鎖に導入した単独重合体または共重合体を用いると、長期にわたり安定した帯電防止効果を有する被膜を形成することができる含フッ素重合体が得られ、また、その含フッ素重合体を含む溶液からなる組成物が容易に強固で安定した被膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は次のとおりである。
【0013】
[発明1]
一般式(2)で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体であって、当該フッ素重合体が、単独重合あるいは他の重合性二重結合含有単量体との共重合によって得られる含フッ素重合体。
【0014】
【化1】

【0015】
[式中、Wは連結基、Rはそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を表し、Qは重合性二重結合基含有基の二重結合が開裂して形成した単位構造を表す。Mは、水素カチオン、金属イオンまたは一般式(15)
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R11〜R14はそれぞれ独立に置換基を有するかまたは有しない炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基を表す。)で表わされる4級アンモニウムカチオンを表す。]
[発明2]
Qが、一般式(6)
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、R、R、Rは、互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素数1〜4のアルキル基またはシアノ基であり、または互いに結合して環を形成した脂環式構造を表す。ここで、アルキル基、脂環式構造に含まれる水素原子の一部または全部は、フッ素原子またはヒドロキシル基で置換されていてもよい。)で表される単位構造である発明1に記載の含フッ素重合体。
【0020】
[発明3]
Wが、一般式(3)
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、nは1〜3の整数を表す。R’は水素原子、炭素数1〜3の置換もしくは無置換の直鎖状、分岐状のアルキル基、または炭素数3〜10の環状のアルキル基を表す。
ここで、Aは、B−B−Bで表され、
は、単結合または
【0023】
【化5】

【0024】
のうちから選ばれる何れか1つの基を表す。
は、単結合、または直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基と環状のアルキレン基が直列に結合した基、またはこれらの基にさらにカルボニルオキシ基もしくはアミド結合が挿入された基であって、直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基に含まれる水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい。
は、単結合または、
【0025】
【化6】

【0026】
のうちから選ばれる何れか1つの基を表す。)で表される二価の基である[発明1]または[発明2]に記載の含フッ素重合体。
【0027】
[発明4]
Qが、
【0028】
【化7】

【0029】
から選ばれるいずれかの重合性二重結合基含有基の重合性二重結合が開裂して得られる単位構造である[発明1]〜[発明3]に記載の含フッ素重合体。
【0030】
[発明5]
一般式(1)
【0031】
【化8】

【0032】
(式中、WおよびRは一般式(2)における意味と同じ。Q’は重合性二重結合基であって、開列して単位構造Qを与える基)で表される含フッ素単量体と、アクリル酸エステル、含フッ素アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、含フッ素スチレン系化合物、ビニルエーテル類、含フッ素ビニルエーテル類、アリルエーテル類、含フッ素アリルエーテル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、アリルエステル類、オレフィン類、含フッ素オレフィン類、ノルボルネン化合物、含フッ素ノルボルネン化合物、二酸化硫黄およびビニルシラン類から選ばれた一種類以上の単量体と共重合して得られる含フッ素重合体。
【0033】
[発明6]
[発明1]〜[発明5]のいずれかに記載の含フッ素重合体と溶媒とを少なくとも含む帯電防止剤。
【0034】
[発明7]
一般式(2)においてMが水素カチオンである[発明1]に記載の含フッ素重合体と一般式(15)
【0035】
【化9】

【0036】
(式中、R11〜R14はそれぞれ独立に置換基を有するかまたは有しない炭素数1〜20のアルキル基を表す。)で表される4級アンモニウムカチオンを含んでなる帯電防止剤。
【0037】
[発明8]
4級アンモニウムカチオンが、4級アンモニウム水酸化物に由来するカチオンである[発明7]に記載の帯電防止剤。
【0038】
[発明9]
[発明6]〜[発明8]に記載の帯電防止剤を物品表面に塗布してなる帯電防止効果を有する物品。
【0039】
[10]
下記一般式で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体。
【0040】
【化10】

【0041】
(式中、Wは連結基、Rはそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を表し、Qは重合性二重結合基含有基の二重結合が開裂して形成した単位構造を表す。)
本発明の含フッ素重合体は、一般式(2)で表される繰り返し単位の側鎖末端の同一炭素上に2つのパーフルオロアルカンスルホニル基を有することを特徴とする。すなわち、同一炭素に2つのパーフルオロアルカンスルホニル基が直接結合することによって、該炭素と水素原子からなる酸の強度に顕著な増大をもたらすことができる。また、重合性二重結合基と強酸性を示すメチド部分は連結基Wによって適度に隔離されているため、含フッ素重合体を形成する際の前駆体である含フッ素単量体の安定性を確保でき、かつ、含フッ素重合体の安定性を維持できるという特徴を有する。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、薄膜を形成可能な溶液型の帯電防止剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の帯電防止剤は一般式(1)
【0044】
【化11】

【0045】
(式中、Wは連結基、Rはそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を表し、Q’は重合性二重結合基である。当該二重結合基が開裂して単位構造Qを形成する。Mは、水素カチオン、金属イオンまたは一般式(15)
【0046】
【化12】

【0047】
(式中、R11〜R14はそれぞれ独立に置換基を有するかまたは有しない炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基を表す。)で表わされる4級アンモニウムカチオンを表す。)で表される含フッ素単量体を単独で重合させまたは他の単量体と共重合させて得られる、繰り返し単位(2)
【0048】
【化13】

【0049】
(式中、Wは連結基、Rはそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を表し、Qは重合性二重結合基含有基Q’の二重結合が開裂して形成した単位構造を表す。)を含む含フッ素重合体と溶剤を含んでなる。また、本発明の帯電防止剤はその他の成分を含むこともできる。
【0050】
本発明の帯電防止剤は、MがHである一般式(2)の含フッ素重合体であってもよいが、それに4級アンモニウム塩または金属塩を添加することでより帯電防止効果を向上させることができる。このようにアニオンを添加した場合、一般式(2)で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体は、酸強度が著しく高いためカチオンはアニオンと固定された結合を形成せず、高分子化合物表面で弱い結合を形成していると考えられ、通常の基材表面に吸着した水に基づくイオン伝導性による帯電防止効果とは異なるものである。
【0051】
本発明にかかる一般式(1)で表される含フッ素単量体は、重合性二重結合を有する重合性部位とメチド基を連結基Wで連結した構造からなる。
【0052】
一般式(1)における連結基Wは、一般式(3)
【0053】
【化14】

【0054】
で表される。式中、nは1〜3の整数を表す。R’は水素原子、炭素数1〜3の置換もしくは無置換の直鎖状、分岐状のアルキル基、または炭素数3〜10の環状のアルキル基を表す。
ここで、Aは、B−B−Bで表され、
は、単結合または
【0055】
【化15】

【0056】
のうちから選ばれる何れか1つの基を表す。
は、単結合、または直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基と環状のアルキレン基が直列に結合した基、またはこれらの基にさらにカルボニルオキシ基もしくはアミド結合が挿入された基であって、直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基に含まれる水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい。
は、単結合または、
【0057】
【化16】

【0058】
のうちから選ばれる何れか1つの基を表す。)
ここで、R’で表されるアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が例示される。R’は、製造の容易さの観点から、水素原子、メチル基、エチル基またはイソプロピル基が特に好ましい。
【0059】
は、単結合、または直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基と環状のアルキレン基が直列に結合した基、またはこれらの基にさらにカルボニルオキシ基もしくはアミド結合が挿入された基であって、直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基に含まれる水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい。すなわち、Bは一般式(5)、
−(CR−(R−(O(C=O),NHC=O)−(CR

(5)
で表すことができる。ここで、p、sは、0〜10の整数を表し、q、rは0または1を表す。R、Rはそれぞれ独立に一価の有機基を表し、または、同一炭素に結合するR、Rが環を形成することができる。この環は脂環式炭化水素基であることが好ましい。Rは、二価の脂環式炭化水素基または芳香族炭化水素基を表す。
【0060】
ここで、R、Rで表される一価の有機基は、特に限定されないが、水素原子、ハロゲン原子(ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子をいう。本明細書において同じ。)、ヒドロキシル基、またはアルキル基、置換アルキル基、アルコキシ基、脂環式炭化水素基、アリール基、縮合多環式芳香族基およびヘテロ環基から選ばれた炭素数1〜30(ただし、環式基では3〜30)の一価の有機基であって、これらの一価の有機基に含まれる水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換され、または、これらの一価の有機基に含まれる炭素原子の一部または全部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子で置換することができる。ハロゲン原子としては、フッ素原子が特に好ましい。
【0061】
アルキル基としては、炭素数1〜30のものであり、炭素数1〜12のものが好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、i−ヘキシル基、n−オクチル基、i−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基等を挙げることができ、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基などが特に好ましいものとして挙げることができる。
【0062】
置換アルキル基は前記アルキル基であって、置換基として、炭素数1〜4個のアルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、アシロキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基等が挙げられ、フッ素原子で置換されたものが好ましく、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、n−ヘプタフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基などを挙げることができる。
【0063】
アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜4個のものを挙げることができる。
【0064】
連結基Wを構成するRで表される二価の脂環式炭化水素基およびR、Rにおける一価または二価の脂環式炭化水素基としては、単環式でも、多環式でもよい。具体的には、炭素数3以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ構造等から水素原子の1個または2個を除いて得られる有機基を挙げることができる。その炭素数は3〜30個が好ましく、特に炭素数3〜25個が好ましい。これらの脂環式炭化水素基は置換基を有していてもよい。
【0065】
単環式基としては環炭素数3〜12のものが好ましく、環炭素数3〜7のものがさらに好ましい。例えば、好ましいものとしてシクロプロピレン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロドデカン、トリシクロデカン、tert−ブチルシクロヘキサンから環炭素に結合する水素原子の1個または2個を除いて得られる有機基を挙げることができる。また、多環式基としては、環炭素数7〜15のアダマンタン、ノルアダマンタン、デカリン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン、ノルボルナン、セドロールから環炭素に結合する水素原子の1個または2個を除いて得られる有機基を挙げることができる。
【0066】
脂環式炭化水素基はスピロ環であってもよく、炭素数3〜6のスピロ環が好ましい。これらの有機基の水素原子の1個または2個以上がそれぞれ独立に前記の炭素数1〜25のアルキル基、置換アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはそれらに含まれる1個または2個以上の水素原子がフッ素原子もしくはトリフルオロメチル基で置換したものを挙げることができる。
【0067】
ここで、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等(「低級アルキル基」ということがある。本明細書において同じ。)が好ましく、さらに好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基およびイソプロピル基よりなる群から選択されたアルキル基である。置換アルキル基の置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基を挙げることができる。アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜4個のものを挙げることができる。アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基を挙げることができる。
【0068】
アリール基としては、炭素数3〜30のものである。単環式基としては環炭素数3〜12のものが好ましく、環炭素数3〜6のものがさらに好ましい。例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−ヒドロキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、メシチル基、o−クメニル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、o−フルオロフェニル基、m−フルオロフェニル基、p−フルオロフェニル基、o−トリフルオロメチルフェニル基、m−トリフルオロメチルフェニル基、p−トリフルオロメチルフェニル基、2,3−ビストリフルオロメチル基、2,4−ビストリフルオロメチル基、2,5−ビストリフルオロメチル基、2,6−ビストリフルオロメチル基、3,4−ビストリフルオロメチル基、3,5−ビストリフルオロメチル基、p−クロロフェニル基、p−ブロモフェニル基、p−ヨードフェニル基等を挙げることができる。
【0069】
縮合多環式芳香族基としては、縮合多環式芳香環としてペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、ビフェニレン、インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランセン、アセフェナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェニレン、ヘキサフェン、ヘキサセン、ルビセン、コロネン、トリナフチレン、ヘプタフェン、ヘプタセン、ピラントレン、オヴァレン等を含む一価の有機基を挙げることができ、これらの1個または2個以上の水素原子がフッ素原子、炭素数1〜4のアルキル基または含フッ素アルキル基で置換したものを好ましいものとして挙げることができる。
【0070】
環原子数3〜30の単環式または多環式のヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、フリル基、チエニル基、ピラニル基、ピロリル基、チアントレニル基、ピラゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、テトラヒドロチオフラニル基、3−テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド基等およびこれらの環を構成する原子の1個または2個以上の水素原子がアルキル基、脂環式炭化水素基、アリール基、ヘテロ環基で置換したヘテロ環基を挙げることができる。
【0071】
これらへテロ環基のうち、単環式または多環式のエーテル環、ラクトン環を有するものが好ましく、次に例示する。
【0072】
【化17】

【0073】
前記式中、R、Rは各々独立に、水素原子、炭素数1〜4個のアルキル基を表す。nは、2〜4の整数を表す。
【0074】
一般式(1)または一般式(2)における、一般式(3)
【0075】
【化18】

【0076】
(式中、nは1〜3の整数を表す。R’は水素原子、炭素数1〜3の置換もしくは無置換の直鎖状、分岐状のアルキル基、または炭素数3〜10の環状のアルキル基を表す。)で表される連結基Wの一部構造Aについて好ましいものを次に例示する。
【0077】
【化19】

【0078】
含フッ素重合体において、重合性二重結合含有基が開裂して形成された単位構造Qは、一般式(9)
【0079】
【化20】

【0080】
で表される。R、R、Rは、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜10個のアルキル基、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基またはシアノ基であり、または互いに結合して環を形成した脂環式構造である。ここで、アルキル基、脂環式構造もしくは脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、フッ素原子またはヒドロキシル基で置換されていてもよい。
【0081】
アルキル基としては、置換もしくは非置換のいずれであってもよい、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表す。そのアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0082】
また、これらのアルキル基のさらなる置換基としては、炭素数1〜4個のアルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、アシロキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基等を挙げることができる。
【0083】
脂環式構造または脂環式炭化水素基としては、単環式でも、多環式でもよい。具体的には、炭素数3以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ構造等を有する基を挙げることができる。これらは置換基を有していてもよい。
【0084】
単環式基としては環炭素数3〜12のものが好ましく、環炭素数3〜7のものがさらに好ましい。例えば、好ましいものとしてシクロプロピレン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロドデカン、トリシクロデカン、tert−ブチルシクロヘキサンから環炭素に結合する水素原子の1個または2個を除いて得られる有機基を挙げることができる。また、多環式基としては、環炭素数7〜15のアダマンタン、ノルアダマンタン、デカリン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン、ノルボルナン、セドロールから環炭素に結合する水素原子の1個または2個を除いて得られる有機基を挙げることができる。
【0085】
ここで、置換基は、アルキル基としては低級アルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられ、さらに好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基およびイソプロピル基よりなる群から選択されたアルキル基である。置換アルキル基の置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基を挙げることができる。アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜4個のものを挙げることができる。アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基を挙げることができる。
【0086】
一般式(1)で表される含フッ素単量体の重合性二重結合含有基Q’としては、次の有機基を挙げることができる。
【0087】
炭素数2〜10のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−1−ブテニル基、1−メチル−1−ペンテニル基、2−メチル−1−ペンテニル基、3−メチル−1ペンテニル基、4−メチル−1−ペンテニル基などが例示できる。
【0088】
炭素数2〜10の含フッ素アルケニル基、例えば、パーフルオロアリル基、3−トリフルオロメチル−2−プロペニル基、3−トリフルオロメチル−2−プロペニル基、1−パーフルオロブテニル基、1−パーフルオロペンテニル基、1−トリフルオロメチル−1−ブテニル基、2−トリフルオロメチル−1−ブテニル基、3−トリフルオロメチル−1−ブテニル基、4−トリフルオロメチル−1−ブテニル基などが例示できる。
【0089】
置換または非置換フェニル基を置換基として有する炭素数2〜10のアルケニル基、例えば、1−フェニル−1−プロペニル基、2−フェニル−1−プロペニル基、3−フェニル−1−プロペニル基、1−フェニル−1−ブテニル基、3−フェニル−1−ブテニル基、4−フェニル−ブテニル基などが例示できる。
【0090】
炭素数2〜10のアルケニル基に置換基として脂環式炭化水素基、シクロエーテル基、ラクトン基、または、ノルボルネン骨格、ノルボルナン骨格、イソボルニル骨格、トリシクロデカン骨格、テトラシクロドデカン骨格、アダマンタン骨格などの脂環式炭化水素基を有するアルケニル基などが挙げられる。
【0091】
、R、Rにおける脂環式炭化水素基あるいはそれらが結合する炭素原子を含めて形成する脂環式炭化水素基としては、単環式でも、多環式でもよい。具体的には、炭素数5以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ構造等を有する基を挙げることができる。その炭素数は6〜30個が好ましく、特に炭素数7〜25個が好ましい。これらの脂環式炭化水素基は置換基を有していてもよい。
【0092】
含フッ素重合体において、重合性二重結合含有基が開裂して形成される単位構造Qとして、R、RまたはRが相互に組み合わされて下記の環構造をとることができる
【0093】
【化21】

【0094】
式(7)中、Rは、水素原子、シアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。
Dは、結合した2つの炭素原子C−Cを含み、脂環式構造を形成するための原子団を表す。脂環式構造としては、炭素数3〜10の単環式または多環式構造であり、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ノルボルナンまたはこれらの構造の水素原子の少なくとも1個が低級アルキル基、低級フルオロアルキル基で置換された構造が挙げられる。
【0095】
さらに、含フッ素重合体において、重合性二重結合含有基が開裂して形成される単位構造Qは、下記一般式(8−1)又は一般式(8−2)やビニルフェニル基に由来する基であることができる。
【0096】
【化22】

【0097】
式(8−1)及び(8−2)中、Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基である。nは1〜4の整数を表す。
【0098】
以上説明をしたとおり、開裂してQで表される単位構造を与える重合性二重結合基Q’としては、
(p1)CH=CH−、
(p2)CH=C(CH)−、
(p3)CH=C(CF)−、
(p4)CH=C(CHOH)−、
(p5)二重結合開裂後の繰り返し単位として下式(9−1)ないし式(9−5)
【0099】
【化23】

【0100】
で表される構造を与えるものが好ましく、(p1)、(p2)または(p3)がより好ましく、(p2)がさらに好ましい。好ましい重合性二重結合含有基Q’を具体的に下に表すが、重合性二重結合含有基Q’はこれらに限られるものではない。
【0101】
【化24】

【0102】
これらの重合性二重結合含有基Q’を有する一般式(1)で示される含フッ素単量体を、単独重合あるいは他の重合性二重結合含有単量体と共重合させることにより、重合性二重結合が開裂して単位構造Qを有する一般式(2)で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体が得られる。
【0103】
一般式(2)で表される含フッ素重合体の前駆体としての一般式(1)で表される含フッ素単量体として、好ましいものを次に例示する。これは、本発明を限定するためのものではない。
【0104】
【化25】

【0105】
【化26】

【0106】
【化27】

【0107】
【化28】

【0108】
【化29】

【0109】
【化30】

【0110】
【化31】

【0111】
【化32】

【0112】
<含フッ素重合体>
本発明にかかる、一般式(2)で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体であって、当該フッ素重合体が、単独重合あるいは他の重合性二重結合含有単量体との共重合によって得られる含フッ素重合体
【0113】
【化33】

【0114】
[式中、Wは連結基、Rはそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を表し、Qは重合性二重結合基含有基の二重結合が開裂して形成した単位構造を表す。Mは、水素カチオン、金属イオンまたは一般式(15)
【0115】
【化34】

【0116】
(式中、R11〜R14はそれぞれ独立に置換基を有するかまたは有しない炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基を表す。)で表わされる4級アンモニウムカチオンを表す。]で表される含フッ素重合体を構成する繰り返し単位は、一般式(1)で表される含フッ素単量体の有する重合性二重結合が開裂して二価の基になることにより形成されるものである。したがって、含フッ素単量体を構成する、鎖状の骨格部分が由来する重合性二重結合およびそれを含有する基、各有機基、連結基などは、いずれも一般式(1)で表される含フッ素単量体においてそれらについてした説明がそのまま該当する。
【0117】
<含フッ素単量体の製造方法>
本発明にかかる一般式(1)で表される含フッ素単量体の製造方法は一般式(10)で表されるアルコールを用いるのが便利である。
【0118】
【化35】

【0119】
(式中、Rは一般式(2)と同じで、R’、nは一般式(3)と同じ。)
このような含フッ素アルコールの合成方法は、たとえば、Journal of Organic Chemistry,1973年,第38巻,第19号,3358頁〜3363頁(米国)などに記載されている。式(11)で示される3−ヒドロキシ−1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブタン酸は1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)−3−ブテンに対し、硫酸を作用させることによって得ることができる。該1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)−3−ブテンの合成法もまた、上記文献中に記載されている。
【0120】
本発明の一般式(1)で表される含フッ素単量体の製造方法は、特に限定されず、例えば、一般式(10)
【0121】
【化36】

【0122】
(式中、Rは一般式(2)と同じで、R’、nは一般式(3)と同じ。)で表されるアルコールを一般式(11)で表されるカルボン酸ハロゲン化物
Q’−A−COX (11)
[式中、Q’、Aは前記一般式(1)または(3)におけるのと同義である。Xはフッ素、塩素、臭素又はヨウ素を表す。]または下記一般式(12)で表されるカルボン酸無水物
(Q’−A−CO)O (12)
[式中、Q’、Aは前記一般式(1)または(3)におけるのと同義である。]と反応させることで、エステル反応性生物として一般式(1)で表される含フッ素単量体を合成できる。
また、同様に、前記アルコールを一般式(13)で表されるイソシアネート化合物
Q’−A−NCO (13)
[式中、Q’、Aは前記一般式(1)または(3)におけるのと同義である。]と反応させることで、ウレタン結合含有の含フッ素単量体を得ることができる。
【0123】
さらに、前記アルコールを一般式(14)で表されるオレフィン
Q’−A−CH=CH (14)
[式中、Q’、Aは前記一般式(1)または(3)におけるのと同義である。]と反応させることでエーテル結合を有する含フッ素単量体を得ることができる。
【0124】
[他の単量体]
本発明の帯電防止剤の中間原料に用いる含フッ素単量体は単独でも使用できるが、他の単量体との共重合体としても使用できる。次に「他の単量体」について説明する。
【0125】
他の単量体としては、特に限定されず、重合性炭素−炭素二重結合を有するものであればよい。具体的には、アクリル酸エステル、含フッ素アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、含フッ素スチレン系化合物、ビニルエーテル類、含フッ素ビニルエーテル類、アリルエーテル類、含フッ素アリルエーテル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、アリルエステル類、オレフィン類、含フッ素オレフィン類、ノルボルネン化合物、含フッ素ノルボルネン化合物、二酸化硫黄、ビニルシラン類を少なくとも挙げることができ、これらから選ばれた一種類以上の単量体と共重合することができる。
【0126】
アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとしてはエステル部位について特に制限なく使用できるが、公知の化合物を例示するならば、メチルアクリレート又はメタクリレート、エチルアクリレート又はメタクリレート、n−プロピルアクリレート又はメタクリレート、イソプロピルアクリレート又はメタクリレート、n−ブチルアクリレート又はメタクリレート、イソブチルアクリレート又はメタクリレート、tert−ブチルアクリレート又はメタクリレート、アミルアクリレート又はメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート又はメタクリレート、n−オクチルアクリレート又はメタクリレート、ヘキシルアクリレート又はメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート又はメタクリレート、ベンジルメタクリレートアクリレート又はメタクリレート、クロルベンジルメタクリレートアクリレート又はメタクリレート、オクチルアクリレート又はメタクリレート、フルフリルアクリレート又はメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート又はメタクリレート、ラウリルアクリレート又はメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート又はメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート又はメタクリレートなどのアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、アダマンチルアクリレート又はメタクリレート、アルキルアダマンチルアクリレート又はメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート又はメタクリレート、トリシクロデカニルアクリレート又はメタクリレート、ノルボルネン環などの環構造を有したアクリレートまたはメタクリレート、α−部位にトリフルオロメチル基またはシアノ基を有する前記アクリレート類などを挙げることができる。
【0127】
本発明で使用できる含フッ素アクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステルは、エステル部位にフッ素を含有したアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであっる。本発明で使用できるアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルは、α−位にシアノ基が導入されていてもよい。
【0128】
エステル部位にフッ素を含有する単量体としては、前述のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとして説明したエステル部位の一部がフッ素化されたものは特に制限なく使用できる。すなわち、上述のエステル部位に含フッ素アルキル基や、その環炭素がフッ素原子または含フッ素アルキル基、例えば、トリフルオロメチル基で置換された含フッ素ベンゼン環、含フッ素シクロペンタン環、含フッ素シクロヘキサン環、含フッ素シクロヘプタン環、含フッ素ノルボルネル基、含フッ素ノルボルネル基、含フッ素アダマンチル基等を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルである。またエステル部位が含フッ素のtert−ブチルエステル、ヘキサフルオロイソプロパノール基が置換したシクロヘキシル基やノルボルニル基であるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルなども使用可能である。
【0129】
ビニルエーテル類またはアリルエーテル類としては、置換基として炭素数1〜30のアルキル基、フルオロアルキル基または脂環式炭化水素基を有するものが挙げられ、これらは、さらに置換基としてハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素)、ヒドロキシル基、アミノ基、アリール基、アルキル基、脂環式炭化水素基を有するものが好ましい。
【0130】
具体的に例示すると、アルキルビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、ペンチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテルなどを挙げることができる。シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルおよびノルボルニルビニルエーテル、アダマンチルビニルエーテル、などを挙げることができる。また、パーフルオロアルキルビニルエーテルとしては、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロイソプロピルビニルエーテル、パーフルオロブチルビニルエーテル、パーフルオロイソブチルビニルエーテル、パーフルオロ−sec−ブチルビニルエーテル、パーフルオロ−tert−ブチルビニルエーテル、パーフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロヘキシルビニルエーテル、パーフルオロオクチルビニルエーテル、パーフルオロドデシルビニルエーテルなどを挙げることができる。また、ヒドロキシル基を有するビニルエーテル類として、ヒドロキシメチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロビルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールビニルエーテルなどを挙げることができる。さらに、、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0131】
アリルエーテル類としてはメチルアリルエーテル、エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ベンジルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテルなどが挙げられる。また、ヒドロキシル基を有するビニルエーテル類として、ヒドロキシメチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロビルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールビニルエーテルなどを挙げることができる。
【0132】
また、エポキシ基を有するビニルエーテル、アリルエーテルが挙げられる。また、β−ケトエステル基を含有するビニルエーテルまたはアリルエーテルとしては、アセト酢酸アリルなどが挙げられる。さらに、トリメトキシビニルエーテルなどの加水分解性基を有する珪素を含んだビニルエーテルも挙げることができる。
【0133】
アリルエステルとしては、例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリル等を挙げることができる。
【0134】
ビニルエステル類としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロルアセテート、ビニルジクロルアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルアセトアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート等などを挙げることができる。
【0135】
また、イタコン酸ジアルキル類;イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等、フマール酸のジアルキルエステル類又はモノアルキルエステル類;ジブチルフマレート、ビニル酢酸のアルキルエステル;ビニル酢酸エチル等を挙げることができる。
【0136】
オレフィンまたは含フッ素オレフィンとしては、エチレン、プロピレンシクロヘキセンなど、フルオロオレフィンとしては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン、オクタフルオロシクロペンテンなどが例示できる。
【0137】
さらに、本発明に使用できるスチレン系化合物としては、芳香族環にビニル基が結合した化合物であり、具体的には例えば、スチレン、m−又はp−ヒドロキシスチレン、m−又はp−メトキシスチレン、m−又はp−エトキシスチレン、m−又はp−プロポキシスチレン、m−又はp−イソプロポキシスチレン、m−又はp−ブトキシスチレン、m−又はp−tert−
ブトキシスチレン、m−又はp−(1−エトキシエトキシ)スチレン、m−又はp−(1−エトキシプロポキシ)スチレン、m−又はp−(1−イソブトキシエトキシ)スチレン、m−又はp−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)スチレン、m−又はp−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン、m−又はp−アセトキシスチレン、m−又はp−プロピオニルオキシスチレン、m−又はp−ピバロイルオキシスチレン、m−又はp−ベンゾイルオキシスチレン、m−又はp−メシルオキシスチレン、m−又はp−フェニルスルホニルオキシスチレン、m−又はp−トシルオキシスチレンなど、およびこれらのスチレン系化合物のα位にハロゲン、アルキル基、含フッ素アルキル基が結合したものが挙げられる。
【0138】
ヒドロキシスチレン系化合物の構造を本発明の含フッ素重合体に導入する場合、例えば、p−ブトキシカルボニルオキシスチレンを共重合させた後、ブトキシカルボニル部位をヒドロキシル基に変換することによって行うことができる。
【0139】
また、2−ヒドロキシ−1−ビニルナフタレン、3−ヒドロキシ−1−ビニルナフタレン、4−ヒドロキシ−1−ビニルナフタレン、5−ヒドロキシ−1−ビニルナフタレン、6−ヒドロキシ−1−ビニルナフタレン、7−ヒドロキシ−1−ビニルナフタレン、8−ヒドロキシ−1−ビニルナフタレン、2−ヒドロキシ−1−イソプロペニルナフタレン、3−ヒドロキシ−1−イソプロペニルナフタレン、4−ヒドロキシ−1−イソプロペニルナフタレン、5−ヒドロキシ−1−イソプロペニルナフタレン、6−ヒドロキシ−1−イソプロペニルナフタレン、7−ヒドロキシ−1−イソプロペニルナフタレン、8−ヒドロキシ−1−イソプロペニルナフタレン、2−カルボキシ−1−ビニルナフタレン、3−カルボキシ−1−ビニルナフタレン、4−カルボキシ−1−ビニルナフタレン、5−カルボキシ−1−ビニルナフタレン、6−カルボキシ−1−ビニルナフタレン、7−カルボキシ−1−ビニルナフタレン、8−カルボキシ−1−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン誘導体あるいはイソプロペニルナフタレン誘導体なども使用できる。
【0140】
ノルボルネン化合物もしくは含フッ素ノルボルネン化合物またはこれらの類似化合物としては、単環または多環の構造を有するノルボルネン単量体である。この際、含フッ素オレフィン、アリルアルコール、含フッ素アリルアルコール、アクリル酸、α−フルオロアクリル酸、メタクリル酸、ビニルエステル、含フッ素ビニルエステル、本明細書で記載したアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、含フッ素アクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステルなどの不飽和化合物と、シクロペンタジエンまたはシクロヘキサジエンとをDiels Alder付加反応させて得られるノルボルネン化合物が好ましく採用される。
【0141】
また、アクリルアミド類またはメタクリロアミド類としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミドもしくはメタクリロアミド(アルキル基としては炭素数1〜10のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、ヒドロキシエチル基など)、N,N−ジアルキルアクリルアミドもしくはアクリロアミド(アルキル基としては炭素数1〜10のもの、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、イソブチル基、エチルヘキシル基、シクロヘキシル基など)などの不飽和アミドなどが挙げられる。
【0142】
さらに、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、ビニルスルホン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、桂皮酸などの不飽和カルボン酸類、(メタ)アクリル酸2−カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸2−カルボキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−カルボキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−カルボキシブチルなどのカルボキシル基含有不飽和カルボン酸エステル類、マレイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイロニトリル、アルコキシリル基含有のビニルシラン、アリルオキシエタノールなども他の共重合単量体として挙げられる。
【0143】
本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位(a)を含む含フッ素重合体においては、これらのうち、少なくとも一種類をアクリル酸エステル、含フッ素アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、含フッ素スチレン系化合物とすることが好ましく、アクリル酸エステル、含フッ素アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステルがより好ましく、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルさらに好ましい。
【0144】
前記共重合可能な単量体であれば、特に限定されないが、半導体素子製造のレジスト工程で使用するには、アルキル基、含フッ素アルキル基または単環式もしくは多環式の脂環式炭化水素基もしくは含フッ素脂環式炭化水素基もしくは環状エーテル基もしくはラクトン基から構成されるものが好ましく、さらに、鎖状骨格を形成するのに必要な重合性二重結合以外の多重結合や芳香族環を有しない単量体が好ましい。
【0145】
「他の単量体」としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0146】
本発明の含フッ素重合体には「他の単量体」に基づく繰り返し単位は必ずしも含有させる必要はないが、含有させる場合、「他の単量体」に基づく繰り返し単位の割合は、全繰り返し単位の合計に対して、70モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。70モル%を超えるとメチド基に基づく酸性度が十分ではなくなり、上記範囲の下限値以上であることにより各種の効果が得られる。
【0147】
本発明の含フッ素重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により測定した重量平均分子量で1,000〜1,000,000であり、2,000〜500,000が好ましく、2,000〜100,000がさらに好ましい。重量平均分子量1,000未満では、塗布膜の強度が不十分であり、1,000,000を超えると溶媒への溶解性が低下し、平滑な塗膜を得るのが困難になり好ましくない。分散度(Mw/Mn)は、1.01〜5.00が好ましく、1.01〜4.00がより好ましく、1.01〜3.00が特に好ましく、1.10〜2.50が最も好ましい。
【0148】
<含フッ素重合体の製造法>
本発明にかかる含フッ素重合体の重合方法としては、一般的に使用される方法であれば特に制限されないが、ラジカル重合、イオン重合などが好ましく、場合により、配位アニオン重合、リビングアニオン重合、カチオン重合、開環メタセシス重合、ビニレン重合、ビニルアディションなどを使用することも可能である。
【0149】
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤あるいはラジカル開始源の存在下で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合又は乳化重合などの公知の重合方法により、回分式、半連続式又は連続式のいずれかの操作で行えばよい。
【0150】
ラジカル重合開始剤としては特に限定されるものではないが、例としてアゾ系化合物、過酸化物系化合物、レドックス系化合物が挙げられ、とくにアゾビスイソブチロニトリル、tert−ブチルパーオキシピバレート、ジ−tert−ブチルパーオキシド、i−ブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキシド、ジシンナミルパーオキシド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、過硫酸アンモニウム等が好ましい。
【0151】
重合反応に用いる反応容器は特に限定されない。また、重合反応においては、重合溶媒を用いてもよい。重合溶媒としては、ラジカル重合を阻害しないものが好ましく、代表的なものとしては、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル系、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系、トルエン、シクロヘキサンなどの炭化水素系、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶剤などがある。また水、エーテル系、環状エーテル系、フロン系、芳香族系などの溶媒を使用することも可能である。これらの溶剤は単独でもあるいは2種類以上を混合しても使用できる。また、メルカプタンのような分子量調整剤を併用してもよい。共重合反応の反応温度はラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始源により適宜変更され、通常は20〜200℃が好ましく、特に30〜140℃が好ましい。
【0152】
得られる含フッ素重合体の溶液又は分散液から有機溶媒又は水を除去する方法として、再沈殿、ろ過、減圧下での加熱留出などの方法が可能である。
【0153】
<帯電防止剤>
[溶媒]
本発明にかかる帯電防止剤は溶媒に溶解されている。有機溶媒に溶解させて塗布、乾燥によって成膜する方法を用いる。使用する有機溶媒としては、含フッ素重合体が可溶であれば特に制限されないが、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2‐ヘプタノンなどのケトン類やエチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコール、又はジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル又はモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類及びその誘導体や、ジオキサンのような環式エーテル類や乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類、キシレン、トルエンなどの芳香族系溶媒、フロン、代替フロン、パーフルオロ化合物、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなどのフッ素系溶剤、塗布性を高める目的で高沸点弱溶剤であるターペン系の石油ナフサ溶媒やパラフィン系溶媒などが使用可能である。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0154】
溶液中の一般式(2)で表される含フッ素重合体の濃度は、均一な溶液を形成できるようにすればよいが、他の添加剤の種類、量により適宜調製することができる。0.01〜50質量%であり、0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0155】
[造膜改良添加剤]
また、造膜性や膜強度を調整するために他の高分子化合物や造膜改良添加剤を添加することができる。他の高分子化合物としては、例えば、ポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリアセタール系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、ポリカーボネート系重合体、アクリレート/メタクリレート系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、熱可塑性エラストマー系重合体、不飽和ポリエステル系重合体、エポキシ系重合体、ジアリールフタレート系重合体、メラミン系重合体、液晶ポリエステル系重合体、フッ素系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリフェニレンエーテル系重合体、ポリイミド系重合体およびシリコーン系重合体が挙げられる。また、前記エラストマーは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素ゴムウレタンなどのエラストマーが挙げられる。
【0156】
[カチオン]
本発明の帯電防止剤に用いる含フッ素重合体は、MがHである一般式(2)の含フッ素重合体であってもよいが、金属イオンまたは4級アンモニウムカチオンを共存させることで帯電防止効果を高めることができる。
【0157】
金属イオンを与える金属としては、帯電防止剤に含まれる溶媒に溶解するものが好ましく適宜選ぶことができるが、通常、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属が溶解性の点で好ましく、水酸化物、酸化物、硝酸塩、塩化物など、または酢酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩として用いることができる。
【0158】
4級アンモニウムカチオンとしては、下記の一般式(15)で示されるカチオンを用いることができる。
【0159】
【化37】

【0160】
(式中、R11〜R14はそれぞれ独立に置換基を有するかまたは有しない炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基を表す。)
11〜R14で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐状または環状のアルキル基であって、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−デシル、シクロペンチル、シクロへきしる、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。
【0161】
置換基としては、例えばハロゲン(好ましくは、フッ素)、オキソ基、アルキレンオキシド基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基、アルカノイルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ハロアルキルカルボニル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、環状アミノ基、アルキルアミノカルボニル基、カルバモイル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アルキルスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルアミノ基または置換若しくは非置換のフェニル基(置換基は、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基である。)等が挙げられる。
【0162】
上記化学式(15)で示されるカチオンとしては、R11〜R14の内の3つがメチル基であり、その他の1つが置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアルキル基またはアリール基からなる4級アンモニウムカチオンが特に好ましい。このようなアンモニウムカチオンは電子供与性の強い3つのメチル基により窒素原子上の正電荷を安定化できるためである。
【0163】
好ましい4級アンモニウムカチオンを例示すると、
アルキルトリメチルアンモニウム塩 RN(CH
ジアルキルジメチルアンモニウム塩 RR'N(CH
アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩 RN(CHPh)(CH
などが挙げられる。ここで、Phはフェニル基を表し、Rは任意の前記アルキル基を表す。
【0164】
本発明の帯電防止剤の調整において、これらの4級アンモニウムカチオンの対イオンとしては、ヒドロキシル基などが好ましい。4級アンモニウム塩を具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウム ヒドロキシド、テトラエチルアンモニウム ヒドロキシド、テトラメチルアンモニウム ヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウム ヒドロキシド、テトラヘキシルアンモニウム ヒドロキシド、トリス(ハイドロキシエチル)メチルアンモニウム ヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム ヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウム ヒドロキシド、フェニルトリメチルアンモニウム ヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウム ヒドロキシド、3−(トリフルオロメチル)フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシドを挙げることができる。
【0165】
[補助帯電防止剤]
本発明の帯電防止剤には、公知の帯電防止効果を有する物質を併せて使用することができる。具体的には、例えばポリエーテルブロックポリオレフィン共重合体、ポリオキシアルキレン系共重合体、ポリエーテルエステルアミド系共重合体、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジル共重合体が挙げられる。
これらの重合体型帯電防止剤は、分子内にエーテル結合を有する。この結果、エーテル結合内の酸素原子等により、イオン性塩がより安定化し、電気抵抗をより低くすることができる。また、ブロック中のエーテル結合以外の構造部分により、帯電防止剤のへの添加物間の相溶性が増加する。この結果、帯電防止膜の基材への密着性や耐久性の改善を図ることができる。
このような重合体型帯電防止剤は、一般式(2)で表される含フッ素重合体100重量部に対して、0.05質量部以上30質量部以下の割合で含有させればよい。
【0166】
[他の添加物]
本発明の帯電防止剤に使用する造膜調整剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、顔料、抗菌・抗カビ剤、耐光剤、可塑剤、粘着付与剤、分散剤、消泡剤、硬化触媒、硬化剤、レベリング剤、カップリング剤、フィラー、加硫剤、加硫促進剤、有機化酸化物、架橋助剤、光重合開始剤などの公知の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【実施例】
【0167】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0168】
H NMRの化学シフトσは、日本電子製AL−400(400MHz)核磁気共鳴装置により、溶剤に溶解させた状態において内部標準(テトラメチルシランのピークを0ppmとする)を用いてppmで表わした。分裂パターンは、一重項をs、二重項をd、多重項をmとして示した。19F NMRの化学シフトσは、日本電子AL−400(376MHz)核磁気共鳴装置により、溶剤に溶解させた状態において内部標準(トリクロロフルオロメタンのピークを0ppmとする)を用いてppmで表わした。
【0169】
樹脂組成物の分子量(数平均分子量Mn)と分子量分散(Mnと重量平均分子量Mwの比Mw/Mn)は、東ソー製HLC−8320GPCにおいて、東ソー製ALPHA−MカラムとALPHA−2500カラムを1本ずつ直列に繋ぎ、展開溶媒としてジメチルホルムアミド(臭化リチウムを0.03モル/L、リン酸を0.01モル/L含有するもの)を用いて測定した。検出器は屈折率差検出器を用いた。
【0170】
表面抵抗値(Ω/□)は、JIS K6911に従い、横河ヒューレットパッカード製4329A抵抗計に同社製16008A電極を接続して測定した。
【0171】
基板上に作成した塗膜の厚さはセンテック(Sentech)製FTP500干渉膜厚計を用いて測定した。
[3−メタクリロキシ−1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブタン酸の合成例]
【0172】
【化38】

【0173】
窒素雰囲気下で還流冷却器を備えた100ml三口フラスコに3−ヒドロキシ−1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブタン酸(ABMD)10g(0.0030モル)、トルエン35g、メタンスルホン酸(MsOH)0.28g(0.0030モル)、2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(精工化学製ノンフレックスMBP)0.05g(ABMDに対して0.5質量部)を仕込み反応器を氷冷した。内温7〜10℃でメタクリル酸無水物(MAAH)を10分かけて滴下した。滴下が終了した後に反応器を70℃に加熱して3.5時間攪拌を行った。加熱が終了した後に反応器を室温まで冷却して反応混合物にトルエン30gを加え、水35gを用いて2回洗浄操作を行った。洗浄を行った後の反応混合物はトルエン共沸により脱水を行った後に、ノンフレックスMBP 0.123gを加えて減圧蒸留を行った。3−メタクリロキシ−1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブタン酸(MA−ABMD)は70Paの減圧下83〜86℃で留出し9.29g得られた(収率77.2%)。
[MA−ABMDの物性]H NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=6.13(s,1H),5.66(s,1H),5.58(m,1H),5.22(dd,1H),2.71(m,2H),1.94(s,3H),1.42(d,3H)
19F NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=73.4
【0174】
[樹脂組成物の合成例1]
ガラス製フラスコ中にて2−ブタノン4.0gへMA−ABMDを1.00g溶解し混合した。この溶液に重合開始剤として過ピバル酸−tert−ブチル(製品名パーブチルPV、日本油脂(株)製、シェルゾール(シェルケミカル社製品名)中71質量%溶液)を0.02g加えてから撹拌しながら脱気し、窒素ガスを導入した後に60℃にて16時間の反応を行った。反応終了後の溶液を100gのn−ヘプタンに滴下し、白色の沈殿を得た。この沈殿を濾別し、75℃にて減圧乾燥を行い0.80gの白色固体を得た。
GPC測定結果;Mn=33,000、Mw/Mn=2.3
【0175】
[樹脂組成物の合成例2]
ガラス製フラスコ中にて2−ブタノン4.0gへMA−ABMDを0.28g(0.0007モル)、メタクリル酸エチルを0.72g(0.0063モル)溶解し混合した。この溶液に重合開始剤としてパーブチルPV(シェルゾール中71質量%溶液)を0.10g加えてから撹拌しながら脱気し、窒素ガスを導入した後に60℃にて16時間の反応を行った。反応終了後の溶液を100gのn−ヘプタンに滴下し、白色の沈殿を得た。この沈殿を濾別し、75℃にて減圧乾燥を行い0.72gの白色固体を得た。
GPC測定結果;Mn=11,000、Mw/Mn=1.9
【0176】
[樹脂組成物の合成例3]
ガラス製フラスコ中にて2−ブタノン4.0gへMA−ABMDを0.60g(0.0015モル)、メタクリル酸エチルを0.40g(0.0035モル)溶解し混合した。この溶液に重合開始剤としてパーブチルPV(シェルゾール中71質量%溶液)を0.07g加えてから撹拌しながら脱気し、窒素ガスを導入した後に60℃にて16時間の反応を行った。反応終了後の溶液を100gのn−ヘプタンに滴下し、白色の沈殿を得た。この沈殿を濾別し、75℃にて減圧乾燥を行い0.81gの白色固体を得た。
GPC測定結果;Mn=16,000、Mw/Mn=1.8
【0177】
[樹脂組成物の合成例4]
ガラス製フラスコ中にて2−ブタノン4.0gへMA−ABMDを0.56g(0.0014モル)、メタクリル酸−1−アダマンチルを0.44g(0.0020モル)溶解し混合した。この溶液に重合開始剤としてパーブチルPV(シェルゾール中71質量%溶液)を0.07g加えてから撹拌しながら脱気し、窒素ガスを導入した後に60℃にて16時間の反応を行った。反応終了後の溶液を100gのn−ヘプタンに滴下し、白色の沈殿を得た。この沈殿を濾別し、75℃にて減圧乾燥を行い0.72gの白色固体を得た。
GPC測定結果;Mn=20,000、Mw/Mn=2.0。
【0178】
[実施例1]樹脂組成物の合成例1で得た白色固体0.050gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)1.00gに溶解し均一溶液を得た。これを自然酸化膜付きシリコン基板(<100>面切断、厚さ525μm)上に、スピンコーター(ミカサ(株)製スピンコーター1H−360S)を用いて回転数1500rpmでスピンキャストし、次いで窒素気流下にて90℃で1分間乾燥して厚さ400nmの塗膜を得た。
【0179】
[実施例2]樹脂組成物の合成例2で得た白色固体0.050gをPGMEA1.00gに溶解し、水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物0.008gを加えて撹拌し、均一溶液を得た。これを実施例1と同一の自然酸化膜付きシリコン基板上に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmでスピンキャストし、次いで窒素気流下にて90℃で1分間乾燥して厚さ240nmの塗膜を得た。
【0180】
[実施例3]樹脂組成物の合成例3で得た白色固体0.050gをPGMEA1.00gに溶解し、水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物0.018gを加えて撹拌し、均一溶液を得た。これを実施例1と同一の自然酸化膜付きシリコン基板上に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmでスピンキャストし、次いで窒素気流下にて90℃で1分間乾燥して厚さ240nmの塗膜を得た。
【0181】
[実施例4]樹脂組成物の合成例4で得た白色固体0.050gをPGMEA1.00gに溶解し、水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物0.012gを加えて撹拌し、均一溶液を得た。これを実施例1と同一の自然酸化膜付きシリコン基板上に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmでスピンキャストし、次いで窒素気流下にて90℃で1分間乾燥して厚さ240nmの塗膜を得た。
【0182】
[比較例1]ガラス製フラスコ中にて2−ブタノン4.0gへメタクリル酸エチルを1.0g溶解した。この溶液に重合開始剤としてパーブチルPV(シェルゾール中71質量%溶液)を0.03g加えてから撹拌しながら脱気し、窒素ガスを導入した後に60℃にて16時間の反応を行った。反応終了後の溶液を100gのn−ヘプタンに滴下し、白色の沈殿を得た。この沈殿を濾別し、75℃にて減圧乾燥を行い0.70gの白色固体を得た。この固体0.050gをPGMEA1.000gに溶解させ均一溶液とした後に、これを実施例1と同一の自然酸化膜付きシリコン基板上に、スピンコーターを用いて回転数1000rpmでスピンキャストし、次いで窒素気流下にて90℃で1分間乾燥して厚さ240nmの塗膜を得た。
実施例1〜4および比較例1について得られた塗膜の表面抵抗値を表1に示す。
【0183】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体であって、当該フッ素重合体が、単独重合あるいは他の重合性二重結合含有単量体との共重合によって得られる含フッ素重合体。
【化1】


[式中、Wは連結基、Rはそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を表し、Qは重合性二重結合基含有基の二重結合が開裂して形成した単位構造を表す。Mは、水素カチオン、金属イオンまたは一般式(15)
【化2】


(式中、R11〜R14はそれぞれ独立に置換基を有するかまたは有しない炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基を表す。)で表わされる4級アンモニウムカチオンを表す。]
【請求項2】
Qが、一般式(6)
【化3】

(式中、R、R、Rは、互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素数1〜4のアルキル基またはシアノ基であり、または互いに結合して環を形成した脂環式構造を表す。ここで、アルキル基、脂環式構造に含まれる水素原子の一部または全部は、フッ素原子またはヒドロキシル基で置換されていてもよい。)で表される単位構造である請求項1に記載の含フッ素重合体。
【請求項3】
Wが、一般式(3)
【化4】

(式中、nは1〜3の整数を表す。R’は水素原子、炭素数1〜3の置換もしくは無置換の直鎖状、分岐状のアルキル基、または炭素数3〜10の環状のアルキル基を表す。
ここで、Aは、B−B−Bで表され、
は、単結合または
【化5】

のうちから選ばれる何れか1つの基を表す。Bは、単結合、または直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基と環状のアルキレン基が直列に結合した基、またはこれらの基にさらにカルボニルオキシ基もしくはアミド結合が挿入された基であって、直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基に含まれる水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい。
は、単結合または、
【化6】

のうちから選ばれる何れか1つの基を表す。)で表される二価の基である請求項1または請求項2に記載の含フッ素重合体。
【請求項4】
Qが、
【化7】

から選ばれるいずれかの重合性二重結合基含有基の重合性二重結合が開裂して得られる単位構造である請求項1〜請求項3に記載の含フッ素重合体。
【請求項5】
一般式(1)
【化8】

(式中、WおよびRは一般式(2)における意味と同じ。Q’は重合性二重結合基であって、開列して単位構造Qを与える基)で表される含フッ素単量体と、アクリル酸エステル、含フッ素アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、含フッ素スチレン系化合物、ビニルエーテル類、含フッ素ビニルエーテル類、アリルエーテル類、含フッ素アリルエーテル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、アリルエステル類、オレフィン類、含フッ素オレフィン類、ノルボルネン化合物、含フッ素ノルボルネン化合物、二酸化硫黄およびビニルシラン類から選ばれた一種類以上の単量体と共重合して得られる含フッ素重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の含フッ素重合体と溶媒とを少なくとも含む帯電防止剤。
【請求項7】
一般式(2)においてMが水素カチオンである請求項1に記載の含フッ素重合体と一般式(15)
【化9】

(式中、R11〜R14はそれぞれ独立に置換基を有するかまたは有しない炭素数1〜20のアルキル基を表す。)で表される4級アンモニウムカチオンを含んでなる帯電防止剤。
【請求項8】
4級アンモニウムカチオンが、4級アンモニウム水酸化物に由来するカチオンである請求項7に記載の帯電防止剤。
【請求項9】
請求項6〜8に記載の帯電防止剤を物品表面に塗布してなる帯電防止効果を有する物品。
【請求項10】
下記一般式で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体。
【化10】

式中、Wは連結基、Rはそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を表し、Qは重合性二重結合基含有基の二重結合が開裂して形成した単位構造を表す。

【公開番号】特開2010−18785(P2010−18785A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132603(P2009−132603)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】