説明

含フッ素重合体を鞘に含む芯鞘構造複合繊維および該複合繊維を有する物品

【課題】特定の含フッ素重合体を溶融混練した後紡糸することにより、少量の含フッ素重合体の添加においても効果的に撥液性を発現する複合繊維を提供する。
【解決手段】 (A)熱可塑性樹脂を含んでなる芯、および(B)融点225℃以下の熱可塑性樹脂と含フッ素化合物を含んでなる鞘であって、含フッ素化合物は、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基を含有する含フッ素重合性化合物から誘導された繰り返し単位を有する含フッ素重合体、あるいは炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基を含有する含フッ素ウレタン化合物であり、含フッ素化合物の量が鞘に対して0.1〜10.0重量%である鞘からなる芯鞘構造を有する複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体を鞘部に含む芯鞘構造複合繊維に関する。複合繊維は、紡糸前に混合された含フッ素重合体が繊維表面に偏在していることを特徴としている。また本発明は前記複合繊維からなる物品にも関する。用途としては、この複合繊維からなる布を用いてなる、衣料品、レジャー用品、家庭用品、ワイパー、フィルター、土木資材用品、建築資材用品、サニタリー用品、医療用品である物品が挙げられる。またこの複合繊維を用いた釣り糸、または不織布としても使用することができる。
【背景技術】
【0002】
繊維表面に撥水撥油性を付与するため、表面にフッ素処理を施す技術は従来より知られている。しかし、繊維表面にフッ素処理を施す方法では撥水撥油機能の持続性が弱く、繰り返し使用することにより撥水撥油機能が低下するという問題があった。この問題を解決するため、紡糸前の段階で樹脂中にフッ素化合物を加え溶融混練することにより撥水撥油性を付与する研究が行われている。
例えば、特開2000−96348号公報では、芯部にポリエチレンテレフタレート、鞘部にポリエステル、ナイロンを用い、鞘部において前記樹脂と溶融粘度が類似したフッ素系重合体を溶融紡糸、延伸、捲き取りした後に160〜200℃の熱処理を施すことにより、複合繊維表面に撥水、撥油、防汚性を付与することができることが記載されている。
【0003】
特開2000−328866号公報では、芯部がポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミドのいずれか、鞘部がポリフッ化ビニリデンである複合モノフィラメントからなる釣り糸が、撥水および撥水耐久性に優れることが記載されている。
特開平2004−292960号公報では、ポリアミド系樹脂からなる芯部と反応性基を有する変性エチレンテトラフルオロエチレン共重合樹脂からなる鞘部とから構成された複合モノフィラメントからなる釣り糸において、撥水性能が向上することが記載されている。
また、特表2003−520659号公報において、特定の含フッ素化合物をポリプロピレンに含有してなるエレクトレット物品において、鞘部に95〜99.5重量パーセントのポリプロピレン及び0.5〜5重量パーセントの含フッ素化合物を含む芯鞘構造を有する繊維に関することが記載されている。しかし、この化合物はポリプロピレンとの相溶性が低いため、ブリードアウトがおこりやすいという欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリマーとフッ素化合物を溶融紡糸した複合繊維に撥液性を付与するためには、フッ素化合物が表面に存在することが必要である。公知技術においてもフッ素化合物を表面に存在しやすくするための工夫はなされているが、フッ素系重合体の量を多くする必要があったり、ある限られた溶融粘度を持つフッ素系重合体の選択が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、これらの問題を解決するため、特定の含フッ素重合体を溶融混練した後紡糸することにより、少量のフッ素化合物の添加においても効果的に表面に偏析することにより撥液性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、
(A)熱可塑性樹脂を含んでなる芯、および
(B)融点225℃以下の熱可塑性樹脂と含フッ素化合物を含んでなる鞘であって、含フッ素化合物は、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基を含有する含フッ素重合性化合物から誘導された繰り返し単位を有する含フッ素重合体、あるいは炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基を含有する含フッ素ウレタン化合物であり、含フッ素化合物の量が鞘に対して0.1〜10.0重量%である鞘
からなる芯鞘構造を有する複合繊維を提供する。
本発明は、複合繊維から作成された物品、例えば、釣り糸、不織布にも関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、撥水撥油性に優れた複合繊維を得ることができる。この複合繊維は含フッ素化合物の含有量が少ないため、含フッ素化合物を含むものとしては比較的安価であり、この複合繊維を有する布を用いた衣料品、レジャー用品(たとえば、テント、水着)家庭用品(たとえば、網戸の網、水切りネット、テーブルクロス、カーテン、カーペット)、ワイパー、フィルター、土木資材用品、建築資材用品、サニタリー用品(たとえば、おむつ)、医療用品等の製品に使用することができる。また複合繊維から釣り糸に代表される水産産業用品にも使用することができる。さらに、複合繊維から不織布を作成することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
芯に使用する熱可塑性樹脂の例は、ポリアミド樹脂 (例えば、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、芳香族ナイロン、共重合ナイロン)、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとのコポリマー、エチレンまたはプロピレンとC〜C20αオレフィンとのコポリマー、エチレンとプロピレンとC〜C20αオレフィンとのターポリマー、エチレンとビニルアセテートとのコポリマー、プロピレンとビニルアセテートとのコポリマー、スチレンとαオレフィンとのコポリマー、ポリイソブチレン)、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルエステル樹脂、ポリアクリレート樹脂、エチレンアルキルアクリレート樹脂、ポリジエン樹脂(例えば、ポリブタジエン、イソブチレンとイソプレンとのコポリマー)、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂などである。芯に使用する熱可塑性樹脂の融点は、例えば、80〜350℃であってよい。
【0009】
これらのうち、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0010】
鞘に使用する融点225℃以下、例えば80〜180℃の熱可塑性樹脂の例は、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン12、芳香族ナイロン、共重合ナイロン)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、エチレン−α−オレフィンコポリマー、プロピレン−α−オレフィンコポリマー、ポリブチレン、ポリメチルペンテン)などである。
ポリエチレンには、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含む。またポリプロピレンには、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、非晶性ポリプロピレンを含む。
【0011】
前記共重合ナイロンとは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等の各種原材料を組み合わせて共重合することにより、異なる性質を持たせるようにしたもので、一般に市販されている共重合ナイロンより選択、入手することが可能である。
また前記アイソタクティックポリプロピレンとは、ZIgler−Natta系触媒、メタロセン触媒により作成されたアイソタクティックポリプロピレンを主体とする高結晶性ポリプロピレンのことであり、一般に市販されているポリプロピレンより選択、入手することが可能である。
前記非晶性ポリプロピレンは、メタロセン触媒を用いて作成した結晶性の極めて低いプロピレンである。非晶性ポリプロピレンは、メタロセン触媒を用いて作成した結晶性の極めて低いポリプロピレン(例えば、混合物の合計量の少なくとも50重量%)と他のプロピレンとの混合物であってよい。
非晶性ポリプロピレンは、住友化学社製タフセレンT−3512、T−3522等として入手可能である。
【0012】
含フッ素重合体は、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基を含有する含フッ素重合性化合物から誘導された繰り返し単位を有する。
含フッ素重合性化合物は、一般に、フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基に加えて、炭素−炭素二重結合を有する。含フッ素重合性化合物の例は(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ化合物、ウレタン化合物、ビニルエーテル化合物である。(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。
【0013】
フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基が、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基であることが好ましい。フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基の炭素数の上限は、21、例えば16、好ましくは6、特に5、特別には4である。
フルオロアルキル基の例は、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3) 2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2、−(CF2)4CF(CF3)2、−(CF2)7CF3、−(CF2)5CF(CF3)2、−(CF2)6CF(CF3)2、−(CF2)9CF3等である。フルオロアルケニル基の例は、−C(CF(CF3)2)=C(CF3)(CF2CF2CF3)、−C(CF(CF3)2)=C(CF3)(CF(CF3)2)、−C(CF3)=C(CF(CF3)2)2等である。
【0014】
含フッ素重合性化合物のうち、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、式:
CH2=C(−X)−C(=O)−A−Rf (I)
[式中、Xは、水素原子、メチル基、炭素数2〜20の直鎖状または分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、あるいは置換または非置換のフェニル基、
Aは、−O−Y−(ここで、Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2−(CH2CH2)a−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基、aは0または1である。)または−CH2CH(OR11)CH2−基(但し、R11は水素原子またはアセチル基である。)である。)、あるいは
−Y2−[−(CH2)m−Z−]p−(CH2)n− (ここで、Y2は、−O−または−NH−であり;Zは、−S−または−SO−であり;mは1〜10、nは0〜10、pは0または1である。)、
Rfは、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である。]
で示される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0015】
含フッ素(メタ)アクリル酸の例としては、式:


[式中、Rfは炭素数1〜21のパーフルオロアルキル基
1 は水素または炭素数1〜10のアルキル基、
2 は炭素数1〜10のアルキレン基、
3 は、水素原子、塩素原子またはメチル基、
Ar は置換基を有することもあるアリール基、
n は1〜10の整数を表わす。]
で示される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。
【0016】
含フッ素(メタ)アクリル酸エステルの具体例は、
CF3(CF2)3(CH2)OCOCH=CH2
CF3(CF2)3(CH2)OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF2)3(CH2)OCOCCl=CH2
CF3(CF2)3SO2(CH2)3OCOCH=CH2
CF3(CF2)5(CH2)OCOCH=CH2
CF3(CF2)5(CH2)OCOC(CH3)=CH2
(CF3)2CF(CF2)3(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)3(CH2)2OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF2)3(CH2)2OCOCH=CH2
CF3CF2(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2N(CH3)(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2N(C25)(CH2)2OCOC(CH3)=CH2
(CF3)2CF(CF2)3CH2CH(OCOCH3)CH2OCOC(CH3)=CH2
(CF3)2CF(CF2)3CH2CH(OH)CH2OCOCH=CH2、
CF3(CF2)5(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)7(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)5(CH2)2OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF2)7(CH2)2OCOC(CH3)=CH2
を例示することができる。
【0017】
含フッ素重合性化合物のうち、エポキシ化合物としては、例えば式:

[式中、Rfは炭素数1〜21のパーフルオロアルキル基、
n は1〜2の整数を表わす。]
で示される含フッ素エポキシ化合物を挙げることができる。
【0018】
含フッ素エポキシ化合物の具体例は、

を例示することができる。
【0019】
式(II)のエポキシ化合物を重合して得られる含フッ素重合体の例としては、式:
(−O−CH2CH (CH2Rf)−) m
[式中、Rfは炭素数1〜21のパーフルオロアルキル基、
m は1以上の整数(例えば、10〜1000)を表わす。]
のポリエーテル構造を繰り返し単位とするもの、式:
(−OCO−Ph−CO−O−CH2CH(CH2Rf)−)m
[式中、Rfは炭素数1〜21のパーフルオロアルキル基、
Phはフェニル基、
m は1以上の整数(例えば、10〜1000)を表わす。]
のポリエステル構造を繰り返し単位とするもの
等が例示される。
【0020】
ウレタン化合物としては、例えば式:
I[-NHC(=O)O-((Rf-A1-)XO)-R1]m[-NHC(=O)O-((ClCH2-)XO)b-R2]n (III)
[式中、Iはポリイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた基であり、
Rfは炭素数1〜21パーフルオロアルキル基であり、
1およびX2は3価の炭素数2〜5の直鎖状または分岐状の脂肪族基であり、
1は直接結合または炭素数1〜21の2価の有機基であり、
1およびRは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であり、
aおよびbは1〜20の数であり、
mは1〜15の数であり、
nは0〜14の数であり、
mとnの合計は2〜15の数である。]
で示される含フッ素ウレタン化合物を挙げることができる。
【0021】
式(III)において、Iはポリイソシアナート化合物からイソシアナート基を除いた基である。ポリイソシアナート化合物は、少なくとも2個のイソシアナート基を有する化合物である。ポリイソシアナート化合物は、脂肪族系ポリイソシアナート、芳香族系ポリイソシアナート、これらポリイソシアナートの誘導体であってよい。
脂肪族系ポリイソシアナート、特に脂肪族系ジイソシアナートの例は、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、水素化キシリレンジイソシアナート、水素化ジシクロヘキシルメタンジイソシアナートである。芳香族系ポリイソシアナート、特に芳香族系ジイソシアナートの例は、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、トリジンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナートである。
【0022】
ポリイソシアナート化合物は、ジイソシアナート、ポリメリックMDI(ジフェニルメタンジイソシアナート)、変性イソシアナート(特に、ジイソシアナートの3量体、または多価アルコールとジイソシアナートのアダクト体)であることが好ましい。
変性イソシアナートの例は、ウレタン変性ジイソシアナート、アロファネート変性ジイソシアナート、ビウレット変性ジイソシアナート、イソシアヌレート変性ジイソシアナート、カルボジイミド変性ジイソシアナート、ウレトニミン変性ジイソシアナート、アシル尿素ジイソシアナートである。
【0023】
含フッ素ウレタン化合物の具体例は、







を例示することができる。
【0024】
ビニルエーテル化合物は、例えば、次式で表される化合物であってよい。
C(−A)(−D)=C(−X)−O−Y−(CH2)−Rf (IV)

[式中、AおよびDおよびXは、水素原子、メチル基、炭素数2〜20の直鎖状または分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFL1L2基(但し、L1およびL2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり;
Yは、直接結合、−CH2−CH(−OH)−、または−(CF2CF(-CF3)O−)g−(但し、gは1〜21である)であり;
Rfは、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基であり;
mは、0〜10である。]
ビニルエーテル化合物の具体例は、次のとおりである。
CF2=C(−F)−O−Rf
CF2=C(−F)−O−CH2−Rf
CF2=C(−F)−O−CH2−CH2−Rf
CH2=C(−H)−O−CH2−CH2−Rf
CF2=C(−F)−O−CH2−CH(−OH)−CH2−Rf
CH2=C(−H)−O−CH2−CH(−OH)−CH2−Rf
CH2=C(−H)−O−(CF2−CF(−CF3)−O ) 2−Rf
CH2=C(−Cl)−O−(CF2−CF(−CF3)−O ) 2−Rf
[式中、Rfは炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である。]
【0025】
含フッ素重合体は、含フッ素重合性化合物の単独重合体、もしくは含フッ素重合性化合物と共重合可能な重合性化合物(特に、非フッ素重合性化合物)との共重合体であることが好ましく、公知の技術により作成された化合物を用いることができる。
【0026】
共重合可能な重合性化合物には種々のものがあるが、例示すると、
(1)アクリル酸およびメタクリル酸ならびにこれらのメチル、エチル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、プロピル、2−エチルヘキシル、ヘキシル、デシル、ラウリル、ステアリル、イソボルニル、β−ヒドロキシエチル、グリシジルエステル、フェニル、ベンジル、4−シアノフェニルエステル類、
(2)酢酸、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリル酸、ステアリン酸等の脂肪酸のビニルエステル類、
(3)スチレン、α−メチルスチレン、 p−メチルスチレン等のスチレン系化合物、
(4)フッ化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニルまたはビニリデン化合物類、
(5)ヘプタン酸アリル、カプリル酸アリル、カプロン酸アリル等の脂肪族のアリルエステル類、
(6)ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン等のビニルアルキルケトン類、
(7)N−メチルアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアクリルアミド類および
(8)2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、イソプレン等のジエン類などを例示できる。
【0027】
共重合可能な重合性化合物は、非フッ素重合性化合物であってよい。
含フッ素重合体は、構成繰り返し単位として、含塩素重合性化合物を含んでいてよい。含塩素重合性化合物は、一般に、塩素原子および炭素−炭素二重結合を有する化合物である。含塩素重合性化合物の例は、塩化ビニル、塩化ビニリデン、α−クロロアクリレート(例えば、アルキル(炭素数1〜30)エステル)および3−クロロー2−ヒドロキシプロピルメタクリレートである。
非フッ素重合性化合物は、例えば、非フッ素アルキル(メタ)アクリレートであってよい。
【0028】
非フッ素アルキル(メタ)アクリレートは、一般に、式:
−CX=CH (I)
[式中、Xは、アルキルカルボキシレート基(アルキル基の炭素数1〜18)、Xは水素原子またはメチル基である。]
で示される化合物である。含フッ素重合体は、非フッ素アルキル(メタ)アクリレートを含まなくてもよい。
【0029】
共重量体である含フッ素重合体において、含フッ素重合性化合物の量は、10重量%以上、例えば20〜80重量%、特に25〜75重量%、特別に30〜70重量%であってよい。含フッ素重合体において、含塩素重合性化合物の量は、50重量%以下、例えば0〜40重量%、特に0.1〜30重量%であってよい。
含フッ素重合体の分子量は、一般に、1,000〜1,000,000、例えば1,500〜500,000、特に3,000〜100,000であってよい(例えば、GPCで測定してポリスチレン換算)。
鞘に含まれる含フッ素重合体の量は、樹脂混合物100重量部に対し、0.1〜10重量部、例えば0.1〜5重量部、特に0.5〜3重量部であってよい。
【0030】
本発明において、芯と鞘の比率は、芯が複合繊維の50〜99重量%、鞘が複合繊維の1〜50重量%であるのが好ましい。より好ましくは芯60〜98重量%、鞘2〜40重量%、さらに好ましくは芯70〜97重量%、鞘3〜30重量%である。
複合繊維の横断面の形状は、特に限定されないが、一般に、円形である。複合繊維の太さ(直径)は、5〜1500マイクロメートル、特に15〜1200マイクロメートルであってよい。鞘の厚さは、0.5〜400マイクロメートル、特に1.0〜300マイクロメートルであってよい。繊維の長さは、用途により定まり、特に限定されない。
【0031】
本発明において、鞘は2種以上の熱可塑性樹脂の混合物であってよい。その際は第1樹脂と、第1樹脂に比べ結晶性または融点が低い第2樹脂との樹脂混合物を用いてよい。第2樹脂は、少なくとも2種の樹脂の混合物であってよい。第1樹脂と第2樹脂の樹脂混合物において、第2樹脂の量は、1〜60重量%、例えば2〜40重量%、特に3〜30重量%、特別には5〜20重量%であってよい。
【0032】
鞘にポリオレフィン樹脂を用いた場合、好ましい第1樹脂/第2樹脂の組合せは、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリブチレン、ポリプロピレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/プロピレン−αオレフィンコポリマー、ポリプロピレン/エチレン−αオレフィンコポリマーである。ポリプロピレン/ポリプロピレンの組合せにおいて、第1樹脂はアイソタクティックプロピレン(結晶性プロピレン)であり、第2樹脂は非晶性プロピレンであることが好ましい。第1樹脂と第2樹脂の樹脂混合物において、第2樹脂の量は、1〜60重量%、例えば2〜40重量%、特に3〜30重量%、特別には5〜20重量%であってよい。
【0033】
結晶性は、DSC(示差走査熱量測定法)により測定される結晶化熱量を意味する。第2樹脂の結晶化熱量が第1樹脂の結晶化熱量に比べて5kJ/kg以上、好ましくは10kJ/kg以上、例えば15kJ/kg以上、特に20kJ/kg以上低くてよい。
融点については、DSCにより測定することができる。第2樹脂の融点が第1樹脂の融点に比べて10℃以上、好ましくは15℃以上、例えば20℃以上、特に25℃以上低くてよい。
【0034】
本発明の複合繊維には、必要に応じて、添加剤(すなわち、助剤)、例えば、染料、顔料、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、可塑剤等を含有してもよい。また、紡糸後に糸切れを防ぐ目的で使用される油剤の代わりに、鞘に含む含フッ素重合体の量を多くしてもよい。また、含フッ素化合物と熱可塑性樹脂との混合樹脂、または含フッ素化合物と添加剤、熱可塑性樹脂との混合樹脂は、マスターバッチとしてあらかじめ混合しておいたものを使用してもよい。マスターバッチ中の含フッ素化合物の量は、1〜40重量%、例えば5〜30重量%、特に10〜25重量%であってよい。
本発明の複合繊維は、芯の熱可塑性樹脂、鞘のポリオレフィン樹脂と含フッ素重合体を混練(例えば、溶融混練)したものを用いて従来公知の方法にて作成することができる。鞘のポリオレフィン樹脂と含フッ素重合体とは、溶融状態において相溶性である。得られた繊維については、公知の技術に沿って紡糸後さらにオーブン、乾燥炉等で加熱処理を施してもよい。またこの複合繊維からなる布、モノフィラメント等についても、公知の技術により表面処理、加熱処理等を施してもよい。特に80℃以上にて1分以上加熱すると、撥液性が向上する。
【0035】
本発明の複合繊維は、不織布にされてもよい。不織布は、カード法、エアレイド法、抄紙法、あるいは溶融押出から直接不織布 を得るメルトブローン法やスパンボンド法などにより得ることができる。溶融押出において、鞘の熱可塑性樹脂と含フッ素重合体の両者を溶融するような温度を用いることが好ましい。不織布の目付は特に限定されないが、0.1〜1000g/mであってよい。不織布の目付は、不織布の用途に応じて、例えば、液吸収性物品の表面材等では5〜60g/m2、吸収性物品やワイパー等では10〜500g/m2、フィルターでは8〜1000g/m2が好ましい。この複合繊維からなる不織布についても、公知の技術により表面処理、加熱処理等を施してもよい。特に80℃以上にて1分以上加熱すると、撥液性が向上する。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて詳細を説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。なお、実施例中に記載の結晶化熱量および融点については、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製RTG220にて分析を行った。また樹脂の結晶化熱量については、メトラー・トレド社製DSC822eにて分析を行った。
【0037】
実施例1
芯にポリプロピレン(日本ポリプロ社製SA3A、MFR=11)100重量部、鞘に熱可塑性樹脂としてアイソタクティックポリプロピレン(日本ポリプロ社製SA03D、MFR=30、融点167℃)97重量部、含フッ素化合物としてC2n+1CHCHOCOCH=CH (n=6,8,10,12,14(nの平均は8)の化合物の混合物)(含フッ素モノマー、以下「17FA」と表す)とステアリルメタクリレート(以下「StMA」と表す)との含フッ素重合体で、FA/StMA=70/30(重量比)の組成を有する含フッ素重合体3重量部である混合樹脂を用い、芯は押出温度230℃で複合糸の70重量%、鞘は押出温度210℃で複合糸の30重量%となるように紡糸の後、延伸倍率5.8で延伸し巻き取ることにより、300デニール(繊維直径210マイクロメートル)の複合モノフィラメントを得た。
この複合糸の撥水性を確認するため、以下の評価を行った。
【0038】
糸強度
JIS L 1013に順じ、試験片長さ300mm、引張速度300mm/minで複合モノフィラメントの伸び率を測定。5点測定しその平均値を採用した。
撥液性
複合糸を用いて作成した網目状の織物(以下、「織物」と表す)を作成して、105℃にて30分間加熱処理した。この織物をIPA/水=70/30(体積比)混合液、および水の中に10秒間浸漬した後に引き上げ、その際の液のはじき度合いを目視にて評価した。
【0039】
実施例2
鞘に第1樹脂としてアイソタクティックポリプロピレン(日本ポリプロ社製SA03D、結晶化熱量109.1kJ/kg)87重量部、第2樹脂として非晶質ポリプロピレン(住友化学社製タフセレンT−3512、結晶化熱量14.9kJ/kg)10重量部、含フッ素重合体[17FAとステアリルアクリレート(以下「StA」と表す)からなり17FA/StA=50/50(重量比)の組成を有する含フッ素重合体]3重量部である混合樹脂とした以外は実施例1と同様の方法にて複合モノフィラメントを作成し評価を行った。
【0040】
実施例3
含フッ素重合体としてCCHCHOCOCH=CH(含フッ素モノマー、以下「9FA」と表す)とStMAからなり9FA/StMA=60/40(重量比)の組成を有する共重合体を用いる以外は実施例2と同様の方法にて複合モノフィラメントを作成し評価を行った。
【0041】
実施例4
含フッ素重合体としてCCHCHOCOCCl=CH(含フッ素モノマー、以下「9FClA」と表す)とStAからなり9FClA/StA=40/60(重量比)の組成を有する共重合体を1重量部で用いた以外は実施例2と同様の方法にて複合モノフィラメントを作成し評価を行った。
【0042】
実施例5
芯にポリプロピレン(日本ポリプロ社製SA3A、MFR=11)100重量部、鞘に熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂(宇部興産社製UBE NYLON 5021T、ナイロン6)97重量部、含フッ素重合体[9FAとStAからなり9FA/StA=70/30(重量比)の組成を有する共重合体]3重量部である混合樹脂を用い、芯は押出温度230℃で複合糸の70重量%、鞘は押出温度250℃で複合糸の30重量%となるように紡糸の後、延伸倍率4.8で延伸し巻き取ることにより、300デニール(繊維直径210マイクロメートル)の複合モノフィラメントを得た。これを実施例1と同様の方法にて評価を行った。
【0043】
比較例1
鞘をポリプロピレン(日本ポリプロ社製SA03D) 100重量部とした以外は実施例1と同様の方法にて複合モノフィラメントを作成し評価を行った。
比較例2
鞘をポリアミド樹脂(宇部興産社製UBE NYLON 5021T、ナイロン6) 100重量部とした以外は実施例1と同様の方法にて複合モノフィラメントを作成し評価を行った。
【0044】
実施例、比較例の成分を表1に、評価結果を表2に示す。
【0045】
【表1】


PP : ポリプロピレン
iPP: アイソタクティックプロピレン
NY6: ナイロン6
表中( )内の数値は、芯部、鞘部それぞれの複合モノフィラメント中の重量%を示す。
【0046】
【表2】

【0047】
IPA/Water : IPA/Water=70/30混合液(体積比)
撥液性の評価 ○:液滴としてはじく
△:やや液滴としてはじく
×:液滴としてはじかず、ぬれている
【0048】
表2の結果から、鞘に含フッ素重合性体を含む複合モノフィラメントは、繊維そのものの強度を低下させることなく、かつ少量の添加において撥液性が優れている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂を含んでなる芯、および
(B)融点225℃以下の熱可塑性樹脂と含フッ素化合物を含んでなる鞘であって、含フッ素化合物は、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基を含有する含フッ素重合性化合物から誘導された繰り返し単位を有する含フッ素重合体、あるいは炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基を含有する含フッ素ウレタン化合物であり、含フッ素化合物の量が鞘に対して0.1〜10.0重量%である鞘
からなる芯鞘構造を有する複合繊維。
【請求項2】
芯(A)の熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリエステルまたはポリアミドである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
鞘(B)の熱可塑性樹脂の融点が80〜180℃である請求項1に記載の複合繊維。
【請求項4】
鞘(B)の熱可塑性樹脂がポリオレフィンである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項5】
鞘(B)の熱可塑性樹脂が、2種以上のポリオレフィンの混合物である請求項1に記載の複合繊維。
【請求項6】
含フッ素重合性化合物が、フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基、および炭素−炭素二重結合を有する化合物である請求項1に記載の複合繊維。
【請求項7】
含フッ素重合性化合物が、(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物のいずれかである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項8】
含フッ素重合性化合物が、
式:
CH2=C(−X)−C(=O)−A−Rf (I)
[式中、Xは、水素原子、メチル基、炭素数2〜20の直鎖状または分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、あるいは置換または非置換のフェニル基、
Aは、−O−Y−(ここで、Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2−(CH2CH2)a−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基、aは0または1である。)または−CH2CH(OR11)CH2−基(但し、R11は水素原子またはアセチル基である。)である。)、あるいは
−Y2−[−(CH2)m−Z−]p−(CH2)n− (ここで、Y2は、−O−または−NH−であり;Zは、−S−または−SO−であり;mは1〜10、nは0〜10、pは0または1である。)、
Rfは、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である。]
で示される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項9】
式(I)においてRfが炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である請求項8に記載の複合繊維。
【請求項10】
式(I)において、Rfが炭素数1〜5の基であり、Xが、炭素数2〜20の直鎖状または分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、あるいは置換または非置換のフェニル基である請求項8に記載の複合繊維。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の複合繊維から作成された布を有してなる、衣料品、レジャー用品、家庭用品、ワイパー、フィルター、土木資材用品、建築資材用品、サニタリー用品または医療用品である物品。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の複合繊維からなる釣り糸。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の複合繊維からなる不織布。


【公開番号】特開2007−211376(P2007−211376A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33448(P2006−33448)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】