説明

吸湿膜形成用塗料及びその製造方法並びにその使用方法

【課題】物品収容空間を汚染させずに、低コスト且つ高吸湿率で物品を防湿できる吸湿膜形成用塗料及びその製造方法並びにその使用方法を提供することである。
【解決手段】本発明の吸湿膜形成用塗料は、バインダー樹脂を含む樹脂溶液中に乾燥剤を密閉容器中で分散させることによって製造されるものである。乾燥剤として、金属酸化物からなる粒子、好適に酸化カルシウム粒子が含まれる。バインダー樹脂として、破断伸度200%以上のポリウレタン系樹脂が含まれ、好適に、ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが含まれる。樹脂溶液は、架橋剤として、ブロックタイプのイソシアネートを含む。吸湿膜形成用塗料は、物品12を防湿するための吸湿膜15を封止材14に形成するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品などの機器やその部品(有機ELディスプレイの有機EL素子など)、楽器(ピアノなど)、医薬品(錠剤など)、食品(乾麺、塩など)、衣類、靴など、湿気によりその機能や効能、風味や風合いなどが劣化する物品の防湿技術の分野に属するものであり、このような物品を収容する空間(物品収容空間)を吸湿し、物品を防湿するための吸湿膜を形成するために用いられる塗料(以下、吸湿膜形成用塗料)及びその製造方法並びにその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、家電製品などの機器やその部品、楽器、医薬品、食品、衣類、靴などの物品は、物品製造後、袋、ビン、缶、箱、包装紙などの物品収容体によって形成される物品収容空間に収容されている。また、物品を収容した物品収容体を複数個まとめて袋、箱、包装紙などの別の物品収容体の物品収容空間に収容させることもある。そして、製造後の物品の品質を維持するため、物品収容空間に吸湿材を入れて物品収容空間を吸湿し、物品を防湿している。
【0003】
例えば、菓子類(食品)は、製造後、プラスチック製の袋の内部(物品収容空間)に吸湿材と一緒に入れられ、袋の入口が熱シールなどの手段によって封止されている。錠剤(医薬品)は、製造後、ビンの内部(物品収容空間)に吸湿材と一緒に入れられ、ビンの入口がキャップで封止される。また、有機EL素子(精密機器の部品)は、ガラス基板上に組み立てられた後、封止キャップ(封止基板とも呼称されている)とガラス基板との間の空間(物品収容空間)に密封され、この物品収容空間が封止キャップに取り付けた吸湿材によって吸湿されている。
【0004】
従来、このような吸湿材として、例えば、通気性シートからなる袋に乾燥剤(シリカゲルやゼオライトなど)を封入したものが使用されている(特許文献1、2を参照)。
【0005】
このような吸湿材は、乾燥剤を袋内に単に投入しただけのものなので、袋内に投入した乾燥剤のほぼ全量が物品収容空間の吸湿に寄与し得る。
【0006】
しかし、このような吸湿材では、吸湿材の姿勢が変わると、乾燥剤が移動して片寄り、吸湿材の形状、特に厚さを一定にできず、嵩張るだけでなく、このような吸湿材を狭い物品収容空間内に入れて、この物品収容空間を吸湿し物品を防湿することが困難であるという問題がある。
【0007】
また、吸湿材として、物品を収容するための袋や包装紙(物品収容体)自体に乾燥剤を練り込んだものが使用されている(特許文献6を参照)。
【0008】
このような吸湿材は、乾燥剤を練り込んだ合成樹脂からなるシートであり、その厚さを薄く(60μm〜200μm)できるものであるが、合成樹脂に練り込まれる乾燥剤の量を多くすると、袋や包装紙自体が脆くなるので、多量の乾燥剤を練り込むことができず、高い吸湿性が得られない。また、吸湿材の表面部分に位置する乾燥剤のみが物品収容空間の吸湿に寄与するだけなので、高い吸湿率が得られないという問題がある。
【0009】
一方、有機EL素子などの精密部品のように、防湿されるべき物品のサイズが非常に小さいものを防湿する場合、物品収容空間を封止する封止材に乾燥剤が固定されている(特許文献3、4、5、7を参照)。
【0010】
例えば、有機ELディスプレイでは、有機分子が酸素や水分(湿気)と反応して劣化し、ディスプレイの寿命が短くなるため、ガラス基板上に透明電極層、有機EL発光層及び対向電極層を積層して組み立てた有機EL素子を防湿している。この防湿は、有機EL素子を組み立てたガラス基板と封止キャップ(封止材)とを貼り合わせ、ガラス基板と封止キャップとの間の空間(物品収容空間)に有機EL素子を収容して、この空間を封止キャップで封止し、この封止キャップに固定されている乾燥剤によって行われている。(有機EL素子の構成については、例えば、特許文献7、非特許文献1を参照。)
【0011】
一つの防湿技術では、封止キャップに塗布した粘着剤に乾燥剤(無水硫酸カルシウム粒子など)を固定して封止キャップに吸湿膜を形成し、この吸湿膜で有機EL素子の防湿が行われている(特許文献3、4、5を参照)。
【0012】
しかし、この防湿技術では、乾燥剤を粘着剤に粘着させた後、余分な乾燥剤を振動により振り落している。このため、この振り落とされた乾燥剤が封止キャップに付着したままの状態で、有機EL素子を収容している空間が封止されていると、封止キャップに付着している乾燥剤が剥離して物品収容空間内を浮遊し、有機EL素子に付着して、有機EL素子が汚染されるという問題が生じる。また、有機EL素子の温度変化によって粘着剤中の溶剤が揮発し、この揮発ガスが有機EL素子に付着するという問題も生じる。
【0013】
また、他の防湿技術では、乾燥剤を樹脂溶液中に分散した吸湿膜形成用塗料を封止キャップに塗布し乾燥させて吸湿膜を形成しているが、有機ELディスプレイの温度変化による吸湿膜と封止キャップとの熱膨張差により吸湿膜が局所的に剥離するという問題が生じるため、吸湿膜と封止キャップとの間に、吸湿膜と封止キャップのそれぞれの熱膨張率の中間の大きさの熱膨張率を有する応力緩和層を介在させている(特許文献7を参照)。
【0014】
しかし、この防湿技術では、応力緩和層を設けるための手間とコストがかかるだけでなく、応力緩和層の表面に、単に、吸湿膜形成用塗料を塗布し乾燥させて吸湿膜を形成しているだけなので、吸湿膜中の乾燥剤が水分を吸収して膨張し、これにより、吸湿膜自体が破壊され、乾燥剤が吸湿膜から脱落し、有機EL素子に付着して、有機EL素子が汚染されるという問題が生じる。
【0015】
上記問題に鑑みて、シート状の基材(プラスチックシート)の表面に、高い破断伸度を有するバインダー樹脂(固形分)で乾燥剤を固定した吸湿膜を形成した吸湿シートが検討されている(例えば、特願2005−185843、出願日:平成17年6月27日、出願人:本願の出願人と同一)。
【0016】
この吸湿シートは、物品収容空間が非常に小さくても、嵩張らずに設置できるものであり、また高い破断伸度を有するバインダー樹脂で乾燥剤を固定しているので、乾燥剤の水分吸収により吸湿膜自体が破壊されるという問題も生じない。
【0017】
しかし、この吸湿シートを有機EL素子のような非常に小さい物品の防湿に使用する場合、吸湿シートは封止キャップに塗布した粘着剤(粘着剤の層の厚さが吸湿シートの厚さの約10%)で固定しなければならないので、有機EL素子と封止キャップとの間に形成されている物品収容空間が大きくなるだけでなく、有機EL素子の温度変化によって粘着剤中の溶剤が揮発し、この揮発ガスが有機EL素子に付着するという問題が生じる。
【0018】
また、この吸湿シートは、樹脂溶液中に乾燥剤を分散した吸湿膜形成用塗料をシート状の基材の表面に塗布し乾燥させて基材の表面に吸湿膜を形成することによって製造されるもの(すなわち、吸湿材の原反)であり、製造後、ロール巻きされて保管される。その後、このロール巻きした吸湿シートをカッターで所定の形状にカットした後に吸湿材として使用されるので、吸湿シートを製造してから、吸湿材として使用されるまでの間に乾燥剤が水分を吸収し、このため、使用時における吸湿材の吸湿率が低下するという問題がある。
【0019】
そして、この問題は、吸湿シート(吸湿材の原反)の製造から、カット工程を経て、吸湿材として使用するまでの全工程を乾燥環境下で行うことによって解決し得るが、このための設備にかかるコストが膨大となり、実用的ではない。
【特許文献1】特開2000−188367号公報
【特許文献2】特開2000−202011号公報
【特許文献3】特開2001−185349号公報
【特許文献4】特開2001−23507号公報
【特許文献5】特開平10−34791号公報
【特許文献6】特開平10−272168号公報
【特許文献7】特開2004−55365号公報
【非特許文献1】有機ELディスプレイ、ナノエレクトロニクス、今後の課題と展望、http//www.nanoelectronics.jp/kaitai/oel/7.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明の目的は、物品収容空間を汚染させずに、低コスト且つ高吸湿率で物品を防湿できる吸湿膜を形成するために用いられる吸湿膜形成用塗料及びその製造方法並びにその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
<吸湿膜形成用塗料> 上記目的を達成する本発明の吸湿膜形成用塗料は、バインダー樹脂を含む樹脂溶液、及びこの樹脂溶液中に分散される乾燥剤から構成される。
【0022】
乾燥剤として、金属酸化物からなる粒子、好適に酸化カルシウムからなる粒子が含まれる。
【0023】
バインダー樹脂として、破断伸度が200%以上の範囲、より好ましくは300%以上の範囲にある樹脂が含まれる。
【0024】
バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂が含まれる。
【0025】
また、バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが含まれ、バインダー樹脂の全量を100重量%として、ポリウレタン系樹脂の含有量が70重量%以上の範囲にあり、ポリオレフィン系樹脂の含有量が30重量%以下の範囲にある。
【0026】
樹脂溶液には、架橋剤が含まれ、この架橋剤として、ブロックタイプのイソシアネートが含まれる。
【0027】
<製造方法> 上記本発明の吸湿膜形成用塗料は、バインダー樹脂を含む樹脂溶液中に乾燥剤を分散させることによって製造される。この分散は、密閉容器内で行われる。
【0028】
<使用方法1> 上記本発明の吸湿膜形成用塗料は、防湿されるべき物品を収容している物品収容空間内を吸湿してこの物品を防湿するための吸湿膜を、物品収容空間を封止する封止材に形成するために使用される。すなわち、封止材に吸湿膜形成用塗料を塗布し、封止材に塗布した吸湿膜形成用塗料を乾燥させて、封止材に、乾燥剤をバインダー樹脂で固定した吸湿膜を形成する。好適に、物品は、ガラス基板上に組み立てた有機EL素子であり、封止材は、ガラス基板に貼り合わせて有機EL素子を収容する物品収容空間を形成し、この物品収容空間を封止する封止キャップである。
【0029】
<使用方法2> 上記本発明の吸湿膜形成用塗料は、防湿されるべき物品を収容する物品収容空間内に位置させてこの物品収容空間内を吸湿して物品を防湿するための所定の形状の吸湿材を製造するために使用される。すなわち、吸湿材と略同形状の基材に吸湿膜形成用塗料を塗布し、基材に塗布した吸湿膜形成用塗料を乾燥させ、基材に吸湿膜を形成して、吸湿材を製造する。例えば、物品は、家電製品などの機器やその部品、楽器、医薬品、食品、衣類、靴などであり、物品収容空間は、袋、ビン、缶、箱、包装紙などの物品収容体によって形成される空間である。
【0030】
ここで、樹脂溶液に架橋剤を含めることで、物品収容空間を封止する封止材及び吸湿材の基材への吸湿膜の密着性が高くなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明が以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0032】
本発明の吸湿膜形成用塗料は、密閉容器内で容易に製造でき、さらに、製造後、外気に晒されることなく別の密閉容器に入れて、気密に保管できるものなので、本発明の吸湿膜形成用塗料を使用する現場へ容易に運ぶことができるだけでなく、本発明の吸湿膜形成用塗料の使用時まで、その品質を維持できる。
【0033】
そして、物品収容空間を封止する封止材の製造ラインで、本発明の吸湿膜形成用塗料を封止材に塗布し乾燥させて封止材に吸湿膜を形成することができ、封止材の製造直後に物品収容空間を封止できるので、物品収容空間内の物品を低コスト且つ高吸湿率で防湿できる。
【0034】
また、吸湿材の原反を製造してから、カット工程を経て、吸湿材として使用するまでの全工程を乾燥環境下で行わずに、吸湿材の形状と略同形状の基材に本発明の吸湿膜形成用塗料を塗布し乾燥させるだけで所定の形状の吸湿材を製造でき、吸湿材の製造直後に、この吸湿材を物品収容空間内に位置させることができるので、物品収容空間内の物品を低コスト且つ高吸湿率で防湿できる。また、この吸湿材は、吸湿材の製造直後に密閉容器内に入れて気密に保管でき、吸湿材の使用時まで、その吸湿率を維持できるので、物品収容空間内の物品を低コスト且つ高吸湿率で防湿できる。
【0035】
本発明の吸湿膜形成用塗料からなる吸湿膜は、破断伸度が200%以上の範囲にあるバインダー樹脂(固形分)によって乾燥剤を固定したものなので、乾燥剤が物品収容空間内の水分を吸収して膨張しても、吸湿膜が破壊されて乾燥剤が脱落することがない。このことから、物品収容空間を汚染させずに、物品収容空間内の物品を防湿できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
<吸湿膜形成用塗料> 本発明の吸湿膜形成用塗料は、バインダー樹脂を含む樹脂溶液、及びこの樹脂溶液中に分散される乾燥剤から構成される。
【0037】
乾燥剤として、金属酸化物からなる粒子が含まれる。金属酸化物からなる粒子として、水分と不可逆的な化学反応を起こし、また樹脂溶液中で安定し、しかも安価に入手できる、高い吸湿性を有する酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどから選択される粒子が使用される。乾燥剤の平均粒径は0.01μm以上、5μm以下の範囲にある。好適に、乾燥剤として、酸化カルシウムからなる粒子が含まれる。
【0038】
バインダー樹脂として、破断伸度が200%以上の範囲、より好ましくは300%以上の範囲にある樹脂が含まれる。
【0039】
ここで、乾燥剤は、水分を吸収すると、その体積が膨張する(例えば、酸化カルシウムからなる粒子は、水分を吸収してその全量が水酸化カルシウムとなると、粒子の体積は約2倍になる)。このため、本発明の吸湿膜形成用塗料からなる吸湿膜において、バインダー樹脂の破断伸度が200%未満であると、乾燥剤の体積膨張により吸湿膜が破壊され、吸湿膜に亀裂が生じ、乾燥剤が脱落する。ここで、破断伸度(%)は、バインダー樹脂(固形分)の試験片を引き伸ばし、この試験片が破断したときの試験片の伸びを試験片の元の長さで割ったものである(測定基準ASTM D882)。
【0040】
乾燥剤とバインダー樹脂(固形分)の重量比(乾燥剤:バインダー樹脂)は、40重量%:60重量%〜90重量%:10重量%の範囲にある。
【0041】
バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂が含まれる。
【0042】
また、バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが使用され、バインダー樹脂の全量を100重量%として、ポリウレタン系樹脂の量が、70重量%以上の範囲にあり、ポリオレフィン系樹脂の量が、30重量%以下の範囲にある。ここで、ポリオレフィン系樹脂の量が30重量%を超えると、ポリウレタン系樹脂の破断伸度を低下させることになる。
【0043】
このように、バインダー樹脂として、性質の異なる樹脂(ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂)を含めることで、本発明の吸湿膜形成用塗料からなる吸湿膜中のバインダー樹脂に微細な亀裂が生じ、吸湿膜の内部に固定されている乾燥剤が外部に晒され、その結果、吸湿率が高くなる。
【0044】
樹脂溶液には、架橋剤が含まれ、架橋剤として、吸湿膜形成用塗料中の乾燥剤が触媒となって過度に架橋反応が進むことなく、一定の温度以上になってから架橋反応が開始されるものが含まれ、このような架橋剤として、好適に、ブロックタイプのイソシアネートが含まれる。
【0045】
<製造方法> 本発明の吸湿膜形成用塗料は、バインダー樹脂を含む樹脂溶液中に乾燥剤を分散させることによって製造される。この分散は、密閉容器内で行われ、本発明の吸湿膜形成用塗料は、製造後、外気に晒さずに、別の密閉容器内に入れて、気密に保管される。このことから、本発明の吸湿膜形成用塗料は、その使用時まで、その品質を維持できる。
【0046】
樹脂溶液は、メチエチルケトンなどの溶剤でバインダー樹脂(固形分)を溶かしたものであり、後述のように本発明の吸湿膜形成用塗料を乾燥させると、本発明の吸湿膜形成用塗料中の溶剤は蒸発し、乾燥剤がバインダー樹脂により固定される。
【0047】
架橋剤は、樹脂溶液中に含まれていてもよいし、また本発明の吸湿膜形成用塗料の使用直前に添加してもよい。
【0048】
<使用方法1> 本発明の吸湿膜形成用塗料は、吸湿膜形成用塗料が、防湿されるべき物品を収容している物品収容空間内を吸湿してこの物品を防湿するための吸湿膜を、物品収容空間を封止する封止材に形成するために使用される。
【0049】
すなわち、本発明の吸湿膜形成用塗料は、封止材に吸湿膜形成用塗料を塗布し、封止材に塗布した吸湿膜形成用塗料を乾燥させて、封止材に、乾燥剤をバインダー樹脂で固定した吸湿膜を形成するために使用される。吸湿膜の厚さは、特に限定されないが、有機EL素子の防湿のように、非常に狭い物品収容空間を吸湿するときは、10μm以上、200μm以下の範囲にある。
【0050】
好適に、物品は、有機EL素子であり、封止材は、この有機EL素子を収容している物品収容空間を封止する封止キャップである。
【0051】
図1に示すように、有機ELディスプレイ10の部品である有機EL素子12は、ガラス基板11上に形成され、図示のように、有機EL素子12を形成したガラス基板11は、接着剤13により封止キャップ14と貼り合わされて、有機EL素子12は、ガラス基板11と封止キャップ14との間の空間内に収容され、この空間は、封止キャップ14に形成した本発明の吸湿膜形成用塗料からなる吸湿膜15によって吸湿され、有機EL素子12が防湿される。
【0052】
このような封止キャップ14は、ライン生産できるものであり、封止キャップ(封止材)14に本発明の吸湿膜形成用塗料を塗布し、この封止キャップ14に塗布した本発明の吸湿膜形成用塗料を乾燥させて、封止キャップ14に、乾燥剤をバインダー樹脂で固定した吸湿膜15を形成することによって製造され、封止キャップ14の製造直後に、有機EL素子12を形成したガラス基板11と貼り合わされ、ガラス基板11と封止キャップ14との間の空間(物品収容空間)内に収容されている有機EL素子12が、本発明の吸湿膜形成用塗料からなる吸湿膜15によって防湿される。
【0053】
<使用方法2> 本発明の吸湿膜形成用塗料は、吸湿膜形成用塗料が、防湿されるべき物品を収容する物品収容空間内に位置させて物品収容空間内を吸湿してこの物品を防湿するための所定の形状の吸湿材を製造するために使用される。
【0054】
すなわち、所定の形状の基材に吸湿膜形成用塗料を塗布し、基材に塗布した吸湿膜形成用塗料を乾燥させ、基材に吸湿膜を形成して、吸湿材を製造する。
【0055】
ここで、物品は、家電製品などの機器やその部品、楽器、医薬品、食品、衣類、靴などであり、物品収容空間は、袋、ビン、缶、箱、包装紙などの物品収容体によって形成される空間である。
【0056】
本発明に従った吸湿材は、所定の形状の基材、及びこの基材の表面に形成した吸湿膜から構成され、吸湿膜は、乾燥剤、及びこの乾燥剤を固定するバインダー樹脂から構成される。
【0057】
基材11として、プラスチック、金属、ガラス、紙、布、木材などからなる任意の形状のものが使用される。基材は、予め所定の形状(例えば、円形又は矩形の板状、網目状、球状、棒状など)に加工されている。
【0058】
本発明に従った吸湿材は、所定の形状の基材の全面又は一部に本発明の吸湿膜形成用塗料を塗布し乾燥させることによって製造される。
【0059】
吸湿材は、製造直後、この吸湿材を物品収容空間内に位置させてもよいし、また容器内に入れて気密に保管してもよい。
【0060】
吸湿材は、通気性を有する袋内に入れて物品収容空間内に位置させてもよいし、物品収容体に粘着剤で貼り付けて物品収容空間内に位置させてもよい。
【0061】
<実施例1> 平均粒径0.15μmの酸化カルシウム粒子(100重量部)と、破断伸度500%のポリウレタン系樹脂の30重量%濃度の溶液(110重量部)と、メチルエチルケトン(60重量部)とをポットミルに入れて48時間混合して、実施例1の吸湿膜形成用塗料を製造し、この吸湿膜形成用塗料を厚さ2mmのガラス板にスピンコータで塗布し、熱風乾燥機(150℃)で3分間乾燥して、ガラス板の表面に厚さ80μmの吸湿膜を形成し、実施例1の吸湿材を製造した。
【0062】
<実施例2> 平均粒径0.15μmの酸化カルシウム粒子(100重量部)と、破断伸度500%のポリウレタン系樹脂の30重量%濃度の溶液(90重量部)と、ポリオレフィン系樹脂(常温で軟化するので破断伸度は測定できない)の40重量%濃度の溶液(16重量部)と、メチルエチルケトン(60重量部)とをポットミルに入れて48時間混合して、実施例2の吸湿膜形成用塗料を製造し、この吸湿膜形成用塗料を厚さ2mmのガラス板にスピンコータで塗布し、熱風乾燥機(150℃)で3分間乾燥して、ガラス板の表面に厚さ80μmの吸湿膜を形成し、実施例2の吸湿材を製造した。
【0063】
<実施例3> 平均粒径0.15μmの酸化カルシウム粒子(100重量部)と、破断伸度500%のポリウレタン系樹脂の30重量%濃度の溶液(66重量部)と、ポリオレフィン系樹脂(常温で軟化するので破断伸度は測定できない)の40重量%濃度の溶液(11重量部)と、ポリエステルポリオール(2.1重量部)と、メチルエチルケトン(51重量部)とをポットミルに入れて48時間混合した後、これに、ブロックタイプのイソシアネートの50重量%濃度の溶液(18.5重量部)を加えて攪拌して、実施例3の吸湿膜形成用塗料を製造し、この吸湿膜形成用塗料を厚さ2mmのガラス板にスピンコータで塗布し、熱風乾燥機(150℃)で3分間乾燥して、ガラス板の表面に厚さ80μmの吸湿膜を形成し、実施例3の吸湿材を製造した。
【0064】
<比較例1> 平均粒径0.15μmの酸化カルシウム粒子(100重量部)と、破断伸度5%のポリウレタン系樹脂の30重量%濃度の溶液(110重量部)と、メチルエチルケトン(60重量部)とをポットミルに入れて48時間混合して、比較例1の吸湿膜形成用塗料を製造し、この吸湿膜形成用塗料を厚さ2mmのガラス板にスピンコータで塗布し、熱風乾燥機(150℃)で3分間乾燥して、ガラス板の表面に厚さ80μmの吸湿膜を形成し、比較例1の吸湿材を製造した。
【0065】
<比較例2> 平均粒径0.15μmの酸化カルシウム粒子(100重量部)と、破断伸度3%のポリウレタン系樹脂の30重量%濃度の溶液(80重量部)と、ポリエステルポリオール(2.1重量部)と、メチルエチルケトン(51重量部)とをポットミルに入れて48時間混合した後、これに、ブロックタイプのイソシアネートの50重量%濃度の溶液(19.5重量部)を加えて攪拌して、比較例2の吸湿膜形成用塗料を製造し、この吸湿膜形成用塗料を厚さ2mmのガラス板にスピンコータで塗布し、熱風乾燥機(150℃)で3分間乾燥して、ガラス板の表面に厚さ80μmの吸湿膜を形成し、比較例2の吸湿材を製造した。
【0066】
<比較試験> 実施例1〜3と比較例1、2のそれぞれの吸湿材をシャーレの底に置き、25℃、60%相対湿度の恒温恒湿槽内に放置して、これら吸湿材の吸湿率を比較した。
【0067】
<試験結果> 実施例1〜3と比較例1、2の吸湿材のそれぞれの時系列的な重量変化と吸湿率を下記の表1及び表2に示す。ここで、吸湿率は、下記の式1を用いて計算した。
【0068】
【数1】

【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
360分間の吸湿試験後における実施例1〜3と比較例1、2の吸湿材のそれぞれの状態について比較すると、実施例1、2の吸湿材では、吸湿材のエッジの一部に波形の変形がみられたが、吸湿膜からの乾燥剤の脱落はみられなかった。実施例3の吸湿材では、吸湿膜の変形がみられず、吸湿膜からの乾燥剤の脱落もみられなかった。一方、比較例1の吸湿材では、吸湿膜の大半がガラス板から剥離し、乾燥剤が脱落していた。比較例2の吸湿材では、吸湿膜の一部がガラス板から剥離し、乾燥剤が脱落していた。
【0072】
吸湿力について比較すると、表1、表2及び図2に示すように、実施例1〜3の吸湿材は、比較例1、2の吸湿材と比較して、高い吸湿力(吸湿率)を有している。
【0073】
なお、比較例1、2において、試験時間240分以降の吸湿率が急激に上昇している(図2を参照)。これは、吸湿膜の破壊、剥離及び乾燥剤の脱落により、吸湿膜中の乾燥剤が外部に多量に露出したために、吸湿率が急激に上昇したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本発明に従った有機ELディスプレイの部分拡大側面図である。
【図2】図2は、試験結果のグラフを示す。
【符号の説明】
【0075】
10・・・有機ELディスプレイ
11・・・ガラス基板
12・・・有機EL素子
13・・・接着剤
14・・・封止キャップ
15・・・吸湿膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿膜形成用塗料であって、
バインダー樹脂を含む樹脂溶液、及び
前記樹脂溶液中に分散される乾燥剤、
から成り、
前記乾燥剤として、金属酸化物からなる粒子が含まれ、
前記バインダー樹脂として、破断伸度が200%以上の範囲にある樹脂が含まれる、
ところの吸湿膜形成用塗料。
【請求項2】
請求項1の吸湿膜形成用塗料であって、
前記乾燥剤として、酸化カルシウムからなる粒子が含まれる、
ところの吸湿膜形成用塗料。
【請求項3】
請求項1の吸湿膜形成用塗料であって、
前記破断伸度が300%以上の範囲にある、
ところの吸湿膜形成用塗料。
【請求項4】
請求項1の吸湿膜形成用塗料であって、
前記バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂が含まれる、
ところの吸湿膜形成用塗料。
【請求項5】
請求項1の吸湿膜形成用塗料であって、
前記バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが含まれ、
前記バインダー樹脂の全量を100重量%として、
前記ポリウレタン系樹脂の含有量が、70重量%以上の範囲にあり、
前記ポリオレフィン系樹脂の含有量が、30重量%以下の範囲にある、
ところの吸湿膜形成用塗料。
【請求項6】
請求項1の吸湿膜形成用塗料であって、
前記樹脂溶液が、架橋剤を含む、
ところの吸湿膜形成用塗料。
【請求項7】
請求項6の吸湿膜形成用塗料であって、
前記架橋剤として、ブロックタイプのイソシアネートが含まれる、
ところの吸湿膜形成用塗料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1の吸湿膜形成用塗料を製造するための方法であって、
前記バインダー樹脂を含む前記樹脂溶液中に前記乾燥剤を分散させる工程、
から成り、
前記工程が、密閉容器内で行われる、
ところの方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1の吸湿膜形成用塗料を使用する方法であって、
前記吸湿膜形成用塗料が、防湿されるべき物品を収容している物品収容空間内を吸湿して前記物品を防湿するための吸湿膜を、前記物品収容空間を封止する封止材に形成するために使用され、
当該方法が、
前記封止材に前記吸湿膜形成用塗料を塗布し、前記封止材に塗布した前記吸湿膜形成用塗料を乾燥させて、前記封止材に、前記乾燥剤を前記バインダー樹脂で固定した前記吸湿膜を形成する工程、
から成る方法。
【請求項10】
請求項9の方法であって、
前記物品が、ガラス基板上に組み立てた有機EL素子であり、
前記封止材が、前記ガラス基板に貼り合わせて前記有機EL素子を収容する前記物品収容空間を形成し、この物品収容空間を封止する封止キャップである、
ところの方法。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか1の吸湿膜形成用塗料を使用する方法であって、
前記吸湿膜形成用塗料が、防湿されるべき物品を収容する物品収容空間内に位置させて前記物品収容空間内を吸湿して前記物品を防湿するための所定の形状の吸湿材を製造するために使用され、
当該方法が、
前記吸湿材の形状と略同形状の基材に前記吸湿膜形成用塗料を塗布し、前記基材に塗布した前記吸湿膜形成用塗料を乾燥させ、前記基材に前記吸湿膜を形成して、前記吸湿材を製造する工程、
から成る方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−137918(P2007−137918A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329312(P2005−329312)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】