説明

吸着熱交換器とその製造方法及び製造装置

【課題】 フィンの表面全域に吸着層を均一に形成することができる吸着熱交換器の製造方法、及び製造装置を提案し、吸着熱交換器の通風抵抗の低減、及び吸脱着性能の向上を図る。
【解決手段】吸着熱交換器の製造装置(20)には、吸着剤が液状のバインダに分散された原料液を貯留する貯留槽(35)と、熱交換器本体(40)を保持する支持部材(30)と、軸部材(21)とが設けられる。熱交換器本体(40)は、フィン(57)の配列方向に沿う軸部材(21)の周りを回転する。熱交換器本体(40)が原料液中を回転すると、フィン(57)の隙間全域に亘って原料液が行き渡り、フィン(57)の表面全域に原料液が付着する。熱交換器本体(40)が空気中を回転すると、フィン(57)の隙間に滞る余分な原料液が飛散し、フィン(57)の表面全域に原料液の膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器本体の表面に吸着剤を含む吸着層が形成される吸着熱交換器と、この吸着熱交換器の製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気中の水分を吸脱着して室内の調湿を行う調湿装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、吸着熱交換器が接続された冷媒回路を有する調湿装置が開示されている。この調湿装置の冷媒回路には、圧縮機、第1吸着熱交換器、膨張弁、第2吸着熱交換器、及び四方切換弁が接続されている。この冷媒回路では、冷媒を循環させることで冷凍サイクルが行われる。その結果、2つの吸着熱交換器は、一方の吸着熱交換器が蒸発器として機能し、他方の吸着熱交換器が凝縮器として機能する。
【0004】
具体的に、この調湿装置の加湿運転時には、室外空気が凝縮器となる吸着熱交換器を通過する。この吸着熱交換器では、冷媒によって吸着剤が加熱されており、吸着剤から水分が脱離して室外空気へ放出される。以上のようにして加湿された空気は室内へ供給され、室内の加湿が行われる。一方、室内空気は蒸発器となる吸着熱交換器を通過する。この吸着熱交換器では、冷媒によって吸着剤が冷却されており、空気中の水分が吸着剤に吸着されると同時にその際生じる吸着熱が冷媒に奪われる。以上のようにして吸着剤に水分を付与した空気は室外へ排出される。
【0005】
また、この調湿装置の除湿運転時には、室外空気が蒸発器となる吸着熱交換器を通過する。この吸着熱交換器では、冷媒によって吸着剤が冷却されており、空気中の水分が吸着剤に吸着されると同時にその際生じる吸着熱が冷媒に奪われる。以上のようにして除湿された空気は室内へ供給され、この室内の除湿が行われる。一方、室内空気は凝縮器となる吸着熱交換器を通過する。この吸着熱交換器では、吸着剤が冷媒によって加熱されており、吸着剤から水分が脱離して空気へ放出される。以上のようにして吸着剤の再生に利用された空気は室外へ排出される。
【0006】
この調湿装置では、空気の流路をダンパで切り換えると同時に、冷媒回路の冷媒の循環方向を四方切換弁で切り換えることで、2つの吸着熱交換器で再生動作と吸着動作とが交互に繰り返し行われる。即ち、この調湿装置では、吸着剤の吸着能力や再生能力を損なうこと無く、調湿した空気が室内に連続供給される。
【0007】
以上のようにして空気の調湿に利用される吸着熱交換器は、熱交換器本体と、この熱交換器本体に形成される吸着剤の積層膜(吸着層)によって構成される。上記熱交換器本体は、長方形板状に形成されて互いに平行に配列されるアルミニウム製の多数のフィンと、各フィンを貫通する銅製の伝熱管とから成るフィン・アンド・チューブ熱交換器で構成される。また、上記吸着剤としては、粉末状のゼオライト、シリカゲル、活性炭などが用いられる。
【特許文献1】特開2004−294048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようにして熱交換器本体の表面に吸着層を形成する方法としては、吸着剤及びバインダを含むスラリー状の原料液に熱交換器本体を浸積させて熱交換器本体の表面に原料液を付着させ、この膜状に付着した原料液を乾燥固化する方法が挙げられる。ところが、
熱交換器本体については、その表面積を稼ぐため、各フィンのピッチを比較的狭く(例えば1.4mm〜1.6mm)設定する場合が多い。このような場合には、各フィンの隙間に吸着剤やバインダが目詰まりしてしまう。特に、吸着量の増大を目的に吸着層を比較的厚く(例えば0.2mm〜0.3mm)しようとすると、目詰まりの問題が深刻となる。したがって、このような目詰まりに起因して各フィンの隙間を空気が通過できなくなり、この吸着熱交換器の通風抵抗の増加や吸脱着性能の低下を招いてしまう恐れがある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、フィンの表面全域に吸着層を目詰まりなく均一に形成することができる吸着熱交換器の製造方法や、その製造方法を行う製造装置、更にはその製造方法により製造された高性能の吸着熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、伝熱管(58)の伸長方向へ複数の板状のフィン(57)が配列された熱交換器本体(40)を液状のバインダ中に吸着剤が分散したスラリー状の原料液に浸積することによって上記熱交換器本体(40)の表面に吸着層を形成して吸着熱交換器を製造する方法を前提としている。そして、この吸着熱交換器の製造方法は、上記熱交換器本体(40)を上記原料液中に浸積する浸積行程と、上記浸積行程を経た熱交換器本体(40)を上記フィン(57)の配列方向に沿った回転軸を中心として空気中で回転させる飛散行程と、上記飛散行程を経た熱交換器本体(40)を乾燥させる乾燥行程とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
第1の発明では、吸着熱交換器の製造時において、いわゆるフィン・アンド・チューブ式の熱交換器本体(40)を吸着剤及びバインダを含む原料液に浸積する浸積行程が行われる。この浸積行程では、各フィン(57)の隙間に原料液が入り込み、各フィン(57)の表面に原料液が付着する。一方、このような浸積行程において、フィン(57)のピッチが比較的狭く設定されている場合、各フィン(57)の隙間に原料液が目詰まりしてしまうことになる。
【0012】
そこで、本発明では、上記浸積行程の後に飛散行程が行われる。この飛散行程では、熱交換器本体(40)のフィン(57)の配列方向に沿う回転軸を中心として熱交換器本体(40)が空気中で回転する。その結果、各フィン(57)の隙間に目詰まりした原料液や、各フィン(57)の表面に付着した余分な原料液が遠心力によって飛散する。このため、熱交換器本体(40)における各フィン(57)の間隔が多少狭くても、各フィン(57)の隙間を埋めている余分な原料液は、遠心力を受けることによって各フィン(57)の間から確実に排除される。
【0013】
上記飛散行程の後には、乾燥行程が行われる。この乾燥行程では、熱交換器本体(40)の表面に付着した原料液が乾燥固化される。その結果、熱交換器本体(40)の表面に吸着剤を含有する吸着層が形成される。この際、各フィン(57)の表面では、上述した飛散行程によって原料液の目詰まりが解消されている。このため、熱交換器本体(40)の表面には、比較的均一に吸着層が形成される。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、上記浸積行程では、上記熱交換器本体(40)を上記飛散行程時よりも低速で上記回転軸を中心として原料液中で回転させることを特徴とするものである。
【0015】
第2の発明の浸積行程では、上記熱交換器本体(40)が上記回転軸を中心として低速で回転しながら、原料液中に浸積される。この際、熱交換器本体(40)は、各フィン(57)の隙間における原料液の通過を許容する方向に回転する。その結果、各フィン(57)の隙
間全域に原料液が行き渡り、各フィン(57)の表面全域に原料液が付着する。
【0016】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記フィン(57)は、長方形板状に形成され、上記飛散行程では、上記フィン(57)の片側の長辺が回転軸側を向くような姿勢で熱交換器本体(40)を回転させることを特徴とするものである。
【0017】
第3の発明では、細長の長方形板状のフィン(57)が伝熱管(58)の伸長方向に配列される。上記飛散行程では、フィン(57)の片側の長辺が常に回転軸側を向くようにして熱交換器本体(40)が回転する。このような姿勢で熱交換器本体(40)が回転すると、フィン(57)の隙間に目詰まりした原料液や、フィン(57)の表面に付着した余分な原料液は、遠心力によって上記フィン(57)の幅方向に飛散することになる。つまり、この姿勢で熱交換器本体(40)を回転させると、フィン(57)から原料液を飛散させ易くなるので、フィン(57)の隙間から余分な原料液が確実に排除される。
【0018】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、上記浸積行程と、上記飛散行程と、上記乾燥行程と、上記乾燥行程を経た熱交換器本体(40)を水に浸積する含水行程とを順に繰り返し行うことを特徴とするものである。
【0019】
第4の発明では、上記乾燥行程において熱交換器本体(40)の表面に吸着剤を含有する吸着層を形成した後、熱交換器本体(40)を水に浸積する含水行程が行われる。この含水行程では、熱交換器本体(40)の表面の吸着層が水分を含んだ状態となる。
【0020】
更に、この含水行程の後には、上記浸積行程が再び行われる。この浸積行程において、原料液中に浸積される熱交換器本体(40)は、上記含水行程によってその表面の吸着層が水分を含んだ状態となっている。ここで、原料液中に浸積される熱交換器本体(40)の吸着層が、仮に乾燥状態である場合、この吸着層に付着した原料液中の水分が吸着層内に吸収され易くなる。このため、吸着層の表面に付着した原料液の粘度が高くなってしまう。したがって、その後の飛散行程において、フィン(57)の隙間の原料液を飛散させて原料液の目詰まりを解消するのが困難となってしまう。
【0021】
一方、本発明では、2度目以降の浸積行程においては、吸着層が予め水分を含んだ状態となるので、吸着層の表面に原料液中の水分が吸収されにくくなり、原料液の粘度を所定値以下に抑えることができる。その結果、その後の飛散行程においてもフィン(57)の隙間の原料液が確実に排除され、原料液の目詰まりが解消される。
【0022】
第5の発明は、第1又は第2の発明において、上記バインダが有機系の水性エマルジョンであり、上記原料液は上記吸着剤に対する上記バインダの固形分の重量比率が10%以上20%以下であることを特徴とするものである。
【0023】
第5の発明では、原料液に配合される液状のバインダとして、有機系の水性エマルジョンが用いられる。また、原料液中では、吸着剤に対するバインダの重量比率が10%以上20%以下となるように吸着剤とバインダの配合比率が調整される。
【0024】
第6の発明は、第1又は第2の発明において、上記原料液が、液温25℃、回転速度60min-1の条件においてB型回転粘度計で測定した粘度が、150mPa・s以上300mPa
・s以下であることを特徴とするものである。
【0025】
第6の発明では、B型回転粘度計(25℃、回転速度60min-1(rpm))で測定した粘度が150mPa・s以上300mPa・s以下となるように原料液の水分調整が行われる。
【0026】
第7の発明は、伝熱管(58)の伸長方向へ複数の板状のフィン(57)が配列された熱交換器本体(40)と、該熱交換器本体(40)の表面に形成された吸着剤を含有する吸着層とを備える吸着熱交換器を前提としている。そして、この吸着熱交換器は、上記吸着層の表面が不規則な凹凸模様を形成していることを特徴とするものである。
【0027】
第7の発明では、吸着熱交換器の吸着層の表面に、目視でも充分観察可能な不規則な凹凸模様が形成される。この凹凸模様は、塗料・塗装業界で用いられる、いわゆる「スチップル模様」、「さざなみ模様」、又は「ゆず肌模様」に類似した模様であり、細かい凹凸が波状あるいは繊維状の不規則な模様を形成している。
【0028】
第8の発明は、第7の発明において、上記吸着層の平均厚さが0.2mm以上0.3mm以下であることを特徴とするものである。
【0029】
第8の発明では、吸着層の平均厚さが0.2mm以上0.3mm以下となるように熱交換器本体(40)の表面に吸着層が形成される。
【0030】
第9の発明は、第6の発明において、上記各フィン(57)のピッチが1.4mm以上1.6mm以下であることを特徴とするものである。
【0031】
第9の発明では、各フィン(57)同士の間隔が1.4mm以上1.6mm以下の熱交換器本体(40)の表面に吸着層が形成される。
【0032】
第10の発明は、伝熱管(58)の伸長方向へ複数の板状のフィン(57)が配列された熱交換器本体(40)の表面に吸着層を形成して吸着熱交換器を製造する装置を前提としている。そして、この吸着熱交換器の製造装置は、液状のバインダ中に吸着剤が分散したスラリー状の原料液を蓄える貯留槽(35)と、上記フィン(57)の配列方向に沿った回転軸を中心として上記熱交換器本体(40)を回転させる回転機構(15)とを備え、熱交換器本体(40)を原料液中で回転させる第1状態と、該熱交換器本体(40)を原料液中から引き上げて空気中で回転させる第2状態とに切り換え可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0033】
第10の発明では、熱交換器本体(40)の表面に吸着層を形成する製造装置に、貯留槽(35)及び回転機構(15)が設けられる。貯留槽(35)にはバインダ及び吸着剤を含む原料液が蓄えられる。回転機構(15)は、フィン(57)の配列方向に沿った回転軸を中心に熱交換器本体(40)を回転させる。
【0034】
この製造装置が第1状態となる際には、回転機構(15)によって駆動される熱交換器本体(40)が貯留槽(35)内の原料液中で回転する。その結果、熱交換器本体(40)のフィン(57)の隙間に原料液が行き渡り、フィン(57)の表面全域に原料液が付着する。つまり、この製造装置を第1状態として熱交換器本体(40)を回転させると、上述の第2の発明の浸積行程が行われる。
【0035】
一方、製造装置が第2状態となる際には、回転機構(15)によって駆動される熱交換器本体(40)が空気中で回転する。その結果、熱交換器本体(40)のフィン(57)の隙間に目詰まりした原料液が遠心力によって飛散する。つまり、この製造装置を第2状態として熱交換器本体(40)を回転させると、上述の第1の発明の飛散行程が行われる。
【0036】
第11の発明は、第10の発明において、上記回転機構(15)が、水平方向に延びる上記回転軸としての軸部材(21)と、フィン(57)の配列方向と上記軸部材(21)とが平行となる姿勢で上記熱交換器本体(40)を保持し、上記熱交換器本体(40)と共に該軸部材
(21)の周りを回転する支持部材(30)とを備えていることを特徴とするものである。
【0037】
第11の発明の回転機構(15)には、水平方向に延びる軸部材(21)と、熱交換器本体(40)を保持する支持部材(30)とが設けられる。支持部材(30)は、フィン(57)の配列方向と軸部材軸(21)とが平行となるように熱交換器本体(40)を保持しながら、軸部材(21)と共に回転する。その結果、この製造装置の第1状態においては、支持部材(30)に保持される熱交換器本体(40)が原料液中を回転し、上記浸積行程が行われる。また、この製造装置の第2状態においては、支持部材(30)に保持される熱交換器本体(40)が空気中を回転し、上記飛散行程が行われる。
【0038】
第12の発明は、第11の発明において、上記支持部材(30)が、上記軸部材(21)を基準として線対称となるように一対の熱交換器本体(41,42)を支持することを特徴とす
るものである。
【0039】
第12の発明では、支持部材(30)に2つの熱交換器本体(41,42)が保持される。各
熱交換器本体(41,42)は、軸部材(21)を挟んで互いに対向するように配置される。こ
の製造装置の第1状態において、軸部材(21)と共に支持部材(30)が回転すると、各熱交換器本体(41,42)はそれぞれ原料液中を回転する。その結果、この製造装置では、2
つの熱交換器本体(41,42)の浸積行程が同時に行われる。
【0040】
また、この製造装置の第2状態において、軸部材(21)と共に支持部材(30)が回転すると、各熱交換器本体(41,42)はそれぞれ空気中を回転する。その結果、この製造装置
では、2つの熱交換器本体(41,42)の飛散行程が同時に行われる。
【発明の効果】
【0041】
第1の発明では、熱交換器本体(40)を原料液中に浸積させる浸積行程の後、熱交換器本体(40)を空気中で回転させる飛散行程を行うようにしている。このように、熱交換器本体(40)を空気中で回転させると、各フィン(57)の隙間などに滞った余分な原料液を遠心力によって飛散させることができる。このため、各フィン(57)の隙間における吸着剤やバインダの目詰まりを解消して、フィン(57)の表面全域に原料液を均一に付着させることができる。
【0042】
このようにして、熱交換器本体(40)の表面全域に原料液を付着させた後、乾燥行程において原料液を乾燥固化させると、熱交換器本体(40)の表面全域に亘って均一な吸着層が形成された吸着熱交換器を得ることができる。したがって、吸着熱交換器の通気抵抗を低減すると共に、この吸着熱交換器による水分の吸脱着性能の向上を図ることができる。
【0043】
また、上記飛散行程では、上述のように各フィン(57)の隙間における吸着剤の目詰まりを解消できるので、各フィン(57)のピッチを狭く設計することができる一方、吸着層の膜厚を厚くすることもできる。したがって、吸着熱交換器のコンパクト化、あるいは吸着熱交換器の吸脱着性能の一層の向上を図ることができる。
【0044】
さらに、本発明では、遠心力を利用してフィン(57)の表面に付着した原料液を飛散させるようにしている。このように原料液を飛散させると、吸着層の表面に不規則な凹凸模様を形成することができる。なお、この凹凸模様は、塗料・塗装業界で用いられる「スチップル模様」、「さざなみ模様」、又は「ゆず肌模様」に類似した模様であり、細かい凹凸が波状あるいは繊維状の不規則な模様を形成している。
【0045】
以上のように吸着層の表面に凹凸模様を形成することで、吸着層の比表面積を増大させることができる。したがって、吸着熱交換器による水分の吸脱着性能を更に向上させるこ
とができる。
【0046】
上記第2の発明によれば、浸積行程において、熱交換器本体(40)を原料液中で回転させるようにしている。その結果、各フィン(57)の隙間全域まで原料液が行き渡るので、各フィン(57)の表面全域に原料液を付着させることができる。したがって、各フィン(57)の表面全域に吸着層を形成することができ、この製造方法で得た吸着熱交換器の吸脱着性能を一層向上させることができる。
【0047】
上記第3の発明によれば、各フィン(57)の片側の長辺が回転軸側を向くようにしながら熱交換器本体(40)を回転させることで、上記飛散行程において、各フィン(57)の隙間に滞った原料液を容易に飛散させることができる。このため、各フィン(57)の隙間における吸着剤の目詰まりを効果的に解消することができる。
【0048】
上記第4の発明によれば、乾燥行程によって熱交換器本体(40)の表面に吸着層を形成した後に浸積行程を再度行う前に、熱交換器本体(40)を水に浸積させる含水行程を行うようにしている。このため、2度目以降の浸積行程において、熱交換器本体(40)の吸着層の表面に付着した原料液の粘度が高くなってしまうのを回避でき、その後の飛散行程において、各フィン(57)の隙間の余分な原料液を容易に飛散させることができる。したがって、吸着層の表面に再度原料液を上塗りする際にも、各フィン(57)の隙間における吸着剤やバインダの目詰まりを解消することができ、各フィン(57)の表面全域に原料液を均一に付着させることができる。
【0049】
上記第5の発明によれば、原料液のバインダとして有機系の水性エマルジョンを用いて吸着層を形成するようにしたので、例えば無機系のバインダを用いる場合と比較して、吸着層の柔軟性を向上できる。その結果、急激な温度変化や衝撃が生じても、熱交換器本体(40)から吸着層が剥離し難くなり、熱交換器本体(40)に対する吸着層の密着性を充分確保できる。特に、吸着剤に対するバインダ(固形分)の重量比率を10%以上20%以下とすることで、広範囲の温度変化に対しても充分な密着性を得ることができる。
【0050】
上記第6の発明によれば、原料液のB型回転粘度計で測定した粘度を150mPa・s以
上300mPa・s以下の範囲に調整するため、浸積行程時に原料液中で回転する熱交換器
本体(40)において、各フィン(57)の隙間全域まで容易に原料液を行き渡らせることができる。また、飛散行程時に空気中で回転する熱交換器本体(40)において、各フィン(57)の表面の原料液を容易に飛散させることができる。その結果、熱交換器本体(40)の表面には、その全域に亘って一層均一に原料液を付着させることができる。
【0051】
上記第7の発明によれば、熱交換器本体(40)の表面の吸着層に微細な凹凸模様を形成するようにしたので、この吸着層の比表面積を増大させることができる。このため、吸着熱交換器による水分の吸脱着性能を向上させることができる。
【0052】
上記第8の発明によれば、熱交換器本体(40)の表面の吸着層の平均厚さを0.2mm以上0.3mm以下としたので、吸着熱交換器の通気抵抗の増大を抑えながら、吸着層に必要量の吸着剤を担持させることができる。
【0053】
上記第9の発明によれば、各フィン(57)のピッチを1.4mm以上1.6mm以下の範囲とすることで、この吸着熱交換器の通気抵抗の増大を抑えながら、吸着熱交換器の表面に比較的大量の吸着剤を担持させることができる。したがって、この吸着熱交換器の水分の吸脱着性能を充分確保することができる。
【0054】
上記第10発明によれば、第1の発明の飛散行程及び第2の発明の浸積行程を実現可能
な吸着熱交換器の製造装置を提供できる。また、第11の発明によれば、支持部材(30)で熱交換器本体(40)を確実に保持しながら、上記飛散行程や上記浸積行程を行うことができる。
【0055】
更に、上記第12の発明によれば、2つの熱交換器本体(41,42)の飛散行程や浸積行
程を同時に行うことができ、吸着熱交換器の生産性の向上を図ることができる。また、これら2つの熱交換器本体(41)は、軸部材(21)を基準として線対称となる姿勢で回転するため、両熱交換器本体(41,42)の遠心力を互いに相殺することができる。このため、
軸部材(21)の回転動力を低減させながら、各熱交換器本体(41,42)を安定して回転さ
せることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0057】
本実施形態の吸着熱交換器(51,52)は、室内の調湿を行う調湿装置(10)に搭載され
るものである。この調湿装置(10)は、除湿した空気を室内へ供給する除湿運転と、加湿した空気を室内へ供給する加湿運転とが可能に構成されている。
【0058】
<調湿装置の構成>
上記調湿装置(10)は、冷媒回路(50)を備えている。図1に示すように、この冷媒回路(50)は、第1吸着熱交換器(51)、第2吸着熱交換器(52)、圧縮機(53)、四方切換弁(54)、及び電動膨張弁(55)が設けられた閉回路である。この冷媒回路(50)は、充填された冷媒を循環させることによって、蒸気圧縮冷凍サイクルを行う。
【0059】
上記冷媒回路(50)において、圧縮機(53)は、その吐出側が四方切換弁(54)の第1のポートに、その吸入側が四方切換弁(54)の第2のポートにそれぞれ接続されている。第1吸着熱交換器(51)の一端は、四方切換弁(54)の第3のポートに接続されている。第1吸着熱交換器(51)の他端は、電動膨張弁(55)を介して第2吸着熱交換器(52)の一端に接続されている。第2吸着熱交換器(52)の他端は、四方切換弁(54)の第4のポートに接続されている。
【0060】
上記四方切換弁(54)は、第1のポートと第3のポートが連通して第2のポートと第4のポートが連通する第1状態(図1(A)に示す状態)と、第1のポートと第4のポートが連通して第2のポートと第3のポートが連通する第2状態(図1(B)に示す状態)とに切り換え可能となっている。
【0061】
<吸着熱交換器の構成>
図2に示すように、第1吸着熱交換器(51)及び第2吸着熱交換器(52)は、熱交換器本体(40)の表面に吸着剤を含む吸着層を形成したものである。上記熱交換器本体(40)は、クロスフィン型のフィン・アンド・チューブ型の熱交換器で構成されている。これら熱交換器本体(40)は、アルミニウム製のフィン(57)と、このフィン(57)を貫通する銅製の伝熱管(58)とを備えている。上記複数のフィン(57)は、細長の長方形板状に形成され、伝熱管(58)の伸長方向に一定の間隔で平行に配列されている。
【0062】
上記各フィン(57)のピッチは、1.2mm以上2.2mm以下の範囲が好適であり、更には1.4mm以上1.6mm以下の範囲が好適である。また、上記伝熱管(58)の直径は、7.0mm以上9.5mm以下の範囲が好適である。また、伝熱管(58)についてのフィン(57)の幅方向の列数は、2列から4列までの範囲が好適である。また、伝熱管(58)についてのフィン(57)の長手方向の段数は、10段から20段までの範囲が好適である。更に、上記フィン(57)は、長方形板状のいわゆるプレートフィンで構成されているが、この
フィン(57)は、その幅方向の断面形状においてゆるやかな波形状になった、いわゆるワッフルフィンで構成されていても良い。
【0063】
<吸着熱交換器の製造装置の構成>
次に、上記吸着熱交換器(51,52)の製造装置(20)について説明する。図3に示すよ
うに、製造装置(20)は、回転機構(15)及び貯留槽(35)を備えている。
【0064】
図3(A)に示すように、上記回転機構(15)は、回転軸としての軸部材(21)、駆動モータ(22)、及び支持部材(30)を備えている。上記軸部材(21)は、水平方向に延びて形成されており、その両端側の部位がそれぞれ軸受け支持部(23,23)に支持されている
。この軸部材(21)の一端には、駆動モータ(22)が連結されている。この駆動モータ(22)は、一対の軸受け支持部(23,23)の支点を中心として軸部材(21)を回転させる。
【0065】
軸部材(21)の外周には、上記一対の軸受け支持部(23,23)の間に一対の上記支持部
材(30)が連結されている。図3(B)に示すように、各支持部材(30)は、円盤状の環状部(31)と、該環状部(31)から径方向外側に延出する4本のリブ部(32)と、各リブ部(32)の外端部に連結される枠部(33)とで構成されている。
【0066】
上記環状部(31)は、軸部材(21)が貫通されて該軸部材(21)の外周面に接合されている。上記各リブ部(32)は、環状部(31)と一体的に形成されており、該環状部(31)の外周に約90°間隔で設けられている。これら各リブ部(32)は、径方向外側に伸長した板状に形成されている。上記枠部(33)は、4枚の板部材(34,34,34,34)の端部が互
いに連結されることで構成される。枠部(33)は、その外縁及び内縁が略正方形に形成されている。そして、枠部(33)の内縁部には、各板部材(34)の長手方向の中央部に各リブ部(32)の外端が連結されている。
【0067】
上記一対の支持部材(30,30)には、2つの熱交換器本体(41,42)が同時に支持される。具体的に、各熱交換器本体(41,42)は、それぞれ一対の支持部材(30,30)に跨って配置され、その両端の各フィン(57,57)の片側の長辺部分が各支持体(30,30)の板部材(34,34)に沿うようにして締結される。その結果、各熱交換器本体(41,42)は、フィン(57)の片側の長辺が軸部材(21)を向くと共に、複数のフィン(57)の配列方向と軸部材(21)の軸方向とが互いに平行となる姿勢で、一対の支持部材(30,30)に支持される。
この状態で軸部材(21)が回転すると、各支持部材(30,30)は各熱交換器本体(41,42)を保持しながら軸部材(21)の周りを回転する。その結果、各熱交換器本体(41,42)は
、自転はせずに軸部材(21)の軸心を中心に旋回する。
【0068】
また、支持部材(30)では、枠部(33)において互いに向かい合う一組の板部材(34,34)に各熱交換器本体(41,42)の各フィン(57)が締結される。つまり、各熱交換器本体(41,42)は、軸部材(21)の軸心を基準として互いに線対称となるようにして各支持部
材(30,30)に支持される。その結果、軸部材(21)の回転と共に各熱交換器本体(41,42)が旋回しても、軸部材(21)に作用する各熱交換器本体(41,42)の遠心力は互いに相
殺される。
【0069】
上記貯留槽(35)は、液状のバインダ中に粉末状の吸着剤が分散したスラリー状の原料液を蓄えるものである。この貯留槽(35)は、上方が開放された略半円筒状に形成されており、一対の脚部(36)に支持されて軸部材(21)の下部に設置される。この貯留槽(35)は、上記軸部材(21)と接近する第1状態(図4の状態)と上記軸部材(21)と離間する第2状態(図5の状態)とに変位可能に構成されている。貯留槽(35)が第1状態となって軸部材(21)が回転すると、熱交換器本体(40)が貯留槽(35)内の原料液中を通過しながら回転する。一方、貯留槽(35)が第2状態となって軸部材(21)が回転すると、
熱交換器本体(41,42)は貯留槽(35)の原料液から引き上げられた状態で空気中を回転
する。
【0070】
<吸着熱交換器の製造方法>
次に、上記製造装置(20)による吸着熱交換器(51,52)の製造方法について説明する

【0071】
まず、図3に示すように、製造装置(20)の支持部材(30,30)に2つの熱交換器本体
(41,42)を互いに対向するようにして締結する。
【0072】
次に、第1状態の貯留槽(35)内に原料液を注入する。この貯留槽(35)内には、軸部材(21)から原料液の液面までの距離が、該軸部材(21)から熱交換器本体(41,42)ま
での距離よりも短くなるように原料液が蓄えられる。この原料液は、吸着剤に対する上記バインダの固形分の重量比率が10%以上20%以下となるように調整される。また、原料液は、液温25℃、回転速度60min-1の条件においてB型回転粘度計で測定した粘度
が150mPa・S以上300mPa・S以下となるように水分調整される。上記原料液に含まれる吸着剤は、ゼオライト、シリカゲル、活性炭、親水性又は吸水性の官能基を有する有機高分子ポリマ系材料、カルボキシル基又はスルホン酸基を有するイオン交換樹脂系材料、感温性高分子等の機能性高分子材料、セピオライト、イモゴライト、アロフェン及びカオリナイト等の粘土鉱物系材料等、水分の吸着に優れているものであれば特にこだわらないが、分散性や粘度等を考慮するとゼオライト、シリカゲル又はその混合物が好ましい。また、上記原料液に含まれるバインダは、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、又はエチレン酢酸ビニル共重合体等の有機系の水性エマルジョンが好適である。
【0073】
次の浸積行程では、第1状態の貯留槽(35)において、駆動モータ(22)が通電され、軸部材(21)及び支持部材(30)が回転する。その結果、各熱交換器本体(41,42)は、
各フィン(57)の配列方向を軸方向として軸部材(21)の周囲を旋回する。なお、上記熱交換器本体(41,42)は、比較的低速で回転する。
【0074】
この浸積行程では、図4に示すように、一方の熱交換器本体(第1熱交換器)(41)が回転しながら貯留槽(35)内の原料液中に浸積される。第1熱交換器(41)は、各フィン(57)の隙間における原料液の通過を許容する方向に回転している。このため、原料液は、第1熱交換器(41)の各フィン(57)の隙間全域へ確実に行き渡り、各フィン(57)の表面全域に膜状の原料が付着する。
【0075】
浸積行程において、軸部材(21)及び支持部材(30)が更に回転すると、他方の熱交換器本体(第2熱交換器)(42)が回転しながら貯留槽(35)内の原料液中に浸積される。第2熱交換器(42)は、各フィン(57)の隙間における原料液の通過を許容する方向に回転している。このため、原料液は、第2熱交換器(42)の各フィン(57)の隙間全域へ確実に行き渡り、各フィン(57)の表面全域に膜状の原料が付着する。
【0076】
次の飛散行程では、図5に示すように、貯留槽(35)が第2状態となって軸部材(21)及び支持部材(30)が回転する。その結果、熱交換器本体(41,42)は空気中で旋回する
。なお、この飛散行程において、軸部材(21)は、上記浸積行程よりも高速回転する(例えば500rpm)。
【0077】
空気中で各熱交換器本体(41,42)が回転すると、各熱交換器本体(41,42)の各フィン(57)の隙間に滞った余分な原料液が遠心力によって飛散する。その結果、各熱交換器(41,42)では、各フィン(57)の隙間における余分な原料液が排除され、各フィン(57)
の表面全域に付着した原料液が均一化される。
【0078】
上記飛散行程の後には、熱交換器本体(41,42)の乾燥行程が行われる。図6に示すよ
うに、この乾燥行程時には、貯留槽(35)に換えて給気槽(25)が軸部材(21)の下側に配置される。給気槽(25)は、貯留槽(35)と同様、上側が開放された略半円筒状に形成されており、その底板には空気の吹出口(26)が形成されている。この吹出口(26)からは送風機(27)によって搬送される温風が噴出される。乾燥行程時には、軸部材(21)の回転に伴って、各熱交換器(41,42)が上記吹出口(26)の近傍を順次通過する。その結
果、各熱交換器(41,42)の表面では、膜状の原料液が乾燥固化され、吸着剤を含む吸着
層が徐々に形成されていく。
【0079】
上記乾燥行程の後には、各熱交換器本体(41,42)の含水行程が行われる。この含水行
程では、図7に示すように、各熱交換器本体(41,42)が水槽(28)内の水に浸積される
。その結果、各熱交換器(41,42)の吸着層は水分を含んだ状態となる。
【0080】
上記含水行程の後には、上述した浸積行程が再び行われる。この浸積行程において、原料液中に浸積される熱交換器本体(41,42)は、その表面の吸着層が水分を含んだ状態と
なっている。ここで、原料液中に浸積される熱交換器本体(41,42)の吸着層が、仮に乾
燥状態である場合、この吸着層に付着した原料液中の水分が吸着層内に吸収され易くなる。このため、吸着層の表面に付着した原料液の粘度が高くなってしまう。したがって、その後の飛散行程において、フィン(57)の隙間の原料液を飛散させるのが困難となってしまう。一方、本実施形態では、2度目以降の浸積行程においては、吸着層が予め水分を含んだ状態となるので、吸着層の表面に原料液中の水分が吸収されにくくなる。その結果、その後の飛散行程においてもフィン(57)の隙間の原料液が容易に飛散される。
【0081】
以上のような図4から図7までの各行程を繰り返し行うことで、熱交換器本体(41,42
)の表面の吸着層が徐々に厚みを帯びていく。これらの各行程は、熱交換器本体(41,42
)の各フィン(57)の吸着層の平均厚さが0.2mm以上0.3mm以下の範囲となるまで繰り返し行われる(例えば約12サイクル程度)。
【0082】
<フィン表面の吸着層の形状>
以上のようにして得た吸着熱交換器(51,52)のフィン(57)の表面写真を図8(A)に
示す。一方、図8(B)は、熱交換器本体を原料液中に静止状態で浸積させた後、フィン表面に付着した原料液をエアーで飛ばしてから乾燥固化して吸着層を形成した、比較対象となるフィンの表面写真である。本実施形態のフィン(57)の吸着層には、目視でも確認できる微細な凹凸模様が形成される。この凹凸模様は、上述の飛散行程時において、遠心力を利用してフィン(57)の表面に付着した原料液を飛散させたことに起因して形成されたものと推察される。また、この凹凸模様は、塗料・塗装業界で用いられる、いわゆる「スチップル模様」、「さざなみ模様」、又は「ゆず肌模様」に類似した模様であると観察される。
【0083】
−運転動作−
次に、上述のようにして得た吸着熱交換器(51,52)を備えた調湿装置(10)の運転動
作について説明する。本実施形態の調湿装置(10)では、除湿運転と加湿運転とが行われる。除湿運転中や加湿運転中の調湿装置(10)は、取り込んだ室外空気(OA)を調湿してから供給空気(SA)として室内へ供給すると同時に、取り込んだ室内空気(RA)を排出空気(EA)として室外へ排出する。つまり、除湿運転中や加湿運転中の調湿装置(10)は、室内の換気を行っている。また、上記調湿装置(10)は、除湿運転中と加湿運転中の何れにおいても、第1動作と第2動作を所定の時間間隔(例えば3分間隔)で交互に繰り返す。
【0084】
上記調湿装置(10)は、除湿運転中であれば第1空気として室外空気(OA)を、第2空気として室内空気(RA)をそれぞれ取り込む。また、上記調湿装置(10)は、加湿運転中であれば第1空気として室内空気(RA)を、第2空気として室外空気(OA)をそれぞれ取り込む。
【0085】
先ず、第1動作について説明する。第1動作中には、第1吸着熱交換器(51)へ第2空気が、第2吸着熱交換器(52)へ第1空気がそれぞれ送り込まれる。この第1動作では、第1吸着熱交換器(51)についての再生動作と、第2吸着熱交換器(52)についての吸着動作とが行われる。
【0086】
図1(A)に示すように、第1動作中の冷媒回路(50)では、四方切換弁(54)が第1状態に設定される。圧縮機(53)を運転すると、冷媒回路(50)内で冷媒が循環する。具体的に、圧縮機(53)から吐出された冷媒は、第1吸着熱交換器(51)で放熱して凝縮する。第1吸着熱交換器(51)で凝縮した冷媒は、電動膨張弁(55)を通過する際に減圧され、その後に第2吸着熱交換器(52)で吸熱して蒸発する。第2吸着熱交換器(52)で蒸発した冷媒は、圧縮機(53)へ吸入されて圧縮され、再び圧縮機(53)から吐出される。
【0087】
このように、第1動作中の冷媒回路(50)では、第1吸着熱交換器(51)が凝縮器となり、第2吸着熱交換器(52)が蒸発器となる。第1吸着熱交換器(51)では、フィン(57)表面の吸着剤が伝熱管(58)内の冷媒によって加熱され、加熱された吸着剤から脱離した水分が第2空気に付与される。一方、第2吸着熱交換器(52)では、フィン(57)表面の吸着剤に第1空気中の水分が吸着され、発生した吸着熱が伝熱管(58)内の冷媒に吸熱される。
【0088】
そして、除湿運転中であれば、第2吸着熱交換器(52)で除湿された第1空気が室内へ供給され、第1吸着熱交換器(51)から脱離した水分が第2空気と共に室外へ排出される。一方、加湿運転中であれば、第1吸着熱交換器(51)で加湿された第2空気が室内へ供給され、第2吸着熱交換器(52)に水分を奪われた第1空気が室外へ排出される。
【0089】
次に、第2動作について説明する。第2動作中には、第1吸着熱交換器(51)へ第1空気が、第2吸着熱交換器(52)へ第2空気がそれぞれ送り込まれる。この第2動作では、第2吸着熱交換器(52)についての再生動作と、第1吸着熱交換器(51)についての吸着動作とが行われる。
【0090】
図1(B)に示すように、第2動作中の冷媒回路(50)では、四方切換弁(54)が第2状態に設定される。圧縮機(53)を運転すると、冷媒回路(50)内で冷媒が循環する。具体的に、圧縮機(53)から吐出された冷媒は、第2吸着熱交換器(52)で放熱して凝縮する。第2吸着熱交換器(52)で凝縮した冷媒は、電動膨張弁(55)を通過する際に減圧され、その後に第1吸着熱交換器(51)で吸熱して蒸発する。第1吸着熱交換器(51)で蒸発した冷媒は、圧縮機(53)へ吸入されて圧縮され、再び圧縮機(53)から吐出される。
【0091】
このように、冷媒回路(50)では、第2吸着熱交換器(52)が凝縮器となり、第1吸着熱交換器(51)が蒸発器となる。第2吸着熱交換器(52)では、フィン(57)表面の吸着剤が伝熱管(58)内の冷媒によって加熱され、加熱された吸着剤から脱離した水分が第2空気に付与される。一方、第1吸着熱交換器(51)では、フィン(57)表面の吸着剤に第1空気中の水分が吸着され、発生した吸着熱が伝熱管(58)内の冷媒に吸熱される。
【0092】
そして、除湿運転中であれば、第1吸着熱交換器(51)で除湿された第1空気が室内へ供給され、第2吸着熱交換器(52)から脱離した水分が第2空気と共に室外へ排出される。一方、加湿運転中であれば、第2吸着熱交換器(52)で加湿された第2空気が室内へ供
給され、第1吸着熱交換器(51)に水分を奪われた第1空気が室外へ排出される。
【0093】
−実施形態の効果−
上記実施形態に係る吸着熱交換器(51,52)の製造方法において、熱交換器本体(40)
を原料液中に浸積させる浸積行程の後、熱交換器本体(40)を空気中で回転させる飛散行程を行うようにしている。このように、熱交換器本体(40)を空気中で回転させると、各フィン(57)の隙間などに滞った余分な原料液を遠心力によって飛散させることができる。このため、各フィン(57)の隙間における吸着剤やバインダの目詰まりを解消して、フィン(57)の表面全域に原料液を均一に付着させることができる。
【0094】
このようにして、熱交換器本体(40)の表面全域に原料液を付着させた後、乾燥行程のいて、この原料液を乾燥固化させると、熱交換器本体(40)の表面全域に亘って均一な吸着層が形成された吸着熱交換器を得ることができる。したがって、吸着熱交換器の通気抵抗を低減すると共に、この吸着熱交換器による水分の吸脱着性能の向上を図ることができる。
【0095】
また、この飛散行程では、上述のように各フィン(57)の隙間における吸着剤の目詰まりを解消できるので、各フィン(57)のピッチを狭く設計することができる一方、吸着層の膜厚を厚くすることもできる。したがって、吸着熱交換器のコンパクト化、あるいは吸着熱交換器の吸脱着性能の一層の向上を図ることができる。
【0096】
更に、飛散行程時において、遠心力を利用してフィン(57)の表面に付着した原料液を飛散させることで、図8の写真に示すように吸着層の表面に不規則な凹凸模様を形成することができる。その結果、本実施形態の製造方法で得た吸着熱交換器(51,52)では、単
にエアーで原料液を飛ばした図9の吸着層と比較して、吸着層の比表面積が大きくなる。したがって、吸着熱交換器による水分の吸脱着性能を一層向上させることができる。
【0097】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上説明したように、本発明は、熱交換器本体の表面に吸着剤を含む吸着層が形成される吸着熱交換器と、この吸着熱交換器の製造方法及び製造装置について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施形態の冷媒回路の構成を示す配管系統図であって、(A)は第1動作中の動作を示すものであり、(B)は第2動作中の動作を示すものである。
【図2】吸着熱交換器の概略斜視図である。
【図3】実施形態の吸着熱交換器の製造装置の概略構成図であって、(A)は横断面図であり、(B)は縦断面図である。
【図4】吸着熱交換器の製造時における浸積行程を説明する概略構成図である。
【図5】吸着熱交換器の製造時における飛散行程を説明する概略構成図である。
【図6】吸着熱交換器の製造時における乾燥行程を説明する概略構成図である。
【図7】吸着熱交換器の製造時における含水行程を説明する概略構成図である。
【図8】表面に吸着層を形成したフィンの表面写真であり、(A)は実施形態に係るフィンを示すものであり、(B)は比較対象となるフィンを示すものである。
【符号の説明】
【0100】
15 回転機構
20 製造装置
21 軸部材(回転軸)
30 支持部材
40 熱交換器本体
51,52 吸着熱交換器
57 フィン
58 伝熱管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱管(58)の伸長方向へ複数の板状のフィン(57)が配列された熱交換器本体(40)を液状のバインダ中に吸着剤が分散したスラリー状の原料液に浸積することによって上記熱交換器本体(40)の表面に吸着層を形成して吸着熱交換器を製造する方法であって、
上記熱交換器本体(40)を上記原料液中に浸積する浸積行程と、
上記浸積行程を経た熱交換器本体(40)を上記フィン(57)の配列方向に沿った回転軸を中心として空気中で回転させる飛散行程と、
上記飛散行程を経た熱交換器本体(40)を乾燥させる乾燥行程とを備えていることを特徴とする吸着熱交換器の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記浸積行程では、上記熱交換器本体(40)を上記飛散行程時よりも低速で上記回転軸を中心として原料液中で回転させることを特徴とする吸着熱交換器の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記フィン(57)は、長方形板状に形成され、
上記飛散行程では、上記フィン(57)の片側の長辺が回転軸側を向くような姿勢で熱交換器本体(40)を回転させることを特徴とする吸着熱交換器の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2において、
上記浸積行程と、
上記飛散行程と、
上記乾燥行程と、
上記乾燥行程を経た熱交換器本体(40)を水に浸積する含水行程とを順に繰り返し行うことを特徴とする吸着熱交換器の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2において、
上記バインダは、有機系の水性エマルジョンであり、
上記原料液は、上記吸着剤に対する上記バインダの固形分の重量比率が10%以上20%以下であることを特徴とする吸着熱交換器の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2において、
上記原料液は、液温25℃、回転速度60min-1の条件においてB型回転粘度計で測定
した粘度が、150mPa・s以上300mPa・s以下であることを特徴とする吸着熱交換器の製造方法。
【請求項7】
伝熱管(58)の伸長方向へ複数の板状のフィン(57)が配列された熱交換器本体(40)と、該熱交換器本体(40)の表面に形成された吸着剤を含有する吸着層とを備える吸着熱交換器であって、
上記吸着層の表面は不規則な凹凸模様を形成していることを特徴とする吸着熱交換器。
【請求項8】
請求項7において、
上記吸着層の平均厚さが0.2mm以上0.3mm以下であることを特徴とする吸着熱交換器。
【請求項9】
請求項7において、
上記各フィン(57)のピッチが1.4mm以上1.6mm以下であることを特徴とする吸着熱交換器。
【請求項10】
伝熱管(58)の伸長方向へ複数の板状のフィン(57)が配列された熱交換器本体(40)の表面に吸着層を形成して吸着熱交換器を製造する装置であって、
液状のバインダ中に吸着剤が分散したスラリー状の原料液を蓄える貯留槽(35)と、
上記フィン(57)の配列方向に沿った回転軸を中心として上記熱交換器本体(40)を回転させる回転機構(15)とを備え、
熱交換器本体(40)を原料液中で回転させる第1状態と、該熱交換器本体(40)を原料液中から引き上げて空気中で回転させる第2状態とに切り換え可能に構成されていることを特徴とする吸着熱交換器の製造装置。
【請求項11】
請求項10において、
上記回転機構(15)は、水平方向に延びる回転軸を構成する軸部材(21)と、
上記フィン(57)の配列方向と上記軸部材(21)とが平行となる姿勢で上記熱交換器本体(40)を保持し、上記熱交換器本体(40)と共に該軸部材(21)の周りを回転する支持部材(30)とを備えていることを特徴とする吸着熱交換器の製造装置。
【請求項12】
請求項11において、
上記支持部材(30)は、上記軸部材(21)の軸心を基準として線対称となるように一対の熱交換器本体(41,42)を支持することを特徴とする吸着熱交換器の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−46902(P2007−46902A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294781(P2006−294781)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【分割の表示】特願2005−188877(P2005−188877)の分割
【原出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】