説明

周波数シンセサイザ

【課題】 PLL回路では、構成部品で発生、もしくは外部から漏れ込んで出力信号にのってくるスプリアスを抑圧することは容易ではなく、特に近傍のスプリアスに関しては抑圧することが困難であった。
【解決手段】 基準信号及びN分周したフィードバック信号をそれぞれ2系統に分割し、一方の基準信号の位相を180度位相器により180度反転させることで、位相比較された互いに逆相の信号を生成し、高域通過フィルタによって一方の出力信号からノイズを取り出した後、一方の出力信号と高域通過フィルタの出力信号を合成器にて合成して、電圧制御発振器に入力される制御信号からノイズを打ち消す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PLL(Phase Locked loop)回路方式の周波数シンセサイザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
周波数シンセサイザの一種であるPLL回路は、安定な周波数逓倍回路として広く利用されている。PLL回路では、位相比較器、ループフィルタ、電圧制御発振器、分配器、1/N分周器により構成されて、基準信号のN倍の周波数を持つ安定な信号を得る (例えば、非特許文献1参照)
【0003】
【非特許文献1】Floyd M. Gardner, Ph.D 著,「Phaselock Techniques」 ,A Wiley-Interscience Publication,p1〜p7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のPLL回路を用いた周波数シンセサイザでは、構成部品で発生、もしくは外部から漏れ込んで出力信号にのってくるスプリアスの発生が、ノイズのない安定な信号を発振するために、重大な問題となっている。
【0005】
伝搬信号(キャリア)の中心周波数から周波数が離れたスプリアスに関しては、フィルタをPLL回路の後段に接続することで、フィルタ帯域内でスプリアスを抑圧することができる。しかし、キャリアの中心周波数近傍のスプリアスについては、フィルタでは抑圧することが不可能なため、スプリアスの発生を抑えるように、回路構成、使用部品等でノイズの少ない構成を用いて、スプリアス自体が発生しないようにしていた。
しかしながら、このような対策を講じたとしても、スプリアスの発生を完全に抑えることはできなかった。
【0006】
この発明は、係る課題を解決するために成されたものであり、PLL回路を構成する電圧制御発振器に入力される、制御電圧に含まれるノイズを低減して、スプリアスの抑圧された周波数シンセサイザを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による周波数シンセサイザは、基準信号を発生する基準信号発生器と、入力される制御電圧に応じて所定の周波数で発振する電圧制御発振器と、前記基準信号を分配する分配器と、前記分配器で分配された一方の基準信号の位相を、逆位相に反転する180度位相器と、前記電圧制御発振器の出力信号をN分周(Nは2以上の整数)する分周器と、前記180度位相器で位相反転された信号と前記分周器でN分周された分周信号とを、位相比較する第1の位相比較器と、前記分配器で分配された他方の基準信号と前記分周器でN分周された分周信号とを、位相比較する第2の位相比較器と、前記第2の位相比較器で位相比較された信号から高周波成分を取り出す高域通過フィルタと、前記第1の位相比較器で位相比較された信号と前記高域通過フィルタの通過信号とを合成する合成器と、前記合成器の合成信号を濾波し、濾波した信号を前記電圧制御発振器に制御電圧として入力するループフィルタと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、PLL回路を構成する電圧制御発振器に対し、基準信号に含まれるノイズを打ち消し、低ノイズな制御電圧を入力することによって、電圧制御発振器の発振周波数に含まれたスプリアスを抑圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は実施の形態1による周波数シンセサイザの構成を示している。
実施の形態1による周波数シンセサイザは、基準信号発生器1と、分配器2と、180度位相器3と、第1の位相比較である位相比較器4と、第2の位相比較である位相比較器5と、高域通過フィルタ6と、合成器7と、ループフィルタ8と、電圧制御発振器9と、分配器10と、1/N分周器12と、分配器13とを備えて構成される。周波数シンセサイザはPLL回路を構成し、安定な周波数逓倍回路として用いられる。
【0010】
基準信号発生器1から入力される基準信号を、分配器2により2系統に分割する。また、電圧制御発振器9からの出力信号は、分配器10により2系統に分割し、一方を出力信号として出力端子11より出力する。もう一方をフィードバック信号として1/N分周器12によりN分周(Nは2以上の正の整数)した後、分配器13にて2系統に分割する。
【0011】
基準信号の一方は、180度位相器3にて位相を180度反転し、その信号とN分周され分配器13で分配されたフィードバック信号の一方を、位相比較器4により位相比較する。また、もう一方の基準信号とN分周され分配器13で分配されたフィードバック信号のもう一方は、位相比較器5により位相比較し、高域通過フィルタ6にて高周波成分(ノイズ)のみを取り出す。この高周波成分(ノイズ)と位相比較器4からの出力信号を、合成器7により合成する。その出力信号は、ループフィルタ8を通過し、ループフィルタ8で濾波された信号が電圧制御発振器9に入力される制御信号となる。
【0012】
次に動作原理を説明する。図2は分配器2への入力から位相比較器4及び位相比較器5の入力までの信号波形の一例を示した図である。
基準信号発生器1より入力される信号を例えば基準信号14のような信号とすると、分配器2の出力信号は分配器出力15及び分配器出力17となる。分配器信号15が180度位相器3を通過すると、位相が180度反転した位相器出力16のような信号を得る。このとき、位相器出力16と分配器出力17の位相は逆相の関係となる。各信号の関係は数1で与えられる。なお、同式中には、所望波と高周波成分(ノイズ)を明記した。
【0013】
【数1】

【0014】
数1において、Viは基準信号14を、Vi'は分配器出力15及び分配器出力17を、Vは信号電圧の最大値を、ω及びθはそれぞれ所望波の角周波数及び位相を、ωn及びθnはそれぞれ高周波成分(ノイズ)の角周波数及び位相を示す。また、Vi"は位相器出力を示し、Vi'とVi"が逆相の関係にあることが分かる。
【0015】
図3は位相比較器4及び位相比較器5からの出力から、合成器10への入力までの信号波形の一例を示した図である。
図3(a)において、位相器出力16とN分周したフィードバック信号の一方とを位相比較器4により位相比較した信号は、位相比較信号18に示すような信号となる。
また、図3(b)において、分配器出力17とN分周したフィードバック信号のもう一方を位相比較した信号は、位相比較信号19のような信号となる。
さらに、位相比較信号19は、高域通過フィルタ6により低周波成分(所望波)を取り除かれ、図3(b)の高周波成分(ノイズ)20に示すように、高周波成分(ノイズ)のみが取り出される。
このとき、この高周波成分(ノイズ)20と位相比較信号18に含まれる高周波成分(ノイズ)は逆相の関係にある。各信号の関係は数2で与えられる。
【0016】
【数2】

【0017】
数2において、Vdは位相比較信号18を、Vd'は位相比較信号19を、V'は位相比較後の信号電圧の最大値を、ω'及びθ'はそれぞれ位相比較後の所望波の角周波数及び位相を、ω'n及びθ'nはそれぞれ位相比較後の高周波成分(ノイズ)の角周波数及び位相を示す。このとき、VdとVd'が逆相の関係にあることが分かる。また、Vd”は高周波成分(ノイズ)20を示している。
【0018】
図4は合成器7の入出力信号の一例を示した図である。位相比較信号18と高周波成分(ノイズ)20を合成器7にて合成する。このとき、位相比較信号18に含まれる高周波成分(ノイズ)と高周波成分(ノイズ)20の位相は逆相となっているため、所望波に影響することなく互いの高周波成分(ノイズ)のみを打ち消し合う。その結果合成信号21に示すような低ノイズの信号を得ることができる。各信号の関係は数3で与えられえる。
【0019】
【数3】

【0020】
数3において、Vcは合成信号21を示しており、VdとVd”を合成することによって、逆相となっている高周波成分(ノイズ)が打ち消し合い、所望波のみを得ることができる。
【0021】
この低ノイズな信号はループフィルタ8に入力される。ループフィルタ8では、キャリア中心周波数の近傍を除いた周波数帯域で、合成器7の出力信号中のノイズ成分を除去することによって、低ノイズな信号に含まれるノイズを更に抑圧することができる。ループフィルタ8の出力信号は、電圧制御発振器9に対して制御信号として出力される。電圧制御発振器9からの出力信号に含まれるスプリアスレベルは、制御信号に含まれるノイズレベルに依存する。電圧制御発振器9はノイズの抑圧された制御電圧が入力されるので、電圧制御発振器9はスプリアスの抑圧された信号を出力することができる。
【0022】
以上説明した通り、この実施の形態では、分配器2と180度位相器3と位相比較器4と位相比較器5と高域通過フィルタ6と合成器7とで構成されたノイズリダクション機能を設けることにより、主にキャリアの中心周波数近傍の制御信号に含まれるノイズを除去することができる。
従来の周波数シンセサイザでは、このスプリアスを抑圧することが不可能であったが、この実施の形態では、このノイズリダクション機能によってキャリアの中心周波数近傍のスプリアスを、より低減することができる。
【0023】
図5は、この実施の形態のノイズリダクション機能を付加する前後における、スプリアスの抑圧効果を定性的に説明する図である。
図において、図5(a)はノイズリダクション機能を持たない場合の、出力端子11からの出力信号を例示する図である。図5(b)はこの実施の形態によるノイズリダクション機能を付加した場合の、出力端子11からの出力信号を例示する図である。
図5(a)に示すように、所望波のキャリア中心周波数の近傍では、高い出力レベルのスプリアスが生じている。また、図5(b)に示すように、所望波のキャリア中心周波数の近傍で生じるスプリアスは、出力レベルが抑圧され、例えば−30dB以下に抑えられる。
【0024】
したがって、ノイズリダクション機能を持たない場合の周波数シンセサイザに比べて、この実施の形態による周波数シンセサイザはノイズリダクション機能を付加しているので、より低スプリアスな出力信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態による周波数シンセサイザの構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態による周波数シンセサイザの基準信号分配から位相比較器入力までの信号の一例を示した図である。
【図3】この発明の実施の形態による周波数シンセサイザの位相比較器出力から合成器入力までの信号の一例を示した図である。
【図4】この発明の実施の形態による周波数シンセサイザの合成器入力から合成器出力までの信号の一例を示した図である。
【図5】この発明の実施の形態による周波数シンセサイザのノイズリダクション機能によるスプリアス低減効果を示した図である。
【符号の説明】
【0026】
1 基準信号発生器、2 分配器、3 180度位相器、4 位相比較器、5 位相比較器、6 高域通過フィルタ、7 合成器、8 ループフィルタ、9 電圧制御発振器、10 分配器、11 出力、12 1/N分周期、13 分配器、14 基準信号、15 分配器出力、16 位相器出力、17 分配器出力、18 位相比較信号、19 位相比較信号、20 高周波成分(ノイズ)、21 合成信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準信号を発生する基準信号発生器と、
入力される制御電圧に応じて所定の周波数で発振する電圧制御発振器と、
前記基準信号を分配する分配器と、
前記分配器で分配された一方の基準信号の位相を、逆位相に反転する180度位相器と、
前記電圧制御発振器の出力信号をN分周(Nは2以上の整数)する分周器と、
前記180度位相器で位相反転された信号と前記分周器でN分周された分周信号とを、位相比較する第1の位相比較器と、
前記分配器で分配された他方の基準信号と前記分周器でN分周された分周信号とを、位相比較する第2の位相比較器と、
前記第2の位相比較器で位相比較された信号から高周波成分を取り出す高域通過フィルタと、
前記第1の位相比較器で位相比較された信号と前記高域通過フィルタの通過信号とを合成する合成器と、
前記合成器の合成信号を濾波し、濾波した信号を前記電圧制御発振器に制御電圧として入力するループフィルタと、
を備えた周波数シンセサイザ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−245991(P2006−245991A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58599(P2005−58599)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】