説明

噴霧測定方法及び噴霧測定装置

【課題】噴射装置から噴射される流体の噴射方向を精度良く測定することができる噴霧測定方法及び噴霧測定装置を提供する。
【解決手段】制御装置10は、実空間上で噴口32から燃料を噴射した際に面状光20上に形成される噴霧断面画像40を取得し、噴霧断面画像40上で抽出した噴霧断面像40aに対応する重心算出領域Dを可変設定するとともに、可変設定された重心算出領域D内の各画素の輝度を重みとして当該重心算出領域Dの重心位置Pgを算出し、重心算出領域Dの重心位置Pgと中心位置Pcとが設定誤差範囲内で一致するときノズル31から重心位置Pgに向かう方向を噴霧方向として特定する。これにより、インジェクタ30から噴射される燃料の噴射方向を精度良く測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、インジェクタから噴射された流体の噴霧状態を測定する噴霧測定方法及び噴霧測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディーゼルエンジンや直噴式のガソリンエンジン等においては、筒内に噴射される燃料の噴射方向が大きな意味を持つ。このため、この種のエンジンにおいては、燃料噴射弁(インジェクタ)から噴射される燃料の噴射方向を正確に把握することが要求されている。
【0003】
インジェクタの噴射燃料方向を測定するための技術として、例えば、特許文献1には、インジェクタの噴射口(ノズル)から噴射方向に延びる噴射口軸線に対し垂直に面状光を照射するとともに、面状光に対してある一定の角度を持たせたビデオカメラを設置し、面状光上に生じた噴霧断面像をビデオカメラで撮像して当該噴霧断面像の輝度がピークとなる画素を噴霧中心として定義し、その噴霧中心と噴口との位置関係から噴霧角を算出する技術が開示されている。
【0004】
ここで、特許文献1の技術では、噴霧断面像を記録した噴霧画像データから輝度ピークを算出する方法として以下の手順を採用している。
【0005】
すなわち、先ず、噴霧画像データの各画素において、複数枚の噴霧画像データの輝度値の加算平均を行う。次いで、ある一定輝度以下となる画素データを削除し、噴霧画像データ上に噴霧断面像のみを抽出して、その輪郭を抽出する。次いで、輪郭の中心を基準として、面状光に対するビデオカメラの角度に応じた回転処理を施すことで、面状光に対して垂直な位置から撮影した噴霧画像データを生成する。そして、噴霧画像データ内の、輪郭により定義された噴霧断面像内における輝度値が最高となる画素を選択し、これを噴霧中心として定義する。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、取得した噴霧断面像の輪郭(外縁位置)を算出し、その外縁位置とノズル先端との位置関係から各噴霧の噴霧角(噴霧外角、噴霧内角)を定義し、さらに、噴霧外角と噴霧内角の中間となる角度を噴霧の中心軸として定義する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−148599号公報
【特許文献2】特開2005−24522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術は、計測時の各種設定等によっては噴霧中心を厳密に特定することが困難となる虞がある。具体的には、例えば、面状光のセッティング、ビデオカメラのセッティング、或いは、噴霧の液滴密度等の各種条件に起因して噴霧断面像上の噴霧中心付近の画素にサチュレーションが発生した場合等に、輝度値が最高となる画素が複数出現して噴霧中心を厳密に特定することが困難となる虞がある。
【0009】
また、上述の特許文献2に開示された技術は、噴霧断面が円形或いは楕円形等であることを前提とし、噴霧外角と噴霧内角との中間角に基づいて噴霧中心軸を定義しているため、必ずしも妥当な噴霧中心軸が得られるとは限らない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、噴射装置から噴射される流体の噴射方向を精度良く測定することができる噴霧測定方法及び噴霧測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、噴射装置のノズルに開口する噴口から噴射された流体の噴射方向を測定する噴霧測定方法であって、前記ノズルに対向する面状光に対して前記噴口から流体を噴射した際に前記面状光上に形成される噴霧断面画像を取得する噴霧断面画像取得手順と、前記噴霧断面画像上の噴霧断面像に対応する重心算出領域を可変設定する重心算出領域設定手順と、前記重心算出領域内の各画素の輝度を重みとして当該重心算出領域の重心位置を算出する重心位置算出手順と、前記重心算出領域の重心位置と中心位置とが設定誤差範囲内で一致するとき、前記ノズルから前記重心位置に向かう方向を噴射方向として特定する噴霧方向特定手順と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、噴射装置のノズルに開口する噴口から噴射された流体の噴射方向を測定する噴霧測定装置であって、前記ノズルに対向する面状光に対して前記噴口から流体を噴射した際に前記面状光上に形成される噴霧断面画像を取得する噴霧断面画像取得手段と、前記噴霧断面画像上の噴霧断面像に対応する重心算出領域を可変設定する重心算出領域設定手段と、前記重心算出領域内の各画素の輝度を重みとして当該重心算出領域の重心位置を算出する重心位置算出手段と、前記重心算出領域の重心位置と中心位置とが設定誤差範囲内で一致するとき、前記ノズルから前記重心位置に向かう方向を噴射方向として特定する噴霧方向特定手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、噴射装置から噴射される流体の噴射方向を精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】噴霧測定装置の概略構成図
【図2】画像補正のための計測系を示す説明図
【図3】(a)はは撮影によって取得した噴霧断面画像の一例を模式的に示す説明図であり(b)は面状光強度補正用のミスト画像の一例を示す説明図であり(c)は撮影された格子画像の一例を模式的に示す説明図であり(d)は実空間座標系に変換した(c)の格子画像を模式的に示す説明図であり(e)は(c)と(d)との関係に基づいて歪み補正した(a)の噴霧断面画像を示す説明図であり(f)は加算平均処理後の噴霧断面画像を示す説明図
【図4】噴霧方向評価ルーチンを示すフローチャート
【図5】噴霧断面画像取得サブルーチンを示すフローチャート
【図6】面状光強度分布補正処理サブルーチンを示すフローチャート
【図7】噴霧断面画像歪み補正処理サブルーチンを示すフローチャート
【図8】噴霧角算出処理サブルーチンを示すフローチャート
【図9】重心算出領域の重心位置と中心位置との関係を示す説明図
【図10】重心算出領域の設定方法を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は噴霧測定装置の概略構成図、図2は画像補正のための計測系を示す説明図、図3(a)はは撮影によって取得した噴霧断面画像の一例を模式的に示す説明図であり(b)は面状光強度補正用のミスト画像の一例を示す説明図であり(c)は撮影された格子画像の一例を模式的に示す説明図であり(d)は実空間座標系に変換した(c)の格子画像を模式的に示す説明図であり(e)は(c)と(d)との関係に基づいて歪み補正した(a)の噴霧断面画像を示す説明図であり(f)は加算平均処理後の噴霧断面画像を示す説明図、図4は噴霧方向評価ルーチンを示すフローチャート、図5は噴霧断面画像取得サブルーチンを示すフローチャート、図6は面状光強度分布補正処理サブルーチンを示すフローチャート、図7は噴霧断面画像歪み補正処理サブルーチンを示すフローチャート、図8は噴霧角算出処理サブルーチンを示すフローチャート、図9は重心算出領域の重心位置と中心位置との関係を示す説明図、図10は重心算出領域の設定方法を示す説明図である。
【0016】
図1に示す噴霧測定装置1は、噴射装置の一例であるエンジンのインジェクタ30から噴射された燃料(流体)の噴霧を測定する。本実施形態で示すインジェクタ30は、例えば、ガソリンエンジン或いはディーセルエンジンの筒内に燃料を噴射するものであり、このインジェクタ30は、ノズル31の先端部に複数(例えば、5個)の噴口32を有する。
【0017】
噴霧測定装置1は、面状光20を発生する光源装置5と、面状光20に対して設定距離離間した位置にインジェクタ30を保持する保持機構6と、面状光20を撮像する撮像装置7と、面状光20に対してミスト21を発生するミスト発生器8と、これらを統括して制御する制御装置10とを備えて要部が構成されている。
【0018】
光源装置5は、例えば、半導体レーザ光源の前方にコリメータレンズ、絞り、円筒レンズ(何れも図示せず)等を配置して要部が構成されている。この光源装置5は、例えば、光軸Olが水平方向に指向するようセットされ、水平方向に扇状に拡開する光スクリーン状の面状光20を発生する(図1,2参照)。
【0019】
保持機構6は、例えば、インジェクタ30を保持する略円板状の保持プレート6aを有する。この保持プレート6aは、例えば、面状光20(光軸Ol)に直交する鉛直方向下向きにノズル31の中心軸Onを指向させた状態で、インジェクタ30を保持する。また、保持プレート6aには、例えば、ステッピングモータ等を内蔵する駆動ユニット6bが連設されている。そして、駆動ユニット6bによって保持プレート6aが回動動作されることにより、保持機構6は、インジェクタ30をノズル31の中心軸On周りに回動させることが可能となっている。
【0020】
なお、本実施形態においては、例えば、図2に示すように、ノズル31の先端部を原点とし、当該ノズル31の中心軸On方向をZ軸方向として定義する。また、Z軸に直交する方向であって且つ光源装置5の光軸Olに平行な方向をX軸として定義し、これらX軸及びZ軸に直交する方向をY軸として定義する。
【0021】
撮像装置7は、固体撮像素子(CCD)等を内蔵して要部が構成されている。この撮像装置7は、例えば、面状光20に対して上方に設定距離離間した位置に配置されている。また、撮像装置7の光軸Ocは、例えば、ノズル31の中心軸Onと光源装置5の光軸Olとの交点を基点として当該光軸Olを上方に設定角度(例えば45°)傾斜させた方向に設定されている。
【0022】
制御装置10は、図示しないCPU、RAM及びROM等を有するマイクロコンピュータを中心として構成されている。制御装置10のROMには、インジェクタ30のノズル31の各噴口32から噴射される燃料の噴射方向を測定するためのプログラムが予め設定されて格納されており、制御装置10は、このプログラムに従って燃料噴射方向の測定を行う。
【0023】
すなわち、制御装置10は、インジェクタ30から燃料を噴射させ、面状光20上での反射によって可視化された燃料を撮像装置7で撮像する。そして、撮像によって得られた画像(噴霧断面画像35a,35b:図3(a)参照)に対して各種補正等の処理を行うことにより、制御装置10は、例えば、図3(f)に示すように、最終的な噴霧断面画像40を取得する(噴霧断面画像取得手順)。
【0024】
また、制御装置10は、例えば、図9に示すように、噴霧断面画像40上の噴霧断面像40aを抽出して当該噴霧断面像40aに対応する重心算出領域25を可変設定し(重心算出領域設定手順)、重心算出領域25内の各画素の輝度を重み(密度)として当該重心算出領域25の重心位置Pgを算出する(重心位置算出手順)。この重心算出領域25の設定及び重心位置Pgの算出は繰り返し行われ、制御装置10は、重心算出領域25の重心位置Pgと中心位置Pcとが設定誤差範囲内で一致するとき、当該重心位置Pgを噴霧中心位置であると判定し、ノズル31から重心位置Pgに向かう方向(ベクトルの方向)をインジェクタ30の噴霧方向として特定する(噴霧方向特定手順)。
【0025】
このように、本実施形態において、制御装置10は、噴霧断面画像取得手段、重心算出領域設定手段、重心位置算出手段、及び噴霧方向特定手段としての各機能を実現する。
【0026】
次に、制御装置10で実行される燃料の噴霧方向評価について、図4に示す噴霧方向評価ルーチンのフローチャートに従って具体的に説明する。
このルーチンがスタートすると、制御装置10は、先ず、ステップS101において、噴霧断面画像35a(図3(a)参照)の取得を行う。この噴霧断面画像35aの取得は、例えば、図5に示す噴霧断面画像取得サブルーチンのフローチャートに従って実行され、このサブルーチンがスタートすると、制御装置10は、先ず、ステップS201において、インジェクタ30に対する燃料噴射指示を行う。
【0027】
そして、ステップS201からステップS202に進むと、制御装置10は、燃料噴射を指示してからの設定時間Δt(例えば、Δt=1.5msecのディレイ時間)が経過したか否かを調べる。具体的には、例えば、燃焼噴射を指示した時刻をt1とした場合において、制御装置10は、現時刻tがt1+Δtであるか否かの判断を行う。
【0028】
そして、ステップS202において、制御装置10は、現時刻tがt1+Δtに達するまではそのまま待機し、現時刻tがt1+Δtに達したと判断すると、ステップS203に進む。
【0029】
ステップS202からステップS203に進むと、制御装置10は、撮像装置7を駆動して噴霧断面画像を撮影すると共に、当該噴霧断面画像を記録する。すなわち、制御装置10は、面状光20が横切ることによって可視化された噴霧の断面像を撮像装置7を通じて撮像し、撮像した噴霧断面画像をRAM内に記録する。
【0030】
ステップS203からステップS204に進むと、制御装置10は、現在の撮像回数Nが予め設定された回数Nimageを上回ったか否かを調べ、撮像回数Nが設定回数Nimage未満であると判定した場合、ステップS201に戻る。
【0031】
一方、ステップS204において、撮像回数Nが設定回数Nimageを上回ったと判定すると、制御装置10は、ステップS205に進み、ステップS203で撮像したNimage枚の噴霧断面画像を用いた加算平均処理を行うことで噴霧断面画像35aを取得した後、サブルーチンを抜ける。
【0032】
図4のメインルーチンにおいて、ステップS101からステップS102に進むと、制御装置10は、保持機構6を駆動し、インジェクタ30をノズル31の中心軸On周りに180°回転させた後、ステップS103に進み、上述のステップS101と同様の処理により、噴霧断面画像35bを取得する。
【0033】
この場合において、本実施形態の計測系は、撮像装置7が面状光20に対して所定距離離間されており、且つ、撮像光軸Ocが面状光20に対して傾斜されているため、取得した噴霧断面画像35a,35b上の各噴霧断面像は所定の歪みを有する。また、面状光20は扇状に放射されており、その強度に勾配を有するため、取得した噴霧断面画像35a,35bは、輝度に所定の勾配を有する。
【0034】
ステップS103からステップS104に進むと、制御装置10は、ステップS101及びステップS103で取得した噴霧断面画像35a,35bに対し、面状光20の強度分布に起因する輝度勾配の補正処理をそれぞれ行う。この補正処理は、例えば、図6に示す面状光強度分布補正処理サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、このサブルーチンがスタートすると、制御装置10は、ステップS301において、ミスト発生器8を駆動してミスト21を発生させ(図2参照)、続くステップS302において、光源装置を駆動して面状光20の照射を行う。ここで、本実施形態において、ミスト発生器8から供給されるミスト21は、インジェクタ30から噴射される燃料噴霧と異なり、面状光20上の被撮像領域に対し、均一且つ継続的に供給されるものである。
【0035】
そして、ステップS303に進むと、制御装置10は、撮像装置7を駆動し、面状光20上で可視化されたミスト断面をミスト画像として撮像するとともに、当該ミスト画像をRAM内に記録する。
【0036】
ステップS303からステップS304に進むと、制御装置10は、現在の撮像回数Nが予め設定された回数Nimageを上回ったか否かを調べ、撮像回数Nが設定回数Nimage未満であると判定した場合、ステップS303に戻る。
【0037】
一方、ステップS304において、撮像回数Nが設定回数Nimageを上回ったと判定すると、制御装置10は、ステップS305に進み、撮像した各ミスト画像を用いた加算平均処理を行うことで、ミスト画像36(図3(b)参照)を取得する。
【0038】
そして、ステップS305からステップS306に進むと、制御装置10は、ミスト画像36上の最高輝度値を抽出し、当該最高輝度値を各画素の輝度値で除することにより、各画素に対応する面状光強度補正係数の分布(固有度分布補正係数)を算出する。
【0039】
そして、ステップS306からステップS307に進むと、制御装置10は、噴霧断面画像35a,35bに固有度分布補正係数を乗算することにより、噴霧断面画像35a,35bに対する輝度補正を行った後、サブルーチンを抜ける。
【0040】
図4のメインルーチンにおいて、ステップS104からステップS105に進むと、制御装置10は、ステップS104で輝度補正した噴霧断面画像35a,35bに対して歪み補正処理をそれぞれ行う。この歪み補正処理は、例えば、図7に示す噴霧断面画像歪み補正処理サブルーチンのフローチャートに従って実行される。ここで、このサブルーチンの実行に先立ち、噴霧測定装置1には、面状光20と同一平面上の設定位置に、参照格子22がセットされる(図2参照)。そして、サブルーチンがスタートすると、制御装置10は、先ず、ステップS401において、撮像装置7を駆動し、参照格子画像37(図3(c)参照)を撮像するとともに、当該参照格子画像37をRAM内に記録する。
【0041】
そして、ステップS402に進むと、制御装置10は、噴霧断面画像35a,35bを実空間座標系に対応した噴霧断面画像に変換するための変換関数を算出する。すなわち、ステップS401で取得した参照格子画像37は、面状光20(参照格子22)に対して垂直でない位置から取得されるため、図3(c)に示すような歪みが存在するが、参照格子22の格子間隔が既知であることを利用すれば、当該歪みを補正することが可能である。そこで、制御装置10は、撮像した参照格子画像37を、所定の解像度で、実空間座標系の参照格子画像38(図3(d)参照)に変換することで、実空間座標系への変換関数を算出する。
【0042】
そして、ステップS403に進むと、制御装置10は、ステップS402で算出した変換座標を用いて、噴霧断面画像35a,35bから実空間座標系における噴霧断面画像39a,39b(図3(e)参照)をそれぞれ算出し、続くステップS404において、算出した噴霧断面画像39a,39bを画像データ化した後、サブルーチンを抜ける。これにより、ステップS101及びステップS103で取得した噴霧断面画像35a,35bの歪みを的確に除去することが可能となる。
【0043】
図4のメインルーチンにおいて、ステップS105からステップS106に進むと、制御装置10は、噴霧断面画像39a,39bのうちの何れか一方(例えば、噴霧断面画像39b)を180°回転させ、これらに対する加算平均処理を行うことにより、最終的な噴霧断面画像40(図3(f)参照)を取得する。
【0044】
そして、ステップS106からステップS107に進むと、制御装置10は、ステップS106で取得した噴霧断面画像40を用いてインジェクタ30の噴霧角算出処理を行う。この噴霧角算出処理は、例えば、図8に示す噴霧角算出サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、このサブルーチンがスタートすると、制御装置10は、先ず、ステップS501において、噴霧断面画像40に対する2値化処理を行う。すなわち、制御装置10は、噴霧断面画像40上の各画素の輝度を調べ、例えば、輝度が設定閾値以上である画素の輝度を「1」とし、設定閾値以下である画素の輝度を「0」とする2値化処理を行う。
【0045】
そして、ステップS501からステップS502に進むと、制御装置10は、2値化された噴霧断面画像40上において、例えば、輝度が「1」となる画素が設定密度以上で分布する画素群からなる像を噴霧断面像40aとして抽出する。この場合、例えば、ノズル31上の5箇所に噴口32が開口するインジェクタ30を被検査対象とする本実施形態では、噴霧断面画像上の5箇所に噴霧断面像(噴霧断面像領域)40aが抽出される。
【0046】
そして、ステップS502からステップS503に進むと、制御装置10は、噴霧断面画像40上で、全ての噴霧断面像40aを内包する最小サイズの領域を重心算出領域Dとして設定する。この場合、重心算出領域Dの形状としては、例えば、矩形、円形、或いは楕円形等を好適に設定することが可能である。なお、当該ステップS503で設定される重心算出領域Dを、以下の説明において、適宜、重心算出領域D0と称する。
【0047】
ここで、本実施形態の重心算出領域D0は、噴霧断面像計測を実施する面状光20(噴霧断面画像40)上の長さ寸法で規定されるのではなく、例えば、ノズル31の先端を原点とする角度座標系における角度にて規定される。具体的には、例えば、図10に示すように、重心算出領域D0は、ノズル31の先端を頂点とし、且つ、ノズル31の中心軸Onに対して中心軸Omが角度(θx,θy)で傾斜するよう配置された所定の円錐25が噴霧断面画像40上に形成する楕円によって定義される。すなわち、本実施形態において、制御装置10は、円錐25の頂角及び中心軸Omの角度(θx,θy)を変化させることにより、全ての噴霧断面像40aを内包する最小サイズの領域(楕円領域)を探索する。これは、インジェクタ30から噴射される噴霧は、一般に、下流になるに従って広がった略円錐形状となり、ノズル31の中心軸Onから離れた位置に形成される噴霧断面ほど大きくなることに対応したものである。
【0048】
ステップS503からステップS504に進むと、制御装置10は、重心算出領域D0の中心位置Pcを、角度(θx,θy)に基づいて算出した後、ステップS505に進む。
【0049】
ステップS505において、制御装置10は、重心算出領域D内に存在する各画素の輝度を重み(密度)として、重心算出領域Dの重心位置Pgを算出する。
【0050】
そして、ステップS505からステップS506に進むと、制御装置10は、重心算出領域Dの中心位置Pcと、重心算出領域Dの重心位置Pgとの比較を行い、これらの差Δdが設定閾値Δd0以下であるか否か(すなわち、中心位置Pcと重心位置Pgとが設定誤差Δd0の範囲内で一致しているが否か)を調べる。
【0051】
そして、ステップS506において、中心位置Pcと重心位置Pgとの差ΔdがΔd0よりも大きいと判断した場合、制御装置10は、ステップS507に進み、現在の重心位置Pgを新たな中心位置Pcとして設定し、当該新たな中心位置Pcを基準とする重心算出領域Dを再設定した後、ステップS505に戻る。ここで、本実施形態において、制御装置10は、例えば、上述のステップS503で用いた円錐25の中心軸Omが新たな中心位置Pcを通過するように角度(θx,θy)を変化させ、このように変化させた円錐25が噴霧断面画像40上で形成する領域を、新たな重心算出領域Dとして設定する(図9(b)参照)。これにより、各噴霧断面像40aを概ね含む領域が新たに重心位置Dとして再設定され、ステップS105では、新たな重心算出領域Dについて、重心位置Pgの算出が再度行われる(図9(c)参照)。
【0052】
一方、ステップS506において、中心位置Pcと重心位置Pgとの差ΔdがΔd0以下であると判断した場合、制御装置10は、ステップS508に進み、現在の重心位置Pgを噴霧中心位置として特定し、ノズル31の先端から噴霧中心位置に向かうベクトルの方向を噴射方向として特定した後、サブルーチンを抜ける。
【0053】
図4のメインルーチンにおいて、ステップS107からステップS108に進むと、制御装置10は、ステップS107で算出したインジェクタ30の噴射方向(噴霧角)が予め設定された公差内であるか否かを調べ、噴射方向が公差内である場合にはステップS109に進み、現在の被検査対象のインジェクタ30は正常品であると判断した後、ルーチンを抜ける。一方、ステップS108において、少なくとも何れか1つの噴口32の噴射方向が公差外にある場合には、制御装置10は、ステップS110に進み、現在の被検査対象のインジェクタ30は異常品であると判断した後、ルーチンを抜ける。
【0054】
このような実施形態によれば、実空間上で噴口32から燃料を噴射した際に面状光20上に形成される噴霧断面画像40を取得し、噴霧断面画像40上で抽出した噴霧断面像40aに対応する重心算出領域Dを可変設定するとともに、可変設定された重心算出領域D内の各画素の輝度を重みとして当該重心算出領域Dの重心位置Pgを算出し、重心算出領域Dの重心位置Pgと中心位置Pcとが設定誤差範囲内で一致するときノズル31から重心位置Pgに向かう方向を噴霧方向として特定することにより、インジェクタ30から噴射される燃料の噴射方向を精度良く測定することができる。
【0055】
すなわち、重心算出領域D内の各画素の輝度を重みとして当該重心算出領域Dの重心位置Pgを求め、この重心位置Pgに基づいて噴霧方向を特定することにより、複数の画素に輝度のサチュレーション等が発生した場合にも、当該サチュレーション等に大きく影響されることなく、好適な噴霧方向の測定を行うことができる。その際、燃料噴射方向を精度良く測定するためには、評価対象となる領域(重心算出領域D)を適切に設定することが重要となるが、本実施形態においては、重心算出領域Dを可変設定しながら、重心位置Pgと中心位置Pcとが設定誤差範囲で一致する重心算出領域Dの探索を行うことにより、評価対象として好適な重心算出領域Dを設定することができる。
【0056】
この場合において、現在設定されている重心算出領域Dの重心位置Pgを基準として新たな重心算出領域Dを再設定することにより、各噴霧断面像40aに対して大きく逸脱させることなく、好適な位置に重心算出領域Dを再設定することができる。
【0057】
また、ノズル31を頂点とする円錐25を実空間上に定義し、円錐25の中心軸Omを可変設定した際に噴霧断面画像40上に形成される領域を重心算出領域Dとして設定することにより、実際にインジェクタ30から噴射される噴霧形状を十分に考慮した重心算出領域Dを設定することができる。
【0058】
なお、上述の実施形態においては、インジェクタ30全体としての燃料噴射方向を求める場合の一例について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、各噴口32から噴射される燃料の噴霧断面像40a毎に個別の重心算出領域Dを可変設定し、噴口32毎の燃料噴射方向を求めることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 … 噴霧測定装置
5 … 光源装置
6 … 保持機構
6a … 保持プレート
6b … 駆動ユニット
7 … 撮像装置
8 … ミスト発生器
10 … 制御装置(噴区断面画像取得手段、重心算出領域設定手段、重心位置算出手段、噴霧方向特定手段)
20 … 面状光
21 … ミスト
22 … 参照格子
25 … 重心算出領域
25 … 円錐
30 … インジェクタ(噴射装置)
31 … ノズル
32 … 噴口
35a,35b … 噴霧断面画像
36 … ミスト画像
37 … 参照格子画像
38 … 参照格子画像
39a,39b … 噴霧断面画像
40 … 噴霧断面画像
40a … 噴霧断面像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射装置のノズルに開口する噴口から噴射された流体の噴射方向を測定する噴霧測定方法であって、
前記ノズルに対向する面状光に対して前記噴口から流体を噴射した際に前記面状光上に形成される噴霧断面画像を取得する噴霧断面画像取得手順と、
前記噴霧断面画像上の噴霧断面像に対応する重心算出領域を可変設定する重心算出領域設定手順と、
前記重心算出領域内の各画素の輝度を重みとして当該重心算出領域の重心位置を算出する重心位置算出手順と、
前記重心算出領域の重心位置と中心位置とが設定誤差範囲内で一致するとき、前記ノズルから前記重心位置に向かう方向を噴射方向として特定する噴霧方向特定手順と、を備えたことを特徴とする噴霧測定方法。
【請求項2】
前記重心算出領域設定手順は、現在設定されている前記重心算出領域の重心位置を基準として新たな前記重心算出領域を設定することを特徴とする請求項1記載の噴霧測定方法。
【請求項3】
前記重心算出領域設定手順は、前記ノズルを頂点とする円錐を実空間上に定義し、当該円錐の中心軸を可変設定した際に前記噴霧断面画像上に形成される領域を前記重心算出領域として設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の噴霧測定方法。
【請求項4】
噴射装置のノズルに開口する噴口から噴射された流体の噴射方向を測定する噴霧測定装置であって、
前記ノズルに対向する面状光に対して前記噴口から流体を噴射した際に前記面状光上に形成される噴霧断面画像を取得する噴霧断面画像取得手段と、
前記噴霧断面画像上の噴霧断面像に対応する重心算出領域を可変設定する重心算出領域設定手段と、
前記重心算出領域内の各画素の輝度を重みとして当該重心算出領域の重心位置を算出する重心位置算出手段と、
前記重心算出領域の重心位置と中心位置とが設定誤差範囲内で一致するとき、前記ノズルから前記重心位置に向かう方向を噴射方向として特定する噴霧方向特定手段と、を備えたことを特徴とする噴霧測定装置。
【請求項5】
前記重心算出領域設定手段は、現在設定されている前記重心算出領域の重心位置を基準として新たな前記重心算出領域を設定することを特徴とする請求項4記載の噴霧測定装置。
【請求項6】
前記重心算出領域設定手段は、前記ノズルを頂点とする円錐を実空間上に定義し、当該円錐の中心軸を可変設定した際に前記噴霧断面画像上に形成される領域を前記重心算出領域として設定することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の噴霧測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−203060(P2011−203060A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69791(P2010−69791)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】