説明

嚥下困難者用食肉加工食品及び、嚥下困難者用食肉加工食品の製造法

【課題】畜肉類を主原料として用い、消費者庁基準の嚥下困難者用の嚥下食品を提供する。
【解決手段】畜肉類、肉エキス、水、ジェランガム、サイリウムシードガム、必要に応じ卵白粉を混合し、加熱成型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下困難者が容易に食べられる食肉加工食品、及び食肉加工食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本国内において高齢化が進み、それに伴い嚥下障害を持つ、いわゆる嚥下困難者が増えている。嚥下困難者にとって誤嚥の恐れがなく、且つ毎日食べても飽きがこない、おいしい食品が求められている。嚥下困難者にとって食べやすい食べ物とは、舌でつぶせる程度に柔らかく、咽喉を通る際にもあまり細かくならず、滑らかに通過するものである。老人介護施設の給食では、主菜となるご飯はおかゆ状にして出されている。一方、副菜は肉や魚を調理後にミキサーで粉砕し、ゲル化剤でムース状に加工されたものを施設で独自に調理するか、あるいは市販品を併用して食卓に出している。市販品は食感が均一であり、飽きられやすく、残されてしまうケースが多い。そのためスライス状に切って様々なおかずと混ぜてバラエティに富んだ献立を苦心して調製している。一方で、平成21年に厚生労働省は『嚥下困難者用食品たる表示の許可基準』を新たに定めた。それによると、基準は3つに分かれており、暖めて使用する食品は20℃および45℃において、基準Iは硬さが2.5×10〜1×104 N/ m2、 付着性が4 ×10 J/ m以下、凝集性が0.2〜0.6である。基準IIは硬さが1×10〜1.5×104 N/ m2、 付着性が1 ×10 J/ m以下、凝集性が0.2〜0.9である。最も基準値が大きい許可基準IIIにおいても、硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下であり、凝集性の基準はなく、きわめて柔らかい。(非特許文献1)従って、この基準を満たし、且つ従来の肉様食感を有する食肉加工食品の製造は困難であり、現在このような市販品はない。
【0003】
食肉加工食品として考えられる形態は、ハンバーグやミートボールなどの挽肉を加工した食品がまず考えられる。ハンバーグは牛肉、豚肉の挽き肉を小麦粉、パン粉や卵でつないだ食品であり、一般消費者に広く受け入れられている。また、スライス状に切っても形が崩れない程度の保形性を有するペースト状の食品も汎用性のある市販品として受け入れられると考えられる。ペースト状食品であればハンバーグ以外の肉メニュー、例えば青椒肉絲やサラダなどにも応用でき、メニューの幅が広がると考えられる。
【0004】
これまでに嚥下困難者用の食肉加工食品に関する発明が幾つか知られている。例えば、食肉を破砕し、酵素処理し、次いで蒸煮する方法がある(特許文献1)。この方法では酵素処理に2時間かかる上、硬さ基準が1×10〜1×10 N/ m2であり、付着性に関するデータが無い。また、各種増粘多糖類をハンバーグに添加して加熱加工する方法(特許文献2)、大豆タンパク、大豆ペプチドを畜肉と混合して柔らかくする方法(特許文献3)、起泡させた卵白を畜肉と混合する方法(特許文献4)などが知られている。これらもまた硬さ基準が現在の『嚥下困難者用食品たる表示の許可基準』にそぐわない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】厚生労働省食安発第0212001号『特別用途食品の表示許可等について』(消費者庁ホームページ参照)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4293976号
【特許文献2】特開2005−110677号公報
【特許文献3】特開2005−287326号公報
【特許文献4】特開2009−278962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
20℃において硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下のハンバーグ様食品、およびペースト状肉製品を得るためには上記の技術は必ずしも十分な方法ではない。特許文献2においては、硬さが現基準値よりも大きい。特許文献3では、硬さ基準が1.8×10 N/mであるハンバーグを調製しているが、風味評価が良くない。
【0008】
また、実際の介護施設の給食現場では、衛生上の観点から、温めて食べる嚥下食は中心温度が65℃以上で、好ましくは75℃以上に加熱することが必要になってくるが、その際に形が崩れないことが望ましいとされている。しかしながら、この耐熱性を有し、且つ厚労省の定めた基準値を満たす嚥下食は知られていなかった。
【0009】
このため本発明では、物性面において厚労省の『嚥下困難者用食品たる表示の許可基準』を満たし、保型性と耐熱性に優れ、呑み込み易く、まとまりがあり、肉様の食感を有する食肉加工食品を製造可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、種々検討の結果、畜肉類を肉エキスと水で希釈しペースト状にした後、サイリウムシードガムと、ジェランガムを加え、型枠に入れて加熱することにより、消費者庁の許可基準を満たし、かつ食感のよい嚥下困難者向け食肉加工食品が簡便に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下を包含する。
(1)畜肉類、肉エキス、水、ジェランガム及びサイリウムシードガムを含む混合物をペースト化し、加熱成型することを特徴とする、20℃における硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法であって、ジェランガムとサイリウムシードガムの合計重量が該混合物重量の0.3%〜5%であり、かつ、ジェランガムとサイリウムシードガムの重量比が3:1〜1:3である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法。
(2)畜肉類、肉エキス及び水を含む混合物をペースト化した後、該ペースト重量に対しジェランガムとサイリウムシードガムの合計重量が0.3%〜5%であり、かつ、ジェランガムとサイリウムシードガムの重量比が3:1〜1:3となるようジェランガムとサイリウムシードガムを該ペーストに添加し、加熱成型することを特徴とする、20℃における硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法。
(3)畜肉類、肉エキス、水、ジェランガム及びサイリウムシードガムを含む混合物を加熱成型し、得られた成型物を粉砕し、ペースト状にした後、卵白粉を添加し、再度加熱成型することを特徴とする、20℃における硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法であって、ジェランガムとサイリウムシードガムの合計重量が該混合物重量の0.3%〜5%であり、かつ、ジェランガムとサイリウムシードガムの重量比が3:1〜1:3であり、添加する卵白粉の重量が加熱前の混合物の重量の0.3〜2.7%である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法。
(4)畜肉類、肉エキス及び水を含む混合物を加熱後に粉砕しペースト化した後、該ペースト重量に対しジェランガムとサイリウムシードガムの合計重量が0.3%〜5%であり、かつ、ジェランガムとサイリウムシードガムの重量比が3:1〜1:3となるようジェランガムとサイリウムシードガムを該ペーストに添加し、さらに加熱前の該ペースト物重量の0.3〜2.7%重量の卵白粉を添加し、加熱成型することを特徴とする、20℃における硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法。
(5)混合物が、さらに牛乳を含むものである(1)乃至(4)記載の製造法。
(6)(1)乃至(5)何れかの製造法により得られた嚥下困難者用食肉加工食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば20℃において硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下であり、きわめて柔らかいにもかかわらず、従来の肉様食感を有する食肉加工食品ハンバーグまたはペースト状肉製品を製造できる。この発明により、嚥下困難者に対して誤嚥の恐れがなく、且つ毎日食べても飽きがこない、おいしい食品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の畜肉類とは、豚肉、鶏肉、牛肉などの一般的に食べられている鳥獣類の肉を指し、挽肉またはスライス肉がもっとも加工しやすい。畜肉類を単に水で希釈すると味が劣るだけでなく、栄養価が下がる。このため、肉エキスや牛乳を用いることが望ましい。畜肉類、肉エキス、牛乳の配合量は適宜調整できるが、畜肉類100部に対し、肉エキスは5〜50部、牛乳は0〜200部の範囲が好ましい。本発明の肉エキスは国内外のエキスメーカーから各種市販されているが、これらを水で5〜10倍程度に希釈したものを調製した後用いるか、あるいはそのまま用いることができる。これを用いることにより、牛乳や水のみをミンチに添加した場合よりも味を良好に保つことができる。食品用ゲル化剤は市販されているものを用いればよい。
【0014】
本発明において、嚥下困難者向け食肉加工食品として、ハンバーグ状食品を例にしてその製造法を説明する。畜肉原料たとえば牛豚挽肉にパン粉、卵、スパイス類、タマネギ、牛乳等の原料をフードプロセッサーなどの攪拌機に入れて混合、裁断し、ペースト状にする。ついでサラダ油、残りの牛乳、肉エキス希釈液等の原料を攪拌しながら混合していき、原料ペーストを得る。得られたペーストの水分含量は、60〜95%が好ましく、70〜85%がより好ましい。これにゲル化剤としてサイリウムシードガムとジェランガムを添加するが、ゲル化剤の添加は原料ペーストを調製後、原料ペーストに添加してもよいし、原料ペーストを調製する際に肉やタマネギ等の原料に添加混合してもよい。このペーストを容器に入れて蒸す等加熱する。加熱(蒸)し終わったら粗熱をとり、急速冷凍機にて−40℃で冷凍し、通常の冷凍庫の温度である−20〜−40℃で保存する。食す場合はこれをレンジ解凍や蒸し器などして食すればよく、解凍後もゼリーのように溶けることなく、良好な食感が保たれる。ハンバーグ状食品の場合、挽肉は他の材料と一緒に裁断した後に加熱するため耐熱性があり、舌触りは滑らかであるが、不均一であり、ハンバーグ状の食感が強く、他の調理メニューには応用しにくい。しかし、最初に肉を加熱してからミキサーで加熱してからゲル化剤や卵白粉で加熱成型した場合は表面も平らであり、スライスすればいろいろなメニューに応用できる。スライス状畜肉製品の調製法は以下のとおりである。牛肉等畜肉類を茹でた後、牛乳、肉エキス、水、パン粉を混ぜて再び加熱し、次いでミキサーで粉砕した後ゲル化剤としてサイリウムシードガムとジェランガムを混合加熱する。ゲル化剤を加えるタイミングに関しては牛肉と一緒に最初に加えても良いが、よく分散できるのであればミキサーで粉砕する際にある程度冷却されてから加えても良い。卵白粉を用いる場合、卵白粉は最初に牛肉と一緒に加えると、最初の加熱工程で変性し、次のミキサー工程で卵白ゲルがバラバラになり、その次の蒸気加熱時で再結着せず、耐熱性を付与できないので、ミキサー工程時で一旦ある程度冷却された後に加えなければならない。すなわち、畜肉類、肉エキス、水、ジェランガム及びサイリウムシードガムを含む混合物を加熱成型し、得られた成型物を粉砕し、ペースト状にした後、卵白粉を添加し、再度加熱成型する。ついで容器に移して冷凍する。容器はプラスチック製箱型容器などを用い、使用時に冷凍のまま適当な薄さに切って調理すればよい。
【0015】
仮に増粘多糖類を添加しない場合は、蒸した後には保形性があり、テクスチャーアナライザーで物性測定すると嚥下用食品として表示可能な基準IIIを満たすほどに柔らかく、付着性も抑えられている。しかしこれらは口の中でばらばらになりやすく、滑らかでない。このため嚥下食としては相応しくない。また冷凍解凍後の離水もかなり多く、冷凍食品として市販できるほどの品質には至らない。本発明に用いる増粘多糖類を添加すればこの許可基準IIIを満たし、冷凍耐性を有し、且つ口の中でまとまりがあり、滑らかに咽喉を通過する、嚥下食に適した肉様食感を得ることができる。
【0016】
本発明においてゲル化剤として用いる増粘多糖類は、サイリウムシードガム、ジェランガムであり、食品添加物として認可されているものを用いればよい。ジェランガムは、グルコース残基のC-6位にアセチル基が結合しているネイティブ型ジェランガムを用いることができ、三栄源FFI社より「ケルコHM」という商品名で市販されているものが一例である。サイリウムシードガムは、三栄源FFI社より、「ビストップD2074」という商品名で市販されているものが一例である。本発明において、サイリウムシードガム1重量部に対し、ジェランガムが1/3〜3重量部となるように添加する(重量比においてサイリウムシードガム1:ジェランガム1/3〜3)。サイリウムシードガム1に対するジェランガムの重量比が4以上では硬さが大きくなり、その基準値を超える恐れがある。サイリウムシードガム1に対するジェランガムの重量比が0.3以下になると硬さが下がり、加熱時に保形性がなくなる。本発明の嚥下困難者用食肉加工食品におけるゲル化剤の含有率は、20℃において、本発明の嚥下困難者用食肉加工食品の硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下となるよう設定する。肉の種類、油や水分含量、肉を裁断する度合いなどによって調整を要するが、ペーストの水分含量が70%〜85%の範囲にある場合、サイリウムシードガムとジェランガムの合計量は、畜肉類にパン粉、卵、スパイス類、タマネギ、牛乳、水等を混合、裁断して得られるペーストの重量に対し、0.3%以上が望ましい。20℃において硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下であれば、ゲル化剤の合計含有率の上限は幾らでも構わないが、5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.7%以下が殊更好ましい。なお0.2%以下では保形効果が乏しく食感が悪くなってしまい、実用性に乏しい。
【0017】
サイリウムシードガムは口の中で食品のまとまりを保ち、且つ滑らかに咽喉を通過させる機能を持つ。また、ジェランガムは付着性をあまり増大させることなく、保形性が良く、口の中でのまとまりも保つことができる。また、ペクチンは付着性をあまり増大させず、冷凍解凍時の離水を防ぐ機能をもつ。従ってペクチンは必須ではないが、サイリウムシードガム、ジェランガムに、ペクチンを混合することは肉製品を嚥下食品として加工するには有効である。サイリウムシードガムとジェランガムを特定比率で混合することにより、70℃の高温に温めても型崩れしない食肉加工食品を製造することが可能となった。上記以外にも増粘剤やゲル化剤は市場に多く出回っているが、たいていの場合、付着性が大きくなり、基準値IIIである1.5 ×10 J/ m以下に抑えることはきわめて難しい。
【0018】
本発明で実施した物性測定は非特許文献1の20頁に記載されている『えん下困難者用食品の試験方法』に基づいて行った。すなわち、サンプルを直径40mm、高さ15mmのステンレス容器に充填し、テクスチャーアナライザーTPU((株)山電)を用いて圧縮測定した。プランジャーは直径20mm、高さ8mmの樹脂製((株)山電製)を用い、圧縮速度は10mm/sec、クリアランス5mmで2回測定した。本発明品は電子レンジなどで加熱してから食べる食品なので、規定に従い20℃±2℃、及び45℃±2℃で測定した。サンプルは測定直前まで十分な時間保温装置に入れておいてから取り出してすぐに測定した。測定項目は圧縮応力、付着性、凝集性である。
【実験例1】
【0019】
<各種ゲル化剤を添加し牛豚挽肉を原料としたハンバーグ状食品の製造法>
牛豚挽肉100部に対し、パン粉(セブンプレミアム製)24部、牛乳37部、全卵24部、胡椒(ギャバン製)0.07部、ナツメグ(ギャバン製)0.07部、玉葱22部を混合し、フードプロセッサー(ロボクープ、マジミックス)に入れて裁断しながらサラダ油(セブンプレミアム製)12部を添加した。次いで牛乳88部、ビーフエキス(仙味エキス(株)ビーフコンクOE−M−2)22部に水88部で希釈したものを順次加えた。このペースト状の混合物を小容器に分注し、表1に示すゲル化剤(サイリウムシードガム:三栄源 ビストップD2074、ジェランガム:三栄源 ケルコゲルHM、ペクチン:CPケルコ SLENDID200、寒天:伊那食品工業 イーナ、ゼラチン:新田ゼラチン GBL250、ローカストビーンガム:三晶 LBG−M175、グアガム:三晶 MEYPROGUAR CSA200/50、キサンタンガム:丸善薬品産業 キサンタンガムST)を各々0.5%添加し、泡だて器でよく攪拌した後、ラップで包装し、蒸し器で20分蒸した。次いで粗熱をとってから急速冷凍庫に入れ−40℃で1時間冷凍した。20℃で24時間以上保存した後、冷蔵庫に移して緩慢解凍した。次いで保温装置(クールインキュベーターICI-1、アズワン製)で20℃に保存した後、[0018]記載の方法で物性測定した。残りのサンプルは電子レンジ(ナショナルNE-TJ62)で加熱し、食感を調べた。評価は担当者1名で行った。表1に20℃における物性測定結果を、表2に食感結果を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表1および表2の結果から、滑らかさではペクチンとサイリウムシードガムが優れており、特にサイリウムシードガムが優れていた。また保形性では寒天、及びジェランガムが優れており、特にジェランガムが優れていた。そこでサイリウムシードガムとジェランガムを組み合わせて嚥下困難者向けハンバーグの試作を行った。
【実施例1】
【0023】
<ジェランガムとサイリウムシードガムを用いた牛豚混合挽肉ハンバーグの調製>
牛豚混合挽肉100部に対し、パン粉(セブンプレミアム製)23部、牛乳37部、全卵25部、玉葱23部を混合し、フードプロセッサー(ロボクープ、マジミックス)に入れて裁断しながらサラダ油(セブンプレミアム製)11部を添加した。次いで牛乳88部、ビーフエキス(仙味エキス(株)ビーフコンクOE−M−2)22部を水88部で希釈したものを順次加えてさらにミキサーで混合した。このペーストの水分含量は75%であった。このペースト状の混合物を小容器に分注した。さらに、表3に記載した、ジェランガムとサイリウムシードガムの比率・量を変えたゲル化剤を添加し、泡だて器でよく攪拌した後、ラップで包装し、蒸し器で20分蒸した。次いで粗熱をとってから急速冷凍庫に入れ−40℃で1時間冷凍した。−20℃で24時間以上保存した後、冷蔵庫に移して緩慢解凍した。次いで保温装置で20℃(クールインキュベーターICI-1、アズワン製)、または45℃(食器乾燥機、クマノ厨房工業製)に保存した後、[0018]記載の方法で物性測定した。残りのサンプルは電子レンジ(ナショナルNE-TJ62)で加熱し、食感を調べた。評価は健常人3名で行った。表3に20℃における物性測定結果を、表4に食感結果を示す。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
表3の結果から、ハンバーグに対するゲル化剤の合計含有率が0.6%以内で20℃において基準値を満たした。表4の官能評価結果では、ゲル化剤のジェランガム:サイリウムシードガムの割合が3:1〜1:3の範囲内で、ゲル化剤の合計含有率が0.3%以上で良好な結果を示した。
【実施例2】
【0027】
<牛肉ペーストの調製>
牛肉270gを蒸し器で10分間蒸した後、パン粉(セブンプレミアム製)23g、玉葱113g、牛乳113g、ビーフエキス(仙味エキス(株)ビーフコンクOE−M−2)22.5gを水202.5gで希釈したものを順次混合した。次いでミキサーに移し、3分間粉砕してペースト状にした。このペーストの水分含量は81%であった。このペースト状の混合物を鍋に分注し、ゲル化剤を添加し、泡だて器でよく攪拌した後、沸騰するまで加熱し、蒸発した水分量を添加して加熱前の重量に戻し、厚さ約25mmの容器に移し替えペースト状の食肉加工品を得た。これを急速冷凍庫に入れ−40℃で1時間冷凍した。−20℃で24時間以上保存した後、冷蔵庫に移して緩慢解凍した。次いで保温装置(クールインキュベーターICI-1、アズワン製)で20℃に保存した後、[0018]記載の方法で物性測定した。残りのサンプルは電子レンジ(ナショナルNE-TJ62)で加熱し、食感を調べた。評価は健常人1名で行った。表5に20℃における物性測定結果を、表6に食感結果を示す。
【0028】
【表5】

【0029】
【表6】

【0030】
表5の結果から、食肉加工品に対するジェランガムとサイリウムシードガムの含有率の合計が0.3%〜0.7%の範囲でいずれも基準値をクリアしていた。表6の官能評価結果では、ジェランガムとサイリウムシードガムの割合が4:1の場合では粘りがあり、好ましくなかった。ジェランガムとサイリウムシードガムの割合が3:1〜1:3の範囲内で概ね良好な結果を示し、含有率の合計が0.5%以上では保形性も良いことが分かった。
【0031】
厚労省基準によれば、暖めて使用する嚥下困難者向け食品は45℃においてもその物性基準値を満たすように定められている。そこで、幾つかの実施例を45℃に保温し、その物性測定を行った。結果を表7に示す。表7の結果から、いずれの実施例においても20℃での測定値よりも硬さ、付着性が下がり、十分基準値内に入っていた。
【0032】
【表7】

【実施例3】
【0033】
実際の介護施設の給食現場では、冷凍品を好みの形に切ってから加熱し、中心温度が65℃以上で、好ましくは75℃以上に加熱しても形が崩れないことが望ましいとされている。そこで、耐熱性の高い牛肉ペーストを調製するため卵白粉を配合し、それらの物性測定、耐熱性(保形性)、食感を調べた。
【0034】
<耐熱性牛肉ペーストの調製法>
牛挽き肉100部、玉葱35部、牛乳25部、ビーフエキス(富士食品(株)、AW200)7部、ジェランガム(三栄源FFI、ケルコHM)0.62部、サイリウムシードガム(三栄源FFI、ビストップD2074)0.62部、プロニーズM-KF(味の素(株))2.5部、水100部を順次混合した。このときジェランガムとサイリウムシードガムの重量比は1:1で、全重量の0.5%であった。これを鍋に入れ、弱火で3分加熱した(中心温度85℃)。次いでミキサーに移し、6分間粉砕してペースト状にした。卵白粉(I GRECA SAS社)の配合比を変えて加え、よく攪拌した後、スチームコンベクションオーブンで99℃に設定し、8分間加熱した(中心温度85℃)。次いで急速冷凍庫に入れ−40℃で1時間冷凍した。−20℃で24時間以上保存した後、冷蔵庫に移して緩慢解凍した。次いで保温装置(クールインキュベーターICI-1、アズワン製)で20℃に保存した後、[0018]記載の方法で物性測定した。残りのサンプルは蒸し器で65℃、及び75℃に加熱し、耐熱性及び食感を調べた。評価は健常人1名で行った。表8に20℃における物性測定結果および水分含量を、表9に耐熱性(保形性)および食感(滑らかさ)の結果を示す。
【0035】
【表8】

【0036】
表8の結果から、加熱前の全重量に対して卵白粉の比率が0%〜2.7%の範囲で物性基準値をクリアしていたが、卵白粉3%では基準をクリアできなかった。表9の結果では、卵白粉の有無に関わらず65℃では保形性が見られた。卵白粉の比率が0.5%以上で75℃での耐熱性が現れ、2.7%以上では保形性が強かった。食感は2.7%以下で滑らかで良好であったが、3%ではざらつきがあった。以上の結果から、牛肉ペーストには卵白粉が0.3〜2.7%、より好ましくは0.5〜2.7%添加することが望ましいことが分かった。
【0037】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、20℃において硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下であり、きわめて柔らかいにもかかわらず、従来の肉様食感を有する食肉加工食品を製造できる。この発明により、嚥下困難者に対して誤嚥の恐れがなく、且つ毎日食べても飽きがこない、おいしい食品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜肉類、肉エキス、水、ジェランガム及びサイリウムシードガムを含む混合物をペースト化し、加熱成型することを特徴とする、20℃における硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法であって、ジェランガムとサイリウムシードガムの合計重量が該混合物重量の0.3%〜5%であり、かつ、ジェランガムとサイリウムシードガムの重量比が3:1〜1:3である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法。
【請求項2】
畜肉類、肉エキス及び水を含む混合物をペースト化した後、該ペースト重量に対しジェランガムとサイリウムシードガムの合計重量が0.3%〜5%であり、かつ、ジェランガムとサイリウムシードガムの重量比が3:1〜1:3となるようジェランガムとサイリウムシードガムを該ペーストに添加し、加熱成型することを特徴とする、20℃における硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法。
【請求項3】
畜肉類、肉エキス、水、ジェランガム及びサイリウムシードガムを含む混合物を加熱成型し、得られた成型物を粉砕し、ペースト状にした後、卵白粉を添加し、再度加熱成型することを特徴とする、20℃における硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法であって、ジェランガムとサイリウムシードガムの合計重量が該混合物重量の0.3%〜5%であり、かつ、ジェランガムとサイリウムシードガムの重量比が3:1〜1:3であり、添加する卵白粉の重量が加熱前の混合物の重量の0.3〜2.7%である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法。
【請求項4】
畜肉類、肉エキス及び水を含む混合物を加熱後に粉砕しペースト化した後、該ペースト重量に対しジェランガムとサイリウムシードガムの合計重量が0.3%〜5%であり、かつ、ジェランガムとサイリウムシードガムの重量比が3:1〜1:3となるようジェランガムとサイリウムシードガムを該ペーストに添加し、さらに加熱前の該ペースト物重量の0.3〜2.7%重量の卵白粉を添加し、加熱成型することを特徴とする、20℃における硬さが3×10〜2×104 N/ m2、 付着性が1.5 ×10 J/ m以下である嚥下困難者用食肉加工食品の製造法。
【請求項5】
混合物が、さらに牛乳を含むものである請求項1乃至4記載の製造法。
【請求項6】
請求項1乃至5何れかの製造法により得られた嚥下困難者用食肉加工食品。

【公開番号】特開2012−125238(P2012−125238A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255455(P2011−255455)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】