説明

回折光学素子及び光スペクトラムアナライザ

【課題】被測定光と回折光との角度関係に関わらず当該回折光の広がり角を設定可能とすることで、被測定光と回折光との角度を柔軟に変更可能とする。
【解決手段】入出射面41が、回折面31に対して、溝5の配列方向(y方向)に傾斜されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子及び光スペクトラムアナライザに関するものであり、特に反射面が透光層によって保護された回折光学素子及び該回折光学素子を備える光スペクトラムアナライザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の回折光学素子としては、ガラス等からなる母材上に樹脂層が設置され、この樹脂層の露出された表面側に複数の溝を平行に配列して形成したものが知られている。このような回折光学素子によれば、溝が形成された樹脂層の表面側に光が入射した場合に、波長毎に異なる角度の回折が生じ、光が波長毎に分光された回折光が出射される。
ところが、樹脂層の表面側が露出して周辺雰囲気にされされている場合には、周辺雰囲気の温度や湿度等の影響を受けやすく、樹脂層の表面側が劣化し易くなるという問題がある。
【0003】
このため、例えば特許文献1に示すように、溝が形成された樹脂層の表面側をガラス板等の透光層によって覆うことによって、樹脂層を保護する回折光学素子が提案されている。このような回折光学素子によれば、透光層によって樹脂層の表面側が周辺雰囲気から保護されるため、樹脂層の表面側の劣化を抑制し、回折光学素子の回折特性を維持することができる。
【特許文献1】特開平10−307203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回折光学素子では、樹脂層の表面(反射面)に光が入射されることによって、上述のように回折光が生じる。例えば、光スペクトラムアナライザ等の光学装置では、回折光学素子から射出される回折光を光検出素子によって検出することで回折光学素子に入射する光(被測定光)の波長毎の光パワーを求めている。
このような光スペクトラムアナライザでは、光検出素子によって回折光を受光する必要があるため、回折光を受光する位置に光検出素子を設置する必要がある。すなわち、被測定光と回折光との角度関係を設定し、この設定に基づいて光検出素子の位置を決定する必要がある。
一方で、被測定光が反射面に入射すると、波長毎に異なる角度の回折が生じる。このため、回折光には、異なる角度に出射される複数の光が含まれている。よって、回折光学素子から出射される回折光は、被測定光がコリメータ光である場合であっても、所定の広がり角を有して出射される。回折光の広がり角が大きい場合には、回折光学素子から等距離に光検出素子を設置した場合であっても、回折光の照射領域が広くなり、より大型の光検出素子が必要となる。したがって、回折光学素子においては、回折光の広がり角を小さくすることが要求されている。
【0005】
上述のような光スペクトラムアナライザ等の光学装置においては、小型化や軽量化を達成するために、設計の自由度が高いことが好ましい。しかしながら、従来の回折光学素子では、被測定光と回折光との角度関係を変化させた場合には、回折光の広がり角が変化してしまう。また、被測定光と回折光との角度関係を固定とした場合には、回折光の広がり角を変化させることができなかった。したがって、従来の回折光学素子を備える光スペクトラムアナライザ等の光学装置においては、被測定光と回折光との角度関係及び回折光の広がり角に縛られた設計を行わざるを得なかった。
【0006】
特に、近年は、被測定光の波長範囲がブロード化(例えば数百nm範囲)してきており、回折光の広がり角が広くなる傾向にある。
さらには、上述の樹脂層の表面側が透光層によって覆われた回折光学素子においては、透光層と周辺雰囲気との界面において回折光が反射される。このため、反射面に複数回反射されることによって加分散された回折光が出射される。このような加分散された回折光は、広がり角がより広いものとなる。
被測定光と回折光との角度関係及び出射光の広がり角に縛られた設計を行わざるを得ない現状においては、このような広がり角がより広い回折光を検出するためには、大型の光検出素子が必要となり、光学装置が大型化してしまう問題が生じる。光検出素子を可動式にする構成も提案されているが、駆動機構を必要とするために耐久性及びメンテナンス性の面において問題がある。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、被測定光と回折光との角度関係に関わらず当該回折光の広がり角を設定可能とすることで、被測定光と回折光との角度を柔軟に変更可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の回折光学素子は、反射面側に複数の溝が所定間隔でかつ平行に配列されて形成される溝形成層と、該溝形成層の反射面を覆いかつ被測定光を透光する透光層とを備える回折光学素子であって、上記被測定光が入射し、かつ、上記被測定光が上記反射面に入射することによって生じる回折光が出射する上記透光層の入出射面は、上記溝形成層の上記反射面に対して、上記溝の配列方向に傾斜されていることを特徴とする。
【0009】
このような特徴を有する本発明によれば、被測定光が入射及び回折光が出射する透光層の入出射面が、溝形成層に形成される溝の配列方向に傾斜されている。そして、入出射面がこのように傾斜されることによって、入出射面が傾斜されない場合と比較して、被測定光と回折光との角度関係に対する回折光の広がり角が変化される。
【0010】
また、本発明の回折光学素子においては、上記溝の配列方向において、上記入出射面の傾斜方向は、上記入出射面に入射する前の上記被測定光の進行方向に対して平行に近づく方向であるという構成を採用する。
【0011】
また、本発明の回折光学素子においては、 上記溝の配列方向において、上記入出射面に対する上記被測定光の入射角度が、臨界角より小さく、かつ、上記反射面に到達する被測定光が上記反射面に対して直角となる角度よりも大きくなるように、上記入出射面の傾斜角度が設定されているという構成を採用する。
【0012】
また、本発明の回折光学素子においては、上記入出射面は、さらに上記溝の延在方向に傾斜されているという構成を採用する。
【0013】
次に、本発明の光スペクトラムアナライザは、被測定光が波長毎に分光されて生じる回折光を出射する回折光学素子と、該回折光学素子から出射された光を検出する光検出素子と、該光検出素子の検出結果に基づいて各波長の光パワーを求める波長演算手段と、を備える光スペクトラムアナライザであって、上記回折光学素子として、本発明の回折光学素子を用いることを特徴とする。
【0014】
このような特徴を有する本発明の光スペクトラムアナライザによれば、回折光学素子として本発明の回折光学素子が用いられる。
【発明の効果】
【0015】
上述のような特徴を有する本発明の回折光学素子によれば、入出射面が溝の配列方向に傾斜されることによって、入出射面が溝の配列方向に傾斜されない場合と比較して、被測定光と回折光との角度関係に対する回折光の広がり角が変化される。つまり、溝の配列方向における入出射面の傾斜角度に応じて回折光の広がり角が変化する。すなわち、本発明の回折光学素子によれば、溝の配列方向における入出射面の傾斜角度を適切に設定することによって、被測定光と回折光との角度関係に関わらず当該回折光の広がり角を設定可能とすることができる。したがって、被測定光と回折光の角度を柔軟に変更することができる。
また、本発明の光スペクトラムアナライザによれば、回折光学素子として本発明の回折光学素子が用いられる。このため、設計の自由度が高まり小型化及び軽量化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る回折光学素子及び光スペクトラムアナライザの一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0017】
〔回折光学素子〕
まず、図1〜図4を参照して、本実施形態の回折光学素子について説明する。
図1は、本実施形態の回折光学素子1の斜視図である。なお、図1においては、後述する溝5の配列方向をy方向、溝5の延在方向をz方向、y方向及びz方向に直交する方向(回折光学素子1の高さ方向)をx方向としている。
また、図2は、回折光学素子1のx−y断面図である。また、図3は、回折光学素子1のx−z断面図である。
【0018】
これらの図に示すように、本実施形態の回折光学素子1は、ガラス母材2と、樹脂層3(溝形成層)と、ガラスプリズム4(透光層)とがx方向に積層された構成を有している。
ガラス母材2は、ガラスからなる略直方体形状の土台であり、平坦化された上面21上に樹脂層3が形成されている。
樹脂層3は、ガラス母材2の上面21の全面に形成されている。樹脂層の上面31側には、複数(例えば、500本/mm)の溝5が所定間隔(例えば、2μmピッチ)でかつ平行に配列されて形成されている。溝5は、図1に示すように、y方向に配列されており、かつ、z方向に延在して形成されている。
なお、このように溝5が露出する樹脂層3の上面31は、光を回折して出射する回折面として機能するため、以下の説明において、樹脂層の上面31を回折面31(反射面)と称する場合がある。
【0019】
ガラスプリズム4は、樹脂層3の上面すなわち回折面31を覆うものであり、本実施形態の回折光学素子1に入射される被測定光Lに対する透光性を有している。なお、本実施形態の回折光学素子1においてガラスプリズム4は、その名称からも分かるように、ガラスによって形成されている。
ガラスプリズム4の上面41すなわち回折面31と反対側の面は、被測定光Lが入射し、かつ、被測定光Lが回折面31に入射することによって生じる回折光L1が出射する乳出射面とされている。なお、以下の説明において、ガラスプリズム4の上面41を入出射面41と称する場合がある。
【0020】
そして、入出射面41は、回折面31に対して、溝5の配列方向すなわちy方向及び溝5の延在方向すなわちz方向に傾斜されている。
図2に示すように、入出射面41は、y方向において、角度θyにて傾斜されている。y方向における入出射面41の傾斜方向は、入出射面41に入射する前の被測定光Lの進行方向に対して平行に近づく方向である。また、y方向において、入出射面41に対する被測定光Lの入射角度が、臨界角よりも小さく、かつ、入出射面41を介して回折面31に到達する被測定光Lが回折面に対して直角となる角度よりも大きくなるように、入出射面41のy方向における角度θyは設定されている。
また、図3に示すように、入出射面41は、z方向において角度θzにて傾斜されている。z方向における入出射面41の傾斜方向は、入出射面41に入射する前の被測定光Lの進行方向に対して、平行あるいは直交に近づくいずれの方向であっても構わないが、本実施形態においては、平行に近づく方向に傾斜されている。また、z方向において、入出射面41に対する被測定光Lの入射角度が、臨界角よりも小さくなるように、入出射面41のz方向における角度θzは設定されている。
【0021】
なお、ガラスプリズム4は、上面41が下面42に対して傾斜して形成されており、下面42が接着層(不図示)を介して回折面31と対向するように樹脂層3に対して固着されることによって、上面41すなわち入出射面41が回折面31に対して傾斜される構成とされている。
例えば、ガラスプリズム4の替わりに上面と下面が平行なガラス板を用意し、当該ガラス板を接着層の厚みを変化させて樹脂層3に対して固着させることによって、回折面31に対して傾斜される入出射面を構成しても良い。
いずれの場合であっても、接着層としては、ガラスプリズム4あるいはガラス板と同一の透光性を有しかつ同一の屈折率を有するものが使用される。これによって、ガラスプリズム4あるいはガラス板と接着層とは単一の透光層として機能することとなる。
【0022】
次に、このように構成された本実施形態の回折光学素子1の動作について説明する。なお、以下の説明おいて、特に断りがない限り、入射角度とは、入射光線と回折面31の法線とがなす角度を示し、出射角度とは、出射光線と回折面31の法線とがなす角度を示す。
【0023】
まず、光線のy方向成分について図2を参照して説明する。
図2に示すように、被測定光Lがガラスプリズム4の上面すなわち入出射面41に入射角度θyinで入射すると、入出射面41にて屈折された被測定光Lが入射角度θgin1で回折面31に入射する。
本実施形態の回折光学素子1においては、入出射面41が回折面31に対して角度θyで傾斜されている。そこで、ガラスプリズム4の屈折率をnp、周辺雰囲気の屈折率をnAと定義すれば、スネルの法則により、入射角度θgin1は、下式(1)のように示される。
【0024】
【数1】

【0025】
被測定光Lが回折面31に入射すると、被測定光Lが波長毎に分光されて高次の回折光が複数生じる。なお、図3においては、図面の視認性向上のために、1次回折光L1のみを図示している。そして、回折光の出射角度θgout1は、グレーティング方程式により下式(2)のように示される。
なお、下式(2)において、Nは1mm間に存在する溝5の本数、mは回折光の次数、λはガラスプリズム4内における被測定光Lに含まれる光の波長を示している。
【0026】
【数2】

【0027】
回折面31から射出された回折光(1次回折光L1)は、ガラスプリズム4内を伝播して、入出射面41に到達し、一部が再度入出射面41において屈折した後に外部に射出し、一部が入出射面41において反射される。
なお、入出射面41から射出される回折光の出射角度θyout1は、スネルの法則により、下式(3)のように示される。
【0028】
【数3】

【0029】
なお、従来の回折光学素子すなわち入出射面が回折面に対して傾斜していない回折光学素子においては、角度θyの値が0となるため、上記式(1)が下式(4)として示され、上記式(3)が下式(5)として示される。
【0030】
【数4】

【0031】
【数5】

【0032】
ここで、被測定光Lとして波長範囲が1200nm〜1400nmの光を用い、被測定光Lと1次回折光L1との角度関係(θyin+θyout1)を略60°、略90°、略120°とした場合における、1次回折光L1の広がり角について、上記式(1)〜(5)を用いて具体的に算出した結果について説明する(図4参照)。
なお、本算出結果を求めるにあたって、本実施形態の回折光学素子1については、入出射面41がy方向において5°傾斜されている、すなわちθyが5°とされているものとした。また、本実施形態において、被測定光Lと1次回折光L1との角度関係とは、1次回折光L1に含まれる波長成分のうち、被測定光Lの中心波長である1300nmの波長成分の光と、被測定光Lとがなす角度のことである。
【0033】
図4において、グループAは、本実施形態の回折光学素子1において、被測定光Lの入射角度を42.00°とし、被測定光Lと1次回折光L1との角度関係を略60°(正確には、60.03°)に設定した場合の算出結果を示すものである。
グループBは、本実施形態の回折光学素子1において、被測定光Lの入射角度を60.40°とし、被測定光Lと1次回折光L1との角度関係を略90°(正確には、90.05°)に設定した場合の算出結果を示すものである。
グループCは、本実施形態の回折光学素子1において、被測定光Lの入射角度を83.90°とし、被測定光Lと1次回折光L1との角度関係を略120°(正確には、120.04°)に設定した場合の算出結果を示すものである。
グループDは、従来の回折光学素子において、被測定光の入射角度を38.60°とし、被測定光と1次回折光との角度関係を略60°(正確には、59.94°)に設定した場合の算出結果を示すものである。
グループEは、従来の回折光学素子において、被測定光の入射角度を55.60°とし、被測定光と1次回折光との角度関係を略90°(正確には、90.02°)に設定した場合の算出結果を示すものである。
グループFは、従来の回折光学素子において、被測定光の入射角度を75.10°とし、被測定光と1次回折光との角度関係を略120°(正確には、120.04°)に設定した場合の算出結果を示すものである。
【0034】
図4に示すように、グループAにおいては、1次回折光L1に含まれる波長成分のうち、被測定光Lの最も短波長である1200nmの波長成分の光と、被測定光Lとがなす角度が61.21°であり、1次回折光L1に含まれる波長成分のうち、被測定光Lの最も長波長である1400nmの波長成分の光と、被測定光Lとがなす角度が58.85°である。このため、これらの角度の差は、すなわち1次回折光L1の広がり角は、2.36°となる。
【0035】
グループBにおいては、1次回折光L1に含まれる波長成分のうち、被測定光Lの最も短波長である1200nmの波長成分の光と、被測定光Lとがなす角度が91.34°であり、1次回折光L1に含まれる波長成分のうち、被測定光Lの最も長波長である1400nmの波長成分の光と、被測定光Lとがなす角度が88.78°である。このため、これらの角度の差は、すなわち1次回折光L1の広がり角は、2.56°となる。
【0036】
グループCにおいては、1次回折光L1に含まれる波長成分のうち、被測定光Lの最も短波長である1200nmの波長成分の光と、被測定光Lとがなす角度が121.42°であり、1次回折光L1に含まれる波長成分のうち、被測定光Lの最も長波長である1400nmの波長成分の光と、被測定光Lとがなす角度が118.68°である。このため、これらの角度の差は、すなわち1次回折光L1の広がり角は、2.74°となる。
【0037】
グループDにおいては、1次回折光に含まれる波長成分のうち、被測定光の最も短波長である1200nmの波長成分の光と、被測定光とがなす角度が61.18°であり、1次回折光に含まれる波長成分のうち、被測定光の最も長波長である1400nmの波長成分の光と、被測定光とがなす角度が58.72°である。このため、これらの角度の差は、すなわち1次回折光の広がり角は、2.46°となる。
【0038】
グループEにおいては、1次回折光に含まれる波長成分のうち、被測定光の最も短波長である1200nmの波長成分の光と、被測定光とがなす角度が91.42°であり、1次回折光に含まれる波長成分のうち、被測定光の最も長波長である1400nmの波長成分の光と、被測定光とがなす角度が88.64°である。このため、これらの角度の差は、すなわち1次回折光の広がり角は、2.78°となる。
【0039】
グループFにおいては、1次回折光に含まれる波長成分のうち、被測定光の最も短波長である1200nmの波長成分の光と、被測定光とがなす角度が121.69°であり、1次回折光に含まれる波長成分のうち、被測定光の最も長波長である1400nmの波長成分の光と、被測定光とがなす角度が118.45°である。このため、これらの角度の差は、すなわち1次回折光の広がり角は、3.24°となる。
【0040】
グループAとグループDとを比較すると、被測定光と1次回折光との角度関係を略60°に設定した場合には、本実施形態の回折光学素子1における1次回折光の広がり角が、従来の回折光学素子における1次回折光の広がり角よりも狭いことが分かる。
グループBとグループEとを比較すると、被測定光と1次回折光との角度関係を略90°に設定した場合にも、本実施形態の回折光学素子1における1次回折光の広がり角が、従来の回折光学素子における1次回折光の広がり角よりも狭いことが分かる。
グループCとグループFとを比較すると、被測定光と1次回折光との角度関係を略120°に設定した場合にも、本実施形態の回折光学素子1における1次回折光の広がり角が、従来の回折光学素子における1次回折光の広がり角よりも狭いことが分かる。
【0041】
これらの算出結果から分かるように、本実施形態の光学回折素子1のようにy方向に入出射面41を傾斜させることによって、1次回折光の広がり角を変化させることができる。
なお、上記式(1)〜(3)から、1次回折光の広がり角は、入出射面41の回折面31に対する角度θyを変化させることによって変化することが理解できる。
すなわち、本実施形態の回折光学素子1によれば、入出射面41の回折面31に対する角度θyを適切に設定することによって、被測定光Lと1次回折光L1との角度関係に関わらず当該1次回折光L1の広がり角を設定可能とすることができる。したがって、被測定光Lと1次回折光L1の角度を柔軟に変更することができる。
例えば、入出射面41の回折面31に対する角度θyを適切に設定することによって、1次回折光L1の広がり角を変化させることなく、被測定光Lと1次回折光L1との角度関係を変化させることができる。また、入出射面41の回折面31に対する角度θyを適切に設定することによって、被測定光Lと1次回折光L1との角度関係を変化させることなく1次回折光L1の広がり角を変化させることができる。
【0042】
なお、本実施形態の回折光学素子1においては、y方向における入出射面41の傾斜方向が、入出射面41に入射する前の被測定光Lの進行方向に対して平行に近づく方向とされている。このような条件の下には、式(1)〜(3)から分かるように、入出射面41の回折面31に対する傾きを大きくする、すなわち角度θyの値を大きくすることによって、1次回折光L1の広がり角を小さくすることができる。
【0043】
図2に戻り、入出射面41において反射された1次回折光L1は、入射角度θygin2にて再度回折面31に入射する。なお、入射角度θygin2は、下式(6)に示すように、1次回折光L1の回折面31から出射角度θygout1と関係付けられる。
【0044】
【数6】

【0045】
そして、1次回折光L1が再度回折面31に入射することによって生じた回折光は、出射角度θygout2にて回折面31から出射する。この出射角度θygout2は、式(2)と同様に、グレーティング方程式によって、下式(7)のように示される。なお、図2においては、このように1次回折光L1が再度回折面31に入射することによって生じた回折光のうち、1次回折光L2のみを図示している。
【0046】
【数7】

【0047】
回折面31から出射した回折光は、ガラスプリズム4内を伝播して、入出射面41に到達し、一部が再度入出射面41において屈折した後に外部に射出し、一部が入出射面41において反射される。
なお、入出射面41から射出される回折光の出射角度θyout2は、式(3)と同様に、スネルの法則により、下式(8)のように示される。
【0048】
【数8】

【0049】
このように複数回(2回)回折面31において回折することによって生じた光(1次回折光L2)は、被測定光Lが一度だけ回折することによって生じた1次回折光L1と比較して、加分散された光となる。つまり、1次回折光L2を計測することで、より高波長分解能の計測が可能となる。
【0050】
そして、本実施形態の回折光学素子1によれば、入出射面41の回折面31に対する角度θyを適切に設定することによって、被測定光Lと1次回折光L2との角度関係に関わらず1次回折光L2の広がり角を設定可能とすることができる。したがって、被測定光Lと1次回折光L2の角度を柔軟に変更することができる。
例えば、入出射面41の回折面31に対する角度θyを適切に設定することによって、1次回折光L2の広がり角を変化させることなく、被測定光Lと1次回折光L2との角度関係を変化させることができる。また、入出射面41の回折面31に対する角度θyを適切に設定することによって、被測定光Lと1次回折光L2との角度関係を変化させることなく1次回折光L2の広がり角を変化させることができる。
【0051】
このように本実施形態の回折光学素子1によれば、回折面31にて2回回折された1次回折光と被測定光Lとの角度を柔軟に変更することができる。また、回折面31にて3回、4回とさらに回折されることによって生じた1次回折光と被測定光Lとの角度関係も柔軟に変化させることができる。
【0052】
なお、上記説明においては、+1次の回折光についてのみ説明した。しかしながら、±1、±2、±3……±m次の回折光についても同様な説明ができる。
つまり、本実施形態の回折光学素子1によれば、全ての回折光と被測定光Lとの角度関係を柔軟に変化させることができる。
【0053】
続いて、光線のz方向成分について図3を参照して説明する。
図3に示すように、被測定光Lがガラスプリズム4の上面すなわち入出射面41に入射角度θzinで入射すると、入出射面41にて屈折された被測定光Lが入射角度θzg1で回折面31に入射する。
本実施形態の回折光学素子1においては、入出射面41が回折面31に対して角度θzで傾斜されている。そこで、ガラスプリズム4の屈折率をnp、周辺雰囲気の屈折率をnAと定義すれば、スネルの法則により、入射角度θzg1は、下式(9)のように示される。
【0054】
【数9】

【0055】
被測定光Lのz成分は溝5の延在方向と平行な方向であるため、回折面31にて正反射される。回折面31にて正反射した反射光L3は、入出射面41において一部が屈折されて周辺雰囲気に射出され、一部が反射される。この周辺雰囲気への反射光L3の出射角度θzoutnは途中式(10)を介して、下式(11)にて示される。なお、下式(10)、(11)において、αは所定面(入出射面41あるいは回折面31)における反射回数を示している。また、zpαは入出射面41において反射される光の入射角度あるいは反射角を示し、zgαは回折面31において反射される光の入射角度あるいは反射角を示している。
【0056】
【数10】

【0057】
【数11】

【0058】
式(11)は、図2で説明したy−z面において仮に同じ軌跡をたどる加分散の光があったとしても、反射光L3は、x−z面では互いに異なる光線軌跡をとることを意味している。つまり、x−y−z空間内において、回折光は互いに軌跡が重なることがない。したがって、入出射面41が回折面31に対してz方向に傾斜されることによって、迷光を回避することが可能となる。
【0059】
このように本実施形態の回折光学素子1によれば、入出射面41が、回折面31に対して、y方向(溝5の配列方向)に傾斜されているため、回折光学素子1に入射される被測定光Lと、回折光学素子1から射出される所望の回折光の角度関係を柔軟に変化させることができる。
【0060】
また、本実施形態の回折光学素子1によれば、y方向における入出射面41の傾斜方向が、入出射面41に入射する前の被測定光Lの進行方向に対して平行に近づく方向とされている。このため、入出射面41の回折面31に対する傾きを大きくする、すなわち角度θyの値を大きくすることによって、回折光の広がり角を小さくすることができる。
なお、本発明は、このような構成に限定されるものではなく、回折光の広がり角を大きくする要求がある場合には、角度θyの値を大きくすることによって回折光の広がり角が大きくなるように、y方向における入出射面41の傾斜方向が、入出射面41に入射する前の被測定光Lの進行方向に対して直交に近づく方向とすることもできる。
【0061】
また、本実施形態の回折光学素子1によれば、y方向において、入出射面41に対する被測定光Lの入射角度が、臨界角よりも小さく、かつ、入出射面41を介して回折面31に到達する被測定光Lが回折面に対して直角となる角度よりも大きくなるように、入出射面41のy方向における角度θyが設定されている。仮に、入出射面41に対する被測定光Lの入射角度が、臨界角よりも大きい場合には、被測定光がガラスプリズム4の内部に入射できず、回折光を得られない。また、仮に、入出射面41を介して回折面31に到達する被測定光Lが回折面に対して直角となる場合には、回折面31に入射する被測定光Lのy方向成分がなくなり、回折光が得られない。
したがって、上述のような構成を採用する本実施形態の回折光学素子1によれば、確実に回折光を得ることができる。
【0062】
また、本実施形態の回折光学素子1によれば、入出射面41が回折面31に対してz方向に傾斜されている。このため、迷光を回避することが可能となる。
なお、本発明において、入出射面41を回折面31に対してz方向に必ずしも傾斜させる必要はなく、迷光を回避する必要がない場合等には、入射面41を回折面31に対してz方向に平行な構成とする。
【0063】
〔光スペクトラムアナライザ〕
次ぎに、上述した回折光学素子1を備える本実施形態の光スペクトラムアナライザについて図5を参照して説明する。
【0064】
図5は、本実施形態の光スペクトラムアナライザ10の要部構成を示す図である。この図に示すように、光スペクトラムアナライザ10は、ポリクロメータ型の分光系を有する光スペクトラムアナライザであり、コリメータレンズ101、減偏光子102、回折光学素子1、集光レンズ103、フォトダイオードアレイモジュール104(光検出素子)及び波長演算装置105(波長演算手段)を備える。
【0065】
コリメートレンズ101は、外部から入射される被測定光Lを平行光に変換するものである。
減偏光子102は、コリメートレンズ102から射出された被測定光Lをランダム偏光(非偏光)にするための素子である。例えば、コリメートレンズ101からの被測定光が直線偏光である場合には、ランダム偏光に変換する。
【0066】
回折光学素子1は、本発明の回折光学素子であり、減偏光子102から被測定光Lが入射されることによって生じる回折光L1を射出する。
集光レンズ103は、回折光学素子1から射出される回折光の光路上に配置されており、回折光学素子1からの回折光を集光してフォトダイオードアレイモジュール104上に結像させる。
【0067】
フォトダイオードアレイモジュール104は、受光素子であるフォトダイオードを複数備えており、集光レンズ103によって被測定光が集光される位置にその受光面が配置されている。このフォトダイオードアレイモジュール104は、被測定光の光パワーを受光素子によってサンプリングし、サンプリングデータを測定データとして出力する。なお、フォトダイオードアレイモジュール104は、受光素子ごとに予め波長が割り当てられている。
波長演算装置105は、フォトダイオードアレイモジュール104から出力される測定データから被測定光の波長毎の光パワーを求める。
【0068】
このような構成の光スペクトラムアナライザ10において、被測定光Lは、コリメートレンズ101で平行光に変換される。コリメートレンズ101を透過した被測定光Lは、減偏光子102でランダム偏光に変換された後に回折光学素子1に入射し、回折格子104によって波長毎に分光されて回折光L1として射出される。すなわち、波長毎に異なる角度で回折されることにより分光されて回折光L1として射出される。回折光L1は、集光レンズ103によって集光されてフォトダイオードアレイモジュール104の受光面に結像する。このとき、回折光L1は、波長毎に受光面の異なる位置に結像する。
【0069】
これにより、フォトダイオードアレイモジュール104の各受光素子からは、被測定光の光パワーに対応する電流(光電流)が出力される。なお、図5では図示を省略しているが、フォトダイオードアレイモジュール104は電圧変換部及びA/D変換部を備えており、各受光素子から出力された光電流は電圧変換部によって電圧に変換され、A/D変換部によってディジタル信号に変換される。ディジタル信号に変換された信号(測定データ)は波長演算装置105に出力され、波長演算装置105において被測定光の波長毎の光パワーが求められる。
【0070】
具体的には、フォトダイオードアレイモジュール104の各受光素子に割り当てられた波長から回折光L1の波長を求め、この波長とフォトダイオードアレイモジュール104からの測定データとを対応付ける。これにより、波長毎の光パワーを示すグラフが求められる。そして、波長演算装置105は、このグラフを液晶表示装置等の表示装置(不図示)に表示し、あるいは外部の装置(不図示)に出力する。
【0071】
上述のように回折光学素子1は、入出射面41が、回折面31に対して、y方向(溝5の配列方向)に傾斜されているため、回折光学素子1に入射される被測定光Lと、回折光学素子1から射出される回折光L1の角度関係を柔軟に変化させることができる。
したがって、例えば、従来の光スペクトラムアナライザと同様に回折光L1の広がり角を維持することによってフォトダイオードアレイモジュール104の大型化を防ぎながら、回折光学素子1に入射される被測定光Lと、回折光学素子1から射出される回折光L1の角度関係を任意の角度にすることができる。このため、設計の自由度が高まり装置を小型化等することができる。
また、例えば、回折光学素子1に入射される被測定光Lと、回折光学素子1から射出される回折光L1の角度関係を従来の光スペクトラムアナライザと同様に維持し、回折光L1の広がり角を小さくすることで、フォトダイオードアレイモジュール104の小型化及び軽量化が可能となり、さらには光スペクトラムアナライザ10の小型化及び軽量化が図れる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る回折光学素子及び光スペクトラムアナライザの好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0073】
例えば、上記実施形態の回折光学素子によれば、回折光L1の広がり角を小さく抑えることができるため、フォトダイオードアレイモジュール104を稼動させるための駆動機構を必要としない。しかしながら、本発明は、フォトダイオードアレイモジュール104を稼動させるための駆動機構の設置を妨げるものではない。また、例えば、回折面31をy−z面内において回転させる回転機構を設置しても良い。
【0074】
また、上記実施形態においては、本発明の回折光学素子1を光スペクトラムアナライザ10に用いる例についてのみ説明した。しかしながら、本発明の回折光学素子1は、光スペクトラムアナライザ10に限られず、回折光学素子を備える光学装置全般に用いることができる。このような回折光学素子を備える光学装置としては、例えば、分光器や可変波長光源等が挙げられる。
【0075】
また、上記実施形態においては、ポリクロメータ型の分光系を有する光スペクトラムアナライザについてのみ説明した。しかしながら、本発明は、上記構成に限られるものではなく、他型の分光系(例えば、ツェルニターナ型の分光系)を有する光スペクトラムアナライザに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態である回折光学素子の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態である回折光学素子を溝の配列方向に切断した断面図である。
【図3】本発明の一実施形態である回折光学素子を溝の延在方向に切断した断面図である。
【図4】本発明の一実施形態である回折光学素子における1次回折光の広がり角について、算出した結果を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態である光スペクトラムアナライザの要部構成を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1……回折光学素子、2……ガラス母材、3……樹脂層(溝形成層)、31……回折面(上面、反射面)、4……ガラスプリズム、41……入出射面(上面)、5……溝、L……被測定光、L1,L2……1次回折光、L3……反射光、10……光スペクトラムアナライザ、104……フォトダイオードアレイモジュール(光検出素子)、105……波長演算装置(波長演算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射面側に複数の溝が所定間隔でかつ平行に配列されて形成される溝形成層と、該溝形成層の反射面を覆いかつ被測定光を透光する透光層とを備える回折光学素子であって、
前記被測定光が入射し、かつ、前記被測定光が前記反射面に入射することによって生じる回折光が出射する前記透光層の入出射面は、前記溝形成層の前記反射面に対して、前記溝の配列方向に傾斜されていることを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
前記溝の配列方向において、前記入出射面の傾斜方向は、前記入出射面に入射する前の前記被測定光の進行方向に対して平行に近づく方向であることを特徴とする請求項1記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記溝の配列方向において、前記入出射面に対する前記被測定光の入射角度が、臨界角より小さく、かつ、前記反射面に到達する被測定光が前記反射面に対して直角となる角度よりも大きくなるように、前記入出射面の傾斜角度が設定されていることを特徴とする請求項2記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記入出射面は、さらに前記溝の延在方向に傾斜されていることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の回折光学素子。
【請求項5】
被測定光が波長毎に分光されて生じる回折光を出射する回折光学素子と、該回折光学素子から出射された光を検出する光検出素子と、該光検出素子の検出結果に基づいて各波長の光パワーを求める波長演算手段と、を備える光スペクトラムアナライザであって、
前記回折光学素子として、請求項1〜4いずれかに記載の回折光学素子を用いることを特徴とする光スペクトラムアナライザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−122770(P2008−122770A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307786(P2006−307786)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】