説明

回路基板とその製造方法および電子機器

【課題】パッド部を基板に安定して接着状態に維持する。
【解決手段】基板上に印刷により形成された、配線部および該配線部に接続し該配線部よりも面積の広いパッド部を含む回路パターンを備えるとともに、前記パッド部の表面を部分的に被覆し、少なくとも一部の縁部を横切って基板側まで掛け渡されるよう印刷により形成された接着性の材質からなるカバーコート層を備える回路基板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板とその製造方法および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環境に優しく、マスクレスで回路を形成する技術として、インクジェット装置を用いた回路基板の製造技術が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
この技術は、直径がnmオーダの金属微粒子を溶媒に分散させて、インクジェット装置を用いて基板上に回路パターンを印刷することにより、回路基板を形成するものである。
【0003】
インクジェット装置を用いた印刷により基板上に回路パターンを形成する従来の技術では、予め基板の表面状態を整えてから印刷を行わないと、インクが濡れ広がるため、精密な回路パターンを形成できず、断線やショートが発生する不都合がある。このため、基板の表面にフッ素系分子のような撥液性の表面処理が行われる。
【0004】
【非特許文献1】菅沼克昭著、「金属ナノ粒子ペーストのインクジェット微細配線」、株式会社シーエムシー出版、2006年3月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、撥液性の表面処理が行われた基板表面に、インクジェット装置を用いた印刷によって回路パターンを形成すると、回路パターンと基板との接着性が不安定になるという問題がある。
特に、検査プローブの接触を容易にするために、配線部分よりも広い面積を有するように形成されたパッド部においては、使用中に温度変化が発生すると、基板の材料と回路パターンを構成する材料とで熱膨張係数が異なるために、基板から剥離してしまう不都合が発生することがある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、パッド部を基板に安定して接着状態に維持することができる回路基板とその製造方法および電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、基板上に印刷により形成された、配線部および該配線部に接続し該配線部よりも面積の広いパッド部を含む回路パターンを備えるとともに、前記パッド部の表面を部分的に被覆し、少なくとも一部の縁部を横切って基板側まで掛け渡されるよう印刷により形成された接着性の材質からなるカバーコート層を備える回路基板を提供する。
【0008】
本発明によれば、基板上に印刷により形成された回路パターンを部分的に覆って印刷されたカバーコート層が、パッド部の少なくとも一部の縁部を横切って基板側まで掛け渡されているので、カバーコート層によりパッド部の縁部が基板から剥離しないように接着状態に維持される。これにより、基板の表面に特別の表面処理を施すことなく、回路パターンの剥離を防止することができる。また、カバーコート層はパッド部の一部を覆っているので、カバーコート層により覆われていない部分には、検査プローブを接触させて導通検査を行うことができる。
【0009】
上記発明においては、前記カバーコート層が、エポキシ樹脂製の薄膜からなることとしえてもよい。
このようにすることで、粘着性の高いエポキシ樹脂製の薄膜を印刷により形成し、より確実にパッド部の剥離を防止することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記パッド部の周縁の全周にわたりカバーコート層が形成されていてもよい。
このようにすることで、カバーコート層によってパッド部の剥離を全周にわたって防止することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記カバーコート層が、前記配線部も被覆するように形成されていてもよい。
このようにすることで、回路基板全体の剥離を防止することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記配線部および前記パッド部が複数設けられ、複数の前記パッド部を被覆する前記カバーコート層が連結されていてもよい。
このようにすることで、広い面積にわたって設けられるカバーコート層によって、パッド部の剥離をより確実に防止することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記パッド部がプローブを接触させるための部位であり、該パッド部に、前記プローブの先端部より小さい開口径の貫通孔が形成されていてもよい。
このようにすることで、パッド部と基板との接触面積を低減して、剥離防止効果を高めることができる。また、プローブをパッド部に接触させたときに、プローブの先端部が貫通孔に一致する位置に配置されても、両者間の接触が途切れることが防止され、確実な導通検査を行うことが可能となる。
【0014】
また、本発明は、基板上に印刷により形成された、配線部および該配線部に接続し該配線部よりも面積が広く、プローブを接触させるためのパッド部を含む回路パターンを備えるとともに、前記パッド部に、前記プローブの先端部より小さい開口径の貫通孔が形成されている回路基板を提供する。
本発明によれば、配線部より広い面積のパッド部においても、基板との接触面積を低減して、基板から剥離しにくい配線部と同様に剥離防止効果を向上することができる。
【0015】
また、本発明は、基板上に、配線部および該配線部に接続し該配線部よりも面積の広いパッド部を含む回路パターンを印刷により形成する回路パターン形成ステップと、前記パッド部の表面を部分的に被覆し、少なくとも一部の縁部を横切って基板側まで掛け渡されるよう接着性の材質からなるカバーコート層を印刷により形成するカバーコート層形成ステップとを備える回路基板の製造方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、上記いずれかの回路基板を備える電子機器を提供する。
基板上からのパッド部の剥離を防止し、保守点検時等に安定して検査を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パッド部を基板に安定して接着状態に維持することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る回路基板1について、図1〜図3を参照して説明する。
本実施形態に係る回路基板1は、図1に示されるように、絶縁材料からなる基板2と、該基板2の表面に形成された導電性の材料からなる回路パターン3と、回路パターン3を部分的に覆うカバーコート層4とを備えている。
【0019】
基板2は、ガラス、石英ガラス、ポリイミド等のプラスチックフィルムあるいは表面が絶縁体で覆われている金属板等により構成されている。また、基板2は、後述するインクに含まれる金属微粒子の焼結時の温度(例えば、150℃〜200℃)によって変形しない耐熱性を有している。また、基板2の表面には、フッ素系分子を吸着させることにより表面処理が行われている。
【0020】
具体的には、例えば、Ar10mL/min、500Wで30sec間プラズマ処理を施した後、25%濃度に希釈したフッ素膜をスポイト塗布し、80℃で30分間加熱処理することにより表面処理が行われる。
【0021】
回路パターン3は、金属微粒子を含むインクの微細な液滴をインクジェット装置によって基板2上に吐出するインクジェット印刷により描画した後に、例えば、150℃で3時間還元雰囲気中で加熱して、金属微粒子どうしを焼結させることにより基板2上に接着状態に形成される(回路パターン形成ステップ)。
金属微粒子としては、例えば、金、銀、銅、パラジウムあるいはニッケルの内のいずれかを含有するものの他、これらの酸化物等を採用することができる。
【0022】
金属微粒子の粒径は、1nm以上100nm以下であることが好ましい。100nmより大きいと、インクジェット装置のノズルに目詰まりが生ずる虞がある。また、1nmより小さいと、金属微粒子に対する分散媒の体積比が大きくなるので、得られた回路パターン3内の有機物の割合が過多となる。
【0023】
分散媒としては、上記の金属微粒子を分散できるもので、凝集を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼンなどの炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサンなどのエーテル系化合物、さらにプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノンなどの極性化合物を例示できる。
【0024】
これらのうち、粒子の分散性と分散液の安定性、またインクジェット装置での適用の容易さの点で、水、アルコール類、炭化水素系化合物、エーテル系化合物が好ましく、より好ましい分散媒としては、水、炭化水素系化合物を挙げることができる。
【0025】
また、回路パターン3は、図2に示されるように、電子部品(図示略)の端子に接続する多数の配線部3aと、各配線部3aの一端に接続された比較的面積の大きなパッド部3bとを備えている。配線部3aは、例えば、幅約100μm、パッド部3bは、1辺が約1mmの正方形状に形成されている。
【0026】
カバーコート層4は、エポキシ樹脂からなる薄膜状に形成されている。カバーコート層4は、金属微粒子を焼結させることにより基板2上に回路パターン3が形成された後に、インクジェット装置によって回路パターン3上にエポキシ樹脂を印刷し、ほぼ同時に紫外線照射することにより形成される(カバーコート層形成ステップ)。
具体的には、例えば、Ar10mL/min、500Wで30sec間プラズマ処理を施した後、80℃に加熱しつつインクジェット装置によりエポキシ樹脂の液滴を吹き付けることにより印刷される。
【0027】
本実施形態においてはカバーコート層4は、全ての配線部3aの電子部品への接続部を除く全体および全てのパッド部3bの周縁部全体を被覆するように一体的に形成されている。
パッド部3bは、図3に示されるように、周縁から内側へ30〜200μmの幅でカバーコート層4に覆われており、中央部が1辺600μm以上の正方形状に露出している。
また、カバーコート層4は、パッド部3bの周縁から外側へも50μm程度の幅で基板2側まで延びて形成されている。
【0028】
このように構成された本実施形態に係る回路基板1によれば、配線部3aに比較して面積の広いパッド部3bが、その周縁部においてカバーコート層4により覆われているので、接着性のエポキシ樹脂からなるカバーコート層4によってパッド部3bが基板2から剥離しないように保持される。
すなわち、熱膨張や収縮による内部応力等が発生しても、パッド部3bの周縁が全周にわたってカバーコート層4によって基板2に接着されているので、周縁から発生し易い剥離が、効果的に抑えられる。
【0029】
その結果、基板2の表面に撥液性の表面処理を施して、微細な回路パターン3を形成することができるとともに、パッド部3bの剥離を抑えて、耐久的に安定した検査を行うことができるという利点がある。
また、本実施形態においては、パッド部3bのみならず配線部3aのほぼ全体もカバーコート層4により被覆されているので、配線部3aの剥離も抑えられ、断線等の不都合の発生を未然に防止することができる。
【0030】
さらに、本実施形態においては、複数のパッド部3bおよび配線部3aを一体的に覆うカバーコート層4を採用したので、広い面積で基板2に接着し、高い接着力を発揮することができる。その結果、より確実に回路パターン3を基板2から剥離しないように保持することができるという利点がある。
【0031】
なお、本実施形態においては、複数のパッド部3bに対して一体的なカバーコート層4を設けたが、これに代えて、各パッド部3bに対して個別にカバーコート層4を設けてもよい。また、配線部3aにカバーコート層4を設けなくてもよい。
【0032】
また、本実施形態においては、パッド部3bの周縁を全周にわたってカバーコート層4によって被覆することとしたが、これに代えて、図4に示されるように、帯状のカバーコート層4によって周縁を部分的に横切って、カバーコート層4が基板2上とパッド部3b上の両方に掛け渡されるように配置してもよい。帯状のカバーコート層4の形態は、任意でよく、例えば、図5に示されるような形態を採用してもよい。
【0033】
また、パッド部3bの剥離を低減する方法として、図6に示されるように、パッド部3bに複数の貫通孔5を設け、パッド部3bと基板2とが広い面積範囲にわたって接触しないようにすることとしてもよい。このようにすることで、幅の細い配線部3aと同様にして、パッド部3bを剥離しにくくすることができる。
【0034】
この場合、貫通孔5の開口径は、パッド部3bに接触させるプローブ(図示略)の先端部より小さいことが好ましい。パッド部3bにプローブの先端部を無造作に接触させたとしても、先端部が貫通孔5の内部に配されてパッド部3bとの接触が行われない不都合の発生を回避して、安定した検査を行うことができるという利点がある。
また、このような貫通孔5を有するパッド部3bに、図7に示されるように、上述したカバーコート層4を組み合わせてもよいことは言うまでもない。
【0035】
また、本実施形態においては、オーバーコート層4としてエポキシ樹脂からなるものを例示したが、これに代えて、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、オレフィン樹脂、メラミン樹脂あるいはフッ素樹脂等の高分子材料の他、シリカのような無機物を含む材料からなるものを採用してもよい。
【0036】
また、本実施形態に係る回路基板1は、図8に示されるようなストップウォッチ6、時計、メトロノーム等の電子機器の内部基板として採用することにしてもよい。この場合、保守時等に、回路基板1に設けられたパッド部3bに検査プローブを接触させて導通検査を行うことができ、しかもパッド部3bが基板2から剥離しないように抑えられるので、耐久的に安定した検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る回路基板を示す正面図である。
【図2】図1の回路基板の製造途中において基板上に回路パターンが形成された状態を示す正面図である。
【図3】図1の回路基板におけるパッド部の拡大斜視図である。
【図4】図1の回路基板の第1の変形例を示す拡大斜視図である。
【図5】図1の回路基板の第2の変形例を示す拡大斜視図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る回路基板のパッド部を示す拡大斜視図である。
【図7】図6のパッド部に図1のオーバーコート層を組み合わせた回路基板を部分的に示す拡大斜視図である。
【図8】図1の回路基板を備える電子機器を示す一部を破断した斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 回路基板
2 基板
3 回路パターン
3a 配線部
3b パッド部
4 カバーコート層
5 貫通孔
6 ストップウォッチ(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に印刷により形成された、配線部および該配線部に接続し該配線部よりも面積の広いパッド部を含む回路パターンを備えるとともに、
前記パッド部の表面を部分的に被覆し、少なくとも一部の縁部を横切って基板側まで掛け渡されるよう印刷により形成された接着性の材質からなるカバーコート層を備える回路基板。
【請求項2】
前記カバーコート層が、エポキシ樹脂製の薄膜からなる請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記パッド部の周縁の全周にわたりカバーコート層が形成されている請求項1または請求項2に記載の回路基板。
【請求項4】
前記カバーコート層が、前記配線部も被覆するように形成されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の回路基板。
【請求項5】
前記配線部および前記パッド部が複数設けられ、
複数の前記パッド部を被覆する前記カバーコート層が連結されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の回路基板。
【請求項6】
前記パッド部がプローブを接触させるための部位であり、
該パッド部に、前記プローブの先端より小さい開口径の貫通孔が形成されている請求項1から請求項5のいずれかに記載の回路基板。
【請求項7】
基板上に印刷により形成された、配線部および該配線部に接続し該配線部よりも面積が広く、プローブを接触させるためのパッド部を含む回路パターンを備えるとともに、
前記パッド部に、前記プローブの先端部より小さい開口径の貫通孔が形成されている回路基板。
【請求項8】
基板上に、配線部および該配線部に接続し該配線部よりも面積の広いパッド部を含む回路パターンを印刷により形成する回路パターン形成ステップと、
前記パッド部の表面を部分的に被覆し、少なくとも一部の縁部を横切って基板側まで掛け渡されるよう接着性の材質からなるカバーコート層を印刷により形成するカバーコート層形成ステップとを備える回路基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の回路基板を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−170474(P2009−170474A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3732(P2008−3732)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】