説明

回路基板

【課題】温度や振動等の環境変化に厳しい条件下においても接合界面での電気的信頼性が高く接合強度の大きい導電性組成物を用いた回路基板を提供する。
【解決手段】粒径0.5〜60μmの銀粉末及び粒径0.5〜60μmの錫粉末からなる金属粉末と分散剤とを含んでなり、錫粉末の粒形が球状であり、且つ、全体量に対する金属粉末の含有量が85〜93重量%であり、且つ、銀粉末と錫粉末との配合割合が重量比で65〜50:35〜50であり、且つ、分散剤が多価アルコール、炭化水素及びアルコールエステルから選ばれる沸点200℃以上の単独又は混合の溶剤であるスクリーン印刷による回路形成用導電性組成物をスクリーン印刷により銅板上にパターン印刷してパターンの塗膜を形成し該塗膜上に銅箔を載せて荷重をかけて熱処理し該銅板と該銅箔との接合界面に合金層を形成してなる回路基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉末及び錫粉末からなる金属粉末と分散剤とを含んでなるスクリーン印刷による回路形成用導電性組成物をスクリーン印刷により銅板上にパターン印刷してパターンの塗膜を形成してなる回路基板に関するものである
【背景技術】
【0002】
銀粉末と錫粉末と樹脂とを含有する導電性組成物として、特許文献1(特開昭52-66540号公報)には、導電性金属粉の10〜40重量%を最大粒径40μ以下、平均粒径10μ以下の錫粉とし、残部を銀粉とした該導電性金属粉60〜80重量部と残りは樹脂及び溶剤より成る加熱乾燥型導電塗料が開示されており、特許文献2(特開2000-101925号公報)には、最大粒径が60μm以下の銀粉末と錫粉末、熱硬化型樹脂及び溶剤から成り、銀粉末と錫粉末とが重量比で100:0〜80:20であること及び金属粉:熱硬化型樹脂が重量比で100:0〜95:5である導電性組成物が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭52−66540号公報
【特許文献2】特開2000−101925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記加熱乾燥型導電塗料は、コンデンサの電極接合等に要求されるハンダ付性に優れた導電塗料とするために、導電塗料中に樹脂成分が多く含まれており、回路基板用には適さないという問題点があった。
【0005】
また、前記導電性組成物は、回路基板の接合界面における電気的信頼性及び接合強度を満足するものではあるが、温度や振動等の環境変化に厳しい条件下に置かれる自動車などに用いられる回路基板に要求される更に高いレベルでの電気的信頼性及び接合強度を満足しないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、温度や振動等の環境変化に厳しい条件下においても接合界面での電気的信頼性が高く接合強度の大きい導電性組成物を用いた回路基板を得ることを技術的課題として、その具現化をはかるべく、試行錯誤的な数多くの試作・実験を重ねた結果、錫粉末の粒形、銀粉末と錫粉末とからなる金属粉末の含有量、銀粉末と錫粉末との配合比、これらの金属粉末と分散剤との配合比、さらには金属粉末と樹脂との配合比を同時に満足する特定条件範囲を規定することにより、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって解決できる。
【0008】
即ち、本発明に係る回路基板は、粒径0.5〜60μmの銀粉末及び粒径0.5〜60μmの錫粉末からなる金属粉末と分散剤とを含んでなり、錫粉末の粒形が球状であり、且つ、全体量に対する金属粉末の含有量が85〜93重量%であり、且つ、銀粉末と錫粉末との配合割合が重量比で65〜50:35〜50であり、且つ、分散剤が多価アルコール、炭化水素及びアルコールエステルから選ばれる沸点200℃以上の単独又は混合の溶剤であるスクリーン印刷による回路形成用導電性組成物をスクリーン印刷により銅板上にパターン印刷してパターンの塗膜を形成し該塗膜上に銅箔を載せて荷重をかけて熱処理し該銅板と該銅箔との接合界面に合金層を形成してなるものである。
【0009】
また、本発明に係る回路基板は、粒径0.5〜60μmの銀粉末及び粒径0.5〜60μmの錫粉末からなる金属粉末と分散剤と樹脂とを含んでなり、錫粉末の粒形が球状であり、且つ、全体量に対する金属粉末の含有量が85〜93重量%であり、且つ、銀粉末と錫粉末との配合割合が重量比で65〜50:35〜50であり、且つ、金属粉末と樹脂との配合割合が重量比で金属粉末95以上に対して樹脂5以下であり、且つ、分散剤が多価アルコール、炭化水素及びアルコールエステルから選ばれる沸点200℃以上の単独又は混合の溶剤であるスクリーン印刷による回路形成用導電性組成物をスクリーン印刷により銅板上にパターン印刷してパターンの塗膜を形成し該塗膜上に銅箔を載せて荷重をかけて熱処理し該銅板と該銅箔との接合界面に合金層を形成してなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度や振動等の環境変化に厳しい条件下においても接合界面での電気的信頼性が高く接合強度の大きい導電性組成物を用いるから、スクリーン印刷により回路を容易に形成することができると共に、接合界面が金属接触をしている塗膜が形成でき、電気的信頼性の高い回路基板を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
【0012】
本実施の形態における導電性組成物は、粒径0.5〜60μmの銀粉末及び粒径0.5〜60μmの錫粉末からなる金属粉末と分散剤とを含んでなるものであり、錫粉末の粒形を球状とし、全体量に対する金属粉末の含有量を85〜93重量%とし、銀粉末と錫粉末との配合割合を重量比で75〜50:25〜50とし、分散剤として多価アルコール、炭化水素及びアルコールエステルから選ばれる沸点200℃以上の単独又は混合の溶剤を使用するものである。
【0013】
銀粉末及び錫粉末の粒径はそれぞれ0.5〜60μmの範囲とすれば、好適な塗膜を形成をすることができる。当該金属粉末の粒径が0.5μm未満では、導電性組成物の粘度が高くなるので、印刷性が悪く、良好な塗膜を形成することができず、その結果、接合強度が低下すると共に、電気的信頼性が低下するので、好ましくない。また、粒径が60μmを越えると粒径が大きくなりすぎるために印刷性が悪く、適正な塗膜を形成することが難しく、電気的信頼性が低下するので、好ましくない。より好ましい金属粉末粒径はそれぞれ1〜15μmである。
【0014】
銀粉末の粒形は電気抵抗や接合強度への影響が小さいので、フレーク状や球状などのような形状でもよいが、錫粉末については、その粒形がフレーク状では溶融した際に形状の変化が大きいために塗膜での空隙が多くなるから、環境変化に厳しい条件下における接合界面での電気的信頼性及び接合強度の信頼性が得られない場合があるので、球状の錫粉末とするのが好ましい。
【0015】
導電性組成物中の金属含有量は85〜93重量%の範囲とする。金属含有量が85重量%未満では、印刷・熱処理後の塗膜厚の変化が大きすぎて電気的信頼性に優れた接合が得られないので、好ましくなく、金属含有量が93重量%を越えれば、ペースト粘度が高くなりすぎるために印刷性が悪く、微細パターンの印刷が不可能になり、電気的信頼性に優れた接合が得られないので、好ましくない。
【0016】
銀粉末と錫粉末との配合割合は重量比で銀粉末75〜50に対して錫粉末25〜50である。錫粉末の配合比が50を越えれば、銀粉末の焼結を阻害するために導電性が悪くなると共に、被着体との接合においても弱くなり、高い電気的信頼性を得ることができないので、好ましくない。また、錫粉末の配合比が25未満では、接合界面における合金層が少なくなるので、高い電気的信頼性及び接合強度を得ることができないから、好ましくない。
【0017】
分散剤は、塗膜を形成するために必要な成分であり、スクリーン印刷等で塗膜を均一にそして安定して形成するためには粘度変化の小さい物を用いる必要がある。この条件を満足できるのは、多価アルコール、炭化水素及びアルコールエステルから選ばれる沸点200℃以上の単独又は混合の溶剤であり、ブチルカルビトール、ターピネオール、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチルイソブチレート等の単独もしくは混合したものが好適である。
【0018】
実施の形態2.
【0019】
本実施の形態では、前記実施の形態1における導電性組成物おいて、さらに、金属粉末と樹脂との配合割合が重量比で金属粉末95以上に対して5以下の樹脂を含有しているものである。
【0020】
前記樹脂としては、セルロース樹脂とエポキシ樹脂とを使用することができ、金属粉末に対する樹脂の配合割合が重量比で5を越えれば、接合界面に樹脂が形成されるために接合界面の電気的信頼性が低くなり、高い電気的信頼性を得ることができないので、好ましくない。また、シリコーン樹脂やポリイミド樹脂等の熱分解温度が高い樹脂では、熱処理時に接合界面及び粉末の粒界に樹脂が多く存在することにより電気的信頼性が低くなり、接合強度が低下するので、好ましくない。
【実施例】
【0021】
実施例1〜8及び比較例1〜6.
【0022】
表1に示す球状銀粉末と球状錫粉末とからなる金属粉末に分散剤としてターピネオールを表1に示す割合で加えて三本ロールミルを用いて混合して各ペースト状導電性組成物を得た。
【0023】
前記各ペースト状導電性組成物を200メッシュのスクリーンを用いて銅板上に厚さ100μmの2mm×2mm塗膜を形成し、該塗膜上に銅箔を載せて荷重1kgfをかけ、温度250℃で処理して各回路基板を製作した。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例9,10及び比較例7.
【0026】
フレーク状銀粉末を使用した外、実施例1〜8及び比較例1〜6と同様にして各ペースト状導電性組成物(実施例9,10)を得、各回路基板を製作した。また、フレーク状錫粉末を使用した外、実施例1〜8及び比較例1〜6と同様にして各ペースト状導電性組成物(比較例7)を得、各回路基板を製作した。
【0027】
実施例11,12.
【0028】
ブチルカルビトール3.5重量%及び2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチルイソブチレート3.5重量%からなる分散剤を使用した外、実施例1〜8と同様にしてペースト状導電性組成物(実施例11)を得、回路基板を製作した。また、ターピネオール3.5重量%及び2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチルイソブチレート3.5重量%からなる分散剤を使用した外、実施例1〜8と同様にしてペースト状導電性組成物(実施例12)を得、回路基板を製作した。
【0029】
前記各回路基板の銅板と銅箔との接合界面における電気抵抗(mΩ)はテスターにより測定して初期の測定値とし、接合強度(N)は銅箔とペースト間の引き剥がし強度を引張試験機(型式:MIM-IM-1:タンスイ製)により測定して初期の測定値とした。さらに、条件122℃−2気圧でプレッシャークッカーテスト(PTC)を実施して100時間放置後の電気抵抗及び接合強度を測定してPTC後の測定値とした。接合強度における剥れの状態については実体顕微鏡で観察した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
なお、表2中、印刷性における「良」は印刷パターンと同じパターンの塗膜を形成することができたことを示し、「不良」はパターンが不均一となって印刷パターンと同じパターンの塗膜を形成することができなかったことを示す。また、接合状態における「○」は導電性組成物中で破壊したものと銅箔がちぎれた状態になったものを示し、「×」は銅板、或いは、銅箔界面から剥れたものを示している。
【0032】
実施例13〜16及び比較例8,9.
【0033】
表3に示す球状銀粉末と球状錫粉末とからなる金属粉末にエポキシ樹脂と分散剤ターピネオールを表3に示す割合で加えて三本ロールミルを用いて混合して各ペースト状導電性組成物を得た。
【0034】
前記各ペースト状導電性組成物を200メッシュのスクリーンを用いて銅板上に厚さ100μmの2mm×2mm塗膜を形成し、該塗膜上に銅箔を載せて荷重1kgfをかけ、温度250℃で処理して各回路基板を製作した。
【0035】
【表3】

【0036】
実施例17,18.
【0037】
フレーク状銀粉末を使用した外、実施例13〜16と同様にして各ペースト状導電性組成物を得、各回路基板を製作した。
【0038】
実施例19〜23.
【0039】
分散剤としてブチルカルビトールを使用した外、実施例13〜16と同様にして各ペースト状導電性組成物(実施例19)を得、各回路基板を製作した。また、分散剤として2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチルイソブチレートを使用した外、実施例13〜16と同様にして各ペースト状導電性組成物(実施例20)を得、各回路基板を製作した。また、ターピネオール7重量%及びブチルカルビトール6.3重量%からなる分散剤を使用した外、実施例13〜16と同様にして各ペースト状導電性組成物(実施例21)を得、各回路基板を製作した。また、ブチルカルビトール 6.3重量%及び2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチルイソブチレート7重量%からなる分散剤を使用した外、実施例13〜16と同様にして各ペースト状導電性組成物(実施例22)を得、各回路基板を製作した。さらに、ターピネオール6.3重量%及び2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチルイソブチレート7重量%からなる分散剤を使用した外、実施例13〜16と同様にして各ペースト状導電性組成物(実施例23)を得、各回路基板を製作した。
【0040】
前記各回路基板における印刷性、電気抵抗、接合強度及び接合状態を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
実施例1〜23における導電性組成物での回路基板では、いずれも10mΩの電気抵抗と2.0N(ニュートン)の接合強度が得られており、温度や振動等の環境変化に厳しい条件下においても好適な接合界面での電気的信頼性が高く接合強度の大きい導電性組成物であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、電気的信頼性の高い回路基板を作製することができるから、温度や振動等の環境変化に厳しい条件下に置かれる自動車などに用いることができる。
【0044】
従って、本発明の産業上利用性は非常に高いといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径0.5〜60μmの銀粉末及び粒径0.5〜60μmの錫粉末からなる金属粉末と分散剤とを含んでなり、錫粉末の粒形が球状であり、且つ、全体量に対する金属粉末の含有量が85〜93重量%であり、且つ、銀粉末と錫粉末との配合割合が重量比で65〜50:35〜50であり、且つ、分散剤が多価アルコール、炭化水素及びアルコールエステルから選ばれる沸点200℃以上の単独又は混合の溶剤であるスクリーン印刷による回路形成用導電性組成物をスクリーン印刷により銅板上にパターン印刷してパターンの塗膜を形成し該塗膜上に銅箔を載せて荷重をかけて熱処理し該銅板と該銅箔との接合界面に合金層を形成してなる回路基板。
【請求項2】
粒径0.5〜60μmの銀粉末及び粒径0.5〜60μmの錫粉末からなる金属粉末と分散剤と樹脂とを含んでなり、錫粉末の粒形が球状であり、且つ、全体量に対する金属粉末の含有量が85〜93重量%であり、且つ、銀粉末と錫粉末との配合割合が重量比で65〜50:35〜50であり、且つ、金属粉末と樹脂との配合割合が重量比で金属粉末95以上に対して樹脂5以下であり、且つ、分散剤が多価アルコール、炭化水素及びアルコールエステルから選ばれる沸点200℃以上の単独又は混合の溶剤であるスクリーン印刷による回路形成用導電性組成物をスクリーン印刷により銅板上にパターン印刷してパターンの塗膜を形成し該塗膜上に銅箔を載せて荷重をかけて熱処理し該銅板と該銅箔との接合界面に合金層を形成してなる回路基板。

【公開番号】特開2007−116181(P2007−116181A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305911(P2006−305911)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【分割の表示】特願2002−29944(P2002−29944)の分割
【原出願日】平成14年2月6日(2002.2.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】