説明

回転伝達機構およびその製造方法ならびにギヤードモータ

【課題】 断面に角部やエッジ部を有する軸状部材と回転駆動軸の穴に圧入で連結する構成であっても、組立時や回転駆動時において変形や、破損の危険性がなく且つ比較的安価な一般的機械加工でも製作可能な構成の回転伝達機構およびこれを用いたギヤードモータを提供すること。
【解決手段】 断面形状の少なくとも一部が角部71に形成された出力軸9を、モータ部4で回転駆動させられる出力歯車6の軸方向に穿設された前記出力軸の断面形状と略同一な穴に、前記出力歯車6と一体回転可能に圧入嵌合してなる回転伝達機構において、前記出力歯車6の穴の内周面には、前記角部71を逃がすための逃がし部711が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の回転駆動源で回転させられる回転駆動軸とこの軸に一体回転可能に連結される軸状部材で構成される回転伝達機構およびこれを用いたギヤードモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ギヤードモータは、一般に、モータ部から出力された回転が歯車輪列を介して出力軸に伝達されるようになっている。このようなギヤードモータでは、輪列の最終段となる回転駆動軸としての出力歯車に、軸状部材である出力軸との連結部を設けることが多い。
【0003】
その代表例として、モータ等の回転駆動源から回転力を最終的に伝達される出力歯車の軸線方向に例えばDカットや多角形状の穴を穿設し、該穴に対応した断面形状を有する出力軸を圧入嵌合し、出力歯車と前記出力軸とを一体回転させる構成のものが採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転伝達機構における、出力歯車と該歯車の軸心に形成された穴に嵌合する出力軸の形状は、伝達ロスを防ぐ狙いから互いに同一形状に構成し、両者を軽圧入等で密接状態に嵌合させることが一般的である。しかしながら、密接嵌合では嵌合(挿入)作業がしにくく、特に、穴の形状(平面形状)をDカットや多角形等のように角部やエッジ部のある形状にすると、出力軸の穴への圧入嵌合時や回転駆動時にエッジ部に応力が集中し、変形や破損の可能性がある。
【0005】
前記問題点を解消させるため、穴はエッジ部のある形状とし、出力軸のエッジ部に面取りを施す方法も考えられる。しかしながら、出力軸に面取りを施すと出力歯車の穴との嵌合シロが少なくなり回転トルクの伝達効率を低下させる懸念が生じる。仮に十分な嵌合シロがとれたとしても、高回転伝達トルクを必要とする場合には、穴が形成される出力歯車の材質を金属製にすることが望ましいが、角部やエッジ部がある穴を加工するには、放電加工やワイヤカットなどコストや作業時間がかかる方法を採用せざるを得ないという問題点がある。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、断面に角部やエッジ部を有する出力軸等の軸状部材を出力歯車等の回転駆動軸の穴に圧入で連結する構成であっても、組立時や回転駆動時において変形や、破損の危険性がなく且つ比較的安価な一般的機械加工でも製作可能な構成の回転伝達機構およびこれを用いたギヤードモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、断面形状の少なくとも一部が角部もしくはエッジ部に形成された軸状部材を、回転駆動源で回転駆動させられる回転駆動軸の軸方向に穿設された前記軸状部材の断面形状と略同一な穴に、前記回転駆動軸と一体回転可能に圧入嵌合してなる回転伝達機構において、前記回転駆動軸の穴の内周面には、前記角部もしくはエッジ部を逃がすための逃がし部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、回転駆動軸は金属材料から構成されている。従って、回転駆動時に高トルクを要する場合にも、十分対応できる。
【0009】
本発明において、前記逃がし部は円弧状に形成されていることが好ましい。このように構成すると、応力が分散するためより破損の可能性が低減する一方、機械加工でも容易に加工ができるという利点がある。
【0010】
本発明において、前記穴の角部は、角部を挟む両側部分の仮想延長線が交差する位置よりも外側に稜線に沿って凹んでいる。このため、軸状部材の角部を穴の角部に接触させないで済み、軸状部材を穴に容易に嵌めることができる。また、角部に力が集中することがないので、軸状部材に変形や破損が発生するのを防止できる。
【0011】
上述の目的を達成するための他の発明は、回転伝達機構の製造方法であって、前記回転駆動軸の穴を機械加工によって形成している。この発明によれば、比較的安価に穴の形成が可能となる。
【0012】
さらに、本発明における回転伝達機構は、出力歯車を介してモータの駆動力を外部へ出力するギヤードモータに用いることができる。即ち、前記回転駆動軸を前記出力歯車として使用することができ、前記回転駆動軸に設けられた穴に前記軸状部材を嵌合固定することで組立作業性がよく且つ伝達効率のよいギヤードモータを構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、断面形状の少なくとも一部が角部もしくはエッジ部に形成された軸状部材を、回転駆動源で回転駆動させられる回転駆動軸の軸方向に穿設された前記軸状部材の断面形状と略同一な穴に、前記回転駆動軸と一体回転可能に圧入嵌合してなる回転伝達機構において、前記回転駆動軸の穴の内周面には、前記角部もしくはエッジ部を逃がすための逃がし部が設けられている。したがって、前記圧入嵌合時や回転駆動時において従来のように角部やエッジ部に応力が集中し、変形や、破損の危険性が生じるという欠点が解消され、また、穴の製作も一般的な機械加工(切削)を利用することができコスト的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図面を参照して、本発明を適用したギヤードモータの例で説明する。なお、以下の説明において、モータ部のモータ軸線方向において回転が出力される側を「出力側」とし、その反対側を「反出力側」と表現する。
【0015】
(全体構成)
図1(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態1に係るギャードモータの斜視図およびその分解斜視図である。図2(a)、(b)は各々、図1に示すギヤードモータの一部を切り欠いて示す平面図、およびその輪列などをA−A′線に沿って展開して示す説明図である。なお、図1(b)および図2(a)、(b)では、出力軸の図示を省略してある。
【0016】
図1(a)、(b)および図2(a)、(b)に示すように、本形態のギヤードモータ1は、モータ部4から出力された回転を、ハウジング10から突出する軸状部材としての出力軸9から出力するモータである。ハウジング10は、プレート2と、このプレート2に対向するケース部材3とを備えており、ハウジング10から外にリード線19が引き出されている。プレート2とケース部材3とは、ケース部材3の外周縁からプレート側に突出したフック38が、プレート2の側面に形成された係合突起28に係合することにより固定され、ケース部材3には、ギヤードモータ1が搭載されるモータ機器側との連結部31が形成されている。
【0017】
本形態のギヤードモータ1において、モータ部4は、円筒状のステータ40と、ステータ40の内側にロータマグネット44を備えたロータ46と、このロータ46を回転可能に支持するロータ支軸48とを備えている。ステータ40の出力側端面41は、プレート2の反出力側の面に対して複数の加締部分12で固定されている。
【0018】
ステータ4の反出力側端面には、スポット溶接などの方法でロータ支軸支持板42が固定され、ロータ支軸48の反出力側端部は、ロータ支軸支持板42の貫通穴に嵌って保持されている。また、モータ部4は、金属製の薄板からなるモータカバー43で側面および反出力側端面が覆われており、ロータ支軸支持板42のさらに反出力側に位置するモータカバー43の底面部にロータ支軸48の反出力側端部が当接している。
【0019】
これに対して、ステータ部40の出力側において、プレート2には、途中に折れ曲がり部分をもって出力側に突出したロータ支軸受け部24が形成されており、ロータ支軸受け部24は、プレート2におけるモータ部4の固定部分21に対向している。ここで、ロータ支軸受け部24には、ロータ支軸48の出力側端部を保持する第1の支軸保持穴248が形成されている。なお、ロータ46は、外周面に外歯47が形成された歯車付きロータとして形成されている。
【0020】
出力軸9は、回転駆動軸としての出力歯車6においてモータ軸線方向に穿設された段付きの貫通穴60の途中位置まで挿入されており、出力歯車6と一体に回転可能としている。すなわち、貫通穴60における出力軸9が挿入される部分(嵌合穴7)の断面と、出力軸9の断面とは略同形の非円形状に構成されている。
【0021】
このように構成したギヤードモータ1において、ロータ46と出力歯車6とは、1番車51および2番車52を備えた輪列5からなる減速歯車機構によって機構的に接続されている。1番車51は、ロータ支軸受け部24の隙間から露出するロータ46の外歯47に噛み合う大径外歯歯車と、この大径外歯歯車よりも出力側に形成された小径外歯歯車とを備えており、第1の歯車支軸81に回転可能に支持されている。2番車52は、1番車51の小径外歯歯車に噛み合う大径外歯歯車と、この大径外歯歯車よりも反出力側に形成された小径外歯歯車とを備えており、第2の歯車支軸82に回転可能に支持されている。また、2番車52の小径外歯歯車は、出力歯車6の外歯と噛み合っている。
【0022】
ここで、1番車51および2番車52の歯車支軸81、82は、各々の反出力側端部がプレート2に形成された第2の支軸保持穴251、252に各々保持されている。すなわち、プレート2には、ステータ40と略重なる位置に、1番車51の歯車支軸81の反出力側端部を支持する第2の支軸保持穴251が形成され、その側方には、2番車52の歯車支軸82の反出力側端部を支持する第2の支軸保持穴252が形成されている。
【0023】
また、1番車51および2番車52の歯車支軸81、82の出力側端部は、ケース部材3に形成された第3の支軸保持穴351、352に各々保持されている。
【0024】
出力歯車6は、それ自身の両端部が回転軸61、62になっており、反出力側の回転軸62は、プレート2に形成された回転軸支持穴262に回転可能に支持され、出力側の回転軸61は、ケース部材3に形成された回転軸支持穴362に回転可能に支持されている。
【0025】
このようにしてロータ46の外歯47、輪列5、および出力歯車6は略一直線上に並んでいる。ここで、ロータ46の外歯47と1番車51との噛み合い部分、1番車51と2番車52との噛み合い部分、および2番車52と出力歯車6との噛み合い部分は各々、モータ軸線方向における形成位置(プレート2からみたときの高さ位置)が互いに相違しているが、2つの第2の支軸保持穴251、252は、プレート2上の略同一の高さ位置に形成され、2つの第3の支軸保持穴351、352は、ケース部材3上の略同一の高さ位置に形成されている。
【0026】
プレート2は樹脂成形品からなり、回転軸支持穴262、第1の支軸保持穴248、および第2の支軸保持穴251、252は、プレート2を樹脂成形時に同時形成されたものである。また、ケース部材3も樹脂成形品からなり、回転軸支持穴362および第3の支軸保持穴351、352は、ケース部材3を樹脂成形時に同時形成されたものである。それ故、プレート2では、回転軸支持穴262、第1の支軸保持穴248、および第2の支軸保持穴251、252は互いの位置精度が高く、ケース部材3でも、回転軸支持穴362および第3の支軸保持穴351、352は互いの位置精度が高い。
【0027】
(回転伝達機構の具体構成)
ギヤードモータ1の回転伝達機構は、外歯47が設けられたロータ46を有する回転駆動源としてのモータ部4、輪列としての1番車51及び2番車52、並びに出力歯車6及び出力軸9等から構成され、これら各部材は歯合により回転可能に結合している。
【0028】
出力軸9は、出力歯車6においてモータ軸線方向に貫通する段付きの貫通穴60の途中位置まで軽圧入にて嵌合されており、出力歯車6と一体回転可能となっている。すなわち、貫通穴60は、出力軸9が挿入される部分(嵌合穴7)の断面が略正六角形に形成されている一方、出力軸9の断面も略正六角形に形成されている。ここで、出力軸9及び出力歯車6は、高負荷に対応できるように比較的硬質の金属材料が使用されている。他の輪列も金属材料から構成されているが、剛性又は強度等が確保できれば樹脂成形品でもよい。
【0029】
本形態では、出力軸9の断面形状は正六角形であるのに対して、嵌合穴7の6箇所の角部71は、角部71を挟む両側部分72の仮想延長線が交差する位置よりも外側に稜線に沿って凹んでいる。即ち、正六角形の各角部をそれぞれ円弧状に形成している。この円弧状に形成された部分が、出力軸9を嵌合穴7に圧入するときにおける出力軸9の角部91を逃がすための逃がし部711となっている。このため、出力軸9の角部91を嵌合穴7の角部71に接触させないで済み、出力軸9を嵌合穴7に容易に嵌めることができる。また、角部71に力が集中することがないので、出力軸9に変形や破損が発生するのを防止できる。このような構成は、出力軸9および嵌合穴7が、少なくとも1箇所に角部又はエッジ部を有する断面形状、例えば、多角形、D字形、+形状などの断面形状を備えている場合に適用することができる。
【0030】
嵌合孔7はエンドミルやドリル等による機械加工(切削加工)により形成される。一般的に角部を有する機械穴加工において角部の精度を出すには刃先が細い工具を用いることが必須となるが、このような工具では加工時間がかかりすぎたり、また加工する穴が深い場合などは、刃先が折れたりする問題が生じる。しかし、本発明では、角部に逃がし部を設けているため、角部に対する精度をそれほど必要とせず、比較的太い刃先のエンドミルやドリルが使用でき刃物を損傷させる心配もない。
【0031】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のギヤードモータ1では、その回転伝達機構の一部を、金属材からなる出力歯車6に設けた嵌合穴7に金属材料からなる出力軸9を嵌合した構成となしている。また、前記出力軸9及び前記嵌合穴7の両者とも断面形状を正六角形に形成すると共に、嵌合穴7内周面の角部又はエッジ部に出力軸9の角部又はエッジ部を逃がすための円弧状の逃がし部711が設けられている。したがって、前記圧入嵌合時や回転駆動時において従来のように角部やエッジ部に応力が集中し、変形や、破損の危険性が生じるという欠点が解消される。
【0032】
また、嵌合穴7の断面をエッジ部のない形状としたため、穴の製作において、放電加工やワイヤカットなどの加工法を採用はしなくて済み、ごく一般的な機械加工(切削)を利用することができ加工時間や製作コストの面で有利となる。
【0033】
さらに、嵌合穴7の角部71に設けた円弧状の逃がし部711は最小限の大きさ(出力軸の最尖端部のみ逃がす大きさ)にすれば、出力軸9と嵌合穴7との嵌合シロが十分確保でき回転伝達効率を低下させることもない。
【0034】
(その他の実施の形態)
上記形態では、出力軸9及び出力歯車6を金属材を用いたが、所定の出力トルク又は負荷に対応できれば樹脂成形品で構成してもよい。
【0035】
また、上記形態では、モータ部4の回転力を1番車51及び2番車52の輪列を介して出力歯車6に回転伝達する回転伝達機構としたが、所望の出力トルクや減速比等を満足することができれば、直接ロータ46の外歯47に出力歯車6を歯合させた構成を採用することも可能である。
【0036】
上記形態では、出力軸9の断面形状を正六角形としたが、出力歯車6の嵌合穴7との嵌合シロが十分確保できれば、角部に面取りやカットを施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態1に係るギャードモータの斜視図およびその分解斜視図である。
【図2】(a)、(b)は各々、図1に示すギヤードモータの一部を切り欠いて示す平面図、およびその輪列などをA−A′線に沿って展開して示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ギヤードモータ
2 プレート
3 ケース部材
4 モータ部
5 輪列
6 出力歯車(回転駆動軸)
9 出力軸(軸状部材)
24 ロータ支軸受け部
40 ステータ
41 ステータの出力側端面
46 ロータ
48 ロータ支軸
51 1番車
52 2番車
81、82 歯車支軸
248 第1の支軸保持穴
251、25 第2の支軸保持穴
351、352 第3の支軸保持穴
711 逃がし部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状の少なくとも一部が角部もしくはエッジ部に形成された軸状部材を、回転駆動源で回転駆動させられる回転駆動軸の軸方向に穿設された前記軸状部材の断面形状と略同一な穴に、前記回転駆動軸と一体回転可能に圧入嵌合してなる回転伝達機構において、
前記回転駆動軸の穴の内周面には、前記角部もしくはエッジ部を逃がすための逃がし部が設けられていることを特徴とする回転伝達機構。
【請求項2】
請求項1において、少なくとも前記回転駆動軸は金属材料からなることを特徴とする回転伝達機構。
【請求項3】
請求項1または2において、前記逃がし部は円弧状に形成されていることを特徴とする回転伝達機構。
【請求項4】
請求項1ないし3において、前記穴の角部は、角部を挟む両側部分の仮想延長線が交差する位置よりも外側に稜線に沿って凹んでいることを特徴とする回転伝達機構。
【請求項5】
請求項1ないし4記載の回転伝達機構の製造方法であって、前記回転駆動軸の穴を機械加工によって形成したことを特徴とする回転伝達機構の製造方法。
【請求項6】
出力歯車を介してモータの駆動力を外部へ出力するギヤードモータにおいて、
前記出力歯車に請求項1ないし4記載の回転駆動軸を用いてなることを特徴とするギヤードモータ。
【請求項7】
請求項6において、前記出力歯車の穴に、前記軸状部材を嵌合固定してなることを特徴とするギヤードモータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−166680(P2007−166680A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355596(P2005−355596)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】