説明

回転伝達装置

【課題】使用環境温度が変化してもクラッチ機能の応答速度が変わらず、引き摺りトルクが安定していて入力部材と出力部材の摩擦係合時に衝撃のない回転伝達装置を提供する。
【解決手段】外輪3と内輪5間に湿式多板クラッチ7を組込み、該湿式多板クラッチ7の軸方向一側に設けた電磁石13に対する通電によって外輪3に取付けられたロータ12にアーマチュア11を吸着させ、該電磁クラッチ部10Aのアーマチュア11と外輪3の締結時に、アーマチュア11を内輪5に回り止めされたプレッシャプレート21に対して相対回転させ、ボールカム22によりプレッシャプレート21を軸方向に移動させて湿式多板クラッチ7を押圧する軸力負荷部10Bを設けた回転伝達装置において、外輪3内に粘度150000mPa・sを示す最高温度が−26℃以下であり、100℃での動粘度が4.1cSt以上で11.0cSt未満であり、かつ極圧剤非含有のオイルを封入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力の伝達経路において、動力の伝達と遮断の切換えに用いられる回転伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FRベースの4輪駆動車において、補助駆動輪としての前輪に駆動力の伝達と遮断とを行なう回転伝達装置として、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。
【0003】
上記回転伝達装置は、トランスミッションからの駆動力が入力される入力部材内に出力部材を組込んで相対的に回転自在に支持し、その入力部材と出力部材間に、負荷される軸力によって入力部材と出力部材とを結合する湿式多板クラッチを組込み、その湿式多板クラッチの軸方向一側に、その湿式多板クラッチの結合および結合解除を制御するクラッチ制御装置を設けている。
【0004】
ここで、クラッチ制御装置は、電磁クラッチ部と、その電磁クラッチ部の締結時に入力部材の回転トルクを軸力に変換して、その軸力を湿式多板クラッチに負荷する軸力負荷部とから成り、上記電磁クラッチ部は、入力部材の内径面に案内されて軸方向に移動可能なアーマチュアと、入力部材に取付けられて上記アーマチュアと軸方向で対向するロータと、そのロータと軸方向で対向する電磁石とから成り、上記電磁石の電磁コイルに対する通電によりロータにアーマチュアを吸着して、入力部材とアーマチュアとを結合させるようにしている。
【0005】
一方、軸力負荷部は、アーマチュアと湿式多板クラッチ間にプレッシャプレートを組込み、そのプレッシャプレートを出力部材に回り止めし、かつ軸方向に移動可能に支持し、上記プレッシャプレートとアーマチュアの対向面それぞれに中央から周方向両端に向けて溝深さが次第に浅くなるカム溝を設け、そのカム溝間にボールを組込み、上記プレッシャプレートに対するアーマチュアの相対回転によりプレッシャプレートを軸方向に移動させて湿式多板クラッチに軸力を負荷するようにしている。
【0006】
上記回転伝達装置においては、電磁石に対する通電により電磁クラッチ部をONにすると軸力負荷部に軸力(軸方向推力)が発生し、その軸力により湿式多板クラッチが結合状態とされると共に、湿式多板クラッチに負荷される軸力の反力によりアーマチュアがロータに押し付けられるため、僅かな電磁クラッチトルクでも湿式多板クラッチを結合状態(ロック状態)に維持できるという特徴を有する。
【特許文献1】特開2005−48788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の回転伝達装置においては、外輪内に封入されたオイルによって湿式多板クラッチや電磁クラッチ部および軸力負荷部の各接触部を潤滑するようにしているが、上記オイルは通常、隣接して設けられるディファレンシャルオイル(デフオイルとも略称される。)と同じものが使用される場合が多く、このようなオイルは、低温での粘度が大きく、しかも極圧添加剤が含まれていることが多い。
【0008】
そのため、従来の回転伝達装置は、エンジンの始動当初や低温環境(例えば−30℃程度)で高粘度オイルによって潤滑されることになり、ロータとアーマチュア間の粘性抵抗が高くて、必要な場合に空転せず、アーマチュアが引き摺られてボールカムが誤作動し、回転伝達力が常時接続され、いわゆるロックされてしまう場合があった。
【0009】
上記の問題の解決のために前記オイルとして、低温で低粘度のオイルを採用すると、回転伝達装置の使用環境温度の変化によってオイル粘度の変化も大きくなる場合があり、これではクラッチ機能の応答速度が変わりやすく、例えば、40℃と100℃の応答速度差が50マイクロ秒(ms)を超える場合があるという問題がある。
また、オイルに極圧添加剤が添加されていると、クラッチに滑りが起こり、クラッチ応答性が悪化する場合や動力伝達ができない可能性も生じる。
【0010】
さらにまた、湿式多板クラッチが結合状態のとき、摩擦係数が安定していなければ引き摺りトルクも安定せず、そのような湿式多板クラッチは、入力部材と出力部材が摩擦係合する時に衝撃が発生しやすいという問題もある。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、回転伝達装置が、低温の始動時でも回転伝達が常時接続状態にロックされることなく、クラッチ機能は速やかに応答できるものとし、また使用環境温度が変化してもクラッチ機能の応答速度は変わらず、引き摺りトルクが安定していて入力部材と出力部材の摩擦係合時に衝撃のない回転伝達装置とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明においては、入力部材と出力部材を内外に配置して相対的に回転自在に支持し、その入力部材と出力部材間に、負荷される軸力によって入力部材と出力部材とを結合する湿式多板クラッチを組込み、その湿式多板クラッチの軸方向一側に、その湿式多板クラッチの結合および結合解除を制御するクラッチ制御装置を設け、そのクラッチ制御装置が、電磁石に対する通電によって入力部材に取付けられたロータにアーマチュアを吸着させる電磁クラッチ部と、前記アーマチュアの吸着時に入力部材の回転トルクを軸力に変換して、その軸力を湿式多板クラッチに負荷する軸力負荷部とから成り、その軸力負荷部が、前記アーマチュアと出力部材に回り止めされて軸方向に移動可能なプレッシャプレートの対向面それぞれに周方向の両端に向けて溝深さが次第に浅くなるカム溝を設け、そのカム溝間にボールを組込んだ構成とされ、その軸力負荷部、前記湿式多板クラッチおよび電磁クラッチの各接触部を外輪内に封入されたオイルで潤滑するようにした回転伝達装置において、前記オイルが、粘度150000mPa・sを示す最高温度が−26℃以下であり、100℃での動粘度が4.1cSt以上で11.0cSt未満であり、かつ極圧剤非含有のオイルであることを特徴とする回転伝達装置としたのである。
【0013】
上記したように構成されるこの発明の回転伝達装置は、外輪内に封入されたオイルが、粘度150000mPa・sを示す最高温度が−26℃以下であり、100℃での動粘度が4.1cSt以上で11.0cSt未満であるから、例えば−30℃という低温で装置が始動する際にも、回転伝達が常時接続の状態でロックされるような誤作動が起こらず、また40℃または100℃の高温状態で動作している際でもオイルにより軸力負荷部、前記湿式多板クラッチおよび電磁クラッチの各接触部は適当な粘性で潤滑され、温度の高低差によるオイルの粘性抵抗の影響が少ない動力伝達が可能になる。また、回転伝達装置のクラッチの連結と切り離しを確実に行なうことができ、クラッチ性能の信頼性が高まる。
【0014】
このような作用は、前記オイルが、粘度指数140以上のオイルである場合に温度変化により充分に対応して確実に奏することができる。
【0015】
また、前記オイルが、油性向上剤もしくは固体潤滑剤または両者を含有するオイルであれば、摩擦係数が安定するので、湿式多板クラッチの入力部材と出力部材との接触によるショックを低減することができ、異音発生の抑制および装置寿命(使用耐久性)が向上し、円滑な動力伝達が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、回転伝達装置の軸力負荷部、前記湿式多板クラッチおよび電磁クラッチの各接触部を外輪内に封入された所定物性のオイルで潤滑するようにしたので、低温の始動時でも回転伝達が常時接続状態にロックされることなく、クラッチ機能が速やかに応答でき、また使用環境温度が変化してもクラッチ機能の応答速度は変わらず、引き摺りトルクは安定していて入力部材と出力部材の摩擦係合時に衝撃がない回転伝達装置になるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、静止部材としてのハウジング1は、一端に端壁2を有している。
【0018】
ハウジング1内には、入力部材としての外輪3が組込まれている。外輪3はハウジング1の他端部内に組込まれた軸受4によって回転自在に支持されている。
【0019】
外輪3の内側には出力部材としての内輪5が組込まれ、その内輪5と外輪3間に組込まれた軸受6によって両輪3、5は相対的に回転自在とされている。
【0020】
外輪3と内輪5間には、湿式多板クラッチ7が組込まれている。湿式多板クラッチ7は、多数の入力側クラッチプレート8と多数の出力側クラッチプレート9とから成る。入力側クラッチプレート8と出力側クラッチプレート9は軸方向に交互に組込まれ、上記入力側クラッチプレート8は外輪3に対して回り止めされ、かつ軸方向に移動可能に支持されている。一方、出力側クラッチプレート9は内輪5に回り止めされ、かつ軸方向に移動可能に支持されている。
【0021】
入力側クラッチプレート8と出力側クラッチプレート9は、負荷される軸力により互に密着して結合状態となり、外輪3の回転を内輪5に伝達する。
【0022】
湿式多板クラッチ7の軸方向一側には、その湿式多板クラッチ7の結合および結合解除を制御するクラッチ制御装置10が設けられている。
【0023】
クラッチ制御装置10は、電磁クラッチ部10Aと、その電磁クラッチ部10Aの締結時に外輪3の回転トルクを軸力に変換して湿式多板クラッチ7に負荷する軸力負荷部10Bとから成る。
【0024】
電磁クラッチ部10Aは、アーマチュア11と、そのアーマチュア11の一側方に設けられたロータ12と、そのロータ12の一側方に設けられた電磁石13とから成る。
【0025】
アーマチュア11は、内輪5に接続される図示省略した出力軸を中心にして回転自在に支持され、かつ軸方向に移動自在とされている。
【0026】
ロータ12は、外筒部12aおよび内筒部12bを有し、外筒部12aの外周には雄ねじ14が形成されている。ロータ12は外輪3の一端部内周に形成された雌ねじ15に対する雄ねじ14のねじ込みによって外輪3に固定され、上記雌ねじ15にねじ係合されたロックナット16の締付けによって弛み止めされている。ロータ12とアーマチュア11との間には微小なエアギャップ17が形成され、そのエアギャップ17はロータ12のねじ込み量を加減することによって調整し得るようになっている。ロータ12とアーマチュア11との間には、アーマチュア11をロータ12から離反する方向に付勢する離反ばね18が組込まれている。
【0027】
電磁石13は、ロータ12の外筒部12aと内筒部12b間に組込まれている。この電磁石13は、電磁コイル13aと、その電磁コイル13aを支持し、ハウジング1によって支持されたコア13bとから成り、上記電磁コイル13aに対する通電により、コア13b、ロータ12およびアーマチュア11に磁束が流れてロータ12にアーマチュア11が吸着される。その吸着により外輪3にアーマチュア11が結合されて外輪3と共にアーマチュア11が回転する。
【0028】
図1乃至図3に示すように、軸力負荷部10Bは、アーマチュア11と湿式多板クラッチ7との間にプレッシャプレート21を設け、そのプレッシャプレート21を内輪5に回り止めし、かつ軸方向に移動可能に支持し、上記プレッシャプレート21とアーマチュア11の対向面間にボールカム22を設けている。ここで、ボールカム22は、プレッシャプレート21とアーマチュア11の対向面それぞれに中央から周方向両端に至るに従って溝深さが次第に浅くなるカム溝22a、22bを設け、そのカム溝22a、22b間にボール24を組込んだ構成とされ、上記プレッシャプレート21に対するアーマチュア11の相対回転により、プレッシャプレート21を湿式多板クラッチ7に向けて移動させて湿式多板クラッチ7を軸方向に押すようにしている。
【0029】
外輪3の内部にはオイルが封入され、そのオイルによって湿式多板クラッチ7の入力側クラッチプレート8と出力側クラッチプレート9の接触部、電磁クラッチ部10Aのロータ12とアーマチュア11の接触部および軸力負荷部10Bのボールカム22の接触部が潤滑されるようになっている。
【0030】
ここで、外輪3内に封入されたオイルが外部に漏洩するのを防止するため、ハウジング1の開口端部にシール部材を取付け、あるいは、外輪3を回転自在に支持する軸受4にシール軸受を採用してハウジング1の開口端を密閉する。
【0031】
また、ハウジング1に形成された出力軸の挿入孔27の内周および内輪5の内周に出力軸の外周に弾性接触するラジアルタイプのシール部材28、29を取付けると共に、外輪3と内輪5とを相対的に回転自在に支持する軸受6にシール軸受を採用し、あるいは外輪3と内輪5間をシール部材で密閉する。
【0032】
外輪3内に封入されるオイルは、粘度150000mPa・sを示す最高温度が−26℃以下であり、100℃での動粘度が7.0cSt以下であり、かつ極圧剤非含有のオイルである。すなわち、このオイルは、外部ディファレンシャルオイル(デフオイルとも略称される。)やギアオイルとは異なり、極圧添加剤の含まれていないオイルであり、例えばATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)などの極圧剤非含有のオイルを採用する。
【0033】
この発明でいう極圧剤(極圧添加剤とも称される。)は、金属面と化学反応し、添加剤中の元素と金属とからなる軟らかくせん断されやすい無機化合物の膜(極圧膜)を生成し、これにより金属どうしの結合を防ぎ、摩耗を減少し焼付きを防止するものである。このような極圧剤として、リン系極圧剤、硫黄系極圧剤、硫黄・燐・亜鉛系極圧剤、または有機モリブデン系その他の有機金属系極圧剤などがあるが、これらは、湿式多板クラッチにおいて負荷される軸力によって入力部材と出力部材とを結合する際、極圧膜によるクラッチの滑りを発生させ、クラッチ応答性を悪くするからこれらを非含有のオイルを採用する。
【0034】
この発明に用いるオイルは、粘度150000mPa・sを示す最高温度が−26℃以下のものを採用する。−26℃を超える温度で150000mPa・sを示すオイルでは、この発明の回転伝達装置の潤滑には低温で硬くなりすぎるため、低温での始動時にクラッチの結合を解除してもオイルの粘性抵抗によってボールカムが想定外に作動してクラッチを結合させてしまう、いわゆるロック状態になる可能性があるからである。
【0035】
また、この発明に用いるオイルは、100℃での動粘度が4.1cSt以上で11.0cSt未満であるものを使用する。100℃での動粘度が4.1cSt未満のものでは、高温条件で使用されるときに粘性抵抗が低く、油膜厚さも薄くなり、クラッチ応答性が低温の場合に比べて鋭敏になりすぎて好ましくないからである。また、100℃での動粘度が11.0cSt以上のものでは、高温環境でもオイル粘度が大きくてクラッチ応答性が低くて好ましくない。前記の好ましい条件を満足するオイルをSAE粘度分類(SAE J306)で示せば、80W以下、好ましくは80W、75Wまたは70Wである。
【0036】
特に、この発明に用いるオイルは、上記の条件のほかに粘度指数140以上のものが好ましい。この条件により回転伝達装置の低温環境と高温環境のオイル粘度の変化を抑えて油膜厚さの変化を小さくし、クラッチ応答性の差を小さくして使用温度に左右されずに動力伝達が可能になり、クラッチ性能の信頼性を高めることができる。
【0037】
この発明に用いるオイルに添加することが好ましい油性向上剤は、2面間の油膜が極めて薄くなった時に金属面に吸着して潤滑する極性化合物であり、結合する極性基と長い炭素鎖を有する極性化合物である。
【0038】
このような油性化合物としてはオレイン酸、ステアン酸などの高級脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコール、ステアリン酸ブチルなどのエステル、ステアリルアミン、オレイルアミンなどのアミンなどが挙げられる。
【0039】
また、この発明に用いる固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0040】
実施の形態で示す回転伝達装置は上記の構造から成り、外輪3には入力軸を接続し、内輪5には出力軸を接続する。その入力軸および出力軸の接続のため、外輪3および内輪5の内周にスプライン歯40、41が設けられている。
【0041】
図1は、電磁石13の電磁コイル13aに対して通電を遮断した状態を示し、湿式多板クラッチ7は結合解除状態とされている。このため、外輪3が回転しても、その回転は内輪5に伝達されず、外輪3のみがフリー回転する。
【0042】
外輪3の回転状態において、電磁石13の電磁コイル13aに通電すると、コア13b、ロータ12およびアーマチュア11に磁束が流れてロータ12とアーマチュア11間に磁気吸引力が作用し、その磁気吸引力によりアーマチュア11がロータ12に吸着され、外輪3とアーマチュア11とが結合されて外輪3と共にアーマチュア11が回転する。
【0043】
また、アーマチュア11はプレッシャプレート21に対して相対回転し、その相対回転によって、図3(II)に示すように、アーマチュア11に形成されたカム溝22bとプレッシャプレート21に形成されたカム溝22aが周方向に位相がずれるため、プレッシャプレート21は湿式多板クラッチ7側に移動して、その湿式多板クラッチ7を軸方向に押圧する。その押圧によって入力側クラッチプレート8と出力側クラッチプレート9が互に密着する。
【0044】
このため、外輪3の回転は湿式多板クラッチ7を介して内輪5に伝達され、内輪5が外輪3と同方向に回転する。
【0045】
ここで、プレッシャプレート21が湿式多板クラッチ7を軸方向に押圧するとき、その反力によってアーマチュア11がロータ12に押し付けられるため、一旦電磁クラッチ部10Aの締結が行なわれれば、その後の電磁コイル13aに流す電流を小さくしても、アーマチュア11は吸着状態に保持され、電流消費量の低減化を図ることができる。
【0046】
外輪3から内輪5への回転トルクの伝達状態において、電磁コイル13aに対する通電を解除すると、アーマチュア11は吸着を解除される。その吸着解除時、離反ばね18がアーマチュア11をプレッシャプレート21に向けて押圧すると共に、プレッシャプレート21は湿式多板クラッチ7から押圧されるため、カム溝22a、22bがボール24を押圧する作用により、アーマチュア11とプレッシャプレート21が相対回転して、ボール24はカム溝22a、22bの中央に配置される中立位置に戻される。
【0047】
このため、湿式多板クラッチ7への軸力の負荷は解除されると共に、湿式多板クラッチ7は締結解除状態となり、外輪3から内輪5への回転トルクの伝達が遮断される。
【実施例1】
【0048】
図1〜3に示す構造の回転伝達装置の外輪内に表1に示す特性のオイルを封入し、その潤滑作用を雰囲気温度−30℃での低温環境で調べると共に、40℃雰囲気条件と100℃雰囲気条件でのクラッチ応答性(応答速度差:マイクロ秒)を調べ、これらの結果を表2に示した。
【0049】

【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表2の結果からも明らかなように、粘度150000mPa・sを示す最高温度が−26℃を越えるものであり、100℃での動粘度が11.0cSt以上であるオイルを回転伝達装置に封入した比較例1、2では、−30℃の運転時に回転伝達が常時接続状態にロックされてしまった。また使用環境温度が40℃から100℃に変化するとクラッチ応答速度差が有意に生じた。
【0052】
これに対して、粘度150000mPa・sを示す最高温度が−26℃以下であり、100℃での動粘度が11.0cSt未満のオイルを回転伝達装置に封入した実施例1、2では、−30℃という低温運転時でもクラッチ機能が速やかに応答でき、また使用環境温度が40℃から100℃に変化してもクラッチ機能の応答速度は変わらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明に係る回転伝達装置の実施形態を示す縦断正面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】(I)は軸力負荷部を示す断面図、(II)は軸力発生時の状態を示す断面図
【符号の説明】
【0054】
1 ハウジング
3 外輪(入力部材)
5 内輪(出力部材)
7 湿式多板クラッチ
10 クラッチ制御装置
10A 電磁クラッチ部
10B 軸力負荷部
11 アーマチュア
12 ロータ
13 電磁石
21 プレッシャプレート
22a、22b カム溝
24 ボール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部材と出力部材を内外に配置して相対的に回転自在に支持し、その入力部材と出力部材間に、負荷される軸力によって入力部材と出力部材とを結合する湿式多板クラッチを組込み、その湿式多板クラッチの軸方向一側に、その湿式多板クラッチの結合および結合解除を制御するクラッチ制御装置を設け、そのクラッチ制御装置が、電磁石に対する通電によって入力部材に取付けられたロータにアーマチュアを吸着させる電磁クラッチ部と、前記アーマチュアの吸着時に入力部材の回転トルクを軸力に変換して、その軸力を湿式多板クラッチに負荷する軸力負荷部とから成り、その軸力負荷部が、前記アーマチュアと出力部材に回り止めされて軸方向に移動可能なプレッシャプレートの対向面それぞれに周方向の両端に向けて溝深さが次第に浅くなるカム溝を設け、そのカム溝間にボールを組込んだ構成とされ、その軸力負荷部、前記湿式多板クラッチおよび電磁クラッチの各接触部を外輪内に封入されたオイルで潤滑するようにした回転伝達装置において、
前記オイルが、粘度150000mPa・sを示す最高温度が−26℃以下であり、100℃での動粘度が4.1cSt以上で11.0cSt未満であり、かつ極圧剤非含有のオイルであることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
オイルが、粘度指数140以上のオイルである請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
オイルが、油性向上剤もしくは固体潤滑剤または両者を含有するオイルである請求項1または2に記載の回転伝達装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−51672(P2007−51672A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236836(P2005−236836)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】