説明

回転円盤砥石

【課題】 セグメントチップの側面耐摩耗面を形成するための耐摩耗性粒子の分布を改善することにより、良好な切断性能を維持したうえで、セグメントチップの側面の摩耗を効果的に低減させる。
【解決手段】 基板の外周面上にスリット13,14を介してセグメントチップ12を一定間隔で配した回転円盤砥石10セグメントチップ12の側面上に砥粒と略同径の耐摩耗性粒子としてのダイヤモンド砥粒21を、分散表面分布率がセグメントチップ側面の面積の2〜20%の範囲内で規則的に配設することにより、セグメントチップ側面の摩耗を均一にすることができ、冷却水の流れや切粉の流れが偏ることもなく、砥石寿命および切断能力が向上する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、石材、コンクリート、アスファルト、レンガ、セラミックス、その他硬質材料の切断に用いられる回転円盤砥石に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、図3に示すような、円盤状の基板31の外周面上に複数のセグメントチップ32を一定間隔で配し、各セグメントチップ32の間の基板外周部にスリット33を形成した回転円盤砥石30が、石材、コンクリート、アスファルト、レンガ、セラミックス、その他硬質材料の切断に用いられている。このようなスリット23を形成することによって、切断、研削中における切粉の排出を円滑にし、切断性能を向上させることが可能となる。
【0003】ところで、上記のようなスリット33を形成した回転円盤砥石30においては、砥石30を回転させて切断、研削するときに、基板31の回転方向に対してセグメントチップの両側面が中央部より大きい負荷を受け、両側面が中央部よりも先に摩耗しやすいという問題があった。この対策として、セグメントチップを形成する砥材の硬度、密度分布を変えたもの、あるいは各位置によってその硬さが異なる結合材を用いてセグメントチップをサンドウィッチ状に成形して、セグメントの作用面の摩耗の平均化を図ったブレードが、実公昭53−13991号公報,実開昭47−6491号公報,実開昭57−83372号公報,実公昭60−12694号公報に開示されている。
【0004】しかし、上記公報に記載の回転円盤砥石では、セグメントチップが性状の異なる層で形成されているため、全体として摩耗速度が早く、側面摩耗の低減効果が得られていない。これに対し本出願人は、基板の回転方向と平行な両側面と基板の両表面との間に基板の厚み方向にクリアランスを設け、セグメントチップの側面上にのみ砥粒と略同径の耐摩耗性粒子を砥粒とともに表面に分散現出させて耐摩耗面を形成した回転円盤砥石を開発し、特公平7−12592号公報に開示している。この砥石によれば、従来の粒度、密度調整をしたセグメントチップよりも作動面の平坦、均一性が維持でき、側面の摩耗が減少するという効果が得られる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の特公平7−12592号公報に記載の回転円盤砥石では、セグメントチップの側面上に分散現出させる耐摩耗性粒子の分散表面分布率を面積比で全側面の3〜20%とし、かつその分布をランダムなものとしている。このため、耐摩耗性粒子の間隔が不揃いとなり、耐摩耗性粒子の分布が粗な部分では耐摩耗効果が得られにくいという問題がある。
【0006】そして、部分的に摩耗が生じてセグメントチップの側面に溝ができると、冷却水の流れや切粉の流れが偏り、冷却水が均等に回らず、砥石寿命や切断能力の向上が期待できなくなる。
【0007】本発明が解決すべき課題は、セグメントチップの側面耐摩耗面を形成するための耐摩耗性粒子の分布の改善により、良好な切断性能を維持したうえで、セグメントチップの側面の摩耗を効果的に低減させることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、基板の外周面上にスリットを介して複数個のセグメントチップを一定間隔で配した回転円盤砥石において、前記セグメントチップの側面上に砥粒と略同径の耐摩耗性粒子を、分散表面分布率がセグメントチップ側面の面積の2〜20%の範囲内で規則的に配設させたことを特徴とする。ここで分散表面分布率とは、(セグメントチップ側面に露出した耐摩耗性粒子の最大断面積の総和)/(セグメントチップ側面の面積)を%表記したものであり、耐摩耗性粒子がセグメントチップの側面に占める面積の割合を示し、セグメントチップ側面の耐摩耗性を表す指標である。
【0009】セグメントチップの側面上に耐摩耗性粒子を規則的に配設することにより、耐摩耗性粒子の間隔を揃えること、すなわち耐摩耗性粒子を一定の分布密度とすることができ、セグメントチップ側面の摩耗を均一にすることができる。そして、均一な摩耗となることによって、冷却水の流れや切粉の流れが偏ることもなく、砥石寿命や切断能力の向上が期待できる。
【0010】セグメントチップ側面への耐摩耗性粒子の配設範囲が、分散表面分布率で2%未満の場合は、当該砥石のセグメントチップを形成する砥材がセグメントチップ側面に出現する分散表面率と同等または低くなるため、セグメントチップ側面の摩耗を均一化する効果が得られない。分散表面分布率が20%を超えると、セグセグメントチップの切断に作用する外周面に耐摩耗性粒子が過度に出現することになり、この耐摩耗性粒子が切断抵抗を高めるため、切断能率が低下することになるので、20%を上限とする。
【0011】ここで、耐摩耗性粒子としてはダイヤモンド粒子、cBN粒子、これらの粒子に金属を被覆した粒子、WC粒子、Al粒子、TiC粒子などのうち、タフネスインデックス(Toughness Index)が当該砥石のセグメントチップを形成する砥材以下の粒子を用いることができる。ここで、タフネスインデックスとは、粒子の破砕強度の指標であり、この値が小さいほど、粒子が破砕、摩耗しやすいという特性を表す。
【0012】耐摩耗性粒子の粒径は、セグメントチップの砥粒の平均粒径を100としたときに70〜100の平均粒径であることが望ましい。耐摩耗性粒子の平均粒径が前記範囲より小さいと、セグメントチップ側面のドレッシングの際に削り落とされてしまい、前記範囲より大きいと、ドレッシング後の耐摩耗性粒子の突出高さが砥粒の突出高さより高くなり、これが切れ味に対してブレーキとして働くため不適当である。また、耐摩耗性粒子を埋め込む深さは、砥粒の粒径までとし、セグメントチップ側面の表面に必ず耐摩耗性粒子が出現している必要がある。チップ内に深く埋まり込むと、砥粒による切れ味に対する抵抗となる。
【0013】また、耐摩耗性粒子の配設間隔は、耐摩耗性粒子の平均粒径の2.0〜5.0倍の範囲とするのが望ましい。本発明者の実験によると、1個の耐摩耗性粒子の摩耗防御ゾーン域の大きさは、砥石回転方向の後方に対しては耐摩耗性粒子の粒径の10倍以上にも及ぶが、耐摩耗性粒子の粒径の5倍を超える域では摩耗抑制効果は小さく、部分的な摩耗が発生することが確認された。そこで、砥石回転方向にみた耐摩耗性粒子の配設間隔は耐摩耗性粒子の平均粒径の5.0倍以内とするのが望ましい。また、砥石半径方向の配設間隔は可能な限り小さい方が望ましく、耐摩耗性粒子の配設作業が可能な限度として耐摩耗性粒子の平均粒径の2.0倍を最小間隔とする。
【0014】前記耐摩耗性粒子の配設間隔を、被切断材や砥石使用条件に応じて適正な間隔に設定することで、セグメントチップ側面の全面について均一な耐摩耗効果を得ることができる。そして、セグメントチップ側面の耐摩耗性が向上することでセグメントチップの外周面が凸型に摩耗することがなくなり、切断抵抗を低減できて切断能力も向上する。
【0015】耐摩耗性粒子の配設パターンはとくに限定されるものではないが、たとえば格子状、斜め格子状、千鳥状として砥石回転方向と砥石半径方向にみた配設間隔を一定間隔とした配設パターンとすることができる。また、砥石半径方向の間隔を砥石回転方向の間隔よりも小さい一定間隔とすることもできる。さらに、セグメントチップ側面の耐摩耗性粒子を配設する部分を限定することで、セグメントチップ側面の耐摩耗性を部分的に調節することができるので、たとえば、一部分に耐摩耗性粒子を配設しない領域を設けることで、この領域の摩耗が他の部分よりも早く進行して、結果として砥石を使用しながら冷却水の通路となる溝を形成することができる。
【0016】耐摩耗性粒子を配設する方法としては、セグメントチップ側面用パンチに耐摩耗性粒子を接着しておき、その間を砥粒と結合材を充填し焼結する方法、耐摩耗性粒子を含む粉体を一層だけチャージしておき、その上に砥粒と結合材を充填し、さらにその上に耐摩耗性粒子を一層チャージして同時焼結する方法、さらには、砥粒を含むグリーンコンパクトを作り、側面に接着材を塗布して耐摩耗性粒子を貼りつけて焼結する方法などを採用することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施形態における回転円盤砥石の平面図、図2は図1の回転円盤砥石のセグメントの拡大図である。
【0018】本実施形態の回転円盤砥石10は、図1に示すように、炭層工具鋼製円盤状の基板11の外周面上にダイヤモンドセグメントチップ12を一定間隔で配し、各セグメントチップ12の間の基板外周部に形状の異なるスリット13と14を交互に配設した回転円盤砥石である。各部の寸法は、砥石外径379mm、セグメントチップの長さ47mm、厚さ3.3mm、高さ12mmである。
【0019】図2はセグメントチップ12の側面への耐摩耗性粒子の配設を模式的に示す図であり、本実施形態の砥石10においては、セグメントチップ12の側面上の領域Aと領域Bに、本来のセグメントを構成するダイヤモンド砥粒とは別に、セグメントチップ側面の耐摩耗性増大用の耐摩耗性粒子としてのダイヤモンド砥粒21を格子状に配設している。
【0020】本来のセグメントを構成するダイヤモンド砥粒は粒度#30の砥粒であり、耐摩耗性粒子としてのダイヤモンド砥粒21は粒度#40の砥粒である。各セグメント12には、耐摩耗性粒子を配設しない領域Cがあり、この領域には切粉の排出を助長するための溝22を形成している。耐摩耗性粒子としてのダイヤモンド砥粒21を配設する領域Aと領域Bの合計面積はセグメントチップ12の側面の面積の約72%で、格子状の間隔が約1.25mm(ダイヤモンド砥粒21の平均粒径の約3倍)となるように配設することにより、分散表面分布率はセグメントチップ12の側面の面積の5.8%となっている。
【0021】なお、耐摩耗性粒子の別の配設形態として、#40(粒径約40μm)のダイヤモンド砥粒21を47mm×12mmのセグメント側面全面に砥粒粒径の約2倍の間隔で配列したときは、分散表面分布率は約20%になり、また、砥粒粒径の約5倍の間隔で配列したときは、分散表面分布率は約3%になる。
【0022】〔試験例〕図1に示した基本形状の砥石のセグメント側面に図2に示すように耐摩耗性増大用の耐摩耗性砥粒を配設した発明品の砥石5個と、耐摩耗性砥粒を配設していない従来品の砥石5個を、アスファルト舗装道路切断用ダイヤモンドブレードにそれぞれ適用して切断試験を行った。
試験条件切断機械:台車式エンジンカッター出力37kW(50馬力)
ブレード主軸回転速度2400min−1被切断材:アスファルト(舗装道路)打設厚さ150mmブレード切り込み深さ:100mm切断速度:予め設定したエンジン回転数が切断抵抗により低下する範囲を10%以内に保つように、機械の走行装置を調整する。切断速度の数値が高いことは、切断抵抗が低く切断能率が良いことを示す。
【0023】試験結果を表1に示す。
【表1】


【0024】表1から、発明品のブレードはセグメント側面に耐摩耗性砥粒を配設したことで従来品のブレードに比して、セグメント幅残りが多く、側面の摩耗が低減していることがわかる。また、セグメント高さ残りが多く(凸型摩耗が少なく)、セグメントの使用代が多いことがわかる。切断速度は約15%向上し、ブレードの寿命は約60%向上している。
【0025】
【発明の効果】(1)セグメントチップの側面上に砥粒と略同径の耐摩耗性粒子を、適正な範囲の分散表面分布率で規則的に配設することにより、セグメントチップ側面の摩耗を均一にすることができ、冷却水の流れや切粉の流れが偏ることもなく、砥石寿命および切断能力が向上する。
【0026】(2)耐摩耗性粒子の配設間隔を、被切断材や砥石使用条件に応じて適正な間隔に設定することで、セグメントチップ側面の全面について均一な耐摩耗効果を得ることができ、セグメントチップの外周面が凸型に摩耗することがなくなり、切断抵抗を低減できて切断能力も向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態における回転円盤砥石の平面である。
【図2】 図1の回転円盤砥石のセグメントの拡大図である。
【図3】 従来の回転円盤砥石の代表的な形状例を示す図である。
【符号の説明】
10 回転円盤砥石
11 基板
12 セグメントチップ
13,14 スリット
21 ダイヤモンド砥粒(耐摩耗性粒子)
22 溝
A,B 耐摩耗性粒子を配設する領域
C 耐摩耗性粒子を配設しない領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板の外周面上にスリットを介して複数個のセグメントチップを一定間隔で配した回転円盤砥石において、前記セグメントチップの側面上に砥粒と略同径の耐摩耗性粒子を、分散表面分布率がセグメントチップ側面の面積の2〜20%の範囲内で規則的に配設させた回転円盤砥石。
【請求項2】 前記耐摩耗性粒子を格子状、斜め格子状、千鳥状に配設して砥石回転方向と砥石半径方向にみた配設間隔を一定間隔とした請求項1記載の回転円盤砥石。
【請求項3】 前記耐摩耗性粒子の配設間隔が耐摩耗性粒子の粒径の2.0〜5.0倍の範囲である請求項2記載の回転円盤砥石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2003−39332(P2003−39332A)
【公開日】平成15年2月13日(2003.2.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−226549(P2001−226549)
【出願日】平成13年7月26日(2001.7.26)
【出願人】(000111410)株式会社ノリタケスーパーアブレーシブ (73)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】