説明

回転切削工具及びその製造方法

【課題】外周刃の刃先径が変化する回転切削工具において刃先径の増減に伴って上記横すくい角が正である部分と負である部分が生ずることに起因する切削性の不均一性或いは部分的な悪化を防止することのできる回転切削工具及び当該回転切削工具の製造に好適な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の回転切削工具は、軸線方向において刃先径が変化する連続した外周刃13を有し、該外周刃13は、前記刃先径が軸線方向に増加する第1の範囲A−B、C−D、E−Fに設けられた第1の刃先部13a1と、前記刃先径が軸線方向に減少する第2の範囲B−C、D−Eに設けられた第2の刃先部13a2とが相互に逆方向のねじれ角を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転切削工具及びその製造方法に係り、特に、ねじれを備えた外周刃を有する回転切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転切削工具においては、ねじれ(リード)を備えた外周刃(捩れ刃)を有する回転切削工具、例えば、ドリル、リーマー、エンドミルなどが数多く使用されているが、特に、特殊な断面形状を有する溝を形成する場合には、外周刃と底刃を備えた直刃若しくは捩れ刃のエンドミルでフライス加工を実施することが多い。そして、このエンドミルにおいては、深さ方向に逆テーパ状の断面形状を備えた溝、例えば、タービンブレードの嵌合溝やシール用パッキンの収容溝などを形成するための逆テーパ状の刃部を備えたものが知られている(例えば、以下の特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開平11−245112号公報(直刃エンドミルを使用した例)
【特許文献2】特開2004−58262号公報(捩れ刃エンドミルを使用した例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述の回転切削工具では、軸線方向に刃先径が変化する外周刃を備えているため、外周刃をねじれ刃とした場合、軸線方向に刃先径が増加する範囲と、軸線方向に刃先径が減少する範囲とで外周刃の横すくい角が変化し、特に、いずれか一方の範囲において横すくい角が負になることにより切削性が悪化するという問題点がある。
【0004】
例えば、図8に示すように、刃部からシャンク部に向けて軸線方向に沿って刃先径が増加するテーパ状の第1の範囲A−B及びC−Dを有し、そのシャンク部側には刃部からシャンク部に向けて刃先径が減少する逆テーパ状の第2の範囲B−Cを有するエンドミル20を想定すると、図8のh点を示す図7(b)の右側の図に示すように、テーパ状の第1の範囲A−B及びC−Dに設けられた第1の刃先部では横すくい角が正(α)となるが、図8のg点を示す図7(b)の左側の図に示すように、逆テーパ状の第2の範囲C−Dに設けられた第2の刃先部では横すくい角が負(−α)になるため、第2の刃先部で加工される溝の逆テーパ壁を良好な面粗度となるように加工することができず、例えば、シール用パッキンの収容溝を形成する場合には、当該収容溝の内側面を平滑に加工することができないとともに、後加工における研磨処理なども上記内側面に対して施すことが困難であるため、パッキンと収容溝の内側面との間の密閉性が充分に確保できないという問題点がある。
【0005】
上記の問題点を解決する手段としては、正のねじれ角を有する外周刃と、負のねじれ角を有する外周刃とを併用するタイプの工具が考えられるが、この工具では、一つの外周刃で溝の内面の一部のみを加工し、他の外周刃で残部を加工するため、工具精度に起因して加工範囲の境界部分に筋目が発生するなど、不具合が生ずる虞がある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、外周刃の刃先径が変化する回転切削工具において刃先径の増減に伴って上記横すくい角が正である部分と負である部分が生ずることに起因する切削性の不均一性或いは部分的な悪化を防止することのできる回転切削工具及び当該回転切削工具の製造に好適な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる実情に鑑み、本発明の回転切削工具は、軸線方向において刃先径が変化する連続した外周刃を有し、該外周刃は、前記刃先径が軸線方向に増加する第1の範囲に設けられた第1の刃先部と、前記刃先径が軸線方向に減少する第2の範囲に設けられた第2の刃先部とが相互に逆方向のねじれ角を備えていることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、第1の刃先部と第2の刃先部とが相互に逆方向のねじれ角を備えていることにより、第1の範囲と第2の範囲とで横すくい角の符号が反転することを回避できるため、回転切削工具を被削材に対してその軸線と交差する方向へ相対的に送りながら加工(フライス加工)を行う場合等において、第1の範囲と第2の範囲とで切削状態が大きく変わることを防止できることから、良好な切削状態を第1の範囲と第2の範囲の双方で実現することが可能になる。
【0009】
特に、第1の刃先部の横すくい角と第2の刃先部の横すくい角が共に正になるように構成されていることが切削状態を良好にするために好ましい。
【0010】
具体的には、図6に示す図示A−Bの範囲、或いは、C−Dの範囲である第1の範囲では、従来の工具でも本発明の工具でも図7(a)及び(b)の右側の図に示すように横すくい角は正の値αであるが、図6に示す図示B−Cの範囲である第2の範囲では、従来の工具においては図7(b)の左側の図に示すように横すくい角が負の値−αとなるのに対して、本発明の工具においては図7(a)の左側の図に示すように横すくい角は正の値αである。したがって、本発明では、第1の範囲と第2の範囲で横すくい角の符合が異なることがなくなるため、外周刃の刃先径の変化態様に拘わらず、いずれの範囲でも良好な外周刃の形状を確保することが可能になる。特に、横すくい角が第1の刃先部と第2の刃先部との双方で共に正となるように構成することによって切削性を向上させることができるため、加工面の面粗度を向上させることができ、バリ等の発生を抑制できる。
【0011】
本発明において、前記第1の刃先部と前記第2の刃先部が連結部を介して接続され、前記第1の刃先部から前記連結部を経て前記第2の刃先部に至る範囲において前記ねじれ角が連続的に変化するように構成されていることが好ましい。これによれば、第1の刃先部と第2の刃先部とが連結部を介してねじれ角が連続的に変化するように連結されていることにより、当該連結部に相当する被削材の加工面に筋目が発生することを回避できる。
【0012】
本発明において、溝加工用工具であることが好ましい。これによれば、エンドミルとして溝を加工する場合に、溝内面に対する切削状態の悪化を抑制することができるため、例えば、溝内面の面粗度を全体的に向上させることが可能になる。このような溝加工用工具としては、軸線方向端部に底刃を有しないものであってもよく、また、底刃を有するものであってもよい。
【0013】
次に、本発明の回転切削工具の製造方法は、軸線方向に沿って伸びる刃先をもつ外周刃を有する回転切削工具の製造方法であって、回転軸線周りに一定のテーパ角を備えた円錐面状若しくは円筒面状の研削部を有する砥石を前記回転軸線周りに回転させながら、前記回転軸線を前記外周刃の刃先となるべき部分と交差する所定の方向に設定して前記研削部を工具材に適用しつつ前記軸線方向に相対的に移動させて前記外周刃のすくい面を形成することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、砥石に円錐面状若しくは円筒面状の研削部を設け、砥石を回転軸線周りに回転させながら上記研削部を外周刃の刃先となるべき部分と交差する所定の方向に設定して工具材に適用しつつ、軸線方向に相対的に移動させて外周刃のすくい面を形成することにより、砥石の回転軸線方向の位置がある程度ずれても円錐面状若しくは円筒面状の研削部が適用されている限り、円錐面のテーパ角或いは回転軸線の方向に対応するすくい面が形成されるため、すくい角を安定かつ高精度に形成することができることから、高精度の刃先形状を備えた外周刃を形成することができる。また、この場合には、砥石を回転軸線方向に移動させることで、外周刃の刃先径が軸線方向に変化する回転切削工具を容易に製造することができる。さらに、このような砥石を用いることで、外周刃のねじれ角を軸線方向に沿って変化させることが可能であるため、ねじれ角が軸線方向に沿って変化する工具を製造する場合にきわめて効果的な製造方法となる。
【0015】
本発明において、前記砥石を前記工具材に対して前記軸線方向の一側へ相対的に送りながら前記砥石を前記回転軸線方向に相対的に移動させることにより、前記軸線方向に刃先径が変化する連続した外周刃を構成すべきすくい面を連続的に形成することが好ましい。これによれば、軸線方向の相対的送りが一側に連続してなされるとともに、その送りにあわせて砥石を回転軸線方向に移動させることによって、刃先径が変化する連続した外周刃のすくい面を連続的に形成していくことができるため、加工機械のバックラッシ等の影響を受けることがなく、高精度に加工を行うことができる。
【0016】
本発明において、回転切削工具は軸線方向端部に半径方向に伸びる底刃をさらに有し、前記研削部を工具材に適用しつつ前記半径方向及び前記軸線方向に相対的に移動させて前記底刃のすくい面と前記外周刃のすくい面を共に形成することが好ましい。これによれば、底刃のすくい面と外周刃のすくい面を共に形成することにより、製造工程を簡略化することができる。特に、底刃のすくい面と外周刃のすくい面とを連続して形成することにより、軸線方向端部にバックテーパのない工具において底刃と外周刃の境界部分に対応する被削材の加工面に筋目などが形成されることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。図1は本実施形態の回転切削工具10を、軸線10xと直交し、相互に軸線10x周りに直交する2方向から見た概形を示す概略図(a)及び(b)である。また、図2は図1(a)の概略図の刃部を示す拡大部分図及び軸線と直交するY−Z線に沿った断面を示す横断面図、図3は図1(b)の概略図の刃部を示す拡大部分図及び軸線と直交するY−Z線に沿った断面を示す横断面図である。
【0018】
回転切削工具10は、軸線10xに沿って伸びるシャンク部11と、このシャンク部11の先端側に設けられた刃部12とを有し、刃部12には、軸線10xに沿って伸びるように形成された外周刃13と、この外周刃13のすくい面側に設けられた切屑排出溝14とが設けられている。外周刃13及び切屑排出溝14は図示例では軸線10x周りの回転対称位置に2つ設けられている。また、刃部12の先端部には半径方向に伸びる底刃15が形成されている。
【0019】
外周刃13の刃先径Deは軸線10xに沿って変化しており、図示例の場合、底刃15の刃先の軸線方向位置を示すAからシャンク部11側に向けて、刃先径の極大点B、D、Fと極小点C、Eが交互に存在し、全体として波状に刃先径が変化するように構成されている。ここで、AからBまで、CからDまで、及び、EからFまでの範囲がそれぞれ軸線10xに沿って見たときにシャンク側へ向けて刃先径が増大する上記第1の範囲であり、BからCまで、及び、DからEまでの範囲がそれぞれ軸線10xに沿って見たときにシャンク側へ向けて刃先径が減少する上記第2の範囲である。
【0020】
なお、図1乃至図3中には、外周刃13の刃先13aの回転方向後方に形成された第1逃げ面13bと、刃先13aの回転方向前方に形成されたすくい面13cとを図示してある。
【0021】
ここで、図2に点線で示すように、切屑排出溝14内のすくい面13cに続く内側面部分の一部に深溝部14aを形成してもよい。この場合、深溝部14aはすくい面13cに案内された切屑を一時的に収容して切屑の排出を容易にする。ここで、深溝部14aとそれ以外の溝部分との境界線14bは外周刃13の刃先13aの刃先径の大小に対応する形状(図示例ではV字形状)を有し、これによって切屑の排出がさらにスムーズになされるとともに、深溝部14aを形成することによる工具強度の低下を抑制している。
【0022】
図4及び図5は、図2及び図3をさらに拡大して示す拡大図である。外周刃13の刃先13aは、シャンク部11へ向けて右螺旋状に伸びる第1の刃先部13a1と、同じ向きに向けて左螺旋状に伸びる第2の刃先部13a2とが設けられている。すなわち、第1の刃先部13a1と第2の刃先部13a2は相互に逆方向のねじれ角を備えた部分である。第1の刃先部13a1は上記第1の範囲に設けられ、第2の刃先部13a2は上記第2の範囲に設けられている。図示例の場合には、シャンク部11側から見て時計回りに回転切削工具10を軸線10x周りに回転させて用いるようになっている。
【0023】
外周刃13の刃先13aは、図4に示すように所定の曲率半径R1、R2、R3、R4によって既定される滑らかな凹凸形状を備えている。本実施形態の回転切削工具10は、外周刃13の軸線10xに沿った刃先径の変化態様がそのまま被削材の加工形状に対応する総型回転切削工具(エンドミル)である。外周刃13の刃先径の変化態様は被削材の加工形状に応じて適宜に設定される。なお、θ1は刃部12からシャンク部11へ向かう部分のテーパ角である。
【0024】
図5に示すように、本実施形態の回転切削工具10の外周刃13では、刃先径がシャンク側に進むほど増大する第1の範囲A−B、C−D及びE−Fでは刃先13aのねじれ角(リード)が正となっており、刃先径がシャンク側に進むほど減少する第2の範囲B−C及びD−Eでは刃先13aのねじれ角(リード)が負となっている。その結果、本実施形態では、上記第1の範囲A−B、C−D及びE−Fに形成された第1の刃先部13a1の横すくい角θ2、θ4、θ6は正であるが、上記第2の範囲B−C及びD−Eにおいても第2の刃先部13a2の横すくい角θ3、θ4が正となる。すなわち、従来のように第1の範囲と第2の範囲とでねじれ角が同じであるか、或いは、ねじれ角の符合が変化しない工具の場合には、第1の刃先部では横すくい角が正であっても、第2の刃先部では横すくい角が負になり、その結果、第2の範囲の切削状態が悪化して、当該第2の範囲で加工される部分の面粗度が荒くなるという問題が生ずるが、本実施形態では第1の範囲と第2の範囲のいずれでも横すくい角を正とすることができるので、両範囲における切削状態の差異を低減することができ、両範囲のいずれにおいても良好な切削加工を実施することが可能になる。
【0025】
本実施形態では、図5に示すように、第1の刃先部13a1と第2の刃先部13a2の間に、ねじれ角を変化させた連結部13a3が設けられる。図示例の場合には、連結部13a3は所定の曲率半径R5、R6、R7、R8を有する円弧状に構成されている。ただし、連結部13a3は円弧状に限らず、任意の曲線状に形成されていてもよい。本実施形態では、第1の刃先部13a1から上記連結部13a3を経て第2の刃先部13a2まで、ねじれ角が連続して変化するように構成されている。このように構成することによって、第1の刃先部13a1と第2の刃先部13a2の間に、横すくい角が不連続に変化する部分が存在しなくなるため、切削状態が急変して加工面に筋目が生ずることを防止できる。
【0026】
上記の連結部13a3は、第1の範囲と第2の範囲の境界線上にねじれ角が0となる部分が存在するように形成されていることが好ましい。このようにすると、第1の範囲と第2の範囲のいずれの場所でも横すくい角が必ず正になるように設定できるからである。
【0027】
連結部13a3の長さ及び曲率は特に限定されないが、第1の範囲及び第2の範囲においてそれぞれ或る程度のねじれ角を広い範囲に亘って確保しつつ、刃先が滑らかに連続するように構成するためには、連結部13a3の曲率R5〜R8を、第1の範囲と第2の範囲の対応する境界部分における外周刃13の刃先13aの曲率R1〜R4よりそれぞれ小さく構成することが好ましい。
【0028】
また、第1の刃先部13a1及び第2の刃先部13a2のねじれ角(リード角)に関しても特に限定されるものではないが、当該ねじれ角は±5〜30°の範囲内であることが好ましい。ねじれ角の絶対値が大きすぎると、切屑の排出に不具合が出る可能性があり、ねじれ角の絶対値が小さすぎると捩れ刃を用いる意義が失われるからである。また、第1の刃先部13a1及び第2の刃先部13a2は図示例ではそれぞれ一定の横すくい角を有しているため、各刃先部における切削性を均一化することができる。ただし、本発明においては、各刃先部の横すくい角が一定でなくてもよく、例えば、全体に亘って横すくい角が滑らかに変化するように構成されていてもよい。
【0029】
図6に示す回転切削工具10′は、上述の図8に示す従来の回転切削工具20との比較を行うためのものであるが、この回転切削工具10′においても、基本的に上記実施形態と同様に、第1の範囲A−B及びC−Dと、第2の範囲B−Cではねじれ角が逆方向に設定されているため、両範囲における横すくい角が共に正となり、その結果、従来の工具20では良好に切削できなかった第2の範囲B−Cでも面粗度の良好な加工面を得ることが可能になっている。
【0030】
図9は、基材1に溝2を形成したものを部分的に示す概略図である。回転切削工具10′は基材1に溝2を形成するためのエンドミルであり、溝2の内面には、底部に向けてテーパ状に構成された加工面2Aと、逆テーパ状に構成された加工面2Bとが含まれている。図8に示す従来の回転切削工具20では、逆テーパ状の加工面2Bでは外周刃23の横すくい角が負になるため、良好な面粗度を得ることができず、面が荒れたり、バリが生じたりする場合があったが、本発明に係る回転切削工具10′では加工面2Bでも良好な平滑性を得ることができる。
【0031】
上記の溝2は、例えば、半導体製造装置の真空チャンバーなどを構成するための密閉部に用いられるシール用パッキンの収容溝であり、上記加工面2Bの面粗度を向上させることができることによって、パッキンとの間の密閉性が向上し、密閉性(真空度)を高めることができるようになるとともに、溝2の内面の研磨などといった追加工の必要性が低減されて加工コストを削減することが可能である。
【0032】
図10は本実施形態の回転切削工具の製造方法を説明するための説明図である。図10(a)及び(b)に示すように、この製造方法では、丸棒に研削加工を施すことなどにより、形成すべき外周刃の刃先径の変化態様に対応した外径の変化態様を有する工具材10Aを形成し、この工具材10Aに対して切屑排出溝14の原形となるべき粗取溝14′を円盤状の砥石等で形成する。この粗取溝14′は、図10(b)に示すように、上記の切屑排出溝14の外周刃13側に設けられる内側面14sに達しない内側面14s′を有するように形成される。このような内側面14s′を形成するのは、外周刃13の刃先13aのねじれ角が第1の範囲と第2の範囲で逆方向に設定されることを考慮して、いずれの範囲においても外周刃13の刃先13aの削り代が得られるようにするためである。ただし、切屑排出溝14の本来の内側面14sを形成しても刃先13aの削り代が確保可能な場合には、この工程において内側面14sを形成しても構わない。
【0033】
その後、砥石3を用いて粗取溝14′の内側面14s′を軸線10x方向に加工していく。この砥石3は、研削体3aを有し、この研削体3aの基端側に円錐面状の研削部3bを備えたものである。図示例の場合、研削体3aの先端は球面状に構成されている。また、円錐面状の研削部3bの軸線は、砥石3の回転軸線3xと一致するように形成される。ここで、研削部3b全体に亘ってそのテーパ角は一定となっている。したがって、砥石3を回転軸線3x周りに回転させると、研削部3bによって一定のテーパ角で研削を行うことができるように構成されている。
【0034】
砥石3の研削部3bは研削体3aの基部にあり、研削部3bの円錐面は逆テーパ形状(先端側に進むほど外径の大きい形状)となっている。このような形状とすることで、図10(b)に示すように内側面14s、14s′に対して回転軸線3xを平行に設定した場合であっても、外周刃13の正のすくい角を確実に形成することができる。なお、研削部3bは円筒面状に構成されていてもよい。この場合には、すくい角を0とするのであれば砥石3を図示例と同じ姿勢で用いることができるものの、そうでなければ回転軸線3xの方向をすくい角に応じて傾斜させ、或いは、工具材10Aを軸線周りに所定角度回転させて設定する必要があるが、後述する効果は同様に得ることができる。もちろん、研削部3bを逆テーパではなく、順テーパの円錐面としても、回転軸線3xと工具材10Aの軸線周りの角度姿勢との関係ですくい面を適宜に設定することができる。
【0035】
砥石3は、図10(a)に示すように、その回転軸線3xを外周刃13の刃先13aとなるべき軸線方向に沿って伸びる部分と交差する所定の方向に設定した状態で用いられる。この所定の方向は、図示例の場合には、粗取溝14′の内側面14s′と回転軸線3xとがほぼ平行になり、かつ、回転軸線3xが軸線と平行な線に直交するように決定されている。そして、上記のように回転軸線3xが工具材10Aに対して設定された状態で、砥石3は軸線10xに沿って工具材10Aに対し相対的に移動される。ここで、軸線10xに沿った砥石3と工具材10Aの相対移動は、例えば、砥石3を軸線10x方向に固定し、工具材10Aを軸線10x方向に送ることで達成される。
【0036】
また、このとき、砥石3は、形成すべき外周刃の刃先径に応じて回転軸線3x方向に移動される。この回転軸線3x方向の移動は、例えば、砥石3を図示しない送り機構によって往復移動させることによって達成される。
【0037】
さらに、上記の加工時においては、砥石3は外周刃のねじれ角に応じて工具材10Aに対しその回転方向に移動される。この回転方向の移動は、例えば、工具材10Aを軸線10x周りに回転させることによって達成される。
【0038】
上記のようにして、砥石3を工具材10Aに対して回転軸線3x方向に移動させながら軸線10x方向に送ることで、外周刃のすくい面を形成していくことができる。そして、このとき、外周刃のねじれ角は刃先径の増減範囲に対応して正負に変化するように制御される。
【0039】
本実施形態では、上記砥石3を半径方向(回転軸線3x方向)に送ることによって底刃15のすくい面を形成していくこともできる。このとき、底刃15のすくい面と外周刃13のすくい面とを連続して形成すること、すなわち、一筆書き状に加工を実施していくことが好ましい。例えば、砥石3を半径方向外側へ移動させながら底刃15のすくい面を形成した後に、そのまま連続して砥石3を軸線方向に移動させながら外周刃13のすくい面を形成していくことで、底刃15のすくい面と外周刃13のすくい面とを連続した面形状とすることができるため、底刃15と外周刃13の境界部において稜線が形成されることを防止できる。これによって、軸線方向端部にバックテーパの無い工具であっても、底刃15と外周刃13の境界部に対応する加工面に筋目が形成されないようにすることが可能になる。なお、軸線方向端部にバックテーパ(軸線から外周へ向けて徐々に刃先が突出する方向に傾斜している構造)が付けられている場合、底刃と外周刃の境界が上記バックテーパの部分に設けられていれば、工具を軸線方向と直交する方向に移動させながら加工していくときには加工面に筋目が形成されることはない。したがって、このときには、上記砥石3で底刃15のすくい面と外周刃13のすくい面を共に形成するようにしたとしても、両すくい面を連続して形成する必要はない。
【0040】
なお、その後、外周刃13や底刃15の逃げ面を形成するなどの更なる加工を行うことによって、図1に示す回転切削工具10を形成することができる。
【0041】
なお、粗取溝14′の形成工程と、砥石3による外周刃13のすくい面の形成工程との間に、研削体3の外径よりも大きな外径を有する別の砥石を用いた、外周刃13のすくい面の粗加工工程を設けることができる。この粗加工工程を複数設け、これらの複数の粗加工工程で、使用される砥石の外径を徐々に小さいものとしていくことも可能である。このようにすることで、外周刃13のすくい面の加工効率の向上(加工時間の短縮)を図ることができる。すなわち、砥石3による加工工程では、研削部3bの半径は、連結部13a3の曲率半径R5〜R8以下とする必要があるが、上記の粗加工工程を設けることによって砥石3の径よりも大きな外径を有する砥石を予め用いることができるため、最終的なすくい面が形成されるまでの加工時間を短縮できる。
【0042】
また、図2及び図4に点線で示す深溝部14aを設ける工程を別途設けてもよい。この工程は、例えば、粗取溝14′を設ける工程の前又は後に境界線14bが形成される所定の加工を行うことで達成される。さらに、上記の粗加工工程の一つをこの工程と兼ねて実施してもよい。
【0043】
図10(c)は比較方法として、球状の研削面のみを備えた研削体4aを有する砥石4を工具材10Aに適用させた状態を示す概略断面図である。この砥石4を用いる方法でも外周刃のすくい面を形成することはできるが、研削体4aが球状の研削面のみを有しているため、回転軸線4xに沿った砥石4の位置が多少でもずれると、外周刃のすくい角θfが大きく変化し、高精度のすくい面を形成することができないという問題が生ずる。
【0044】
これに対して、図10(a)及び(b)に示す工具3を用いる上述の方法では、円錐面状若しくは円筒面状の研削部3bを工具材10Aに適用させて外周刃のすくい面を形成していくため、砥石3が回転軸線3x方向に多少ずれた場合でも、円錐面状若しくは円筒面状の研削部3bが工具材10Aに適用されている限り、研削部3bのテーパ角或いは回転軸線3xの方向に対応するすくい角を高精度に形成することができる。
【0045】
したがって、本実施形態では、上記のように外周刃の刃先径が軸線方向に変化するような工具であっても、或いは、外周刃のねじれ角が場所によって変化する工具であっても、砥石3を上述のように適用させることで容易に外周刃のすくい面を加工することができる。特に、上記のように円錐面状若しくは円筒面状の研削部3bを備えた砥石3を用いることで、すくい面を安定かつ高精度に形成することができる。さらに、砥石3を工具材10Aに対して軸線方向の一側に移動させながら加工していくことで、軸線方向に沿った相対移動(送り)を行うための駆動機構のバックラッシ等に起因する精度低下を回避できる。
【0046】
尚、本発明の回転切削工具は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、外周刃の刃先径の変化態様は上記図示例に限定されるものではなく、加工対象に応じて適宜に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る実施形態の回転切削工具を軸線に向けて相互に直交する2方向から見た様子を示す概略図(a)及び(b)。
【図2】実施形態の回転切削工具の刃部を拡大して図1(a)と同じ方向から見た様子を示す部分外面図。
【図3】実施形態の回転切削工具の刃部を拡大して図1(b)と同じ方向から見た様子を示す部分外面図。
【図4】図2(a)をさらに拡大して示す拡大部分外面図。
【図5】図2(b)をさらに拡大して示す拡大部分外面図。
【図6】本発明に係る別の実施形態を示す外面図及びこれを矢印方向から見たときの外周刃の刃先の延長形状を示す展開平面図。
【図7】別の実施形態の外周刃の刃先点g及びhにおける横すくい角を、加工方向を示す矢印とともに示す説明図(a)及び従来の工具の外周刃の刃先点g及びhにおける横すくい角を、加工方向を示す矢印とともに示す説明図(b)。
【図8】従来の工具の外面図及びこれを矢印方向から見たときの外周刃の刃先の延長形状を示す展開平面図。
【図9】図6に示す工具によって形成される加工構造(シール用パッキンの収容溝)を示す概略部分斜視図。
【図10】製造方法の実施形態による加工時の様子を示す概略説明図(a)及び概略断面図(b)、並びに、比較方法による加工時の様子を示す概略断面図(c)。
【符号の説明】
【0048】
10、10′…回転切削工具、11…シャンク部、12…刃部、13、13′…外周刃、13a、13a′…刃先、13a1…第1の刃部、13a2…第2の刃部、13a3…連結部、13b…逃げ面、13c…すくい面、14…切屑排出溝、14s…内側面、14′…粗取溝、14s′…内側面、14a…深溝部、14b…境界線、15、15′…底刃、θ2〜θ6…横すくい角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向において刃先径が変化する連続した外周刃を有し、該外周刃は、前記刃先径が軸線方向に増加する第1の範囲に設けられた第1の刃先部と、前記刃先径が軸線方向に減少する第2の範囲に設けられた第2の刃先部とが相互に逆方向のねじれ角を備えていることを特徴とする回転切削工具。
【請求項2】
前記第1の刃先部と前記第2の刃先部が連結部を介して接続され、前記第1の刃先部から前記連結部を経て前記第2の刃先部に至る範囲において前記ねじれ角が連続的に変化するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転切削工具。
【請求項3】
溝加工用工具であることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転切削工具。
【請求項4】
軸線方向に沿って伸びる刃先をもつ外周刃を有する回転切削工具の製造方法であって、
回転軸線周りに一定のテーパ角を備えた円錐面状若しくは円筒面状の研削部を有する砥石を前記回転軸線周りに回転させながら、前記回転軸線を前記外周刃の刃先となるべき部分と交差する所定の方向に設定して前記研削部を工具材に適用しつつ前記軸線方向に相対的に移動させて前記外周刃のすくい面を形成することを特徴とする回転切削工具の製造方法。
【請求項5】
前記砥石と前記工具材を前記軸線方向の一側へ相対的に送りながら前記砥石を前記回転軸線方向に相対的に移動させることにより、前記軸線方向に刃先径が変化する連続した外周刃を構成すべきすくい面を連続的に形成することを特徴とする請求項4に記載の回転切削工具の製造方法。
【請求項6】
前記回転切削工具は軸線方向の端部に半径方向に沿って伸びる刃先を備えた底刃をさらに有し、
前記研削部を工具材に適用しつつ前記半径方向及び前記軸線方向に相対的に移動させて前記底刃のすくい面と前記外周刃のすくい面を共に形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の回転切削工具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−276010(P2007−276010A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102113(P2006−102113)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(506113749)有限会社辰野目立加工所 (1)
【Fターム(参考)】