説明

回転検出センサ取付構造

【課題】 自動車のハブユニットに取り付けられるセンサを簡単に組付けることができるとともに、組付けた後には抜け難く安定的にセンサを保持することができる回転検出センサ取付構造を提供する。
【解決手段】 センサのヘッド部70の少なくとも一方の側部70aには、ヘッド部70を環状カバー体80の保持部83に押し込んで固定するその押し込み方向と交差する方向に突出する突起部71が設けられている。一方、環状カバー体80の保持部83には、センサのヘッド部70に形成された係合部73に係合するように車両インナ側からヘッド部70を押圧する弾発片85が設けられている。そして、その弾発片85には突起部71を係止する突起受け止め部86が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転検出センサ取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のハブユニットには車輪の回転速度を検出する回転検出装置が取り付けられている。その回転検出装置は、例えば自動車のアンチロックブレーキシステム(ABS)の情報入力手段として用いられる。例えば回転検出装置は、ハブユニットの内輪側に固定されるパルサリングと、外輪側に固定される支持環体(環状カバー体)に保持されるセンサとを有し、車輪の回転に伴い回転するパルサリングの回転変化をセンサによって検出するように構成されたものが知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−221203号公報
【特許文献2】特開2000−221204号公報
【0004】
特許文献1記載の技術は、軸方向に突出して径方向に撓みうる可撓支持片と、軸方向に突出する係止片とが支持環体に設けられ、それら可撓支持片と係止片とによってセンサが径方向から挟持されて位置決めされるものである。特許文献2記載の技術は、径方向から押し込まれるセンサを軸方向で挟持する可撓支持片が支持環体に設けられ、センサと可撓支持片とに径方向並びに周方向に位置決めする凹凸が振り分けて設けてあるものである。
【0005】
これらの技術によれば、支持環体に対してセンサを単純な作業で簡単かつ手早く取り付け、又、取り外しすることができる。従来において、センサについては修理や交換等のメンテナンスのために支持環体に対して簡単に着脱できる構造が求められていたが、通年を通してメンテナンスの頻度は比較的少なく、その構造のメリットを享受する機会が少なかった。
【0006】
ところが、センサは外部に露出した状態で取り付けられるため、車両走行中や気象条件によって異物が衝突してきて支持環体からセンサが脱落し車輪の回転の検出が確保できなくなる恐れがあり、組付性や作業性よりも、安定性や安全性への要請が高まっている。
【0007】
また、特許文献2のように、可撓支持片が弾性変形することによりセンサを押し付けて固定する構造は、熱変化や経時的なばね部位の押し付けによりクリープが生じ、センサを固定する力が低下し、センサの安定的な出力検出が確保できない恐れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、センサを簡単に組付けることができるとともに、組付けた後には抜け難く安定的にセンサを保持することができる回転検出センサ取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の回転検出センサ取付構造は、
車体に車輪を回転自在に支持するハブユニットの内輪のアキシャル方向における車両インナ側端部に固定されるパルサリングの回転変化を検出するためのセンサのヘッド部を、パルサリングと対向するようにハブユニットの外輪に固定される環状カバー体に設けられた保持部に径方向から押し込んで固定する回転検出センサ取付構造であって、
ヘッド部は、少なくとも一方の側部に押し込み方向と交差する方向に突出する突起部を有し、
環状カバー体の保持部は、押し込み方向に沿って押し込まれてくるセンサのヘッド部をアキシャル方向における車両インナ側にてガイドするガイド片と、同じく車両インナ側から押圧してヘッド部に形成された係合部に係合する弾発片とを有することにより、該ヘッド部をアキシャル方向から挟むように保持するとともに、弾発片には、ヘッド部の突起部を係止して径方向への抜けを防止する突起受け止め部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記本発明によれば、センサのヘッド部の少なくとも一方の側部には、ヘッド部を環状カバー体の保持部に押し込んで固定するその押し込み方向と交差する方向に突出する突起部が設けられている。一方、環状カバー体の保持部には、センサのヘッド部に形成された係合部に係合するように車両インナ側からヘッド部を押圧する弾発片が設けられている。そして、その弾発片には突起部を係止する突起受け止め部が形成されている。これによれば、センサのヘッド部が保持部に固定されたときに保持部の突起受け止め部がヘッド部の突起部を係止するため、ヘッド部が径方向(例えば、押し込み方向と逆方向)の移動を規制された状態となり、径方向の抜けを防止することができる。また、弾発片に突起受け止め部が形成されているので、弾発片の弾発作用により、径方向へ予圧した状態でヘッド部を保持することが可能となる。
【0011】
したがって、例えば車両走行中に、センサのヘッド部等に異物が衝突することにより抜け方向への力が加わった場合や、搭載後の経年変化による弾発片のばね力が低下した場合や、弾発片による一定荷重のもとに時間がたつにつれて、ヘッド部のひずみが増すクリープ発生等の場合にも、保持部がセンサのヘッド部を安定的に保持することができる。ひいては、パルサリングの回転を問題なく検出することができる。
【0012】
また、環状カバー体の保持部には、車両インナ側にて押し込み方向(径方向)にガイドするガイド片が形成されている。これによれば、センサのヘッド部が保持部のガイド片によってアキシャル方向及び周方向に対して位置決めされた状態で径方向にガイドされるので、ヘッド部を保持部に簡単に組付けることができる。そして、このガイド片は、アキシャル方向に対して位置決め機能を有しているので、弾発片が車両インナ側からヘッド部を相対的に押圧することで、弾発片とガイド片とでヘッド部をアキシャル方向で挟持して保持することができる。
【0013】
また、センサのヘッド部の突起部は、ヘッド部の両側部に形成されるとともに、該突起部それぞれに対応して突起受け止め部を弾発片に形成することができる。これによれば、ヘッド部の両側部に突起部が形成されているので、より安定的に抜けを抑制又は防止することができる。
【0014】
また、センサのヘッド部の突起部は、ヘッド部において係合部よりも先端側に形成することができる。すなわち、弾発片においては、その係合部(押圧部)よりも基端側に突起受け止め部が形成されている。これによれば、弾発片の弾性変形量(撓み量)が基端側ほど少ないので、より確実に突起部を係止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る回転検出センサの取付構造の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は回転検出装置を装備したハブユニットの断面構造の一例を示す図、図2は本発明の実施形態に係る回転検出装置の一例を示す分解斜視図、図3はヘッド部の一例を示す斜視図、平面図、正面図及び側面図、図4は保持部の一例を示す斜視図、平面図、正面図及び側面図、図5は保持部にヘッド部を取り付けた状態の一例を示す斜視図、図6は図5の側面図である。なお、図1において、図中左側が車両アウタ側、図中右側が車両インナ側である。
【0016】
図1に示すように、ハブユニット1は、駆動車軸2と車軸ケース3との間に介装され、車体(車軸ケース3)に対して図示しない車輪(駆動車軸2)を回転自在に支持している。ハブユニット1は、ハブホイール4と、転がり軸受5とを備えている。
【0017】
ハブホイール4は、駆動車軸2にスプライン嵌合される軸部41と、その軸部41の車両アウタ側端部に図示しない車輪を固定するハブフランジ42とを有している。ハブフランジ42には、ボルト43を挿通させるボルト挿通孔43aが形成され、そのボルト43を介して車輪が固定される。
【0018】
転がり軸受5は、複列外向きアンギュラ玉軸受で形成されている。具体的には、転がり軸受5は、ハブホイール4の軸部41の外周面の一部を車両アウタ側の内輪として利用するとともに、軸部41の外周に圧入外嵌された車両インナ側の単列用の内輪51と、車軸ケース3の内周に圧入内嵌されるとともに複列(2列)の軌道溝を有する外輪52と、複列で配設される複数のたま53と、2つの冠形保持器54,54とを備えている。したがって、本実施形態においては、外輪52を非回転として内輪51(ハブホイール4)を回転させる形態で形成されている。
【0019】
次に、以上のようなハブユニット1の車両インナ側端部に取り付けられ、車輪(図示せず)、駆動車軸2の回転変化を検出する回転検出装置6について説明する。回転検出装置6は、図2に示すように、異なる極性の磁極(N極,S極)が周方向に交互に並んで形成される環状のパルサリング60と、そのパルサリング60の回転変化を検出するセンサのヘッド部70と、そのヘッド部70を保持する環状カバー体80とを備えている。
【0020】
パルサリング60は、N極,S極が交互に着磁されたパルサリング本体61と、円筒状をなしラジアル方向外側にフランジ形態で延出される端面にパルサリング本体61を固定するパルサリング支持部62とを含み形成されている。そして、パルサリング60は、転がり軸受5の内輪51の外周に圧入外嵌され、アキシャル方向における車両インナ側端部で固定されている(図1参照)。
【0021】
ヘッド部70は、樹脂などの高分子材料で形成され、磁気回路を有するIC(Integrated circuit)チップ等のセンサ(図示せず)をモールドする形で形成されている。なお、センサは、パルサリング60の回転による磁束密度変化で磁気回路に電圧が発生することで、パルサリング60の回転を検出することができる。また、ヘッド部70には、リード線79が引き出されている。
【0022】
環状カバー体80は、円筒状をなす周壁81と、その周壁81の車両インナ側端部からラジアル方向内側に延出される環状壁82とを有し、その環状壁82には、周方向の所定位置に厚み方向に貫通する開口部82aが形成されており、その開口部82aに対応してヘッド部70を車両インナ側で保持する保持部83が設けられている。これにより、保持部83にヘッド部70が保持されたときに、この開口部82aを介してパルサリング60の回転が検出される。そして、環状カバー体80は、転がり軸受5の外輪52の外周に圧入外嵌され、パルサリング60と対向するようにアキシャル方向における車両インナ側端部に固定されている(図1参照)。なお、ヘッド部70を保持部83に取り付けるときは、ヘッド部70を環状カバー体80の径方向(図2中矢印P方向)から保持部83に押し込んで固定する構成となっている。
【0023】
次に、図3及び図4を用いて、ヘッド部70及び保持部83の詳細な態様について説明する。図3に示すように、ヘッド部70は、少なくとも一方の側部70aに押し込み方向と交差する方向に突出する突起部71を有している(本実施形態においては、両側の側部70a,70aに突起部71,71を有している)。また、ヘッド部70は、両側の側部70a,70aにおいて長手方向(押し込み方向)に延びる溝状のガイドレール部72,72と、上部70bにおいて蛇腹状の凹凸形態をなす係合部73とを備えている。
【0024】
また、突起部71,71は、ヘッド部70の先端領域に形成されている。すなわち、突起部71,71は、係合部73よりも先端側に形成されている。突起部71は、平面視において後端側から先端側にかけて突出量が小さくなるように形成されている。
【0025】
続いて、図4に示すように、環状カバー体80の保持部83は、上述の押し込み方向に沿って押し込まれてくるセンサのヘッド部70をアキシャル方向における車両インナ側にてガイドする一対のガイド片84,84と、同じく車両インナ側から押圧してヘッド部70に形成された係合部73に係合する弾発片85とを有している。これにより、ヘッド部70をアキシャル方向から挟むように保持することができる。また、弾発片85には、ヘッド部70の突起部71を係止して径方向への抜けを防止する突起受け止め部86が形成されている。
【0026】
具体的には、一対のガイド片84,84は、環状壁82の開口部82aを周方向から挟み込む形で立ち上がるとともに、対向する端面84a,84aが径方向に延びる長手状形態をなして形成されている(図4(a)参照)。
【0027】
また、弾発片85は、環状壁82の内周縁から立ち上がる弾発基部85aと、弾発基部85aの上端から径方向(ラジアル方向外側)に折れ曲る弾発作用部85bとを有している。そして、弾発作用部85bは、ヘッド部70の係合部73を押圧して係合する押圧部85cを含み形成されている。すなわち、弾発片85は、保持部83にヘッド部70が取り付けられたとき、そのヘッド部70の先端から上部にかけて回り込むように形成されている。
【0028】
突起受け止め部86は、弾発片85の弾発作用部85bの両側部から垂れ下がるように延設される形態で形成されている。そして、突起受け止め部86は、弾発作用部85において、押圧部85cよりも弾発基部85a側に形成されている。(図4(d)参照)。これにより、突起受け止め部86が、弾発基部85aの近くに形成されているので、弾発基部85aに近づくだけ撓み量が少なくなり、係止することとなるヘッド部70の突起部71を安定的に保持することができる。
【0029】
次に、図5及び図6を用いて、ヘッド部70の保持部83への取付構造について説明する。上述のごとく、ヘッド部70を保持部83に向けて径方向(図2参照)に押し込んでいくことにより、ヘッド部70は保持部83の所定位置に固定される。具体的には、ヘッド部70のガイドレール部72に保持部83のガイド片84の端部が嵌まる形で保持されている。このとき、ガイド片84の端面84a,84aが、ガイドレール部72,72の底に当接又は近接してヘッド部70の周方向の位置決めが行なわれている。また、それと同時にガイド片84の端部が溝状のガイドレール部72に入り込んでいるため、アキシャル方向の位置決めも行なわれている。これにより、ヘッド部70を保持部83に対して押し込んでいくときに、ガイドレール部72及びガイド片84を介して押し込み方向にガイドされる。
【0030】
また、ヘッド部70の係合部73に保持部83の弾発片85の押圧部85cが押圧するように係合されている。このとき、予め定められた係合部73の凹み位置に押圧部85cが係合することにより、ヘッド部70の保持部83に対しての径方向の位置決めが行なわれている。そして、ヘッド部70の両側部70aの先端に設けられた突起部71,71が、突起受け止め部86,86に係止されている。これにより、ガイド片84と弾発片85とがヘッド部70を挟持することで、ヘッド部70の抜けを抑制している。さらに、ヘッド部70及び保持部83には、補助的に抜けを効果的に抑制する突起部71と突起受け止め部86がそれぞれに形成されているので、ヘッド部70を引き抜こうとした場合にも、突起部71が突起受け止め部86に引っ掛かり簡単に抜くことができず、抜け防止となっている。
【0031】
上記構造により車両搭載後の経年変化によるばね部位のばね力低下及び樹脂へたりによるクリープ発生などでセンサを保持する固定力が低下した場合でも、ヘッド部を保持部に安定した状態で固定することが可能となる。ひいては、信頼性ある回転検出装置6をハブユニット1に取り付けることができる。
【0032】
なお、本発明において、上記実施例に限定されるものではなく、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることもできる。例えば、上記実施形態では、回転速度検出装置6を自動車の駆動車軸用のハブユニット1に用いた例で説明したが、従動車軸用のハブユニットに用いてもよい。
【0033】
また、図7(a)に示すように、突起部71をヘッド部70の側部70aに複数(例えば、2つ)形成してもよい。この場合には、対応する突起受け止め部86を径方向で挟み込むように配置する態様、または、それぞれの突起部71に対応するように突起受け止め部86を形成して(図7(b)参照)、それぞれ個々において係止してもよい。これにより、より安定してヘッド部70の保持部からの抜けを抑制又は防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】回転検出装置を装備したハブユニットの断面構造の一例を示す図。
【図2】本発明の実施形態に係る回転検出装置の一例を示す分解斜視図。
【図3】ヘッド部の一例を示す斜視図、平面図、正面図及び側面図。
【図4】保持部の一例を示す斜視図、平面図、正面図及び側面図。
【図5】保持部にヘッド部を取り付けた状態の一例を示す斜視図。
【図6】図5の側面図。
【図7】ヘッド部及び保持部の別の例を示す平面図。
【符号の説明】
【0035】
1 ハブユニット
2 駆動車軸
3 車軸ケース
4 ハブホイール
5 転がり軸受
6 回転検出装置
51 内輪
52 外輪
60 パルサリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に車輪を回転自在に支持するハブユニットの内輪のアキシャル方向における車両インナ側端部に固定されるパルサリングの回転変化を検出するためのセンサのヘッド部を、前記パルサリングと対向するように前記ハブユニットの外輪に固定される環状カバー体に設けられた保持部に径方向から押し込んで固定する回転検出センサ取付構造であって、
前記ヘッド部は、少なくとも一方の側部に押し込み方向と交差する方向に突出する突起部を有し、
前記環状カバー体の保持部は、押し込み方向に沿って押し込まれてくるセンサのヘッド部をアキシャル方向における車両インナ側にてガイドするガイド片と、同じく車両インナ側から押圧してヘッド部に形成された係合部に係合する弾発片とを有することにより、該ヘッド部をアキシャル方向から挟むように保持するとともに、
前記弾発片には、前記ヘッド部の突起部を係止して径方向への抜けを防止する突起受け止め部が形成されていることを特徴とする回転検出センサ取付構造。
【請求項2】
前記突起部は、前記ヘッド部の両側部に形成されるとともに、該突起部それぞれに対応して前記突起受け止め部が前記弾発片に形成されている請求項1に記載の回転検出センサ取付構造。
【請求項3】
前記突起部は、前記ヘッド部において前記係合部よりも先端側に形成されている請求項1又は2に記載の回転検出センサ取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−256396(P2008−256396A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96391(P2007−96391)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】