説明

回転構造体及びその組立方法

【課題】直接潤滑方式のジャーナル軸受を採用した回転構造体において、ジャーナル軸受の潤滑油のキャリオーバをなくすと共に、構成の簡素化、低コスト化と組立又は解体を容易にする。
【解決手段】環状の軸受ハウジング30と、該軸受ハウジング内に揺動可能に配設されジャーナルを自動調心可能に支持する複数個のパッド40a〜40dと、パッドの軸受面に潤滑油を供給する第1給油ノズル50と、該軸受面を通った潤滑油のキャリオーバを阻止する第2給油ノズルとを備えた直接潤滑方式のジャーナル軸受10を備えた回転構造体において、第1給油ノズルのハウジング面で該ハウジング面に対向するパッドの前面を少なくとも線接触支持させると共に、第2給油ノズルのハウジング面で該ハウジング面に対向するパッドの後面を少なくとも線接触支持させることにより、パッドのジャーナル回転方向位置を固定支持させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蒸気タービン、ガスタービン、発電機等の大型回転構造体において、回転軸を支承する直接潤滑方式のジャーナル軸受を備えた回転構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のジャーナル軸受には、ジャーナルの自動調心が可能なティルテイングパッドを備えたジャーナル軸受が用いられている。
特許文献1(特開平5−332355号公報)に、本出願人が提案した、ティルテイングパッドを備えたジャーナル軸受が開示されている。特許文献1に開示されているように、ティルテイングパッドは、ジャーナルに対してティルテイングパッドの背面側に設けられた球面ピボットに調整ライナを介してジャーナルの軸方向及び周方向に揺動可能に支持されている。
【0003】
従って、ティルテイングパッドは、ジャーナルの動きに追従して自由に動くことができ、ティルテイングパッドを備えたジャーナル軸受は自動調心機能をもつ。そのため、ジャーナルを安定して支持できるため、高速回転機械に適用されている。
また、球面ピボットは軸受ハウジングの内面からティルテイングパッド側に突出し、ティルテイングパッド背面に設けられた凹溝に遊嵌した構造をなしているため、ティルテイングパッドがジャーナルの回転方向に連れ回りするのを球面ピボットで係止している。
【0004】
ティルテイングパッドを備えたジャーナル軸受には、油浴潤滑方式と直接潤滑方式とがある。油浴潤滑方式は、ティルテイングパッドの両側をサイドシールで密閉して、ティルテイングパッドの軸受面を潤滑油で満たすようにした方式である。
しかし、この方式では、サイドシールによる摩擦損失と、パッド間における潤滑油の攪拌損失が生じ、機械効率が低下するという問題がある。
【0005】
この機械効率の低下を特許文献1の図8により説明する。図8は特許文献1の図8に図示された、油浴潤滑方式におけるジャーナル軸受のジャーナル回転数と機械損失との関係を示す線図である。図8において、全機械損失は略回転数の2乗に比例して増大するが、その内訳は、負荷側である下側パッドによる摩擦損失Xと、無負荷側の上側パッドによる摩擦損失Yと、サイドシールによる摩擦損失及びパッド間における潤滑油の攪拌損失を加算した機械損失Zとに分けられる。
【0006】
そこで、機械損失Zをなくした直接潤滑方式が提案されている。直接潤滑方式は、各ティルテイングパッドのジャーナル回転方向上流側に給油ノズルを設け、該給油ノズルからティルテイングパッドの軸受面に潤滑油を供給する方式であり、サイドシールを取り除くようにしたものである。直接潤滑方式では、機械損失Zを解消できるので、現在では広く使用されている。なお、特許文献1は、直接潤滑方式のジャーナル軸受を提案するものである。
【0007】
特許文献2(特開2000−274432号公報)は、別な構成の直接潤滑方式のジャーナル軸受を提案するものである。特許文献2の段落〔0009〕に記載されているように、ティルテイングパッドを備えたジャーナル軸受には、潤滑油のキャリオーバという問題もある。これは、上流側のティルテイングパッドの軸受面に供給された潤滑油がそのままジャーナル表面に連れ回りして、下流側のティルテイングパッドの軸受面に入り込む現象を言う。
【0008】
潤滑油は、ティルテイングパッドの軸受面でせん断力を受け温度が上昇するため、複数のティルテイングパッドの軸受面に入り込むことで高温となる。そして、ティルテイングパッドの温度を上昇させ、軸受部の焼損につながる場合もある。
特許文献2は、直接潤滑方式のジャーナル軸受で、キャリオーバを防ぐ手段を提案している。
【0009】
また、特許文献3(特開2006−112499号公報)には、直接潤滑方式のジャーナル軸受で、潤滑油のキャリオーバによるティルテイングパッドの温度上昇を防ぐ別な手段が提案されている。この手段は、ティルテイングパッドのジャーナル回転方向上流側及び下流側に給油ノズルを設けると共に、ティルテイングパッドにジャーナル周方向に冷却流路を設け、該冷却流路にジャーナル回転方向下流側に設けられた給油ノズルから潤滑油を流通させることにより、ティルテイングパッドの表面温度の上昇を抑えるようにしたものである。
【0010】
また、特許文献2の段落〔0004〕に記載されているように、パッド型ジャーナル軸受では、ジャーナル表面とティルテイングパッド間には潤滑油が満たされているが、ティルテイングパッドは固定され、ジャーナルは非常な高周速で回転しているため、ティルテイングパッドとジャーナル軸受間には大きな速度差が発生する。
この速度差に抗して、ジャーナル表面とティルテイングパッド間にティルテイングパッドに負荷される荷重を支承する油膜圧を形成する必要がある。
【0011】
図9は、特許文献2の図33を引用したものである。図9において、ジャーナル100とリング状の軸受ハウジング103の間に、ジャーナル100を取り囲むように複数のティルテイングパッド101a〜dが配置され、ジャーナル100を支承している。ジャーナル100とティルテイングパッド101a〜dとの隙間102には、潤滑油が満たされている。油膜圧Fpは、ジャーナル100にかかる荷重Wの方向及び位置により変化するが、各ティルテイングパッド101a〜dに発生する油膜圧Fpを全周積分すると、ジャーナル100の荷重Wに一致する。
【0012】
各ティルテイングパッド101a〜dを傾け、ジャーナル回転方向aの下流側の隙間102を狭めることにより、くさび膜効果により、下流側の隙間102に高い油膜圧を形成できる。
【0013】
【特許文献1】特開平5−332355号公報
【特許文献2】特開2000−274432号公報
【特許文献3】特開2006−112499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、ティルテイングパッドを備えた直接潤滑方式のジャーナル軸受では、機械損失が少ない点で油浴潤滑方式のジャーナル軸受より優れている。
しかし、給油ノズルを設けたり、あるいはキャリオーバを抑えるための手段を採用することで、構成が複数化し製造費が高価となってきている。
【0015】
ティルテイングパッドを備えたジャーナル軸受では、直接潤滑方式に限らず、ティルテイングパッドを軸受ハウジングの内面側に設けた球面ピボットで揺動可能に支持させているが、かかる構成が軸受の組立又は解体を面倒にしている。即ち、現状の構成では、球面ピボットが軸受ハウジングの内面よりティルテイングパッド側に突出しているため、ジャーナル軸受を取り外さないと、ティルテイングパッドを取り外すことができない。
【0016】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、油浴潤滑方式より機械損失の少ない直接潤滑方式のジャーナル軸受を採用した回転構造体において、ジャーナル軸受の潤滑油のキャリオーバをなくすと共に、構成の簡素化と低コスト化を達成し、かつ軸受の組立又は解体を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するため、本発明の回転構造体は、
環状の軸受ハウジングと、該軸受ハウジング内に揺動可能に配設されジャーナルを自動調心可能に支持する複数個のパッドと、該パッドのジャーナル回転方向上流側に設けられパッドの軸受面に潤滑油を供給する第1給油ノズルと、パッドのジャーナル回転方向下流側に設けられ該軸受面を通った潤滑油のキャリオーバを阻止する第2給油ノズルとを備えた直接潤滑方式のジャーナル軸受を備えた回転構造体において、
第1給油ノズルのハウジング面で該ハウジング面に対向するパッドのジャーナル回転方向上流側前面を少なくとも線接触支持させると共に、第2給油ノズルのハウジング面で該ハウジング面に対向するパッドのジャーナル回転方向下流側後面を少なくとも線接触支持させることにより、パッドのジャーナル回転方向位置を固定支持させるように構成したものである。
【0018】
本発明の回転構造体では、パッドのジャーナル回転方向上流側に設けられた第1給油ノズルからパッドの軸受面に潤滑油を供給し、パッドのジャーナル回転方向下流側に設けられた第2給油ノズルから上流側潤滑油のキャリオーバを阻止する潤滑油を供給する。そして、この2個の給油ノズルでパッドを両側から支持固定するようにしている。
これによって、潤滑油のキャリオーバを阻止できると共に、第1給油ノズル及び第2給油ノズルのハウジング面でパッドのジャーナル回転方向上流側前面及び下流側後面を少なくとも線接触支持するため、パッドを確実に固定できると共に、給油ノズル自体以外に特別な支持構造を不要とし、支持構造を簡素化できる。
【0019】
本発明の回転構造体において、第1給油ノズル又は第2給油ノズルのハウジング面又は該ハウジング面と対向するパッドのジャーナル回転方向前面又は後面を傾斜面とし、該ハウジング面の根元部でパッドのジャーナル回転方向前面又は後面を線接触支持するように構成するとよい。
このように、第1給油ノズル又は第2給油ノズルのハウジング面の根元部でパッドの前面又は後面を線接触支持すれば、パッドをより安定支持できると共に、パッドの前側又は後側空間をより広くすることができるので、パッド前側又は後側での潤滑油の安定供給を可能とする。
【0020】
また、本発明の回転構造体において、パッドの中央域を前記軸受ハウジング内面に設けた球面ピボットにジャーナルの軸方向及び周方向に揺動可能に支持させ、
ジャーナルの自重が負荷されない上部位置に配置された上部パッドを支持する軸受ハウジングにおいて、該球面ピボットの背面から軸受ハウジングの外面に貫通した測定孔を設け、該測定孔の開口から球面ピボット背面までの深さ計測値に基づいてジャーナルとパッド間の隙間を調整するように構成するとよい。
【0021】
ジャーナルの自重が負荷されない上側パッドとジャーナルとの隙間は高い油膜圧を形成しにくい。そのため、上側パッドに振動が発生しやすく、これによって、上側パッドの入口側内面がジャーナルと接触して上側パッドに割れが発生する場合がある。
前記構成とすることにより、上側パッドとジャーナルとの隙間調整を正確に行なうことができるため、上側パッドの振動の発生を防止できる。
【0022】
また、本発明の回転構造体において、パッドの中央域を軸受ハウジング内面に設けた球面ピボットにジャーナルの軸方向及び周方向に揺動可能に支持させると共に、該球面ピボットの球面を軸受ハウジングの内面と同一高さに形成することにより、該パッドを軸方向に挿入又は抜き出し可能に構成するとよい。
パッドの軸方向両側には、パッドの軸方向位置を固定する部材が設けられているが、前記構成により、この固定部材を取り外すだけで、パッドの挿入又は抜き出しが可能になる。従って、ジャーナルを取り外すことなく、パッドの挿入又は抜き出しが可能になるので、パッドの交換又は修理が容易になる。
【0023】
次に、本発明の回転構造体の組立方法は、
パッドの中央域を軸受ハウジング内面に設けた球面ピボットにジャーナルの軸方向及び周方向に揺動可能に支持させ、ジャーナルの自重が負荷されない上側パッドを支持する軸受ハウジングにおいて、該球面ピボットの背面から軸受ハウジングの外面に貫通した測定孔を設けた本発明の回転構造体において、
球面ピボットの背面から測定孔の開口までの深さを計測し、該計測値に基づいて該球面ピボットの背面に球面ピボットの高さ位置調整用シム板を挿入することにより、ジャーナルとパッド間の隙間を調整するようにしたものである。
【0024】
本発明方法によれば、ジャーナルの自重が負荷されない上側パッドとジャーナル間の隙間調整が容易になり、これによって、該隙間に所望の油膜圧を形成することができる。
【0025】
本発明方法において、パッドのジャーナル回転方向上流側又は下流側端部を持ち上げ可能とするリフト手段を用意し、該リフト手段でパッドとジャーナル間の隙間がジャーナル回転方向下流側に向って狭まるように調整することにより、該隙間に形成される潤滑油の油膜圧がジャーナル回転方向下流側に向って高圧分布とするとよい。
【0026】
これによって、上側パッドとジャーナル間の隙間にいわゆるくさび膜効果による高い油膜圧を形成できる。そのため、上側パッドの軸受面の潤滑性能を向上させ、焼付き等を防止できる。
【0027】
前記リフト手段を、軸受ハウジングに半径方向に穿設された貫通孔及びパッドに穿設され該貫通孔と連なる位置に開口しかつ同一方向に穿設されたネジ孔と、該貫通孔に挿入され同時に該ネジ孔に螺合するボルトとで構成され、該ボルトの該ネジ孔への螺入長さを調整することにより軸受ハウジングとパッド間の隙間を調節可能にするとよい。
これによって、リフト手段を簡素かつ低コストにすることができる。また、リフト手段をパッドと軸受ハウジングとを同時に搬送する搬送手段として兼用できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の回転構造体によれば、環状の軸受ハウジングと、該軸受ハウジング内に揺動可能に配設されジャーナルを自動調心可能に支持する複数個のパッドと、該パッドのジャーナル回転方向上流側に設けられパッドの軸受面に潤滑油を供給する第1給油ノズルと、パッドのジャーナル回転方向下流側に設けられ該軸受面を通った潤滑油のキャリオーバを阻止する第2給油ノズルとを備えた直接潤滑方式のジャーナル軸受を備えた回転構造体において、第1給油ノズルのハウジング面で該ハウジング面に対向するパッドのジャーナル回転方向上流側前面を少なくとも線接触支持させると共に、第2給油ノズルのハウジング面で該ハウジング面に対向するパッドのジャーナル回転方向下流側後面を少なくとも線接触支持させることにより、パッドのジャーナル回転方向位置を固定支持させるように構成したので、機械損失が少なく、かつ上流側潤滑油のキャリオーバを抑制できると共に、給油ノズルをパッドの固定支持手段として用いることで、パッドの固定支持手段を簡素化できる。
【0029】
また、本発明の回転構造体の組立方法は、パッドの中央域を軸受ハウジング内面に設けた球面ピボットにジャーナルの軸方向及び周方向に揺動可能に支持させ、ジャーナルの自重が負荷されない上側パッドを支持する軸受ハウジングにおいて、該球面ピボットの背面から軸受ハウジングの外面に貫通した測定孔を設けた本発明の回転構造体において、球面ピボットの背面から測定孔の開口までの深さを計測し、該計測値に基づいて該球面ピボットの背面に球面ピボットの高さ位置調整用シム板を挿入することにより、ジャーナルとパッド間の隙間を調整するようにしたので、ジャーナルの自重が負荷されない上側パッドとジャーナル間の隙間を所望の寸法に設定でき、そのため、該隙間に高い油膜圧を形成できるので、上側パッドの振動等を防止できると共に、上側パッド軸受面に高い油膜圧を形成できるので、上側パッド軸受面の潤滑性能を向上できて、焼損等を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0031】
図1〜図3は、本実施形態のジャーナル軸受を示し、図1は図2中のC−C線に沿う正面視断面図、図2は図3中のB−B線に沿う側面視断面図、図3は図2中のA方向から視た背面図である。
図1において、ジャーナルjは、蒸気タービン、ガスタービン又は発電機等の大型回転機械の回転軸である。ジャーナルjは40cm前後にも及ぶ大径となるため、これを支承するジャーナル軸受10も大型化すると共に、ジャーナルjの周速も高速化する。ジャーナルjは矢印a方向に回転する。
【0032】
ジャーナルjを支承するジャーナル軸受10は、軸受台20と、軸受台20に固定支持される2つ割り型の軸受ハウジング30と、軸受ハウジング30の内面に取り付けられるティルテイングパッド40とで構成されている。軸受台20は断面が半円状の凹部20aを有し、一方2つ割り型の軸受ハウジング30は、夫々半リング状をなす上側軸受ハウジング30aと下側軸受ハウジング30bとに分割され、軸受台20の該凹部20aに下側軸受ハウジング30bが嵌合固定される。上側軸受ハウジング30aは、下側軸受ハウジング30bに図3に示す位置決めピン31で位置決めされて、結合ボルト32によって下側軸受ハウジング30bに結合される。
【0033】
軸受ハウジング30の内側には、周方向に4個のティルテイングパッド40a〜dが配置されている。なお、すべてのティルテイングパッドに共通の記述を行なう場合、a〜dを省いて表示する。これは他の部材についても同様とする。図4に示すように、各ティルテイングパッド40の背面中央付近に凹部42が刻設され、該凹部に調整ライナ44が圧入されている。調整ライナ44に対面する軸受ハウジング内面に凹部34が設けられ、該凹部に球面ピボット36が嵌着されている。
【0034】
球面ピボット36の表面は球面状に形成され、ティルテイングパッド40は、該球面に沿ってジャーナルjの周方向及び軸方向に揺動可能になっている。ティルテイングパッド40間には、夫々等間隔に隙間s1が設けられている。球面ピボット36は、その中心点が鉛直方向又は水平方向から45度の周方向位置に配置されている。
球面ピボット36の球面は、軸受ハウジング30の内周面と同じ高さに形成されている。従って、後述するサイドプレート35を取り外すと、ティルテイングパッド40は、調整ライナ44を付けたままジャーナル軸方向に滑らすことで、ティルテイングパッド40を軸受組立体から取り外すことができる。
【0035】
上側軸受ハウジング30aには、ジャーナルjの半径方向に向けて、凹部34と上側軸受ハウジング30aの外周面とを連通する測定孔38が穿設されている。球面ピボット36が設けられた周方向位置と同一周方向位置に当る軸受ハウジング30の外周面には、アウタライナ33が設けられている。
図4に示すように、アウタライナ33は、図示しない結合ボルトにより軸受ハウジング30の外周面に結合されている。アウタライナ33の外周面は、軸受ハウジング30の外周面よりわずかに外方に突出している。
【0036】
そのため、アウタライナ33が軸受台20に接し、下側軸受ハウジング30bは、アウタライナ33を介して軸受台20に固定支持される。上側軸受ハウジング30aの外周面と軸受台20の内周面との間には隙間s2が存在する。
アウタライナ33には測定孔38に連通する貫通孔33aが穿設されている。測定孔38は、所定の測定作業が終わった後で、プラグ39で閉塞される。
【0037】
図2に示すように、軸受ハウジング30及びティルテイングパッド40のジャーナル軸方向両側には、全周に亘りリング状のサイドプレート35が配設されている。図3に示すように、サイドプレート35は、周方向に複数配置されたボルト37で軸受ハウジング30に結合されている。サイドプレート35とジャーナルj間に隙間s3が設けられ、後述する給油ノズル50から噴出した潤滑油は、ジャーナルjとティルテイングパッド40間の潤滑に供した後、隙間s3から排出される。
【0038】
図1に示すように、潤滑油を噴出する給油ノズル50は、各ティルテイングパッド40を挟むように、ティルテイングパッド40のジャーナル回転方向前後に配設されている。図5は、ティルテイングパッド40のジャーナル回転方向後方に配置された給油ノズル50を一例として示す。図2及び図5により給油ノズル50の構成を説明する。給油ノズル50は、ジャーナル回転方向の上流側又は下流側に配置された違いにより構成上の違いはない。
【0039】
給油ノズル50は、その直方体状をなす主ケーシング52の下半分が軸受ハウジング30に設けられた嵌合用凹部70に嵌合固定され、上半分が軸受ハウジング30からティルテイングパッド40側に向かって立設されている。主ケーシング52からジャーナル軸方向両側に腕54が延設されている。主ケーシング52及び腕54の内部には潤滑油供給孔56が穿設されている。
【0040】
腕54には、軸方向に等間隔に複数のノズル口58が穿設され、ノズル口58は、ジャーナルj側に向けられている。ティルテイングパッド40に対しジャーナル回転方向上流側に設けられた給油ノズル50から噴出された潤滑油は、ジャーナルjの回転力によりティルテイングパッド40の内周面(図4の軸受面48)とジャーナルjの外周面との間に入り、油膜を形成する。
【0041】
ティルテイングパッド40に対しジャーナル回転方向下流側に設けられた給油ノズル50から噴出した潤滑油は、ティルテイングパッド40とジャーナルj間を通ってきた潤滑油を冷却すると共に、該潤滑油の流れをノズル口58から噴出した潤滑油で乱し、ジャーナル表面から剥離させることによって、回転方向後側のティルテイングパッド40の軸受面48に連れ回りするのを防止している。潤滑油は、サイドプレート35とジャーナルj間の隙間s3から排出される。
【0042】
図5に示すように、主ケーシング52は直方体をなし、主ケーシング52とティルテイングパッド40の互いに対面する面52aと傾斜面46とは、根元部46aで線接触しており、傾斜面46は、面52aに対して離れる方向に微小角度αをなすように傾斜している。このように、給油ノズル50は、ティルテイングパッド40のジャーナル回転方向両側から、その主ケーシング52の面52aでティルテイングパッド40の傾斜面46の根元部46aと線接触支持することにより、ティルテイングパッド40のジャーナル回転方向の動きを固定支持している。
【0043】
図1に示すように、軸受台20には潤滑油の給油孔60が設けられている。給油孔60に対面する下側軸受ハウジング30bの外周面にはアウタライナ62が設けられている。以下、この部分の構成を図6により説明する。図6において、アウタライナ62には、給油孔60に連通する位置に、ジャーナル半径方向に給油孔62aが穿設されている。
また、下側軸受ハウジング30bには、給油孔62aに連通する位置に半径方向に給油孔64が穿設されている。さらに、給油孔64に連通して、ジャーナル回転方向に環状の導油溝66が設けられている。
【0044】
導油溝66は、軸受ハウジング30内で周方向全周に設けられている。図2に示すように、導油溝66は、軸受ハウジング30内にジャーナル軸方向に穿設された給油孔68を介して、給油ノズル50の主ケーシング52内に穿設された給油孔56に連通している。給油孔56の一端開口はプラグ72で閉塞され、プラグ72は該開口にC形止め輪74で固定されている。
【0045】
軸受台20の内面とアウタライナ62の外面との間には、隙間s4が形成される。隙間s4にOリング76を挿入し、Oリング76につぶし代を設けて隙間s4を密閉する。これによって、隙間s4から潤滑油が漏れるのを防ぐと共に、アウタライナ62を介して軸受台20に付加される下側軸受ハウジング30bの荷重が、軸受ハウジング30の荷重を支持するアウタライナ33を介して軸受台20に付加される軸受ハウジング30の荷重より小となるように構成している。
【0046】
図7に示すように、上側軸受ハウジング30aの内周面には、ティルテイングパッド40a又は40bの外周面に対面する2箇所に、円筒形の凹部82が穿設されている。また、該凹部82に対面するティルテイングパッド40a又は40bの外周面に凹部82と同径の円筒形凹部84が穿設されている。そして、該凹部82及び凹部84にコイルバネ80が嵌合されている。これによって、コイルバネ80の弾性力がジャーナルj側に付勢される。コイルバネ80は、ティルテイングパッド40a又は40bのジャーナル回転方向下流側端部に設けられている。従って、ジャーナルjの表面とティルテイングパッド40a又は40bとの間に、図9に示すように、ジャーナル回転方向に向かって先狭まりの隙間を形成するのが容易になる。
【0047】
また、図1に示すように、各ティルテイングパッド40のジャーナル回転方向上流側端及び下流側端には、半径方向にネジ穴90が穿設されている。そして、軸受ハウジング30の該ネジ穴90の開口に一致する位置に、半径方向にボルト通し孔92が穿設されている。ネジ穴90とボルト通し孔92の軸線は一致するように設けられている。該ボルト通し孔92に搬送用の六角穴付きボルト94を通し、六角穴付きボルト94の先端部をネジ穴90に螺合させる。
【0048】
六角穴付きボルト94のネジ穴90への螺合部の長さを調整することにより、軸受ハウジング30とティルテイングパッド40との隙間を調整できる。これによって、ジャーナル表面とティルテイングパッド40間の隙間寸法を調整することができる。
なお、六角穴付きボルト94の頭部には、搬送具を挿入するための六角孔が設けられているので、軸受ハウジング30とティルテイングパッド40の搬送手段としても利用できる。このように、簡素かつ低コストな手段で、ティルテイングパッド40の回転方向前後端のジャーナルjとの隙間を調整可能になる。
【0049】
かかる構成の本実施形態において、軸受台20に設けられた給油孔60から導油溝66及び給油孔68,56を経て、給油ノズル50に潤滑油が供給される。そして、潤滑油は給油ノズル50の腕54のノズル口58から、ティルテイングパッド40の内周面(軸受面48)に供給される。
【0050】
ティルテイングパッド40に対してジャーナル回転方向上流側に配設された給油ノズル50から噴出された潤滑油は、軸受面48に供給され、軸受面48の潤滑に供される。ジャーナル回転方向下流側に配設された給油ノズル50から噴出した潤滑油は、軸受面48を通ってきた潤滑油を冷却すると共に、ジャーナルjの表面に形成された潤滑油の層流を乱すことで、高温となった潤滑油が下流側の軸受面48に連れ回りするのを抑制できる。これによって、軸受面48の潤滑油の高温化を抑制し、軸受面48の焼損を抑制できる。
【0051】
このとき、公知の測定機器を用い、球面ピボット36の背面から測定孔38の開口までの距離を測定することによって、ティルテイングパッドの軸受面48とジャーナルjの表面間の隙間を測定できる。そして、この測定値に基づいて、図4に示すように、球面ピボット36の背面に高さ調整用シム板86を挿入することによって、軸受面41とジャーナル間の隙間を所望の寸法に調整できる。
この隙間調整手段と、六角穴付きボルト94による隙間調整を併用することによって、軸受面41とジャーナルj間の隙間を、図9に示すように、高精度でジャーナル回転方向に向かって先狭まりの隙間とすることができるので、くさび膜効果を利用して軸受面48に高い油膜圧を形成できる。従って、軸受面48の潤滑性能を高く維持できる。
【0052】
下側軸受ハウジング30bに設けられたティルテイングパッド40c及び40dには、ジャーナルjの自重が負荷されるので、図8に示す先狭まりの隙間を形成するのは比較的容易である。一方、上側軸受ハウジング30aに設けられたティルテイングパッド40a及び40bには、ジャーナルjの自重が負荷されないので、下側軸受ハウジング30bと比べてジャーナルjとの軸受面48に高い油膜圧を形成するのは容易ではない。
【0053】
本実施形態では、上側軸受ハウジング30aに設けられたティルテイングパッド40a又は40bのジャーナル回転方向下流側にコイルバネ80を設け、コイルバネ80の弾性力をジャーナルjに付加しているので、上側軸受ハウジング30aでも、先狭まりの隙間を形成するのが容易になる。そのため、くさび膜効果を利用して軸受面48に高い油膜圧を容易に形成できる。
また、上側軸受ハウジング30aには、ジャーナルjの自重が負荷されないので、従来振動が発生しがちであり、振動によりティルテイングパッド40に疲労破壊は起こる虞があったが、本実施形態ではこの不具合も解消できる。
【0054】
また、給油ノズル50を各ティルテイングパッド40の回転方向上流側及び下流側に設け、主ケーシング52の根元部46aでティルテイングパッド40の傾斜面46の根元部を線接触支持しているので、ティルテイングパッド40のジャーナル回転方向の固定手段が不要になり、ジャーナル軸受の構成を簡素化できる。
さらに、主ケーシング52の根元部46aでティルテイングパッド40を支持しているので、ティルテイングパッド40の前側及び後側空間を広くすることができ、これによって、潤滑油のさらなる安定供給が可能となる。
【0055】
従来は、球面ピボット36をティルテイングパッド40側に突出させて、ティルテイングパッド40を固定していたが、本実施形態ではこのような構成が不要になる。従って、球面ピボット36の表面を軸受ハウジング30の内周面と同じ高さとしたことにより、サイドプレート35を取り外すだけで、ティルテイングパッド40をジャーナル軸方向に引抜くことが可能になった。従って、ジャーナルjを設置したままで、ティルテイングパッド40の取り外しが可能になり、ティルテイングパッド40の修理、改造時等にティルテイングパッド40の取り付け、取り外しが容易になった。
【0056】
また、本実施形態によれば、軸受ハウジング30の荷重支持部であるアウタライナ33とは別にアウタライナ62を設け、アウタライナ62に給油孔62aを設けたことにより、アウタライナ33の強度低下を防止し、従って、軸受ハウジング30の厚肉化を防止できる。また、アウタライナ62で軸受台20に負荷される軸受ハウジング30の荷重をアウタライナ33で軸受台20に負荷される軸受ハウジング30の荷重より小さくしてあるので、軸受ハウジング30の支持点を余分に増やすことがない。従って、軸受ハウジング30の荷重支持部の寸法精度を高精度にする必要がなく、ジャーナル軸受の組立の容易さを保持することができる。
【0057】
また、ジャーナルjの荷重が負荷される下側軸受ハウジング30bにアウタライナ62を設けているので、負荷荷重の調整が容易になると共に、アウタライナ33と軸受台20の接続部に、変形が可能で弾力性のあるOリング76を装着しているので、負荷荷重の調整がさらに容易になる。
また、軸受台20に設けられた給油孔60から環状の導油溝66及び給油孔68,及び給油ノズル50内に穿設された給油孔56を経て、給油ノズル50に潤滑油を供給しているので、軸受ハウジング30の強度を低下させずに、簡潔な構成で給油ノズル50に潤滑油を供給できる。
【0058】
なお、アウタライナ33と軸受台20との接続部にOリングを用いたが、Oリングに限らず、他の弾性体、例えば蛇腹構造体等を用いてもよい。このように、弾性体を用いることにより、アウタライナ33を介して軸受台20に負荷される軸受ハウジング30の荷重を調整するのが容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、直接潤滑方式のジャーナル軸受を採用した回転構造体において、ジャーナル軸受の潤滑油のキャリオーバをなくすと共に、構成の簡素化と低コスト化を達成し、かつ軸受のジャーナル軸受への組立又は解体を容易にでき、蒸気タービン、ガスタービン、発電機等の大型回転構造体に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の回転構造体の一実施形態に係り、正面視断面図(図2中のC−C断面図)である。
【図2】前記実施形態の側面視断面図(図3中のB−B断面図)である。
【図3】前記実施形態の背面図(図2中のA視図)である。
【図4】図1の球面ピボット36付近の一部拡大図である。
【図5】前記実施形態の給油ノズル50の斜視図である。
【図6】図1の給油孔60付近の一部拡大図である。
【図7】図1中のD−D線に沿う断面図である。
【図8】油浴潤滑方式のジャーナル軸受の機械損失を示す線図である。
【図9】くさび膜効果によるジャーナル軸受の油膜圧形成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10 ジャーナル軸受
20 軸受台
30 軸受ハウジング
30a 上側軸受ハウジング
30b 下側軸受ハウジング
33,62 アウタライナ
35 サイドプレート
36 球面ピボット
38 測定孔
40a〜d ティルテイングパッド
44 調整ライナ
46 傾斜面
46a 根元部
48 軸受面
50 給油ノズル
52 主ケーシング
54 腕
56、60、62a、68 給油孔
58 ノズル口
66 導油溝
76 Oリング
80 コイルバネ
86 高さ調整用シム板
90 ネジ穴
92 ボルト通し孔
94 六角穴付きボルト
s1〜s4 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の軸受ハウジングと、該軸受ハウジング内に揺動可能に配設されジャーナルを自動調心可能に支持する複数個のパッドと、該パッドのジャーナル回転方向上流側に設けられパッドの軸受面に潤滑油を供給する第1給油ノズルと、パッドのジャーナル回転方向下流側に設けられ該軸受面を通った潤滑油のキャリオーバを阻止する第2給油ノズルとを備えた直接潤滑方式のジャーナル軸受を備えた回転構造体において、
第1給油ノズルのハウジング面で該ハウジング面に対向するパッドのジャーナル回転方向上流側前面を少なくとも線接触支持させると共に、第2給油ノズルのハウジング面で該ハウジング面に対向するパッドのジャーナル回転方向下流側後面を少なくとも線接触支持させることにより、パッドのジャーナル回転方向位置を固定支持させるように構成したことを特徴とする回転構造体。
【請求項2】
第1給油ノズル又は第2給油ノズルのハウジング面又は該ハウジング面と対向するパッドのジャーナル回転方向前面又は後面を傾斜面とし、該ハウジング面の根元部でパッドのジャーナル回転方向前面又は後面を線接触支持するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の回転構造体。
【請求項3】
前記パッドの中央域を前記軸受ハウジング内面に設けた球面ピボットにジャーナルの軸方向及び周方向に揺動可能に支持させ、
ジャーナルの自重が負荷されない上部位置に配置された上部パッドを支持する軸受ハウジングにおいて、該球面ピボットの背面から軸受ハウジングの外面に貫通した測定孔を設け、該測定孔の開口から球面ピボット背面までの深さ計測値に基づいてジャーナルとパッド間の隙間を調整するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の回転構造体。
【請求項4】
前記パッドの中央域を前記軸受ハウジング内面に設けた球面ピボットにジャーナルの軸方向及び周方向に揺動可能に支持させると共に、
該球面ピボットの球面を軸受ハウジングの内面と同一高さに形成することにより、該パッドをジャーナル軸方向に挿入又は抜き出し可能に構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転構造体。
【請求項5】
請求項3に記載の回転構造体の組立方法において、
前記球面ピボットの背面から前記測定孔の開口までの深さを計測し、該計測値に基づいて該球面ピボットの背面に球面ピボットの高さ位置調整用シム板を挿入することにより、ジャーナルとパッド間の隙間を調整するようにしたことを特徴とする回転構造体の組立方法。
【請求項6】
前記パッドのジャーナル回転方向上流側又は下流側端部を持ち上げ可能とするリフト手段を用意し、該リフト手段でパッドとジャーナル間の隙間がジャーナル回転方向下流側に向って狭まるように調整することにより、該隙間に形成される潤滑油の油膜圧がジャーナル回転方向下流側に向って高圧分布となるようにしたことを特徴とする請求項5に記載の回転構造体の組立方法。
【請求項7】
前記リフト手段が、軸受ハウジングに半径方向に穿設された貫通孔及びパッドに穿設され該貫通孔と連なる位置に開口しかつ同一方向に穿設されたネジ孔と、該貫通孔に挿入され同時に該ネジ孔に螺合するボルトとで構成され、該ボルトの該ネジ孔への螺入長さを調整することにより軸受ハウジングとパッド間の隙間を調節可能に構成したことを特徴とする請求項6に記載の回転構造体の組立方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−116958(P2010−116958A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289587(P2008−289587)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】