説明

回転機械用物理量測定装置

【課題】センサの出力信号Sに含まれるパルスの時間間隔を、計測用カウンタ9のカウント値に基づいて計測し、この計測した時間間隔を利用して回転部材に作用する荷重等の物理量を求める構造に関して、この物理量を測定すべき回転速度範囲が広い場合でも、煩雑な処理を行う事なく、低速回転時に前記計測用カウンタ9のカウント値がオーバーフローする事を防止でき、高速回転時に前記時間間隔の分解能を十分に確保できる構造を実現する。
【解決手段】他の装置を利用して検出した前記回転部材の回転速度を入力するか、或いは、この回転速度を把握する為の調節用カウンタ10を設ける。更に、この回転速度が増減する事に対応して、前記計測用カウンタ9がカウントする計測用基準クロック信号βの周波数を、この回転速度の増減方向と同方向に増減させる機能を追加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成するハブ、旋盤、フライス盤、マシニングセンタ等の工作機械を構成する主軸、トランスミッションを構成する歯車軸と言った、各種回転機械を構成する回転部材に生じる変位や傾き、更には、この回転部材に作用する荷重、モーメントと言った物理量を測定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行安定性確保の為の制御を、より高度に行わせる為に、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットに物理量測定装置を組み込み、各車輪に加わるアキシアル荷重やラジアル荷重を測定する事が考えられている(例えば、特許文献1、2参照)。図4〜6は、このうちの特許文献1等に記載されて従来から知られている、回転機械用物理量測定装置の従来構造の第1例を示している。この従来構造の第1例は、懸架装置に支持された状態で使用時にも回転しない、静止部材である外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転する、回転部材であるハブ2を、複数個の転動体3、3を介して、回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、互いに逆向きの(図示の場合には背面組み合わせ型の)接触角と共に、予圧を付与している。
【0003】
又、前記ハブ2の軸方向内端部(軸方向に関して「内」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側を言い、図4、7の右側。反対に、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側となる図4、7の左側を、軸方向に関して「外」と言う。本明細書全体で同じ。)には、円筒状のエンコーダ4を、前記ハブ2と同心に支持固定している。又、前記外輪1の内端開口を塞ぐ有底円筒状のカバー5の内側に、センサ6を支持すると共に、このセンサ6の検出部を、前記エンコーダ4の被検出面である外周面に近接対向させている。
【0004】
このうちのエンコーダ4は、鋼板等の磁性金属板により全体を円筒状に造られたもので、軸方向中間部に、複数の直線状の透孔7a、7bを形成している。これら各透孔7a、7bは、前記エンコーダ4の軸方向に対する傾斜方向が互いに異なる1対の透孔7a、7bを、このエンコーダ4の回転方向に隣り合わせて対としたものを、円周方向に関して等間隔に複数組設けている。従って、被検出面である、前記エンコーダ4の外周面には、互いに異なる磁気特性を有する、前記各透孔7a、7bに対応する部分(第一特性部)と、これら各透孔7a、7b同士の間に挟まれた部分(第二特性部)とが、円周方向に関して交互に配置された状態になっている。又、前記センサ6は、磁界発生用の永久磁石と、検出部を構成するホール素子、ホールIC等の磁気検知素子とを含んで構成されている。尚、この様なセンサ6としては、例えば特許文献3の図14に記載されたものを、好ましく使用できる。何れにしても、このセンサ6は、前記カバー5の内側に支持固定した状態で、その検出部を、前記エンコーダ4の被検出面に近接対向させている。
【0005】
上述の様に構成する従来構造の第1例の場合、車輪の回転時に、前記外輪1と前記ハブ2との間にアキシアル荷重が作用する事により、これら外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位し、これに伴って、前記センサ6の検出部による、前記エンコーダ4の被検出面の走査位置が軸方向(図6の上下方向)に変化すると、前記センサ6の出力信号Sのパルス周期比(=部分周期t1/全周期T1)が変化する。この場合に、このパルス周期比は、前記アキシアル荷重(アキシアル方向の相対変位)に見合った値をとる。この為、このパルス周期比に基づいて、このアキシアル荷重(アキシアル方向の相対変位)を算出する事ができる。尚、この算出処理は、図示しない演算器により行う。この為、この演算器には、予め理論計算や実験により調べておいた、前記パルス周期比と前記アキシアル荷重(アキシアル方向の相対変位)との関係を、計算式やマップ等の形式で組み込んでおく。
【0006】
次に、図7〜9は、前記特許文献1、2等に記載されて従来から知られている、転がり軸受ユニット用物理量測定装置に関する従来構造の第2例を示している。この従来構造の第2例の場合には、ハブ2の軸方向内端部に支持固定した円筒状のエンコーダ4aの被検出面の構成と、カバー5の内側に支持固定するセンサとして、1対のセンサ6a、6bを使用する点とが、上述した従来構造の第1例の場合と異なる。
【0007】
即ち、この従来構造の第2例の場合には、前記エンコーダ4aの軸方向中間部に、複数の透孔7c、7cを、円周方向に関して等間隔に形成している。これら各透孔7c、7cの形状は、前記エンコーダ4aの軸方向に関して、その中間部を境とする両側部分が、この幅方向に対して互いに逆方向に傾斜した「く」字形である。従って、被検出面である、前記エンコーダ4aの外周面には、互いに異なる磁気特性を有する、前記各透孔7c、7cに対応する部分(第一特性部)と、これら各透孔7c、7c同士の間に挟まれた部分(第二特性部)とが、円周方向に関して交互に配置された状態になっている。そして、この被検出面のうち、前記「く」字形の折れ曲がり部を挟んだ幅方向(軸方向)両側部分に、前記両センサ6a、6bの検出部を、それぞれ近接対向させている。
【0008】
上述の様に構成する従来構造の第2例の場合、車輪の回転時に、前記外輪1と前記ハブ2との間にアキシアル荷重が作用する事により、これら外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位し、これに伴って、前記両センサ6a、6bの検出部による、前記エンコーダ4aの被検出面の走査位置が軸方向(図9の上下方向)に変化すると、これら両センサ6a、6bの出力信号Sa、Sbの位相差比(=位相差δ/周期T2)が変化する。この場合に、この位相差比は、前記アキシアル荷重(アキシアル方向の相対変位)に見合った値をとる。この為、上述した従来構造の第1例の場合と同様、図示しない演算器により、前記位相差比に基づいて、前記アキシアル荷重(アキシアル方向の相対変位)を算出する事ができる。
【0009】
上述した従来構造の第1〜2例は、パルス周期比や位相差比を求める為に、前記各センサ6、6a、6bの出力信号S、Sa、Sbに含まれるパルスの時間間隔を計測する点で、互いに共通している。即ち、前述した従来構造の第1例の場合には、前記1つのセンサ6の出力信号Sに含まれるパルスの時間間隔t1、t2を順次計測する事により、前記パルス周期比(=部分周期t1/全周期T1、T1=t1+t2)を求める。これに対し、上述した従来構造の第2例の場合には、前記両センサ6a、6bの出力信号Sa、Sbに含まれるパルスの時間間隔δと、何れか一方の出力信号Sa又はSbに含まれるパルスの時間間隔T2とを、順次測定する事により、前記位相差比(=位相差δ/周期T2)を求める。
【0010】
上述の様に、少なくとも1個のセンサの出力信号に含まれる所定のパルスである被計測パルスの時間間隔を計測する場合、一般的には、次の方法が用いられる。即ち、この被計測パルスを含む出力信号を、演算器に入力すると共に、この演算器を構成する計測用カウンタにより、一定の周波数を有する計測用基準クロックのパルスをカウントする。そして、前記演算器に前記被計測パルスが1つずつ入力される毎に、前記計測用カウンタのカウント値を読み取り、これと同時に、このカウント値をクリアする(ゼロの状態に戻す)。つまり、前記計測用カウンタに、前記被計測パルスの時間間隔のみをカウントさせる。ここで、前記計測用基準クロック信号のパルスは、前記計測用カウンタにより、一定の時間間隔(この計測用基準クロック信号の周期)でカウントされている。この為、上述の様に読み取ったカウント値に、この一定の時間間隔(周期)を掛け合わせれば、このカウント値を、前記被計測パルスの時間間隔に換算する事ができる。
【0011】
この様な計測方法を、前述の図4〜6に示した第1例の構造に適用する場合、前記演算器は、例えば図10に示す様な回路により、それぞれが被計測パルスである、前記センサ6の出力信号Sに含まれる総てのパルスの時間間隔を計測する。この図10に示した回路では、図示しない発振器により生成された、高い周波数を有する原基準クロック信号αを、分周器8によって一定の分周比Nで分周する(この原基準クロック信号αの周波数を1/Nとする)事により、より低い周波数を有する、計測用基準クロック信号βを生成する。そして、この計測用基準クロック信号βのパルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)を、計測用カウンタ9によりカウントする。そして、それぞれが被計測パルスである、前記出力信号Sに含まれる総てのパルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)が1つずつ入力される毎に、前記計測用カウンタ9のカウント値を読み取って、演算処理部10に付属のレジスタ等に記憶する。これと同時に、この計測用カウンタ9のカウント値をクリアする。前記演算処理部10は、前記レジスタ等に記憶したカウント値に、前記計測用基準クロック信号βの周期を掛け合わせる事により、このカウント値を、前記パルスの時間間隔t1、t2(図6参照)に換算する。そして、この時間間隔t1、t2を利用して、前記パルス周期比(=部分周期t1/全周期T1、T1=t1+t2)を求める。尚、図10に示す回路の場合、前記計測用基準クロック信号βの周期は常に一定であり、且つ、前記パルス周期比は、前記時間間隔t1、t2を用いた比の計算で求まる。この為、上述の様な換算(カウント値×周期の計算)を行わずに、前記時間間隔t1、t2に相当するカウント値そのものを利用して、前記パルス周期比を求める為の計算を行う様にしても良い。
【0012】
上述の様な被計測パルスの時間間隔の計測方法を実施する場合、前記演算器として、一般的には、マイコン等が用いられる。この演算器を構成する計測用カウンタ(9)は、有限のカウンタ長(ビット幅)を有している為、このカウンタ長の上限までカウントすると、オーバーフローが生じる。従って、前記計測用基準クロック信号(β)の周波数は、前記被計測パルス(出力信号Sに含まれる総てのパルス)の時間間隔に対して、オーバーフローが生じない様な値に設定する必要がある。具体的には、前記物理量を測定すべき回転速度範囲のうち、前記被計測パルスの時間間隔が最長となる、最低の回転速度で運転される場合でも、前記計測用カウンタのカウント値がオーバーフローしない様な周波数を、前記計測用基準クロック信号の周波数として設定する必要がある。一方、前記被計測パルスの時間間隔の分解能は、前記計測用カウンタの1カウント値に相当する時間、即ち、前記計測用基準クロック信号の周期そのものである。この為、前記被計測パルスの時間間隔の分解能を確保する観点からは、前記計測用基準クロック信号の周波数を可能な限り高く(周期を可能な限り短く)する事が望ましい。
【0013】
しかしながら、前述した従来構造の第1〜2例の場合には、前記物理量を測定すべき回転速度範囲が、自動車の速度に換算して、例えば5km/h以上且つ最高速度以下と言った様に、かなり広い。この為、次の様な不都合を生じる。即ち、前記被計測パルスの時間間隔が長くなる低速回転時に、前記計測用カウンタのカウント値がオーバーフローするのを防止できる様にすべく、前記計測用基準クロック信号の周波数を十分に低くすると、前記計測用パルスの時間間隔が短くなる高速回転時に、前記被計測パルスの時間間隔の分解能を十分に確保できなくなる。これに対し、高速回転時に、前記被計測パルスの時間間隔の分解能を十分に確保できる様にすべく、前記計測用基準クロック信号の周波数を十分に高くすると、低速回転時に、前記計測用カウンタのカウント値がオーバーフローしてしまう。
【0014】
この様な不都合は、前述した従来構造の第1〜2例の構造に限らず、これら各構造と同様の原理で物理量を測定する方法(エンコーダの被検出面に対向させた少なくとも1個のセンサの出力信号に含まれる所定のパルスの時間間隔を利用して物理量を測定する方法)を採用する、他の構造に就いても同様に生じ得る。この様な他の構造の例として、特許文献3には、当該測定方法を工作機械の主軸装置に採用した例が、特願2011−92389には、当該測定方法を自動車のトランスミッションに採用した例が、それぞれ開示されている。即ち、図示は省略するが、車輪支持用転がり軸受ユニットの場合と同様、工作機械の主軸装置や、自動車のトランスミッションの場合も、ハウジングやケーシング等の静止部材と、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、この静止部材に対して回転自在に支持された、主軸や歯車軸等の回転部材とを備えている。この為、このうちの回転部材にエンコーダを取り付ける(若しくは一体に形成する)と共に、前記静止部材に少なくとも1個のセンサを支持する事により、当該測定方法を利用して物理量(主軸装置では主軸の変位や主軸に作用する荷重、トランスミッションでは歯車軸の変位や歯車軸に作用する荷重若しくはトルク)を測定できる。そして、この様に測定した物理量を、適切な運転制御等を行う為に利用できる。これら主軸装置やトランスミッションの場合も、上述の様な物理量の測定を、広い回転速度範囲で行う事が要求される。この為、これらに就いても、上述した様な不都合を生じる。
【0015】
尚、上述した様な不都合を解消する方法として従来から、計測用カウンタのカウント値がオーバーフローした事を検知して、このカウント値を補正する方法が知られている。しかしながら、この方法を採用する場合には、割り込み処理等を用いて処理のタイミングを厳密に管理する処理プログラムを実行する必要があり、処理が煩雑になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2006−317420号公報
【特許文献2】特開2008−64731号公報
【特許文献3】特開2011−75346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、物理量を測定すべき回転速度範囲が広い場合でも、煩雑な処理を行う事なく、低速回転時に計測用カウンタのカウント値がオーバーフローする事を防止できると共に、高速回転時に被計測パルスの時間間隔の分解能を十分に確保できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の回転機械用物理量測定装置は、前述した各従来構造の場合と同様、静止部材と、複数の転がり軸受と、回転部材と、エンコーダと、少なくとも1個のセンサと、この少なくとも1個のセンサの出力信号を利用して、前記静止部材に対する前記回転部材の変位と、これら静止部材と回転部材との間に作用する荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を求める演算器とを備える。そして、この演算器は、計測用基準クロック信号のパルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)をカウントする計測用カウンタを、少なくとも1個有している。そして、この少なくとも1個の計測用カウンタのそれぞれに就いて個別に定められた、前記少なくとも1個のセンサの出力信号に含まれる所定のパルスである被計測パルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)が1つずつ入力される毎に、前記少なくとも1個の計測用カウンタのそれぞれに就いて、そのカウント値を読み取ると同時に、その計測用カウンタのカウント値をクリアする。そして、当該読み取った各カウント値に基づいて、前記物理量を算出する。
特に、本発明の回転機械用物理量測定装置に於いては、前記演算器は、前記回転部材(及びエンコーダ)の回転速度が(少なくとも前記物理量を測定すべき範囲で)増減する事に対応して、前記計測用基準クロック信号の周波数を、前記回転速度の増減方向と同方向に増減させる機能を有している。
【0019】
本発明を実施する場合には、例えば、請求項2に記載した発明の様に、前記演算器に、一定の周波数を有する調節用基準クロック信号のパルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)をカウントする、調節用カウンタを設ける。そして、前記演算器に、前記少なくとも1個のセンサの出力信号のうちの何れか1つの出力信号に含まれる総てのパルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)が1つずつ入力される毎に、前記調節用カウンタのカウント値を読み取ると同時に、この調節用カウンタのカウント値をクリアする機能を持たせる。そして、前記回転部材の回転速度が増減する事に伴って変化する値である、当該読み取った調節用カウンタのカウント値を利用して、前記計測用基準クロック信号の周波数を、前記回転部材の回転速度の増減方向と同方向に増減させる。
【0020】
尚、本発明を実施する場合には、前記回転部材の回転速度に対応して前記計測用基準クロック信号の周波数を増減させる為の構成として、上述の請求項2に記載した発明の構成以外の構成を採用する事もできる。例えば、本発明を適用する回転機械(前記静止部材と前記複数個の転がり軸受と前記回転部材とを備えた機械)、若しくは、この回転機械を組み付けて使用する機械装置が、別途、前記回転部材の回転速度、若しくは、この回転速度と連動して変化する被測定量を測定するセンサ(例えば、自動車のABSセンサや車速センサ、工作機械の主軸の回転速度センサ)を有している場合には、当該センサの出力信号を利用して、前記計測用基準クロック信号の周波数を増減させる事もできる。
【0021】
又、本発明を実施する場合には、例えば、前記エンコーダの被検出面に、互いに異なる特性を有する第一特性部と第二特性部とを、円周方向に関して交互に配置する。そして、このうちの各第一特性部を、前記被検出面の幅方向に対する傾斜方向が互いに異なる1対の第一特性部を、この被検出面の円周方向に隣り合わせて対としたものとする。又、前記センサの数を1個とすると共に、前記計測用カウンタの数を1個とする。又、前記演算器に、この被計測用カウンタに就いての被計測用パルスである、前記センサの出力信号に含まれる総てのパルスが1つずつが入力される毎に、前記計測用カウンタのカウント値を読み取ると同時に、この計測用カウンタのカウント値をクリアし、且つ、当該読み取った各カウント値に基づいて(前述した従来構造の第1例で説明したパルス周期比を求め、このパルス周期比に基づいて)、前記物理量を算出する処理を行わせる。
【0022】
或いは、前記エンコーダの被検出面に、互いに異なる特性を有する第一特性部と第二特性部とを、円周方向に関して交互に配置する。そして、このうちの各第一特性部の形状を、前記被検出面の幅方向に関して、その中間部を境とする両側部分が、この幅方向に対して互いに逆方向に傾斜した「く」字形とする。又、前記センサの数を少なくとも2個とし、これら2個のセンサのうちの一方のセンサの検出部を、前記各第一特性部の形状である「く」字形の折れ曲がり部を境とする、前記被検出面の幅方向片側部分に対向させると共に、他方のセンサの検出部を、この被検出面の幅方向他側部分に対向させる。又、前記計測用カウンタの数を少なくとも2個とする。又、前記演算器に、これら2個の計測用カウンタのうちの一方の計測用カウンタに就いての被検出パルスである、前記一方のセンサ又は前記他方のセンサの出力信号に含まれる総てのパルスが1つずつ入力される毎に、前記一方の計測用カウンタのカウント値を読み取ると同時に、この一方の計測用カウンタのカウント値をクリアし、且つ、他方の計測用カウンタに就いての被計測パルスである、前記両センサの出力信号に含まれる総てのパルスが1つずつ入力される毎に、前記他方の計測用カウンタのカウント値を読み取ると同時に、この他方の計測用カウンタのカウント値をクリアし、且つ、当該読み取った各カウント値に基づいて(前述した従来構造の第2例で説明した位相差比を求め、この位相差比に基づいて)、前記物理量を算出する処理を行わせる。
【発明の効果】
【0023】
上述の様に本発明の回転機械用物理量測定装置の場合には、回転部材の回転速度が増減する事に対応して、計測用基準クロック信号の周波数が、この回転部材の回転速度の増減方向と同方向に増減する。この為、物理量を測定すべき回転速度範囲が広い場合でも、低速回転時に計測用カウンタのカウント値がオーバーフローする事を防止できると共に、高速回転時に被計測パルスの時間間隔の分解能を十分に確保できる。従って、信頼性の高い物理量測定を行える。
【0024】
又、上述の様に本発明の場合には、計測用カウンタのカウント値がオーバーフローすると言った問題に対し、事前的な対策(予防策)を講じる構成を採用している為、煩雑な処理を行う事なく、信頼性の高い物理量測定を行える。即ち、前述した従来から知られている方法の様に、計測用カウンタのカウント値がオーバーフローした事を検知して、このカウント値を補正すると言った、事後的な対策を講じる構成を採用する場合には、割り込み処理等を用いて処理のタイミングを厳密に管理する処理プログラムを実行する必要があり、処理が煩雑になってしまう。これに対して、本発明の場合には、上述の様な問題に対し、予防策を講じる構成を採用している為、上述の様な煩雑な処理を行う事なく、信頼性の高い物理量測定を行える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、演算器によるセンサの出力信号の処理方法を示すブロック図。
【図2】分周器の分周比を変化させるタイミングを説明する為の、センサの出力信号を表す線図。
【図3】この実施の形態の1例の効果を説明する為に使用する、回転部材の回転速度と、原基準クロック信号から計測用基準クロック信号を生成する際の分周比、及び、センサの出力信号に含まれるパルスの時間間隔の分解能(相対分解能)との関係を示す従来構造(A)と発明の実施の形態の1例(B)とにそれぞれ対応する線図。
【図4】従来構造の第1例を示す断面図。
【図5】エンコーダの被検出面の一部分の展開図。
【図6】回転部材に作用する荷重に基づいて、1個のセンサのパルス周期比が変化する原理を説明する為の模式図。
【図7】従来構造の第2例に関する、図4と同様の図。
【図8】同じく、図5と同様の図。
【図9】同じく、図6と同様の図。
【図10】従来構造の第1例に関する、図1と同様の図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1〜3により、本発明の実施の形態の1例に就いて説明する。尚、本例の特徴は、センサの出力信号を利用して物理量の算出処理を行う演算器の構成にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図4〜6に示した従来構造の第1例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0027】
本例の場合、前記演算器は、図1に示す様な回路により、それぞれが被計測パルスである、センサ6(図4、6参照)の出力信号Sに含まれる総てのパルスの時間間隔を計測する。尚、この図1に示した回路による計測方法には、前述の図10に示した従来の回路による計測方法と共通する点がある為、先ず、この共通点に就いて説明する。図1に示した回路では、図示しない発振器により生成された、高い周波数を有する原基準クロック信号αを、分周器8aによって分周比N1で分周する事により、より低い周波数を有する、計測用基準クロック信号βを生成する。そして、この計測用基準クロック信号βのパルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)を、計測用カウンタ9によりカウントする。そして、前記出力信号Sに含まれる総てのパルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)が1つずつ入力される毎に、前記計測用カウンタ9のカウント値を読み取って、演算処理部10aに付属のレジスタ等に記憶する。これと同時に、この計測用カウンタ9のカウント値をクリアする。前記演算処理部10aは、前記レジスタ等に記憶したカウント値に、前記計測用基準クロック信号βの周期を掛け合わせる事により、このカウント値を、前記パルスの時間間隔t1、t2(図2、6参照)に換算する。そして、この時間間隔t1、t2を利用して、前記パルス周期比(=部分周期t1/全周期T1、T1=t1+t2、図2、6参照)を求める。或いは、前記演算処理部10aは、上述の様な換算(カウント値×周期の計算)を行わずに、前記時間間隔t1、t2に相当するカウント値そのものを利用して、前記パルス周期比を求める為の計算を行う。何れにしても、前記演算処理部10aは、求めたパルス周期比に基づいて、ハブ2に作用するアキシアル荷重等の物理量を算出する。以上の点に就いては、前述の図10に示した従来の回路による計測方法の場合と同様である。
【0028】
特に、本例の場合には、前記ハブ2の回転速度が増減する事に対応して、前記計測用基準クロック信号βの周波数を、この回転速度の増減方向と同方向に増減させる。この点が、前述の図10に示した従来の回路による計測方法の場合と異なる。この様な動作を行える様にする為に、本例の場合には、前記分周器8aとして、前記分周比N1が可変であるものを使用している。これと共に、この分周器8aとは別の分周器8b、及び、調節用カウンタ11を設けている。そして、これら別の分周器8b及び調節用カウンタ11を使用して前記回転速度を把握すると共に、この把握した回転速度に基づいて、前記分周器8aの分周比N1を適宜変化させる様にしている。この点に就いて、以下に詳しく説明する。
【0029】
本例の場合、図1に示した回路では、前記原基準クロック信号αを、前記別の分周器8bによって一定の分周比N2で分周する事により、より低い周波数を有する、調節用基準クロック信号γを生成する。そして、この調節用基準クロック信号γのパルス(の立上りエッジ又は立下りエッジ)を、前記調節用カウンタ11によりカウントする。そして、前記出力信号Sに含まれる総てのパルスが1つずつ入力される毎に、前記調節用カウンタ11のカウント値を読み取り、これと同時に、この調節用カウンタ11のカウント値をクリアする。尚、本例の場合、前記別の分周器8bの分周比N2は、前記原基準クロック信号αの周波数との関係で、次の様な値、即ち、前記物理量を測定すべき回転速度範囲のうち、前記出力信号Sに含まれるパルスの時間間隔t1、t2が最長となる、最低の回転速度に於いて、前記調節用カウンタ11のカウント値がオーバーフローせず、しかも、前記パルスの時間間隔t1、t2が最短となる、最高の回転速度に於いて、これら各時間間隔t1、t2の間に、前記調節用カウンタ11が少なくとも1回のカウントを行える値とする。
【0030】
ところで、前記調節用カウンタ11の2パルス分のカウント値の合計値(前記全周期T1=t1+t2に相当するカウント値)は、前記ハブ2の回転速度が変化する事に伴って変化する。具体的には、前記2パルス分のカウント値の合計値は、前記ハブ2の回転速度が増大(又は減少)する事に伴って減少(又は増大)する。この為、この2パルス分のカウント値の合計値により、前記回転速度を把握できる。そこで、本例の場合には、この2パルス分のカウント値の合計値により把握される、前記回転速度に基づいて、前記分周器8aの分周比N1を適宜変化させる様にしている。具体的には、後述する図3の(B)に示す様に、前記回転速度が増大(又は減少)する事に伴って、前記分周器8aの分周比N1を段階的に減少(又は増大)させる様にしている。これにより、前記回転速度が増減する事に対応して、前記計測用基準クロック信号βの周波数を、この回転速度の増減方向と同方向に、段階的に増減させる様にしている。
【0031】
又、本例の場合、前記分周器8aの分周比N1を変化させるタイミングは、図2のP点のタイミング、即ち、前記出力信号Sに含まれるパルス(のエッジ)が前記時間間隔t2の経過時に入力されるタイミング(前記調節用カウンタ11のカウント値のうち、前記時間間隔t2に相当するカウント値が読み取られるタイミング)としている。言い換えれば、前記分周比N1を変化させるタイミングが、前記回転速度を把握する為に必要な2パルス分の時間間隔t1+t2の途中{図2のQ1点(前記時間間隔t1の途中)やQ2点(前記時間間隔t1とt2との間)やQ3点(前記時間間隔t2の途中)}とならない様にしている。つまり、この様な2パルス分の時間間隔t1+t2の途中で前記分周比N1が変化する事により、その前後で、前記計測用基準クロック信号βの周波数、即ち、前記計測用カウンタ9のカウント値の時間幅が変化しない様にしている。これにより、前記分周比N1を変化させる前後に於いても、前述したパルス周期比を求める為の計算を、容易且つ正確に行える様にしている。
【0032】
特に、本例の場合には、上述の様に回転速度に応じて分周器8aの分周比N1を適宜変化させる動作を行う事に基づいて、前記物理量を測定すべき回転速度範囲のうち、前記出力信号Sに含まれるパルスの時間間隔t1、t2が最長となる、最低の回転速度に於いても、前記計測用カウンタ9のカウント値がオーバーフローせず、しかも、前記パルスの時間間隔t1、t2が最短となる、最高の回転速度に於いても、前記計測用カウンタ9による、前記パルスの時間間隔t1、t2の分解能を十分に確保できる様に、前記分周器8aの分周比N1を変化させる様にしている。尚、前記調節用カウンタ11のカウント値(2パルス分のカウント値の合計値)から前記分周器8aの分周比N1を決定する方法に就いては、例えば、数式と条件分岐とを利用して決定する方法を採用しても良いし、或いは、予め用意したテーブルを参照して決定する方法を採用しても良い。
【0033】
上述の様に本例の回転機械用物理量測定装置の場合には、物理量を測定すべき回転速度範囲が広い場合でも、低速回転時に、前記計測用カウンタ9のカウント値がオーバーフローする事を防止できる。これと共に、高速回転時に、前記出力信号Sに含まれるパルスの時間間隔t1、t2の分解能を十分に確保できる。この点に就いて、図3を参照しつつ、より具体的に説明する。尚、この図3の(A)(B)中に示した相対分解能Xとは、前記各パルスの時間間隔t1、t2に対して、前記計測用カウンタ9が何カウントできるかを表すものであり、この相対分解能が大きい程、前記各時間間隔t1、t2の分解能を確保できる(良好にできる)事を表す。先ず、前述の図10に示した従来の回路による計測方法の場合には、図3の(A)に示す様に、物理量を測定すべき回転速度範囲の全体で、前記分周器8の分周比Nを一定(計測用基準クロック信号βの周波数を一定)としている。この為、低速回転時に相対分解能Xを大きくできても(前記分解能を十分に確保できても)、高速回転時に相対分解能Xが小さくなってしまう(前記分解能を十分に確保できなくなる)。これに対して、本例の場合には、同図の(B)に示す様に、物理量を測定すべき回転速度範囲の全体で、前記分周器8aの分周比N1を一定とせず、回転速度が増大(又は減少)する事に伴って、前記分周比N1を(図示の例では段階的に)減少(又は増大)させて、計測用基準クロック信号β(図1)の周波数を高く(又は低く)する様にしている。この為、高速回転時を含む、物理量を測定すべき回転速度範囲の全体で、相対分解能Xを大きくできる(前記分解能を十分に確保できる)。従って、本例の場合には、信頼性の高い物理量測定を行える。又、本例の場合には、前記計測用カウンタ9のカウント値がオーバーフローすると言った問題に対し、予防策を講じる構成を採用している。この為、当該問題が起きた場合の事後的な処理(煩雑な処理)を行う事なく、信頼性の高い物理量測定を行える。
【0034】
尚、本例の場合、前記調節用カウンタ11は、物理量を測定すべき回転速度範囲では、前記パルスの時間間隔t1、t2の間にカウント値がオーバーフローする事態や、これら各時間間隔t1、t2の間に1回もカウントを行えない事態は生じない。従って、前記演算器は、これらの事態が生じた場合には、物理量を測定すべき回転速度範囲から外れているとみなし、この物理量の算出処理を実行しない。又、本例の場合には、前記調節用カウンタ11のカウント値に基づいて、車輪支持用転がり軸受ユニットの運転状態が、物理量を測定すべき回転速度範囲にあるか否かを容易に判定できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
上述した実施の形態では、前述の図4〜6に示した従来構造の第1例に対して本発明を適用した例を示したが、本発明は、これに限らず、特許請求の範囲に記載した要件を満たす、各種の回転機械用物理量測定装置に適用する事ができる。例えば、前述の図7〜9に示した従来構造の第2例に対して本発明を適用する場合には、演算器内に、一方のセンサ6aの出力信号に含まれる総てのパルスの時間間隔(周期T2)を計測する為の第一計測用カウンタと、1対のセンサ6a、6bの出力信号に含まれる総てのパルスの時間間隔(1つ置きの時間間隔が位相差δ)を計測する為の第二計測用カウンタとを設ける事に加えて、何れか一方のセンサ6a(又は6b)の出力信号に含まれる総てのパルスの時間間隔をカウントする調節用カウンタを設ける。そして、この調節用カウンタのカウント値に基づいてハブ2の回転速度を把握し、この把握した回転速度に対応して、前記第一、第二両計測用カウンタがカウントする、第一、第二両計測用基準クロック信号の分周比を変えれば良い。
【0036】
又、上述した実施の形態では、計測用基準クロック信号と調節用基準クロック信号との生成元として、同一の原基準クロック信号を用いているが、本発明を実施する場合には、それぞれの生成元として、別々の原基準クロック信号を用いる事もできる。
【0037】
又、本発明は、回転機械として、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを採用する構造に限らず、工作機械の主軸装置や自動車のトランスミッションを採用する構造にも、適用可能である。
又、本発明は、アキシアル方向の変位又は荷重を測定する構造に限らず、前記特許文献1、2等に記載されて従来から知られている様な、ラジアル方向の変位又は荷重を測定する構造にも、適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 外輪
2 ハブ
3 転動体
4、4a エンコーダ
5 カバー
6、6a、6b センサ
7a、7b、7c 透孔
8、8a、8b 分周器
9 計測用カウンタ
10、10a 演算処理部
11 調節用カウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時にも回転しない静止部材と、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、この静止部材に対して回転自在に支持された回転部材と、この回転部材に支持固定され、この回転部材と同心の被検出面を有すると共に、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させたエンコーダと、この被検出面にその検出部を対向させた状態で前記静止部材に支持され、前記被検出面のうちその検出部を対向させた部分の特性変化に対応したパルス信号を出力信号として発生する少なくとも1個のセンサと、この少なくとも1個のセンサの出力信号を利用して、前記静止部材に対する前記回転部材の変位と、これら静止部材と回転部材との間に作用する荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を求める演算器とを備え、この演算器は、計測用基準クロック信号のパルスをカウントする計測用カウンタを、少なくとも1個有しており、この少なくとも1個の計測用カウンタのそれぞれに就いて個別に定められた、前記少なくとも1個のセンサの出力信号に含まれる所定のパルスである被計測パルスが1つずつ入力される毎に、前記少なくとも1個の計測用カウンタのそれぞれに就いて、そのカウント値を読み取ると同時に、その計測用カウンタのカウント値をクリアし、且つ、当該読み取った各カウント値に基づいて前記物理量を算出するものである回転機械用物理量測定装置に於いて、前記演算器は、前記回転部材の回転速度が増減する事に対応して、前記計測用基準クロック信号の周波数を、この回転速度の増減方向と同方向に増減させる機能を有している事を特徴とする回転機械用物理量測定装置。
【請求項2】
前記演算器は、一定の周波数を有する調節用基準クロック信号のパルスをカウントする調節用カウンタを有しており、前記少なくとも1個のセンサの出力信号のうちの何れか1つの出力信号に含まれる総てのパルスが1つずつ入力される毎に、前記調節用カウンタのカウント値を読み取ると同時に、この調節用カウンタのカウント値をクリアし、且つ、前記回転部材の回転速度が増減する事に伴って変化する値である、当該読み取った調節用カウンタのカウント値を利用して、前記計測用基準クロック信号の周波数を、前記回転部材の回転速度の増減方向と同方向に増減させる、請求項1に記載した回転機械用物理量測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−61200(P2013−61200A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198952(P2011−198952)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】