説明

回転軸装置

【課題】リップ部周辺の潤滑油の温度の上昇を抑えてオイルスラッジの発生を抑え、リップ部の密封性の低下を防ぐ。
【解決手段】転がり軸受は、リング状の外輪21と、この外輪21の内周側に配置される内輪22と、外輪21および内輪22間で転動する転動体24とからなり、外輪21をハウジング11に嵌合固定し、内輪22を回転軸に嵌合し、外輪21の内周にオイルシール60を取付け、オイルシール60の内周側のリップ部64を内輪22に摺接させた回転軸装置において、転動体24およびオイルシール60間で内輪22の外周に潤滑油が貯留する環状溝を形成し、この環状溝は、転動体24に向かって溝深さが次第に浅くなる傾斜面22eを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を転がり軸受を介して回転可能に軸承した回転軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、自動車のディファレンシャル装置100は、ディファレンシャルケース101に転がり軸受110を介して回転軸120を回転可能に軸承し、回転軸120の一端に形成されたピニオンギヤ121を図略のリングギヤに噛合させている。転がり軸受110は、外輪111と、内輪112、113と、玉114、115と、保持器116、117とからなり、外輪111の内周にオイルシール130が圧入嵌合され、オイルシール130の内周側のリップ部131、132が内輪112の外周に摺接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4525208号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リップ部131と内輪112間の摩擦により発熱し、リップ部131の周辺の潤滑油に熱が伝わり、潤滑油の温度が上昇するとオイルスラッジが発生しやすくなり、リップ部131の密封性が低下する。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的は、リップ部周辺の潤滑油の温度の上昇を抑えてオイルスラッジの発生を抑え、リップ部の密封性の低下を防ぐ。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、転がり軸受は、リング状の外輪と、この外輪の内周側に配置される内輪と、前記外輪および前記内輪間で転動する転動体とからなり、前記外輪をハウジングに嵌合固定し、前記内輪を前記回転軸に嵌合し、前記外輪の内周にオイルシールを取付け、オイルシールの内周側のリップ部を前記内輪に摺接させた回転軸装置において、
前記転動体および前記リップ部間で前記内輪の外周に潤滑油が貯留する環状溝を形成し、この環状溝は、前記転動体に向かって溝深さが次第に浅くなる傾斜面を有するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内輪を回転させると、リップ部周辺の潤滑油は、環状溝を経て転動体側へ流れ、リップ部周辺には新たな潤滑油が供給されるので、リップ部周辺の潤滑油の温度の上昇が抑えられてオイルスラッジの発生が抑えられ、リップ部の密封性の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態における回転軸装置の縦断面図
【図2】本発明の一実施形態における図1の要部拡大断面図
【図3】本発明の一実施形態における図2の要部拡大断面図
【図4】従来の回転軸装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態を、図1乃至図3にもとづいて説明する。図1は、回転軸装置の縦断面図、図2は、図1の要部拡大断面図であり、図3は、図2の要部拡大断面図である。
【0010】
図1および図2において、自動車のディファレンシャル装置は、ディファレンシャルケース11と、このディファレンシャルケース11に軸線P回りに回転可能に軸承されたリングギヤ80と、回転軸装置10とを有する。
【0011】
回転軸装置10は、ディファレンシャルケース11の一部と、このディファレンシャルケース11の一部に取り付けられた転がり軸受20と、この転がり軸受20を介してディファレンシャルケース11に回転可能に軸承されたピニオン軸40と、ピニオン軸40の一端に取付けられたコンパニオンフランジ50とを有している。前記リングギヤ80の回転軸線とピニオン軸40の回転軸線は、互いに立体的に交差している。
【0012】
ディファレンシャルケース11にはピニオン軸40の軸線方向に貫通した貫通穴12が形成され、この貫通穴12に転がり軸受20が嵌合されている。転がり軸受20は、貫通穴12に嵌合される外輪21と、外輪21の内周側に配置される内輪22、32と、外輪21および内輪22、32間を転動する玉24、34と、玉24、34を回転可能に保持する保持器23、33とからなっている。転がり軸受20は、一つの外輪21に対し、二つの内輪22、32を軸方向に配置した一対のアンギュラ玉軸受である。
【0013】
外輪21の内周に2つの外輪側軌道面21a、31aが形成され、これら外輪側軌道面21a、31aに対応する位置で内輪22、32の外周に内輪側軌道面22a、32aが形成されている。外輪21は、内輪22に対し内輪23と反対側へ軸方向に突出した突起部を有し、さらにこの突起部に対し外径方向へ突出したフランジ部を有する。外輪21の軸方向に突出した突起部の内周に、後述するオイルシール60が嵌合固定される第4の嵌合面21bが形成されている。内輪22の外周には、内輪側軌道面22aを挟んで内輪32側に内輪22の軸線に対し傾斜したテーパ面22bが形成され、内輪側軌道面22aを挟んで内輪32と反対側に内輪22の軸線と平行な平行面22cが形成されている。内輪32の外周には、内輪側軌道面32aを挟んで内輪22側に内輪32の軸線に対し傾斜したテーパ面32bが形成され、内輪側軌道面32aを挟んで内輪22と反対側に内輪32の軸線と平行な平行面32cが形成されている。内輪22、32の内周には、ピニオン軸40の後述する第1の嵌合面42に嵌合される第1の被嵌合面が形成されている。
【0014】
ピニオン軸40のリングギヤ80側の他端には、リングギヤ80と噛合うピニオンギヤ41が形成され、ピニオン軸40の一端には、ネジ部45が形成されている。ピニオン軸40には、ピニオンギヤ41およびネジ部45間でピニオンギヤ41側から順に第1の嵌合面42、スプライン44が形成されている。スプライン44は、第1の嵌合面42よりも小径である。ピニオンギヤ41および第1の嵌合面42間には第1の段部が形成され、第1の嵌合面42およびスプライン44間には第2の段部が形成されている。
【0015】
第1の段部に内輪32のピニオンギヤ41側の端面が当接し、第2の段部にコンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側の後述する端面53が隙間を持って対向する。スプライン44には、コンパニオンフランジ50が嵌合され、コンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側の後述する端面53は、内輪22のピニオンギヤ41と反対側の端面に当接する。ネジ部45には、ワッシャ56が嵌め込まれ、さらにナット58が螺合されている。ナット58を締めることにより、内輪22、32は、第1の段部およびコンパニオンフランジ50の後述する端面53間で挟み込まれる。
【0016】
コンパニオンフランジ50は、円筒状で、この円筒状の一端に外径方向へ突出したフランジ部を有する。円筒状の外周には、第3の嵌合面51が形成され、この第3の嵌合面51のフランジ部側にはスリンガー70が嵌合固定されている。コンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側には、内輪22に当接する端面53を有する。コンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41と反対側の一端には、図略の伝達軸がボルト等で連結され、エンジンからの回転動力が伝達されるようになっている。
【0017】
図2および図3に示すように、オイルシール60は、外輪21の第4の嵌合面21bに嵌合固定され、オイルシール60の内周側の第1のリップ部64および第2のリップ部65は、内輪22の平行面22cに摺接している。オイルシール60は、金属製の芯金61と、芯金61に加硫接着されたゴム製のシール本体62とからなっている。シール本体62の内周側に第1のリップ部64および第2のリップ部65が形成され、シール本体62のスリンガー70側の側面に第3のリップ部63が形成されている。第3のリップ部63は、スリンガー70のピニオンギヤ41側の側面に摺接している。
【0018】
外輪21の第4の嵌合面21bには、玉24およびオイルシール60間で第1の環状溝が形成され、この第1の環状溝は、内輪22の回転軸線に対し垂直な第1の垂直面21dと、第1の環状溝の深さが玉24側に向かって次第に浅くなるように内輪22の回転軸線に対し傾斜した第1の傾斜面21eとで構成されている。内輪22の平行面22cには、玉24およびオイルシール60間で第2の環状溝が形成され、この第2の環状溝は、内輪22の回転軸線に対し垂直な第2の垂直面22dと、第2の環状溝の深さが玉24側に向かって次第に浅くなるように内輪22の回転軸線に対し傾斜した第2の傾斜面22eとで構成されている。第1の環状溝は、第2の環状溝に対し玉24側に位置し、第1の垂直面21dの延長線上に第2の傾斜面22eが存在する。
【0019】
図1に示すように、ディファレンシャルケース11には、貫通穴12の上部に開口する第1の給油通路13が形成され、また貫通穴12の下部に開口する第2の排油通路14が形成されている。外輪21の上部には、第2の給油通路21cが半径方向に貫通して形成され、外輪21の下部には、第1の排油通路21dが半径方向に貫通し形成されている。第2の給油通路21cの外径側は第1の給油通路13に開口し、第1の排油通路21dの外径側は第2の排油通路14に開口している。ディファレンシャルケース11の内部空間81は、リングギヤ80が回転する作動空間でもあり、潤滑油を貯留する貯留空間でもある。リングギヤ80によって掻き揚げられた潤滑油は、流れFに示すように、第1の給油通路13および第2の給油通路21cを経て外輪21および内輪22、32間に導かれ、また流れGに示すように、直接外輪21および内輪22、32間に導かれる。外輪21および内輪22、32間内で下方へ落下した潤滑油は、流れR1に示すように、第1の排油通路21dおよび第2の排油通路14を経て内部空間81へ排出され、また流れR2に示すように、外輪21および内輪22、32間から直接内部空間81へ排出されるようになっている。
【0020】
次に上述した構成にもとづいて、回転軸装置10の組付け動作を説明する。
【0021】
図1および図2に示すように、ピニオン軸40の第1の嵌合面42に転がり軸受20の内輪22、32を嵌合させ、ピニオン軸40の第1の段部に内輪32のピニオンギヤ41側の端面を当接させる。外輪21の第4の嵌合面21bにオイルシール60を嵌合固定し、コンパニオンフランジ50の第3の嵌合面51にスリンガー70を嵌合固定する。コンパニオンフランジ50をネジ部45に嵌め込み、さらにスプライン44に嵌め込み、第1のリップ部64および第2のリップ部65をコンパニオンフランジ50の第3の嵌合面51に摺接させる。内輪22のピニオンギヤ41と反対側の端面にコンパクトフランジ50のピニオンギヤ41側の端面53が当接すると同時に、オイルシール60の第3のリップ部63がスリンガー70の側面に当接する。
【0022】
続いてネジ部45にワッシャ56が嵌め込まれ、ネジ部45にナット58が螺合される。ナット58を締め付けると、内輪22、32が、ピニオン軸40の第1の段部およびコンパニオンフランジ50のピニオンギヤ41側の端面53間で挟み込まれ、コンパニオンフランジ50の回転が、内輪22、内輪32へ伝達可能となり、スプライン44を介してピニオン軸40へ伝達可能となる。さらにディファレンシャルケース11の貫通穴12に転がり軸受20の外輪21を嵌合し、第2の給油通路21cが第1の給油通路13に対応するよう外輪21を回し、外輪21のフランジ部が図略のボルト等を介してディファレンシャルケース11に固定される。こうしてディファレンシャルケース11にピニオン軸40が転がり軸受20を介して回転可能に軸承される。
【0023】
次に、ディファレンシャル装置の動作を説明する。エンジンからの回転動力がコンパニオンフランジ50に伝達されると、内輪22、32に伝達されるとともにスプライン44を介してピニオン軸40に伝達され、さらにピニオンギヤ41を介してリングギヤ80が回転する。リングギヤ80が回転すると、潤滑油が掻き揚げられ、流れFに示すように、第1の給油通路13および第2の給油通路21cを経て外輪21および内輪22、32間に導かれ、また流れGに示すように、直接外輪21および内輪22、32間に導かれる。外輪21および内輪22、32間内で下方へ落下した潤滑油は、流れR1に示すように、第1の排油通路21dおよび第2の排油通路14を経て内部空間81へ排出され、また流れR2に示すように、外輪21および内輪22、32間から直接内部空間81へ排出される。内輪22の回転により、オイルシール60の第1のリップ部64および第2のリップ部64が、内輪22の第3の嵌合面51に対して摺接し、オイルシール60の第3のリップ部63が、スリンガー70の側面に対して摺接する。
【0024】
図2および図3において、流れFに示すように、第1の給油通路13および第2の給油通路21cを経て外輪21および内輪22、32間に導かれた潤滑油の一部は、内輪22の回転による遠心力が作用し、流れP1、P2、P3に示すように、テーパ面22b、内輪側軌道面22aを経て外輪21の第1の環状溝に導かれる。さらに、流れP4、P5に示すように、第1の環状溝から落下した潤滑油は、第2の環状溝に導かれ、回転する第2の傾斜面22eによって潤滑油に遠心力が作用し、第2の環状溝に入った潤滑油は、玉24側へ排出され、外輪21および内輪22、32間内で下方へ落下する。このように、第1のリップ部64周辺の潤滑油は、第2の環状溝を経て玉24側へ排出され、流れP1、P2によって常に潤滑油が供給される。供給される潤滑油は、ディファレンシャルケース11の内部空間81にて自然冷却されたものであるので、第1のリップ部64周辺の潤滑油の温度の上昇が抑えられてオイルスラッジの発生が抑えられ、第1のリップ部64の密封性の低下を防ぐことができる。
【0025】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0026】
上述した実施形態は、断面直線状の第2の傾斜面22cを形成した。他の実施形態として、第2の環状溝の深さが玉24に向かって次第に浅くなるものであれば、断面円弧状の第2の傾斜面であっても良い。
【0027】
上述した実施形態は、転がり軸受20として一対のアンギュラ玉軸受を適用した。他の実施形態として、転がり軸受20として一対の円すいころ軸受を適用しても良い。
【符号の説明】
【0028】
11:ディファレンシャルケース(ハウジング)、20:転がり軸受、21:外輪、22:内輪、22e:第2の傾斜面(傾斜面)、24:玉(転動体)、32:内輪、34:玉(転動体)、40:ピニオン軸(回転軸)、60:オイルシール、64:第1のリップ部(リップ部)、65:第2のリップ部(リップ部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受は、リング状の外輪と、この外輪の内周側に配置される内輪と、前記外輪および前記内輪間で転動する転動体とからなり、前記外輪をハウジングに嵌合固定し、前記内輪を前記回転軸に嵌合し、前記外輪の内周にオイルシールを取付け、オイルシールの内周側のリップ部を前記内輪に摺接させた回転軸装置において、
前記転動体および前記リップ部間で前記内輪の外周に潤滑油が貯留する環状溝を形成し、この環状溝は、前記転動体に向かって溝深さが次第に浅くなる傾斜面を有することを特徴とする回転軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−24354(P2013−24354A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161449(P2011−161449)
【出願日】平成23年7月23日(2011.7.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】