説明

回転部材のスラスト受け構造

【課題】スラスト受け専用の介装部材を必要とせずメンテナンス性が良好であるとともに、クランク軸を小径化し回転部材の小型化を図ることができる回転部材のスラスト受け構造を供する。
【解決手段】回転軸20Laに一体回転可能に支持される一体回転部材25と回転軸20Laにローラベアリング28を介して相対回転自在に軸支される相対回転部材27の軸方向の移動を規制する回転部材のスラスト受け構造において、回転軸20Laの一体回転部材25と相対回転部材27との間に形成された雄ねじ部にナット部材26が螺合され、ナット部材26の一端面が一体回転部材25の軸方向移動を規制し、ナット部材26の他端面がローラベアリング28のナット部材26側への軸方向移動を規制する回転部材のスラスト受け構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に支持される回転部材の軸方向の移動を規制するスラスト受け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸に一体回転可能に一体回転部材が支持されるとともに、同じ回転軸にローラベアリングを介して相対回転自在に相対回転部材が軸支される構成は、内燃機関のクランク軸に支持される駆動チェーンスプロケットと被動ギアの例がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4236656号公報(図2参照)
【0004】
特許文献1に開示された内燃機関において、クランク軸への駆動チェーンスプロケットと被動ギアの支持構造は、クランク軸の段差から軸端に亘る側部に駆動チェーンスプロケット、スラスト受け用介装部材、一方向クラッチのアウタレースと一体の出力回転体が順に嵌合されクランク軸端に螺合されるボルトにより座金を介して押圧し緊締する構造のものである。
【0005】
一方向クラッチのインナレースは出力回転体の円筒状の軸部にローラベアリングを介して回転自在に軸支され、このインナレースに被動ギアが一体に設けられている。
この被動ギアともにローラベアリングの軸方向の移動をスラスト受けが規制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ローラベアリングの軸方向の移動を規制するためにスラスト受け用介装部材を必要とし部品点数が多く、ボルトを外すと、これら部材が全て、すなわち一方向クラッチと駆動チェーンスプロケットも外れてしまった。
また、クランク軸端にボルトを螺合して各部材を固定するので、クランク軸端にボルト孔を必要な剛性を確保して形成しなければならず、クランク軸の軸径が大きくなり、駆動チェーンスプロケットや被動ギアが大型化する。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、スラスト受け専用の介装部材を必要とせずメンテナンス性が良好であるとともに、クランク軸を小径化し回転部材の小型化を図ることができる回転部材のスラスト受け構造を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、回転軸に一体回転可能に支持される一体回転部材と前記回転軸にローラベアリングを介して相対回転自在に軸支される相対回転部材の軸方向の移動を規制する回転部材のスラスト受け構造において、前記回転軸の前記一体回転部材と前記相対回転部材との間に形成された雄ねじ部にナット部材が螺合され、前記ナット部材の一端面が前記一体回転部材の軸方向移動を規制し、前記ナット部材の他端面が前記ローラベアリングの前記ナット部材側への軸方向移動を規制することを特徴とする回転部材のスラスト受け構造である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の回転部材のスラスト受け構造において、前記一体回転部材は、前記回転軸の外周面に形成されたスプライン溝にスプライン嵌合して支持され、前記ローラベアリングは、前記回転軸の外周面に直接嵌合して支持されることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の回転部材のスラスト受け構造において、前記ナット部材は、前記一体回転部材の軸方向移動を規制する一端面側に最大外径の被操作部が形成され、前記ローラベアリングの軸方向移動を規制する他端面側に外径を縮径した突出円筒部が形成され、前記突出円筒部の外径は、前記相対回転部材の前記ローラベアリングを収容するベアリング収容孔の内径より小さく、前記ナット部材は、前記突出円筒部が前記ベアリング収容孔に臨む位置に配置されることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの項記載の回転部材のスラスト受け構造において、前記回転軸は、内燃機関のクランク軸であり、ジャーナル部がメタルベアリングを介してクランクケースに回転自在に軸支され、前記一体回転部材は、カム軸との間でカムチェーンが掛け渡される駆動チェーンスプロケットであり、同駆動チェーンスプロケットのスプロケット歯がなす歯先円の直径が前記クランク軸のジャーナル部の外径よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の回転部材のスラスト受け構造において、前記クランク軸は、ジャーナル部から軸端に向けて外周面が段差およびテーパ部により漸次小径に形成され、前記駆動チェーンスプロケットは、軸方向一端面が前記クランク軸の前記ジャーナル部の端部に形成された段差に当接され、前記ナット部材により他端面が押圧されて前記クランク軸に固定されることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項4または請求項5記載の回転部材のスラスト受け構造において、前記相対回転部材は、スタータモータの駆動により回転するスタータ被動ギアであり、前記スタータ被動ギアの円筒ボス部とACジェネレータの前記クランク軸に一体に固定されるACGロータとの間に一方向クラッチが介装されることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の回転部材のスラスト受け構造において、前記ACジェネレータのACGロータは、テーパ内周面が前記クランク軸に形成された前記テーパ部のテーパ外周面にテーパ嵌合され、前記クランク軸の前記ACGロータより突出した部分に形成された雄ねじ部に螺合される第2のナット部材により前記ACGロータが前記クランク軸に固定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の回転部材のスラスト受け構造によれば、回転軸の一体回転部材と相対回転部材との間に形成された雄ねじ部にナット部材が螺合され、ナット部材の一端面が一体回転部材の軸方向移動を規制し、ナット部材の他端面がローラベアリングのナット部材側への軸方向移動を規制するので、ローラベアリングのスラスト受け専用の介装部材を必要とせず部品点数が少ないとともに、ナット部材が一体回転部材と相対回転部材を個別に軸方向移動を規制しているため、一体回転部材と相対回転部材の一方を移動規制したまま他方を外すことが可能でメンテナンス性が良好である。
ナット部材がクランク軸に螺合される構造なので、クランク軸自体の必要な剛性を確保して軸径を小さくでき、一体回転部材や相対回転部材の小型化を図ることができる。
【0016】
請求項2記載の回転部材のスラスト受け構造によれば、回転軸の外周面に一体回転部材がスプライン嵌合して支持され、ローラベアリングが直接嵌合して支持されるので、一体回転部材とローラベアリングの間に螺合されるナット部材は外径が小径であってもローラベアリングおよび一体回転部材の軸方向移動を規制することができる。
【0017】
請求項3記載の回転部材のスラスト受け構造によれば、ナット部材は、前記一体回転部材の軸方向移動を規制する一端面側に最大外径の被操作部が形成され、ローラベアリングの軸方向移動を規制する他端面側に外径を縮径し突出円筒部が形成されるので、最大外径の被操作部を操作してナット部材を着脱するのが容易であり、突出円筒部の外径が相対回転部材のベアリング収容孔の内径より小さく、同ベアリング収容孔に突出円筒部が臨む位置にナット部材が配置されるので、ナット部材の螺合するねじ長さを確保しつつ一体回転部材に相対回転部材を近づけることができ、クランク軸の軸方向長さを短く小型化できる。
また、ナット部材の被操作部に付着したオイルが突出円筒部側に流れると、オイルはベアリング収容孔の内部に導かれローラベアリングの潤滑に供せられる。
【0018】
請求項4記載の回転部材のスラスト受け構造によれば、クランク軸のジャーナル部がメタルベアリングを介してクランクケースに回転自在に軸支されるので、小径の軸受孔によりクランク軸が良好に軸支されるとともに、このクランク軸に支持される駆動チェーンスプロケットのスプロケット歯はジャーナル部の外径より大きい十分な歯先円の直径を備えてカムチェーンを掛け渡すことができ、回転タイミング精度を向上させることができる。
【0019】
請求項5記載の回転部材のスラスト受け構造によれば、クランク軸は、ジャーナル部から軸端に向けて外周面が段差およびテーパ部により漸次小径に形成され、駆動チェーンスプロケット等の回転部材の組付けが容易であり、駆動チェーンスプロケットは、軸方向一端面がクランク軸のジャーナル部の端部に形成された段差に当接され、ナット部材により他端面が押圧されてクランク軸に固定されるので、ジャーナル部に近接して駆動チェーンスプロケットが配置されるため、駆動チェーンスプロケットがクランク軸の撓みの影響を受け難く軸心の変動がなく、カムチェーンにより動力伝達されるカム軸の回転タイミング精度を良好に維持することができる。
【0020】
請求項6記載の回転部材のスラスト受け構造によれば、スタータモータの駆動により回転するスタータ被動ギアの円筒ボス部とACジェネレータの前記クランク軸に一体に固定されるACGロータとの間に一方向クラッチが介装されていて、スタータ被動ギアは始動時以外は回転しないため、スタータ被動ギアに付着したオイルはスタータ被動ギアの側面を伝わって流下しスタータ被動ギアのベアリング収容孔に導かれローラベアリングの潤滑に供せられる。
【0021】
請求項7記載の回転部材のスラスト受け構造によれば、ACジェネレータのACGロータは、テーパ内周面がクランク軸に形成されたテーパ部のテーパ外周面にテーパ嵌合され、クランク軸のACGロータより突出した部分に形成された雄ねじ部に螺合される第2のナット部材によりACGロータがクランク軸に固定されるので、クランク軸を小径化しつつ剛性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係る内燃機関の一部省略一部断面とした左側面図である。
【図2】同内燃機関の一部省略一部断面とした右側面図である。
【図3】図1および図2のIII−III線断面図である。
【図4】図1および図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図1および図2のV−V線断面図である。
【図6】駆動チェーンスプロケットやスタータ被動ギア等の左クランク軸半体への組付構造を示す要部断面図である。
【図7】同分解断面図である。
【図8】左クランク軸半体の平面図である。
【図9】同左クランク軸半体を軸方向左側から視た側面図である。
【図10】駆動チェーンスプロケットの平面図である。
【図11】同駆動チェーンスプロケットを軸方向左側から視た側面図である。
【図12】ナット部材の平面図である。
【図13】同ナット部材を軸方向左側から視た側面図である。
【図14】スタータ被動ギアを軸方向左側から視た側面図である。
【図15】ACジェネレータのACGロータを軸方向左側から視た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図15に基づいて説明する。
本実施の形態に係る内燃機関10は、同内燃機関10の後方に変速機40を一体に備えて自動二輪車にクランク軸20を車幅方向である左右方向に指向させて横置きに搭載される。
なお、本実施の形態において、前後左右は、車両を基準としたときの前後左右に一致するものとする。
【0024】
内燃機関Eは、単気筒4ストローク内燃機関であり、クランク軸20を軸支するクランクケース11は、クランク軸20が配置されるクランク室11Cの後方に変速機40を収容するミッション室11Mが形成され(図4参照)、クランク室11Cの下方には底壁が幾らか下方に膨出してオイルを貯留するオイル溜め11Pが一体に形成される構造をしている(図3参照)。
【0025】
図2および図3を参照して、クランクケース11のクランク室11Cの上には、1本のシリンダ12aを有するシリンダブロック12と、シリンダブロック12の上にガスケットを介してシリンダヘッド13が重ねられ、ヘッドボルト15により一体に締結され、シリンダヘッド13の上方をシリンダヘッドカバー14が覆っている。
クランクケース11の上に重ねられるシリンダブロック12,シリンダヘッド13,シリンダヘッドカバー14は、クランクケース11から若干前傾した姿勢で上方に延出している(図1,図2参照)。
【0026】
シリンダブロック12の下部に結合されるクランクケース11は、シリンダ軸線(シリンダ12aの中心軸線)を含みクランク軸20と直交する平面で左右に2分割された1対のケースである左クランクケース11Lと右クランクケース11Rとが、互いの合せ面で合わせられボルトにより結合されて構成される。
【0027】
左右クランクケース11L,11Rが合わされて形成されるクランク室11Cに左右方向に指向して回転自在に軸支されるクランク軸20は、左右のクランク軸半体20L,20Rをクランクピン21で連結して一体に構成したものであり、各クランク軸半体20L,20Rは同軸上に構成される左右クランク軸体20La,20Raと互いに対面する左右クランクウエブ20Lw,20Rwとからなり、互いに対面する左右クランクウエブ20Lw,20Rwがクランク軸中心線から偏心したクランクピン21で連結されている(図3参照)。
【0028】
クランク軸20を軸支する左右クランクケース11L,11Rの互いに対向する軸受壁11Lw,11Rwの軸受孔外周には環状の軸受ブッシュ22,22が埋設され、同軸受ブッシュ22,22の内周にメタルベアリング23,23を介してクランク軸20の左右クランク軸体20La,20Raのクランクウエブ20Lw,20Lwと隣接するジャーナル部が軸支される。
したがって、左右クランクケース11L,11Rの互いに対向する軸受壁11Lw,11Rwの間のクランク室11Cにはクランクウエブ20Lw,20Lwおよびクランクピン21が収容され、左右軸受壁11Lw,11Rwの外側にクランク軸体20La,20Raが左右に突出している。
【0029】
一方、図3に示すように、左右クランクケース11L,11Rの合体でクランク室11Cの上方に形成された円開口に、シリンダブロック12のシリンダ12aの下部が嵌入され、シリンダ12aのシリンダボア12b内にピストン16が往復摺動自在に嵌合される。
ピストン16のピストン頂部の裏面に突出された一対のピンボス間にピストンピン17が架設され、同ピストンピン17に小端部が軸支されクランク軸20のクランクピン21に大端部が軸支されたコンロッド18によりピストン16とクラン軸20が連接されてクランク機構が構成されている。
【0030】
シリンダヘッド13には、シリンダ12aに対応して、シリンダ軸線方向でピストン16に対向して燃焼室13bが構成され、該燃焼室13bから後方に吸気ポート13iが延出し、燃焼室60から前方に排気ポート13eが延出しており(図2参照)、燃焼室13bの天井壁には点火栓19が先端を燃焼室13bに臨ませて取り付けられる(図3参照)。
図2に示すように、シリンダヘッド13に一体に嵌着された弁ガイドにそれぞれ摺動可能に支持される吸気弁61および排気弁62は、内燃機関Eに備えられる動弁機構60により駆動されて、吸気ポート13iの吸気開口および排気ポート13eの排気開口を(クランク軸20の回転に同期して)開閉する。
【0031】
図2を参照して、動弁機構60は、シリンダヘッド13の上に1本のカム軸65が左右方向に指向して軸支されたSOHC型内燃機関の動弁機構であり、カム軸65の斜め前後上方にロッカアームシャフト66e,66iが支持され、後方のロッカアームシャフト66iに吸気ロッカアーム67iが揺動自在に中央を軸支され、前方のロッカアームシャフト66eに排気ロッカアーム67eが揺動自在に中央を軸支されている。
【0032】
吸気ロッカアーム67iの一端は、カム軸65の吸気カムロブに接し、他端が吸気弁61のバルブステムの上端に接し、排気ロッカアーム67eの一端は、カム軸65の排気カムロブに接し、他端が排気弁62のバルブステムの上端に接し、カム軸65の回転により吸気ロッカアーム67iと排気ロッカアーム67eが揺動して吸気弁61と排気弁62を開閉駆動する。
カム軸65は、左軸端部に被動チェーンスプロケット68が嵌着されている(図3参照)。
【0033】
一方、クランク軸20の左軸受壁11Lwより左方に突出した左クランク軸体20Laのジャーナル部の左側に駆動チェーンスプロケット25がスプライン嵌合され、同駆動チェーンスプロケット25とその上方の前記被動チェーンスプロケット68との間にカムチェーン69が架渡され(図1,図3参照)、クランク軸20の回転動力がカムチェーン69を介してカム軸65の回転にクランク軸20の1/2の回転数で伝達され、クランク軸20に同期して吸気ロッカアーム67iと排気ロッカアーム67eを揺動して吸気弁61と排気弁62がそれぞれ所要のタイミングで開閉駆動する。
【0034】
なお、図1に示すように、駆動チェーンスプロケット25と上方の被動チェーンスプロケット68との間に架渡されたカムチェーン69の前側部分を僅かに湾曲して上下に長尺に延びたチェーンガイド69gがガイドし、他方後方の後側部分を弓形に湾曲したテンションスリパ69sが押さえるように接して、カムチェーン69に適度な緊張を維持している。
テンションスリッパ69sは背後をテンショナリフタ69tにより押圧されている。
【0035】
クランク軸20の左軸受壁11Lwより左方に突出した左クランク軸体20Laには、駆動チェーンスプロケット25を位置決め固定するナット部材26、スタータ被動ギア27、一方向クラッチ29を介してACジェネレータ30のACGロータ30Rが順次嵌合され、ワッシャ31を介してナット部材32で締め付け固定される。
【0036】
ACジェネレータ30は、左クランク軸体20Laに嵌合されるフライホイール30fと同フライホイール30fにボルト30bにより固着支持される椀状をなすアウタロータ30rとでACGロータ30Rが構成されており、ACジェネレータ30等を左側から覆う左ケースカバー50に形成された内筒50aにインナステータ30sが固着支持されている。
フライホイール30fを介してクランク軸20と一体に回転するアウタロータ30rの円筒部内周に設けられた磁石30rmの内側にインナステータ30sのコイル30scが巻回された固定子鉄心が相対している。
【0037】
左クランク軸体20Laの軸端部は左ケースカバー50に形成された内筒50a内にローラベアリング33を介して軸支される。
スタータ被動ギア27は、左クランク軸体20Laに針状のローラベアリング28を介して回転自在に軸支されており、前記フライホイール30fとの間に一方向クラッチ29が介装されている。
【0038】
他方、クランク軸20の右軸受壁11Rwより右方に突出した右クランク軸体20Raには、バランサ駆動ギア35とプライマリ駆動ギア36が順次嵌合され、ワッシャ37を介してナット部材38で締め付け固定される。
右クランクケース11Rの右側を覆う右ケースカバーは、右クランクケース11Rに右軸受壁11Rwを覆って当接される内側右ケースカバー52と同内側右ケースカバー52を部分的に覆う外側右ケースカバー53とからなり(図3参照)、右クランク軸体20Raのナット部材38より右方に突出した軸端部は、内側右ケースカバー52の円筒ボス部52aに挿入されている(図3,図4参照)。
【0039】
図4に示すように、クランクケース11のミッション室11Mには、変速機40のメイン軸41とカウンタ軸42とが、クランク軸20の後方に左右方向に指向して互いに平行に左右軸受壁11Lw,11Rw間にベアリング41b,42bを介して回転自在に架設されており、メイン軸41に軸支されたメインギア群41gとカウンタ軸42に軸支されたカウンタギア群42gが常時噛み合って変速機40を構成している。
【0040】
カウンタ軸42はクランクケース11を左方に貫通して外部に突出して出力軸となっており、突出した左端に出力スプロケット43が嵌着されている。
出力スプロケット43に巻き掛けられる駆動チェーン44が、図示されない後輪側の被動スプロケットに架渡されてチェーン伝達機構が構成され後輪に動力が伝達される。
【0041】
図4に示すように、メイン軸41の右軸受壁11Rwより右方に突出した右側部には、多板摩擦式の変速クラッチ46が設けられている。
変速クラッチ46のクラッチアウタ46oは、メイン軸41に回転自在に軸支されたプライマリ被動ギア45に緩衝部材を介して支持されており、メイン軸41に一体に嵌合されたクラッチインナ46iとの間に複数のクラッチ板46cが介装され、圧縮部材46pの駆動により断接を行う。
【0042】
プライマリ被動ギア45がクランク軸20に嵌着された前記プライマリ駆動ギア36と噛合する。
したがって、クランク軸20の動力を変速クラッチ46の駆動により変速機40のメイン軸41に伝達したり遮断したりする。
【0043】
クランク軸20の前方には、バランサ47が配設されている(図1,図2の破線参照)。
バランサ47は、図4に示すように、クランクウエブ20Lw,20Lw間を旋回するバランスウエイト47wを有するバランサ軸48が左右軸受壁11Lw,11Rw間にベアリング48bを介して回転自在に架設されている。
【0044】
バランサ軸48の右軸受壁11Rwより右方に突出した右側部に、バランサ被動ギヤ49が設けられ、クランク軸20に嵌着された前記バランサ駆動ギア35と噛合している。
噛合するバランサ駆動ギア35とバランサ被動ギヤ49は、同径同歯数のギアであり、バランスウエイト47wはクランク軸20と等速で逆方向に回転駆動されて、ピストン16の往復運動により発生する1次振動を低減する。
【0045】
図1を参照して、前記変速機40のメイン軸41およびカウンタ軸42の下方には、シフトフォーク軸71,72が左右軸受壁11Lw,11Rw間に架設されて設けられ、前側のシフトフォーク軸71に摺動自在に支持された1本のシフトフォーク71aが前記メイン軸41上のメインギア群41gのうちのシフタギアに係合し、後側のシフトフォーク軸72に摺動自在に支持された2本のシフトフォーク72a,72bが前記カウンタ軸42上のカウンタギア群42gのうちのシフタギアに係合する。
【0046】
前後のシフトフォーク軸71,72の間の下方にシフトドラム73が左右軸受壁11Lw,11Rw間に回動自在に架設支持されており、シフトドラム73の外周面に形成された2条のリード溝にシフトフォーク71a、72a,72bのシフトピンが摺動自在に係合してシフトドラム73とともに回動するリード溝にシフトフォーク71a、72a,72bが導かれて左右軸方向に移動することで、シフタギアを移動して変速機40の変速段を切り換える。
【0047】
シフトドラム73の後方には、図5に示すように、シフトスピンドル75が左右クランクケース11L,11Rを貫通した架設されており、同シフトスピンドル75の外部に突出した左端にはフットシフトレバー(図示せず)が取付けられ、シフトスピンドル75の右端にはチェンジアーム76が基端部を嵌着されて設けられている。
シフトドラム73の右軸受壁11Rwを貫通した右軸端にはピンプレート78が嵌着され、同ピンプレート78に突設されたピン78pにチェンジアーム76に取付けられたシフタプレート77の送り爪が作用する。
【0048】
以上のシフトスピンドル75、チェンジアーム76、シフタプレート77,ピンプレート78のほかに回転位置決め機構などを含めて変速駆動機構74が構成されている(図2,図5参照)。
変速駆動機構74は、シフトスピンドル75の回動操作があると、チェンジアーム76を揺動し、シフタプレート77を介してピンプレート78をシフトドラム73とともに所定角度回動してシフトフォーク71a、72a,72bを移動し変速段を切り換える。
図2および図5に示すように、この変速駆動機構74は、メイン軸41の右端に取り付けられた変速クラッチ46の下方近傍に配設されている。
【0049】
図1および図2に示すように、クランクケース11から若干前傾して突設されたシリンダブロック12の後方で、クランクケース11の上壁の上方に、スタータモータ80が配設されている。
スタータモータ80は、左クランクケース11Lの上方に膨出した側壁に右方から駆動軸81を嵌入するようにして取り付けられており、駆動軸81が嵌入した側壁は左方から左ケースカバー50によって覆われる(図5参照)。
【0050】
図1および図5を参照して、駆動軸81とクランク軸20との間には、左クランクケース11Lと左ケースカバー50との間に架設された減速ギア軸82が設けられ、同減速ギア軸81に互いに一体に形成された大径ギア83aと小径ギア83bが回転自在に軸支され、その大径ギア83aが駆動軸81に形成されたスタータ駆動ギア81aと噛合するとともに、小径ギア83bがクランク軸20に軸支された前記スタータ被動ギア27と噛合している。
【0051】
したがって、スタータモータ80が駆動して駆動軸81に形成されたスタータ駆動ギア81aが回転すると、スタータ駆動ギア81aと噛合する大径ギア83aが小径ギア83bと一体に減速回転し、この小径ギア83bと噛合するスタータ被動ギア27が減速回転し、スタータ被動ギア27の回転が一方向クラッチ29を介してACジェネレータ30のアウタロータ30rをクランク軸20とともに回転し、内燃機関10の始動を行うことができる。
【0052】
右クランクケース11Rを外側から覆う内側右ケースカバー52と外側右ケースカバー53のうち内側右ケースカバー52には、右クランク軸体20Raの右軸端が挿入されている円筒ボス部52aの下方にオイルポンプ90が組み込まれている(図2,図3参照)。
図3に示すように、オイルポンプ90は共通のポンプ駆動軸93により駆動されるスカベンジポンプ91とフィードポンプ92からなる。
【0053】
内側右ケースカバー52には内側のスカベンジポンプ91と外側のフィードポンプ92を仕切る仕切壁を共通にして背中合わせにポンプハウジング52pが形成されており、ポンプハウジング52pの外側フィードポンプ92側の開口を外側右ケースカバー53が閉塞し、ポンプハウジング52pの内側スカベンジポンプ91側の開口は軸受蓋部材95が閉塞する(図3参照)。
【0054】
右クランクケース11Rの軸受壁11Rwには、ポンプ駆動軸93に同軸の対向する部位に円筒ボス部11Rsが右方に突出形成されており、同円筒ボス部11Rsに挿入され軸支されたギア軸96と同軸のポンプ駆動軸93とが軸受蓋部材95の円筒状軸受部内で連結されて一体に回転するようになっている。
【0055】
このギア軸96に嵌着されたポンプ被動ギア97が前記プライマリ駆動ギア36と噛合している。
したがって、クランク軸20の回転がプライマリ駆動ギア36とポンプ被動ギア97との噛合いを介してギア軸96およびポンプ駆動軸93に伝達されてスカベンジポンプ91およびフィードポンプ92が駆動される。
【0056】
概ね以上のように構成された内燃機関10において、クランク軸20の特に左クランク軸半体20Lのクランク軸体20Laに駆動チェーンスプロケット25やスタータ被動ギア27等の回転部材を組付ける構造について、以下図6ないし図15に基づき詳細に説明する。
図6は、駆動チェーンスプロケット25やスタータ被動ギア27等の左クランク軸半体20Lのクランク軸体20Laへの組付構造を示す要部断面図であり、図7はその分解断面図である。
【0057】
図6,図7および左クランク軸半体20Lの平面図である図8,同左クランク軸半体20Lを軸方向左側から視た側面図である図9を参照して、左クランク軸半体20Lのクランク軸体20Laは、クランクウエブ20Lwの付け根部から左軸端までに、左軸受壁11Lwにメタルベアリング23を介して軸支されるジャーナル部a1,段差a2,駆動チェーンスプロケット25がスプライン嵌合されるスプライン溝部a3,ナット部材26が螺合される雄ねじ部a4,スタータ被動ギア27がローラベアリング28を介して軸支される円柱部a5,ACジェネレータ30のアウタロータ30rと一体のフライホイール30fがテーパ嵌合される軸端に向けて徐々に小径となるテーパ部a6,段差a7,ナット部材32が螺合される雄ねじ部a8,ローラベアリング33を介して支持される支持円柱部a9の各部分が、順に形成されている。
【0058】
左クランク軸半体20Lのクランク軸体20Laは、段差a2,a7やテーパ部a6によりクランクウエブ20Lwの付け根部から左軸端にかけて漸次小径に形成されている。
したがって、クランク軸体20Laに駆動チェーンスプロケット25、スタータ被動ギア27およびACGロータ30Rなどの回転体を組付けるのが容易にでき組付性が良い。
なお、クランク軸体20Laのテーパ部a6には、一部にキー溝v1が掘削されている。
【0059】
左クランクケース11Lの左軸受壁11Lwに形成された軸受孔に埋設されたブッシュ22の内側に、メタルベアリング23を介して左クランク軸半体20Lのクランク軸体20Laのジャーナル部a1が嵌入されると、左軸受壁11Lwの左側面における軸受孔の周りの環状の軸受孔端面11sとクランク軸体20Laの段差a2が軸方向で略同じ位置になる(図6参照)。
左軸受壁11Lwの軸受孔端面11sに開口した軸受孔の内径を軸受孔内径Dcとする。
【0060】
左軸受壁11Lwの環状の軸受孔端面11sのうちクランク軸20に関して前記カム軸65と反対側部位である略下側部位に突出部100が突出形成されている。
突出部100は、クランク軸20(クランク軸体20La)とは反対側の面が傾斜面100sをなして楔状に突出量Pで突出している(図6,図7参照)。
突出部100の突出量Pは、軸受孔端面11sから先端までの軸方向幅である。
【0061】
クランク軸体20Laのスプライン溝部a3にスプライン嵌合される駆動チェーンスプロケット25は、図10および図11に示すように、カラー部材としても機能するもので、カラー部材としての円筒部25cの外周面に中心軸方向の一方(左方)に偏って拡径部であるスプロケット歯25tが突出形成されており、円筒部25cの内周面にはスプライン突条25sが形成されている。
【0062】
駆動チェーンスプロケット25の円筒部25c上のスプロケット歯25tの偏りは大きく、円筒部25cのスプロケット歯25tが偏った側の拡径部側端面25oからスプロケット歯25tまでの軸方向幅をWoとし、円筒部25cの拡径部側端面25oとは反対の反拡径部側端面25iからスプロケット歯25tまでの軸方向幅をWiとすると(図10,図11参照)、軸受孔端面11sの前記突出部100の突出量PがWoより大きく、Wiより小さい関係、すなわちWo<P<Wiの関係にある。
【0063】
駆動チェーンスプロケット25は、円筒部25cの反拡径部側端面25iを右側(左軸受壁11Lw)に向けてクランク軸体20Laに左側から嵌入し、クランク軸体20Laのスプライン溝部a3にスプライン突条25sがスプライン嵌合して反拡径部側端面25iがクランク軸体20Laのジャーナル部a1の端部の段差a2に当接される(図6参照)。
【0064】
駆動チェーンスプロケット25におけるスプロケット歯25tの歯先円の直径Dsは、左クランク軸半体20Lのジャーナル部a1の外径Djおよび軸受孔端面11sに開口した軸受孔の軸受孔内径Dcより大きい。
そのため、図6に示すように、軸受孔端面11sの突出部100は、駆動チェーンスプロケット25のスプロケット歯25tに対向して突出しており、スプロケット歯25tとの間にクリアランス幅Cを存する。
クリアランス幅Cは、反拡径部側端面25iからスプロケット歯25tまでの軸方向幅Wiから突出部100の突出量Pを差し引いた長さに相当する。
【0065】
このクリアランス幅Cは、図6に示すように、カムチェーン69をスプロケット歯25tに巻き掛けたときに、カムチェーン69が突出部100に近接する程度の幅である。
したがって、駆動チェーンスプロケット25をクランク軸体20Laに嵌入して組付けたときに、スプロケット歯25tと突出部100との間のクリアランス幅Cを見れば、クリアランス幅Cがスプロケット歯25tにカムチェーン69を巻き掛ければカムチェーン69が突出部100に近接する程度の幅である所定のクリアランス幅であるか否かが容易に分かり、所定のクリアランス幅と明らかに異なるようであると組付け順序を間違えるなどして誤組されていると容易に判断できる。
【0066】
また、駆動チェーンスプロケット25は、円筒部25cの反拡径部側端面25iを左軸受壁11Lwに向けてクランク軸体20Laに嵌入する組付けが正しいのであるが、誤って円筒部25cの拡径部側端面25oを左軸受壁11Lwに向けてクランク軸体20Laに嵌入すると、拡径部側端面25oからスプロケット歯25tまでの軸方向幅Woが突出部100の突出量Pより小さいので、拡径部側端面25oがクランク軸体20Laの段差a2に当接する前にスプロケット歯25tが突出部100に当たってしまって駆動チェーンスプロケット25をスプライン溝部a3に正しく嵌合できないため、誤組であることを容易に知ることができる。
【0067】
このように、駆動チェーンスプロケット25をクランク軸体20Laに正しく嵌入した後は、ナット部材26をクランク軸体20Laの雄ねじ部a4に螺合して駆動チェーンスプロケット25を段差a2との間に締め付けて固定する。
ナット部材26は、図12および図13に示すように、駆動チェーンスプロケット25に接する端面側(右側)に最大外径の六角外周面を有する被操作部26aが形成され、反対の端面側(左側)に同被操作部26aから外径を縮径した外径Dnの突出円筒部26bが形成されており、被操作部26aと突出円筒部26bの双方の共通の内周面に雌ねじ26sが形成されている。
【0068】
このナット部材26により駆動チェーンスプロケット25が固定された後に、スタータ被動ギア27がローラベアリング28を介装してクランク軸体20Laの円柱部a5に嵌入される。
図6,図7および図14を参照して、スタータ被動ギア27は、円筒ボス部27bの駆動チェーンスプロケット25側(右側)の端面に沿って遠心方向に延出してギア部27gが形成されている。
【0069】
スタータ被動ギア27のローラベアリング28を収容するベアリング収容孔27dの内径Dgは、駆動チェーンスプロケット25の突出円筒部26bの外径Dnより若干大きい。
円筒ボス部27bのギア部27g側のベアリング収容孔27dの開口端面は縁取りされて浅く凹んだ内径Dhの環状凹部27hが形成されている。
環状凹部27hの内径Dhは、ベアリング収容孔27dの内径Dgより大きいので、当然駆動チェーンスプロケット25の突出円筒部26bの外径Dnより大きい。
【0070】
このようなスタータ被動ギア27がローラベアリング28を介てクランク軸体20Laの円柱部a5に嵌入されると、図6に示すように、ナット部材26の外径Dnの突出円筒部26bがスタータ被動ギア27の内径Dhの環状凹部27hに僅かに侵入して内径Dgのベアリング収容孔27dに臨んでローラベアリング28に対向する。
したがって、スタータ被動ギア27とナット部材26との間には環状の空隙が形成され、同空隙はベアリング収容孔27dに収容されたローラベアリング28と外部とを連通する。
【0071】
クランク軸体20Laの雄ねじ部a4に螺合されるナット部材26は、右端面で駆動チェーンスプロケット25を固定して軸方向移動を規制するとともに、ナット部材26の左端面でローラベアリング28のナット部材側への軸方向移動を規制することができ、ローラベアリング28のスラスト受け専用の介装部材を必要とせず部品点数が少ないとともに、ナット部材26が駆動チェーンスプロケット25を移動規制したままスタータ被動ギア27を外すことが可能でメンテナンス性が良好である。
【0072】
ナット部材26がクランク軸20に螺合される構造なので、クランク軸体20La自体の必要な剛性を確保して軸径を小さくでき、駆動チェーンスプロケット25やスタータ被動ギア27の小型化を図ることができる。
【0073】
また、ローラベアリング28はクランク軸体20Laの円柱部a5に直接嵌合されて内径は小さく、駆動チェーンスプロケット25もクランク軸体20Laのスプライン溝a2にスプライン嵌合して内径は小さいので、ナット部材26は外径が小径であっても駆動チェーンスプロケット25を固定しローラベアリング28の軸方向移動を規制することができる。
【0074】
スタータ被動ギア27の円筒ボス部27bの外周に一方向クラッチ29が嵌合され、一方向クラッチ29の外輪部29oがフライホイール30fにアウタロータ30rととともにボルト30bにより一体に固着支持される。
フライホイール30fの円筒ボス部30fbの内周がテーパ内周面30tをなし、このフライホイール30fの円筒ボス部30fbがクランク軸体20Laのテーパ部a6にテーパ嵌合されてACGロータ30Rが支持される。
【0075】
テーパ内周面30tには一部にキー溝v2が掘削されていて、クランク軸体20Laのテーパ部a6に形成されたキー溝v1とフライホイール30fのテーパ内周面30tに形成されたキー溝v2の双方にキー部材34が介装されることで、クランク軸体20LaとACGロータ30Rの相対回転が確実に阻止され一体に回転することになる。
【0076】
こうしてクランク軸体20Laのテーパ部a6に嵌合されたフライホイール30fの円筒ボス部30fbの左端面にワッシャ31を当てナット部材32をクランク軸体20Laの雄ねじ部a8に螺合してフライホイール30fを緊締する。
【0077】
ACジェネレータ30のACGロータ30Rは、フライホイール30fのテーパ内周面30tがクランク軸体20Laのテーパ部a6にテーパ嵌合され、クランク軸体20LaのACGロータ30Rより突出した部分に形成された雄ねじ部a8に螺合されるナット部材32によりACGロータ30Rが締め付けクランク軸体20Laに固定されるので、クランク軸20を小径化しつつ剛性を確保することができる。
【0078】
ナット部材26は、最大外径の六角外周面を有する被操作部26aが形成されるので、被操作部26aを操作してナット部材26を着脱するのが容易であり作業性が良い。
そして、ナット部材26は、被操作部26aから外径を縮径した突出円筒部26bを備え、一端面で駆動チェーンスプロケット25を固定し、他端面でスタータ被動ギア27の軸方向移動を規制するので、ナット部材26の螺合するねじ長さを確保しつつ駆動チェーンスプロケット25にスタータ被動ギア27を近づけることができ、クランク軸20の軸方向長さを短く小型化できる。
【0079】
図6に示すように、ナット部材26の外径Dnの突出円筒部26bがスタータ被動ギア27の内径Dhの環状凹部27hに僅かに侵入して内径Dgのベアリング収容孔27dに臨んでローラベアリング28に対向し、スタータ被動ギア27とナット部材26との間には環状の空隙が形成されているので、ナット部材26の被操作部26aに付着したオイルが突出円筒部26b側に流れると、オイルはベアリング収容孔27dの内部に導かれローラベアリング28の潤滑に供せられる。
【0080】
またさらに、スタータモータ80の駆動により回転するスタータ被動ギア27の円筒ボス部27bとACジェネレータ30のクランク軸20に一体に固定されるACGロータ30Rのフライホイール30fとの間に、一方向クラッチ29が介装されていて、スタータ被動ギア27は始動時以外は回転せず停止状態にあるため、スタータ被動ギア27の上部に付着したオイルもスタータ被動ギア27のギア部27gの右側面を伝わって流下し、環状凹部27hからナット部材26との間の空隙を通ってスタータ被動ギア27のベアリング収容孔27dに導かれローラベアリング28の潤滑に供せられる。
【0081】
クランク軸20のジャーナル部a1がメタルベアリング23を介してクランクケースに回転自在に軸支されるので、小径の軸受孔によりクランク軸20が良好に軸支されるとともに、このクランク軸20に支持される駆動チェーンスプロケット25のスプロケット歯25tはジャーナル部a1の外径Djより大きい十分な歯先円の直径Dsを備えてカムチェーン69を掛け渡すことができ、大径のスプロケット歯25tにより回転タイミング精度を向上させることができる。
【0082】
また、駆動チェーンスプロケット25は、円筒部25cの反拡径部側端面25iがクランク軸20のジャーナル部a1の端部に形成された段差a2に当接され、他方の拡径部側端面25oがナット部材26により押圧されてクランク軸体20Laに固定されるので、ジャーナル部a1に近接して駆動チェーンスプロケット25が配置されるため、駆動チェーンスプロケット25がクランク軸体20Laの撓みの影響を受け難く軸心の変動がなく、カムチェーン69により動力伝達されるカム軸65の回転タイミング精度を益々良好に維持することができる。
【符号の説明】
【0083】
10…内燃機関、11…クランクケース、11C…クランク室、11M…ミッション室、11P…オイル溜め、11L…左クランクケース、11R…右クランクケース、11Lw,11Rw…軸受壁、12…シリンダブロック、12a…シリンダ、12b…シリンダボア、13…シリンダヘッド、14…シリンダヘッドカバー、16…ピストン、17…ピストンピン、18…コンロッド、19…点火栓、
20…クランク軸、20L,20R…クランク軸半体、20La,20Ra…クランク軸体、20Lw,20Rw…クランクウエブ、a1…ジャーナル部、a2…段差、a3…スプライン溝部、a4…雄ねじ部、a5…円柱部、a6…テーパ部、a7…段差、a8…雄ねじ部、a9…支持円柱部、21…クランクピン、22…軸受ブッシュ、23…メタルベアリング、25…駆動チェーンスプロケット、26…ナット部材、27…スタータ被動ギア、28…ローラベアリング、29…一方向クラッチ、30…ACジェネレータ、30R…ACGロータ、30r…アウタロータ、30f…フライホイール、30s…インナステータ、31…ワッシャ、32…ナット部材、33…ローラベアリング、34…キー部材、35…バランサ駆動ギア、36…プライマリ駆動ギア、37…ワッシャ、38…ナット部材、
40…変速機、41…メイン軸、42…カウンタ軸、43…出力スプロケット、44…駆動チェーン、45…プライマリ被動ギア、46…変速クラッチ、47…バランサ、47w…バランスウエイト、48…バランサ軸、
50…左ケースカバー、52…内側右ケースカバー、53…外側右ケースカバー、
60…動弁機構、61…吸気弁、62…排気弁、65…カム軸、66e,66i…ロッカアームシャフト、67i…吸気ロッカアーム、67e…排気ロッカアーム、68…被動チェーンスプロケット、69…カムチェーン、
71,72…シフトフォーク軸、71a、72a,72b…シフトフォーク、73…シフトドラム、74…変速駆動機構、75…シフトスピンドル、76…チェンジアーム、77…シフタプレート、78…ピンプレート、
80…スタータモータ、81…駆動軸、81a…スタータ駆動ギア、82…減速ギア軸、83a…大径ギア、83b…小径ギア、
90…オイルポンプ、91…スカベンジポンプ、92…フィードポンプ、93…ポンプ駆動軸、95…軸受蓋部材、96…ギア軸、97…ポンプ被動ギア、
100…突出部、100s…傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に一体回転可能に支持される一体回転部材と前記回転軸にローラベアリングを介して相対回転自在に軸支される相対回転部材の軸方向の移動を規制する回転部材のスラスト受け構造において、
前記回転軸の前記一体回転部材と前記相対回転部材との間に形成された雄ねじ部にナット部材が螺合され、前記ナット部材の一端面が前記一体回転部材の軸方向移動を規制し、前記ナット部材の他端面が前記ローラベアリングの前記ナット部材側への軸方向移動を規制することを特徴とする回転部材のスラスト受け構造。
【請求項2】
前記一体回転部材は、前記回転軸の外周面に形成されたスプライン溝にスプライン嵌合して支持され、
前記ローラベアリングは、前記回転軸の外周面に直接嵌合して支持されることを特徴とする請求項1記載の回転部材のスラスト受け構造。
【請求項3】
前記ナット部材は、前記一体回転部材の軸方向移動を規制する一端面側に最大外径の被操作部が形成され、前記ローラベアリングの軸方向移動を規制する他端面側に外径を縮径した突出円筒部が形成され、
前記突出円筒部の外径は、前記相対回転部材の前記ローラベアリングを収容するベアリング収容孔の内径より小さく、
前記ナット部材は、前記突出円筒部が前記ベアリング収容孔に臨む位置に配置されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の回転部材のスラスト受け構造。
【請求項4】
前記回転軸は、内燃機関のクランク軸であり、ジャーナル部がメタルベアリングを介してクランクケースに回転自在に軸支され、
前記一体回転部材は、カム軸との間でカムチェーンが掛け渡される駆動チェーンスプロケットであり、同駆動チェーンスプロケットのスプロケット歯がなす歯先円の直径が前記クランク軸のジャーナル部の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかの項記載の回転部材のスラスト受け構造。
【請求項5】
前記クランク軸は、ジャーナル部から軸端に向けて外周面が段差およびテーパ部により漸次小径に形成され、
前記駆動チェーンスプロケットは、軸方向一端面が前記クランク軸の前記ジャーナル部の端部に形成された段差に当接され、前記ナット部材により他端面が押圧されて前記クランク軸に固定されることを特徴とする請求項4記載の回転部材のスラスト受け構造。
【請求項6】
前記相対回転部材は、スタータモータの駆動により回転するスタータ被動ギアであり、
前記スタータ被動ギアの円筒ボス部とACジェネレータの前記クランク軸に一体に固定されるACGロータとの間に一方向クラッチが介装されることを特徴とする請求項4または請求項5記載の回転部材のスラスト受け構造。
【請求項7】
前記ACジェネレータのACGロータは、テーパ内周面が前記クランク軸に形成された前記テーパ部のテーパ外周面にテーパ嵌合され、
前記クランク軸の前記ACGロータより突出した部分に形成された雄ねじ部に螺合される第2のナット部材により前記ACGロータが前記クランク軸に固定されることを特徴とする請求項6記載の回転部材のスラスト受け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−174516(P2011−174516A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38217(P2010−38217)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】