説明

回転電機のブレーキ装置

【課題】コイルの発熱又は設置場所の気温の低下によってブレーキ装置が熱伸縮するのにともない、ブレーキ解放状態でのブレーキドラムの外周面と摩擦部材との距離が変化するのに応じて、この距離を自動的に調整できる回転電機のブレーキ装置を得る。
【解決手段】回転電機のブレーキ装置は、基体と、基体に設けられるとともにコイルが巻装された固定子と、固定子の内側に回転可能に基体に設けられた回転子と、回転子に併設されるとともに回転子と一体に回転するブレーキドラムと、ブレーキドラムの外周面に圧接、離間される摩擦部材を有し、ブレーキドラムの外周側に位置するように基体に設けられた駆動部と、基体、ブレーキドラム、駆動部が熱伸縮するのに応じて長さが熱伸縮することにより、離間した状態での外周面と摩擦部材の距離を調整する距離調整手段とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転電機のブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機のブレーキ装置として、外接式ドラムブレーキ装置がある。基体にはコイルが巻装された固定子が設けられ、その内側に回転子が設けられている。回転子にはブレーキドラムが併設されており、回転子とブレーキドラムは一体になって回転する。また、ブレーキドラムの外周側に位置するようにブレーキ装置の駆動部が基体に設けられている。そして、駆動部が、制動面であるブレーキドラム外周面に摩擦部材を押し付けたり、引き離したりしてブレーキ制動と解放を行う。
【0003】
ブレーキ解放状態での制動面と摩擦部材との距離については、距離が小さすぎるとブレーキ解放時でもブレーキ装置の誤差のために、摩擦部材が制動面に接触することがある。また、距離が大きすぎると、ブレーキ制動時に、制動開始までの時間が長くなってしまうとともに摩擦部材が制動面へ衝突する音が大きくなる。これらを防止するために、制動面と摩擦部材との距離について設定された基準値内に入るように調整している。
(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−38276(第5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回転電機が頻繁に稼動するとコイルの発熱により回転電機のブレーキ装置の温度が上がる。これにともない、基体とブレーキドラムと駆動部とは鉄を主成分とする材料が用いられているので、それぞれ同程度に膨張して長さが長くなる。そして、ブレーキドラムの制動面と摩擦部材との距離が長くなる。
【0006】
また、回転電機の設置場所の気温が下がると回転電機のブレーキ装置の温度が下がり、基体とブレーキドラムと駆動部とは、それぞれ同程度に収縮して長さが短くなる。そして、ブレーキドラムの制動面と摩擦部材との距離が短くなる。
【0007】
このため制動面と摩擦部材との距離の基準値は、回転電機のブレーキ装置の熱伸縮による距離の変動分を考慮して範囲を狭く設定してあり、調整作業に精密さが要求され手間が掛かる。
【0008】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたもので、コイルの発熱又は設置場所の気温の低下によってブレーキ装置が熱伸縮するのにともない、ブレーキ解放状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材との距離が変化するのに応じて、この距離を自動的に調整できる回転電機のブレーキ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る回転電機のブレーキ装置は、基体と、基体に設けられるとともにコイルが巻装された固定子と、固定子の内側に回転可能に基体に設けられた回転子と、回転子に併設されるとともに回転子と一体に回転するブレーキドラムと、ブレーキドラムの外周面に圧接、離間される摩擦部材を有し、ブレーキドラムの外周側に位置するように基体に設けられた駆動部と、基体、ブレーキドラム、駆動部が熱伸縮するのに応じて長さが熱伸縮することにより、離間した状態での外周面と摩擦部材の距離を調整する距離調整手段と、を備えている。
【0010】
本発明によれば、コイルの発熱により基体、ブレーキドラム、駆動部は温度が上昇して長さが長くなり、離間した状態での外周面と摩擦部材の距離が長くなる。一方で、コイルの発熱により距離調整手段の温度も上昇して長さが長くなることにより、離間した状態での外周面と摩擦部材の距離を調整する。
【0011】
また、回転電機のブレーキ装置の設置場所の気温が下がると基体、ブレーキドラム、駆動部は温度が低下して長さが短くなり、離間した状態での外周面と摩擦部材の距離が短くなる。一方で、気温の低下により距離調整手段の温度も低下して長さが短くなることにより、離間した状態での外周面と摩擦部材の距離を調整する。
【0012】
このように、コイルの発熱又は設置場所の気温の低下によってブレーキ装置が熱伸縮するのにともない、ブレーキ解放状態でのブレーキドラムの外周面と摩擦部材との距離が変化するのに応じて、この距離を自動的に調整できる。
【0013】
本発明に係る回転電機のブレーキ装置は、基体、ブレーキドラム、駆動部の材料は鉄が主成分であり、距離調整手段は、鉄が主成分の材料とは熱膨張率が異なる材料からなる温度補償部材を有し、温度補償部材を介して摩擦部材が駆動部に設けられていることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、コイルの発熱により基体、ブレーキドラム、駆動部は温度が上昇して長さが長くなるため、ブレーキドラム外周面と駆動部との距離が長くなるるとともに離間した状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材の距離が長くなる。
一方で、ブレーキドラム外周面と駆動部との間に位置するように駆動部に設けられた温度補償部材もコイルの発熱により温度が上昇して長さが長くなって、離間した状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材の距離が短くなる。
【0015】
また、回転電機のブレーキ装置の設置場所の気温が下がると基体、ブレーキドラム、駆動部は温度が低下して長さが短くなるため、ブレーキドラム外周面と駆動部との距離が短くなるとともに離間した状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材の距離が短くなる。
一方で、ブレーキドラム外周面と駆動部との間に位置するように駆動部に設けられた温度補償部材も気温の低下により温度が低下して長さが短くなって、離間した状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材の距離が長くなる。
【0016】
ところで、温度変化により伸縮する寸法は、伸縮する部分の長さ寸法と伸縮部材料の熱膨張率との積で決まる。
そして、伸縮する部分の長さ寸法は、ブレーキドラム外周面と駆動部との距離よりも、ブレーキドラム外周面と駆動部の間に設けられた温度補償部材の長さの方が短い。
一方で、基体、ブレーキドラム、駆動部と温度補償部材とは熱膨張率が異なる材料を用いる。
【0017】
このため、ブレーキドラム外周面と駆動部との距離及び温度補償部材の長さを予め所定の寸法とし、また、温度補償部材の材料についても予め所定の熱膨張率の材料を選定しておく。
これにより、伸縮する寸法を所望の値にすることができる。
従って、ブレーキ装置が温度変化した場合でも、離間した状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材の距離を調整することができる。
【0018】
このように、基体、ブレーキドラム、駆動部の材料とは熱膨張率が異なる材料からなる温度補償部材を介して摩擦部材を駆動部に設けるという簡易な構成にて、ブレーキ解放状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材との距離が熱伸縮するのに応じて、この距離を自動的に調整できる。
【0019】
本発明に係る回転電機のブレーキ装置は、駆動部が固定鉄心及びブレーキコイルを備え、
固定子及び固定鉄心の少なくともいずれか一方と温度補償部材とが、基体よりも熱輸送能力の高い熱輸送手段にて連結されていることが好ましい。
【0020】
本発明によれば、回転電機が駆動されるのにともないコイルから発生する熱を熱輸送手段にて温度補償部材に伝える。また、回転電機が駆動される際には、ブレーキ解放のためにブレーキコイルも通電され発熱するので、この熱を熱輸送手段にて温度補償部材に伝える。
【0021】
このように、例えば基体の長さが長いために基体を経由してコイルの熱が温度補償部材まで伝わりにくい場合に、コイル及びブレーキコイルにて発生する熱を温度補償部材に伝えて温度補償部材の温度を上げて長さを長くできる。
従って、ブレーキ解放状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材との距離が熱で伸長するのに応じて、この距離を自動的に調整できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コイルの発熱又は設置場所の気温の低下によってブレーキ装置が熱伸縮するのにともない、ブレーキ解放状態でのブレーキドラム外周面と摩擦部材との距離が変化するのに応じて、この距離を自動的に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態を示す回転電機のブレーキ装置の断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】本発明の他の実施の形態を示す回転電機のブレーキ装置の断面図である。
【図4】図3の部分拡大図である。
【図5】本発明の他の実施の形態を示す回転電機のブレーキ装置のコイル及び駆動部近傍の拡大図である。
【図6】本発明の他の実施の形態を示す回転電機のブレーキ装置の駆動部近傍の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施の形態1.
本発明の一実施の形態を図1、図2により説明する。図1は本発明の一実施の形態を示す回転電機のブレーキ装置の断面図である。図2は図1の部分拡大図であり、回転電機のブレーキ装置の温度が低温、常温、高温の場合の状態を示している。
【0025】
図1において、基体1には、板部材1aの片面側に円筒部1bが設けられており、円筒部1bの内側には、コイル2aが巻装された固定子2が設けられている。
【0026】
円筒部1bの中心線部に突出するように板部材1aに設けられた軸3には、軸受4を介して回転子5が回転可能に設けられており、回転子5の外周面には固定子2に対向するように磁石5aが設けられている。コイル2aに通電されると回転子5が回転する。回転子5の反板部材1a側には、ブレーキドラム6が一体に回転可能に設けられている。
基体、ブレーキドラムは、鉄を主成分とする材料を用いている。
【0027】
円筒部1bの外周部に設けられた取付部1cにはブレーキ装置の駆動部7が取り付けられている。また、距離調整手段として駆動部7には温度補償部材8を介して摩擦部材9が取付けられている。そして、駆動部7によって、摩擦部材9はブレーキドラム6の外周面に圧接、離間される。
温度補償部材8は、例えば金属材料ではアルミニウム合金、鉛、亜鉛など、鉄を主成分とする材料より熱膨張率が大きい材料を用いる。また、温度補償部材8は、例えばゴム系材料、或いはアクリル樹脂など樹脂材料を用いても良い。
【0028】
駆動部7の構成としては、取付部1cに取付けられた固定鉄心10にブレーキコイル11とバネ12が設けられているとともに、固定鉄心10に接離する方向に変位可能な可動鉄心13が設けられている。可動鉄心13に温度補償部材8を介して摩擦部材9が取付けられている。固定鉄心10、可動鉄心13は、鉄を主成分とする材料を用いている。
【0029】
ブレーキ制動してブレーキドラム6と回転子5の回転を制動する場合は、ブレーキコイル11への電気を遮断すると、バネ12の付勢力により可動鉄心13が摩擦部材9をブレーキドラム6に圧接する。
【0030】
ブレーキ解放してブレーキドラム6と回転子5を回転可能にする場合は、ブレーキコイル11に通電し、バネ12の付勢力に抗して可動鉄心13を固定鉄心10に吸引することにより摩擦部材9をブレーキドラム6から引き離す。
【0031】
図1は、ブレーキ解放状態を示しており、可動鉄心13とブレーキドラム6の間には距離Xが開いており、摩擦部材9とブレーキドラム6との間には距離Gが開いている。なお、可動鉄心13が固定鉄心10に接離する方向の温度補償部材8の厚さをTとする。
【0032】
図2は、図1の部分拡大図である。図2(a)は、回転電機のブレーキ装置の設置場所の気温が低いために、回転電機のブレーキ装置の温度が低い場合の状態を示している。図2(b)は、回転電機とブレーキ装置が常温の場合の状態を示している。図2(c)は、回転電機が頻繁に稼動してコイル2aの発熱が多いために、回転電機とブレーキ装置の温度が高い場合の状態を示している。
【0033】
常温時に比べると低温時では、基体1、ブレーキドラム6、固定鉄心10、可動鉄心13は、それぞれ鉄を主成分とする材料で作られており、熱膨張率が同程度であるため、同程度の割合で収縮している。
【0034】
このため、ブレーキ解放状態での可動鉄心13とブレーキドラム6との距離Xについても同程度の割合で収縮し、低温時の距離X1は常温時の距離X2より短くなっている。
また、温度補償部材8の厚さTについても収縮しており、低温時の厚さT1が常温時の厚さT2より薄くなっている。
【0035】
ところで、温度変化により伸縮する寸法は、伸縮する部分の長さ寸法と伸縮部材料の熱膨張率との積で決まる。そして、距離Xと厚さTの寸法を比べると、厚さTの方が値が小さい。一方、温度補償部材8は基体1などの鉄を主成分とする材料よりも熱膨張率が大きい材料を用いている。
【0036】
このため、距離Xと厚さTとの寸法を予め所定の寸法とし、また、温度補償部材8の材料についても予め所定の熱膨張率の材料を選定しておく。これにより、距離Xの収縮寸法(X2−X1)と厚さTの収縮寸法(T2−T1)とを所望の値にすることができる。
従って、ブレーキドラム6と摩擦部材9との距離Gについて、低温時の距離G1が常温時の距離G2と同程度になるように自動で調整することができる。
【0037】
次に温度上昇した場合について説明する。
常温時に比べると高温時では、基体1、ブレーキドラム6、固定鉄心10、可動鉄心13は、それぞれ鉄を主成分とする材料で作られており、熱膨張率が同程度であるため、同程度の割合で膨張している。
【0038】
このため、ブレーキ解放状態での可動鉄心13とブレーキドラム6との距離Xについても同程度の割合で膨張し、高温時の距離X3は常温時の距離X2より長くなっている。
また、温度補償部材8の厚さTについても膨張しており、高温時の厚さT3が常温時の厚さT2より厚くなっている。
【0039】
そして、温度上昇時も、温度低下時と同様に、距離Xと厚さTとの寸法を予め所定の寸法とし、また、温度補償部材8の材料についても予め所定の熱膨張率の材料を選定しておくことにより、距離Xの膨張寸法(X3−X2)と厚さTの膨張寸法(T3−T2)とを所望の値にすることができる。
従って、ブレーキドラム6と摩擦部材9との距離Gについて、高温時の距離G3が常温時の距離G2と同程度になるように自動で調整することができる。
【0040】
このように構成された回転電機のブレーキ装置によれば、コイルの発熱又は設置場所の気温の低下によってブレーキ装置が熱伸縮するのにともない、ブレーキ解放状態でのブレーキドラム6の外周面と摩擦部材9との距離Gが変化するのに応じて、この距離Gを自動的に調整できる。
【0041】
これにともない、ブレーキドラム6の外周面と摩擦部材9との距離Gを、例えば保守時に調整する際の基準値は、ブレーキ装置の熱伸縮による距離Gの変動分を考慮する必要が無く、広く設定できる。そして、基準値が広がることにより、調整作業が容易になる。
【0042】
実施の形態2.
本発明の第2の実施の形態を図3、図4により説明する。図3は本発明の第2の実施の形態を示す回転電機のブレーキ装置の断面図である。図4は図3の部分拡大図であり、回転電機のブレーキ装置の温度が低温、常温、高温の場合の状態を示している。
なお、他の実施の形態と同一符号の構成品は、本実施の形態において同一部分を示し、説明を省略する。
【0043】
図3において、可動鉄心13にはブレーキドラム6に圧接、離間される摩擦部材29が設けられている。可動鉄心13をブレーキドラム6側へ付勢するバネ12を受けるように温度補償部材28が固定鉄心10に設けられている。
【0044】
また、固定鉄心10の可動鉄心13対向面にも温度補償部材28が設けられている。つまり、ブレーキコイル11に通電して可動鉄心13を固定鉄心10側へ吸引した場合には、固定鉄心10に設けられた温度補償部材28に可動鉄心13が当接する。
なお、可動鉄心13が固定鉄心10に接離する方向の温度補償部材28の厚さをtとすると、バネ12を受ける温度補償部材28と可動鉄心13が当接する温度補償部材28との厚さtは、同じ寸法にしてある。
【0045】
図3は、ブレーキ解放状態を示しており、ブレーキドラム6と摩擦部材29の間には距離gが開いており、固定鉄心10とブレーキドラム6の間には距離Yが開いている。
【0046】
図4は、図3の部分拡大図である。図4(a)は、回転電機のブレーキ装置の設置場所の気温が低いために、回転電機のブレーキ装置の温度が低い場合の状態を示している。図4(b)は、回転電機とブレーキ装置が常温の場合の状態を示している。図4(c)は、回転電機が頻繁に稼動してコイル2aの発熱が多いために、回転電機のブレーキ装置の温度が高い場合の状態を示している。
【0047】
温度補償部材28は、例えば金属材料ではアルミニウム合金、鉛、亜鉛など、鉄を主成分とする材料より熱膨張率が大きい材料を用いる。また、温度補償部材28は、例えばゴム系材料、或いはアクリル樹脂など樹脂材料を用いても良い。
【0048】
常温時に比べると低温時では、基体1、ブレーキドラム6、固定鉄心10、可動鉄心13は、それぞれ鉄を主成分とする材料で作られており、熱膨張率が同程度であるため、同程度の割合で収縮している。
【0049】
このため、ブレーキ解放状態での固定鉄心10とブレーキドラム6との距離Yについても同程度の割合で収縮し、低温時の距離Y1は常温時の距離Y2より短くなっている。
また、温度補償部材28の厚さtについても収縮しており、低温時の厚さt1が常温時の厚さt2より薄くなっている。
【0050】
ところで、温度変化により伸縮する寸法は、伸縮する部分の長さ寸法と伸縮部材料の熱膨張率との積で決まる。そして、距離Yと厚さtの寸法を比べると、厚さtの方が値が小さい。一方、温度補償部材28は基体1などの鉄を主成分とする材料よりも熱膨張率が大きい材料を用いている。
【0051】
このため、距離Yと厚さtとの寸法を予め所定の寸法とし、また、温度補償部材28の材料についても予め所定の熱膨張率の材料を選定しておく。これにより、距離Yの収縮寸法(Y2−Y1)と温度補償部材28の厚さの収縮寸法(t2−t1)とを所望の値にすることができる。
従って、ブレーキドラム6と摩擦部材9との距離gについて、低温時の距離g1が常温時の距離g2と同程度になるように自動で調整することができる。
【0052】
次に温度上昇した場合について説明する。
常温時に比べると高温時では、基体1、ブレーキドラム6、固定鉄心10、可動鉄心13は、それぞれ鉄を主成分とする材料で作られており、熱膨張率が同程度であるため、同程度の割合で膨張している。
【0053】
このため、ブレーキ解放状態での固定鉄心10とブレーキドラム6との距離Yについても同程度の割合で膨張し、高温時の距離Y3は常温時の距離Y2より長くなっている。
また、温度補償部材28の厚さtについては、高温時の厚さt3が常温時の厚さt2より厚くなっている。
【0054】
そして、温度上昇時も、温度低下時と同様に、距離Yと厚さtとの寸法を予め所定の寸法とし、また、温度補償部材28の材料についても予め所定の熱膨張率の材料を選定しておくことにより、距離Yの膨張寸法(Y3−Y2)と厚さtの膨張寸法(t3−t2)とを所望の値にすることができる。
従って、ブレーキドラム6と摩擦部材29との距離gについて、高温時の距離g3が常温時の距離g2と同程度になるように自動で調整することができる。
【0055】
このように構成された回転電機のブレーキ装置によれば、コイルの発熱又は設置場所の気温の低下によってブレーキ装置が熱伸縮するのにともない、ブレーキ解放状態でのブレーキドラム6の外周面と摩擦部材29との距離gが変化するのに応じて、この距離gを自動的に調整できる。
なお、バネ12を受ける部分にも温度補償部材28が設けてあるため、バネ12の付勢力も自動で調整できる。
【0056】
実施の形態3.
本発明の第3の実施の形態を図5により説明する。図5は本発明の第3の実施の形態を示す回転電機のブレーキ装置のコイル11及び駆動部7近傍の拡大図である。
なお、他の実施の形態と同一符号の構成品は、本実施の形態において同一部分を示し、説明を省略する。
【0057】
本実施の形態では、実施の形態1の構成品に加えて、固定子2と温度補償部材8とを連結する熱輸送手段としてのヒートパイプ17が設けられている。
そして、回転電機が稼動することによりコイル2aにて発生した熱を、ヒートパイプ17が温度補償部材8に伝える。
【0058】
これにより、コイル2aが発生する熱で基体1は温度が上昇して膨張する一方で、例えば取付部1cの長さが長いために熱が温度補償部材8まで伝わりにくい場合に、熱を温度補償部材8に伝え、温度補償部材8の温度を上げて膨張させることができる。
従って、コイル2aが発生する熱によってブレーキ装置が膨張するのにともない、ブレーキ解放状態でのブレーキドラム6の外周面と摩擦部材9との距離Gが長くなるのに応じて、この距離Gを自動的に調整できる。
【0059】
実施の形態4.
本発明の第4の実施の形態を図6により説明する。図6は本発明の第4の実施の形態を示す回転電機のブレーキ装置の駆動部7近傍の拡大図である。
なお、他の実施の形態と同一符号の構成品は、本実施の形態において同一部分を示し、説明を省略する。
【0060】
本実施の形態では、実施の形態1の構成品に加えて、ブレーキコイル11と温度補償部材8とを連結する熱輸送手段としてのヒートパイプ18が設けられている。
そして、回転電機を稼動中は、ブレーキ解放のためにブレーキコイル11に通電されているので、ブレーキコイル11にて発生した熱をヒートパイプ18が温度補償部材8に伝える。
【0061】
これにより、コイル2aが発生する熱で基体1は温度が上昇して膨張する一方で、例えば取付部1cの長さが長いためにコイル2aの熱が温度補償部材8まで伝わりにくい場合に、ブレーキコイル11の熱を温度補償部材8に伝え、温度補償部材8の温度を上げて膨張させることができる。
従って、コイル2aが発生する熱によってブレーキ装置が膨張するのにともない、ブレーキ解放状態でのブレーキドラム6の外周面と摩擦部材9との距離Gが長くなるのに応じて、この距離Gを自動的に調整できる。
【0062】
なお、実施の形態1から実施の形態4では、温度補償部材8、温度補償部材28は、鉄を主成分とする材料より熱膨張率が大きい材料を用いることとしたが、熱膨張率が鉄を主成分とする材料と同じ材料又は小さい材料を用いても良い。
温度変化にともない伸縮する寸法は、伸縮部の長さ寸法と伸縮部材料の熱膨張率との積で決まるので、この両者を予め所定の値に設定しておく。これにより、温度変化にともない回転電機のブレーキ装置が伸縮しても、ブレーキドラム6と摩擦部材9との距離を自動的に調整することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 基体、 1a 板部材、 1b 円筒部、 1c 取付部、 2 固定子、
2a コイル、 5 回転子、 6 ブレーキドラム、 7 駆動部、
8 温度補償部材、 9 摩擦部材、 10 固定鉄心、 11 ブレーキコイル、
13 可動鉄心、 17 ヒートパイプ、 18 ヒートパイプ、 28 温度補償部材、 29 摩擦部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体に設けられるとともにコイルが巻装された固定子と、
前記固定子の内側に回転可能に前記基体に設けられた回転子と、
前記回転子に併設されるとともに前記回転子と一体に回転するブレーキドラムと、
前記ブレーキドラムの外周面に圧接、離間される摩擦部材を有し、
前記ブレーキドラムの外周側に位置するように前記基体に設けられた駆動部と、
前記基体、前記ブレーキドラム、前記駆動部が熱伸縮するのに応じて長さが熱伸縮することにより、前記離間した状態での前記外周面と前記摩擦部材の距離を調整する距離調整手段と、
を備えたことを特徴とする回転電機のブレーキ装置。
【請求項2】
前記基体、前記ブレーキドラム、前記駆動部の材料は鉄が主成分であり、
前記距離調整手段は、前記鉄が主成分の材料とは熱膨張率が異なる材料からなる温度補償部材を有し、
前記温度補償部材を介して前記摩擦部材が前記駆動部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機のブレーキ装置。
【請求項3】
前記駆動部が固定鉄心及びブレーキコイルを備え、
前記固定子及び前記固定鉄心の少なくともいずれか一方と前記温度補償部材とが、前記基体よりも熱輸送能力の高い熱輸送手段にて連結されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転電機のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−197925(P2012−197925A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64219(P2011−64219)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】