説明

固体培地プレート、及びそのプレートを用いるシアン化合物分解微生物のスクリーニング方法

【課題】シアン化合物分解微生物を効率的に取得できる固体培地プレート、そのプレートを用いるシアン化合物分解微生物のスクリーニング法、新規なシアン化合物分解微生物、及びその微生物を用いたシアン化合物含有土壌、排水または地下水の浄化方法を提供する。
【解決手段】鉄シアノ錯体の固体微粒子を固体培地中及び/または固体培地上に分散させた固体培地プレート、そのプレートに微生物を塗付、培養してプレート上にハローを形成するシアン化合物分解微生物をスクリーニングする方法、スクリーニングされたシアン化合物分解能を有する微生物(FERM P−21791号、FERM P−21719号、FERM P−21790号、FERM P−21722号、FERM P−21721号)、及びこれらの微生物をシアン化合物含有土壌、排水または地下水に添加するシアン化合物含有土壌、排水または地下水の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体培地プレート、及びそれを用いるシアン化合物分解微生物のスクリーニング方法に関する。さらに詳しくいえば、鉄シアノ錯体の固体微粒子を培地中に分散させた固体培地プレート、そのプレートでハロー形成させることによりシアン化合物分解微生物をスクリーニングする方法、及びそのシアン化合物分解微生物、並びにシアン化合物含有土壌、排水または地下水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化合物は、2003年に施行された土壌汚染対策法の第二種特定有害物質に指定されており、近年その浄化技術として微生物によるバイオレメディエーションの開発が進められている。バイオレメディエーションで本質的に浄化性能を向上させるためには、栄養源などを系内に添加して常在微生物を活性化するだけでなく、分解性能の高い微生物を取得して系内に導入することが効果的である。
【0003】
シアン化合物分解微生物の取得方法としては、窒素源として金属シアノ錯体やニトリル化合物などのシアン化合物を含有する培地に土壌を懸濁し集積培養した培養物を、シアン化合物を含有する寒天プレートで培養し、単一コロニーを形成した微生物を、シアン化合物を含有する培地で10〜40日間培養した後、残存全シアン濃度を測定してシアン化合物分解能の評価を行って高性能微生物を選抜する方法(特許文献1:特開2001−245655号公報)や、土壌を懸濁した生理食塩水の上清をフェロシアン寒天プレートで培養して形成したコロニーを単離した後、フェロシアン液体培地に接種して30℃で2週間、振とう培養した培養液の上清をHPLCによりフェロシアン濃度分析する性能評価試験を行い、濃度低下した菌株をスクリーニングする方法(特許文献2:特開2000−270853号公報)が知られている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2のいずれも、目的微生物のシアン化合物分解性能の有無や優劣をプレート上で直接判定できる方法でなく、高分解性能を有する微生物のスクリーニングは、比較したいコロニーを全て個別に液体培養してシアン化合物濃度の測定をしなくてはならず、時間と手間がかかり効率が良くない。
【0005】
液体培養して濃度測定する方法以外でシアン化合物分解性能を有する微生物を検出する方法としては、微生物中の核酸から、シアン浄化に関わるロダナーゼ(チオ硫酸サルファートランスフェラーゼ)遺伝子を検出させる方法(特許文献3:特開2008−283890号公報)が知られている。この方法は、浄化プロセスにおける、微生物の浄化適合性の判断や浄化活性のモニタリングには有効であるものの、遺伝子の調製や増幅、増幅産物の検出などの工程を有し、時間と手間がかかるため、シアン化合物分解微生物のスクリーニングを効率的に行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−245655号公報
【特許文献2】特開2000−270853号公報
【特許文献3】特開2008−283890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、従来のシアン化合物の分解に有効な微生物を取得する方法は、いずれも時間と労力がかかるため、シアン化合物分解微生物を効率よく取得できる技術の確立が望まれていた。
本発明の目的の1つは、シアン化合物分解微生物を効率的に取得できる固体培地プレート及びそれを用いたシアン化合物分解微生物のスクリーニング方法の提供にある。本発明の他の目的はシアン化合物分解微生物及びそれを用いたシアン化合物含有土壌、排水または地下水の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、濃青色の鉄シアノ錯体の固体微粒子を培地に分散した固体培地プレートに微生物を塗布、培養し、微生物による鉄シアノ錯体の分解で形成されるプレートのハロー(クリアーゾン)を観察することによりシアン化合物分解微生物をスクリーニングできることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]の固体培地プレート、[6]のシアン化合物分解微生物スクリーニング方法、[7]〜[10]のシアン化合物分解微生物、及び[11]〜[12]のシアン化合物含有土壌、排水または地下水の浄化方法に関する。
[1] 鉄シアノ錯体の固体微粒子が固体培地中及び/または固体培地上に分散していることを特徴とする固体培地プレート。
[2] 前記鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散している固体培地が、前記鉄シアノ錯体を含まない支持培地上に積層されている前項[1]に記載の固体培地プレート。
[3] 前記鉄シアノ錯体が、Fe(III)4[Fe(II)(CN)63、Fe(II)3[Fe(III)(CN)62、及びFe(II)2[Fe(II)(CN)6]から選択される1種あるいは2種以上である前項[1]または[2]に記載の固体培地プレート。
[4] 前記鉄シアノ錯体の固体微粒子の濃度が1〜10g/Lである前項[1]〜[3]のいずれかに記載の固体培地プレート。
[5] 前記鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散している固体培地の厚みが0.1〜3mmである前項[1]〜[4]のいずれかに記載の固体培地プレート。
[6] 前項[1]〜[5]のいずれかに記載の固体培地プレートの鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散している固体培地上に微生物を塗付する工程、前記微生物を培養する工程、及びハローを形成する微生物を選抜する工程を有することを特徴とするシアン化合物分解微生物のスクリーニング方法。
[7] 前項[6]に記載のスクリーニング方法により選抜されたシアン化合物分解微生物。
[8] ロドコッカス(Rhodococcus)属、バチルス(Bacillus)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、またはアシネトバクター(Acinetobacter)属に属する前項[7]に記載のシアン化合物分解微生物。
[9] ロドコッカス・アエセリボランス(Rhodococcus aetherivorans)BH0213株(受託番号:FERM P−21791)またはロドコッカス・アエセリボランス(Rhodococcus aetherivorans)BH0234株(FERM P−21719)であるシアン化合物分解微生物。
[10] バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)BH040101株(受託番号:FERM P−21790)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)BH040204株(受託番号:FERM P−21722)、またはバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)BH040102株(受託番号:FERM P−21721)であるシアン化合物分解微生物。
[11] 前項[7]〜[10]のいずれかに記載のシアン化合物分解微生物の少なくとも1種を、シアン化合物含有土壌、排水または地下水に添加する、シアン化合物含有土壌、排水または地下水の浄化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固体培地プレートを用いたスクリーニング法を用いれば、シアン化合物分解微生物を効率的に取得できる。また、スクリーニングされたシアン化合物分解微生物を用いることによりシアン化合物含有土壌、排水または地下水を浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】シアン非分解菌バチルス・ズブチリスSD901株(左)とシアン分解菌アースロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)No.5株(右)を培養したブループレートの写真である。
【図2】ハロー形成菌のハロー直径と溶出全シアン分解濃度の関係を示すグラフである。
【図3】実施例2によりスクリーニングされたシアン化合物分解微生物をシアン化合物含有土壌に添加した際の土壌中の溶出全シアン濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
[固体培地プレート]
本発明の固体培地プレート(以下、「ハロープレート」、「ブルー培地」、「ブループレート」と称することがある。)は、濃青色の鉄シアノ錯体の固体微粒子が固体培地中及び/または固体培地上に分散していることを特徴とし、培地支持体、鉄シアノ錯体の固体微粒子及び栄養成分を主成分とする。
【0014】
培地支持体は、微生物の生育を阻害せずに、水に成分を添加した培地液を固形化できる機能を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、寒天、ゼラチン、ゲランガム、グルコマンナン等を用いることができ、好ましくは寒天を10〜30g/L、より好ましくは15〜20g/Lの濃度で用いることができる。
【0015】
本発明で使用する鉄シアノ錯体の固体微粒子は、上記の培地支持体に溶解せず、分散させることができる鉄シアノ錯体の沈殿物であり、一般名として紺青、ベルリンブルー、ターンブルブルー、プルシアンブルー、ミロリーブルー、チャイニーズブルー、パリブルーを指し、Fe(III)4[Fe(II)(CN)63、Fe(II)3[Fe(III)(CN)62、Fe(II)2[Fe(II)(CN)6]の組成式で示される。
【0016】
本発明では、Fe(III)4[Fe(II)(CN)63、Fe(II)3[Fe(III)(CN)62、及びFe(II)2[Fe(II)(CN)6]から選択される1種あるいは2種以上を、固体培地中1〜10g/Lの濃度で用いることができる。鉄シアノ錯体の固体微粒子の濃度が1g/L未満であると分散した微粒子の青色が薄くなり、10g/Lを超えると分散した微粒子の青色が濃くなるため、微生物による分解の結果(ハロー形成)の判別が困難となる。
【0017】
前記鉄シアノ錯体の固体微粒子は市販品の入手が可能であるが、例えば3K4[Fe(II)(CN)6]+2Fe2(SO43 → Fe(III)4[Fe(II)(CN)63↓+6K2SO4、2K3[Fe(III)(CN)6]+3FeSO4・7H2O → Fe(II)3[Fe(III)(CN)62↓+3K2SO4+21H2O、K4[Fe(II)(CN)6]+2FeSO4・7H2O → Fe(II)2[Fe(II)(CN)6]↓+2K2SO4+14H2Oのように鉄シアノ錯体に過剰の鉄イオンを加えて、1〜10g/L、好ましくは3〜7g/Lの濃度で沈殿させたものを使用することが、沈殿生成反応前の溶液状態で滅菌できることから好ましい。
【0018】
栄養成分としては、例えばニュートリエントブロス、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、酵母エキス、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、尿素、グルコース、シュークロース、フルクトース、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素カリウム等のリン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、酢酸カルシウム、塩化マンガン、ビオチン、チアミン等を、1種あるいは2種以上を組み合わせて、0.1〜50g/L、好ましくは5〜15g/Lの濃度で用いることができる。
上記各成分を水に加えて分散させた液を固体培地液として調製する。
【0019】
固体培地の滅菌としては、オートクレーブ滅菌や除菌フィルターろ過等の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また各培地成分は、全成分一括、全成分分割、部分的な分割のいずれでも滅菌することができる。以下に固体培地液の滅菌及びハロープレートの作製方法の例を示す。
【0020】
鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散しているハロープレートの形は特に限定されないが、例えば滅菌シャーレに上記の通り無菌的に、滅菌した固体培地液を、例えば厚み0.1〜3mm、好ましくは1〜2mmになるように添加し室温放置して固めることができる。厚みは0.1mmより薄いと微生物を含有する液をプレートに塗付する際にプレートが破損しやすくなることがあり、3mmより厚いと微生物が生育している表層面から離れた培地中に分散している鉄シアノ錯体微粒子の青色により表層面におけるハロー形成(色ぬけ)を確認しにくくなる。
【0021】
プレートの厚みが薄い場合、鉄シアノ錯体の固体微粒子を含まない培地支持体を水に添加し滅菌した液を固化した支持培地上に上記ハロープレートを積層した2層構造としてハロープレートの強度を補強することができる。また、鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散した固体培地は濃青色を呈しているので、その下層に鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散されていない無色または白色の培地支持体を積層することにより単層構成の場合に比べてハロー(色ぬけ)の確認がしやすくなる。
【0022】
ハロープレートの他の作製方法として、培地支持体及び栄養成分のみを水に添加し滅菌した液を、滅菌シャーレに無菌的に添加して放冷して固化した表面上に、滅菌済みの鉄シアノ錯体の固体微粒子の懸濁液を無菌的に垂らして、滅菌したコンラジ棒などで万遍なく広げて、沈殿層を形成させることもできる。
【0023】
[スクリーニング方法]
ハロープレートで行うスクリーニングは、微生物を含有する土壌の水懸濁液を直接ハロープレートに塗付して培養することもできるし、一旦、プレート培地及び/または液体培地で培養した培養液を適宜無菌液に希釈してハロープレートに塗付して培養することもできる。
【0024】
プレート培地及び/または液体培地の培地成分はシアン化合物や栄養源を適宜選択して使うことができるが、好ましくは唯一の窒素源としてフェリシアン化カリウム(K3[Fe(III)(CN)6])やフェロシアン化カリウム(K4[Fe(II)(CN)6])などのシアン化合物を0.1〜10g/L添加し、その他に、グルコース、シュークロース、フルクトースなどの炭素源やKH2PO4、NaH2PO4、Na2HPO4、K2HPO4などのリン酸塩、MgSO4、FeSO4、MnSO4などのミネラル類を必要最小限添加した最小培地を用いることができる。
【0025】
ハロープレート培養条件は、微生物を十分生育させるという観点から、例えば温度は、30〜40℃、時間は1〜7日間で行うことができるが、これらに限定されるものではない。ハロープレート上で生育したコロニーの選抜は、ハローを形成し、ハローが大きいものから順に行うことができる。
【0026】
[選抜した菌株のシアン化合物分解能の評価]
選抜した菌株のシアン化合物分解能の評価は、菌株の培養液を、シアン化合物を含有する土壌や液体培地に接種して評価培養した後のシアン化合物の減少量を確認することにより行うことができる。接種する菌株の培養液は適当な栄養培地で増殖できるが、複数の菌株の優劣を比較する観点から、培養液中の菌数を適当な栄養培地プレートで測定した上、添加後の終濃度を揃えることができる。終濃度は、例えば108〜1010個/gの任意数値に設定することができる、
【0027】
評価培養に用いるシアン化合物は、例えば鉄シアノ錯体、銅シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体などの金属シアン錯体、シアン化カリウム、シアン化ナトリウムなどの無機シアン化物や、ニトリル基を含む有機シアン化合物等を1種あるいは2種以上を組み合わせて、0.1〜50g/Lの濃度で用いることができる。また栄養成分は、例えばニュートリエントブロス、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、尿素、グルコース、シュークロース、フルクトース、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素カリウム等のリン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、酢酸カルシウム、塩化マンガン、ビオチン、チアミン等を、1種あるいは2種以上を組み合わせて、0.1〜50g/L、好ましくは5〜15g/Lの濃度で用いることができる。評価培養条件は、例えば、温度は30〜40℃、時間は1〜60日間で行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
シアン化合物濃度は、土壌の評価培養サンプルの場合は、土壌汚染対策法で用いられる土壌溶出全シアン濃度(溶出全シアン)測定法、すなわち平成15年度環境省告示18号「土壌溶出量調査に係る測定方法」により分析することができる。なお、溶出全シアンの単位はmg/Lであり、土壌汚染対策法指定基準は<0.1である。また、液体培地の培養サンプルの場合は、ピリジン−ピラゾロン吸光光度法またはピリジンカルボン酸−ピラゾロン吸光光度法により、全シアン濃度を測定することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。
【0030】
実施例1:固体培地プレートのハロー形成実験
ニュートリエントブロス(NB;Netrient Broth)が8.9g/L、寒天が22g/Lになるように両成分を水に加えて分散した後、オートクレーブで121℃、20分滅菌した液(A液)と、0.45μmの除菌フィルターで除菌した、11.1g/LのK3[Fe(III)(CN)6]水溶液と濃度14.1g/LのFeSO4・7H2O水溶液を等量ずつ混合して10.0g/LのFe(II)3[Fe(III)(CN)62沈殿を含有する液(B液)を調製した後、B液及び水を、冷えて固まる前のA液に、表1に記載の各比率で無菌的に添加し混合して、Fe(II)3[Fe(III)(CN)62沈殿を1g/L、5g/L、10g/Lの各濃度含有する培地液(=ブルー培地)を作製した。
【0031】
【表1】

【0032】
さらに、寒天が20g/Lになるように水に加えて分散した後、オートクレーブで121℃、20分滅菌した液(支持培地)を調製し、固化する前の支持培地を、直径90mmの滅菌済みシャーレに、表2に記載の各容量を無菌的に分注し室温で静置して固化させた後、固化する前の各濃度のブルー培地を表2に記載の各容量を分注し室温で静置して固化させて、Fe(II)3[Fe(III)(CN)62濃度が1g/L、5g/L、10g/Lで、厚みが1mm、2mm、3mmのブルー培地層を持つ、合計9種類の固体培地プレート(ブループレート)を作製した。
【0033】
【表2】

【0034】
次に、シアン分解菌アースロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)No.5株(受託番号:FERM BP−11019号,平成19年10月18日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−21400号として国内寄託され、平成20年9月16日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−11019号として国際寄託された。)及びシアン非分解菌バチルス・ズブチリスSD901株(受託番号:FERM BP−7666,平成12年8月7日付で、工業技術院生命工学研究所に生命研寄託第FERM P−17989号として寄託され、平成13年7月16日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−7666号として国際寄託された。)を、それぞれφ18mm試験管のNB寒天培地(組成:NB8g/L、寒天20g/L)で35℃、24時間培養して、滅菌水10mLで懸濁した懸濁液を、白金耳で1回ずつ、9種類のブループレート上に塗付して、35℃、5日間培養した。
【0035】
シアン非分解菌バチルス・ズブチリスSD901株では、どのブループレートにもハローの形成は確認できなかったが、シアン分解菌アースロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)No.5株では、厚みが1mmでFe(II)3[Fe(III)(CN)62濃度が1g/L、5g/L、10g/L、及び厚みが2mmでFe(II)3[Fe(III)(CN)62濃度が1g/L、5g/Lの5種類のブループレートでハローの形成が確認された。ハローの形成状態を以下の基準で評価した結果を表3に示す。
◎:ハローを形成し判別性が良好なもの、
○:ハローを形成しているもの、
×:ハローを形成していないもの。
特に、厚みが1mmでFe(II)3[Fe(III)(CN)62濃度が5g/Lのブループレートが、プレートの色調とハローの色抜けのコントラストが明瞭で判別性が最も良好であった(図1参照)。
【0036】
【表3】

【0037】
本実験においてハロー形成を確認できなかったプレートは、菌の生育は確認されたが、厚みやFe(II)3[Fe(III)(CN)62濃度が大きいため、本培養条件では、濃い青色を示すFe(II)3[Fe(III)(CN)62を、ハローを確認できるレベルまで脱色できなかったものと考えられる。
【0038】
実施例2:固体培地プレートによる菌株のスクリーニングとシアン化合物分解能評価
土壌サンプル1gを、KH2PO4 0.7g/L、Na2HPO4 1.1g/L、MgSO4・7H2O 0.5g/L、FeSO4・7H2O 0.01g/L、グルコース 3g/L、K3[Fe(III)(CN)6] 1g/Lの組成の培地液(シアン錯体含有最小培地)100mLが入った500mLフラスコに添加して、35℃で3日間培養した。この培養液を、シアン錯体含有最小培地に1mL接収し35℃で3日間培養した培養液を滅菌水で適宜希釈した液0.1mLを、厚みが1mmでFe(II)3[Fe(III)(CN)62濃度が5g/Lのブループレートに塗付して35℃、5日間培養した。
【0039】
ブループレート培養の結果、表4に示す通り、直径2mmから6mmのハローを形成したコロニーを10株取得した。取得した10株のシアン化合物分解評価は、各菌株をシアン化合物含有土壌に添加して行った。
【0040】
まず、各菌株を、直径18mm試験管のNB寒天培地(組成:NB8g/L、寒天20g/L)で35℃、24時間培養して、滅菌水10mLで懸濁した懸濁液1mLを、ペプトン 10g/L、酵母エキス 5g/L、K2HPO4 5g/L、MgSO4・7H2O 0.5g/L、グルコース 20g/Lの培地液100mLが入った500mLフラスコに添加して、35℃で1日間培養した培養液を作製し、適宜希釈した培養液をNB寒天培地プレートで35℃、24時間培養して培養液の菌数を測定した。
【0041】
次に、蓋付き100mLポリ容器に、溶出全シアン(CN)0.9mg/L(比重1.7kg/L、含水率25質量%)の土壌を100g入れ、終濃度として菌数が1×108個/g、酵母エキスが0.1質量%、水分が30質量%になるように各成分を添加、混和して35℃、14日間静置後の各土壌の溶出全CNを測定した。その結果を表4及び図2に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
取得した菌はいずれも溶出全シアンが低下し分解能が確認された。さらに形成したハローの大きさと溶出全シアン分解濃度は正の相関があり、ブループレートでのハロー形成がシアン化合物分解菌取得のスクリーニングに有効であることが確認された。
【0044】
上記スクリ−ニング方法により良好な結果が得られた5種(BH0213株,BH0234株,BH040101株,BH040102株,BH040204株)のシアン化合物分解菌の同定結果は以下の通りである。
【0045】
[シアン化合物分解微生物1/BH0213株]
本発明により分離されたシアン化合物分解微生物BH0213株の形態観察及び生理的性状は、以下の通りである。
形態:多形性桿菌、
グラム染色性:陽性、
胞子:形成せず、
運動性:なし、
酸素に対する態度:好気性、
オキシダーゼ:陰性、
カタラーゼ:陽性、
OF(Oxidation Fermentation)テスト:試験用培地に生育せず、
集落の色調:オレンジ系。
また、本菌株の同定は、PCR法により増幅した16SrRNA領域のDNAについて、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer[Applied Biosystems]を用いて塩基配列を解析し、得られた配列を国際塩基配列データベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録されている配列及びMicroSeq Analysis Softwar[Applied Biosystems]のデータベースと相同性検索を行い、近縁種との系統樹をMicroSeq Analysis Softwarを用いて近接結合法(NJ法)により作成して行った。
その結果、本菌株は塩基配列の不一致率が0.09%でロドコッカス・アエセリボランス(Rhodococcus aetherivorans)に最近縁であると確認された。
本菌株はロドコッカス・アエセリボランス(Rhodococcus aetherivorans)BH0213株と命名し、平成21年3月19日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−21791号として寄託されている。
【0046】
[シアン化合物分解微生物2/BH0234株]
本発明により分離されたシアン化合物分解微生物BH0234株の形態観察及び生理的性状は、以下の通りである。
形態:多形性桿菌、
グラム染色性:陽性、
胞子:形成せず、
運動性:なし、
酸素に対する態度:好気性、
オキシダーゼ:陰性、
カタラーゼ:陽性、
OF(Oxidation Fermentation)テスト:試験用培地に生育せず、
集落の色調:オレンジ系。
また、本菌株の同定は、PCR法により増幅した16SrRNA領域のDNAについて、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer[Applied Biosystems]を用いて塩基配列を解析し、得られた配列を国際塩基配列データベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録されている配列及びMicroSeq Analysis Softwar[Applied Biosystems]のデータベースと相同性検索を行い、近縁種との系統樹をMicroSeq Analysis Softwarを用いて近接結合法(NJ法)により作成して行った。
その結果、本菌株は塩基配列の不一致率が0.07%でロドコッカス・アエセリボランス(Rhodococcus aetherivorans)に最近縁であると確認された。
本菌株はロドコッカス・アエセリボランス(Rhodococcus aetherivorans)BH0234株と命名し、平成20年11月7日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−21719号として寄託されている。
【0047】
[シアン化合物分解微生物3/BH040101株]
本発明により分離されたシアン化合物分解微生物BH040101株の形態観察及び生理的性状は、以下の通りである。
形態:桿菌、
グラム染色性:陽性、
胞子:形成する(形:楕円形、位置:亜端立、胞子嚢:非膨出)、
運動性:あり、
酸素に対する態度:好気性、
カタラーゼ:陽性、
集落の色調:黄色系。
また、本菌株の同定は、PCR法により増幅した16SrRNA領域のDNAについて、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer[Applied Biosystems]を用いて塩基配列を解析し、得られた配列を国際塩基配列データベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録されている配列及びMicroSeq Analysis Softwar[Applied Biosystems]のデータベースと相同性検索を行い、近縁種との系統樹をMicroSeq Analysis Softwarを用いて近接結合法(NJ法)により作成して行った。
その結果、本菌株は塩基配列の不一致率が0.16%でバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)に最近縁であると確認された。
本菌株はバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)BH040101株と命名し、平成21年3月19日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号:FERM P−21790号として寄託されている。
【0048】
[シアン化合物分解微生物4/BH040204株]
本発明により分離されたシアン化合物分解微生物BH040204株の形態観察及び生理的性状は、以下の通りである。
形態:桿菌、
グラム染色性:陽性、
胞子:形成する(形:楕円形、位置:中立〜亜端立、胞子嚢:非膨出)、
運動性:あり、
酸素に対する態度:好気性、
カタラーゼ:陽性、
集落の色調:黄色系。
また、本菌株の同定は、PCR法により増幅した16SrRNA領域のDNAについて、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer[Applied Biosystems]を用いて塩基配列を解析し、得られた配列を国際塩基配列データベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録されている配列及びMicroSeq Analysis Softwar[Applied Biosystems]のデータベースと相同性検索を行い、近縁種との系統樹をMicroSeq Analysis Softwarを用いて近接結合法(NJ法)により作成して行った。
その結果、本菌株は塩基配列の不一致率が0.13%でバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)に最近縁であると確認された。
本菌株はバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)BH040204株と命名し、平成20年11月7日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−21722号として寄託されている。
【0049】
[シアン化合物分解微生物5/BH040102株]
本発明により分離されたシアン化合物分解微生物BH040102株の形態観察及び生理的性状は、以下の通りである。
形態:桿菌、
グラム染色性:陽性、
胞子:形成する(形:楕円形、位置:亜端立、胞子嚢:非膨出)、
運動性:あり、
酸素に対する態度:好気性、
カタラーゼ:陽性、
集落の色調:特徴的集落色素を生成せず。
また、本菌株の同定は、PCR法により増幅した16SrRNA領域のDNAについて、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer[Applied Biosystems]を用いて塩基配列を解析し、得られた配列を国際塩基配列データベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録されている配列及びMicroSeq Analysis Softwar[Applied Biosystems]のデータベースと相同性検索を行い、近縁種との系統樹をMicroSeq Analysis Softwarを用いて近接結合法(NJ法)により作成して行った。
その結果、本菌株は塩基配列の不一致率が0.02%でバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)に最近縁であると確認された。
本菌株はバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)BH040102株と命名し、平成20年11月7日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−21721号として寄託されている。
【0050】
実施例3:シアン化合物分解微生物の土壌浄化評価
実施例2によりスクリーニングされたシアン化合物分解微生物BH0213株、BH0234株、BH040101株、BH040204株、BH040102株を、直径18mm試験管のNB寒天培地(組成:NB8g/L、寒天20g/L)で35℃、24時間培養して、滅菌水10mLで懸濁した懸濁液1mLを、ペプトン 10g/L、酵母エキス 5g/L、K2HPO4 5g/L、MgSO4・7H2O 0.5g/L、グルコース 20g/Lの培地液100mLが入った500mLフラスコに添加して、35℃で1日間培養した培養液を作製し、適宜希釈した培養液をNB寒天培地プレートで35℃、24時間培養して培養液の菌数を測定した。
【0051】
次に、蓋付き100mLポリ容器に、溶出全CN0.9mg/L(比重1.7kg/L、含水率25質量%)の土壌を100g入れ、終濃度として菌数が1×108個/g、酵母エキスが0.1質量%、水分が30質量%になるように各成分を添加、混和して35℃で静置し、14日、21日、28日、35日、42日に各土壌をサンプリングして溶出全CNを測定した。その結果を図3に示す。
【0052】
BH040102株は14日目に、BH0213株は21日目に、BH040204株は28日目に、BH0234株及びBH040101株は42日目に、それぞれ溶出全CNが、土対法における溶出全指定基準である検出限界未満(<0.1mg/L)まで低減し、土壌浄化されたことが確認された。
【0053】
上記結果より、スクリ−ニングされたシアン化合物分解微生物をシアン化合物含有土壌、排水または地下水に添加することによりシアン化合物分解微生物含有土壌、排水または地下水を浄化することができることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄シアノ錯体の固体微粒子が固体培地中及び/または固体培地上に分散していることを特徴とする固体培地プレート。
【請求項2】
前記鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散している固体培地が、前記鉄シアノ錯体を含まない支持培地上に積層されている請求項1に記載の固体培地プレート。
【請求項3】
前記鉄シアノ錯体が、Fe(III)4[Fe(II)(CN)63、Fe(II)3[Fe(III)(CN)62、及びFe(II)2[Fe(II)(CN)6]から選択される1種あるいは2種以上である請求項1または2に記載の固体培地プレート。
【請求項4】
前記鉄シアノ錯体の固体微粒子の濃度が1〜10g/Lである請求項1〜3のいずれかに記載の固体培地プレート。
【請求項5】
前記鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散している固体培地の厚みが0.1〜3mmである請求項1〜4のいずれかに記載の固体培地プレート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の固体培地プレートの鉄シアノ錯体の固体微粒子が分散している固体培地上に微生物を塗付する工程、前記微生物を培養する工程、及びハローを形成する微生物を選抜する工程を有することを特徴とするシアン化合物分解微生物のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項6に記載のスクリーニング方法により選抜されたシアン化合物分解微生物。
【請求項8】
ロドコッカス(Rhodococcus)属、バチルス(Bacillus)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、またはアシネトバクター(Acinetobacter)属に属する請求項7に記載のシアン化合物分解微生物。
【請求項9】
ロドコッカス・アエセリボランス(Rhodococcus aetherivorans)BH0213株(受託番号:FERM P−21791)またはロドコッカス・アエセリボランス(Rhodococcus aetherivorans)BH0234株(FERM P−21719)であるシアン化合物分解微生物。
【請求項10】
バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)BH040101株(受託番号:FERM P−21790)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)BH040204株(受託番号:FERM P−21722)、またはバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)BH040102株(受託番号:FERM P−21721)であるシアン化合物分解微生物。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載のシアン化合物分解微生物の少なくとも1種を、シアン化合物含有土壌、排水または地下水に添加する、シアン化合物含有土壌、排水または地下水の浄化方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−70729(P2012−70729A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179313(P2011−179313)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】