説明

固体有機金属化合物の供給装置

【課題】常温で固体の有機金属化合物をキャリアガスに随伴させて供給する供給装置において、有機金属化合物を長時間にわたって安定して供給する。
【解決手段】 供給装置は、カラム型の2つの容器1a、1bと、容器1a、1bの内部をその下端で連絡する連通管5とを有する。容器1aの上部にはガス導入管2が設けられており、容器1bの上部にはガス導出管3が設けられている。容器1aの内部には、有機金属化合物10、およびガス導入管2から導入されたキャリアガスを分散させる分散材11が、容器1aの底部からこの順番に充填されている。もう一方の容器1bには、有機金属化合物10が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で固体の有機金属化合物が充填された容器内にキャリアガスを流通させることによって、キャリアガスとともに有機金属化合物を供給する供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体デバイスの製造において、MOCVD法(有機金属化学気相成長法)が一般に用いられる。この際、常温では固体の有機金属化合物をガス化して安定して供給することが重要になる。
【0003】
従来、常温で固体の有機金属化合物をガス化して供給する供給装置としては、特許文献1に開示されたものが知られている。特許文献1に開示された供給装置は、図9に示すように、有機金属化合物が充填される容器101と、容器101の上部から内部へ挿入された、キャリアガス導入用のチューブ103と、チューブ103の下部に設置された分散器105とを有している。容器の上部には、有機金属化合物を容器101内に充填するための充填口104と、有機金属化合物のガスおよびキャリアガスを容器101の外部へ導出するための導出口102が設けられている。さらに、容器101の下部は、上部に比べて内径を狭めた狭径部とされている。
【0004】
しかしながら、上記のような構造では、容器101内で有機金属化合物とキャリアガスとが十分に接触しないでキャリアガスが通過してしまう流路が形成されてしまうこと等の問題が依然として残っている。そのため、キャリアガスによって運ばれずに容器101内に残ってしまう有機金属化合物の割合が多く、有機金属化合物を長時間にわたって安定して供給することに関しては、未だ満足できる装置の開発には至っていなかった。
【特許文献1】特公平5−10320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、常温で固体の有機金属化合物を長時間にわたって安定して供給できる、工業的に好適な有機金属化合物の供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の供給装置は、常温で固体の有機金属化合物をキャリアガスに随伴させて供給する供給装置であって、
キャリアガスの導入口が上部に設けられたカラム型の第1の容器と、
前記キャリアガスの導出口が上部に設けられたカラム型の第2の容器と、
前記第1の容器の内部および第2の容器の内部をその下端で連絡する連絡部材と、
を有し、
前記第1の容器には、前記有機金属化合物、および前記導入口から導入されたキャリアガスを分散させる分散材が、前記第1の容器の底部からこの順番に充填され、かつ
前記第2の容器には前記有機金属化合物が充填されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の供給装置において、分散材は、第1の容器内で有機金属化合物を覆って層状に充填されていることが好ましい。また、分散材は、多数の部材の集合体であり各部材間に隙間を有するものとすることができる。分散材を構成する部材の形状は任意であるが、球状であることが好ましい。
【0008】
さらに、本発明において、導入口は、第1の容器に導入されたキャリアガスが第1の容器の上壁面に衝突するように第1の容器に取り付けられたガス導入管を備えていてもよい。あるいは、導入口は、第1の容器の内部に導入されたキャリアガスを分散させる分散器を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、常温で固体の有機金属化合物を、長時間にわたって安定して供給できる、工業的に好適な有機金属化合物の供給装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1の実施形態)
図1を参照すると、本発明の第1の実施形態による有機金属化合物の供給装置が示される。供給装置は、互いに間隔をあけて並列に配置されたカラム型の2つの容器1a、1bと、容器1a、1bの下端で2つの容器1a、1bの内部を連絡する連通管5とを有している。
【0011】
一方の容器1aの上端部には、容器1a内にキャリアガスを導入するためのガス導入口を構成するガス導入管2が取り付けられている。他方の容器1bの上端部には、容器1b内のガスを外部へ導出するためのガス導出口を構成するガス導出管3が取り付けられている。
【0012】
各容器1a、1bの内部には、常温で固体の有機金属化合物10が充填されている。さらに、ガス導入管2が取り付けられた側の容器1aの内部には、ガス導入管2から導入されたキャリアガスを容器1a内で分散させるための分散材11が、有機金属化合物10の上に充填されている。つまり、容器1aには、有機金属化合物10および分散材11が、容器1aの底部からこの順番に充填されている。分散材11は、多数の部材の集合体であり、各部材間に隙間を有して容器1a内に充填される。
【0013】
容器1a、1bの外部において、ガス導入管2およびガス導出管3の中間部には、充填口4が設けられている。充填口4は開閉可能に構成されており、充填口4を開くことにより、一方の容器1aの内部に有機金属化合物10および分散材11を充填でき、他方の容器1bの内部に有機金属化合物10を充填できる。
【0014】
容器1aへの有機金属化合物10および分散材11の充填には、一般的に行なわれている公知の方法を利用することができる。例えば、不活性ガスの雰囲気にて、充填口からそのまま有機金属化合物10および分散材11をこの順番で容器1a内に投入することによって、有機金属化合物10および分散材11を容器1a内に充填することができる。容器1bへの有機金属化合物10の充填も、これと同様に行なうことができる。
【0015】
ガス導入管2から容器1a内に導入されるキャリアガスは、容器1a、1b内に充填された有機金属化合物10および分散材11に対して不活性なものであれば特に限定されず、例えば、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス、水素ガスを使用することができる。なお、これらのキャリアガスは、単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
本実施形態の供給装置は、上記のように容器1a内に有機金属化合物10および分散材11を充填し、かつ容器1b内に有機金属化合物10を充填した状態で、ガス導入管2をキャリアガス源に接続するとともに、ガス導出管3を例えば気相成長装置に接続して使用される。
【0017】
供給装置が一定の温度に保持された状態でキャリアガス源から供給装置にキャリアガスが導入される。導入されたキャリアガスは、ガス導入管2→容器1a→連通管5→容器1b→ガス導出管3という経路を通って気相成長装置へ供給される。各容器1a、1b内で気化した有機金属化合物10は、このキャリアガスの流れに随伴し、これによって、気化した有機金属化合物10はキャリアガスとともに気相成長装置へ供給される。
【0018】
供給装置内でのキャリアガスの流れの過程で、容器1aに導入されたキャリアガスは、まず、分散材11と接触する。分散材11は、上記のように多数の部材の集合体であって、各部材間に隙間を有しているので、分散材11と接触したキャリアガスは、各部材間の隙間によって形成される多数の流路を通って容器1aの底部へ向かって流れ、広い範囲で有機金属化合物10と接触する。このようにしてキャリアガスが分散材11を通過することによってキャリアガスの流れは分散材11で分散されるので、キャリアガスを有機金属化合物10に均一に接触させることができる。よって、キャリアガスは有機金属化合物10と効率よく接触し、気化した有機金属化合物10をキャリアガスで良好に運ぶことができるので、結果的に、有機金属化合物10を長時間にわたって安定して供給することができる。
【0019】
このような分散材11によるキャリアガスの分散をより効果的に発揮させるためには、分散材11は、有機金属化合物10を上から覆って層状になるように容器1a内に充填されることが好ましい。
【0020】
さらに、有機金属化合物10を随伴し、容器1aの下端に達したキャリアガスは、連通管5を通って容器1bの下端から容器1bの内部へ導入され、ここでさらに、容器1bに充填されている有機金属化合物10と接触した後、容器1bの内部を上昇してガス導出管3から導出する。キャリアガスがこのような経路を通って流れるように供給装置を構成することで、キャリアガスを有機金属化合物10とより効率よく接触させることができ、有機金属化合物10をより安定して供給することができる。
【0021】
容器1a、1bの形状は、カラム型であれば、例えば、円筒形、三角筒形、四角筒形、六角筒形等、任意の形状とすることができ、これらの中でも、円筒形の容器1a、1bが好ましく使用される。2つの容器1a、1bの形状は同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0022】
2つの容器1a、1bの総容量は、特に制限されないが、実用性を考慮すると、10〜5000mlの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜3000mlの範囲内、特に好ましくは25〜1000mlである。各容器1a、1bの容量は、図1に示す例では互いに異なっているが、図2に示すように、互いに同じであってもよい。各容器1a、1bの容量が互いに異なる場合、有機金属化合物10を長時間にわたってより安定して供給するためには、図1に示すように、キャリアガスが導入される側の容器1a、すなわちガス導入管2が設けられている容器1aの容量を、ガス導出管3が設けられている容器1bの容量よりも大きくすることが望ましい。さらに、ガス導出管3が設けられている容器1bの容量に対する、ガス導入管2が設けられている容器1aの容量の比は、1〜80であることが好ましく、より好ましくは1〜40である。
【0023】
キャリアガスは、容器1a、1bの内部を、主として容器1a、1bの軸方向に流通する。そのため、容器1a、1b内を流通するキャリアガスが容器1a、1b内で有機金属化合物10と効率よく接触できるように、容器1a、1bの内寸は、直径に対する高さの割合が、0.8〜10.0であることが好ましく、より好ましくは1.2〜10.0である。この値は、容器1a、1bが円筒形である場合を想定しているが、円筒形でない場合は、横断面積から、その横断面積と等しい面積となる円形の直径で考えてもよい。
【0024】
容器1a、1bの縦横比を上記の範囲とすることにより、キャリアガスが有機金属化合物10と効率よく接触しないまま通過してしまうガス流路の形成を抑制することができ、安定した有機金属化合物10の供給量を維持することができる。
【0025】
連通管5は、2つの容器1a、1bの内部を、両者間でガスが流通できるように連絡するものであれば、その形状や構造は特に制限されない。例えば、1本の直管を折り曲げることによって、2つの容器1a、1bを下端で連絡できる所定の形状に形成したもの、複数本の直管を所定の形状となるように繋ぎ合せたもの、およびU字形の管材などを連通管5として用いることができる。連通管5の設計上の観点からは、連通管5を直管で構成することが望ましい。
【0026】
連通管5の長さは特に制限されず、2つの容器1a、1bのサイズや配置等に応じて適宜設計することができる。また、連通管5の直径についても、容器1a、1bとの接続部において容器1a、1bの断面積に比べて連通管5の断面積が小さければ特に制限されない。
【0027】
ガス導入管2およびガス導出管3は、それぞれ容器1a、1bの上端部に位置していれば、形状、サイズ、および容器1a、1bに対する取り付け角度等は特に制限されない。
【0028】
本発明において使用する分散材11は、容器1a内に一緒に充填される有機金属化合物10に対して不活性な材料で形成されることが好ましい。このような材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、グラッシーカーボン、グラファイト、チタン酸カリ、スポンジチタン、石英、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、チタン、タングステン、フッ素樹脂、ガラス、ジルコニア、鉄等が挙げられる。なお、これらの材料は、単独または二種以上を混合して使用してもよい。また、分散材11を構成する個々の部材の形状は特に限定されず、例えば、不定形状、球状、多面体状、繊維状、網状、スプリング状、コイル状、円筒状等のものを使用することができる。これらのうち、球状の部材を用いることが、分散材11を容器1aに充填したときに各部材間の隙間で形成されるキャリアガスの流路を一様に分散させることができるため好ましい。例えば球状の場合、分散材11のサイズは、充填口4から容器1aに入るサイズであれば特に制限されないが、好ましくは直径0.1〜8.0mm、より好ましくは直径0.1〜6.0mmである。また、分散材11のサイズは均一なサイズであってもよいし、二種以上のサイズであってもよい。
【0029】
また、分散材11の充填量は、ガス導入管2から容器1a内に導入されたキャリアガスを有機金属化合物10と接触する前に分散させることができるように、容器1aのサイズ等に応じて適宜決定することができる。すなわち、容器1a内に充填された分散材11の層の高さが好ましくは5〜200mm、より好ましくは5〜150mmとなるように充填する。
【0030】
本発明において使用する常温で固体の有機金属化合物としては、例えば、tert-ブチルリチウム等のリチウム化合物;トリメチルインジウム、ジメチルクロロインジウム、シクロペンタジエニルインジウム、トリメチルインジウム・トリメチルアルシンアダクト、トリメチルインジウム・トリメチルホスフィンアダクト等の有機インジウム化合物;エチルヨウ化亜鉛、エチルシクロペンタジエニル亜鉛、シクロペンタジエニル亜鉛等の有機亜鉛化合物;メチルジクロロアルミニウム、トリフェニルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物;メチルジクロロガリウム、ジメチルクロロガリウム、ジメチルブロモガリウム等の有機ガリウム化合物;ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム等のマグネシウム化合物;トリフェニルビスマス等のビスマス化合物;ビス(シクロペンタジエニル)マンガン等のマンガン化合物;フェロセン等の鉄化合物;ビス(アセチルアセトナト)バリウム、ジピバロイルメタナトバリウム・1,10-フェナントロリンアダクト等のバリウム化合物;ビス(アセチルアセトナト)ストロンチウム、ジピバロイルメタナトストロンチウム等のストロンチウム化合物;ビス(アセチルアセトナト)銅、ジピバロイルメタナト銅等の銅化合物;ビス(アセチルアセトナト)カルシウム、ジピバロイルメタナトカルシウム等のカルシウム化合物;ジピバロイルメタナトイットリビウム等のイットリビウム化合物が挙げられる。なお、本発明の供給装置は、有機金属化合物以外にも、金属を含まない有機化合物、金属を含む又は含まない無機化合物にも適用できる場合がある。
【0031】
有機金属化合物は、当該有機金属化合物に対して不活性な担体に担持されていてもよい。その場合に使用される担体の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、グラッシーカーボン、グラファイト、チタン酸カリ、スポンジチタン、石英、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、チタン、タングステン、フッ素樹脂、ガラス等が使用される。なお、これらの担体は、単独または二種以上を混合して使用してもよい。また、担体の形状は特に限定されず、例えば、不定形状、丸状、角状、球状、繊維状、網状、スプリング状、コイル状、円筒状等のものを使用することができる。
【0032】
担体に担持されている有機金属化合物をキャリアガスと効率よく接触させるため、担体の比表面積はできるだけ大きいことが望ましい。そのために、表面に100〜2000μm程度の微細な凹凸が設けられている担体や、多数の気孔(空隙)が設けられた担体を用いることが望ましい。このような担体の具体例としては、例えば、アルミナホールパッキン、ラシヒリング(ガラス製、テフロン(登録商標)製)、ヘリパック(ガラス製、ステンレス製)、ディクソンパッキン(ステンレス製)、フェンスケ(ガラス製)、スポンジチタン、ステンレス焼結エレメント、グラスウール等が挙げられる。
【0033】
上述した形態では、充填口4がガス導入管2およびガス導出管3の中間部に設けられている例を示したが、例えば図3に示すように、容器1aの充填口4を、ガス導入管2とは別に設けることもできる。また、図示しないが、容器1bの充填口4をガス導出管3とは別に設けたり、両方の容器1a、1bの充填口4をガス導入管2およびガス導出管3とは別に設けたりすることもできる。
【0034】
(第2の実施形態)
図4に、本発明の第2の実施形態による有機金属化合物の供給装置を示す。
【0035】
本形態では、容器1aに接続されたガス導入管2の形状が第1の実施形態と異なっている。より詳しくは、ガス導入管2は、容器1a内に導入されたキャリアガスが容器1aの内部の上壁面および側壁面のうち少なくとも上壁面に衝突するように、容器1aの内部で屈曲し、その先端である噴出口が上方を向いている。その他の構成は、第1の実施形態と同じでよいので、その詳細な説明は省略する。
【0036】
本実施形態では、ガス導入管2から容器1a内に導入された直後のキャリアガスは、容器1aの内部の上壁面に衝突する。キャリアガスが上壁面に衝突することによって、導入されたキャリアガスは容器1aの内部で分散し、その状態で分散材11と接触する。これにより、分散材11のより広い範囲でキャリアガスが流通するため、分散材11によるキャリアガスの分散作用をより効果的に発揮させることができる。
【0037】
図4に示した例では、ガス導入管2の先端部は容器1aの上壁面に対して略垂直にキャリアガスを導入するように屈曲されているが、容器1a内へのキャリアガスの導入角度は、容器1a内に導入されたキャリアガスが容器1aの内部の上壁面および側壁面のうち少なくとも上壁面に衝突するようになっていれば、特に限定されない。
【0038】
また、図4に示した例では、容器1aの充填口4がガス導入管2とは別に構成され、かつ、2つの容器1a、1bの容量が異なっている。しかし、容器1aの充填口4はガス導入管2の中間部に設けられていてもよいし、2つの容器1a、1bの容量は同じであってもよい。さらに、容器1bの充填口4がガス導出管3とは別に構成されていてもよい。
【0039】
容器1a内に導入されたキャリアガスを分散材11に接触する前に予備的に分散させる方法として、図4に示した例の他に、容器1aの内部に設けた分散器による方法も挙げられる。
【0040】
分散器は、容器1aの内部に配置され、容器1a内に導入されたガスを容器1a内に分散させることができるものであれば、その構造や材質等は限定されない。また、分散器の大きさは、容器1aの形状や大きさ、導入するキャリアガスの量、ガス導入管2の太さ等によって適宜選択される。例えば、分散器として、邪魔板の他に、燒結金属またはガラス等で作られたフィルタ、網、ハニカム、穴開きパイプ等でも構成することができる。これらの中でも好ましくは燒結金属製フィルタ、邪魔板、穴開きパイプを使用することができ、より好ましくは邪魔板、穴開きパイプを使用することができる。
【0041】
図5に、分散器として作用する邪魔板6を有する供給装置の一例を示す。邪魔板6は、キャリアガスが導入される側から見て中央部が凹んだコーン形状に加工された部材であり、ガス導入管2の下方に、凹んだ部分をガス導入管2の噴出口と対向させて、容器1aの上壁面と平行に配置されている。その他の構成は第1の実施形態で説明した構成と同様であり、その説明は省略するとともに、図1等と同じ符号を付している。なお、図ではコーン形状の邪魔板6で分散器を構成した例を示したが、邪魔板6の形状は特に限定されず、例えば平板であってもよい。
【0042】
上記のように構成された供給装置では、ガス導入管2から容器1a内に導入されたキャリアガスは、邪魔板6に衝突し、これによって、容器1a内に導入された直後のキャリアガスが容器1a内に分散する。
【0043】
分散器として邪魔板6を使用する場合、邪魔板6を容器1aの上壁面と平行に配置することが、容器1a内に導入されたキャリアガスを容器1a内に良好に分散させるうえで好ましい。
【0044】
一方、分散器として穴開きパイプを使用する場合、穴開きパイプに形成された穴が容器1aの上壁面と直角な方向を向くように穴開きパイプを配置することが、キャリアガスを容器1a内に良好に分散させて導入するうえで好ましい。
【0045】
穴開きパイプに設けられる穴の数や大きさは特に限定されない。また、穴の位置についても特に限定されないが、キャリアガスを容器1a内でより均一に分散させるためには、パイプの全周にわたって穴が形成されていることが好ましい。穴開きパイプを用いた分散器は、ガス導入管2の周面に複数の穴を開けることによって、ガス導入管2の一部として構成することができる。あるいは、穴開きパイプをガス導入管2とは別の部材で構成し、ガス導入管2の先端部に接続してもよい。キャリアガスは、ガス導入管2から穴開きパイプを通り、その周面に設けられた穴から容器1a内に分散して導入される。
【0046】
以上、第1〜第2の実施形態を示すことによって本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更を加えることができる。
【0047】
例えば、上述した実施形態では、2つの容器1a、1bが互いに離れて配置されている例を示したが、互いに接して配置されていてもよい。また、上述した実施形態では、2つの容器1a、1bが並列に配置されている例を示したが、2つの容器1a、1bの下端同士が連結されていれば互いの位置関係は特に限定されない。
【0048】
図6A〜図6Fに、本発明にしたがって構成された供給装置の一例の外観を具体的に示す。図6Aはその正面図、図6Bはその背面図、図6Cはその右側面図、図6Dはその左側面図、図6Eはその平面図、図6Fはその底面図である。
【0049】
図6A〜6Eに示す供給装置は、円筒形の2つの容器1a、1bを有し、キャリアガスを導入するためのガス導入管2が取り付けられた容器1aのほうが、キャリアガスを導出するためのガス導出管3が取り付けられた容器1bよりも容量が大きい。キャリアガスが導入される側の容器1aでは、充填口4はガス導入管2と別に設けられている。2つの容器1a、1bの内部は、容器1a、1bの下端に接続された連通管5で連絡している。連通管5は、直管を組み合わせて構成されている。ガス導入管2は、容器1aの内部において、容器1aに導入されたキャリアガスが容器1aの上壁面に衝突するように構成されていてもよい。また、容器1aの内部において、ガス導入管2は容器1aの内部に導入されたキャリアガスを分散させる分散器を備えていてもよい。
【実施例】
【0050】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、ガス導出管3より流出するトリメチルインジウムの濃度は、超音波式ガス濃度計(商品名;Piezocon(Lorex社製))で測定した。
【0051】
(実施例1)
常温で固体の有機金属化合物としてトリメチルインジウムを用意するとともに、担体としてスポンジチタン(粒径:0.84mm〜2.00mm(東邦チタニウム社製))を用意した。内容積1600mlのステンレス製容器に、スポンジチタン75gおよびトリメチルインジウム65gを入れ、90℃まで加熱してトリメチルインジウムを完全に融解させた後、室温まで冷却して、トリメチルインジウムをスポンジチタンに担持させた。次いで、これをスパチュラ等のステンレス製の道具で破砕した後に4メッシュおよび20メッシュの篩で篩い分けし、粒径0.84〜4.76mmの、スポンジチタン担持トリメチルインジウム126gを得た。
【0052】
得られたスポンジチタン担持トリメチルインジウムを、窒素雰囲気中にて、図5に示すように構成された供給装置の2つの容器1a、1bに有機金属化合物10として充填口4より充填した。本実施例では、トリメチルインジウムの総量が50gである、スポンジチタン担持トリメチルインジウム126gを、2つの容器1a、1bにそれぞれ96gおよび30gに分けて充填した。
【0053】
供給装置としては、各容器1a、1bはともに円筒形状であり、キャリアガスが導入される側の容器1aのサイズが、内径55mm、高さ135mm、内容積302mlであり、キャリアガスが導出される側の容器1bのサイズが、内径23mm、高さ135mm、内容積53mlであるものを使用した。容器1aの内部で、ガス導入管2の下方には、中央部が凹んだコーン形状の邪魔板で構成される分散器6が配置されている。連通管5および分散器6は、内径が4.3mmの直管を組み合わせて構成した。容器1a、1b、連通管5および分散器6はステンレス製とした。
【0054】
スポンジチタン担持トリメチルインジウムの充填後、キャリアガスが導入される側の容器1aのみに、分散材11を100ml充填した。分散材11としては、アルミナ球(直径:0.5mm)を用いた。
【0055】
供給装置を、常圧、20℃に保った恒温槽内に取り付け、ガス導入管2よりキャリアガスとしてアルゴンガスを毎分1500mlの流量で容器1a内に導入し、ガス導入管3より導出されるガス中の経時的なトリメチルインジウム濃度を測定することによって、トリメチルインジウムの安定供給テストを行なった。その結果、容器1bのガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約0.95gであり、供給速度は91%の使用割合まで安定していた。また、アルゴンガスの供給量を毎分2000mlとして同様にトリメチルインジウムの安定供給テストを行なったところ、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約1.30gであり、供給速度は89%の使用割合まで安定していた。実施例1の安定供給テストによって得られた、トリメチルインジウムの使用割合と供給量との関係のグラフを図7に示す。
【0056】
(実施例2)
実施例1において、トリメチルインジウムの総量が50gである、スポンジチタン担持トリメチルインジウム123gを、2つの容器1a、1bにそれぞれ92gおよび31gに分けて充填し、かつ、分散材11としてSUS球(ステンレス製、直径:2.0mm)100mlを容器1aに充填した以外は実施例1と同様にしてトリメチルインジウムの安定供給テストを行なった。
【0057】
その結果、アルゴンガスの供給量を毎分1500mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約0.95gであり、供給速度は89%の使用割合まで安定していた。また、アルゴンガスの供給量を毎分2000mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約1.30gであり、供給速度は88%の使用割合まで安定していた。
【0058】
(実施例3)
実施例1において、供給装置として図1に示す構造の供給装置を用い、かつ、トリメチルインジウムの総量が50gである、スポンジチタン担持トリメチルインジウム128gを、2つの容器1a、1bにそれぞれ97gおよび31gに分けて充填した以外は実施例1と同様にしてトリメチルインジウムの安定供給テストを行なった。
【0059】
なお、実施例3で用いた供給装置は、各容器1a、1bがともに円筒形状であり、キャリアガスが導入される側の容器1aのサイズが、内径55mm、高さ135mm、内容積302mlであり、キャリアガスが導出される側の容器1bのサイズが、内径17.5mm、高さ135mm、内容積31mlであった。
【0060】
トリメチルインジウムの安定供給テストの結果、アルゴンガスの供給量を毎分1500mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約0.95gであり、供給速度は86%の使用割合まで安定していた。また、アルゴンガスの供給量を毎分2000mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約1.30gであり、供給速度は84%の使用割合まで安定していた。
【0061】
(実施例4)
実施例3において、トリメチルインジウムを担持させる担体としてアルミナ球(直径:0.5mm)110gを使用し、トリメチルインジウムの総量が50gである、アルミナ球担持トリメチルインジウム147gを、2つの容器1a、1bにそれぞれ108gおよび39gに分けて充填した以外は実施例3と同様にしてトリメチルインジウムの安定供給テストを行なった。
【0062】
その結果、アルゴンガスの供給量を毎分1500mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約0.95gであり、供給速度は85%の使用割合まで安定していた。また、アルゴンガスの供給量を毎分2000mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約1.30gであり、供給速度は81%の使用割合まで安定していた。
【0063】
(実施例5)
実施例1において、容器1aのサイズを変更した供給装置を用い、トリメチルインジウムの総量が50gである、スポンジチタン担持トリメチルインジウム123gを、2つの容器1a、1bにそれぞれ70gおよび53gに分けて充填するととともに、分散材11として230mlのアルミナ球を容器1aに充填した以外は、実施例1と同様にしてトリメチルインジウムの安定供給テストを行なった。容器1aのサイズは、内径が83mm、高さが135mm、内容積が690mlであった。
【0064】
トリメチルインジウムの安定供給テストの結果、アルゴンガスの供給量を毎分1500mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約0.95gであり、供給速度は91%の使用割合まで安定していた。また、アルゴンガスの供給量を毎分2000mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約1.30gであり、供給速度は89%の使用割合まで安定していた。
【0065】
(実施例6)
実施例5において、トリメチルインジウムの総量が50gである、スポンジチタン担持トリメチルインジウム128gを、2つの容器1a、1bにそれぞれ75gおよび53gに分けて充填するととともに、分散材11として150mlのアルミナ球を容器1aに充填した以外は、実施例1と同様にしてトリメチルインジウムの安定供給テストを行なった。容器1aのサイズは、内径が83mm、高さが135mm、内容積が690mlであった。
【0066】
トリメチルインジウムの安定供給テストの結果、アルゴンガスの供給量を毎分1500mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約0.95gであり、供給速度は90%の使用割合まで安定していた。また、アルゴンガスの供給量を毎分2000mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約1.30gであり、供給速度は88%の使用割合まで安定していた。
【0067】
(実施例7)
実施例6において、トリメチルインジウムの総量が330gである、スポンジチタン担持トリメチルインジウム817gを、2つの容器1a、1bにそれぞれ761gおよび56gに分けて充填した以外は、実施例6と同様にしてトリメチルインジウムの安定供給テストを行なった。なお、実施例7ではアルゴンガスの供給量が毎分1500mlの場合についてのみ安定供給テストを行なった。
【0068】
安定供給テストの結果、ガス導入管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約0.95gであり、供給速度は90%まで安定していた。
【0069】
(比較例1)
実施例1において、トリメチルインジウムの総量が50gである、スポンジチタン担持トリメチルインジウム123gを、2つの容器1a、1bにそれぞれ92gおよび31gに分けて充填し、かつ、供給装置の容器1a内に分散材を充填しなかったこと以外は実施例1と同様にしてトリメチルインジウムの安定供給テストを行なった。
【0070】
その結果、アルゴンガスの供給量を毎分1500mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約0.95gであり、供給速度は68%の使用割合までしか安定していなかった。また、アルゴンガスの供給量を毎分2000mlとしたときは、ガス導出管3から得られたトリメチルインジウムの供給量は毎時約1.30gであり、供給速度は65%の使用割合までしか安定していなかった。比較例1の安定供給テストによって得られた、トリメチルインジウムの使用割合と供給量との関係のグラフを図8に示す。
【0071】
上述の実施例1〜7および比較例1の主要なテスト条件およびテスト結果を表1にまとめる。
【0072】
【表1】

【0073】
表1より、比較例1ではトリメチルインジウムの安定使用割合が68%以下であったのに対し、実施例1〜7はいずれも81%以上を達成しており、分散材によって有機金属化合物の安定使用割合を大幅に向上させることができたといえる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1の実施形態による有機金属化合物の供給装置の模式的断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による有機金属化合物の供給装置の他の例の模式的断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による有機金属化合物の供給装置の他の例の模式的断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による有機金属化合物の供給装置の模式的断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による有機金属化合物の供給装置の他の例の模式的断面図である。
【図6A】本発明による供給装置の一具体例の外観を示す正面図である。
【図6B】図6Aに示す供給装置の背面図である。
【図6C】図6Aに示す供給装置の右側面図である。
【図6D】図6Aに示す供給装置の左側面図である。
【図6E】図6Aに示す供給装置の平面図である。
【図6F】図6Aに示す供給装置の底面図である。
【図7】実施例1の安定供給テストによって得られた、トリメチルインジウムの使用割合と供給量との関係のグラフである。
【図8】比較例1の安定供給テストによって得られた、トリメチルインジウムの使用割合と供給量との関係のグラフである。
【図9】従来の供給装置の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1a、1b 容器
2 ガス導入管
3 ガス導出管
4 充填口
5 連通管
6 分散器
10 有機金属化合物
11 分散材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固体の有機金属化合物をキャリアガスに随伴させて供給する供給装置であって、
キャリアガスの導入口が上部に設けられたカラム型の第1の容器と、
前記キャリアガスの導出口が上部に設けられたカラム型の第2の容器と、
前記第1の容器の内部および第2の容器の内部をその下端で連絡する連絡部材と、
を有し、
前記第1の容器には、前記有機金属化合物、および前記導入口から導入されたキャリアガスを分散させる分散材が、前記第1の容器の底部からこの順番に充填され、かつ
前記第2の容器には前記有機金属化合物が充填されていることを特徴とする供給装置。
【請求項2】
前記分散材は、前記第1の容器内で前記有機金属化合物を覆って層状に充填されている請求項1に記載の供給装置。
【請求項3】
前記分散材は、多数の部材の集合体であり各部材間に隙間を有する請求項1または2に記載の供給装置。
【請求項4】
前記部材は球状である請求項3に記載の供給装置。
【請求項5】
前記導入口は、前記第1の容器に導入されたキャリアガスが前記第1の容器の上壁面に衝突するように前記第1の容器に取り付けられたガス導入管を備えている、請求項1から4のいずれか1項に記載の供給装置。
【請求項6】
前記導入口は、前記第1の容器の内部に導入されたキャリアガスを分散させる分散器を備えている、請求項1から4のいずれか1項に記載の供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−127096(P2009−127096A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304242(P2007−304242)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】